(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】立方晶系または六方晶系窒化ホウ素を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20220506BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
C01B21/064 J
C30B29/38 A
(21)【出願番号】P 2018016071
(22)【出願日】2018-02-01
【審査請求日】2020-12-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)平成29年10月25日 日本高圧力学会発行、第58回高圧討論会 講演要旨集、高圧力の科学と技術 第27巻(2017年)特別号 (2)平成29年11月8日~10日 日本高圧力学会主催、第58回高圧討論会、名古屋大学(名古屋市千種区不老町) (3)平成29年11月14日発行(記録用USB)International Workshop on UV Materials and Devices IWUMD 2017 抄録集 (4)平成29年11月14日~18日開催、International Workshop on UV Materials and Devices IWUMD 2017、九州大学医学部 百年講堂(福岡市東区馬出3丁目1番1号) (5)平成29年11月20日、一般社団法人ニューダイヤモンド発行、第31回 ダイヤモンドシンポジウム 講演要旨集 (6)平成29年11月20日~22日、一般社団法人ニューダイヤモンド主催、第31回 ダイヤモンドシンポジウム(関西学院大学 西宮上ヶ原キャンパス) (7)平成29年12月11日発行(記録用USB)、ICON-2DMAT 2017(The 3▲rd▼ International Conference on 2D Materials and Technology)、予稿集 (8)平成29年12月11日~14日開催、ICON-2DMAT 2017(The 3▲rd▼ International Conference on 2D Materials and Technology),School of Physical and Mathematical Sciences,Nanyang Technological University(21 Nanyang Link Singapore 637371)
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】谷口 尚
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 賢司
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-072940(JP,A)
【文献】特開昭58-181707(JP,A)
【文献】SATO Tadao,Influence of Monovalent Anions on the Formation of Rhombohedrat Boron Nitride, rBN,Proc. Japan Acad.,1985年,61,pp.459-463
【文献】角谷均 他,アモルファス窒化ホウ素の高圧下結晶化過程,粉体粉末冶金協会講演概要集,昭和60年度秋季大会,1985年,210-211
【文献】SUMIYA H. et al.,High pressure synthesis of cubic boron nitride from amorphous state,Materials Research Bulletin,1983年,18,pp.1203-1207
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C30B 29/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ホウ素の単結晶粉末を製造する方法であって、
前記窒化ホウ素は、立方晶系窒化ホウ素(cBN)または六方晶系窒化ホウ素(hBN)であり、
第1族元素の水素化ホウ化物の粉末と、ハロゲン化アンモニウムの粉末とを含有する原料粉末を反応させるステップを包含し、
前記原料粉末において、前記第1族元素の水素化ホウ化物が、前記ハロゲン化アンモニウムに対してモル比
で1.25以上1.75以下となるよう含有され、
前記原料粉末を、1000℃以上2500℃以下の温度範囲で、3GPa以上10GPa以下の圧力下で反応させる、方法。
【請求項2】
前記第1族元素の水素化ホウ化物は、NaBH
4、LiBH
4、KBH
4
およびCsBH
4からなる群から少なくとも1つ選択される材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化アンモニウムは、NH
4Cl、NH
4Br、NH
4IおよびNH
4Fからなる群から少なくとも1つ選択される材料である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記窒化ホウ素は、立方晶系窒化ホウ素(cBN)であり、
前記反応させるステップは、前記原料粉末を、P(GPa)>T(℃)/465+0.79(ただし、Tは1000℃≦T(℃)≦2500を満たす)を満たす温度および圧力下で反応させる、請求項1
~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記反応させるステップは、前記原料粉末を、1450℃以上1700℃以下の温度範囲で、4.75GPaより大きく5.5GPa以下の圧力下で反応させる、請求
項4に記載の方法。
【請求項6】
前記窒化ホウ素は、六方晶系窒化ホウ素(hBN)であり、
前記反応させるステップは、前記原料粉末を、P(GPa)<T(℃)/465+0.79(ただし、Tは1000℃≦T(℃)≦2500を満たす)を満たす温度および圧力下で反応させる、請求項1
~3のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記反応させるステップは、前記原料粉末を、1250℃以上1700℃以下の温度範囲で、3.75GPa以上4.75GPa以下の圧力下で反応させる、請求
項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1族元素の水素化ホウ化物は、10Bにホウ素同位体濃縮された水素化ホウ化物(濃縮率は95%以上である)単体、11Bにホウ素同位体濃縮された水素化ホウ化物(濃縮率は95%以上である)単体、または、これらの任意の割合の組み合わせである、請求項1
