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特許7066526信号処理プログラム、信号処理方法及び信号処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】信号処理プログラム、信号処理方法及び信号処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/161 20060101AFI20220506BHJP
【FI】
G01T1/161 D
G01T1/161 ZDM
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018103269
(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公開番号】P2019207183
(43)【公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 基哉
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-048158(JP,A)
【文献】特開2014-190695(JP,A)
【文献】特開2005-137558(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0245354(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/161-1/166
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
体内に放射性薬剤を投与して測定された放射線量に基づいて、左室内腔及び左室心筋を含む複数の関心領域を設定する処理と、
各々の前記関心領域から放出される前記放射線量を所定の時間間隔で経時的に計測して得られる計数値を取得する処理と、
各々の前記関心領域に対応する前記計数値の経時的変化を示す複数のタイムアクティビティーカーブを取得する処理と、
前記左室心筋を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブにつき、平衡状態区間における前記放射線量に対する近似直線を作成する処理と、
前記左室内腔を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブの増加部分に対する前記放射線量の離散値を近似曲線とする正規分布曲線を作成する処理と、
前記近似直線を前記平衡状態区間から時刻の早い方に外挿させて、最初に得られる前記正規分布曲線との交点を求める処理と、
前記交点と、前記正規分布曲線の立ち上がり時刻との間を血流動態を表す理論式で近似して、第1曲線を求める処理と、
前記第1曲線と、前記近似直線とを前記交点で結んだ第2曲線を作成し、前記左室心筋の前記タイムアクティビティーカーブとする処理を実行させるための信号処理プログラム。
【請求項2】
体内に放射性薬剤を投与して測定された放射線量に基づいて、左室内腔及び左室心筋を含む複数の関心領域を設定する関心領域設定ステップと、
各々の前記関心領域から放出される前記放射線量を所定の時間間隔で経時的に計測して得られる計数値を取得する計数値取得ステップと、
各々の前記関心領域に対応する前記計数値の経時的変化を示す複数のタイムアクティビティーカーブを取得するカーブ取得ステップと、
前記左室心筋を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブにつき、平衡状態区間における前記放射線量に対する近似直線を作成する近似直線作成ステップと、
前記左室内腔を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブの増加部分に対する前記放射線量の離散値を近似曲線とする正規分布曲線を作成する正規分布曲線作成ステップと、
前記近似直線を前記平衡状態区間から時刻の早い方に外挿させて、最初に得られる前記正規分布曲線との交点を求める交点算出ステップと、
前記交点と、前記正規分布曲線の立ち上がり時刻との間を血流動態を表す理論式で近似して、第1曲線を求める曲線算出ステップと、
前記第1曲線と、前記近似直線とを前記交点で結んだ第2曲線を作成し、前記左室心筋の前記タイムアクティビティーカーブとする曲線作成ステップとを含む信号処理方法。
【請求項3】
体内に放射性薬剤を投与して測定された放射線量に基づいて、左室内腔及び左室心筋を含む複数の関心領域を設定する関心領域設定部と、
