(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】癌または転移性疾患の治療または予防における環状アセチルコリンエステラーゼC末端ペプチド
(51)【国際特許分類】
A61K 38/12 20060101AFI20220506BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220506BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220506BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220506BHJP
C07K 7/08 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
A61K38/12
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
C07K7/08 ZNA
(21)【出願番号】P 2017531901
(86)(22)【出願日】2015-12-18
(86)【国際出願番号】 GB2015054068
(87)【国際公開番号】W WO2016097753
(87)【国際公開日】2016-06-23
【審査請求日】2018-12-11
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-26
(32)【優先日】2014-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(32)【優先日】2015-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516008992
【氏名又は名称】ニューロ-バイオ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】NEURO-BIO LTD
【住所又は居所原語表記】Building F5,Culham Science Centre,Abingdon Oxfordshire OX14 3DB,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】グリーンフィールド,スーザン アデル
(72)【発明者】
【氏名】ペッパー,クリストファー
【合議体】
【審判長】森井 隆信
【審判官】冨永 みどり
【審判官】進士 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-504819(JP,A)
【文献】特表2001-500475(JP,A)
【文献】特開2011-140503(JP,A)
【文献】特表2016-525095(JP,A)
【文献】Biochimica et Biophysica Acta (2006), Vol.1760, p.415-420
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K1/00-19/00
CAPLUS/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療上有効な量の配列番号3からなるポリペプチドのC末端からN末端への環化により得られた環状ポリペプチドまたは配列番号3と
少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチドのC末端からN末端への環化により得られた環状ポリペプチドであるその誘導体もしくは類似体と、任意に、薬学的に許容される賦形剤と、を含む、抗癌または抗転移薬剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の抗癌または抗転移薬剤組成物の製造方法であって、治療上有効な量の配列番号3からなるポリペプチドのC末端からN末端への環化により得られた環状ポリペプチドまたは配列番号3と
少なくとも90%の配列同一性を有するポリペプチドのC末端からN末端への環化により得られた環状ポリペプチドであるその誘導体もしくは類似体と、薬学的に許容される賦形剤と、を組み合わせることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌に関し、具体的には癌または転移性疾患を治療、予防、または寛解するための新規な組成物、療法、及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌及び悪性腫瘍は、身体の他の部分に侵入または拡散、すなわち転移する可能性を有する異常な細胞増殖を伴う疾患群を形成する。2012年には、世界中で約1,400万人の新たな癌の症例が発生した。したがって、癌及び転移の治療のための改善された医薬品を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0003】
本発明者らは、種々の癌細胞株、ならびに患者由来の初代腫瘍細胞及び健常な同年齢の個体由来のリンパ球におけるアセチルコリンエステラーゼのC末端に由来する環状ペプチド(「NBP-14」として知られている)の効果を研究し、そしてそれが、試験したそれぞれの癌細胞株において中程度のアポトーシス活性及び抗増殖活性を示したことを見出した。加えて、それらはまた、環状ペプチドが正常細胞では無毒であることも示している。したがって、本発明者らは、環状ペプチドが、癌、腫瘍及び転移性疾患の治療において治療上の利益を有すると考えている。
【0004】
したがって、本発明の第1の態様では、癌または転移性疾患の治療、寛解、または予防における使用のための、環状ポリペプチドまたはその誘導体もしくは類似体が提供される。
【0005】
第2の態様では、被験体の癌または転移性疾患を治療、寛解、または予防する方法であって、そのような治療を必要とする被験体に、治療上有効な量の環状ポリペプチドまたはその誘導体もしくは類似体を投与することを含む方法が提供される。
【0006】
実施例に記載されているように、本発明者らは、(i)種々の予後マーカーを含む慢性リンパ球性白血病(CLL)患者由来の初代CLLのサンプル(MEC-1細胞)において、(ii)KG1a(急性骨髄性白血病細胞株)及びH929及びJJN3(多発性骨髄腫細胞株)において、及び(iii)MCF7及びMDA-MB-231(乳癌細胞株)において、アセチルコリンエステラーゼのC末端に由来する環状ペプチド(「NBP-14」として知られている)のインビトロ細胞傷害試験を行った。本発明者らは、驚くべきことに、環状ペプチドNBP-14が、濃度>0.1μMで試験した各細胞株においてアポトーシス効果を示したことを示した。さらに、MCF7細胞は、NBP-14に対する感受性の増加を示した。環状ペプチドNBP-14は、MDA-MB-231細胞において抗増殖活性の証拠を示し、そして>0.1μMのペプチド濃度でJJN3細胞、KG1a細胞、MEC-1細胞及びH929細胞においても同様の効果が観察された。好都合なことに、それらはまた、環状ペプチドが正常細胞では同じ濃度で無毒性であることを示した。
【0007】
治療される癌は白血病であってよい。例えば、癌は、リンパ球性白血病または慢性リンパ球性白血病(CLL)であってよい。癌は、骨髄性白血病または急性骨髄性白血病であってよい。癌は多発性骨髄腫であってよい。癌は乳癌であってよい。
【0008】
最も好ましくは、環状ポリペプチドまたはその誘導体もしくは類似体は、転移性疾患の治療、寛解、または予防における使用のためのものである。
