(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 27/06 20060101AFI20220506BHJP
F16C 27/00 20060101ALI20220506BHJP
F16C 27/02 20060101ALI20220506BHJP
F16C 17/03 20060101ALI20220506BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20220506BHJP
F01D 25/16 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
F16C27/06 A
F16C27/00 A
F16C27/02 Z
F16C17/03
F04B39/00 103J
F01D25/16 B
(21)【出願番号】P 2018041405
(22)【出願日】2018-03-08
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山脇 映明
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特表平07-505945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 21/00-27/08
F16C 17/03
F04B 39/00
F01D 25/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を回転自在に支持するための軸受部と、
前記軸受部の外周側に設けられ、少なくとも一つの油膜形成隙間を挟んで互いに対向するインナリング及びアウタリング含むスクイズフィルムダンパと、
前記インナリングと前記アウタリングとを接続するとともに、前記インナリングを前記アウタリングに弾性的に支持するブリッジ部と、
を備え、
前記ブリッジ部の少なくとも一部は、スリットを介して前記インナリング又は前記アウタリングの壁面と対向し、
前記インナリングの最大変位時における、前記ブリッジ部の外表面と前記壁面との最大接触面積をSmaxとしたとき、前記ブリッジ部は、前記インナリングの変位が規定値以上となったとき、前記変位の増加に伴い、前記ブリッジ部の前記外表面と前記壁面との接触面積SがSmax未満の範囲内で増加するように構成され、
前記ブリッジ部は、前記変位の増加に伴い、前記接触面積Sが連続的に増加するように構成され、
前記ブリッジ部の少なくとも一部において、前記スリットは、隙間の大きさが連続的に異なるように構成され、該隙間において前記ブリッジ部の外表面と前記壁面とが連続的に接触するように構成された
ことを特徴とする軸受装置。
【請求項2】
前記ブリッジ部は、少なくとも一つの曲り部を有することを特徴とする請求項
1に記載の軸受装置。
【請求項3】
回転軸を回転自在に支持するための軸受部と、
前記軸受部の外周側に設けられ、少なくとも一つの油膜形成隙間を挟んで互いに対向するインナリング及びアウタリング含むスクイズフィルムダンパと、
前記インナリングと前記アウタリングとを接続するとともに、前記インナリングを前記アウタリングに弾性的に支持するブリッジ部と、
を備え、
前記ブリッジ部の少なくとも一部は、スリットを介して前記インナリング又は前記アウタリングの壁面と対向し、
前記ブリッジ部は、前記スリットに開口する少なくとも一つの切欠きを含み、
前記ブリッジ部の外表面と前記壁面との第1接触面積、および、前記切欠きを挟んで互いに対向する前記ブリッジ部の外表面同士の第2接触面積の合計接触面積をS’とし、
前記インナリングの最大変位時における前記合計接触面積をS’maxとしたとき、
前記ブリッジ部は、前記インナリングの変位が規定値以上となったとき、前記変位の増加に伴い、前記合計接触面積S’がS’max未満の範囲内で増加するように構成されることを特徴とする軸受装置。
【請求項4】
前記ブリッジ部は、前記変位の増加に伴い、前記合計接触面積S’が段階的に増加するように構成された請求項
3に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記切欠きは、前記インナリングの変位時に前記ブリッジ部の圧縮荷重が加わる部位に形成されることを特徴とする請求項
3又は4に記載の軸受装置。
【請求項6】
前記ブリッジ部は、少なくとも一つの曲り部を有し、
