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特許7066157ファブリー病治療用医薬の組合せ物及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】ファブリー病治療用医薬の組合せ物及びその利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/445 20060101AFI20220506BHJP
   A61K 38/47 20060101ALI20220506BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20220506BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220506BHJP
   C12N 9/24 20060101ALN20220506BHJP
【FI】
A61K31/445
A61K38/47 ZNA
A61P3/06
A61P43/00 121
A61P43/00 111
C12N9/24
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2017117266
(22)【出願日】2017-06-14
(65)【公開番号】P2019001744
(43)【公開日】2019-01-10
【審査請求日】2020-06-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505082350
【氏名又は名称】学校法人 明治薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】月村 考宏
(72)【発明者】
【氏名】兎川 忠靖
(72)【発明者】
【氏名】櫻庭 均
【審査官】佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/143354(WO,A1)
【文献】特表2003-528799(JP,A)
【文献】Proc. Jpn. Acad., Ser.B, 2012, Vol.88, No.1, pp.18-30
【文献】PNAS, 2012, Vol.109, No.43, pp.17400-17405
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61K 31/33-33/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-N-アセチルガラクトサミニダーゼのアミノ酸配列において変異を有し、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有する、タンパク質と、
活性部位特異的シャペロンと、
を含む、ファブリー病治療用医薬の組合せ物であって、
前記タンパク質は、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼのアミノ酸配列において変異を有し、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有する、タンパク質であって、以下の(a)~(d)の何れかのタンパク質(但し、配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され、第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質を除く。)であり、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列のうち、第18番目~第411番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)前記(a)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号6に示されるアミノ酸配列において第202番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第205番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質
(d)前記(c)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
前記活性部位特異的シャペロンは、下記一般式(I)で表される化合物である、又は
【化1】
(式(I)中、Rは、H、-OH、-SOH、-SO 、-COOH、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数3若しくは4のシクロアルキル基、又はハロゲン基を表す)
α-アロ-ホモノジリマイシン、α-ガラクト-ホモノジリマイシン、α-1-C-ブチル-デオキシノジリマイシン、カリステジンA、カリステジンB、N-メチル-カリステジンA及びN-メチル-カリステジンBからなる群から選択される化合物である、ファブリー病治療用医薬の組合せ物。
【請求項2】
前記(a)のタンパク質は、第188番目のアミノ酸がグルタミン酸に置換され、第191番目のアミノ酸がロイシンに置換されたものであり、
前記(c)のタンパク質は、前記第202番目のアミノ酸がグルタミン酸に置換され、前記第205番目のアミノ酸がロイシンに置換されている、請求項1に記載のファブリー病治療用医薬の組合せ物。
【請求項3】
前記活性部位特異的シャペロンは、前記タンパク質の可逆的競合阻害剤である、請求項1又は2に記載のファブリー病治療用医薬の組合せ物。
【請求項4】
前記活性部位特異的シャペロンは、1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)である、請求項1~3の何れか一項に記載の、ファブリー病治療用医薬の組合せ物。
【請求項5】
タンパク質の安定性を高めるための安定性向上剤であって、
前記タンパク質は、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼのアミノ酸配列において変異を有し、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有する、タンパク質であって、以下の(a)~(d)の何れかのタンパク質(但し、配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され、第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質を除く。)であり、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列のうち、第18番目~第411番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)前記(a)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号6に示されるアミノ酸配列において第202番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第205番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d)前記(c)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質;
前記安定性向上剤は、α-アロ-ホモノジリマイシン、α-ガラクト-ホモノジリマイシン、α-1-C-ブチル-デオキシノジリマイシン、カリステジンA、カリステジンB、N-メチル-カリステジンA及びN-メチル-カリステジンB、及び、下記一般式(I)で表される化合物
【化2】
(式(I)中、Rは、H、-OH、-SOH、-SO 、-COOH、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数3若しくは4のシクロアルキル基、又はハロゲン基を表す)
からなる群から選択される化合物を含む、安定性向上剤。
【請求項6】
ファブリー病治療用薬剤であって、
α-N-アセチルガラクトサミニダーゼのアミノ酸配列において変異を有し、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有する、タンパク質であって、以下の(a)~(d)の何れかのタンパク質(但し、配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され、第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質を除く。)と併用されるものであり、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列のうち、第18番目~第411番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)前記(a)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号6に示されるアミノ酸配列において第202番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第205番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d)前記(c)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質;
前記ファブリー病治療用薬剤は、α-アロ-ホモノジリマイシン、α-ガラクト-ホモノジリマイシン、α-1-C-ブチル-デオキシノジリマイシン、カリステジンA、カリステジンB、N-メチル-カリステジンA及びN-メチル-カリステジンB、及び、下記一般式(I)で表される化合物
【化3】
(式(I)中、Rは、H、-OH、-SOH、-SO 、-COOH、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数3若しくは4のシクロアルキル基、又はハロゲン基を表す)
からなる群から選択される化合物を含む、ファブリー病治療用薬剤。
【請求項7】
前記(a)のタンパク質は、第188番目のアミノ酸がグルタミン酸に置換され、第191番目のアミノ酸がロイシンに置換されたものであり、
前記(c)のタンパク質は、前記第202番目のアミノ酸がグルタミン酸に置換され、前記第205番目のアミノ酸がロイシンに置換されている、請求項6に記載のファブリー病治療用薬剤。
【請求項8】
前記化合物は、前記タンパク質の可逆的競合阻害剤である、請求項6又は7に記載のファブリー病治療用薬剤。
【請求項9】
前記化合物は、1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)である、請求項6~8の何れか一項に記載のファブリー病治療用薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はファブリー病治療用医薬の組合せ物及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ファブリー病は、リソソーム性加水分解酵素であるα-ガラクトシダーゼ(α-GAL)の活性が顕著に低下することで基質であるグロボトリアオシルセラミド(Gb3)及びグロボトリアオシルスフィンゴシン(Lyso-Gb3)が蓄積するX染色体性の遺伝病である。現在、ファブリー病の治療法として、組換えα-GLA(アガルシダーゼ・アルファとアガルシダーゼ・ベータ)を投与する酵素補充療法が導入されている。
【0003】
また、欧州ではα-GALの基質アナログである1-デオキシガラクトノジリマイシン(1-deoxy galactonojirimycin、別名Migalstat)を用いたシャペロン療法が承認されている。また近年、臨床研究で、組換えα-GALと1-デオキシガラクトノジリマイシンとをファブリー病患者に同時に投与することが行われ、投与された組換えα-GALが1-デオキシガラクトノジリマイシンにより血中で安定化されることで、組換えα-GALの治療効果が増強されたことが報告されている(特許文献1~3及び非特許文献1)。
【0004】
一方、酵素補充療法は、欠損した組換えα-GALを投与するため、組換えα-GALに対する抗体が産生され、治療効果を減弱することが報告されている(非特許文献2)。
【0005】
本願発明者らは、これまでに、ファブリー病患者に投与しても抗体が産生されにくいことが期待される酵素製剤としてα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(α-NAGA)変異体を開発している(特許文献4、5及び非特許文献3)。α-NAGA変異体は、NAGAの基質認識部位の2アミノ酸残基をα-GAL様に換えることで、α-GAL活性を獲得した酵素である。今までに、α-NAGA変異体をファブリー病モデルマウスに投与することで、各臓器に蓄積していたGb3及びLyso-Gb3が分解されることを確認している(特許文献4、5及び非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-107020号公報(2012年6月7日公開)
【文献】特開2012-102128号公報(2012年5月31日公開)
【文献】特表2014-528901号公報(2010年10月30日公表)
【文献】国際公開第2007/058381号公報(2007年5月24日公開)(特許第4368925号)
【文献】国際公開第2008/143354号公報(2008年11月27日公開)(特許第5507242号)
【非特許文献】
【0007】
【文献】Warnock D et al., PLoS One. 2015,10:e0134341.
【文献】Lenders M et al., J Am Soc Nephrol. 2016,27:256-64.
【文献】Tajima Y et al., Am J Hum Genet. 2009, 85:569-80.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
組換え酵素は不安定なため、投与された酵素製剤は血液中や細胞中で徐々に変性してしまう。また、組換えα-GALの繰り返し投与により、酵素に対する抗体が作られ、有害な副反応が生じたり、酵素の治療効果が減弱することがある。したがって、より安定かつ治療効果の高い酵素製剤が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、α-NAGA変異体と同時投与することでα-NAGA変異体の安定性及びファブリー病治療効果を増強する化合物を探索した。そして、α-NAGA変異体とある種類の化合物とを接触させることでα-NAGA変異体の安定性が増強されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の何れかの一態様を包含する。
<1> α-N-アセチルガラクトサミニダーゼのアミノ酸配列において変異を有し、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有する、タンパク質と、
活性部位特異的シャペロンと、
を含む、ファブリー病治療用医薬の組合せ物であって、
前記タンパク質は、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼのアミノ酸配列において変異を有し、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有する、タンパク質であって、以下の(a)~(d)の何れかのタンパク質(但し、配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され、第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質を除く。)であり、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列のうち、第18番目~第411番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)前記(a)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号6に示されるアミノ酸配列において第202番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第205番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質
(d)前記(c)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
前記活性部位特異的シャペロンは、下記一般式(I)で表される化合物である、又は
【0010】
【化1】
【0011】
(式(I)中、Rは、H、-OH、-SOH、-SO 、-COOH、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数3若しくは4のシクロアルキル基、又はハロゲン基を表す)
α-アロ-ホモノジリマイシン、α-ガラクト-ホモノジリマイシン、α-1-C-ブチル-デオキシノジリマイシン、カリステジンA、カリステジンB、N-メチル-カリステジンA及びN-メチル-カリステジンBからなる群から選択される化合物である、ファブリー病治療用医薬の組合せ物。
<2> 前記(a)のタンパク質は、第188番目のアミノ酸がグルタミン酸に置換され、第191番目のアミノ酸がロイシンに置換されたものであり、
前記(c)のタンパク質は、前記第202番目のアミノ酸がグルタミン酸に置換され、前記第205番目のアミノ酸がロイシンに置換されている、<1>に記載のファブリー病治療用医薬の組合せ物。
<3> 前記活性部位特異的シャペロンは、前記タンパク質の可逆的競合阻害剤である、<1>又は<2>に記載のファブリー病治療用医薬の組合せ物。
<4> 前記活性部位特異的シャペロンは、1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)である、<1>~<3>の何れかに記載の、ファブリー病治療用医薬の組合せ物。
<5> タンパク質の安定性を高めるための安定性向上剤であって、