各々の前記関心領域から放出される前記放射線量を所定の時間間隔で経時的に計測して得られる計数値を取得する計数値取得部と、
各々の前記関心領域に対応する前記計数値の経時的変化を示す複数のタイムアクティビティーカーブを取得するカーブ取得部と、
前記左室心筋を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブにつき、平衡状態区間における前記放射線量に対する近似直線を作成する近似直線作成部と、
前記左室内腔を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブの増加部分に対する前記放射線量の離散値を近似曲線とする正規分布曲線を作成する正規分布曲線作成部と、
前記近似直線を前記平衡状態区間から時刻の早い方に外挿させて、最初に得られる前記正規分布曲線との交点を求める交点算出部と、
前記交点と、前記正規分布曲線の立ち上がり時刻との間を血流動態を表す理論式で近似して、第1曲線を求める曲線算出部と、
前記第1曲線と、前記近似直線とを前記交点で結んだ第2曲線を作成し、前記左室心筋の前記タイムアクティビティーカーブとする曲線作成部とを備えることを特徴とする信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理プログラム、信号処理方法及び信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、心筋シンチグラフィは、被験者に放射性同位元素で標識された薬剤(放射性薬剤)を注射し、体内より放出される放射線を撮影して、放射線量をコンピュータ処理して画像にし、心筋の血流やエネルギー代謝などをイメージングする検査である。この検査は、侵襲性が低く、適切な放射性薬剤を選択することで心臓に関する様々な生理学的、生化学的情報が得られるといった優れた特徴を有しているため、広く臨床において利用されている。例えば、心臓のダイナミックデータを解析することにより、心筋血流量を定量することが可能であり、心筋血流量の値によって、心筋の状態をより正確に知ることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】Masao Miyagawa et al.著、Estimation of myocardial flow reserve utilizing an ultrafast cardiac SPECT: Comparison with coronary angiography, fractional flow reserve, and the SYNTAX score.、International Journal of Cardiology、2017年、第244号、p.347-353
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、2コンパートメントモデルを利用して心筋血流量を定量する場合、心筋左室内腔及び左室心筋に設定した関心領域におけるタイムアクティビティーカーブを作成する必要がある(非特許文献1参照)。タイムアクティビティーカーブとは、体内に投与された放射性薬剤から放出される放射線量を所定の時間間隔で経時的に計測して得られる計数値の経時的変化を示すものである。タイムアクティビティーカーブは、本来は不連続である各々の計数値を曲線でつなげることによって連続的に変化しているように解析者に視認させている。
【0005】
投与された放射性薬剤は、心臓の右室内腔、左室内腔を経て、左室心筋へと移行していく。この時、主に心臓の拍動による影響から左室心筋のタイムアクティビティーカーブは、特に投与早期相において、右左室内腔通過時の放射能カウントにかぶさってしまい、そのカウント値が過大評価される(いわゆるspill over)現象が発生する。例えば、spill overの影響が全くない場合は、図5のようなタイムアクティビティーカーブが描かれるべきところ、実際には左室心筋のアクティビティーと左室内腔のアクティビティーとが相互にspill overの影響を受けた結果、図6のようなタイムアクティビティーカーブとして計測される。タイムアクティビティーカーブの形状およびカーブ下面積は、コンパートメント解析による定量値に、そのまま影響を与える。