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特許7066365ダイヤ作成装置および自動列車制御システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】ダイヤ作成装置および自動列車制御システム
(51)【国際特許分類】
   B61L 27/00 20220101AFI20220506BHJP
   G06Q 50/30 20120101ALI20220506BHJP
【FI】
B61L27/00 H
B61L27/00 G
G06Q50/30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017200250
(22)【出願日】2017-10-16
(65)【公開番号】P2019073146
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】519221350
【氏名又は名称】ヒタチ レール エスティーエス エス.ピー.エー.
【氏名又は名称原語表記】Hitachi Rail STS S.p.A.
【住所又は居所原語表記】Via Paolo Mantovani 3-5 16151 Genova Italy
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】皆川 剛
(72)【発明者】
【氏名】木村 恵二
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 達広
(72)【発明者】
【氏名】狩集 美智
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジアーニ クラウディオ
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-237948(JP,A)
【文献】特開2014-237345(JP,A)
【文献】特開2014-210530(JP,A)
【文献】特開2007-15424(JP,A)
【文献】特公昭59-45546(JP,B2)
【文献】特開2014-40161(JP,A)
【文献】特開2006-327239(JP,A)
【文献】特開2013-241145(JP,A)
【文献】国際公開第2015/063823(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 1/00-99/00
G06Q 50/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の制御目標を表すダイヤを、列車が停車する各駅における旅客の行先およびその人数を時間帯毎に示す移動需要の予測結果に応じて変更するダイヤ作成装置であって、
前記移動需要の予測結果を表す予測需要情報に基づいて、列車の混雑度を算出し、前記混雑度が所定の許容範囲外となる違反箇所を抽出する違反箇所抽出部と、
前記違反箇所の混雑度が前記許容範囲内となるように、あるいは前記違反箇所の前記混雑度が前記許容範囲に近づくように、列車の折返し時分の調整、及び方面変更を含む行先変更を行う前記ダイヤを変更するダイヤ修正部とを有し、
前記ダイヤ修正部は、現在時刻から所定時刻だけ進めた基準時刻において、列車が始発駅を出発すると予測される時刻である始発駅発車時刻が前記基準時刻より前であるか、または、前記列車が前記基準時刻において発車時刻が近づいている列車に関する情報を表示する発車標に表示されている場合、前記ダイヤの変更において運行を変更する対象にしないダイヤ変更禁止列車と判定し、前記ダイヤにおける前記ダイヤ変更禁止列車の運行を変更しないように前記ダイヤを変更する、ダイヤ作成装置。
【請求項2】
前記ダイヤの変更の仕方を予め定めたダイヤ変更パターンを保持するダイヤ変更パターンデータベースを更に有し、
前記ダイヤ修正部は、前記ダイヤ変更パターンデータベースに保持されたダイヤ変更パターンを用いてダイヤ変更を行った場合の変更後のダイヤに関する評価指標を算出し、前記評価指標が最も高くなるダイヤ変更パターンを選択し、前記選択したダイヤ変更パターンを用いて前記ダイヤを変更する、
請求項1記載のダイヤ作成装置。
【請求項3】
前記ダイヤ変更パターンは、ダイヤ変更後の列車の走行経路の情報を含む、
請求項2記載のダイヤ作成装置。
【請求項4】
前記ダイヤ変更パターンは、ダイヤ変更後の列車の停車駅と通過駅を特定するための情報を含む、
請求項2記載のダイヤ作成装置。
【請求項5】
前記ダイヤ変更パターンは、ダイヤ変更後の列車の前運用列車と後運用列車を特定するための情報を含む、
請求項2に記載のダイヤ作成装置。
【請求項6】
前記ダイヤ修正部は、前記ダイヤ変更パターンを用いてダイヤを変更する場合、ダイヤ変更後の列車の運転間隔が行先毎に均等になるように、前記変更後のダイヤにおける列車の出発時刻を調整する、
請求項2記載のダイヤ作成装置。
【請求項7】
与えられたダイヤを用いて未来の移動需要を予測し、該移動需要の情報を含む予測需要情報を生成する需要予測部を更に有し、
前記ダイヤ修正部は、前記違反箇所に対して1つ以上のダイヤ変更案を作成し、作成した前記ダイヤ変更案の各々について前記需要予測部を用いて前記予測需要情報を生成し、前記予測需要情報に基づいて、当該ダイヤ変更案に対する混雑度に関する評価指標を算出し、前記評価指標が最も良い値となるダイヤ変更案を選択し、前記選択したダイヤ変更案を用いて前記ダイヤを変更する、
請求項1記載のダイヤ作成装置。
【請求項8】
列車の制御目標とする第1のダイヤを用いて列車を制御する制御装置と、
前記制御装置によって制御された列車の走行実績を取得する追跡装置と、
前記第1のダイヤと前記走行実績とを用いて列車の運行を予測した結果である予測ダイヤを作成する運行予測装置と、
センサから取得した旅客の人数に関する情報および前記予測ダイヤを用いて、列車が停車する各駅における旅客の行先およびその人数を時間帯毎に示す移動需要を予測し、前記移動需要の予測結果を表す予測需要情報を作成する需要予測装置と、
前記予測ダイヤと前記予測需要情報とを用いて、列車の混雑度を算出し、前記混雑度が所定の許容範囲外となる違反箇所を抽出し、前記違反箇所の混雑度が前記許容範囲内となるように、あるいは前記違反箇所の前記混雑度が前記許容範囲に近づくように、前記第1のダイヤからの列車の折返し時分の調整、及び方面変更を含む行先の変更を行う第2のダイヤを生成し、前記第2のダイヤによって前記第1のダイヤを更新するダイヤ作成装置と、を有し、
前記ダイヤ作成装置は、
現在時刻から所定時刻だけ進めた基準時刻において、列車が始発駅を出発すると予測される時刻である始発駅発車時刻が前記基準時刻より前であるか、または、前記列車が前記基準時刻において発車時刻が近づいている列車に関する情報を表示する発車標に表示されている場合、前記第1のダイヤの変更において運行を変更する対象にしないダイヤ変更禁止列車と判定し、前記ダイヤ変更禁止列車の運行を変更しないように前記第1のダイヤを変更する、自動列車制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動需要の増減に応じて列車の便数を動的に調整する交通システムに関し、特に、移動需要の増減に応じて列車各便の運行計画であるダイヤグラム(以下、ダイヤと称する)を修正するダイヤ作成装置と、修正された列車各便のダイヤに従って各列車が走行するよう制御する自動列車制御システムと、に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道輸送サービスに代表される公共交通機関において旅客の快適性に影響する要素のひとつに車両の混雑度がある。例えば鉄道の場合、列車の乗車率が増加すると、パーソナルスペースが狭くなって旅客の不快感が増加するほか、停車駅での乗客の乗降に時間が掛かるようになって列車が遅延しやすくなり、予定していた時刻に目的地に到着できない、といった不都合も発生し得る。他方、混雑度の低減のみに注力し、列車の便数を無為に増やして過剰な輸送力を提供すると、サービスコストが上昇し、運賃の引き上げなどを通じて旅客の不利益に繋がる可能性がある。
【0003】
このような背景の下、時間帯毎の需要に適合した輸送力を供給することを目的とした技術が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された技術では、対象路線の代表区間の時間帯毎の予測需要に基づいて適切な列車本数を算出し、算出された適切な列車本数と現在運行されている実列車本数とを比較して、実列車本数が適正な本数より多い場合は折返しにかける時間を長くして運行密度を下げ、実列車本数が適正な本数より少ない場合は折返しにかける時間を短くして運行密度を上げることで、時間帯毎の需要に適合した輸送力を供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-123913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で開示された技術は、折返しにかける時間の調整のみによる運行密度の調整であるため、路線長に対して十分な数の車両がない場合に、需要に見合った輸送力を確保することが難しかった。例えば、ある路線の端から端まで走行するのに1時間かかる場合、3分間隔で運行させるためには往復で40本の車両が必要となる。このとき、例えば天候の影響によって鉄道利用者の増加が予想され、ラッシュ時間帯の1時間を2分間隔で走行させたくなったとすると、折返しに掛かる時間の調整だけでは必要な車両数に足りないため、予備車両を使って列車を増発することが必要となる。ここで増発したい列車数に足る車両数が確保できないと、実際に列車を増発することができず、所望の運行密度が得られない結果となる。なお、必要な車両数が確保できない原因としては、予備車両が物理的に足りない場合のほか、需要の変化を検知するのが遅れ、増発する列車の始発駅まで車両基地から車両を搬送する時間が不足する場合なども考えられる。従来技術に比べ、より多くの状況で移動需要に適合した(すなわち混雑度を平準化させるような)輸送力を供給することが求められる。
【0006】
本発明者の検討によれば、混雑度が高くなりやすいのは、イベント会場の最寄り駅から他路線との接続を行っている駅までの間など、時間帯毎に、路線内のごく一部の区間である場合が多い。
【0007】
本発明の目的は、多くの状況で移動需要に適合した輸送力を供給することを可能にする技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、列車の制御目標を表すダイヤを、列車が停車する各駅における旅客の行先およびその人数を時間帯毎に示す移動需要の予測結果に応じて変更するダイヤ作成装置であって、前記移動需要の予測結果を表す予測需要情報に基づいて、列車の混雑度を算出し、前記混雑度が所定の許容範囲外となる違反箇所を抽出する違反箇所抽出部と、前記違反箇所の混雑度が前記許容範囲内となるように、あるいは前記違反箇所の前記混雑度が前記許容範囲に近づくように、列車の行先の変更を含めて前記ダイヤを変更するダイヤ修正部と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来技術に比べて、より多くの状況で時間帯毎の移動需要に適合した輸送力を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態による車両自動制御システムのブロック図である。
図2図1に示した車両自動制御システムの動作の概要を説明するための図である。
図3A図1に示した目標ダイヤ作成装置が備えるダイヤ変更パターンデータベースに保持されたダイヤ変更パターンを説明する図である。
図3B図1に示した目標ダイヤ作成装置が備えるダイヤ変更パターンデータベースに保持されたダイヤ変更パターンを説明する図である。
図3C図1に示した目標ダイヤ作成装置が備えるダイヤ変更パターンデータベースに保持されたダイヤ変更パターンを説明する図である。
図4A図1に示した目標ダイヤ作成装置が作成するリソース使用順序情報のうち番線使用順序情報の内容を説明する図である。
図4B図1に示した目標ダイヤ作成装置が作成するリソース使用順序情報のうち駅間線路使用順序情報の内容を説明する図である。
図5図1に示した目標ダイヤ作成装置が保持する基礎データに含まれる経路情報の内容を説明する図である。
図6A図1に示した目標ダイヤ作成装置が備えるダイヤ変更パターンデータベースに保持されたダイヤ変更パターン情報の内容を説明する図である。
図6B図6Aに示したダイヤ変更パターン情報に含まれるダイヤ状態情報の内容を説明する図である。
図6C図6Aに示したダイヤ変更パターン情報に含まれる変更後列車群情報の内容を説明する図である。
図7図1に示した目標ダイヤ作成装置が備える記憶部に格納される列車待ち人数情報の内容を説明するための図である。
図8図1に示した目標ダイヤ作成装置が備える記憶部に格納される列車乗車人数情報の内容を説明するための図である。
図9図1に示した目標ダイヤ作成装置が備える記憶部に格納される移動需要情報の内容を説明するための図である。
図10図1に示した目標ダイヤ作成装置の動作のうちダイヤ更新処理に関する動作を説明するためのフローチャートである。
