(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】液体材料吐出装置、その塗布装置および塗布方法
(51)【国際特許分類】
B05C 5/00 20060101AFI20220506BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20220506BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
B05C5/00 101
B05C11/10
B05D1/26 Z
(21)【出願番号】P 2021000974
(22)【出願日】2021-01-06
(62)【分割の表示】P 2016109208の分割
【原出願日】2016-05-31
【審査請求日】2021-01-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390026387
【氏名又は名称】武蔵エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(72)【発明者】
【氏名】生島 和正
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-317369(JP,A)
【文献】特開2002-282740(JP,A)
【文献】実開平02-086670(JP,U)
【文献】特開平11-188288(JP,A)
【文献】特開平11-197571(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118669(WO,A1)
【文献】特開2002-021715(JP,A)
【文献】特開2001-246298(JP,A)
【文献】特開平10-151393(JP,A)
【文献】特開2009-219993(JP,A)
【文献】国際公開第2011/037139(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/046481(WO,A1)
【文献】特開2010-087320(JP,A)
【文献】特開2006-281178(JP,A)
【文献】特表2007-530249(JP,A)
【文献】特開2013-192972(JP,A)
【文献】特開2013-208613(JP,A)
【文献】特開2000-292713(JP,A)
【文献】特開平01-303709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00- 5/04
7/00-21/00
B05D1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体材料を貯留する貯留容器と、
貯留容器を加圧する圧縮気体供給源と、
吐出流路を有するノズルと、
往復動作するバルブロッドと、
バルブロッドを駆動するアクチュエータと、
吐出流路と連通する連通孔を有する弁座と、
アクチュエータを制御してバルブロッドの下端で連通孔を開閉する吐出制御装置と、
を備え、負圧空間内で使用される液体材料吐出装置であって、
前記バルブロッドの下端に配置された樹脂膜
と、
前記貯留容器の下端部が挿着される凹部を有し、前記ノズルが設けられたノズル取付部材と、を備え、
前記弁座が、機械的に固定される平らな上面を有するバルブシート部材により構成されており、
前記ノズル取付部材の凹部に取り付けられた前記バルブシート部材が前記貯留容器の先端により機械的に固定されており、
前記バルブロッドの下端が、キャップ状または凹状の前記樹脂膜で覆われていること、
前記樹脂膜が、機械的に固定されており、交換可能であること、
前記樹脂膜の厚さが、前記バルブシート部材の厚さの1/10以下であることを特徴とする液体材料吐出装置。
【請求項2】
前記バルブシート部材が前記バルブロッドの押圧により変形が生じない材質により構成されることを特徴とする請求項1に記載の液体材料吐出装置。
【請求項3】
前記樹脂膜が、10~1000μmの厚みを有することを特徴とする請求項1または2に記載の液体材料吐出装置。
【請求項4】
前記バルブロッドの下端または前記バルブシート部材の上面が、前記樹脂膜と面接触することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の液体材料吐出装置。
【請求項5】
前記バルブロッドの下端が平面であり、前記バルブシート部材の上面が平面であることを特徴とする請求項4に記載の液体材料吐出装置。
【請求項6】
前記樹脂膜が、エンジニアリングプラスチックにより構成されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の液体材料吐出装置。
【請求項7】
前記バルブロッドの下端および前記バルブシート部材が、金属により構成されることを特徴とする請求項6に記載の液体材料吐出装置。
【請求項8】
前記
バルブシート部材が、交換可能
な円盤状の部材であることを特徴とする請求項1ないし
7のいずれかに記載の液体材料吐出装置。
【請求項9】
前記樹脂膜の厚さが、前記バルブシート部材の厚さの1/100以下であることを特徴とする請求項1ないし
8のいずれかに記載の液体材料吐出装置。
【請求項10】
前記吐出制御装置が、前記アクチュエータによるバルブロッドの上昇時の加速時間A
uを2~300[ms」の範囲で制御することを特徴とする請求項1ないし
9のいずれかに記載の液体材料吐出装置。
【請求項11】
前記吐出制御装置が、前記アクチュエータによるバルブロッドの上昇時の目標速度V
1を0.2~30[mm/s]の範囲で制御すること、および/または、前記アクチュエータによるバルブロッドの下降時の加速時間A
dを2~300[ms」の範囲で制御することを特徴とする請求項
10に記載の液体材料吐出装置。
【請求項12】
前記バルブロッドがスライド部材を介してアクチュエータと接続されており、
前記スライド部材が所定の位置にあることを検出するセンサ機構を備え、前記スライド部材の位置を検出することにより前記バルブロッドの下端が前記弁座に当接する位置にあることを検知する位置検知機構を備えることを特徴とする請求項1ないし
11のいずれかに記載の液体材料吐出装置。
【請求項13】
前記バルブロッドと接続され、スライド部材に離間可能に当接して配置されるロッド連動部材と、
ロッド連動部材とスライド部材とを離間可能に当接させる付勢力を与える弾性部材と、を備え、
前記バルブロッドが前記弁座に当接した後、前記アクチュエータにより前記バルブロッドをさらに進出させる力を作用させると前記スライド部材が前記ロッド連動部材と離間して下方に移動し、当該スライド部材の移動をセンサ機構が検知することにより前記バルブロッドの下端が前記弁座に当接する位置にあることを検知することを特徴とする請求項
