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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】管状体、及び管状体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/06 20060101AFI20220506BHJP
   B29C 70/30 20060101ALI20220506BHJP
   F16L 9/16 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
B29C70/06
B29C70/30
F16L9/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018238282
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020101204
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】302019599
【氏名又は名称】ミズノ テクニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鵜野澤 晶
(72)【発明者】
【氏名】片山 奏
【審査官】清水 研吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-172338(JP,A)
【文献】特開2007-325823(JP,A)
【文献】特表2018-512223(JP,A)
【文献】特開2005-271279(JP,A)
【文献】実開平3-108366(JP,U)
【文献】特開平11-70197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 9/16
B29C 70/00-70/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂製のプリプレグシートを管状に巻いて硬化してなる1層以上の繊維強化樹脂層を備える管状体であって、
前記繊維強化樹脂層の少なくとも1層は、前記プリプレグシートにおける巻き方向の端部に位置する端縁が接合してなる接合部を備え、
前記接合部は、前記繊維強化樹脂層を構成する1枚の前記プリプレグシートにおける巻き方向の一方の前記端縁が接合してなる第1接合部と、他方の前記端縁が接合してなる第2接合部であり、
前記第1接合部及び前記第2接合部の少なくとも一方は、当該管状体の軸線を1周以上する螺旋状に位置しており、
前記プリプレグシートは、前記巻き方向の長さが前記繊維強化樹脂層の少なくとも1層に基づく長さ以上であり、前記巻き方向と直交する方向の長さが該管状体の軸方向長さと同じに設定されたシートであることを特徴とする管状体。
【請求項2】
複数層の前記繊維強化樹脂層を備え、
最も外側に位置する前記繊維強化樹脂層は、前記螺旋状の前記接合部を備えている請求項1に記載の管状体。
【請求項3】
前記繊維強化樹脂層は、前記プリプレグシートを断面渦巻状に巻いて硬化してなる請求項1又は請求項2に記載の管状体。
【請求項4】
前記螺旋状の前記接合部を備える前記繊維強化樹脂層は、クロスプリプレグシートを管状に巻いて硬化してなる請求項1~3のいずれか一項に記載の管状体。
【請求項5】
1層以上の繊維強化樹脂層を備える管状体の製造方法であって、
長尺状の芯材に繊維強化樹脂製のプリプレグシートを巻き付ける巻き付け工程と、
前記芯材に巻き付けられた前記プリプレグシートを硬化する硬化工程とを備え、
前記巻き付け工程において、
前記プリプレグシートの巻き方向の両端に位置する巻き始め端縁及び巻き終わり端縁の少なくとも一方が前記芯材の軸線周りに1周以上する螺旋状に位置するように、前記芯材に前記プリプレグシートを巻き付け、
