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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】改質炭の養生方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 5/08 20060101AFI20220506BHJP
【FI】
C10L5/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017065264
(22)【出願日】2017-03-29
(65)【公開番号】P2018168235
(43)【公開日】2018-11-01
【審査請求日】2020-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】山田 記央
(72)【発明者】
【氏名】工藤 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】▲虫▼合 一浩
(72)【発明者】
【氏名】本郷 孝
(72)【発明者】
【氏名】寺田 隆彦
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-279969(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098935(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質炭を所定の養生条件で保持する改質炭の養生方法であって、
前記所定の養生条件は、温度-5~40℃、相対湿度5~95%で、200日以上であり、
前記改質炭は、バインダーを含まず、かつ
褐炭および/または亜瀝青炭を含む原料を破砕して破砕済みの石炭を得る破砕工程と、
前記破砕済みの石炭を乾燥させて乾燥済みの石炭を得る乾燥工程と、
前記乾燥済みの石炭を粉砕して石炭粒子を得る粉砕工程と、
前記石炭粒子を成型して成型体を得る成型工程と
を含む製造方法により得られた成型体であり、
前記石炭粒子は、平均粒子径10~60μm、水分5~20wt%であり、
養生前の前記改質炭の見掛密度は1.2~1.4g/cm であること
を特徴とする改質炭の養生方法(ただし、前記改質炭は、中低質炭を180~300℃未満に加熱し150℃以下に冷却して得られた改質炭、及び、中低質炭を昇温速度100℃/分以上で300~500℃に加熱し降温速度50℃/分以上で250℃以下に冷却して得られた改質炭を含まない。)。
【請求項2】
改質炭を所定の養生条件で保持する改質炭の養生方法であって、
前記所定の養生条件は、温度-5~40℃、相対湿度5~95%で、200日以上であり、
前記改質炭は、バインダーを含まず、かつ
褐炭および/または亜瀝青炭を含む原料を破砕して破砕済みの石炭を得る第1破砕工程と、
前記第1破砕工程により得られた破砕済みの石炭を乾燥させて乾燥済みの石炭を得る乾燥工程と、
前記乾燥済みの石炭を粉砕して石炭粒子を得る粉砕工程と、
前記石炭粒子を成型して第1成型体を得る第1成型工程と、
前記第1成型体を破砕して第1成型体破砕物を得る第2破砕工程と、
前記第1成型体破砕物を成型して第2成型体を得る第2成型工程と、
を含む製造方法により得られた第2成型体であり、
前記石炭粒子は、平均粒子径10~60μm、水分5~20wt%であり、
養生前の前記改質炭の見掛密度は1.2~1.4g/cm であること
を特徴とする改質炭の養生方法(ただし、前記改質炭は、中低質炭を180~300℃未満に加熱し150℃以下に冷却して得られた改質炭、及び、中低質炭を昇温速度100℃/分以上で300~500℃に加熱し降温速度50℃/分以上で250℃以下に冷却して得られた改質炭を含まない。)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の改質炭の養生方法において、
養生前の改質炭の水中浸漬水分をW、養生後の改質炭の水中浸漬水分をWとすると、W/W=0.70~0.90であること