前記切欠きは前記曲り部に形成されることを特徴とする請求項
5に記載の軸受装置。
【請求項7】
前記切欠きは、隙間の大きさが異なる複数の切欠きで構成されることを特徴とする請求項
3乃至6の何れか一項に記載の軸受装置。
【請求項8】
回転軸と、
請求項1乃至
7の何れか一項に記載の軸受装置と、
を備えることを特徴とする回転機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軸受装置及び該軸受装置を備える回転機械に関する。
【背景技術】
【0002】
コンプレッサや蒸気タービン等の回転機械においては、回転軸系の安定支持が課題の一つとなっている。この課題を解決するためには、回転軸を支持する軸受部の支持特性(減衰、剛性等)を向上させることが効果的であり、この観点からの検討がなされている。
特許文献1には、インナリングとアウタリングとの間に形成された隙間に油が供給され、回転軸が振動し上記隙間が変位するとき、粘性をもった非圧縮性の油が該隙間を流動することで、回転軸の振動を減衰する効果を発揮させるスクイズフィルムダンパが開示されている。
また、インナリングとアウタリングとの間に弾性部を介在させることで、軸受部の剛性を小さくし、減衰効果を高める手段も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
弾性部を備えるスクイズフィルムダンパにおいては、外部衝撃や経年劣化により弾性部に損傷等が生じたとき、あるいは弾性部に過大な荷重が負荷されたとき、該弾性部が一気につぶれて該弾性部の剛性が一気に増加する。これによって、軸受パッドで支持している回転軸の支持位置が急激に変化し、回転軸系に急激な変化を与えるおそれがある。
【0005】
一実施形態は、スクイズフィルムダンパに設けられる弾性部に損傷等が生じた場合又は過大な荷重が負荷されたとき、弾性部の剛性をゆるやかに変化させるようにし、その影響を最小化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)一実施形態に係る軸受装置は、
回転軸を回転自在に支持するための軸受部と、
前記軸受部の外周側に設けられ、少なくとも一つの油膜形成隙間を挟んで互いに対向するインナリング及びアウタリング含むスクイズフィルムダンパと、
前記インナリングと前記アウタリングとを接続するとともに、前記インナリングを前記アウタリングに弾性的に支持するブリッジ部と、
を備え、
前記ブリッジ部の少なくとも一部は、スリットを介して前記インナリング又は前記アウタリングの壁面と対向し、
前記インナリングの最大変位時における、前記ブリッジ部の外表面と前記壁面との最大接触面積をSmaxとしたとき、前記ブリッジ部は、前記インナリングの変位が規定値以上となったとき、前記変位の増加に伴い、前記ブリッジ部の前記外表面と前記壁面との接触面積SがSmax未満の範囲内で増加するように構成される。
【0007】
上記(1)の構成によれば、上記ブリッジ部は、インナリングの変位が規定値以上となったとき、ブリッジ部の外表面とインナリング又はアウタリングの壁面との接触面積SがSmax未満の範囲内で増加する。これによって、ブリッジ部の剛性を急激に増加させないため、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0008】
(2)一実施形態では、前記(1)の構成において、
前記ブリッジ部は、前記インナリングの変位が規定値以上となったとき、前記変位の増加に伴い、前記接触面積Sが段階的に増加するように構成される。
上記(2)の構成によれば、ブリッジ部は、接触面積Sが段階的に増加するため、ブリッジ部の剛性を段階的に増加させることができる。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0009】
(3)一実施形態では、前記(2)の構成において、
前記スリットは、隙間の大きさが異なる複数の領域を有し、前記複数の領域で前記ブリッジ部の外表面と前記壁面とが段階的に接触するように構成される。
上記(3)の構成によれば、スリットが複数の領域でブリッジ部の外表面とインナリング又はアウタリングの壁面とが段階的に接触するため、ブリッジ部の剛性を段階的に増加させることができる。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0010】