~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記窒化ホウ素におけるホウ素同位体の割合は、前記第1族元素の水素化ホウ化物におけるホウ素同位体の割合に一致する、請求項1
~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記反応させるステップで得られた生成物を溶剤で処理し、第二相を除去するステップをさらに包含する、請求項1
~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記原料粉末は、反応抑制剤を含有する、請求項1~
10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記反応させるステップは、前記原料粉末を10分以上24時間以下の時間反応させる、請求項1~
11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記反応させるステップは、ベルト型高圧装置を用いる、請求項1~
12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記単結晶粉末は、50μm以上1mm以下の範囲の粒径を有する、請求項1~
13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記単結晶粉末は、100μm以上400μm以下の範囲の粒径を有する、請求項
14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶系または六方晶系窒化ホウ素を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素の中でも、低密度の六方晶系sp2型層状化合物である窒化ホウ素(hBN)と、高密度の立方晶系窒化ホウ素(cBN)とが、工業的に利用されている。hBNは、耐熱材・断熱材として知られており、cBNは、ダイヤモンドに次ぐ超硬質材料として知られている。近年は、これらhBNおよびcBNは、ワイドギャップ半導体としての優れた特性も基体されている。
【0003】
hBNは、工業的には、ホウ素酸化物と炭素とを原料にし、還元窒化処理によって製造される(例えば、特許文献1を参照)。cBNは、hBNとともにアルカリ金属またはアルカリ土類金属のホウ窒化物を高温高圧処理することによって製造される(例えば、非特許文献1および非特許文献2を参照)。特に、cBNの製造においては、原料に用いる、hBN、ならびに、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のホウ窒化物が高価であるため、cBNの製造コストが高くなる。より安価にcBNを製造する方法が開発されることが望ましい。また、同じ原料から単に製造条件を変えるだけで、hBNおよびcBNの作り分けができれば、工業的に有利である。
【0004】
一方、NaBH4とNH4Clとを用いて菱面対称系窒化ホウ素(rBN)が製造されることが知られている(例えば、非特許文献3を参照)。非特許文献3によれば、モル比が1:1で調製されたNaBH4とNH4Clとを、1気圧、900℃の温度で反応させることによって、rBNが得られるが、rBNからhBNへの転換は難しいと結論付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】T.Taniguchiら,J.Cryst. Growth,222,549-557,2001
【文献】T.Taniguchiら,J.Cryst. Growth,303,527-529,2007
【文献】T.Sato,Proc.Japan Acad.,61,Ser.B,459-463,1985
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上から、本発明の課題は、立方晶系窒化ホウ素(cBN)および六方晶系窒化ホウ素(hBN)の単結晶粉末を安価に製造する方法を提供することである。本発明のさらなる課題は、cBNとhBNとの作り分けを可能とし、ホウ素同位体の存在比が制御されたcBNおよびhBNの単結晶粉末を安価に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による立方晶系窒化ホウ素(cBN)または六方晶系窒化ホウ素(hBN)でる窒化ホウ素の単結晶粉末を製造する方法は、第1族元素の水素化ホウ化物の粉末と、ハロゲン化アンモニウムの粉末とを含有する原料粉末を反応させるステップを包含し、前記原料粉末において、前記第1族元素の水素化ホウ化物が、前記ハロゲン化アンモニウムに対してモル比で1.25以上1.75以下となるよう含有され、前記原料粉末を、1000℃以上2500℃以下の温度範囲で、3GPa以上10GPa以下の圧力下で反応させ、これにより上記課題を解決する。
前記第1族元素の水素化ホウ化物は、NaBH4、LiBH4、KBH
4
およびCsBH4からなる群から少なくとも1つ選択される材料であってもよい。
前記ハロゲン化アンモニウムは、NH4Cl、NH4Br、NH4IおよびNH4Fからなる群から少なくとも1つ選択される材料であってもよい。
前記窒化ホウ素は、立方晶系窒化ホウ素(cBN)であり、前記反応させるステップは、前記原料粉末を、P(GPa)>T(℃)/465+0.79(ただし、Tは1000℃≦T(℃)≦2500を満たす)を満たす温度および圧力下で反応させてもよい。
前記反応させるステップは、前記原料粉末を、1450℃以上1700℃以下の温度範囲で、4.75GPaより大きく5.5GPa以下の圧力下で反応させてもよい。
前記窒化ホウ素は、六方晶系窒化ホウ素(hBN)であり、前記反応させるステップは、前記原料粉末を、P(GPa)<T(℃)/465+0.79(ただし、Tは1000℃≦T(℃)≦2500を満たす)を満たす温度および圧力下で反応させてもよい。
前記反応させるステップは、前記原料粉末を、1250℃以上1700℃以下の温度範囲で、3.75GPa以上4.75GPa以下の圧力下で反応させてもよい。
前記第1族元素の水素化ホウ化物は、10Bにホウ素同位体濃縮された水素化ホウ化物(濃縮率は95%以上である)単体、11Bにホウ素同位体濃縮された水素化ホウ化物(濃縮率は95%以上である)単体、または、これらの任意の割合の組み合わせであってもよい。