を特徴とする改質炭の養生方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の改質炭の養生方法において、
前記改質炭は、石炭粒子を圧縮成型して得られた成型体であって、養生前の改質炭の圧縮方向厚みをT、養生後の改質炭の圧縮方向厚みをTとすると、T/T=1.0~1.2であること
を特徴とする改質炭の養生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質炭の養生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、低品位炭を油と混合してスラリーとし、このスラリーを加熱することにより石炭を脱水し、含水量を低下させた後に粉砕・成型して固体燃料を得る技術が開示されている。特許文献2には、バインダー等を用いずに石炭のみを原料として石炭粒子を成型して得られる石炭成型燃料とその製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-111529号公報
【文献】WO2015/098935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記特許文献1にあっては、油と混合してスラリーを作成する必要があり、コストアップを招いていた。また成型後の固体燃料をハンドリングする際に一定以上の強度が求められるが、特許文献1では強度について記載されていない。特許文献2の石炭成型燃料は、バインダー等を用いる場合に比べてコスト削減はできたものの、製品価値である発熱量は屋外貯蔵時の製品水分に依存することから、貯蔵時の降雨等による吸水量が低下するよう、さらなる改善が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
改質炭を所定の養生条件で保持する改質炭の養生方法であって、
前記所定の養生条件は、温度-5~40℃、雰囲気相対湿度5~95%で、200日以上であること
を特徴とする改質炭の養生方法に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、浸漬水分が低い改質炭を簡便な方法により提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態1における改質炭(製品100)の製造工程を示す図である。
図2】実施形態2における改質炭(製品200)の製造工程を示す図である。
図3】成型工程で好適に用いることのできるブリケットマシンの模式図である。
図4】実施例の成型工程で用いたブリケットマシンのロール表面に形成されたロールポケット(形状A)の断面形状を示す図(a)と平面形状を示す図(b)である。
図5】実施例の成型工程で用いたブリケットマシンのロール表面に形成されたロールポケット(形状B)の断面形状を示す図(a)と平面形状を示す図(b)である。
図6】実施例における、養生日数と水中浸漬7日目の水分との関係を示す図である。
図7】実施例における、養生日数と水中浸漬前の成型体の厚みとの関係を示す図である。
図8】実施例における、養生日数と水中に7日間浸漬した後の成型体の膨張率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[養生工程]
本発明は、改質炭を所定の養生条件で保持する改質炭の養生方法に関する。養生条件は、温度-5~40℃、相対湿度5~95%で、200日以上であることが好ましく、温度0~40℃、雰囲気相対湿度25~95%、200日以上であることがより好ましい。この条件下で改質炭を養生する工程(以下、「養生工程70」とも記載する。図1及び図2参照。)を含むことにより、改質炭の吸水が抑制されて水中浸漬水分(単に、「浸漬水分」とも記載する)が養生前に比べて低下し、改質炭の品質が改善する。
【0009】
養生方法は特に限定されず、上記養生条件を満たす環境下に改質炭を置けばよいが、密閉養生、気乾養生、封緘養生、湿空養生、蒸気養生、およびオートクレーブ養生等が挙げられ、密閉養生が好ましい。これらのうち、2種以上の養生方法を組み合わせてもよい。養生を行っている間、改質炭は静置していることが好ましいが、改質炭が粉化しない程度に振動、攪拌等の外力が加わってもよい。養生を行っている間、改質炭同士が接触していても接触していなくてもよい。