前記タンパク質は、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼのアミノ酸配列において変異を有し、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有する、タンパク質であって、以下の(a)~(d)の何れかのタンパク質(但し、配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され、第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質を除く。)であり、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列のうち、第18番目~第411番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)前記(a)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号6に示されるアミノ酸配列において第202番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第205番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d)前記(c)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質;
前記安定性向上剤は、α-アロ-ホモノジリマイシン、α-ガラクト-ホモノジリマイシン、α-1-C-ブチル-デオキシノジリマイシン、カリステジンA、カリステジンB、N-メチル-カリステジンA及びN-メチル-カリステジンB、及び、下記一般式(I)で表される化合物
【0012】
【化2】
【0013】
(式(I)中、Rは、H、-OH、-SOH、-SO 、-COOH、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数3若しくは4のシクロアルキル基、又はハロゲン基を表す)
からなる群から選択される化合物を含む、安定性向上剤。
<6> ファブリー病治療用薬剤であって、
α-N-アセチルガラクトサミニダーゼのアミノ酸配列において変異を有し、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有する、タンパク質であって、以下の(a)~(d)の何れかのタンパク質(但し、配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され、第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質を除く。)と併用されるものであり、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列のうち、第18番目~第411番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)前記(a)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号6に示されるアミノ酸配列において第202番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第205番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質;
(d)前記(c)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質;
前記ファブリー病治療用薬剤は、α-アロ-ホモノジリマイシン、α-ガラクト-ホモノジリマイシン、α-1-C-ブチル-デオキシノジリマイシン、カリステジンA、カリステジンB、N-メチル-カリステジンA及びN-メチル-カリステジンB、及び、下記一般式(I)で表される化合物
【0014】
【化3】
【0015】
(式(I)中、Rは、H、-OH、-SOH、-SO 、-COOH、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数3若しくは4のシクロアルキル基、又はハロゲン基を表す)
からなる群から選択される化合物を含む、ファブリー病治療用薬剤。
【0017】
<7> 前記(a)のタンパク質は、第188番目のアミノ酸がグルタミン酸に置換され、第191番目のアミノ酸がロイシンに置換されたものであり、
前記(c)のタンパク質は、前記第202番目のアミノ酸がグルタミン酸に置換され、前記第205番目のアミノ酸がロイシンに置換されている、<>に記載のファブリー病治療用薬剤
> 前記化合物は、前記タンパク質の可逆的競合阻害剤である、<>又は<>に記載のファブリー病治療用薬剤
> 前記化合物は、1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)である、<>~<>の何れかに記載の、ファブリー病治療用薬剤
【発明の効果】
【0018】
本発明は、α-NAGA変異体ファブリー病治療用医薬の組合せ物及びその利用を提供する。本発明は、ファブリー病の治療に有効に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】DGJ又はGBSによるα-NAGA変異体の酵素活性の阻害を示す図である。
図2】DGJ又はGBSによるα-NAGA変異体の酵素活性のLineweaver-Burk plot、及びこのプロットからの阻害定数Kiの算出結果を示す図である。
図3】DGJについてα-NAGA変異体阻害活性の熱安定性試験の結果を示す図である。
図4】DGJ及びGBSについての、酸性及び中性条件下でのTm値の測定結果を示した図である。
図5】ファブリー病モデルマウス由来培養線維芽細胞へのα-NAGA変異体と各濃度のDGJとを同時添加したときの、α-NAGA変異体の酵素活性を示す図である。
図6】ファブリー病患者由来培養線維芽細胞へα-NAGA変異体と各濃度のDGJとを同時添加したときの、α-NAGA変異体の酵素活性及び酵素の取り込み量を示す図である。ファブリー病患者由来培養線維芽細胞へα-NAGA変異体と各濃度のDGJとを同時添加したときの、α-NAGA変異体の酵素活性を図6の(a)に示し、α-NAGA変異体の酵素の取り込み量を図6の(b)に示す。
図7】ファブリー病患者由来培養線維芽細胞へのα-NAGA変異体とDGJの同時添加したときの、α-NAGA変異体の酵素活性及び酵素の取り込み量の経時的変化を示す図である。ファブリー病患者由来培養線維芽細胞へのα-NAGA変異体とDGJの同時添加したときの、α-NAGA変異体の酵素活性の経時的変化を図7の(a)に示し、酵素の取り込み量の経時的変化を図7の(b)に示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔用語の説明〕
ファブリー病とは、ヒト細胞内小器官のひとつであるリソソームに存在する酵素のうち、「α-ガラクトシダーゼ」という酵素の活性低下もしくは欠損が原因となり、その生体内基質であるグロボトリアオシルセラミド(セラミドトリヘキソシドとも言う)という糖脂質が分解されずに体内(例えば、血管、皮膚、角膜、神経、腎臓、心臓等)に蓄積することによって生じる、糖脂質代謝異常性疾患である。
【0021】
α-ガラクトシダーゼをコードする遺伝子はX染色体上にあるため、この疾患はX染色体性の遺伝型式をとる。そのため、本症では、主にヘミ接合体の男性において明確な臨床像がみられる。典型的な臨床経過をとる「古典型ファブリー病」は、約4万人の男児に1人の割合で発生すると考えられており、少年期や青年期に、手足の痛み(四肢疼痛)、低汗症、被角血管腫、角膜混濁等の症状がみられ、それが進行して、中年期以後に腎不全、心不全、脳血管障害等の全身の臓器障害を生じ、これが死因となる。また、「古典型ファブリー病」のような典型的な臨床経過をとらず、発症が遅く比較的緩やかな経過を示すものとして、「遅発型ファブリー病」も存在し、このタイプの患者においては、僅かながらα-ガラクトシダーゼの残存活性が認められる。遅発型ファブリー病としては、例えば「心ファブリー病」が知られており、前記糖脂質の蓄積が主に心臓で生じ、それにより心臓肥大が発症して心不全や不整脈等の障害を生じる。一方、ヘテロ接合体のファブリー病女性患者では、X染色体の特性により、その臨床像としては様々な形がみられ、ヘミ接合体の男性と変わらない重症のものからほとんど無症状のものまで存在し得る。しかし、最近の調査により、ヘテロ接合体のファブリー病女性患者は、高年齢になると、そのほとんどが何らかの症状を示すことが明らかになり、これらを「保因者」としてではなく「患者」として扱うべきであるとの見方もある。
【0022】
「酵素補充療法」という用語は、精製酵素を、このような酵素が欠乏している個体に導入することを指す。投与される酵素は、天然源から、又は組換え発現によって得ることができる。またこの用語は、他の方法で精製酵素の投与を必要としているかその利益を受けている個体、例えば、タンパク質の不足に苦しんでいる個体における精製酵素の導入も指す。導入される酵素は、インビトロで産生された精製組換え酵素であっても、あるいは単離された組織もしくは流体(例えば、胎盤又は動物の乳など)から、又は植物から精製された酵素であってもよい。
【0023】
本明細書で使用される場合、「活性部位特異的シャペロン」又は「薬理学的シャペロン」という用語は、タンパク質の活性部位と特異的に可逆的相互作用を起こして安定な分子立体配座の形成を高める、任意の分子を指し、タンパク質、ペプチド、核酸、炭水化物などを含むあらゆる分子を意図している。この用語は、内因性のシャペロン(例えばBiP)、又は非-特異的な化学的シャペロン(例えばグリセロール、DMSO又は重水素置換水)などの、様々なタンパク質に対して非-特異的なシャペロンであることが明らかにされている薬剤を意味しない。
【0024】
本明細書で使用される場合、「活性部位」という用語は、いくらかの特異的な生物活性を有するタンパク質の領域を指す。例えば、基質又は他の結合パートナーと結合して、化学結合の作製及び破壊に直接関与するアミノ酸残基に寄与する部位であり得る。本発明における活性部位は、酵素の触媒部位、抗体の抗原結合部位、受容体のリガンド結合ドメイン、制御因子の結合ドメイン、又は分泌タンパク質の受容体結合ドメインを包含することができる。また活性部位は、トランス活性化、タンパク質-タンパク質相互作用、又は転写因子及び制御因子のDNA結合ドメインも包含することができる。
【0025】
本発明において「治療」とは、対象疾患の症状を完治又は軽減させること、対象疾患の症状の悪化を抑制すること、対象疾患の発症を抑制すること、又は遅延させることを含む。すなわち、個体が対象疾患を発症していない場合の「予防」を含む。
【0026】
(α-NAGA変異体に関する用語の説明)
本明細書においては、特に言及した場合を除き、以下のように用語の定義をするものとする。
【0027】
「α-ガラクトシダーゼ」及び「α-GAL」とは、いずれも、「ヒトα-ガラクトシダーゼA」を意味する。「α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ」及び「α-NAGA」は、いずれも、「ヒトα-ガラクトシダーゼB」、すなわち「ヒトα-N-アセチルガラクトサミニダーゼ」を意味する。「wt」とは、野生型(wild type)を意味する。「M6P」とは、「マンノース-6-リン酸」を意味する。「α-GAL活性」とは、後述するα-GALの基質を加水分解し得る活性(後述の反応式(1)参照)を意味し、α-GALタンパク質(野生型α-GAL)が有する活性という意味に限定されるものではない。「α-NAGA活性」とは、後述するα-NAGAの基質を加水分解し得る活性(後述の反応式(2)参照)を意味し、α-NAGAタンパク質(野生型α-NAGA)が有する活性という意味に限定されるものではない。「α-GAL活性を獲得した」とは、基質結合部位において、α-NAGAの基質との結合反応性よりもα-GALの基質との結合反応性が相対的に高くなったことを意味する。「α-GALの基質特異性を有する」とは、活性部位の構造(特に、基質の結合反応性に重要な役割を果たすアミノ酸残基の位置及び種類)が野生型α-GALのそれと同じであることを意味する。
【0028】
「第188番」及び「第191番」とは、野生型α-NAGAのアミノ酸配列(配列番号2)からみた位置(当該アミノ酸配列のN末端のアミノ酸残基を第1番としてC末端側方向へ数えたときの位置)を示す。
【0029】
「α-NAGA変異体」とは、基本的には、野生型α-NAGAの変異体を全て含む意味であり、特定の変異体(アミノ酸変異体)に限定はされるものではないが、本明細書においては、野生型α-NAGAのアミノ酸配列(配列番号2)のうち第188番目のセリンがグルタミン酸に置換され、かつ、第191番目のアラニンがロイシンに置換された変異型タンパク質(すなわち「α-NAGA(S188E/A191L)」と表記される)を、α-NAGA変異体と称して(定義づけて)、説明している場合がある。
【0030】
「α-GALシグナルペプチド融合α-NAGA」とは、通常、野生型α-NAGAのシグナルペプチド部分(配列番号2に示されるアミノ酸配列のうちの第1番目~第17番目のアミノ酸からなるペプチド部分)が、野生型α-GALのシグナルペプチド部分(配列番号10に示されるアミノ酸配列のうちの第1番目~第31番目のアミノ酸からなるペプチド部分)に置換されたタンパク質を意味する。ここで、当該シグナルペプチド部分とは、一般に、タンパク質が細胞内で発現した後、細胞外に分泌された際には、既に除かれているものであるが、本発明においては、便宜上、細胞外に分泌された後のものに対しても、「α-GALシグナルペプチド融合α-NAGA」と称することがある。
【0031】
「α-GALシグナルペプチド融合α-NAGA変異体」及び「α-GALシグナルペプチド融合α-NAGA(S188E/A191L)」とは、通常、α-NAGA変異体のシグナルペプチド部分(例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列のうちの第1番目~第17番目のアミノ酸からなるペプチド部分)が、野生型α-GALのシグナルペプチド部分(配列番号10に示されるアミノ酸配列のうちの第1番目~第31番目のアミノ酸からなるペプチド部分)に置換されたタンパク質を意味する。ここで、当該シグナルペプチド部分とは、一般に、タンパク質が細胞内で発現した後、細胞外に分泌された際には、既に除かれているものであるが、本発明においては、便宜上、細胞外に分泌された後のものに対しても、「α-GALシグナルペプチド融合α-NAGA変異体」又は「α-GALシグナルペプチド融合α-NAGA(S188E/A191L)」と称することがある。
【0032】
(配列表の説明)
本明細書に記載の配列番号1~10に示される塩基配列及びアミノ酸配列が、どのような酵素タンパク質に関する配列であるかについて、下記表Aに示す。なお、表A中、「本体」とは、タンパク質のシグナルペプチド部分を除いた成熟タンパク質となる部分を意味する。また、「+」の表記は、所定のシグナルペプチド部分と本体部分とが結合したものであることを表す。
【0033】
【表1】
【0034】
〔1.タンパク質の安定性を高める方法〕
本発明は、タンパク質の安定性を高める方法であって、前記タンパク質を活性部位特異的シャペロンと接触させる工程を包含し、前記タンパク質は、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼのアミノ酸配列において変異を有し、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有する、タンパク質であって、以下の(a)~(d)の何れかのタンパク質(但し、配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され、第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質を除く。)であり、
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第191番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列のうち、第18番目~第411番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むタンパク質
(b)前記(a)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号6に示されるアミノ酸配列において第202番目のアミノ酸がグルタミン酸又はアスパラギン酸に置換され第205番目のアミノ酸がロイシン、バリン又はイソロイシンに置換されたアミノ酸配列を含むタンパク質
(d)前記(c)のアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
前記活性部位特異的シャペロンは、下記一般式(I)で表される化合物である、又は、
【0035】
【化5】
【0036】
(式(I)中、Rは、H、-OH、-SOH、-SO 、-COOH、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数3若しくは4のシクロアルキル基、又はハロゲン基を表す)
α-アロ-ホモノジリマイシン、α-ガラクト-ホモノジリマイシン、α-1-C-ブチル-デオキシノジリマイシン、カリステジンA、カリステジンB、N-メチル-カリステジンA及びN-メチル-カリステジンBからなる群から選択される化合物である、タンパク質の安定性を高める方法を提供する。
【0037】
以下、まず、本発明の方法に適用されるタンパク質と活性部位特異的シャペロンとについて詳細に説明する。
【0038】
本願発明者らは、これまでに、ファブリー病の治療に用い得る新規かつ優れた高機能酵素としてα-NAGA変異体を創出することに成功した(特許文献3及び4)。
【0039】
本願発明は、このα-NAGA変異体の安定性を高めるための方法を新規に見出したものである。
【0040】
[タンパク質]
本発明におけるタンパク質は、具体的には、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(α-NAGA)の変異体酵素である。
【0041】
これまでに、本願発明者らは、α-GAL以外の酵素をファブリー病治療用の補充用酵素として利用することができないか検討し、α-GALと同様にリソソーム酵素であり(すなわち細胞内での局在性が同じであり)、かつα-GALと全体の立体構造は酷似しているが基質特異性の点では異なる、「α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(α-NAGA)」に着目した。
