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特許7066638注入後の基板からの分離により得られる層中の欠陥の修復方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】注入後の基板からの分離により得られる層中の欠陥の修復方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 3/08 20060101AFI20220506BHJP
   H03H 3/02 20060101ALI20220506BHJP
   C30B 29/24 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
H03H3/08
H03H3/02 B
C30B29/24
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2018561713
(86)(22)【出願日】2017-05-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 FR2017051290
(87)【国際公開番号】W WO2017203173
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-05-22
(31)【優先権主張番号】1654673
(32)【優先日】2016-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】500361216
【氏名又は名称】ソワテク
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100143971
【氏名又は名称】藤井 宏行
(72)【発明者】
【氏名】ブリュノ、ギスレン
【審査官】橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/065317(WO,A1)
【文献】特表2011-523395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 3/08
H03H 3/02
C30B 29/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成ABOの層(10)中の欠陥を修復するための方法であって、構成元素Aのイオンを含有する媒体(M)に該層(10)を曝露して、前記イオンを前記層(10)に浸透させる工程を含んでなり、ここで、Aが、Li、Na、K、H、Ca、Mg、Ba、Sr、Pb、La、Bi、Y、Dy、Gd、Tb、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Ho、Zr、Sc、Ag、Tlから選択される少なくとも1つの元素からなり、かつBが、Nb、Ta、Sb、Ti、Zr、Sn、Ru、Fe、V、Sc、C、Ga、Al、Si、Mn、Zr、Tlから選択される少なくとも1つの元素からなり、該層(10)は、該層を画定する弱化ゾーンを形成するために組成ABOドナー基板(100)にイオン種を注入し、その後、ドナー基板の残りの部分から分離された層(10)を得るためにその基板を弱化ゾーンに沿って分離する層転写法によって得られ、前記イオンを含有する前記媒体(M)が気相にあり、かつ前記層(10)が前記気相に曝露される、方法。
【請求項2】
組成ABOの層(10)中の欠陥を修復するための方法であって、構成元素Aのイオンを含有する媒体(M)に該層(10)を曝露して、前記イオンを前記層(10)に浸透させる工程を含んでなり、ここで、Aが、Li、Na、K、H、Ca、Mg、Ba、Sr、Pb、La、Bi、Y、Dy、Gd、Tb、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Ho、Zr、Sc、Ag、Tlから選択される少なくとも1つの元素からなり、かつBが、Nb、Ta、Sb、Ti、Zr、Sn、Ru、Fe、V、Sc、C、Ga、Al、Si、Mn、Zr、Tlから選択される少なくとも1つの元素からなり、該層(10)は、該層を画定する弱化ゾーンを形成するために組成ABOドナー基板(100)にイオン種を注入し、その後、ドナー基板の残りの部分から分離された層(10)を得るためにその基板を弱化ゾーンに沿って分離する層転写法によって得られ、前記イオンを含有する前記媒体(M)が固相にあり、前記媒体(M)の層が前記層(10)上に堆積される、方法。
【請求項3】