【0010】
本発明の養生方法において、養生前の改質炭の水中浸漬水分をW、養生後の改質炭の水中浸漬水分をWとすると、W/W=0.70~0.90であることが好ましい。W/Wがこの範囲内にあれば養生による効果が十分であると考えられる。
【0011】
浸漬水分は、以下の方法により測定することができる。改質炭を水中に浸漬し、浸漬開始から7日間経過した時点で改質炭を回収し、表面に付着した水分をウエス等の布で除去した後、JIS M 8820-2000(石炭類及びコークス類-ロットの全水分測定方法)に記載の石炭類の全水分測定方法にて計測して得た全水分を浸漬水分とする。浸漬水分が低いほど貯蔵時の降雨等による吸水量が低下するため、製品価値である発熱量が高くなるので品質の高い改質炭といえる。
【0012】
本発明では石炭粒子を成型して改質炭を得ており、したがって本発明においては成型直後(複数の成型工程を有する場合は最終の成型工程の直後)から1日以内であって、上記養生工程70に至る前の改質炭(後述の実施形態1の成型体5、または実施形態2の第2成型体7)を「養生前」と定義する。
【0013】
改質炭(実施形態1の成型体5、または実施形態2の第2成型体7)に対して上記養生条件下で養生を行うことにより、養生後の水中浸漬膨張率が養生前の水中浸漬膨張率より低下し、貯蔵中の水分上昇が緩和し、より発熱量の高い改質炭を得ることができる。本発明の一態様として、養生前の改質炭の水中浸漬膨張率をE、養生後の水中浸漬膨張率をEとすると、E/E=0.60~0.80であるのが好ましい。ここで、水中浸漬膨張率は、下記式(1):
【0014】
【数1】
により算出することができる。
【0015】
本発明の一態様として、改質炭(実施形態1の成型体5、または実施形態2の第2成型体7)は、石炭粒子を圧縮成型して得られた成型炭であって、養生前の圧縮方向厚みをT、養生後の圧縮方向厚みをTとすると、T/T=1.0~1.2であることが好ましい。本明細書において、「圧縮方向厚み」とは、石炭粒子を圧縮成型する際に圧縮力が加わる方向の厚みのことをいう。養生前後の厚みの比(T/T)が該範囲内にあると、養生効果による水中浸漬膨張率の低下が十分であるため好ましい。
【0016】
本発明の一態様として、改質炭(実施形態1の成型体5、または実施形態2の第2成型体7)は、石炭粒子を成型して得られ、石炭粒子は、平均粒子径10~60μm、水分5~20%であって、養生前の改質炭(実施形態1の成型体5、または実施形態2の第2成型体7)の見掛密度は1.2~1.4g/cmであることが好ましく、1.25~1.4g/cmであることがより好ましい。石炭粒子がこのような物性を有することにより、水分を結合材として成型炭とすることができ、養生前の改質炭(実施形態1の成型体5、または実施形態2の第2成型体7)の見掛密度が該範囲内にあると改質炭のハンドリングがしやすい。
【0017】
[実施形態1]
図1に、実施形態1として改質炭の製造工程の一例を示す。実施形態1における製造工程は、破砕工程10、乾燥工程20、粉砕工程30、成型工程40を有し、原料となる石炭1を破砕した後乾燥させ、乾燥させた石炭を粉砕して石炭粒子4を得る。この石炭粒子4を成型することにより得られた成型体5を改質炭とし、この成型体5を、上述の養生工程70にて養生する。
【0018】
原料となる石炭1は、好ましくは褐炭および/または亜瀝青炭であり、より好ましくは水分25wt%以上の褐炭または亜瀝青炭であり、さらに好ましくは水分30wt%以上の褐炭である。原料として用いられるものは石炭1のみであり、バインダーや添加物等は使用されない。バインダー等の添加物の使用はコストアップ要因となるが、本実施形態の成型炭はバインダーを添加せず石炭のみを用いるため、低コストで成型炭を得ることができる。
【0019】
<破砕工程>
