(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】削孔ビット、削孔装置
(51)【国際特許分類】
E21B 10/00 20060101AFI20220506BHJP
【FI】
E21B10/00 C
(21)【出願番号】P 2020111330
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2021-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000221889
【氏名又は名称】東邦金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 辰徳
(72)【発明者】
【氏名】山田 博
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-184389(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0267492(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111005366(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 10/00
E21B 10/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前後に開口を有する筒体と、
前記筒体の前側開口から突出する突出体とを備え、
前記突出体は、前記筒体の軸心上の位置から前記筒体の径外側へ放射状に延びる複数の羽根板から構成されたものであり、当該複数の羽根板によって前記筒体の前側開口は複数の区画に分割されており、
各前記羽根板は、側面視で前後方向に延びるものであり、前記筒体の前側開口から突出する前側範囲と、前記筒体の内部に位置する後側範囲とを有し、各前記羽根板の後側範囲における前記径外側の端は、前記筒体に結合されており、
削岩機に連結されるロッドが、前記筒体の後側開口から前記筒体の内部に挿入されることで、前記ロッドを介して、前記筒体の周方向への回転力と、前後方向への推力とを加えることが可能とされる削孔ビット。
【請求項2】
各前記羽根板の前端面は、前記筒体の軸心に向かうにつれて前側に突出する傾斜面とされる請求項1に記載の削孔ビット。
【請求項3】
各前記羽根板の前端面には、超硬合金チップで形成された硬質刃体が植設されている請求項1又は2に記載の削孔ビット。
【請求項4】
各前記羽根板の前側範囲の側面は、前記筒体の軸心に対して平行な面とされ、
各前記羽根板の後側範囲は、後側になるにつれて、幅が広くなる請求項1乃至3のいずれかに記載の削孔ビット。
【請求項5】
各前記羽根板の内部には、液体或いは気体である流体を流すための流路が形成され、
前記突出体の後端面における前記筒体の軸心上の位置には、各前記流路に流体を流入させるための流入口が形成され、
各前記流路は、前記流入口から前記羽根板の径外側の端まで延びるものであり、各前記流路の吐出口が、前記羽根板の前側範囲における前記径外側の端に形成される請求項1乃至4のいずれかに記載される削孔ビット。
【請求項6】
前記筒体の前端面には、超硬合金チップで形成された複数の硬質刃体が前記筒体の周方向に間隔をあけて植設されている請求項1乃至5のいずれかに記載の削孔ビット。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の削孔ビットと、
ロッドと、
パイプリーダーとを備え、
前記ロッドが、ジョイントを介して削岩機のシャンクロッドに連結され、前記ロッドを内部に通したパイプが、前記ジョイントの前部に嵌合され、前記パイプの前端部に前記パイプリーダーの後側が螺着され、前記削孔ビットが前記パイプリーダーに対して相対回転可能となるように前記削孔ビットが前記パイプリーダーの前側に取り付けられた状態で、前記ロッドが、前記筒体の後側開口から前記筒体の内部に挿入されることで、前記ロッドを介して、前記筒体の周方向への回転力と、前後方向への推力とを加えることが可能とされる削孔装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤補強用パイプ等を設置する孔を形成するために使用される削孔ビット、及び当該削孔ビットを備えた削孔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルの掘削前に軟弱地盤の切羽を安定させるため、切羽の周囲にパイプ(鋼管等)を設置することが行われており、特許文献1には、パイプ設置用の孔を形成するために使用される先端ビットが開示されている。
