(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】透過性試験方法及び透過性試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 11/04 20060101AFI20220506BHJP
G01N 11/00 20060101ALI20220506BHJP
G01N 33/32 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
G01N11/04 Z
G01N11/00 C
G01N33/32
(21)【出願番号】P 2018087016
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591124167
【氏名又は名称】中電工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】児玉 健
(72)【発明者】
【氏名】山田 博之
(72)【発明者】
【氏名】仁木 政司
(72)【発明者】
【氏名】大平 彰史
(72)【発明者】
【氏名】井上 佳昭
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-054382(JP,A)
【文献】特開平11-058356(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0141796(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/04
G01N 11/00
G01N 33/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料の網体に対する透過性を試験するための透過性試験方法であって、網目が形成され、シート状に形成された網体の一方の面に対して塗料を当てて、前記網体の他方の面側で網体の網目を透過した塗料を受ける透過性試験方法。
【請求項2】
塗料の網体に対する透過性を試験するための透過性試験装置であって、
網目が形成され、シート状に形成された網体を広げた状態で保持する網体保持部と、
網体保持部に保持された網体の一方の面に対して塗料を
上方から落下させるように構成された塗料保持部と、を備え、
網体の
一方の面に落下して網目を透過した塗料を受けるための塗料受領域が
網体の他方の面側に形成されている透過性試験装置。
【請求項3】
網体の一方の面に対して塗料
が当
たる角度を変更可能に構成された角度変更部を備えている請求項2に記載の透過性試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネット等の網体に対する塗料の透過性を試験するための透過性試験方法及び透過性試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば特許文献1に記載されているように、鉄塔等の建造物に対する塗装作業の際には、周辺に塗料が飛散するのを防止するために建造物を塗料飛散防止用のネットで覆い、ネットの内側で塗装作業者により刷毛塗り又はローラー塗装などによって塗装作業が行われる。
【0003】
そして、例えば特許文献2に記載されているような、落下する塗料の液滴が大きく形成されネットに捕捉されやすくなるように、顔料や揺変剤を所定量で含有するように調合された飛散しにくい塗料が公知であり、塗料の飛散を防止するために、このような飛散しにくい塗料が使用されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-190869号公報
【文献】特開平4-120178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来から塗料の性状に着目した飛散しにくい塗料が開発されており、該飛散しにくい塗料を使用することで塗料の飛散防止は図られている。しかしながら、飛散しにくい塗料を使用しても塗料が網体の網目を透過してしまえば塗料の飛散は避けられない。現状では、塗料の網体への透過性を考慮した飛散防止対策は無く、飛散防止対策として更なる検討の余地がある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる実情に鑑み、塗料の飛散防止対策に資するべく、塗料の網体に対する透過性を試験するための透過性試験方法及び透過性試験装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る透過性試験方法は、塗料の網体に対する透過性を試験するための透過性試験方法であって、網目が形成され、シート状に形成された網体の一方の面に対して塗料を当てて、前記網体の他方の面側で網体の網目を透過した塗料を受けるようになっている。