破砕工程10ではこの石炭1をジョークラッシャーまたはハンマークラッシャーで破砕して破砕済みの石炭2を得、乾燥工程20に移行する。破砕工程10では、後の粉砕工程30で用いるボールミル等に投入できる大きさまでに石炭1が破砕されればよく、特に限定はされないが、破砕済みの石炭2の最大粒子径が、好ましくは70mm以下、より好ましくは50mm以下、さらに好ましくは20mm以下であり、平均粒子径が1mm~20mm程度であることが好ましい。なお、石炭の水分量は、JIS M 8820-2000 (石炭類及びコークス類-ロットの全水分測定方法)に記載の石炭類の全水分測定方法にて計測できる。また、第1破砕工程10により破砕された石炭2の平均粒子径は、JISM8801-2004「5.粒度試験方法」に基づき測定し、各篩目開きの通過篩質量百分率を求め、通過篩質量百分率が50%となる粒子径とする。
【0020】
<乾燥工程>
乾燥工程20では破砕済みの石炭2を間接乾燥機により乾燥させ、乾燥済みの石炭3を得て粉砕工程30に移行する。間接乾燥機としては例えばスチームチューブドライヤを用いてもよい。固体燃料の製造では大量処理が要求されるため、伝熱面積が大きく大量に乾燥処理可能なスチームチューブドライヤを用いることが好適である。
【0021】
<粉砕工程>
粉砕工程30では粉砕機により乾燥済みの石炭3の粉砕が行われ、石炭粒子4を得て成型工程40に移行する。粉砕機は乾式粉砕または乾燥粉砕方式であり、例えば微粉砕が可能で大量処理に適したボールミル、ローラーミルが用いられる。乾燥機同様に固体燃料の製造では大量処理が要求されるため、大量処理に適した粉砕機が好適である。この粉砕工程30において、石炭粒子4の平均粒子径を好ましくは10~60μm、より好ましくは10~50μm、さらに好ましくは10~30μmとする。平均径10μm未満に粉砕するには大きな粉砕動力が必要であり、工業プロセスでの製造が困難であることからボールミル粉砕後の平均径は10μm以上が好ましい。本明細書において、粉砕工程30により粉砕された石炭粒子4の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって得られる粒度分布のメディアン径とする。なお、本明細書において、「石炭粒子」と記載したときは、粉砕工程30により粉砕された石炭粒子4を意味するものとする。
【0022】
この粉砕工程30において石炭粒子4の平均粒子径を上記の範囲とすることにより、成型工程40において微細な石炭粒子4を成型する際に成型の金型(ロールポケット)への充填率が増大し、後述の成型体5の密度を向上させて所望の強度を得ることができる。
【0023】
なお、ボールミル、ローラーミルは粉砕と同時に乾燥をも行えるため、粉砕工程30においてもボールミル、ローラーミルによる乾燥を行ってもよいが、ボールミル、ローラーミルでの乾燥能力では不十分であるため、粉砕工程30の前に乾燥工程20を設けて必要な乾燥能力を確保するのが好ましい。
【0024】
<成型工程>
成型工程40では成型機により石炭粒子4を成型し、得られた成型体5を改質炭とする。成型機は、原料を加圧成型する成型手段と、成型手段へ原料を供給する供給手段とを有する。成型機としては、例えば、ブリケットマシンを用いることができる。
【0025】
図3に、成型工程40において好適に用いることのできるブリケットマシンの模式図を示す。図3に示すブリケットマシンは、垂直供給方式のブリケットマシンであり、成型手段である一対のロール41と、一対のロール41の上方に配置されて、一対のロール41の間に原料である石炭粒子4を供給する供給手段42と、を有する。供給手段42は、石炭粒子4が供給されるホッパおよびホッパ内の石炭粒子4を下方へ送るスクリューフィーダ等を有している。一対のロール41は、それぞれ適宜の駆動手段で駆動される回転軸を有している。回転軸は、水平方向に延び、かつ、水平方向に間隔をあけて互いに平行に配置されている。また、一対のロール41は隙間をあけて配置されている。ロール41の上方からこの隙間に供給された石炭粒子4を、ロール41の回転駆動によって加圧しながら下方へ送ることで、石炭粒子4の加圧により形成された板状の成型体5が得られる。
【0026】