12に記載の液体材料吐出装置。
【請求項14】
請求項1ないし
13のいずれかに記載の液体材料吐出装置と、
ワークが設置されるワークテーブルと、
前記液体材料吐出装置と前記ワークテーブルとを相対的に移動する相対駆動装置と、
前記液体材料吐出装置、前記ワークテーブルと、前記相対駆動装置とが配置される負圧空間を構成するカバーと、
前記カバー内を負圧にする減圧装置と、
前記相対駆動装置を制御する駆動制御装置と、を備える塗布装置。
【請求項15】
前記減圧装置が、真空ポンプであることを特徴とする請求項
14に記載の塗布装置。
【請求項16】
請求項
14または
15に記載の塗布装置を用いた塗布方法であって、前記減圧装置により前記カバー内を負圧とした状態で前記ワークと前記液体材料吐出装置とを相対移動しながら、ワーク上に液体材料を塗布する塗布方法。
【請求項17】
前記カバー内が実質的に真空であることを特徴とする請求項
16に記載の塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負圧環境下において、液体材料を吐出する装置および方法に関する。本明細書における「負圧環境」には、真空環境が含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
半導体部品などが実装された基板に対して、液状の樹脂(液体材料)を塗布する工程(例えば、ポッティングやアンダーフィルなど)において、液体材料中に気泡が存在すると、吐出量がばらつく、塗布形状や塗布位置が一定しない(描画線が乱れる)、気泡が吐出と同時に排出されて液体材料を飛散させる、ノズルの吐出口周辺に余分な液体が付着する、など様々な悪影響を及ぼす。
【0003】
これら気泡の悪影響を取り除くための方法として、液体材料を真空環境下に置いて脱気を行うという方法がある。脱気を行う最も一般的な方法は、作業を行う前に、液体材料が貯留された実際の作業に用いる容器(シリンジ)をそのまま別の密閉容器の中に入れ、密閉容器内を真空に引くことで液体材料の脱気を行うという方法である。また他の方法として、塗布が行われる空間自体を密閉空間として、内部を真空に引くことで液体材料の脱気を行う塗布装置が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1は、液体材料を収納するとともに吐出口より液体材料を吐出する収納吐出部を備え、塗布対象物に液体材料を塗布する液体材料塗布装置において、収納吐出部及び塗布対象物を少なくとも囲む塗布空間と、塗布空間を負圧状態にする排気系とを有し、塗布空間を負圧状態にして収納吐出部から塗布対象物に対して液体材料を吐出するという塗布装置である。
【0005】
また、特許文献2は、液状樹脂を供給する被塗布品を真空室内に配置し、液状樹脂を供給するディスペンサから被塗布品の所定位置に、真空下において液状樹脂を供給する真空塗布装置であって、被塗布品を収容する真空チェンバーを、被塗布品を収容して支持する第1の容器部分と、ディスペンサのノズルを装着する第2の容器部分とによって構成し、第1の容器部分と第2の容器部分とを、真空チェンバーの気密状態を破ることなくX-Y平面内で相対的に可動とし、第1と第2の容器部分の少なくとも一方をX-Y平面内で移動させ、被塗布品とノズルとの相対的な平面位置を可変とするX-Y駆動部を、真空チェンバーの外部に設置するという塗布装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-211874号公報
【文献】特開2007-111862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
負圧空間内に吐出装置を配置して塗布作業を行う場合、吐出装置の吐出口には常に負圧力が作用している状態であるので、精度良く吐出を行うために、吐出口と連通する開口を備える弁座に弁体(バルブロッド)を当接・離間して吐出口の開閉を行う、いわゆるニードルバルブ式の閉鎖機構が採用されている。
【0008】
ニードルバルブ式の閉鎖機構においては、弁体および弁座の当接部分の加工精度(平面度や孔の真円度など)が悪かったり、長時間の使用により摩耗が生じたりすると、閉鎖時に吐出口から液体が流出してしまうという問題がある。特に、弁体および弁座ともに金属製である場合、閉鎖時の変形量が小さいために、弁体および弁座の当接できない部分ができてしまうため、吐出口からの液体の漏れが大きな問題となっていた。
【0009】
そこで、本発明では、負圧環境下において吐出装置を配置した際に生じる、閉鎖不良よる液体の漏れの問題を改善することができる液体材料吐出装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
着座時の閉鎖性(シール性)を高めるため、弁座を弾性体(例えば、ゴム)で構成することも考えられる。しかし、弾性体により構成した弁座は、バルブロッドが当接したときに変形しすぎてしまうため、変形が吐出流路側にまで及んでしまい、下降時には変形分の液体が余分に排出され、上昇時には変形戻り分を液体が埋めるために排出が遅れる、といった不具合が発生することが分かった。この余分な液体の排出や液体の排出の遅れは、吐出精度を悪化させる原因となる。
加えて、熱による弁座の変形(主に膨張)や応力、ひずみの発生も吐出精度に影響を与えることが分かっている。
【0011】
弁座を構成するバルブシート部材をゴムよりも固いプラスチックにより製作して吐出装置に組み込んだところ、着座時の閉鎖性が十分でなく、吐出口からの液体の漏れが確認された。バルブロッドの力が働く方向に対して厚みがあると変形が生じにくくなり、閉鎖性が低下したためであると推測される。他方で、バルブロッドの押圧力を強くすると、バルブシート部材の変形量が大きくなり、上述のゴムで構成した場合と同様の問題が生じたり、バルブロッドやバルブシート部材の寿命が短くなったりすることが予想される。
発明者は、試行錯誤の結果、最小限の変形量で閉鎖性を高めるために樹脂膜を採用する構成に到達し、本発明の創作をなした。すなわち、本発明は、以下の技術手段により構成される。
【0012】
本発明の液体材料吐出装置は、液体材料を貯留する貯留容器と、貯留容器を加圧する圧縮気体供給源と、吐出流路を有するノズルと、往復動作するバルブロッドと、バルブロッドを駆動するアクチュエータと、吐出流路と連通する連通孔を有する弁座と、アクチュエータを制御してバルブロッドの下端で連通孔を開閉する吐出制御装置と、を備え、負圧空間内で使用される液体材料吐出装置であって、前記バルブロッドの下端に配置された樹脂膜と、前記貯留容器の下端部が挿着される凹部を有し、前記ノズルが設けられたノズル取付部材と、を備え、前記弁座が、機械的に固定される平らな上面を有するバルブシート部材により構成されており、前記ノズル取付部材の凹部に取り付けられた前記バルブシート部材が前記貯留容器の先端により機械的に固定されており、前記バルブロッドの下端が、キャップ状または凹状の前記樹脂膜で覆われていること、前記樹脂膜が、機械的に固定されており、交換可能であること、前記樹脂膜の厚さが、前記バルブシート部材の厚さの1/10以下であることを特徴とする。