【0009】
環状ポリペプチドは、
図8Bに示すように、そのN末端及びC末端自体が、アミノ酸の環状鎖を形成するペプチド結合で連結されたペプチド鎖である。
【0010】
「その誘導体もしくは類似体」という用語は、そのうちのアミノ酸残基が、類似する側鎖またはペプチド骨格の特性を有する残基(天然アミノ酸、非天然アミノ酸またはアミノ酸模倣体を問わず)によって置換されるポリペプチドを意味する。さらにそのようなペプチド末端は、アセチル基またはアミド基と同様の性質を有するN-及びC-末端保護基によって保護され得る。
【0011】
本発明によるペプチドの誘導体及び類似体はまた、インビボでペプチドの半減期を増加させるものを含み得る。例えば、本発明のペプチドの誘導体もしくは類似体は、ペプチドのペプトイド及びレトロペプトイド誘導体、ペプチド-ペプトイドハイブリッド及びペプチドのD-アミノ酸誘導体を含み得る。
【0012】
ペプトイド、すなわちポリ-N-置換グリシンはペプチド模倣体の一種であり、その側鎖は、アミノ酸中にあるような、α-炭素にではなくむしろペプチド骨格の窒素原子に付加される。本発明のペプチドのペプトイド誘導体は、ペプチドの構造の知識から容易に設計することができる。レトロペプトイド(すべてのアミノ酸が逆の順序でペプトイド残基によって置換されている)も、本発明による適切な誘導体である。レトロペプトイドは、1つのペプトイド残基を含むペプチドまたはペプトイド-ペプチドハイブリッドと比較して、リガンド結合溝において反対方向に結合することが予想される。その結果、ペプトイド残基の側鎖は元のペプチドの側鎖と同じ方向を向くことができる。
【0013】
好ましくは、環状ポリペプチドまたはその誘導体もしくは類似体は、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)のC末端に由来するアミノ酸配列、またはそのトランケーションを含むかまたはそれからなる。
【0014】
実施例に記載されているように、本発明者らは、非常に驚くべきことに本発明の環状AChE由来ポリペプチドが正常組織ではなく腫瘍細胞を選択的に標的とすることを観察した。
【0015】
したがって、「に由来する」という用語は、AChEのC末端内またはその一部に存在するかそれを形成するアミノ酸配列の誘導体または改変体であるアミノ酸配列を意味する。
【0016】
「そのトランケーション」という用語は、AChEに由来する環状ポリペプチドは、アミノ酸の除去によりサイズが減少することを意味する。アミノ酸の減少は、本発明の環状ポリペプチドへの環化前にペプチドのC末端またはN末端からの残基の除去によってなされるか、あるいは環化前にペプチドのコア内からの1つ以上のアミノ酸の欠失によってなされる。
【0017】
アセチルコリンエステラーゼは、アセチルコリンを加水分解するセリンプロテアーゼであり、当業者にとって周知である。脳で発見されるアセチルコリンエステラーゼの主要な形態は、末端付加(tailed)アセチルコリンエステラーゼ(T-AChE)として知られている。環状ポリペプチドまたはこれらの誘導体もしくは類似体は、末端付加アセチルコリンエステラーゼ(T-AChE)のC末端に由来するアミノ酸配列、またはそのトランケーションを含むことが特に好ましい。
【0018】
ヒト末端付加アセチルコリンエステラーゼ(GenBank:AAA68151.1)の一実施態様のタンパク質配列は、長さが614アミノ酸であり、本明細書では配列番号1として以下のように提供される。
【0019】
【0020】
配列番号1の最初の31個のアミノ酸残基は、タンパク質が放出されることによって除去され、それによって583個のアミノ酸配列が残ると理解される。したがって、環状ポリペプチドまたはその誘導体もしくは類似体は、アセチルコリンエステラーゼのC末端に由来するアミノ酸配列、またはそのトランケーションを含むかまたはそれからなり、この際、アセチルコリンエステラーゼは、配列番号1で実質的に定義されるアミノ酸配列を含み、好ましくはN末端の31個のアミノ酸が除かれる。
【0021】
好ましくは、環状ポリペプチドまたはその誘導体もしくは類似体は、アセチルコリンエステラーゼのC末端を形成する最後の300、200、100または50個のアミノ酸、またはそのトランケーションを含むかそれからなり、この際、特に好ましくはアセチルコリンエステラーゼは配列番号1で実質的に定義されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。環状ポリペプチドまたはその誘導体もしくは類似体は、好ましくは、アセチルコリンエステラーゼのC末端を形成する最後の40個のアミノ酸に由来するアミノ酸配列、またはそのトランケーションを含むかまたはそれからなる。
【0022】
環状ポリペプチドまたはその誘導体もしくは類似体は、好ましくは8~40個のアミノ酸残基、より好ましくは10~30個のアミノ酸、特に好ましくは12~20個のアミノ酸を含むかまたはそれからなる。本発明者は、AChEのC末端に由来する3種類のペプチド配列であって、本明細書中、T30、T14、及びT15と称され、その数がアミノ酸の数に相当するものを調製した。
【0023】
T30のアミノ酸配列(配列番号1の最後の30個のアミノ酸残基に相当する)は、本明細書では配列番号2として以下に提供される。
【0024】
【0025】
T14のアミノ酸配列(配列番号1の端部に向かって位置する14個のアミノ酸残基に相当し、かつT30に見られる最後の15個のアミノ酸を欠く)は、本明細書では配列番号3として以下に提供される。
【0026】
【0027】
T15のアミノ酸配列(配列番号1の最後の15個のアミノ酸残基に相当する)は、本明細書では配列番号4として以下に提供される。
【0028】
【0029】
配列番号2~4として表されるいずれかの配列も、容易に環化もしくは環状化して、第1の態様の環状ポリペプチドを形成することができることが理解される。例えば、ペプチドの環化は、側鎖-側鎖、側鎖-骨格、またはヘッドトゥテール(head-to-tail)(C末端からN末端へ)環化技術によって達成できる。好ましい一実施形態において、ヘッドトゥテール環化は、環状ポリペプチドを製造するのに好ましい方法である。環状ポリペプチドは、古典的な溶液相での直鎖状ペプチドの環化、または樹脂ベースの(resin-based)環化のいずれかを用いて合成することができる。環化のための好ましい方法は、実施例に記載されている。他の好ましい実施形態において、ポリペプチドは、環化切断アプローチを用いて製造され、この際、段階的な直鎖状ペプチド合成後の環化によって環状ポリペプチドを合成する。この方法の利点は、側鎖が固定される必要が無いことであり、それをより一般的なアプローチにする。好ましくは、使用前に、環状ペプチドの合成サンプルをMALDI-TOF MSにより分析してもよい。
【0030】
したがって、本発明による好ましいポリペプチドは、環状の配列番号2、3、または4、またはその機能的変異体もしくはフラグメントを含むかまたはそれからなる。
【0031】
本発明者は、環化した配列番号3(すなわち、本明細書中、「環化T14」、「CT14」、または「NBP-14」と称される)が、驚くべきことに、健常細胞と比較して試験した癌細胞株の各々において選択的アポトーシス活性及び抗増殖活性を示し、正常な非癌細胞において無毒であることを見出した。
【0032】
したがって、第1の態様のもっとも好ましい環状ポリペプチドは、環状の配列番号3またはその機能的変異体もしくはフラグメントを含むかまたはそれからなる。
