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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/40 20170101AFI20220506BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220506BHJP
【FI】
B29C64/40
B33Y10/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018151030
(22)【出願日】2018-08-10
(65)【公開番号】P2020026052
(43)【公開日】2020-02-20
【審査請求日】2021-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(72)【発明者】
【氏名】八角 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】栗原 克幸
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-109326(JP,A)
【文献】特開2018-114663(JP,A)
【文献】特開2017-039293(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを造形台上に積層して、三次元造形物と、前記三次元造形物を支持するために少なくとも前記三次元造形物と前記造形台との間に配置されるサポート材とを形成する造形物形成工程を備え、
前記三次元造形物と前記造形台との間の前記サポート材の厚さは、造形中の前記三次元造形物の、前記サポート材からの剥離を抑制できる厚さとなっており、10mm以上となっていることを特徴とする三次元造形物の製造方法。
【請求項2】
インクを造形台上に積層して、三次元造形物と、前記三次元造形物を支持するために少なくとも前記三次元造形物と前記造形台との間に配置されるサポート材とを形成する造形物形成工程を備え、
前記三次元造形物と前記造形台との間の前記サポート材の厚さは、操作者が設定可能となっており、造形中の前記三次元造形物の、前記サポート材からの剥離を抑制できる厚さとなっていることを特徴とする三次元造形物の製造方法。
【請求項3】
インクを造形台上に積層して、三次元造形物と、前記三次元造形物を支持するために少なくとも前記三次元造形物の外周面を囲むサポート材とを形成する造形物形成工程を備え、
前記三次元造形物の外周面と前記サポート材の外周面との水平方向の距離である前記サポート材の厚さは、造形中の前記三次元造形物の、前記サポート材からの剥離を抑制できる厚さとなっており、10mm以上となっていることを特徴とする三次元造形物の製造方法。
【請求項4】
インクを造形台上に積層して、三次元造形物と、前記三次元造形物を支持するために少なくとも前記三次元造形物の外周面を囲むサポート材とを形成する造形物形成工程を備え、
前記三次元造形物の外周面と前記サポート材の外周面との水平方向の距離である前記サポート材の厚さは、操作者が設定可能となっており、造形中の前記三次元造形物の、前記サポート材からの剥離を抑制できる厚さとなっていることを特徴とする三次元造形物の製造方法。
【請求項5】
インクを造形台上に積層して、三次元造形物と、前記三次元造形物を支持するために少なくとも前記三次元造形物と前記造形台との間に配置されるサポート材とを形成する造形物形成工程を備えるとともに、
前記造形物形成工程において、前記サポート材から前記三次元造形物が剥離したときに、前記造形台から前記三次元造形物と前記サポート材とを除去する除去工程と、前記除去工程後に、前記三次元造形物と前記造形台との間の前記サポート材の厚さが前記造形物形成工程での厚さよりも厚くなるように設定変更して、再度、インクを前記造形台上に積層して、前記三次元造形物と前記サポート材とを形成する第2造形物形成工程を備えることを特徴とする三次元造形物の製造方法。
【請求項6】
インクを造形台上に積層して、三次元造形物と、前記三次元造形物を支持するために少なくとも前記三次元造形物の外周面を囲むサポート材とを形成する造形物形成工程を備えるとともに、
