(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】複合磁性材料、メタルコンポジットコア、リアクトル、及びメタルコンポジットコアの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/26 20060101AFI20220506BHJP
H01F 27/255 20060101ALI20220506BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20220506BHJP
H01F 37/00 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F27/255
H01F41/02 D
H01F37/00 A
H01F37/00 M
(21)【出願番号】P 2018178116
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2019-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】有間 洋
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-032708(JP,A)
【文献】特開2018-098259(JP,A)
【文献】特開2005-307291(JP,A)
【文献】特開2014-156635(JP,A)
【文献】特開2014-199862(JP,A)
【文献】特開2015-106590(JP,A)
【文献】特開2012-077363(JP,A)
【文献】国際公開第2010/082486(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0044838(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0272622(US,A1)
【文献】特開2018-022869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
H01F 41/02
H01F 37/00
H01F 27/255
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉末と樹脂を混合して得られる複合磁性材料であって、
前記磁性粉末は、第1磁性粉末と、前記第1磁性粉末より平均粒径が小さい第2磁性粉末を含み、
前記第1磁性粉末は、保磁力Hc=0.70A/cm以下、且つ円形度0.9以上、粉末硬度278Mpa以上であり、
前記第2磁性粉末は、保磁力Hc=0.93A/cm以下、且つ円形度0.98以上、粉末硬度239Mpa以上であり、
前記樹脂の混合量は、前記磁性粉末の3~5wt%であること、
ことを特徴とする複合磁性材料。
【請求項2】
前記第1磁性粉末は、保磁力Hc=0.48A/cm以下、且つ円形度0.92以上、粉末硬度403Mpa以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合磁性材料。
【請求項3】
前記磁性粉末に対する前記第1磁性粉末の添加量が60~80wt%であり、
前記磁性粉末に対する前記第2磁性粉末の添加量が40~20wt%であること、
を特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の複合磁性材料。
【請求項4】
磁性粉末と樹脂を混合して得られるメタルコンポジットコアであって、
前記磁性粉末は、第1磁性粉末と、前記第1磁性粉末より平均粒径が小さい第2磁性粉末を含み、
前記第1磁性粉末は、保磁力Hc=0.70A/cm以下、且つ円形度0.9以上、粉末硬度278Mpa以上であり、
前記第2磁性粉末は、保磁力Hc=0.93A/cm以下、且つ円形度0.98以上、粉末硬度239Mpa以上である、
ことを特徴とするメタルコンポジットコア。
【請求項5】
全表面が非摺動面であることを特徴とする請求項
4に記載のメタルコンポジットコア。
【請求項6】
請求項
4または請求項
5に記載のメタルコンポジットコアと、コイルとを備えたことを特徴とするリアクトル。
【請求項7】
磁性粉末及び樹脂を含むメタルコンポジットコアの製造方法であって、
前記磁性粉末は、保磁力Hc=0.70A/cm以下、且つ円形度0.9以上、粉末硬度278Mpa以上の第1磁性粉末と、前記第1磁性粉末より平均粒子径の小さい第2磁性粉末を含み、
前記第2磁性粉末は、保磁力Hc=0.93A/cm以下、且つ円形度0.98以上、粉末硬度239Mpa以上であり、
前記磁性粉末に対して、樹脂を混合する混合工程と、
前記混合工程で得た混合物を所定の容器に入れて成型する成型工程と、
前記成型工程で得た成型体中の前記樹脂を硬化させる硬化工程と、
を有すること、
を特徴とするメタルコンポジットコアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性粉末と樹脂からなる複合磁性材料、メタルコンポジットコア、リアクトル、及びメタルコンポジットコアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
OA機器、太陽光発電システム、自動車、無停電電源など様々な用途にリアクトルが用いられている。リアクトルは、例えば、出力系への高調波電流の流出を防止するフィルタや、電圧を昇降させる電圧昇降用コンバータなどに用いられる。
【0003】
リアクトルには、用途に合わせて透磁率、インダクタンス値、鉄損などの磁気特性が求められる。例えば、電圧昇降用のコンバータに用いられるリアクトルは、エネルギー変換効率の向上が求められるため、エネルギー損失である鉄損が小さいことが求められる。
【0004】