前記巻き付け工程では、前記巻き方向の長さが前記繊維強化樹脂層の少なくとも1層に基づく長さ以上であり、前記巻き方向と直交する方向の長さが該管状体の軸方向長さと同じに設定された前記プリプレグシートを巻き付けることを特徴とする管状体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状体、及び管状体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び特許文献2に開示されるように、バトミントンラケットのシャフトや弓矢の矢のシャフトとして、繊維強化樹脂製の管状体が用いられている。特許文献1及び特許文献2の管状体は、次のようにして製造されている。すなわち、図7(a)~(b)に示すように、炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたシート状の材料であるプリプレグシート30を芯材31の外周に巻くことにより、管状の成形体を形成する。次いで、成形体を加熱して、プリプレグシート30を構成する熱硬化性樹脂を硬化させる。冷却後、芯材31を取り外すことにより管状体33が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-262545号公報
【文献】特開2009-58184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図7(b)に示すように、プリプレグシート30を管状に巻いて硬化させてなる管状体33には、プリプレグシート30の巻き方向の両端に位置する端縁30aが接合してなる接合部33aが存在する。接合部33aは、管状体33の周方向における残留応力の分布を不均一にし、管状体33に意図しない反りを生じさせる原因になる。
【0005】
この発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、プリプレグシートを用いて製造される管状体の意図しない反りを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する管状体は、繊維強化樹脂製のプリプレグシートを管状に巻いて硬化してなる1層以上の繊維強化樹脂層を備える管状体であって、前記繊維強化樹脂層の少なくとも1層は、前記プリプレグシートにおける巻き方向の端部に位置する端縁が接合してなる接合部を備え、前記接合部は、当該管状体の軸線を1周以上する螺旋状に位置している。
【0007】
上記構成によれば、プリプレグシートにおける巻き方向の端部に位置する端縁が接合してなる接合部が管状体の軸線を1周以上する螺旋状に形成されており、接合部同士が管状体の周方向に分散して位置している。接合部は、硬化後の残留応力が大きくなりやすい部位であることから、接合部の位置を周方向に分散させることにより、周方向における残留応力の分布を均一化できる。その結果、接合部に起因して管状体に生じる意図しない反りが抑制される。
【0008】
上記管状体において、複数層の前記繊維強化樹脂層を備え、最も外側に位置する前記繊維強化樹脂層は、前記螺旋状の前記接合部を備えていることが好ましい。
プリプレグシートの巻き方向の端縁に起因する反りは、その端縁が管状体の外周側に位置しているほど生じやすくなる。したがって、上記構成によれば、接合部を螺旋状に位置させることによる反りの抑制効果がより顕著に得られる。
【0009】
上記管状体において、前記繊維強化樹脂層は、前記プリプレグシートを断面渦巻状に巻いて硬化してなることが、量産性を高めるうえで好ましい。
プリプレグシートを断面渦巻状に巻いて硬化してなる繊維強化樹脂層とした場合、接合部の周囲に段差が形成されやすく、その結果、残留応力の偏りが大きくなって反りが生じやすくなる。したがって、上記構成によれば、接合部を螺旋状に位置させることによる反りの抑制効果がより顕著に得られる。
【0010】
上記管状体において、前記螺旋状の前記接合部を備える前記繊維強化樹脂層は、クロスプリプレグシートを管状に巻いて硬化してなることが好ましい。
クロスプリプレグシートの利点は、異方性のある複合材料(特に一方向材料)の機械的性質が、クロスプリプレグシートにすることで等方性に近づき、残留応力の均等化も高まることから、管状体の安定性(反りの減少)に有利となる点にある。しかし、一般的なクロスプリプレグシートは、厚みが大きいため、クロスプリプレグシートを管状に巻いて硬化してなる繊維強化樹脂層とした場合、接合部により大きな段差が形成されやすくなる。その結果、段差の大きい接合部による成型厚みの偏りが生じることにより、管状体が反りやすくなるという利点を超えるデメリットが生じていた。今回の発明によれば、接合部を分散して位置させることが可能となることから、デメリットを解消しつつ、クロスプリプレグシートの利点を生かすことが可能となる。
