(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】メタンの酸化カップリング反応に用いられる触媒及びその製造方法、並びにメタンの酸化カップリング反応方法及び酸化カップリング反応装置
(51)【国際特許分類】
B01J 29/40 20060101AFI20220506BHJP
C01B 39/38 20060101ALI20220506BHJP
C07C 9/06 20060101ALI20220506BHJP
C07C 11/04 20060101ALI20220506BHJP
C07C 11/24 20060101ALI20220506BHJP
C07C 11/06 20060101ALI20220506BHJP
C07C 2/84 20060101ALI20220506BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220506BHJP
【FI】
B01J29/40 Z
C01B39/38
C07C9/06
C07C11/04
C07C11/24
C07C11/06
C07C2/84
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2017143693
(22)【出願日】2017-07-25
【審査請求日】2020-07-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「電場印加触媒反応系中の半導体・絶縁体界面でのメタンの活性化とそれに続く化学品原料の選択合成」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 怜史
(72)【発明者】
【氏名】窪田 好浩
(72)【発明者】
【氏名】韓 喬
(72)【発明者】
【氏名】田中 敦大
【審査官】若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104759291(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第101385982(CN,A)
【文献】特表2011-509827(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102069006(CN,A)
【文献】特開2014-193432(JP,A)
【文献】特開2004-313844(JP,A)
【文献】特開昭62-164634(JP,A)
【文献】稲垣怜史 他,乾式微粒子分散複合化装置を利用したCeO2微粒子とZSM-5ゼオライトの複合化,粉体工学会誌,Vol. 53, No. 12,日本,粉体工学会,2016年12月10日,pp. 810-819
【文献】韓喬 他,CeO2ナノ粒子で被覆したゼオライトを触媒とする電場印加条件下でのOCM反応,石油学会年会講演要旨,Vol. 60,日本,石油学会,2017年05月23日,p. 72
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07B 31/00-63/04
C07C 1/00-409/44
C25B 1/00-9/20
Scopus
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンの酸化カップリング反応に用いられる触媒であって、
C
2炭化水素をC
3炭化水素に転化させる触媒として機能するゼオライト粒子と、前記ゼオライト粒子を被覆する、メタンをC
2炭化水素に転化させる触媒として機能する半導体粒子とを有し、
前記半導体粒子がTiO
2粒子であ
り、
前記ゼオライト粒子が、MFI型ゼオライト、CHA型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト及びフェリエライトから選択される1種以上の粒子である触媒。
【請求項2】
前記ゼオライト粒子がMFI型ゼオライト粒子である、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記ゼオライト粒子の平均粒径が0.1~5μmである、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
前記半導体粒子の平均粒径が1~300nmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項5】
前記ゼオライト粒子に対する前記半導体粒子の質量比が0.5~1.5である、請求項1~4のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項6】
メタンの酸化カップリング反応に用いられる触媒の製造方法であって、
C
2炭化水素をC
3炭化水素に転化させる触媒として機能するゼオライト粒子と、メタンをC
2炭化水素に転化させる触媒として機能する半導体粒子とを混合してゼオライト粒子の表面に半導体粒子を付着させた後、加熱処理を行い、
前記半導体粒子がTiO
2粒子であ
り、