また、様々な用途に対応するため、リアクトルに用いられるコアを任意の形状に成型したいという要望もある。このような要望に応えるリアクトルとして、メタルコンポジットコアと呼ばれるタイプのコアを備えたものがある。メタルコンポジットコア(以下、単にMCコアともいう。)は、金属磁性粉末と樹脂とを混ぜた材料を所定形状に成型して固化させてなるコアである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のMCコアは、その材料がスラリー状であり、容器に当該材料を流し込むことにより成型するので、所望の形状を容易に成型でき、形状の制約が少ないという成型性に利点がある。一方で、容器内での流動性を良くするために、樹脂を一定量以上添加する必要があり、当該材料中の磁性粉末の占める割合が少なくなり、コア密度の低下を招き、結果として磁気特性が低下していた。また、MCコアにおいてはコア密度の低下以外にも磁気特性を低下させる要因があり、それらの影響を抑制し磁気特性を向上させることが望まれている。
【0007】
本発明の目的は、磁気特性に優れたメタルコンポジットコアの材料となる複合磁性材料、メタルコンポジットコア、リアクトル、及びメタルコンポジットコアの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、鋭意検討した結果、軟磁性粉末として大小2種類の磁性粉末を使用するメタルコンポジットコアにおいて、平均粒径が大きい第1磁性粉末の円形度を高くしコア密度を向上させることで低透磁率を実現し、第1磁性粉末の保磁力を低く抑えることで低鉄損を実現し、これらの相乗効果によりメタルコンポジットコアの磁気特性を向上させることが可能であるとの知見を得た。
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明は、磁性粉末と樹脂を混合して得られる複合磁性材料であって、前記磁性粉末は、第1磁性粉末と、前記第1磁性粉末より平均粒径が小さい第2磁性粉末を含み、前記第1磁性粉末は、保磁力Hc=0.70A/cm以下、且つ円形度0.9以上、粉末硬度278Mpa以上であり、前記第2磁性粉末は、保磁力Hc=0.93A/cm以下、且つ円形度0.98以上、粉末硬度239Mpa以上であり、前記樹脂の混合量は、前記磁性粉末の3~5wt%あることを特徴とする。
【0011】
前記第1磁性粉末は、保磁力Hc=0.48A/cm以下、且つ円形度0.92以上、粉末硬度403Mpa以上であっても良い。
【0013】
前記第2磁性粉末は、保磁力Hc=0.93A/cm以下、且つ円形度0.98以上であっても良い。
【0014】
前記第2磁性粉末は、粉末硬度239Mpa以上であっても良い。
【0015】
前記磁性粉末に対する前記第1磁性粉末の添加量が60~80wt%であり、前記磁性粉末に対する前記第2磁性粉末の添加量が40~20wt%であっても良い。
【0016】
前記樹脂の混合量は、前記磁性粉末の3~5wt%であっても良い。
【0017】
前記複合磁性材料を形成して成るメタルコンポジットコアも本発明の一態様であり、磁性粉末と樹脂を混合して得られるメタルコンポジットコアであって、前記磁性粉末は、第1磁性粉末と、前記第1磁性粉末より平均粒径が小さい第2磁性粉末を含み、前記第1磁性粉末は、保磁力Hc=0.70A/cm以下、且つ円形度0.9以上、粉末硬度278Mpa以上であり、前記第2磁性粉末は、保磁力Hc=0.93A/cm以下、且つ円形度0.98以上、粉末硬度239Mpa以上である、ことを特徴とする。
【0018】
本発明のメタルコンポジットコアは、コアの全表面が非摺動面であっても良い。
【0019】
前記メタルコンポジットコアと、コイルとを備えたリアクトルも本発明の一態様である。
【0020】
また、本発明のメタルコンポジットコアの製造方法は、磁性粉末及び樹脂を含むメタルコンポジットコアの製造方法であって、前記磁性粉末は、保磁力Hc=0.70A/cm以下、且つ円形度0.9以上、粉末硬度278Mpa以上の第1磁性粉末と、前記第1磁性粉末より平均粒子径の小さい第2磁性粉末を含み、前記第2磁性粉末は、保磁力Hc=0.93A/cm以下、且つ円形度0.98以上、粉末硬度239Mpa以上であり、前記磁性粉末に対して、樹脂を混合する混合工程と、前記混合工程で得た混合物を所定の容器に入れて成型する成型工程と、前記成型工程で得た成型体中の前記樹脂を硬化させる硬化工程と、を有すること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、磁気特性に優れたメタルコンポジットコアの材料となる複合磁性材料、メタルコンポジットコア、リアクトル、及びメタルコンポジットコアの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係るリアクトルの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図2】成型工程及び加圧工程を説明するための図である。
【
図3】実施例1~5及び比較例1の鉄損Pcvに対する透磁率μ
12kのグラフである。
【
図4】実施例4、5及び比較例1の第1磁性粉末の粉末硬度に対するダストコアの見かけ密度に対するMCコアの見かけ密度の割合を示す鉄損Pcvに対する透磁率μ
12kのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[1.実施形態]
[1-1.構成]
本実施形態のリアクトルは、コアと、コイルとを備える。コアは、磁性粉末と樹脂とを含み構成されたメタルコンポジットコア(以下、MCコアとも呼ぶ)である。磁性粉末と樹脂とを混合した粘土状の混合物を、所定の容器に充填し、加圧することでコアを所定の形状とすることができる。コアの形状は、例えば、トロイダル状コア、I型コア、U型コア、θ型コア、E型コア、EER型コアなど、種々の形状とすることができる。
【0024】
磁性粉末としては、軟磁性粉末が使用でき、特に、Fe粉末、Fe-Si合金粉末、Fe-Al合金粉末、Fe-Si-Al合金粉末(センダスト)、又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが使用できる。Fe-Si合金粉末としては、例えば、Fe-6.5%Si合金粉末、Fe-3.5%Si合金粉末を使用できる。軟磁性粉末の平均粒子径(D50)は20μm~150μmが好ましい。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、特に断りがない限り、D50、すなわちメジアン径を指すものとする。
【0025】
