(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】易解体性接着材料
(51)【国際特許分類】
C09J 201/02 20060101AFI20220506BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220506BHJP
C09J 133/00 20060101ALI20220506BHJP
C09J 5/00 20060101ALI20220506BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
C09J201/02
C09J11/06
C09J133/00
C09J5/00
C08F220/10
(21)【出願番号】P 2021564882
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2021017543
(87)【国際公開番号】W WO2021225167
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2021-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2020082844
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「界面マルチスケール4次元解析による革新的接着技術の構築」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 絵理子
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第02762171(EP,A1)
【文献】米国特許第06780897(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第104211903(CN,A)
【文献】特表2005-536608(JP,A)
【文献】特開2010-040521(JP,A)
【文献】山下陽司,分解性基を高密度に導入した熱硬化性ハイパーブランチポリマーの合成と分解挙動,第37回「粘着技術研究会」講演要旨集,日本,2016年07月15日,p.15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
C08F 220/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)および解体性付与剤(Q)を含み、
前記熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、第1の熱硬化性基として側鎖末端に位置するエチレン性不飽和二重結合基を含むとともに、第1の熱硬化性基とは異なる第2の熱硬化性基を有する、デュアル硬化型の熱硬化性ハイパーブランチポリマーであり、
前記解体性付与剤(Q)は、第2の熱硬化性基に対して反応性を有する反応性基を分子内に2以上有する化合物(q1)、および、第2の熱硬化性基同士の反応を促進する触媒化合物(q2)のうち、いずれか一方または両方を含む、
易解体性接着材料。
【請求項2】
請求項1に記載の易解体性接着材料であって、
前記解体性付与剤(Q)が前記化合物(q1)を含み、
第2の熱硬化性基と反応性基のうち、一方がエポキシ基またはオキセタニル基であり、他方が、アミノ基、カルボキシル基、水酸基またはチオール基である、易解体性接着材料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)が以下の構造単位Iおよび構造単位IIを含む、易解体性接着材料。
(構造単位I)
【化1】
[式中、R
11およびR
12は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、Aは直接結合または二価の基を表す。]
(構造単位II)
【化2】
[式中、R
21は、水素原子またはメチル基を表し、Bは直接結合または二価の基を表し、Epはエポキシ基を含む一価の基を表す。]
【請求項4】
請求項3に記載の易解体性接着材料であって、
Ep基が、グリジリル基または3,4-エポキシシクロヘキシル基を含む、易解体性接着材料。
【請求項5】
請求項4に記載の易解体性接着材料であって、
(-B-Ep)基が、以下の式(E1)、
【化3】
[R
22は、直接結合、炭素数1~18のアルキレン基または炭素数1~18のオキシアルキレン基である。]
または、以下の式(E2)、
【化4】
[R
23は、直接結合、炭素数1~18のアルキレン基または炭素数1~18のオキシアルキレン基である。]
で表されるいずれかの基である、易解体性接着材料。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)一分子当たりに含まれる、側鎖末端の前記エチレン性不飽和二重結合基の数Naが、0.1以上30以下である、易解体性接着材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記第2の熱硬化性基がエポキシ基を含み、
前記熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)一分子当たりに含まれる、側鎖末端に位置するエポキシ基の数Nbが、0.1以上20以下である、易解体性接着材料。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記第2の熱硬化性基がエポキシ基を含み、
前記熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)一分子当たりに含まれる、側鎖末端の前記エチレン性不飽和二重結合基の数Naと側鎖末端に位置するエポキシ基の数Nbとの比Nb/Naが、0.1以上10以下である、易解体性接着材料。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)の数平均分子量Mnが、0.5×10
3以上、5×10
4以下である、易解体性接着材料。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
当該易解体性接着材料を80℃で7時間の熱処理により硬化させて得られる硬化体の5%重量減少温度が180℃以上である、易解体性接着材料。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記解体性付与剤(Q)は、アミノ基を2以上有する化合物を含む、易解体性接着材料。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
以下の条件で測定されるF2およびF1の比(F2/F1)が0.9以下である、易解体性接着材料。
(条件)
(i)被着体としてSUS304を用い、2枚の被着体同士を当該易解体性接着材料により接着させた試料について、JIS K 6850:1999に準拠してせん断接着強度を測定する。
(ii)当該易解体性接着材料を80℃7時間の第1熱処理条件で加熱処理して得られる試料1のせん断接着強度をF1とし、当該易解体性接着材料を前記第1熱処理条件で加熱処理した後、180℃2時間の第2熱処理条件で加熱処理して得られる試料2のせん断接着強度をF2とする。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
以下の条件で測定されるE2およびE1の比(E2/E1)が、0.8以上1.2以下である、易解体性接着材料。
(条件)
(i)被着体としてSUS304を用い、2枚の被着体同士を当該易解体性接着材料により接着させた試料について、JIS K 6850:1999に準拠してせん断接着試験を行い、得られた応力-歪み曲線から、せん断試験による弾性率を求める。
(ii)当該易解体性接着材料を80℃7時間の第1熱処理条件で加熱処理して得られる試料1の前記弾性率をE1とし、当該易解体性接着材料を前記第1熱処理条件で加熱処理した後、180℃2時間の第2熱処理条件で加熱処理して得られる試料2の前記弾性率をE2とする。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
以下の条件で測定される5%重量減少温度T2およびT1の差(T2-T1)が、-20℃以上10℃以下である、易解体性接着材料。
(条件)
当該易解体性接着材料を80℃7時間の第1熱処理条件で加熱処理して得られる試料1の5%重量減少温度をT1とし、当該易解体性接着材料を前記第1熱処理条件で加熱処理した後、180℃2時間の第2熱処理条件で加熱処理して得られる試料2の5%重量減少温度をT2とする。
【請求項15】
請求項1から14のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
前記熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、
二以上のエチレン性不飽和二重結合基を有する多官能モノマー(a)と、
エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合基を有するモノマー(b)と、
を含む重合材料(但し、多官能モノマー(a)は、モノマー(b)に該当するものを除く)を重合して得られる、易解体性接着材料。
【請求項16】
請求項15に記載の易解体性接着材料であって、
前記重合材料は、一般式(I):
【化5】
[式中、R
1はハロゲン原子、-SR基、-OR基、-OOR基または-C(R)
3基であり(Rは水素原子または炭素数1~4のアルキル基である。-C(R)
3基における3つのRは、同一であっても異なっていてもよい。)、R
2は水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。]
で表される付加開裂連鎖移動剤(c)をさらに含む、易解体性接着材料。
【請求項17】
請求項15または16に記載の易解体性接着材料であって、
前記多官能モノマー(a)が、分子内の両末端にエチレン性不飽和二重結合基を有する化合物である、易解体性接着材料。
【請求項18】
請求項15から17のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合基を有するモノマー(b)が、グリシジル基含有メタアクリル酸エステル、ビニルベンジルグリシジルエーテルおよび脂環式エポキシ基含有メタアクリル酸エステルからなる群から選ばれる一または二以上のエポキシ化合物を含む、易解体性接着材料。
【請求項19】
請求項1から18のいずれか1項に記載の易解体性接着材料であって、
当該易解体性接着材料を被着体の表面に付着させ、第1の熱処理を行うことにより前記被着体に接合する硬化体を得た後、該硬化体に第2の熱処理を行うことにより前記被着体と前記硬化体とを解体するのに用いられる、易解体性接着材料。
【請求項20】
被着体と、該被着体に接合した、請求項1~19のいずれか一項に記載の易解体性接着材料の硬化体とを含む物品。
【請求項21】
請求項20に記載の物品を加熱して前記被着体と前記易解体性接着材料の硬化体とを解体する工程を含む、解体方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易解体性接着技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
易解体性接着材料とは、使用目的に応じた十分な接着強度と、任意のタイミングで接着強度を低下させ容易に剥離(解体)可能な性質を併せ持つ接着材料であり、異種材料の分別回収や不良部品の修理・交換、製造工程での仮接着による生産性向上等を目的とする用途での需要が高まっている。接着剤として用いるポリマーの分解による機械強度の低下、高分子反応に伴う物性変化、光異性化に伴う固液変換、熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張に伴う接着剤層の膨張変形など様々な解体の仕掛けが検討されている。 たとえば熱膨張マイクロカプセルを配合した接着材に関する先行技術文献として、特許文献1が挙げられる。また、特許文献2には、アルコキシカルボニルオキシスチレン構造単位(a)及びグリシジル基含有(メタ)アクリレート構造単位(b)を有する共重合体(X)と、酸発生剤(Y)とを含有する接着剤組成物が記載されている。
【0003】