(4)一実施形態では、前記(2)の構成において、
前記スリットは、前記インナリングの壁面と対向する第1スリットと前記アウタリングの壁面と対向する第2スリットとを含み、
前記第1スリットと前記第2スリットとは互いに異なる大きさの隙間を有する領域を含む。
上記(4)の構成によれば、ブリッジ部に荷重が付加された場合、上記領域でスリットを構成する壁面は時間差をもって接触するため、ブリッジ部の剛性を段階的に増加させることができる。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0011】
(5)一実施形態では、前記(1)の構成において、
前記ブリッジ部は、前記変位の増加に伴い、前記接触面積Sが連続的に増加するように構成される。
上記(5)の構成によれば、ブリッジ部は、インナリングの変位の増加に伴い、接触面積Sが連続的に増加するため、ブリッジ部の剛性を連続的に増加させることができる。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0012】
(6)一実施形態では、前記(5)の構成において、
前記ブリッジ部の少なくとも一部において、前記スリットは、隙間の大きさが連続的に異なるように構成され、該隙間において前記ブリッジ部の外表面と前記壁面とが連続的に接触するように構成される。
上記(6)の構成によれば、スリットを構成する壁面が連続的に接触するので、ブリッジ部の剛性を連続的に増加させることができる。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0013】
(7)一実施形態では、前記(1)~(6)の何れかの構成において、
前記ブリッジ部は、少なくとも一つの曲り部を有する。
上記(7)の構成によれば、ブリッジ部は少なくとも一つの曲り部を有するため、回転軸からインナリングを介してブリッジ部に加わる荷重に対して、ブリッジ部の剛性を小さくができる。また、ブリッジ部が曲り部を有することで、スリットにも曲り部が形成されるので、スリットに段階的に又は連続的に接触可能な領域を形成しやすくなる。
【0014】
(8)一実施形態に係る軸受装置は、
回転軸を回転自在に支持するための軸受部と、
前記軸受部の外周側に設けられ、少なくとも一つの油膜形成隙間を挟んで互いに対向するインナリング及びアウタリング含むスクイズフィルムダンパと、
前記インナリングと前記アウタリングとを接続するとともに、前記インナリングを前記アウタリングに弾性的に支持するブリッジ部と、
を備え、
前記ブリッジ部の少なくとも一部は、スリットを介して前記インナリング又は前記アウタリングの壁面と対向し、
前記ブリッジ部は、前記スリットに開口する少なくとも一つの切欠きを含み、
前記ブリッジ部の外表面と前記壁面との第1接触面積、および、前記切欠きを挟んで互いに対向する前記ブリッジ部の外表面同士の第2接触面積の合計接触面積をS’とし、
前記インナリングの最大変位時における前記合計接触面積をS’maxとしたとき、
前記ブリッジ部は、前記インナリングの変位が規定値以上となったとき、前記変位の増加に伴い、前記合計接触面積S’がS’max未満の範囲内で増加するように構成される。
【0015】
上記(8)の構成によれば、ブリッジ部は、インナリングの変位が規定値以上となったとき、該変位の増加に伴い、合計接触面積S’がS’max未満の範囲内で増加するため、ブリッジ部の剛性を急激に増加させない。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0016】
(9)一実施形態では、前記(8)の構成において、
前記ブリッジ部は、前記変位の増加に伴い、前記接触面積Sが段階的に増加するように構成される。
ブリッジ部は、上記切欠きを有するため、インナリングの変位の増加に伴い、切欠きとスリットの他の部位とで接触時期を異ならせることができる。従って、接触面積Sが段階的に増加するため、ブリッジ部の剛性を急激に増加させない。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0017】
(10)一実施形態では、前記(8)又は(9)の構成において、
前記切欠きは、インナリングの変位時にブリッジ部の圧縮荷重が加わる部位に形成される。