【0042】
α-NAGAは、活性部位のうち基質結合部位の一部の構造においてα-GALと異なっているが、その他の部分については、触媒部位も含め、構造面及び性質面のいずれにおいてもα-GALと非常によく似ているという特性を有する酵素である。そのため、α-NAGAの触媒反応機構は、反応基質及び反応生成物の種類等において、α-GALの触媒反応機構と非常に類似している。
【0043】
そこで本発明者は、前述の通りα-NAGAに着目し、このα-NAGAに遺伝子操作を加えて活性部位(特に基質結合部位)の構造を変化させ、α-ガラクトシダーゼ活性を有するようにα-NAGAの基質特異性を転換すれば(例えばα-NAGAの基質認識に関係するアミノ酸残基のうち、鍵となるものをα-NAGAタイプからα-GALタイプのものに置換すれば)、ファブリー病の治療に用い得る新規かつ優れた高機能酵素を創出できることを見出した(特許文献4及び5)。
【0044】
詳しくは、本発明のタンパク質は、以下の(1a)のタンパク質、又は(1b)のタンパク質であり、好ましくは以下の(1c)のタンパク質である。
(1a)野生型α-NAGAの活性部位(特に基質結合部位)の構造を変化させることによりα-ガラクトシダーゼ(α-GAL)活性を獲得したタンパク質、好ましくはα-GALの基質特異性を有するタンパク質。
(1b)シグナルペプチドを含むものである上記(1a)のタンパク質。ここで、シグナルペプチドの種類は特に限定はされず、野生型α-NAGA由来のシグナルペプチドであってもよいし、他のタンパク質由来のものであってもよい。
(1c)シグナルペプチドが野生型α-GAL由来のシグナルペプチドである上記(1b)のタンパク質。
【0045】
ここで、「α-GAL活性を獲得した」とは、前述の通り、α-NAGAの基質結合部位において、α-NAGAの基質との結合反応性よりもα-GALの基質との結合反応性が相対的に高くなったことを意味する。従って、上述した構造変化としては、α-NAGAの基質との結合を完全に不可能にする構造変化には限定されず、本来α-GALの基質との結合反応性よりもα-NAGAの基質との結合反応性が相対的に有意に高かったのを、逆にα-GALの基質との結合反応性が有意に高くなるようにする構造変化も含む。また「α-GALの基質特異性を有する」とは、前述の通り、活性部位の構造(特に、基質の結合反応性に重要な役割を果たすアミノ酸残基の位置及び種類)がα-GALと同じであることを意味する。
【0046】
本発明において、α-GALの基質とは、非還元末端にα結合したガラクトース残基を持つグロボトリアオシルセラミド(セラミドトリヘキソシド(CTH))等の糖脂質などの天然化合物や、4-メチルウンベリフェリル-α-D-ガラクトシドなどの合成化合物を意味する。また、α-NAGAの基質とは、非還元末端にα結合したN-アセチルガラクトサミン残基を持つオリゴ糖、糖タンパク質及び糖脂質などの天然化合物や、4-メチルウンベリフェリル-α-N-アセチル-D-ガラクトサミニドなどの合成化合物を意味する。)
ここで、野生型α-GALの触媒反応を下記反応式(1)に示し、野生型α-NAGAの触媒反応を下記反応式(2)に示す。
【0047】
【化6】
【0048】
(反応式(1)中、Rは、基質が天然化合物の場合は「糖複合体由来の基」を表し、基質が合成化合物の場合は「4-メチルウンベリフェリル基」を表す。〕
【0049】
【化7】
【0050】
(反応式(2)中、Rは、基質が天然化合物の場合は「糖複合体由来の基」を表し、基質が合成化合物の場合は「4-メチルウンベリフェリル基」を表す。)
本発明のタンパク質としては、例えば、以下の(2a)又は(2b)のアミノ酸配列からなり、かつα-GAL活性を有するタンパク質が好ましく挙げられる。
(2a)野生型α-NAGAのアミノ酸配列における第188番目及び第191番目のアミノ酸のうちの少なくとも1つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列、好ましくは第188番目及び第191番目のアミノ酸がいずれも他のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列。
(2b)上記(2a)のアミノ酸配列のうち第188番目及び第191番目のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列。
【0051】
なお、野生型α-NAGA(ホモ二量体)のサブユニットのアミノ酸配列(配列番号2)及び当該配列をコードする塩基配列(配列番号1)の情報は、例えばGenBankには「accession mber:NM_000262」として公表されており、Swiss-Prot(http://tw.expasy.org/uniprot/から取得可能)には「entry name:NAGAB_HUMAN、accession number:P17050」として登録されている。また野生型α-GAL(ホモ二量体)のサブユニットのアミノ酸配列(配列番号10)及び当該配列をコードする塩基配列(配列番号9)の情報も同様に、例えばGenBankには「accession number:NP_000160」として公表されており、Swiss-Prot(http://tw.expasy.org/uniprot/から取得可能)には「entryname:AGAL_HUMAN、accession number:P06280」として登録されている。
【0052】
ここで、上記「1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」としては、例えば、1個~10個程度、好ましくは1個~5個程度のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であることが好ましい。
【0053】
また、上記「欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質」は、α-GAL活性を安定して発揮し得るタンパク質であることが重要であるため、例えば、α-GALの基質中のα-ガラクトース残基との結合性(基質結合性)及び当該基質との触媒反応性に重要と考えられる第28番目~第31番目、第77番目~第81番目、第117番目~第127番目、第150番目~第158番目、第192番目、第209番目~第220番目及び第242番目~第254番目のアミノ酸(特に、触媒部位である第156番目及び第217番目のアスパラギン酸(Asp:D))、ホモ二量体の形成に重要と考えられる第45番目のアスパラギン酸(Asp:D)及び第350番目のアルギニン(Arg:R)、並びに、N型糖鎖結合部位である第124番目、第177番目、第201番目、第359番目及び第385番目のアミノ酸(いずれもアスパラギン(Asn:N))などの全部又は一部(好ましくは全部)は、野生型α-NAGAのアミノ酸配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。
【0054】
上記他のアミノ酸としては、第188番目のアミノ酸残基に関しては、セリン(Ser:S)以外であれば特に限定はされないが、例えば、グルタミン酸(Glu:E)及びアスパラギン酸(Asp:D)等を好ましく挙げることができ、グルタミン酸がより好ましい。同様に、第191番目のアミノ酸残基に関しては、アラニン(Ala:A)以外であれば特に限定はされないが、例えば、ロイシン(Leu:L)、バリン(Val:V)、イソロイシン(Ile:I)、フェニルアラニン(Phe:F)及びメチオニン(Me:M)等を好ましく挙げることができ、ロイシンがより好ましい。中でも、上記他のアミノ酸として、第188番目のアミノ酸がグルタミン酸であり、かつ、第191番目のアミノ酸がロイシンであることが特に好ましい。なお、上記置換後のアミノ酸は、他の置換されていないアミノ酸からなる構造に実質的に影響を及ぼさないものであることが好ましく、この点でも、第188番目のアミノ酸残基をグルタミン酸とすること、第191番目のアミノ酸残基をロイシンとすることが、特に好ましい置換態様である。
【0055】
基質結合部位に存在する第188番目及び第191番目のアミノ酸を、それぞれ上記のように置換することにより、次のような効果が得られる。すなわち、第188番目のアミノ酸残基に関しては、α-NAGAの基質中のN-アセチル基(特に酸素原子)との相互作用を無くし、かつα-GALの基質中のヒドロキシル基との結合作用を生じさせることができ、第191番目のアミノ酸残基に関しては、α-NAGAの基質中のN-アセチル基(特にメチル基)との相互作用を無くし、かつ当該基質の結合空間(特にN-アセチル基の入り込む空間)を制限することができる。以上の結果、上記アミノ酸置換後の組換え酵素(組換えタンパク質)は、α-NAGAの基質との結合反応性よりもα-GALの基質との結合反応性の方が高いものとなり、α-NAGA活性と比較して有意に高いα-GAL活性を有する酵素となり得る。少なくとも、第188番目のアミノ酸(セリン)がグルタミン酸に置換され且つ第191番目のアミノ酸(アラニン)がロイシンに置換されたアミノ酸配列を有する組換え酵素は、上記効果が十分に得られる点で特に好ましい。
【0056】
本発明のタンパク質はまた、以下の(3a)又は(3b)のタンパク質であることが好ましい。
(3a)下記(i)~(iii)のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質。
(i)配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がセリン以外のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列のうち、第18番目~第411番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列
(ii)配列番号2に示されるアミノ酸配列において第191番目のアミノ酸がアラニン以外のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列のうち、第18番目~第411番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列
(iii)配列番号2に示されるアミノ酸配列において第188番目のアミノ酸がセリン以外のアミノ酸に置換され第191番目のアミノ酸がアラニン以外のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列のうち、第18番目~第411番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列
(3b)上記(3a)の(i)~(iii)のいずれかのアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
配列番号2に示されるアミノ酸配列は、野生型α-NAGAを構成する411個のアミノ酸からなるアミノ酸配列である。
【0057】
上記(3a)のタンパク質は、詳しくは、この配列番号2に示されるアミノ酸配列において上記(i)~(iii)に記載のように置換されたアミノ酸配列のうち、野生型α-NAGAのシグナルペプチドを構成する第1番目~第17番目のアミノ酸を除いた、第18番目~第411番目のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなるタンパク質である。前述したように、第188番目及び第191番目のアミノ酸残基はいずれも基質結合部位を構成するアミノ酸の一つである。
【0058】
ここで、上記第18番目~第411番目のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列としては、例えば、当該第18番目~第411番目のアミノ酸配列のN末端に、各種シグナルペプチドが結合したアミノ酸配列などが好ましく挙げられる。当該シグナルペプチドとしては、障害臓器の細胞膜を通過させ得るものであればよく、限定はされないが、例えば、野生型α-NAGA及び野生型α-GAL等の各種リソソーム酵素のシグナルペプチド並びにプレプロトリプシン等の分泌酵素のシグナルペプチドが好ましく、より好ましくは野生型α-NAGA及び野生型α-GALのシグナルペプチドであり、さらに好ましくは野生型α-GALのシグナルペプチドである。なお、野生型α-NAGAのシグナルペプチドは、上述の通り、配列番号2に示される野生型α-NAGAのアミノ酸配列のうち第1番目~第17番目のアミノ酸からなるペプチドであり、野生型α-GALのシグナルペプチドは、配列番号10に示される野生型α-GALのアミノ酸配列のうち第1番目~第31番目のアミノ酸からなるペプチドである。また、プレプロトリプシンのシグナルペプチドは、配列番号12に示されるアミノ酸配列からなるペプチドである。上記(3a)のタンパク質としては、上記(i)、(ii)又は(iii)のアミノ酸配列を含むタンパク質のうち、上記(iii)のアミノ酸配列を含むタンパク質が特に好ましい。
【0059】
また、上記(3a)のタンパク質としては、上記(i)及び(iii)の記載中の「セリン以外のアミノ酸」がグルタミン酸又はアスパラギン酸である場合のタンパク質が好ましく挙げられる。同様に、上記(3a)のタンパク質としては、上記(ii)及び(iii)の記載中の「アラニン以外のアミノ酸」がロイシン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン及びメチオニンからなる群より選ばれるいずれか1つである場合のタンパク質も好ましく挙げられる。
【0060】
さらに、上記(3a)のタンパク質としては、上記(i)~(iii)の記載中の「セリン以外のアミノ酸」がグルタミン酸であり、かつ、「アラニン以外のアミノ酸」がロイシンである場合のタンパク質が、特に好ましく挙げられる。当該タンパク質としては、例えば、野生型α-NAGAのアミノ酸配列(配列番号2)のうち第188番目のセリンがグルタミン酸に置換され、かつ、第191番目のアラニンがロイシンに置換されたタンパク質(α-NAGA(S188E/A191L))が好ましく挙げられる(配列番号4参照)。なお、アミノ酸のアルファベット表記は、一般に、3文字(例えば「Ser」)又は1文字(例えば「S」)で表し、N末端からのアミノ酸位置を示す数字(例えば「188」)の前に表示したアルファベットは置換前のアミノ酸の1文字表記を示し、数字の後に表示したアルファベットは置換後のアミノ酸の1文字表記を示している。従って、例えば第188番目のSerをGluに置換した場合は「S188E」と表示する(以下同様)。
【0061】
上記(3b)のタンパク質は、上記(3a)のタンパク質に含まれる上記(i)~(iii)のいずれかのアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く、1個又は数個(例えば1個~10個程度、好ましくは1個~5個程度)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-GAL活性を有するタンパク質であればよく、限定はされない。ここで、「前記置換部位」とは、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列を構成する394個のアミノ酸残基のうち、配列番号2に示されるアミノ酸配列における第188番目のアミノ酸の位置に対応するアミノ酸残基(但し上記(i)及び(iii)のアミノ酸配列に限る)、並びに、配列番号2に示されるアミノ酸配列における第191番目のアミノ酸の位置に対応するアミノ酸残基(但し上記(ii)及び(iii)のアミノ酸配列に限る)を意味する。より具体的には、前者のアミノ酸残基は、上記(i)及び(iii)のアミノ酸配列における第171番目のアミノ酸残基を意味し、後者のアミノ酸残基は、上記(ii)及び(iii)のアミノ酸配列における第174番目のアミノ酸残基を意味する。
【0062】
なお、上記(3b)のタンパク質は、α-GAL活性を安定して発揮し得るタンパク質であることが重要である。そのため、例えば、α-GALの基質中のα-ガラクトース残基との結合性(基質結合性)及び当該基質との触媒反応性に重要と考えられるアミノ酸残基は、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。当該アミノ酸残基としては、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列を構成するアミノ酸残基のうち、配列番号2に示されるアミノ酸配列における第28番目~第31番目、第77番目~第81番目、第117番目~第127番目、第150番目~第158番目、第192番目、第209番目~第220番目及び第242番目~第254番目のアミノ酸の位置に対応するアミノ酸残基(特に、触媒部位である第156番目及び第217番目のアスパラギン酸(Asp:D))が好ましく挙げられる。
【0063】
同様に、ホモ二量体の形成に重要と考えられるアミノ酸残基も、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。当該アミノ酸残基としては、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列を構成するアミノ酸残基のうち、配列番号2に示されるアミノ酸配列における第45番目及び第350番目のアミノ酸の位置に対応するアミノ酸残基(具体的には、第45番目のアスパラギン酸(Asp:D)及び第350番目のアルギニン(Arg:R))が好ましく挙げられる。
【0064】
さらに、N型糖鎖結合部位であるアミノ酸残基も、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。当該アミノ酸残基としては、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列を構成するアミノ酸残基のうち、配列番号2に示されるアミノ酸配列における第124番目、第177番目、第201番目、第359番目及び第385番目のアミノ酸の位置に対応するアミノ酸残基(いずれもアスパラギン(Asn:N))が好ましく挙げられる。本発明のタンパク質はさらに、以下の(4a)又は(4b)のタンパク質であることが好ましい。
(4a)下記(i)~(iii)のいずれかのアミノ酸配列を含むタンパク質。