【0008】
かかる構成によれば、網体に当てて透過した塗料を受けて、該受けた塗料の状態を確認することで、塗料の網体に対する透過性を確認することができる。
【0009】
本発明に係る透過性試験装置は、塗料の網体に対する透過性を試験するための透過性試験装置であって、
網目が形成され、シート状に形成された網体を広げた状態で保持する網体保持部と、
網体保持部に保持された網体の一方の面に対して塗料を当てるように構成された塗料保持部と、を備え、
網体の他方の面側に、網体の網目を透過した塗料を受けるための塗料受領域が形成されている。
【0010】
かかる構成によれば、網体に当てて透過した塗料を塗料受領域で受けて、該受けた塗料の状態を確認することで、塗料の網体に対する透過性を確認することができる。
【0011】
本発明の一態様として、透過性試験装置は、網体の一方の面に対して塗料を当てる角度を変更可能に構成された角度変更部を備えていてもよい。
【0012】
かかる構成によれば、網目に対する塗料を当てる角度を変更することができるので、塗装現場に近い状況で塗料を網体に当てることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上より、本発明によれば、塗料の飛散防止対策に資するべく、塗料の網体に対する透過性を試験するための透過性試験方法及び透過性試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態に係る透過性試験装置の側面図である。
【
図2】同実施形態に係る透過性試験装置の保持部本体の平面図である。
【
図3】ネットを透過した塗料の大きさを説明するための図である。
【
図4】塗料の透過性試験の結果を説明するための図であって、右側の図は、塗料が付着したネットの平面図、左側の図は、ネットを透過した塗料が付着したシートの平面図である。(a)は、飛散性が最も高い塗料を使用した場合の試験結果、(b)は、(a)の塗料よりも飛散性の低い塗料を使用した場合の試験結果、(c)は、(b)の塗料よりも飛散性の低い塗料を使用した場合の試験結果、(d)は、(c)の塗料よりも飛散性の低い塗料を使用した場合の試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る透過性試験装置について、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
透過性試験装置は、塗料の網体に対する透過性を試験するための装置である。本実施形態では、網目が形成され、シート状に形成された網体を広げ、該網体に対する塗料の透過性を試験する。網体としては、塗料の飛散を防止するためのネット(いわゆる飛散防止ネット)を使用する。以下、網体をネットと称するものとする。
【0017】
図1に示すように、透過性試験装置1は、ネットNを広げた状態で保持する網体保持部2と、網体保持部2に保持されたネットNの一方の面N1に対して塗料Pを当てるように構成された塗料保持部3と、ネットNの一方の面N1に対して塗料Pを当てる角度を変更可能に構成された角度変更部5とを備える。透過性試験装置1には、ネットNの他方の面N2側に、ネットNの網目を透過した塗料Pを受けるための塗料受領域4が形成されている。
【0018】
網体保持部2は、ネットNを載置する載置部21と、該載置部21を支持する支持部22とを備える。ネットNは、載置部21の上に、広げた状態で載置される。
【0019】
載置部21は、枠状に形成されている。ネットNは、載置部21の開口を覆うように載置される。ネットNは、例えば、載置部21の枠をネットNの上からクリップ等の固定手段(図示しない)によって挟み込まれることで載置部21に固定される。しかしながら、載置部21は、枠状に形成されるものではなく、例えば、一対の棒状部材によって構成されていてもよい。即ち、一対の棒状部材が間隔を開けて配置され、該一対の棒状部材に対してネットNが掛けられ(載置され)てもよい。また、載置部21は、ネットNの端部を掴む掴み部として構成されていてもよい。例えば、矩形状に形成されたネットNの4隅を掴むことで、ネットNを広げた状態で保持するものであってもよい。