上記液体材料吐出装置において、前記バルブシート部材が前記バルブロッドの押圧により変形が生じない材質により構成されることを特徴としてもよい。
上記液体材料吐出装置において、前記樹脂膜が、10~1000μmの厚みを有することを特徴としてもよい。
上記液体材料吐出装置において、前記バルブロッドの下端または前記バルブシート部材の上面が、前記樹脂膜と面接触することを特徴としてもよい。
上記液体材料吐出装置において、前記バルブロッドの下端が平面であり、前記バルブシート部材の上面が平面であることを特徴としてもよい。
上記液体材料吐出装置において、前記樹脂膜が、エンジニアリングプラスチックにより構成されることを特徴としてもよい。
上記液体材料吐出装置において、前記バルブロッドの下端および前記バルブシート部材が、金属により構成されることを特徴としてもよい。
上記液体材料吐出装置において、前記ノズルが、前記貯留容器の下端部が挿着される凹部を有するノズル取付部材により構成されており、ノズル取付部材の凹部に取り付けられたバルブシート部材が前記貯留容器の先端により機械的に固定されており、前記バルブロッドの下端が、キャップ状または凹状の前記樹脂膜で覆われていることを特徴としてもよい。
上記液体材料吐出装置において、前記バルブシート部材が、交換可能な円盤状の部材であることを特徴としてもよい。
上記液体材料吐出装置において、前記樹脂膜の厚さが、前記バルブシート部材の厚さの1/100以下であることを特徴としてもよい。
上記液体材料吐出装置において、前記吐出制御装置が、前記アクチュエータによるバルブロッドの上昇時の加速時間Auを2~300[ms」の範囲で制御することを特徴としてもよい。
上記液体材料吐出装置において、前記吐出制御装置が、前記アクチュエータによるバルブロッドの上昇時の目標速度V1を0.2~30[mm/s]の範囲で制御すること、および/または、前記アクチュエータによるバルブロッドの下降時の加速時間Adを2~300[ms」の範囲で制御することを特徴としてもよい。
上記液体材料吐出装置において、前記バルブロッドがスライド部材を介してアクチュエータと接続されており、前記スライド部材が所定の位置にあることを検出するセンサ機構を備え、前記スライド部材の位置を検出することにより前記バルブロッドの下端が前記弁座に当接する位置にあることを検知する位置検知機構を備えることを特徴としてもよい。
上記液体材料吐出装置において、前記バルブロッドと接続され、スライド部材に離間可能に当接して配置されるロッド連動部材と、ロッド連動部材とスライド部材とを離間可能に当接させる付勢力を与える弾性部材と、を備え、前記バルブロッドが前記弁座に当接した後、前記アクチュエータにより前記バルブロッドをさらに進出させる力を作用させると前記スライド部材が前記ロッド連動部材と離間して下方に移動し、当該スライド部材の移動をセンサ機構が検知することにより前記バルブロッドの下端が前記弁座に当接する位置にあることを検知することを特徴としてもよい。
【0013】
本発明の塗布装置は、上記液体材料吐出装置と、ワークが設置されるワークテーブルと、前記液体材料吐出装置と前記ワークテーブルとを相対的に移動する相対駆動装置と、前記液体材料吐出装置、前記ワークテーブルと、前記相対駆動装置とが配置される負圧空間を構成するカバーと、前記カバー内を負圧にする減圧装置と、前記相対駆動装置を制御する駆動制御装置と、を備える塗布装置である。
上記塗布装置において、前記減圧装置が、真空ポンプであることを特徴としてもよい。
【0014】
本発明の塗布方法は、上記塗布装置を用いた塗布方法であって、前記減圧装置により前記カバー内を負圧とした状態で前記ワークと前記液体材料吐出装置とを相対移動しながら、ワーク上に液体材料を塗布する塗布方法である。
上記塗布方法において、前記カバー内が実質的に真空であることを特徴としてもよい。
【0015】
本発明の第2の観点の液体材料吐出装置は、液体材料を貯留する貯留容器と、貯留容器を加圧する圧縮気体供給源と、吐出流路を有するノズルと、往復動作するバルブロッドと、バルブロッドを駆動するアクチュエータと、吐出流路と連通する連通孔を有する弁座と、アクチュエータを制御してバルブロッドの下端で連通孔を開閉する吐出制御装置と、を備え、負圧空間内で使用される液体材料吐出装置であって、前記バルブロッドの下端に配置された樹脂膜、または、弁座の上面に配置され、前記連通孔と連通する貫通孔を有する樹脂膜を備えることを特徴とする。
上記第2の観点の液体材料吐出装置において、前記樹脂膜が、前記バルブロッドの下端および前記弁座と比べ低弾性率の樹脂により構成されることを特徴としてもよい。
上記液体材料吐出装置において、前記樹脂膜が、10~1000μmの厚みを有することを特徴としてもよい。
上記第2の観点の液体材料吐出装置において、前記バルブロッドの下端または前記弁座の上面が、前記樹脂膜と面接触することを特徴としてもよく、この場合、前記バルブロッドの下端が平面であり、前記弁座の上面が平面であることが好ましい。
上記第2の観点の液体材料吐出装置において、前記樹脂膜の引っ張り強さが、50MPa以上であることを特徴としてもよく、この場合、前記樹脂膜が、エンジニアリングプラスチックにより構成されること、および/または、前記バルブロッドの下端および前記弁座が、金属により構成されることが好ましい。
上記第2の観点の液体材料吐出装置において、前記弁座が、機械的に固定されるバルブシート部材により構成されることを特徴としてもよい。
上記第2の観点の液体材料吐出装置において、前記吐出制御装置が、前記アクチュエータによるバルブロッドの上昇時の加速時間Auを2~300[ms」の範囲で制御することにより、バルブロッドの上昇に伴う気泡の発生を防止することを特徴としてもよく、この場合、前記吐出制御装置が、前記アクチュエータによるバルブロッドの上昇時の目標速度V1を0.2~30[mm/s]の範囲で制御すること、および/または、前記アクチュエータによるバルブロッドの下降時の加速時間Adを2~300[ms」の範囲で制御することが好ましい。
上記第2の観点の液体材料吐出装置において、前記吐出制御装置が、前記アクチュエータによるバルブロッドの上昇時の加速時間Auおよび下降時の加速時間Adを同一に設定することを特徴としてもよい。
上記第2の観点の液体材料吐出装置において、前記アクチュエータが、前記吐出制御装置により前記バルブロッドの進出位置を制御可能なモータを駆動源とすることを特徴してもよく、この場合、前記アクチュエータが、ステッピングモータ、サーボモータおよびリニアモータから選択された一のモータを駆動源とすることを特徴とすることが好ましい。
