(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブ材料、その製造及び処理方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/17 20170101AFI20220506BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20220506BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220506BHJP
【FI】
C01B32/17
B82Y30/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2019538420
(86)(22)【出願日】2018-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2018051100
(87)【国際公開番号】W WO2018134245
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2021-01-06
(32)【優先日】2017-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】501401489
【氏名又は名称】ケンブリッジ・エンタープライズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】CAMBRIDGE ENTERPRISE LIMITED
【住所又は居所原語表記】The Old Schools, Trinity Lane, Cambridge, Cambridgeshire CB2 1TN, United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100212657
【氏名又は名称】塚原 一久
(72)【発明者】
【氏名】バルマー、ジョン
(72)【発明者】
【氏名】オロズコ、フランシスコ
(72)【発明者】
【氏名】グスパン、サリド
(72)【発明者】
【氏名】スパークス、マーチン
(72)【発明者】
【氏名】オニール、ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】エリオット、ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】コジオル、クルジストフ
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-280492(JP,A)
【文献】特表2014-503448(JP,A)
【文献】特表2007-536434(JP,A)
【文献】特開2004-345918(JP,A)
【文献】国際公開第2004/052781(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0078405(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
B82Y 30/00、40/00
C04B 35/565
B01J 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブベース材料を処理する方法であって、
カーボンナノチューブベース材料を提供する工程、
前記カーボンナノチューブベース材料を酸化雰囲気中で吊す工程、
前記カーボンナノチューブベース材料の照射部分に電磁放射を照射して、前記照射部分を加熱する工程であって、
前記照射部分は、いかなる支持面とも直接接触しておらず、
熱は、前記カーボンナノチューブベース材料の前記照射部分から離れて非照射部分に連続的に伝導され、
前記酸化雰囲気中での前記加熱は、前記カーボンナノチューブベース材料中のアモルファスカーボン、部分的に秩序化された非チューブ状炭素及び/又は欠陥
カーボンナノチューブの少なくとも部分的な酸化及び少なくとも部分的な除去を生じさせ、残りのカーボンナノチュー
ブを含む処理された材料を残す、工程
を含
み、
前記電磁放射は、前記電磁放射の各パルスの持続時間が、前記少なくとも部分的な酸化に対応する酸化化学反応の持続時間よりも長くないような時間でパルスされる、方法。
【請求項2】
カーボンナノチューブベース材料を処理する方法であって、
カーボンナノチューブベース材料を提供する工程、
前記カーボンナノチューブベース材料を酸化雰囲気中で吊す工程、
前記カーボンナノチューブベース材料の照射部分に電磁放射を照射して、前記照射部分を加熱する工程であって、
前記照射部分は、いかなる支持面とも直接接触しておらず、
熱は、前記カーボンナノチューブベース材料の前記照射部分から離れて非照射部分に連続的に伝導され、
前記酸化雰囲気中での前記加熱は、前記カーボンナノチューブベース材料中のアモルファスカーボン、部分的に秩序化された非チューブ状炭素及び/又は欠陥カーボンナノチューブの少なくとも部分的な酸化及び少なくとも部分的な除去を生じさせ、残りのカーボンナノチューブを含む処理された材料を残す、工程
を含み、
照射される前記材料の領域について、前記電磁放射は、前記電磁放射のパルスの積算持続時間が、前記少なくとも部分的な酸化に対応する酸化化学反応の持続時間よりも長くないような時間でパルスされる、方法。
【請求項3】
カーボンナノチューブベース材料を処理する方法であって、
カーボンナノチューブベース材料を提供する工程、
前記カーボンナノチューブベース材料を酸化雰囲気中で吊す工程、
前記カーボンナノチューブベース材料の照射部分に電磁放射を照射して、前記照射部分を加熱する工程であって、
前記照射部分は、いかなる支持面とも直接接触しておらず、
熱は、前記カーボンナノチューブベース材料の前記照射部分から離れて非照射部分に連続的に伝導され、
前記酸化雰囲気中での前記加熱は、前記カーボンナノチューブベース材料中のアモルファスカーボン、部分的に秩序化された非チューブ状炭素及び/又は欠陥カーボンナノチューブの少なくとも部分的な酸化及び少なくとも部分的な除去を生じさせ、残りのカーボンナノチューブを含む処理された材料を残す、工程
を含み、
前記照射部分の温度は、少なくとも300℃である、方法。
【請求項4】
カーボンナノチューブベース材料を処理する方法であって、
カーボンナノチューブベース材料を提供する工程、
前記カーボンナノチューブベース材料を酸化雰囲気中で吊す工程、
前記カーボンナノチューブベース材料の照射部分に電磁放射を照射して、前記照射部分を加熱する工程であって、
前記照射部分は、いかなる支持面とも直接接触しておらず、
熱は、前記カーボンナノチューブベース材料の前記照射部分から離れて非照射部分に連続的に伝導され、
前記酸化雰囲気中での前記加熱は、前記カーボンナノチューブベース材料中のアモルファスカーボン、部分的に秩序化された非チューブ状炭素及び/又は欠陥カーボンナノチューブの少なくとも部分的な酸化及び少なくとも部分的な除去を生じさせ、残りのカーボンナノチューブを含む処理された材料を残す、工程
を含み、
前記照射部分の前記温度は、最大で2500℃である、方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブベース材料を処理する方法であって、
カーボンナノチューブベース材料を提供する工程、
前記カーボンナノチューブベース材料を酸化雰囲気中で吊す工程、
前記カーボンナノチューブベース材料の照射部分に電磁放射を照射して、前記照射部分を加熱する工程であって、
前記照射部分は、いかなる支持面とも直接接触しておらず、
熱は、前記カーボンナノチューブベース材料の前記照射部分から離れて非照射部分に連続的に伝導され、
前記酸化雰囲気中での前記加熱は、前記カーボンナノチューブベース材料中のアモルファスカーボン、部分的に秩序化された非チューブ状炭素及び/又は欠陥カーボンナノチューブの少なくとも部分的な酸化及び少なくとも部分的な除去を生じさせ、残りのカーボンナノチューブを含む処理された材料を残す、工程
を含み、
プロセス前の前記照射部分の質量に対する前記プロセス後の前記照射部分の質量の比は、最大で0.9及び少なくとも0.01である、方法。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブベース材料は、少なくとも50重量%のカーボンナノチューブを含む、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブベース材料は、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ及び3層カーボンナノチューブの1つ以上から選択される、少なくとも5重量%のカーボンナノチューブを含む、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記カーボンナノチューブベース内の単層、2層及び3層カーボンナノチューブは、少なくとも100μmの平均長さを有する、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブベース材料の密度は、少なくとも0.05gcm
-3
である、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記カーボンナノチューブベース材料は、浮遊触媒粒子に対する化学気相成長法によって製作される、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブベース材料の前記非照射部分は、処理中の所与の瞬間に前記照射部分の面積の少なくとも5倍の面積を有する、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記電磁放射は、前記照射部分を前記カーボンナノチューブベース材料に沿って継続的に移動させるために前記カーボンナノチューブベース材料に対して移動される、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記カーボンナノチューブベース材料は、前記カーボンナノチューブの優先整列の方向を有し、及び前記照射部分の相対移動の方向は、前記カーボンナノチューブの前記優先整列の方向に実質的に平行である、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記電磁放射による前記照射部分の前記照射は、前記少なくとも部分的な酸化に対応する酸化化学反応の持続時間よりも長くない時間スケールにわたって起こる、請求項1~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記照射部分における前記電磁放射のフルエンス及び/又は強度は、前記カーボンナノチューブベース材料を、前記照射部分における全ての存在する炭素種の少なくとも最低発火温度に達するように加熱するのに十分である、請求項1~
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記処理された材料は、一次処理後に残った少なくともいくらかの残留触媒粒子及び/又はいくらかのアモルファスカーボンを除去するために更に処理される、請求項1~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記処理された材料において、前記カーボンナノチューブは、
(i)前記処理された材料が、マイクロ構造整列の目的軸に対するマイクロ構造不整列が別の方向と比べてある方向に拘束されないようなモルフォロジーを有する場合、前記処理された材料が少なくとも0.5のヘルマン配向パラメータを有するか、又は
(ii)前記処理された材料が、マイクロ構造整列の目的軸に対するマイクロ構造不整列が1つの平面に主に拘束されるようなモルフォロジーを有する場合、前記処理された材料が
、少なくとも0.5のチェビシェフの多項式
因数を有する程度まで整列される、請求項1~
16のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本資料は、認可番号FA9550-14-1-0070 P0002のもとでAir Force Office of Scientific Researchによって支援された研究に基づく。
【0002】
本発明は、カーボンナノチューブベース材料、カーボンナノチューブベース材料を製造する方法及びカーボンナノチューブベース材料を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