前記造形物形成工程において、前記サポート材から前記三次元造形物が剥離したときに、前記造形台から前記三次元造形物と前記サポート材とを除去する除去工程と、前記除去工程後に、前記三次元造形物の外周面と前記サポート材の外周面との水平方向の距離である前記サポート材の厚さが前記造形物形成工程での厚さよりも厚くなるように設定変更して、再度、インクを前記造形台上に積層して、前記三次元造形物と前記サポート材とを形成する第2造形物形成工程を備えることを特徴とする三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、三次元造形物を製造するための印刷装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の印刷装置は、インクを吐出する複数のインクジェットヘッドと、インクジェッドヘッドから吐出された紫外線硬化型のインクを硬化させるUV-LEDランプと、インクジェッドヘッドから吐出されたインクの表面を平坦化する平坦化ローラと、三次元造形物が載置される載置部とを備えている。インクジェットヘッドとUV-LEDランプと平坦化ローラとは、キャリッジに搭載されている。
【0003】
特許文献1に記載の印刷装置で三次元造形物を造形するときには、三次元造形物を載置部から分離するための分離層が三次元造形物と載置部との間に形成される。分離層は、サポート材用のインクによって形成されており、三次元造形物を下側から支持する機能も果たしている。また、特許文献1に記載の印刷装置で三次元造形物を造形するときには、三次元造形物を支持するためのサポート材が三次元造形物の外周面を囲むように形成される。サポート材は、サポート材用のインクによって形成されており、三次元造形物のオーバーハング部分を下側から支持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-109326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の印刷装置では、三次元造形物の形状によっては、三次元造形物を造形しているときに、三次元造形物が変形して、図5に示すように、造形中(造形途中)の三次元造形物101が分離層102やサポート材103から剥離(または破断)するおそれがあることが本願発明者の検討によって明らかになった。たとえば、三次元造形物101が平板状に形成されている場合には、特許文献1に記載の印刷装置で三次元造形物101を造形しているときに、三次元造形物101に反りが生じて、造形中の三次元造形物101が分離層102やサポート材103から剥離する場合があることが本願発明者の検討によって明らかになった。
【0006】
また、造形中の三次元造形物101が分離層102やサポート材103から剥離すると、キャリッジが移動するときに、インクジェットヘッドのノズル面や平坦化ローラと三次元造形物101の積層表面とが接触して、三次元造形物101の造形不良が発生したり、印刷装置が故障したりするおそれがあることが本願発明者の検討によって明らかになった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、造形中の三次元造形物が、三次元造形物を支持するサポート材から剥離するのを抑制することが可能となる三次元造形物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本願発明者は、種々の検討を行った。特に本願発明者は、サポート材の厚さに着目して、種々の検討を行った。その結果、本願発明者は、サポート材の厚さを通常の厚さよりも厚い所定の厚さにすることで、造形中の三次元造形物の変形に対して剥離せずに追従可能なサポート材の変形量を大きくして、造形中の三次元造形物がサポート材から剥離するのを抑制することが可能になることを知見するに至った。
【0009】
本発明の三次元造形物の製造方法は、かかる新たな知見に基づくものであり、インクを造形台上に積層して、三次元造形物と、三次元造形物を支持するために少なくとも三次元造形物と造形台との間に配置されるサポート材とを形成する造形物形成工程を備え、三次元造形物と造形台との間のサポート材の厚さは、造形中の三次元造形物の、サポート材からの剥離を抑制できる厚さとなっており、10mm以上となっていることを特徴とする。
【0010】
本発明の三次元造形物の製造方法では、三次元造形物と造形台との間のサポート材の厚さは、造形中の三次元造形物の、サポート材からの剥離を抑制できる厚さとなっている。そのため、本発明の三次元造形物の製造方法で三次元造形物を製造すると、造形中の三次元造形物がサポート材から剥離するのを抑制することが可能になる。