(i)配列番号6に示されるアミノ酸配列において第202番目のアミノ酸がセリン以外のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列
(ii)配列番号6に示されるアミノ酸配列において第205番目のアミノ酸がアラニン以外のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列
(iii)配列番号6に示されるアミノ酸配列において第202番目のアミノ酸がセリン以外のアミノ酸に置換され第205番目のアミノ酸がアラニン以外のアミノ酸に置換されたアミノ酸配列
(4b)上記(i)~(iii)のいずれかのアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質
配列番号6に示されるアミノ酸配列は、野生型α-NAGAを構成する411個のアミノ酸において、シグナルペプチド部分である第1番目~第17番目のアミノ酸が野生型α-GALのシグナルペプチド部分に変換されたアミノ酸配列(計425アミノ酸)であり、いわゆる融合タンパク質である。ここで、野生型α-GALのシグナルペプチド部分は、前述した通り、配列番号10に示される野生型α-GALを構成するアミノ酸配列のうちの第1番目~第31番目のアミノ酸からなるペプチド部分である。
【0065】
上記(4a)のタンパク質を構成するアミノ酸配列において、第188番目及び第191番目のアミノ酸残基はいずれも基質結合部位を構成するアミノ酸の一つである。上記(4a)のタンパク質としては、上記(i)、(ii)又は(iii)のアミノ酸配列を含むタンパク質のうち、上記(iii)のアミノ酸配列を含むタンパク質が特に好ましい。
【0066】
また、上記(4a)のタンパク質としては、上記(i)及び(iii)の記載中の「セリン以外のアミノ酸」がグルタミン酸又はアスパラギン酸である場合のタンパク質が好ましく挙げられる。同様に、上記(4a)のタンパク質としては、上記(ii)及び(iii)の記載中の「アラニン以外のアミノ酸」がロイシン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン及びメチオニンからなる群より選ばれるいずれか1つである場合のタンパク質も好ましく挙げられる。
【0067】
さらに、上記(4a)のタンパク質としては、上記(i)~(iii)の記載中の「セリン以外のアミノ酸」がグルタミン酸であり、かつ、「アラニン以外のアミノ酸」がロイシンである場合のタンパク質が、特に好ましく挙げられる。当該タンパク質としては、例えば、配列番号6に示されるアミノ酸配列のうち第202番目のセリンがグルタミン酸に置換され、かつ、第205番目のアラニンがロイシンに置換されたタンパク質(α-GALシグナルペプチド融合α-NAGA(S202E/A205L))が好ましく挙げられる。
【0068】
上記(4b)のタンパク質は、上記(4a)のタンパク質に含まれる上記(i)~(iii)のいずれかのアミノ酸配列において前記置換部位のアミノ酸を除く、1個又は数個(例えば1個~10個程度、好ましくは1個~5個程度)のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列を含み、かつα-GAL活性を有するタンパク質であればよく、限定はされない。ここで、「前記置換部位」とは、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列を構成する425アミノ酸残基のうち、第202番目のアミノ酸残基(但し上記(i)及び(iii)のアミノ酸配列に限る)並びに第205番目のアミノ酸残基(但し上記(ii)及び(iii)のアミノ酸配列に限る)を意味する。
【0069】
なお、上記(4b)のタンパク質は、α-GAL活性を安定して発揮し得るタンパク質であることが重要である。そのため、例えば、α-GALの基質中のα-ガラクトース残基との結合性(基質結合性)及び当該基質との触媒反応性に重要と考えられるアミノ酸残基は、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。当該アミノ酸残基としては、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列を構成する425アミノ酸残基のうち、第42番目~第45番目、第91番目~第95番目、第131番目~第141番目、第164番目~第172番目、第206番目、第223番目~第234番目及び第256番目~第268番目のアミノ酸残基(特に、触媒部位である第170番目及び第231番目のアスパラギン酸(Asp:D))が好ましく挙げられる。
【0070】
同様に、ホモ二量体の形成に重要と考えられるアミノ酸残基も、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。当該アミノ酸残基としては、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列を構成する425アミノ酸残基のうち、第59番目及び第364番目のアミノ酸残基(具体的には、第59番目のアスパラギン酸(Asp:D)及び第364番目のアルギニン(Arg:R))が好ましく挙げられる。
【0071】
さらに、N型糖鎖結合部位であるアミノ酸残基も、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。当該アミノ酸残基としては、上記(i)~(iii)のアミノ酸配列を構成する425アミノ酸残基のうち、第138番目、第191番目、第215番目、第373番目及び第399番目のアミノ酸残基(いずれもアスパラギン(Asn:N))が好ましく挙げられる。
【0072】
以上に述べた本発明のタンパク質について、α-GAL活性は、例えば、CHO細胞やヒト線維芽細胞等の哺乳類由来の細胞に目的タンパク質を発現させて採取し、当該タンパク質(酵素溶液)と、4-メチルウンベリフェリル-α-D-ガラクトシド(α-D-ガラクトース及び4-メチルウンベリフェロン(蛍光基質)から得られる合成基質)とを混合して、酸性条件下で反応させた場合に、当該酵素溶液の単位量が単位時間当たりに遊離させ得る4-メチルウンベリフェロンの量を検出することにより測定することができる。
【0073】
なお、α-NAGA活性も、上記α-GAL活性と同様に、目的タンパク質を発現させて採取し、当該タンパク質(酵素溶液)と、4-メチルウンベリフェリル-α-N-アセチル-D-ガラクトサミニド(α-N-アセチル-D-ガラクトサミン及び4-メチルウンベリフェロン(蛍光基質)から得られる合成基質)とを混合して、酸性条件下で反応させた場合に、当該酵素溶液の単位量が単位時間当たりに遊離させ得る4-メチルウンベリフェロンの量を検出することにより測定することができる。
【0074】
上記α-GAL活性及びα-NAGA活性の測定方法において、蛍光基質の検出には、公知の各種検出方法を採用できるが、例えば、蛍光光度計等により検出する方法が好ましい。また、目的タンパク質の発現は、公知の各種発現ベクター等に組込んで細胞に導入し発現させればよい。
【0075】
(組換え遺伝子)
上述した本発明に係るタンパク質は、組換え遺伝子によってコードされる。
【0076】
本項目に記載の遺伝子は、上述した本発明に係るタンパク質をコードする遺伝子である。本発明に係るタンパク質をコードする遺伝子としては、例えば、以下の(1a)又は(1b)のDNAを含む遺伝子が好ましく挙げられる。なお、以下の(1a)及び(1b)のDNAは、いずれも本発明のタンパク質の構造遺伝子であることが好ましいが、これらDNAを含む遺伝子としては、これらDNAのみからなるものであってもよいし、これらDNAを一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)をも含むものであってもよく、限定はされない。
(1a)下記(i)~(iii)のいずれかの塩基配列を含むDNA
(i)配列番号1に示される塩基配列において第562番目~第564番目の塩基「agc」がセリン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基に置換された塩基配列のうち、第52番目~第1,236番目の塩基からなる塩基配列(ii)配列番号1に示される塩基配列において第571番目~第573番目の塩基「gcc」がアラニン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基に置換された塩基配列のうち、第52番目~第1,236番目の塩基からなる塩基配列
(iii)配列番号1に示される塩基配列において第562番目~第564番目の塩基「agc」がセリン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基に置換され第571番目~第573番目の塩基がアラニン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基に置換された塩基配列のうち、第52番目~第1,236番目の塩基からなる塩基配列
(1b)上記(1a)の(i)~(iii)のいずれかの塩基配列を含むDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、前記置換部位の塩基に対応する塩基が当該置換部位の塩基と同一であり、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
本発明において「コドン」とは、転写後のRNA配列上の3塩基連鎖(トリプレット)に限らず、DNA配列上の3塩基連鎖をも意味する。よって、DNA配列上のコドンの表記は、ウラシル(U)の代わりにチミン(T)を用いて行う。
【0077】
配列番号1に示される塩基配列は、野生型α-NAGAをコードする1,236個の塩基からなる塩基配列である。
【0078】
上記(1a)のDNAは、詳しくは、この配列番号1に示される塩基配列において上記(i)~(iii)に記載のように塩基置換がなされた塩基配列のうち、野生型α-NAGAのシグナルペプチドをコードする第1番目~第51番目の塩基を除いた、第52番目~第1,236番目の塩基配列を含む塩基配列からなるDNAである。
【0079】
ここで、上記第52番目~第1,236番目の塩基配列を含む塩基配列としては、例えば、当該第52番目~第1,236番目の塩基配列の5’側に、各種シグナルペプチドをコードする塩基配列(ポリヌクレオチド)が結合した塩基配列が好ましく挙げられる。当該シグナルペプチドとしては、障害臓器の細胞膜を通過させ得るものであればよく、限定はされないが、例えば、野生型α-NAGA及び野生型α-GAL等の各種リソソーム酵素のシグナルペプチド、並びにプレプロトリプシン(pre protrypsin)等の分泌酵素のシグナルペプチドが好ましく、より好ましくは野生型α-NAGA及び野生型α-GALのシグナルペプチドであり、さらに好ましくは野生型α-GALのシグナルペプチドである。なお、野生型α-NAGAのシグナルペプチドをコードする塩基配列は、配列番号1に示される野生型α-NAGAの塩基配列のうち第1番目~第51番目の塩基からなる塩基配列であり、野生型α-GALのシグナルペプチドをコードする塩基配列は、配列番号9に示される野生型α-GALの塩基配列のうち第1番目~第93番目の塩基からなる塩基配列である。また、プレプロトリプシンのシグナルペプチドをコードする塩基配列は、配列番号11に示される塩基配列である。
【0080】
上記(1a)のDNAとしては、上記(i)、(ii)又は(iii)の塩基配列を含むDNAのうち、上記(iii)の塩基配列を含むDNAが特に好ましい。また、上記(1a)のDNAとしては、上記(i)及び(iii)の記載中の「セリン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基」がグルタミン酸又はアスパラギン酸のコドンを示す塩基である場合のDNAが好ましく挙げられる。同様に、上記(1a)のDNAとしては、上記(ii)及び(iii)の記載中の「アラニン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基」がロイシン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン及びメチオニンからなる群より選ばれるいずれか1つのコドンを示す塩基である場合のDNAも好ましく挙げられる。ここで、上記の各アミノ酸のコドンを示す塩基(左端の塩基を5’側の塩基とする)については、グルタミン酸のコドンを示す塩基は「gag」又は「gaa」(好ましくは「gag」)であり、アスパラギン酸のコドンを示す塩基は「gat」又は「gac」である。同様に、ロイシンのコドンを示す塩基は「ctc」、「ctt」、「cta」又は「ctg」(好ましくは「ctc」)であり、バリンのコドンを示す塩基は「gtt」、「gtc」、「gta」又は「gtg」であり、イソロイシンのコドンを示す塩基は「att」、「atc」又は「ata」であり、フェニルアラニンのコドンを示す塩基は「ttt」又は「ttc」であり、メチオニンのコドンを示す塩基は「atg」である。なお、セリンのコドンを示す塩基としては、前記「agc」以外に「agt」があり、アラニンのコドンを示す塩基としては、前記「gcc」以外に「gct」、「gca」及び「gcg」がある。
【0081】
さらに、上記(1a)のDNAとしては、上記(i)~(iii)の記載中の「セリン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基」がグルタミン酸のコドンを示す塩基であり、かつ、「アラニン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基」がロイシンのコドンを示す塩基である場合のDNAが、特に好ましく挙げられる。当該DNAとしては、例えば、野生型α-NAGAの塩基配列(配列番号1)のうち第562番目~第564番目の塩基がセリンのコドンを示す塩基からグルタミン酸のコドンを示す塩基に置換され(「agc」→「gag」)、かつ、第571番目~第573番目の塩基がアラニンのコドンを示す塩基からロイシンのコドンを示す塩基に置換された(「gcc」→「ctc」)塩基配列(配列番号3)からなるDNAが好ましく挙げられる。この例示においては、置換後の第562番目~第564番目の塩基は、グルタミン酸のコドンを示す塩基であれば上記「gag」以外の塩基であってもよいし、同様に、置換後の第571番目~第573番目の塩基は、ロイシンのコドンを示す塩基であれば上記「ctc」以外の塩基であってもよく、限定はされない。
【0082】
以上のような変異置換型のDNAは、例えば、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)等に記載の部位特異的変位誘発法に準じて調製することができる。具体的には、Kunkel法やGappedduplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キットを用いて調製することができ、当該キットとしては、例えば、Quick ChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等が好ましく挙げられる。
【0083】
また、所望のアミノ酸のコドンを示す塩基となるようにミスセンス変異が導入されるように設計したPCRプライマーを用い、野生型α-NAGAをコードする塩基配列を含むDNA等をテンプレートとして、適当な条件下でPCRを行うことにより調製することもできる。PCRに用いるDNAポリメラーゼは、限定はされないが、正確性の高いDNAポリメラーゼであることが好ましく、例えば、Pwo DNAポリメラーゼ(ロシュ・ダイアグノスティックス)、Pfu DNAポリメラーゼ(プロメガ)、プラチナPfx DNAポリメラーゼ(インビトロジェン)、KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡)、KOD-plus-ポリメラーゼ(東洋紡)等が好ましい。PCRの反応条件は、用いるDNAポリメラーゼの最適温度、合成するDNAの長さや種類等により適宜設定すればよいが、例えば、サイクル条件であれば「90~98℃で5~30秒(熱変性・解離)→50~65℃で5~30秒(アニーリング)→65~80℃で30~1200秒(合成・伸長)」を1サイクルとして合計20~200サイクル行う条件が好ましい。
【0084】
上記(1b)のDNAは、上記(i)~(iii)のいずれかの塩基配列を含むDNA(すなわち上記(1a)のDNA)若しくはそれと相補的な塩基配列からなるDNA、又はこれらを断片化したものをプローブとして用い、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、及びサザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法を実施し、cDNAライブラリーやゲノムライブラリーから得ることができる。ライブラリーは、公知の方法で作製されたものを利用してもよいし、市販のcDNAライブラリーやゲノムライブラリーを利用してもよく、限定はされない。
【0085】
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等を適宜参照することができる。
【0086】
ハイブリダイゼーション法を実施における「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーション後の洗浄時の条件であって、バッファーの塩濃度が15~330mM、温度が25~65℃、好ましくは塩濃度が15~150mM、温度が45~55℃の条件を意味する。具体的には、例えば80mMで50℃等の条件を挙げることができる。さらに、このような塩濃度や温度等の条件に加えて、プローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件も考慮し、上記(1b)のDNAを得るための条件を適宜設定することができる。
【0087】
ハイブリダイズするDNAとしては、上記(1a)のDNAの塩基配列に対して少なくとも40%以上の相同性を有する塩基配列であることが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上である。
【0088】
また、上記(1b)のDNAは、前記置換部位の塩基に対応する塩基が当該置換部位の塩基と同一である。
【0089】