上記(10)の構成によれば、切欠きは圧縮荷重が加わる部位に形成されるため、切欠きを挟んで互いに対向するブリッジ部の外表面同士が該圧縮荷重によって接触できる。また、切欠きの壁面の接触時期とスリットの他の部位の接触時期とに時間差をもたせるようにすることで、ブリッジ部の剛性を急激に増加させないようにすることができる。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0018】
(11)一実施形態では、前記(10)の構成において、
前記ブリッジ部は、少なくとも一つの曲り部を有し、
前記切欠きは前記曲り部に形成される。
上記(11)の構成によれば、ブリッジ部に圧縮荷重が付加したとき、曲り部に該圧縮荷重が負荷される。切欠きは圧縮荷重が付加される曲り部に形成されるため、切欠きを挟んで互いに対向するブリッジ部の外表面同士が該圧縮荷重によって接触できる。
【0019】
(12)一実施形態では、前記(8)~(11)の何れかの構成において、
前記切欠きは、隙間の大きさが異なる複数の切欠きで構成される。
上記(12)の構成によれば、複数の切欠き間で隙間の大きさが異なるために、複数の切欠き間で壁面接触時期に時間差をもたせることで接触面積Sを段階的に増加できる。従って、ブリッジ部の剛性を段階的に増加させることができるので、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0020】
(13)一実施形態に係る回転機械は、
回転軸と、
前記(1)~(12)の何れかの構成を有する軸受装置と、
を備える。
上記(13)の構成によれば、上記構成の軸受装置を備えるため、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【発明の効果】
【0021】
幾つかの実施形態によれば、スクイズフィルムダンパに外部衝撃や経年劣化により損傷等が生じた場合、又は回転軸から過大な荷重が負荷された場合でも、ブリッジ部の剛性を急激に増加させないため、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】一実施形態に係る軸受装置の径方向に沿う断面図である。
【
図2】一実施形態に係る軸受装置の軸方向に沿う断面図である。
【
図3】一実施形態に係るブリッジ部(非接触域)の径方向に沿う断面図である。
【
図4】一実施形態に係るブリッジ部(接触域)の径方向に沿う断面図である。
【
図5】一実施形態に係るブリッジ部の径方向に沿う断面図である。
【
図6】一実施形態に係るブリッジ部の一部の径方向に沿う断面図である。
【
図7】一実施形態に係るブリッジ部におけるインナリングの変位と接触面積との関係を示す線図である。
【
図8】一実施形態に係るブリッジ部におけるインナリングの変位と接触面積との関係を示す線図である。
【
図9】一実施形態に係るブリッジ部におけるインナリングの変位と接触面積との関係を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
また例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0024】
図1及び
図2は一実施形態に係る軸受装置10を示す。
図1及び
図2において、軸受装置10は、回転軸12の外周側に軸受部14を備え、軸受部14の外周側にスクイズフィルムダンパ16を備える。軸受部14は回転軸12を回転自在に支持する。スクイズフィルムダンパ16は、油膜形成隙間Gを挟んで互いに対向するインナリング18及びアウタリング20を有する。油膜形成隙間Gは、回転軸12の周方向(以下単に「周方向」とも言う。)に1個又は複数個形成される。回転軸12は中心軸Oを中心として回転する。
図1中の矢印b方向は回転軸12の径方向(以下単に「径方向」とも言う。)を指し、
図2中の矢印a方向は回転軸12の軸方向(以下単に「軸方向」とも言う。)を指す。
【0025】
油膜形成隙間Gに油供給部(不図示)から粘性をもった非圧縮性の油を供給する。インナリング18は回転軸12から荷重を受けてアウタリング側へ変位し、油膜形成隙間Gの大きさを変えることで油を流動させる。これによって、回転軸12から加わる荷重を減衰させる減衰効果を得ることができる。この減衰効果によって回転軸系の振動などを抑制し、回転軸系の安定支持が可能になる。また、油の流動量を調節することで、油膜形成隙間Gの油膜圧力を調節し、これによって、減衰性能を調節できる。
【0026】
油膜形成によって発揮される減衰効果を表す油膜減衰常数Cψは次の(1)式から求められる。