前記媒体(M)から前記層(10)への前記構成元素Aの拡散を促進するために、少なくとも1つのアニーリング工程を含んでなる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオンがイオン交換機構によって前記層(10)に浸透する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
Aがリチウムである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記リチウムイオンが逆プロトン交換機構によって前記層(10)に浸透する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記層(10)が単結晶である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
Aが、Li、Na、K、H、Ca、Mg、Ba、Sr、Pb、La、Bi、Y、Dy、Gd、Tb、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Ho、Zr、Sc、Ag、Tlから選択される少なくとも1つの元素からなり、かつBが、Nb、Ta、Sb、Ti、Zr、Sn、Ru、Fe、V、Sc、C、Ga、Al、Si、Mn、Zr、Tlから選択される少なくとも1つの元素からなる組成ABOの層(10)を製造するための方法であって、下記工程を含んでなる方法:
組成ABOのドナー基板(100)を提供する工程、
該層(10)を画定するように、そのドナー基板(100)へのイオン種の注入により弱化ゾーン(101)を形成する工程、
そのドナー基板(100)の残りの部分から分離された、欠陥を含んでなる層(10)を得るためにそのドナー基板(100)を弱化ゾーン(101)に沿って分離する工程、
請求項1~7のいずれか一項に記載の層(10)の欠陥修復方法を実施する工程。
【請求項9】
前記注入される種が水素および/またはヘリウムを含んでなる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記欠陥修復方法を実施する工程の前に、前記層(10)の厚さの一部が除去される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記層(10)の厚さが2μmより大きく、好ましくは、20μmより大きく、前記ドナー基板(100)からの分離の最後に前記層が自立する、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記弱化ゾーンの形成工程と、その弱化ゾーンに沿った前記ドナー基板からの分離工程との間に、前記ドナー基板(100)上へのレシーバ基板(110)の適用を含んでなり、前記層(10)が前記基板(100、110)の間の界面にあり、前記ドナー基板(100)からの分離の最後に前記層(10)が前記レシーバ基板(110)上に転写される、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記レシーバ基板の適用が前記基板(110)の前記ドナー基板(100)上への堆積を含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記レシーバ基板の適用が前記基板(110)の前記ドナー基板(100)上への接着を含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記層(10)の厚さが20μm未満である、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの電気絶縁層および/または少なくとも1つの導電層が前記レシーバ基板(110)と、転写する前記層(10)との間の界面に形成される、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
圧電層(10)の2つの対向する主面上への電極(12、13)の形成を含んでなる、弾性バルク波デバイスの製造方法であって、請求項8~16のいずれか一項に記載の方法による圧電層(10)の製造を含んでなる、方法。
【請求項18】