図11図1に示した目標ダイヤ作成装置の動作のうち、図10に示したダイヤ修正要否判定処理における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
図12図1に示した目標ダイヤ作成装置の動作のうち、図10に示した目標ダイヤ修正処理における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
図13図1に示した目標ダイヤ作成装置の動作のうち、図12に示したダイヤ変更禁止列車特定処理における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
図14図1に示した目標ダイヤ作成装置の動作のうち、図12に示した違反箇所抽出処理における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
図15図1に示した目標ダイヤ作成装置の動作のうち、図12に示したダイヤ変更パターン列挙処理における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
図16図1に示した目標ダイヤ作成装置の動作のうち、図15に示した状態変化箇所ベクトル作成処理における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
図17図1に示した目標ダイヤ作成装置の動作のうち、図12に示した候補ダイヤ作成処理における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
図18図1に示した目標ダイヤ作成装置の動作のうち、図12に示した候補ダイヤ評価処理における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施形態>
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態では、列車を自動運転する鉄道の路線において列車制御の目標とするダイヤである目標ダイヤを生成する目標ダイヤ作成装置が設けられている。目標ダイヤ作成装置は、予測される移動需要に合わせて目標ダイヤを時々刻々更新していく。システム内部で移動需要を予測し、ダイヤ変更パターンデータベースに保持されたダイヤ変更パターンのうち、どのパターンを用いて目標ダイヤを変更するのが最適であるかを、予測された移動需要に基づいて評価することができる場合に適用するに好適な例である。
【0013】
図1は、実施形態による車両自動制御システムのブロック図である。
【0014】
本実施形態による車両自動制御システムは、図1に示すように、目標ダイヤ作成装置100と、運行管理システム200と、センサ400,500とを有している。一例として、センサ400は監視カメラであり、センサ500は自動改札機である。目標ダイヤ作成装置100と運行管理システム200とは、通信ネットワーク900を介して相互に通信可能に接続されている。通信ネットワーク900には、センサ400,500も接続されている。目標ダイヤ作成装置100は、センサ400,500からのセンサ情報を収集することができる。
【0015】
目標ダイヤ作成装置100は、装置内に格納した情報、運行管理システム200から取得した情報、およびセンサ400,500から取得したセンサ情報に基づき、駅間毎および時間帯毎に移動需要に適合した輸送力を供給できるように目標ダイヤを適宜更新し、運行管理システム200に通知する。
【0016】
運行管理システム200は、目標ダイヤ作成装置100から通知された目標ダイヤに従って、管理対象である列車運行ネットワーク内の複数の列車300の運行を制御する。各列車300は、運行管理システム200からの制御に従って自動運転する。運行管理システム200は、また各列車300から各種情報を取得し、各列車300の運行を管理する。運行管理システム200は、各列車300から取得した情報を含む各種情報を目標ダイヤ作成装置100に通知する。
【0017】
目標ダイヤ作成装置100は、CPU101と、メモリ102と、記憶部103と、通信部104と、需要パターンデータベース105と、ダイヤ変更パターンデータベース106とを有している。
【0018】
CPU(中央処理装置)101は、記憶部103に格納されている各種ソフトウェアプログラムを実行する処理部である。メモリ102はCPU101の作業領域となる記憶装置である。CPU101は、ソフトウェアプログラムを実行する際にメモリ102にデータを書き込みあるいはデータを読み出す。
【0019】
記憶部103は、CPU101が実行する各種プログラムとCPU101が処理に利用する各種データとが格納される記憶装置である。
【0020】
通信部104は、通信ネットワーク900に接続され、目標ダイヤ作成装置100による通信ネットワーク900を介した通信を可能にする。
【0021】
需要パターンデータベース105は、移動需要の過去の履歴が保持されるデータベースであり、移動需要の実績が随時追加格納される。移動需要は、各駅における各時間帯における旅客の行先およびその人数、すなわち、各駅の各時間帯にどこに行きたい旅客が何人いるかを表すデータ(ODデータ)である。移動需要の過去の履歴から曜日毎の特徴や季節変動などを知ることができる。移動需要の過去の履歴は、需要予測プログラムP03を用いた未来の移動需要の予測に利用される。
【0022】
ダイヤ変更パターンデータベース106は、予め定められたダイヤ変更の各種パターンを表したダイヤ変更パターンの情報が保持されたデータベースである。ダイヤ変更パターンは、ダイヤの変更に利用される。
【0023】
記憶部103には、ダイヤ更新プログラムP01、運行予測プログラムP02、および需要予測プログラムP03と、基礎データD01、走行実績情報D02、目標ダイヤD03、予測ダイヤD04、旅客行動モデルD05、センサ情報D06、列車待ち人数情報D07、列車乗車人数情報D08、移動需要情報D09、しきい値情報D10、および列車状態情報D11とが格納されている。
【0024】
ダイヤ更新プログラムP01は、CPU101により実行されることでダイヤ更新処理を実現するソフトウェアプログラムである。ダイヤ更新処理は、予測される移動需要に応じて、混雑度が許容範囲となるように、あるいは混雑度が許容範囲に近づくように、目標ダイヤを更新する処理である(ただし、ある箇所の混雑度を許容範囲に近付けようとすると別の箇所の混雑度が許容範囲から外れるといった、トレードオフが存在する場合には、後述の評価指標の値が良くなるように、目標ダイヤを更新する)。混雑度には、列車の混雑度と駅の混雑度とが含まれる。列車の混雑度は、列車の乗車可能人数に対する乗車人数の割合を示す指標である。駅の混雑度は、駅構内あるいはホームの収容可能人数に対する、駅構内あるいはホームにいる旅客の人数の割合を示す指標である。許容範囲は、目標ダイヤを変更せずに列車を運行させることが許容される混雑度の範囲であり、後述のしきい値情報D10に、目標混雑度情報として定義しておく。本実施形態では、許容範囲は、常に一定の上限値と下限値を使用するような構成とするが、本発明の実施形態はこれに限るものではなく、平日と休日で異なる値としてもよいし、時間帯ごとに異なる値としてもよいし(この場合、許容範囲の内外判定は列車の出発時刻で判定する)、場所ごとに異なる値としてもよいし、それらを組み合わせてもよい。ダイヤ更新処理には、運行予測処理と需要予測処理との結果が利用される。ダイヤ更新処理の詳細は後述する。
【0025】
ダイヤ更新プログラムP01には、違反箇所抽出プログラムP01aとダイヤ修正プログラムP01bとが含まれている。違反箇所抽出プログラムP01aは、CPU101により実行されることで違反箇所を抽出する処理を実現するソフトウェアプログラムである。違反箇所は混雑度が許容範囲外となる箇所である。ここでいう「箇所」は、列車と当該列車が走行する隣接駅間(以下では特に断らない限り「駅間」を「列車が走行する隣接駅間」の意味で用いる)の組で表される。ダイヤ修正プログラムP01bは、CPU101により実行されることでダイヤを修正する処理を実現するソフトウェアプログラムである。違反箇所を改善するように目標ダイヤが修正される。ただし、ある箇所の混雑度を許容範囲に近付けようとすると別の箇所の混雑度が許容範囲から外れるといった、トレードオフが存在する場合には、後述の評価指標の値が良くなるように目標ダイヤを修正するという点については、前述のとおりである。
【0026】
CPU101がダイヤ更新プログラムP01を実行することにより、目標ダイヤ作成装置100内にダイヤ更新部(不図示)が構築される。CPU101が違反箇所抽出プログラムP01aを実行することにより、目標ダイヤ作成装置100内に違反箇所抽出部(不図示)が構築される。CPU101がダイヤ修正プログラムP01bを実行することにより、目標ダイヤ作成装置100内にダイヤ修正部(不図示)が構築される。以下の説明では、ダイヤ更新プログラムP01、違反箇所抽出プログラムP01a、ダイヤ修正プログラムP01bを各処理の実行主体として記載するが、CPU101を実行主体とすることもできるし、ダイヤ更新部、違反箇所抽出部、ダイヤ修正部を実行主体とすることもできる。
【0027】
運行予測プログラムP02は、CPU101により実行されることで運行予測処理を実現するソフトウェアプログラムである。運行予測処理は、基礎データD01と走行実績情報D02(実績ダイヤ)と目標ダイヤD03とに基づいて列車運行ネットワーク中の列車群の未来の運行状況を予測し、予測ダイヤを生成する処理である。CPU101が運行予測プログラムP02を実行することにより、目標ダイヤ作成装置100内に運行予測部(不図示)が構築される。以下の説明では、運行予測プログラムP02を運行予測処理の実行主体として記載するが、CPU101を運行予測処理の主体とすることもできるし、運行予測部を運行予測処理の主体とすることもできる。運行予測処理は、公知の技術(例えばマクロモデルによる列車運行シミュレーション)を用いて実施することができる。
【0028】
需要予測プログラムP03は、CPU101により実行されることで需要予測処理を実現するソフトウェアプログラムである。需要予測処理は、移動需要の過去の履歴と与えられたダイヤと旅客の移動に関する各種センサの情報とに基づいて未来の移動需要を予測し、移動需要の情報を含む予測需要情報を生成するものであって、需要パターンデータベース105に登録されている移動需要の過去の履歴情報と基礎データD01と予測ダイヤD04と旅客行動モデルD05とセンサ情報D06とに基づいて未来の旅客の移動状況を予測し、列車待ち人数情報D07と列車乗車人数情報D08と移動需要情報D09とを生成する処理である。CPU101が需要予測プログラムP03を実行することにより、目標ダイヤ作成装置100内に需要予測部(不図示)が構築される。以下の説明では、需要予測プログラムP03を需要予測処理の実行主体として記載するが、CPU101を需要予測処理の主体とすることもできるし、需要予測部を需要予測処理の主体とすることもできる。需要予測処理は、公知の技術を用いて実施することができる。
【0029】
基礎データD01は、各プログラムで共通に使用される、設備に関する情報である。基礎データD01には、例えば、設備の識別情報(駅ID、番線ID、線路IDなど)、経路情報(路線毎・上り下りの方向毎の駅の並びや、使用する番線、使用する線路、各駅で停車するか通過するかの情報など)、折返し設備情報、時分情報(基準運転時分、最小停車時分、続行時隔など)、列車を構成する各編成(または各車両)の定員情報などのデータが含まれる。駅IDは各駅を識別する識別情報であり、番線IDは各駅の各番線を識別する識別情報であり、線路IDは各隣接駅間の各線路を識別する識別情報である。経路情報は、鉄道において列車が走行し得る経路を定義した情報であり、路線毎・上り下りの方向毎に、駅の並び、使用する番線、使用する線路の情報を含むように構成される。折返し設備情報には、走行経路上のどの駅において列車が折返し可能であるかという情報を含むように構成する。基準運転時分は、ある列車がある駅を出発してから次の駅に到着するまでに最低限必要とする時間であり、各隣接駅間に対応する値を、列車走行シミュレータ等を用いて算出し、格納しておく。なお、余裕時分を見込んで、ある列車がある駅を出発してから次の駅に到着するまでに掛かる時間の標準値を基準運転時分として用いてもよい。最小停車時分は、ある列車がある駅に停車する場合に、その列車がその駅に到着してから出発するまでに最低限必要とする時間である。全列車の全駅で共通の値としてもよいし、時間帯や混雑度に応じて異なる値を用いてもよい。
【0030】
走行実績情報D02は、各列車が何時にどこに到着あるいは出発したかという実績を示す情報である。
【0031】