一対のロール41間の隙間(クリアランス)は、広すぎると、ロール41間からの石炭粒子4の漏れや圧力分散が発生しやすくなり、得られる成型体5の密度および強度の低下、並びに収率低下につながる。よって、ロール41間の隙間は3mm以下であることが好ましい。ロール41間の隙間を3mm以下とすることで、十分な強度が確保された板状の成型体を得ることができる。
【0027】
また、一対のロール41のうち少なくとも一方のロール41の表面には、凹凸が形成されていることが好ましい。これにより、ロール41間に供給された石炭粒子4がロール41の表面から滑り落ちるのが抑制され、石炭粒子4をロール41間に良好に保持することができる。また、凹凸を形成することにより、凹部内にも石炭粒子4が充填されるため、単位時間当たりの処理量を多くすることができる。なお、ロール41の表面に凹凸を有する場合、得られる成型体5の表面形状は、ロール41の表面の凹凸が転写される。
【0028】
ロール41の表面に形成される凹凸の形態は特に限定されず、例えば、ロールポケット(凹部)、溝およびこれらの組み合わせであってもよい。
【0029】
凹凸がロールポケットで形成される場合、ロールポケットの形状は任意とすることができる。
【0030】
また成型体5の見掛密度は1.2~1.4g/cmが好ましく、1.25~1.4g/cmであるのがさらに好ましい。また成型体5の重量は0.2~20gであるのが好ましい。また成型体5の水分は好ましくは5~20wt%、より好ましくは8~18wt%、さらに好ましくは10~17wt%である。この水分は石炭粒子4の水分に由来するものである。なお、見掛密度はJIS Z 8807の「8.液中ひょう量法による密度及び比重の測定方法」に基づき測定できる。
【0031】
石炭粒子4由来の水分は成型工程40において結合材の役割を果たすため、成型体5の水分を上記の範囲に調整することにより、別途結合材やバインダー等を添加することなく効率的な成型が可能となる。なお、成型工程40に用いる石炭粒子4の水分含有量が、5~20wt%であることが好ましく、8~18wt%であることがより好ましく、10~17wt%であることがさらに好ましい。
【0032】
実施形態1では、石炭粒子4の平均粒子径が10~60μmと微細であるため、成型時にブリケットマシンにおけるロールポケットへの充填率が増加する。これにより成型体5の密度が向上し、成型体5の強度アップに寄与する。また、石炭1に含まれる水分を結合材として活用し、好適な水分範囲である5~20wt%にするとともに、成型体5の密度を規定することにより、さらに好ましくは成型体5のサイズおよび重量も規定し、成型体5の圧壊強度(JIS Z 8841-1993の「3.1 圧壊強度試験方法」に基づき測定できる)が極大となる領域に調整することが可能となる。よって、成型体5を用いる際に、運搬時の粉化を低減してハンドリング性を向上させることができる。また粉砕した後に成型することで比表面積も低下し、貯蔵時の発火を低減することができる。さらに、この成型体5を得る製造プロセスでは全て公知の機械・装置を用いており、また熱水等も必要としないため、コスト低減を図ることができる。
【0033】
なお、上述のとおり実施形態1ではバインダーを用いていない。石炭粒子4の粒子径と水分、及び成型体5の密度を上記の範囲に規定することにより、別途バインダーを添加することなく、低コストで成型体5を得ることができる。
【0034】
<養生工程>
成型工程40で得られた成型体5につき上述の養生工程70にて養生を行い、実施形態1における養生後の改質炭(以降、製品100とも記載する)を得る。なお成型工程40と養生工程70との間に研磨工程や篩工程等を設けてもよい。
【0035】
[実施形態2]
図2に、実施形態2として改質炭の製造工程の他の例を示す。基本構成は実施形態1と同様であるが、実施形態2では実施形態1における成型工程40の後段に第2破砕工程50を設け、さらにその後段に第2成型工程60を設ける点で実施形態1と異なる。実施形態2における養生前の改質炭は第2成型体7であって、この第2成型体7を養生工程70にて養生し、養生後の改質炭(以降、製品200とも記載)を得るものである。
【0036】