磁性粉末は、異なる平均粒子径の磁性粉末から構成する。つまり、磁性粉末は、第1磁性粉末と、第1磁性粉末より平均粒子径の小さい第2磁性粉末を含む。第1磁性粉末及び第2磁性粉末は、低保磁力であることが望ましい。第1磁性粉末の保磁力は、0.70A/cm以下、望ましくは0.48A/cm以下であることが好ましい。保磁力の大きな磁性粉末を用いたMCコアでは、MCコアにおけるヒステリシスループも大きくなる。そのため、MCコアのヒステリシス損失が大きくなる。故に、第1磁性粉末の保磁力を低く抑えることで低鉄損のMCコアを実現することが可能となる。また、第2磁性粉末の保磁力は、0.93A/cm以下であることが望ましい。第2磁性粉末の保磁力は、第1磁性粉末の保磁力と比較し、MCコアのヒステリシスループに対する影響が少ない。しかしながら、第2磁性粉末の保磁力が0.93A/cm超となると、MCコアにおけるヒステリシスループも大きくなり、MCコアのヒステリシス損失が大きくなるからである。
【0026】
第1磁性粉末及び第2磁性粉末は、球形であることが好ましい。第1磁性粉末の円形度は、0.90以上であり、第2磁性粉末の円形度は、0.98以上であることが好ましい。第1磁性粉末同士の隙間が少なくなり、かつ、当該隙間により多くの第2磁性粉末が入り込み易くなり、密度及び透磁率の向上を図ることができるからである。MCコアを加圧する場合、加圧工程において加わる圧力は、数kg/cm2~数十kg/cm2であり、数t/cm2~数十t/cm2を必要とする圧粉磁心(以下、ダストコアとも呼ぶ)に比べて、1000分の1程度と非常に小さいため、磁性粉末の円形度が維持できる。つまり、高い圧力で加圧する必要があるダストコアの場合、このような磁性粉末の円形度は得られない。
【0027】
また、磁性粉末に対する第1磁性粉末の添加量が60~80wt%であることが好ましい。つまり、磁性粉末を、第1磁性粉末と第2磁性粉末により構成した場合、その重量比率は、第1磁性粉末:第2磁性粉末=80:20~60:40とすることが好ましい。この範囲とすることでコアの密度が向上し、鉄損Pcvを小さくすることができる。
【0028】
第1磁性粉末の平均粒子径は50μm~200μmとすることが好ましい。また、第2磁性粉末は、3μm~25μmとすることが好ましい。第1磁性粉末同士の隙間に平均粒子径の小さい第2磁性粉末が入り込み、コアの密度の向上と低鉄損化を図ることができるからである。
【0029】
第1磁性粉末の粉末硬度は、278Mpa以上、望ましくは、粉末硬度403Mpa以上であることが望ましい。MCコアは、ダストコアと違い樹脂により磁性粉末同士を接着する。対してダストコアは、加圧工程において加わる高い圧力を加え、磁性粉末を歪ませた方が成型性が良くなる。ダストコアでは粉末硬度は、一定値以下が望ましいが、MCコアではその制約が無い。また、MCコアの場合には、ダストコアとは異なり加圧による磁性粉末の変形が生じないため、ヒステリシス損に対する悪影響はない。また、第1磁性粉末を球形とすると、粉末硬度は高くなる傾向にある。第1磁性粉末を球形とすることで、MCコアの透磁率を低く抑えることができると共に、密度を向上させることができる。また、第2磁性粉末の粉末硬度は、239Mpa以上であることが望ましい。第1磁性粉末と同様に高い粉末硬度により、MCコアの密度及び透磁率の向上を図ることができる。
【0030】
なお、平均粒子径が最大の第1磁性粉末に対して、これよりも平均粒子径の小さい第2磁性粉末が含まれていればよいため、第2磁性粉末は、平均粒子径が異なる磁性粉末を含んでいてもよい。つまり、第2磁性粉末は、平均粒子径が1つに規定できる磁性粉末であってもよいし、平均粒子径が2以上で規定される磁性粉末であってもよい。また、第1磁性粉末と第2磁性粉末の材質、つまり種類は同じでも良いし、異なっていても良い。異なる場合は材質が3種以上であっても良い。3種類以上の粉末により磁性粉末を構成する場合、各種類で平均粒子径を異ならせても良い。
【0031】
第1磁性粉末としては、Fe基アモルファスの粉砕粉、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水・ガスアトマイズ法により製造される粉末を使用することができる。特に、水アトマイズ法によるものが好ましい。理由は、水アトマイズ法はアトマイズ時に急冷するため、粉末が結晶化しにくいからである。第2磁性粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水・ガスアトマイズ法により製造される粉末を使用できる。
【0032】
樹脂は、磁性粉末と混合され、磁性粉末を保持する。磁性粉末が平均粒子径の異なる粉末で構成される場合、各粉末を均質に混合した状態で保持する。樹脂としては、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂、又は熱可塑性樹脂が使用できる。熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂などが使用できる。紫外線硬化性樹脂としては、ウレタンアクリレート系、エポキシアクリレート系、アクリレート系、エポキシ系の樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂としては、ポリイミドやフッ素樹脂などの耐熱性に優れた樹脂を使用することが好ましい。硬化剤を添加することにより硬化するエポキシ樹脂は、硬化剤の添加量などによってその粘度を調整できることから、本発明に適している。熱可塑性のアクリル樹脂やシリコーン樹脂も使用可能である。
【0033】
樹脂は、磁性粉末に対して3~5wt%含有されていることが好ましい。樹脂の含有量が3wt%より少ないと、磁性粉末の接合力が不足し、コアの機械的強度が低下する。また、樹脂の含有量が5wt%より多いと、第1磁性粉末間に形成された樹脂が入り込み、その隙間を第2磁性粉末が埋めることができなくなるなどの理由で、コアの密度が低下し、透磁率が低下する。
【0034】
樹脂の粘度は、磁性粉末との混合時において50~5000mPa・sであることが好ましい。粘度が50mPa・s未満であると、混合時において樹脂が磁性粉末に絡みつくことがなく、容器内で磁性粉末と樹脂とが分離しやすくなり、コアの密度又は強度にバラツキが生じる。粘度が5000mPa・sを超えると、粘度が高くなりすぎ、例えば、第1磁性粉末間に形成された樹脂が入り込み、その隙間を第2磁性粉末が埋めることができなくなるなど、コアの密度が低下し、透磁率が低下する。