ここでいう「置換部位」とは、上記(1a)のDNAに含まれる上記(i)~(iii)のいずれかの塩基配列においてなされた塩基置換の部位であり、詳しくは、当該塩基置換により生じた変更後のコドンを示す塩基(トリプレット)の部位を意味する。具体的には、「置換部位」とは、上記(i)~(iii)の塩基配列を構成する1,185個の塩基のうち、配列番号1に示される塩基配列における第562番目~第564番目の塩基の位置に対応する塩基(但し上記(i)及び(iii)の塩基配列に限る)、並びに、配列番号1に示される塩基配列における第571番目~第573番目の塩基の位置に対応する塩基(但し上記(ii)及び(iii)の塩基配列に限る)を意味する。さらに具体的には、前者の塩基は、上記(i)及び(iii)の塩基配列における第511番目~第513番目の塩基を意味し、後者の塩基は、上記(ii)及び(iii)の塩基配列における第520番目~第522番目の塩基を意味する。
【0090】
また「前記置換部位の塩基に対応する塩基」の「対応する塩基」とは、上記(1b)のDNAが上記(1a)のDNAに対する相補鎖とハイブリダイズした場合に、このハイブリッドにおいて、前記置換部位の塩基に対する相補塩基(トリプレット)と、位置的に対向する関係にある塩基(トリプレット)を意味する。例えば、上記(1b)のDNAの塩基配列が、上記(1a)のDNAと比較して欠失及び付加の変異が無い場合(つまり両DNAの長さ(塩基数)が同じ)であれば、上記(1b)のDNAの塩基配列における第511番目~第513番目の塩基及び/又は第520番目~第522番目の塩基が、上記「対応する塩基」となる。
【0091】
なお、上記(1b)のDNAは、α-GAL活性を有するタンパク質をコードするDNAであることが重要である。そのため、例えば、α-GALの基質中のα-ガラクトース残基との結合性(基質結合性)及び当該基質との触媒反応性に重要と考えられるアミノ酸残基のコドンを示す塩基は、上記(i)~(iii)の塩基配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。上記(i)~(iii)の塩基配列上のそのような塩基としては、当該塩基配列のうち配列番号1に示される塩基配列における第82番目~第93番目(4コドン)、第229番目~第243番目(5コドン)、第349番目~第381番目(11コドン)、第448番目~第474番目(9コドン)、第574番目~第576番目(1コドン)、第625番目~第660番目(12コドン)及び第724番目~第762番目(13コドン)の塩基の位置に対応する塩基が好ましく挙げられ、中でも特に、触媒部位のアミノ酸残基のコドンを示す第466番目~第468番目及び第649番目~第651番目の塩基に対応する塩基が好ましい。
【0092】
また、上記(1b)のDNAは、ホモ二量体の形成に重要と考えられるアミノ酸残基のコドンを示す塩基も、上記(i)~(iii)の塩基配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。上記(i)~(iii)の塩基配列上のそのような塩基としては、当該塩基配列のうち、配列番号1に示される塩基配列における第133番目~第135番目及び第1,048番目~第1,050番目の塩基の位置に対応する塩基が好ましく挙げられる。
【0093】
さらに、上記(1b)のDNAは、N型糖鎖結合部位であるアミノ酸残基のコドンを示す塩基も、上記(i)~(iii)の塩基配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。上記(i)~(iii)の塩基配列上のそのような塩基としては、当該塩基配列のうち、配列番号1に示される塩基配列における第370番目~第372番目、第529番目~第531番目、第601番目~第603番目、第1,075番目~第1,077番目及び第1,153番目~第1,155番目の塩基の位置に対応する塩基が好ましく挙げられる。
【0094】
上記(1b)のDNAとしては、例えば、上記(1a)のDNAと比較して、塩基配列については完全に同一ではないが、翻訳された後のアミノ酸配列については完全に同一となるような塩基配列からなるDNA(すなわち上記(1a)のDNAにサイレント変異が施されたDNA)が、特に好ましい。
【0095】
また、本発明の遺伝子としては、以下の(2a)又は(2b)のDNAを含む遺伝子も好ましく挙げられる。以下の(2a)及び(2b)のDNAは、いずれも本発明のタンパク質の構造遺伝子であることが好ましいが、これらDNAを含む遺伝子としては、これらDNAのみからなるものであってもよいし、これらDNAを一部に含み、その他に遺伝子発現に必要な公知の塩基配列(転写プロモーター、SD配列、Kozak配列、ターミネーター等)をも含むものであってもよく、限定はされない。
(2a)下記(i)~(iii)のいずれかの塩基配列を含むDNA
(i)配列番号5に示される塩基配列において第604番目~第606番目の塩基「agc」がセリン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基に置換された塩基配列
(ii)配列番号5に示される塩基配列において第613番目~第615番目の塩基「gcc」がアラニン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基に置換された塩基配列
(iii)配列番号5に示される塩基配列において第604番目~第606番目の塩基「agc」がセリン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基に置換され第613番目~第615番目の塩基がアラニン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基に置換された塩基配列
(2b)上記(2a)の(i)~(iii)のいずれかの塩基配列を含むDNAに対し相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、前記置換部位の塩基に対応する塩基が当該置換部位の塩基と同一であり、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
配列番号5に示される塩基配列は、野生型α-NAGAをコードする1,236個の塩基配列において、シグナルペプチド部分をコードする第1番目~第51番目の塩基からなる配列が野生型α-GALのシグナルペプチド部分をコードする塩基配列に変換された塩基配列であり、いわゆる融合タンパク質をコードする塩基配列である。ここで、野生型α-GALのシグナルペプチド部分をコードする塩基配列は、前述した通り、配列番号9に示される野生型α-GALをコードする塩基配列のうち、第1番目~第93番目の塩基からなる配列である。
【0096】
上記(2a)のDNAとしては、上記(i)、(ii)又は(iii)の塩基配列を含むDNAのうち、上記(iii)の塩基配列を含むDNAが特に好ましい。また、上記(2a)のDNAとしては、上記(i)及び(iii)の記載中の「セリン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基」がグルタミン酸又はアスパラギン酸のコドンを示す塩基である場合のDNAが好ましく挙げられる。同様に、上記(2a)のDNAとしては、上記(ii)及び(iii)の記載中の「アラニン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基」がロイシン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン及びメチオニンからなる群より選ばれるいずれか1つのコドンを示す塩基である場合のDNAも好ましく挙げられる。ここで、上記の各アミノ酸のコドンを示す塩基については、前記(1a)のDNAに関する説明が同様に適用できる。
【0097】
さらに、上記(2a)のDNAとしては、上記(i)~(iii)の記載中の「セリン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基」がグルタミン酸のコドンを示す塩基であり、かつ、「アラニン以外のアミノ酸のコドンを示す塩基」がロイシンのコドンを示す塩基である場合のDNAが、特に好ましく挙げられる。当該DNAとしては、例えば、配列番号5に示される塩基配列のうち、第604番目~第606番目の塩基がセリンのコドンを示す塩基からグルタミン酸のコドンを示す塩基に置換され(「agc」→「gag」)、かつ、第613番目~第615番目の塩基がアラニンのコドンを示す塩基からロイシンのコドンを示す塩基に置換された(「gcc」→「ctc」)塩基配列(配列番号7)からなるDNAが好ましく挙げられる。この例示においては、置換後の第604番目~第606番目の塩基は、グルタミン酸のコドンを示す塩基であれば上記「gag」以外の塩基であってもよいし、同様に、置換後の第613番目~第615番目の塩基は、ロイシンのコドンを示す塩基であれば上記「ctc」以外の塩基であってもよく、限定はされない。
【0098】
以上のような変異置換型のDNAの調製法などについては、前記(1a)のDNAに関する説明が同様に適用できる。
【0099】
上記(2b)のDNAは、上記(i)~(iii)のいずれかの塩基配列を含むDNA(すなわち上記(2a)のDNA)若しくはそれと相補的な塩基配列からなるDNA、又はこれらを断片化したものをプローブとして用い、公知のハイブリダイゼーション法を実施し、cDNAライブラリーやゲノムライブラリーから得ることができる。ハイブリダイゼーション法の種類、手順及び条件、並びに各ライブラリーについては、前記(1b)のDNAに関する説明が同様に適用できる。
ハイブリダイズするDNAとしては、上記(2a)のDNAの塩基配列に対して少なくとも40%以上の相同性を有する塩基配列であることが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上である。
【0100】
また、上記(2b)のDNAは、前記置換部位の塩基に対応する塩基が当該置換部位の塩基と同一である。
【0101】
ここでいう「置換部位」とは、上記(2a)のDNAに含まれる上記(i)~(iii)のいずれかの塩基配列においてなされた塩基置換の部位であり、詳しくは、当該塩基置換により生じた変更後のコドンを示す塩基(トリプレット)の部位を意味する。具体的には、「置換部位」とは、上記(i)~(iii)の塩基配列を構成する1,275個の塩基のうち、第604番目~第606番目の塩基(但し上記(i)及び(iii)の塩基配列に限る)並びに第613番目~第615番目の塩基(但し上記(ii)及び(iii)の塩基配列に限る)を意味する。
【0102】
また「前記置換部位の塩基に対応する塩基」の「対応する塩基」とは、上記(2b)のDNAが上記(2a)のDNAに対する相補鎖とハイブリダイズした場合に、このハイブリッドにおいて、前記置換部位の塩基に対する相補塩基(トリプレット)と、位置的に対向する関係にある塩基(トリプレット)を意味する。例えば、上記(2b)のDNAの塩基配列が、上記(2a)のDNAと比較して欠失及び付加の変異が無い場合(つまり両DNAの長さ(塩基数)が同じ)であれば、上記(2b)のDNAの塩基配列における第604番目~第606番目の塩基及び/又は第613番目~第615番目の塩基が、上記「対応する塩基」となる。
【0103】
なお、上記(2b)のDNAは、α-GAL活性を有するタンパク質をコードするDNAであることが重要である。そのため、例えば、α-GALの基質中のα-ガラクトース残基との結合性(基質結合性)及び当該基質との触媒反応性に重要と考えられるアミノ酸残基のコドンを示す塩基は、上記(i)~(iii)の塩基配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。上記(i)~(iii)の塩基配列上のそのような塩基としては、当該塩基配列のうち第124番目~第135番目(4コドン)、第271番目~第285番目(5コドン)、第391番目~第423番目(11コドン)、第490番目~第516番目(9コドン)、第616番目~第618番目(1コドン)、第667番目~第702番目(12コドン)及び第766番目~第804番目(13コドン)の塩基が好ましく挙げられ、中でも特に、触媒部位のアミノ酸残基のコドンを示す第508番目~第510番目及び第691番目~第693番目の塩基が好ましい。
【0104】
また、上記(2b)のDNAは、ホモ二量体の形成に重要と考えられるアミノ酸残基のコドンを示す塩基も、上記(i)~(iii)の塩基配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。上記(i)~(iii)の塩基配列上のそのような塩基としては、当該塩基配列のうち第175番目~第177番目及び第1,090番目~第1,092番目の塩基が好ましく挙げられる。
【0105】
さらに、上記(2b)のDNAは、N型糖鎖結合部位であるアミノ酸残基のコドンを示す塩基も、上記(i)~(iii)の塩基配列から変異(欠失、置換又は付加)されていないものが好ましい。上記(i)~(iii)の塩基配列上のそのような塩基としては、当該塩基配列のうち第412番目~第414番目、第571番目~第573番目、第643番目~第645番目、第1,117番目~第1,119番目及び第1,195番目~第1,197番目の塩基が好ましく挙げられる。
【0106】
上記(2b)のDNAとしては、例えば、上記(2a)のDNAと比較して、塩基配列については完全に同一ではないが、翻訳された後のアミノ酸配列については完全に同一となるような塩基配列からなるDNA(すなわち上記(2a)のDNAにサイレント変異が施されたDNA)が、特に好ましい。
【0107】
以上に述べた本発明のタンパク質をコードする遺伝子としては、翻訳後の個々のアミノ酸に対応するコドンは、特に限定はされないため、転写後、ヒト等の哺乳類において一般的に用いられているコドン(好ましくは使用頻度の高いコドン)を示すDNAを含むものであってもよいし、また、大腸菌や酵母等の微生物や、植物等において一般的に用いられているコドン(好ましくは使用頻度の高いコドン)を示すDNAを含むものであってもよい。
【0108】
<組換えベクター及び形質転換体>
本発明のタンパク質を発現させる場合、通常は、まず上述の本発明の遺伝子を発現ベクターに組込んだ組換えベクターの構築が行われる。この際、発現ベクターに組込む遺伝子には、必要に応じて、予め、上流に転写プロモーター、SD配列(宿主が原核細胞の場合)及びKozak配列(宿主が真核細胞の場合)を連結しておいてもよいし、下流にターミネーターを連結しておいてもよく、その他、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー等を連結しておくこともできる。なお、上記転写プロモーター等の遺伝子発現に必要な各要素は、初めから当該遺伝子に含まれていてもよいし、もともと発現ベクターに含まれている場合はそれを利用してもよく、各要素の使用態様は特に限定されない。
【0109】
発現ベクターに当該遺伝子を組込む方法としては、例えば、制限酵素を用いる方法や、トポイソメラーゼを用いる方法など、公知の遺伝子組換え技術を利用した各種方法が採用できる。また、発現ベクターとしては、例えば、プラスミドDNA、バクテリオファージDNA、レトロトランスポゾンDNA、レトロウイルスベクター、人工染色体DNAなど、本発明のタンパク質をコードする遺伝子を保持し得るものであれば、限定はされず、使用する宿主細胞に適したベクターを適宜選択して使用することができる。
【0110】
次いで、構築した上記組換えベクターを宿主に導入して形質転換体を得、これを培養することにより、本発明のタンパク質を発現させることができる。なお、本発明で言う「形質転換体」とは宿主に外来遺伝子が導入されたものを意味し、例えば、宿主にプラスミドDNA等を導入すること(形質転換)で外来遺伝子が導入されたもの、並びに、宿主に各種ウイルス及びファージを感染させること(形質導入)で外来遺伝子が導入されたものが含まれる。
【0111】
宿主としては、上記組換えベクターが導入された後、本発明のタンパク質を発現し得るものであれば、限定はされず、適宜選択することができるが、例えば、ヒトやマウス等の各種動物細胞、各種植物細胞、細菌、酵母等の公知の宿主が挙げられる。
【0112】
動物細胞を宿主とする場合は、例えば、ヒト繊維芽細胞、CHO細胞、サル細胞COS-7、Vero、マウスL細胞、ラットGH3、ヒトFL細胞等が用いられる。また、Sf9細胞、Sf21細胞等の昆虫細胞を用いることもできる。
【0113】
細菌を宿主とする場合、例えば、大腸菌、枯草菌等が用いられる。
【0114】
酵母を宿主とする場合は、例えば、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等が用いられる。
【0115】
植物細胞を宿主とする場合は、例えば、タバコBY-2細胞等が用いられる。
【0116】
形質転換体を得る方法は、限定はされず、宿主と発現ベクターとの種類の組合せを考慮し、適宜選択することができるが、例えば、電気穿孔法、リポフェクション法、ヒートショック法、PEG法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、並びに、DNAウイルスやRNAウイルス等の各種ウイルスを感染させる方法などが好ましく挙げられる。
【0117】
得られる形質転換体においては、組換えベクターに含まれる遺伝子のコドン型は、実際に用いた宿主のコドン型と一致していてもよいし、異なっていてもよく、限定はされない。
【0118】
(タンパク質の製法)
本発明のタンパク質(α-GAL活性を有するタンパク質)は、例えば、野生型α-NAGAの活性部位(特に基質結合部位)の構造を、α-GALの基質が結合できるように変化させることにより製造することができる。α-GALの基質を結合させることができれば、野生型α-NAGAの触媒部位による触媒作用により当該基質は加水分解され得る。
【0119】