目標ダイヤD03は、列車群の制御目標とするダイヤの情報である。鉄道分野において、「ダイヤ」という用語は、列車運行計画を指す場合と、それを図表に表した列車運行図表を指す場合とがあるが、本明細書中における「ダイヤ」は前者、すなわち列車運行計画の意味で用いる。目標ダイヤD03には、各列車について、どの駅をどの順に走行するかという駅並びの情報と、各駅の到着時刻及び出発時刻の情報と、各駅でどの番線を使用するかという情報と、各隣接駅間でどの線路上を走行するかという情報と、駅並び上の各駅において停車するか通過するかという情報とを含むように構成し、また、どの列車とどの列車を物理的に同じ編成(車両)で運用するかを表す情報を含むように構成する。なお、同じ列車が同じ駅を複数回使用する可能性がある場合には、駅並びの情報に、その駅の何回目の使用かを見分けるための回数識別子suffixを付けておく。すなわち、列車IDと駅IDとsuffixの組で、列車の到着イベント及び出発イベントが一意に特定できるようにしておく。目標ダイヤD03は、目標ダイヤ作成装置100によって適宜更新される。目標ダイヤD03を用いた列車の制御では、同一の番線や同一の線路を使用する列車の走行順序は目標ダイヤD03で示された走行順序が遵守される前提とし、運行予測プログラムP02でも、その前提のもとで列車群の未来の運行状況を予測する(すなわち、各列車の各駅における到着イベントの発生時刻と出発イベントの発生時刻を予測する)。
【0032】
予測ダイヤD04は、列車が目標ダイヤD03に基づいて走行しようとした場合に各駅への到着時刻および各駅の出発時刻が実際にはどうなるかを予測した結果のダイヤである。
【0033】
旅客行動モデルD05は、鉄道を利用する旅客の行動を模擬するモデルである。旅客行動モデルD05には、駅にいる旅客がどの列車を選択するかをという行動を模擬する列車選択モデルなどがある。旅客行動モデルD05は、過去の旅客の行動実績に基づいてモデル化したものを設定しても良いし、事前に実施したアンケート等を基に想定される旅客の行動をモデル化したものを設定してもよい。旅客行動モデルD05は、需要予測プログラムP03が需要予測処理に使用する。
【0034】
センサ情報D06は、各種センサ400,500で取得された情報である。センサ400,500は例えば旅客の行動を検知するように配置される。センサ情報D06は、需要予測プログラムP03が需要予測処理に使用する。センサ情報D06の例として以下のような情報の一部または全部を含む。
・無線LAN接続情報(旅客の携帯端末による無線LANへの接続の状況を記録した情報)
・監視カメラ映像情報(駅構内に設置された監視カメラで撮影された映像の情報)
・列車ドア通過人数情報(列車のドアを通過した旅客の人数の情報)
・ホームドア通過人数情報(駅ホームに設置されたドアを通過した旅客の人数の情報)
・改札通過旅客情報(駅の自動改札機を通過した旅客に関する情報)
・各種公開情報(ニュース等)
【0035】
列車待ち人数情報D07は、各時刻に各駅の各番線で列車を待っている旅客が何人いるかを示す情報である。列車待ち人数情報D07は、需要予測プログラムP02による予測結果である。列車待ち人数情報D07の詳細は後述する。
【0036】
列車乗車人数情報D08は、各列車の各駅間を走行中に乗っている旅客が何人いるかを示す情報である。列車乗車人数情報D08は、需要予測プログラムP02による予測結果である。列車乗車人数情報D08の詳細は後述する。
【0037】
移動需要情報D09は、各駅の各時間帯にどこに行きたい旅客が何人いるかを示す情報である。移動需要情報D09は、需要予測プログラムP02による予測結果である。移動需要情報D09の詳細は後述する。
【0038】
しきい値情報D10は、ダイヤ更新プログラムP01がダイヤ更新処理に利用する各種しきい値の情報である。しきい値情報D10には、目標混雑度情報および最大待ち時間情報を含むように構成する。目標混雑度情報は、混雑度として許容される範囲を示す情報であり、上限値と下限値を定義しておく。混雑度は、列車の定員とされる乗車人数(着席可能人数より多いこともある)に対する実際の乗車人数の割合を示す指標であり、列車が走行する隣接駅間毎に算出される。最大待ち時間情報は、旅客を駅で待たせることが許容される最大時間を示す情報である。なお、本実施形態では、ある駅で、異なる行先の列車が混在して運行されている場合、旅客は自分の目的地に到達できない行先の列車には乗車せずに、次の列車を待つ、という前提で、待ち時間を計算する。そのため、そのような場合には、旅客の待ち時間は(行先を考慮しない単純な)列車の運行間隔より長くなる可能性がある。
【0039】
列車状態情報D11は、各列車が現在どこにどのような状態で存在するかを示す情報である。目標ダイヤ作成装置100は、運行管理システム200より通知された各列車300の情報を基に、列車状態情報D11を更新する。本線を走行中である列車については走行実績情報D02として状態を把握することが可能であるため、留置線または車両基地に在線している列車について、「スタンバイ」「パワーオフ」等の状態を管理する。これらの状態の違いによって、列車増発等のダイヤ変更により当該列車を使用しようとした場合に、使用可能となるまでに必要とされる準備時間が異なってくるため、各々の状態における準備時間については、基礎データD01の時分情報に含めておくようにする。
【0040】
運行管理システム200は、列車追跡装置201、進路制御装置202、ダイヤ管理装置203、運行予測装置204、および運転整理端末205を有している。
【0041】
列車追跡装置201は、運行している各列車300から通知される走行実績となる現在の状態の情報および現在位置の情報を取得し、各列車300の状態および位置を追跡する。運行管理システム200は、これにより得た各列車が現在どこにどのような状態で存在するかという列車状態情報D11を目標ダイヤ作成装置100に通知する。
【0042】
進路制御装置202は、目標ダイヤに従った列車300の運行に伴い、鉄道の駅および線路に配置された転轍機および信号機などを制御し、列車300の進路を制御する。
【0043】
ダイヤ管理装置203は、目標ダイヤ作成装置100から取得した目標ダイヤ、列車追跡装置201が取得した情報から得られる実績ダイヤ、および目標ダイヤと実績ダイヤとに基づき算出される予測ダイヤ、を管理する。また、ダイヤ管理装置203は、目標ダイヤを列車300に通知し、列車300の自動運転の入力とする。
【0044】
運行予測装置204は、目標ダイヤ作成装置100から得られた目標ダイヤと、列車追跡装置201にて取得された走行実績とに基に算出した実績ダイヤに基づき、予測ダイヤを算出する。
【0045】
運転整理端末205は、事故によりダイヤ乱れが発生したときなどに管理者が列車300を平常運行に戻すためにダイヤを変更するための端末装置である。
【0046】
上記のように構成された車両自動制御システムにおいては、進路制御装置202において、列車の制御目標とする第1のダイヤを用いて列車が制御されており、進路制御装置202によって制御された列車の走行実績が列車追跡装置201にて取得され、第1のダイヤと走行実績とを用いて列車の運行を予測した結果である予測ダイヤが運行予測プログラムP02にて作成されている。そして、需要予測プログラムP03にて、センサ400,500から取得した旅客の人数に関する情報および予測ダイヤを用いて、列車が停車する各駅における旅客の行先およびその人数を時間帯毎に示す移動需要を予測し、移動需要の予測結果を表す予測需要情報を作成し、ダイヤ更新プログラムP01において、予測ダイヤと予測需要情報とを用いて、列車または駅の少なくとも一方の混雑度を算出し、混雑度が所定の許容範囲外となる違反箇所を抽出し、違反箇所の混雑度が前記許容範囲内となるように、あるいは違反箇所の混雑度が許容範囲に近づくように、第1のダイヤからの列車の行先の変更を含めて第2のダイヤを生成し、第2のダイヤによって第1のダイヤを更新することになる。
【0047】
次に、上述した車両自動制御システムの動作の概要について説明する。
【0048】
図2は、図1に示した車両自動制御システムの動作の概要を説明するための図である。図2には動作説明のために鉄道配線図の一例が示されている。
【0049】
図2において、ST01~ST08は駅であり、Depotは車両基地であり、PK03は留置線である。LN1~LN6は線路である。線路上の矢印は列車の進行方向を示す。#n(nは数字)は番線番号を示す。
【0050】
留置線PK03には1編成を留置可能である。駅ST03の2番線と留置線PK03との間は線路LN3を通じて列車を移動することができる。これにより留置線PK03への列車の出し入れが可能である。
【0051】
また、駅ST03では、駅ST06方面からくる列車を、線路LN3を使用せずに駅ST06方面へ折返すことも可能である。
【0052】
車両基地Depotには複数編成を待機させることが可能である。ただし、駅ST08から駅ST03までの距離が長く、例えば増発列車に用いる編成を車両基地Depotから駅ST03まで移動させるのに長い時間が掛かる。
【0053】
駅ST03と駅ST06は旅客が図示しない他の路線の列車に乗り換えることができる乗換駅である。
【0054】
ここでは、駅ST04で多くの人が集まる不定期のイベントが行われ、イベントの終了時刻が不明であるという状況を想定する。イベント終了後は、イベントが行われた駅ST04から乗換駅である駅ST03への移動需要と、同じく駅ST04から駅ST06への移動需要とが高くなると予想される。このとき、車両自動制御システムには、当日の移動需要の変動に速やかに反応して輸送力を変化させることが求められる。
【0055】
図3A図3B、および図3Cは、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が備えるダイヤ変更パターンデータベース106に保持されたダイヤ変更パターンを説明する図である。図3Aには、ダイヤ修正前のダイヤが示され、図3Bには、混雑度の低い区間の運行密度を下げるようなダイヤ変更パターンにより修正されたダイヤが示され、図3Cには、混雑度の低い区間の運行密度は下げつつも、混雑度の高い区間の運行密度を上げるようなダイヤ変更パターンにより修正されたダイヤが示されている。
【0056】
図3A図3B、および図3Cにおいて、列車の運行を斜め線で示した列車スジの上の丸付き数字は編成の識別番号であり、同じ識別番号の列車には物理的に同じ編成(車両)が使用される。
【0057】
イベントの最寄り駅である駅ST04は、図3A図3B、および図3Cには示されていないが、図2に示したように駅ST03と駅ST06との間に存在する。
【0058】
初期状態では、図3Aに示したオリジナルの(すなわちダイヤ修正前の)目標ダイヤに従って列車300が運行している。図3Aを参照すると、駅ST03と駅ST06との間では双方向ともに12本の列車が運行している。また、駅ST03と駅ST07との間では双方向とも6本の列車が運行している。また、駅ST03と駅ST01との間では双方向とも6本の列車が運行している。
【0059】
ここで、目標ダイヤ作成装置100による需要予測では、イベントが行われる前あるいはイベントが行われている間は、駅ST03と駅ST06との間では列車の混雑度は許容範囲内であると予測されたとする。一方、駅ST03と駅ST07の間および駅ST03と駅ST01の間では列車を利用する旅客がほとんどおらず、混雑度が許容範囲の下限値よりも低くなることが予測されたとする。このような場合、目標ダイヤ作成装置100は、駅ST03と駅ST07との間および駅ST03と駅ST01との間の列車の運行密度を下げるように目標ダイヤを修正する。
【0060】
目標ダイヤ作成装置100は、「修正前の目標ダイヤの一部分が所定の構造に合致する場合に、当該一部分の構造をどのように修正すると、実行可能性を担保しながら目標ダイヤを修正できるか」という旨を記したダイヤ変更パターン情報を予め保持している。そのため、目標ダイヤを修正するにあたり、目標ダイヤ作成装置100は、適用可能なダイヤ変更パターンのうち、混雑度が許容範囲内となるかあるいは許容範囲に近づくダイヤ変更パターンを選択し、適用すればよい。
【0061】
図3Bには、駅ST03と駅ST07との間および駅ST03と駅ST01との間の列車の運行密度を下げた目標ダイヤが示されている。破線の斜め線がダイヤ修正の行われた列車スジを示している。図3Bを参照すると、駅ST03と駅ST06との間では双方向ともに初期状態と同じ12本の列車が運行している。一方、駅ST03と駅ST07との間では双方向とも初期状態よりも1本少ない5本の列車が運行している。また、駅ST03と駅ST01との間でも双方向とも初期状態より1本少ない5本の列車が運行している。
【0062】
図3Bの目標ダイヤは、図3Aの目標ダイヤと比較すると、駅が閑散としている単独区間(ST03-ST01間)の列車を間引いて運行し、オリジナルよりも全体での列車の走行距離を短縮している。また、単純に列車を運休させる場合と異なり、単独区間(ST03-ST01間)での列車の運行間隔がオリジナルの2倍よりも短くなっている。
【0063】
あるいは、初期状態において、イベントが早めに終了して駅ST04から駅ST03への移動需要と駅ST04から駅ST06への移動需要が増大することが予測されたとする。具体的には、駅ST04から駅ST03へ向かう列車と駅ST04から駅ST06へ向かう列車の予測される混雑度が共に許容範囲の上限値を超えたとする。この場合、目標ダイヤ作成装置100は、駅ST03と駅ST06との間の列車の運行密度を増大するように目標ダイヤを修正する。
【0064】