高品質のカーボンナノチューブベース材料を製造するプロセスは、既知である。例えば、(特許文献1)は、浮遊触媒CVD法によってカーボンナノチューブ及び関連する不純物のエアロゲルを製造するプロセスに基づくものであり、エアロゲルは、後に繊維又は膜に組み込まれる。(特許文献1)は、アセトンのエアロゾルを繊維に適用することによる繊維の更なる高密度化を開示しており、アセトンは、後に蒸発によって除去され、それにより繊維の更なる高密度化を生じさせる。加えて、(特許文献1)は、レーザ照射による繊維の処理を提案している。赤外線(波長15000nm)600W CO2パルスレーザを使用し、繊維サンプル全体を10、20、30、50、100又は300msにわたって照射する。これは、繊維中の不純物を融解、蒸発又は爆発させることによる繊維中の不純物のアブレーション効果を有する。この説明から、レーザ照射が真空又は不活性雰囲気中で行われることが理解され得る。(特許文献1)において、30msの照射の効果は、カーボンナノチューブの高密度化及び整列の向上であると説明されている。
【0004】
(特許文献2)は、0.1×104W/m2より大きい出力密度を有するレーザをCNT膜に照射し、それによりCNT膜を透明CNT膜に変換する、CNT膜を作成するプロセスを開示している。このプロセスでは、CNT膜は、超整列CNTアレイを基板上に形成し、これらを粘着テープで引っ張って除去することによって作成される。したがって、CNT膜は、酸化雰囲気中で実施される照射プロセス中、基板上に支持されている。(特許文献3)は、同様の開示を提供している。
【0005】
(特許文献4)は、レーザエネルギーの共振吸収によって半導体CNT又は金属CNTを選択的に破壊するために、基板上に膜として形成された半導体CNTと金属CNTとの混合物にレーザを用いて照射するプロセスを開示している。
【0006】
(特許文献5)は、電気泳動により、例えば基板上にCNTのマットを形成することを開示している。その後、CNTマットにレーザ処理を施し、電界放出デバイスにおけるそれらの有用性を促進する。(特許文献6)は、同様の開示を提供している。
【0007】
学術文献において、カーボンナノチューブのレーザ照射の効果に関する様々な研究が報告されている。この文献のいくつかを以下に記載する。
【0008】
(非特許文献1)は、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)に対する従来のフォトグラフィックフラッシュの効果を開示している。Ajayanらの試験は、SWCNT、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、黒鉛粉末、綿毛状煤、C60及び金属触媒粒子を含有するサンプルに対して実施された。Ajayanらの研究は、SWCNTが発火及び酸化し、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、黒鉛粉末、綿毛状煤、C60及び酸化金属触媒粒子を残すことを示した。(非特許文献2)は、同様の開示を提供している。
【0009】
(非特許文献3)は、SWCNTの光支援酸化のプロセスを開示している。SWCNTは、H2O2で処理され、光が照射される。SWCNTは、HiPco(高圧一酸化炭素)プロセスを使用して形成され、O2処理及びHCl処理によって精製されてFe粒子が除去される。CNTは、H2O2の水溶液と混合され、この時間中にレーザ照射が施される。混合物の温度は、70℃以下である。この研究は、SWCNTの酸化がレーザ照射によって強化されること、及び更にこのプロセスが直径選択的であることを示していると思われる。
【0010】
(非特許文献4)は、異なるエネルギーフルエンスを有するレーザパルスを使用した空気中でのCNTのレーザ照射を開示している。CNTは、マイクロ波CVDによってFeコーティングされたSi基板上の膜として成長される。CNTは、サブミクロンサイズのプレート及び炭素堆積物のカリフラワー型凝集体に変換される。ラマン分析は、ナノチューブの曲率によって引き起こされる欠陥に起因する純粋CNT中の2700cm-1のピークがレーザ照射処理によって低減されることを示唆している。
【0011】
(非特許文献5)は、レーザ照射下での金属カーボンナノチューブ及び半導体カーボンナノチューブの分子構造の発生に関する研究を開示している。CNTは、電気アーク放電法によって作製される。レーザ処理の効果は、小直径CNTを焼き払い、CNTの平均直径の増加をもたらすことである。(非特許文献5)の
図4は、空気中でのレーザ処理前及びレーザ処理後のSWCNTの共振ラマンスペクトルを示している。
【0012】
(非特許文献6)は、半導体単層カーボンナノチューブが保持され得る、空気中でのレーザ照射による金属単層カーボンナノチューブの優先破壊を開示している。(非特許文献6)の
図2及び
図4は、空気中でのレーザプロセスが数分後に金属単層CNTをどのように優先的に除去するかの一例を示している。これは、ラジアルブリージングモードの変更によって示されている。(非特許文献7)は、金属カーボンナノチューブのレーザ誘起選択的除去も開示している。
【0013】
(非特許文献8)は、レーザ放射による単層カーボンナノチューブの欠陥修復及び精製を時間分解ラマン分光法によって研究している。SWCNTは、パルスレーザ蒸着によって自立型マット内に形成される。
【0014】
(非特許文献9)は、レーザ照射処理に対して異なって応答する異なるタイプのSWCNT(異なる供給源による)を用い、空気中でのSWCNT薄膜に対するレーザ照射の効果を研究している。基板上に支持されたCNTは、空気中でのレーザ処理後、結晶性の強化及びアモルファスカーボンの減少が見られる。
【0015】
(非特許文献10)は、真空中及び空気中でのカーボンナノチューブ膜のレーザ照射の効果を開示している。空気中で照射されたMWCNT膜は、熱コンダクタンスの強化を示すものの、欠陥の増加を示す。
【0016】
(非特許文献11)は、レーザ照射がCNTのダイヤモンドへの変換をもたらし得ることを示している。(非特許文献12)は、高レーザ出力密度に曝されたMWCNTが構造的に異なる形態の炭素に変換され得るが、SWCNTが同じ効果を示さないことを開示している。
【0017】
(非特許文献12)は、CNT糸が製作され、且つ欠陥を回復するために真空中でレーザ掃引によって処理されるプロセスを開示している。著者らは、レーザ掃引がカーボンナノチューブ接合部を溶接するように機能するとも推測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】米国特許出願公開第2013/0228830号明細書
【文献】米国特許第7,973,295号明細書
【文献】米国特許第8,889,217号明細書
【文献】米国特許第7,659,139号明細書
【文献】米国特許第7,880,376号明細書
【文献】米国特許第7,341,498号明細書
【非特許文献】
【0019】
【文献】Ajayan,et al.(2002)
【文献】Braidy et al.(2002)
【文献】Yudasaka et al.(2003)
【文献】Kichambare et al.(2001)
【文献】Corio et al.(2002)
【文献】Huang et al.(2006)
【文献】Mahjouri-Samani et al.(2009)
【文献】Souza et al.(2015)
【文献】Markovic et al.(2012)
【文献】Mialichi et al.(2013)
【文献】Wei et al.(1997)
【文献】Ramadurai at al.(2009)
【文献】Liu at al.(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本開示では、カーボンナノチューブベース材料の実際の性能をどのように向上させ得るかを検討することを特に対象とする。材料タイプの一例として、CNTベーステキスタイルは、電界放出、フレキシブルタッチスクリーン及び電線において出現しつつある用途を有する。これらの例示的な用途のそれぞれでは、電気伝導率が重要である。そのようなCNTケーブルの現在までに報告されている最大電気伝導率は、6MS/m[Behabtu et al.(2013)]である。しかしながら、個々のCNTでは、典型的な測定電気伝導率は、約280MS/mである。これは、約60MS/mである銅の電気伝導率の約5倍である。したがって、CNTケーブル及びより一般には自己支持可能CNTベース材料の電気伝導率の改良の余地が依然としてあることは明らかである。このような材料は、「自己支持型CNT材料」と呼ばれることもある。これらは、材料片が例えば材料片の2つの反対端部から吊され得、且つ材料片が材料片を破損することなく少なくともその自重を支持し得るという意味で自己支持型である。本開示では、CNTベース材料の熱伝導率を促進することも対象とする。
【0021】
本発明者らは、自己支持型CNTベース材料の導電率を向上させるために、内部CNT整列の増大、グラファイト結晶性の強化、単層CNTの保持及び/若しくは2層CNTの保持並びに/又は不純物の除去が重要であると考える。
【0022】
実際の自己支持型CNTベース材料では、多様なCNT品質、長さ及びカイラリティがある。更に、これは、広範囲のバルク材料特性をもたらす。Rice Universityの研究は、CNTを整列させて高導電率繊維を得る多段湿式化学プロセスに至っている。しかしながら、このプロセスは、これらの個々のCNTの長さを20μm未満に限定する。University of Cambridgeで開発された代替的な浮遊触媒CVD生成プロセスは、個々のCNTが100μm以上のオーダーの長さを有するCNTテキスタイルを創出する。
【0023】
しかしながら、Rice Universityプロセスと比べた場合のUniversity of Cambridgeプロセスの欠点の1つは、University of Cambridgeプロセス後の材料中の残留触媒、アモルファスカーボン及び/又は部分的に秩序化された非チューブ状炭素の程度がより大きいこと、並びに欠陥CNTがより多いことであると考えられる。しかしながら、University of Cambridgeプロセスは、CNTの長さの点において根本的な利点を提供する。したがって、この長さの利点を利用して、自己支持型CNTベース材料の整列、結晶性及び/又は純度を向上しようとすることに大きい関心が持たれている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、上記課題の少なくとも1つに対処するために考案された。好ましくは、本発明は、上記課題の少なくとも1つを低減、改善、回避又は克服する。
【0025】
したがって、第1の好適な態様において、本発明は、カーボンナノチューブベース材料を処理する方法であって、
カーボンナノチューブベース材料を提供する工程、
カーボンナノチューブベース材料を酸化雰囲気中で吊す工程、
カーボンナノチューブベース材料の照射部分に電磁放射を照射して、照射部分を加熱する工程であって、照射部分は、いかなる支持面とも直接接触しておらず、熱は、カーボンナノチューブベース材料の照射部分から離れて非照射部分に連続的に伝導され、酸化雰囲気中での前記加熱は、カーボンナノチューブベース材料中のアモルファスカーボン、部分的に秩序化された非チューブ状炭素及び/又は欠陥ナノチューブの少なくとも部分的な酸化及び少なくとも部分的な除去を生じさせ、残りのカーボンナノチューブの配置を含む処理された材料を残す、工程
を含む方法を提供する。
【0026】
第2の好適な態様では、本発明は、カーボンナノチューブベース材料を製作及び処理する方法であって、
少なくともカーボンナノチューブ、アモルファスカーボン、部分的に秩序化された非チューブ状炭素及び触媒粒子を含むエアロゲルを、炭素材料の原料及び反応器内の浮遊触媒粒子からのカーボンナノチューブの核形成及び成長によって形成する工程、
エアロゲルをカーボンナノチューブベース材料に抽出し且つ固める工程、
カーボンナノチューブベース材料を酸化雰囲気中で吊す工程、
カーボンナノチューブベース材料の照射部分に電磁放射を照射して、照射部分を加熱する工程であって、照射部分は、いかなる支持面とも直接接触しておらず、熱は、カーボンナノチューブベース材料の照射部分から離れて非照射部分に連続的に伝導され、酸化雰囲気中での前記加熱は、カーボンナノチューブベース材料中のアモルファスカーボン、部分的に秩序化された非チューブ状炭素及び/又は欠陥ナノチューブの少なくとも部分的な酸化及び少なくとも部分的な除去を生じさせ、残りのカーボンナノチューブの配置を含む処理された材料を残す、工程
を含む方法を提供する。
【0027】