本発明者は、こうした先行技術とは異なった観点から、高分子反応にともなう物性変化を利用した易解体性接着材料の設計および開発を進めてきた(非特許文献1)。非特許文献1には、側鎖にターシャルブトキシカルボニル基を有するポリマーを用い、この官能基の分解により接着強度が低下するメカニズムによる易解体性接着材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-225544号公報
【文献】特開2015-7189号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】鈴木文哉,佐藤絵理子,松本章一 "日本接着学会誌",VOL.53,No.1,4-10ページ(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
易解体性接着材料を設計するには、一度発現させた接着強さを再び低下させる必要がある。また、経年劣化等と異なり、オンデマンドかつ短時間で解体することが要求されるため、外部刺激に応答して速やかに界面相互作用の低下や弾性率変化が起こるような「仕掛け」をあらかじめ組み込んでおく必要がある。
【0007】
易解体性接着材料を設計する上で最も重要な点は、使用時の高い接着強度や長期安定性と弱い力で簡単に剥がせる解体性をいかに両立させるかである。すなわち、解体のための仕掛けが接着性を阻害しないこと、および任意のタイミングで接着強さが低下することが設計上のポイントとなる。これら相反する性質の両立は容易ではない場合が多い。
【0008】
また、易解体性接着材料の主な使用目的が被着体の再利用や分別回収、製造工程での仮接着であることを考慮すると、被着体に糊残りする凝集破壊ではなく、被着体と接着材料の界面での解体も望まれる。
さらに、解体時に際し、揮発性有機化合物の排出がないことが望まれる。接着剤材料の分解を利用する従来技術では、VOC排出が避けられない。
【0009】
以上を踏まえ、本発明は、優れた接着強度と易解体性とを兼ね備える易解体性接着材料を提供するものである。また、本発明は、被着体と接着材料の界面で容易に解体し、界面の接着剤量残りが抑制された易解体性接着材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の接着剤においては、特定の官能基を有するデュアル硬化型の新規な熱硬化性ハイパーブランチポリマーを用い、これにより、優れた実用強度と易解体性とを高い水準でバランスさせている。
【0011】
本発明によれば、
熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)および解体性付与剤(Q)を含み、
上記熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、第1の熱硬化性基として側鎖末端に位置するエチレン性不飽和二重結合基を含むとともに、第1の熱硬化性基とは異なる第2の熱硬化性基を有する、デュアル硬化型の熱硬化性ハイパーブランチポリマーであり、
上記解体性付与剤(Q)は、第2の熱硬化性基に対して反応性を有する反応性基を分子内に2以上有する化合物(q1)、および、第2の熱硬化性基同士の反応を促進する触媒化合物(q2)のうち、いずれか一方または両方を含む、
易解体性接着材料。
が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、被着体と、該被着体に接合した、上記易解体性接着材料の硬化体とを含む物品が提供される。
【0013】
また、本発明によれば、上記物品を加熱して上記被着体と上記易解体性接着材料の硬化体とを解体する工程を含む、解体方法が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、二以上のエチレン性不飽和二重結合基を有する多官能モノマー(a)と、エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合基を有するモノマー(b)と、を含む重合材料を重合して得られる、デュアル硬化型の熱硬化性ハイパーブランチポリマーが提供される。
【0015】
また、本発明によれば、上記熱硬化性ハイパーブランチポリマーを硬化させて得られる硬化体が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、優れた接着強度と易解体性とを兼ね備える易解体性接着材料が提供される。本発明によれば、被着体と接着材料の界面で容易に解体することができる。また、解体時に接着剤が分解しないので、揮発性有機化合物の排出を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来の多官能ハイパーブランチポリマーの反応機構および分子構造を示す図である。
【
図2】従来の多官能ハイパーブランチポリマーの分子構造を模式的に表す図である。
【
図3】実施例の熱硬化性ハイパーブランチポリマーを得るための反応を示す図である。
【
図4】実施例で得られた熱硬化性ハイパーブランチポリマーの
1H-NMRスペクトルおよび帰属を示す図である。
【
図5】実施例で得られた熱硬化性ハイパーブランチポリマーのTG-DTA曲線を示す図である。
【
図6】実施例で得られた熱硬化性ハイパーブランチポリマーのTG-DTA曲線を示す図である。
【
図7】実施例で得られた熱硬化性ハイパーブランチポリマーのTG-DTA曲線を示す図である。
【
図8】熱硬化性ハイパーブランチポリマーP1+DETA(実施例B3)の応力―変位曲線である。
【
図9】実施例の易解体性接着材料およびハイパーブランチポリマーのTG-DTA測定結果を示した図である。
【
図10】実施例の易解体性接着材料およびハイパーブランチポリマーのTG-DTA測定結果を示した図である。
【
図11】実施例の易解体性接着材料およびハイパーブランチポリマーのTG-DTA測定結果を示した図である。
【
図12】実施例の易解体性接着材料の熱特性を示した図である。
【
図13】実施例の易解体性接着材料の赤外吸収スペクトルの測定結果を示す図である。
【
図14】実施例の易解体性接着材料におけるビニル基およびエポキシ基の反応推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。なお、以下の説明において、数値範囲の「~」なる表記は、特にことわりがない限り、「以上、以下」を示す。例えば、1~5質量%との表記は、1質量%以上5質量%以下を意味する。
【0019】
[易解体性接着材料の基本構成]
本実施形態の易解体性接着材料は、熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)および解体性付与剤(Q)を含む。
【0020】
後述するように、熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)とは、不規則に枝分かれ構造を有する多分岐高分子であって、多数の分岐鎖から構成される。なお、ここでいう分岐鎖とは、いわゆる「幹」と「枝」の両方を含む概念である。
熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、第1の熱硬化性基として側鎖末端に位置するエチレン性不飽和二重結合基を含むとともに、第1の熱硬化性基とは異なる第2の熱硬化性基を有する、デュアル硬化型の熱硬化性ハイパーブランチポリマーである。デュアル硬化型とは、2種類の異なる熱硬化反応を起こす熱硬化性基を備えることをいう。また、第一の熱硬化性基が「側鎖末端」に位置するとは、第一の熱硬化性基が(i)分岐鎖の末端に存在する場合と、(ii)分岐鎖の末端ではない部分から伸びるペンダント基の末端に存在する場合、の両方を包含する。
第1の熱硬化性基および第2の熱硬化性基は、いずれも、分子内に複数存在し得る。第2の熱硬化性基は、側鎖末端に位置するものとしてもよい。
解体性付与剤(Q)は、第2の熱硬化性基に対して反応性を有する反応性基を分子内に2以上有する化合物(q1)、および、第2の熱硬化性基同士の反応を促進する触媒化合物(q2)のうち、いずれか一方または両方を含む。
【0021】
本発明者は、これまでにも多官能ハイパーブランチポリマーの合成に成功し、以下の文献等ですでに報告している。
文献:
(i)特許第6516319号公報
(ii)"ラジカル捕捉による多官能ハイパーブランチポリマーの熱硬化開始機構の解析"「ネットワークポリマー」Vol.36,No.4(2015)
【0022】
これら文献に記載の多官能ハイパーブランチポリマーは、
図1に示す反応機構により得られるポリマーであり、ジビニルモノマーとしてエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、AFCT剤として2-(ブロモメチル)アクリル酸メチル(MBMA)を用いたものである。この多官能モノマーは、
図2に示すように、熱硬化性の反応性基として末端エチレン性不飽和二重結合のみを有している。
【0023】
これに対して、本実施形態の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、2種類の熱硬化性の反応性基を有する、「デュアル硬化型」のハイパーブランチポリマーである点が特徴である。本実施形態の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)における代表的な反応性基としては、第1の熱硬化性基が末端エチレン性不飽和二重結合であり、第2の熱硬化性基がエポキシ基またはオキセタニル基である態様が挙げられる。
このような「デュアル硬化型」のハイパーブランチポリマー(P)を、解体性付与剤(Q)と組み合わせることによって、使用時の高い接着強度と、弱い力で簡単に剥がせる解体性とを、高いレベルで両立させることができる。
【0024】
本実施形態の易解体性接着材料は、第1および第2の熱硬化性基を有するデュアル硬化型の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)と、解体性付与剤(Q)とを含むため、優れた実用強度と易解体性とを兼ね備える。本実施形態の易解体性接着材料を被着体に付着させた後、第1の熱処理を施すと、第1および第2の熱硬化性基の一部が反応して3次元架橋構造を有する硬化体が得られる。その後、第2の熱処理を施すと、残存する熱硬化性基が解体性付与剤(Q)の作用により反応することで硬化が進み、硬化体から被着体から剥離させて解体することができる。
反応性の異なる2種類の反応性基を有するポリマー自体は一般的なものである。単に2種類の熱硬化性基を有するポリマーを用いただけでは、易解体性を発現させることは困難である。本実施形態の易解体性接着材料は、熱硬化性ハイパーブランチポリマーに対して反応性の異なる2種類の熱硬化性基を導入するとともに、このポリマーと解体性付与剤(Q)とを組み合わせた点に特徴を有する。このような構成を採用することによって、第1熱処理により接着強度や弾性率等の機械的強度を実用的レベルに到達させるとともに、第2熱処理により弱い力で簡単に剥離可能としている。
2種類の熱硬化性基を有する熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)を用いることで充分な機械的強度と易解体性を両立できる理由については必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。後述するように、熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)とは、不規則に枝分かれ構造を有する多分岐高分子であり、分子鎖が三次元的に広がっている。このため、第1熱処理により硬化させた段階で、解体のためのその後の熱処理で反応を起こす熱硬化性基を充分に残存させることができることによると考えられる。
【0025】
本実施形態の易解体性接着材料は、反応性の異なる2種類の熱硬化性基(反応性基)を有する。このため、第1の熱処理で硬化体を得た段階において残余の熱硬化性基が充分に存在した状態とすることができる。これにより、第2の熱処理によって解体性付与剤(Q)との相互作用により、さらに硬化反応を進行させることができる。このため、第2の熱処理後、室温に戻した段階で、硬化体と被着体との接着界面に大きな残留熱応力を発生させ、剥離、解体させることができる。
【0026】
