(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】麻酔薬の投与を受ける患者を年齢補償して監視するシステムの作動方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/384 20210101AFI20220506BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
A61B5/384
A61B5/00 102E
(21)【出願番号】P 2019161818
(22)【出願日】2019-09-05
(62)【分割の表示】P 2016542832の分割
【原出願日】2014-09-12
【審査請求日】2019-09-30
(32)【優先日】2013-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592017633
【氏名又は名称】ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】パードン、パトリック、エル
(72)【発明者】
【氏名】ブラウン、エメリー、エヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン-アケジュ、オルワスン
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-514901(JP,A)
【文献】国際公開第2012/154701(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/0538
A61B 5/06-5/398
A61M 16/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
麻酔特性を有する少なくとも1つの薬物の投与を受ける患者を年齢補償して監視するシステムの作動方法であって、該システムが、
前記複数個のセンサから生理学的データを取得し、
前記生理学的データからスカウトデータを取得し、該スカウトデータには信号振幅、位相、周波数、及びパワースペクトルのうちの少なくとも1つが含まれ、
前記スカウトデータから決定された見かけ患者年齢と一致する振幅スケールを決定し、
決定された前記振幅スケールに基づいて前記生理学的データの振幅を調節し、
前記見かけ患者年齢に基づいて前記生理学的データの振幅スケールの調整された報告書を生成する
システムの作動方法。
【請求項2】
前記見かけ患者年齢
と一致する振幅スケールを決定することに、振幅およびパワースペクトラムの少なくとも1つに関連付けられる信号マーカを前記スカウトデータから決定し、前記信号マーカを年齢インジケータと比較することが含まれている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記生理学的データ
を取得することに、マルチテーパ分析を実行することが含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
麻酔特性を有する少なくとも1つの薬物の投与を受ける患者を年齢補償して監視するシステムの作動方法であって、該システムが、
複数個のセンサから
生理学的データを取得し、
前記生理学的データからスカウトデータを取得し、該スカウトデータには信号振幅、位相、周波数、及びパワースペクトルのうちの少なくとも1つが含まれ、
前記スカウトデータから、少なくとも見かけ患者年齢と一致する振幅スケールを決定し、
前記生理学的データの振幅を調節することで前記振幅スケールに基づく前記生理学的データの取得を制限し、
前記振幅スケールに関連付けられた前記生理学的データを含む報告書を生成する、
システムの作動方法。
【請求項5】
前記振幅
スケールを決定することが、見かけ年齢
関連付け信号マーカを前記スカウトデータから特定し、前記見かけ年齢
関連付け信号マーカに基づいて複数の振幅スケールから前記振幅スケールを選択することを含む、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2013年9月13日出願の、表題「SYSTEM AND METHOD FOR AGE-APPROPRIATE BRAIN MONITORING DURING GENERAL ANESTHESIA AND SEDATION」である米国仮特許出願第61/877,800号明細書に基づき、これに対する優先権を主張し、これを参照によって全体的に本明細書に組み込む。
【0002】
[連邦政府資金による研究についての記載]
本発明は、国立衛生研究所によって授与されたDP2-OD006454、TR01-GM104948、およびT32GM007592の下で政府支援によってなされた。政府は、本発明において特定の権利を有する。
【0003】