【0011】
また、本発明では、三次元造形物と造形台との間のサポート材の厚さは、10mm以上となっている。そのため、本願発明者の検討によれば、造形中の三次元造形物の変形に追従可能なサポート材の変形量をより大きくして、造形中の三次元造形物がサポート材から剥離するのを効果的に抑制することが可能になる。
【0012】
また、上記の新たな知見に基づいて、本発明の三次元造形物の製造方法は、インクを造形台上に積層して、三次元造形物と、三次元造形物を支持するために少なくとも三次元造形物と造形台との間に配置されるサポート材とを形成する造形物形成工程を備え、三次元造形物と造形台との間のサポート材の厚さは、操作者が設定可能となっており、造形中の三次元造形物の、サポート材からの剥離を抑制できる厚さとなっていることを特徴とする。
本発明の三次元造形物の製造方法では、三次元造形物と造形台との間のサポート材の厚さは、造形中の三次元造形物の、サポート材からの剥離を抑制できる厚さとなっている。そのため、本発明の三次元造形物の製造方法で三次元造形物を製造すると、造形中の三次元造形物がサポート材から剥離するのを抑制することが可能になる。
【0013】
また、上記の新たな知見に基づいて、本発明の三次元造形物の製造方法は、インクを造形台上に積層して、三次元造形物と、三次元造形物を支持するために少なくとも三次元造形物の外周面を囲むサポート材とを形成する造形物形成工程を備え、三次元造形物の外周面とサポート材の外周面との水平方向の距離であるサポート材の厚さは、造形中の三次元造形物の、サポート材からの剥離を抑制できる厚さとなっており、10mm以上となっていることを特徴とする。
【0014】
本発明の三次元造形物の製造方法では、三次元造形物の外周面とサポート材の外周面との水平方向の距離であるサポート材の厚さ(三次元造形物の外周面からサポート材の外周面への水平方向の距離であるサポート材の厚さ)は、造形中の三次元造形物の、サポート材からの剥離を抑制できる厚さとなっている。そのため、本発明の三次元造形物の製造方法で三次元造形物を製造すると、造形中の三次元造形物がサポート材から剥離するのを抑制することが可能になる。
【0015】
また、本発明では、三次元造形物の外周面とサポート材の外周面との水平方向の距離であるサポート材の厚さは、10mm以上となっている。そのため、本願発明者の検討によれば、造形中の三次元造形物の変形に追従可能なサポート材の変形量をより大きくして、造形中の三次元造形物がサポート材から剥離するのを効果的に抑制することが可能になる。
【0016】
また、上記の新たな知見に基づいて、本発明の三次元造形物の製造方法は、インクを造形台上に積層して、三次元造形物と、三次元造形物を支持するために少なくとも三次元造形物の外周面を囲むサポート材とを形成する造形物形成工程を備え、三次元造形物の外周面とサポート材の外周面との水平方向の距離であるサポート材の厚さは、操作者が設定可能となっており、造形中の三次元造形物の、サポート材からの剥離を抑制できる厚さとなっていることを特徴とする。
本発明の三次元造形物の製造方法では、三次元造形物の外周面とサポート材の外周面との水平方向の距離であるサポート材の厚さ(三次元造形物の外周面からサポート材の外周面への水平方向の距離であるサポート材の厚さ)は、造形中の三次元造形物の、サポート材からの剥離を抑制できる厚さとなっている。そのため、本発明の三次元造形物の製造方法で三次元造形物を製造すると、造形中の三次元造形物がサポート材から剥離するのを抑制することが可能になる。
【0017】
さらに、上記の新たな知見に基づいて、本発明の三次元造形物の製造方法は、インクを造形台上に積層して、三次元造形物と、三次元造形物を支持するために少なくとも三次元造形物と造形台との間に配置されるサポート材とを形成する造形物形成工程を備えるとともに、造形物形成工程において、サポート材から三次元造形物が剥離したときに、造形台から三次元造形物とサポート材とを除去する除去工程と、除去工程後に、三次元造形物と造形台との間のサポート材の厚さが造形物形成工程での厚さよりも厚くなるように設定変更して、再度、インクを造形台上に積層して、三次元造形物とサポート材とを形成する第2造形物形成工程を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明の三次元造形物の製造方法では、造形物形成工程においてサポート材から三次元造形物が剥離すると、造形台から三次元造形物とサポート材とを除去した後、第2造形物形成工程において、三次元造形物と造形台との間のサポート材の厚さが造形物形成工程での厚さよりも厚くなるように設定変更して、再度、インクを造形台上に積層して、三次元造形物とサポート材とを形成している。