【0035】
樹脂には、粘度調整材料として、SiO2、Al2O3、Fe2O3、BN、AlN、ZnO、TiO2などを使用することができる。粘度調整材料としてのフィラーの平均粒子径は、第2磁性粉末の平均粒子径以下、好ましくは第2磁性粉末の平均粒子径の1/3以下が良い。フィラーの平均粒子径が大きいと、得られたコアの密度が低下するからである。また、樹脂には、Al2O3、BN、AlNなどの高熱伝導率材料を添加することができる。
【0036】
コアの見かけ密度の、磁性粉末の真密度に対する割合は、76.6%以上、82%未満であることが好ましい。77%以上であると更に好ましい。当該割合が76.6%以上であると、高磁界においても透磁率を高く維持することができる。逆に、当該割合が76.6%未満であると、低密度により高磁界における透磁率が低下しやすい傾向がある。また、同じ透磁率の特性をダストコアで作製しようとすると、コアの見かけ密度の、磁性粉末の真密度に対する割合が82%~88%程度まで達してしまう。ダストコアは粉末単体で樹脂をコーティングして、上記のように非常に高い圧力で押し固めた時点で外形が形成されるためである。MCコアは、磁性粉末は樹脂に分散されて混ぜ込まれていて、上記のように低い圧力で内部の空気を抜く程度に加圧するに過ぎないため、樹脂が押し固められずに硬化している。従って、本実施形態のMCコアの見かけ密度の、磁性粉末の真密度に対する割合は82%未満となる。
【0037】
なお、本実施形態のMCコアの表面とダストコアの表面とは、以下のような相違がある。まず、ダストコアは、上記のように、絶縁樹脂で被覆した軟磁性粉末を金型に入れて、非常に高い圧力で加圧成型した成型体に、焼鈍などの熱処理を行うことにより製造される。このため、ダストコアの表面は、比較的円滑である。一方、MCコアは、上記のように絶縁樹脂を混合した複合磁性粉末を所定形状の容器に入れて、比較的低い圧力をかけることにより、所定の形状に成型する。このため、MCコアの表面は、ダストコアに比べて粗い。例えば、MCコアにはダストコアにはない微小な穴や凹凸が存在する、表面粗さがダストコアに比べて粗い等の相違がある。
【0038】
また、ダストコアは、絶縁樹脂で被覆した軟磁性粉末を、外型の成型孔の内周面と、下型の上面によって形成される領域に投入し、上型によって圧縮後、上型を抜くことにより成型する。このとき、絶縁樹脂で被覆した軟磁性粉末は型内で高圧で加圧されるため、形成されたダストコアを取り出す際に、型に対して押し付けられるような力が加わっている。従って、ダストコアの表面には、取り出しの際に金型の内周面に対して摺動する部分に、摺動痕が形成される。摺動痕とは、金型の表面を擦りながら移動することにより形成される複数の線状の痕である。本実施形態のMCコアは、型内で樹脂の硬化によりコアとなるため、コアが型に押し付けられることがなく、その表面は摺動痕を有しない。摺動痕を有しない面が非摺動面である。本実施形態のMCコアは、全ての表面が非摺動面である。
【0039】
コイルは、絶縁被覆が施された導線であり、線材として銅線やアルミニウム線を用いることができる。コイルは、コアの少なくとも一部に導線が巻き回されて形成され或いは装着されており、コアの少なくとも一部の周囲に配置される。コイルの巻き方や線材の形状は特に限定されない。
【0040】
[1-2.リアクトルの製造方法]
本実施形態に係るリアクトルの製造方法について、図面を参照しつつ説明する。本リアクトルの製造方法は、
図1に示すように、(1)混合工程、(2)成型工程、(3)加圧工程、及び(4)硬化工程を備える。
【0041】
(1) 混合工程
混合工程は、磁性粉末と樹脂とを混合する工程である。混合工程は、第1磁性粉末と、第1磁性粉末より平均粒子径の小さい第2磁性粉末とを混合し、磁性粉末を構成する磁性粉末混合工程と、磁性粉末に対して3~5wt%の樹脂を添加し、磁性粉末と樹脂とを混合する樹脂混合工程とを有する。
【0042】
各混合工程の混合は、所定の混合器を用いて自動で、又は手動で行うことができる。各混合工程の混合時間は、適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、例えば2分間とする。
【0043】
このような混合工程により、磁性粉末と樹脂との混合物(以下、複合磁性材料ともいう)を得ることができる。なお、混合工程は、成型工程において複合磁性材料を成型するための容器に、磁性粉末と樹脂とを充填して混合しても良い。これにより、複合磁性材料を容器に移し替える必要がなく、製造工数を削減することができる。
【0044】
(2) 成型工程
成型工程は、複合磁性粉末を所定形状の容器に入れて所定の形状に成型する工程である。成型工程では、複合磁性粉末とともにコイルを入れて成型しても良い。
【0045】
容器としては、製造するコアの形状に合わせて各種の形状のものを使用する。コイルを入れる場合には、容器は、上方からコイルを挿入できるよう、上面開口型の箱型や皿形の容器を使用する。成型工程で使用する容器は、そのままコアとコイルとを収容するリアクトルの外装ケースとして使用することもできる。当該容器を外装ケースとして使用すれば、複合磁性粉末の硬化後に容器を取り出す必要がない利点がある。容器を外装ケースとして使用しない場合には、1つの容器で複数のリアクトルを製造するようにしても良い。すなわち、容器の底部に複数の凹部を形成しておき、当該凹部に複合磁性材料及びコイルを入れることにより、複数のリアクトルを製造するようにしても良い。このようにすることで、複数のリアクトルに対し、一度の成型工程で済むので、製造効率を向上させることができる。
【0046】
成型工程に使用する容器としては、その全部又は一部を樹脂成型品によって構成することができる。容器を樹脂製にすることにより、製造コストを削減することができ、かつ、MCコアの任意の形状とできる利点を活かすことができる。すなわち、樹脂は、比較的安価な材料であるため、容器を製造するコストを抑えることができるとともに、射出成型等により、任意の形状のコアを形成することができる。樹脂成型品の材料としては、例えば、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、BMC(バルクモールディングコンパウンド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等を用いることができる。