従って、正確に心筋血流量を定量するためには、このspill over現象による影響を補正する必要がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、心筋血流量の正確な定量をより容易に支援することのできる信号処理プログラム、信号処理方法及び信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る信号処理プログラムは、コンピュータに、体内に放射性薬剤を投与して測定された放射線量に基づいて、左室内腔及び左室心筋を含む複数の関心領域を設定する処理と、各々の前記関心領域から放出される前記放射線量を所定の時間間隔で経時的に計測して得られる計数値を取得する処理と、各々の前記関心領域に対応する前記計数値の経時的変化を示す複数のタイムアクティビティーカーブを取得する処理と、前記左室心筋を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブにつき、平衡状態区間における前記放射線量に対する近似直線を作成する処理と、前記左室内腔を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブの増加部分に対する前記放射線量の離散値を近似曲線とする正規分布曲線を作成する処理と、前記近似直線を前記平衡状態区間から時刻の早い方に外挿させて、最初に得られる前記正規分布曲線との交点を求める処理と、前記交点と、前記正規分布曲線の立ち上がり時刻との間を血流動態を表す理論式で近似して、第1曲線を求める処理と、前記第1曲線と、前記近似直線とを前記交点で結んだ第2曲線を作成し、前記左室心筋の前記タイムアクティビティーカーブとする処理を実行させる。
【0008】
本発明のまた別の一側面に係る信号処理方法は、体内に放射性薬剤を投与して測定された放射線量に基づいて、左室内腔及び左室心筋を含む複数の関心領域を設定する関心領域設定ステップと、各々の前記関心領域から放出される前記放射線量を所定の時間間隔で経時的に計測して得られる計数値を取得する計数値取得ステップと、各々の前記関心領域に対応する前記計数値の経時的変化を示す複数のタイムアクティビティーカーブを取得するカーブ取得ステップと、前記左室心筋を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブにつき、平衡状態区間における前記放射線量に対する近似直線を作成する近似直線作成ステップと、前記左室内腔を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブの増加部分に対する前記放射線量の離散値を近似曲線とする正規分布曲線を作成する正規分布曲線作成ステップと、前記近似直線を前記平衡状態区間から時刻の早い方に外挿させて、最初に得られる前記正規分布曲線との交点を求める交点算出ステップと、前記交点と、前記正規分布曲線の立ち上がり時刻との間を血流動態を表す理論式で近似して、第1曲線を求める曲線算出ステップと、前記第1曲線と、前記近似直線とを前記交点で結んだ第2曲線を作成し、前記左室心筋の前記タイムアクティビティーカーブとする曲線作成ステップとを含む。
【0009】
本発明のまた別の一側面に係る信号処理装置は、体内に放射性薬剤を投与して測定された放射線量に基づいて、左室内腔及び左室心筋を含む複数の関心領域を設定する関心領域設定部と、各々の前記関心領域から放出される前記放射線量を所定の時間間隔で経時的に計測して得られる計数値を取得する計数値取得部と、各々の前記関心領域に対応する前記計数値の経時的変化を示す複数のタイムアクティビティーカーブを取得するカーブ取得部と、前記左室心筋を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブにつき、平衡状態区間における前記放射線量に対する近似直線を作成する近似直線作成部と、前記左室内腔を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブの増加部分に対する前記放射線量の離散値を近似曲線とする正規分布曲線を作成する正規分布曲線作成部と、前記近似直線を前記平衡状態区間から時刻の早い方に外挿させて、最初に得られる前記正規分布曲線との交点を求める交点算出部と、前記交点と、前記正規分布曲線の立ち上がり時刻との間を血流動態を表す理論式で近似して、第1曲線を求める曲線算出部と、前記第1曲線と、前記近似直線とを前記交点で結んだ第2曲線を作成し、前記左室心筋の前記タイムアクティビティーカーブとする曲線作成部とを備える。
【発明の効果】
【0010】
このように構成された本発明に係る信号処理プログラム、信号処理方法及び信号処理装置によれば、心筋血流量のより正確な定量をより容易に支援し得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1に係る信号処理装置及びその周辺装置を示す機能構成図である。