圧電層(10)の表面上への2つの交互嵌合型電極(12、13)の形成を含んでなる、弾性表面波デバイスの製造方法であって、請求項8~16のいずれか一項に記載の方法による圧電層の製造を含んでなる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入した後基板から分離することを含む方法によって得られる組成ABO(ここで、Aは、Li、Na、K、H、Ca、Mg、Ba、Sr、Pb、La、Bi、Y、Dy、Gd、Tb、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Ho、Zr、Sc、Ag、Tlから選択される少なくとも1つの元素からなり、かつ、Bは、Nb、Ta、Sb、Ti、Zr、Sn、Ru、Fe、V、Sc、C、Ga、Al、Si、Mn、Zr、Tlから選択される少なくとも1つの元素からなる)の層中の欠陥を修復するための方法、および特に、マイクロ電子デバイス、光デバイスまたは光学デバイスへの適用のための、そのような層を製造するための方法に関する。本発明はまた、そのような層を含んでなる弾性バルク波デバイスおよび弾性表面波デバイスを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線周波数ドメインでのフィルタリングのために使用される音響コンポーネントの間では、フィルターの2つの主要なカテゴリーに区別され得る:
一方では、弾性表面波(SAW)フィルター;
もう一方では、弾性バルク波(BAW)フィルターおよび共振器。
【0003】
これらの技術の概説については、W. Steichen and S. Ballandrasの論文、“Composants acoustiques utilises pour le filtrage - Revue des differentes technologies”(Techniques de l’Ingenieur、E2000、2008)を参照することができる。
【0004】
弾性表面波フィルターは、典型的には、厚い圧電層(すなわち、一般的には、数百μmの厚さのもの)と、前記圧電層の表面上に堆積された2つの交互嵌合型金属櫛の形態の2つの電極とを含んでなる。電極に印加される電気信号、典型的には、電圧の変化は、圧電層の表面を伝播する弾性波に変換される。この弾性波の伝播は、波の周波数がフィルターの周波数範囲に対応する場合に促進される。この波は、もう一方の電極に到達すると再び電気信号に変換される。
【0005】
それらとしての弾性バルク波フィルターは、典型的には、薄い圧電層(すなわち、一般的には、1μmよりもはるかに薄い厚さのもの)と、前記薄層の各主面上に配置された2つの電極とを含んでなる。電極に印加される電気信号、典型的には、電圧の変化は、圧電層を通って伝播する弾性波に変換される。この弾性波の伝播は、波の周波数がフィルターの周波数範囲に対応する場合に促進される。この波は、反対面に位置する電極に到達すると再び電圧に変換される。
【0006】
弾性表面波フィルターの場合、圧電層は、表面波の減衰を起こさないように、優れた結晶品質を有する必要がある。従って、ここでは単結晶層を使用することが好ましい。現時点で、工業的に使用することができる好適な材料は石英、LiNbOまたはLiTaOである。圧電層は、前記材料の1つのインゴットから切断することによって得られ、前記層の厚さに要求される精度は、波が本質的にその表面上を伝播しなければならない限りあまり重要ではない。
【0007】
弾性バルク波フィルターの場合、圧電層は、層全体にわたって均一な所定の厚さを有さなければならず、精密に制御された方法でそうでなければならない。一方、それゆえ、結晶品質はフィルターの性能にとって重要な第2のパラメーターとなり、現在、結晶品質に関して妥協がなされ、多結晶層が許容されると長い間考えられてきた。従って、圧電層は、支持基板(例えば、シリコン基板)上に堆積されることによって形成される。現時点で、このような堆積のために工業的に採用される材料はAlN、ZnOおよびPZTである。
【0008】
従って、材料の選択は両方の技術において非常に限定されている。
【0009】
しかし、材料の選択は、フィルターの製造業者の仕様に応じてフィルターの異なる特性間の妥協から生じる。
【0010】
弾性バルク波フィルターまたは弾性表面波フィルターの寸法付けにおいてより自由をもたらすために、上記の材料よりも多くの材料を使用することができることが望ましい。具体的には、弾性表面波フィルターに伝統的に使用されている材料は、弾性バルク波フィルターの興味深い代替物を表す可能性がある。
【0011】
しかしながら、これは、これらの材料の良好な品質の薄く均一な層を得ることが可能であることを強いる。
【0012】
第1の可能性は、研磨技術および/またはエッチング技術によって、インゴットから切断された厚い層を薄くすることである。しかしながら、これらの技術は、材料のかなりの損失をもたらし、要求される均一性を有する数百ナノメートルの厚さの層を得ることを可能にしない。
【0013】