【0047】
また、容器の全部又は一部を、アルミニウム、マグネシウムなどの熱伝導性の高い金属で構成しても良い。後述するように、加圧工程において複合磁性材料を温めやすくなるからである。
【0048】
(3) 加圧工程
加圧工程は、成型工程時に、複合磁性材料を押圧部材で押圧する工程である。容器に入れられた粘土状の複合磁性材料を、押圧部材で押圧することにより、容器の形状に複合磁性材料を押し広げるとともに、複合磁性材料に含まれていた空隙を減少させ、見かけ密度を向上させる。
【0049】
容器にコイルを入れない場合は、当該工程により、複合磁性材料が容器内部の形状となる。すなわち、複合磁性材料から構成された所定の形状の成型体を得ることができる。
【0050】
容器にコイルを入れる場合は、
図2に示すように、容器内に複合磁性材料を入れて、押圧部材により容器の形状に複合磁性材料を押し広げる。その後、複合磁性材料を押圧したことによりできたスペースにコイルを挿入し、さらに複合磁性材料を充填し、コイルとともに複合磁性材料を押圧部材により上から押圧する。或いは、容器内に複合磁性材料を入れ、その後、コイルをその内外周を含めて当該複合磁性材料に埋設し、コイルとともに複合磁性材料を上から押圧するようにしても良い。このように、コイルとともに複合磁性材料を押圧することにより、複合磁性材料に含まれていた空隙を減少させ、見かけ密度及び透磁率を向上させることができる。なお、コイルが存在する部分は避けて、複合磁性材料のみを押圧するようにしても良い。このように、当該工程により、コイルを含んだ所定形状の複合磁性材料の成型体を得ることができる。
【0051】
また、加圧工程は複合磁性材料を押圧部材で押圧して、当該材料を容器の形状としても良く、この場合は、加圧工程を、加圧工程及び成型工程と捉えることができる。
【0052】
複合磁性材料を押圧する圧力は、1.6kg/cm2以上であるとよい。この圧力によって、見かけ密度を向上させることができる。但し、6.3kg/cm2以上であると、より好ましい。6.3kg/cm2未満であれば、押圧する圧力が小さく、見かけ密度を向上させる効果が小さいからである。また、当該値以上であっても、15.7kg/cm2以下であることが好ましい。この値を超えて押圧しても、見かけ密度を向上させる効果が小さいからである。また、この値を超えて押圧すると、樹脂のみが押圧されて、磁性粉末間の絶縁性が悪化するからである。
【0053】
複合磁性材料を押圧する時間は、樹脂の含有量や粘性によって適宜変更することができる。例えば、10秒とすることができる。
【0054】
加圧工程は、容器又は複合磁性材料を押圧する押圧部材を常温(例えば25℃)よりも高い温度にして行っても良い。容器又は押圧部材の温度を上げることにより、樹脂が温められ、柔らかくなる。そのため、容器内の隙間に複合磁性材料が流れ込み易くなり、成型性を向上させることができるとともに、複合磁性材料中の空隙に当該材料が流れ込み易くなり、密度を向上させることができる。容器又は複合磁性材料を押圧する押圧部材の温度は、複合磁性材料に含まれる樹脂の軟化点より高くすると良い。効果的に樹脂を柔らかくすることができるからである。加圧工程は、容器又は複合磁性材料を押圧する押圧部材の温度を保持したまま行っても良い。
【0055】
また、加圧工程は、容器又は押圧部材の温度を上げておく他、複合磁性材料自体を温めておいて当該複合磁性材料を押圧するようにしても良い。容器又は複合磁性材料を押圧する押圧部材の温度を保持し、かつ、複合磁性材料自体を温めておいて押圧するようにしても良い。
【0056】
(4) 硬化工程
硬化工程は、成型工程で得た成型体中の樹脂を硬化させる工程である。成型体中の樹脂の乾燥により硬化させる場合、乾燥雰囲気は、大気雰囲気とすることができる。乾燥時間は、樹脂の種類、含有量、乾燥温度等に応じて適宜変更可能であり、例えば、1時間~4時間とすることができるが、これに限定されない。乾燥温度は、樹脂の種類、含有量、乾燥時間等に応じて適宜変更可能であり、例えば、85℃~150℃とすることができるが、これに限定されない。なお、乾燥温度は、乾燥雰囲気の温度である。
【0057】
また、樹脂の硬化は、乾燥に限らず、樹脂の種類によって硬化方法は異なる。例えば、樹脂が熱硬化性樹脂であれば、熱を加えることにより樹脂を硬化させ、樹脂が紫外線硬化性樹脂であれば、成型体に紫外線を照射させることで樹脂を硬化させる。
【0058】
硬化工程は、所定の温度で所定時間成型体を硬化させる工程を複数回繰り返しても良い。また、例えば、樹脂の乾燥により硬化させる場合、複数回繰り返す毎に、乾燥温度又は乾燥時間を異ならせても良い。
【0059】
[1-3.作用・効果]
(1)本実施形態のMCコアは、磁性粉末と樹脂とからなるコアであって、磁性粉末は、第1磁性粉末と、第1磁性粉末より平均粒径が小さい第2磁性粉末を含み、第1磁性粉末は、保磁力Hc=0.70A/cm以下、且つ円形度0.9以上である。
【0060】
このため、MCコアを円形度が高く、且つ保磁力の高い軟磁性粉末を使用することで、高いコア密度を実現することが可能であるため、MCコアの磁気特性を優れたものとすることができる。また、第1磁性粉末の保磁力を保磁力Hc=0.70A/cm以下とすることで、MCコアにけるヒステリシスループを小さいものとすることができ、ヒステリシス損失の増加を抑え、磁気特性の低下を抑制することが可能となる。
【0061】
絶縁樹脂で被覆した軟磁性粉末を金型に入れて、10~20t/cm2の高圧で加圧成型することにより製造されるダストコアと呼ばれるタイプのコアも存在する。ダストコアは、MCコアと比較して1000倍の高圧で加圧成形するため、見かけ密度が高くなることが一般的である。見かけ密度が高いコアをしたリアクトルにおいては、高磁界における透磁率を維持するために、コアとコアとの間にギャップを設ける場合がある。磁性粉末同士の間隔もギャップの役割を果たすが、ダストコアは磁性粉末同士の間隔が密でありギャップとしての機能が弱いため、分割構成としてギャップを生じさせている。一方、MCコアは磁性粉末同士の間隔が、ダストコアと比べて疎であるため、この間隔がギャップの役割を果たすことにより、分割構成とすることなく、高磁界でも高い透磁率を得ることができる。