図2】表示装置に表示されるタイムアクティビティーカーブの一例を示す図である。
図3】表示装置に表示されるタイムアクティビティーカーブの別の一例を示す図である。
図4】本発明の実施例1に係る信号処理装置及びその周辺装置で行われる全体処理のフローチャートである。
図5】従来のタイムアクティビティーカーブの一例を示す図である。
図6】従来のタイムアクティビティーカーブの別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。なお、以下の説明はあくまでも好ましい態様の一例を示したものであり、本発明の範囲を限定する意図ではない。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明の実施例1に係る信号処理装置100及び周辺装置を示す機能構成図である。ここでは周辺装置として、撮像装置20、操作受付部40及び表示装置30を例示するが、これに限られない。
【0014】
撮像装置20は、放射性薬剤から放出される放射線強度を検知し、その検知した放射線強度を所定の時間間隔で複数の画素をデジタル画像化することにより、体内の各領域における放射性薬剤の経時的な分布変化を可視化することができる。
【0015】
表示装置30は、例えば、撮像装置20によって得られる撮像データや、信号処理装置100によって生成される解析結果等を、使用者又は被験者等が視認可能に表示出力する装置である。
【0016】
操作受付部40は、信号処理装置100の使用者による操作を受け付ける手段であり、具体的には、操作ボタン、キーボード、マウス、タッチパネル等が例示されるが、これらに限定されない。信号処理装置100は、例えば、操作受付部40から受け付けた電気信号に応じて各種制御を実行する。
【0017】
なお、図1においては表示装置30と操作受付部40とを別々の構成要素として図示しているが、これは一例である。タッチパネル式の表示デバイスなど表示出力及び操作入力が可能な装置を用いることにより、表示装置30と操作受付部40とを一体的に実現することも可能である。
【0018】
本実施例に用いられる放射性薬剤としては、テトロフォスミンテクネチウム(99mTc)注射液(以下、TFと称す)を好ましく挙げることができる。TFは代表的な蓄積型トレーサの一つであり、高い脂溶性によって初回循環でその大部分が組織に取り込まれる。
【0019】
好ましい態様において、核医学検査は、本発明に係る血流量の定量に用いるためのデータとして、短い時間間隔で連続的に撮像された複数の画像を収集する。この場合において、撮像装置20が行う撮像方法をダイナミックスキャンといい、このような撮像方法で得られる一連の撮像データをダイナミック画像という。なお、本実施例における撮像装置20によって得られる撮像データはダイナミック画像に限らず、スタティックに撮像された撮像データ(スタティック画像)が含まれる。
【0020】
信号処理装置100は、いわゆるコンピュータ端末であってCPUとメモリ(メインメモリやキャッシュメモリ等の記憶装置を含むハードウェアの総称)とを有する。信号処理装置100は、メモリで保持されたデータやプログラムをCPUで実行することにより、種々の機能をソフトウェア処理によって実現することができる。又は、信号処理装置100は、専用の論理回路を用いたハードウェア処理、及びソフトウェア処理及びハードウェア処理の組み合わせによっても実現可能である。信号処理装置100に内包される各種機能については、後に詳述する。
【0021】
なお、本実施例において信号処理装置100は一つの装置として説明するが、複数の情報端末がネットワークを介して通信可能に接続されているネットワークシステムとしても本発明は実現可能である。ここで、ネットワークとは、インターネットやLAN(Local Area Network)等の種々のコンピュータネットワーク又はその組合せで構成できる。また、各構成要素とネットワークとの通信接続は、有線通信であってもよいし、無線通信であってもよい。
【0022】
<信号処理装置100に内包される各種機能>
本実施例における信号処理装置100は、入力部101と、記憶部102と、出力部103と、ROI設定部104(関心領域設定部)と、計数値取得部105と、カーブ取得部106と、近似直線作成部107と、正規分布曲線作成部108と、交点算出部109と、曲線算出部110と、曲線作成部111とを有している。
【0023】