【0033】
本発明による環状ポリペプチドは、単独療法(すなわち、環状ポリペプチドまたはその誘導体もしくはその類似体単独の使用)として、癌または転移性疾患を治療、寛解、または予防するために使用できる医薬に使用することができると理解される。あるいは、本発明による環状ポリペプチドは、癌を治療、寛解、または予防するための既知の治療法の補助剤として、またはそれと組み合わせて使用することができる。
【0034】
本発明に係る環状ポリペプチドは、特に、組成物の使用する方法に応じて、多くの異なる形態を有する組成物と組み合わせてもよい。したがって、例えば、組成物は、粉末、錠剤、カプセル、液体、軟膏、クリーム、ゲル、ヒドロゲル、エアロゾル、スプレー、ミセル溶液、経皮パッチ、リポソーム懸濁液、または治療を必要とするヒトまたは動物に投与してもよいいずれかの他の適切な形状の形態であってもよい。本発明に係る薬剤の賦形剤は、投与される被験体が十分に耐えうるものであるべきであり、ならびに好ましくは、脳腫瘍を治療する際に、血液脳関門を横切る環状ポリペプチドの送達を可能にするものであると理解される。
【0035】
本発明による環状ポリペプチドはまた、徐放性または遅延放出性デバイス内に組み込むこともできる。このようなデバイスは、例えば、皮膚の上または下に挿入することができ、薬剤は、数週間または数ヶ月にわたって放出され得る。デバイスは、少なくとも治療部位に隣接して配置されてもよい。そのようなデバイスは、本発明により使用される環状ポリペプチドによる長期治療が必要であって、かつ頻繁な投与(例えば、少なくとも毎日の注射)を通常必要とする場合に、特に有利であり得る。
【0036】
好ましい実施形態では、本発明による薬剤は、血流への注射または治療を必要とする部位への直接的な注射によって、被験体に投与され得る。例えば、薬剤は、少なくとも脳に隣接して注射されてもよい。注射は、静脈内(ボーラスまたは点滴)または皮下(ボーラスまたは点滴)または皮内(ボーラスまたは点滴)であり得る。
【0037】
必要とされる環状ポリペプチドの量は、その生物学的活性及び生物学的利用能によって決定され、次にそれは投与様式、環状ポリペプチドの物理化学的性質、及びそれが単独療法または併用療法のいずれで使用されるのかに依存すると理解されよう。また、投与頻度は、治療される被験体内の環状ポリペプチドの半減期に影響される。投与される最適用量は、当業者によって決定され、使用における特定の環状ポリペプチド、薬剤組成物の強度、投与様式、及び癌または転移性疾患の進行によって異なる。治療される特定の被験体に依存する追加因子は、被験体の年齢、体重、性別、食事及び投与時間を含んで、用量を調整する必要性が生じる。
【0038】
一般的に、癌または転移性疾患を治療、寛解、または予防するために、本発明による環状ポリペプチドを、使用する環状ポリペプチドに依存して、0.001μg/kg体重~10mg/kg体重の、または0.01μg/kg体重~1mg/kg体重の一日用量で使用してよい。
【0039】
環状ポリペプチドは、癌の発症前、発症中または発症後に投与してもよい。毎日の用量は、単回投与(例えば、1日1回の注射または鼻腔スプレーの吸入)として与えられてもよい。あるいは、環状ポリペプチドは、1日2回以上の投与を必要としてもよい。一例として、環状ポリペプチドは、(すなわち、体重70kgを仮定して)0.07μg~700mgの量で、1日2回(または、治療される癌または転移性疾患の重症度によってはそれ以上)投与してもよい。治療を受ける患者は、起床時に1回目の投与を、夕方(2回投与の場合)またはそれから3~4時間空けて2回目の投与を受けてもよい。あるいは、複数回投与を必要とせずに患者に対して、最適な用量の本発明による環状ポリペプチドを提供するために、徐放デバイスを用いてもよい。
【0040】
本発明よる環状ポリペプチドの特定の配合、及び(薬剤の一日用量や投与頻度などの)正確な治療計画を形成するのに、製薬業界で従来採用されているものなど既知の方法(例えば、インビボ実験、臨床試験等)を用いてもよい。本発明者らは、本発明による環状ポリペプチドの使用に基づいて、抗癌治療組成物を提案した最初のものであると考えている。
【0041】
したがって、本発明の第3の態様において、治療上有効な量の第1の態様による環状ポリペプチドまたはその誘導体もしくは類似体と、任意に、薬学的に許容される賦形剤と、を含む、抗癌または抗転移薬剤組成物が提供される。
【0042】
また、本発明は、第4の態様において、第3の態様による抗癌または抗転移薬剤組成物の製造方法であって、治療上有効な量の第1の態様による環状ポリペプチド、その誘導体もしくは類似体と、薬学的に許容される賦形剤と、を組み合わせることを含む、方法を提供する。
【0043】
環状ポリペプチドまたはその誘導体もしくは類似体は、好ましくは本明細書で開示されている環状T14(すなわち、NBP-14)、すなわち配列番号3を含むかまたはそれからなる。
【0044】
「被験体」は、脊椎動物、哺乳類または家畜動物であってよい。したがって、本発明による薬剤は、任意の哺乳動物、例えば家畜(例えば馬)、ペットを治療するのに使用してもよく、または他の獣医学的適用において使用してもよい。しかしながら、最も好ましくは、被験体はヒトである。
【0045】
環状ポリペプチドの「治療上有効な量」は、被験体に投与した際、癌または転移性疾患を治療するか、または所望の効果を生じるのに必要とされる活性剤量である任意の量である。環状ポリペプチドまたはその誘導体もしくは類似体は、固形腫瘍または転移性腫瘍の治療のためのアジュバントとして、例えば化学療法または放射線療法で使用することができる。これは、化学療法及び/または放射線療法の、より低い用量及び暴露時間を要することを意味する。
【0046】
例えば、使用される環状ポリペプチドの治療上有効な量は、約0.001mg~約800mg、及び好ましくは約0.01mg~約500mgであってもよい。
【0047】
本明細書で称される、「薬学的に許容される賦形剤」は、当業者にとって薬剤組成物を処方するのに有用であると知られている、いずれかの既知の化合物または既知の化合物の組み合わせである。
【0048】
一実施形態において、薬学的に許容可能な賦形剤は、固体であってもよく、組成物は粉末または錠剤の形態であってもよい。しかしながら、薬学的賦形剤は液体であってもよく、薬剤組成物は溶液の形態であってもよい。滅菌された溶液または懸濁液である液体薬剤組成物は、例えば、筋肉内、髄腔内、硬膜外、腹腔内、静脈内、特に皮下注射によって利用することができる。
【0049】
本発明の環状ポリペプチド及び組成物は、他の溶質や懸濁剤(例えば、溶液を等張にするのに十分な生理食塩水またはグルコース)、胆汁酸塩、アカシア、ゼラチン、ソルビタンモノオレエート、ポリソルベート80(ソルビトールのオレイン酸エステル及びエチレンオキシドと共重合したその無水物)などを含む、滅菌溶液または懸濁液の形態で経口投与されてもよい。また、本発明により使用される環状ポリペプチドは、液体または固体の組成物形態で経口投与することができる。経口投与に好適な組成物は、ピル、カプセル剤、顆粒剤、錠剤及び粉末などの固体形態、ならびに溶液、シロップ、エリキシル及び懸濁液などの液体形態を含む。非経口投与に有用な形態としては、滅菌溶液、エマルジョン及び懸濁液が含まれる。
【0050】