【0062】
また、第1磁性粉末として、円形度を0.9以上且つ粉末硬度278Mpa以上を用いても良い。このような第1磁性粉末としては、Fe-Si-Al合金粉末(センダスト)の粉砕粉などが挙げられる。円形度を0.9以上、且つ粉末硬度を278Mpa以上の軟磁性粉末を用いてMCコアを作製することで、見かけ密度を89.34以上とすることができる。これにより、ダストコアと比較しても遜色のない、見かけ密度に基づいた密度及び透磁率を有するMCコアを作製することが可能となる。
【0063】
(2)さらに、第1磁性粉末は、保磁力Hc=0.48A/cm以下、且つ円形度0.92以上としても良い。円形度0.92以上とすることで、更に高いコア密度を実現することが可能であるため、MCコアの密度及び透磁率を優れたものとすることができる。また、保磁力をHc=0.48A/cm以下とすることで、ヒステリシス損失の増加を抑え、磁気特性の低下を抑制することが可能となる。
【0064】
また、第1磁性粉末として、円形度を0.92以上且つ粉末硬度278Mpa以上を用いても良い。このような第1磁性粉末としては、Fe-Si-Al合金粉末(センダスト)のガスアトマイズ粉が挙げられる。円形度を0.9以上、且つ粉末硬度を403Mpa以上の軟磁性粉末を用いてMCコアを作製することで、見かけ密度を91.67以上とすることができる。これにより、ダストコアと比較しても遜色のない、見かけ密度に基づいた密度及び透磁率を有するMCコアを作製することが可能となる。
【0065】
また、本実施形態のコアは、MCコアであるため、ダストコアと比べて形状の自由度が高く、分割構成としなくても所望の形状のコアを容易に作製できる。分割構成としないことにより、ギャップを無くすことができるので、本実施形態のコアをリアクトルとして構成した場合に、コイルへの漏れ磁束が低減でき、銅損が低下することによって、コイルの発熱を抑えることができる。
【0066】
(3)磁性粉末は、第1磁性粉末と、第1磁性粉末より平均粒径が小さい第2磁性粉末を含み、軟磁性粉末に対する第1磁性粉末の添加量が60~80wt%であり、磁性粉末に対する第2磁性粉末の添加量が40~20wt%である。第1磁性粉末と第2磁性粉末を上記の割合で含むことにより、第1磁性粉末同士の隙間に平均粒子径の小さい第2磁性粉末が入り込み、コアの密度の向上と低鉄損化を図ることができる。
【0067】
(4)本実施形態のコアは、磁性粉末に対して、樹脂が3~5wt%である。これにより、成型性の利点を得つつも、生産性及び密度を向上させたコアを得ることができる。すなわち、樹脂量を3~5wt%としたので、複合磁性材料が粘土状となって扱い易くなり、生産性を向上させることができる。
【0068】
(5)本実施形態のコアは、全表面が非摺動面である。このため、ダストコアではないにもかかわらず、上記のような優れた磁気特性を得ることができる。つまり、ダストコアは摺動痕により、磁性粉末を覆っている絶縁被膜が剥がれてしまうことから、渦電流損が悪化する。一方、本実施形態のコアは、摺動痕が生じないため、ダストコアよりも低損失になる。
【0069】
(6)本実施形態のコアの製造方法は、磁性粉末及び樹脂を含むコアの製造方法であって、前記磁性粉末は、保磁力Hc=0.70A/cm以下、且つ粉末硬度278Mpa以上の第1磁性粉末と、前記第1磁性粉末より平均粒子径の小さい第2磁性粉末を含み、前記磁性粉末に対して、樹脂を混合する混合工程と、前記混合工程で得た混合物を所定の容器に入れて成型する成型工程と、前記成型工程で得た成型体中の前記樹脂を硬化させる硬化工程と、を有する。
【0070】
これにより、密度及び透磁率を向上させたコアを得ることができる。さらに、加圧工程を有することで、複合磁性材料の形状を所定の形状に成型することができるというMCコアの利点である成型性の利点を確保することができるとともに、複合磁性材料を押圧することにより、複合磁性材料に含まれる空隙に当該材料が入り込みやすくなり、コアの見かけ密度及び磁気特性を向上させることができる。
【0071】
[1-4.実施例]
本発明の実施例を、表1~表4及び
図3を参照して、以下に説明する。
(測定項目)
測定項目は、密度、透磁率及び鉄損Pcvである。作製された各コアのサンプルに対して、φ2.6mmの銅線で40ターンの巻線を施してリアクトルを作製した。各コアのサンプルの形状は、外径35mm、内径20mm、高さ11mmのトロイダル形状とした。また、作製したリアクトルの透磁率及び鉄損Pcvを下記の条件で算出した。
【0072】
<密度>
コアの密度は、見かけ密度である。すなわち、各コアのサンプルの外径、内径、及び高さを測り、これらの値からサンプルの体積(cm3)を、π×(外径2-内径2)×高さに基づき算出した。そして、サンプルの質量を測定し、測定した質量を算出した体積で除してコアの密度を算出した。
【0073】
<透磁率及び鉄損>
透磁率及び鉄損Pcvの測定条件は、周波数20kHz、最大磁束密度Bm=30mTとした。透磁率は、鉄損Pcv測定時に最大磁束密度Bmを設定したときの振幅透磁率とした。鉄損Pcvについては、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY-8219)を用いて算出した。この算出は、鉄損Pcvの周波数曲線を次の(1)~(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損係数、渦電流損失係数を算出することで行った。
【0074】
Pcv=Kh×f+Ke×f2…(1)
Phv=Kh×f…(2)
Pev=Ke×f2…(3)
Pcv:鉄損
Kh :ヒステリシス損係数
Ke :渦電流損係数
f :周波数
Phv:ヒステリシス損失
Pev:渦電流損失
【0075】
本実施例において、各粉末の平均粒子径と円形度は、下記装置を用いて3000個の平均値をとったものであり、ガラス基板上に粉末を分散して、顕微鏡で粉末写真を撮り一個毎自動で画像から測定した。
会社名:Malvern