【0011】
上記課題を解決する管状体の製造方法は、長尺状の芯材に繊維強化樹脂製のプリプレグシートを巻き付ける巻き付け工程と、前記芯材に巻き付けられた前記プリプレグシートを硬化する硬化工程とを備え、前記巻き付け工程において、前記プリプレグシートの巻き方向の両端に位置する巻き始め端縁及び巻き終わり端縁の少なくとも一方が前記芯材の軸線周りに1周以上する螺旋状に位置するように、前記芯材に前記プリプレグシートを巻き付ける。
【0012】
上記構成によれば、意図しない反りが抑制された管状体を製造できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、プリプレグシートを用いて製造される管状体の意図しない反りを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】管状体の斜視図。
図2図1の2-2線断面図。
図3図1の3-3線断面図。
図4】(a)~(c)は、管状体の製造方法の説明図。
図5】変更例の管状体の側面図。
図6】変更例の成形体の断面図。
図7】(a)、(b)は、従来の管状体の製造方法の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
図1~3に示すように、管状体10は、繊維強化樹脂からなる直管型の円筒体として形成されるものであり、例えば、バトミントンラケットのシャフト、弓矢の矢のシャフト、に適用される。管状体10の各寸法は、管状体10の用途に応じて適宜設定できるが、例えば、肉厚が0.5~5mmであり、直径(D)に対する軸方向長さ(L)の比率(L/D)が50~200である薄肉細径の管状体であることが好ましい。
【0016】
図3に示すように、管状体10は、断面渦巻状をなす3層の繊維強化樹脂層11を備えている。以下では、繊維強化樹脂層11の各層を内側から順に、内側層11a、中間層11b、外側層11cと記載する。
【0017】
繊維強化樹脂層11を構成する強化繊維12としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、各種セラミックス繊維、ボロン繊維、銅、ステンレス等の金属繊維、アモルファス繊維、芳香族ポリアミド等の有機繊維が挙げられる。繊維強化樹脂層11を構成する強化繊維は、1種のみであってもよいし、複数種類が併用されていてもよい。
【0018】
繊維強化樹脂層11を構成する強化繊維12の配列は特に限定されるものではなく、例えば、特定方向に配列されていてもよいし、織物状又は編み物状であってもよい。また、配列の異なる強化繊維12が多段に重ねられた状態であってもよい。図3においては、一例として、管状体10の周方向に平行に配列された強化繊維12aと、管状体10の軸方向に配列された強化繊維12bと、織物状又は編み物状の強化繊維12cとが重ねられている場合の繊維強化樹脂層11を図示している。
【0019】
繊維強化樹脂層11を構成するマトリックス樹脂13としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。繊維強化樹脂層11を構成するマトリックス樹脂13は、1種のみであってもよいし、複数種類が併用されていてもよい。
【0020】
繊維強化樹脂層11は、強化繊維に合成樹脂を含浸させたシート材であるプリプレグシートを、断面渦巻状をなす管状に巻いて硬化することによって一体に接合されている。そのため、図3に示すように、最も内側に位置する繊維強化樹脂層11である内側層11aには、巻き方向の一端(プリプレグシートの巻き始め端縁)が接合された部位である第1接合部14aが形成されている。同様に、最も外側に位置する繊維強化樹脂層11である外側層11cには、巻き方向の他端(プリプレグシートの巻き終わり端縁)が接合された部位である第2接合部14bが形成されている。
【0021】
図1及び図2に示すように、第1接合部14a及び第2接合部14bは、管状体10の軸線P1を1周以上する螺旋状に形成されている。軸線P1を1周以上する点を除いて、第1接合部14a及び第2接合部14bの螺旋形状は、用途等に応じた寸法精度や製造効率等に応じて適宜設定できる。例えば、軸線P1を1~5周する螺旋であることが好ましい。特に、矢のシャフト部分に適用される管状体10の場合には、軸線P1を1~6周する螺旋であることが好ましい。また、第1接合部14a及び第2接合部14bの螺旋形状は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0022】