上記第2の観点の液体材料吐出装置において、前記バルブロッドの下端が前記弁座を閉鎖する位置にあることを検知する位置検知機構を備えることを特徴としてもよく、この場合、前記位置検知機構が、前記アクチュエータと接続されるスライド部材と、スライド部材と接続されるスライダと、スライド部材が所定の位置にあることを検出するセンサ機構と、前記バルブロッドと接続され、スライド部材に離間可能に当接して配置されるロッド連動部材と、ロッド連動部材とスライド部材とを離間可能に当接させる付勢力を与える弾性部材と、を備えて構成され、前記バルブロッドが前記弁座に当接した後、前記アクチュエータにより前記バルブロッドをさらに進出させる力を作用させると前記スライド部材が前記ロッド連動部材と離間して下方に移動し、当該スライド部材の移動をセンサ機構が検知することにより前記バルブロッドの下端が前記弁座を閉鎖する位置にあることを検知することが好ましい。
【0016】
本発明の第2の観点の塗布装置は、上記第2の観点の液体材料吐出装置と、ワークが設置されるワークテーブルと、前記吐出装置と前記ワークテーブルとを相対的に移動するXYZ駆動装置と、前記吐出装置、前記ワークテーブルと、前記XYZ駆動装置とが配置される負圧空間を構成するカバーと、前記カバー内を負圧にする減圧装置と、XYZ駆動装置を制御する駆動制御装置と、を備えることを特徴とする。
上記第2の観点の塗布装置において、前記減圧装置が、真空ポンプであることを特徴としてもよい。
【0017】
本発明の第2の観点の塗布方法は、上記塗布装置を用いた塗布方法であって、前記減圧装置により前記カバー内を負圧とした状態で前記ワークと前記吐出装置とを相対移動しながら、ワーク上に液体材料を塗布することを特徴とする。
上記第2の観点の塗布方法において、前記カバー内が実質的に真空であることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、樹脂膜を介して弁座にバルブロッドを当接させることにより、負圧環境下におけるバルブ閉鎖時の吐出口からの液体漏出の問題を解消することが可能となる。
また、バルブ閉鎖時には、実質的に樹脂膜のみを変形させて閉鎖性を高めるので、吐出精度への悪影響を最小限とすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第一実施形態に係る吐出装置の部分断面正面図である。
【
図4】第一実施形態に係る吐出装置のバルブロッド上昇時の動作を説明する説明図である。
【
図5】第一実施形態に係る吐出装置のバルブロッド下降時の動作を説明する説明図である。
【
図6】第一実施形態に係る吐出装置のバルブロッド接触検知時の動作を説明する説明図である。
【
図7】バルブロッド上昇時の加減速時間を説明するグラフ(概略図)である。
【
図8】第一実施形態に係る塗布装置の概略斜視図である。
【
図9】第二実施形態に係る吐出装置の部分断面正面図のバルブシート部材近傍拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。
<<第一実施形態>>
【0021】
本発明の第一実施形態に係る吐出装置1は、バルブシート部材6の連通孔7および樹脂膜301の貫通孔302をバルブロッド21の上昇動作により開くことで液体材料を吐出し、バルブロッド21の下降動作により閉じることで吐出停止するタイプの吐出装置であり、負圧空間内で塗布装置101に搭載されて使用される。この吐出装置1は、吐出制御装置33により電動のアクチュエータ28の動作を制御することでバルブロッド21の速度や加速度を調整することで気泡の発生を防ぐことが可能である。また、バルブロッド21と樹脂膜301の当接する位置を検知する位置検知機構34を備えており、バルブロッド21またはバルブシート部材6に摩耗が生じた場合でも、バルブシート部材6の連通孔7および樹脂膜301の貫通孔302を確実に閉鎖することを可能としている。
以下では、まず吐出装置1の構成を説明し、次いでその動作を説明する。
【0022】
<構成>
図1に第一実施形態に係る吐出装置の部分断面正面図を示す。
図2に
図1におけるC-C矢視図を示す。
図3に
図1におけるA部拡大図を示す。なお、
図2におけるアクチュエータ側(右側)を「背面」、中心軸線を挟んでその反対側(左側)を「正面」、背面と正面の間に位置する左右の面を「側面」ということがある。
【0023】
吐出装置1は、貯留容器(シリンジ)2と、ノズル3と、ノズル取付部材5と、バルブシート部材6と、樹脂膜301と、本体下部部材10と、位置検知機構34と、樹脂膜301とを備えて構成される。
第一実施形態で使用される貯留容器2は、上端部に鍔部9を有し、下端部に内筒8を有する一般的な樹脂製シリンジであるが、金属製(例えばステンレス製)のシリンジを使用してもよい。貯留容器2にはバルブロッド21が挿通され、内筒8の内部空間がロッド先端部挿通孔を構成する。内筒8には、ノズル取付部材5、バルブシート部材6、樹脂膜301およびノズル3が取り付けられる。
【0024】
ノズル3は管状の部材であり、内部空間が吐出流路4を構成する。ノズル取付部材5がシリンジ2の下端に螺合されることでシリンジ2とノズル3の吐出流路4とがバルブシート部材6および樹脂膜301を介して連通される。
ノズル取付部材5は、円筒状の金属部材であり、底面にノズル3が嵌挿される貫通孔が設けられている。
【0025】
バルブシート部材6は、上面が弁座を構成する円盤状の部材であり、ノズル取付部材5の凹部に装着され、ノズル取付部材5とシリンジ2の下端にある内筒8との間に挟まれるようにして機械的に固定される。バルブシート部材6は、シリンジ2とノズル3の吐出流路4とを連通する、例えばφ0.05~0.3mmの連通孔7を有する。バルブシート部材6は、バルブロッド21の押圧により実質的に変形が生じない材質で構成することが好ましく、例えば金属により構成される。
樹脂膜301は、円盤状のフィルムであり、バルブシート部材6とバルブロッド21との間に設けられ、バルブシート部材6とシリンジ2の下端にある内筒8との間に挟まれるようにして固定される。樹脂膜301の詳細は後述する。
【0026】
本体下部部材10は、下方に突出する挿入部12と、上方に突出する突出部207と、上下に延びる第2ブッシュ挿通孔213とを備える板状部材であり、一方の側面に気体供給ジョイント19が接続されている。また、本体下部部材10の下面には、鉤状の鍔支持部材11が設けられており、シリンジ2の上端の鍔部9を保持する。また、挿入部12は、シリンジの2内径とほぼ同径の円柱形状で、シリンジ2の内部に嵌入する。
なお、本体下部部材10より上側は、安全性確保および防塵等のため、図示しないカバーで覆うことが好ましい。
【0027】