装置名:morphologi G3S
比表面積は、BET法により測定した。
【0076】
[1.第1の特性比較(軟磁性粉末の種類によるの比較)]
第1の特性比較では、軟磁性粉末に含まれる第1磁性粉末と第2磁性粉末の種類を変化させ特性の比較を行う。
【0077】
(サンプルの作製方法)
本特性比較においては、第1磁性粉末と第2磁性粉末の種類を変えて実施例1~5、及び比較例1のコアを作製した。コアの作製においては、第1磁性粉末として表1に記載の粉末を、第2磁性粉末として表2に記載の粉末を使用した。
【0078】
【0079】
【0080】
以下、コアのサンプルの作製方法について下記に順に示す。
【0081】
実施例1~5、及び比較例1のコアのサンプルは、表3に示す第1磁性粉末と第2磁性粉末の組み合わせ、磁性粉末の添加割合、エポキシ樹脂の添加量、プレス圧により作製した。
【0082】
【0083】
(作製手順)
混合工程として、実施例1~5、及び比較例1に対応する種類の第1磁性粉末と第2磁性粉末を、重量比率70:30でV型混合機にて30分混合して磁性粉末を構成した。そして、アルミカップに当該磁性粉末を入れ、当該磁性粉末に対して、4.0wt%のエポキシ樹脂を添加し、2分間ヘラを用いて手動で混合した。これにより、磁性粉末と樹脂との混合物である複合磁性材料を得た。
【0084】
次に、混合工程で得た複合磁性材料を、トロイダル形状の空間を有する樹脂製の容器に充填し、油圧プレス機を用いて容器内の複合磁性材料を6.3kg/cm3のプレス圧で10秒間押圧し、トロイダル形状の成型体を作製した。この押圧の間、容器の温度は25℃に保った。
【0085】
このように加圧工程及び成型工程で得られた成型体を大気中にて、85℃で2時間乾燥させ、その後120℃で1時間乾燥させ、さらに150℃で4時間乾燥させて、サンプルとなるトロイダルコアを作製した。
【0086】
【0087】
表4は、作製した実施例1~5、及び比較例1のMCコアの見かけ密度、初透磁率μ0、透磁率μ12k、鉄損Pcv(鉄損Pcv、ヒステリシス損失Phv、渦電流損失Pev)を示す表である。表4における透磁率は、振幅透磁率であり、前述のインピーダンスアナライザーを使用することで、20kHz、1.0Vにおける各磁界の強さのインダクタンスから算出した。表1中の「μ0」は、直流を重畳させていない状態、すなわち磁界の強さが0H(A/m)の時の初透磁率を示す。表1中の「μ12k」は、磁界の強さが12kH(kA/m)の時の透磁率を示す。
【0088】
表1に基づいて
図3のグラフを作製した。
図3は、鉄損Pcvに対する透磁率μ
12kを示すグラフである。
【0089】
(第1磁性粉末の保磁力及び粉末硬度と、MCコアの磁気特性との相関)
表4及び
図4に示すように、保磁力1.83A/cmの第1磁性粉末を用いた比較例1のMCコアは、鉄損Pcvが22.9となる。これに対して、保磁力Hc=0.70A/cm以下の第1磁性粉末を用いた実施例1~5のMCコアにおいては、鉄損Pcvは16.7以下となる。これは、第1磁性粉末の保磁力が1.83A/cm以上であると保磁力の影響によりヒステリシス損失Phvが増加するためである。また、表4からは、比較例1では、ヒステリシス損失Phvだけでなく渦電流損失Pevも増大しており、ヒステリシス損失と電流損失Pevが共に増加することで鉄損Pcvが増加していることがわかる。
【0090】
前述の通り、第1磁性粉末の円形度は重畳時の透磁率(μ12k)に大きな影響を与える。表4に示す通り、円形度0.90の第1磁性粉末を使用した実施例2においても、透磁率(μ12k)が15.2となった。この値は十分に高い透磁率である。さらに、円形度を0.92以上とした実施例1、3~5においては、透磁率(μ12k)が20.3以上となる。円形度の0.02の相違で、透磁率(μ12k)が5以上異なる。一方、円形度の0.02が異なる実施例1(円形度0.92)と実施例3(円形度0.94)とでは、透磁率(μ12k)の違いは、0.02である。すなわち、重畳時の透磁率(μ12k)を向上させるためには、第1磁性粉末の円形度を0.90以上とすることが良く、円形度を0.92以上とすることで一層、重畳時の透磁率(μ12k)を向上させることが可能である。
【0091】
以上より、実施例2に示すように、保磁力0.70A/cm以下、且つ円形度0.90以上の第1磁性粉末を使用することで、優れた重畳時の透磁率(μ12k)と低鉄損を両立したMCコアを実現することができる。さらに、実施例1、3~5に示すように、第1磁性粉末を保磁力0.48A/cm以下、且つ円形度0.92以上とすることで、優れた重畳時の透磁率(μ12k)と低鉄損を両立しつつも、より一層の優れた重畳時の透磁率(μ12k)を実現したMCコアの実現が可能となる。
【0092】
(第2磁性粉末の保磁力及び粉末硬度と、MCコアの磁気特性との相関)
表3に示すように、実施例1と実施例5の組み合わせと、実施例3と実施例4の組み合わせでは、それぞれの組において第1磁性粉末の種類は同一であるが、第2磁性粉末の種類が異なる。実施例4と実施例5に用いられる第2磁性粉末は、保磁力Hc=0.61A/cm以下であり、実施例1と実施例3とに用いられる第2磁性粉末は、保磁力Hc=0.93A/cm以下である。第2磁性粉末として、保磁力Hc=0.93A/cm以下の磁性粉末を使用した場合でも、鉄損Pcvを16.7以下とすることができることがわかる。
【0093】
つまり、実施例1と実施例3に示すように、MCコアに用いる第2磁性粉末を保磁力Hc=0.93A/cm以下、且つ円形度0.98以上とすることで、優れた重畳時の透磁率(μ12k)と低鉄損を両立したMCコアを実現することができる。さらに、実施例4と実施例5に示すように、第2磁性粉末の保磁力を0.61A/cm以下とすることで、ヒステリシス損失を更に低減することができ、優れた重畳時の透磁率(μ12k)を実現しつつも、より低鉄損のMCコアの実現が可能となる。
【0094】
[2.第2の特性比較(MCコアの見かけ密度とダストコアの見かけ密度との密度比)]
本特性比較は、実施例4、実施例5、比較例1で使用した第1磁性粉末と同じ種類の磁性粉末を用いて、見かけ密度が高くなるような条件に基づいてダストコアを作製し、作製したダストコアと比較例1、実施例4、実施例5のMCコアの見かけ密度を比較した。