第2の可能性は、転写する薄層の輪郭を描くようにLiNbOまたはLiTaOのドナー基板中に弱化ゾーン(weakened zone)を作り、支持基板上に転写するように前記層を接着し、弱化ゾーンに沿ってドナー基板を分離して支持基板上に薄層を転写することによって、Smart Cut(商標)タイプの層転写を実施することである。しかしながら、ドナー基板へのイオン注入による弱化ゾーンの形成は、被転写層を損傷し、その圧電特性を劣化させる。シリコン層の転写に関して知られている修復方法(特に、アニーリング)は、前記層の複雑な結晶構造と、シリコンの場合に介在する損傷機構とは異なるように見える損傷機構とにより、常に圧電層を完全に修復することを可能にするとは限らない。
【0014】
発明の簡単な説明
従って、本発明の1つの目的は、ABOタイプの基板における、Smart Cut(商標)方法の実施に関連する欠陥をより効率的に修復することを可能にする方法を考え出すことである。
【0015】
本発明によれば、組成ABOの層中の欠陥を修復するための方法が提案され、その方法は、構成元素Aのイオンを含有する媒体に該層を曝露して、それらのイオンを前記被転写層に浸透させる工程を含んでなり、ここで、Aが、Li、Na、K、H、Ca、Mg、Ba、Sr、Pb、La、Bi、Y、Dy、Gd、Tb、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Ho、Zr、Sc、Ag、Tlから選択される少なくとも1つの元素からなり、かつBが、Nb、Ta、Sb、Ti、Zr、Sn、Ru、Fe、V、Sc、C、Ga、Al、Si、Mn、Zr、Tlから選択される少なくとも1つの元素からなり、該層は、該層を画定する弱化ゾーンを形成するために組成ABOの基板にイオン種を注入し、その後、ドナー基板の残りの部分から分離された層を得るためにその基板を弱化ゾーンに沿って分離する層転写法によって得られることを特徴とする。
【0016】
「組成ABOの基板」は、完全にABOからなるかまたはこの材料の少なくとも1つの層を含んでなる基板であって、注入した後分離することによって、欠陥を修復するための前記方法の対象である組成ABOの層が形成され得る基板を意味すると解釈される。
【0017】
Aが2種以上の元素からなる場合、「構成元素A」は、これらの元素の1つを示す。拡張によっておよび簡潔にするために、修復方法が修復するために層に浸透させることを可能にする元素は、本文の残りの部分では「元素A」によって示される。
【0018】
特に有利には、元素Aのイオンは、イオン交換機構によって層に浸透する。
【0019】
一つの実施形態によれば、元素Aのイオンを含有する媒体は液体であり、層は前記液体の溶液槽に浸漬される。
【0020】
例えば、組成ABOの層は、元素Aを含んでなる塩の酸溶液を含んでなる溶液槽に浸漬され得る。
【0021】
別の実施形態によれば、元素Aのイオンを含有する媒体は気相にあり、組成ABOの層は前記ガスに曝露される。
【0022】
別の実施形態によれば、元素Aのイオンを含有する媒体は固相にあり、前記媒体の層は組成ABOの層上に堆積される。
【0023】
有利には、前記方法は、媒体から組成ABOの層への元素Aの拡散を促進するために少なくとも1つのアニーリング工程を含んでなる。
【0024】
特定の実施形態によれば、元素Aはリチウムである。
【0025】
前記層は、リチウム塩の酸溶液を含んでなる溶液槽に浸漬され得る。
【0026】
リチウムイオンは、有利には、逆プロトン交換機構によって前記層に浸透する。
【0027】
本発明の一つの実施形態によれば、組成ABOの層は単結晶である。
【0028】
別の目的は、Aは、Li、Na、K、H、Ca、Mg、Ba、Sr、Pb、La、Bi、Y、Dy、Gd、Tb、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Ho、Zr、Sc、Ag、Tlから選択される少なくとも1つの元素からなり、かつ、Bは、Nb、Ta、Sb、Ti、Zr、Sn、Ru、Fe、V、Sc、C、Ga、Al、Si、Mn、Zr、Tlから選択される少なくとも1つの元素からなる組成ABOの層を製造するための方法であって、下記工程を含んでなる方法に関する:
組成ABOのドナー基板を提供する工程、
該層を画定するように、そのドナー基板へのイオン種の注入により弱化ゾーンを形成する工程、
そのドナー基板の残りの部分から分離された、欠陥を含んでなる層を得るように、そのドナー基板から弱化ゾーンに沿って分離する工程、
上記の層欠陥修復方法を実施する工程。
【0029】
好ましくは、注入される種は水素および/またはヘリウムを含んでなる。
【0030】
