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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】高αリノレン酸亜麻
(51)【国際特許分類】
   C11B 1/06 20060101AFI20220506BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20220506BHJP
   A01H 6/58 20180101ALI20220506BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20220506BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20220506BHJP
   A23L 33/115 20160101ALN20220506BHJP
【FI】
C11B1/06
A23D9/00 ZNA
A01H6/58
A23D9/02
C12N15/29
A23L33/115
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018563767
(86)(22)【出願日】2017-02-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-09
(86)【国際出願番号】 US2017019680
(87)【国際公開番号】W WO2017147583
(87)【国際公開日】2017-08-31
【審査請求日】2020-02-26
(31)【優先権主張番号】62/300,364
(32)【優先日】2016-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518306414
【氏名又は名称】ゴラス,ネイサン
(73)【特許権者】
【識別番号】518306425
【氏名又は名称】ピーターソン,リリアン
(73)【特許権者】
【識別番号】518305244
【氏名又は名称】クマー,アルビンド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100103182
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 真美
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ゴラス,ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】ピーターソン,リリアン
(72)【発明者】
【氏名】クマー,アルビンド
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-514995(JP,A)
【文献】特表2005-515774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11B 1/00 - 15/00
C11C 1/00 - 5/02
C12N 15/00 - 15/90
A01H 1/00 - 17/00
A23D 7/00 - 9/06
A23L 5/40 - 5/49
A23L 31/00 - 33/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高αリノレン酸亜麻の1栽培品種の種子のコールドプレス物からなり、70重量%超のαリノレン酸と10重量%超のリノール酸と10重量%超のオレイン酸との組成を有する高αリノレン酸亜麻油。
【請求項2】
70重量%超のαリノレン酸と10重量%超のリノール酸と10重量%超のオレイン酸との組成を有する高αリノレン酸亜麻油であって、高αリノレン酸亜麻の種子のコールドプレス物を含み、前記高αリノレン酸亜麻の種子が、308bpのLU17 SSRを含むアマ(Linum usitatissium)植物からの種子である、高αリノレン酸亜麻油。
【請求項3】
前記アマ植物が、図3の「高α」列に描かれているSSRのパターン全体を含む、請求項に記載の高αリノレン酸亜麻油。
【請求項4】
70重量%超のαリノレン酸と10重量%超のリノール酸と10重量%超のオレイン酸との組成を有する高αリノレン酸亜麻油であって、高αリノレン酸亜麻の種子のコールドプレス物を含み、前記高αリノレン酸亜麻の種子が、配列番号:35および配列番号:41に記載されている改変遺伝子を有し、配列番号:36および配列番号:42に記載されているアミノ酸配列を発現する高αリノレン酸亜麻植物からの種子である、高αリノレン酸亜麻油。
【請求項5】
70重量%超のαリノレン酸と10重量%超のリノール酸と10重量%超のオレイン酸との組成を有する高αリノレン酸亜麻油であって、高αリノレン酸亜麻の種子のコールドプレス物を含み、前記高αリノレン酸亜麻の種子が、配列番号:42に記載されているアミノ酸配列、または配列番号:42に記載されているアミノ酸配列と99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するFAD3bタンパク質を発現する、高αリノレン酸亜麻油。
【請求項6】
70重量%超のαリノレン酸と10重量%超のリノール酸と10重量%超のオレイン酸との組成を有する高αリノレン酸亜麻油であって、高αリノレン酸亜麻の種子のコールドプレス物を含み、前記高αリノレン酸亜麻の種子が、BeFad3B.proまたはNmFad3B.proと比較した場合に、図9に示すNoFad3B.proの突然変異のうちの少なくとも1つを含むFAD3bタンパク質を発現する高αリノレン酸亜麻植物からの種子である、高αリノレン酸亜麻油。
【請求項7】
前記FAD3bタンパク質がリノール脂肪酸における二重結合の形成を触媒する、請求項に記載の高αリノレン酸亜麻油。
【請求項8】
70重量%超のαリノレン酸と10重量%超のリノール酸と10重量%超のオレイン酸との組成を有する高αリノレン酸亜麻油であって、高αリノレン酸亜麻の種子のコールドプレス物を含み、前記高αリノレン酸亜麻の種子が、配列番号1および配列番号:2、配列番号:3および配列番号:4、配列番号:5および配列番号:6、配列番号:7および配列番号:8、配列番号:9および配列番号:10、配列番号:11および配列番号:12、配列番号:13および配列番号:14、配列番号:15および配列番号:16、配列番号:17および配列番号:18、配列番号:19および配列番号:20、配列番号:21および配列番号:22、配列番号:23および配列番号:24、配列番号:25および配列番号:26、配列番号:27および配列番号:28、配列番号:29および配列番号:30、配列番号:31および配列番号:32、配列番号:33および配列番号:34のプライマー対によって規定された遺伝子座における栽培品種M6552の単純配列反復パターンの塩基対長に対して85%の等価性を有する単純配列反復パターンを含むゲノムを特徴とする高αリノレン酸亜麻植物からの種子である、高αリノレン酸亜麻油。
【請求項9】
少なくとも70重量%のαリノレン酸と少なくとも10重量%のリノール酸と少なくとも10重量%のオレイン酸とからなる組成を有する油を含む、高αリノレン酸亜麻の1栽培品種の種子。
【請求項10】
少なくとも70重量%のαリノレン酸と少なくとも10重量%のリノール酸と少なくとも10重量%のオレイン酸とからなる組成を有する油を含む、高αリノレン酸亜麻の種子であって、前記種子が、308bpのLU17 SSRを含むアマ(Linum usitatissium)植物からのものである、高αリノレン酸亜麻の種子。
【請求項11】
少なくとも70重量%のαリノレン酸と少なくとも10重量%のリノール酸と少なくとも10重量%のオレイン酸とからなる組成を有する油を含む、高αリノレン酸亜麻の種子であって、前記アマ植物が、図3の「高α」列に描かれているSSRのパターン全体を含む、高αリノレン酸亜麻の種子。
【請求項12】
少なくとも70重量%のαリノレン酸と少なくとも10重量%のリノール酸と少なくとも10重量%のオレイン酸とからなる組成を有する油を含む、高αリノレン酸亜麻の種子であって、前記種子が、配列番号:35および配列番号:41に記載されている改変遺伝子を有し、且つ配列番号:36および配列番号:42に記載されているアミノ酸配列を発現する高αリノレン酸亜麻植物からのものである、高αリノレン酸亜麻の種子。
【請求項13】
少なくとも70重量%のαリノレン酸と少なくとも10重量%のリノール酸と少なくとも10重量%のオレイン酸とからなる組成を有する油を含む、高αリノレン酸亜麻の種子であって、前記種子が、配列番号:42に記載されているアミノ酸配列、または配列番号:42に記載されているアミノ酸配列と99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するFAD3bタンパク質を発現する高αリノレン酸亜麻植物からのものである、高αリノレン酸亜麻の種子。