次に、管状体10の製造方法の一例について説明する。
管状体10は、芯材に繊維強化樹脂製のプリプレグシートを巻き付ける巻き付け工程と、芯材に巻き付けられたプリプレグシートを硬化する硬化工程とを順に経ることにより製造される。
【0023】
図4(a)に示すように、巻き付け工程では、強化繊維に硬化前の熱硬化性樹脂を含浸させたシート材であるプリプレグシート21を長尺状の芯材20の外周面に断面渦巻状に巻き付ける。芯材20は、長尺状の円柱体であり、製造する管状体10の軸方向長さより長いものを使用する。プリプレグシート21は、巻き方向の両端に位置し、芯材20の軸線P2に対して傾斜する方向に延びる巻き始め端縁22及び巻き終わり端縁23と、巻き方向に平行な二つの側縁24とを有する平行四辺形状のシートである。
【0024】
プリプレグシート21の横方向長さL1は、製造する管状体10の軸方向長さと同じ長さに設定される。プリプレグシート21の縦方向長さL2は、製造する管状体10における繊維強化樹脂層11の層数(3層)に基づく長さに設定される。
【0025】
巻き始め端縁22及び巻き終わり端縁23の軸線P2に対する傾斜角度Θ1,Θ2は、製造する管状体10の第1接合部14a及び第2接合部14bがなす螺旋形状に基づく角度に設定される。傾斜角度Θ1,Θ2は、例えば、3度以上であることが好ましい。傾斜角度Θ1,Θ2を大きくすることにより、第1接合部14a及び第2接合部14bがなす螺旋のピッチを短くすることができる。また、傾斜角度Θ1,Θ2は、例えば、10度以下であることが好ましい。傾斜角度Θ1,Θ2を抑えることにより、芯材20にプリプレグシート21を巻き付けるために必要な操作量が少なくなり、巻き付け工程を効率化できる。
【0026】
プリプレグシート21における強化繊維の配列は特に限定されるものではないが、例えば、同一方向に配列された多数本の強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させてなるUDプリプレグシート、強化繊維の織物や編物に熱硬化性樹脂を含浸させてなるクロスプリプレグシートを用いることが好ましい。
【0027】
また、複数のプリプレグシートを重ねたものをプリプレグシート21として用いてもよい。本実施形態では、縦方向(巻き方向)に配向されたUDプリプレグシート21a、横方向(芯材20の軸線P2方向)に配向されたUDプリプレグシート21bと、クロスプリプレグシート21cの3枚を重ねたものをプリプレグシート21として巻き付け工程に用いている。
【0028】
図4(b)に示すように、巻き付け工程を行うことにより、芯材20の外周面にプリプレグシート21が管状に巻き付けられた成形体25が得られる。プリプレグシート21の巻き始め端縁22が芯材20の軸線P2に対して傾斜していることにより、成形体25の内周面に位置する巻き始め端縁22は螺旋状に位置している(図示略)。同様に、プリプレグシート21の巻き終わり端縁23が芯材20の軸線P2に対して傾斜していることにより、成形体25の外周面に位置する巻き終わり端縁23は螺旋状に位置している。
【0029】
図4(c)に示すように、硬化工程では、まず、成形体25の外周面にラッピングテープ26を巻き付けて、成形体25をラッピングテープ26により締め付けられた加圧状態にする。ラッピングテープ26は、成形体25の外周面に長手方向に少しずつずらしながら、張力をかけた状態で複数回、巻回する。
【0030】
続いて、ラッピングされた加圧状態の成形体25を、加熱炉等を用いて加熱する。これにより、プリプレグシート21を構成する熱硬化性樹脂が硬化するとともに、断面渦巻状に巻き付けられたプリプレグシート21の層同士が一体に接合される。硬化工程における加熱温度は、プリプレグシート21を構成する熱硬化性樹脂の硬化温度に基づいて適宜、設定できる。
【0031】
冷却後、ラッピングテープ26及び芯材20を取り外すことにより、管状体10が得られる。