【0003】
特許文献1の先端ビットは、大径部の中心部から小径部が突出したものであり、打撃力、回転力、及び推力が加えられる打撃削孔でパイプを打設する。当該特許文献1の先端ビットは、小径部及び大径部の双方の外周部が円形であることで、回転抵抗が少なく、打撃により粉砕した岩石等の繰粉が詰まりにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところでパイプを設置する位置の近傍に、民家等の建物が存在する場合には、近隣住民からの苦情防止の観点から騒音を小さく抑えるために、パイプ設置用の孔を形成するビットに打撃力を加えることができない状況が生じ得る。
【0006】
上記の事情から、特許文献1の先端ビットに打撃力を加えることなく、パイプ設置用の孔を形成する場合には(すなわち特許文献1の先端ビットに回転力及び推力のみを加えることで、パイプ設置用の孔を形成する場合には)、特許文献1の先端ビットの回転抵抗が少ないことで、特許文献1の先端ビットが空回りして、削孔を迅速に行なえなくなる事態が生じ得る。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みなされたものであり、打撃力が加えられずに回転力及び推力が加えられる状況下で、地盤の削孔を行なうことに適した削孔ビット、及び当該削孔ビットを備える削孔装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、次の項に記載の主題を包含する。
【0009】
項1.前後に開口を有する筒体と、
前記筒体の前側開口から突出する突出体とを備え、
前記突出体は、前記筒体の軸心上の位置から前記筒体の径外側へ放射状に延びる複数の羽根板から構成されたものであり、当該複数の羽根板によって前記筒体の前側開口は複数の区画に分割されており、
各前記羽根板は、側面視で前後方向に延びるものであり、前記筒体の前側開口から突出する前側範囲と、前記筒体の内部に位置する後側範囲とを有し、各前記羽根板の後側範囲における前記径外側の端は、前記筒体に結合されており、
削岩機に連結されるロッドが、前記筒体の後側開口から前記筒体の内部に挿入されることで、前記ロッドを介して、前記筒体の周方向への回転力と、前後方向への推力とを加えることが可能とされる削孔ビット。
【0010】
項2.各前記羽根板の前端面は、前記筒体の軸心に向かうにつれて前側に突出する傾斜面とされる項1に記載の削孔ビット。
【0011】
項3.各前記羽根板の前端面には、超硬合金チップで形成された硬質刃体が植設されている項1又は2に記載の削孔ビット。
【0012】
項4.各前記羽根板の前側範囲の側面は、前記筒体の軸心に対して平行な面とされ、
各前記羽根板の後側範囲は、後側になるにつれて、幅が広くなる項1乃至3のいずれかに記載の削孔ビット。
【0013】
項5.各前記羽根板の内部には、液体或いは気体である流体を流すための流路が形成され、
前記突出体の後端面における前記筒体の軸心上の位置には、各前記流路に流体を流入させるための流入口が形成され、
各前記流路は、前記流入口から前記羽根板の径外側の端まで延びるものであり、各前記流路の吐出口が、前記羽根板の前側範囲における前記径外側の端に形成される項1乃至4のいずれかに記載される削孔ビット。
【0014】
項6.前記筒体の前端面には、超硬合金チップで形成された複数の硬質刃体が前記筒体の周方向に間隔をあけて植設されている項1乃至5のいずれかに記載の削孔ビット。
【0015】
項7.項1乃至6のいずれかに記載の削孔ビットと、
ロッドと、
パイプリーダーとを備え、
前記ロッドが、ジョイントを介して削岩機のシャンクロッドに連結され、前記ロッドを内部に通したパイプが、前記ジョイントの前部に嵌合され、前記パイプの前端部に前記パイプリーダーの後側が螺着され、前記削孔ビットが前記パイプリーダーに対して相対回転可能となるように前記削孔ビットが前記パイプリーダーの前側に取り付けられた状態で、前記ロッドが、前記筒体の後側開口から前記筒体の内部に挿入されることで、前記ロッドを介して、前記筒体の周方向への回転力と、前後方向への推力とを加えることが可能とされる削孔装置。
【発明の効果】
【0016】