前記窒化ホウ素におけるホウ素同位体の割合は、前記第1族元素の水素化ホウ化物におけるホウ素同位体の割合に一致してもよい。
前記反応させるステップで得られた生成物を溶剤で処理し、第二相を除去するステップをさらに包含してもよい。
前記原料粉末は、反応抑制剤を含有してもよい。
前記反応させるステップは、前記原料粉末を10分以上24時間以下の時間反応させてもよい。
前記反応させるステップは、ベルト型高圧装置を用いてもよい。
前記単結晶粉末は、50μm以上1mm以下の範囲の粒径を有してもよい。
前記単結晶粉末は、100μm以上400μm以下の範囲の粒径を有してもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、第1族元素の水素化ホウ化物の粉末と、ハロゲン化アンモニウムの粉末とを含有する原料粉末を用いるが、いずれも、入手が容易かつ安価であるため、製造コストを低減できる。さらに、原料粉末において、第1族元素の水素化ホウ化物が、ハロゲン化アンモニウムに対してモル比で1よりも多くなるよう含有されることにより、窒化ホウ素からなる比較的大きなサイズの単結晶の粉末を高純度で製造できる。また、反応条件を制御するだけで、立方晶系または六方晶系窒化ホウ素の作り分けを可能とする。加えて、原料中のホウ素同位体の存在比が、そのまま、得られる窒化ホウ素中のホウ素同位体の存在比となるため、ホウ素同位体の存在比の制御も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】立方晶系窒化ホウ素と六方晶系窒化ホウ素とを作り分けるための圧力と温度との関係を示す図
【
図2】本発明の実施形態である窒化ホウ素の単結晶粉末の製造に用いるカプセルを備えた高圧セルを模式的に示す図
【
図3】本発明の実施形態である窒化ホウ素の単結晶粉末の製造に用いるベルト型高圧装置を模式的に示す図
【
図8】実施例10の焼結体のB同位体元素のSIMSプロファイル
【
図9】実施例1および10の試料のラマンスペクトルを示す図
【
図10】実施例1および10~12の試料のラマンスペクトルを示す図
【
図11】実施例7および13~15の試料のラマンスペクトルを示す図
【
図12】
図10から求めたcBNのホウ素同位体の存在比とラマンシフトとの関係を示す図
【
図13】
図11から求めたhBNのホウ素同位体の存在比とラマンシフトとの関係を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0012】
本発明では、立方晶系窒化ホウ素(cBN)および六方晶系窒化ホウ素(hBN)からなる単結晶粉末に着目し、その製造方法を説明する。
【0013】
cBNは、立方晶系に属し、F4 ̄( ̄は、4の上のオーバーラインを表す)3m空間群(International Talbes for Crystallographyの216番の空間群)に属し、表1に示す結晶パラメータおよび原子座標位置を占める。結晶構造パラメータは、例えば、G. Willら,Journal of the Less-Common Metals,117,61,1986によって開示されている。
【0014】
また、hBNは、六方晶系に属し、sp2型の層状化合物であり、P63/mmc空間群(International Talbes for Crystallographyの194番の空間群)に属し、表2に示す結晶パラメータおよび原子座標位置を占める。結晶構造パラメータは、例えば、R.S.Pease,Acta Crystallographica,5,356,1952によって開示されている。
【0015】
【0016】
【0017】
表1および表2において、格子定数a、bおよびcは単位格子の軸の長さを示し、α、β、γは単位格子の軸間の角度を示す。原子座標は、単位格子中の各原子の位置を示す。
【0018】
本発明において、ドーパントを含有しないcBN/hBN以外にも、BとNとの比率が変わったり、他の元素(例えば、Nの一部がO(酸素)、C(炭素)、Si(シリコン)、Be(ベリリウム)等)で置き換わったりすることによって格子定数が変化するが、結晶構造と、原子が占めるサイトおよびその座標によって与えられる原子位置とは、骨格原子間の化学結合が切れるほどには大きく変わることはないものもcBN/hBNであることを意図する。本発明では、対象となる物質のX線回折や中性子回折の結果をF4 ̄3mまたはP63/mmcの空間群でリートベルト解析して求めた格子定数と原子座標とから計算されたB-Nの化学結合の長さが、表1または表2に示す結晶の格子定数と原子座標とから計算されたそれと比べて±5%以内の場合は同一の結晶構造と判定できる。化学結合の長さが±5%を超えると、化学結合が切れて別の結晶となり得る。別の簡易的な判定方法として、cBN結晶またはhBN結晶のX線回折の主要ピーク(例えば、回折強度の強い5本程度)と、対象となる物質のそれとを比較してもよい。
【0019】
このような観点から、本発明では、cBNまたはhBNは、それぞれ、cBNまたはhBNの結晶構造と同一の結晶構造を有する、cBNまたはhBNそれ自身、BとNとのモル比が化学量論組成からずれているもの、ならびに、BおよびNの一部が他の元素(例えば、O、C、Si、Be等)で置き換わったものも含むものとする。特に、BおよびNの一部が置き換わる元素が、Be、Si等であれば、ドーパントとして機能するため、半導体材料としても機能し得る。
【0020】
本発明によれば、上述のcBNまたはhBNである窒化ホウ素の単結晶からなる粉末は、第1族元素の水素化ホウ化物の粉末と、ハロゲン化アンモニウムの粉末とを含有する原料粉末を反応させるステップによって製造される。詳細には、原料粉末において、第1族元素の水素化ホウ化物が、ハロゲン化アンモニウムに対してモル比で1よりも多くなるよう含有され、この原料粉末を、1000℃以上2500℃以下の温度範囲で、3GPa以上10GPa以下の圧力下で反応させる。
【0021】
本願発明者らは、第1族元素の水素化ホウ化物(MBH4:Mは第1族元素)と、ハロゲン化アンモニウム(NH4X:Xはハロゲン元素)とを、上述の温度範囲および圧力下において反応させれば、以下のような複分解反応を生じ、cBNまたはhBNである窒化ホウ素の単結晶粉末を生成できることを見出した。
MBH4+NH4X→BN+MX+4H2
【0022】