入力部101は、撮像装置20からダイナミック画像を含む種々のデータを入力する機能である。入力部101は、撮像装置20からの種々のデータを受動的に受け付ける機能であっても良いし、撮像装置20に記憶されている種々のデータを能動的に読み取る機能であっても良い。
【0024】
記憶部102は、信号処理装置100が処理するデータの一部又は全部を記憶する機能である。具体的には、上述したメモリにおける記憶領域の一部又は全部により構成されている。記憶部102が記憶するデータは、入力部101が撮像装置20から入力した種々のデータが含まれる。
【0025】
出力部103は、例えば、曲線作成部111が作成したタイムアクティビティーカーブを表示装置30で表示可能に出力する機能である。出力部103は、表示装置30から指令を受け付け、当該指令に応じてタイムアクティビティーカーブを出力する受動的機能であっても良いし、表示装置30を制御してタイムアクティビティーカーブを表示させる能動的機能であっても良い。
【0026】
ROI設定部104は、体内に放射性薬剤を投与して測定された放射線量に基づいて、信号処理装置100に記憶されているダイナミック画像のいずれかを選択し、当該ダイナミック画像内の一部領域をROIとして設定する機能である。ここで、ROIとは、画像を用いた解析手法において、観察又は測定対象となる一部領域のことをいう。なお、ROIは、Region of Interestの略であり、関心領域又は対象領域等ともいわれる。本実施例におけるROI設定部104は、少なくとも左室内腔及び左室心筋を含む複数の領域を、それぞれROIに設定する。
【0027】
計数値取得部105は、各々のROIから放出される放射線量を所定の時間間隔で経時的に計測して得られる計数値を取得する。ここで、計数値とは、放射線量を示す定量的な数値をいい、具体的には撮像装置20に内蔵されている検出器(例えばシンチレータ)によって検知された放射線の数である。本実施例の計数値取得部105は、撮像装置20が撮像したダイナミック画像に対して設定されたROIにおいて検知された放射線のカウント値を読み取ることによって計数値を取得する。この態様は一例であって、計数値を取得する手段としては、例えば、本実施例の撮像装置20のようにダイナミック画像を撮像できる装置であって自律的に所定の領域について計数値を取得する手段であってもよい。あるいは、ネットワークを介して他装置が取得した計数値を受信することによって計数値を取得する手段であっても良い。
【0028】
カーブ取得部106は、各々のROIに対応するタイムアクティビティーカーブを取得する。ここで、タイムアクティビティーカーブとは、計数値取得部105によって取得された計数値の経時的変化を示すものであり、本来は不連続である各々の計数値を曲線でつなげることによって連続的に変化しているように解析者に視認させている。図2は、表示装置30に表示されるタイムアクティビティーカーブの一例を示す図である。図2に示すグラフは、縦軸に放射線量の計数値(カウント値)をとり、横軸に撮像開始時を起点とする経過時間をとる。図2において、破線で示すグラフは左室内腔のタイムアクティビティーカーブC1であり、実線で示すグラフは左室心筋のタイムアクティビティーカーブC2である。
【0029】
近似直線作成部107は、左室心筋を含むROIに対応するタイムアクティビティーカーブC2(図2)につき、平衡状態区間(図2)における放射線量に対する近似直線を作成する。ここで、近似直線とは、測定により得られた複数の数値の組に対し、最小二乗法などを適用することにより算出される一次関数により表される直線のことである。場合によっては、単純平均、移動平均、加重平均等の処理も適用することができる。なお、この処理において近似直線の作成に用いられる平衡状態区間は、タイムアクティビティーカーブにおけるカウント値の経時的変化がみられなくなった区間を、任意に選択して用いることができる。この区間の選択は、操作者が画面上でマウスポインタやスタイラスペン等を用いて行う事ができるが、カウント値の平均変化率や近似直線の相関係数を利用して、自動で行っても良い。例えば、カウント値の変化率が連続して一定の値以下となる範囲を選択したり、近似直線の相関係数が一定の値以上となる範囲を選択したりするといった条件を与え、自動で設定することができる。
【0030】
正規分布曲線作成部108は、左室内腔を含むROIに対応するタイムアクティビティーカーブの増加部分に対する放射線量の離散値を近似曲線とする正規分布曲線C3(図3)を作成する。増加部分とは、放射線量の計数値(カウント値)が最大値に向けて増加する傾向にある部分のことをいう。図3は、表示装置30に表示されるタイムアクティビティーカーブの別の一例を示す図である。図3において、曲線C1は左室内腔のタイムアクティビティーカーブであり、曲線C2は左室心筋のタイムアクティビティーカーブである。本実施例における正規分布曲線作成部108は、タイムアクティビティーカーブC1の増加部分に正規分布曲線C3(図3)を近似させる。