本発明の削孔ビットによれば、突出体の各羽根板が、筒体の前側開口から突出することで、回転抵抗が大きい。このため、本発明の削孔ビットは、打撃力が加えられずに、回転力及び推力が加えられる状況下で、地盤の削孔を行なうことに適する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る削孔ビットを備える削孔装置を示す図であり、左半分は側面図であり、右半分は縦断面図である。
【
図2】削孔装置の先端側を示す図であり、上半分は縦断面図であり、下半分は側面図である。
【
図3】削孔装置を組み立てる手順を示す図であり、(a),(b),(c),(d)の上半分は、縦断面図であり、(a),(b),(c),(d)の下半分は、側面図である。
【
図5】(a)はガイド部材の正面図であり、(b)の上半部はガイド部材の縦断面図、(b)の下半分はガイド部材の側面図である。
【
図6】(a)はパイプリーダーの正面図である、(b)の上半分はパイプリーダーの縦断面図であり、(b)の下半分はパイプリーダーの側面図である。
【
図8】上半分は削孔ビットの縦断面図であり、下半分は削孔ビットの側面図である。
【
図11】(a)及び(b)は、筒体の内部にガイド部材が挿入された状態を示す削孔ビットの背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る削孔ビット4を備える削孔装置1を示す図であり、左半分は側面図であり、右半分は縦断面図である。
図2は、削孔装置1の先端側を示す図である。
図3は、削孔装置1を組み立てる手順を示す図である。
図2の上半分や、
図3の(a),(b),(c),(d)の上半分は、縦断面図であり、
図2の下半分や、
図3の(a),(b),(c),(d)の下半分は、側面図である。
【0020】
削孔装置1は、地山Mの削孔と地盤補強用のパイプPの設置とを同時に行なうことが可能なものであり、ロッド2と、パイプリーダー3と、削孔ビット4とを備える。
【0021】
ロッド2は、削岩機Dに連結されるものであり、ロッド本体5(
図2,
図3)と、当該ロッド本体5の先端に取り付けられるガイド部材6とを備える。
【0022】
ロッド本体5は、金属製の中空管体から構成されるものであり、ジョイントJ(
図1)を介して削岩機DのシャンクロッドSに連結される。ロッド本体5の空洞7(
図2,
図3)は、液体又は気体である流体を流すために使用される。上記の液体は、例えば水であり、上記の気体は、例えば空気である。
【0023】
なおロッド本体5は、複数の中空管体を直列に繋ぎ合わせたものであってもよい。この場合、最も後側の中空管体がジョイントJを介して削岩機DのシャンクロッドSに連結される。また中空管体の各々の空洞が連通することで、流体を流すための流路(ロッド本体5の空洞7)が構成される。
【0024】
図4は、ガイド部材6の斜視図である。
図5(a)は、ガイド部材6の正面図であり、
図5(b)の上半部はガイド部材6の縦断面図、
図5(b)の下半分はガイド部材6の側面図である。
【0025】
ガイド部材6は、金属製の中空筒体から構成される。ガイド部材6の中空部の後側部分は、ネジ穴部8とされる。削孔装置1の使用時には、ロッド本体5の先端部をネジ穴部8に挿入して、ネジ穴部8の内周面に形成された雌ネジ部9と、ロッド本体5の先端部の外周面に形成された雄ネジ部10とを螺合させることで、ロッド本体5の先端部にガイド部材6が螺着される(
図3(a),
図3(b))。なお、雌ネジ部9と雄ネジ部10とを螺合させるために、ロッド本体5に対してガイド部材6を相対的に回転させる方向は、削孔時における回転方向と同じ方向である。
【0026】
ガイド部材6の中空部の前側部分は、フラッシングホール11となっており、ガイド部材6の先端にはフラッシングホール11の開口部11aが形成される。ロッド本体5の先端部にガイド部材6が螺着された状態(
図2,
図3(b)~(d)の状態)では、ロッド本体5の空洞7を流れる流体を、フラッシングホール11に供給して、開口部11aから吐出させることができる。
【0027】
ガイド部材6の外周部には凸条部12(
図4,
図5)が設けられる。凸条部12は、ガイド部材6の周方向に間隔をあけて複数設けられるものであり、凸条部12の各々は、前後方向に延びて、ガイド部材6の前端部に達する。凸条部12の各々の前後方向中間部には、係合凹部13が設けられる。係合凹部13は、ガイド部材6の周方向に凹むものであり、周方向の一方側(前後方向に延びる一側面13aの反対側)や、径外側に、開口を有している(上記の「周方向の一方側」や「径外側」については、