【請求項14】
少なくとも70重量%のαリノレン酸と少なくとも10重量%のリノール酸と少なくとも10重量%のオレイン酸とからなる組成物を有する油を含む、高αリノレン酸亜麻の種子であって、前記種子が、BeFad3B.proまたはNmFad3B.proと比較した場合に、図9に示すNoFad3B.proの突然変異のうちの少なくとも1つを含むFAD3bタンパク質を発現する高αリノレン酸亜麻植物からのものである、高αリノレン酸亜麻の種子。
【請求項15】
前記FAD3bタンパク質が、リノール脂肪酸における二重結合の形成を触媒する、請求項14に記載の高αリノレン酸亜麻の種子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、先に出願された米国特許仮出願第61/300,364号(2016年2月26日出願)に対する優先権を主張するものであり、本願はその全体が本明細書において参照により援用されている。
【0002】
本開示は、全般的に、リノレン酸の新規なプロファイルを生成する亜麻植物栽培品種に関する。本栽培品種の植物、油産物、および一意的な遺伝子について記述し、高濃度のαリノレン酸を有する種子を産生する栽培品種については、ゲノムプロファイル毎にさらに詳述する。栽培品種については、亜麻仁油、ゲノムSSR、cDNAおよびタンパク質配列決定の化学解析を用いて説明する。
【背景技術】
【0003】
亜麻は、古代から永く人類に愛用されてきた歴史を有する亜科の1年生自家受粉植物である。亜麻亜種を栽培することによって、茎から繊維を、あるいは種子から油を採取することが可能となる。ヘルメス(Hermes)のような繊維亜麻は、ほとんど分枝していないのに対し、ベトゥーン(Bethune)、ノルマンディ(Normandy)、ソレル(Sorrell)のような油糧種子亜麻は高度に分岐している。油糧種子亜麻の特性と繊維亜麻の特性とを兼備した種を作るための試行が継続して為されてきている。亜麻油は、天然起源の必須脂肪酸αリノレン酸(ALA)およびリノール酸(LA)である。繊維亜麻または油糧種子亜麻由来の油の脂肪酸プロファイルは、各亜種に固有なものであり、例えば、ソリン(Solin)は、αリノレン酸含有率が極めて低く、リノール酸含有率が高い。この亜種は、他の調理用油の代替品として意図されてきた。野生型のノルマンディ(Normandy)、ベトゥーン(Bethune)およびソレル(Sorrell)は、ソリン(Solin)とは比較対照的にαリノレン酸含有率が48~60%と高く、リノール酸含有率が16%と低い(図1)。高αリノレン酸亜麻は、他の亜麻亜種または栽培品種(図1)よりもαリノレン酸含有率が68%以上と極めて高く、リノール酸含有率が10%と低い。高αリノレン酸亜麻油の特徴は、国際公開第2007/051302号およびFDA GRN#256にさらに網羅的に記載されており、両文献は、参照により本明細書中に組み込まれている。
【0004】
αリノレン酸は植物起源のω3(C18:3n3)としても知られている一方、リノール酸はω6脂肪酸または(C18:2n6)としても知られている。これらの脂肪は人体では内生的に産生できないため、αリノレン酸およびリノール酸は必須脂肪酸として知られる。これらの脂肪酸は、個々人が食餌に取り入れて消費すべきものである。上記の脂肪酸は、身体において心血管機能の改善、脳および眼の成長、皮膚の健康等を含めた全身的健康に影響する様々な方法で用いられており、高αリノレン酸亜麻油は、FDAに「一般的に安全と認められたもの(GRAS:Generally Recognized as Safe)」として認定されてきた。高αリノレン酸亜麻油はまた、動物の健康および畜産にも有益である。ALAの食事摂取量を増やすことで、牛の妊娠損失の低減、長毛種の馬および犬の毛並みと健康の改善、豚の離乳時期の早発化、ならびに動物の疾患に対する耐性向上につながる。高αリノレン酸亜麻はまた、工業用途においても有意義である。αリノレン酸含有率が高い場合、エポキシ化を経て、平均オキシラン値よりも高量のエポキシ化天然油を生ずる。エポキシ化された高αリノレン酸で作られたエポキシは、速乾性で、ファーミング力が強く、化学的に高耐性のボンドとなる。同様に、アルキド樹脂のなかでも、高αリノレン酸亜麻油を主成分とするものは、溶媒耐性がより高く、より高強度であり、より耐久性に優れる。そのうえ、そのような高αリノレン酸亜麻油エポキシ樹脂およびアルキッド樹脂は、「グリーン」化学に基礎を置いたものであるため、これらの樹脂を使用することにより、古い技術を置き換えて環境に利益をもたらすことができる。したがって、高αリノレン酸亜麻油は、人間の健康、動物飼料、工業用油といった多角的分野における用途を有し、経済的に重要である。
【0005】
多種多様な亜麻亜種および亜麻栽培品種由来の油のαリノレン酸含量は、環境要因によって決定付けられた結果のほんの一部に過ぎず、光周期成長期が長期化し、気温が低下すれば、如何なる特定亜種/栽培品種の油でもαリノレン酸含量が上昇する結果にもなる。しかしながら、ほとんどの場合、αリノレン酸含量は遺伝的に決定付けられる。具体的には、成熟種子のαリノレン酸含量は、FAD3a遺伝子およびFAD3b遺伝子によって決定付けられる。これらの遺伝子は、リノール酸中の二重結合を触媒してαリノレン酸を産生できるω3/Δ15デサチュラーゼ酵素をコードする(図5)。ソリン(Solin)と呼ばれる、αリノレン酸含量が極めて低いの亜麻の種は、野生型ノルマンディ(Normandy)のFAD遺伝子とは比較対照的に、FAD3a遺伝子およびFAb3b遺伝子に変異を有する。これらの突然変異の結果、不活性FADデサチュラーゼタンパク質を産生する短縮型アミノ酸配列を生じ、続いて低レベルのαリノレン酸の産生が生じる。
【0006】
多岐にわたる亜種を有する亜麻種の栽培によって、多様な栽培品種が生産されてきており、これらの栽培品種はそれぞれ所望される各種特性を有する。亜麻ゲノムの遺伝学的解析によって、当該の種が栽培品種の生産に遺伝子的に適合していることが、判明している。ゲノムのうち、転移因子(transposable elements)で構成されるものは、20%もの多数を占めており、様々なアルゴボタニック(argobotanic)特性を有する各種栽培品種の生産に好適とされている。それゆえ、本栽培品種に関する遺伝的記述方法が研究開発されてきた。
【0007】
亜麻ゲノムはその全体が、他の方法のなかでもとりわけ単純配列反復領域パターンによって特徴付けられる場合がある。単純配列反復(SSR)領域(別称:マイクロサテライト、または可変長縦列反復領域)は、反復ヌクレオチド単位からなるDNA配列である。この特定領域の全長は、ヌクレオチド単位の配列自体の長さ、およびヌクレオチド単位の反復回数に応じて異なる。ゲノム内にある多数の遺伝子座には、SSR領域が見出される。各SSR領域は、異なるDNA反復単位からなる場合もあれば、長さが異なる場合もある。各遺伝子座は、一意的なプライマー配列によって同定される。各遺伝子座は多型であり、多くの対立遺伝子を有する(すなわち、いずれかの特定の遺伝子座におけるSSR領域が個体間で異なる)。この多型は、特定の個体に特徴的なゲノムSSR領域のパターンを生ずる。SSR領域の特徴的且つ一意的なパターンは、遺伝マーカー、DNAフィンガープリンティング、実父確定検査、個体識別、定量的形質遺伝子座マッピング、遺伝的多様性の研究、関連マッピングおよびフィンガープリンティング栽培品種の基盤となる。植物において、特徴的なSSR領域は、栽培品種の同定およびDNA変異の評価に用いられている。亜麻において、SSRマーカーは28通りが報告されてきており、亜麻におけるSSRマーカーに関する大規模な研究によって、多種多様な亜麻亜種の系統が同定されてきた。SSRデータに基づいて、高αリノレン酸亜麻の新規な系統種(accession)が形成される結果となる。
【0008】
最近になって、高αリノレン酸亜麻が、栄養上および産業上の様々な用途において有用であり、且つ望ましいものであることが理解されてきた。αリノレン酸が、ヒトおよび他の哺乳類向けの精油であることは周知であり、また、理解されているように、αリノレン酸含有率が65%またはそれを上回る高αリノレン酸亜麻(リンシード)油は、アルキド樹脂のエポキシ化油、コーティング、塗布剤、エナメル、ワニス、抗剥落表面コンクリートの防腐剤、固化リンシード油、マレイン化リンシード油、エポキシ、インキ、ゼインフィルムコーティングの製造、および当業者に認識されている他の有用な用途に利用できる。高αリノレン酸の産物は、多くの場合、野生型リノレン亜麻(リンシード)油で作られた類似の産物とは比較対照的に頑丈でしかも速乾性である。高αリノレン酸の工業用途および農業用途は、米国特許第9,179,660号(PetersonおよびGolasに付与)に詳述されている。