本発明は、いずれかの核酸もしくはペプチドまたはその変異体、誘導体、もしくは類似体にまで拡張するものであり、その機能性変異体または機能性フラグメントを含む、本明細書で言及される配列のいずれかのアミノ酸または核酸配列を実質的に含むことと理解されよう。「実質的にアミノ酸/ヌクレオチド/ペプチド配列」、「機能性変異体」及び「機能性フラグメント」は、例えば配列番号1~4で定義される配列と40%の同一性であるなど、本明細書で言及されるいずれかの1つのアミノ酸/ヌクレオチド/ペプチド配列と少なくとも40%の配列同一性を有する配列であってよい。
【0051】
また、言及される配列のいずれかと65%超、より好ましくは70%超、より好ましくは75%超、さらにより好ましくは80%超である配列同一性を有するアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列についても想定される。好ましくは、アミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列は、本明細書に言及される配列のいずれかと少なくとも85%の同一性を有し、より好ましくは少なくとも90%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも92%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも95%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも97%の同一性、さらにより好ましくは少なくとも98%の同一性、最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有する。
【0052】
当業者であれば、2つのアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列間の同一性率(persentage identity)の計算方法を理解するであろう。2つのアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列間の同一性率を計算するためには、まず2つの配列のアラインメントを準備し、配列同一性値を計算する。2つの配列の同一性率は、(i)配列をアラインするために使用される方法、例えば、ClustalW、BLAST、FASTA、Smith-Waterman(異なるプログラムで実施される)、または3D比較による構造的アラインメント、及び(ii)アライメント方法によって使用されるパラメータ(例えば、ローカル対グローバルアライメント、使用されるペアスコアマトリックス(例えば、BLOSUM62、PAM250、Gonnet等)、ギャップペナルティ(例えば、関数形式や定数)に依存して、異なる値をとる。
【0053】
アラインメント後、2つの配列間の同一性率を計算する方法は多数ある。その一つとして、例えば、一致数(the number of identities)を(i)最短配列長さ、(ii)アラインメント長さ、(iii)配列の平均長さ、(iv)非ギャップ位置数、または(iv)オーバーハングを除く等価位置数で、除してもよい。さらに、同一性率は、長さにも大きく依存すると理解されよう。ゆえに、配列の短いペアでは、より高い配列同一性が偶然に起こることが予想される。
【0054】
したがって、当タンパク質またはDNA配列の正確なアラインメントは複雑なプロセスであることが理解されよう。有名な多重アラインメントプログラムであるClustalW(Thompson et al.,1994,Nucleic Acids Research,22,4673-4680、Thompson et al.,1997,Nucleic Acids Research,24,4876-4882)は、本発明によるタンパク質またはDNAの多重アラインメントを生成する上で好適な方法である。ClustalWに好適なパラメータは下記のとおりである:DNAアラインメントの場合:ギャップオープンペナルティ=15.0、ギャップ伸長ペナルティ=6.66、及びマトリックス=アイデンティティ。タンパク質アライメントの場合:ギャップオープンペナルティ=10.0、ギャップ伸長ペナルティ=0.2、及びマトリックス=Gonnet。DNA及びタンパク質のアラインメントの場合:ENDGAP=-1及びGAPDIST=4。当業者であれば、最適な配列アラインメントのためにこれら及び他のパラメータを変更することが必要なことに気づくであろう。
【0055】
好ましくは、2つのアミノ酸/ポリヌクレオチド/ポリペプチド配列間の同一性率の計算は、その結果(N/T)*100などのアラインメントから計算してもよく、式中、Nは、同一の残基を共有する配列における位置の数であり、Tは、ギャップを含みオーバーハングを除いて比較した位置の総数である。したがって、2つの配列間の同一性率を計算するための最も好ましい方法は、(i)例えば、上記のように、好適な一連のパラメータを用いてClustalWプログラムを用いて配列アラインメントを調製することと、(ii)N及びTの値を次式:配列同一性=(N/T)*100に挿入することとを含む。
【0056】
類似する配列を特定するための他の方法は、当業者にとって既知である。例えば、実質的に類似するヌクレオチド配列は、ストリンジェントな条件下でDNA配列またはその相補体にハイブリダイズする配列によってコードされる。ストリンジェントな条件では、ヌクレオチドを約45℃で3×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中でフィルターに結合したDNAまたはRNAにハイブリダイズさせた後、約20~65℃で0.2×SSC/0.1%SDS中で少なくとも1回洗浄することを意味する。あるいは、実質的に類似するポリペプチドは、配列番号1~4で示される配列とは、少なくとも1個のアミノ酸、しかし5、10、20、50または100個の未満のアミノ酸が異なっていてもよい。
【0057】
遺伝コードの縮退により、本明細書に記載される任意の核酸配列は、これによってコードされるタンパク質配列に実質的に影響を及ぼすことなく、変異または変化して、その機能性変異体を提供できることは明らかである。好適なヌクレオチド変異体は、配列内で同一のアミノ酸をコードする異なるコドンの置換によって変化した配列を有するものであり、このためサイレントな変化を生じる。他の好適な変異体は、対応するヌクレオチド配列を有するが、置換されるアミノ酸と同様の生物物理学的性質の側鎖を有するアミノ酸をコードする、異なるコドンの置換によって変更されて控えめな変化を生じる、配列の全部または一部を含むものである。例えば、小さい非極性の疎水性アミノ酸としては、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン及びメチオニンが含まれる。大きい非極性の疎水性アミノ酸としては、フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシンが含まれる。極性の中性アミノ酸としては、セリン、トレオニン、システイン、アスパラギン及びグルタミンが含まれる。正に荷電した(塩基性)アミノ酸としては、リジン、アルギニン及びヒスチジンが含まれる。負に荷電した(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が含まれる。ゆえに、いずれのアミノ酸が同様の生物物理学的性質を有するアミノ酸で置換できるかが理解され、当業者であればこれらのアミノ酸をコードするヌクレオチド配列が分かるであろう。