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0032】
管状体10は、プリプレグシート21の巻き始め端縁22が接合された部位である第1接合部14aが管状体10の軸線P1を1周以上する螺旋状に形成されており、第1接合部14a同士が管状体10の周方向に分散して位置している。同様に、プリプレグシート21の巻き終わり端縁23が接合された部位である第2接合部14bが管状体10の軸線P1を1周以上する螺旋状に形成されており、第2接合部14b同士が管状体10の周方向に分散して位置している。
【0033】
第1接合部14a及び第2接合部14bは、硬化工程後の残留応力が大きくなりやすい部位であることから、第1接合部14a及び第2接合部14bの位置を周方向に分散させることにより、周方向における残留応力の分布を均一化できる。その結果、第1接合部14a及び第2接合部14bに起因して管状体10に生じる意図しない反りが抑制される。
【0034】
なお、実験例として、プリプレグシート21の巻き始め端縁22及び巻き終わり端縁23の傾斜角度Θ1,Θ2を3度として上記製造方法により薄肉細径の直管型の管状体10を製造した。そして、硬化後の管状体10について、軸線P1周りに1回転させたときの軸線方向中央部の最大高さと最小高さの差として定義される反り量を測定したところ、反り量は0.45mmであった。製造した管状体10の形状は、直径8.0mm、軸方向長さ1050mm、肉厚0.7mm、第1接合部14a及び第2接合部14bの螺旋の周回数4回である。一方、比較対象として、傾斜角度Θ1,Θ2を0度とした点を除いて同様に製造した従来構造の管状体の反り量を測定したところ、その反り量は1.45mmであった。
【0035】
次に、本実施形態の効果について記載する。
(1)管状体10は、繊維強化樹脂製のプリプレグシート21を管状に巻いて硬化してなる繊維強化樹脂層11を備えている。繊維強化樹脂層11は、プリプレグシート21における巻き方向の端部に位置する端縁(巻き始め端縁22、巻き終わり端縁23)が接合してなる接合部(第1接合部14a、第2接合部14b)を備えている。接合部(第1接合部14a、第2接合部14b)は、管状体10の軸線P1を1周以上する螺旋状に位置している。
【0036】
上記構成によれば、接合部に起因して管状体10に生じる意図しない反りを抑制できる。
また、接合部に起因して管状体10に生じる意図しない反りは、硬化後の管状体10に対して熱矯正等の矯正処理を施すことによって本来の設計形状に修正することもできるが、この場合、時間の経過に伴って反りのある元の状態に戻ってしまうおそれがある。上記構成によれば、矯正処理を施す必要がなくなり、矯正処理後、管状体10が反った状態に戻ってしまう問題が無くなる。また、上記矯正処理を施した場合にも、その矯正量が抑えられるため、管状体10が反った状態に戻り難い。
【0037】
更に、接合部を上記螺旋状に位置させて、管状体10の周方向における接合部の位置の偏りを抑制することにより、周方向における質量分布の均一化を図ることができる。また、接合部が位置する側への曲げ強度が他の方向への曲げ強度と比較して大きくなる又は小さくなることが抑制されて、曲げる方向に依存して曲げ強度がばらつくことを抑制できる。
【0038】
(2)最も外側に位置する繊維強化樹脂層11(外側層11c)は、螺旋状の接合部(第2接合部14b)を備えている。
プリプレグシート21の巻き方向の端縁に起因する反りは、その端縁が管状体10の外周側に位置しているほど生じやすくなる。したがって、上記構成によれば、接合部を螺旋状に位置させることによる反りの抑制効果がより顕著に得られる。
【0039】
(3)繊維強化樹脂層11は、プリプレグシート21を断面渦巻状に巻いて硬化してなる。
プリプレグシート21を断面渦巻状に巻いて硬化してなる繊維強化樹脂層11とした場合、接合部(第1接合部14a、第2接合部14b)の周囲に段差が形成されやすく、その結果、残留応力の偏りが大きくなって反りが生じやすくなる。したがって、上記構成によれば、接合部(第1接合部14a、第2接合部14b)を螺旋状に位置させることによる反りの抑制効果がより顕著に得られる。また、量産性を高めることが容易である。
【0040】
(4)繊維強化樹脂層11は、クロスプリプレグシート21cを管状に巻いて硬化してなる。