以降、実施形態2においては、破砕工程10、成型工程40をそれぞれ第1破砕工程10、第1成型工程40として区別する。また、第1成型工程40で得られた成型体5は第1成型体5とする。
【0037】
<第1破砕工程、乾燥工程、粉砕工程>
実施形態1の破砕工程10、乾燥工程20、粉砕工程30と同様である。
【0038】
<第1成型工程>
第1成型工程40では粉砕工程30で得られた石炭粒子4を成型し、第1成型体5を得る。実施形態2における第1成型体5の密度は、実施形態1における成型体5の密度と比べ低いことが好ましく、見掛密度が1.00g/cm~1.25g/cmであることが好ましい。見掛密度の低い第1成型体5を得る方法としては、例えば、成型機のロール上部の押込スクリュの回転数低下、ロール回転数増加、ロール支持圧(ローラー間圧力)の低下、ロールポケット容積増加、ロールギャップ増加などの方法が挙げられ、これらを複合させてもよい。圧壊強度は10~800Nであることが好ましい。また、第1成型工程40に用いる石炭粒子4の水分含有量が、5~20wt%であることが好ましく、8~18wt%であることがより好ましく、10~17wt%であることがさらに好ましい。
【0039】
第1成型工程40においては、水平供給方式の成型機(例えばコンパクター)を用いてもよいし、垂直供給方式の成型機(例えばブリケットマシン)を用いてもよい。
【0040】
<第2破砕工程>
第2破砕工程50では、破砕機により第1成型体5を破砕し、第1成型体破砕物6を得て第2成型工程60に移行する。破砕機は第1破砕工程10で用いたものと同様である。なお第1成型体破砕物6の平均径は、好ましくは0.1~1.0mm、より好ましくは0.15~0.9mm、さらに好ましくは0.2~0.8mmである。また、第1成型体破砕物6の最大粒子径は、後述の第2成型体7の粒子径の縦横2辺の短いほうの長さ以下であることが好ましい。第1成型体破砕物6が前記平均径の範囲および最大粒子径の範囲になるように第2破砕工程50を調整することで、前記の第2成型工程60の成型時に、ブリケットマシンにおけるロールポケットへの充填率を向上させることができる。この結果として得られる、第2成型体7は実施形態1における成型体5と比べ優れた品質(圧壊強度および見掛密度)を示す。なお、実施形態2において、第1成型工程40と第2成型工程60で使用するロールポケットサイズのポケットサイズは同一であっても異なっていてもよい。第1成型体破砕物6の平均粒子径は、上述の石炭2と同様の方法で測定できる。
【0041】
<第2成型工程>
第2成型工程60では、成型機により第1成型体破砕物6を成型して第2成型体7を得る。第2成型工程60は、上述の実施態様1で記載した成型工程40と同様に行うことができる。
【0042】
第2成型工程60においては、垂直供給方式の成型機(例えばブリケットマシン)を用いる。
【0043】
第2成型体7の粒子径は5~40mmであるのが好ましい。また第2成型体7の見掛密度は1.2~1.4g/cmである。また第2成型体7の重量は0.2~20gであるのが好ましい。第2成型体7の水分含有量は好ましくは5~20wt%、より好ましくは8~18wt%、さらに好ましくは10~17wt%である。
【0044】
実施形態2では、一度成型した第1成型体5を第2破砕工程50で再度破砕し、改めて第2成型工程60において成型する。第1成型体5は第1成型工程40によって既にある程度密度が高められた状態であり、第1成型体破砕物6も同程度の密度を有する。したがって、第1成型体破砕物6を再度成型することで、第1成型体5よりもさらに密度を向上させた第2成型体7を得ることができる。
【0045】
また、粉砕された石炭粒子4の平均粒子径は10~60μmであり、そのままでは成型機内での流動性が悪く、成型しづらい場合もある。一方、一度成型した第1成型体5の破砕物6であれば、第1成型工程40によりある程度密度が高められているため成型機内での流動性が向上しており、第2成型工程60における成型がスムーズに行われる。これにより、第1成型体5よりもさらに密度の高い第2成型体7が得られることとなり、貯蔵・運搬時の粉化がさらに低減され、第2成型体7及び製品200のハンドリング性を向上させることができる。