第1および第2の熱処理を行ったときに生じる反応については種々の態様が含まれる。代表的には、第1の熱処理によって少なくとも第1の熱硬化性基同士が反応し、第2の熱処理によって少なくとも第2の熱硬化性基が解体性付与剤(Q)の作用により反応する態様が挙げられる。第2の熱硬化性基が解体性付与剤(Q)の作用により反応する態様としては、第2の熱硬化性基が化合物(q1)と反応することで熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)同士が結合する態様や、触媒化合物(q2)により第2の熱硬化性基同士が反応し熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)が結合する態様が挙げられる(化合物(q1)および触媒化合物(q2)の詳細は後述する)。
【0027】
本実施形態の易解体性接着材料は、第1および第2の熱硬化性基を有するデュアル硬化型の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)と、解体性付与剤(Q)を含む。解体性付与剤(Q)として反応性を有する反応性基を分子内に2以上有する化合物(q1)を用いた場合、第2の熱硬化性基と反応性基の組合せとして、以下の例が挙げられる。
・例1
第2の熱硬化性基:エポキシ基またはオキセタニル基
反応性基:アミノ基、カルボキシル基、水酸基またはチオール基
・例2
第2の熱硬化性基:アミノ基、カルボキシル基、水酸基またはチオール基
反応性基:エポキシ基またはオキセタニル基
【0028】
本実施形態の解体性接着材料の代表的用途としては、この接着材料を被着体の表面に塗布し、第1の熱処理を行うことにより被着体に接合する硬化体を得た後、該硬化体に第2の熱処理を行うことにより被着体と硬化体とを解体する用途が挙げられる。
【0029】
本実施形態の易解体性接着材料は、デュアル硬化型の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)と、解体性付与剤(Q)とを含む二液型の接着材料(熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)と、解体性付与剤(Q)とを、それぞれ別の容器に充填しておき、使用直前に混合して用いる材料)としてもよいし、これらを含む一液型の接着材料としてもよい。
【0030】
[易解体性接着材料の硬化物性]
本実施形態の易解体性接着材料において、以下の条件で測定されるF2およびF1の比(F2/F1)は、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下である。下限については特に制限がなく0であってもよいが、例えば0.01以上あるいは0.1以上とすることで充分である。こうすることにより、使用時の高い接着強度と弱い力で簡単に剥がせる解体性を、高いレベルで両立させることができる。
【0031】
(条件)
(i)被着体としてSUS304を用い、2枚の被着体同士を当該易解体性接着材料により接着させた試料について、JIS K 6850:1999に準拠してせん断接着強度を測定する。
(ii)当該易解体性接着材料を80℃7時間の第1熱処理条件で加熱処理して得られる試料1のせん断接着強度をF1とし、当該易解体性接着材料を第1熱処理条件で加熱処理した後、180℃2時間の第2熱処理条件で加熱処理して得られる試料2のせん断接着強度をF2とする。
【0032】
F2/F1の値の技術的意義は以下の通りである。F2/F1の値は、加熱による解体容易性を示す。F2/F1が1より小さいということは、第2熱処理条件での加熱処理により、せん断接着力が低下することを意味する。熱硬化性樹脂を用いた接着材料では、一般的には高温での熱処理により熱硬化性樹脂の架橋が進み、硬化体のせん断接着力が向上する。これに対して本実施形態の易解体性接着材料は、第2熱処理条件での加熱処理により、せん断接着力が低下する。F2/F1の値はこの低下の程度を示したものであり、本発明者はこの値が加熱による解体の容易性を現す指標となることを見いだした。本実施形態の易解体性接着材料を用いて2つの被着体を接着した構造体を想定すると、接着材料層には被着体との線膨張係数差に起因して熱応力が残存する。このため、接着材料層と被着体との界面には、本来的に一定程度の剥離作用が生じた状態となる。こうした状態において、F2がF1に比べて低下するような接着材料、特に、(F2/F1)を好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下とすれば、実用的に充分な易解体性を実現することができる。
【0033】
本実施形態の易解体性接着材料において、以下の条件で測定されるE2およびE1の比(E2/E1)は、0.8以上、より好ましくは0.9以上であり、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下である。こうすることにより、被着体と接着材料とを両者の界面で容易に解体でき、被着体に接着材料の残存を抑制できる。
【0034】
(条件)
(i)被着体としてSUS304を用い、2枚の被着体同士を当該易解体性接着材料により接着させた試料について、JIS K 6850:1999に準拠してせん断試験による弾性率を測定する。
(ii)当該易解体性接着材料を80℃7時間の第1熱処理条件で加熱処理して得られる試料1のせん断試験による弾性率をE1とし、当該易解体性接着材料を第1熱処理条件で加熱処理した後、180℃2時間の第2熱処理条件で加熱処理して得られる試料2のせん断試験による弾性率をE2とする。
【0035】
本発明者は、上記のようにして測定される(E2/E1)の値が、界面剥離の起こりやすさをよく表す指標となることを見いだした。
易解体性接着材料の主な使用目的が被着体の再利用や分別回収、製造工程での仮接着であることを考慮すると、被着体に糊残りする凝集破壊ではなく、被着体と接着材料の界面での解体が理想的である。(E2/E1)が所定の範囲にあると、被着体と接着材料の界面で容易に解体し、界面の接着剤量残りを効果的に抑制することができる。
E1およびE2は、JIS K 6850:1999に準拠して、剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法による引張せん断接着強さ試験を実施し、得られた応力-歪み曲線における(破断応力)/(破断歪み)によって算出される値である。曲げ弾性率や粘弾性測定により得られる弾性率は、硬化体自体の物性を表す。これに対して、上記のようにして算出されるせん断試験により得られる弾性率は、硬化体と被着体との間の界面の物性を表している。
【0036】
上述したように、(E2/E1)の値が、界面剥離の起こりやすさをよく表す指標となる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。180℃2時間の第2熱処理条件で加熱処理を実施した硬化体の物性は、第1熱処理条件で加熱処理を完了した段階での硬化体の物性とは異なる。一般的には高温での熱処理により熱硬化性樹脂の架橋が進み、硬化体の弾性率が向上する。試料2のせん断接着試験を行なった時の破壊モードが凝集破壊モード(界面ではなく樹脂硬化体自身が破壊するモード) であった場合は、上記した弾性率の向上を反映してE2は増大するはずである。(E2/E1)の値が1に近い値をとるということは、接着試験での破壊が、樹脂硬化体自身の弾性率を反映しない破壊モードで起こっていること、具体的には、凝集破壊モードではなく界面破壊モードで行っていることを意味し、樹脂硬化体の破壊が起こる以前のタイミングで界面での破壊が起こることを意味している。(F2/F1)が1より小さく、かつ、E2/E1の値が1に近い値をとるということは、第2熱処理後の試料2が界面破壊モードでの破壊が起こっていること、および、第2熱処理条件での加熱により界面接着力が低下していることを示している。
【0037】
本実施形態の易解体性接着材料を80℃で7時間の熱処理により硬化させて得られる硬化体の5%重量減少温度は、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上である。上限については特に制限がないが、たとえば350℃以下とすることができる。このようにすれば、比較的低温の熱処理によって充分な耐熱特性を有する硬化体を得ることが可能となる。
【0038】
本実施形態の易解体性接着材料において、以下の条件で測定される5%重量減少温度T2およびT1の差(T2-T1)は、好ましくは-20℃以上、より好ましくは-10℃以上であり、好ましくは10℃以下、より好ましくは5℃以下である。こうすることにより、使用時の高い接着強度と弱い力で簡単に剥がせる解体性を、高いレベルで両立できる。
(条件)
当該易解体性接着材料を80℃7時間の第1熱処理条件で加熱処理して得られる試料1の5%重量減少温度をT1とし、当該易解体性接着材料を第1熱処理条件で加熱処理した後、180℃2時間の第2熱処理条件で加熱処理して得られる試料2の5%重量減少温度をT2とする。
【0039】
本実施形態の易解体性接着材料を180℃で1時間の熱処理により硬化させて得られる硬化体の5%重量減少温度は、好ましくは200℃以上、より好ましくは240℃以上である。上限は特に制限はないが。400℃以下とすることができる。こうすることにより、易解体性接着材料硬化体の耐熱性を良好にすることができる。
以下、本実施形態の易解体性接着材料の構成成分について説明する。
【0040】
[熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)]
本実施形態における熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、不規則に枝分かれ構造を有する多分岐高分子である。分岐鎖が三次元的に広がっていることが従来の分岐高分子とは大きく異なっている。熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、高分子量でありながら、3次元的な分子の絡まりが少なく、同一分子量の線状高分子より粘性(溶液粘度)が低い高分子である。
【0041】
本実施形態における熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、熱硬化性の2種類の反応性基を有するポリマーであって、加熱処理により反応性基が反応してポリマー同士が結合して三次元架橋体を形成する。
【0042】
本実施形態における熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は熱硬化性基を有するため、ポリマー単体で熱硬化性を示す。また、本実施形態の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は第2の熱硬化性基を有するため、解体性付与剤(Q)の作用による熱硬化反応も起こる。解体性付与剤(Q)として第2の熱硬化性基に対して反応性を有する反応性基を分子内に2以上有する化合物(q1)を選択した場合は、異なる熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)に含まれる第1の熱硬化性基同士が化合物(q1)を介して結合する。解体性付与剤(Q)として触媒化合物(q2)を選択した場合は、異なる熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)に含まれる第1の熱硬化性基同士が直接結合する。
【0043】
[熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)の基本構造]
本実施形態の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、例えば、分子内の第1側鎖末端にエチレン性不飽和二重結合を有するとともに分子内の第2側鎖末端にエポキシ基を有するものとすることができる。
より具体的には、本実施形態の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、例えば、以下の構造単位Iおよび構造単位IIを含むものとすることができる。
(構造単位I)
【0044】
【0045】
[式中、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、Aは直接結合または二価の基を表す。]
(構造単位II)
【0046】
【0047】
[式中、R21は、水素原子またはメチル基を表し、Bは直接結合または二価の基を表し、Epはエポキシ基を含む一価の基を表す。]