図4参照)。凸条部12の各々の後側にはパイプ牽引部14が設けられる。当該パイプ牽引部14は、前後方向に延びるものであり、凸条部12よりも径外側に突出する。
【0028】
図6(a)はパイプリーダー3の正面図である、
図6(b)の上半分はパイプリーダー3の縦断面図であり、
図6(b)の下半分はパイプリーダー3の側面図である。
【0029】
パイプリーダー3は、金属製の中空筒体から構成されるものであり、前側の大径部20と、後側の小径部21とを有する。大径部20の外径は小径部21の外径よりも大きく、大径部20の内径は小径部21の内径よりも大きい。大径部20の前端部の内周面には雌ネジ部22が形成される。小径部21の外周面には雄ネジ部23が形成される。
【0030】
図7は、削孔ビット4の斜視図である。
図8の上半分は削孔ビット4の縦断面図であり、
図8の下半分は削孔ビット4の側面図である。
図9は削孔ビット4の正面図である。
図10は削孔ビット4の背面図である。
【0031】
削孔ビット4は、前後に開口を有する筒体30と、筒体30と一体に設けられて、筒体30の前側開口51から突出する突出体31とを有する。
【0032】
筒体30は、金属(例えば鋳鉄)から製造されるものであり、前側のフランジ部32と、後側の本体部33とを有しており、フランジ部32の外径は本体部33の外径よりも大きい。
【0033】
本体部33の後端部(筒体30の後端部)の内周面には、径内側に突出する係合凸部35(
図8,
図10)が設けられる。係合凸部35は、係合凹部13(
図5)の数ほど、筒体30の周方向に間隔をあけて設けられる(図示例では、係合凸部35及び係合凹部13は、3つずつ設けられる)。
【0034】
図7及び
図8に示すように、本体部33の後端部の外周面には、雄ネジ部36が形成される。本実施形態の削孔装置1では、パイプリーダー3の大径部20の内側に筒体30の本体部33を挿入して、筒体30の雄ネジ部36とパイプリーダー3の雌ネジ部22とを螺合させてから、これらネジ部36,22が螺合しなくなるまで、大径部20の内側に本体部33をねじ込むことが行なわれる(
図2,
図3(b)~
図3(d)は上記の操作が行なわれた状態を示す)。これにより、削孔ビット4は、パイプリーダー3の前側に取り付けられて、パイプリーダー3を回転させることなく、削孔ビット4を回転させることが可能な状態とされる(削孔ビット4をパイプリーダー3に対して相対回転させることが可能な状態とされる)。
【0035】
また地山Mの削孔中に、削孔ビット4の雄ネジ部36と、パイプリーダー3の雌ネジ部22とが螺合して、削孔ビット4と共にパイプリーダー3が回転することを防止するために、雄ネジ部36と雌ネジ部22とを螺合させるために、パイプリーダー3に対して削孔ビット4を相対的に回転させる方向は、削孔時における回転方向の逆方向とされる。
【0036】
筒体30の前端面40(フランジ部32の前端面40)は、筒体30の軸心T(
図7)に対して、ほぼ垂直な平面として形成されており、当該筒体30の前端面40には複数の硬質刃体41が植設される。当該複数の硬質刃体41は、それぞれ超硬合金チップから形成されており、筒体30の周方向に間隔をあけて設けられる(図示例では、6個の硬質刃体41が筒体30の周方向に等しい間隔をあけて設けられているが、硬質刃体41の数及び間隔は、適宜調整され得る)。なお必ずしも、硬質刃体41を超硬合金チップから形成する必要はなく、例えばサーメット、セラミックス、或いは鋼材から硬質刃体41を形成してもよい。また筒体30と同一の材料から硬質刃体41を形成してもよい。例えば、軟弱地盤の削孔のために削孔ビット4が使用される場合には、筒体30及び硬質刃体41の双方が鋳鉄から形成され得る。また筒体30の材料と硬質刃体41の材料とが同一とされる場合には、硬質刃体41は、筒体30と一体に成型され得る。
【0037】
削孔装置1の使用時には、ジョイントJを介してロッド2がシャンクロッドSに連結された状態で、ジョイントJの前部にパイプPを嵌合させるとともに(
図1)、上述したように、削孔ビット4がパイプリーダー3に対して相対回転可能となるように、削孔ビット4がパイプリーダー3の前側に取り付けられ、且つ、パイプリーダー3の後側をパイプPの先端部に螺着させることが行なわれる(
図2,
図3(b),
図3(c))。上記のパイプリーダー3をパイプPの先端部に螺着することは、パイプリーダー3の小径部21をパイプPの内部に挿入して、小径部21の外周面に形成される雄ネジ部23と、パイプPの内周面に形成される雌ネジ部とを螺合させることで行なわれる。