前記ゼオライト粒子が、MFI型ゼオライト、CHA型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト及びフェリエライトから選択される1種以上の粒子である触媒の製造方法。
【請求項7】
前記混合が、前記ゼオライト粒子と前記半導体粒子とを流動させた状態で、摩擦力、剪断力及び圧縮力のいずれか一種以上を作用させながら行われる、請求項6に記載の触媒の製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理が、600~1000℃で6~20時間加熱することによって行われる、請求項6又は7に記載の触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒を用い、酸素の存在下、電場中でメタンを前記触媒と接触させる、メタンの酸化カップリング反応方法。
【請求項10】
前記触媒が500℃未満の温度に加熱される、請求項9に記載のメタンの酸化カップリング反応方法。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか一項に記載の触媒を収容し且つ前記触媒をメタンと接触させるための反応容器と、
前記反応容器内に電場を発生させる手段と
を備える、メタンの酸化カップリング反応装置。
【請求項12】
前記反応容器内の前記触媒を加熱するための手段をさらに備える、請求項11に記載のメタンの酸化カップリング反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンの酸化カップリング反応に用いられる触媒及びその製造方法、並びにメタンの酸化カップリング反応方法及び酸化カップリング反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メタンの酸化カップリング反応は、触媒の存在下でメタンと酸素とを反応させることにより、エチレンなどの炭化水素を生成させることができる。この反応に用いられる触媒としては、金属酸化物などを用いることが知られている(例えば、非特許文献1及び2)。
しかしながら、この触媒は、炭素数が2(以下、「C2」と表す)の炭化水素を生成させることができるものの、炭素数が3(以下、「C3」と表す)の炭化水素を生成させることができないのが実情である。
【0003】
他方、エチレンをプロピレンに転化するための触媒としてゼオライトを用いることが知られている(例えば、非特許文献3及び4)。
また、CeO2を触媒として用いてメタンをモノハロゲン化した後、ゼオライトを触媒として用いてモノハロゲン化メタンからプロピレンを得る方法が提案されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】大塚潔,「Direct Conversion of Methane to Higher Hydrocarbons」,石油学会誌,第30巻,第6号,第385-396頁,1987年
【文献】碇屋隆雄他1名,「メタンの酸化的カップリング反応」、油化学,第39巻,第12号,第1014-1021頁,1990年
【文献】Baomin Lin他2名,「Catalytic Conversion of Ethylene to Propylene and Butenes over H-ZSM-5」,Industrial & Engineering Chemistry Research,2009,vol.48,pp.10788-10795
【文献】Eva Epelde他4名,「Modifications in the HZSM-5 zeolite for the selective transformation of ethylene into propylene」,Applied Catalysis A: General,2014,vol.479,pp.17-25
【文献】Jieli He他5名,「Transformation of Methane to Propylene: A Two-Step Reaction Route Catalyzed by Modified CeO2 Nanocrystals and Zeolites」,Angewandte Chemie International Edition,2012,vol.51,pp.2438-2442
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
メタンの酸化カップリング反応に用いられる従来の触媒は、メタンからC2炭化水素を生成させることができるが、C3炭化水素を生成させることができない。また、メタンからプロピレンを生成させる従来の方法は、メタンをモノハロゲン化させる必要があるため、コスト及び手間がかかってしまう。