第3の好適な態様において、本発明は、平均長さが少なくとも100μmであるカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブベース材料であって、材料のカーボンナノチューブは、材料が、マイクロ構造整列の目的軸に対するマイクロ構造不整列が別の方向と比べてある方向に拘束されないモルフォロジーにおいて少なくとも0.5のヘルマン配向パラメータ、及びマイクロ構造整列の目的軸に対するマイクロ構造不整列が1つの平面に主に拘束されるモルフォロジーにおいて少なくとも0.5のチェビシェフの多項式因数を有する程度まで整列される、カーボンナノチューブベース材料を提供する。
【0028】
第4の好適な態様において、本発明は、平均長さが少なくとも100μmであるカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブベース材料であって、材料のカーボンナノチューブは、材料が、Gピークの振幅に対するDピークの振幅のD:G比を測定するために非偏光ラマン分光法を受け、振幅が、ピーク下でベースライン減算及び積分を実施することによって計算され、ラマンレーザ強度が、計算されたD:G比をラマンレーザ強度から独立したままにするために10%以内で十分に低く、波長523nm及び785nmの光を使用する場合、D:G比が523nmの光では最大で0.025及び785nmの光では最大で0.1である程度までのグラファイト結晶性を有する、カーボンナノチューブベース材料を提供する。
【0029】
第5の好適な態様において、本発明は、平均長さが少なくとも100μmであるカーボンナノチューブを含むカーボンナノチューブベース材料であって、材料のカーボンナノチューブは、材料が、Gピークの振幅に対するDピークの振幅のD:G比を測定するために非偏光ラマン分光法を受け、振幅が、ピーク下でベースライン減算及び積分を実施することによって計算され、ラマンレーザ強度が、計算されたD:G比をラマンレーザ強度から独立したままにするために10%以内で十分に低く、異なる波長の光を使用する場合、D:G比が波長の4乗に対してプロットされ、且つ直線にフィットされ、直線が原点に数値的に拘束されるとき、調整されたR2が少なくとも0.7である程度までのグラファイト結晶性を有する、カーボンナノチューブベース材料を提供する。
【0030】
本発明の第1、第2、第3、第4及び/又は第5の態様は、以下の任意選択的な特徴のいずれか1つ又はこれらが両立する程度まで以下の任意選択的な特徴の任意の組み合わせを有し得る。
【0031】
記述の時点では、理論に束縛されるものではないが、酸化雰囲気中での加熱は、材料中の十分な熱伝導経路の一部ではないナノチューブの少なくとも部分的な酸化及び少なくとも部分的な除去を生じさせると考えられる。適切に迅速に熱を輸送排除することができないナノチューブは、結果的に、それらの酸化を可能にする程度まで加熱される。好ましくは、カーボンナノチューブベース材料は、少なくとも0.1cm2のフットプリント面積を有する。ここで、「フットプリント」面積とは、材料の平面図面積又はシルエット面積を意図する。本発明は、少なくとも0.1cm2のフットプリント面積などの比較的小さい材料サンプルに対して実施することができるが、いくつかの実施形態では、本発明は、例えば、少なくとも1cm2のフットプリント面積、より好ましくは少なくとも5cm2のフットプリント面積、より好ましくは少なくとも10cm2のフットプリント面積、より好ましくは少なくとも50cm2のフットプリント面積を有する大幅により大きい材料サンプルに対して実施される。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、実質的に連続的に実施され得る。理解されるように、照射される部分は、典型的には、任意のある時点におけるカーボンナノチューブベース材料のフットプリント面積全体のわずかな比率のみを占める。
【0032】
好ましくは、カーボンナノチューブベース材料は、少なくとも50重量%のカーボンナノチューブを含む。これは、熱重量分析(TGA)によって評価され得る。更に、好ましくは、カーボンナノチューブベース材料は、単層カーボンナノチューブ、2層カーボンナノチューブ及び3層カーボンナノチューブの1つ以上から選択される、少なくとも5重量%のカーボンナノチューブを含む。同様に、これは、TGAによって評価され得る。
【0033】
好ましくは、カーボンナノチューブベース材料の単層、2層及び3層カーボンナノチューブは、少なくとも100μmの平均長さを有する。これは、実質的な平均長さである(以下で説明するように測定される)。適切なカーボンナノチューブ材料は、浮遊触媒化学気相成長(CVD)法によって作成され得る。
【0034】
カーボンナノチューブベース材料の密度は、少なくとも0.05gcm-3であり得る。より好ましくは、カーボンナノチューブベース材料の密度は、少なくとも0.1gcm-3であり得る。いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブベース材料の密度は、約1gcm-3以下であり得る。より好ましくは、カーボンナノチューブベース材料の密度は、0.8gcm-3以下、0.7gcm-3以下又は0.64gcm-3以下であり得る。
【0035】
好ましくは、カーボンナノチューブベース材料の非照射部分は、処理中の所与の瞬間に照射部分の面積の少なくとも5倍の面積を有する。これは、任意のある時点において、十分な熱伝導経路の一部を形成する照射部分内のCNTのための、照射部分のヒートシンクとして利用可能である十分な非照射材料があるようにすることを目的としている。
【0036】
好ましくは、電磁放射は、照射部分をカーボンナノチューブベース材料に沿って継続的に移動させるためにカーボンナノチューブベース材料に対して移動される。好ましくは、このような継続的な移動は、(任意選択的に材料に対する照射部分の移動限界を除いて)停止することのない実質的に連続的な移動である。このような走査型の手法は、処理された材料に対し、中断しながら進む手法と比べて満足のいく均一な性質を提供できることが判明している。好ましくは、カーボンナノチューブベース材料(「現状のままの」材料)は、カーボンナノチューブの優先整列の方向を有する。照射部分の相対移動の方向は、カーボンナノチューブの優先整列の方向に実質的に平行であることが好ましい。
【0037】
好ましくは、電磁放射による照射部分の照射は、比較的短い時間スケールにわたって行われる。本開示の別の箇所で説明されるように、照射部分は、酸化化学反応を経ると考えられる。好ましくは、照射は、酸化化学反応自体の継続時間よりも長くない時間スケールにわたって行われる。より好ましくは、この時間スケールは、酸化化学反応の継続時間よりも短い(より好ましくは大幅に短い)。
【0038】
好ましくは、電磁放射は、パルスされる。これは、パルス幅に対応する照射の継続時間が上で説明した時間スケールとなるようにするための便利な手法である。
【0039】
また更に、照射される材料の領域について、好ましくは、電磁放射による照射の合計時間(1回の通過中に領域の照射によって受信されるパルスの継続時間の合計に対応する)は、酸化化学反応自体よりも長くない。酸化化学反応の継続時間は、白色酸化的フラッシュ(white oxidative flash)の継続時間に基づいて評価され得る。より好ましくは、電磁放射による照射の合計時間は、酸化化学反応よりも大幅に短い。
【0040】
したがって、上記工程を行うと、処理された材料が完全に燃え尽きる可能性が低くなるという意味で利点をもたらすことが判明している。
【0041】
照射部分の温度は、少なくとも300℃であり得る。この温度は、カーボンナノチューブベース材料による電磁放射の吸収及びホットプレート又は炉などの任意の更なる外部熱源の結果として達成され得る。照射部分の温度への更なる寄与はまた、結果として生じる照射部分で起こる酸化反応によってもたらされる。照射部分は、最大で2500℃の温度まで加熱され得る。いくつかの実施形態では、照射部分は、最大で1600℃の温度まで加熱され得る。高温計を使用して対象エリアの温度を測定することができる。
【0042】
高温計は、空間に関して酸化フラッシュに直接隣接して、又は時間に関して酸化イベントの直後に向けられるべきである。この測定手法は、対象エリアの温度の下界値を与える。黒体放射以外の酸化化学反応自体による光を高温計によって測定する場合、この示度は、対象エリアの温度の上界値を与える。温度は、[Tristant et al,Nanoscale(2016)]に従い、Gピークのストークスモード及び反ストークスモードを考慮することによってラマン分光法で測定され得ることに留意されたい。
【0043】
好ましくは、照射部分における電磁放射のフルエンス及び/又は強度は、カーボンナノチューブベース材料を、照射部分における全ての存在する炭素種の少なくとも最低発火温度に達するように加熱するのに十分である。
【0044】
好ましくは、酸化環境は、単に雰囲気による空気であるが、材料中の炭素種との酸化反応を引き起こす任意のガスであり得る。過酸化水素など、酸化反応を供給及び/又は促進するための酸化剤をCNT材料に添加することも可能である。これらの他の付加的な酸化源も本特許の範囲に含まれる。
【0045】
プロセス前の照射部分の質量に対するプロセス後の照射部分の質量の比は、最大で0.9であり得る。プロセス前の照射部分の質量に対するプロセス後の照射部分の質量の比は、少なくとも0.01であり得る。このように、材料に適用される処理は、炭素の酸化に起因するいくらかの質量損失をもたらすことが明らかである。
【0046】
処理された材料は、一次プロセスからの少なくともいくらかの残留触媒粒子及び任意の残りのアモルファスカーボンを除去するために更に処理され得る。これは、酸処理、好ましくは非酸化酸処理によって既知の方法で実施され得る。
【0047】
処理された材料において、好ましくは、カーボンナノチューブは、材料が、マイクロ構造整列の目的軸に対するマイクロ構造不整列が別の方向と比べてある方向に拘束されないようなモルフォロジーにおいて少なくとも0.5のヘルマン配向パラメータを有する程度に整列される。より好ましくは、これらの前記モルフォロジーにおいて、ヘルマン配向パラメータは、少なくとも0.6又は少なくとも0.7である。マイクロ構造整列の目的軸に対するマイクロ構造不整列が1つの平面に主に拘束されるようなモルフォロジーにおいて、好ましくは、チェビシェフの多項式因数は、少なくとも0.5である。より好ましくは、これらのモルフォロジーにおいて、チェビシェフの多項式因数は、少なくとも0.6又は少なくとも0.7である。
【0048】
処理された材料において、好ましくは、カーボンナノチューブは、材料が、Gピークの振幅に対するDピークの振幅のD:G比を測定するために非偏光ラマン分光法を受け、振幅が、ピーク下でベースライン減算及び積分を実施することによって計算され、ラマンレーザ強度が、計算されたD:G比をラマンレーザ強度から独立したままにするために10%以内で十分に低く、波長523nm及び785nmの光を使用する場合、D:G比が523nmの光では最大で0.025及び785nmの光では最大で0.1である程度までのグラファイト結晶性を有する。
【0049】
処理された材料において、好ましくは、カーボンナノチューブは、材料が、Gピークの振幅に対するDピークの振幅のD:G比を測定するために非偏光ラマン分光法を受け、異なる波長の光を使用する場合、D:G比がラマンレーザ励起波長の4乗に対してプロットされ、且つ直線にフィットされ、直線が原点に数値的に拘束されるとき、調整されたR2が少なくとも0.7である程度までのグラファイト結晶性を有する。より好ましくは、低減されたR2は、少なくとも0.8である。
【0050】
いくつかの実施形態では、材料は、繊維、テキスタイル、シート又は膜の形態である。好ましくは、材料は、支持のための基板を必要としない自立形式で提供される。材料は、光透過性であり得る。例えば、材料は、実質的に透明又は完全に透明であり得る。
【0051】
本発明者らは、本発明の好ましい方法により、いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブベース材料に本発明の方法を適用すると、処理後のラマンスペクトル中のCNTのラジアルブリージングモードが変化しないことに更に言及している。
【0052】
本発明の更なる任意選択的な特徴を以下で述べる。
【0053】
ここで、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1A】銀ペーストを使用して銅端子間に吊された処理前のカーボンナノチューブシートの光学画像を示す。
【
図1B】本発明の一実施形態による照射後の
図1Aのカーボンナノチューブシートを示す。
【
図2A】本発明の実施形態による処理された材料の光学画像を示す。
