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  • 特許-零相電流抑制リアクトル、巻線 図1
  • 特許-零相電流抑制リアクトル、巻線 図2
  • 特許-零相電流抑制リアクトル、巻線 図3
  • 特許-零相電流抑制リアクトル、巻線 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】零相電流抑制リアクトル、巻線
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20220506BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
H01F37/00 M
H01F37/00 C
H01F27/28 135
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018004262
(22)【出願日】2018-01-15
(65)【公開番号】P2019125647
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】塩田 広
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06101113(US,A)
【文献】特開2017-005898(JP,A)
【文献】特開2008-053613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 37/00
H01F 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相電路にそれぞれ接続される3つの巻線導体を軸方向に並べて巻回した零相電流抑制リアクトルであって、
それぞれの前記巻線導体は、軸方向の両端に位置する巻き始め端と巻き終わり端とが周方向において同じ位置になっているとともに巻き始め端が周方向を3等配した位置になっており、他の前記巻線導体と軸方向において並列になっている部位の長さがそれぞれ等しくなるように巻回されている零相電流抑制リアクトル。
【請求項2】
前記巻線導体は、鉄心の外周に巻回されるものである請求項1記載の零相電流抑制リアクトル。
【請求項3】
前記巻線導体は、二脚鉄心の各脚部にそれぞれ巻回されるものであり、
各脚部の前記巻線導体は、電気的に直列または並列に接続されている請求項1または2記載の零相電流抑制リアクトル。
【請求項4】
前記巻線導体は、二脚鉄心の各脚部にそれぞれ巻回されるものであり、
各脚部に巻回されている前記巻線導体のうちの1つは、巻き始め端および巻き終わり端が、2つの脚部の中心を通る仮想線上であってそれぞれの脚部の外側に位置するように配置されている請求項1から3のいずれか一項記載の零相電流抑制リアクトル。
【請求項5】
三相電路にそれぞれ接続される3つの巻線導体を軸方向に並べて巻回した巻線であって、
それぞれの前記巻線導体は、軸方向の両端に位置する巻き始め端と巻き終わり端とが周方向において同じ位置になっているとともに巻き始め端が周方向を3等配した位置になっており、他の前記巻線導体と軸方向において並列になっている部位の長さがそれぞれ等しくなるように巻回されている巻線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、零相電流を抑制する零相電流抑制リアクトル、巻線に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、いわゆるパワーエレクトロニクス装置が電力系統においても多方面で採用されるようになり、それに伴って種々の課題が浮上してきた。例えば、インバータなどのパワーエレクトロニクス装置はその動作に伴って高調波電流が流出する可能性があり、各高調波成分に含まれる零相電流すなわち三相間で大きさが等しく位相が同相である成分が電路に流出すると、互いに打ち消し合わないことから、電路の周辺では誘導障害や電波障害を誘発するおそれがあった。そのため、パワーエレクトロニクス装置から流出する零相電流を抑制するために、零相電流抑制リアクトルを採用することがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-103455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような零相電流抑制リアクトルは、三相の電路にそれぞれ接続される3つの巻線導体が巻回され、それぞれの巻線導体間を磁気的に密結合させた構成となっているが、電路中に零相電流が流れにくくする抑制効果を有する必要がある一方、零相電流以外の成分の電流に対しては妨げとならないことが望ましい。
【0005】
しかしながら、各相の巻線導体の磁気的な結合が不均等であると、電路中の零相電流の抑制効果が低減するという問題があることに加え、零相電流以外の成分の電流の妨げになることもある。
【0006】