さらに驚くべきは、上記式によれば、第1族元素の水素化ホウ化物と、ハロゲン化アンモニウムとは、モル比で1:1であればよいが、実際には、第1族元素の水素化ホウ化物が、ハロゲン化アンモニウムに対してモル比で1よりも多くなるようにした原料粉末を用いることが、反応を促進するだけでなく、50μm以上1mm以下の範囲の粒径を有する比較的大きな単結晶粉末を得ることができることが分かった。上限については特に制限はないが、反応性や原料粉末の使用量を考慮すれば、3以下となるようにすればよい。実際、第1族元素の水素化ホウ化物と、ハロゲン化アンモニウムとがモル比で1となるようにした原料粉末では、条件を精査しても、複分解反応が進行せず、cBNまたはhBNである窒化ホウ素の単結晶粉末は得られなかった。すなわち、本願発明者らは、種々の実験を重ね、所定の温度範囲および圧力下において、複分解反応を進行させる、原料の特異な組み合わせおよび混合比を見出したといえる。
【0023】
なお、1000℃、3GPa未満では、上述の複分解反応が進行しない。また、2500℃、10GPaを超えると、上述の複分解反応は進行するが、特殊な装置が必要となり、工業的に好ましくない。
【0024】
第1族元素の水素化ホウ化物は、NaBH4、LiBH4、KBH
4
およびCsBH4からなる群から少なくとも1つ選択される材料である。これらの水素化ホウ化物であれば入手が容易であり、複分解反応を進行させることができる。中でも、反応効率の観点から、NaBH4が好ましい。
【0025】
さらに、本発明の製造方法を採用すれば、第1族元素の水素化ホウ化物中のホウ素同位体の存在比(割合)が、得られる窒化ホウ素中のホウ素の同位体存在比(割合)に一致するので、ホウ素同位体量を制御した窒化ホウ素の単結晶粉末が得られる。このような観点から、第1族元素の水素化ホウ化物は、10Bにホウ素同位体濃縮された水素化ホウ化物(濃縮率は95%以上である)単体、11Bにホウ素同位体濃縮された水素化ホウ化物(濃縮率は95%以上である)単体、または、これらの任意の割合の組み合わせであってもよい。なお、濃縮率が95%以上であれば、同位体濃縮の効果を確実にする。
【0026】
ホウ素同位体の存在比を制御していない水素化ホウ化物中のホウ素同位体10Bと11Bとの存在比は2:8である。このような水素化ホウ化物を用いれば、得られる窒化ホウ素中のホウ素同位体10Bと11Bとの存在比は2:8となる。しかしながら、10Bにホウ素同位体濃縮された水素化ホウ化物単体を用いれば、10Bにホウ素同位体濃縮された窒化ホウ素の単結晶粉末が得られ、11Bにホウ素同位体濃縮された水素化ホウ化物単体を用いれば、11Bにホウ素同位体濃縮された窒化ホウ素の単結晶粉末が得られる。また、これら10Bにホウ素同位体濃縮された水素化ホウ化物と、11Bにホウ素同位体濃縮された水素化ホウ化物とを、所望の比率で用いれば、10Bと11Bとが所望の存在比を有する窒化ホウ素の単結晶粉末が得られる。
【0027】
ハロゲン化アンモニウムは、NH4Cl、NH4Br、NH4IおよびNH4Fからなる群から少なくとも1つ選択される材料である。これらのハロゲン化アンモニウムであれば入手が容易であり、複分解反応を進行させることができる。中でも、反応効率の観点から、NH4Clが好ましい。
【0028】
原料粉末において、第1族元素の水素化ホウ化物が、ハロゲン化アンモニウムに対してモル比で1よりも多く、2よりも小さくなるよう含有されることが好ましい。この範囲であれば、窒化ホウ素の単結晶粉末を生成できる。より好ましくは、第1族元素の水素化ホウ化物が、ハロゲン化アンモニウムに対してモル比で1.25以上1.75以下となるよう含有される。これにより、窒化ホウ素の単結晶粉末を確実に生成できる。
【0029】
原料は、いずれも、粉末で用いることがよいが、この場合、100nm以上500μm以下の粒径を有する粉末である。この範囲の粒径であれば、複分解反応の進行を促進する。より好ましくは、原料粉末は、好ましくは、200nm以上200μm以下の粒径を有する粉末である。なお、本願明細書において、粒径は、マイクロトラックやレーザ散乱法によって測定される体積基準のメディアン径(d50)とする。
【0030】
さらに、原料粉末は、反応抑制剤を含有してもよい。反応抑制剤は、発熱を抑えるために希釈できるものであれば特に制限はないが、例示的には、塩化ナトリウム(NaCl)や塩化セシウム(CsCl)である。原料粉末に含有される量は、10重量%以上75重量%以下の範囲である。この範囲であれば、複分解反応が進行する。
【0031】
原料粉末は、上述の温度範囲および圧力下においても耐久性のある耐圧耐熱カプセル内に保持される。耐圧カプセルは、原料粉末と反応性のない材料からなるが、好ましくは、モリブデン(Mo)製である。カプセル内に保持される原料粉末の嵩密度は、1.3g/cm3以上3.0g/cm3以下にするとよい。このような嵩密度を満たす充填率とすることにより、粉末間における複分解反応を促進できる。
【0032】
なお、得られた窒化ホウ素の粉末が単結晶であるか否かは、単結晶X線構造回折法によって判定できるが、簡易的には、光学顕微鏡等の観察において、粉末が自形を有すれば、単結晶の粉末が得られたと判定できる。
【0033】
次に、窒化ホウ素の単結晶の作り分けについて説明する。
図1は、立方晶系窒化ホウ素と六方晶系窒化ホウ素とを作り分けるための圧力と温度との関係を示す図である。
【0034】
図1に示されるように、立方晶系窒化ホウ素(cBN)と六方晶系窒化ホウ素(hBN)との相境界線は、温度(T(℃))と圧力(P(GPa))とを用いて、P=T/465+0.79で表されることが報告されている(例えば、O.Fukunaga,Diamond Relat.Mater.,9,2000,7)。
【0035】
上記関係式を用いれば、反応させるステップにおいて、温度(T(℃))と圧力(P(GPa))との関係式が、P>T/465+0.79(ただし、1000≦T≦2500)を満たす場合、cBNからなる単結晶粉末が得られる。さらに好ましくは、原料粉末を、1450℃以上1700℃以下の温度範囲で、4.75GPaより大きく5.5GPa以下の圧力下で反応させればよい。これにより、cBNからなり、100μm以上1mm以下(好ましくは100μm以上400μm以下)の範囲の比較的大きな粒径を有する単結晶粉末が得られる。
【0036】
上記関係式を用いれば、反応させるステップにおいて、温度(T(℃))と圧力(P(GPa))との関係式が、P<T/465+0.79(ただし、1000≦T≦2500)を満たす場合、hBNからなる単結晶粉末が得られる。さらに好ましくは、原料粉末を、1250℃以上1700℃以下の温度範囲で、3.75GPa以上4.75GPa以下の圧力下で反応させればよい。これにより、hBNからなり、100μm以上1mm以下(好ましくは100μm以上400μm以下)の範囲の比較的大きな粒径を有する単結晶粉末が得られる。