【0058】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書及び図面を含む)で記載された特徴のすべて、及び/または開示されたいずれかの方法またはプロセスの過程のすべては、少なくともこのような特徴及び/または過程の幾つかが相互に排他的である組み合わせを除き、任意の組み合わせで上記の態様のいずれかと組み合わせてもよい。
【0059】
本発明のより良い理解のため、及び本発明の実施形態を有効に実施することができる方法を示すために、例として以下に示される添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図1】
図1は、乳癌細胞株(A)MCF7及び(B)MDA-MB-231における、T15(配列番号4)、T30(配列番号2)、及び本発明による環状ポリペプチドの1つの実施形態、すなわちNBP-14(配列番号3)の細胞傷害効果の比較である。すべてのアッセイを二重に実施して、3回の独立した実験の平均(±SD)として示している。
【
図2】
図2は、KG1a細胞株におけるT15、T30、NBP-14及びAra-Cの細胞傷害効果の比較を示す。すべてのアッセイを二重に実施して、3回の独立した実験の平均(±SD)として示す。
【
図3】
図3は、(A)H929及び(B)MEC-1細胞株におけるT15、T30、NBP-14及びフルダラビンの細胞傷害効果の比較を示す。すべてのアッセイを二重に実施して、3回の独立した実験の平均(±SD)として示す。
【
図4A】
図4Aは、初代CLL細胞におけるT15、T30、NBP-14の細胞傷害効果の比較を示す。
【
図4B】
図4Bは、比較のために抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブの効果を示す。すべてのアッセイを二重に実施して、5回の独立した実験の平均(±SD)として示した。
【
図5】
図5は、正常Bリンパ球及びTリンパ球におけるT15、T30、及びNBP-14ペプチドの効果の比較を示す。すべてのアッセイを二重に実施し、データを3回の独立した実験の平均(±SD)として示す。
【
図6】
図6は、(A)MDA-MB-231細胞及び(B)MCF7細胞におけるT15、T30及びNBP-14の抗増殖効果の比較を示す。すべてのアッセイを二重に実施して、データを3回の独立した実験の平均(±SD)として示す。
【
図7】
図7は、(A)KG1a細胞及び(B)MEC-1細胞及び(C)H929細胞におけるT15、T30及びNBP-14の抗増殖効果の比較を示す。すべてのアッセイを二重に実施して、データを3回の独立した実験の平均(±SD)として示す。
【
図8A】
図8Aは、環化部位を形成するアラニン(A)及びリジン(K)残基を有するNBP-14の配列を示す。
【
図8B】
図8Bは、末端のアラニン残基とリジン残基とが連結している環状NBP-14ペプチドを示す。
【
図9】
図9は、MDA-MB-231、MCF7、JJN3及びKG1a癌細胞株におけるNBP-14ペプチドによって誘発される抗遊走性(anti-migratory)用量反応の比較を示す。全てのデータを、3回の独立した実験の平均(±SD)として示す。*;P<0.05。
【
図10】
図10は、乳癌細胞株(A)MCF7及び(B)MDA-MB-231におけるT15、T30、NBP-14の抗遊走効果の比較を示す。すべてのデータを、5回の独立した実験の平均(±SD)として示す。
【
図11】
図11は、KG1a細胞株におけるT15、T30、NBP-14の抗遊走効果の比較を示す。すべてのデータを、5回の独立した実験の平均(±SD)として示す。
【
図12】
図12は、JJN3細胞株におけるT15、T30、NBP-14の抗遊走効果の比較を示す。すべてのデータを、5回の独立した実験の平均(±SD)として示す。
【
図13】
図13は、初代CLL細胞におけるT15、T30、NBP-14の細胞傷害効果の比較を示す。すべてのアッセイを二重に実施して、データを10回の独立した実験の平均(±SD)として示す。
【
図14】
図14は、正常B細胞に対するT15、T30及びNBP-14ペプチドの抗遊走効果の比較を示す。すべてのアッセイを二重に実施して、データを5回の独立した実験の平均(±SD)として示す。
【
図15】
図15は、初代CLL細胞及び正常Bリンパ球におけるNBP-14ペプチドの効果の比較を示す。すべてのアッセイを二重に実施して、データを3回の独立した実験の平均(±SD)として示す。
【
図16】
図16は、ベースライン遊走とNBP-14によって誘導される遊走の減少率との相関を示す。
【
図17】
図17は、MDA-MB-231、CLL細胞、正常B細胞、MEC-1、JJN3、KG1a、MCF7及びH929細胞を含む様々な細胞株におけるNBP-14不在下でのベースライン遊走量を示す。
【
図18】
図18は、MDA-MB-231、CLL細胞、正常B細胞、MEC-1、JJN3、KG1a、MCF7及びH929細胞を含む様々な細胞株において、1μMのNBP-14によって誘導された遊走の減少率を示す。
【実施例】
【0061】
理論的根拠
本発明者らは、T15、T30及びNBP-14ペプチドとして知られているアセチルコリンエステラーゼのC末端に基づいて多数の線状及び環状ペプチドを生成し、そして多数の細胞株及び患者由来の初代白血病細胞におけるそれらの効果を評価した。配列番号3は、本明細書において「環化T14」、「CT14」または「NBP-14」と呼ばれ、TailedアセチルコリンエステラーゼのC末端に由来するアミノ酸配列を有する環状ペプチドであることに留意すべきである。
【0062】
目標
1.ある範囲のインビトロヒト癌モデルにおけるNBP-14の細胞傷害性及び細胞増殖抑制性プロフィールを決定すること;及び
2.正常Bリンパ球及びTリンパ球におけるNBP-14の効果を評価すること。
【0063】
材料及び方法
ペプチドの環化
直鎖状ペプチドの環化を達成するために、ここで記載される3つの技術、すなわち側鎖-側鎖、側鎖-主鎖及びヘッドトゥテール(head-to-tail)(C末端からN末端へ)環化を用いた。ヘッドトゥテール環化は、広く研究されており、(1分子あたり2つ以下の)定方向性(directed)Cys-Cysジスルフィド環化に関与できる。反応を注視することで、100%環化を確実にする。合成には、(1)高希釈濃度下での古典的な溶液相での直鎖状ペプチド環化及び(2)樹脂ベースの(resin-based)環化の2つの主要なアプローチが用いられる。固相合成(1)において、2つの異なるプロトコールを採用した:
(a)イミダゾール、3酸、4アミン’またはアルコールなどの側鎖官能基を介して固定されたペプチドの担体上環化を行った。ペプチドをC末端でエステルとしてオルトゴナルに(orthogonally)保護した後、通常のBocまたはFmoc合成により構築し、続いてケン化し、環化し及び切断した。
【0064】
(b)用いた他のプロトコールは、環化切断アプローチであり、段階的な直鎖状ペプチド合成を行った後、環化により環状ペプチドを合成した。この方法の1つの利点は、側鎖を固定する必要が無いことであり、(a)より汎用的なアプローチとなっている(Christopher J.White and Andrei K.Yudin(2011)Nature Chemistry 3、Valero et al(1999)J.Peptide Res.53,76-67、Lihu Yang and Greg Morriello(1999)Tetrahedron Letters 40,8197-8200、Parvesh Wadhwani et al(2006)J.Org.Chem.71,55-61)。