一つの実施形態によれば、修復工程の前に、組成ABOの層の厚さの一部が除去される。
【0031】
一つの実施形態によれば、前記層の厚さは2μmより大きく、好ましくは、20μmより大きく、前記ドナー基板からの分離の最後に前記層は自立する。
【0032】
別の実施形態によれば、前記方法は、前記弱化ゾーンの形成工程と、その弱化ゾーンに沿った前記ドナー基板からの分離工程との間に、前記ドナー基板上へのレシーバ基板の適用を含んでなり、組成ABOの前記層がそれらの基板間の界面にあり、前記ドナー基板からの分離の最後に前記層(10)が前記レシーバ基板上に転写される。
【0033】
前記レシーバ基板の適用がその基板の前記ドナー基板上への堆積を含んでなり得る。
【0034】
あるいは、前記レシーバ基板の適用が、その基板の前記ドナー基板上への接着を含んでなる。
【0035】
有利には、組成ABOの前記層の厚さが20μm未満である。
【0036】
任意選択的に、少なくとも1つの電気絶縁層および/または少なくとも1つの導電層が前記レシーバ基板と、転写する前記層との間の界面に形成される。
【0037】
本発明はまた、圧電層の2つの対向する主面上に電極を形成することを含んでなる、弾性バルク波デバイスの製造方法であって、上記の方法による圧電層の製造を含んでなることを特徴とする方法に関する。
【0038】
本発明はまた、圧電層の表面上への2つの交互嵌合型電極の形成を含んでなる、弾性表面波デバイスの製造方法であって、上記の方法による圧電層の製造を含んでなることを特徴とする方法に関する。
【0039】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1A~1Eは、本発明の一つの実施形態による組成ABOの単結晶層を製造するための方法の工程を概略的に示す。
図2図2は弾性表面波フィルターの断面原理図である。
図3図3は弾性バルク波フィルターの断面原理図である。
【0041】
図面の読みやすさを理由に、図示の要素は必ずしも一定の縮尺で表されていない。さらに、異なる図面において同じ参照符号によって示される要素は同一である。
【0042】
発明の実施形態の詳細な説明
図1A~1Dを参照すると、Smart Cut(商標)方法を実施する組成ABOの層を製造するために方法が考えられ、その方法は以下の工程を含んでなる:
組成ABOのドナー基板を提供する工程、
転写する層10を画定するように、ドナー基板100へのイオン種(例えば、水素および/またはヘリウム)の注入により弱化ゾーン101を形成する工程(図1A参照)、
ドナー基板100上へレシーバ基板110を適用する工程であって、転写する層10が界面にある、工程(図1B参照)、
ドナー基板100を弱化ゾーン101に沿って分離して、レシーバ基板110上へ層10を転写する工程(図1C参照)。
【0043】
ドナー基板は考慮された材料のバルク基板であり得る。あるいは、ドナー基板は複合基板であり得、すなわち、異なる材料の少なくとも2つの層のスタックから形成され、その表面層は考えられる単結晶材料からなる。
【0044】
特に重要な圧電材料の中にはABO構造のペロブスカイトおよび同等の材料がある。しかしながら、これらの材料に置かれ得る関心は、それらの圧電特性に限定されない。特に、例えば、集積光学に関連がある他の用途では、例えば、場合によっては、誘電率、屈折率、またはそれに代わる焦電気特性、強誘電特性もしくはそれに代わる強磁特性が必要な場合にもそれらの材料への関心が寄せられ得る。
【0045】
いくつかの大きなファミリーが際立っている。それらのうちの1つは、特に、LiNbO、LiTaO、KNbO、KTaOなどの2元系材料から生じ、最終的には、Aは、以下の元素:Li、Na、K、Hの1つ以上からなり、かつ、Bは、以下の元素:Nb、Ta、Sb、Vの1つ以上からなるABOタイプの一般式に至る。別の大きなファミリーは、特に、SrTiO、CaTiO、SrTiO、PbTiO、PbZrO材料から生じ、最終的には、Aは、以下の元素:Ba、Ca、Sr、Mg、Pb、La、Yの1つ以上からなり、かつ、Bは、以下の元素:Ti、Zr、Snの1つ以上からなるABOタイプの一般式に至る。あまり普及していない他のファミリーはまた、BiFeO、またはそれに代わるLaMnO、BaMnO、SrMnO、またはそれに代わるLaAlO、またはそれに代わる、LiAlO、LiGaO、またはそれに代わるCaSiO、FeSiO、MgSiO、またはそれに代わるDyScO、GdScOおよびTbScOから誘導され得る。
【0046】