【数1】
ここで、B=12πμL(R/c)
3、μ:油の粘性係数、R:ダンパ径、L:ダンパ幅、c:径方向隙間の大きさ、ε:回転軸の偏心量である。
ε=e/c=1-δ
0/c
ここで、e:回転軸の偏心量、δ
0:回転軸の軸受からの浮上量である。
(1)式から、油膜形成隙間の面積が大きいほど油膜減衰常数Cψが大きくなり、かつ油膜減衰常数Cψは径方向隙間の大きさcの3乗に比例することがわかる。従って、回転軸12から軸受装置に付加される荷重が大きくなり、油膜形成隙間Gが狭くなると、油膜圧が増加し、油膜減衰常数Cψが増加して減衰効果が増す。
【0027】
図3に示すように、軸受装置10は、さらに、インナリング18とアウタリング20とを接続するブリッジ部22を備える。ブリッジ部22は、インナリング18をアウタリング20に弾性的に支持する。ブリッジ部22の少なくとも一部は、スリットStを介してインナリング18の壁面18a又はアウタリング20の壁面20aと対向する。インナリング18は回転軸12から荷重Lを受けて回転軸12の径方向(矢印b方向)に変位する。
図3は、回転軸12から過大な荷重を受けておらず、スリットStを形成する対向壁面がどの部位でも接触していない状態を示す。
図4は、回転軸12から荷重Lを受けてスリットStのうち隙間幅が最も小さい領域R
S1を形成する外表面23bと壁面18aとが接触した状態を示す。荷重Lが増加するにつれてスリットStを形成する他の壁面も接触し始まる。
【0028】
インナリング18の最大変位時における、ブリッジ部22の外表面23aとアウタリング20の壁面20a、又はブリッジ部22の外表面23bとインナリング18の壁面18aとの接触面積Sの最大接触面積をSmaxとしたとき、ブリッジ部22は、インナリング18の変位が規定値以上となったとき、インナリング18の変位の増加に伴い、接触面積SがSmax未満の範囲内で増加するように構成される。
このように、ブリッジ部22に外部衝撃や経年劣化により損傷等が生じた場合、又はブリッジ部22に過大な荷重が負荷された場合でも、接触面積SがSmax未満の範囲内で増加するため、ブリッジ部22の剛性を急激に増加させない。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0029】
一実施形態では、
図1及び
図2に示すように、軸受部14はティルティングパッド24を含む。ティルティングパッド24はピボット25を介してインナリング18の内側面に接続されている。ティルティングパッド24はピボット25を基点として任意の方向へ傾動可能になっている。ティルティングパッド24には内側面に開口する潤滑油流路(不図示)が形成され、回転軸12とティルティングパッド24との間に潤滑油が供給される。
この実施形態によれば、ティルティングパッド24の周囲に形成される油膜による焼付き防止効果によって回転軸12を安定して回転できる。
【0030】
別な実施形態では、軸受部14は転がり軸受を含む。この実施形態によれば、転がり軸受を含む軸受部の外周側に上記構成のスクイズフィルムダンパ16を備え、これらの組合せで回転軸を支持できる。これによって、転がり軸受を含む軸受部による低摩擦支持とスクイズフィルムダンパ16の減衰効果との相乗効果によって、高速回転時においても支持側の剛性を確保しつつ回転軸系で発生する振動等の減衰効果を高めることができ、回転軸12を安定支持できる。
【0031】
一実施形態では、
図2に示すように、軸受装置10において、スクイズフィルムダンパ16の軸方向両端面にサイドプレート21が設けられる。サイドプレート21は、アウタリング20の軸方向両端面との間で油膜形成隙間Gに連通する油排出路Pdを形成する。油排出路Pdから油を排出することで、油膜形成隙間Gで油の流動状態を保ち、これによって、回転軸12から加わる荷重を減衰させることができる。この減衰効果によって回転軸系の振動などを抑制し、回転軸系の安定支持が可能になる。また、油排出路Pdからの油排出量を調節することで、油膜形成隙間Gの油膜圧力を調節し、これによって、減衰性能を調節できる。
【0032】
一実施形態では、
図1に示すように、インナリング18とアウタリング20との間に複数のブリッジ部22が周方向に離散的に設けられる。ブリッジ部22を備えることで、スクイズフィルムダンパ16の剛性はブリッジ部22の剛性によって決定できる。従って、スクイズフィルムダンパ16の剛性と油膜形成による減衰性能とを夫々独立して設定できるため、スクイズフィルムダンパ16の減衰効果を高めるために、各々で最適な設定が可能になる。