本開示は、一般に、患者の状態を監視するためのシステムおよび方法を対象とし、より詳細には、麻酔または鎮静を受けているなどの医療介入、評価または処置中、患者特有の情報を使用して、患者の状態を監視および制御するためのシステムおよび方法に関する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は、全身麻酔および鎮静などの関連付けられた特定の医療介入、評価、または処置と共に使用するための、取得された生理学的データを用いて患者を監視および制御するためのシステムおよび方法を提供する。詳細には、本発明は、生理学的データにおいて特定された患者特有の特徴によって達成される、正確な脳監視を行うことができるシステムおよび方法を提供する。
【0005】
本開示の態様による脳監視方法は、測定された脳信号、活動または機能に基づいて患者の特徴を決定することができ、決定された患者の特徴に基づいてデータ取得プロセスを調整し、ディスプレイを変更し、または分析を実行することができ得る。たとえば、決定された患者の特徴は、患者の実際の年齢に類似したりこれとは異なったりし得る、見かけ患者年齢または推定の患者年齢ならびに他の患者情報を含むことができる。
【0006】
例として、本明細書において説明するシステムおよび方法は、取得されたデータを適切にスケール調整し、変更し、視覚化するために使用され得る。また、説明するシステムおよび方法は、年齢に適したデータなどの補償されたデータを生成し、補償されたまたは適切に変更されたまたは適合されたデータに基づいて正確な分析を実施するために使用され得る。例として、患者の状態または体質が、本明細書において説明する方法を用いて査定され得る。詳細には、術後認知状態または障害に対してより高いリスクを有する可能性がある患者が、術前に特定され、本明細書のシステムおよび方法を用いて提供された情報を用いて、麻酔ケア、麻酔後ケア、または集中治療のための特有のレジメンなどの特定の指示が与えられ得る。さらに、そのような方法は、子供における麻酔応答を監視するために使用されて、さまざまな年齢、年齢範囲および患者特有の発達レベルに関連付けられた脳回路の独自レベルの発達を反映する麻酔または鎮静状態を達成することができる。
【0007】
本開示の1つの態様によれば、麻酔特性を有する少なくとも1つの薬物の投与を受けている患者の年齢補償された監視のためのシステムが、提供される。システムは、麻酔特性を有する少なくとも1つの薬物を受け入れる間、患者から生理学的データを取得するように構成された複数のセンサと、複数のセンサから生理学的データを取得し、その生理学的データから、少なくとも患者年齢と一致する信号マーカを決定するように構成された少なくとも1つのプロセッサとを含む。少なくとも1つのプロセッサはまた、信号マーカの少なくとも1つに基づいて患者年齢に対して調整された生理学的データを少なくとも含む報告書を生成するように構成される。一部の態様では、プロセッサは、さらに、生理学的データから信号マーカを決定するために振幅およびパワースペクトルの少なくとも1つに関連付けられるシグネチャを特定し、信号マーカおよび指示の少なくとも1つに基づく生理学的データを少なくとも含む報告書に合わせて増幅器利得およびスケールの少なくとも1つを調整し、複数桁に及ぶ信号のダイナミックレンジを考慮に入れるためにマルチテーパ法を用いて生理学的データを時系列データになるように組み立てるように構成される。システムは、さらに、患者の少なくとも1つの特徴の指示を受け入れるように構成されたユーザインターフェースを含むことができ、この場合、プロセッサは、さらに、患者の特徴の少なくとも1つに基づいて患者年齢に対して調整するように構成される。
【0008】
本開示の別の態様によれば、麻酔特性を有する少なくとも1つの薬物の投与を受ける患者の年齢補償された監視のための方法が、提供される。方法は、複数のセンサからスカウトデータを取得することと、スカウトデータから、患者年齢を決定することと、複数のセンサから生理学的データを取得することとを含む。方法はまた、患者年齢に基づくスケールに対してスケール調整および報告のうち少なくとも1つが行われた生理学的データを含む報告書を生成することを含む。一部の態様では、患者年齢を決定することは、振幅およびパワースペクトラムの少なくとも1つに関連付けられるスカウトデータから信号マーカを決定することと、信号マーカを年齢インジケータに対して比較することとを含む。方法はまた、患者年齢に基づいて生理学的データの取得を調節することを含むことができ、この場合、調節することは、少なくとも1つの増幅器利得を患者年齢に基づいて調整することと、複数桁に及ぶ信号のダイナミックレンジを考慮するためにマルチテーパ分析を実行することとを含む。
【0009】
本開示の別の態様によれば、麻酔特性を有する少なくとも1つの薬物の投与を受ける患者の年齢補償された監視のためのシステムが、提供される。システムは、患者から生理学的データを取得するように構成された複数のセンサと、複数のセンサから生理学的データを受け取り、その生理学的データから、見かけ患者年齢を示す信号マーカを決定するように構成された少なくとも1つのプロセッサとを含む。少なくとも1つのプロセッサはまた、年齢補償されたデータを作り出すために少なくとも見かけ患者年齢を使用して生理学的データにスケール調整または調節のうち少なくとも1つを行い、年齢補償されたデータを含む報告書を生成するように構成される。一部の態様では、プロセッサは、さらに、信号マーカを決定するために振幅およびパワースペクトラムの少なくとも1つに関連付けられるシグネチャを特定し、生理学的データをスケール調整するために信号マーカにしたがって少なくとも1つの増幅器利得を調整するように構成される。システムはまた、患者の入力された患者年齢を受け取るように構成されたユーザインターフェースを含むこともでき、この場合、プロセッサは、さらに、見かけ患者年齢および入力された患者年齢に基づいて生理学的データにスケール調整および調節のうち少なくとも1つを行うように構成される。