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、メタンの酸化カップリング反応において、C2炭化水素だけでなくC3炭化水素も生成させることができる触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、C2炭化水素だけでなくC3炭化水素も生成させることができる、メタンの酸化カップリング反応方法及び酸化カップリング反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ゼオライト粒子を半導体粒子で被覆することにより、メタンの酸化カップリング反応に用いるのに適した特性を有する触媒が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、メタンの酸化カップリング反応に用いられる触媒であって、C2炭化水素をC3炭化水素に転化させる触媒として機能するゼオライト粒子と、前記ゼオライト粒子を被覆する、メタンをC2炭化水素に転化させる触媒として機能する半導体粒子とを有し、前記半導体粒子がTiO2粒子であり、前記ゼオライト粒子が、MFI型ゼオライト、CHA型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト及びフェリエライトから選択される1種以上の粒子である触媒である。
また、本発明は、メタンの酸化カップリング反応に用いられる触媒の製造方法であって、C2炭化水素をC3炭化水素に転化させる触媒として機能するゼオライト粒子と、メタンをC2炭化水素に転化させる触媒として機能する半導体粒子とを混合してゼオライト粒子の表面に半導体粒子を付着させた後、加熱処理を行い、前記半導体粒子がTiO2粒子であり、前記ゼオライト粒子が、MFI型ゼオライト、CHA型ゼオライト、Y型ゼオライト、モルデナイト及びフェリエライトから選択される1種以上の粒子である触媒の製造方法である。
【0009】
また、本発明は、前記触媒を用い、酸素の存在下、電場中でメタンを前記触媒と接触させる、メタンの酸化カップリング反応方法である。
さらに、本発明は、前記触媒を収容し且つ前記触媒をメタンと接触させるための反応容器と、前記反応容器内に電場を発生させる手段とを備える、メタンの酸化カップリング反応装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メタンの酸化カップリング反応において、C2炭化水素だけでなくC3炭化水素も生成させることができる触媒及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、C2炭化水素だけでなくC3炭化水素も生成させることができる、メタンの酸化カップリング反応方法及び酸化カップリング反応装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】メタンの酸化カップリング反応に用いられる本発明の触媒の断面模式図である。
【
図2】メタンの酸化カップリング反応に用いられる本発明の酸化カップリング反応装置の概略図である。
【
図3】(a)ZSM-5粒子、(b)TiO
2粒子、(c)加熱処理前の複合化粒子、(d)加熱処理後の複合化粒子のXRDパターンである。
【
図4】(a)ZSM-5粒子、(b)TiO
2粒子、(c)加熱処理前の複合化粒子、(d)加熱処理後の複合化粒子のFE-SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のメタンの酸化カップリング反応に用いられる触媒及びその製造方法、並びにメタンの酸化カップリング反応方法及び酸化カップリング反応装置の好適な実施の形態について説明する。
【0013】
<メタンの酸化カップリング反応に用いられる触媒及びその製造方法>
メタンの酸化カップリング反応に用いられる本発明の触媒の断面模式図を
図1に示す。
図1において、触媒1は、ゼオライト粒子2と、ゼオライト粒子2を被覆する半導体粒子3とを有する。
【0014】
メタンの酸化カップリング反応において触媒1を用いた場合、反応ガス(メタン及び酸素)は、ゼオライト粒子2を被覆する半導体粒子3の間隙からゼオライト粒子2の内部に侵入することができる。そのため、反応ガスは、メタンの酸化カップリング反応において、半導体粒子3及びゼオライト粒子2の両方と接触することができる。このとき、半導体粒子3は、メタンをC2炭化水素に転化させる触媒として機能し、ゼオライト粒子2は、C2炭化水素をC3炭化水素に転化させる触媒として機能する。したがって、ゼオライト粒子2を半導体粒子3で被覆した構造を有する触媒1は、反応ガスと接触した際に、メタンをC2炭化水素だけでなくC3炭化水素にも転化することができる。
ここで、C2炭化水素の例としては、エタン、エチレン、アセチレンなどが挙げられる。また、C3炭化水素の例としては、プロパン、プロピレンなどが挙げられる。
【0015】
ゼオライト粒子2としては、C2炭化水素をC3炭化水素に転化させる機能を有するものであれば特に限定されない。また、ゼオライト粒子2は、天然ゼオライト粒子であっても合成ゼオライト粒子であってもよい。ゼオライト粒子2の例としては、ZSM-5、ZSM-11などのMFI型ゼオライト;チャバザイト、SSZ-13、SAPO-34などのCHA型ゼオライト;Y型ゼオライト;モルデナイト;フェリエライトなどの粒子が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、各種ゼオライト粒子2の中でもZSM-5などのMFI型ゼオライト粒子は、C3炭化水素の収率が高くなる傾向にあるため好ましい。
【0016】