最後に、Aは、Li、Na、K、H、Ca、Mg、Ba、Sr、Pb、La、Bi、Y、Dy、Gd、Tb、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Ho、Zr、Sc、Ag、Tlから選択される以下の元素の1つ以上からなり、かつ、Bは、Nb、Ta、Sb、Ti、Zr、Sn、Ru、Fe、V、Sc、C、Ga、Al、Si、Mn、Zr、Tlから選択される以下の元素の1つ以上からなることを考慮することによって要約することができる。
【0047】
これらの材料の一部は単結晶であり、他は単結晶ではない。
【0048】
ドナー基板の結晶性および組成は、転写する層に対して計画された使用に応じて当業者によって選択される。
【0049】
レシーバ基板には、被転写層の機械的支持の機能がある。レシーバ基板は、いずれの性質のものであってもよく、有利には、命令的ではないが、目標とされた用途に適合させ得、被転写層は、任意選択的に、後に別の基板上に転写することが可能である。レシーバ基板はバルクまたは複合材料であり得る。
【0050】
一つの実施形態によれば、ドナー基板上へのレシーバ基板の適用は接着によって行われる。
【0051】
あるいは、ドナー基板上へのレシーバ基板の適用はドナー基板上へのレシーバ基板の堆積によって行われる。任意の好適な堆積技術、例えば、限定されないが、蒸発、陰極スパッタリング、エアゾールスパッタリング、化学気相蒸着、電着、展延塗布、回転塗布、ワニス塗布、スクリーン印刷、浸漬などが使用され得る。レシーバ基板と相対するドナー基板の弱い粘着力を補償するためにそのような解決策が特に有利である。
【0052】
任意選択的に、前記方法は、レシーバ基板110と転写する層10との間の界面に少なくとも1つの電気絶縁層および/または少なくとも1つの導電層(表していない)を形成する工程を含んでなる。
【0053】
層10が、特に、弱化ゾーンに沿った分離作業の間に、ある程度の機械的強度をそれに与えるのに十分に厚い場合には、レシーバ基板の適用工程は省略し得る。次いで、ドナー基板の残りの部分から分離した後、層10は自立すると考えられる。この場合、層10の厚さは、典型的には、2μmより大きく、好ましくは、20μmより大きく、イオン種の注入エネルギーは1MeVより大きい。
【0054】
組成LiXOの被転写層は本文の残りの部分で例として考えられ、この場合、Xはニオブであり、かつ/またはタンタルである。言い換えれば、この限定されない例では、元素Aはリチウムであり、かつ、元素Bはニオブおよび/またはタンタルであり、当業者は、上記の他の材料に好適な条件を定めることができることが理解される。特に、層10の修復には、ガラス分野で使用されるイオン交換機構が必要である。例えば、溶融塩、例えば、AgNOまたはKNOそれぞれの溶液槽中にガラスを浸漬することにある処理を実施することによって、特定のガラス中に存在するNa+イオンの一部がAg+またはK+イオンに置き換えられることが知られている。同様に、本発明は、前記層に補強することが望まれる元素Aのイオンを含有する媒体にその層を曝露して修復することによって実施し得、前記媒体は、液体(例えば、元素Aを含んでなる塩の酸溶液の溶液槽)、気体または固体であり得る。
【0055】
ドナー基板からレシーバ基板へ層10を転移するための方法の間に、特に、イオン種の注入および/または接着もしくは分離の強化の熱処理の間に、リチウムを前記層10の外側に移動させ得る。
【0056】
リチウムのこの移動は、任意選択的に、弱化ゾーンを形成するために注入された水素原子による関連原子の置換を伴い得る。
【0057】
従って、被転写層10はこのリチウム欠損のために欠陥がある。
【0058】
これを改善するために、本発明は、被転写層(および任意選択的には、それを支持するレシーバ基板全体)がリチウムイオンを含有する媒体Mに曝露される(図1D参照)、被転写層の欠陥を修復するための方法を提案する。
【0059】
この曝露は、媒体Mから被転写層10へリチウムイオンを移動させ、それによって、被転写層にリチウムを補強し、注入および転写の前に前記層の構造を回復する効果を有する。
【0060】
任意選択的に、リチウム原子の位置に位置付けられた水素原子は、媒体Mに移動することができる。
【0061】
この移動では、逆プロトン交換タイプの機構が利用される。
【0062】
逆プロトン交換は、“Reverse proton exchange for buried waveguides in LinbO3”と題するYu. N. Korkishko et al.の論文(J. Opt. Soc. Am. A、第15巻、第7号、1998年7月)において、本発明が扱うものとは全く別の適用に関連して記載されている。
【0063】