図3Cには、駅ST03と駅ST07との間および駅ST03と駅ST01との間の列車の運行密度を下げ、駅ST03と駅ST07との間の列車の運行密度を上げた目標ダイヤが示されている。破線の斜め線がダイヤ修正の行われた列車の運行を示している。また太線の斜め線は運用変更が為された列車を示している。図3Cを参照すると、駅ST03と駅ST07との間では双方向とも初期状態よりも1本少ない5本の列車が運行している。また、駅ST03と駅ST01との間でも双方向とも初期状態より1本少ない5本の列車が運行している。一方、駅ST03と駅ST06との間では双方向ともに初期状態よりも1本多い、13本の列車が運行している。図3Cの最後(右端)近くの時間帯では、各列車の走行タイミングの変化に合わせた車両運用の変更が為されており、太線で示された2本の列車において、オリジナルの目標ダイヤとは使用する編成(車両)が入れ替わった目標ダイヤとなっている。
【0065】
図3Cは、図3Aと比較すると、共通区間(ST03-ST06間)の列車の運行密度を上げて混雑を緩和している。列車を増発して輸送力を増大させるには、車両基地から駅などに車両を移動させる必要があり、時間がかかる。図3Cのダイヤ変更パターンでは、列車の行先変更により列車の運行密度を高めることで、移動需要の急激な変化にも対応することができる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態によれば、目標ダイヤ作成装置100は、列車の制御目標を表すダイヤである目標ダイヤを、各駅における各時間帯における旅客の行先およびその数、すなわち、各駅の各時間帯にどこに行きたい旅客が何人いるかを示す移動需要の予測結果に応じて変更する。その際に、違反箇所抽出プログラムP01aは、移動需要の予測結果を表す情報(予測需要情報)に基づいて、列車または駅の少なくとも一方の混雑度を算出し、混雑度が許容範囲外となる違反箇所を抽出する。そして、ダイヤ修正プログラムP01bは、違反箇所の混雑度が許容範囲内となるように、あるいは違反箇所の混雑度が許容範囲に近づくように、列車の行先の変更を含めてダイヤを変更する。需要の予測に基づいてダイヤにおける列車の行き先変更を伴うダイヤ変更を行うので、多くの状況で移動需要に適合した輸送力を供給することができる。
【0067】
次に、図1に示した車両自動制御システムの詳細な動作について説明する。
【0068】
目標ダイヤ作成装置100は、運行管理システム200から現在適用されている最新の目標ダイヤを取得し、その目標ダイヤに基づいてリソース使用順序情報を作成する。リソース使用順序情報は、リソースを使用する列車の順序を示す情報、すなわち「番線や駅間の線路などのリソースをどの列車がどの列車よりも先に使用して走行するか」という情報である。リソース使用順序情報には番線使用順序情報と駅間線路使用順序情報とがある。
【0069】
図4Aは、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が作成するリソース使用順序情報のうち番線使用順序情報の内容を説明する図である。
【0070】
図4Aに示すように、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が作成する番線使用順序情報D12aの各レコードには、駅ID、番線ID、および列車IDが含まれている。駅IDは、各駅を個別に識別する識別情報である。番線IDは、同一駅内での番線を個別に識別する識別情報である。列車IDは、列車を個別に識別する識別情報である。番線使用順序情報D12aの各レコードは、駅IDで示された駅の番線IDで示された番線ホームを、列車IDで示された列車が使用することを示している。番線使用順序情報D12aは、(駅ID,番線ID)の組が同一であるレコードに関して、上から順番に時系列順(当該番線を早く使用する順)となるように並べられている。例えば、図4Aの例であれば、駅ST03の番線#2については、列車TR002、列車TR004、列車TR006・・・という順番で使用することが分かる。目標ダイヤ作成装置100は、運行管理システム200から取得した目標ダイヤにおける各列車の各駅の使用番線、到着時刻および出発時刻を用いて、番線使用順序情報D12aを作成し、保持する。目標ダイヤ作成装置100は、番線使用順序情報D12aを参照することで、各駅の各番線を各列車がどういう順番で使用するかを知ることができる。
【0071】
なお、番線使用順序情報D12aの作成にあたっては、駅の番線だけでなく、車両基地や留置線の番線についても対象とする。すなわち、目標ダイヤ作成装置100は、車両基地の番線や留置線の番線についても、そのリソースを使用する列車の順序を管理する。
【0072】
図4Bは、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が作成するリソース使用順序情報のうち駅間線路使用順序情報の内容を説明する図である。
【0073】
図4Bに示すように、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が作成する駅間線路使用順序情報D12bの各レコードには、駅間線路ID、発駅ID、および列車IDが含まれている。駅間線路IDは、各隣接駅間の線路を個別に識別する識別情報である。発駅IDは、どちらの駅が発駅であるかを識別する識別情報である。列車IDは、列車を個別に識別する識別情報である。駅間線路使用順序情報D12bを参照することで各隣接駅間の各線路を使用する列車の走行順序を知ることができる。駅間線路使用順序情報D12bの各レコードは、駅間線路IDで示された線路を、発駅IDで示された駅から出発する方向で、列車IDで示された列車が使用することを示している。駅間線路使用順序情報D12bは、駅間線路IDが同一である各レコードに関して、当該駅間線路を使用する順序に従って上から順に記載されており、駅間線路使用順序情報のレコードの並び順から各隣接駅間の各線路を使用する列車の走行順序を知ることができる。例えば、図4Bの例であれば、駅間線路ID(ST05-ST06-LN1)に対応する、線路LN1の駅ST05と駅ST06の間の区間について、まず列車TR001が駅ST05から出発する際に使用し、続いて列車TR003が駅ST05から出発する際に使用し、その後、列車TR299が駅ST05から出発する際に使用することが分かる。目標ダイヤ作成装置100は、運行管理システム200から取得した目標ダイヤにおける各列車の各隣接駅間の使用線路、各駅の出発時刻および次駅の到着時刻を用いて、駅間線路使用順序情報D12bを作成し、保持する。目標ダイヤ作成装置100は、駅間線路使用順序情報D12bを参照することで、各隣接駅間の各線路を各列車がどういう順番で使用するかを知ることができる。
【0074】
図5は、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が保持する基礎データD01に含まれる経路情報の内容を説明する図である。
【0075】
図5に示すように、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が保持する基礎データD01に含まれる経路情報D01aの各レコードには、経路ID、駅ID、番線ID、発側線路ID、および停車区分が含まれている。経路IDは、各経路を個別に識別する識別情報である。駅IDは、各駅を個別に識別する識別情報である。番線IDは、駅内での番線を個別に識別する識別情報である。発側線路IDは、各経路において当該駅の当該番線から列車が出ていく線路を個別に識別する識別情報である。終着駅での発側線路IDには所定の例外値(図5中の「-」)が設定される。停車区分は、列車が各駅にて停車するか通過するかを示す区分である。経路情報D01aの各レコードは、経路IDで示された経路を使う列車について、駅IDで示された駅については停車区分で示された区分に従って停車または通過し、当該駅の番線IDで示された番線ホームから、線路IDで示された線路に列車が出ていくことを示している。図5の経路情報D01aは、同一の経路IDに関して上から順番に時系列に示されている。例えば、経路RT001を走行する列車については、駅ST06の番線#1から線路LN2に出ていき、駅ST05の番線#2を通過し、その後、駅ST04の番線#2に停車し、最後は駅ST01の番線#2に終着する。また、経路RT011を走行する列車については、駅ST03の番線#2から線路LN3の引き上げ線に出ていき、PK03の番線#1に終着する。
【0076】
このように、経路情報D01aは、始発駅から終着駅までの駅並び、使用番線、使用線路、停車区分を特定する情報であって、列車が走行する可能性のあるパターンはすべて列挙されている。
【0077】
目標ダイヤ作成装置100は、この経路情報D01aを参照することで、列車が走行する各経路の情報を知ることができる。
【0078】
図6Aは、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が備えるダイヤ変更パターンデータベース106に保持されたダイヤ変更パターン情報の内容を説明する図である。
【0079】
図6Aを参照すると、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が備えるダイヤ変更パターンデータベース106に保持されたダイヤ変更パターン情報D20には、ダイヤ状態情報D22と、基準列車ID D23と、変更対象列車群情報D24と、変更後列車群情報D25と、状態変化箇所情報D26とが含まれている。
【0080】
ダイヤ状態情報D22は、ダイヤ変更の条件となる変更前のダイヤの状態を特定する情報であり、ダイヤ変更パターン内でローカルに定義される列車IDを用いて情報が設定される。詳細は後述する。基準列車ID D23は、着目する違反箇所に割り当てられる列車を特定する情報であって、ダイヤ変更パターン内でローカルに定義される列車IDで指定される。目標ダイヤ作成装置100は、目標ダイヤ上で着目する違反箇所に対応する列車IDに、ダイヤ変更パターン上の基準列車ID D23を紐付けることで、ダイヤ変更パターン内の列車IDと、目標ダイヤ内の列車IDとを紐付ける。具体的には、ダイヤ変更パターン上で基準列車IDによって特定される列車が目標ダイヤ上で着目する違反箇所に対応する列車に紐付けられることを利用して、ダイヤ変更パターン上において基準列車IDで特定される列車から、先行列車、前運用列車、後運用列車をたどっていき、目標ダイヤ上で、同様の関係にある列車と紐付けていけばよい。紐付けができない場合、着目している違反箇所に対して着目しているダイヤ変更パターンを適用することができないことを意味している。変更対象列車群情報D24は、ダイヤ変更パターン内でローカルに定義される列車IDのリストであって、当該ダイヤ変更パターンにより目標ダイヤを修正する際、ここに記載されている列車に対応する、目標ダイヤ上の列車が削除される。変更後列車群情報D25は、当該ダイヤ変更パターンにより目標ダイヤを修正する際、新規に追加される列車の情報であり、どのような経路を走行する列車を、どの列車と同じ編成(車両)を用いて、どの列車を先行列車として走行させるか、という情報を設定しておく。このように、時刻以外の情報を特定することで、列車の制御に実際に使うことのできる、すなわち実行可能なダイヤ変更案の探索が容易化される。詳細は後述する。状態変化箇所情報D26は、ダイヤ状態情報中の各列車の各駅間において期待される混雑度低減効果を、目標ダイヤ修正前後の運転間隔の変わり方に応じて「+1」,「0」,「-1」といった数値で記述したものである。すなわち、状態変化箇所情報D26は、ダイヤ状態情報中に含まれている駅間の個数に等しい数の要素で構成され、各々の要素は、どの列車のどの駅間に対してどういう効果が期待されるか、という情報を備える。期待される混雑度低減効果については、例えば、目標ダイヤ修正後に運転間隔が狭まり混雑度が低減されると期待される場合にはマイナスの値とし、目標ダイヤ修正後に運転間隔が広がり混雑度が上昇すると期待される場合にはプラスの値とするように設定すればよい。また、混雑度低減効果の絶対値が大きいほど混雑度低減効果、あるいは混雑度上昇度合いが大きいというように設定することにしてもよい。期待される混雑度低減効果は、需要予測プログラムP03が、需要パターンデータベース105を用いて各ODの移動需要の比率を求めた上で予め求めるようにしてもよい。
【0081】
図6Bは、図6Aに示したダイヤ変更パターン情報D20に含まれるダイヤ状態情報D22の内容を説明する図である。ダイヤ状態情報D22は、ダイヤ変更の前提条件となるダイヤ変更前の列車群の情報である。
【0082】
図6Bに示すように、図6Aに示したダイヤ変更パターン情報D20に含まれるダイヤ状態情報D22の各レコードには、列車ID、経路ID、前運用列車ID、後運用列車ID、列車属性、番線使用順序先行列車、および駅間線路使用順序先行列車が含まれている。ここで、番線使用順序先行列車と駅間線路使用順序先行列車については、列車IDで特定される列車が経路IDで特定される経路を走行する場合に使用する番線と駅間線路に対して、番線使用順序上で当該列車より1つ上位となる列車の列車ID、および、駅間線路使用順序上で当該列車より1つ上位となる列車の列車IDを、駅並びに従って登録しておく。すなわち、駅並び上で最初の駅に関する情報が番線使用順序先行列車(1)および駅間線路使用順序先行列車(1)、2番目の駅に関する情報が番線使用順序先行列車(2)および駅間線路使用順序先行列車(2)、以下同様に、駅並び上で最後の駅までの情報を登録しておく。