ゼオライト粒子2の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.3~4μm、さらに好ましくは0.5~3μmである。このような平均粒径を有するゼオライト粒子2であれば、C2炭化水素をC3炭化水素に効率良く転化することができる。
ここで、本明細書において「粒径」とは、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)写真から粒子の面積を求め、その面積を真円に換算した際の直径(等面積円相当径)のことを意味する。また、「平均粒径」とは、複数(例えば、5以上)の粒子における粒径の平均値を意味する。
【0017】
半導体粒子3としては、メタンをC2炭化水素に転化させる機能を有するものであれば特に限定されない。半導体粒子3の例としては、TiO2、CeO2、La2O3、ZnO、Nb2O5などの酸化物半導体粒子が挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、各種半導体粒子3の中でもTiO2又はCeO2は、C3炭化水素の収率が高くなる傾向にあるため好ましい。
【0018】
半導体粒子3の平均粒径としては、特に限定されないが、好ましくは1~300nm、より好ましくは5~250nm、さらに好ましくは10~200nmである。このような平均粒径を有する半導体粒子3であれば、ゼオライト粒子2の表面を均一に被覆し易く、且つメタンをC2炭化水素に効率良く転化することができる。
【0019】
ゼオライト粒子2に対する半導体粒子3の質量比は、特に限定されないが、好ましくは0.5~1.5、より好ましくは0.6~1.4、さらに好ましくは0.8~1.2である。このような質量比とすることにより、ゼオライト粒子2の表面に半導体粒子3を均一に付着させ易くすることができる。
【0020】
上記のような構造を有する触媒1は、ゼオライト粒子2と半導体粒子3とを混合してゼオライト粒子2の表面に半導体粒子3を付着させた後、加熱処理を行うことによって製造することができる。
混合方法としては、特に限定されないが、ゼオライト粒子2と半導体粒子3と流動させた状態で、摩擦力、剪断力及び圧縮力のいずれか一種以上を作用させながら行うことが好ましい。このような方法によって混合を行うことにより、ゼオライト粒子2の表面に対する半導体粒子3の付着力を高めることができる。
また、ゼオライト粒子2と半導体粒子3とを混合する際、特定量のゼオライト粒子2に対して、半導体粒子3を複数回(好ましくは5回以上)に分けて配合して混合することが好ましい。このような方法を用いることにより、半導体粒子2の凝集体の生成を抑制しつつ、ゼオライト粒子2の表面に半導体粒子3を付着させることができる。
【0021】
上記のような混合方法を行うことが可能な装置は市販されており、例えば、ハイブリダイゼーションシステム(株式会社奈良機械製作所)、コスモス(川崎重工業株式会社)、メカノフュージョンシステム及びノビルタ(R)シリーズ(ホソカワミクロン株式会社)、メカノミル(岡田精工株式会社)、シータ・コンポーザー(徳寿製作所)などの粒子複合化装置を用いることができる。
混合条件は、使用する装置や各粒子の種類に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0022】
加熱処理は、(i)ゼオライト粒子2の表面に対する半導体粒子3の付着力を更に高め、(ii)ゼオライト粒子2を被覆する半導体粒子3同士の接合を促進させ、(iii)ゼオライト粒子2を被覆する半導体粒子3を導電性の高い結晶相へ相転移させるために行われる。
加熱処理は、使用する各粒子の種類に応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、一般的に600~1000℃で6~20時間加熱すればよい。また、加熱処理は、マッフル炉などの市販の加熱装置を用いて行えばよい。
【0023】
触媒1は、そのままの形態で使用してもよいが、必要に応じて、ペレット状、顆粒状等の他の形態に加工して使用してもよい。加工方法は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法に準じて行うことができる。
【0024】
上記のようにして製造される触媒1は、メタンの酸化カップリング反応において、メタンをC2炭化水素に転化させる触媒として機能する半導体粒子3と、C2炭化水素をC3炭化水素に転化させる触媒として機能するゼオライト粒子2とを有しているため、メタンをC2炭化水素だけでなくC3炭化水素にも転化することができる。
【0025】
<メタンの酸化カップリング反応方法>
本発明のメタンの酸化カップリング反応方法は、酸素の存在下、電場中でメタンを触媒1と接触させることによって行われる。このような方法によって酸化カップリング反応を行うことにより、C3炭化水素の収率を向上させることができる。電場中で酸化カップリング反応を行わないと、C3炭化水素の収率が低下する。
【0026】
また、酸化カップリング反応は、反応効率を高める観点から、触媒1を加熱することが好ましい。ただし、本発明のメタンの酸化カップリング反応方法は、電場中で行われるため、従来の方法のような高温加熱(700℃以上)は必要とされない。