このような構造変化は、例えば、前述したように、遺伝子組換え技術により、野生型α-NAGAの活性部位(基質結合部位)を構成するアミノ酸配列中、(i)第188番目のセリンをグルタミン酸又はアスパラギン酸等の他のアミノ酸に置換し、(ii)第191番目のアラニンをロイシン、バリン、イソロイシン、フェニルアラニン又はメチオニン等の他のアミノ酸に置換し、あるいは(iii)第188番目のセリン及び第191番目のアラニンを共に上記(i),(ii)のように置換する。このようにして、置換前と置換後のアミノ酸側鎖の立体構造を変化させることで行うことができ、野生型α-NAGAの基質特異性を変化させることができる。特に、上記構造変化は、第188番目のセリンをグルタミン酸に置換し且つ第191番目のアラニンをロイシンに置換して行うことが好ましく、これによりα-NAGAにα-GALの基質特異性を付与することができる。なお、以上の構造変化において、顕著な立体構造変化をもたらすアミノ酸置換は、第191番目のアラニンをロイシン等に置換することである。詳しくは、第191番目のアミノ酸の側鎖が、アラニンの側鎖である「-CH」から、ロイシンの側鎖である「-CH-CH(CH)-CH」等のように占有空間の大きな側鎖に変わることで、α-NAGAの基質中のN-アセチル基が活性部位に入り込む空間が制限され、当該基質との結合性が低減し、その分α-GALの基質との結合性が高まることとなる。
【0120】
ここで、上述した本発明のタンパク質の製造方法は、構造変化前の野生型α-NAGAとして、野生型α-GAL由来のシグナルペプチドを含む野生型α-NAGAを用いて行ってもよいし、あるいは、構造変化により変異型α-NAGAを得た後、この変異型α-NAGAに野生型α-GAL由来のシグナルペプチドを付加する(結合させる)工程、若しくは、変異型α-NAGAが野生型α-NAGAのシグナルペプチドを含むものである場合はこのシグナルペプチドを野生型α-GAL由来のシグナルペプチドに変換する工程を行ってもよく、限定はされない。
【0121】
そのため、本発明のタンパク質の製造方法としては、例えば、野生型ヒトα-ガラクトシダーゼ由来のシグナルペプチドを含む野生型ヒトα-N-アセチルガラクトサミニダーゼの活性部位の構造を、α-ガラクトシダーゼの基質が結合できるように変化させることを特徴とする、α-GAL活性を有するタンパク質の製造方法が好ましく挙げられる。
【0122】
また、本発明のタンパク質の製造方法としては、野生型α-NAGAの活性部位の構造をα-GALの基質が結合できるように変化させたタンパク質に野生型α-GAL由来のシグナルペプチドを付加する(結合させる)、又は、野生型α-NAGAの活性部位の構造をα-GALの基質が結合できるように変化させたタンパク質のシグナルペプチド部分を野生型α-GAL由来のシグナルペプチドに変換することを特徴とする、α-GAL活性を有するタンパク質の製造方法も好ましく挙げられる。
【0123】
なお、上述したシグナルペプチド部分の変換は、野生型α-NAGA及び野生型α-GALについての公知の塩基配列情報及びアミノ酸配列情報を用いて、遺伝子組換え技術の常法により行うことができる。
【0124】
本発明のタンパク質の製造は、具体的には、前述した形質転換体を培養する工程と、得られる培養物からα-ガラクトシダーゼ活性を有するタンパク質を採取する工程とを含む方法により実施することができる。ここで、「培養物」とは、培養上清、培養細胞、培養菌体、又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味するものである。上記形質転換体の培養は、宿主の培養に用いられる通常の方法に従って行うことができる。目的のタンパク質は、上記培養物中に蓄積される。
【0125】
上記培養に用いる培地としては、宿主が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類などを含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、公知の各種天然培地及び合成培地のいずれを用いてもよい。
【0126】
培養中は、形質転換体に含まれる組換えベクターの脱落及び目的タンパク質をコードする遺伝子の脱落を防ぐために、選択圧をかけた状態で培養してもよい。すなわち、選択マーカーが薬剤耐性遺伝子である場合には、相当する薬剤を培地に添加することができ、選択マーカーが栄養要求性相補遺伝子である場合には、相当する栄養因子を培地から除くことができる。例えば、G418耐性遺伝子を含むベクターで形質導入したヒト線維芽細胞を培養する場合、培養中、必要に応じてG418(G418硫酸塩)を添加してもよい。
【0127】
プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した形質転換体等を培養する場合は、必要に応じて、好適なインデューサー(例えば、IPTG等)を培地に添加してもよい。
【0128】
形質転換体の培養条件は、目的タンパク質の生産性及び宿主の生育が妨げられない条件であれば特に限定はされず、通常、10℃~40℃、好ましくは20℃~37℃で5~100時間行う。pHの調整は、無機又は有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養方法としては、固体培養、静置培養、振盪培養、通気攪拌培養などが挙げられる。
【0129】
培養後、目的タンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合には、菌体又は細胞を破砕することにより目的タンパク質を採取することができる。菌体又は細胞の破砕方法としては、フレンチプレス又はホモジナイザーによる高圧処理、超音波処理、ガラスビーズ等による磨砕処理、リゾチーム、セルラーゼ又はペクチナーゼ等を用いる酵素処理、凍結融解処理、低張液処理、ファージによる溶菌誘導処理等を利用することができる。破砕後、必要に応じて菌体又は細胞の破砕残渣(細胞抽出液不溶性画分を含む)を除くことができる。残渣を除去する方法としては、例えば、遠心分離やろ過などが挙げられ、必要に応じて、凝集剤やろ過助剤等を使用して残渣除去効率を上げることもできる。残渣を除去した後に得られた上清は、細胞抽出液可溶性画分であり、粗精製したタンパク質溶液とすることができる。
【0130】
また、目的のタンパク質が菌体内又は細胞内に生産される場合は、菌体や細胞そのものを遠心分離、膜分離等で回収して、未破砕のまま使用することも可能である。
【0131】
一方、目的のタンパク質が菌体外又は細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離やろ過等により菌体又は細胞を除去する。その後、必要に応じて硫安沈澱による抽出等により、培養物中から目的タンパク質を採取し、さらに必要に応じて透析、各種クロマトグラフィー(ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等)を用いて単離精製することもできる。
【0132】
なお、前述のように、目的タンパク質が菌体又は細胞を用いて(菌体内又は細胞内に、あるいは菌体外又は細胞外に)生産される場合は、通常、シグナルペプチド部分が、菌体内又は細胞内の小胞体から細胞質に移動する際や、菌体外又は細胞外への分泌の際に除去され、最終的に、シグナルペプチド部分を有しない成熟タンパク質の状態で回収されることになる。しかしながら、本発明においては、この態様には限定はされず、例えば、上述した小胞体から細胞質への移動や菌体外又は細胞外への分泌の際に必要なシグナルペプチド部分を2つ以上重複して(連続して)有するタンパク質を一旦発現させ、当該移動及び分泌後においてもシグナルペプチド部分を少なくとも1つは有する状態のものを回収するようにしてもよい。この場合、得られた目的タンパク質を医薬組成物等の有効成分として利用する場合は、例えば、シグナルペプチド部分を酵素等を用いて切断又は分解し、成熟タンパク質の状態にしてから利用すればよい。
【0133】
形質転換体等を培養して得られたタンパク質の生産収率は、例えば、培養液あたり、菌体湿重量又は乾燥重量あたり、粗酵素液タンパク質あたりなどの単位で、SDS-PAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)等により確認することができる。
【0134】
また、目的タンパク質の製造は、上述したような形質転換体を用いたタンパク質合成系のほか、生細胞を全く使用しない無細胞タンパク質合成系を用いて行うこともできる。
【0135】
無細胞タンパク質合成系とは、細胞抽出液を用いて試験管等の人工容器内で目的タンパク質を合成する系である。また、使用し得る無細胞タンパク質合成系としては、DNAを鋳型としてRNAを合成する無細胞転写系も含まれる。
【0136】
この場合、使用する細胞抽出液の由来は、前述の宿主細胞であることが好ましい。細胞抽出液としては、例えば真核細胞由来又は原核細胞由来の抽出液、より具体的には、CHO細胞、ウサギ網状赤血球、マウスL-細胞、HeLa細胞、小麦胚芽、出芽酵母、大腸菌などの抽出液を使用することができる。なお、これらの細胞抽出液は、濃縮又は希釈して用いてもよいし、そのままでもよく、限定はされない。
【0137】
細胞抽出液は、例えば限外濾過、透析、ポリエチレングリコール(PEG)沈殿等によって得ることができる。
【0138】
このような無細胞タンパク質合成は、市販のキットを用いて行うこともできる。例えば、試薬キットPROTEIOSTM(東洋紡)、TNTTMSystem(プロメガ)、合成装置のPG-MateTM(東洋紡)、RTS(ロシュ・ダイアグノスティクス)等が挙げられる。
【0139】
無細胞タンパク質合成によって産生された目的のタンパク質は、前述したようにクロマトグラフィー等の手段を適宜選択して、精製することができる。
【0140】
本発明のタンパク質の安定性を高める方法において、タンパク質の形態は限定されない。例えば、組成物に含有される形態であっても、乾燥形態又は水溶液の形態であってもよい。後述する医薬組成物において有効成分となる、本発明のタンパク質は、必要に応じて各種塩や水和物等の状態で用いられてもよいし、また、治療剤としての保存安定性(特に酵素活性の維持)を考慮した適当な化学的修飾がなされた状態で用いられてもよく、特に限定はされない。タンパク質が組成物に含有される場合の態様については、〔3.ファブリー病治療用医薬の組合せ物〕の項目に詳述する。
【0141】
[活性部位特異的シャペロン化合物]
本発明に係る活性部位特異的シャペロン化合物は、下記一般式(I)で表される化合物である、又は
【0142】
【化8】
【0143】
(式(I)中、Rは、H、-OH、-SOH、-SO 、-COOH、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基、炭素数3若しくは4のシクロアルキル基、又はハロゲン基を表す)
α-アロ-ホモノジリマイシン、α-ガラクト-ホモノジリマイシン、α-1-C-ブチル-デオキシノジリマイシン、カリステジンA、カリステジンB、N-メチル-カリステジンA及びN-メチル-カリステジンBからなる群から選択される化合物である。
【0144】
ここで、式(I)のRにおける官能基の記載は、その官能基に対応する、水中で水素イオンを放出して負電荷を有する官能基(例えば-O-、-SO -、-COO-)も包含され、これらの官能基を有する化合物も式(I)で表される化合物の範疇である。本発明に係る活性部位特異的シャペロン化合物には、その遊離塩基形態及び任意の薬学的に許容可能な塩形態もその範疇に包含される。
【0145】
また、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のヒドロキシアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0146】
式(I)中、Rにおける炭素数1~4のアルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基が挙げられる。このうち、炭素数1~3のアルキル基が好ましく、炭素数1又は2のアルキル基がより好ましく、炭素数1であることがさらに好ましい。
【0147】
ハロアルキル基又はハロゲン基におけるハロゲン原子は、F、Cl、Brが挙げられ、F又はClであることが好ましい。
【0148】
式(I)中、Rにおける炭素数1~4のハロアルキル基は、上述の炭素数1~4のアルキル基において前記「ハロゲン原子」が置換した基であり、例えば、トリフルオロメチル、トリクロロメチル、ジフルオロメチル、ジクロロメチル、ジブロモメチル、フルオロメチル、2,2,2-トリフルオロエチル、2,2,2-トリクロロエチル、2-ブロモエチル、2-クロロエチル、2-フルオロエチル、2-ヨードエチル、3-クロロプロピル、2,2-ジブロモエチル、4-ヨードブチル、4-フルオロブチル、4-クロロブチル基等が挙げられる。
【0149】
式(I)中、Rにおける炭素数1~4のアルコキシ基は、上述の炭素数1~4のアルキル基が酸素原子に結合した基であり、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ等が挙げられる。
【0150】
式(I)中、Rにおける炭素数1~4のヒドロキシアルキル基は上述の炭素数1~4のアルキル基において水酸基が置換した基であり、例えば、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、ヒドロキシブチル基等が挙げられる。一例ではヒドロキシメチル基が好適である。
【0151】
式(I)中、Rにおける炭素数3若しくは4のシクロアルキル基は、3又は4員の飽和又は不飽和環状炭化水素基であり、例えばシクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロブチル基等が挙げられる。
【0152】
ある実施形態では、式(I)中、Rは、H、-OH、-SOH又は-SO であることが好ましく、H又は-SOH若しくは-SO であることがより好ましく、Hであることがさらにより好ましい。
【0153】
一実施形態の活性部位特異的シャペロン化合物は、本発明に係るタンパク質の競合的阻害剤である。
【0154】
酵素の「競合的阻害剤」とは、酵素基質に化学的構造及び分子的幾何学的及び構造的に類似して、基質とほぼ同一の位置における酵素に結合する化合物を意味している。競合的阻害剤としての活性部位特異的シャペロン化合物は、基質分子と同一の活性部位について競合し、Kmを増大させる。競合阻害は可逆的であり得る。従って、酵素阻害の程度は競合阻害剤の濃度、基質濃度、及び活性部位に対する阻害剤及び基質の相対的親和性に依存する。
【0155】
通常、α-NAGA変異体は、中性pH(7.4)よりも酸性(リソソーム条件)pH(5.2)において安定である。本発明に係る活性部位特異的シャペロンを接触させることによって、中性及び酸性のいずれの条件においても接触させない場合と比較して、酵素の安定性を向上させるものであり得る。
【0156】
一例では、活性部位特異的シャペロンはα-NAGA変異体の変性温度(Tm値)をより上昇させるものが好ましい。
【0157】
特定の実施形態において、活性部位特異的シャペロンは、上記式(I)の構造のうち、RがHである1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)であるか、Rが-SO であるガラクトスタチン重亜硫酸塩(ガラクトスタチンバイスルファイト、galactostatin bisulfite(GBS)であり、別の実施形態では、1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)である。1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)は、(2R,3S,4R,5S)-2-(ヒドロキシメチル)ピペルジン(piperdine)-3,4,5-トリオールを指す。本明細書で使用されるとき、「1-デオキシガラクトノジリマイシン」又は「DGJ」という場合、その遊離塩基形態及び任意の薬学的に許容可能な塩形態の双方を含む。DGJの塩酸塩はミガラスタット塩酸塩として知られる。
【0158】
なお、1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)は下記の構造を有する。
【0159】
【化9】
【0160】
また、ガラクトスタチン重亜硫酸塩(ガラクトスタチンバイスルファイト、galactostatin bisulfite(GBS)は下記の構造を有する。
【0161】
【化10】
【0162】
本発明に係る活性部位特異的シャペロンは、以下のうちの少なくとも1つの機能を有するものである。
(1)タンパク質が安定な立体構造をとることを助ける、(2)タンパク質分解を抑制して、タンパク質のERから細胞内の適切な場所への移動を促進する、(3)ミスフォールディングを有する(不安定な立体構造を有する)タンパク質の凝集を抑制する。(4)タンパク質の活性の増強、活性の持続期間の延長、又は活性の回復。
【0163】
[タンパク質の安定性を高めるための安定性向上剤]
上述した通り、活性部位特異的シャペロンはタンパク質の安定性を高めるための安定性向上剤として用いることができる。すなわち、本発明は、タンパク質の安定性を高めるための安定性向上剤であって、前記タンパク質は、本発明のα-NAGA変異体タンパク質であり、前記安定性向上剤は、本発明の活性部位特異的シャペロン化合物を含む、安定性向上剤を提供する。
【0164】
本発明のタンパク質の安定性を高める方法において、活性部位特異的シャペロンの形態は限定されない。例えば、組成物に含有される形態であっても、乾燥形態又は水溶液の形態であってもよい。これらの任意の形態の活性部位特異的シャペロンは安定性向上剤としての用いることができる。活性部位特異的シャペロンが組成物に含有される場合の態様については、〔3.ファブリー病治療用医薬の組合せ物〕の項目に詳述する。
【0165】
[本発明の方法における各工程]
続いて、以下は本発明の方法の各工程について詳細に説明する。
【0166】
(接触工程)
本発明のタンパク質の安定性を高める方法は、前記タンパク質を活性部位特異的シャペロンと接触させる工程(接触工程)を包含する。
【0167】
「タンパク質の安定性」は、タンパク質が、適切な立体構造を保ち、正常な機能性を有しているかどうかで判断することができる。タンパク質の立体構造及び機能性は、相互作用する物質の有無又はpH及び温度などの該タンパク質の存在する環境条件等に影響されて変化する。よってタンパク質はこのような立体構造変化が生じにくく、機能性の低下がしにくいほど、安定性が高いといえる。
【0168】
タンパク質の安定性の高さは、例えば、該タンパク質自体の活性の高さ、タンパク質の活性又はタンパク質の量の経時的な変化、適切な立体構造の維持等を調べることで判定することができる。
【0169】
つまり、タンパク質の安定性を高める方法とは、酵素活性の低下を抑制する、酵素活性を維持する、又は、酵素活性を向上させる方法と言い換えることもできる。
【0170】