【0083】
列車IDは、ダイヤ変更パターン内で列車を個別に識別する識別情報である。ダイヤ変更パターンは、個別具体的な目標ダイヤに対応づけて作成されるものではなく、汎用的なものとして定義される(すなわち、ダイヤ変更パターン内のある列車が個別具体的な目標ダイヤのどの列車に対応するかは、状況によって異なり得る)ので、列車IDはダイヤ変更パターン内でのローカルな列車IDとして定義される。ダイヤ変更パターンを基にダイヤ変更を行うときには、着目する違反箇所に応じて、ダイヤ変更パターン内でのローカルな列車IDと目標ダイヤ上の列車IDとを紐付けるための列車ID対応テーブルを求め、当該列車ID対応テーブルを参照することにより、ダイヤ変更パターン内での列車IDが実際の具体的な列車IDに変換される。
【0084】
経路IDは、列車IDに示された当該列車が走行する経路を識別する識別情報である。前運用列車IDとは、当該列車に使用される編成がその前に使用された列車の識別情報である。後運用列車IDとは、当該列車に使用された編成がその次に使用される列車の識別情報である。上述のように、ダイヤ変更パターンは個別具体的な目標ダイヤに対応づけて作成されるものでないので、当該列車が走行する経路と走行順序はダイヤ変更パターンにて設定されるが、発着時刻は設定されない。
【0085】
列車属性は、ダイヤ変更パターンにおけるダイヤ変更前の列車の属性を示す情報であり、ダイヤ変更パターンにおける当該列車の役割を示すものである。列車属性には、「変更対象」「先行列車」「運用接続」がある。
【0086】
「変更対象」は、ダイヤ変更により運行に変更が生じる列車であることを意味する。したがって、ある違反箇所に関してこのダイヤ変更パターンを適用しようと試みる場合に、ダイヤ変更禁止列車が「変更対象」に該当する場合には、当該ダイヤ変更パターンは適用不可となる。
【0087】
「先行列車」は、変更対象ではなく、変更前または変更後のダイヤを時刻の違いを除いて一意に定める際に(すなわち、どの列車がどういう経路を走行し、番線等、他の列車と進路が競合する箇所がある場合には当該箇所においてどの列車がどの列車の後に走行するかを一意に定める際に)、先行列車として現れてくる列車であることを意味する。変更前または変更後のダイヤを時刻の違いを除いて一意に定めるためにのみ必要な列車であり、このダイヤ変更パターンを適用することによって当該列車のダイヤが変更されるわけではないため、ある違反箇所に関してこのダイヤ変更パターンを適用しようと試みる場合に、ダイヤ変更禁止列車が「先行列車」に該当することは許容される。
【0088】
「運用接続」は、変更対象ではなく、変更前または変更後のダイヤを時刻の違いを除いて一意に定める際に(すなわち、どの列車がどういう経路を走行し、番線等、他の列車と進路が競合する箇所がある場合には当該箇所においてどの列車がどの列車の後に走行するかを一意に定める際に)、前運用列車または後運用列車として現れてくる列車であることを意味する。変更前または変更後のダイヤを時刻の違いを除いて一意に定めるためにのみ必要な列車であり、このダイヤ変更パターンを適用することによって当該列車のダイヤが変更されるわけではないため、ある違反箇所に関してこのダイヤ変更パターンを適用しようと試みる場合に、ダイヤ変更禁止列車が「運用接続」に該当することは許容される。また、変更前のダイヤから変更後のダイヤへ接続する駅の情報以外は不一致であってもよい。
【0089】
番線使用順序先行列車は、当該列車がある駅で使用する番線を当該列車より1つ上位の順位で使用する列車の識別情報(列車ID)である。例えば、当該列車が当該番線に関する番線使用順序上で3位となる場合(すなわち当該番線を3番目に使用する場合)に、当該番線使用順序上で2位となる列車の識別情報を登録する。番線使用順序先行列車は当該列車が使用する駅の番線毎に特定可能としておく。そのため、図6Bでは、列車IDで特定される列車が走行する駅並びの順に、当該列車が当該駅で使用する番線の番線使用順序先行列車を、(1)(2)・・・と識別番号を付加して記載している。例えば、列車IDがPTR004の列車について、駅並び上で2番目の駅の番線使用順序先行列車は、番線使用順序先行列車(2)に記載のあるPTR002となる。
【0090】
駅間線路使用順序先行列車は、当該列車がある駅を出発する際に使用する駅間線路を当該列車より1つ上位の順位で使用する列車の識別情報(列車ID)である。例えば、当該列車が当該駅間線路に関する駅間線路使用順序上で3位となる場合(すなわち当該駅間線路を3番目に使用する場合)に、当該駅間線路使用順序上で2位となる列車の識別情報を登録する。駅間線路使用順序先行列車は当該列車が使用する駅を出発する際に使用する駅間線路毎に特定可能としておく。そのため、図6Bでは、列車IDで特定される列車が走行する駅並びの順に、当該列車が当該駅から出発する際に使用する駅間線路の駅間線路使用順序先行列車を、(1)(2)・・・と識別番号を付加して記載している。
【0091】
なお、線路配線上、追い越しおよび単線双方向走行がありえない場合には、番線使用順序先行列車の対象リソースである番線や駅間線路使用順序先行列車の対象リソースである駅間線路の複数をひとまとめにして使用順序を登録することにしてもよい。
【0092】
また、各リソースを最初に使用する列車の番線使用順序先行列車あるいは駅間線路使用順序先行列車の項目には、「先行列車なし」を意味する所定の例外値を格納しておく。また、先行列車としてのみ登場する列車の番線使用順序先行列車および駅間線路使用順序先行列車の項目には、「Don’t Care」を意味する所定の例外値を格納しておく。ここで、「Don’t Care」を意味する所定の例外値を格納しておくのは、これらの情報が後述の列車ID対応テーブル作成時に使用されない情報であるためである。なお、図6Bでは、「先行列車なし」の場合も「Don’t Care」の場合も「―」として表記している。
【0093】
このように、ダイヤ変更パターンが、上述したようなダイヤ変更後の列車の走行経路の情報を含むことにより、どの駅のどの時間帯にどの駅に行きたい旅客が何人いるかという移動需要に応じた適切なパターンを容易に選択することができる。
【0094】
図6Cは、図6Aに示したダイヤ変更パターン情報D20に含まれる変更後列車群情報D25の内容を説明する図である。変更後列車群情報D25は、ダイヤ変更後の列車群の情報である。
【0095】
図6Cに示すように、図6Aに示したダイヤ変更パターン情報D20に含まれる変更後列車群情報D25の各レコードには、列車ID、経路ID、前運用列車ID、後運用列車ID、番線使用順序先行列車、および駅間線路使用順序先行列車が含まれている。
【0096】
列車IDは、ダイヤ変更パターン内の列車を個別に識別する識別情報であり、ダイヤ変更パターン内でローカルに定義される。ダイヤ変更パターンは、個別具体的な目標ダイヤに対応づけて作成されるものではなく、汎用的なものとして定義されるので、ダイヤ変更パターン内でのローカルな列車IDが定義される。ダイヤ変更パターンを基にダイヤ変更を行うときには、ダイヤ変更パターン内での列車IDが実際の具体的な列車IDに変換される。
【0097】
経路IDは、列車が走行する経路を識別する識別情報である。前運用列車IDとは、当該列車に使用される編成がその前に使用された列車の識別情報である。当該列車の編成がその前には使用されていない場合には所定の例外値が設定される。例えば、当該列車が車両基地から出庫した編成が最初に使用される列車である場合がこれに当たる。後運用列車IDとは、当該列車に使用された編成がその次に使用される列車の識別情報である。当該列車の編成が、その次には使用されない場合には所定の例外値が設定される。例えば、当該列車に使用された編成が車両基地に入庫する場合がこれに当たる。車両基地や留置線への列車の出入りについても経路の情報を記述するものとする。上述のように、ダイヤ変更パターンは個別具体的な目標ダイヤに対応づけて作成されるものでないので、当該列車が走行する経路と走行順序はダイヤ変更パターンにて設定されるが、発着時刻は設定されない。
【0098】
番線使用順序先行列車は、当該列車が対象番線を使用する前にその番線を使用する列車の識別情報である。番線使用順序先行列車は当該列車が使用する駅の番線毎に設定される。図6Cでは、番線毎の番線使用順序先行列車のそれぞれに(1)(2)・・・と識別番号を付加している。
【0099】
駅間線路使用順序先行列車は、当該列車が対象駅間線路を使用する前にその駅間線路を使用する列車の識別情報である。駅間線路使用順序先行列車は当該列車が使用する駅間線路毎に設定される。図6Cは、駅間線路毎の駅間線路使用順序先行列車のそれぞれに(1)(2)・・・と識別番号を付加している。
【0100】
以上説明したダイヤ変更パターンは以下のような条件で作成される。変更対象列車の前運用列車で、変更対象列車でない列車はすべて、いずれかの変更後列車の前運用になるようにダイヤ変更パターンを作成する。変更対象列車の後運用列車で、変更対象列車でない列車はすべて、いずれかの変更後列車の後運用になるようにダイヤ変更パターンを作成する。また、基準列車IDで特定される列車から、先行列車、前運用列車、後運用列車の何れかの関係にある列車を再帰的に辿っていったとき、ダイヤ変更パターン内に現れる列車のすべてが辿れるように、ダイヤ変更パターンを作成する。これは、列車ID対応テーブルが一意に作成できるための条件である。以上の条件を満たしていれば、ある時間帯に走行している列車すべてをダイヤ変更パターンに含めておく必要はなく、ダイヤ変更に直接関係する列車と、その列車の関連列車(先行列車や前運用列車や後運用列車など)のみをダイヤ変更パターンに含めておけばよい。
【0101】
図7は、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が備える記憶部103に格納される列車待ち人数情報D07の内容を説明するための図である。
【0102】
図7に示すように、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が備える記憶部103に格納される列車待ち人数情報D07の各レコードには、駅ID、番線ID、時刻、人数等が含まれている。駅IDは、駅を個別に識別する識別情報である。番線IDは、駅内での番線を個別に識別する識別情報である。列車待ち人数情報D07の各レコードは、当該レコード内に記載されている時刻に、当該レコード内に記載されている人数が、駅IDで特定される駅の番線IDで特定される番線で列車を待っている、ということを示している。例えば、図7に示す例においては、7時ちょうどに駅ST01の番線#1で30人の旅客が列車待ちをしている旨が格納されている。
【0103】
図8は、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が備える記憶部103に格納される列車乗車人数情報D08の内容を説明するための図である。
【0104】
図8に示すように、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が備える記憶部103に格納される列車乗車人数情報D08の各レコードには、列車ID、経路ID、発駅ID、定員、人数等が含まれている。列車IDは、列車を個別に識別する識別情報である。経路IDは経路を個別に識別する識別情報である。発駅IDは、列車が出発した駅を個別に識別する識別情報である。列車乗車人数情報D08の各レコードは、当該レコード内に記載されている定員に対して当該レコード内に記載されている人数が、経路IDで特定される経路の発駅IDで特定される駅を出発した時点で、列車IDで特定される列車に乗車している、ということを示している。例えば、図8に示す例においては、経路RT001を走行する定員300人の列車TR001が駅ST06を出発した際、176人の旅客が乗車している旨が格納されている。
【0105】
図9は、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が備える記憶部103に格納される移動需要情報D09の内容を説明するための図である。
【0106】
図9に示すように、図1に示した目標ダイヤ作成装置100が備える記憶部103に格納される移動需要情報D09の各レコードには、入場時間帯、乗車駅ID、降車駅ID、人数等が含まれている。乗車駅IDは、乗車駅を個別に識別する識別情報である。降車駅IDは、降車駅を個別に識別する識別情報である。移動需要情報D09の各レコードは、当該レコード内に記載されている時間帯に、当該レコード内に記載されている人数が、乗車駅IDによって識別される駅に入場し、降車駅IDによって識別される駅まで行こうとしている、という内容を示している。
【0107】
例えば、図9に示す例においては、7時00分から7時10分までの間に28人の旅客が駅ST06に入場し、駅ST06から駅ST05まで行こうとしている旨が格納されている。
【0108】
以下に、上述した目標ダイヤ作成装置100の具体的な動作について説明する。
【0109】
図10は、図1に示した目標ダイヤ作成装置100の動作のうちダイヤ更新処理に関する動作を説明するためのフローチャートである。
【0110】