そこで、零相電流の抑制効果を向上させることができるとともに、零相電流以外の成分の電流の妨げになるおそれを低減することができる零相電流抑制リアクトル、巻線を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の零相電流抑制リアクトルは、三相電路にそれぞれ接続される3つの巻線導体を軸方向に並べて巻回したものであって、それぞれの巻線導体が、巻き始め端と巻き終わり端とが周方向において同じ位置になっているとともに巻き始め端が周方向を3等配した位置になっており、他の巻線導体と並列になっている部位の長さがそれぞれ等しくなるように巻回されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】零相電流抑制リアクトルの構成および巻回態様を模式的に示す図
図2】巻線導体の巻回態様を模式的に示す図
図3】巻線導体の巻回態様を鉄心とともに模式的に示す図
図4】零相電流抑制リアクトルの電気的な特性を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0010】
図1は、本実施形態による零相電流抑制リアクトル1の構成および巻回態様を示すものであり、筒状に形成されている零相電流抑制リアクトル1を周方向に展開した状態を模式的に示している。図1の場合、右端側が周方向における0度の位置を示し、左端側が360度つまりは1周した0度の位置を示している。なお、図1では、説明のために、各巻線導体2にはそれぞれ異なるハッチングを付して区別し易く示している。
【0011】
この零相電流抑制リアクトル1は、U相、V相およびW相の三相に対応する3本の巻線導体2を並列に配置した状態で巻回することにより構成されている。各巻線導体2は、例えば複数本のリッツ線を束ねて平角状に形成したものや1本あるいは複数本の平角状の導体を用いたものが、その断面視において長手方向に隣り合うように並列に配置された状態で共に巻回されている。また、巻線導体2は、その表面に絶縁テープ等を巻き付けることにより絶縁されている。
【0012】
以下、それぞれの相に対応する巻線導体2について説明する場合には、符号に「u」、「v」または「w」を付して説明する。また、以下、各巻線導体2が隣り合っている方向を軸方向と称する。
【0013】
零相電流抑制リアクトル1の場合、W相の巻線導体2wは、周方向における0度の位置が巻き始め(0T)となり、複数回巻回された後、360度の位置が巻き終わり(7T)となるように巻回されている。つまり、W相の巻線導体2wの場合、0度の位置が巻き始め端となり、360度の位置が巻き終わり端となっている。
【0014】
また、V相の巻線導体2vは、周方向における120度の位置が巻き始め端となり、複数回巻回された後、120度の位置が巻き終わり端となるように巻回されており、U相の巻線導体2uは、周方向における240度の位置が巻き始め端となり、複数回巻回された後、240度の位置が巻き終わり端となるように巻回されている。図1では、U相の巻線導体2uの巻き始め端を「U」、巻き終わり端を「Ou」、V相の巻線導体2uの巻き始め端を「V」、巻き終わり端を「Ov」、W相の巻線導体2uの巻き始め端を「W」、巻き終わり端を「Ow」として示している。
【0015】
つまり、各巻線導体2は、巻き始め端と巻き終わり端とが周方向において同じ位置になるように巻回されているとともに、巻き始め端が周方向を3等配した位置すなわち互いに周方向に120度ずれた位置となるように巻回されている。なお、図1ではW相の巻線導体2wの巻き始め端を便宜上0度の位置として示しているが、U相の巻線導体2uの巻き始め位置あるいはV相の巻線導体2vの巻き始め位置を0度とする等、任意の位置を0度に設定することができる。また、各巻線導体2の巻回回数は一例であり、これに限定されるものではない。
【0016】
このような構成の零相電流抑制リアクトル1は、図2に示すように、二脚鉄心3の脚部3aの外周に巻回される。このとき、零相電流抑制リアクトル1は、いずれかの巻線導体2の巻き始め端が、脚部3aの中心を通る仮想線(CL)上であって脚部3aの外側に位置するように配置されている。図2の場合、零相電流抑制リアクトル1は、U相の巻線導体2uの巻き始め端が、仮想線(CL)上に位置するように巻回されている。この場合、環状に形成される二脚鉄心3に、いわゆるギャップのような不連続部を設ける構成とすることもできる。
【0017】
また、図3に示すように巻線導体2を二脚鉄心3の2つの脚部3aにそれぞれ巻回した場合にも、例えばU相の巻線導体2uの巻き始め端が、脚部3aの中心を通る仮想線(CL)上であって脚部3aの外側に位置するように配置する構成とすることもできる。このとき、各脚部3aの巻線導体2を電気的に直列または並列に接続する構成とすることもできる。なお、U相の巻線導体2の代わりに、V相の巻線導体2vあるいはW相の巻線導体2wが仮想線(CL)上に位置するように巻回する構成とすることもできる。
【0018】
次に、上記した構成の作用について説明する。
【0019】
前述のように、零相電流抑制リアクトル1は、電路中に零相電流が流れにくくする抑制効果を有する必要がある一方、零相電流以外の成分の電流に対しては妨げとならないことが望ましいものの、各相の巻線導体2の磁気的な結合が不均等であると電路中の零相電流の抑制効果が低減したり、零相電流以外の成分の電流の妨げになることがある。
【0020】