【0033】
一実施形態では、ブリッジ部22は回転軸12の軸方向に延在するように配置されている。このブリッジ部22の配置によって回転軸12の軸方向で均等な弾性力を発揮でき、回転軸12を回転軸12の軸方向で均等な弾性力で支持できる。
【0034】
一実施形態では、ブリッジ部22は、インナリング18の変位が規定値以上となったとき、変位の増加に伴い、接触面積Sが段階的に増加するように構成される。
この実施形態によれば、ブリッジ部22は、接触面積Sが段階的に増加するため、ブリッジ部22の剛性を段階的に増加させることができる。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0035】
一実施形態では、
図3に示すブリッジ部22(22a)は、スリットSt(St
1、St
2)は、隙間の大きさが異なる複数の領域Rs1、Rs2及びその他の領域を有する。隙間の大きさが異なる複数の領域でブリッジ部22の外表面23aと壁面20a及び外表面23bと壁面18aとが段階的に接触するように構成される。これによって、ブリッジ部22の剛性を段階的に増加させることができるので、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0036】
図3に示す実施形態では、スリットSt(St
1、St
2)の隙間の大きさは、次の関係にある。
領域Rs1<領域Rs2<その他の領域 (1)
回転軸12から加わる荷重LがスリットStを構成する壁面の非接触域を超えたとき、まず、領域Rs1の壁面が接触する。荷重Lがさらに増加すると、領域Rs2の壁面が接触する。その後、さらに荷重Lが増加すると、他の領域が接触する。
領域Rs1の壁面が接触したときの剛性をK(後1)とし、領域Rs1及び領域Rs2の壁面が接触したときの剛性をK(後2)とし、スリットStのすべての領域が接触したときの剛性をK(後3)とすると、次の関係が成り立つ。
K(後1)<K(後2)<K(後3) (2)
【0037】
図7は、
図3に示すブリッジ部22(22a)におけるインナリング18の変位と接触面積Sとの関係を示す線図である。図中、d
0はスリットStを形成する対向壁面が接触を開始する点である。ブリッジ部22(22a)の剛性がK(後3)となったとき、即ち、スリット全体で対向壁面の接触が起こったとき、接触面積Sは最大接触面積S
maxとなる。
【0038】
このように、ブリッジ部22が損傷したとき、又は回転軸12からインナリング18に加わる荷重Lが過大となったとき、ブリッジ部22の剛性が段階的に増加するので、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
なお、比較例として、スリットStの隙間の大きさが一律な場合、ブリッジ部22の剛性が急激に増加するため、パッド等で支持する回転軸12の支持位置が急激に変化し、これに伴い、回転軸系にも種々の急激な変化を与える可能性がある。
【0039】
一実施形態では、
図3に示すように、スリットStは、アウタリング20の壁面20aと対向する第1スリットSt(St
1)とインナリング18の壁面18aと対向する第2スリットSt(St
2)とを含む。第1スリットSt(St
1)と第2スリットSt(St
2)とは互いに異なる大きさの隙間を有する領域を含む。
この実施形態によれば、ブリッジ部22に回転軸12から荷重Lが付加された場合、異なる大きさの隙間を有するスリットSt(St
1、St
2)を構成する壁面は時間差をもって接触する。従って、ブリッジ部22は接触面積Sが増加する過程で段階的に剛性が増えていくため、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0040】
一実施形態では、ブリッジ部22は、インナリング18の変位が規定値以上となったとき、インナリング18の変位の増加に伴い、接触面積Sが連続的に増加するように構成される。
この実施形態によれば、ブリッジ部22は、インナリング18の変位の増加に伴い、接触面積Sが連続的に増加するため、ブリッジ部22の剛性を連続的に増加させることができる。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0041】
一実施形態は、