媒体Mは液体であり得、この場合、被転写層は前記液体の溶液槽に浸漬される。例えば、本実施例では、媒体Mはリチウム塩の酸溶液である。当業者はまた、この作業の効率をより良好に制御するために、LiNO、KNOおよびNaNOの溶液の混合物を使用する方法も知られている。
【0064】
あるいは、媒体Mは気体であり得、この場合、被転写層は、前記ガスを含有する閉鎖容器に入れられる。
【0065】
当業者は、この曝露の作業条件、特に、媒体の組成、曝露の持続時間および温度を、修復する被転写層の組成に応じて、定めることができる。
【0066】
有利には、被転写層の厚さは20μm未満であり、好ましくは、2μm未満である。
【0067】
別の代替方法によれば、媒体Mは固相にあり得、被転写層10は、層10上への前記媒体の層の堆積によって前記媒体に曝露される(図1E参照)。「上 (on)」とは、ここで、前記層10と直接接触するか、または該中間層が媒体Mを構成する層から層10への元素Aの移動を妨げない限り、異なる材料から形成される1以上の層を通すことを意味すると解釈される。
【0068】
元素Aのイオンの層10へのより良好な浸透は、1以上のアニーリング工程によって可能になる。元素Aを含有する堆積層は、作業の最後に、任意選択的には、2つの連続したアニーリング工程の間に除去し得る。
【0069】
任意選択的には、修復工程の前に、レシーバ基板上に転写された層の厚さの一部が除去される。この除去は、化学機械研磨、エッチングまたは任意の他の適当な技術によって行い得る。
【0070】
本発明に従って転写および修復された層10の2つの限定されない用途は、以下に記載される。
【0071】
図2は弾性表面波フィルターの原理図である。
【0072】
弾性表面波フィルターは、圧電層10と、前記圧電層の表面上に堆積された2つの交互嵌合型金属櫛の形態の2つの電極12、13とを含んでなる。電極12、13の反対側の面には、圧電層が支持基板11上に載置されている。圧電層10は単結晶であり、実際には、表面波を減衰させないように、優れた結晶品質が必要である。
【0073】
図3は弾性バルク波共振器の原理図である。
【0074】
弾性バルク波共振器は、薄い圧電層(すなわち、一般的には、1μm未満、好ましくは、0.2μm未満の厚さのもの)と、前記圧電層10の両側に配置された2つの電極12、13とを含んでなる。圧電層10は支持基板11上に載置されている。共振器をその基板から絶縁し、それによって、基板内の波の伝播を回避するために、電極13と基板11との間にブラッグミラー14が置かれる。代替的には(図示していない)、この絶縁は、基板と圧電層との間にキャビティを配置することによって達成することができた。これらの異なる配置は、当業者には公知であり、従って、本文では詳細には説明しない。
【0075】
場合によっては、レシーバ基板が最終用途に最適ではないことがある。その場合、レシーバ基板を前記最終基板上に接着し、任意の好適な技術によってレシーバ基板を除去することによって、目標とされた用途に応じて選択された特性を持つ最終基板(表していない)上に層10を転写することが有利であり得る。
【0076】
弾性表面波デバイスを製造することが望まれる場合には、2つの交互嵌合型櫛の形態の金属電極12、13は、レシーバ基板110とは反対側のまたは、必要ならば、最終基板とは反対側の、層10の表面上に堆積される(それがレシーバ基板110であろうと最終基板111であろうと、前記基板は図2中の11で示された支持基板を形成する)。
【0077】
弾性バルク波デバイスを製造することが望まれる場合には、上記の方法を適合させる必要がある。一方では、図1Bに示される接着工程の前に、第1の電極が、ドナー基板の転写する層10の自由表面上に堆積され、この第1の電極(図3の13参照)は最終スタックに埋め込まれる。図1Cに示される転写工程後に、第2の電極(図3の12参照)が、第1の電極とは反対側の層10の自由表面上に堆積される。別の選択肢は、上述した最終基板上に層10を転写し、前記転写の前後にそれらの電極を形成することである。もう一方では、レシーバ基板110内の弾性波の伝播を回避するために、その中に絶縁手段、例えば、ブラッグミラー(図3に示されるとおりである)、またはレシーバ基板または、必要ならば、最終基板において予めエッチングされたキャビティを組み込むことが可能である。
【0078】
最後に、先に挙げた例は、本発明の適用分野に関して決して限定されない特定の例示にすぎないことは言うまでもない。
【0079】
参照文献
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2
図3