【0095】
MCコアの見かけ密度とダストコアの見かけ密度の比較の際には、MCコアと比較するダストコアの磁性粉末の条件を、実施例4、実施例5、比較例1で使用した第1磁性粉末から一部変更した。すなわち、単に実施例4、実施例5、比較例1で使用した第1磁性粉末と同一の平均粒子径を有する第1磁性粉末を用いるのではなく、最適な見かけ密度を有するダストコアが得られる第1磁性粉末の平均粒子径とした。また、最適な見かけ密度を有するダストコアに作製条件には、第2磁性粉末の添加の有無も重要な要素であるため、最適な見かけ密度を有するダストコアの作製の観点から、第2磁性粉末の添加の有無を適宜判断した。
【0096】
比較例1、実施例4、実施例5の比較対象となるダストコアは、以下の条件により作製した。
【0097】
・比較例1の対比対象となるダストコアの製造方法
(1)ガスアトマイズ法で作成した平均粒子径(D50)が35μmのFe-6.5Si合金粉末に対してアルミナ粉末を0.5wt%混合した。
(2)アルミナ粉末が混合されたFe-6.5Si合金粉末に対して、シリコーンオリゴマーを0.5wt%添加して混合し、200℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(3)乾燥させた粉末に対してシリコーンレジンを1.5wt%混合して、150℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(4)加熱乾燥後に生じた塊を解砕する目的で目開き250μmの篩通しを行った。その後、潤滑剤としてエチレンビスステアラマイドを0.5wt%混合した。
(5)上記工程により絶縁被膜が形成されたFe-6.5Si合金粉末を、成形圧力15ton/cm2で成形体を作製した。
(6)最後に、成形体850℃の熱処理温度で窒素雰囲気中にて2時間熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0098】
・実施例4の対比対象となるダストコアの製造方法
(1)水ガスアトマイズ法で作成した平均粒子径(D50)が35μmの第1の非晶質粉末と、水アトマイズで作成した平均粒子径(D50)が5.0μmの第2の非晶質粉末とを70:30の割合で混合した。混合した粉末に対して低融点ガラスを1.3wt%、潤滑剤としてステアリン酸リチウムを0.3wt%混合した。混合はV型混合機を使用して1時間混合する。
(2)混合した粉末に対して、シランカップリング剤0.1wt%、シリコーンレジンを1.5wt%混合して、150℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(3)加熱乾燥後に生じた塊を解砕する目的で、目開き250μmの篩通しを行った。その後、潤滑剤としてステアリン酸リチウムを0.3wt%混合した。
(4)上記工程により絶縁被膜が形成された混合粉末を、成形圧力15ton/cm2で成形体を作製した。
(5)最後に、成形体420℃の熱処理温度で大気中にて2時間熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0099】
・実施例5の対比対象となるダストコアの製造方法
(1)ガスアトマイズ法で作成した平均粒子径(D50)が35μmのFe-Si-Al合金粉末に対して、シランカップリング剤0.3wt%、シリコーンオリゴマーを1.0wt%添加して混合し、200℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(2)乾燥させた粉末に対してシリコーンレジンを1.5wt%混合して、更に150℃で2時間の加熱乾燥を行った。
(3)加熱乾燥後に生じた塊を解砕する目的で、目開き250μmの篩通しを行った。その後、潤滑剤としてエチレンビスステアラマイドを0.5wt%混合した。
(4)上記工程により絶縁被膜が形成されたFe-Si-Al合金粉末を、成形圧力15ton/cm2で成形体を作製した。
(5)最後に、成形体700℃の熱処理温度で大気中にて2時間熱処理を行い、圧粉磁心を作製した。
【0100】
【0101】
表5は、比較例1、実施例4、実施例5のMCコアの見かけ密度、密度比(見かけ密度/理論密度)、比較例1、実施例4、実施例5の比較対象となるダストコアの見かけ密度に対するMCコアの見かけ密度の割合を示す。また、表5に基づいて
図4のグラフを作製した。
図4は、第1粉末硬度に対するダストコアの見かけ密度に対するMCコアの見かけ密度の割合を示すグラフである。
【0102】
表5に示す通り、粉末硬度が255Mpaの比較例1のMCコアの見かけ密度は、5.91g/cm3である。また、比較例1の比較対象となるダストコアの見かけ密度は、6.65g/cm3である。これらの値から、比較例1において、ダストコアの見かけ密度に対するMCコアの見かけ密度の割合を算出すると、88.87%(5.91÷6.65×100)となる。同様に、粉末硬度が700Mpaの実施例4において、ダストコアの見かけ密度に対するMCコアの見かけ密度の割合は、91.67%であり、粉末硬度が403Mpaの実施例5において、ダストコアの見かけ密度に対するMCコアの見かけ密度の割合は、89.34%である。
【0103】
図4に示すように、第1磁性粉末の粉末硬度とダストコアの見かけ密度に対するMCコアの見かけ密度の割合とには相関関係があり、第1磁性粉末の粉末硬度を上昇させるとダストコアの見かけ密度に対するMCコアの見かけ密度の割合が上昇する。つまり、粉末硬度を向上させるとMCコアの見かけ密度は、見かけ密度が高くなるように条件に基づいて作製したダストコアの見かけ密度に近づく。特に、粉末硬度403Mpa以上であると顕著である。以上より、粉末硬度403Mpa以上の第1磁性粉末を使用することで、MCコアの見かけ密度をダストコアの見かけ密度に近づけることが可能となる。
【0104】
[3.他の実施形態]
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0105】
本発明では、MCコアの作製工程として、加圧工程を含めたが省略しても良い。MCコアが目指す密度や透磁率や鉄損Pcvによっては、混合工程、成型工程、硬化工程によりMCコアを作製しても良い。