バルブロッド21は、バルブシート部材6付近からアクチュエータ28付近まで延びる長さを有した直線状の部材であり、第1ブッシュ208、第2ブッシュ209、ロッド連動部材221、第1固定部材222、第2固定部材223および弾性部材224に挿通されている。バルブロッド21の下端部は、シリンジの内筒8より幅狭(すなわち、小径)であり、内筒8の内壁とバルブロッド21の側周面との間は液体材料で満たされている。本実施形態では、バルブロッド21の上部が大径の円柱部材、下部が小径の円柱部材からなる段付き構成としているが、バルブロッド21の全長にわたり同径の棒状部材により構成してもよい。バルブロッド21は、バルブシート部材6および樹脂膜301への着座時に実質的に変形が生じない材質で構成することが好ましく、例えば金属により構成される。
第1ブッシュ208および第2ブッシュ209は、バルブロッド21の外周に摺接して支持する筒状の部材であり、バルブロッド21のブレを防止するガイド部材として機能する。すなわち、第1ブッシュ208および第2ブッシュ209のガイドによりバルブロッド21の直進性を良好とし、バルブロッド21の下端とバルブシート部材6との接触位置のズレの発生を防止している。これにより、バルブロッド21の先端、バルブシート部材6の連通孔7、および樹脂膜301の貫通孔302の各中心をぴったり合わせ、液漏れの発生を防いでいる。
【0028】
第2ブッシュ挿通孔213は、本体下部部材10の中心において、突出部207の上面から下端の挿入部12の下面まで貫通して設けられている。第2ブッシュ挿通孔213の径は、第2ブッシュ209と実質同径であるが、下端側の一部が第2ブッシュ209よりも小径(かつ、バルブロッド21の径よりは大径)となっていて、ここにできた段差部分で第2ブッシュ209を支承している。第2ブッシュ挿通孔213の上端側には、第2ブッシュ209を固定するための第2ブッシュ押さえ211が設けられている。
【0029】
挿入部12の内部には、シリンジ2内と圧縮気体流路18とを連通する図示しない連通孔が設けられ、この連通孔から圧縮気体がシリンジ2内へ供給される。挿入部12の外面の下端近傍には、圧縮気体の外部への漏出を防ぐシール部材214が設けられている。
本体下部部材10の上方には、後述する位置検知機構34を内包するように、内部に空間を有する実質直方体形状をした外フレーム201を設けている。
外フレーム201の下部には、嵌入孔202が設けられており、本体下部部材10上面の突出部207が嵌め込んで固定される。
【0030】
外フレーム201の上部には、バルブロッド21を直線移動可能に支持する第1ブッシュ208を配設するための延長部204が設けられており、延長部204の内側には外フレーム201の内部空間と連通する第1ブッシュ挿通孔212が設けられている。この第1ブッシュ挿通孔212も上述の第2ブッシュ挿通孔213と同様に、大径部分と小径部分とからなり、段差部分で第1ブッシュ208を支承している。第1ブッシュ挿通孔212の上端部には、第1ブッシュ208を固定するための第1ブッシュ押さえ210が設けられている。外フレーム201の上部の延長部204の背面側には、アクチュエータロッド31およびアクチュエータ支持部材215を挿通するための開口部206が設けられている。
【0031】
外フレーム201の一方の側面(
図1では向かって左側面であるが、これに限定されず右側面であっても良い)は開放されており、この開放された側面には、開口部203を構成する大きさの取付板44が設置されている。取付板44の内面にはセンサ43が固設されている。第一実施形態のセンサ43は、フォトセンサであるが、例えば、ファイバセンサ、光電センサ、近接センサ(高周波発振形、静電容量形)などの他の種類のセンサを用いてもよい。
センサ43と対向する内フレーム218の外側面には、検知板45が設置されている。本実施形態では、センサ43、取付板44および検知板45により位置検知機構34を構成している。本実施形態とは異なり、内フレーム218の外側面にセンサ43を配置し、それと対向する取付板44に検知板45を設けてもよい。検知動作の詳細については後述する。
【0032】
外フレーム201の正面側は、ほぼ全ての部分が開口しており、この開口を通じてメンテナンスや調整の作業を行うことが可能となっている(
図2参照)。
外フレーム201の背面部205は、本体下部部材10より背面側に張り出して設けられている(
図2参照)。背面部205の正面側(内側)には、板状のアクチュエータ支持部材215が設けられている。アクチュエータ支持部材215は、スライダ216の下端付近から延長部204の上方まで延びており、外フレーム201の上方でアクチュエータ28を支持している。アクチュエータ支持部材215には、正面側にスライドレール217の上を移動可能なスライダ216が配設されている。スライダ216は、アクチュエータロッド31および内フレーム218と連結されている。
【0033】
アクチュエータ28としては、例えば、ステッピングモータ、サーボモータ、リニアモータを用いることができる。アクチュエータ28としてこれらモータを用いるのは、アクチュエータ28で駆動するバルブロッド21の動作の速度や加速度を制御するためである。本実施形態では、アクチュエータ28をレゾルバ付きステッピングモータで構成し、バルブロッド21の動作の速度および加速度を制御している。アクチュエータ28の上端部には、アクチュエータ28の動作を制御する吐出制御装置33と通信するための制御配線32が接続されている。
【0034】
内フレーム218は、外フレーム201より一回り小さく、内部に空間を有するほぼ直方体形状をしている。内フレーム218はスライダ216に連結されており、スライダ216と一体となって移動するスライド部材として機能する。
内フレーム218の正面側は、外フレーム201と同様、ほぼ全ての部分が開口している。
【0035】
内フレーム218の上部には、第1貫通孔219が設けられ、内フレーム218の下部には、第2貫通孔220が設けられており、各貫通孔(219、220)内をバルブロッド21が延在している。第1貫通孔219の径は、バルブロッド21が非接触で上下移動できるようバルブロッド21の径より大径となっている。第2貫通孔220には、第2貫通孔220より小径の第2固定部材223が挿通されている。
【0036】
内フレーム218の内部空間には、ロッド連動部材221が配置されており、ロッド連動部材221の貫通孔にはバルブロッド21が固定挿着されている。スライダ216が上下動すると、スライダ216に連結された内フレーム218が連動し、ロッド連動部材221を介してバルブロッド21も上下動する。
【0037】