ここで、Ep基は、グリジリル基または3,4-エポキシシクロヘキシル基を含むものとすることができる。
【0048】
(構造単位I)の好ましい例としては、以下の構造単位Ia、Ibが挙げられる。
(構造単位Ia)
【0049】
【0050】
[式中、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、A1は直接結合または二価の基を表す。]
(構造単位Ib)
【0051】
【0052】
[式中、R11およびR12は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基を表し、A2は直接結合または二価の基を表す。]
【0053】
上記各一般式において、A、B、A1およびA2の二価の基は特に限定されないが、たとえば炭素数1~30、好ましくは炭素数1~20、より好ましくは炭素数1~10の二価の有機基を挙げることができる。二価の有機基として具体的には、直鎖または分枝アルキレン基、シクロアルキレン基、多環脂肪族基、アリーレン基、-O-、-CO-、-COO-、-OCO-、-S-、-SO2-、-NH-、-NR-(Rは一価の有機基)、および、これらのうち2以上が組み合わされた基などであることができる。
【0054】
(構造単位II)の好ましい態様について説明する。
(-B-Ep)基の具体例としては、以下の式(E1)、
【化5】
【0055】
[R22は、直接結合、炭素数1~18のアルキレン基または炭素数1~18のオキシアルキレン基である。]
または、以下の式(E2)
【0056】
【0057】
[R23は、直接結合、炭素数1~18のアルキレン基または炭素数1~18のオキシアルキレン基である。]
で表されるいずれかの基が挙げられる。
【0058】
熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、二以上のエチレン性不飽和二重結合を有する多官能モノマー(a)と、エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(b)とを含む重合材料(但し、多官能モノマー(a)は、モノマー(b)に該当するものを除く)を重合して得られるポリマーとすることができる。
【0059】
上記重合材料は、一般式(I):
【0060】
【0061】
[式中、R1はハロゲン原子、-SR基、-OR基、-OOR基または-C(R)3基であり(Rは水素原子または炭素数1~4のアルキル基である。3つのRは、同一であっても異なっていてもよい。)、R2は水素原子または炭素数1~10のアルキル基である]
で表される付加開裂連鎖移動剤(c)をさらに含んでいてもよい。
【0062】
前述のとおり、本発明者がこれまでに開発した多官能ハイパーブランチポリマーは、熱硬化性の反応性基として末端エチレン性不飽和二重結合のみを有している。これに対して、本実施形態の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、2種類の熱硬化性の反応性基を有する、「デュアル硬化型」のハイパーブランチポリマーである点が特徴である。本実施形態にかかる上記熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、多官能モノマー(a)にくわえ、エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(b)を含む重合材料を重合して得られたものとなっている。多官能モノマー(a)およびモノマー(b)の併用により、使用時の高い接着強度、と弱い力で簡単に剥がせる解体性とを、高いレベルで両立させている。
【0063】
以下、二以上のエチレン性不飽和二重結合を有する多官能モノマー(a)、エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(b)、付加開裂連鎖移動剤(c)および他のモノマーについて説明する。以下では、モノマー(b)、他のモノマー、付加開裂連鎖移動剤(c)、多官能モノマー(a)の順に説明する。
【0064】
[エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(b)]
エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(b)はとしては、
メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸-3,4-エポキシブチル、メタクリル酸-6,7-エポキシヘプチル、4-ヒドロキシブチルメタクリレートグリシジルエーテル(4HBAGE)などのグリシジル基含有メタアクリル酸エステル:
o-ビニルベンジルグリシジルエーテル、m-ビニルベンジルグリシジルエーテル、p-ビニルベンジルグリシジルエーテルなどのビニルベンジルグリシジルエーテル;
3,4-エポキシシクロヘキシルメチルメタアクリレート、2-プロペノイック酸,2-メチル-,7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト-3-イルメチルエステル(cas番号:82428-30-6)、2-プロペノイック酸,2-メチル-,オクタヒドロ-2,5-メタノ-2H-インデノ[1,2-b]オキシレン-4-イルエステル(cas番号:143963-39-7)、などの脂環式エポキシ基含有メタアクリル酸エステル;
アクリル酸グリシジル、アクリル酸-3,4-エポキシブチル、アクリル酸-6,7-エポキシヘプチル、α-エチルアクリル酸-6,7-エポキシヘプチル、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(4HBAGE)などのグリシジル基含有アクリル酸エステル:
α-エチルアクリル酸グリシジル、α-n-プロピルアクリル酸グリシジル、α-n-ブチルアクリル酸グリシジルなどのグリシジル基含有α-アルキルアクリル酸エステル;
などが挙げられる。
【0065】
これらのうち、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸-6,7-エポキシヘプチルなどのグリシジル基含有メタアクリル酸エステル、o-ビニルベンジルグリシジルエーテル、m-ビニルベンジルグリシジルエーテル、p-ビニルベンジルグリシジルエーテルなどのビニルベンジル基含有グリシジル化合物が、共重合反応性の点から好ましく用いられる。これらのエポキシ基含有不飽和化合物は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0066】
[他のモノマー]
本実施形態における熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)の好ましい例においては、二以上のエチレン性不飽和二重結合を有する多官能モノマー(a)、エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(b)および付加開裂連鎖移動剤(c)の3成分を基本とするが、本実施形態の効果を阻害しない範囲で、その他のモノマーを併用してもよい。その他のモノマーの例としては、一官能ビニルモノマーが挙げられる。
【0067】
一官能ビニルモノマーとしては、n-ドデシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ウンデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート及びn-テトラデシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、8-ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、12-ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、スチレン、スチレン誘導体、酢酸ビニル、アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミドが挙げられる。
【0068】
一官能ビニルモノマーとしては、これらの中でも、共重合性や接着性の点で、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を有するメタクリレートが好ましく、n-ドデシルメタクリレート(DMA:メタクリル酸ドデシル)、2-エチルヘキシルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、イソオクチルメタクリレート、n-ノニルメタクリレート、イソノニルメタクリレート、n-デシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、n-ウンデシルメタクリレート、10-ヒドロキシデシルメタクリレート、12-ヒドロキシラウリルメタクリレート、2-ヒドロキシヘキシルメタクリレート、6-ヒドロキシヘキシルメタクリレート、8-ヒドロキシオクチルメタクリレート、10-ヒドロキシデシルメタクリレート、12-ヒドロキシラウリルメタクリレートがより好ましく、DMAが特に好ましい。
【0069】
[付加開裂連鎖移動剤]
付加開裂連鎖移動剤(AFCT剤)は、たとえば一般式(I)で表される。
【0070】
【0071】
[式中、R1はハロゲン原子、-SR基、-OR基、-OOR基または-C(R)3基であり(Rは水素原子または炭素数1~4のアルキル基である)、R2は水素原子または炭素数1~10のアルキル基である。]
置換基R1のハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられ、連鎖移動定数の点で、塩素および臭素が好ましく、臭素が特に好ましい。
【0072】
一般式(I)の置換基R1の-SR基、-OR基、-OOR基および-C(R)3基における置換基Rの炭素数1~4のアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチルなどの直鎖または分岐鎖のアルキル基が挙げられ、これらの中でも、連鎖移動定数の点で、tert-ブチルが特に好ましい。
【0073】
置換基R1としては、上記以外にも、芳香環、酸素原子、窒素原子を有するものであってもよく、具体的には、2-ヒドロキシエチル、2-アミノエチル、2-カルボキシエチル、カルボキシメチル、3-(トリメトキシシリル)プロピル、ビス(メトキシカルボニル)メチル、ビス(エトキシカルボニル)メチル、トリス(メトキシカルボニル)メチル、トリス(エトキシカルボニル)メチル、(ジメチルメトキシカルボニル)メチルなどが挙げられる。
【0074】
一般式(I)の置換基R2の炭素数1~10のアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、ペンチル、へキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、オクチル、2-エチルヘキシル、ノニル、デシルなどの直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基が挙げられ、これらの中でも、熱安定性の点で、第一級および第二級エステル基を与えるアルキル基が特に好ましい。
【0075】
置換基R2としては、上記以外にも、芳香環、酸素原子、窒素原子を有するものであってもよく、具体的には、ベンジル、2-ヒドロキシエチル、3-ヒドロキシプロピル、2-ヒドロキシブチル、4-ヒドロキシブチル、2-ヒドロキシヘキシル、6-ヒドロキシヘキシル、8-ヒドロキシオクチル、10-ヒドロキシデシル、12-ヒドロキシラウリルなどが挙げられる。
【0076】
上記のように、一般式(I)における置換基R1としては、単独重合性を示さない点、連鎖移動定数が大きい点、および熱硬化性ハイパーブランチポリマーの熱硬化性の点で、臭素が好ましく、置換基R2としては、熱安定性の点で、第一級および第二級エステル基を与えるアルキル基が特に好ましい。
【0077】