【0009】
亜麻においてリノレン酸がαリノレン酸に還元される際にはFAB3A遺伝子およびFAB3B遺伝子によって調節が為されるものと理解される。それぞれによって、ω3/Δ15デサチュラーゼがコードされる。ω3/Δ15デサチュラーゼは、αリノレン酸を形成するための、リノール酸中での二重結合の形成を触媒する機能を有し、核酸配列中のFAB3A/B遺伝子の改変、および/または遺伝子の調節は、αリノレン酸の産生を制御し、αリノレン酸対リノール酸の比率を調節するものと考えられている。
【0010】
高αリノレン酸亜麻の種子を産生しうる亜麻植物における生物学的プロファイルを遺伝的に特性評価することに対するニーズが存在しており、そのような植物は、高αリノレン酸亜麻仁油(特に、18:3リノレン酸を70%超、より好ましくは75%超含む亜麻仁油)を製造するうえで所望されている。また、リノール酸およびオレイン酸を配合したものに比べて高αリノレン酸である種子を生産することが栽培品種にとって所望されており、そのような植物は、これら所望の特徴および他の表現型を有する栽培品種を生産する親としても所望されている。
【発明の概要】
【0011】
高αリノレン酸亜麻の特徴(例えば、SSR領域およびFAD3a/b遺伝子配列)は、一意的である。本発明の一実施形態は、高αリノレン酸亜麻植物の染色体セットであり、この染色体セットは配列番号1および配列番号:2、配列番号:3および配列番号:4、配列番号:5および配列番号:6、配列番号:7および配列番号:8、配列番号:9および配列番号:10、配列番号:11および配列番号:12、配列番号:13および配列番号:14、配列番号:15および配列番号:16、配列番号:17および配列番号:18、配列番号:19および配列番号:20、配列番号:21および配列番号:22、配列番号:23および配列番号:24、配列番号:25および配列番号:26、配列番号:27および配列番号:28、配列番号:29および配列番号:30、配列番号:31および配列番号:32、配列番号:33および配列番号:34のプライマー対によって規定された遺伝子座における栽培品種M6552の単純配列反復パターンの塩基対長に対して85%、87.5%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の等価性を有する単純配列反復パターンを含むゲノムを特徴としうる。しかも、本植物の種子のαリノレン酸含有率は、65%超、70%超、71%超、72%超、73%超、74%超または75%超(コールドプレス油の重量%)である。本発明の好ましい実施形態は、上記と同様であるが、プライマー対の配列番号:19および配列番号:20によって定義された単純配列反復パターンは、約226塩基対に等しく、同様に、下記のうちの少なくとも1つは真である:
プライマー対の配列番号:1および配列番号:2によって定義された単純配列反復パターンは、約231塩基対に等しいかまたはそれを上回る;
プライマー対の配列番号:2および配列番号:4によって定義された単純配列反復パターンは、約197塩基対に等しいかまたはそれを上回る;
プライマー対の配列番号:9および配列番号:10によって定義された単純配列反復パターンは、約371塩基対に等しい。
別の好ましい実施形態は、第1の実施形態とほぼ同じであるが、ただしプライマー対の配列番号:13および配列番号:14によって定義された単純配列反復パターンは約305塩基対を上回る。
【0012】
本発明の別の実施形態は、配列番号:35に記載されているFAD3a遺伝子のコード配列に対して65%、70%、75%、80%、85%、87.5%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する核酸配列を含み、この配列が、リノール酸からαリノレン酸を合成する際に使用するのに十分な脂肪酸デサチュラーゼ活性を有するタンパク質をコードする、ヌクレオチド配列である。
【0013】
本発明の別の実施形態は、配列番号:41に記載されているFAD3bタンパク質のコード配列に対して65%、70%、75%、80%、85%、87.5%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する核酸配列を含み、この配列が、αリノレン酸の合成における使用に十分な脂肪酸デサチュラーゼ活性を有するタンパク質をコードする、ヌクレオチド配列である。
【0014】
本発明の別の実施形態は、配列番号:36に記載されているFAD3aタンパク質アミノ酸配列に対して65%、70%、75%、80%、85%、87.5%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であって、このタンパク質は、リノール酸における二重結合の形成を触媒してαリノレン酸を生成しうる。
【0015】
本発明の別の実施形態は、配列番号:42に記載されているFAD3bタンパク質アミノ酸配列に対して65%、70%、75%、80%、85%、87.5%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質であって、このタンパク質は、リノール酸における二重結合の形成を触媒してα-リノレン酸を生成しうる。
【0016】
本発明の別の実施形態は、高αリノレン酸亜麻から誘導されたcDNA配列であり、このcDNA配列は、配列番号:35に記載されている高αリノレン酸亜麻のFAD3aのcDNAによって示される突然変異のうちの少なくとも約1つを有する。本発明のこの実施形態は、cDNAで形質転換された細胞(特に、植物細胞、酵母細胞または細菌細胞)であることが、より好ましい。配列番号:35に記載されているcDNAを有する細胞を含む多細胞生物であることが最も好ましい。
【0017】
本発明の別の実施形態は、高αリノレン酸亜麻から誘導されたcDNA配列であり、このcDNA配列は、配列番号:41に記載されている高αリノレン酸亜麻のFAD3bのcDNAによって示される突然変異のうちの少なくとも約1つを有する。本発明のこの実施形態は、cDNAで形質転換された細胞(特に、植物細胞、酵母細胞または細菌細胞)であることが、より好ましい。配列番号:41に記載されているcDNAを有する細胞を含む多細胞生物であることが、最も好ましい。
【0018】
本発明の別の実施形態は、BeFad3A.proまたはNmFad3A.proと比較した場合に、図8に示すNoFad3A.proの突然変異のうちの少なくとも1つを含む、FAD3aタンパク質である。この実施形態において、FAD3aタンパク質は、リノレン脂肪酸中の二重結合の形成を触媒しうることがより好ましい。このタンパク質は細胞内に含有されていることがさらにより好ましく、本実施形態がタンパク質含有の細胞を含んでなる生物であることが最も好ましい。
【0019】
本発明の別の実施形態は、BeFad3B.proまたはNmFad3B.proと比較した場合に、図9に示すNoFad3B.proの突然変異のうちの少なくとも1つを含む、FAD3bタンパク質である。この実施形態において、FAD3aタンパク質は、リノレン脂肪酸中の二重結合の形成を触媒できることが、より好ましい。このタンパク質は細胞内に含有されていることがさらにより好ましく、本実施形態がタンパク質含有の細胞を含んでなる生物であることが最も好ましい。
【0020】
本発明の別の実施形態は、308bpのLU 17 SSRを含み、油の総量に対するαリノレン酸のパーセンテージが約70.1%を上回る、アマ(Linum usitatissium)植物である。より好ましくは、アマ(Linum usitatissium)植物は、図3の「高α」列に示すSSRパターン全体をさらに含む。
【0021】
本発明の別の実施形態は、配列番号:35および配列番号:41に記載されている改変遺伝子を有し、且つ配列番号:36および配列番号:42に記載のアミノ酸配列を発現する高αリノレン酸亜麻植物である。別の実施形態において、本発明は、高αリノレン酸亜麻においてFAD3A遺伝子をコードする単離された核酸配列を特徴とする。
【0022】
別の実施形態において本発明は、高αリノレン酸亜麻におけるFAD3B遺伝子をコードする単離された核酸配列を特徴とし、本発明のさらなる実施形態においてFAD3A遺伝子およびFAD3B遺伝子は、高αリノレン酸亜麻に固有のアミノ酸配列をコードするものである。このアミノ酸配列から形成されたタンパク質は、デサチュラーゼである(すなわち、二重結合(double bands)の形成を触媒する)。具体的には、これらのタンパク質によってリノール酸が不飽和化され、αリノレン酸が形成される。
【0023】
本発明の別の実施形態は、亜麻仁が、60%超、65%超、70%超または73%超のαリノレン酸と、5%超、6%超、7%超、8%超、9%超または10%超のリノール酸と、5%超、6%超、7%超、8%超、9%超または10%超のオレイン酸(コールドプレス油の重量パーセンテージ)とを含む、亜麻植物の栽培品種である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本開示をより完全に理解するにあたって、下記の詳細な説明および添付の図面を参照すべきである。