そのため、本願発明者の検討によれば、第2造形物形成工程において、造形中の三次元造形物の変形に追従可能なサポート材の変形量を大きくして、造形中の三次元造形物がサポート材から剥離するのを抑制することが可能になる。すなわち、本発明の三次元造形物の製造方法で三次元造形物を製造すると、造形中の三次元造形物の変形に追従可能なサポート材の変形量を大きくして、造形中の三次元造形物がサポート材から剥離するのを抑制することが可能になる。
【0019】
また、上記の新たな知見に基づいて、本発明の三次元造形物の製造方法は、インクを造形台上に積層して、三次元造形物と、三次元造形物を支持するために少なくとも三次元造形物の外周面を囲むサポート材とを形成する造形物形成工程を備えるとともに、造形物形成工程において、サポート材から三次元造形物が剥離したときに、造形台から三次元造形物とサポート材とを除去する除去工程と、除去工程後に、三次元造形物の外周面とサポート材の外周面との水平方向の距離であるサポート材の厚さが造形物形成工程での厚さよりも厚くなるように設定変更して、再度、インクを造形台上に積層して、三次元造形物とサポート材とを形成する第2造形物形成工程を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の三次元造形物の製造方法では、造形物形成工程においてサポート材から三次元造形物が剥離すると、造形台から三次元造形物とサポート材とを除去した後、第2造形物形成工程において、三次元造形物の外周面とサポート材の外周面との水平方向の距離であるサポート材の厚さが造形物形成工程での厚さよりも厚くなるように設定変更して、再度、インクを造形台上に積層して、三次元造形物とサポート材とを形成している。そのため、本願発明者の検討によれば、第2造形物形成工程において、造形中の三次元造形物の変形に追従可能なサポート材の変形量を大きくして、造形中の三次元造形物がサポート材から剥離するのを抑制することが可能になる。すなわち、本発明の三次元造形物の製造方法で三次元造形物を製造すると、造形中の三次元造形物の変形に追従可能なサポート材の変形量を大きくして、造形中の三次元造形物がサポート材から剥離するのを抑制することが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明の三次元造形物の製造方法で三次元造形物を製造すると、造形中の三次元造形物が、三次元造形物を支持するサポート材から剥離するのを抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施の形態にかかる三次元造形物の製造方法を説明するための図である。
図2】本発明の実施の形態にかかる三次元造形物の製造方法で製造される三次元造形物の一例を説明するための図であり、(A)は平面図、(B)は側面図である。
図3】三次元造形物の造形時に三次元造形物がサポート材から剥離する条件を試験した結果をまとめた表である。
図4図3に示す表をグラフ化したグラフである。
図5】従来技術の問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
(三次元造形物の製造方法)
図1は、本発明の実施の形態にかかる三次元造形物の製造方法を説明するための図である。図2は、本発明の実施の形態にかかる三次元造形物の製造方法で製造される三次元造形物1の一例を説明するための図であり、(A)は平面図、(B)は側面図である。図3は、三次元造形物の造形時に三次元造形物がサポート材から剥離する条件を試験した結果をまとめた表である。図4は、図3に示す表をグラフ化したグラフである。
【0025】
本形態の三次元造形物の製造方法では、インクジェットヘッド5~12から下側に向かって吐出されるインクを造形台4の上に積層して、三次元造形物1を製造する。三次元造形物1は、たとえば、4本の脚2を有するテーブルであり、その天板は、略正方形の平板状に形成されている。三次元造形物1は、天板の厚さ方向にインクが順次積層されることで造形される。この場合、三次元造形物1は、サポート材3の使用量を少なくするために、天板側を下にして造形される。
【0026】