【0038】
そしてロッド2を前進させることで、筒体30の後側開口42からガイド部材6を筒体30の内部に挿入することが行なわれる(
図3(c),
図3(d))。この際には、ロッド2を適宜回転させることで、凸条部12が係合凸部35に接触することを回避しながら、筒体30の内部にガイド部材6を挿入して、各係合凸部35の側方に係合凹部13を位置させることが行なわれる(
図3(d),
図11(a))。しかる後、ロッド2を回転させることで、各係合凹部13内に係合凸部35を入れることが行なわれる。この際のロッド2の回転方向(
図3(d),
図11(a)に示す矢印の方向)は、削孔時におけるロッド2の回転方向と同じ方向である。これにより
図11(b)に示すように、各係合凹部13に係合凸部35が係合して、ロッド2から筒体30の周方向への回転力と前後方向への推力とを削孔ビット4に加えることが可能となる(すなわち、各係合凸部35の側面35aが係合凹部13の側面13aに当接することで、筒体30の周方向への回転力を削孔ビット4に加えることができ、各係合凸部35の後端面35b(
図8)が係合凹部13の後端面13b(
図4,
図5)に当接することで削孔ビット4に加えることができる)。上記の回転力及び推力は、削岩機Dが生じさせる力であり、ロッド2が削岩機Dに連結されることで、ロッド2を介して削孔ビット4に加えることができる。
【0039】
またロッド2を逆方向(
図3(d),
図11(a)に示す矢印の逆方向)に回転させることで、係合凹部13への係合凸部35の係合を解除することができる。
【0040】
図7~
図9に示すように、突出体31は、筒体30の軸心T上の位置から筒体30の径外側へ放射状に延びる複数の羽根板50から構成されたものである。当該複数の羽根板50は、金属(例えば鋳鉄)から製造されるものであり、当該複数の羽根板50によって筒体30の前側開口51は複数の区画52に分割される。
【0041】
各羽根板50は、側面視で前後方向に延びるものであり、筒体30の前側開口51から突出する前側範囲53と、筒体30の内部に位置する後側範囲54とを有している。各羽根板50の後側範囲54における径外側の端54aは、筒体30に結合される。
【0042】
突出体31の前端面を構成する各羽根板50の前端面56は、筒体30の軸心Tに向かうにつれて前側に突出する傾斜面とされている(
図8参照)。各羽根板50の前端面56には、超硬合金チップから形成された硬質刃体57が植設されている。各硬質刃体57は、羽根板50の径外側の端50aから、筒体30の軸心T近傍まで延びる。なお必ずしも、硬質刃体57を超硬合金チップから形成する必要はなく、例えばサーメット、セラミックス、或いは鋼材から硬質刃体57を形成してもよい。また筒体30と同一の材料から硬質刃体57を形成してもよい。例えば、粘土層などから構成される特に柔らかな軟弱地盤の削孔のために削孔ビット4が使用される場合には、筒体30及び硬質刃体57の双方が鋳鉄から形成され得る。また筒体30の材料と硬質刃体57の材料とが同一とされる場合には、硬質刃体57は、筒体30と一体に成型され得る。
【0043】
各羽根板50の前側範囲53の側面58は、筒体30の軸心Tに対して平行な面とされている。各羽根板50の後側範囲54は、後側になるにつれて、幅が広くなる。
【0044】
各羽根板50の内部には、液体或いは気体である流体を流すための流路60が形成される。突出体31の後端面における軸心T上の位置には、各流路60に流体を流入させるための流入口61が形成される。各流路60は、流入口61から羽根板50の径外側の端50aまで延びるものであり、各流路60の吐出口62が、羽根板50の前側範囲53における径外側の端50aに形成される。
【0045】
図2,
図3(d),
図11(b)に示すように、各係合凸部35が係合凹部13に係合した状態では(すなわちロッド2から削孔ビット4に回転力と推力とを加えることが可能な状態では)、ロッド本体5の空洞7、フラッシングホール11、及び流入口61が連通することで、空洞7を流れる流体を、フラッシングホール11を介して流入口61に供給して、当該流入口61を流れる流体を、各流路60に供給して、各流路60の吐出口62から吐出させることができる。
【0046】