【0065】
KG1a、H929、MCF7、MDA-MB-231、MEC-1及び初代CLL細胞培養条件
急性骨髄性白血病(AML)KG1a細胞株を、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン及び20%ウシ胎仔血清を補充したRPMI培地(Invitrogen)中に維持した。多発性骨髄腫(MM)細胞株H929、2つの乳癌細胞株(MCF7及びMDA-MB-231)、MEC-1細胞及び初代慢性リンパ球性白血病細胞を、100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン及び10%のウシ胎児血清を補充したRPMI培地中で維持した。使用した培地にはアセチルコリンが含まれていたが、最初の実験の後にさらに100μMのアセチルコリンを培地に加えた。続いて、細胞を24ウェルプレートに分注し(106細胞/ml)、0.1nM~1μMの濃度のペプチド(T15、T30、NBP-14及びT30+NBP-14の組み合わせ)の存在下で加湿5%二酸化炭素雰囲気中、37℃で72時間インキュベートした。さらに、ペプチドを加えなかった対照培養を行った。続いて、細胞を遠心分離によって収集し、アネキシンVアッセイを用いたフローサイトメトリーにより分析するか、またはVi-Cell XRセルバイアビリティカウンター(Beckman Coulter)を用いて計数した。
【0066】
インビトロアポトーシスの測定
培養細胞を遠心分離により収集し、次いでカルシウムリッチな緩衝液195μl中に再懸濁させた。続いて、5μlのアネキシンV(eBiosciences)を細胞懸濁液に加え、細胞を暗所で10分間インキュベートした後、洗浄した。最後に、細胞を、ヨウ化プロピジウム10μlを含むカルシウムリッチな緩衝液190μlに再懸濁した。Accuri C6フローサイトメーターを用いた二色免疫蛍光フローサイトメトリーによりアポトーシスを評価し、データをCFlowソフトウェア(BD Biosciences)を用いて分析した。
【0067】
インビトロ増殖の測定
培養細胞を遠心分離により収集し、次いでVi-Cell XRセルバイアビリティカウンター用いて計数した。次いで、各培養物中の生存細胞の数を、対照培養(ペプチドなし)中の生存細胞のパーセンテージとして表した。
【0068】
統計分析
すべての統計解析は、Graphpad Prism 6.0ソフトウェア(Graphpad Software Inc.)を用いて行った。
【0069】
インビトロ細胞傷害アッセイ
インビトロ薬物感受性は、アネキシンV/ヨウ化プロピジウムアッセイを用いて測定した。種々の細胞株及び初代細胞における単独または組合せにおける各ペプチドの効果の比較を以下に示す。
【0070】
実施例1-環状T14(すなわち、「NBP-14」)
「末端付加(tailed)」アセチルコリンエステラーゼ(T-AChE)はシナプスにおいて発現され、本発明者らは以前に、そのC末端から切断することができる2つのペプチドを特定し、一方は「T14」(14アミノ酸長)と称され、他方の「T30」(30アミノ酸長)として知られているもの中に含まれ、そして両者はβ-アミロイド相当領域に対して強い配列相同性を有する。
【0071】
線状ペプチドのアミノ酸配列、T14は、AEFHRWSSYMVHWK[配列番号3]である。
【0072】
線状ペプチドのアミノ酸配列T30は、KAEFHRWSSYMVHWKNQFDHYSKQDRCSDL[配列番号2]である。
【0073】
「T15」と呼ばれる別のペプチドは、配列番号1の最後の15個のアミノ酸残基、すなわちNQFDHYSKQDRCSDL[配列番号4]に対応する。
【0074】
AChEのC末端ペプチド「T14」は、非加水分解作用の領域を担うAChE分子の際立った部分として特定されている。合成の14個のアミノ酸のペプチド類似体(すなわち「T14」)、続いてそれが埋め込まれたより大きく、より安定で、より強力なアミノ酸配列(すなわち「T30」)は、「非コリン作動性(non-cholinergic)」AChEとして報告されているものに匹敵する作用を示す。
【0075】
最初に
図8Aを参照すると、14アミノ酸長の環状T14ペプチド(すなわち、「NBP-14」)が示されている。環状ペプチドNBP-14は、末端アラニン(A)及びリシン(K)残基を介して環化され、及び
図8Bに示されている。環化は、いくつかの異なる手段によって達成することができる。例えば、Genosphere Biotechnologies(フランス)は、線状ペプチドをN末端からC末端のラクタムに変換することによってT14の環化を行った。環状NBP-14を作製するためのT14の環化は、両端すなわちHWK-AEFを一緒に結合する。
【0076】
実施例2-MCF7及びMDA-MB-231細胞株におけるアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドの効果
本発明者らは、2つの乳癌細胞株においてアポトーシスを誘導するアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチド(NBP-14及び/またはT30)の能力を調べ、そしてその結果を
図1A及び1Bに示す。MCF7細胞は、0.1μMを超えるペプチド濃度でアポトーシスの証拠を示した。MDA-MB-231細胞株は、同じ条件下でのペプチドの影響に対して感受性が低かった。
【0077】
実施例3-KG1a AML細胞株におけるアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドの効果
KG1a細胞を72時間培養し、そのアポトーシス効果を評価し、その結果を
図2に示す。比較のため、KG1a細胞を、AMLの治療に使用される一般的に使用される細胞傷害剤であるAra-Cと共に培養した。アセチルコリンエステラーゼ由来のペプチドはKG1a細胞にいくらかの傷害性を示し、Ara-Cは0.1μMを超える濃度で用量反応を示した。
【0078】
実施例4-H929及びMEC-1 B細胞株におけるアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドの効果
アセチルコリンエステラーゼ由来のペプチドは、H929細胞及びMEC-1細胞においてわずかな細胞傷害効果を示し、その結果を
図3A及び3Bに示す。ヌクレオシド類似体フルダラビンは、両方の細胞株において用量反応を誘導した。
【0079】
実施例5-初代CLL細胞におけるアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドの効果
次に、本発明者らは、患者由来の初代CLL細胞におけるアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドの効果を調べ、その結果を
図4A及び4Bに示す。NBP-14は0.1μMを超える濃度で用量反応の証拠を示した。初代CLL細胞生存率への効果は控えめであった(1μMで~20%のアポトーシス)。本発明者らは次に、この反応を非遺伝毒性抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ)と比較した。リツキシマブは、NBP-14と比較して、薬剤の臨床的に使用される濃度でより顕著な用量反応を誘導した。
【0080】
実施例6-正常Bリンパ球及びTリンパ球におけるアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドのアポトーシス効果