クロスプリプレグシートの利点は、異方性のある複合材料(特に一方向材料)の機械的性質が、クロスプリプレグシートにすることで等方性に近づき、残留応力の均等化も高まることから、管状体10の安定性(反りの減少)に有利となる点にある。しかし、一般的なクロスプリプレグシートは、厚みが大きいため、クロスプリプレグシートを管状に巻いて硬化してなる繊維強化樹脂層11とした場合、接合部(第1接合部14a、第2接合部14b)により大きな段差が形成されやすくなる。その結果、段差の大きい接合部が偏って位置することにより、管状体10が反りやすくなるという利点を超えるデメリットが生じていた。上記構成によれば、接合部を分散して位置させることが可能となることから、デメリットを解消しつつ、クロスプリプレグシートの利点を生かすことが可能となる。
【0041】
(5)管状体10は、肉厚が0.5~5mmであり、直径(D)に対する軸方向長さ(L)の比率(L/D)が50~200である。
プリプレグシート21の巻き方向の端縁に起因する反りは、管状体10が薄肉細径であるほど生じやすくなる。したがって、上記構成によれば、接合部を螺旋状に位置させることによる反りの抑制効果がより顕著に得られる。
【0042】
(6)管状体10の製造方法は、長尺状の芯材20に繊維強化樹脂製のプリプレグシート21を巻き付ける巻き付け工程と、芯材20に巻き付けられたプリプレグシート21を硬化する硬化工程とを備えている。巻き付け工程において、プリプレグシート21の巻き方向の両端に位置する巻き始め端縁22及び巻き終わり端縁23が芯材20の軸線P2周りに1周以上する螺旋状に位置するように、芯材20にプリプレグシート21を巻き付ける。
【0043】
上記構成によれば、意図しない反りが抑制された管状体10を製造できる。
なお、本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0044】
・上記螺旋状の接合部は、螺旋状でない部分を部分的に有していてもよい。
・上記螺旋状の接合部は、全体として管状体10の軸線P1を1周以上する螺旋状であればよく、例えば、図5に示すように、周方向の位置が段差状に変化する螺旋状であってもよいし、波状に変化する螺旋状であってもよい。
【0045】
・プリプレグシート21の巻き始め端縁22及び巻き終わり端縁23が接合してなる第1接合部14a及び第2接合部14bのうちのいずれか一方のみが上記螺旋状に位置している構成であってもよい。
【0046】
・繊維強化樹脂層11の層数は、1層以上であれば特に限定されるものでなく、2層以下であってもよいし、4層以上であってもよい。
・繊維強化樹脂層11の形状、即ち、製造時におけるプリプレグシート21の巻き方は、断面渦巻状に限定されるものではなく、例えば、図6に示す成形体25のように、プリプレグシート21の巻き方向の端部に位置する端縁(巻き始め端縁22及び巻き終わり端縁23)同士が接合されてなる断面環状であってもよい。また、断面環状の繊維強化樹脂層11を複数層、備える構成であってもよいし、断面渦巻状の繊維強化樹脂層11と、断面環状の繊維強化樹脂層11とを備える構成であってもよい。
【0047】
・管状体10の形状は、直管型の円筒体形状の管状体10に限定されるものではなく、例えば、テーパ形状等の軸方向に直径が変化する形状であってもよいし、角筒体形状であってもよい。
【0048】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
(イ)肉厚が0.5~5mmであり、直径(D)に対する軸方向長さ(L)の比率(L/D)が50~200である前記管状体。
【0049】
(ロ)矢のシャフト部分に適用され、前記接合部は、当該管状体の軸線を1~6周する前記螺旋状である前記管状体。
【符号の説明】
【0050】
P1,P2…軸線、10…管状体、11…繊維強化樹脂層、11a…内層、11b…中間層、11c…外層、12,12a,12b,12c…強化繊維、13…マトリックス樹脂、14a…第1接合部、14b…第2接合部、20…芯材、21…プリプレグシート、21a,21b…UDプリプレグシート、21c…クロスプリプレグシート、22…巻き始め端縁、23…巻き終わり端縁、25…成形体、26…ラッピングテープ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7