触媒1の加熱温度としては、特に限定されないが、好ましくは500℃未満、より好ましくは100℃~450℃、さらに好ましくは150℃~430℃、最も好ましくは200℃~350℃である。
【0027】
上記のようなメタンの酸化カップリング反応方法は、触媒1を用いているため、C2炭化水素だけでなくC3炭化水素も生成させることができる。
【0028】
<メタンの酸化カップリング反応装置>
本発明のメタンの酸化カップリング反応装置は、触媒1を収容し且つ触媒1をメタンと接触させるための反応容器と、反応容器内に電場を発生させる手段とを備える。
ここで、メタンの酸化カップリング反応に用いられる本発明の酸化カップリング反応装置の概略図を
図2に示す。なお、
図2は、本発明の酸化カップリング反応装置の一例を示したものであり、この構造に限定されないことは言うまでもない。
図2において、メタンの酸化カップリング反応装置10は、触媒1を含む触媒層11を収容した反応容器12と、反応容器12の内部に挿入され且つ触媒層11の間で離間したステンレス電極13と、ステンレス電極13に電気的に接続され且つ離間したステンレス電極13の間に電圧を印加して電場を発生させる電源14とを備える。また、反応容器12内の触媒層11を所定の位置に保持するために、触媒層11の下部に石英ウールなどの保持具15が設けられている。さらに、反応容器12内の触媒1(触媒層11)を所定の温度に加熱するために、ヒーターなどの加熱手段16が反応容器12の周囲に設けられている。
【0029】
反応容器12は、メタンの酸化カップリング反応に影響を与えない材料から形成されていればよく、例えば、石英などから形成することができる。また、反応容器12の形状は、
図2に示すような円筒形以外の形状としてもよい。
反応容器12の大きさは、要求される処理量などに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
また、ステンレス電極13の大きさ、反応容器12内の触媒層11の量などの各種条件は、反応容器12の大きさなどに応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。
【0030】
メタンの酸化カップリング反応装置10では、メタン及び酸素を含む反応ガスが反応容器12の上部から下方に向けて供給される(
図2の矢印方向)。このとき、離間したステンレス電極13の間に電源14から電圧を印加して電場を発生させることにより、電場中で反応ガスを触媒1(触媒層11)と接触させることができる。
印加する電圧は、反応容器12や触媒層11の厚さなどに応じて適宜設定すればよく、特に限定されないが、一般的に0.1~5.0kV、好ましくは0.3~3.0kV、より好ましくは0.5~2.0kVである。印加する電圧が上記の範囲であれば、安定した電場を形成することができる。
また、酸化カップリング反応の際に、反応容器12の周囲に設けた加熱手段16によって触媒1(触媒層11)を加熱すれば、反応効率を高めることができる。
【0031】
反応ガスは、触媒層11における酸化カップリング反応を経て、CO、CO2、C2炭化水素及びC3炭化水素を含む混合ガスとして、反応容器12の下部から排出される。混合ガスは、必要に応じて、公知の手段によって各成分を単離することができる。
【0032】
上記のようなメタンの酸化カップリング反応装置10は、触媒1を触媒層11に含むため、C2炭化水素だけでなくC3炭化水素も生成させることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
<触媒の製造>
粒子複合化装置(ホソカワミクロン株式会社製ノビルタ(R)NOB-MINI)に6.0gのZSM-5粒子(日揮触媒化成株式会社;平均粒径2~3μm)及び1.2gのTiO2粒子(シグマアルドリッチ社製;平均粒径50~100nm)を投入し、1000rpmで5分間の前処理を行った後、9000rpmで10分間の複合化処理を行った。次に、粒子複合化装置に1.2gのTiO2粒子を追加投入し、上記と同じ条件で前処理及び複合化処理を行う操作を4回繰り返した。次に、得られた複合化粒子を800℃で12時間、加熱処理した後、自然冷却して触媒を得た。
【0034】
ここで、上記で製造した触媒(加熱処理後の複合化粒子)、加熱処理前の複合化粒子、並びに原料として用いたZSM-5粒子及びTiO
2粒子について、粉末X線回折(XRD)によって分析した。その分析結果を
図3に示す。
なお、
図3において、(a)はZSM-5粒子のXRDパターン、(b)はTiO
2粒子のXRDパターン、(c)は加熱処理前の複合化粒子のXRDパターン、(d)は加熱処理後の複合化粒子のXRDパターンである。
図3に示すXRDパターンから、ZSM-5粒子とTiO
2粒子との複合化粒子が得られていることがわかった。
【0035】
また、上記で製造した触媒(加熱処理後の複合化粒子)、加熱処理前の複合化粒子、並びに原料として用いたZSM-5粒子及びTiO
2粒子について、電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)による観察を行った。その観察結果(FE-SEM写真)を
図4に示す。
なお、
図4において、(a)はZSM-5粒子の3万倍のFE-SEM写真、(b)はTiO