ロッド連動部材221のバルブロッド21への固定は、第1固定部材222および第2固定部材223がロッド連動部材221を上下から挟み込むことにより行われている。より詳細には、バルブロッド21の各固定部材(222、223)が取り付けられる部分の外周面には、ネジが形成されており、各固定部材(222、223)の内周面に形成されたネジと螺合することができる。そのため、各固定部材(222、223)の位置を調整することで、ロッド連動部材221を所望の位置に固定することができる。ロッド連動部材221の位置は、バルブロッド21の下端がバルブシート部材6に接触するとき(上述の当接位置)、ロッド連動部材221の底面が内フレーム218の内底面(下部上面)に接触するように位置に調整すると良い(
図1または
図2の状態)。
なお、ロッド連動部材221の固定方法はこれに限定されず、ロッド連動部材221を二つの部品に分け、前後から挟み込んで固定するようにしてもよい。
【0038】
ロッド連動部材221と内フレーム218の天面との間には、バルブロッド21および第1固定部材222が挿通される弾性部材224が配設されている。弾性部材224の一端は内フレーム218の天面に当接し、他端はロッド連動部材221の上面に当接し、ロッド連動部材221を介してバルブロッド21を下方へと付勢している。ロッド連動部材221の上面には弾性部材224と実質同径の凹部が設けられており、弾性部材224の端部がずれないように支持している。本実施形態とは異なり、弾性部材224の上端と当接する内フレーム218の天面に弾性部材224と実質同径の凹部を設けても良い。本実施形態の弾性部材224は圧縮コイルバネであり、バルブロッド21、ロッド連動部材221、第1固定部材222および第2固定部材223を移動させるのに必要な力と同等の反発力(圧縮力)Piiを有している。
【0039】
第一実施形態では、バルブロッド21の中心軸線225と同じ中心軸線上に、第1ブッシュ208、弾性部材224、ロッド連動部材221、第2ブッシュ209、バルブシート部材6、ノズル3を配設しているので、バルブロッド21にモーメント荷重がかかることがない。そのため、バルブロッド21の直進性が向上し、バルブロッド21の下端のブレが少なくなり、バルブロッド21とバルブシート部材6および樹脂膜301との接触位置のズレが小さくなる。つまり、バルブロッド21の先端がバルブシート部材6の連通孔7および樹脂膜301の貫通孔302を確実に閉鎖することができる。
【0040】
また、バルブロッド21を直線移動可能に支持するブッシュ(208、209)をバルブロッド21の中央部(第2ブッシュ209)だけでなく、バルブロッド21の端部(第1ブッシュ208)にも配置することによっても、バルブロッド21の直進性を向上して、バルブロッド21の下端のブレを少なくし、バルブロッド21とバルブシート部材6および樹脂膜301との接触位置のズレを小さくすることに寄与している。
【0041】
また、第1ブッシュ208から第2ブッシュ209間の距離と、第2ブッシュ209からバルブ閉鎖点(バルブロッド21端部とバルブシート部材6との接触点)間の距離とをほぼ同距離とすることによっても、バルブロッド21の下端のブレをより抑制することができる場合がある。
【0042】
図3は、
図1の第一実施形態に係る吐出装置のA部拡大図である。
図3を参照しながら樹脂膜301について詳述する。
円盤状の樹脂膜301は、バルブシート部材6とバルブロッド21との間に配置され、バルブシート部材6とシリンジ2の下端にある内筒8との間に挟まれるようにして固定される。本実施形態のように機械的に固定した場合は、消耗品であるバルブシート部材6や樹脂膜301の交換が容易である。
樹脂膜301の中心には、バルブシート部材6の連通孔7と上面視同形(本実施形態では同径)の貫通孔302が設けられている。貯留容器2と吐出流路4とは、バルブシート部材6の連通孔7および樹脂膜301の貫通孔302を介して連通される。
【0043】
樹脂膜301の厚さ、言い換えるとバルブロッド21の移動方向の寸法は、適切な変形が生じるように肉薄に構成する。より具体的には、樹脂膜301の厚さを、例えば10~1000μm、好ましくは50~100μmとすることが開示される。別の観点からは、樹脂膜301の厚さを、例えばバルブシート部材6の厚さの1/10以下、好ましくは、1/100以下とすることが開示される。樹脂膜301を肉薄にすることで、バルブロッド21の押圧力に対して変形はし易くなるが、変形量は小さく抑えることができる。ここで、樹脂膜301の変形のしやすさは液体材料の漏れに対して有効であり、変形量の小ささは吐出精度の向上に対して有効である。
【0044】
樹脂膜301は、機械的強度や耐熱性に優れたエンジニアリングプラスチックにより構成することが好ましい。エンジニアリングプラスチックとは、機械的強度(例えば、50~200MPa)や耐熱性の高いプラスチックの総称で、金属と従来型プラスチックの中間的な性質を有するものである。例えば、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート(GF-PET)、フッ素樹脂(FR)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、超高分子量ポリエチレン(UHPE)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)などを例として挙げることができる。これらは、用いる液体材料の物性や、その他必要な性質(機械的強度や耐熱性、耐摩耗性など)に応じて適宜選択すると良い。本実施形態では、特にポリイミドを用いた。
【0045】
樹脂膜301のバルブロッド21と接触する側(上面)は、平面となっている。一方、バルブロッド21の下端も平面であり、樹脂膜301の貫通孔302よりも大径であるため、バルブロッド21の下端が、樹脂膜301と面接触する。バルブロッド21の下端は平面とする必要はないが(例えば、球面としてもよいが)、貫通孔302の縁部とエッジで接触するのではなく、貫通孔302の縁部で面接触するように構成することで、閉鎖性を高めることが好ましい。
バルブロッド21の下端面は、樹脂膜301の貫通孔302を塞ぐことができる大きさに構成すれば足りるが、一例を挙げると、直径にして貫通孔302の1.5~20倍、または、3~15倍とすることが開示される。バルブロッド21の下端を面で接触させる構成としたことにより、小さな力で大きな領域を接触させることができるので、変形量を小さく抑えつつ閉鎖に必要な押圧力を加えることができる。
【0046】
以上に説明した本実施形態の吐出装置1によれば、樹脂膜301を機械的強度や耐熱性に優れたエンジニアリングプラスチックで肉薄に構成し、バルブロッド21と面で接触するようにしたことにより、変形量を小さく抑えながら十分な密着性(閉鎖性)を得ることができるので、バルブ閉鎖時の吐出口からの液体材料の漏れを防ぎ、吐出精度を向上させることができる。特に、吐出装置1が真空雰囲気中にあるときの吐出口からの漏れ防止に、非常に有効である。