【0037】
反応させるステップでは、
図1に示す関係式を用いて、上述の温度範囲および圧力範囲で反応させることが、cBNとhBNとを容易に作り分ける判別の観点からは、好ましい。しかしながら、条件によっては、
図1に示す関係式を満たさない場合でも、cBNとhBNとを作り分けることができる。例えば、後述する実施例4、実施例6では、必ずしも、
図1に示す関係式を満たさないが、hBN単結晶粉末の製造に成功している。
【0038】
なお、反応の時間は、特に制限はないが、例示的には、上述の原料粉末を、10分以上24時間以下の時間である。10分未満の場合、上述の複分解反応が十分でない場合があり、24時間を超えて行ってもそれ以上反応が進まないため非効率である。
【0039】
反応させるステップは、上述の温度条件および圧力条件を満たす限り、任意の装置を使用できるが、例えば、ベルト型高圧装置が好ましい。ベルト型高圧装置は、上述の条件を満たすだけでなく、大量製造も可能であり、実用的である。
【0040】
ここで、例示的に、原料粉末を充填したカプセルを備えた高圧セルを用い、ベルト型高圧装置により反応する場合を示す。
【0041】
図2は、本発明の実施形態である窒化ホウ素の単結晶粉末の製造に用いるカプセルを備えた高圧セルを模式的に示す図である。
【0042】
図2(a)は、高圧セルの斜視図であり、
図1(b)は、高圧セルの断面図である。高圧セル1は、円筒状のパイロフィライト11と、パイロフィライト11の筒内に、筒内壁面上部側および下部側に接するように配置された2つのスチールリング12A、12Bと、スチールリング12A、12Bの中心軸側に配置された円筒状のカーボンヒーター15と、カーボンヒーター15の内部に配置された耐圧耐熱カプセル16と、耐圧耐熱カプセル16の内部に充填された原料粉末17と備える。パイロフィライト11とカーボンヒーター15との間の隙間には充填用粉末13が充填されており、カーボンヒーター15と耐圧耐熱カプセル16との間の隙間にも充填用粉末14が充填されている。
【0043】
図2では、耐圧耐熱カプセル16内に第1族元素の
10B同位体濃縮された水素化ホウ化物の粉末18と、第1族元素の
11B同位体濃縮された水素化ホウ化物の粉末19と、ハロゲン化アンモニウムの粉末20とを混合した原料粉末17が充填されている様子を示す。
【0044】
一端側を円板状の蓋で閉じた円筒状のカーボンヒーター15の内底部に充填用粉末14を敷き詰めてから、耐圧耐熱カプセル16を円筒状のカーボンヒーター15内に同軸となるように配置し、耐圧耐熱カプセル16とカーボンヒーター15の内壁面との隙間に充填用粉末14を充填し、更に、耐圧耐熱カプセル16の上部に充填用粉末14を敷き詰めてから、他端側を円板状の蓋で密封する。
【0045】
この円筒状のカーボンヒーター15を、筒状のパイロフィライト11内に同軸となるように配置してから、カーボンヒーター15とパイロフィライト11の内壁面との隙間に充填用粉末13を充填する。充填用粉末13、14としては、例えば、NaCl+10wt%ZrO2を挙げることができる。
【0046】
次に、パイロフィライト11の内壁面上部側の充填用粉末13に埋め込むようにスチールリング12Aを押し込むとともに、パイロフィライト11の内壁面下部側の充填用粉末13に埋め込むように別のスチールリング12Bを押し込む。以上のようにして、原料粉末17を耐圧耐熱カプセル16に充填した高圧セル1が得られる。
【0047】
図3は、本発明の実施形態である窒化ホウ素の単結晶粉末の製造に用いるベルト型高圧装置を模式的に示す図である。
【0048】
ベルト型高圧装置21のシリンダー27A、27Bの間であって、アンビル25A、25Bの間の所定の位置に、薄い金属板からなる導電体26A、26Bを接触させて、
図1を参照して説明した高圧セル1を配置する。次に、これらの部材と高圧セル1との間に、パイロフィライト28を充填する。
【0049】
アンビル25A、25B及びシリンダー27A、27Bを高圧セル1側に移動して、高圧セル1を上述の条件を満たすように加圧する。加圧した状態で、上述の条件を満たすように加熱し、所定時間、保持すればよい。
【0050】
このようにして窒化ホウ素の単結晶粉末が得られるが、反応させるステップに続いて、得られた生成物を溶剤で処理し、第二相を除去してもよい。これにより、生成物中の窒化ホウ素の純度を向上させることができる。生成物には、上述の反応式に示されるように、第1属元素のハロゲン化物(MX)が第二相として含まれ得る。水、エタノールなどの溶剤で生成物を洗浄すれば、容易に第二相が溶解し、除去できる。特に、MXがNaClである場合、水で容易に溶解除去できる。なお、水を用いる場合、50℃以上90℃以下、好ましくは、75℃以上85℃以下の温度に加熱すると、溶解除去が促進するため好ましい。
【0051】
このようにして本発明のcBNまたはhBNである窒化ホウ素の単結晶粉末が得られる。例えば、窒化ホウ素がcBNである場合、ダイヤモンドに次ぐ硬度を有することから、単結晶粉末を砥粒として用いることができる。窒化ホウ素がhBNである場合、熱伝導率が高く、耐熱性・断熱性に優れることから、単結晶粉末を放熱材料や断熱材料として用いることができる。特に、10B濃縮された窒化ホウ素であれば、放熱効果が高い。
【0052】
cBNもhBNもワイドギャップ半導体として知られており、本発明の製造方法によれば、安価に少なくとも数百μmの大きさを有する比較的大きな単結晶粉末であるため、半導体基板として光、電子素子、センサ等に使用できる。
【0053】
10Bは、中性子散乱断面積が大きく、中性子吸収能が増強されることから、10B濃縮された窒化ホウ素の単結晶粉末を中性子線遮蔽材、中性子線検出器に用いることができる。
【0054】
単結晶粉末をそのまま用いてもよいし、必要に応じて板状などに加工して用いてもよい。例えば、hBNの単結晶粉末は、1つ1つが薄い板状であることから、プラスチック等の樹脂などと混ぜて硬化させ、板状に加工してもよい。これにより放熱基板、断熱基板として機能する。
【0055】
あるいは、単結晶粉末を成形・焼結し、大きな焼結体を得てもよい。例えば、窒化ホウ素がcBNである場合、焼結体を切削工具に加工してもよいし、窒化ホウ素がhBNである場合、焼結体を放熱基板、断熱基板としてもよい。
【0056】