【
図2B】本発明の実施形態による処理された材料の光学画像を示す。
【
図2C】本発明の実施形態による処理された材料の光学画像を示す。
【
図2D】本発明の実施形態による処理された材料の光学画像を示す。
【
図3】レーザ処理前の自己支持型CNT材料のSEM画像を示す。
【
図4】本発明の一実施形態によるレーザ処理後の自己支持型CNT材料のSEM画像を示す。
【
図5】レーザ処理及び露出した触媒を除去するための後続の酸処理後の自己支持型CNT材料のSEM画像を示す。
【
図6】レーザ処理前の自己支持型CNT材料のラマンスペクトルを示す。
【
図7】レーザ処理後の自己支持型CNT材料のラマンスペクトルを示す。
【
図8】CNTベース材料のマイクロ構造整列に対する本発明の好適な実施形態の効果を示す。a、b、c及びdとして示される画像については以下で述べる。
【
図9】異なるレーザ波長の大気フォトニックプロセス(atmospheric photonic process)による「前」及び「後」効果のラマンスペクトルを示す。
【
図10】CNTベース材料のナノ構造ソーティング及び整列に対する本発明の好適な実施形態の効果を示す。a、b、c及びdとして示される画像については以下で述べる。
【
図11】本発明の一実施形態による、電気抵抗を室温電気抵抗に対して正規化した、レーザ処理前及び後のCNT材料の温度による電気抵抗挙動を示す。
【
図12】CNT材料に対するレーザビームの並進移動を示す空気中でのCNT材料サンプルのフォトニック処理の概略斜視図を示す。
【
図13】CNTテキスタイルのモルフォロジー及び結晶性に対する単一静的領域の照射の効果を示す。周縁の周りの画像は、一点照射による酸化フラッシュのハイスピードカメラ画像である。
【
図14】
図14aは、ブタノール及びトルエン原料を使用して浮遊触媒CVD法で作製したCNT材料のTGA分析結果を示す。
図14bは、ブタノール及びトルエン原料を使用して浮遊触媒CVD法で作製したCNT材料のTGA分析結果を示す。
【
図15】ヘルマン配向パラメータの決定において使用するための、本発明の一実施形態のX線回折方位角走査を示す。
【
図16】
図16Aは、生成物のマイクロ構造がラマンレーザ偏光に対して平行(黒)及び垂直(赤)に配向されている、本発明の一実施形態による処理された材料のラマンスペクトルを示す。これは、偏光ラマンスペクトルに対する処理された材料の整列の効果を示す。
図16Bは、本発明の一実施形態による、照射処理前のカーボンナノチューブ材料に関する
図16Aのラマンスペクトルを示す。
【
図17】ラマン励起波長の4乗に対してプロットしたD:G値を示す。現状のままの材料(即ち本発明の一実施形態の方法による処理前のカーボンナノチューブ材料)は、良好なフィットをもたらさず、有意な非ゼロ切片を有する。本発明の実施形態による材料は、波長の4乗とD:Gとの適切な線形関係を有する。
【発明を実施するための形態】
【0055】
概要
浮遊触媒化学気相成長法は、容易に産業化されている一段生産プロセスであり、個々のCNT長さの規模が競合プロセスよりも長い単層カーボンナノチューブ(SWCNT)又は2層カーボンナノチューブ(DWCNT)テキスタイルを固有に生成する。外因性のバルク不完全性に対処した後でも、成長プロセスに伴う原子スケールの欠陥は、競争力のある電気輸送の展望を依然として制限する可能性がある。本発明の好適な実施形態は、これに対処しようとするものである。ここで提示される手法は、これらのテキスタイルに特に適しており、アモルファスカーボン及び/又は部分的に秩序化された非チューブ状炭素、欠陥CNT及び十分な熱経路を形成していないCNTを選択的に除去する。好適な実施形態では、マイクロ構造整列の顕著な向上を有するとともに、ラマン分光法に関して分光計のノイズフロア下でDピークが消失する一方、ラジアルブリージングモードを保持する、光学的に透明なSWCNT又はDWCNT材料(典型的には膜の形態の)が認められる。更に、残留触媒粒子は、個別調整された非酸化性酸洗浄によって除去することができる。
【0056】
空気中での材料の照射の基本的処置後に酸洗浄をすると、導電率を(例えば10倍まで)増加させることが示されており、したがって導電率を更に数倍増加させるための簡単な酸処理を可能にする。極低温輸送測定は、新たなマイクロ構造整列、結晶性、純度及び化学処理の電気輸送に対する効果を示す。
【0057】
カーボンナノチューブ(CNT)製の電気ケーブルは、送電における破壊的技術として段階的に実現されている。25年前、透過型電子顕微鏡のグリッド上の煤として始まったものは、重量で正規化した場合、導電率、電流容量及び強度の点において銅及びアルミニウムを超えるバルクCNTケーブルに進化した。これらの結果は、刺激的であるが、歴史的背景にとどめなければならない。30年以上前、他のsp2炭素形態のヨウ素ドープポリアセテレン及びグラファイトインターカレーション化合物は、重量を考慮しない状態で自発的に銅の導電率に接近し、最良の場合にはそれを超えた。実際、1984年には、インターカレートされた黒鉛化炭素繊維は、その多機能強度及び銅に近い導電率が理由で架空送電線の代替であると考えられた。現在のCNTを含むこれら全ての炭素材料において、純度、内部整列及びグラファイト結晶性は、最大未使用導電率及び化学処理後の最大導電率の達成において重要である。
【0058】
単層CNT(SWCNT)及び2層CNT(DWCNT)は、輸送が一義的に一次元(フォノン相互作用を本質的に抑制し、実質的にμmの平均自由行程をもたらす)及び本質的に金属(ドーピングの問題のない、絶対零度に近い金属抵抗温度依存性)の両方であり得るという点で、大きい多層CNTを含む他のバルクsp2炭素形態よりも優れている可能性がある。研究者は、電力移送にとって顕著なことに、テキスタイルを形成する巨視的なアセンブリに組み合わされたときに準一次元輸送が持続することを実証した。この属性は、純度、内部整列及びグラファイト結晶性などの外因性の因子が十分に発展することを前提として優れたバルク導電率をもたらす可能性がある。
【0059】
本発明者らの見解では、浮遊触媒化学気相成長法は、現在までに開発されている整列長尺SWCNT及びDWCNTテキスタイルを作製するための最もスケーラブルなルートである。この手法では、SWCNTテキスタイル及び/又はDWCNTテキスタイルを、競合製作プロセスのCNTよりも個々のCNTが数百倍長いシート及び繊維形態で生成する。しかしながら、CNT繊維の導電率は、競合より大きく優れていない。10nm毎に1つもの結晶欠陥が室温移動度を制限する。
【0060】
本発明の好適な実施形態では、純度、内部整列及びグラファイト結晶性を大幅に向上させる、浮遊触媒で得られるSWCNT及びDWCNTテキスタイルに特に適した多段階フォトニックベースポストプロセスが提示される。全てのSWCNT及びDWCNT材料が無事にレーザ処理され得るとは限らないことが判明している。本発明者らは、理論に束縛されるものではないが、高度の予め存在する秩序が必要となり得ると推測する。
【0061】
本発明の好適な実施形態では、処理領域において基板(支持面)と接触しないようにその端部で吊された、伸張させたSWCNT(又は2層CNT)テキスタイル上を入射レーザビームが連続的に通過する。空気中でのそれぞれの連続的なレーザ通過により、熱導管を形成しない材料が段階的に除去される。除去される材料は、典型的には、アモルファスカーボン、部分的に秩序化された非チューブ状炭素、欠陥CNT及び十分な熱経路を形成していないCNTの1つ以上であると考えられる。この処理プロセスは、自然淘汰と言い表すことができ、生き残るのは、大幅に良好な内部マイクロ構造整列、比導電率(10倍増加)及び機器の分解能の限界に近い(ラマンスペクトルのDピークの排除に近い)結晶性を伴う透明SWCNT(又はDWCNT)膜である。残留触媒は、表面に現れ、後に酸浴によって容易に除去される。ここで提示される研究の意義は、1)この研究が、純度、整列及び結晶性の大幅な向上後、浮遊触媒で得られるSWCNTテキスタイルの真の潜在力を示すこと、2)この研究が、製造後に簡単明瞭な手法で又はインラインで組み込まれ得る多段階スケーラブル製作プロセスを確立することである。
【0062】
文献では、多層CNTの黒鉛化のいくらかの進展が報告されている。しかしながら、典型的には、黒鉛化は、SWCNTにおいて失敗している。これは、CNTのレーザアニーリングでのこれまでの試みを含む。これについて、本開示の以下の段落で記載する。次いで、原理研究の証明を特性評価手法とともに提示する。次いで、連続的なレーザ走査による任意に長いSWCNTテキスタイルへのスケールアップについて記載する。理論に束縛されるものではないが、次いで、プロセスの機械的構造について他のSWCNTアニーリング及び精製手法との相違の点から記載する。
【0063】
更なる背景
黒鉛化は、グラファイト及び炭素繊維をとりわけ高い移動性及び電気伝導率にするために必要な高温不活性アニーリング(2500~3500℃)である。黒鉛化は、不純物を低減し、結晶点欠陥を修復し、且つ内部マイクロ構造秩序を強化する。結晶粒が成長し、積層グラフェン平面が規則的なABAB積層で整列し、収縮するグラフェン平面の分離及びかさ密度の増大をもたらす。一見すると、CNTの黒鉛化が取るべき行為であることは明らかであり、実際、多層の多様なものに問題なく適用されてきた。透過型電子顕微鏡は、作製したままの多層CNTの、最初に波状で乱れた層が黒鉛化後に直線になることを示す。熱重量測定分析は、黒鉛化によって酸化温度が数百℃増加することを明らかにし、最初の酸化点である欠陥の除去を示す。多層黒鉛化は、室温導電率を10kSm-1から200kSm-1に向上させ、熱伝導率を2.5WK-1m-1から22.3WK-1m-1に増加させ、電荷キャリアの平均自由行程を約0.3μmから約2μmに向上させることが示されている。黒鉛化多層CNTに対するラマン分光法では、Gピークの狭まり及びより高いエネルギーへのシフトを示す。D:G(ラマンスペクトルのDピークとGピークとの間の比であり、グラファイト結晶性の一般的な指標)は、0.769から0.270に向上した(Kajiura et al.(2005))。
【0064】
しかしながら、SWCNTの黒鉛化は、別の話である。典型的な黒鉛化温度に近づいてもいない状態で、SWCNTのより大きいSWCNTへの凝集が不活性背景中において約1400℃で開始することを明らかにする複数の報告がある。約1800℃までに、これらのより大きいSWCNTは、多層CNTに変わり始める。2400℃までに、全てのCNTが多層CNTに、場合により更に黒鉛状炭素リボンに変わることが判明している。2000℃まで、2層CNTは、より良好に機能するとともに構造的に安定であった。研究者は、SWCNTの凝集を透過型電子顕微鏡法及びラマン分光法(ラマンラジアルブリージングモードのより低エネルギーへのシフトは、より広い直径のチューブへの転換を示す)によって確認した。多層チューブへの転換時、ラジアルブリージングモードが消失する。SWCNT及びより少ない程度でDWCNTは、それらの小さい円筒直径及び曲率誘導内部応力を考慮すると、他のsp2炭素に特有である。これは、これらを酸化、化学処理に対して悪い意味で脆弱にし、残念ながら、これには典型的な黒鉛化アニーリングも含まれる。
【0065】
しかしながら、典型的な黒鉛化処理を妨げる内部応力は、場合により欠陥の修復を容易にする。CNTの結晶構造の欠陥は、固定位置に静止せず、実際には高度に移動性である。第一原理モデリングは、SWCNTの空孔欠陥が約100~200℃で移動性になることを示し、透過型電子顕微鏡は、多層CNT欠陥が熱的揺らぎによって摂動し、熱勾配を速度80nms-1で上に移動することを見出した。別の顕微鏡研究では、単に移動する欠陥以外に2層CNTの欠陥の修復が直接確認されている。欠陥の修復速度は、温度とともに大きく増加し、修復速度は、約225℃で飽和する。したがって、SWCNT均等物の黒鉛化には、より平面的なグラファイト構造体よりもかなりの低温を必要とする可能性が高い。典型的な黒鉛化温度を大きく下回るSWCNTの不活性アニーリングを1000℃において試み、最良ラマン励起波長におけるラマンスペクトルのD対G比の0.18から0.059への向上に至っている。
【0066】