【0025】
図1】様々な栽培品種の亜麻:アマ(Linum usitatissimum)の典型的な全油分含量およびω3αリノレン酸レベルである。
図2】高αリノレン酸亜麻において試験された各単純配列反復遺伝子座のプライマー配列である。配列番号1~34が図示してある。
図3】高αリノレン亜麻(M6552)、極低リノレン亜麻:リノーラ(Linola)、中間リノレン亜麻:シュバハラ(Shubhara)、従来の油糧種子亜麻:ベトゥーン(Bethune)、ノルマンディ(Normandy)、ソレル(Sorrell)、および繊維亜麻:ヘルメス(Hermes)をはじめとする多様な亜麻において同定された各遺伝子座の対立遺伝子に対するSSR領域の塩基対(bp)の長さである。
図4】M6552ノルカン(Norcan)と、他の様々なαリノレン酸含量の亜麻品種のSSR領域の比較である。高αリノレン亜麻(M6552)、極低リノレン亜麻:ウノーラ(Unola)、中間リノレン亜麻:シュバハラ(Shubhara)、従来の野生型油糧種子亜麻:ベトゥーン(Bethune)、ノルマンディ(Normandy)、ソレル(Sorrell)および繊維亜麻:ヘルメス(Hermes)をはじめとする多様な亜麻において同定された各遺伝子座の対立遺伝子に対するSSR領域の長さ(bp)である。
図5】植物におけるαリノレン酸および他の脂肪酸の合成である。
図6】高αリノレン酸亜麻M6552(NoFad3A.seq)(配列番号:35)、野生型ベトゥーン(Bethune)(BeFad3A.seq)(配列番号:37)および野生型ノルマンディ(Normandy)(NmFad3A.seq)(配列番号:39)間のFAD3A遺伝子ヌクレオチド配列アライメントである。
図7】高αリノレン酸亜麻M6552(NoFad3A.pro)(配列番号:36)、野生型ベトゥーン(Bethune)(BeFad3A.pro)(配列番号:38)および野生型ノルマンディ(Normandy)(NmFad3A.pro)(配列番号:40)間のFAD3Aアミノ酸配列アライメントである。
図8】高αリノレン酸亜麻M6552(NoFad38.seq)(配列番号:41)、野生型ベトゥーン(Bethune)(BeFad3B.seq)(配列番号:43)および野生型ノルマンディ(Normandy)(NmFad38.seq)(配列番号:45)間のFAD3B遺伝子ヌクレオチド配列アライメントである。
図9】高αリノレン酸亜麻M6552(NoFad3B.pro)(配列番号:42)、野生型ベトゥーン(Bethune)(BeFad3B. pro)(配列番号:44)および野生型ノルマンディ(Normandy)(NmFad3B.pro)(配列番号:46)間のFAD3Bアミノ酸配列アライメントである。
図10】M6552亜麻栽培品種を従来の亜麻仁油と比較した表である。
図11】M6552亜麻栽培品種を他の植物油(キャノーラ油、コーン油、オリーブ油、ピーナッツ油、ベニバナ油、ダイズ油、ヒマワリ油およびクルミ油など)と比較した表である。
図12】αリノレン酸、リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸およびパルミチン酸を含むM6552栽培品種の主要脂肪酸成分の分子式を示した表である。
【0026】
特定の実施形態が図面に例証されているが、本開示が例証的なものであると理解されている限り、これらの実施形態は本明細書に記載および例証された発明を制限することを意図するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0027】
別途規定されていない限り、本明細書中に用いられている全ての技術用語および科学用語の意味は、本発明が属する当該技術分野の当業者に一般的に理解されている意味と同じとする。本発明の実施または試験には、本明細書中に記載されているものと類似もしくは等価な任意の方法および材料を使用できるが、好ましい方法および材料については、これから説明する。本明細書全体を通して、種子および油は特定の化合物のパーセンテージで記載されており、これらのパーセンテージは、コールドプレスされた油、または種子からコールドプレスされた油の重量%を基準とする。
【0028】
定義:
「高リノレン酸リンシード油」、「高リノレン酸亜麻の種子油」および「高αリノレン酸亜麻(リンシード)油という用語は、本明細書中で同義に用いられており、例えば非改質油または天然油のような油であって、すなわち亜麻の種子からの抽出後にαリノレン酸含量を増加させるように化学的、酵素的もしくは他の方法で改変されておらず、総脂肪酸中にαリノレン酸を少なくとも65%、あるいはαリノレン酸を65~95%、αリノレン酸を65~94%、αリノレン酸を65~93%、αリノレン酸を65~92%、αリノレン酸を65~91%、αリノレン酸を65~90%、αリノレン酸を65~89%、αリノレン酸を65~88%、αリノレン酸を65~87%、αリノレン酸を65~86%、αリノレン酸を65~85%、αリノレン酸を65~84%、αリノレン酸を65~83%、αリノレン酸を65~82%、αリノレン酸を65~81%、αリノレン酸を65~80%、αリノレン酸を65~79%、αリノレン酸を65~78%、αリノレン酸を65~77%、αリノレン酸を65~76%、αリノレン酸を65~75%、αリノレン酸を65~74%、αリノレン酸を65~73%、αリノレン酸を65~72%、αリノレン酸を65~71%、αリノレン酸を65~70%、αリノレン酸を65~69%、αリノレン酸を65~68%、αリノレン酸を65~67%、αリノレン酸を65~66%、αリノレン酸を67~95%、αリノレン酸を67~94%、αリノレン酸を67~93%、αリノレン酸を67~92%、αリノレン酸を67~91%、αリノレン酸を67~90%、αリノレン酸を67~89%、αリノレン酸を67~88%、αリノレン酸を67~87%、αリノレン酸を67~86%、αリノレン酸を67~85%、αリノレン酸を67~84%、αリノレン酸を67~83%、αリノレン酸を67~82%、αリノレン酸を67~81%、αリノレン酸を67~80%、αリノレン酸を67~79%、αリノレン酸を67~78%、αリノレン酸を67~77%、αリノレン酸を67~76%、αリノレン酸を67~75%、αリノレン酸を67~74%、αリノレン酸を67~73%、αリノレン酸を67~72%、αリノレン酸を67~71%、αリノレン酸を67~70%、αリノレン酸を67~69%、αリノレン酸を67~68%、αリノレン酸を70~95%、αリノレン酸を70~94%、αリノレン酸を70~93%、αリノレン酸を70~92%、αリノレン酸を70~91%、αリノレン酸を70~90%、αリノレン酸を70~89%、αリノレン酸を70~88%、αリノレン酸を70~87%、αリノレン酸を70~86%、αリノレン酸を70~85%、αリノレン酸を70~84%、αリノレン酸を70~83%、αリノレン酸を70~82%、αリノレン酸を70~81%、αリノレン酸を70~80%、αリノレン酸を70~79%、αリノレン酸を70~78%、αリノレン酸を70~77%、αリノレン酸を70~76%、αリノレン酸を70~75%、αリノレン酸を70~74%、αリノレン酸を70~73%、αリノレン酸を70~72%、またはαリノレン酸を70~71%を有する亜麻の種子由来の油を指す。
【0029】
本明細書中に記載されているαリノレン酸含有率が65%を上回る高αリノレン酸亜麻(リンシード)油は、溶媒またはヘキサンを使用することなしに高αリノレン酸亜麻仁をコールドプレスすることによって製造される。この全ての天然プロセスでは、高αリノレン酸亜麻(リンシード)種子の粉砕によって、油を生成する。本明細書に記載されているように、高αリノレン酸亜麻(リンシード)油は天然で高αリノレン酸含量を含有する。高αリノレン酸亜麻仁のαリノレン酸含有率が65%を突破したのは、参照により本明細書中に組み込まれている米国特許第6,870,077号およびPCT出願国際公開第03/064576号に記載されているような植物品種の改良および産地選択を入念に行った成果であった。当業者に了解されるように、米国特許第6,870,077号およびPCT出願国際公開第03/064576号に記載されている亜種を、他の亜麻亜種と交配させることによって、本明細書中に記載されているような他の所望される特性を有する新規な高αリノレン酸亜種を生ずることが可能となる。
【0030】
「低リノレン亜麻(リンシード)油」、「通常の亜麻(リンシード)油」、「規定の亜麻(リンシード)油」および「非高リノレン酸(リンシード)油」という用語は、本明細書において同義に用いられており、αリノレン酸含有率が65%未満の亜麻の種子から採取された油を指す。