なお、焼結に先立って、原料である生成物(第二相を含有する/含有しないcBN/hBN)を粒度調整することが好ましく、単結晶粉末が、10nm以上10μm以下の範囲を満たす粉末となるまで、粒度調整を行う。これにより、緻密な焼結体である硬質材料を製造できる。より好ましくは、反応物が、50nm以上5μm以下の範囲を満たす粉末となるまで、粒度調整を行う。これにより、緻密で粒成長が抑制された焼結体である硬質材料を製造できる。なお、粒度調整は、湿式または乾式によるボールミル、ジェットミル等を使用し、篩い分け等の分級を行ってもよい。
【0057】
cBNの焼結は、成型体(ペレットなどに成形されていてもよいし、容器に充填された状態でもよい)を
図1に明示されるcBNの安定領域で1500℃以上2000℃以下の温度範囲で焼結する。この温度範囲であれば、焼結が進行する。より好ましくは、成型体を1800℃以上2000℃以下の温度範囲で、8GPa以上10GPa以下の圧力下で焼結する。この温度範囲かつこの圧力下であれば、粒成長を抑制したまま、緻密な焼結体である硬質材料を製造できる。なお、焼結時間は、成形体の大きさにもよるが、例示的には、10分以上1時間以下の範囲である。焼結に際して、任意の装置を使用できるが、例えば、ベルト型高圧装置が好ましい。ベルト型高圧装置は、上述の条件を満たすだけでなく、大量製造も可能であり、実用的である。
【0058】
一方、hBNの焼結は、成型体(ペレットなどに成形されていてもよいし、容器に充填された状態でもよい)を1200℃以上2000℃以下の温度範囲で焼結する。成型後通常の雰囲気炉にて焼結してもよいが、ベルト型高圧装置、ホットプレスや熱間静水圧プレス(HIP)などを用いて
図1に明示されるhBNの安定領域において加圧下にて焼結してもよい。焼結は、好ましくは、窒素雰囲気中など還元雰囲気で行われる。
【0059】
なお、焼結するステップにおいて、生成物に、TiN、WC、WN、TaC、Co、NiおよびCrからなる群から選択される材料を添加してもよい。これらは焼結助剤として機能し、より緻密な焼結体である硬質材料を提供できる。添加する量は、10重量%未満が好ましい。なお、焼結助剤の生成物への添加は、制御の観点からは、生成物と焼結助剤とが直接混合されて用いられることが好ましいが、生成物が接触/充填される部材(例えばカプセル材料)に焼結助剤と同様の材料を使用し、そのまま焼結させることも意図する。
【0060】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0061】
[実施例1~9]
実施例1~9では、
図2および
図3に示す高圧セルを備えたベルト型高圧装置を用いて、第1族元素の水素化ホウ化物としてNaBH
4と、ハロゲン化アンモニウムとしてNH
4Clとの原料粉末から、種々の圧力および温度条件において本発明の窒化ホウ素(cBNまたはhBN)の単結晶粉末を製造した。
【0062】
NaBH4(シグマアルドリッチ製、ホウ素同位体の存在比(10B:11B)は天然比の2:8であった)とNH4Cl(和光純薬工業株式会社製)とを、モル比で、6:4となるように混合し、原料粉末とした。原料粉末の粒径は、100nm以上500μm以下であることを確認した。なお、混合は、窒素ガスを充填したグローブボックス(H2OおよびO2の濃度は1ppm以下に制御された)内で行った。
【0063】
この原料粉末を、一端側を円板状の蓋で閉じたMo(モリブデン)製の円筒状の耐圧耐熱カプセル(
図2の16)内に充填してから、他端側を円板状のMo製の蓋で密封した。このとき、充填時の嵩密度は、1.4g/cm
3であった。次に、一端側を円板状の蓋で閉じた円筒状のカーボンヒーター(
図2の15)の内底部に充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO
2)を敷き詰めてから、この耐圧耐熱カプセルを円筒状のカーボンヒーター内に同軸となるように配置し、耐圧耐熱カプセルとカーボンヒーターの内壁面との隙間に充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO
2)を充填し、更に、耐圧耐熱カプセルの上部に充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO
2)を敷き詰めてから、他端側を円板状の蓋で密封した。
【0064】
次に、この円筒状のカーボンヒーターを、筒状のパイロフィライト内に同軸となるように配置してから、カーボンヒーターとパイロフィライトの内壁面との隙間に充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO2)を充填した。
【0065】
次に、パイロフィライトの内壁面上部側の充填用粉末にスチールリングを押し込むとともに、パイロフィライトの内壁面下部側の充填用粉末に別のスチールリングを押し込んだ。以上のようにして、高圧セル(
図2の1)を作製した。
【0066】
高圧セルを、
図3に示すベルト型加圧装置の所定の位置に配置した。高圧セルを、表3に示す圧力値まで加圧した。次に、加圧した状態で、表3に示す温度で加熱した。この状態で、温度・圧力を30分間保持した。これにより、原料粉末を高温高圧反応させた。
【0067】
室温・常圧に戻し、耐圧耐熱カプセル内部の生成物を取り出した。次に、生成物を80℃に加熱した水中で処理した。これにより、生成物に付着したNaClを溶解除去した。このようにして得られた生成物を、それぞれ、実施例1~9の試料と称する。
【0068】
実施例1~9の試料を光学顕微鏡(SZX12、オリンパス株式会社製)により観察し、粉末X線回折(XRD、RINT2200、株式会社リガク製)により同定した。結果を
図5、6に示す。実施例1~9の試料のラマンスペクトルをラマン分光装置(PDPX、フォトンデザイン株式会社製)により測定した。結果を
図9~
図11に示す。
【0069】
[比較例1]
比較例1では、
図2および
図3に示す高圧セルを備えたベルト型高圧装置を用いて、第1族元素の水素化ホウ化物としてNaBH
4と、ハロゲン化アンモニウムとしてNH
4Clとの原料粉末から、圧力5GPa、温度1500℃において窒化ホウ素(cBN)の単結晶粉末の製造を試みた。比較例1は、実施例1と、NaBH
4とNH
4Clとのモル比が異なる以外は、同様であるため、説明を省略する。実施例1と同様に、比較例1の試料を光学顕微鏡により観察し、XRDパターンを測定した。
【0070】
[比較例2]
比較例2では、
図2および
図3に示す高圧セルを備えたベルト型高圧装置を用いて、原料としてhBNと、触媒としてNaBH