付加開裂連鎖移動剤としては、2-(ブロモメチル)アクリル酸メチル(MBMA)、2-(ブロモメチル)アクリル酸エチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸n-プロピル、2-(ブロモメチル)アクリル酸イソプロピル、2-(ブロモメチル)アクリル酸n-ブチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸イソブチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸sec-ブチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸tert-ブチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸ペンチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸へキシル、2-(ブロモメチル)アクリル酸シクロヘキシル、2-(ブロモメチル)アクリル酸ヘプチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸オクチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸2-エチルヘキシル、2-(ブロモメチル)アクリル酸ノニル、2-(ブロモメチル)アクリル酸デシル、2-(tert-ブチルチオメチル)アクリル酸メチル、2-(tert-ブチルチオメチル)アクリル酸エチル、2-(tert-ブチルチオメチル)アクリル酸ベンジル、2-(2-ヒドロキシエチルチオエチル)アクリル酸エチル、2-(カルボキシメチルチオメチル)アクリル酸エチル、2-(2-ヒドロキシエチルチオメチル)アクリル酸、2-(カルボキシメチルチオメチル)アクリル酸、2-(ブロモメチル)スチレン、2-(t-ブチルチオメチル)スチレン、2-(2-ヒドロキシエチルチオメチル)スチレン、2-(2-アミノエチルチオメチル)スチレン、2-(カルボキシメチルチオメチル)スチレン、2-(2-カルボキシエチルチオメチル)スチレン、2-((3-トリメトキシシリルプロピル)チオメチル)スチレン、2-(ブロモメチル)アクリロニトリル、2-(tert-ブチルチオメチル)アクリロニトリル、2,2-ジメチル-4-メチレングルタミン酸ジメチルが挙げられる。
【0078】
付加開裂連鎖移動剤としては、これらの中でも、生成ポリマーの耐熱性や接着性の点で、脂肪族(メタ)アクリル系化合物が好ましく、連鎖移動能が高いMBMA、2-(ブロモメチル)アクリル酸エチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸n-プロピル、2-(ブロモメチル)アクリル酸イソプロピル、2-(ブロモメチル)アクリル酸n-ブチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸イソブチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸sec-ブチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸tert-ブチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸ペンチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸へキシル、2-(ブロモメチル)アクリル酸シクロヘキシル、2-(ブロモメチル)アクリル酸ヘプチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸オクチル、2-(ブロモメチル)アクリル酸2-エチルヘキシル、2-(ブロモメチル)アクリル酸ノニル、2-(ブロモメチル)アクリル酸デシルがより好ましく、MBMAが特に好ましい。
【0079】
[多官能モノマー(a)]
多官能モノマー(a)は、分子内の両末端にエチレン性不飽和二重結合を有する化合物である。
【0080】
二以上のエチレン性不飽和二重結合を有する多官能モノマー(a)は、付加開裂連鎖移動剤とのラジカル重合により、熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)を形成し得るものであればよい。多官能モノマー(a)は、エチレン性不飽和二重結合を分子内に二以上有しており、エチレン性不飽和二重結合の一部が熱硬化性基としてポリマー鎖を形成し得る。一方、未反応のエチレン性不飽和二重結合の一部が側鎖にペンダント基として残存し得る。多官能モノマー(a)の好ましい例としては、分子内の両末端にエチレン性不飽和二重結合を有する化合物が挙げられる。
【0081】
二以上のエチレン性不飽和二重結合を有する多官能モノマー(a)の好ましい化合物例としては、メタ(アクリル)酸エステル化合物、芳香族ビニル化合物が挙げられる。なお、本実施形態において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」または「メタクリル」を意味する。
【0082】
メタ(アクリル)酸エステル化合物としては、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、エチレングリコールジアクリレート(EGDA)、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2-ジメチルプロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンジメタノールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ジグリセロールジ(メタ)アクリレート、トリグリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジウレタンジ(メタ)アクリレート、ビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィド、ビス(2-アクリロイル)オキシエチルジスルフィド、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどの脂肪族ジ(メタ)アクリル酸エステル;
ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAトリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAグリセロラートジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAグリセロラートトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAグリセロラートテトラ(メタ)アクリレート、1,4-フェニレンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFトリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFテトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFグリセロラートジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFグリセロラートトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFグリセロラートテトラ(メタ)アクリレート、などの芳香族(メタ)アクリル酸エステル;
が挙げられる。
【0083】
芳香族ビニル化合物としては、ジビニルベンゼン、ジブロモジビニルベンゼン、ジメトキシジビニルベンゼン、ジエトキシジビニルベンゼン、ジプロポキシシジビニルベンゼン、ジブトキシジビニルベンゼン、ジペンチルオキシジビニルベンゼン、ジヘキシルオキシジビニルベンゼン、ジヘプチルオキシジビニルベンゼン、ジオクチルオキシジビニルベンゼン、ジノニルオキシジビニルベンゼン、ジデジルオキシジビニルベンゼン、ジ(2-エチルヘキシル)オキシジビニルベンゼンなどの置換または無置換のジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0084】
このうち、二以上のエチレン性不飽和二重結合を有する多官能モノマー(a)としては、生成ポリマーの接着性および易解体性の両立という観点から、脂肪族(メタ)アクリル系モノマーが好ましく、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートがより好ましく、ジエチレングリコールジメタアクリレート(EGDMA)が特に好ましい。
【0085】
[成分の組合せ]
重合材料の構成成分の好ましい例としては、多官能モノマー(a)および付加開裂連鎖移動剤(c)が、ともに脂肪族(メタ)アクリル酸エステル化合物((メタ)アクリル酸エステル系化合物)であり、かつ、エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(b)が、グリシジル基含有メタアクリル酸エステルまたはビニルベンジル基含有グリシジル化合物である組合せが挙げられる。
【0086】
[成分の比率]
多官能モノマー(a)、エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(b)および付加開裂連鎖移動剤(c)のモル比は、モノマー成分の材料や得ようとする高分子材料の物性などにより適宜設定すればよい。
【0087】
多官能モノマー(a)由来の構造単位数naに対する、エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合基を有するモノマー(b)由来の構造単位数nbの比nb/naは、好ましくは0.05以上10以下であり、より好ましくは0.1以上7以下である。
【0088】
モノマー(a)およびモノマー(b)の合計のエチレン性不飽和二重結合基と付加開裂連鎖移動剤(c)のエチレン性不飽和二重結合基との好ましいモル比は、1/0.01~1/10であり、より好ましいモル比は1/0.03~1/10であり、さらに好ましいモル比は1/0.05~1/10であり、よりさらに好ましいモル比は1/0.3~1/2であり、特に好ましいモル比は1/0.5~1/2である。
付加開裂連鎖移動剤(c)の比率がモノマー(a)およびモノマー(b)の合計1モルに対して0.01モル未満では、熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)を得るための重合反応において、ゲル化を起こす懸念がある。一方、付加開裂連鎖移動剤が多官能モノマーの1モルに対して10モルを超えると、充分に高い分子量の生成物を得ることが困難となる場合がある。
【0089】
(一官能性ビニルモノマーを併用する場合の比率)
一官能性ビニルモノマーを併用する場合、多官能モノマー(a)と一官能性ビニルモノマーとのモル比は、モノマー成分の材料や得ようとする高分子材料の物性などにより適宜設定すればよい。
【0090】
多官能モノマー(a)と一官能性ビニルモノマーとの好ましいモル比は1/0.1~1/4であり、より好ましいモル比は1/0.2~1/2であり、さらに好ましいモル比は1/0.5~1/1である。こうすることにより、生成ポリマーのガラス転移温度等の性状を適切にすることができ、また、分岐構造や反応性ビニル基の導入率を適切にすることができる。
【0091】
熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)の構成モノマーが一官能性ビニルモノマー成分を含む場合には、多官能モノマーと一官能性ビニルモノマーとの合計量を、上記の多官能モノマーと付加開裂連鎖移動剤とのモル比における多官能モノマーとすればよい。すなわち、一官能性ビニルモノマーを多官能モノマーの置換物として、上記の付加開裂連鎖移動剤との比率になるように各成分を設定すればよい。
一官能性ビニルモノマーを用いること、および重合時間を調整することにより、ポリマー鎖1本当たりのビニル基の数を変動させることができる。
ポリマー鎖1本当たりのビニル基の数は、通常、1~40個、好ましくは2~30個、より好ましくは5~25個である。
ビニル基の数が1個以上であることにより、熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)の熱硬化性を十分に得やすい。一方、ビニル基の数が40個以下であることにより、重合時の意図せぬ架橋を抑えやすい。
【0092】
[熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)の性状]