なお、ノズル取付部材5の底部の厚さ(強度)が十分であれば、バルブシート部材6を設けずに、ノズル取付部材5の内底面上に樹脂膜301を設置して弁座を構成しても、同様の効果を奏することができる。
【0047】
<動作>
第一実施形態に係る吐出装置1の動作について
図4、
図5および
図6を参照しながら説明する。
(上昇動作)
始めに、
図4を参照しながら、バルブロッド21の下端が樹脂膜301に接触した位置から上昇する動作について説明する。アクチュエータ28を動作させ、アクチュエータロッド31が縮むと、接続されているスライダ216が上昇する(符号226)。スライダ216が上昇すると、スライダ216に固定された内フレーム218が一体となって上昇する(符号227)。内フレーム218が上昇すると、内フレーム218の内底面がロッド連動部材221を上昇させ(符号228)、これによりロッド連動部材221が保持しているバルブロッド21が上昇する(符号229)。バルブロッド21の下端が樹脂膜301より離れると、吐出流路4を通過した液体材料が吐出口より流出する。
(第1の下降動作)
【0048】
(第1の下降動作)
次いで、
図5を参照しながら、バルブロッド21の下端が樹脂膜301に接触するまでの下降動作について説明する。アクチュエータ28を動作させ、アクチュエータロッド31が下方に伸びると、スライダ216が下降する(符号230)。スライダ216が下降すると、スライダ216に固定された内フレーム218が一体となって下降し(符号231)、弾性部材224を介してロッド連動部材221を下降させる(符号232)。このとき、弾性部材224である圧縮バネの強さPiiをバルブロッド21、ロッド連動部材221、第1固定部材222および第2固定部材223を移動させるのに必要な力と同等としているので、バネ224は実質的に縮むことはない(従って、第1の下降動作の間、ロッド連動部材221の底面は内フレーム218の内底面と当接状態にある。)。
ロッド連動部材221が下降すると、バルブロッド21も下降し(符号233)、バルブロッド21の下端が樹脂膜301に接触する。これにより、吐出流路4と貯留容器2との連通が遮断され、吐出口からの液体材料の流出が停止する。
【0049】
(第2の下降動作)
次いで、
図6を参照しながら、バルブロッド21の位置を安全閉鎖位置とするための下降動作について説明する。バルブロッド21の下端が樹脂膜301に接触した後も、アクチュエータロッド31が下方に伸び続けると、スライダ216はさらに下降し(符号234)、スライダ216に固定されている内フレーム218も一体となって下降する(符号235)。内フレーム218が下降すると、内フレーム218に設置されている検知板45がセンサ43から外れる。これを、センサ43が検知すると、検知信号を吐出制御装置33に送信する。吐出制御装置33は、この検知板45がセンサ43から外れる位置を初期検知位置(または当接位置)として記憶する。
【0050】
上述したように、バルブロッド21の下端が樹脂膜301に接触した状態でスライダ216が下降すると、弾性部材224が縮み、その反発力としてロッド連動部材221を下方へ付勢する力が働く(符号236)。この力は、バルブロッド21を樹脂膜301に押し付けるような力となり(符号237)、アクチュエータロッド31を初期検知位置から所定の距離(例えば1mm)だけさらに下降させた安全閉鎖位置に位置させる。これにより、バルブロッド21による樹脂膜301の閉鎖を確実にしている。
【0051】
なお、本実施形態では、検知板45がセンサ43から外れる初期検知位置からさらに下降させる仕様を採用したが、検知板45の位置を調整して、バルブロッド21の下端が樹脂膜301に接触し、さらに下降してバネ42が一定の長さだけ伸びた位置で検知板45がセンサ43から外れる仕様としてもよい。また、位置検知機構34は、センサ43を設けずに構成することもできる。例えば、アクチュエータ28に用いるモータに取り付けたエンコーダ等によりモータ軸の回転角度や移動量を検出し、そこから求まるバルブロッド21の進退位置を利用して、バルブロッド21の接触位置検知を行ってもよい。
【0052】
(加速時間の制御)
本実施形態では、アクチュエータ28によるバルブロッド21の上昇動作において、上昇速度および加速度(本実施形態では、加減速時間)を制御することで、バルブロッド21の下端付近で起きる液体圧力の低下とそれに伴う気泡の発生を抑えている。
【0053】
図7は、バルブロッド上昇時の加減速時間を説明するグラフ(概略図)であり、縦軸Vは速度、横軸tは時間を表している。バルブロッド21は、tがゼロのとき初期検知位置(当接位置)にあり、上方移動速度Vはゼロである。同図中、Aが加速時間であり、Bが減速時間となる。目標速度V
1に到達するための上昇時加速時間A
uが一定の値より小さいと、気泡発生の問題が生じる。アンダーフィル材を用いた吐出実験で確認したところ、目標速度V
1として、例えば0.2~30[mm/s](好ましくは0.5~20[mm/s])、上昇時加速時間A
uとして、例えば2~300[ms](好ましくは5~200[ms])という条件で吐出を行うと、気泡を発生させることなく吐出を行うことができた。なお、従来装置では、目標速度V
1が上記数値の約10倍大きい、加速時間Aが上記数値の約1/10小さい、という条件で吐出を行っていた。
上昇時減速時間B
uは、上昇時加速時間A
uと同じ数値を設定するか、加速時間として許容される範囲(例えば2~300[ms])の数値を設定する。
【0054】
バルブロッド21の下降動作における下降時加速時間Adおよび下降時減速時間Bdは、上昇時加速時間Auおよび上昇時減速時間Buと同じ数値を設定するか、加速時間として許容される範囲(例えば2~300[ms])の数値を設定する。従来装置のように、下降動作を急激にすることは、制御不能な吐出量の増加を招く原因となり、好ましく無い。
【0055】
(吐出動作)
上述の上昇動作および下降動作を含む、液体材料の吐出動作は次のとおりである。
まず、圧縮気体源から圧縮気体供給管20を介して気体供給ジョイント19に圧縮気体が供給され、圧縮気体流路18および図示しない連通孔を介してシリンジ2の中に貯留されている液体材料を加圧する。そして、吐出制御装置33から吐出開始の信号をアクチュエータ28が受け取ると、制御された速度と加減速時間でバルブロッド21を上昇させることにより、吐出口から液体材料が吐出される。所望とする吐出量に対応した時間が経過した後、吐出制御装置33から吐出終了の信号をアクチュエータ28が受け取り、バルブロッド21を下降させ、バルブロッド21の下端で樹脂膜301の貫通孔302(およびバルブシート部材6の連通孔7)を閉鎖する(第1の下降動作)。以上が、基本的な1回分の吐出動作となる。供給する圧縮気体の圧力、バルブロッド21の上昇距離、バルブ開放時間等は、用いる液体材料の物性や状態(粘度、温度等)により適宜設定するものである。また、ノズル3の径や長さ、バルブシート部材6の連通孔7および樹脂膜301の貫通孔302の径なども条件に応じて変更することができる。