4との原料粉末から、圧力5GPa、温度1500℃において窒化ホウ素(cBN)の単結晶粉末の製造を試みた。比較例2では、NaBH
4とhBNとを、モル比で、2:8となるように混合し、原料粉末とした以外は、実施例1と同様であるため、説明を省略する。なお、hBNは、非特許文献2と同様にして調製した。実施例1と同様に、比較例2の試料を光学顕微鏡により観察し、XRDパターンを測定した。
【0071】
[比較例3]
比較例3では、
図2および
図3に示す高圧セルを備えたベルト型高圧装置を用いて、原料としてhBNと、触媒としてNH
4Clとの原料粉末から、圧力5GPa、温度1500℃において窒化ホウ素(cBN)の単結晶粉末の製造を試みた。比較例3では、NH
4ClとhBNとを、モル比で、2:8となるように混合し、原料粉末とした以外は、実施例1と同様であるため、説明を省略する。なお、hBNは、非特許文献2と同様にして調製した。実施例1と同様に、比較例3の試料を光学顕微鏡により観察し、XRDパターンを測定した。
【0072】
以上の実施例/比較例を簡単のため表3に示し、結果を説明する。
【0073】
【0074】
図4は、実施例1の試料の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0075】
図4において一マスは1mmの長さを示す。
図4によれば、実施例1の試料の粉末の大きさは、50μm以上1mm以下、詳細には、100μm以上400μm以下の範囲を有する大きな粒径を有することが分かった。また、それぞれの粉末は、いずれも、自形を有しており、単結晶であることが分かった。図示しないが、実施例2~9の試料も同様の大きさを有し、単結晶であることを確認した。
【0076】
図5は、実施例2の試料のXRDパターンを示す図である。
図6は、実施例6の試料のXRDパターンを示す図である。
【0077】
図5によれば、実施例2の試料のXRDパターンは、主として、cBNのXRDパターン(JCPDS No.25-1033)に一致した。一部、hBNを示すピークが見られたが、生成物のうち95vol%以上が、cBNであると判定される。図示しないが、実施例1および実施例3の試料のXRDパターンは、いずれも、cBNのXRDパターンに一致し、hBN相や不純物相を示すピークは見られなかった。このことから、
図1に示す相境界線に基づいて、温度(T(℃))と圧力(P(GPa))との関係式が、P>T/465+0.79(ただし、1000≦T≦2500)を満たす場合、cBNからなる単結晶粉末が得られることが分かった。
【0078】
図6(A)は、水(80℃)で洗浄前の実施例8の試料のXRDパターンを示し、
図6(B)は、洗浄後の実施例8の試料のXRDパターンを示す。
図6によれば、水によって不純物であるNaClは、容易に溶解除去されることが示された。
図6(B)によれば、実施例5の試料のXRDパターンは、hBNのXRDパターン(JCPDS No.34-0421)に一致し、不純物相を示すピークは見られなかった。図示しないが、実施例4~7および実施例9の試料のXRDパターンも、hBNのXRDパターンに一致し、不純物相を示すピークは見られなかった。実施例5、7~9の結果から、
図1に示す相境界線に基づいて、温度(T(℃))と圧力(P(GPa))との関係式が、P<T/465+0.79(ただし、1000≦T≦2500)を満たす場合、hBNからなる単結晶粉末が得られることが分かった。
【0079】
図示しないが、比較例1の試料のXRDパターンは、cBNを示すピークを有さず、複分解反応が進まなかったことが分かった。このことから、複分解反応の進行には、原料粉末において、第1族元素の水素化ホウ化物が、ハロゲン化アンモニウムに対してモル比で1よりも多くなるよう含有されることが必須であることが示された。
【0080】
図示しないが、比較例2の試料のXRDパターンは、cBNのXRDパターンに一致し、hBN相や不純物相を示すピークは見られなかった。また、比較例2の試料は、光学顕微鏡観察によれば、約5μmの大きさを有する粉末であった。
【0081】
比較例3の試料のXRDパターンは、主としてhBNのXRDパターンに一致し、一部にcBNを示すピークが見られ、生成物のうち約5vol%がcBNであると判定された。また、比較例3の試料は、光学顕微鏡観察によれば、約5μmの大きさを有する粉末であった。
【0082】
簡単のため、実施例1~9および比較例1~3の試料の主生成相を表4にまとめる。
【0083】
【0084】
これらから、50μm以上、好ましくは、100μm以上の大きさを有するcBN/hBNからなる単結晶粉末を得るためには、第1族元素の水素化ホウ化物の粉末と、ハロゲン化アンモニウムの粉末とを含有する原料粉末を用いることが好ましいことが示された。
【0085】
[実施例10~15]
実施例10~15では、
図2および
図3に示す高圧セルを備えたベルト型高圧装置を用いて、第1族元素の水素化ホウ化物として
10Bにホウ素同位体濃縮したNa
10BH
4および/または
11Bにホウ素同位体濃縮したNa
11BH
4と、ハロゲン化アンモニウムとしてNH
4Clとの原料粉末から、種々の圧力および温度条件において本発明の窒化ホウ素(cBNまたはhBN)の単結晶粉末を製造した。
【0086】
10Bにホウ素同位体濃縮したNa10BH4として、Na10BH4(Katchem社製、メーカ分析(電子スピン共鳴法(ESR))による10B濃縮率は98%以上であった。)を、11Bにホウ素同位体濃縮したNa11BH4として、Na11BH4(Katchem社製、メーカ分析(電子スピン共鳴法(ESR))による10B濃縮率は99%以上であった。)を用い、表5に示す組成で混合し、表5に示す圧力および温度にて反応させた。詳細な手順は実施例1と同様であるため、説明を省略する。このようにして得られた生成物を、それぞれ、実施例10~15の試料と称する。
【0087】
実施例1と同様に、実施例10~15の試料を光学顕微鏡により観察し、XRDパターンおよびラマンスペクトルを測定した。また、実施例10の試料を
図2および
図3のベルト型加圧装置によって焼結した。詳細には、実施例10の試料を150℃の王水(硝酸:塩酸=体積比1:1)で煮沸・精製し、更に蒸留水で清浄後、六方晶窒化ホウ素(hBN)製カプセルに充填し、10GPaの圧力下、2000℃、15分間焼結した。得られた焼結体は、直径6mm、厚さ1mmの大きさを有した。二次イオン質量分析法(SIMS:IMS-7f、CAMECA社製)により、この焼結体の深さ(厚さ)方向のホウ素同位体の濃度分布を調べた。これらの結果を