【0020】
支持部22は、載置部21を支持する部分である。本実施形態の支持部22は、塗料受領域4に設置され、塗料受領域4から離れた位置で載置部21を支持する。支持部22は、所定の高さで形成された第1支持部221と、該第1支持部221とは異なる高さで形成された第2支持部222とを備える。第1支持部221と第2支持部222とが異なる高さで形成されることで、支持部22は、載置部21を塗料受領域4に対して傾斜させて支持することができる。
【0021】
本実施形態では、第1支持部221は、第2支持部222よりも高く形成されている。即ち、載置部21は、第1支持部221側が高く、第2支持部222側が低くなるように支持される。そのため、ネットNは、塗料受領域4に対して傾斜した状態で保持される。
【0022】
第1支持部221及び第2支持部222の高さの差が大きいほど、載置部21と塗料受領域4との成す角度α(
図1参照)が大きくなる。また、第1支持部221及び第2支持部222の高さの差が小さいほど、載置部21と塗料受領域4との成す角度αが小さくなる。このように、第1支持部221及び第2支持部222によって載置部21と塗料受領域4との成す角度α、即ち、ネットNと塗料受領域4との成す角度αが決まる。そのため、支持部22は、第1支持部221及び第2支持部222によって角度変更部5を構成している。
【0023】
塗料保持部3は、塗料Pを保持する保持部本体31と、該保持部本体31を塗料受領域4から離間した位置で固定するための位置固定部32と、保持部本体31を位置固定部32に連結固定するための連結部33と、を備える。
【0024】
本実施形態では、塗料Pは、塗料Pを収容する胴部C1及び塗料Pを注出するための注出口が形成された注出部C2を有する容器Cに収容され、保持部本体31は、該容器Cを保持するように構成されている。保持部本体31は、板状に形成されている。
図2に示すように、保持部本体31は、矩形板状に形成されたベース部311を備える。該ベース部311には、容器Cを設置するための設置孔312が形成されている。保持部本体31は、設置孔312の内周縁で容器Cの胴部C1を保持するように構成されている。容器Cは、注出部C2の注出口がネットN側を向くように保持部本体31に設置される。
【0025】
図2に示すように、ベース部311には、複数の設置孔312が形成されている。設置孔312は、ベース部311を構成する4辺のうちの2辺の延びる方向に沿った横方向に並ぶように形成されている。また、設置孔312は、横方向に直交する縦方向に並ぶように形成されている。本実施形態では、設置孔312は、9つ形成されている。本実施形態のベース部311は、正方形状に形成されており、設置孔312は、横方向に3つ、縦方向に3つ並んで形成されている。横方向に並ぶ設置孔312が成す列に対して、ベース部311の縦方向における一端側から他端側に向かって順に第1列、第2列、第3列とする。
【0026】
図1に示すように、位置固定部32は、床等の設置面に設置されている。本実施形態の位置固定部32は、設置面から上方に延びるスタンドである。位置固定部32は、設置面に設置される土台部321と、該土台部321に立設された支柱部322とを備える。位置固定部32は、支柱部322の高さを調節可能に構成されており、保持部本体31の位置(高さ)を変更可能となっている。
【0027】
連結部33は、保持部本体31と位置固定部32とを連結する部分である。連結部33は、一端部が位置固定部32の支柱部322に固定され、他端部が保持部本体31を把持する把持部となっている。この構成によって、連結部33は、異なる大きさ、又は形状を有する種々の保持部本体31を位置固定部32に対して固定することができる。
【0028】
塗料受領域4は、ネットNを透過した塗料Pを受ける部分である。本実施形態では、塗料受領域4は、位置固定部32が設置された設置面に広げられたシート40によって形成されている。即ち、シート40の上面にネットNを透過した塗料Pが付着する。本実施形態では、シート40は、透明な樹脂材料で形成されたクリアシートである。
【0029】
保持部本体31は、載置部21に載置されたネットNの一方の面N1側に設置されている。本実施形態では、保持部本体31は、ネットNから離間して、該ネットNの上方に設置されている。塗料受領域4は、載置部21に載置されたネットNの他方の面N2側に設置されている。本実施形態では、塗料受領域4は、ネットNから離間して、該ネットNの下方側に設置されている。
【0030】