正常(非悪性)細胞におけるアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドの影響を評価するために、健常なボランティアからBリンパ球及びTリンパ球を単離した(n=3)。結果を
図5に示す。試験したペプチドは、Bリンパ球及びTリンパ球においてわずかな傷害性しか示さなかった。
【0081】
実施例7-細胞株の増殖におけるアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドの効果
次に本発明者らは、アセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドが細胞静止を誘導する能力、すなわちこの研究で用いられる様々な細胞株における増殖を阻害する能力を調べた。結果を
図6A及び6Bに示す。2つの乳癌細胞株は、アセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドとのインキュベーション後に異なる反応を示した。より増殖性の細胞株MDA-MB-231は、T15対照ペプチドと比較した場合、NBP-14ペプチド濃度が0.1μMを超えると、増殖の有意な減少を示した。この効果は、増殖性の低いMCF7細胞株ほど有意なものではなかった。MDA-MB-231細胞株が、サブナノモル濃度のT30及びNBP-14+T30の存在下で増加した増殖を示したことは注目に値する。
【0082】
図7A~Cを参照すると、KG1a細胞株、MEC-1細胞株及びH929細胞株はすべて、0.1μMを超えるNBP-14濃度でのインキュベーション後の増殖の減少を示した。比較のために、Ara-C(KG1a細胞)及びフルダラビン(MEC-1及びH929細胞)の効果を示す。
【0083】
結論
1.NBP-14は、濃度>0.1μMで試験した各細胞株において中程度のアポトーシス効果を示した。MCF7細胞は、NBP-14に対する感受性が相対的に高かったが、対照ペプチド(T15)及び毒性ペプチド(T30)と比較した場合、これらの細胞において優先的な細胞傷害性ではなかった。
【0084】
2.試験されたペプチドのいずれも、正常Bリンパ球及びTリンパ球において有意な細胞傷害効果を示さないようであった。
【0085】
3.NBP-14は、遊走性細胞株であるMDA-MB-231細胞において明らかな抗増殖活性を示した。ペプチドの濃度>0.1μMでのKG1a細胞、MEC-1細胞及びH929細胞においても同様の効果が観察された。MCF7細胞おける抗増殖効果はそれほど顕著ではなかったが、これは本研究で使用された全ての細胞株のもっとも遅い増殖である。
【0086】
4.NBP-14の正常細胞における毒性のないことは有望である。
【0087】
5.NBP-14を含むアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドは、抗転移効果を示す。
【0088】
上記の知見に基づいて、本発明者らは、末端付加アセチルコリンエステラーゼ、特にNBP-14、すなわち配列番号3のC末端に由来する環状ペプチドが、癌を治療し、転移を予防するために使用できることを実証した。したがって、これらの環状ペプチドは、固形腫瘍または転移性腫瘍を化学療法/放射線療法で治療するためのアジュバントとして使用することができる。このことは、化学療法及び/または放射線療法のより低い用量及び暴露時間が必要とされることを意味する。
【0089】
実施例8-癌細胞株及び初代CLL試料における遊走に対するNBP-14の効果
図8Bに示すNBP-14の潜在的な抗遊走(抗転移)活性を評価するために、以下のアッセイを行った:
1.トランスウェルアッセイを用いたKG1a(急性骨髄性白血病細胞株)、JJN3(多発性骨髄腫細胞株)及び乳癌細胞株(MDA-MB-231及びMCF-7)のインビトロ遊走に対するNBP-14の効果を調べる。
【0090】
2.トランスウェルアッセイを用いた初代CLLサンプルのインビトロでの遊走に対するNBP-14の効果を調べる。
【0091】
3.正常B細胞の遊走に対するNBP-14の効果を評価する。
【0092】
MDA-MB-231、KG1a、及びMEC-1細胞は、高遊走性の癌細胞株である。JJN3、CLL及びMCF-7は、低遊走性の癌細胞株である。Bリンパ球は正常な非癌性細胞である。
【0093】
理論的根拠
先の実施例1~7は、アセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドが、ヒト転移性乳癌細胞株におけるエンドサイトーシス活性を阻害することを示した。以下の実施例は、NBP-14ペプチドが、多数の細胞株及び患者由来の初代白血病細胞の遊走を阻害する可能性を有するかどうかを立証するために設計された。
【0094】
目標
1.NBP-14がヒトのインビトロ癌モデルの範囲内で腫瘍細胞遊走を阻害できるかどうかを決定すること。
【0095】
2.正常Bリンパ球の遊走に対するNBP-14の効果を評価すること。
【0096】
材料及び方法
KG1a、JJN3、MCF7、MDA-MB-231及び初代CLL細胞及び正常B細胞培養条件
急性骨髄性白血病(AML)KG1a細胞株を、100単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン及び5%ウシ胎仔血清を補充したRPMI培地(Invitrogen)中で維持した。多発性骨髄腫(MM)細胞株JJN3、2つの乳癌細胞株(MCF7及びMDA-MB-231)初代慢性リンパ球性白血病細胞及び正常Bリンパ球を、100単位/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン及び5%のウシ胎仔血清を補充したRPMI培地で維持し、さらに、100μMのアセチルコリンを培養培地に添加して、アセチルコリンの利用可能性がこれらの実験における制限因子でないことを確実にした。
【0097】
遊走アッセイ
6.0μmの孔径のトランスウェル遊走プレート(Costar、Corning、N.Y.)を用いてインビトロ遊走アッセイを実施した。500μlのRPMI培地中の合計106のCLL細胞をトランスウェル挿入体の上部チャンバーに加えた。100ng/mlのCXCL12を、KG1a細胞とは別に試験した全ての細胞型について基底側部チャンバーに添加した。これらの細胞はCXCR4を発現しないため、CXCL12には反応しない。代わりに、これらの実験において、10%ウシ胎仔血清を含有する培地を基底側部チャンバーに添加した。プレートを0.1nM~10μMの濃度でペプチド(T15、T30、NBP-14及びT30+NBP-14の組み合わせ)の存在下、5%CO2中、37℃、24時間インキュベートした。さらに、ペプチドを加えなかった対照培養を行った。続いて細胞を遠心分離により収集し、Accuri C6フローサイトメーター(BD)を用いてフローサイトメトリーにより分析した。試験した条件のいずれも培養物中で有意な細胞死を誘導しなかった。CLL細胞の遊走は、トランスウェルプレートの下部(基底側部)チャンバーに遊走した細胞を計数し、次に上部(頂端)チャンバーに最初に添加した細胞の総数のパーセンテージとして表した。
【0098】
統計分析
すべての統計解析は、Graphpad Prism 6.0ソフトウェア(Graphpad Software Inc.)を用いて行った。
【0099】
結果
アセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドであるNBP-14が、用量依存的に多数の癌細胞株の遊走を変化させたかどうかを決定するために、最初の実験を行った。
図9を参照すると、試験した細胞株は、異なるベースラインレベルの遊走(ペプチド対照なし)を示したが、1μM以上の濃度でNBP-14と培養した場合、4つの細胞株のうち3つは有意な遊走の減少を示した。MCF7細胞のみが有意な遊走の減少を示さなかったが、これらの細胞はいずれの場合においても対照(ペプチドなし)条件下で最小の遊走能力を示した。
【0100】
実施例9-MCF7及びMDA-MB-231細胞株におけるアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドの効果
本発明者らは次に、24時間のトランスウェル実験において2つの乳癌細胞株における遊走を阻害するペプチド1μMの能力を調べた。
図10を参照すると、MCF7細胞は弱い転移性しか有さないが、MDA-MB-231細胞は高い転移性である。したがって、MCF7細胞は、MDA-MB-231細胞と比較して24時間での遊走が少なかった。NBP-14はMCF7細胞遊走にほとんど効果がなかった(P=0.17)。対照的に、MDA-MB-231細胞の遊走をNBP-14によって有意に阻害した(P<0.0001)。T15ペプチドもT30ペプチドもMCF7細胞の遊走に有意な効果を示さなかったが、1μMのT30ペプチドはMDA-MB-231細胞の遊走を有意に阻害した(P=0.03)。さらに、T30ペプチドは、NBP-14よりも遊走を阻害する効果が有意に少なかった(P=0.0013)。
【0101】
実施例10-KG1a急性骨髄性白血病細胞株におけるアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドの効果
KG1a細胞をペプチドとともに24時間培養し、それらの遊走への影響を評価した。
図11を参照すると、NBP-14(1μM)は、未処置(ペプチドなし)対照と比較した場合、KG1a細胞の遊走を有意に阻害した(P=0.0017)。対照的に、T15及びT30ペプチドを含むKG1a細胞の培養は、それらの遊走能を変化させなかった(それぞれP=0.30及びP=0.14)。
【0102】
実施例11-JJN3多発性骨髄腫細胞株におけるアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドの効果
図12を参照すると、MDA-MB-231細胞株データと一致して、T15ペプチドは遊走に有意な効果を示さなかった(P=0.43)が、T30及びNBP-14は有意にJJN3細胞の遊走を阻害した(それぞれP=0.05及びP=0.0001)。NBP-14は、T30と比較して有意により大きい程度で遊走を阻害し(P=0.0003)及び試験した条件下のNBP-14単独の場合と比較してNBP-14とT30ペプチドの組み合わせ(両方とも1μM)はJJN3細胞遊走を有意に変化させなかった(P=0.15)。
【0103】
実施例12-初代CLL細胞におけるアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドの効果
本発明者らは次に、10人の患者由来の初代CLL細胞の遊走活性に対するペプチドの効果を調べた。
図13を参照すると、24時間で試験したCLL細胞の遊走能力にはかなりの患者間変動があった(範囲3.5%~12.4%)。1μMのT15またはT30ペプチドでの処置は、これを有意に変化させなかった(それぞれP=0.36及びP=0.11)が、NBP-14は遊走の有意な減少を誘導した(P=0.0046)。T30+NBP-14の組み合わせは、NBP-14単独(P=0.65)に対しCLL細胞の遊走を阻害するのにそれほど効果的ではなかった。
【0104】
実施例13-正常Bリンパ球におけるアセチルコリンエステラーゼ由来ペプチドの効果
正常(非悪性)細胞に対するペプチドの効果を評価するために、Bリンパ球を正常健常人ボランティアから単離した(n=5)。
図14を参照すると、NBP-14は正常B細胞遊走の有意な減少を誘導した(P=0.037)が、T15及びT30ペプチドは有意な効果を示さなかった(それぞれP=0.43及びP=0.086)。T30+NBP-14の組み合わせは、NBP-14単独(P=0.57)と比較した場合、正常B細胞の遊走を有意に変化させなかった。
【0105】
実施例14-CLL細胞及び正常B細胞におけるNBP-14の抗遊走効果の比較
図15を参照すると、NBP-14は、初代CLL細胞及び正常B細胞の両方の遊走活性を有意に阻害した。正常及び悪性B細胞のベースライン遊走の分析は、24時間で遊走した細胞のパーセンテージにおいて有意差を示さなかった(P=0.4)。それらの同様の固有の遊走能にもかかわらず、初代CLL細胞は、正常B細胞と比較した場合、NBP-14の抗遊走効果に対して有意に感受性が高かった(P=0.0002)。
【0106】
実施例15-ベースライン遊走とNBP-14に対する反応との関係
本発明者らは、1μMのNBP-14によって誘発された遊走の減少率に対して、試験した各細胞株及び初代細胞の平均遊走ベースラインパーセントをプロットした。
図16を参照すると、遊走ベースラインのレベルとNBP-14に対する抗遊走反応との間に明確な関係があった。高い遊走ベースラインパーセントは、大きな遊走の減少パーセントと関連していた。この関係は、正常B細胞が分析から除かれたときにさらにより強まった。
【0107】
実施例16-様々な細胞タイプ及びNBP-14への暴露前の遊走ベースラインの比較
本発明者らは、試験下の様々な細胞株についての遊走ベースラインパーセンテージ(すなわち、対照)を調べ、その結果を
図17に示す。
【0108】
次に、これらの対照値を、1μM NBP-14への曝露後の各細胞株と比較して、その結果を
図18に示す。全ての細胞型について、細胞遊走の有意な減少が見られる。言い換えれば、すべての細胞株において転移の明らかな減少がある。
【0109】
結論
1.NBP-14は、対照(ペプチドなし)条件下で最も低いベースの遊走を示したMCF7細胞を除いて、試験した全ての細胞株において有意な抗遊走効果を示し、これらの細胞の既知の低転移能を保持する観察を示した。用量反応分析は、NBP-14が≧1μMの濃度で遊走を阻害するのに有効であることを明らかにした。したがって、続く対照ペプチド(T15)及び毒性ペプチド(T30)とのすべての比較は、1μMで行った。
【0110】
2.試験した条件下で、いずれのペプチドも細胞株または初代悪性及び非悪性B細胞において有意な細胞傷害効果を誘導しなかった。したがって、観察された遊走の減少は、培養物中の増殖した細胞死によって引き起こされたものではなかった。
【0111】
3.毒性ペプチド(T30)とNBP-14との組み合わせは、評価した細胞株及び初代細胞のいずれにおいてもNBP-14単独と比較した場合、遊走に対して有意な効果を有さなかった。
【0112】
4.初代CLL細胞は、その遊走能力においてベースライン異質性を示した。しかしながら、NBP-14は、これらの初代腫瘍細胞における遊走を有意に減少させることができた。
【0113】
5.初代CLL細胞は、正常B細胞よりもNBP-14の抗遊走効果に対して感受性が高かった。これは、NBP-14が、特に転移が起こりやすい腫瘍において、抗癌治療剤としての有用性を有することを示唆している。
【0114】
6.試験した全ての細胞株において、細胞遊走または転移の有意な減少がある。
【配列表】