ダイヤ更新プログラムP01はまず、運行管理システム200のダイヤ管理装置203から、現在適用されている目標ダイヤを受信する(ステップS101)。そして、受信した目標ダイヤから、図4Aに示した番線使用順序情報と、図4Bに示した駅間線路使用順序情報を作成する。
【0111】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、目標ダイヤの修正が必要であるかどうかを判定するダイヤ修正要否判定処理を行う(ステップS102)。このダイヤ修正要否判定処理の詳細は後述する。
【0112】
ダイヤ更新プログラムP01は、ダイヤ修正要否判定処理にて目標ダイヤの修正が必要であると判定した場合(ステップS103のYES)、目標ダイヤ修正処理を行う(ステップS104)。この目標ダイヤ修正処理の詳細は後述する。
【0113】
一方、ダイヤ更新プログラムP01は、ダイヤ修正要否判定処理にて目標ダイヤの修正が不要であると判定した場合(ステップS103のNO)、ダイヤ更新処理を終了する。
【0114】
上記一連の処理は、周期起動で所定の時間毎に(例えば、5分周期など)繰り返し実行されるが、目標ダイヤ作成装置100が指令員のコマンド入力を受け付けるコマンド入力部を備え、指令員のコマンド入力のタイミングで上記一連の処理を実行するような構成としてもよい。
【0115】
図11は、図1に示した目標ダイヤ作成装置100の動作のうち、図10に示したダイヤ修正要否判定処理S102における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【0116】
ダイヤ修正要否判定処理S102においては、目標ダイヤ作成装置100はまず、運行予測プログラムP02を使用し、目標ダイヤ(計画ダイヤ)D03と走行実績情報D02とを用いて列車群の運行状況を予測し、予測ダイヤD04を求める運行予測処理を行う(ステップS201)。運行予測プログラムP02を用いた運行予測処理では、目標ダイヤD03に記載されている各列車の各駅の到着時刻と出発時刻について、到着や出発のイベントが発生すると予想される予測時刻が算出される。その際、既に走行済みである部分については、走行実績情報D02に基づいて予測時刻が決定され、これから走行する部分については、基準運転時分など基礎データD01に含まれる情報を用いて、他の列車との関係性も考慮した上で予測時刻が決定される。
【0117】
次に、目標ダイヤ作成装置100は、需要予測プログラムP03を使用し、予測ダイヤD4と需要パターンデータベース105と旅客行動モデルD05とセンサ情報D06とを用いて路線内人流を予測し、列車待ち人数情報D07と列車乗車人数情報D08と移動需要情報D09とを算出する需要予測処理を行う(ステップS202)。
【0118】
目標ダイヤ作成装置100は、算出した予測列車乗車人数が所定の許容範囲を外れる列車と駅間の組が存在するかどうかを判断する(ステップS203)。そのような列車と駅間の組が存在する場合は(ステップS203「YES」)、目標ダイヤの修正が必要であると判定し(ステップS204)、ダイヤ修正要否判定処理を終了する。
【0119】
また、算出した予測列車乗車人数が所定の許容範囲を外れる列車と駅間の組が存在しない場合(ステップS203「NO」)、目標ダイヤの修正が不要であると判定し(ステップS205)、ダイヤ修正要否判定処理を終了する。
【0120】
図12は、図1に示した目標ダイヤ作成装置100の動作のうち、図10に示した目標ダイヤ修正処理S104における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【0121】
ダイヤ修正処理S104においては、ダイヤ更新プログラムP01はまず、ダイヤ管理装置203より取得した現在の目標ダイヤを暫定最適ダイヤとすることで暫定最適ダイヤを初期化する、暫定最適ダイヤ初期化処理を行う(ステップS301)。この際、後述(ステップS308)の候補ダイヤ評価処理と同様の処理によって、初期化した暫定最適ダイヤに対応する評価指標も求めておく。
【0122】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、ダイヤの変更を禁止する列車を特定するためのダイヤ変更禁止列車特定処理を行う(ステップS302)。このダイヤ変更禁止列車特定処理の詳細は後述(図13)する。
【0123】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、違反箇所抽出プログラムP01aを使用し、ダイヤの変更を必要とする違反箇所を抽出するための違反箇所抽出処理を行う(ステップS303)。この違反箇所抽出処理の詳細は後述(図14)する。
【0124】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、現在の状況において目標ダイヤを変更するのに適したダイヤ変更パターンを列挙する、ダイヤ変更パターン列挙処理を行う(ステップS304)。このダイヤ変更パターン列挙処理の詳細は後述(図15)する。
【0125】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、列挙したダイヤ変更パターンの各々について、以下の処理を行う(ステップS305a)。
【0126】
まず、ダイヤ更新プログラムP01は、目標ダイヤD03とダイヤ変更パターンとに基づいて候補ダイヤを作成する、候補ダイヤ作成処理を行う(ステップS306)。この候補ダイヤ作成処理の詳細は後述(図17)する。
【0127】
ダイヤ更新プログラムP01は、目標ダイヤD03とダイヤ変更パターンとに基づいて候補ダイヤを作成することに成功した場合は(ステップS307「YES」)、候補ダイヤ評価処理を行う(ステップS308)。具体的には、作成した候補ダイヤ案に対する混雑度合いに関する評価指数を算出することで、候補ダイヤを評価する。この候補ダイヤ評価処理の詳細は後述(図18)する。
【0128】
ダイヤ更新プログラムP01は、候補ダイヤ評価処理において、候補ダイヤの評価指標の値が暫定最適ダイヤに比べて良い場合(ステップS309「YES」)、候補ダイヤを暫定最適ダイヤに設定する(ステップS310)。この場合、暫定最適ダイヤに対応する評価指標の値も候補ダイヤの評価指標の値で更新する。
【0129】
ダイヤ更新プログラムP01は、ステップS307にて、目標ダイヤD03とダイヤ変更パターンとに基づいて候補ダイヤを作成することに成功しなかった場合(ステップS307「NO」)、あるいは、ステップS309にて、候補ダイヤ評価処理において候補ダイヤの評価指標が暫定最適ダイヤに比べて悪い場合(ステップS309「NO」)、ステップS305bに進み、次のダイヤ変更パターンに関する処理に移行する。
【0130】
上述したステップS306~ステップS310までの処理を、ステップS304にて列挙したダイヤ変更パターンの各々について繰り返し行う(ステップS305b)。
【0131】
ステップS304にて列挙した全てのダイヤ変更パターンについてステップS306~ステップS310までの処理が完了した後、ダイヤ更新プログラムP01は、ステップS301やステップS310の処理の結果、最終的に得られている暫定最適ダイヤを目標ダイヤD03として設定する(ステップS311)。
【0132】
そして、目標ダイヤ作成装置100は、ステップS311にて設定された目標ダイヤを通信ネットワーク900を介して運行管理システム200に送信し(ステップS312)、目標ダイヤ修正処理を終了する。上記一連の目標ダイヤ修正処理により、増発、運休や、折返し時分の調整(疎密調整)や、方面変更や留置線の活用を含む行き先変更や、通過・停車区分の変更等の手段を組み合わせた、現時点で予測される移動需要に見合ったダイヤ変更が実施可能となる。
【0133】
このように、ダイヤ更新プログラムP01が、違反箇所に対して1つ以上のダイヤ変更案を作成し、作成したダイヤ変更案の各々について需要予測プログラムP03を用いて予測需要情報を生成し、生成した予測需要情報に基づいて、ダイヤ変更案に対する混雑度に関する評価指標を算出し、評価指標の値が最も良いダイヤ変更案を選択し、選択したダイヤ変更案を用いてダイヤを変更することになるため、予測される需要に適切に対応するダイヤ変更を、許される演算時間の範囲内で実施することが容易にできる。例えば、ダイヤ変更パターンデータベース106に登録しておくダイヤ変更パターンを、しばしば見られる状況において良い結果が得られるものに厳選しておいてもよいし、演算時間を監視しておき、所定の演算時間を超えた場合にはその時点で得られている最良のダイヤ変更案を採用するような構成としてもよい。
【0134】
図13は、図1に示した目標ダイヤ作成装置100の動作のうち、図12に示したダイヤ変更禁止列車特定処理S302における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【0135】
ダイヤ変更禁止列車特定処理S302においては、ダイヤ更新プログラムP01はまず、現在時刻から所定の時間ΔTだけ進めた時刻を基準時刻とする(ステップS401)。なお、ΔTは、更新された目標ダイヤがダイヤ管理装置203に反映され各列車300の制御に使用されるまでの余裕時間を含む値とする。
【0136】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、各列車についてダイヤ変更禁止フラグを初期化する。具体的には、ダイヤ変更禁止フラグを倒して、ダイヤ変更を「可」とする(ステップS402)。
【0137】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、各列車について以下の処理を行う(ステップS403a)。
【0138】
まず、ダイヤ更新プログラムP01は、処理対象となる列車の始発駅発車時刻となる始発駅の予測出発時刻が基準時刻以前かどうかを確認する(ステップS404)。
【0139】
処理対象となる列車の始発駅の予測出発時刻が基準時刻以前ではない場合(ステップS404「NO」)、ダイヤ更新プログラムP01は、各駅について以下の処理を行う(ステップS405a)。
【0140】
まず、ダイヤ更新プログラムP01は、予測ダイヤと番線使用順序情報とに基づいて、処理対象となる列車が、基準時刻において処理の対象となる駅の発車標に表示されているかどうかを確認する(ステップS406)。具体的には、例えば以下のような方法で確認する。ダイヤ更新プログラムP01は、まず、着目している駅の発車標に幾つの列車が表示されるかを、基礎データD01を参照して取得する。ダイヤ更新プログラムP01は、次に、着目している駅の各番線に関する番線使用順序情報を参照し、前記処理対象となる列車と同一の発車標に表示される列車群を取得する。ダイヤ更新プログラムP01は、続いて、取得した列車群を予測ダイヤ上の出発時刻が早い順に並べ、出発時刻が基準時刻より遅い列車のうち、前記処理対象となる列車が何番目に出発する列車であるか、すなわち前記処理対象となる列車の発車順位を求める。ダイヤ更新プログラムP01は、求めた発車順位が発車標に表示される列車数より小さい場合、「前記処理対象となる列車は基準時刻において処理の対象となる駅の発車標に表示されている」と判定し、それ以外の場合、「前記処理対象となる列車は基準時刻において処理の対象となる駅の発車標に表示されていない」と判定する。なお、発車標とは、発車が近づいた列車の発車時刻(または当該列車が発車するまでの時間)、行先、車種別などの列車の情報を示す、駅に設置された表示装置であって、予め決められた数だけの列車が表示されている。
【0141】
ダイヤ更新プログラムP01は、処理対象となる列車が、基準時刻において処理の対象となる駅の発車標に表示されていない場合(ステップS406「NO」)、ステップS405bに進み、処理を続ける(ステップS406の処理を、各駅について繰り返し行う)。
【0142】
一方、処理対象となる列車の始発駅の予測出発時刻が基準時刻以前である場合(ステップS404「YES」)、あるいは、処理対象となる列車が、基準時刻において処理の対象となる駅の発車標に表示されている場合(ステップS406「YES」)、現在の処理ループで処理の対象となっている列車のダイヤ変更禁止フラグを立てる(ステップS407)。
【0143】
ダイヤ更新プログラムP01は、上述したステップS404~ステップS407までの処理を、各列車について繰り返し行い(ステップS403b)、ダイヤ変更禁止列車特定処理を終了する。
【0144】
上記のようにして、列車が始発駅を出発すると予測される時刻である始発駅発車時刻と、列車が、発車時刻が近づいている列車に関する情報を表示する発車標に表示されると予測される時刻である発車標表示時刻の、少なくとも何れか一方の時刻に基づいて、ダイヤの変更において運行内容(行き先や停車駅など)を変更する対象としないダイヤ変更禁止列車を特定し、そのダイヤにおけるダイヤ変更禁止列車の運行内容を変更しないようにダイヤを変更することで、変更後のダイヤに基づいて実際に列車を制御できるだけでなく、旅客への影響が少ないようにダイヤを修正することができる。
【0145】
図14は、図1に示した目標ダイヤ作成装置100の動作のうち、図12に示した違反箇所抽出処理S303における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。違反箇所抽出処理S303は、駅間、すなわち、駅間における列車内の乗車人数を基準として違反箇所を抽出し、違反状態ベクトルを作成する処理である。