本実施形態に係る透過性試験装置1の説明は以上である。続いて、本実施形態に係る透過性試験装置1によって、ネットNに対する塗料Pの透過性を試験するための方法について説明する。
【0031】
まず、透過性試験の条件について説明する。本試験では、ネットNの上方からネットNに向けて塗料Pを滴下し、ネットNを透過した塗料PをネットNの下方側で受ける。塗料Pとしては、飛散防止性能を有する飛散防止塗料、及び飛散防止性能を有しない(飛散防止性能を有すると謳われていない)通常の塗料を使用した。塗料Pの希釈にはシンナーを使用し、添加するシンナーの量としては、塗料Pの上限として規定されている量とした。即ち、塗料Pを最も粘性が低い条件で試験を行うことで、実際の塗装現場で使用される塗料Pと同程度の粘性(希釈度)とし、塗装現場を再現するようにした。
【0032】
ネットNは、ポリエチレン製であり、1ミリ画に区画されたラッセル網を使用した。床に対する載置部21の角度を45度として、ネットNが床に対して45度傾斜して設置された場合、及び床に対する載置部21の角度を0度として、ネットNが床に対して平行(水平)に設置された場合における塗料Pの透過性を試験した。ネットNは、一重で使用した。
【0033】
容器Cとしては、注出口の口径が所定の径(本試験では3mm)で形成された容器Cを使用した。注出口が下方側を向くように容器Cを倒立状態で保持部本体31に設置し、容器Cの胴部C1を手で押圧することで塗料Pを滴下した。滴下する塗料Pの粒子径が一定となるように、一定の力で胴部C1を押圧した。注出口からネットNまでの距離L(滴下高さL、
図1、及び表1参照)が1.35mとなる位置に保持部本体31を位置固定し、容器Cの注出口がネットNから略1.35m離れた上方に位置するようにした。
【0034】
容器Cを保持部本体31の各設置孔312に設置し、各設置孔312において容器Cから3滴ずつ滴下することで計27滴、塗料Pを滴下し、シート40に透過した塗料Pの状態を確認した。滴下するタイミングは、例えば、全ての設置孔312に容器Cを設置し、9個の容器Cから一度に9滴滴下してもよいし、1つの設置孔312に容器Cを設置し、3滴滴下した後に、他の設置孔312に容器Cを移動させ、更に3滴滴下してもよい。
【0035】
本試験では、ネットNを透過した塗料Pについて、透過した塗料Pの飛沫の粒径を測定し、且つ飛沫の滴数を計数した。
図3に示すように、飛沫の粒径に基づくサイズをS、M、Lで分け、0よりも大きく0.5mm以下の飛沫をS、0.5mmよりも大きく2.0mm以下の飛沫をM、2.0mmよりも大きい飛沫をLとして、各サイズの飛沫の滴数を計数した。計数結果を表1に示す。
【0036】
また、本試験では、塗料Pの透過率を算出した。塗料Pの透過率とは、滴下した塗料Pの重量(以下、滴下塗料重量とする)に対するネットNを透過した塗料Pの重量(以下、透過塗料重量とする)、即ちシート40に付着した塗料Pの重量である。具体的には、以下の式によって算出される値である。
透過率(%)=透過塗料重量 / 滴下塗料重量 × 100
【0037】
「透過塗料重量」は、シート40の重量に基づいて算出される。即ち、「透過塗料重量」は、塗料Pを滴下した後の滴下後のシート40の重量から塗料Pを滴下する前の滴下前のシート40の重量を差し引くことで算出した。
【0038】
また、「滴下塗料重量」は、塗料Pを収容した容器Cの重量に基づいて算出される。即ち、「滴下塗料重量」は、滴下前の容器Cの重量から滴下後の容器Cの重量を差し引くことで算出した。
【0039】
以上の条件及び試験結果を以下の表1にまとめた。表1を参照しつつ、試験結果について説明する。
【0040】
【0041】
表1から、例えば、ネットNを45度傾斜させて設置した場合、飛散防止塗料を滴下した際の塗料Pの滴数が、通常の塗料を滴下した際の塗料Pの滴数よりも少ないことが分かる。具体的には、ネットNを45度傾斜させて設置した場合、飛散防止塗料では、サイズSの飛沫が1個であったのに対して、通常の塗料では、サイズSの飛沫が46個となった。サイズM及びLの飛沫の滴数についても、飛散防止塗料の滴数が通常の塗料の滴数を下回っている。このように、種類が異なる塗料Pに対してネットNを透過した塗料Pの滴数を比較することで、ネットNを透過し易い塗料Pであるか否かを評価することができる。
【0042】