【0056】
以上のように、シリンジ2の端部に取り付けられたノズル3の吐出流路4と連通する樹脂膜301の貫通孔302(およびバルブシート部材6の連通孔7)を、バルブロッド21の上下動により開閉することで液体材料を吐出する本実施形態の吐出装置1において、バルブロッド21の上下動に速度や加速度(加減速時間)を調整可能な電動アクチュエータ28を用い、その制御を行うことで、バルブロッド21の上昇時の圧力低下により気泡が内筒8内(ロッド先端部挿通孔内)で発生することを防ぐことが可能となる。これにより、液体材料中の気泡により吐出した液体材料が飛散したり描画線を乱したりするなどの課題を解決することが可能である。
また、既存のシリンジを利用し、バルブロッド21を簡単に着脱できる構造であるため、洗浄や組立などのメンテナンスが容易である。
また、圧縮気体で液体材料を圧送し、バルブロッド21で開閉する構成を備えるので、応答性がよく、高速(高流量)で安定した吐出を行うことができる。
【0057】
さらに、位置検知機構34を備えることにより、バルブロッド21の下端による樹脂膜301の貫通孔302(およびバルブシート部材6の連通孔7)の閉鎖を確実に行うことが可能となる。そして、第一実施形態では、位置検知機構34でバルブロッド21の下端と樹脂膜301の当接位置を正確に検出することにより、長時間の使用後も、液体材料の漏れが生じる危険性を解消している。
加えて、バルブシート部材6とバルブロッド21との間に樹脂膜301を設けたことにより、閉鎖時の吐出口からの液体材料の漏れを防ぎ、吐出精度を向上させることができる。
【0058】
<塗布装置>
図8に、第一実施形態に係る吐出装置1を搭載した塗布装置101の概略斜視図を示す。
第一実施形態にかかる塗布装置101は、架台102の上に、塗布対象物であるワーク103を載置するテーブル104と、上述の吐出装置1をワーク103に対して相対的に移動させるX駆動装置105、Y駆動装置106、Z駆動装置107を備える。XYZ駆動装置(105、106、107)は、それぞれ符号108、109、110の方向へ移動することができる。架台102の内部には、上述の吐出装置1の動作を制御する吐出制御装置33と、上述の各駆動装置(105、106、107)の動作を制御する駆動制御装置111をと備える。架台102から上は、点線で示したカバー112に囲まれ、図示しない真空ポンプ等を用いることにより、内部を負圧環境とすることができる。カバー112には、内部へアクセスするための扉を設けてもよい。なお、本実施形態では、内部を負圧環境としているが、大気圧として塗布作業をすることも可能である。
【0059】
<<第二実施形態>>
図9に示す第二実施形態の液体材料吐出装置1は、樹脂膜303がバルブロッド21の下端部に固設されている点で第一実施形態と相違する。以下では、第一実施形態との相違点を中心に説明し、共通する要素については説明を割愛する。
【0060】
図9に第二実施形態に係る吐出装置の部分断面正面図のバルブシート部材近傍拡大図を示す。
第二実施形態のバルブロッド21は、第一実施形態と同様、下端部が細径の円柱状に構成されている。樹脂膜303は、バルブロッド21の下端部を覆うキャップ状または凹状の部材であり、図示しない固定部材(例えば、環状部材)により機械的に固定されている。この固定部材と係合する凸部または凹部をバルブロッド21の側面に設けてもよい。
第二実施形態の樹脂膜303は、第一実施形態と異なり、連通孔は存在しない。樹脂膜303は、バルブロッド21とともに上下動し、弁座を構成するバルブシート部材6への着座時にバルブロッド21の下端面によりバルブシート部材6へ押圧される。その他の構成については、第一実施形態と同様である。
【0061】
第二実施形態においては、第一実施形態とは異なり、バルブロッド21の動作により、バルブシート部材6と樹脂膜303との間で接触および離間するが、バルブシート部材6とバルブロッド21との間に位置する樹脂膜303により、第一実施形態と同様の効果が奏される。すなわち、樹脂膜303を機械的強度や耐熱性に優れたエンジニアリングプラスチックで肉薄に構成し、バルブロッド21と面で接触するようにしたことにより、変形量を小さく抑えながら十分な密着性(閉鎖性)を得ることができるので、バルブ閉鎖時の吐出口からの液体材料の漏れを防ぎ、吐出精度を向上させることができる。第二実施形態においても、吐出装置1が真空雰囲気中にあるときの吐出口からの漏れ防止に、非常に有効である。
なお、ノズル取付部材5の底部の厚さ(強度)が十分であれば、バルブシート部材6を設けず、ノズル取付部材5の内底面により弁座を構成しても、同様の効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0062】
1:吐出装置、2:貯留容器/シリンジ、3:ノズル、4:吐出流路、5:ノズル取付部材、6:バルブシート部材、7:連通孔、8:内筒(ロッド先端部挿通孔)、9:鍔部、10:本体下部部材、11:鍔支持部材、12:挿入部、18:圧縮気体流路、19:気体供給ジョイント、20:圧縮気体供給管、21:バルブロッド、28:アクチュエータ、31:アクチュエータロッド、32:制御配線、33:吐出制御装置、34:位置検知機構、43:センサ、44:取付板、45:検知板、101:塗布装置、102:架台、103:塗布対象物/ワーク、104:テーブル、105:X駆動装置、106:Y駆動装置、107:Z駆動装置、108:X移動方向、109:Y移動方向、110:Z移動方向、111:駆動制御装置、112:カバー、201:外フレーム、202:嵌入孔、203:開口部(側面)、204:延長部、205:背面部、206:開口部(背面)、207:突出部、208:第1ブッシュ、209:第2ブッシュ、210:第1ブッシュ押さえ、211:第2ブッシュ押さえ、212:第1ブッシュ挿通孔、213:第2ブッシュ挿通孔、214:シール部材、215:アクチュエータ支持部材、216:スライダ、217:スライドレール、218:内フレーム、219:第1貫通孔、220:第2貫通孔、221:ロッド連動部材、222:第1固定部材、223:第2固定部材、224:弾性部材、225:中心軸線、226:スライダ上昇、227:内フレーム上昇、228:ロッド保持部材上昇、229:バルブロッド上昇、230:スライダ下降、231:内フレーム下降、232:ロッド保持部材下降、233:バルブロッド下降、234:スライダ下降、235:内フレーム下降、236:ロッド保持部材を下方へ付勢する力、237:バルブロッドを樹脂膜へ押し付ける力、301:樹脂膜、302:貫通孔(樹脂膜)、303:樹脂膜