本実施形態の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)に含まれる、好ましい第1および第2の熱硬化性基数について説明する。熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)一分子当たりに含まれる、側鎖末端のエチレン性不飽和二重結合基の数Naは、好ましくは0.1以上、より好ましくは1以上であり、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。こうすることにより、使用時のより高い接着強度を実現することができる。
【0093】
また、本実施形態の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)一分子当たりに含まれる、側鎖末端のエポキシ基の数Nbは、好ましくは0.1以上、より好ましくは1以上であり、好ましくは20以下、より好ましくは10以下である。こうすることにより、解体性付与剤(Q)との相乗作用により、より優れた解体性を実現できる。ちなみに、エポキシ基が「側鎖末端」にあるとは、エポキシ基が(i)分岐鎖の末端にある場合と、(ii)分岐鎖の末端ではない部分から伸びるペンダント基の末端にある場合、の両方を包含する。
【0094】
本実施形態の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)一分子当たりに含まれる、側鎖末端のエチレン性不飽和二重結合基の数Naと、側鎖末端のエポキシ基の数Nbと、の比Nb/Naの下限は、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.2以上であり、上限は、好ましくは20以下、より好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下である。こうすることにより、使用時の高い接着強度と弱い力で簡単に剥がせる解体性を、より高いレベルで両立させることができる。
【0095】
本実施形態の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)の数平均分子量Mnの下限は、好ましくは0.5×103以上、より好ましくは1×103以上であり、上限は、好ましくは5×104以下、より好ましくは3×104以下、さらに好ましくは1×104以下である。こうすることにより、使用時の高い接着強度と弱い力で簡単に剥がせる解体性を、高いレベルで両立させることができる。
【0096】
本実施形態の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)の特に好ましい数平均分子量Mnは、500~30,000である。また、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnは、好ましくは1.2~20、より好ましくは1.2~15,さらに好ましくは1.2~10である。このようなMnおよびMw/Mnを満たす場合の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)の粘度は、通常、0.01~0.3dL/s程度となる。
ちなみに、Mw/Mnが敢えて大きめ(Mw/Mnが例えば8~20、具体的には10~15)の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)を用いることで、解体性を一層高められる場合がある。
分子量分布が広い熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、高分子量成分を比較的多く含む。詳細は不明であるが、この高分子量成分が、より良好な解体性に関係している可能性がある。
【0097】
また、本実施形態の熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)のポリマー一分子中の熱硬化性基の数(たとえば、末端エチレン性不飽和二重結合およびエポキシ基の合計)は、1~50程度であり、熱硬化性の点で、5~50であるのが好ましい。
【0098】
[解体性付与剤(Q)]
解体性付与剤(Q)は、易解体性接着材料の硬化体の解体性を付与する成分である。解体性付与剤(Q)は、熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)とともに混合して用いる。易解体性接着材料は、たとえば、易解体性接着材料を加熱して一段目の硬化を行った後、さらに2段目または2段目以降の硬化を行うことにより解体する態様で用いられる。この態様で用いた場合に、解体性付与剤(Q)は、以下のいずれかの作用を示すものとすることができる。
【0099】
・作用1
易解体性接着材料の2段目または2段目以降の硬化により、解体性付与剤(Q)は、第2の熱硬化性基に対して反応するか、あるいは、第2の熱硬化性基同士の反応を促進することにより、易解体性接着材料と被着体との界面の接着力を効果的に低下させる。
【0100】
・作用2
易解体性接着材料の1段目の硬化において、解体性付与剤(Q)は、第2の熱硬化性基に対して反応するか、あるいは、第2の熱硬化性基同士の反応を促進する。これにより、1段目の硬化で得られる硬化体を、その後の熱処理により解体しやすい性状とする。
【0101】
解体性付与剤(Q)は、第2の熱硬化性基に対して反応性を有する反応性基を分子内に2以上有する化合物(q1)、および、第2の熱硬化性基同士の反応を促進する触媒化合物(q2)のうち、いずれか一方または両方を含む。
化合物(q1)は、第2の熱硬化性基の種類に応じて選択することができる。前述したように、以下の例が挙げられる。
・例1
第2の熱硬化性基をエポキシ基とした場合、化合物(q1)としては、反応性基としてアミノ基、カルボキシル基、水酸基またはチオール基を有する化合物が選択される。
・例2
第2の熱硬化性基をアミノ基、カルボキシル基、水酸基またはチオール基とした場合、化合物(q1)としては、反応性基としてエポキシ基を有する化合物が選択される。
【0102】
たとえば、第2の熱硬化性基をエポキシ基とした場合、すなわち、熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)を、エポキシ基を含有するポリマーとした場合、化合物(q1)として用いる化合物は、アミノ基を2以上有する化合物であることが好ましい。より具体的には、優れた解体性を付与する観点から、脂肪族ポリアミン化合物、芳香族ポリアミン化合物および脂環式ポリアミン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミン化合物であって、1級アミノ基を2個以上有するポリアミン化合物であることが好ましい。
【0103】
1級アミノ基を2個以上有する脂肪族ポリアミン化合物としては、例えば、エチレンジアミン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノブタン、1,4-ジアミノブタン、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0104】
1級アミノ基を2個以上有する芳香族ポリアミン化合物としては、例えば、m-キシリレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
【0105】
1級アミノ基を2個以上有する脂環式ポリアミン化合物としては、例えば、1,2-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-3,6-ジエチルシクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、1,3-ビスアミノシクロヘキサン等が挙げられる。
【0106】
上記以外の化合物としては、ジシアンジアミド、酸無水物、二塩基酸ジヒドラジド(シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド等)、メラミン等が挙げられる。
易解体性接着材料を一液型の接着材料とする場合、解体性付与剤(Q)として、いわゆる潜在性硬化剤を用いることができる。潜在性硬化剤は、熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)中に室温で存在した状態では反応せず、加熱処理により活性化し、反応を開始する。マイクロカプセル型潜在性硬化剤は、シェル部およびコア部を備える粒子であり、コア部内に硬化剤が含まれている。所定温度以上の加熱処理により、シェル部の一部が破れて内部の硬化剤が流出することで、エポキシ基との反応性が活性化する。マイクロカプセル型潜在性硬化剤の製品としては、旭化成株式会社製の、ノバキュア(登録商標)HX-3722、HX-3748、HX-3088、HX-3741、HX-3742等が挙げられる。
【0107】
解体性付与剤(Q)の配合量については特に制限はないが、たとえば以下のようにする。
解体性付与剤(Q)として、第2の熱硬化性基に対して反応性を有する反応性基を分子内に2以上有する化合物(q1)を用いる場合は、第2の熱硬化性基数n1に対して、化合物(q1)における第2の熱硬化性基に対して反応性を有する反応性基の数n2が、n2/n1=0.6~1.4となるように配合することが好ましい。たとえば第2の熱硬化性基がエポキシ基またはオキセタニル基であり、化合物(q1)の反応性基がアミノ基、カルボキシル基、水酸基またはチオール基である場合は、エポキシ当量またはオキセタニル当量に対する反応性基の活性水素当量の値が、0.6~1.4となるようにすることが好ましい。
解体性付与剤(Q)として触媒化合物(q2)を用いる場合の配合量については、触媒化合物(q2)の種類などに応じて適宜決定される。
【0108】
[その他の成分]
本実施形態の易解体性接着材料は、熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)以外のポリマーを含んでいてもよい。たとえば、エポキシ樹脂を併用して接着力を高めてもよい。
【0109】
また、易解体性接着材料が有機溶剤を含み、有機溶剤に熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)を溶解ないし分散させたものであってもよい。
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を挙げることができる。
【0110】
上記の中でも、アセトン、MEK、酢酸エチル、DMF等が、溶解性が高く、また、接着剤層から揮発し易い傾向にあるため好ましい。有機溶剤は、いずれか1種を単独で使用しても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0111】
その他の任意成分としては、例えば、シリカ、アルミナ等の無機粒子、ガラス繊維、炭素繊維等の繊維フィラー、熱可塑性エラストマー、難燃剤、消泡剤等が挙げられる。
【0112】
本実施形態に係る易解体性接着材料は、熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)以外のポリマーを含んでいてもよい。たとえば、エポキシ樹脂を併用して接着力を高めてもよい。また、無機充填材、有機充填剤、シランカップリング剤、消泡剤等を含有させてもよい。
【0113】
[熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)の製造方法]
熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)は、二以上のエチレン性不飽和二重結合を有する多官能モノマー(a)と、エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合を有するモノマー(b)とを含む重合材料を重合して製造することができる。重合材料は、前述の付加開裂連鎖移動剤(c)をさらに含むものであってもよい。重合は、重合温度30~180℃の一段階重合とすることができる。付加開裂連鎖移動剤(c)の付加開裂連鎖移動により、開始末端、停止末端および側鎖にそれぞれ異なる官能基が導入される。
【0114】
付加開裂連鎖移動(AFCT)は、次式のように、成長ラジカルのAFCT剤への付加と、生じるアダクトラジカルのβ-開裂とからなる連鎖移動反応の一種であり、ω-末端には2-置換-2-プロペニル基、α-末端にはβ-開裂で放出されるラジカル由来の官能基が導入される。
【0115】
【0116】