図5に示すブリッジ部22(22b)のように、ブリッジ部22の少なくとも一部において、スリットStは、隙間の大きさが連続的に異なるように構成される。
図5に示す実施形態では、アウタリング20の壁面20aとスリットSt(St
1)の外表面23aの一部で隙間の大きさが連続的に異なる領域R
2が形成される。領域R
2では接触開始点d
0以降において、スリットStを形成する壁面が時間の経過に伴って連続的に接触するように構成される。
この実施形態によれば、領域R
2においてスリットSt(St
1)を構成する対向壁面が時間の経過に伴って連続的に接触するので、ブリッジ部22(22b)の剛性が連続的に増加する。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0042】
図5に示す実施形態では、軸受装置10の径方向断面において、壁面20aの一部で外表面23aに対して勾配(角度θ)を付け、この勾配によって領域R
2でスリットSt(St
1)の隙間が徐々に広がるようにする。
これによって、接触開始点d
0を超えると、領域R
2で荷重Lの負荷の増加によってアウタリング20の壁面20aとスリットSt(St
1)の外表面23aとが時間の経過に伴って連続的に接触するので、ブリッジ部22(22b)の剛性が連続的に増加する。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0043】
図8は、
図5に示す実施形態におけるインナリング18の変位と接触面積Sとの関係を示す線図である。領域R
2以外の領域は領域R
2よりスリットStの隙間が狭いため、領域R
2以外の領域で一気に壁面の接触が起こる。その後領域R
2で隙間が狭い領域から連続的に接触が起こり、接触面積Sはある勾配を有して増加する。勾配曲線の形状は、
図5中の破線で示すように、スリットStの隙間の形状を適宜選択することで変えることができる。
この実施形態においても、ブリッジ部22(22b)の剛性が一気に増加せず、一気に最大接触面積S
maxとならないので、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0044】
一実施形態では、
図3~
図5に示すように、ブリッジ部22は、少なくとも一つの曲り部Beを有する。
この実施形態によれば、ブリッジ部22は少なくとも一つの曲り部Beを有するため、回転軸12からインナリング18を介してブリッジ部22に加わる荷重に対して、ブリッジ部22の剛性を小さくができる。また、ブリッジ部22が曲り部Beを有することで、スリットStにも曲り部Beが形成されるため、スリットStに段階的に又は連続的に接触可能な領域を形成しやすくなる。
【0045】
一実施形態では、曲り部Beの形状は、例えば、波形、ジグザグ形状の断面で構成される。
一実施形態では、ブリッジ部22は1つ以上、好ましくは複数の曲り部Beを有し径方向に沿って延在する。これによって、ブリッジ部22は、回転軸12から径方向に沿って加わる荷重Lに対して大きな伸縮力を保持できる。従って、ブリッジ部22の剛性を調整可能な範囲を広げることができる。
【0046】
一実施形態では、
図6に示すように、ブリッジ部22(22c)は、スリットStに開口する少なくとも一つの切欠きN(N
1、N
2)を有する。ブリッジ部22の外表面23a、23bと壁面18a、20aとの第1接触面積、及び切欠きNを挟んで互いに対向するブリッジ部22の外表面同士の第2接触面積の合計接触面積をS’とし、インナリング18の最大変位時における合計接触面積を合計最大接触面積S’
maxとしたとき、ブリッジ部22(22c)は、インナリング18の変位が規定値以上となったとき、該変位の増加に伴い、合計接触面積S’がS’
max未満の範囲内で増加するように構成される。
【0047】
この実施形態によれば、インナリング18の変位が規定値以上となったとき、該変位の増加に伴い、合計接触面積S’が合計最大接触面積S’max未満の範囲内で増加するため、ブリッジ部22(22c)の剛性を急激に増加させない。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0048】
一実施形態では、
図6に示すように、ブリッジ部22(22c)は、切欠きNを有するため、インナリング18の変位の増加に伴い、切欠きNとスリットStの他の部位とで接触時期を異ならせることができる。従って、接触面積Sが段階的に増加するため、ブリッジ部22(22c)の剛性を急激に増加させない。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0049】