【0146】
違反箇所抽出処理S303においては、ダイヤ更新プログラムP01は、各列車について、また、各駅間について以下の処理を行う(ステップS601a,S602a)。
【0147】
ダイヤ更新プログラムP01は、まず、違反状態ベクトル中の該当要素の値を「0」(違反なし)に設定する(ステップS603)。
【0148】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、駅間の混雑度として、ステップS202における需要予測処理にて算出された予測列車乗車人数が上側閾値となる許容範囲の上限値よりも大きな場合(ステップS604「YES」)、違反状態ベクトル中の該当要素の値を「1」(混雑側の違反あり)に設定する(ステップS605)。
【0149】
一方、ダイヤ更新プログラムP01は、駅間の混雑度として、ステップS202における需要予測処理にて算出された予測列車乗車人数が上側閾値となる許容範囲の上限値以下である場合(ステップS604「NO」)は、ステップS606に進み、駅間の混雑度として、ステップS202における需要予測処理にて算出された予測列車乗車人数が下側閾値となる許容範囲の下限値よりも小さい場合(ステップS606「YES」)、違反状態ベクトル中の該当要素の値を「-1」(閑散側の違反あり)に設定する(ステップS607)。
【0150】
上述したステップS603~ステップS607までの処理を、各列車について、また、各駅間について繰り返し行い(ステップS602b,S601b)、違反箇所抽出処理を終了する。
【0151】
図15は、図1に示した目標ダイヤ作成装置100の動作のうち、図12に示したダイヤ変更パターン列挙処理S304における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【0152】
ダイヤ変更パターン列挙処理S304においては、ダイヤ更新プログラムP01は、違反状態ベクトル中の値が「1」または「-1」となった箇所の各々について、また、ダイヤ変更パターンデータベース106に保持されているダイヤ変更パターンの各々について、以下の処理を行う(ステップS901a,S902a)。
【0153】
ダイヤ更新プログラムP01はまず、基準列車IDと着目違反箇所に基づいて、目標ダイヤ上の列車IDとダイヤ変更パターン上のローカルな列車IDとの対応関係を求め、列車ID対応テーブルを求める(ステップS903)。具体的には、ダイヤ変更パターン上で基準列車IDによって特定される列車が目標ダイヤ上で着目する違反箇所に対応する列車に紐付けられることを利用して、ダイヤ変更パターン上において基準列車IDで特定される列車から、先行列車、前運用列車、後運用列車をたどっていき、目標ダイヤ上で、同様の関係にある列車と紐付けていけばよい。紐付けができない場合、着目している違反箇所に対して着目しているダイヤ変更パターンを適用することができないことを意味しているため、次のS904の処理において「ダイヤの状態がダイヤ変更パターンの前提条件に合致していない」(ステップS904「NO」)と判定する。
【0154】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、ステップS903にて求められた列車ID対応テーブルを参照してダイヤ変更パターン内の各列車に対応する目標ダイヤ上の列車を求め、ダイヤの状態がダイヤ変更パターンの前提条件に合致しているかどうかを判定する(ステップS904)。具体的には、変更対象列車群にダイヤ変更禁止列車が含まれている場合、「前提条件に合致していない」と判定する。また、変更対象列車群に含まれる各列車について、当該列車の経路IDと当該列車に対応する目標ダイヤ上の列車の経路IDが一致していない場合、「前提条件に合致していない」と判定する。また、変更対象列車群に含まれる各列車について、当該列車の先行列車の経路IDと当該列車に対応する目標ダイヤ上の列車の先行列車の経路IDが一致していない場合、「前提条件に合致していない」と判定する。また、変更対象列車群に含まれる各列車について、前運用列車や後運用列車との運用接続がある駅が異なる場合、「前提条件に合致していない」と判定する。また、変更後列車群に含まれる各列車について、後続列車(すなわち「番線使用順序上で1つ下位の列車」または「駅間線路使用順序上で1つ下位の列車」)がダイヤ変更禁止列車である場合、「前提条件に合致していない」と判定する。また、変更後列車群に含まれる各列車について、当該列車の先行列車の経路IDと当該列車に対応する目標ダイヤ上の列車の先行列車の経路IDが一致していない場合、「前提条件に合致していない」と判定する。また、変更後列車群に含まれる各列車について、前運用列車や後運用列車との運用接続がある駅が異なる場合、「前提条件に合致していない」と判定する。これらいずれにも該当しない場合、「前提条件に合致している」と判定する。なお、変更後列車群に含まれる列車について、後続列車がダイヤ変更禁止列車に該当するか否かを判定している目的は、後述の候補ダイヤ作成処理において当該列車が候補ダイヤに追加される際、基準列車IDで特定される列車よりも早い時間帯に追加される可能性があることから、当該列車がダイヤ変更禁止列車に該当しないことを保証するためである。
【0155】
そして、ステップS904での判定の結果、ダイヤの状態がダイヤ変更パターンの前提条件に合致している場合(ステップS904「YES」)、状態変化箇所のベクトルを作成する状態変化箇所ベクトル作成処理を行う(ステップS905)。この状態変化箇所ベクトル作成処理の詳細は後述(図16)する。
【0156】
そして、ダイヤ更新プログラムP01は、違反状態ベクトルと状態変化箇所ベクトルとの内積が正の値であれば(ステップS906のYES)、ダイヤ変更の効果があると判断し、着目しているダイヤ変更パターンをダイヤ変更パターンのリストに登録する(ステップS907)。
【0157】
一方、ダイヤの状態がダイヤ変更パターンの前提条件に合致していない場合(ステップS904「NO」)、あるいは、違反状態ベクトルと状態変化箇所ベクトルとの内積が正の値でない場合(ステップS906「NO」)、ダイヤ更新プログラムP01はステップS902bに進み、処理を続ける。
【0158】
ダイヤ更新プログラムP01は、上述したステップS903~ステップS907までの処理を、違反状態ベクトル中の値が「1」または「-1」である箇所の各々について、また、ダイヤ変更パターンデータベース106に保持されているダイヤ変更パターンの各々について、繰り返し行った後(ステップS902b,S901b)、ダイヤ変更パターン列挙処理を終了する。
【0159】
図16は、図1に示した目標ダイヤ作成装置100の動作のうち、図15に示した状態変化箇所ベクトル作成処理S905における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【0160】
状態変化箇所ベクトル作成処理S905においては、目標ダイヤ作成装置100はまず、状態変化箇所ベクトルについて各要素を「0」として初期化する(ステップS1001)。状態変化箇所ベクトルは、違反状態ベクトルと同じ次元のベクトルであり、各要素には、目標ダイヤ上の各列車の各駅間における状態変化のしかたを表す数値が格納される。なお、状態変化箇所ベクトルと違反状態ベクトルの要素の並び順(何番目の要素がどの列車のどの駅間に対応するか)は、同じになるようにしておく。
【0161】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、着目しているダイヤ変更パターン情報D20(図6A参照)に含まれている状態変化箇所情報D26を参照し、状態変化箇所情報D26中の各要素について以下の処理を行う(ステップS1002a)。
【0162】
ダイヤ更新プログラムP01はまず、状態変化箇所ベクトル上で着目要素に対応する要素を求める(ステップS1003)。具体的には、状態変化箇所情報中の着目要素が目標ダイヤ上のどの列車のどの駅間に対応する要素であるかを、列車ID対応テーブルを参照して求める。
【0163】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、状態変化箇所ベクトル上の対応する要素に着目要素の値を書き込む(ステップS1004)。これにより、状態変化箇所ベクトルのうち、ダイヤ変更パターンの影響を受ける部分が状態変化箇所情報に基づいて更新されることになる。
【0164】
上述したステップS1003~ステップS1004までの処理を、状態変化箇所情報中の各要素について繰り返し行い(ステップS1002b)、状態変化箇所ベクトル作成処理を終了する。
【0165】
図17は、図1に示した目標ダイヤ作成装置100の動作のうち、図12に示した候補ダイヤ作成処理S306における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【0166】
候補ダイヤ作成処理S306においては、ダイヤ更新プログラムP01はまず、基準列車IDと着目違反箇所とに基づき、目標ダイヤ上の列車IDとダイヤ変更パターン上のローカルな列車IDの対応関係とを求め、列車ID対応テーブルを求める(ステップS1101)。ここで、ステップS1101の処理は、ステップS903の処理と同様の処理である。
【0167】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、目標ダイヤを複製して候補ダイヤの初期値とすることで、候補ダイヤを初期化する(ステップS1102)。
【0168】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、列車IDの対応関係に基づいて、変更対象列車群に指定されている列車を候補ダイヤから削除する(ステップS1103)。
【0169】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、列車IDの対応関係に基づいて、変更後列車群に指定されている列車に、新規列車IDを割り当て、候補ダイヤに追加する(ステップS1104)。
【0170】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、変更後列車群に指定されている列車を対象に、最大待ち時間を満たすように、かつ運行間隔が概ね等しくなるように、候補ダイヤ上で運行する時刻を調整する(ステップS1105)。例えば、調整対象となっている列車に関する折返し時分を変数とし、各リソースの使用順序を候補ダイヤに規定されたものから変えないという制約と、駅間の運転時分や駅での停車時分を候補ダイヤに規定されたものから変えないという制約と、各列車の進路が競合する箇所において列車間に所定の時隔を確保するという制約と、最大待ち時間が所定の値を超えないという制約の下で、所定の駅における行先別の運行間隔のばらつきに関する目的関数を作成し、目的関数、すなわち行先別の運行間隔のばらつきを最小化するような折返し時分の組(折返し時分は調整対象となっている各列車について個別に設定可能であるとする)を求めることで、列車間の運転間隔を調整すればよい。なお、ステップS1105の時隔調整処理においては、変更後列車群に指定されている列車のほかに、前後何本かの列車を調整対象としてもよいが、その場合、ダイヤ変更禁止列車が調整対象とならないよう、時隔調整の対象とする列車を選択する。
【0171】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、運行予測プログラムP02を用いて、候補ダイヤと列車走行実績とに基づいて列車の運行を予測して、予測ダイヤを求める。そして、求めた予測ダイヤをあらためて候補ダイヤとすることで、列車間の運転間隔を修正する(ステップS1106)。これにより、合流箇所における続行時隔なども含めた、列車運行ネットワーク全体での実行可能性(候補ダイヤどおりに各列車300を制御可能であること)を保証することができる。
【0172】
このように、ダイヤ変更パターンを用いてダイヤを変更する場合、ダイヤ変更後の列車の運転間隔が行先毎に均等になるように、変更後のダイヤにおける列車の出発時刻を調整することで、行先ごとに列車を適切かつ等しい間隔で走行させるようにダイヤを変更することができるので、移動需要における混雑度に適切に対応したダイヤで列車を走行させることが可能となる。
【0173】
ダイヤ更新プログラムP01は、候補ダイヤが最大待ち時間の条件を満たしている場合(ステップS1107のYES)、候補ダイヤの作成に成功したと判定する(ステップS1108)。
【0174】
一方、ダイヤ更新プログラムP01は、候補ダイヤが最大待ち時間の条件を満たしていない場合(ステップS1107のNO)、候補ダイヤの作成に失敗したと判定する(ステップS1109)。
【0175】
ダイヤ更新プログラムP01は、上述したステップS1101~ステップS1109までの処理を行った後、候補ダイヤ作成処理を終了する。
【0176】
図18は、図1に示した目標ダイヤ作成装置100の動作のうち、図12に示した候補ダイヤ評価処理S308における詳細な動作を説明するためのフローチャートである。