インクジェッドヘッド5~12は、キャリッジ13に搭載されている。本形態では、サポート用のインクを吐出するインクジェッドヘッド5と、造形用のインク(モデル材)を吐出するインクジェットヘッド6と、白色のインクを吐出するインクジェットヘッド7と、カラーインクを吐出するインクジェッドヘッド8~11と、透明なクリアインクを吐出するインクジェッドヘッド12とがキャリッジ13に搭載されている。インクジェッドヘッド5~12は、造形台4の上方に配置されている。
【0027】
インクジェットヘッド5~12は、紫外線が照射されると硬化する紫外線硬化型のインク(UVインク)を吐出する。キャリッジ13には、インクジェットヘッド5~12から吐出されたインクを硬化させる紫外線照射器14が搭載されている。また、キャリッジ13には、インクジェッドヘッド5~12から吐出されたインクの表面(上面)を平坦化する平坦化ローラ15が搭載されている。紫外線照射器14および平坦化ローラ15は、造形台4の上方に配置されている。造形台4は、鋼鉄等の金属によって形成されている。造形台4の上面4aは、上下方向に直交する平面となっている。造形台4には、造形台4を昇降させる昇降機構が連結されている。
【0028】
本形態の三次元造形物の製造方法は、インクを造形台4の上に積層して、三次元造形物1と、三次元造形物1を支持するためのサポート材3とを形成する造形物形成工程を備えている。サポート材3は、三次元造形物1と造形台4との間に配置されるとともに、三次元造形物1の外周面を囲んでいる。また、サポート材3は、インクジェッドヘッド5から吐出されるサポート用のインクによって形成されている。三次元造形物1は、主として、インクジェットヘッド6から吐出される造形用のインクによって形成されているが、三次元造形物1の一部は、必要に応じて、インクジェットヘッド7~12から吐出される白色のインク、カラーインク、クリアインクによって形成されている。
【0029】
造形物形成工程では、まず、インクジェットヘッド5が1層分のサポート材用のインクを吐出する。また、吐出されたインクに紫外線照射器14が紫外線を照射しインクを硬化させて、1つのインク層を形成した後、造形台4がインク層の厚さに相等する量、下降する。厚さt1のサポート材3が形成されるまで、この動作が繰り返されると、その後、インクジェッドヘッド5~12が1層分のインクを吐出する。吐出されたインクに紫外線照射器14が紫外線を照射しインクを硬化させて、1つのインク層を形成した後、造形台4がインク層の厚さに相等する量、下降する。この動作は、三次元造形物1が形成されるまで繰り返される。1層分のインクの厚さ(インク層の厚さ)は、たとえば、20~40(μm)となっている。
【0030】
三次元造形物1と造形台4との間のサポート材3の厚さ(具体的には、三次元造形物1の下面と造形台4の上面4aとの間のサポート材3の上下方向の厚さ)t1は、造形中の三次元造形物1の、サポート材3からの剥離を抑制できる厚さとなっている。あるいは、三次元造形物1の外周面とサポート材3の外周面との水平方向の距離であるサポート材3の厚さt2は、造形中の三次元造形物1の、サポート材3からの剥離を抑制できる厚さとなっている。
【0031】
ここで、図3の表に、三次元造形物の造形時に三次元造形物がサポート材から剥離する条件を試験した結果を示す。造形時に反りが生じてサポート材からの剥離が生じやすい三次元造形物の形状は、水平方向に造形される平板形状である。これは、紫外線照射器から照射される紫外線が、各インク層においてインク層の上部であるほど強くなるため、インク層の上部の、紫外線硬化による収縮が、インク層の下部の、紫外線硬化による収縮よりも大きくなるためと考えられる。
【0032】
試験では、水平方向に100mm角(縦幅および横幅が100mm)で垂直方向の厚さが4mmの平板を三次元造形物として造形するとともに、三次元造形物と造形台との間のサポート材の厚さ(サポート材の垂直方向寸法)t1と、三次元造形物の外周面とサポート材の外周面との水平方向の距離であるサポート材の厚さ(水平方向寸法)t2とをパラメータとして、三次元造形物の、サポート材からの剥離の発生具合を確認した。図3に示す表では、三次元造形物がサポート材から剥離しなかった条件の判定の欄には、「OK」を記載し、三次元造形物がサポート材から剥離した条件の判定の欄には、「NG」を記載した。図4は、図3に示す表をグラフ化したものである。図4から明らかなように、サポート材の厚さt1または厚さt2のいずれかが10mm以上であれば、三次元造形物の、サポート材からの剥離が回避されることがわかる。