【0031】
「亜麻仁油」および「リンシード油」という用語は、本明細書において同義に用いられており、各々の油は亜麻植物:アマ(Linum usitatissimum)の種子から採取されるものと同じ油を指す。
【0032】
本明細書において「共役二重結合」という用語は、当該分野において認識されており、共役二重結合を含んだ共役脂肪酸(CFA)が包含される。例えば、共役二重結合には、式-CH=CH-CH=CH-で示される相対位置に2つの二重結合が含まれている。共役二重結合は、1~4個の炭素の飽和によって添加化合物を形成し、結果として、2~3個の炭素間に二重結合が生成される。
【0033】
本明細書において「脂肪酸」という用語は、当該技術分野において認識されており、長鎖炭化水素ベースのカルボン酸が包含される。脂肪酸は、グリセリドを含む多くの脂質の成分であり、飽和または不飽和でありうる。「不飽和」脂肪酸は、炭素原子間にシス(cis)二重結合が含まれている。「多価不飽和」脂肪酸には2つ以上の二重結合が含まれており、それらの二重結合はメチレン中断系(-CH=CH-CH-CH=CH)に配置される。
【0034】
本明細書において脂肪酸は、脂肪酸中の炭素原子数をコロン(:)の前の番号で示し、存在する二重結合数をコロンの後の番号とした、番号付け体系を介して記載されている。不飽和脂肪酸の場合、この直後に、二重結合の位置を示す括弧付き数字が付される。括弧内の各数字は、二重結合を介して連結された2つの炭素原子のうち小さい方の数値である。例えば、リノール酸は、18:2(9,12)と表すことができ、それぞれ18個の炭素、炭素9および炭素18に1つの二重結合、炭素9および炭素12に2つの二重結合を示す。オレイン酸は18:1(9)と記述できる。
【0035】
本明細書において「共役脂肪酸」という用語は、当該技術分野において認識されており、少なくとも一組の共役二重結合が含まれている脂肪酸を含む。共役脂肪酸の製造プロセスは、当該技術分野において認識されており、例えば、1つの追加の二重結合が既存の脂肪酸基質内に導入される結果を生じうる、不飽和化に類似のプロセスを含む。
【0036】
本明細書において「リノール酸」という用語は、当該技術分野において認識されており、2つの二重結合(18:2(9,12))が含まれている18炭素多価不飽和脂肪酸分子(C17H29COOH)を含む。「共役リノール酸」(CLA)という用語は、シス(cis)型またはトランス(trans)型立体配置において、共役二重結合を有するリノール酸の一組の位置異性体および幾何異性体を表す一般用語である。
【0037】
本明細書において「デサチュラーゼ」という用語は、当該技術分野において認識されており、共役二重結合をアシル鎖内に導入する役割を果たす酵素を含む。本発明において、例えば、アマ(Linum usitatissimum)由来のω3デサチュラーゼ/Δ15デサチュラーゼは、リノール酸の15位に二重結合を導入しうるデサチュラーゼである。
【0038】
本明細書において「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」という用語は、互いに実質的に同一または相同なヌクレオチド配列が互いにハイブリダイズしたままの状態を維持する、ハイブリダイゼーションおよび洗浄の条件を記述することを意図したものである。この条件は、互いに対し好ましくは少なくとも約70%、より好ましくは少なくとも約80%、さらにより好ましくは少なくとも約85%、90%または95%の同一性を有する配列が互いにハイブリダイズしたままの状態に維持されるような条件である。そのようなストリンジェントな条件は当業者に公知であり、とりわけCurrent Protocols in Molecular Biology, Ausubel et al., eds., John Wiley & Sons, Inc. (1995)の第2、4および6節に見出すことができる。追加的なストリンジェントな条件は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Sambrook et al., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y.(1989)の第7、9および11章に見出すことができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい例としては、限定されないが、約65~70℃で4×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)(または約42~50℃で4×SSC+50%ホルムアミド中ハイブリダイゼーション)、続いて、約65~70℃で1×SSC中1回以上洗浄することが挙げられる。高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい例としては、限定されないが、約65~70℃で1×SSC(または約42~50℃で1×SSC+50%ホルムアミド中ハイブリダイゼーション)、続いて、約65~70℃で0.3×SSC中1回以上洗浄することが挙げられる。低ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい例としては、限定されないが、約50~60℃で4×SSC(または約40~45℃で6×SSC+50%ホルムアミド中ハイブリダイゼーション)、続いて、約50~60℃で2×SSC中1回以上洗浄することが挙げられる。また、上記列挙値に対して中間的な範囲(例えば65~70℃または42~50℃)も、本発明に包含されることも意図される。ハイブリダイゼーションバッファーおよび洗浄バッファー中には、SSPE(1×SSPE=0.15MのNaCl、10mMのNaHPO、および1.25mMのEDTA、pH7.4)の代わりに、SSC(1×SSC=0.15MのNaCl+15mMのクエン酸ナトリウム)を用いてもよい。ハイブリダイゼーション完了後毎にそれぞれ15分間の洗浄を行う。核酸分子の膜、例えばニトロセルロースまたはナイロン膜への非特異的ハイブリダイゼーションを低減させるために、ハイブリダイゼーションバッファーおよび/または洗浄バッファー中にさらなる試薬(遮断剤(例えば、BSAまたはサケもしくはニシン精子キャリアDNA)、界面活性剤(例えば、SDS)、キレート剤(例えば、EDTA)、フィコール(Ficoll)、PVPなどが含まれるが、これに限定されない。)を添加しても差し支えないこともまた、当業者によって認識されるであろう。ナイロン膜を使用する場合の、特にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の追加の好ましい例としては、限定されないが、約65℃で0.25~0.5MのNaHPO、7%SDS中ハイブリダイゼーション、続いて、0.02MのNaHPO、65℃で1%SDS(例えば、Church and Gilbert (1984) Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81 :1991-1995)、または代わりに0.2×SSC、1%SDS中ハイブリダイゼーションすることが挙げられる。
【0039】
本明細書において「同一性パーセント」は、アミノ酸(ポリペプチドもしくはタンパク質と呼ばれる場合がある)の長い配列を含む、2つの核酸配列または2つのアミノ酸配列の関連性の数学的比較である。配列同士の比較、および2つの配列間の同一性パーセントの算定は、数学的アルゴリズムを用いて達成できる。同一性パーセントを算定するためのいくつかの許容された方法が存在することは、当業者に認識されるであろう。好ましい実施形態において、2つのアミノ酸配列間のパーセント同一性の算定には、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラム中に組み込まれているNeedleman and Wunsch(J. Mol.Biol.(48):444-453 (1970))アルゴリズムを使用し、Blosum 62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、ならびにギャップ重み付け16、14、12、10、8、6または4および長さ重み付け1、2、3、4、5または6を用いる。さらに別の好ましい実施形態において、2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントの算定には、GCGソフトウェアパッケージ(www.gcg.comで入手可能)中のGAPプログラムを使用し、NWSgapdna.CMPマトリックス、ならびにギャップ重み付け40、50、60、70または80、および長さ重み付け1、2、3、4、5または6を用いる。GAPプログラムと共に使用可能なパラメータの好ましい例としては、限定されないが、ギャップペナルティ12、ギャップ伸長ペナルティ4、およびフレームシフトギャップペナルティ5を有するBlosum 62スコアリングマトリックスが挙げられる。別の実施形態では、2つのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列間の同一性パーセントの算定には、ALIGNプログラム(バージョン2.0またはバージョン2.0U)に組み込まれたE. Meyers & W. Millerアルゴリズム(Comput.Appl.Biosci., 4:11-17 (1988))を使用し、PAM120重み付け残基表(weight residue table)、ギャップ長ペナルティ12、ギャップペナルティ4を使用する。