熱処理のために典型的な炉を使用する代わりに、レーザ照射によるアニーリングは、本質的により速い加熱/冷却速度及び選択的熱ゾーンを伴う代替熱源であり、炉では見られない程度の制御を可能にする。CNTのレーザアニーリング自体は、新しい概念ではない。最も成功したレーザプロセスは、空気中でSWCNTに照射することを伴い、多くの場合、アニーリングレーザは、ラマン分光法のプローブでもあった。Corio et al.(2002)、Huang et al.(2006)、Mahjouri-Samani et al.(2009)、Souza et al.(2015)、Markovic et al.(2012)、Maehashi et al.(2004)及びMialichi et al.(2013)を参照されたい。これらのラマン空気中研究間の実験パラメータは、大きく異なる。レーザ波長は、紫外線~赤外線に及び、最も成功した平均強度は、1~100kWcm-2の範囲である。合計処理時間は、数十秒~数時間にわたって継続した。パラメータの広がりにもかかわらず、結果は、多くの場合に同じであり、即ちラマンスペクトルのラジアルブリージングモードの変更であった。初期の研究では、この効果を、より小さい直径のCNTがそれらのより高い化学活性によって選択的に酸化するためであるとしている(Corio et al.(2002))。他の研究では、これは必ずしも当てはまらず、レーザ処理は、自由電荷キャリアとレーザ光との相互作用によって金属SWCNTを選択的に酸化させると結論付けた(Huang et al.(2006)、Mahjouri-Samani et al.(2009)及びSouza et al.(2015))。
【0067】
ラジアルブリージングモードの変化以外では、一般に、SWCNTの空気レーザ処理がD:Gのいくらかの向上をもたらす。D:Gの向上は、結晶性の強化及び/又はアモルファスカーボンの除去を示す。ときに、D:Gは、大幅に向上し、非整列SWCNTの場合には0.67~0.04のオーダーを超えていた(Souza et al.(2015))。非整列SWCNTの別のケースでは、Dピークの除去があった(Zhang et al.(2002))。これらの例の両方では、レーザ処理前にレーザアブレーション又はアーク放電法のいずれかによってSWCNTを成長させた。これらの成長プロセスでは、非常に短時間にわたり、SWCNTが浮遊触媒で得られるテキスタイルよりも高温(1700℃を超える)に曝される。それらのレーザアニーリングによるD:G向上は、アモルファスカーボンが除去され、既に非常に結晶性の高いSWCNTが残ることによって説明され得る。
【0068】
空気中でのSWCNTの処理、真空、窒素又はアルゴンなどの不活性雰囲気中でのSWCNTのレーザアニーリングによる排除は、結晶性のわずかな向上のみに至っている(Mialichi et al.(2013))。研究者は、不活性ガス背景との対流により、真空の場合に比べて多大な熱が失われることを認識した。例えば、真空中で1000℃までレーザ加熱されるSWCNTサンプルは、窒素中での同一照射条件下で250℃の温度にのみなる。空気又は不活性背景のいずれかにおける多層CNTのレーザ処理は、ほとんどの場合、わずかな向上のみであるか又は劣化に至る。この例外は、真空中に吊され、掃引CO2レーザ(約20ms/レーザ通過にわたって3.8kWcm-2)によって加熱される整列多層CNT糸である(Liu et al.(2012))。導電率は、42.5kSm-1から65kSm-1に約50%増加し、D:G比は、0.45から0.08に向上する。マイクロ構造又は繊維直径に明確な変化はなく、糸の靭性は、評価できるほど低下したことに留意されたい。
【0069】
十分に論じられているCNTレーザアニーリングのパラメータは、レーザ波長である。CNTは、一般に、スペクトルのTHz領域、赤外線領域、可視領域及び紫外線領域に属する4つの物理的に異なる電磁吸収機構を有する。まずTHz~赤外線レジームの機構では、CNT材料のプラズマ周波数は、約55.6μm(22.3meV/180cm-1)~12.4μm(100meV/806cm-1)の範囲である。また、このレジームでは、SWCNT及び多層CNTの両方において100μm(12.4meV/100cm-1)付近に広い吸収ピークが存在する。この吸収ピークの根拠は、グラフェン平面の曲率によってCNTに形成された小さいバンドギャップ又はCNTの長さに沿ったプラズモン振動のいずれかであるとされ、論争の原因となってきた。最近の結果は、後者を示している。この吸収ピークは、ほとんどの実用的なレーザにとって大きすぎる波長を中心とするが、このピークは、赤外線レーザの因子になるほど十分に広い。赤外線でのCNTのレーザアニーリングに関して、研究(Markovic et al.(2012))では、可視~赤外線の複数の波長によるCNTアニーリングを評価した。短波長は、非整列SWCNT材料の表面をプローブし(532nmレーザ線で168nm侵入)、より長い波長は、バルクにより深く侵入する(780nmレーザ線で331nm侵入)ことが判明した。この発見は、材料に均質な状態で完全に影響を及ぼすために、より長い波長がおそらくより良い選択であることを裏付ける。
【0070】
スペクトルのより高いエネルギー領域において、SWCNTは、フォンホーブ特異点間の電子遷移による十分に定義された可視吸収ピークを示す。これらのピークの特定の位置は、カイラリティに依存し、一般に多層CNTに存在しない。カイラリティの分布及びSWCNT凝集/束化の効果により、吸収ピークは、広がり、同化する。レーザアニーリングに関する少なくとも1つの研究では、それらのレーザは、ファンホーブ特異点による共鳴に衝突すると主張されている(Maehashi et al.(2004))。それらのラマンスペクトルのラジアルブリージングモードは、実際にレーザ照射後に変化した。しかしながら、この効果も小さいチューブ又は金属チューブの選択酸化によって説明される。これは、以前に観察されており(Corio et al.(2002)、Huang et al.(2006)、Mahjouri-Samani et al.(2009)及びSouza et al.(2015))、これらの論文では論じられていなかった。多層CNT、SWCNTsの両方並びにグラファイト及びグラフェンは、πプラズモンの共鳴により、紫外線レジーム内に248nm(5eV)を中心とした顕著な吸収バンドを有する。研究者は、この波長におけるレーザアニーリングが、アモルファスカーボンを選択的に酸化除去し、SWCNTを残す特定の精製効果を有することを示した(Hurst et al.(2010)及びGspann et al.(2014))。
【0071】
米国特許出願公開第20130028830号明細書は、不活性アルゴン環境中でのCNTのレーザアニーリングについて実施された研究のいくつかの態様を開示している。この手法は、材料の高密度化につながることが示された。加えて、米国特許出願公開第20130028830号明細書に開示されている処理は、残留触媒を表面に押しやる。米国特許出願公開第20130028830号明細書のプロセスは、処理されるサンプルから多量の材料を除去しない。
【0072】
空気中での単層CNTのレーザ処理を開示している学術文献では、グラファイト結晶性の向上の状況が明らかになっているが、別の効果は、金属SWNT又は小直径SWNTの除去であると思われる。言及した全ての研究において、SWNT膜は、基板上に支持され、非常に高いレーザ出力及び滞留時間(即ち高レーザフルエンス)のレーザによって照射される。文献は、波長が長いほど材料内により深く侵入することを示唆すると思われる。
【0073】
試験用材料及びセットアップ
本発明の好適な実施形態では、処理プロセスは、非導電CNT、部分的に秩序化された非チューブ状炭素及びアモルファスカーボンを選択的に除去する。プロセス開始時の自己支持材料が不透明膜である場合、処理プロセスでは、これを、CNTマイクロ構造が大幅により整列された透明にする。本発明者らの知る限り、同様の効果の他の開示はない。特に、ラマン分光法のラジアルブリージングモードは、処理後に変化しない。これは、SWCNT/2層CNTの分布がそれらの酸化温度を大きく上回るにもかかわらず変化していないことを示している。他のより原始的な酸化レーザアニーリングは、この分布を破壊しないにしても変えたのに対し、これも新たな結果である。本発明者らは、この効果に導電率、純度及びグラファイト結晶性の顕著な増大が伴うことを見出した。この技法は、とりわけ浮遊触媒CVD法によって製作されるCNTベース材料への適用性を有することが見出された。
【0074】
試験のための主な材料は、様々な浮遊触媒化学気相成長法の製法から生成された、ある程度整列されたSWCNT/DWCNTテキスタイルである。CNT生成プロセスは、Koziol et al.(2007)及びGspann et al.(2014)に記載されている。簡潔には、トルエン又はn-ブタノールなどの液体炭素源を蒸発させ、昇華フェロセン、触媒前駆体及び反応促進剤であるチオフェンと混合する。これらは、全て水素ガス背景内にある。ガス混合物を約1300℃の環状炉に通過させ、弾性CNT雲を形成する。CNT雲は、炉から機械的な手段によってスプール(その巻取速度は、マイクロ構造整列の程度を決定する)上に直接抽出される。Nanolntegrisから商業的に入手された非整列CNTバッキーペーパーについても調べた。
【0075】
整列CNTテキスタイルは、膜が持ち上がり、その端部でのみテープによって支持されるように2つの足場間に伸張させた。テキスタイルの処理領域は、いかなる下地基板とも接触していなかった。現状のままの膜厚は、約5μm~15μmの範囲であり、マイクロ構造整列は、典型的には切断膜の長さ方向であった。
【0076】
コリメートされた直線的に偏光した10μm波長のパルスレーザビームを、吊された膜の真上に、以下の典型的な設定、即ち40W平均出力、5kHzパルス繰り返し率、20%デューティサイクルを用いて照射した。ビームプロファイルは、1/e2直径10mmのガウシアンであった。これは、50Wcm-2の平均強度を与えた。1パルス当たりのピーク強度及びフルエンスは、それぞれ250Wcm-2及び0.25Jcm-2であった。これらは、特に明記されない場合に想定されるべき一般的な必ずしも最適化されていない「スイートスポット」パラメータである。
【0077】
大気フォトニック処理後の主な特性評価ツールは、532nm、633nm及び785nmレーザ線を有するBruker Senterra Raman顕微鏡であった。入射レーザ光は、ランダムに偏光され、4×対物系を使用し、加熱による信号ひずみを軽減させた。レーザ積算時間及び強度も、加熱を最小限にするために実用的となるようにできるだけ小さく維持し、許容スペクトルがこれらのレーザ加熱パラメータから十分に独立していることを確認した。示されるスペクトルは、標準偏差が測定値を大きく下回る少なくとも5つの異なる膜位置の平均値である。各スペクトルは、Gピークによって正規化され、ベースラインが補正されている。D:Gは、ピーク高さを単純に考慮するよりもむしろピーク幅変化を考慮に入れたより有用な測定基準であるピーク面積を組み込むことによって計算した。Dピークが非常に小さい場合、強度を対数的にプロットすることがピーク境界の同定に役立つことを見出した。グラファイト材料において認められるラマン分光法の十分に確立された顕著なピークであるGピークは、典型的には、約1582cm-1を中心として位置し、無ドープCNT材料のラマンレーザ励起波長から独立している。半値全幅の幅は、大幅に異なり得るが、幅500cm-1が一般的である。ピーク面積の積分は、ピークがベースラインに接触する場所によって確立されるピークリミット間で行われる。Dピークの正確な位置は、CNT材料及び励起波長に依存するが、約1350cm-1(532nm励起)及び1300cm-1(785nm励起)を中心とするピークが典型的である。
【0078】
走査型電子顕微鏡法は、FEI Nova NanoSEMで実施した。レーザとCNT材料との相互作用による酸化フラッシュの放出をハイスピードカメラ(36,000フレーム毎秒)で記録し、CNTテキスタイルの温度を高温計で測定した。熱重量測定分析を、TA instruments Q500によって瓶に詰めた空気中で動的加熱速度を用いて実施した。伝導機構を決定するために、極低温抵抗対温度を、標準的な4プローブ構成において液体ヘリウムデュワー中に徐々に浸水させて測定した。プローブ電流は、10μΑであった。
【0079】
次に、質点におけるレーザ/CNT/空気相互作用の効果の説明を行い、それに連続的走査の考慮事項、スケールアップの実証を続く。
【0080】
フォトニック処置
図12は、CNT材料に対するレーザビームの並進移動(矢印を参照されたい)を示す、空気中でのCNT材料サンプルのフォトニック処理の概略斜視図を示す。CNTテキスタイルの処理領域は、テキスタイルをその端部から吊すことによって基板から離して持ち上げられている。レーザは、表面を横切って掃引し、選択酸化をもたらす。残存CNTは、大幅に向上したカイラリティ、マイクロ構造整列及び表面への残留触媒の移動を有する。
【0081】