【0033】
本形態では、三次元造形物1の天板の縦幅W1および横幅W2は、100mm、三次元造形物1の天板の厚さTは、4mmとなっている。したがって、本形態では、造形中の三次元造形物1の、サポート材3からの剥離を抑制するために、サポート材3の厚さt1は、10mm以上となっている。あるいは、本形態では、造形中の三次元造形物1の、サポート材3からの剥離を抑制するために、サポート材3の厚さt2は、10mm以上となっている。具体的には、サポート材3の外周面は、図1に示すように、上側に向かうにしたがって外径がしだいに小さくなる円錐台面状に形成されており、サポート材3の上端部の厚さt2が10mm以上となっている。
【0034】
なお、サポート材3の厚さt1が、造形中の三次元造形物1の、サポート材3からの剥離を抑制できる厚さとなり、かつ、サポート材3の厚さt2が、造形中の三次元造形物1の、サポート材3からの剥離を抑制できる厚さとなっていても良い。すなわち、本形態において、サポート材3の厚さt1が10mm以上となっており、かつ、サポート材3の厚さt2が10mm以上となっていても良い。
【0035】
造形中の三次元造形物1がサポート材3から剥離するのか否かのサポート材3の厚さt1、t2の臨界点は、三次元造形物1の形状、インクの物性、インクの吐出方法、インクの硬化強度、キャリッジ13の走査速度等の種々の条件に応じて変わる。そのため、サポート材3の厚さt1、および/または、サポート材3の厚さt2は、操作者が設定可能となっていることが好ましい。あるいは、サポート材3の厚さt1、および/または、サポート材3の厚さt2は、三次元造形物1の形状の種々の条件に応じて自動的で変更されても良い。本願発明者の検討によると、サポート材3の厚さt1、t2が厚くなれば厚くなるほど、三次元造形物1のサポート材3からの剥離を抑制することは可能になるが、インク消費の観点から、サポート材3の厚さt1、t2を不必要に厚くすることは避けるべきである。
【0036】
ここで、サポート材3が三次元造形物1を支持するために必要な厚さは、種々の造形形状に対応するため、一般的には、2mm程度である。また、インクを造形台4の上に積層して、三次元造形物1を支持するためには、最初に少なくとも三次元造形物1と造形台4との間にサポート材3による一定厚さの層を形成する必要があり、この層の厚さは、造形台4の上面の平面度を超える厚さとなっている。ここで、造形台4の上面の平面度とは、造形台4の上面の幾何学的なうねりであり、たとえば、500mm角の造形台4の上面では、0.3mm程度である。したがって、三次元造形物1と造形台4との間のサポート材3の厚さt1が2mmであれば、サポート材3の厚さt1が造形台4の上面の平面度を超えるとともに、サポート材3は三次元造形物1のサポート機能を有することになるが、本形態では、サポート材3の厚さt1は、一般的な厚さである2mmを超えた厚さとなっている。
【0037】
本形態では、サポート材3の厚さt1が、造形中の三次元造形物1のサポート材3からの剥離を抑制できる厚さとなっているときには、サポート材3の厚さt1は、サポート材3が三次元造形物1を支持するために必要な厚さを超える厚さとなっている。また、サポート材3の厚さt2が、造形中の三次元造形物1のサポート材3からの剥離を抑制できる厚さとなっているときには、サポート材3の厚さt2は、サポート材3が三次元造形物1を支持するために必要な厚さを超える厚さとなっている。すなわち、サポート材3の厚さt2が、造形中の三次元造形物1のサポート材3からの剥離を抑制できる厚さとなっているときには、サポート材3は、本来サポート材3が三次元造形物1を支持するために必要な領域よりも、三次元造形物1の径方向の外側に広がっている。
【0038】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態の三次元造形物の製造方法では、三次元造形物1と造形台4との間のサポート材3の厚さt1は、造形中の三次元造形物1の、サポート材3からの剥離を抑制できる厚さとなっている。あるいは、本形態の三次元造形物の製造方法では、三次元造形物1の外周面とサポート材3の外周面との水平方向の距離であるサポート材3の厚さt2は、造形中の三次元造形物1の、サポート材3からの剥離を抑制できる厚さとなっている。そのため、本形態の三次元造形物の製造方法で三次元造形物1を製造すると、造形中の三次元造形物1がサポート材3から剥離するのを抑制することが可能になる。