削孔中は、ロッド2から削孔ビット4に回転力及び推力が加えられることで、各羽根板50や硬質刃体41,57による削孔が行なわれて、パイプPを設置する孔が形成される。この際には、削孔ビット4に推力が加えられることで、羽根板50や硬質刃体41,57の各々が地山Mに突き刺さり、削孔ビット4に回転力が加えられることで、羽根板50や硬質刃体41,57の各々によって地山Mが削られて、パイプPを設置する孔が形成される。そして雌ネジ部22のネジ山と雄ネジ部36のネジ山との当接を介して、削孔ビット4が、パイプリーダー3及びパイプPを前向きに引っ張ることや、パイプ牽引部14とパイプリーダー3の後端面70(
図2)との当接を介して、ロッド2が、パイプリーダー3及びパイプPを前向きに引っ張ることで、パイプPは無理なく削孔された孔内に引き込まれる。
【0047】
また削孔中には、各羽根板50に形成された吐出口62から、水、空気等の流体が吐出されることで、羽根板50や硬質刃体41,57によって粉砕された繰粉は、流体(水、空気等)の流れにしたがって、前側開口51の各区画52から削孔ビット4の内部に入り込み、パイプPとロッド2との隙間G(
図11(b))を通って後方へ排出される。
【0048】
所定深さの削孔が行われ、パイプPが所望の深さまで地中に埋設されると、削孔を停止し、削孔とは逆の方向(
図11(a)の矢印と逆の方向)に、ロッド2を回転させる。これにより、係合凸部35が係合凹部13から外れる。この後、ロッド2(ガイド部材6及びロッド本体5)を後退させてパイプPから抜き出すことで、削孔ビット4とパイプリーダー3とはパイプPとともに削孔された孔に残留させられる。
【0049】
1本の削孔とパイプPの埋設を終えたら、当該孔から抜き取ったロッド2に新たな削孔ビット4を取り付けて、引き続き新たな削孔とパイプPの埋設を行うことができる。
【0050】
本実施形態の削孔ビット4によれば、突出体31の各羽根板50が、筒体30の前側開口51から突出することで、回転抵抗が大きい。より具体的にいえば、本実施形態の削孔ビット4によれば、筒体30の前側開口51から突出する羽根板50の前側範囲53の全体が回転に対する抵抗体となる。このため、特許文献1に開示される先端ビットのように、筒体の前側開口の位置から円筒体(特許文献1の小径部23に相当)が突出するビットに比して、本実施形態の削孔ビット4は、回転抵抗を大きくする上で有利な構造を有するといえる。このため、削孔ビット4は、回転力及び推力が加えられる状況下で、地盤の削孔を行なうことに適しており、地盤の性状に応じた回転力及び推力が加えられることで、削孔を迅速に行なうことが可能である。
【0051】
また本実施形態の削孔ビット4によれば、筒体30の前側開口51から突出する各羽根板50の前側範囲53の側面が、筒体30の軸心T(
図7)に対して平行な面とされるとともに、筒体30の内部に収容される各羽根板50の後側範囲54が、後側になるにつれて幅が広くされる。このため各羽根板50の前側範囲53によって回転抵抗を高めつつ、各羽根板50の後側範囲54によって突出体31の強度を高めることができる。したがって、本実施形態の削孔ビット4は、削孔を迅速に行なうことと、パイプPを埋設するのに必要とされる耐久性を確保することとを両立できる。
【0052】
また本発明の実施形態の削孔ビット4によれば、突出体31を構成する各羽根板50の前端面が、筒体30の軸心Tに向かうにつれて前側に突出する傾斜面とされることで、突出体31は地山中に突き刺さりやすい。したがって各羽根板50の側面によって確実に地山Mを削ることができる。
【0053】
本実施形態の削孔装置1によれば、削孔ビット4をロッド2に取り付けるに際し、ロッド本体5の先端部に装着したガイド部材6と削孔ビット4とを相対回転させることにより互いに着脱可能に係合させる機構によって両者を結合し、削孔を行うものであるから、所定深さに削孔した後は、ロッド2を逆回転させて後退させることにより削孔ビット4からガイド部材6を簡単に取り外すことができる。このため、削孔後に削孔ビット4を残してロッド2(ガイド部材6及びロッド本体5)をパイプPの内部を通して回収することができるので、削孔ビット4として簡単な構造の堅牢なものを採用できるようになり、能率よく、経済的にパイプPの埋設を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 削孔装置、
2 ロッド、
3 パイプリーダー、
4 削孔ビット、
30 筒体、
31 突出体、
41 硬質刃体、
50 羽根板、
51 筒体の前側開口、
52 区画、
53 羽根板の前側範囲、
54 羽根板の後側範囲、
56 羽根板の前端面、
57 硬質刃体、
58 羽根板の前側範囲の側面、
60 流路、
61 流入口、
62 吐出口、
D 削岩機、
J ジョイント、
S シャンクロッド