接触工程におけるタンパク質と活性部位特異的シャペロンとの接触は、in vivoで行っても、in vitroで行ってもよい。
【0171】
タンパク質に接触させる活性部位特異的シャペロンの量は、該タンパク質の安定性を高めるために必要な量であり、例えば接触させる対象のタンパク質の量等に応じて決定される。活性部位特異的シャペロンの濃度は、例えば、該酵素についての特異的シャペロンのIC50値を計算することによって決定することができる。
【0172】
さらなる実施形態において、本発明に係るタンパク質の安定性を高める方法は、1)本発明に係るタンパク質を、本発明に係る活性部位特異的シャペロンと接触させる工程(接触工程)、及び、2)接触工程後に前記タンパク質の安定性を測定する工程(測定工程)、を含む方法である。
【0173】
(測定工程)
測定工程は、上記接触工程後に行われ、接触工程後に前記タンパク質の安定性を測定する工程である。
【0174】
タンパク質の安定性の測定方法としては、タンパク質の活性測定、サーマルシフトアッセイ、示査走査熱量計、円偏向二色法等によるタンパク質の立体構造維持の測定、及び、ELISA法、ウエスタンブロッティングなどによる、タンパク質の量の測定等が挙げられる。
【0175】
一実施形態において、タンパク質の安定性が高められているか否かは、前記接触工程を行う前のタンパク質の活性又は発現量と、接触工程後のタンパク質の活性又は発現量とを比較することによって確認することができる。また、活性部位特異的シャペロン/タンパク質相互作用の分析結果は、例えば、プラズモン共鳴法、示差走査熱量計、円偏向二色性等、当分野で周知の技術を用いて評価することができる。
【0176】
本発明の方法は、それを必要とする個体へ投与するためのタンパク質に適用することができる。つまり、本発明の方法は、酵素補充療法のための補充酵素としてのα-NAGA変異体に対して用いることができ、生体中のα-NAGA変異体の安定性を高めることも可能である。
【0177】
〔2.ファブリー病の治療方法〕
本発明は、ファブリー病の治療方法を提供する。
【0178】
[α-NAGA変異体タンパク質を補充酵素とする酵素補充療法と、活性部位特異的シャペロンによるシャペロン療法との組合せによる併用療法]
本発明のファブリー病の治療方法の一実施形態は、個体に、有効量の本発明に係るタンパク質と、有効量の、前記タンパク質に対する本発明に係る活性部位特異的シャペロンとを投与することを包含する方法である。
【0179】
つまり、本発明の治療方法の一態様は、α-NAGA変異体タンパク質を用いた酵素補充療法において、同時に、α-NAGA変異体タンパク質の安定性を高める方法である。個体に投与されたα-NAGA変異体タンパク質は、同個体に投与された活性部位特異的シャペロンによって、その安定性及び活性が増強される。すなわち、本実施形態の治療方法は、酵素補充療法と、薬理学的シャペロン療法との組合せによる併用療法である。
【0180】
このとき、活性部位特異的シャペロンは、補充酵素であるα-NAGA変異体タンパク質の補助剤としての役割を果たすものとして投与されるものであってもよい。
【0181】
タンパク質及び活性部位特異的シャペロンは、〔1.タンパク質の安定性を高める方法〕の項目にて上述した通りのものが適用される。また、組成物の形態は、以下の〔3.ファブリー病治療用医薬の組合せ物〕の項目にて記載するものを適用することができる。
【0182】
以下、投与工程について説明する。
【0183】
(投与工程)
タンパク質と活性部位特異的シャペロンとは、同時に投与されてもよく、別々に投与されてもよい。同時投与される場合は、タンパク質と活性部位特異的シャペロンとは、別々の組成物(以下、組成物というときは、ファブリー病治療用医薬組成物としての製剤も含む)に含まれていてもよく、単一の組成物中に含まれていてもよい。また、タンパク質と活性部位特異的シャペロンとの両方又は一方について、異なる構造を有する複数種類のタンパク質及び/又は活性部位特異的シャペロンを投与してもよい。
【0184】
(投与期間)
投与期間も特に制限されず、連続で与えても間欠的に投与してもよいが、例えば1~数か月間、1~数年又は数年~数十年(例えば死亡するまで)という期間に、連続で、又は間欠的に(例えば1~7日おき又は1~14日おきに)投与することができる。
【0185】
(投与のタイミング)
タンパク質及び活性部位特異的シャペロンが個別の組成物中に含まれる場合、タンパク質及び活性部位特異的シャペロンを同時に投与してもよく、活性部位特異的シャペロンをタンパク質投与の前に、又は後に、投与してもよい。例えば、タンパク質が静脈内投与される場合に、活性部位特異的シャペロンは、一例として、該タンパク質投与の0~2時間以内、タンパク質投与の0~2時間前又は0~2時間後に投与してもよい。
【0186】
投与工程において、複数のタンパク質及び/又は活性部位特異的シャペロンを投与する場合は、複数種類のタンパク質及び/又は活性部位特異的シャペロンを同時に又は混合して投与してもよく、複数種類のタンパク質及び/又は活性部位特異的シャペロンを異なる時期に投与してもよい。その場合、投与の順は、例えば、ある特定のタンパク質を一定の投与期間投与した後、別の構造を有する異なるタンパク質をさらなる一定期間投与する、というように、投与する組成物成分を変更してもよく、一定期間中の投与有効成分の組成は所望のサイクル及び順序で変更してもよい。
【0187】
(投与経路)
投与経路は、静脈内、皮下、動脈内、腹腔内、点眼、筋肉内、経口腔、経直腸、経膣、眼窩内、大脳内、皮内、頭蓋内、髄腔内、脳室内、クモ膜下、槽内、関節内、肺内、鼻腔内、経粘膜、経皮及び吸入経由のいずれであってもよく、また、経口及び非経口のいずれであってもよい。なお、静脈内、皮下及び腹腔内等の非経口投与が好ましい。
【0188】
タンパク質及び活性部位特異的シャペロンが別個の組成物で調製される場合、シャペロン及びタンパク質を、例えば、静脈内注入等の同一経路によって投与してもよく、別の経路で投与してもよい。例えば、タンパク質は静脈内注入で、活性部位特異的シャペロンは経口投与等の異なる経路で投与することができる。
【0189】
タンパク質を含む組成物を補充用酵素薬として投与する場合は、通常、点滴静注などの非経口用法が採用される。非経口用法等の各種用法に用い得る製剤は、薬剤製造上一般に用いられる賦形剤、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等を適宜選択して使用し、常法により調製することができる。
【0190】
当該医薬組成物の形態は、限定はされないが、補充用酵素薬である場合は、通常、静脈内注射剤(点滴を含む)が採用され、例えば、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態等で提供され得る。
【0191】
(投与方法)
投与方法としては、皮下、皮内、静脈内、筋肉内又は腹腔内等への直接注射、鼻腔内、口腔内、肺内、膣内又は直腸内等の粘膜への噴霧、ならびに経口投与及び血管内投与などの、公知の方法に基づいて行われる。例えば、製剤のボーラス注射が挙げられる。
【0192】
投与に用いられる他の有用な非経口送達システムとしては、エチレン-酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、埋込み型注入システム、ポンプ送達、封入細胞送達、リポソーム送達、ニードル送達式注射、ニードルレス注射、ネブライザー、エアロゾル噴霧器、エレクトロポレーション及び経皮パッチが挙げられる。
【0193】
(投与量)
本発明のタンパク質と活性部位特的シャペロンとの投与量は、製剤中の有効成分の配合割合を考慮した上で、投与対象(患者)の年齢、体重、病気の種類、病状のほか、投与経路、投与回数、投与期間等を勘案し、適宜、広範囲に設定することができる。特に、タンパク質を補充用酵素薬としての医薬組成物の形態で投与する場合は、その投与回数は、2~4週間に1回程度が好ましく、またその投与量(/1回)は、例えば、有効成分である本発明のタンパク質等(組換え酵素)を、患者の体重に対して0.1~10mg/kg程度投与できる量であることが好ましく、より好ましくは0.1~5mg/kg程度、さらに好ましくは0.2~1mg/kg程度である。
【0194】
(投与の対象)
投与対象となる個体としては、あらゆる動物が挙げられるが、脊椎動物が好ましく、哺乳類であることがより好ましい。さらに、哺乳類の被験体としては、ヒトの他に、家畜類(ニワトリ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ウシ等)、ペット動物(ネコ、イヌ、ハムスター、ウサギ、モルモット等)及び実験動物(マウス、ラット等のげっ歯類、サル等)が挙げられるが、特にヒトが好ましい。
【0195】
例示的な個体は、ファブリー病を有する患者であるか、ファブリー病を発症するリスクを有する。ファブリー病を発症するリスクを有するとは、発症には至っていないが、発症の可能性が健常者と比べて高いことを意図しており、例えば、臨床症状を発症していないが、α-ガラクトシダーゼ遺伝子の欠損を有するなどの遺伝学的な発現型を有することが含まれる。
【0196】
さらに投与対象の個体は、いかなる年齢であってもよく、性別も限定されない。一実施形態の個体は、上述したファブリー病の少なくとも1つの臨床的症状を呈している。
【0197】
[α-NAGA変異体タンパク質による遺伝子治療と、シャペロン化合物によるシャペロン療法との組合せによる併用療法]
本発明のファブリー病の治療方法の別の実施形態は、個体に、有効量の、本発明に係るタンパク質をコードする遺伝子と、有効量の、前記タンパク質に対する本発明に係る活性部位特異的シャペロンとを投与することを包含する、方法である。
【0198】
つまり、本発明の治療方法のさらなる態様は、α-NAGA変異体遺伝子を用いた遺伝子治療において、同時に、生体内に発現するα-NAGA変異体タンパク質の安定性を高める方法である。すなわち、本実施形態のファブリー病の治療方法は、前述した本発明のタンパク質をコードする遺伝子を用いた遺伝子治療と、シャペロン化合物によるシャペロン療法との組合せによる併用療法を提供するものである。
【0199】
タンパク質及び活性部位特異的シャペロンは、〔1.タンパク質の安定性を高める方法〕の項目にて上述した通りのものが適用される。
【0200】
個体に投与されるタンパク質をコードする遺伝子の形態は、例えば、その遺伝子自体を含む組成物の形態であってもよいし、該遺伝子を発現可能に組み込んだベクターの形態又はそのベクターを含む組成物の形態であってもよい。投与に好適なベクターとしては、アデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、レトロウイルスベクター及びレンチウイルスベクター等が挙げられる。これらのウイルスベクターを用いることにより効率よく投与することができる。なお、市販の遺伝子導入キット(例えば、製品名:アデノエクスプレス、クローンテック社製)を用いることもできる。
【0201】
遺伝子を含む医薬組成物を投与に用いる場合、当該組成物をリポソーム等のリン脂質小胞体に導入し、この小胞体を投与することも可能である。本発明の遺伝子を保持させた小胞体をリポフェクション法により所定の細胞に導入する。そして、得られる細胞を例えば静脈内又は動脈内等に投与する。ファブリー病の障害臓器に局所投与することもできる。例えば、成人に当該医薬組成物を投与する場合は、患者の体重に対し、一日あたり0.1μg/kg~1000mg/kg程度であることが好ましく、より好ましくは1μg/kg~100mg/kg程度である。
【0202】
遺伝子の投与と、活性部位特異的シャペロンの投与との投与経路、投与方法、投与形態等は、上述の[α-NAGA変異体タンパク質を補充酵素とする酵素補充療法と、活性部位特異的シャペロンによるシャペロン療法との組合せによる併用療法]における、投与成分としてのタンパク質を遺伝子に置き換えてそのまま適用可能である。
【0203】
〔3.ファブリー病治療用医薬の組合せ物〕
本発明では、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼのアミノ酸配列において変異を有し、かつα-ガラクトシダーゼ活性を有する、本発明に係るタンパク質と、本発明に係る活性部位特異的シャペロンと、を含む、ファブリー病治療用医薬の組合せ物を提供する。
【0204】
タンパク質及び活性部位特異的シャペロンは、〔1.タンパク質の安定性を高める方法〕の項目にて上述した通りのものが適用される。
【0205】
組合せ物において、タンパク質と活性部位特異的シャペロン化合物とは、これらの物質を組合せとして使用するための別個の物質としての組合せの形態であってもよく、同一組成物中の成分として単一の組成物に含まれる形態であってもよい。組合せ物が別個の物質としての組合せの形態であるときは、例えば、タンパク質と活性部位特異的シャペロン化合物とはそれぞれ別個の組成物の形態となっていてもよい。なお、単一組成物中に含まれる形態及び別個の組成物に含まれる形態のいずれの形態についても、組成物に含まれる他の成分や剤型等は、後述の[ファブリー病治療用医薬組成物]に記載のものが適用可能である。タンパク質の安定性を高めるための安定性向上剤としての活性部位特異的シャペロン化合物を、別個の物質としての組合せ物の形態の場合に適用してもよい。
【0206】
組合せ物は本発明のタンパク質の安定性を高める方法及びファブリー病の治療方法に好適に使用することができる。組合せ物の具体的な一例としては、タンパク質と活性部位特異的シャペロン化合物とをそれぞれの医薬ラベルが貼付されたファブリー病治療用医薬として準備し、これらの医薬を組合せて使用するための組合せ物としたものが挙げられる。なお、医薬の互いの医薬ラベルには組合せ物としての互いの医薬との組合せとして使用されることが記載されていてもよい。
【0207】
[ファブリー病治療用医薬組成物]
本発明はまた、本発明のタンパク質と活性部位特異的シャペロンとの一方又は両方を含むファブリー病治療用医薬組成物を提供する。
【0208】
本発明のタンパク質の安定性を高める方法及びファブリー病の治療方法に本発明の組成物が適用される場合、上述の通り、タンパク質と活性部位特異的シャペロンとは単一の組成物中に含まれていてもよく、別個の組成物中に含まれていてもよい。
【0209】
タンパク質と活性部位特異的シャペロンとの両方を含む組成物は、例えば、上述の治療方法において、タンパク質と活性部位特異的シャペロンとの同時投与するために有効に用いることができる。
【0210】
また、タンパク質と活性部位特異的シャペロンとを別個の組成物の形態とする場合、それぞれの組成物は、その他の成分として同一の成分を含んでいてもよく、異なる成分を含んでいてもよい。
【0211】
[ファブリー病治療用薬剤]
よって本発明の活性部位特的シャペロン化合物を含む組成物の一実施形態は、ファブリー病治療用薬剤である。つまり発明では、ファブリー病治療用薬剤であって、本発明のタンパク質と併用されるものであり、前記ファブリー病治療用薬剤は、本発明の活性部位特的シャペロン化合物を含む、ファブリー病治療用薬剤も提供する。
【0212】
[補充用酵素薬等としての医薬組成物]
本発明のタンパク質と活性部位特的シャペロンとは、前述したように、ファブリー病の治療に関して種々の優れた効果を発揮し得るものであり、これらをファブリー病治療用医薬組成物(ファブリー病治療剤)の有効成分として好適に用いることができる。すなわち、本発明は、前述した本発明のタンパク質を含有するファブリー病治療用医薬組成物を提供するものである。当該医薬組成物としては、具体的には、酵素補充療法に用い得る補充用酵素薬の形態であることが好ましい。
【0213】
当該医薬組成物を補充用酵素薬として用いる場合は、本発明のタンパク質の配合割合や、他の成分の種類及び配合割合は、公知の補充用酵素薬(特に、ファブリー病治療用の補充用酵素薬)の調製法に準じて適宜設定することができる。
【0214】
本発明においては、有効成分となる本発明のタンパク質(組換え酵素)は、血中安定性に優れ、障害臓器の細胞への取り込み効率も高いため、従来に比べて少量の使用であっても従来と同様又はそれ以上の酵素補充効果を得ることができ、またアレルギー性副作用も極めて少ないので、患者への体力的、精神的及び経済的な負担を大いに低減することができる。
【0215】
さらに、本発明のタンパク質と活性部位特異的シャペロンとを含むファブリー病治療用医薬組成物は、活性部位特異的シャペロンを含まない従来の組成物よりも治療効果が高いので、より少量にて有効である。よって、本発明では、ファブリー病治療用医薬組成物は、従来の酵素補充療法における課題であった、組換えα-GALの繰り返し投与による、酵素に対する抗体の産生を抑制し、有害副反応を低減させ、治療効果を持続させる効果、及び、個体へ投与後の生体内での安定性を維持する効果を有する。
【0216】
[遺伝子治療剤としての医薬組成物]
本発明の医薬組成物は、前述したように、ファブリー病の治療に関して種々の優れた効果を発揮し得る本発明のタンパク質をコードする遺伝子を含むものであってもよい。
【0217】
組成物中に含まれる遺伝子の形態は、例えば、その遺伝子自体を含む組成物の形態であってもよいし、ベクターに該遺伝子を発現可能に組み込まれた形態であってもよい。
【0218】
当該医薬組成物としては、具体的には、遺伝子治療に用い得る遺伝子治療薬の形態であることが好ましい。
【0219】
本発明の医薬組成物は、保管中及びin vivoへの投与中又はin vitroでの試験中のタンパク質の安定性を高める。これにより本組成物をファブリー病への治療へ適用する場合、治療有効性を高めることができる。
【0220】
当該医薬組成物は、本発明のタンパク質又は遺伝子と、活性部位特異的シャペロンと以外にも他の成分を含むことができる。他の成分としては、当該医薬組成物の用法(使用形態)に応じて必要とされる、製薬上許容され得る各種成分(薬学的に許容し得る各種担体等)が挙げられる。他の成分は、本発明のタンパク質等により発揮される効果が損なわれない範囲で適宜含有することができる。例えば医薬組成物は、好適な溶媒、担体、賦形剤、補助剤等の物質をさらに含んでいてもよい。注射使用に適した医薬製剤とする場合は、無菌的な製剤であって、容易に注射することが可能な程度に流動性を有していることが好ましい。
【0221】
(担体)