【0040】
当業者によく理解されているように、多くのレベルの配列同一性が他の種からのポリペプチドを同定するうえで有用であることもあれば、あるいは天然もしくは合成的に修飾されることもある。そのようなポリペプチドは、同一もしくは類似の機能または活性を有している。同一性パーセントの有用な例としては、限定されないが、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%もしくは95%、または50%~100%の任意の整数パーセンテージが挙げられる。事実上、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%など、50%~100%の任意の整数アミノ酸同一性が、本発明の記述に有用であると考えられる。
【0041】
「ゲノム」という用語は、植物細胞に適用される場合、核内に見出される染色体DNAだけでなく、細胞の細胞下成分(例えば、ミトコンドリアまたはプラスチド)中に見出されるオルガネラDNAも包含する。
【0042】
本明細書において「コドン改変遺伝子」、「コドン優先遺伝子」または「コドン最適化遺伝子」は、宿主細胞の好ましいコドン使用頻度を模倣するように企図されたコドン使用頻度を有する遺伝子である。
【0043】
「対立遺伝子」は、染色体上の所与の遺伝子座を占有する遺伝子のいくつかの代替形態のうちの1つである。染色体上の所定の遺伝子座に存在する全ての対立遺伝子が同じものである場合、その植物はその遺伝子座においてホモ接合とされ、染色体上の所定の遺伝子座に存在する対立遺伝子が異なるものである場合、その植物はその遺伝子座においてヘテロ接合性とされる。
【0044】
「導入遺伝子」は、形質転換手順によってゲノム内に導入された遺伝子である。導入遺伝子は、例えば、タンパク質またはタンパク質に翻訳されないRNAの1つ以上をコードできる。しかし、本発明の導入遺伝子は、タンパク質および/または非翻訳RNAをコードする必要はない。本発明の特定の実施形態において、導入遺伝子は、例えば、目的の遺伝子、表現型マーカー、選択マーカーおよび遺伝子サイレンシング用のDNAを含むキメラ遺伝子をはじめとする、1つ以上のキメラ遺伝子を含む。
【0045】
本明細書において「遺伝子座」という用語は、測定可能な特性(例えば、形質)に対応するゲノム上の位置を指す。SNP遺伝子座は、その遺伝子座の内部に含まれるDNAにハイブリダイズするプローブによって規定される。
【0046】
本明細書において「マーカー」という用語は、特定の対立遺伝子を有する植物を同定するために使用可能な遺伝子またはヌクレオチド配列を指す。マーカーは、所与のゲノム遺伝子座における変異として記載される場合がある。遺伝的マーカーは、単一塩基対変更(base-pair change)(一塩基多型、すなわち「SNP」)を囲繞する配列のような、短いDNA配列でありうる。好ましい用途において「マーカー」という用語は、特定の対立遺伝子を特徴付ける特定の遺伝子座におけるSSRのプロファイルを指す。
【0047】
多型:対立遺伝子同士の間における遺伝子配列の変異である。対立遺伝子同士の間にある遺伝子配列が1つのヌクレオチドのみによって変化する単一ヌクレオチド多型は、その一例である。
【0048】
本明細書において「SSR」という用語は、単純配列反復(Simple Sequence Repeats)またはマイクロサテライトを指す。反復ヌクレオチドまたは特定の遺伝子配列の反復単位からなる遺伝子配列の領域である短い単純配列ストレッチ(Short Simple Sequence stretches)は、全ての真核生物ゲノムにおいて高度に反復的な要素として生じる。単純配列遺伝子座は、広範な長さの多型を示すのが通例である。これらの単純配列長多型(SSLP)は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)分析によって検出でき、同一性試験、集団研究、連鎖解析およびゲノムマッピングに使用できる。SSRが見出される特定の遺伝子座は、DNAのプライマー配列によって同定される。特定の各遺伝子座におけるSSRの長さは特徴的且つ特異的であり、この長さを使用してアマ(Linum usitatissimum)の栽培品種を同定できる。本明細書において「サテライト」、「ミニサテライト」、「マイクロサテライト」、「短鎖縦列反復」、「STP」、「可変回数の縦列反復」、「VNTP」および「単純配列反復」という用語は、SSRと同義であると見なされている。
【0049】
栽培品種:花色、病害抵抗性、作物収量などの特定の望ましい特性に合わせて故意に選択された栽培品種の植物である。本特許の目的に対応するように、本明細書に記載の遺伝子配列は、成熟種子油中にαリノレン酸含有率が高まるように慎重に栽培されたアマ(Linum usitatissimum)の栽培品種に対し特徴的且つ一意的とされる。
【0050】
プライマー:本特許の目的に対応するように、プライマーは、17種の遺伝子座のそれぞれで標的DNAにハイブリダイズしたDNAの短鎖である。本明細書中に使用されるプライマーのリストが、図2に含まれている。
【0051】
遺伝子座:本特許の目的に対応するように、遺伝子座は、SSR領域が位置する染色体上の特定のDNA配列である。ハイパー可変:SSR領域またはマイクロサテライト領域は、反復単位の総数が変動しうる(すなわちSSR領域の全長が変動しうる)という点で、ハイパー可変である。
【0052】
著者によっては、リンシードと亜麻仁という用語を区別する人もいれば、区別しない人もいる。一部のリンシードは、油、ヒトの食物、家畜およびペットフードに使用される亜麻を示しうるのに対し、亜麻仁という用語は、繊維に使用される亜麻を示す。一方、他のリンシードは、工業用途、塗料、エポキシ、接着剤に使用される亜麻としてのリンシード、ならびに、ヒトの食物、家畜およびペットフードに使用される亜麻としての亜麻仁を指す。本特許の目的に対応するように、リンシードおよび亜麻仁という用語は同義に用いられていると共に、油、ヒトの食物、ペットフード、繊維、工業油、塗料エポキシ、接着剤など任意の目的に使用される亜麻について記述するために用いられている。
【0053】
亜麻植物
亜麻は、染色体数2n=30の自己受粉二倍体種であり、亜麻の栽培品種はホモ接合体である。繊維亜麻における亜麻ゲノムは完全に特徴付けされている。従来の植物育種法を用いて開発されたのが、高αリノレン酸亜麻である。そのような方法は、連続的な世代にまたがって近親交配することを含むものであり、当業者に周知となっている。高αリノレン酸亜麻は、αリノレン酸含有率が65%、70%、75%またはそれを上回る油を含む種子を生産する亜麻栽培品種として定義されている。図1に、高αリノレン酸亜麻の脂肪酸プロファイルおよび特性を示す。比較の目的に、様々な栽培品種の全油分含量/脂肪酸プロファイル/αリノレン酸含量の例を、図1に示す。亜麻の様々な亜種および栽培品種は、様々なレベルのALA、および様々な脂肪酸プロファイルを有する油を含有する種子を産生する。成熟種子中のALAのレベルは、二重結合を触媒する機能を有するポリペプチドまたはタンパク質を産生するアミノ酸配列をコードするFAD3a遺伝子およびFAD3b遺伝子の活性に強く影響される。そのうえ、高αリノレン酸亜麻のゲノムは、単純配列反復領域の一意的なパターンによって特徴付けられる。
【0054】