一実施形態では、
図6に示すように、切欠きNは、インナリング18の変位時にブリッジ部22の圧縮荷重が加わる部位に形成される。
この実施形態によれば、切欠きNは圧縮荷重が加わる部位に形成されるため、切欠きNを挟んで互いに対向するブリッジ部22(22c)の外表面23a、23b同士が該圧縮荷重によって接触できる。また、切欠きNの壁面の接触時期とスリットStの他の部位の接触時期とに時間差をもたせるようにすることで、ブリッジ部22(22c)の剛性を急激に増加させないようにすることができる。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0050】
一実施形態では、
図6に示すように、ブリッジ部22(22c)は少なくとも一つの曲り部Beを有し、切欠きNは曲り部Beに形成される。
この実施形態によれば、回転軸12からインナリング18に負荷される荷重Lによってブリッジ部22に圧縮荷重が付加されたとき、該圧縮荷重は曲り部Beに負荷される。切欠きNは圧縮荷重が付加される曲り部Beに形成されるため、切欠きNを挟んで互いに対向するブリッジ部22(22c)の外表面23a、23b同士が該圧縮荷重によって接触できる。
【0051】
切欠きNの壁面の接触時期とスリットStの他の部位の壁面の接触時期とが異なるように設定する場合、両者の隙間の大きさなどを設定することで接触時期を異ならせるようにする。
また、曲り部Beにおいて切欠きNを形成する場合、曲り部Beの曲率半径に対して内側又は外側にある外表面のどちらでもよく、どちらにおいても圧縮荷重を負荷できる。
【0052】
一実施形態では、
図6に示すように、切欠きNは、隙間の大きさが異なる複数の切欠きN(N
1、N
2)で構成される。
この実施形態によれば、複数の切欠き間で隙間の大きさが異なるために、壁面接触時期に時間差をもたせることで接触面積Sを段階的に増加できる。例えば、隙間が異なる切欠きが2個ある場合、接触面積Sを3段階で増加できる。
従って、ブリッジ部22(22c)の剛性を段階的に増加させることができるので、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0053】
図9は、
図6に示す実施形態におけるインナリング18の変位と接触面積Sとの関係を示す線図である。
図6に示すように、接触面積Sを3段階で増加できるため、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。
【0054】
一実施形態に係る回転機械は、回転軸12と、上記構成を有する軸受装置10と、を備える。
この構成によれば、上記構成の軸受装置10を備えるため、ブリッジ部22に外部衝撃や経年劣化により損傷等が生じた場合、又はブリッジ部22に過大な荷重が負荷された場合でも、接触面積SがSmax未満の範囲内で増加するため、ブリッジ部22の剛性を急激に増加させない。これによって、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができる。従って、圧縮機や蒸気タービン等の回転機械に適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
幾つかの実施形態によれば、インナリングに設けられるブリッジ部に損傷等が生じた場合又は過大な荷重が負荷されたとき、ブリッジ部の剛性をゆるやかに変化させ、回転軸位置の変化や回転軸系に与える種々の変化をゆるやかなものにすることができ、その影響を最小化できる。従って、圧縮機や蒸気タービン等の回転機械に適用できる。
【符号の説明】
【0056】
10 軸受装置
12 回転軸
14 軸受部
16 スクイズフィルムダンパ
18 インナリング
18a 壁面
20 アウタリング
20a 壁面
22(22a、22b、22c) ブリッジ部
23a、23b 外表面
24 ティルティングパッド
25 ピボット
Be 曲り部
G 油膜形成隙間
L 荷重
N(N1、N2) 切欠き
O 中心軸
Rs1、Rs2、R2 領域
S 接触面積
Smax 最大接触面積
S’ 合計接触面積
S’max 合計接触面積
St(St1、St2) スリット
St1 第1スリット
St2 第2スリット
d0 接触開始点