【0046】
<養生工程>
第2成型工程60で得られた第2成型体7(養生前の改質炭)を上述の養生工程70にて養生を行い、実施形態2における製品200(養生後の改質炭)を得る。なお第2成型工程60と養生工程70との間に研磨工程や篩工程を設けてもよい。研磨や篩にかけることにより、第2成型体7のうち相対的に低強度の部分を削り落とし、相対的に高強度な部分を残すことで、強度を向上させるものである。なお篩工程では、例えば篩目はロールポケットの縦寸法と横寸法の平均寸法の半分程度の目開きの篩を用いてもよい。
【0047】
本発明では、上記のように得られた改質炭にさらに養生工程を施すことにより、浸漬水分が低下して強度が増加し、ハンドリング性がより向上した石炭成型燃料を提供することができる。
【0048】
<水分調整工程>
なお、実施形態1および2においてそれぞれ得られる、成型体5および第2成型体7の水分含有量を調整する水分調整工程を設けてもよい。水分調整工程は、成型工程40(または第2成型工程60)と養生工程70の間であってもよいし、養生工程70の後であってもよい。水分調整工程により、製品の発塵および自然発熱を防止することができる。
【0049】
水分調整工程においては、例えば実施形態1の成型工程40(または実施形態2の第2成型工程60)の後に、ベルトコンベアを配し、かつベルトコンベア上部に給水ポンプおよびスプレーノズルで構成される散水設備を配し、ベルトコンベアによって搬送される成型体5(または第2成型体7)に対し、成型体5(または第2成型体7)の水分が好適範囲になるように散水する方法がある。また、成型体5(または第2成型体7)を山立て(山状に堆積させてパイルを形成)後、給水ポンプおよびスプリンクラによって構成される散水設備によって山立てした成型体の水分を好適範囲になるように調整する方法であってもよい。加えて、成型体5(または第2成型体7)を水中浸漬することで水分を調整してもよい。
【実施例
【0050】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
<例1~7>
例1~7は、図2に示す実施形態2の製造方法に対応し、第1破砕工程10、乾燥工程20、粉砕工程30、第1成型工程40、第2破砕工程50、第2成型工程60、養生工程70を経て得られた製品200に関するものである。
【0052】
(改質炭の製造)
原料はインドネシア産のB炭、T炭(いずれも褐炭)を用いた。T炭、B炭の性状を表1に示す。表1中、ARは到着ベース、ADは気乾ベース、DBは無水ベースを示す(JIS M8810)。また、表1には、工業分析値(気乾ベース)に基づき算出された燃料比、高位発熱量および元素分析の結果をそれぞれ示す。なお表1における工業分析値、元素分析値はJIS M8812、8813、8814に基づく。表1中、GAR、GAD、DAFは、それぞれ到着ベース高位発熱量、気乾ベース高位発熱量、無水無灰ベース高位発熱量を示す(JIS M8810)。HGI(ハードグローブ指数)はJIS M 8801の「7.粉砕性試験方法(ハードグローブ法」に基づき測定した。
【0053】
【表1】
【0054】
第1破砕工程10ではハンマークラッシャーを用い原料のT炭またはB炭を平均粒径10mm以下に破砕した。次いで、乾燥工程20ではスチームチューブドライヤを用い全水分が5~20重量%になるように、破砕したT炭を乾燥した。次いで、粉砕工程30ではボールミルを用い、平均粒子径が約10~60μmになるように粉砕して石炭粒子4を得た。なお、第1破砕工程10により破砕された石炭の平均粒子径はJISM8801-2004「5.粒度試験方法」に基づき測定し、各篩目開きの通過篩質量百分率を求め、通過篩質量百分率が50%となる粒子径を平均粒子径とした。粉砕工程30により粉砕された石炭粒子4の平均粒子径はレーザー回折・散乱法によって得られる粒度分布のメディアン径である。
【0055】
この石炭粒子4を図3に示した垂直供給方式のブリケットマシンに供給し、第1成型工程40を行い、第1成型体5を得た。第1成型工程40に用いた垂直供給型の成型機(ブリケットマシン)は、一対のロール41を有しており、2つのロール41両方にロールポケットが彫られていた。一対のロール41は、それぞれ、直径が250mm、軸方向長さが50mmであった。