野生型ベトゥーン(Bethune)(BeFAD3A.seq)配列とは比較対照的に、高αリノレン酸亜麻M6552(NoFAD3A.seq)のcDNA配列は2つの欠失を含む。最初の欠失は、ATGから40bpの所に位置する6ヌクレオチドである。この欠失ではオープンリーディングフレームが改変されない。第2の欠失は、翻訳開始部位から260の所における2塩基対の欠失である。この第2の欠失は、306位にてリーディングフレームの改変および未成熟終止コドンに帰結する。高αリノレン酸亜麻M6552(NoFad3A.seq)由来のFAD3A遺伝子は、わずか100アミノ酸という短縮型の改変タンパク質を産生するものと予測される。比較対照的に、野生型ノルマンディ(Nomandy)亜麻由来のFad3A遺伝子は、アルギニンコドン(CGA)を終止コドン(TGA)に変換する874塩基対の突然変異を含む。この野生型ノルマンディ(Nomandy)亜麻FAD3A遺伝子は、291アミノ酸の短縮型Fad3Aデサチュラーゼタンパク質を産生するものと予測される。野生型ベトゥーン(Bethune)亜麻(BeFad3B.seq)とは比較対照的に、高αリノレン酸亜麻M6552(NoFad3B.seq)由来のFAD3B遺伝子は、7つの置換突然変異を含む。これらの突然変異は、28(A→G)、700(A→G)、899 1 O(A→G)、1170(C→T)、1174(T→C)および1175(G→C)に位置する。これらの点突然変異によるアミノ酸の改変は、以下のとおり:アラニン→トレオニン(28)、バリン→イソロイシン(700)、アルギニン→ヒスチジン(899)、プロリン→システイン(1174および1175)。これらの置換では、オープンリーディングフレームが改変されないが、改変された残基を有するFAD3bデサチュラーゼタンパク質を産生するものと予測される。高αリノレン酸亜麻M6552(NoFad3b.pro)タンパク質由来のFAD3Bタンパク質が、依然として酵素活性を保持している可能性は高い。酵母のような異種系では、このクローンの生物学的および基質特異性の試験によって、この遺伝子と一意的な高αリノレン酸油糧種子亜麻プロファイルとの間の考えうる如何なるつながりに対しても重要な洞察が為されうる。比較すると、野生型ノルマンディ(Normandy)FAD3bデサチュラーゼ遺伝子、(NmFad3B.seq)は、Trpコドン(TGG)を終止コドン(TGA)に変換する開始部位から162bpの置換突然変異を含む。この遺伝子は、わずか53アミノ酸の短縮型Fad3bタンパク質を産生するものと予測され、機能しない可能性が高い。
【0055】
FAD3遺伝子
FAD3遺伝子は、リノール酸(C18:2)からリノレン酸(C18:3)への不飽和化に関与する酵素である小胞体ω3/Δ15デサチュラーゼをコードする。亜麻植物において2通りのFAD3遺伝子(FAD3AおよびFAD3B)は、特にリノレン含量を制御することが報告されている。FAD3AおよびFAD3Bは、約95%の同一性で、高度の保存性を示す。亜麻の低リノレン酸栽培品種において、これらの遺伝子は不活性であることが示されている。
【0056】
BeFAD3A(wt)配列とは比較対照的に、NoFAD3AのcDNA配列は2つの欠失を含む。すなわち、第1の欠失はATGから40bpの所に位置する6ヌクレオチド欠失であり、この欠失はオープンリーディングフレームを維持するが、翻訳開始部位から260における2bpの長さの第2の欠失は、306にてリーディングフレームの改変およびシフト、ならびに未成熟終止コドンに帰結する。
【0057】
NoFad3A遺伝子は、わずか100アミノ酸(aa)という短縮型の改変タンパク質を産生するものと予測された。
【0058】
NoFad3B遺伝子は、BeFad3B(wt)とは比較対照的に、28(A→G)、700(A→G)、899(A→G)、1170(C→T)、1174(T→C)および1175(G→C)の所に位置する7つの置換突然変異を含む。これらの点突然変異によるアミノ酸の改変は、以下のとおり:Ala→Thr(28)、Val→Ile(700)、Arg→His(899)、Pro→Cys(1174および1175)。これらの置換ではオープンリーディングフレームが改変されないが、点突然変異によってFad3bタンパク質のいくつかの位置に対するアミノ酸コドンが変化する。NoFad3bタンパク質が酵素活性を保持することは実証済みである。
【0059】
SSR領域
SSR(単純配列反復)は、典型的には2~7ヌクレオチドの反復配列要素を含むゲノム遺伝子座である。反復単位である各配列要素は、SSR内で少なくとも一度繰り返される。亜麻のSSR配列の例としては、限定されないが、(AAT)5x、(TC)6x、(TA)8x、(TTA)5x、(GAG)6x、(TAT)5x、(TTC)6x、(CTC)5x、(TA)6x、(AT)10xが挙げられる。
【0060】
上述されているように、或る事例において反復単位は縦に並んで反復される。少なくとも1つの事例において反復単位が縦に並んで一回反復するという条件では、他の事例において、反復単位は介在塩基または欠失を介して分離される場合がある。これらは、「非完璧反復」、「不完全反復」および「変異反復」と呼ばれる。
【0061】
SSR遺伝子座は、これらのマーカーを用いて強力な統計解析を可能にすることから、同一性判を決定するのに好ましい。個体はそれぞれ異なる数の反復単位および配列変異をSSR遺伝子座に有しうる。これらの相違(differences)を「対立遺伝子」と呼ぶ。各SSR遺伝子座は、多くの場合、複数の対立遺伝子を有する。解析されたSSR遺伝子座の数が増加するにつれて、如何なる2個体も同じ対立遺伝子セットを保有する可能性が、無視できるほど小さくなる。
【0062】
SSR対立遺伝子は、それらに含まれている反復単位の数によって分類されるのが一般的である。例えば、特定のSSR遺伝子座に対して12と指定された対立遺伝子は、12個の反復単位を有する。不完全な反復単位は、整数に続く小数点、例えば12.2で指定される。
【0063】
本発明は、少なくとも65%、70%、または75%のω3脂肪酸αリノレン酸(C18:3)含有の種子を産生する、高αリノレン酸亜麻における単純配列反復領域遺伝子マーカーに関する。高αリノレン酸亜麻は特徴的且つ一意的な単純配列反復領域によって同定される。高αリノレン酸亜麻において試験された各SSR領域の遺伝子座は、一意的なプライマー配列と関連している(図2)。高αリノレン酸亜麻(高α)、従来の野生型亜麻:ベトゥーン(Bethune)、ノルマンディ(Normandy)、ソレル(Sorrell)、低リノレン酸亜麻:リノーラ(Linola)、中間リノレン酸亜麻:シュバハラ(Shubhara)および繊維亜麻:ヘルメス(Hermes)の各座での単純配列反復領域の長さは、各タイプの亜麻がSSR領域長の一意的な特徴パターンを有することを示している(図3)。高αリノレン酸亜麻、従来の野生型亜麻:ベトゥーン(Bethune)、ノルマンディ(Normandy)、ソレル(Sorrell)、低リノレン酸亜麻:リノーラ(Linola)、中間リノレン酸亜麻:シュバハラ(Shubhara)、および繊維亜麻:ヘルメス(Hermes)間のSSR領域の長さを比較することによって、高αリノレン酸亜麻が、一意的なSSR領域(すなわち、他のタイプの亜麻には共通しないSSR領域)を有することが明らかにされている(図4)。SSR領域のデータに基づき、高αリノレン酸亜麻が「従来の」亜麻、低リノレン酸亜麻、および繊維亜麻と遺伝的に異なることは明らかである。
【0064】
当業者に了解されるように、本発明のいくつかの実施形態では、図3に示すような指定された遺伝子座における単純配列反復の一意的なパターンによって特徴付けられる高αリノレン酸亜麻のゲノムが提供されており、前記亜麻から採取された種子のαリノレン酸含有率は65%、70%、または75%またはそれを上回る。
【0065】
当業者に了解されるように、本発明のいくつかの実施形態では、図3に示すような指定された遺伝子座における単純配列反復の一意的なパターンを用いた、高αリノレン酸亜麻のような亜麻亜種を特定する方法が提供されており、前記亜麻から採取された種子のαリノレン酸含有率は65%、70%、または75%またはそれを上回る。
【0066】
本発明の別の態様では、図6に示すヌクレオチド配列を含む精製または単離された核酸分子が、提供されている。当業者には了解されるように、この核酸分子は高αリノレン酸亜麻から単離されたFAD3a遺伝子をコードし、このFAD3a遺伝子はαリノレン酸の合成に使用される脂肪酸デサチュラーゼをコードする。
【0067】
本発明の別の態様では、図8に示すヌクレオチド配列を含む単離または精製された核酸分子が提供されている。当業者に明らかとなるように、ヌクレオチド配列は、高αリノレン酸亜麻から単離されたFAD3b遺伝子をコードし、このFAD3b遺伝子は、αリノレン酸の合成に使用される脂肪酸デサチュラーゼをコードする。
【0068】
本発明の別の態様では、図7に示すアミノ酸配列を含む単離または精製されたポリペプチドが、提供されている。当業者に了解されるように、本ポリペプチドは、高αリノレン酸亜麻から単離されたFAD3a遺伝子を介してコードされ、そのアミノ酸配列によって、二重結合の形成を触媒する作用を有する一意的なポリペプチドまたはタンパク質が産生される。
【0069】
本発明の別の態様では、図9に示すアミノ酸配列を含む単離または精製されたポリペプチドが、提供されている。当業者に了解されるように、本ポリペプチドは、高αリノレン酸亜麻から単離されたFAD3b遺伝子を介してコードされ、そのアミノ酸配列によって、二重結合の形成を触媒する作用を有する一意的なポリペプチドまたはタンパク質が産生される。