最初の実験として、CNTテキスタイルにレーザビームの並進移動なしで照射した。このような一点照射は、最良の結果をもたらさないが、その相対的簡易さは、基本的なフォトニック効果の研究をより簡単にすることが判明している。
【0082】
図13は、750回の個別レーザパルスの列である継続時間150msのショットの静的照射の効果を示す。ここで、サンプルは、熱尖端効果が関与しないようにビーム直径よりも大幅に大きい。光学顕微鏡画像(
図13の中央部分の左側)は、材料の大部分が蒸発したことが明らかである透明円環領域を示す。相対D:G縮小係数のラマンマップオーバーレイ(
図13の中央部分の右側)は、円環領域における3~4倍の結晶性向上及び内部領域における2~3倍の向上を示す。これは、透明性が、いくつかのパラメータの中でも、優れた結晶性に等しいという全体的なテーマをまず示すものである。
【0083】
より詳細には、
図13の内部部分の右側は、5kHパルス列を含むレーザを150ms印加することによって作製された円環酸化領域のラマンマップを示す。ここで、マップは、D:Gの相対縮小係数を示し、この特定の例では、最大の向上は、わずか4倍である。光学顕微鏡写真(
図13の中央部分の左側)は、向上した円環領域が光学的に透明であることを示し、向上した領域内のSWCNTの大部分が燃え尽きたことを示す。元の画像では、目を誘導するために偽色が使用されており、画像の選択された領域がスケール上にマッピングされている。
図13の外周部は、ハイスピードカメラによって取り込まれた、レーザ熱ゾーンの放出を酸化反応フラッシュと組み合わせて示す一連の画像を示す。カメラは、視点が傾く角度にあることに留意されたい。これらの表示された画像は、277.5μsのインターバルにおけるものであり、ほぼ個々のレーザパルス毎の画像である。水平バーは、10mmを示す。
【0084】
レーザビーム強度は、ガウス分布を有するため、
図13に示されるこの円環形態は、予期しないものである。
図13の外周部の周りに示されるハイスピードカメラ画像は、内側から外側に成長し(ガウス分布を証明している)、約3ms(又は12回のレーザパルス)でビーム直径サイズに達する、レーザ相互作用による高強度フラッシュを示す。また、この時点までに、円環領域(したがって重要なCNT酸化)も明白である。モーションビデオを見ると、拡張するフラッシュは、5kHzレーザパルスの周期的加熱と、自己持続性の酸化であると仮定される一定非周期性成分とで構成される。高温計の測定値は、1400℃の持続温度を示し、これは、酸化の開始に必要な温度のほぼ3倍である。高温計は、黒体放射を測定し、発熱反応における電子遷移によって生じる光は、温度測定値を変えることに留意されたい。それにもかかわらず、白色フラッシュの目視強度は、SWCNT酸化閾値をほぼ確実に上回る温度を定性的に示し、これは、円環領域の透明性によって確認される。しかし、照射される領域全体にわたって酸化に利用可能な十分以上の温度及び燃料供給があるため、透明円環と不透明内部ゾーンとの間の著しい差は、おそらく酸素の利用可能性によって最も良く説明される。また、とりわけ注目すべきことに、酸化及び結果として生じる蒸発プロセスは、継続時間150msのショットの最初の3ms(12回のレーザパルス)で終了する。この重要な観察結果がスケールアップ手法の開発を推進した。
【0085】
この最初の研究に基づき、レーザフルエンスが不十分である場合、材料のマイクロ構造の視覚的外観又はラマン分光法によって決定される材料の性質に大きい影響がないことが判明した。他方では、レーザフルエンスが高すぎると材料に穴が開く。レーザ処理は、最初に不透明なCNTテキスタイルが透明になるように中間の動作条件で実施することができ、これは、通常、優れた性質を示すことが判明した。
【0086】
本発明者らは、膜厚及びレーザ偏光などの変数について調べた。これらは、厳密で好適な動作パラメータをある程度まで変化させたが、根本的で劇的な結果をもたらさなかった。
【0087】
本発明者らは、一桁低い波長の1μmレーザでも試験し、これもマイクロ構造及びラマンスペクトルの点において上述のものと同様の結果をもたらした。この波長独立性は、大気フォトニックプロセスが、特定の吸収機構又は電子遷移に依存することのない、熱的に駆動される酸化であるとの見解を裏付けるものである。
【0088】
CNT膜は、処理領域において基板と熱的接触させるべきでないことが判明した。本実施形態では、これは、サンプルをその端部から吊すことにより、基板から持ち上げることによって実現された。熱輸送の関連性を強調すると、スライドガラスによって支持されたCNT膜など、基板と熱的接触する領域は、激しい白色酸化フラッシュ又は大きい材料強化を経ないことが判明した。
【0089】
フォトニックプロセスを、Nanolntegrisから商業的に入手した非整列SWCNTバッキーペーパーに対して実施した。この材料は、大気フォトニックプロセスに対して同様に応答しないことが判明した。このようなバッキーペーパーは、供給元の述べるところによると、残留触媒及びアモルファスカーボンがそれぞれ3%及び2%未満の高度に精製されたSWCNT材料である。しかしながら、これらは、あらゆる内部整列を欠き、約1μmを超えないSWCNT長さで構成される。
【0090】
本発明者らによって実施された実験では、成功的結果は、浮遊触媒化学気相成長法を使用して作製した、部分的に整列された長尺CNTから構成されたテキスタイルで得られた。1つのこのようなプロセスでは、n-ブタノール炭素原料に基づく配合により、ラマン結晶性及びマイクロ構造整列の向上の点でレーザ処理に良好に応答するCNTテキスタイルを作製した。しかしながら、トルエン原料を使用した別の配合は、いかなるラマン結晶性向上も経なかったものの、依然としてマイクロ構造整列を有していた。熱重量測定分析(
図14を参照されたい)は、トルエン由来材料の炭素種多様性がより高いことを示す。例えば、重量の温度微分(
図14b)は、約550℃においてトルエン由来CNTの酸化温度を2つの幅広いピークとして示し、これは、n-ブタノールの1つの鋭い酸化ピークとは対照的である。
【0091】
より詳細には、
図14a及び
図14bは、n-ブタノールから紡糸された現状のままの材料及びトルエンから紡糸された材料に対する熱重量測定分析の結果を示す。
図14aは、質量パーセントを示し、
図14bは、種の酸化温度を示す温度に対する正規化質量微分を示す。
【0092】
CNT酸化までの漸進的な重量低減は、存在するアモルファスカーボン及びオリゴマーカーボンの量を示す。これは、n-ブタノールの6%と比較してトルエンの総重量の点で20%である。トルエン材料は、約325℃において、CNTをコーティング及び架橋結合するオリゴマーカーボンを示す小さい酸化ピークを有する。理論によって拘束されるものではないが、本発明者らは、レーザ処理後のラマン分光法によって示されるように、n-ブタノール由来材料がトルエン由来材料よりも大きい根底のグラファイト結晶性を有すると推測する。加えて、n-ブタノール由来サンプルでは、残留Fe含有量が幾分高く、これも蒸発イベントをトリガーする効果を有する。
【0093】
空気などの酸化雰囲気中でのフォトニック処理の基本効果及び要件のこのより良い理解をもって、ここで、任意に長いCNTテキスタイルの均一な処理及び結晶性及びマイクロ構造整列の優れた向上を示す、点照射以外のより複雑なプロセスについて考える。
図13のハイスピードカメラ画像は、重要な酸化プロセスが約3ms又は12回のレーザパルス後に完了し、点照射ショットの全継続時間に比べて比較的迅速であることを示した。本発明者らは、長いサンプルを処理するためにレーザを離散的に開始及び停止するよりもむしろ、空気中に吊されたCNTテキスタイルにわたってレーザを迅速に連続的に掃引することでより良好且つより均一な結果に至ることを見出した。約350mms
-1は、このセットアップで利用可能な実際的な最速の走査速度である。典型的には、最初の透明領域は、数回のレーザ掃引後に現れ、次いで次のレーザ通過で典型的にはサンプル全体を均一に透明にする。必要な通過の実際の数は、サンプルに依存し、特に、薄CNT膜は、わずか1回の通過のみを必要とする場合がある。均一な透明性を超えてからの追加のレーザ通過は、より多くの材料を段階的に蒸発させ、品質の向上がほとんど又は全くない。SWCNTテキスタイル膜の幅は、膜が広いほど処理後に内部汚れによる巨視的な亀裂が大きくなったこと以外、結果に大きい影響を及ぼさなかった。最初の現状のままのマイクロ構造整列は、レーザ走査の方向に実質的に平行とすべきである。レーザをマイクロ構造のグレインに反して膜切断部上にラスターすると、機械的に脆弱且つ不均質な結果をもたらす。
【0094】
作製されたままのCNT材料の性質に比べて、本発明の一実施形態を使用した材料の処理の効果は、材料の電気伝導性及び熱伝導率の劇的な増加がある程度までのCNT材料の整列、結晶性及び純度の向上であることが判明した。最初の結果は、比導電率の一桁の増加を示す。
【0095】
したがって、本発明の好適な実施形態では、レーザビームは、空気中でCNTベース材料に沿って連続的にラスターされる。これにより、高熱伝導経路の一部ではない材料を焼き尽くすと考えられる。残ったCNTは、ラマン分光法によって示される結晶性の5倍の増加及びSEMによって示される大幅に強化された整列を有する。
【0096】
残留触媒は、材料の表面に押しやられ、そこで酸処理によって容易に除去され得る。また、材料は、密度低下の結果、透明になる。事実上、このプロセスは、高導電性CNTを維持し、残りを焼き尽くすソーティング/蒸留を提供する。
【0097】
レーザプロセスは、材料の密度を大幅に低減することによって材料を透明にすると考えられる。したがって、処理された材料は、タッチスクリーンなど、薄く且つ可撓性の導体を必要とする用途に使用され得る。
【0098】
本発明者らは、本発明の好適な実施形態が、最も導電性の高いCNT通路を選別し、残りを除去する蒸留プロセスを提供すると思われると考える。プロセスは、残ったCNTの整列及び結晶性を増加する効果も有する。
【0099】
プロセスは、適切な酸化環境で実施されるべきであると考えられる。空気環境が好適且つ実際的であると考えられる。本発明者らは、最初に、これが材料を完全に蒸発させるであろうと予想していた。驚くべきことに、これは当てはまらず、材料は、透明になり、内部整列し、はるかに結晶性が高まった。
【0100】
また、材料は、処理される部分が基板と直接熱接触すべきではないという意味で吊されるべきであると考える。
【0101】
本発明は、University of Cambridgeで開発された浮遊触媒CVD法を使用して製作されるCNTベース材料に対して特に適用性を有する。
【0102】
本発明の効果は、レーザが材料上に迅速に且つ連続的にラスターされる場合、レーザが材料に沿って段階的にパルスされる段階的手法に比べて良好に見えると考えられる。
【0103】
レーザ波長及び偏光などのレーザパラメータを変えることは、体系的及び実質的な影響を及ぼさないようである。しかしながら、レーザ出力又は滞在時間の変化は、影響を及ぼす。材料に対して供給されるエネルギーが少なすぎると影響は生じない一方、多すぎると処理ゾーン全体を蒸発させる。
【0104】
本発明者らは、本発明が、レーザを使用して材料にエネルギーを供給することに必ずしも限定されないことも見出した。本発明者らは、フォトグラフィックフラッシュなどによる強力な白色光フラッシュもマイクロ構造整列及び結晶性の点において同じ効果を提供することを見出した。したがって、レーザの使用は必須ではなく、必要なのは強力な光源のみである。これは、レーザ波長及び偏光が結果に実質的に影響を及ぼさないという上記コメントによって裏付けられる。
【0105】
図1Aは、銀ペーストを使用して銅端子間に吊された処理前のカーボンナノチューブシートの光学画像を示す。シートは、約15mm×50mmのフットプリント寸法を有する。
【0106】
図1Bは、本発明の一実施形態による照射後の
図1Aのカーボンナノチューブシートを示す。照射部分は、環状ではなくむしろ円形であるが、照射の効果は、環状リングとして見える。また、この画像からわかるように、材料は、わずかな寸法収縮を経ており、これは、環状リングに明らかに集中している。
【0107】
図2Aは、本発明の一実施形態による処理された材料の光学画像を示す。未処理材料の本来の横寸法を末端の近くに見ることができ、処理された材料の大きく低減された横寸法を、処理された材料の光透過の増大とともに中心部に見ることができる。
【0108】
図2B~
図2Dは、本発明の実施形態による処理されたカーボンナノチューブ材料の光学画像も示す。
【0109】
図3は、レーザ処理前の自己支持型CNT材料のSEM画像を示す。目で見ると、画像は、わずかな程度の整列を示す。
【0110】