【0031】
交点算出部109は、近似直線作成部107によって作成された近似直線L1(図3)を平衡状態区間から時刻の早い方に外挿させて、最初に得られる正規分布曲線C3(図3)との交点P1(図3)を求める。ここで、外挿とは、ある既知の数値データを基にして、そのデータの範囲の外側で予想される数値を求めることをいう。本実施例における交点算出部109は、一次関数による線形外挿を行って、近似直線L1と正規分布曲線C3との交点P1を求める。
【0032】
曲線算出部110は、交点算出部109が算出した交点P1と、正規分布曲線作成部108が作成した正規分布曲線C3の立ち上がり時刻t1(図3)との間を血流動態を表す理論式で近似するフィッティングによって、第1曲線C4(図3)を求める。ここで、立ち上がり時刻とは、放射性薬剤の投与後に左室心筋から検知される放射線量が最初に急増し始める時刻のことをいう。フィッティングに用いる理論式は、2コンパートメントモデルに基づいて得られた近似式を、好ましく用いることができる。近似式としては、例えば文献(大西良浩著、「表計算ソフトによるコンパートメントモデル解析の計算」、日本放射線技術学会、平成10年11月、第54巻、第11号、p.1336-1341)記載の式を用いることができる。
【0033】
曲線作成部111は、曲線算出部110が算出した第1曲線C4(図3)と、近似直線作成部107が作成した近似直線L1(図3)とを、交点算出部109が算出した交点P1(図3)で結んだ第2曲線C5(図3)を作成し、左室心筋のタイムアクティビティーカーブC5とする。
【0034】
<信号処理装置100によって行われる全体処理のフロー>
図4は、本発明の実施例1に係る信号処理装置及びその周辺装置で行われる全体処理のフローチャートである。以下、図4を用いて、信号処理装置100によって行われる全体処理のフローについて説明する。
【0035】
ROI設定部104は、左室内腔及び左室心筋を含む領域にROIを設定する(ステップS101)。計数値取得部105は、左室内腔及び左室心筋から放出される放射線量を計測して得られる計数値を取得する(ステップS102)。
【0036】
カーブ取得部106は、左室内腔のタイムアクティビティーカーブC1(図2)と、左室心筋のタイムアクティビティーカーブC2(図2)とを取得する(ステップS103)。近似直線作成部107は、左室心筋のタイムアクティビティーカーブC2につき、平衡状態区間における放射線量に対する近似直線L1を作成する(ステップS104)。
【0037】
正規分布曲線作成部108は、左室内腔のタイムアクティビティーカーブCの増加部分に対する放射線量の離散値を近似曲線とする正規分布曲線C3を作成する(ステップS105)。交点算出部109は、近似直線L1と正規分布曲線C3との交点P1を求める(ステップS106)。
【0038】
曲線算出部110は、血流動態を表す理論式に基づいて得られた近似式を用いたフィッティングによって、第1曲線C4を求める(ステップS107)。曲線作成部111は、曲線C4と近似直線L1とを交点P1で結び、第2曲線C5を作成する(ステップS108)。出力部103は、曲線作成部111が作成したタイムアクティビティーカーブを表示装置30で表示可能に出力する(ステップS109)。
【0039】
図3の斜線でハッチングした部分は、左室心筋の放射線量の計数値(カウント値)が増加した部分を示している。計数値の増加は、spill over現象により引き起こされると考える。すなわち、隣り合う左室心筋と左室内腔との間で放射能が画像上で漏れ出たり、画像上において左室内腔から漏れ出た放射能を左室心筋が浴びせられたりすることで引き起こされると考える。このような状況下では、左室心筋に基づく放射能カウントに、左室内腔に基づく放射能カウントがかぶさってしまい、左室心筋のカウント値が過大評価される。すなわち、左室心筋のカウント値が誤って計側される。
【0040】
実施例1における信号処理装置100では、曲線作成部111が、第1曲線C4と近似直線L1とを交点P1で結び、第2曲線C5としているので、左室心筋に基づく放射能カウントに、左室内腔に基づく放射能カウントがかぶさらない。これにより、左室内腔に基づく放射能カウントの影響を補正することができる。
【0041】
実施例1における信号処理装置100によれば、心筋血流量の正確な定量をより容易に支援し得る。