担体としては、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、及びそれらの適当な混合物、並びに植物油を含有する溶媒及び分散媒であってもよい。適正な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングの使用によって、必要な粒径の維持によって(分散液の場合)、また、界面活性剤の使用によって維持することができる。微生物の作用は、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ベンジルアルコール、ソルビン酸等、種々の抗菌剤及び抗真菌剤によって防止することができる。
【0222】
(賦形剤)
ファブリー病治療用医薬組成物は薬学的に許容される賦形剤を含んでいてもよい。賦形剤の具体例としては、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、重炭酸緩衝液等の緩衝液;アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質;血清アルブミン、コラーゲン、ゼラチン等のタンパク質;EDTA若しくはEGTA、及び塩化ナトリウム等の塩類;リポソーム;ポリビニルピロリドン;デキストラン、マンニトール、ソルビトール、グリセロール等の糖類;プロピレングリコール及びポリエチレングリコール(例えば、PEG-4000、PEG-6000);グリセロール;グリシン若しくはその他のアミノ酸;及び脂質等が挙げられる。
【0223】
(界面活性剤)
好ましい非イオン性界面活性剤としては、ポリソルベート(Polysorbate)20、ポリソルベート80、TritonX-100、TritonX-114、NonidetP-40、オクチルα-グルコシド、オクチルβ-グルコシド、ブリジ(Brij)35、プルロニック(Pluronic)及びTween 20が挙げられる。
【0224】
(充填剤)
充填剤としては、グリシン、マンニトール、アルブミン、デキストラン、ラクトース、微結晶性セルロース又はリン酸水素カルシウム等が挙げられる。
【0225】
(溶媒)
本発明の医薬組成物の溶媒の例としては、水及び緩衝液等が挙げられ、緩衝液としては、生理食塩水、リン酸緩衝液及びリンゲル液などが挙げられる。また、組成物に用いられる溶媒は上述の溶媒の2種類以上の混合物であってもよい。
【0226】
その他、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク又はシリカ)、崩壊剤(例えば、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン又はデンプングリコール酸ナトリウム)、結合剤(例えば、アルファ化デンプン、ポリビニルピロリドン又はヒドロキシプロピルメチルセルロース)及び湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)などを含んでいてもよい。
【0227】
(タンパク質濃度及び活性部位特異的シャペロン濃度(有効成分の濃度))
ファブリー病治療用医薬組成物中のタンパク質の濃度は、使用する目的や用途に応じて変更可能であり、特に限定されないが、例えば、0.1~10mg/mLとすることができる。また、ファブリー病治療用医薬組成物中の活性部位特異的シャペロンの濃度は、タンパク質濃度に応じて変更され、特に限定されないが、例えば、2mg/mL以下とすることができる。
【0228】
(剤型)
本発明の医薬組成物の剤形は特に限定されず、液体、固体又は半固体若しくは半液体とすることができる。さらに凍結乾燥製剤としてもよい。これらの剤形は、当業者に公知の方法に基づき、容易に製造することができる。例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、及び注射剤等が挙げられ、好ましくは注射剤又は錠剤等の経口投与用の剤型である。例えば、吸入投与用製剤、鼻腔内投与用製剤、点鼻剤の形状の製剤としてもよい。
【0229】
以上の通り、本発明のタンパク質の安定性を高める方法は、ファブリー病の治療に有効に用いられるα-NAGA変異体タンパク質をさらに安定性を高め、治療効果を増強することができるという優れた効果を有する。また、本発明ファブリー病の治療方法及びファブリー病治療用医薬組成物はファブリー病の治療に有効に用いることができる。
【0230】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定され
るものではない。
【実施例
【0231】
〔1.α-NAGA変異体阻害剤のスクリーニングと阻害効果の検討〕
化合物
30種類の化合物について、α-NAGA変異体阻害効果を有する化合物のスクリーニングを行った。1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)、ガラクトスタチン重亜硫酸塩(galactostatin bisulfite (GBS))はToronto Research Chemicalsより購入した。その他の化合物も市販の化合物を購入又は受託合成した。
(阻害剤のスクリーニング(1))
阻害剤のスクリーニングは、20ngのα-NAGA変異体(配列番号8)と0.1M クエン酸リン酸緩衝液(pH 4.6)に溶解した4mM 4-メチルウンベリフェリルα-D-ガラクトピラノジドに精製水又はDMSOに溶解した阻害剤候補化合物を0.8、1、400μMになるように加え、37℃で30分間反応させることで行った(計50μl)。反応終了後に、0.2M グリシン緩衝液(pH 10.7)を950μl添加し、反応を停止させた。そして、遊離した4-メチルウンベリフェロンをWallac 1420 ARVO MX Multilabel Counterを用いて励起波長355nm、蛍光波長460nmで測定した。残存酵素活性は、阻害剤候補化合物の代わりに精製水又はDMSOを添加した場合の酵素活性値を100%として算出した。その結果、30種類の化合物のうち、400μMの高濃度のDGJ及びGBSの化合物添加で特に阻害効果が見られた。
(阻害剤のスクリーニング(2))
続いて、一回目のスクリーニングの結果から選択されたDGJ、GBSについてα-NAGA変異体の酵素活性の阻害の測定を行った。N-C-DGJ、N-DGJ及びN-HE-DGJについても同様に活性測定を行い、コントロールとした。
【0232】
25ngのα-NAGA変異体と0.1M クエン酸リン酸緩衝液(pH 4.6)に溶解した4mM 4-メチルウンベリフェリルα-D-ガラクトピラノジドに精製水又はDMSOに溶解したDGJ、GBS、N-C-DGJ、N-DGJ又はN-HE-DGJを0.1、1、10μMになるように加え、37℃で30分間反応させることで行った(計50μl)。反応終了後に、0.2M グリシン緩衝液(pH 10.7)を950μl添加し、反応を停止させた。そして、遊離した4-メチルウンベリフェロンをWallac 1420 ARVO MX Multilabel Counterを用いて励起波長355nm、蛍光波長460nmで測定した。残存酵素活性は、阻害剤候補化合物の代わりに精製水又はDMSOを添加した場合の酵素活性値を100%として算出した。結果を図1に示す。図1は、DGJによるα-NAGA変異体の酵素活性の阻害を示す図である。DGJ、GBSはα-NAGA変異体の活性を阻害する効果を有していた。
【0233】
(阻害定数Kiの算出)
続いて、DGJ、GBSについて、阻害定数Kiを算出し、阻害様式について検討を行った。
【0234】
酵素学的解析は、50ngのα-NAGA変異体と0.1M クエン酸リン酸緩衝液(pH 4.6)に溶解した様々な濃度(1、2、4、6及び8mM)の基質4-メチルウンベリフェリルα-D-ガラクトピラノジドを反応液として用いて行った(計50μl)。また、阻害活性測定では上記反応液にDGJの場合は100、200及び400nM、GBSの場合は200、400、800nMの濃度で添加して反応を行った。37℃で10分間反応させた後に、0.2M グリシン緩衝液(pH 10.7)を950μl添加し、反応を停止させた。そして、遊離した4-メチルウンベリフェロンをWallac 1420 ARVO MX Multilabel Counterを用いて励起波長355nm、蛍光波長460nmで測定した。この値より、Lineweaver-Burk plotを作製し、阻害定数Kiを阻害剤の濃度に対応するプロットの傾きから算出した。
【0235】
図2は、DGJ又はGBSによるα-NAGA変異体の酵素活性のLineweaver-Burk plot、及びこのプロットからの阻害定数Kiの算出結果を示す図である。
【0236】
Kiの値から、DGJ、GBSはいずれも競合阻害による阻害活性を有することが分かった。
【0237】
〔2.α-NAGA変異体阻害剤の酵素安定化効果の検討〕
(酵素活性測定による熱安定性試験)
DGJについて、α-NAGA変異体阻害活性の熱安定性試験を行った。
【0238】
10mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.5)又は25mM 酢酸ナトリウム緩衝溶液(pH 5.2)に、α-NAGA変異体を溶解して作製した10μg/mlα-NAGA変異体溶液に、DGJ 1μM又は10μMをそれぞれ添加した(計100μl)。そして、10mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.5)を用いた溶液では42℃、25mM 酢酸ナトリウム緩衝溶液(pH 5.2)を用いた溶液では55℃でインキュベートした。そして、インキュベート開始0分及び60分後に10μlをサンプリングして、即座に0.1M クエン酸リン酸緩衝液(pH 4.6)に溶解した5mMの基質40μlに添加し、酵素活性を測定した。残存活性は、0分後の酵素活性の値を100%として表した。結果を図3に示す。図3は、DGJについてα-NAGA変異体阻害活性の熱安定性試験の結果を示す図である。
【0239】
pH 5.2の酸性条件、pH 7.5の中性条件のいずれも、DGJ添加によってα-NAGA変異体の熱安定性が向上した。特に酸性条件下でより高い熱安定性の向上が見られた。
【0240】
(サーマルシフトアッセイ)
DGJとGBSについて、酸性及び中性条件下でのTm値の測定を行った。
【0241】
Tm値の解析は、2μgのα-NAGA変異体、様々な濃度(1、10、50、100μM)のDGJ又はGBS、×5 SYPRO Orange(Invitrogen)を150mM NaClを加えた25mM リン酸ナトリウム緩衝溶液(pH 7.4)又は150mM NaClを加えた25mM 酢酸ナトリウム緩衝溶液(pH 5.2)に添加し、行った(計20μL)。試料をqRT-PCR(Bio Rad)を用いて25℃から95℃まで0.5℃/10秒で上昇させ、経時的に蛍光強度を測定した。そして、CFR Managerソフトを用いて、Tm値を算出した。結果を図4に示す。図4は、DGJ及びGBSについての、酸性及び中性条件下でのTm値の測定結果を示した図である。
【0242】
〔3.α-NAGA変異体とα-NAGA変異体阻害剤との同時添加によるα-NAGA変異体酵素活性の向上効果〕
(ファブリー病モデルマウス由来培養線維芽細胞へのα-NAGA変異体とDGJとの同時添加)
ファブリー病モデルマウス由来培養線維芽細胞は、10%ウシ胎児血清と抗生物質を加えたDMEM培地を用いて、5%二酸化炭素の環境下において、37℃で培養した。初めに、α-NAGA変異体の取り込み効率に対するDGJの濃度依存性を解析した。細胞を12ウェルプレートに1.0×10cells/wellで播種した。そして、1μg/mLのα-NAGA変異体と様々な濃度(0、1、10、100、500μM)のDGJを添加した10%ウシ胎児血清と抗生物質を含むF-10培地に交換し、24時間培養した。細胞は、PBSで3回洗浄した後、トリプシンを用いて細胞を処理し回収した。回収した細胞にComplete Mini(Roche)を添加した20mM MES(pH 6.0)を加え、超音波処理した。そのホモジネートを4℃、12,000rpmの条件で遠心分離し、上清液を酵素活性測定、タンパク質定量、ウェスタンブロットの試料とした。
【0243】
(ファブリー病患者由来培養線維芽細胞へのα-NAGA変異体とDGJとの同時添加)
ファブリー病患者由来培養線維芽細胞は、10%ウシ胎児血清と抗生物質を加えたF-10培地を用いて、5%二酸化炭素の環境下において、37℃で培養した。初めに、α-NAGA変異体の取り込み効率に対するDGJの濃度依存性を解析した。細胞を12ウェルプレートに1.0×10cells/wellで播種した。そして、1μg/mLα-NAGA変異体と様々な濃度(0、1、10、100μM)のDGJを添加した培地に交換し、24時間培養した。細胞は、PBSで3回洗浄した後、トリプシンを用いて細胞を処理し回収した。回収した細胞にComplete Mini(Roche)を添加した20mM MES(pH 6.0)を加え、超音波処理した。そのホモジネートを4℃、12,000 rpmの条件で遠心分離し、上清液を酵素活性測定、タンパク質定量、ウェスタンブロットの試料とした。
【0244】
続いて、時間依存性を確認するために、細胞に1μg/mL α-NAGA変異体と10μM DGJを添加し、24、48、及び72時間培養した。そして、酵素活性測定、タンパク質定量及びウェスタンブロットを行った。
【0245】
(酵素活性測定)
5mM 基質、117mM N-アセチル-D-ガラクトサミン(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を0.1M クエン酸リン酸緩衝液(pH 4.6)に溶解した溶液を、基質溶液とした。40μl基質溶液に10μlホモジネートを添加し、37℃で30分間反応させた。酵素反応後、940μlの0.2M グリシン緩衝液(pH 10.7)を添加し、反応を停止させた。そして、遊離した4-メチルウンベリフェロンをWallac 1420 ARVO MX Multilabel Counter(Perkin Elmer, Waltham, MA)を用いて、励起波長355nm、蛍光波長460nmで測定した。
【0246】
(タンパク質定量)
牛血清アルブミン(Alubumin standard: Pierce Biotechnology, Inc., Rockford, IL)の濃度を基準として、Micro BCA法(Micro BCA (商標) Protein Assay Reagent Kit: Pierce)で行った。測定においては、試料をMilliQ水で希釈した後に、等量のMicro BCA(商標)試薬を添加し、60℃で1時間反応させた。そして室温まで冷まし、OD560を測定した。
【0247】
(ウェスタンブロット)
タンパク質を含む分析試料に、サンプル緩衝液(60mM Tris-HCl(pH 6.8)、2% SDS、10% Glycerol、1.5% Dithiothreitol)を加え、98℃で5分間熱処理した。この試料を、5-20%ビス-トリスポリアクリルアミドゲル(e-PAGEL(登録商標)5~20% Bis-Tris Gel;ATTO)にアプライし、Tris-Glycine SDSランニング緩衝液(25mM Tris、92mM Glycine、0.1% SDS)を用いて、定電流で83分間電気泳動を行った。その後、TE77PWR(GE Healthcare)を用いて、PVDF膜に転写にした。転写終了後、PVDF膜をブロッキング緩衝液(5%スキムミルクと0.1% Tween20を含むトリス塩酸緩衝生理食塩水(50mM トリス塩酸緩衝液(pH 7.4))、100mM 塩化ナトリウム)で60分間ブロッキングした後に、ブロッキング緩衝液で500倍に希釈した抗ヒトNAGAウサギポリクローナル抗体(一次抗体)を加え、4℃で一晩反応させた。一次抗体との反応後のPVDF膜は、0.1% Tween20を含むトリス塩酸緩衝生理食塩水を用いて5分間の洗浄を3回行った後に、ブロッキング緩衝液で5000倍に希釈した抗ウサギIgGヤギPeroxidase標識抗体(HRP標識二次抗体)(GE Healthcare)を加え、室温で1時間反応させた。二次抗体との反応後のPVDF膜は、0.1% Tween20を含むトリス塩酸緩衝生理食塩水を用いて5分間の洗浄を3回行った後に、EzWestLumi plus発色試薬(ATTO)を加え、室温で1分間反応させた。その後、ImageQuant(GE Healthcare)を用いて、発光を検出した。
【0248】
GAPDHの検出では、一次抗体にブロッキング緩衝液で5000倍に希釈した抗GAPDHマウスモノクローナル抗体(MBL)を、二次抗体にブロッキング緩衝液で5000倍に希釈した抗マウスIgGヤギPeroxidase標識抗体(GE Healthcare)を使用した。結果を図5に示す。図5は、ファブリー病モデルマウス由来培養線維芽細胞へα-NAGA変異体と各濃度のDGJとを同時添加したときの、α-NAGA変異体の酵素活性を示す図である。図6は、ファブリー病患者由来培養線維芽細胞へα-NAGA変異体と各濃度のDGJとを同時添加したときの、α-NAGA変異体の酵素活性及び酵素の取り込み量を示す図である(図中、m. NAGAはα-NAGA変異体を、Wildはコントロールとして健常者由来培養線維芽細胞を、Fabryはファブリー病患者由来培養線維芽細胞をそれぞれ示す)。ファブリー病患者由来培養線維芽細胞へα-NAGA変異体と各濃度のDGJとを同時添加したときの、α-NAGA変異体の酵素活性を図6の(a)に示し、α-NAGA変異体の酵素の取り込み量を図6の(b)に示す。
図7は、ファブリー病患者由来培養線維芽細胞へのα-NAGA変異体とDGJの同時添加したときの、α-NAGA変異体の酵素活性及び酵素の取り込み量の経時的変化を示す図である(図中、m. NAGAはα-NAGA変異体を示す)。ファブリー病患者由来培養線維芽細胞へのα-NAGA変異体とDGJの同時添加したときの、α-NAGA変異体の酵素活性の経時的変化を図7の(a)に示し、酵素の取り込み量の経時的変化を図7の(b)に示す。
【0249】
このように、α-NAGA変異体とDGJとの同時添加によって、α-NAGA変異体酵素活性が向上した。また、細胞に取り込まれたα-NAGA変異体のタンパク質量はDGJを同時添加することで添加なしの場合よりも増加していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0250】
本発明は、ファブリー病の治療に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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