【0039】
特に本形態では、三次元造形物1と造形台4との間のサポート材3の厚さt1が10mm以上となっているため、あるいは、サポート材3の厚さt2が10mm以上となっているため、本願発明者の検討によれば、造形中の三次元造形物1の変形に追従可能なサポート材3の変形量をより大きくして、造形中の三次元造形物1がサポート材3から剥離するのを効果的に抑制することが可能になる。
【0040】
なお、本形態において、サポート材3が三次元造形物1の外周面を囲んでいなくても、三次元造形物1を造形することができるのであれば、サポート材3は、三次元造形物1の外周面を囲んでいなくても良い。すなわち、サポート材3は、三次元造形物1と造形台4との間のみに配置されていても良い。
【0041】
(三次元造形物の製造方法の変形例)
上述した形態では、造形物形成工程において、三次元造形物1の形状等によっては、造形中の三次元造形物1がサポート材3から剥離することが起こりうる。造形物形成工程において、サポート材3から三次元造形物1が剥離したときには、造形台4から三次元造形物1とサポート材3とを除去するとともに(除去工程)、除去工程後に、サポート材3の厚さt1が造形物形成工程におけるサポート材3の厚さt1よりも厚くなるように設定変更して、再度、インクを造形台4の上に積層して、三次元造形物1とサポート材3とを形成すれば良い(第2造形物形成工程)。
【0042】
具体的には、造形物形成工程において、サポート材3から三次元造形物1が剥離したときには、第2造形物形成工程において、サポート材3の厚さt1をより厚く設定し、再度、インクを造形台4の上に積層して、三次元造形物1とサポート材3とを形成すれば良い。この場合には、第2造形物形成工程において、造形中の三次元造形物1の変形に追従可能なサポート材3の変形量を大きくして、造形中の三次元造形物1がサポート材3から剥離するのを抑制することが可能になる。
【0043】
また、造形物形成工程において、サポート材3から三次元造形物1が剥離したときには、除去工程後に、サポート材3の厚さt2が造形物形成工程におけるサポート材3の厚さt2よりも厚くなるように設定変更して、再度、インクを造形台4の上に積層して、三次元造形物1とサポート材3とを形成すれば良い(第2造形物形成工程)。具体的には、造形物形成工程において、サポート材3から三次元造形物1が剥離したときには、第2造形物形成工程において、サポート材3の厚さt2をより厚く設定し、再度、インクを造形台4の上に積層して、三次元造形物1とサポート材3とを形成すれば良い。
【0044】
この場合であっても、第2造形物形成工程において、造形中の三次元造形物1の変形に追従可能なサポート材3の変形量を大きくして、造形中の三次元造形物1がサポート材3から剥離するのを抑制することが可能になる。すなわち、この場合であっても、造形中の三次元造形物1の変形に追従可能なサポート材3の変形量を大きくして、造形中の三次元造形物1がサポート材3から剥離するのを抑制することが可能になる。
【0045】
また、造形物形成工程において、サポート材3から三次元造形物1が剥離したときには、除去工程後に、サポート材3の厚さt1とサポート材3の厚さt2とをより大きく設定し、再度、インクを造形台4の上に積層して、三次元造形物1とサポート材3とを形成しても良い。この場合には、造形中の三次元造形物1の変形に追従可能なサポート材3の変形量をより大きくして、造形中の三次元造形物1がサポート材3から剥離するのを効果的に抑制することが可能になる。
【0046】
(他の実施の形態)
上述した形態および変形例は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0047】
上述した形態において、三次元造形物1の形状等によっては、サポート材3の厚さt1が10mm未満となっており、かつ、サポート材3の厚さt2が10mm未満となっていても良い。また、上述した形態において、三次元造形物1は、テーブル以外の物であっても良い。また、三次元造形物1は、テーブルの天板のように平板状に形成された部分を備えていなくても良い。
【符号の説明】
【0048】
1 三次元造形物
3 サポート材
4 造形台
4a 上面
t1 三次元造形物と造形台との間のサポート材の厚さ
t2 三次元造形物の外周面とサポート材の外周面との水平方向の距離であるサポート材の厚さ
図1
図2
図3
図4
図5