また、表1から、例えば、ネットNを45度傾斜させて設置した場合、飛散防止塗料を滴下した際の塗料Pの透過率が、通常の塗料を滴下した際の塗料Pの透過率よりも小さいことが分かる。具体的には、飛散防止塗料では、透過塗料重量が20mgと算出され、滴下塗料重量が2220mgと算出され、その結果、塗料Pの透過率が0.9%であったのに対して、通常の塗料では、透過塗料重量が20mgと算出され、滴下塗料重量が1130mgと算出され、その結果、塗料Pの透過率が1.8%となった。このように、種類が異なる塗料Pに対して塗料Pの透過率を比較することで、ネットNを透過し易い塗料Pであるか否かを評価することができる。
【0043】
更に、ネットNを透過し易いか否かの指標を設けてもよい。例えば、粒径が1.0mm以下の飛沫が10個以下であれば、ネットNを透過しにくい塗料Pであると評価し、それ以外についてはネットNを透過し易い塗料Pであると評価してもよい。そして、この評価の指標について自由に設定してもよい。
【0044】
表1によれば、飛散防止塗料を滴下した場合、及び通常の塗料を滴下した場合の双方において、ネットNを水平に設置した場合よりもネットNを床に対して45度傾けて設置した場合の方がネットNを透過する塗料Pが少ないことが分かる。具体的には、飛散防止塗料では、ネットNを水平に設置した場合には、80mgの塗料PがネットNを透過したのに対して、ネットNを床に対して45度傾けて設置した場合には、20mgの塗料PがネットNを透過した。この現象は、ネットNを傾けて設置することで、傾いた分だけ上下方向に対する網目の開口領域が狭まり、容器Cの注出口に臨む(対向する)領域が狭まるからである。
【0045】
また、表1によれば、ネットNを水平に設置した場合における飛散防止塗料の滴下塗料重量は3190mgであったのに対して、同条件における通常の塗料の滴下塗料重量は1050mgであった。これは、飛散防止塗料の1滴の粒径が通常の塗料の1滴の粒径よりも大きいからであると考えられる。即ち、飛散防止塗料は、ある程度の大きさを有する滴として落下することで、ネットNの網目を透過する量が抑えられ、飛散防止の効果が高いことが分かる。そして、本試験では、滴下塗料重量を測定することで、塗料Pの飛散防止性を評価することもできる。
【0046】
図4は、塗料Pの種類を変えて透過性を試験した試験結果を示すものである。例えば、ネットNに対する透過性が高い塗料Pを使用した場合には、
図4(a)に示すように、シート40上に多量の塗料Pが付着することが分かる。そして、ネットNに対する透過性が(a)の塗料Pよりは低い塗料Pを使用した場合には、
図4(b)及び
図4(c)に示すように、ネットNを透過した塗料Pの飛沫は、計数し得る程度に抑えられる(
図4(b)及び(c)において〇で囲った飛沫を参照)。更に、
図4(d)に示すように、シート上に塗料Pが付着しない場合には、塗料Pの透過性が低いことが分かる。
【0047】
以上のように、上記実施形態の透過性試験装置1によれば、ネットNに当てて透過した塗料Pを塗料受領域4で受けて、該受けた塗料Pの状態を確認することで、塗料PのネットNに対する透過性を確認することができる。
【0048】
また、上記実施形態によれば、透過性試験装置1がネットNの一方の面N1に対して塗料Pを当てる角度を変更可能に構成された角度変更部5を備えているので、網目に対する塗料Pを当てる角度を変更することができ、塗装現場に近い状況で塗料PをネットNに当てることができる。
【0049】
また、上記実施形態によれば、シート40に付着した塗料Pの量、飛沫の大きさ、透過率等によって塗料Pの透過性を試験することができるだけでなく、異なる仕様のネットNを準備し、同じ塗料PをネットNに当てた際の塗料Pの透過性を試験することによって、ネットNが塗料Pを透過させ易いものであるか(ネットNの透過性)についての試験をすることもできる。
【0050】
上記実施形態によれば、
図2に示すように、保持部本体31に形成された設置孔312の高さは、第1列に形成された設置孔312、第2列に形成された設置孔312、及び第3列に形成された設置孔312で異なる。即ち、保持部本体31の一端側に対応する側が高く、保持部本体31の他端側に対応する側が低くなるようにネットNが傾けられている場合、第1列に形成された設置孔312の高さが最も高い位置に位置し、第3列に形成された設置孔312が最も低い位置に位置する。そのため、滴下高さの違いによる塗料Pの透過状態も確認することができ、塗料Pの透過性をより詳細に分析することができる。
【0051】