2粒子の10万倍のFE-SEM写真、(c)は加熱処理前の複合化粒子の3万倍のFE-SEM写真、(d)は加熱処理後の複合化粒子の3万倍のFE-SEM写真である。
図4に示すFE-SEM写真から、複合化粒子は、ZSM-5粒子の表面にTiO
2粒子が付着していることがわかった。また、複合化粒子に加熱処理を施すことにより、ZSM-5粒子の表面にTiO
2粒子が強固に付着していることがわかった。
【0036】
なお、比較用の触媒として、TiO2粒子(シグマアルドリッチ社製;平均粒径50~100nm)を800℃で6時間、加熱処理した後、自然冷却したものを用いた。
【0037】
<メタンの酸化カップリング反応>
まず、上記で製造した触媒を30~50MPaで加圧した後、粉砕することにより、メッシュサイズで350~500μmのペレット状に加工した。このペレット状の触媒を用いてメタンの酸化カップリング反応を行った。
メタンの酸化カップリング反応は、
図2に示すメタンの酸化カップリング反応装置10を用いて行った。反応容器12としては、外径が6mm、内径が4mm、長さが350mmである円筒型の石英反応容器を用いた。また、反応容器12内に設けた石英ウール(保持具15)の上部に、ペレット状の触媒100mgを充填して触媒層11を形成した。石英ウールの厚さは5mm、触媒層11の厚さは10mmとした。触媒層11で離間した2つのステンレス電極13の直径はいずれも2mmとし、2つのステンレス電極13の端部を電源14(松定プレシジョン株式会社製直流高圧電源:HAR-10N10)に電気的に接続した。
【0038】
メタンの酸化カップリング反応装置10において、ヒーター(加熱手段16)の温度を300℃に設定して触媒層11を加熱し、アルゴンガスを60mL/分で30分間、反応容器12の上部から触媒層11に供給する前処理を行った。
次に、触媒層11の温度を室温まで一旦冷却し、ヒーターの温度を150℃に設定して触媒層11を加熱した。その後、反応ガス(メタンガス、酸素ガス及びアルゴンガス)を反応容器12の上部から供給し、電源14から電流をステンレス電極13に流して反応容器12内に電場を発生させることにより、メタンの酸化カップリング反応を行った。ここで、メタンガスの供給量は25mL/分、酸素ガスの供給量は15mL/分、アルゴンガスの供給量は60mL/分とした。
メタンの酸化カップリング反応は、電源14の電流値のみを変化させて幾つかのパターンで実施した。このとき、各電流値に対応する電圧を電圧計によって測定した。また、触媒層11の底部から2.5mm下の位置(石英ウール中)に熱電対を配置して触媒層11の温度を測定した。
【0039】
反応容器12の下部から排出されるガス(メタンの酸化カップリング反応によって生成したガス)を、ガス分析装置(島津製作所製ガスクロマトグラフ)を用いて分析した。この分析において、炭化水素(C2H6、C2H4、C2H2及びC3H6)、CO及びCO2の検出には水素炎イオン化検出器(FID)を用い、酸素の検出には熱伝導度検出器(TCD)を用いた。また、CO及びCO2については、Ru/Al2O3触媒を用いたメタナイザーでメタン化してFIDで検出した。
【0040】
また、上記の分析結果から、メタン及び酸素の転化率、各生成物の選択率、C2及びC3炭化水素の収率を算出した。算出方法は下記の通りである。
[メタンの転化率(%)]={(CO、CO2、C2H6、C2H4、C2H2及びC3H6)の炭素モル数/供給したメタンの炭素モル数}×100
[酸素の転化率(%)]=(消費された酸素のモル数/供給した酸素のモル数)×100
[C2炭化水素の収率(%)]={C2炭化水素(C2H6、C2H4及びC2H2)の炭素モル数/供給したメタンの炭素モル数}×100
[C3炭化水素の収率(%)]={C3炭化水素(C3H6)の炭素モル数/供給したメタンの炭素モル数}×100
【0041】
各生成物の選択率は、メタンの転化率と各生成物の収率から算出することができる。例えば、C3炭化水素の選択率は、以下のようにして算出することができる。
[C3炭化水素の選択率(%)]=C3炭化水素の収率/メタンの転化率
その他の各生成物の選択率は、上記と同様にして算出すればよい。
上記の結果を表1に示す。
【0042】
【0043】
表1に示すように、本発明の触媒(No.A-1~A-5)では、C2炭化水素だけでなくC3炭化水素も生成させることができた。また、本発明の触媒では、比較例の触媒(No.B-1~B-5)と比べてC2炭化水素の選択率も高かった。
以上の結果からわかるように、本発明によれば、メタンの酸化カップリング反応において、C2炭化水素だけでなくC3炭化水素も生成させることができる触媒及びその製造方法を提供することができる。また、本発明によれば、C2炭化水素だけでなくC3炭化水素も生成させることができる、メタンの酸化カップリング反応方法及び酸化カップリング反応装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 触媒
2 ゼオライト粒子
3 半導体粒子
10 メタンの酸化カップリング反応装置
11 触媒層
12 反応容器
13 ステンレス電極
14 電源
15 保持具
16 加熱手段