【0042】
本実施例は以下の技術思想を包含する。
(1)コンピュータに、体内に放射性薬剤を投与して測定された放射線量に基づいて、左室内腔及び左室心筋を含む複数の関心領域を設定する処理と、各々の前記関心領域から放出される前記放射線量を所定の時間間隔で経時的に計測して得られる計数値を取得する処理と、各々の前記関心領域に対応する前記計数値の経時的変化を示す複数のタイムアクティビティーカーブを取得する処理と、前記左室心筋を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブにつき、平衡状態区間における前記放射線量に対する近似直線を作成する処理と、前記左室内腔を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブの増加部分に対する前記放射線量の離散値を近似曲線とする正規分布曲線を作成する処理と、前記近似直線を前記平衡状態区間から時刻の早い方に外挿させて、最初に得られる前記正規分布曲線との交点を求める処理と、前記交点と、前記正規分布曲線の立ち上がり時刻との間を血流動態を表す理論式で近似して、第1曲線を求める処理と、前記第1曲線と、前記近似直線とを前記交点で結んだ第2曲線を作成し、前記左室心筋の前記タイムアクティビティーカーブとする処理を実行させるための信号処理プログラム。
(2)体内に放射性薬剤を投与して測定された放射線量に基づいて、左室内腔及び左室心筋を含む複数の関心領域を設定する関心領域設定ステップと、各々の前記関心領域から放出される前記放射線量を所定の時間間隔で経時的に計測して得られる計数値を取得する計数値取得ステップと、各々の前記関心領域に対応する前記計数値の経時的変化を示す複数のタイムアクティビティーカーブを取得するカーブ取得ステップと、前記左室心筋を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブにつき、平衡状態区間における前記放射線量に対する近似直線を作成する近似直線作成ステップと、前記左室内腔を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブの増加部分に対する前記放射線量の離散値を近似曲線とする正規分布曲線を作成する正規分布曲線作成ステップと、前記近似直線を前記平衡状態区間から時刻の早い方に外挿させて、最初に得られる前記正規分布曲線との交点を求める交点算出ステップと、前記交点と、前記正規分布曲線の立ち上がり時刻との間を血流動態を表す理論式で近似して、第1曲線を求める曲線算出ステップと、前記第1曲線と、前記近似直線とを前記交点で結んだ第2曲線を作成し、前記左室心筋の前記タイムアクティビティーカーブとする曲線作成ステップとを含む信号処理方法。
(3)体内に放射性薬剤を投与して測定された放射線量に基づいて、左室内腔及び左室心筋を含む複数の関心領域を設定する関心領域設定部と、各々の前記関心領域から放出される前記放射線量を所定の時間間隔で経時的に計測して得られる計数値を取得する計数値取得部と、各々の前記関心領域に対応する前記計数値の経時的変化を示す複数のタイムアクティビティーカーブを取得するカーブ取得部と、前記左室心筋を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブにつき、平衡状態区間における前記放射線量に対する近似直線を作成する近似直線作成部と、前記左室内腔を含む前記関心領域に対応する前記タイムアクティビティーカーブの増加部分に対する前記放射線量の離散値を近似曲線とする正規分布曲線を作成する正規分布曲線作成部と、前記近似直線を前記平衡状態区間から時刻の早い方に外挿させて、最初に得られる前記正規分布曲線との交点を求める交点算出部と、前記交点と、前記正規分布曲線の立ち上がり時刻との間を血流動態を表す理論式で近似して、第1曲線を求める曲線算出部と、前記第1曲線と、前記近似直線とを前記交点で結んだ第2曲線を作成し、前記左室心筋の前記タイムアクティビティーカーブとする曲線作成部とを備えることを特徴とする信号処理装置。
【符号の説明】
【0043】
100、200 信号処理装置
104 ROI設定部(関心領域設定部)
105 計数値取得部
106 カーブ取得部
107 近似直線作成部
108 正規分布曲線作成部
109 交点算出部
110 曲線算出部
111 曲線作成部
112 カーブ補正部
C1、C2 タイムアクティビティーカーブ
C3 正規分布曲線
C4 第1曲線
C5 第2曲線
L1 近似直線
t1 立ち上がり時刻
図1
図2
図3
図4
図5
図6