【0070】
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、これらの実施形態には様々な修正を施すことが可能であり、添付の特許請求の範囲が、本発明の趣旨および範囲内に入るそのような全ての修正を網羅することを意図しているものと認識され且つ理解される。
【0071】
一実施形態において、本発明の核酸分子は、少なくとも50~100、100~200、200~300、300~400、400~500、500~600、600~700、700~800、800~900、1000~1100、1100~1181(もしくはそれ以下)またはそれを上回るヌクレオチド長のヌクレオチド配列を含み、配列番号:35および/または配列番号:41の核酸分子の相補体に対しストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする。
【0072】
M6552栽培品種
M6552栽培品種の亜麻は、カナダのマニトバ州モーデンのMorden Research Station, Agriculture and Agri-Food Canadaで開発された。M6552亜麻仁油で天然のものは、トリアシルグリセリド形態の脂肪酸の混合物から構成される。M6552亜麻仁中の脂肪酸残基は、70±3%のαリノレン酸(ALA)、10±2%のリノール酸(LA)、12±2%のオレイン酸、4±2%のステアリン酸、および4±2%パルミチン酸を主成分とする。栽培品種M6552亜麻仁油は、図10の表中では、従来の亜麻仁油と比較対照して示してあり、また、図11の表中では、キャノーラ油、コーン油、オリーブ油、ピーナッツ油、ベニバナ油、ダイズ油、ヒマワリ油およびクルミ油のような他の植物油と比較対照されている。M6552亜麻仁油は加工処理され、液体油として調製される。M6552亜麻仁油は、主としてトリアシルグリセリド形態である脂肪酸の混合物である。脂肪酸は、αリノレン酸、リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸およびパルミチン酸を主成分とする。存在する脂肪酸中、αリノレン酸は68~73%、リノール酸は9~12%、オレイン酸は9~14%、ステアリン酸は2~6%、パルミチン酸は3~6%を占める。少量(1~2%)存在する成分としては、ほかにも、ステロール、トコフェロール、色素および他の微量成分が挙げられる。M6552亜麻仁油は、脂肪酸の混合物である。主要脂肪酸成分であるαリノレン酸、リノール酸、オレイン酸、ステアリン酸およびパルミチン酸の分子式は本明細書中に記載されており、図12に記載されている。
【0073】
NoFAD3AのcDNA配列は、BeFAD3A(wt)配列とは比較対照的に、2つの欠失を含む。すなわち、第1の欠失は、オープンリーディングフレームが改変されることのない、ATGから40bpの所に位置する6ヌクレオチドの欠失である。第2の欠失は、翻訳開始部位から260に2bpの欠失を有し、結果として、306においてリーディングフレームが改変され未成熟終止コドンを生じる。
【0074】
NoFad3A遺伝子は、わずか100アミノ酸(aa)という短縮型の改変タンパク質を産生するものと予測された。
【0075】
NoFad3B遺伝子は、BeFad3B(wt)とは比較対照的に、28(A→G)、700(A→G)、899(A→G)、1170(C→T)、1174(T→C)および1175(G→C)の所に位置する7つの置換突然変異を含む。これらの点突然変異によるアミノ酸の改変は、以下のとおり:Ala→Thr(28)、Val→Ile(700)、Arg→His(899)、Pro→Cys(1174および1175)。これらの置換により、オープンリーディングフレームは改変されなかったが、改変残基を有するFad3bタンパク質が産生されるものと予測された。
【0076】
NoFad3bタンパク質が依然として酵素活性を保持していることは実証済みであることから、NoFAD3bが一意的なノルカン(Norcan)油プロファイルに寄与するものと考えられている。

本出願は、例えば以下の発明を提供する。
[1] 70重量%超のαリノレン酸と10重量%超のリノール酸と10重量%超のオレイン酸との組成物を有する高αリノレン酸亜麻油であって、高αリノレン酸亜麻の種子のコールドプレスを含む、高αリノレン酸亜麻油。
[2] 前記高αリノレン酸亜麻の種子のコールドプレスからなる、[1]に記載の高αリノレン酸亜麻油。
[3] 前記高αリノレン酸亜麻の種子が、308bpのLU17 SSRを含むアマ(Linum usitatissium)植物からの種子である、[1]に記載の高αリノレン酸亜麻油。
[4] 前記アマ植物が、図3の「高α」列に描かれているSSRのパターン全体を含む、[3]に記載の高αリノレン酸亜麻油。
[5] 前記高αリノレン酸亜麻の種子が、配列番号:35および配列番号:41に記載されている改変遺伝子を有し、配列番号:36および配列番号:42に記載されているアミノ酸配列を発現する高αリノレン酸亜麻植物からの種子である、[1]に記載の高αリノレン酸亜麻油。
[6] 前記高αリノレン酸亜麻の種子が、BeFad3A.proまたはNmFad3A.proと比較した場合に、図8に示すNoFad3A.proの突然変異のうちの少なくとも1つを含むFAD3bタンパク質を発現する高αリノレン酸亜麻植物からの種子である、[1]に記載の高αリノレン酸亜麻油。
[7] 前記FAD3bタンパク質がリノール脂肪酸における二重結合の形成を触媒する、[6]に記載の高αリノレン酸亜麻油。
[8] 前記高αリノレン酸亜麻の種子が、BeFad3B.proまたはNmFad3B.proと比較した場合に、図9に示すNoFad3B.proの突然変異のうちの少なくとも1つを含むFAD3bタンパク質を発現する高αリノレン酸亜麻植物からの種子である、[1]に記載の高αリノレン酸亜麻油。
[9] 前記FAD3bタンパク質がリノール脂肪酸における二重結合の形成を触媒する、[8]に記載の高αリノレン酸亜麻油。
[10] 前記高αリノレン酸亜麻の種子が、配列番号1および配列番号:2、配列番号:3および配列番号:4、配列番号:5および配列番号:6、配列番号:7および配列番号:8、配列番号:9および配列番号:10、配列番号:11および配列番号:12、配列番号:13および配列番号:14、配列番号:15および配列番号:16、配列番号:17および配列番号:18、配列番号:19および配列番号:20、配列番号:21および配列番号:22、配列番号:23および配列番号:24、配列番号:25および配列番号:26、配列番号:27および配列番号:28、配列番号:29および配列番号:30、配列番号:31および配列番号:32、配列番号:33および配列番号:34のプライマー対によって規定された遺伝子座における栽培品種M6552の単純配列反復パターンの塩基対長に対して85%の等価性を有する単純配列反復パターンを含むゲノムを特徴とする高αリノレン酸亜麻植物からの種子である、[1]に記載の高αリノレン酸亜麻油。
[11] 少なくとも70重量%のαリノレン酸と少なくとも10重量%のリノール酸と少なくとも10重量%のオレイン酸とからなる組成物を有する油を含む、高αリノレン酸亜麻の種子。
[12] 前記種子が、308bpのLU17 SSRを含むアマ(Linum usitatissium)植物からのものである、[11]に記載の高αリノレン酸亜麻の種子。
[13] 前記アマ植物が、図3の「高α」列に描かれているSSRのパターン全体を含む、[11]に記載の高αリノレン酸亜麻の種子。
[14] 前記種子が、配列番号:35および配列番号:41に記載されている改変遺伝子を有し、且つ配列番号:36および配列番号:42に記載されているアミノ酸配列を発現する高αリノレン酸亜麻植物からのものである、[11]に記載の高αリノレン酸亜麻の種子。
[15] 前記種子が、BeFad3A.proまたはNmFad3A.proと比較した場合に、図8に示すNoFad3A.proの突然変異の少なくとも1つを含むFAD3bタンパク質を発現する高αリノレン酸亜麻植物からのものである、[11]に記載の高αリノレン酸亜麻の種子。
[16] 前記FAD3bタンパク質が、リノール脂肪酸における二重結合の形成を触媒する、[15]に記載の高αリノレン酸亜麻の種子。
[17] 前記種子が、BeFad3B.proまたはNmFad3B.proと比較した場合に、図9に示すNoFad3B.proの突然変異のうちの少なくとも1つを含むFAD3bタンパク質を発現する高αリノレン酸亜麻植物からのものである、[11]に記載の高αリノレン酸亜麻の種子。
[18] 前記FAD3bタンパク質が、リノール脂肪酸における二重結合の形成を触媒する、[17]に記載の高αリノレン酸亜麻の種子。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12