【0177】
候補ダイヤ評価処理S308においては、ダイヤ更新プログラムP01はまず、運行予測プログラムP02を用いて、候補ダイヤと列車走行実績とに基づいて列車の運行を予測して、予測ダイヤを求める(ステップS1201)。
【0178】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、需要予測プログラムP03を用いて、予測ダイヤに基づいて、移動需要と列車待ち人数と列車乗車人数とを予測する(ステップS1202)。
【0179】
次に、ダイヤ更新プログラムP01は、列車待ち人数と列車乗車人数と予測ダイヤとに基づいて、評価指標の値を算出する(ステップS1203)。例えば、k1,k2を予め決められた非負の値とし、k1×(各駅間の列車乗車人数のうち許容範囲の上限値を超えた部分の人数)+k2×(各駅間の列車乗車人数のうち許容範囲の下限値を下回った部分の人数)という評価式を用いることで、評価指標を算出することができる。単純な「混雑駅間の個数」のような評価指標ではなく、許容範囲の上限値を超えた人数など、違反の度合いを反映することのできる評価指標を用いることで、「軽微な違反箇所を多数改善して大幅な違反箇所を作り込む」ような挙動が抑制され、混雑度を平準化するような挙動にすることができる。
【0180】
ダイヤ更新プログラムP01は、上述したステップS1201~ステップS1203までの処理を行った後、候補ダイヤ評価処理を終了する。
【0181】
ダイヤ更新プログラムP01は、ダイヤ変更パターンデータベース106に保持されたダイヤ変更パターンについて、上述した処理によってダイヤ変更後の評価指標を算出し、評価指標が最も高いダイヤ変更パターンを選択し、選択したダイヤ変更パターンを用いてダイヤを変更することになる。これにより、列車の走行経路の変更や車両運用の変更等を含む複雑な組合せ最適化問題に対して、良好な変更案を短時間に探索することができ、変化する移動需要に合わせたダイヤ変更を行うことができる。
【0182】
上述したように、本実施形態では、時間的・空間的な移動需要の局所性に着目し、ダイヤの変更が許される列車群に対して、混雑度を改善する必要があるとされた箇所を改善するために行先変更を含むダイヤ変更を行うような構成とした。このような構成とすることで、従来に比べ、より多くの状況で時間帯毎の移動需要に適合した輸送力を供給できる。例えば、混雑度が高い部分の運行密度を上げたい場合、移動需要が相対的に低い箇所の輸送力を移動需要が相対的に高い箇所の輸送力に振り替えることができるため、折返し時間の短縮や増発によって運行密度を上げる場合に比べて、より少ない車両で運行密度を上げることができる。また、増発によって運行密度を上げる場合に比べて、車両基地等から列車を搬送する時間の分だけ改善のための準備に必要な時間が短くなるため、現在時刻により近い時間帯、すなわち、需要予測がより正確であると期待される時間帯において状況を改善することができる。また、運休によって列車間隔が大きく広がる場合に比べて、より細かな分解能で列車間隔を調整することができる。
【0183】
また、本実施形態では、予め用意したダイヤ変更パターンを用いて、変更の対象となる列車群を特定し、変更後の列車群の走行経路と走行順序を特定し、車両の運用方法を特定するようにした。このような構成とすることで、改善が必要とされた箇所を改善するために何本の列車をどういう走行経路でどの順番で走行させるかを決定し(列車計画)、どの列車群に対して同じ編成を割り当てるかを決定し(行路作成)、各編成に物理的にどの車両を充当するかを決定し(車両割当)、実行可能な解が見つからなければ試行錯誤により修正する、という手順を順に踏むことによってダイヤ変更を試みる場合に比べ、より短い時間で解を求めることができる。
【0184】
また、本実施形態では、始発駅を出発した後には行先を変えないことを条件としてダイヤ変更禁止列車を特定し、「ダイヤ変更禁止列車が変更対象列車群に含まれず、かつ、ダイヤ変更禁止列車が変更後列車群の後続列車に含まれない」という条件の下で候補ダイヤを作成するような構成として、目標ダイヤ修正処理において始発駅を出発した後に行先変更が為される列車が発生しないようにした。これにより、すでに列車に乗ってしまった乗客に不便を感じさせることなく目標ダイヤを更新できる。
【0185】
また、本実施形態では、各駅の発車標の表示内容を変えないことを条件としてダイヤ変更禁止列車を特定し、「ダイヤ変更禁止列車が変更対象列車群に含まれず、かつ、ダイヤ変更禁止列車が変更後列車群の後続列車に含まれない」という条件の下で候補ダイヤを作成するような構成として、目標ダイヤ修正処理において発車標の表示内容の変更が発生する列車が発生しないようにした。これにより、発車標を見た旅客の判断を誤らせることなく目標ダイヤを更新できる。
【0186】
<変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の実施形態は例示したものに限るものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0187】
例えば、上述した実施形態では、ダイヤ変更パターンを「データ」として保持して目標ダイヤの変更を行うような構成としたが、このような構成とする代わりに、ダイヤ変更パターンをダイヤ変更の一連の手続きとしてダイヤ更新プログラムの一部として実装し、目標ダイヤの変更を行うような構成としてもよい。
【0188】
また、上述した実施形態では1つのダイヤ変更パターンのみ選択して適用する構成としたが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、1つのダイヤ変更パターンを適用後に、再度、改善が必要となる箇所の抽出を実施し、依然として改善が必要な箇所について適切なダイヤ変更パターンを選択して適用する処理を、所定の回数または要改善箇所の改善がなされなくなるまで繰り返すような構成としてもよい。
【0189】
また、上述した実施形態では、処理を効率化するためにダイヤ変更パターン情報D20が状態変化箇所情報D26を備え、ステップS304のダイヤ変更パターン列挙処理において、有望なダイヤ変更パターンのみを列挙するような構成としたが、本発明の構成はこれに限るものではない。例えば、ステップS304のダイヤ変更パターン列挙処理において、ステップS904の判定で「ダイヤの状態がダイヤ変更パターンの前提条件に合致している」(ステップS904「YES」)と判定された場合に、ステップS905及びステップS906の処理を省略し、ステップS907に直接進んで着目しているダイヤ変更パターンをダイヤ変更パターンのリストに登録するような構成としてもよい。ステップS1203の処理で使用する評価指標が複雑なものであり、状態変化箇所情報D26による簡易的なチェックでは、着目するダイヤ変更パターンが有望なものであるか否かが十分に判定できないような場合には、このような構成とすることが好適である。
【0190】
また、上述した実施形態では、処理を効率化するためにダイヤ変更パターン情報D20が状態変化箇所情報D26を備え、ダイヤ変更パターン列挙処理S304において有望なダイヤ変更パターンのみを列挙するような構成としたが、本発明の構成はこれに限るものではない。例えば、ダイヤ変更パターン情報D20が「適用可能時間帯情報(当該ダイヤ変更パターンを使用することが許される時間帯の開始時刻と終了時刻を示す情報)」を備えるように構成し、ダイヤ変更パターン列挙処理S304においてステップS903で列車ID対応テーブルを求める処理の前に、現在時刻が適用可能時間帯に含まれるか否かを判定し、現在時刻が適用可能時間帯に含まれない場合には、ステップS903~ステップS907の処理をスキップし、次のダイヤ変更パターンの処理に移るような処理としてもよい。このような構成とすることで、例えば、朝ラッシュ時間帯に限定して、他の時間帯とは異なるダイヤ変更パターンを使用することができる。
【0191】
また、上述した実施形態では、ステップS1203の処理で、混雑度のみに関する評価指標を用いたが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、総旅行時間、総消費エネルギー、総走行距離、総遅延時間など、運行予測結果または需要予測結果またはその両方に基づいて計算可能な指標を幾つか組み合わせた、多目的な評価指標(例えば、所定の係数を用いた、それらの指標の線形和など)を用いることもできる。このような構成とすることで、目標ダイヤを修正する際に、列車運行事業者毎の価値基準の違いを反映することができる。なお、最大待ち時間についても、制約条件として加味するのではなく、遵守できない場合にペナルティが掛かるような項として、評価指標の中に組み入れるようにしてもよい。
【0192】
また、上述した実施形態では、ステップS1203の処理で、駅間の混雑度に着目した評価指標を用いたが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、幾つかの駅間を一括りとしてグループ化して扱い、グループ内の駅間の混雑度の代表値(例えば最大値や平均値)に基づく評価指標を用いるようにしてもよい。複数の連続する駅間から成る、列車の折返し設備がない区間では、ある駅間で混雑度が許容範囲の上限値より高く、別の駅間で混雑度が許容範囲の下限値より低い場合であっても、改善の手段としては当該区間における列車の運行密度を上げるか下げるかの何れか一方しか選択することができない。そのため、例えば列車の折返し設備がない駅並びが長く続く区間が存在するような場合、このような構成とすることが好適である。
【0193】
また、上述した実施形態では、ステップS406の処理において、ダイヤ更新プログラムP01が予測ダイヤと番線使用順序とに基づいて「処理対象となる列車が基準時刻において処理の対象となる駅の発車標に表示されているかどうか」を確認するような構成としたが、本発明はこれに限るものではない。例えば、通信ネットワーク900等を介して発車標の表示内容を管理する装置との間で情報を授受できるような構成とし、ステップS406の処理の際、基準時刻において駅の発車標に表示される列車のリストを当該装置から取得して、処理対象となる列車が基準時刻において処理の対象となる駅の発車標に表示されているかどうかを判定するようにしてもよい。
【0194】
また、上述した実施形態では、ステップS304のダイヤ変更パターン列挙処理において、ダイヤ変更禁止列車に関するチェックを行うような構成としたが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、ステップS306の候補ダイヤ作成処理において、ダイヤ変更禁止列車に関するチェックを行うような構成としてもよい。
【0195】
また、上述した実施形態では、目標ダイヤ作成装置100は、運行管理システム200から現在適用されている最新の目標ダイヤを取得し、その目標ダイヤに基づいてリソース使用順序情報(番線使用順序情報および駅間線路使用順序情報)を作成するような構成としたが、本発明はこれに限るものではなく、目標ダイヤの一部としてリソース使用順序情報を含むような構成としてもよい。そのような構成とした場合、ステップS104の目標ダイヤ修正処理では、ステップS311で暫定最適ダイヤを目標ダイヤとした後、最新の目標ダイヤに基づいてリソース使用順序情報を更新し、その後、ステップS312の目標ダイヤ送信処理を行うようにする。
【0196】
また、上述した実施形態では鉄道向けの適用例について説明したが、本発明はこれに限らず、LRT(Light Rail Transit)やバス等、時刻表に基づき運行管理が為され、所定の経路を走行する交通機関に対して、広く適用することができる。例えば、運行予測プログラムP02として、渋滞予測等の道路交通向けの機能を備えた運行予測処理が行える公知の技術を採用し、需要予測プログラムP03についても同様に、道路交通向けの公知技術を用いればよい。道路上のすべての車両が運行管理システムの制御下にあるわけではないこと、道路は線路に対して追い越し等に関する制約条件が緩いことなどから目標ダイヤを遵守した制御とならないケースも発生し得るが、走行実績を基に目標ダイヤを更新していくことで、概ね目標ダイヤに沿った運行が期待できる。また、ステップS303の違反箇所抽出処理において隣接する停留所間の走行経路が渋滞している場合には違反箇所として抽出するようにし、さらに、計画の走行経路を迂回経路に振り替えるようなダイヤ変更パターンをダイヤ変更パターンデータベース106に登録しておくことで、適切な評価指標の下、渋滞時には迂回経路を走行して次の停留所に向かうように目標ダイヤを修正することができる。このような構成とすることで、渋滞に伴う車両の乗車人数の増加を抑えることができる。
【符号の説明】
【0197】
100…目標ダイヤ作成装置、101…CPU、102…メモリ、103…記憶部、104…通信部、105…需要パターンデータベース、106…ダイヤ変更パターンデータベース、200…運行管理システム、201…列車追跡装置、202…進路制御装置、203…ダイヤ管理装置、204…運行予測装置、205…運転整理端末、300…列車、400,500…センサ、900…通信ネットワーク
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18