図4は、レーザ処理後の自己支持型CNT材料のSEM画像を示す。図からわかるように、ここで、確実な整列があり、触媒粒子が外に押しやられている。
【0111】
図5は、レーザ処理及び露出した触媒を除去するための後続の酸処理後の自己支持型CNT材料のSEM画像を示す。図からわかるように、確実な整列が残っている。
図5のサンプルの配向は、
図3及び
図4のサンプルの配向と異なり、異なる見掛け整列方向をもたらすことに留意されたい。
【0112】
図6は、レーザ処理前の自己支持型CNT材料のラマンスペクトルを示す。G:D比11は、他のCNT材料と比較して既に高い値である。左側のピークは、単層CNTの存在を示唆するRBMを示す。
【0113】
図7は、レーザ処理後の自己支持型CNT材料のラマンスペクトルを示す。G:D比の55への著しい向上がある。また、RBMが残り、化学的に最も活性なCNTであるとともに最も燃えやすい単層CNT/2壁CNTの残存を示唆する。したがって、これは、空気中でのレーザ処理がSWCNTを選択的に除去すると予想する先行技術の開示を考慮すると反直感的である。
【0114】
図8は、スケールアップした大気フォトニックプロセスの効果の更なる「前」及び「後」のSEM画像を示す。現状のままの「前」の画像(
図8a)では、様々な直径の束を有する水平方向のいくらかの整列がある。「後」の画像(
図8b)は、束直径標準化が向上した水平方向の異なる整列を示す。鉄触媒は、景観に点を形成しており、これは、蒸発したCNTの残存物に起因するものである。37%HCIの簡単な非酸化性酸洗浄で触媒を迅速に除去する(
図8c)。ほとんどの触媒は、HCI適用直後に消費され、全部が1時間以内に消失する。束直径も増大する。その時間内にHCIが水と中和することを条件として、結晶性に対する酸の影響が最小限となる。酸浴の継続時間が日数の規模で長くなるほど、ラマンD:Gは、ある程度劣化する傾向がある。本発明者らは、依然として吊されており、その端部で固定されているCNT膜に酸を適用することで透明膜を不透明繊維に圧縮し、高度なマイクロ構造整列の維持を促進することを見出した。酸洗浄、中和及び乾燥後、サンプルは、典型的には、その元の重さの約10%である。これは、目に見える透明性とともに、大気フォトニックプロセスが触媒、アモルファスカーボン及び他の非CNT形態を除去するだけでなく、ほとんどのCNTも選別するソーティング処置であるであることを示す。
【0115】
より詳細には、
図8は、フォトニックプロセスの様々なステージを通じたCNT材料の5kVにおける代表的な走査型電子顕微鏡写真を示す。スケールバーは、2μmを示す。
図8aは、現状のままのCNTテキスタイルを示す。
図8bは、大気フォトニック処理直後のテキスタイルを示す。
図8cは、残留触媒を酸洗浄で除去した後のテキスタイルを示す。
図8dは、レーザフルエンスが高すぎてCNTをアモルファスカーボンに変換する効果を有する不活性条件下で処理後のテキスタイルを示す。
【0116】
図9は、異なるレーザ波長の大気プロセスによる「前」及び「後」の効果のラマンスペクトルを示す。Dピークは、532nmレーザ線でほぼ消失しており、785nmで大幅に減っている。D:Gの観点では、これは、0.094から0.015への向上(532nm)及び0.117から0.054への向上(785nm)である。
図9は、ラジアルブリージングモード(RBM)の保持を示すが、いくらかの限られたピーク減少が存在し得る。この保持は、小直径及び金属SWCNTを主目的とするかなりのラジアルブリージングモード変更をもたらす他の空気レーザアニーリング研究(Corio et al.(2002)、Huang et al.(2006)、Mahjouri-Samani et al.(2009)及びSouza et al.(2015))とは対照的である。完全処理後に約10重量%の材料が残ることを考えると、ラジアルブリージングモードが残存することは、大気処理にSWCNT精製技法としての信頼を与える。
【0117】
より詳細には、
図9は、大気フォトニック処理後にDピーク(532nmレーザ線)がほぼ除去されているか又は低減(785nmレーザ線)されていることと、全般的なフィーチャの狭まりとを示すラマンスペクトルを示す。黒は、現状のままの「前」、赤は、大気フォトニック処理された材料の「後」である。ラジアルブリージングモードは、フラッシュ酸化で大部分の炭素材料を蒸発させたにもかかわらず保持されている。本発明者らは、処理後に絶対ラマン信号の大きさが典型的には4倍増大することを認めた。これは、sp2炭素よりも大幅に小さいラマン断面を有するsp3炭素の除去に起因する。
【0118】
図10は、処理されたCNT材料のTEM画像を示す。
図10aは、フォトニック処理前の材料のTEM画像を示す。
図10bは、同一材料をより高倍率で示す。
図10aにおいて、矢印は、材料の整列の方向を示し、この方向は、浮遊触媒CVDプロセスの炉からの材料の抽出方向に一致する。
図10a及び
図10bでは、材料は、触媒及び炭素不純物と混在した多層CNT及び単層CNTを含む。
図10cは、フォトニック処理後の材料のTEM画像を示す。
図10dは、同一材料をより高倍率で示す。
図10cにおいて、矢印は、材料の整列の方向を示し、この方向は、浮遊触媒CVDプロセスの炉からの材料の抽出方向及びフォトニック処理中のレーザの走査方向に一致する。
図10c及び
図10dにおいて、材料は、高度なマイクロ構造整列を有し、更に非導電チャネルの除去の点において現状のままの材料と異なる。
【0119】
電子輸送
大気処理は、純度、結晶性及びマイクロ構造整列の大幅な向上をもたらし、電気輸送を向上させる目的を有する。導電率は、テキスタイルにとって不十分な測定基準であり、比導電率は、テキスタイル密度の差に対応するものである。CNTテキスタイルの作製されたままの状態の比導電率は、100m2kg-1Ω-1であり、標準偏差は、10%未満である。空気中でのレーザ処理後、続いて酸洗浄処置を行うと、比導電率は、5~10倍まで増加する(測定した約12個のサンプルにわたって500~1000m2kg-1Ω-1)。
【0120】
浮遊触媒で得られるCNTテキスタイルは、典型的には、絶縁体の金属側に存在し、金属転移する。ここで、非局在化電荷キャリアがCNT構造体にわたって広がり、全体的な損失の大部分は、これらの構造体間のトンネリングから発生する。抵抗対温度を測定することで、この外因性の輸送(CNT接合部、不整列、ボイド、不純物及び他の大規模なテキスタイルの不規則性に左右される)とSWCNT自体による内因性の輸送との間を識別する。変動誘起トンネリングモデル(Fluctuation Induced Tunnelling model)(式1の左項)は、この外因性の寄与を説明するものであり、抵抗は、温度が低下するにつれて増加するが、絶対零度で有限値に接近する。
【数1】
式中、R
FIT、T
1及びT
2は、フィッティングパラメータであり、Tは、温度である。場合により、内因性の寄与は、標準金属項AT(式中、Aは、フィッティングパラメータである)でモデル化される。より良好な内部整列の場合、標準金属項は、式2に示すように擬一次元金属項に置換される。
【数2】
式中、Bは、フィッティングパラメータであり、T
phononは、この温度より下で擬一次元導体のフォノン相互作用が抑制される特徴的な温度である。
【0121】
図11は、2つのサンプル、1)現状のままのサンプル(「現状のまま」と称される)、及び2)大気フォトニック処理後のサンプルの抵抗対温度の結果を示す。レーザ処理されたサンプルにHCI洗浄を行い、続いてH
2O中和し、次いで乾燥させた。ここでの主な意図は、輸送を制限することが知られている鉄触媒を除去することであった。しかしながら、酸洗浄による意図しない利点として、膜が高密度繊維に圧縮すること及び表面の化学改質を挙げることができ、これらの両方は、CNT束における電荷移動を高めることが知られている。比較のために適切な制御を確実とするため、現状のままのサンプルに同じ酸洗浄処置を施した。
【0122】
図11aは、HCI/H
2洗浄後の2つのサンプルの抵抗対温度プロットを示す。両方のサンプルにおいて、金属温度依存領域及び半導体温度依存領域の両方が明らかである。しかしながら、レーザ処理されたサンプルでは、半導体領域は、金属領域よりも大幅に大きい。他方では、現状のままのサンプルは、金属温度依存が優勢である。未処理材料には、標準金属項を有する式(1)が良好にフィットする一方、式(2)は、フィットしないことが判明した。フォトニック処理された材料では逆が当てはまり、擬一次元伝導項は、標準金属項よりも明らかに良好にフィットする。
【0123】
式(1)及び式(2)(表1に示す)のフィットされたパラメータを使用して、室温での内因性の寄与と外因性の寄与との比を決定することができる。現状のままの材料では、この区分は、内因性49%/外因性51%と中間で分かれている。目に見えて大きい半導体領域によって予想されるように、レーザ処理された材料の抵抗は、内因性18%/外因性82%と外因的に重みが付けられる(基本的な空気処置のため)。均等に分かれた状態から主として外因性の抵抗への変化は、内因性CNT構造体の正味の導電率増加又は代わりに外因性構造体接合部の導電率の減少のいずれかによって説明することができる。導電率、結晶性及びマイクロ構造秩序の全体的な強化を考えると、前者である。したがって、バルクテキスタイル規模で印加されるレーザプロセスは、内因性の輸送を本質的に強化し、擬一次元輸送の説明をより適切にする。
【0124】
ここで、レーザ処理後の外因性の抵抗の優勢は、任意の更なる内因性の強化によって導電率が増加する前に阻止すべき差し迫った障害である。硝酸処理は、外因性の界面にわたる電荷移動及び半導体CNT種のドーピングを向上させる。サンプルを70%硝酸に浸漬させ、抵抗が安定化されるまでヒートランプ下で約1時間乾燥させた。硝酸処理及び安定化後、レーザ処理されたサンプルの抵抗は、3分の1に低下した。この5倍の抵抗降下が比導電率の5倍の増加に関連すると寛大に想定すると、記述の時点で、1000m2kg-1Ω-1の最良のフォトニック処理されたSWCNTテキスタイルは、5000m2kg-1Ω-1になる。この試験的な取り組みでは、金(2200m2kg-1Ω-1)よりも良好であり、銀(5800m2kg-1Ω-1)及び銅(6300m2kg-1Ω-1)に近い比導電率の兆候を示す。レーザ処理を行わなかったが、HCI/H2洗浄を行った現状のままの材料は、わずか25%の乏しい導電率強化を有していた。
【0125】
図11bに示されるのは、最終硝酸浴処理後の現状のままの材料及びレーザ処理された材料の抵抗対温度依存である。示されるように、未処理材料の温度応答は、硝酸処理後、評価できるほどに変化しない。式(1)の標準金属項は、依然として式(2)よりも良好にフィットし、室温での内因性/外因性の寄与は、依然としてほぼ均等に分かれている(内因性46%/外因性54%)。他方では、フォトニック処理された材料は、ここで、相対的に温度非依存であるように見え、硝酸処理が半導体様の外因性の抵抗寄与を抑制している。しかしながら、より厳密に検査すると、金属温度依存領域及び半導体温度依存領域の両方は、規模が低下したとはいえ依然として存在する。式(2)の擬一次元金属項は、依然として最良のフィットをもたらし、室温での内因性/外因性の寄与は、内因性14%/外因性86%である(フィッティングパラメータについては表1を参照されたい)。したがって、フォトニック処理は、化学処理により、未処理材料が経る輸送強化を超える更なる輸送強化を可能にする。考えられる説明としては、未処理のサンプルに固有のアモルファス及びオリゴマーカーボンコーティングが束の作用機能の適切な表面化学改質を妨げるというものである。フォトニック処理された材料は、表面化学改質の効果をより明白にさせる可能性のある大幅により良好に秩序化されたより純粋な系である。
【0126】
【0127】
更なる説明
フォトニックプロセスは、事実上、ソーティング処置である。アモルファスカーボン及び/又は部分的に秩序化された非チューブ状炭素が除去されるのみならず、ほとんどのCNTも除去される任意の他の種類のアニーリング又は酸化処置と異なり、ほとんどの結晶性の整列した且つ導電性のSWCNT/DWCNTフラクションのみが残存する。測定値は、熱を十分に輸送することができないアモルファスカーボン、部分的に秩序化された非チューブ状炭素及びCNTのフラッシュ酸化をもたらす、SWCNT酸化閾値を大きく超える温度を示す。空間選択的な照射ゾーンの急激な適用及び除去により、十分な熱伝導率を有する特定のCNT束が吸収された熱を輸送し、残存することを可能にする。これは、酸化温度が均一に維持される時間が長すぎる典型的な炉では複製することができないラスタリングレーザ法に固有の性質である。有効であるために、処理領域にある材料は、基板の形態のヒートシンクと熱的接触させるべきではない。これは、SWCNTが下地基板によって支持され、数十秒又は数時間にわたって固定レーザが小さいSWCNTフラクションを徐々に燃やし去る他の空気アニーリングレーザ技術(Corio et al.(2002)、Huang et al.(2006)、Mahjouri-Samani et al.(2009)、Souza et al.(2015))とは対照的である。全てのCNT材料が本プロセスによって改良されるとは限らないことに留意されたい。浮遊触媒化学気相成長法によって生成される高純度CNTテキスタイルに特に有益であると思われる。