図7~
図12に示す。
【0088】
以上の実施例を簡単のため表5に示し、結果を説明する。
【0089】
【0090】
図7は、実施例10の試料の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0091】
図7によれば、実施例10の試料の粉末の大きさは、50μm以上1mm以下の範囲を有する大きな粒径を有することが分かった。また、それぞれの粉末は、いずれも、自形を有しており、単結晶であることが分かった。図示しないが、実施例11~15の試料も同様の大きさを有し、単結晶であることを確認した。
【0092】
図示しないが、実施例10~12の試料のXRDパターンは、いずれも、
図5と同様に、cBNのXRDパターンに一致した。また、実施例13~15の試料のXRDパターンは、いずれも、
図6(B)と同様に、hBNのXRDパターンに一致した。これらから、実施例1~9と同様に、本発明の方法を採用し、cBNからなる単結晶粉末およびhBNからなる単結晶粉末の作り分けができることが示された。
【0093】
図8は、実施例10の焼結体のB同位体元素のSIMSプロファイルを示す。
【0094】
図8によれば、実施例10の焼結体は、表面から深さ方向にわたって、
10B濃縮されたcBN(
10B濃縮率は96%)であることが分かった。さらに、わずかに誤差があるものの、原料に用いた
10Bにホウ素同位体濃縮したNa
10BH
4におけるホウ素同位体の存在比は、反応後の試料においても、実質的に反映されることが示唆された。
【0095】
図9は、実施例1および10の試料のラマンスペクトルを示す図である。
図10は、実施例1および10~12の試料のラマンスペクトルを示す図である。
図11は、実施例7および13~15の試料のラマンスペクトルを示す図である。
【0096】
実施例1の試料のラマンスペクトルは、1060cm-1近傍、および、1310cm-1近傍にピークを有し、実施例10の試料のラマンスペクトルは、1080cm-1近傍、および、1330cm-1近傍にピークを有し、明らかなピークシフトを示した。実施例1の試料は、天然比でホウ素同位体を含有する原料を用いていることから、得られたcBN単結晶粉末におけるホウ素同位体の存在比もまた天然比(10B:11B=2:8)である。一方、実施例10の試料は、上述したように、10B濃縮されたcBN単結晶粉末であり、そのホウ素同位体の存在比は、10B:11B=9.6:0.4である。ピークシフトは、このホウ素同位体の存在比の差に基づき、10Bの存在比が多くなるほど短波長側に、11Bの存在比が多くなるほど長波長側にシフトすることを示唆する。
【0097】
図9には、1050~1080cm
-1近傍のピークを詳細に示す。上述したように、原料に用いたホウ素同位体の存在比が実質的にそのまま反映されるとすれば、実施例1、10~12の試料におけるホウ素同位体の存在比(
10B:
11B)は、それぞれ、2:8、9.6:0.4、0.1~0:9.9~10および5:5となる。ここで、ラマンシフトに着目すると、実施例11、実施例1、実施例12および実施例10の順にピークは長波長側から短波長側に向かって出現しており、
10Bの存在比が多くなる順に/
11Bの存在比が小さくなる順に一致した。
【0098】
図10には、1350~1390cm
-1近傍のピークを詳細に示す。
図10において、太線で示すラマンスペクトルは、非特許文献2を参照して得たホウ素同位体が天然比であるhBNのスペクトルである。ここでも、上述したように、原料に用いたホウ素同位体の存在比が実質的にそのまま反映されるとすれば、実施例7、13~15におけるホウ素同位体の存在比(
10B:
11B)は、それぞれ、2:8、9.6:0.4、0.1~0:9.9~10および5:5となる。ここで、ラマンシフトに着目すると、実施例14、実施例7、実施例16および実施例13の順にピークは長波長側から短波長側に向かって出現しており、
10Bの存在比が多くなる順に/
11Bの存在比が小さくなる順に一致した。
【0099】
以上から、ラマンスペクトルのピークは、cBNおよびhBNいずれにおいても、10Bの存在比が多くなるほど短波長側に、11Bの存在比が多くなるほど長波長側にシフトすることが示された。
【0100】
図12は、
図10から求めたcBNのホウ素同位体の存在比とラマンシフトとの関係を示す図である。
図13は、
図11から求めたhBNのホウ素同位体の存在比とラマンシフトとの関係を示す図である。
【0101】
図12に示されるように、cBNにおけるホウ素同位体の存在比は、ラマンシフトと線形の関係があることがわかった。
図13に示されるように、hBNにおけるホウ素同位体の存在比とラマンシフトとの関係は、弓なりではあるものの、実質的に線形の関係があることがわかった。
【0102】
このことから、任意のcBNおよびhBNの試料についてラマンシフトを調べれば、上述の線形の関係式からそれらの試料におけるホウ素同位体の存在比を求めることが可能であり、cBN/hBNにおけるホウ素同位体の存在比を特定する方法を提供できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の製造方法によれば、窒化ホウ素からなる単結晶の粉末を、安価かつ高純度で製造でき、立方晶系または六方晶系窒化ホウ素の作り分け、あるいは、ホウ素同位体の存在比が制御された窒化ホウ素を製造できる。このようにして得られた窒化ホウ素の単結晶粉末は、超硬質材料として機能するため、研削・切削工具(例えば、ドリル、エンドミル、ボブ、フライス、旋盤、ピニオンカッタ等)に好ましく、加工工具産業、加工産業、加工用装置産業等で利用される。また、このようにして得られた窒化ホウ素の単結晶粉末は、比較的大きなサイズを有するため、ワイドギャップ半導体として使用できる。このようにして得られた窒化ホウ素の単結晶粉末は、ホウ素同位体の存在比が制御されているので、中性子線遮蔽材、中性子線検出器に利用される。
【符号の説明】
【0104】
1 高圧セル
11 パイロフィライト容器(筒)
12A、12B スチールリング
13、14 充填用粉末(NaCl+10wt%ZrO2)
15 カーボンヒーター
16 耐圧耐熱カプセル
17 原料粉末
18、19 第1族元素の水素化ホウ化物の粉末
20 ハロゲン化アンモニウムの粉末
21 ベルト型高圧装置
25A、25B アンビル
26A、26B 導電体
27A、27B シリンダー
28 パイロフィライト(充填用)