【0056】
第1成型工程40で用いた垂直供給型の成型機のポケット形状は、図4に示す形状Aおよび図5に示す形状Bの2種類であった。形状Aは、縦長さaが6mm、横長さbが9mm、深さcが1.57mmであり、ポケットBは縦長さaが2.5mm、横長さbが8mm、深さcが0.6mmであった。ロール41の周面には、ロール1個当り、形状Aを有する484個のポケット、および形状Bを有する88個のポケットが、規則的に分散配置されていた。形状Aの1個あたりの容積は0.035cmであり、形状Bの1個当たりの容積は0.0048cmであった。2つのロールの隙間dは1.0mmとし、ロール線圧が5t/cmに維持されるようにロール41およびスクリューフィーダの回転数を調整した。
【0057】
第1成型工程40により得られた第1成型体5を、第2破砕工程50においてハンマークラッシャーで平均粒子径0.05~1.0mmに破砕した。得られた破砕物6を第2成型工程60の垂直供給型の成型機(ブリケットマシン)で成型し、板状の第2成型体7を得た。第2成型工程60で用いた成型機のポケット形状は、第1成型工程40で用いたポケット形状と同じである。2つのロールの隙間は1.0mmとし、ロール線圧は5t/cmとなるように調整した。
【0058】
得られた第2成型体7を篩(目開き3.35mm)で処理し、養生工程70にてビニル袋に密閉して養生(温度:-5~35℃、雰囲気相対湿度:30~90%)を行い、表3記載の養生日数経過後に製品200を得た。
【0059】
養生工程前におけるT炭またはB炭の各工程における品質は表2のとおりである。なお表2では例4の第2破砕物6及び第2成型体7の品質の記載が無いが、単に品質の測定を行っていないためであり、実際は他の例と同様に第2破砕工程50及び第2成型工程60を経て第2成型体7を得ている。
【0060】
【表2】
【0061】
<品質評価>
得られた製品200の品質の評価方法は下記のとおりである。
【0062】
<水分>
製品200を水中に浸漬する前の全水分、および、製品200の水中浸漬水分を記載した。
【0063】
<厚み>
本願における厚みとは板状成型体の平滑面同士の距離(凸面を含まない、図4および図5におけるdに相当する部分)であり、ランダムに採取した10個のサンプルの厚みの平均値である。厚み測定は、前記板状成型体の平面同士にノギスを当てて測定した。
【0064】
<浸漬時の膨張率>
製品200の厚みの3乗を製品200の容積と仮定し、下記(式1’):
【0065】
【数2】
により、水中浸漬7日目の膨張率を算出した。
【0066】
製品200の品質評価結果(浸漬水分、厚み等)を表3に示す。なお、表3中の養生日数は、第2成型体7が得られた日からの日数とする。
【0067】
【表3】
【0068】
図6は、製品200について、養生日数と7日目の浸漬水分(重量%)との関係を示す。保存期間(養生日数)が長くなるほど製品200の浸漬水分が低下すること、および養生日数200日以降は横ばいであることが確認された。
【0069】
図7は、製品200について、養生日数と水中浸漬前の厚み(mm)との関係を示す。養生日数経過に伴い、対向する平滑面同士の厚みが増加することが確認された。
【0070】
図8は、製品200について、養生日数と成型体の水中浸漬7日目の膨張率との関係を示す。図8に示す通り、養生前の成型体の浸漬膨張率が1.6に対し、200日以上養生した製品200の浸漬前後の膨張率は1.110~1.231となり、養生に伴い浸漬時の吸水が抑制される。
【符号の説明】
【0071】
1 石炭
2 破砕済みの石炭
3 乾燥済みの石炭
4 石炭粒子
5 成型体(第1成型体)
6 第1成型体破砕物
7 第2成型体
10 破砕工程(第1破砕工程)
20 乾燥工程
30 粉砕工程
40 成型工程(第1成型工程)
50 第2破砕工程
60 第2成型工程
70 養生工程
100 製品
200 製品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8