【0128】
他のアニーリング処置、フォトニックベース又は別の処置では見られない大気フォトニックプロセスの最も特徴的な利点は、おそらくCNTマイクロ構造整列の顕著な向上である。これは、電気輸送においてまず対処すべき最も重要なパラメータであり得る。酸洗浄による残留触媒の除去を可能にする残留触媒の露出は、別の利点である。別のとりわけ注目すべき効果は、ラマンスペクトルのDピークがほぼ除去されることである。導電率の桁違いの向上は、強化された化学処理の機会とともに、CNTテキスタイルの出現しつつある可能性を示す。更に、大気フォトニック処理の技術と急速酸洗浄の技術との組み合わせは、工業環境で実施するのに比較的簡単明瞭であり且つロバストな処置である。
【0129】
ここで報告される処理された材料は、Rice University[Behabtu et al(2013)、http://www.assemblymag.com/articles/93180-can-carbon-nanotubes-replace-copper]及びそのスピンオフ企業であるDexMatによって作製された繊維と同等のマイクロ構造整列及びグラファイト結晶性を有するが、Rice University繊維よりも大幅に長い個々のCNT長さを独自に有する。Rice University繊維の制約は、現在の開発段階では、長さ20μmを超えることができていないことである[Behabtu et al(2013)及びBehabtu et al(2008)]。浮遊触媒化学気相成長法による繊維のCNTは、長さ1mm以下である[Behabtu et al(2008)、Motta et al(2008)、Koziol et al(2007)]。整列、結晶性及び長さは、CNTの導電率を向上させるための1つの最も重要な因子であると考えられ、レーザ処理されたCNT繊維は、その長さが本質的により長いため、更なる開発によってRice繊維の電気伝導性及び熱伝導率を上回ると予想される。記述の時点では、本発明の好適な実施形態は、3MSm-1の電気伝導率を有する処理された材料を作製する。重量ベースで、これは、5kSm2kg-1である。
【0130】
マイクロ構造整列では、有用な性能指数は、例えば、繊維などの1つの軸を中心に回転対称を有する等方性又は異方性のいずれかのモルフォロジーのためのヘルマン配向パラメータ、又は例えば層状膜などの面外の配向を有しない層状モルフォロジーのためのチェビシェフの配向パラメータである。
【0131】
従来、これは、X線回折によって行われるが、これは、走査型電子顕微鏡法又はラマン分光法によって得ることもできる。ヘルマン配向パラメータは、-0.5(垂直整列)からゼロ(整列なし/ランダム整列)を通り、1(完全整列)までの間で変化する。本発明の好適な実施形態は、少なくとも0.7のヘルマン配向パラメータに対応する整列を有することが好ましい。参考として、Rice Universityのプロセスでは、0.9のヘルマン配向パラメータが報告されている[Behabtu et al(2013)]。ヘルマン配向パラメータを生じるX線回折パターン(方位角走査)の一例については
図15を参照されたい。好ましくは、本発明の実施形態は、少なくとも0.5のヘルマン配向パラメータを有する処理された材料を提供する。
【0132】
ヘルマン配向パラメータの計算は、十分に確立された手法[Koziol et al(2007)]であり、以下の通りである。ヘルマン配向パラメータS
dは、ある目的軸に対して計算され、本発明者らのケースでは、この目的軸は、繊維方向である。
図15に示すようなX線回折測定は、強度I対方位角βをもたらす。示されるように、配向を示す強度のピークが存在する。強度が方位角によって変化しない場合、材料は、配向を有しない。
図15では、ピークは、90度の位置及び270度の位置に平行移動され、これらの角度は、繊維との整列に対応する。散乱面の法線方向とマイクロ構造整列との間の角度である角度φを考慮されたい。ほとんどの場合、φ≒βであるが、一般的に、cos(β)cos(Θ
B)=cos(φ)であり、式中、Θ
Bは、ブラッグ角である。ヘルマン配向パラメータS
dは、したがって、
【数3】
であり、式中、<cos(φ)>は、
【数4】
である。
【0133】
しかしながら、ヘルマンの配向関数は、球面畳み込みに使用され、上で定義した<Cos
2φ>は、例えば、結晶又は繊維などの等方性の又は回転対称なサンプルにのみ当てはまることを考慮すべきである。CNT膜は、例えば、未圧縮のCNTエアロゲルの薄膜を互いに重ねて連続的に層化することによって作製される場合、深さ方向の配向のない層状配向平面であると想定され得る。したがって、本発明者らは、チェビシェフの一次多項式を円形畳み込みのために使用して配向を定量化する[Gspann et al(2016)]。チェビシェフ配向パラメータT2は、
【数5】
と定義され、
【数6】
を伴う。
【0134】
T2の限定的なケースは、処理方向に垂直な整列について-1、配向なし/ランダム配向について0及び処理方向に平行な整列について1である。
【0135】
グラファイト結晶性について、好適な性能指数は、ラマン分光法のD:G比である。この数が低いほど、グラファイト結晶性が高くなり、アモルファスカーボン及び他の乱れたカーボンの寄与が少なくなる。乱れた/アモルファスカーボンがCNTに存在しない状況において、D:G比は、CNTの分子構造の欠陥の指標である。乱れたカーボン及び欠陥の両方がチューブに沿って存在しない状況において、D:G比は、最終的に欠陥であるCNTチューブ端部の存在を示し、D:G比は、CNT長さに関係する。
【0136】
D:G比の測定は、ラマンレーザ偏光、波長、滞在時間及び強度などの多くのパラメータに依存する。滞在時間及び強度によってサンプルを著しく加熱しないように注意が払われる場合、検出器への非偏光帰還を伴う非偏光ラマンレーザでは、本発明の一実施形態による処理された材料の典型的なD:G比は、523nm励起では0.01及び785nm励起では0.04である。
【0137】
処理された材料は、523nm励起では最大で0.025及び785nm励起では最大で0.1のD:G比を有することが好ましい。
【0138】
D:G比を波長の4乗に対してプロットすることが可能である。これは、良好なフィットを伴って直線にフィットされ得ることが判明している。本発明の好適な実施形態は、0.9よりも良好である、原点を含むフィットの低減されたR2を生じる。記述の時点では、純粋なCNTテキスタイルのこの直線依存は、これまで報告されていない。
【0139】
原点が含まれる直線にフィットされる場合、D:G比が波長の4乗に対してプロットされるとき、処理された材料は、0.7よりも良好な低減されたR2を有することが好ましい。
【0140】
この線形依存は、グラファイト及びグラフェンの予想される挙動であるが[Ferrari及びBasko(2013)、Dresselhaus et al(2010)]、個別ベースでは、文献[Cou et al(2007)]に示されているように、CNTの固有のカイラリティ依存効果がグラファイト線形関係を混乱させる。本発明者らは、CNTがテキスタイルなどの束ねられた状態にあるとき、CNTが十分に純粋であることを前提として線形関係が回復することを見出した。化学気相成長のための反応器から現状のまま製作されるCNTテキスタイルでは、純度は、十分ではなく、線形関係は、維持されない。しかしながら、本発明の好適な実施形態の生成物は、十分な純度を有し、D:G比と4乗の励起波長との間の線形関係が成り立つ(
図17を参照されたい)。このD:G比の説明では、CNTサンプルが化学種の顕著な影響下にないと仮定することに留意されたい。CNT材料を更に精製し、且つこれらを電子ドープするために酸などの他の化学物質を使用し得る。化学種の顕著な存在は、ラマン信号及びDG比の任意の解釈を歪ませる。
【0141】
処理された材料の個々のCNT長さの平均は、少なくとも100ミクロンである(及び好ましくは100ミクロンを超える)ことが好ましい。
【0142】
浮遊触媒化学気相成長法(CVD)によって作製されたCNTテキスタイルの個々のCNT長さを測定することは、それらの極端なアスペクト性質及びきつく束ねられ、交絡された性質のために困難なプロセスであり得る。好適な測定方法は、Motta et al(2008)及びKoziol et al(2007)に概説されているように、透過型電子顕微鏡を使用することである。この技法では、顕微鏡で材料を走査し、CNTチューブ層及びCNTチューブ端部の数を数える。この手法により、材料が平均CNT長さ約1mmを有することが判明している。本技術分野では、CNT端部の全てが考慮に入れられたことを知るのは不可能であるため、この測定値は、必ずしも正確である必要はないと考えられる。しかしながら、このCNTがRice UniversityのプロセスによるCNT長さ約20ミクロンよりも大幅に長いことは、定性的に明らかであり、この手法は、少なくとも平均CNT長さのオーダーの点において定量ベースで信頼性の高い結果を提供すると考えられる。
【0143】
CNTテキスタイルのCNT長さを見出すための他の測定技術も示されており、これらは、異なる程度の有効性及び適切な長さスケールを有する。この課題の一部は、これらの技術の多くではネットワークを孤立CNTにほどくために超音波処理を必要とする場合があり、これには、CNTを切断し短縮するという不要な副作用もあることである。超音波処理工程後の測定の例としては、CNT懸濁液を基板上で乾燥させた後、CNTの分散ネットワークに対して原子間力顕微鏡又は透過型電子顕微鏡を使用することが挙げられる。
【0144】
超音波処理を必ずしも必要としないいくつかの測定技術がある。これらの測定技術としては、溶液(典型的には超酸溶液)中でCNTを測定することが挙げられ、粘性の変化は、CNTのアスペクト比に関係する[Nicholas et al(2007)、Tsentalovich et al(2016)]。また、溶液中のCNTは、CNT長さによって特定された濃度で液晶相への転移を経ることが実証されている[Tsentalovich et al(2016)]。別の手法は、例えば、スペクトルの吸収ピークが、CNT長さに依存するプラズモン相互作用に対応する赤外線/THz/マイクロ波分光法[Akima et al(2006)、Zhang et al(2013)]である。高い結晶性及び純度の場合、前述したように、別の技法は、CNT長さがD:G比とラマン励起波長の4乗との間の線形依存の勾配に対応するラマン分光法のD:G比に基づく[Cou et al(2007)、Fagan et al(2007)、Simpson et al(2008)]。
【0145】
テキスタイルの長いCNT長さを推測するための他の手法は、様々なパラメータをテキスタイルに沿った長さの関数として測定することである。例えば、テキスタイルに沿った異なるゲージ長における応力対ひずみの機械的な試験は、CNT長さの程度を提供することができる。別の例は、CNT繊維に沿った異なるプローブ離隔距離における抵抗対温度を測定することである。これら例の両方において、従属変数と独立変数との間の関係は、テキスタイルの個々のCNT長さよりも大幅に小さいか又は大幅に大きいかのいずれかのスケールで限界挙動を有する。1つの限界挙動が他の限界挙動に移行する特性長を測定することでCNT長さを推測することができる。
【0146】
本発明を上記の例示的実施形態とともに説明してきたが、本開示が与えられる場合、多くの均等な修正形態及び変形形態が当業者に明白である。したがって、上記の本発明の例示的な実施形態は、例示であり、限定ではないとみなされる。記載した実施形態に対する様々な変更形態は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなくなされ得る。
【0147】
上で参照した全ての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0148】
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