更に、塗料Pは、通常、液体成分(合成樹脂及び有機溶剤)と固体の粉末粒子(顔料)との混合物であり、ダイラタント流体に該当する。ダイラタント流体とは、遅いせん断刺激に対しては液体のように挙動し、速いせん断刺激に対しては固体のような挙動を示す流体のことを指す。そして、上記の傾向が高い塗料Pは、ダイラタンシー性が高い塗料Pであるとされ、ネットNに衝突した衝撃によって変形・破砕(微粒化)する程度が小さく、ネットNを透過しにくいとされる。具体的には、ダイラタンシー性が高い塗料Pは、例えば、塗料Pを当てる方向がネットNに対して傾斜している場合、ネットNに衝突した際に形状を維持しようとする力によって、ネットNに沿って下方側に滑るよう変形する。このように、ダイラタンシー性が高い塗料Pは、塗料Pの変形・破砕(微粒化)が抑えられ、ネットNを透過し難くなっている。上記実施形態によれば、ネットNへの塗料Pの付着状態を確認することで、塗料Pのダイラタンシー性を評価することもできる。
【0052】
尚、本発明の透過性試験装置1は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0053】
上記実施形態では、塗料Pの網体Nに対する透過性を試験するための透過性試験装置1に係る発明として説明したが、透過性試験方法として捉えることもできる。即ち、本発明に係る透過性試験方法は、塗料Pの網体Nに対する透過性を試験するための透過性試験方法であって、網目が形成され、シート状に形成された網体Nの一方の面N1に対して塗料Pを当てて、前記網体Nの他方の面N2側で網体Nの網目を透過した塗料Pを受けるようになっている。
【0054】
かかる構成によれば、網体Nに当てて透過した塗料Pを受けて、該受けた塗料Pの状態を確認することで、塗料Pの網体Nに対する透過性を確認することができる。
【0055】
上記実施形態では、支持部22は、第1支持部221と第2支持部222とによって載置部21を塗料受領域4に対して傾斜させた状態で支持する場合について説明したが、これに限定されるものではない。支持部22は、第1支持部221及び第2支持部222が同じ高さで形成され、載置部21を塗料受領域4に対して平行(水平)となるように支持してもよい。
【0056】
上記実施形態では、塗料PをネットNに対して滴下する(自由落下させる)場合について説明したがこれに限定されるものではない。塗料保持部3から、ネットNに対して塗料Pを所定の速度で当ててもよい。例えば、ネットNを鉛直方向で広げ、該ネットNに対して水平方向から塗料Pを当ててもよい。このような試験方法にすることによって、塗料Pが風により横方向に吹き飛ばされて飛散した場合等を再現することができる。
【0057】
また、上記実施形態では特に言及するものでは無いが、連結部33は、位置固定部32の支柱部322に対して上下方向に傾斜自在に形成されていてもよい。即ち、連結部33が角度変更部5を構成していてもよい。かかる構成とすることで、第1支持部221及び第2支持部222の高さを変更せずに、ネットNに対して塗料Pを当てる方向を変更することができるので、塗料Pに速度を与えて透過性試験を行う場合に、ネットNと塗料Pを当てる方向との角度調整が容易である。
【0058】
上記実施形態では、塗料受領域4がシート40の上面に形成されている場合について説明したが、これに限定されるものではない。塗料受領域4は、例えば、床に設置されたトレイであってもよいし、床自体によって形成さていてもよい。即ち、床に何も設置せずに、ネットNを透過した塗料Pが床に直接飛散するようにしてもよい。
【0059】
上記実施形態では、網体保持部2は、ネットNを広げた状態で保持する場合について説明したが、広げた状態には、例えば一枚のネットNが折り返された状態で広げられている態様も含まれるものとする。また、上記試験では、1重のネットNが使用されているが、2重、3重に重ねられたネットNを使用して試験が行われてもよい。
【0060】
上記実施形態では、ポリエチレン製のネットNを使用し、且つ1ミリ画に区画されたラッセル網を使用した場合について説明したが、これに限定されるものではない。ネットNのし種類は特に限定されるものではなく、有結節網や無結節網であってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…透過性試験装置、2…網体保持部、21…載置部、22…支持部、221…第1支持部、222…第2支持部、3…塗料保持部、31…保持部本体、32…位置固定部、33…連結部、311…ベース部、312…設置孔、4…塗料受領域、5…角度変更部、C…容器、C1…胴部、C2…注出部、N…ネット(網体)、P…塗料