一段重合は、過酸化物、アゾ化合物および過硫酸塩などのラジカル開始剤の存在下で行われるのが好ましい。特に一段重合は、過酸化物およびアゾ化合物のラジカル開始剤の存在下で行われるのが好ましく、アゾ化合物(アゾ系重合開始剤)の存在下で行われるのがさらに好ましい。
アゾ系重合開始剤としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスジメチルバレロニトリルなどが挙げられる。
【0117】
ラジカル開始剤の添加量は、モノマー成分の材料や得ようとする高分子材料の物性などにより適宜設定すればよいが、通常、モノマー(a)およびモノマー(b)の合計1モルに対して、0.0002~0.02モル程度である。
また、一段重合は、有機溶剤の存在下または非存在下(バルク)の何れであってもよい。
【0118】
溶剤としては、モノマー成分を溶解し、重合反応を阻害せず、得られた重合体に悪影響を与えないものであれば特に限定されず、例えば、トルエン、クロロホルム、アセトン、酢酸エチルなどの極性溶媒が挙げられる。
一段重合における重合条件は、モノマー成分の材料や得ようとする高分子材料の物性などにより適宜設定すればよい。重合温度は、通常、30~200℃である。
【0119】
重合温度が30℃未満では、連鎖移動能が低下することがある。一方、重合温度が200℃を超えると、生成ポリマーが熱分解することがある。好ましい重合温度は、30~180℃である。
【0120】
また、重合時間は、通常、0.1~50時間である。重合時間が0.1時間未満では、ポリマー収率が低いことがある。一方、重合時間が50時間を超えると、ゲル化が起こる、またはポリマー中に導入された二重結合が消費されることがある。好ましい重合時間は、0.5~12時間である。
【0121】
[易解体方法]
本実施形態の易解体性接着材料は、たとえば、被着体の表面に易解体性接着剤を付着させた後、この易解体性接着剤を第1の熱処理により加熱硬化させて被着体に易解体性接着剤硬化体が接合した物品を得た後、第2の熱処理を行うことで被着体から易解体性接着剤硬化体を剥がして解体する、というプロセスに用いられる。加熱硬化(第1の熱処理)にあたって採用する温度条件を第1温度条件とし、解体(第2の熱処理)にあたって採用する温度条件を第2温度条件とすると、第2温度条件は第1温度条件に比べて、より高い硬化温度とすることが好ましい。
【0122】
被着体の種類は特に限定されないが、例えばアルミニウム、アルムニウム合金、SUS等の金属や、ポリプロピレンやポリエチレン、ナイロン等のプラスチック、セラミックス等を挙げることができる。被着体にはシランカップリング剤等による表面処理がなされていてもよいし、表面処理がなされていなくてもよい。接着強度および解体のしやすさの点では、被着体の表面に易解体性接着剤を付着させる前に、被着体の表面を洗浄するなどして、異物/汚染を除去しておくことが好ましい。
【0123】
第1温度条件の硬化温度をT1とし、第2温度条件の硬化温度をT2とすると、(T2-T1)の値を、好ましくは30℃以上、より好ましくは50℃以上、最も好ましくは70℃以上とする。こうすることにより、充分な硬化体強度と易解体容易性を実現することができる。
(T2-T1)の値の上限については、解体工程の省エネルギー化の観点から、好ましくは130℃以下、好ましくは120℃以下とする。
実用上、好ましい温度条件としては、T1が20℃以上100℃以下、T2が100℃以上250℃以下である。
【0124】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
なお、本発明は熱硬化性ハイパーブランチポリマーとしての側面を有している。これの参考形態を以下[22]~[29]として付記しておく。
[22]
二以上のエチレン性不飽和二重結合基を有する多官能モノマー(a)と、エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合基を有するモノマー(b)と、を含む重合材料(但し、多官能モノマー(a)は、モノマー(b)に該当するものを除く)を重合して得られる、デュアル硬化型の熱硬化性ハイパーブランチポリマー。
[23]
[22]に記載の熱硬化性ハイパーブランチポリマーであって、
前記重合材料は、一般式(I)で表される付加開裂連鎖移動剤(c)をさらに含む、熱硬化性ハイパーブランチポリマー。
(一般式(I)については前述のとおり)
[24]
[22]または[23]に記載の熱硬化性ハイパーブランチポリマーであって、
前記多官能モノマー(a)が、分子内の両末端にエチレン性不飽和二重結合基を有する化合物である、熱硬化性ハイパーブランチポリマー。
[25]
[22]から[24]のいずれか1項に記載の熱硬化性ハイパーブランチポリマーであって、
前記多官能モノマー(a)が、メタ(アクリル)酸エステルである、熱硬化性ハイパーブランチポリマー。
[26]
[22]から[25]のいずれか1項に記載の熱硬化性ハイパーブランチポリマーであって、
エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合基を有するモノマー(b)が、グリシジル基含有メタアクリル酸エステル、ビニルベンジルグリシジルエーテルおよび脂環式エポキシ基含有メタアクリル酸エステルからなる群から選ばれる一または二以上のエポキシ化合物を含む、熱硬化性ハイパーブランチポリマー。
[27]
[22]から[26]のいずれか1項に記載の熱硬化性ハイパーブランチポリマーであって、
前記多官能モノマー(a)由来の構造単位数naに対する前記エポキシ基およびエチレン性不飽和二重結合基を有するモノマー(b)由来の構造単位数nbの比nb/naが、0.05以上10以下である、熱硬化性ハイパーブランチポリマー。
[28]
[22]から[27]のいずれか1項に記載の熱硬化性ハイパーブランチポリマーであって、
分子内の第1側鎖末端にエチレン性不飽和二重結合を有するとともに分子内の第2側鎖末端にエポキシ基を有する、熱硬化性ハイパーブランチポリマー。
[29]
[22]から[28]のいずれか一項に記載の熱硬化性ハイパーブランチポリマーを硬化させて得られる硬化体。
【実施例】
【0125】
1.評価方法
実施例で行った評価の方法を説明する。
【0126】
(NMR)
1H-NMR(Bruker製、型式:Avance300)により、下記の条件で、得られた重合物の構造解析を行った。
周波数:300MHz
測定溶媒:TMS(テトラメチルシラン)含有重クロロホルム
【0127】
(GPC)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置(東ソー社製、型式:CCPD-RE8020)および標準ポリスチレン検量線を用いたGPC測定により、下記の条件で、得られた重合物の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnおよびそれらの比Mw/Mnを決定した。
カラム:TSKゲルカラムMP(XL)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
サンプル注入量:100μL
検出器:示差屈折検出器
【0128】
(熱分析)
熱重量/示差熱分析(TG/DTA)には、セイコーインスツルメンツ株式会社製のTG/DTA6200を使用し、窒素気流下(220mL/min)、昇温速度10℃/minで行った。
【0129】
(DSC)
示差走査熱量計(DSC)には、セイコーインスツルメンツ株式会社製のDSC 6200を使用し、窒素気流下(50mL/min)、昇温速度、冷却速度ともに10℃/minで測定を行った。
【0130】
(IR)
IR測定には、日本分光株式会社製のFT/IR-4600を使用し、KBr法により測定した。
【0131】
(引張りせん断接着試験)
・試料の準備
引張りせん断接着試験片の基板として、以下の実施例で示すように、アルミニウム板、SUS304、SUS430を用いた。各基板は、表面研磨をせず脱脂、洗浄したものを用いた。基板の寸法は、アルミニウム板、SUS304は10mm×100mm×厚さ1mm、SUS430は、10mm×100mm×厚さ0.5mmである。
基板は、アセトンで15分間、続いてイソプロパノールで15分間超音波洗浄した後、自然乾燥させて用いた。
【0132】
基板に塗布する材料については以下のように調製した。実施例Aにおける熱硬化性ハイパーブランチポリマーの評価においては、良溶媒であるアセトン(0.1mL)に熱硬化性ハイパーブランチポリマー(30mg)を溶解させた溶液を準備した。実施例Bにおける易解体性接着材料の評価においては、アセトン(0.1mL)に熱硬化性ハイパーブランチポリマー(30mg)と解体性付与剤を溶解させた溶液を準備した。
【0133】
準備した溶液を、一枚の基板に塗布量15μL(wet)で塗布した後、室温で1時間減圧乾燥させ、アセトンを留去した。次いで、2枚の基板の接着剤塗布面を貼り合わせ、貼り合わせた箇所をクリップで固定して引張せん断接着試験片を得た。試験片の接着面積(貼り合わせた箇所の面積)は、100mm2(10mm×10mm)とした。
この試験片について、後述する各表に示す硬化条件で硬化させた後、引張せん断接着試験を行った。易解体性接着材料の膜厚は、硬化後において30μmとなるようにした。
【0134】
引張せん断接着試験には、オートグラフAGS-1kNX(SHIMAZU社製、最大荷重10kN)を用い、JIS K 6850:1999に準拠して、引張速度1mm/min、室温(25℃)で行った。3回測定を行い、平均値を求めた。
【0135】
2.熱硬化性ハイパーブランチポリマーの合成および評価
(実施例A1)
容量20mLのパイレックスガラス(登録商標)製の管に、以下の(i)~(iv)を含む重合原料を導入し、混合した。
(i)二以上のエチレン性不飽和二重結合を有する多官能モノマー(a)
エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、
(ii)エポキシ基を有するモノマー(b)
グリシジルメタアクリレート(GMA)
(iii) 付加開裂連鎖移動剤(c)(AFCT剤)
2-(ブロモメチル)アクリル酸メチル(MBMA)
(一般式(I)において、R1をBrとし、R2をメチル基とした化合物)
(iv)ラジカル開始剤
2,2'-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
【0136】
モノマーの混合比は以下のようにした。
・モル比[EGDMA]:[GMA]:[AIBN]=1:0.52:0.001
・モル比[2(EGDMA)+GMA]:[MBMA]=1:1
(モノマー(a)およびモノマー(b)の合計のエチレン性不飽和二重結合基と付加開裂連鎖移動剤(c)のエチレン性不飽和二重結合基との好ましいモル比を1:1とした。)
・モル比[EGDMA]:[AIBN]=1000:1
【0137】
凍結-脱気-融解のサイクルを3回繰返して溶存酸素を除いた後、熔封して封管とした。無溶剤バルク中、60℃で12時間反応を行った後、ドライアイス/メタノール寒剤で冷却し、重合を停止させた(
図3)。封管を開封し、クロロホルムで希釈した反応溶液を約20倍量のヘキサンに滴下し、沈殿を濾過、洗浄後、減圧下室温で約24時間乾燥した。沈殿をクロロホルムに溶解させ、ヘキサンに再沈殿を2回行い精製した。収率は26%であった。
実施例A1で得られた熱硬化性ハイパーブランチポリマーをP1と表記する。
【0138】
(実施例A2~A3)
表1に示す重合の条件に代えたこと以外は、実施例1と同様にして重合物を得た。実施例A2、A3で得られた熱硬化性ハイパーブランチポリマーを、それぞれP2、P3と表記する。
【0139】
(評価)
上記実施例A1~A3で得られたポリマーP1~P3を評価した。評価結果を、重合の条件とともに表1に示す。
【0140】
【0141】
(キャラクタリゼーション)
実施例A2で得られた熱硬化性ハイパーブランチポリマーの
1H-NMRスペクトルおよび帰属を
図4に示す。
ポリマー中にEGDMA由来の側鎖末端の不飽和二重結合、GMA由来のエポキシ基およびAFCT剤由来の2-カルボメトキシ-2-プロペニル基が確認された。
EGDMAユニット由来のピークc、GMAユニット由来のピークk、m、MBMAユニット由来のピークp、q、r、sの積分強度比から各ユニットの組成比をd[EGDMA]/d[GMA]/d[MBMA]=1/0.43/0.56と算出した。