そこで、本実施形態では、各巻線導体2の磁気的な結合を均一化することにより、零相電流の抑制効果を向上させることができるとともに、零相電流以外の成分の電流の妨げになるおそれを低減することができるようにしている。
【0021】
図4は、零相電流抑制リアクトル1の等価回路を示している。ここで、零相電流(i0)は、以下の(1)式で示されるように、各相の巻線導体2に流れる電流(iu、iv、iw)に含まれる任意の周波数ごとの、同相且つ同一の大きさの成分の合計となっている。
【0022】
【数1】
【0023】
また、零相電流抑制リアクトル1に要求される仕様としては、大きく言えば以下の2つがある。
(1)零相電流(i0)を極小化する。
(2)零相成分以外の電流に対するインダクタンスを極小化する。
【0024】
この場合、各相のインダクタンス(Lu、Lv、Lw)を等しくすれば、より具体的に言えば、以下の(2)式から(4)式にて表されるU相-V相間の相互インダクタンス(Muv)、V相-W相間の相互インダクタンス(Mvw)およびW相-U相間の相互インダクタンス(Mwu)を等しくすれば、上記の仕様を満たすことができる。
【0025】
【数2】
【0026】
そして、上記の(2)式から(4)式を満たすためには、図1に示したように、それぞれの巻線導体2を、巻き始め端と巻き終わり端とが周方向において同じ位置になるようにするとともに巻き始め端が周方向に3等配した位置になるように巻回すればよい。より詳細には、U相の巻線導体2uは、図1から明らかなようにV相の巻線導体2vと幾何学的に6巻き+1/3巻き+1/3巻き=6+2/3巻き分だけ並列になっているとともに、W相の巻線導体2wとも幾何学的に6+2/3巻き分だけ並列になっている。
【0027】
同様に、V相の巻線導体2vは、U相の巻線導体2uと幾何学的に6+2/3巻き分だけ並列になっているとともに、W相の巻線導体2wとも幾何学的に6+2/3巻き分だけ並列になっている。また、W相の巻線導体2wは、U相の巻線導体2uと幾何学的に6+2/3巻き分だけ並列になっているとともに、V相の巻線導体2wとも幾何学的に6+2/3巻き分だけ並列になっている。
【0028】
つまり、各巻線導体2は、他の二相の巻線導体2と並列になっている部位の長さが、それぞれ等しく6+2/3巻き分となっている。このように各巻線導体2の幾何学的な配置を等しくすることにより、各巻線導体2間の磁気的な結合が均一化される。そして、各巻線導体2間の磁気的な結合が均一化されれば、それぞれの相互インダクタンス(Muv、Mvw、Mwu)が等しくなり、各相のインダクタンス(Lu、Lv、Lw)が等しくなる。これにより、零相電流抑制リアクトル1は、要求される上記した(1)、(2)の仕様を満たすことができるようになる。
【0029】
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
【0030】
零相電流抑制リアクトル1は、それぞれの巻線導体2が、巻き始め端と巻き終わり端とが周方向において同じ位置になっているとともに巻き始め端が周方向を3等配した位置になっており、他の巻線導体2と並列になっている部位の長さがそれぞれ等しくなるように巻回されている。
【0031】
これにより、各相の巻線導体2は他の巻線導体2に対する幾何学的な配置がそれぞれ等しくなり、相互インダクタンスが等しくなることから、各巻線導体2間の磁気的な結合が均一化される。これにより、各相のインダクタンス(Lu、Lv、Lw)が等しくなり、零相電流抑制リアクトル1に要求される仕様を満たすことから、零相電流の抑制効果を向上させることができるとともに、零相電流以外の成分の電流の妨げになるおそれを低減することができる。
【0032】
また、上記した巻線構造によれば、他の巻線導体2に対する幾何学的な配置をそれぞれ等しくする状態を、零相電流抑制リアクトル1の軸方向の長さつまりは高さ寸法を最小とした状態で実現することができ、小型化を図ることができる。
【0033】
また、巻線導体2は、二脚鉄心3のような鉄心の脚部3aに巻回することもできる。これにより、磁気抵抗を下げることができ、磁束が増えてインダクタンスを増加させることができる。また、鉄心にギャップを設けることにより、磁気飽和が緩和されて一定のインダクタンスを得ることができる。また、各脚部3aの巻線導体2を電気的に直列または並列に接続することにより、要求される様々な仕様に対応させることができる。
【0034】
また、巻線導体2の巻き始め端と巻き終わり端とが周方向において同じ位置になっているとともに巻き始め端が周方向を3等配した位置になっており、他の巻線導体2と並列になっている部位の長さがそれぞれ等しくなるように巻回されている巻線であっても、実施形態の零相電流抑制リアクトル1と同様に、零相電流の抑制効果を向上させることができるとともに、零相電流以外の成分の電流の妨げになるおそれを低減することができ、また、小型化を図ることができる等、同様の効果を得ることができる。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
図面中、1は零相電流抑制リアクトルおよび巻線、2は巻線導体、3は二脚鉄心(鉄心)、3aは脚部、CLは仮想線を示す。
図1
図2
図3
図4