また、GPC測定より決定したMn(=3,170)と組成比から、ポリマー鎖1本当たりのEGDMA、GMA、MBMAユニット数を8.8、3.8、4.9と算出した。
以上より、一分子中に複数の側鎖末端の不飽和二重結合(ペンダントビニル基)とペンダントエポキシ基をもつハイパーブランチポリマーを合成できたことが確認された。
【0142】
MBMAは単独重合や共重合性は示さず、AFCTによってポリマー末端にのみ導入される。このことから、一分子中にω-末端基を平均4.9個持つハイパーブランチポリマーが生成したことがわかる。
ポリマー鎖1本当たり(ポリマー一分子当たり)のEGDMAユニット数とピークcとg、およびピークhの積分強度比より、GPC測定により得られた分子量の情報を参照して、ポリマー鎖1本当たりの側鎖末端のエチレン性不飽和二重結合基の数Na(ペンダントビニル基)数を4.2と算出した。
ポリマー鎖1本当たり(ポリマー一分子当たり)の側鎖末端のエポキシ基数Nbは、ポリマー鎖1本当たりのGMAユニット数と等しいことから、3.8と算出した。
【0143】
ハイパーブランチポリマーP1、P3についても同様の分析を行った。結果を表2に示す。
【0144】
図5~
図7は、実施例A1~A3で得られた熱硬化性ハイパーブランチポリマーP1~P3のTG-DTA曲線を示す図である。このデータから得られた5%重量減少温度Td5および1%重量減少温度Td1を表1に示した。
実施例A1で得られた熱硬化性ハイパーブランチポリマーのDSC測定を行い、このデータから得られたガラス転移点Tgを表1に示した。本実施形態の熱硬化性ハイパーブランチポリマーは、低粘性であり、自発的な熱硬化が可能で、しかも硬化後の耐熱性が高く、材料として安定であることがわかる。
また、表1に示すように、本実施例の熱硬化性ハイパーブランチポリマーは、熱硬化により高いせん断接着力が発現することがわかる。
【0145】
3.易解体性接着材料の製造および評価
(実施例B1)
以下の主剤と、易解体性接着材料としてのエポキシ硬化剤と、からなる二液型の易解体性接着材料を作製した。
・主剤
実施例A1で作製した熱硬化性ハイパーブランチポリマー30mgをアセトン0.1mLに溶解させて主剤を得た。
・硬化剤(解体性付与剤)
ジエチレントリアミン(DETA)を用いた。
上記主剤と硬化剤とを、主剤の熱硬化性ハイパーブランチポリマー中に含まれるグリシジルメタアクリレートGMA由来の構造単位とDETAとのモル比が以下となる量比で混合して接着剤を作製した。
[GMA由来の構造単位]:[DETA]=3.64:1
【0146】
(実施例B2~B6)
主剤に用いる熱硬化性ハイパーブランチポリマーを表2~4記載のように変更したこと以外は実施例B1と同様にして2液型の易解体性接着材料を作製した。
【0147】
(比較例1)
易解体性接着材料の組成を以下のように変更したこと以外は実施例B1と同様にして主剤を作製した。硬化剤を配合せずに主剤をそのまま接着剤とした。
主剤:
エポキシ樹脂EP001N(セメダイン社製)90質量%およびエチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)10質量%の混合品
【0148】
(評価)
引張せん断接着力を評価した結果を表2~4に示す。
表2~4中の用語の意味について説明する。
【0149】
・第1加熱、第2加熱
2枚の基板の接着剤塗布面を貼り合わせ、貼り合わせた箇所をクリップで固定した状態で硬化を行う。実施例B1は1段硬化、他の実施例は2段硬化である。表中の「第1加熱」とは1段目の硬化をいい、表中の数値はその硬化条件を示す。表中の「第2加熱」とは2段目の硬化をいい、表中の数値はその硬化条件を示す。
「第2加熱」においては、1段目の硬化を終えた後、試料をオーブンから取り出し室温まで放冷し、その後あらかじめ180℃に設定したオーブンに入れ所定時間加熱処理を行った。加熱処理は、熱風乾燥機を用いて行った。
【0150】
・弾性率
JIS K 6850:1999に準拠して、剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法による引張せん断接着強さ試験を実施し、得られた応力-歪み曲線における(破断応力)/(破断歪み)によって求めた。
【0151】
・せん断接着力変化指数(F2/F1)
第2加熱後のせん断接着力の値を第1加熱後のせん断接着力で除した値を「せん断接着力変化指数」とした。
【0152】
・弾性率変化指数(E2/E1)
第2加熱後の弾性率の値を第1加熱後の弾性率で除した値を「せん断接着力変化指数」とした。
【0153】
・破壊モード
「界面」とは、界面破壊を意味する。易解体性接着材料硬化体と被着体金属との界面において、樹脂硬化体の付着が残存することなく剥離したことを意味する。
「凝集」とは、凝集破壊を意味する。被着体金属に易解体性接着材料硬化体が付着し、硬化体自体が破壊された形態で剥離したことを意味する。
「混合」とは、界面破壊を起こした部分と凝集破壊を起こした部分とが混合した状態の破壊を意味する。
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
上記表に示したように、本実施例の易解体性接着材料を用いた場合、第1加熱により得られた硬化体を第2加熱することにより、せん断接着力は低下する。また、第1加熱後と第2加熱後のせん断接着試験で得られる弾性率を比較すると、あまり変化がないことがわかる。後述するように、硬化体のTg自体は上昇していることから、硬化体自体の弾性率は増大しているものと考えられる。その一方、せん断接着試験で得られる弾性率についてはあまり変化がないという結果であった。せん断接着試験を行なった時の破壊モードが凝集破壊モード(界面ではなく樹脂硬化体自身が破壊するモード) であった場合は、硬化体自体の弾性率の向上を反映してせん断試験における弾性率も増大するはずである。せん断試験の弾性率にあまり変化がなかったということは、接着試験での破壊が、樹脂硬化体自身の弾性率を反映しない界面破壊モードで起こったことを表していると考えられる。目視観察した結果においても、接着界面においてポリマーの硬化体が残存することなく剥離が起こっていることが確認された。
【0158】
図8は、P1+DETA(実施例B3の配合)の応力-変位曲線である。図示した結果から、熱処理によるせん断試験の弾性率変化はあまりないことがわかる。
【0159】
(TG-DTA)
図9は、熱硬化性ハイパーブランチポリマーP1とDETAを以下の比率で配合した易解体性接着材料(実施例B3)の熱特性を示したものである。
[GMA由来の構造単位]:[DETA]=3.64:1
図10は、熱硬化性ハイパーブランチポリマーP2とDETAを上記比率で配合した易解体性接着材料の熱特性を示したものである。
図11は、熱硬化性ハイパーブランチポリマーP3とDETAを上記比率で配合した易解体性接着材料(実施例B2)の熱特性を示したものである。
図9~11には、熱処理を加えずに、熱硬化性ハイパーブランチポリマーのみをTG-DTA測定したものと、熱硬化性ハイパーブランチポリマーとDETAを混合後80℃7時間の熱処理により硬化体を得たあと、TG-DTA測定したものとを示した。
これらのデータから得られたTg、5%重量減少温度Td5および1%重量減少温度Td1を
図12に示した。ポリマーP1とDETAからなる易解体性接着材料については、80℃7時間の熱処理の後、室温に戻し、その後180℃2時間で熱処理した硬化体についても測定データを示した(
図12(a))。
図12(a)に示した結果を参照すると、実施例B3の配合においては、以下の条件で測定される5%重量減少温度T2およびT1の差(T2-T1)が、-8℃であり、-20℃以上10℃以下であることが確認された
(条件)
易解体性接着材料を80℃7時間の第1熱処理条件で加熱処理して得られる試料1の5%重量減少温度をT1とし、易解体性接着材料を前記第1熱処理条件で加熱処理した後、180℃2時間の第2熱処理条件で加熱処理して得られる試料2の5%重量減少温度をT2とする。
P2とDETA、P3とDETAについても(T2-T1)の値は上記と同程度の値であると考えられる。このように、80℃7時間の熱処理によって得られた硬化体のTd5(5%重量減少温度)は、その後の180℃の加熱処理によってはあまり低下しないことがわかる。180℃の加熱処理によって解体するメカニズムは、硬化体の物性低下によるものではなく、界面の接着力低下に基づくものと考えられる。
また、Td5が比較的大きいことから、揮発性有機化合物の排出が抑えられているとも言える。
【0160】
ポリマーP1~3のいずれも、80℃7時間の熱処理により、230℃以上の高いTd5(5%重量減少温度)を示し、この熱処理により、充分な熱特性が得られることが確認された。
また、P1+DETA(
図12(a))の結果を参照すると、80℃7時間の熱処理によって得られた硬化体のTd5(5%重量減少温度)は、その後の180℃の加熱処理によってはあまり低下しないことがわかる。180°℃の加熱処理によって解体するメカニズムは、硬化体の物性低下によるものではなく、界面の接着力低下に基づくものと考えられる。
【0161】
(IR)
図13および
図14は、熱硬化性ハイパーブランチポリマーとしてP3、解体性付与剤としてDETAを用いた実施例B2についての赤外線吸収スペクトル(IR)の測定結果を示す図である。熱硬化性ハイパーブランチポリマーのみをIR測定したものと、熱硬化性ハイパーブランチポリマーとDETAを混合後、80℃7時間の熱処理を行って硬化体を得た後、IR測定したものと、その後、室温に戻してさらに180℃2時間の熱処理を行ったものとを示した。
図14の結果を参照すると、80℃7時間の熱処理では、ビニル(末端エチレン性不飽和二重結合)基およびエポキシ基の消費はいずれも20~30%の範囲内であった。その後の180℃2時間の熱処理により、ビニル基の消費はあまり進まなかったがエポキシ基の消費が進んでいる結果となった。180℃2時間の熱処理によって、熱硬化性ハイパーブランチポリマーのエポキシ基とDETAとの反応が進んだものと考えられる。
【0162】
(追加実施例:実施例A4)
まず、実施例A3の方法に倣いつつ、反応スケールをほぼ2倍にする(各成分の使用量を2倍にする)ことで、P3とは数平均分子量や分散度などが異なる熱硬化性ハイパーブランチポリマーP4を得た。反応スケールについて補足しておくと、P3の合成の際のEGDMAの使用量は1.00g、P4の合成の際のEGDMAの使用量は2.00gであった。
P4に関する評価結果を下表に示す。
【0163】
【0164】
上記P4 60mgを、アセトン0.2mLに溶解させて主剤を得た。
そして、上記主剤と、硬化剤(解体性付与剤)であるジエチレントリアミン(DETA)とを、P4中に含まれるグリシジルメタアクリレートGMA由来の構造単位とDETAとのモル比が以下となる量比で混合して接着剤を作製した。
[GMA由来の構造単位]:[DETA]=3.40:1
【0165】
得られた接着剤を用いて、実施例B1と同様の評価を行った。評価は、被着体の種類を様々に変えて行った。
結果を下表に示す。各表の上部に被着体に関する情報を記載した。
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
上記の各表に示されるとおり、熱硬化性ハイパーブランチポリマー(P)としてP4を用いた場合も、第1加熱により得られた硬化体を第2加熱することにより、せん断接着力は低下した(つまり、易解体性が得られた)。また、亜鉛板やモリブデン板など、ステンレス板ではない被着体を用いた場合にも易解体性が得られた。
【0172】
興味深いこととして、表4と表8(被着体はともにSUS430で、接着剤配合が異なる)の対比で、表8のほうが、第2加熱によって一層接着力が低下した。このことは、P4はP3より分子量分布が広く、高分子量成分を比較的多く含むことと関係している可能性がある。
【0173】
また、さらなる興味深いこととして、表10に示されるように、アルミニウム板とSUS430板の異種接合体を用いた評価では、第2加熱により、アルミニウム側に100%接着剤が残る界面剥離になった。また、せん断接着力変化指数が最小の0.1であった。この結果は、被着体の種類を適切に選択することで、解体後のリサイクルのしやすさなどを一層高められることを示しているといえる。
【0174】
この出願は、2020年5月8日に出願された日本出願特願2020-082844号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。