【0010】
本開示のさらに別の態様によれば、麻酔特性を有する少なくとも1つの薬物の投与を受ける患者の年齢補償された監視のための方法が、提供される。方法は、複数のセンサからスカウトデータを取得することと、スカウトデータから、少なくとも患者年齢と一致するスケールを決定することとを含む。方法はまた、スケールに基づいて生理学的データの取得を調節することと、スケールに関連付けられた生理学的データを含む報告書を生成することとを含む。一部の態様では、スケールを決定することは、スカウトデータから年齢補償された信号マーカを特定することと、年齢に相関付けされた信号マーカに基づいて複数のスケールからスケールを選択することとを含み、生理学的データの取得を調節することは、スケールに基づいて少なくとも1つの増幅器利得を調整することを含む。
【0011】
本開示のさらに別の態様によれば、麻酔特性を有する少なくとも1つの薬物の投与を受ける患者の年齢補償された監視のためのシステムが、提供される。システムは、患者から生理学的データを取得するように構成された複数のセンサと、患者の特徴の少なくとも1つの指示を受け取るように構成されたユーザインターフェースとを含む。システムはまた、少なくとも患者の特徴の少なくとも1つの指示から、推定患者年齢を決定し、また、推定患者年齢に基づいてスケールを選択するように構成されたプロセッサも含む。システムは、さらに、生理学的データをスケールに対して表示するように構成されたディスプレイを含む。一部の態様では、プロセッサは、さらに、生理学的データから見かけ患者年齢を決定し、見かけ患者年齢およびおよその推定年齢に基づいてスケールを選択し、また、生理学的データをスケールに対して表示されるようにフォーマットするために、数桁に及ぶ信号のダイナミックレンジを考慮するためにマルチテーパプロセスを実行するように構成される。
【0012】
本発明の前述および他の利点は、以下の説明から明らかになる。本説明において、その一部を形成する添付の図に参照がなされ、これらの図では、本発明の好ましい実施形態が例示として示される。しかし、そのような実施形態は、必ずしも本発明の全範囲を表すものではなく、したがって、本発明の範囲を解釈するために、特許請求の範囲および本明細書に参照がなされる。
【0013】
本発明は、これ以後、添付の図を参照して説明され、図中、同じ参照番号は同じ要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】本開示の態様による、例となる生理学的監視システムの概略ブロック図である。
【
図1B】本開示の態様による、別の例となる生理学的監視システムの別の概略ブロック図である。
【
図2】本開示の態様による、例となる監視および制御システムの図である。
【
図3】本開示による、監視システムのための作動モードに関連付けられたプロセスステップを示す流れ図である。
【
図4A】本開示による、監視システムのための別の作動モードに関連付けられたプロセスステップを示す流れ図である。
【
図4B】本開示の態様による、ステップを示す概略図である。
【
図4C】本開示の態様による、例となるスケール調整を示す図である。
【
図4D】本開示の態様による、ステップを示す概略図である。
【
図5】本開示による、年齢の範囲にわたる、プロポフォール導入された全身麻酔中の例となるEEGスペクトログラムの図である。
【
図6】本開示による、セボフルラン麻酔中のさまざまな年齢の患者におけるトータルEEGパワーおよび代表的なスペクトログラムのグラフである。
【
図7】本開示による、セボフルラン麻酔を受けるさまざまな年齢グループにおける患者の平均EEGスペクトログラムを示す例のグラフである。
【
図8】本開示による、セボフルラン麻酔を受けるさまざまな年齢グループの患者の平均EEGスペクトルを示すグラフ例である。
【
図9】本開示による、セボフルラン麻酔を受けるさまざまな年齢グループの平均EEGコヒログラムを示すグラフ例である。
【
図10】本開示による、セボフルラン麻酔を受けるさまざまな年齢グループの患者の平均EEGコヒーレンスを示すグラフ例である。
【
図11】本開示による、セボフルラン麻酔を受けるさまざまな年齢グループの患者の、アルファ周波数帯域のEEGコヒーレンスを示す図である。
【
図12】本開示による、セボフルラン麻酔を受ける14か月以下の年齢の患者における代表的なEEGスペクトログラムおよびコヒレオグラムを示す図である。
【
図13】本開示による、プロポフォール麻酔を受ける17か月以下の年齢の患者における代表的なEEGスペクトログラムを示す図である。
【
図14】本開示による、プロポフォール麻酔を受けるさまざまな年齢の患者におけるトータルEEGパワーのグラフである。
【
図15】本開示による、プロポフォール麻酔を受けるさまざまな年齢の患者における徐波振動EEGパワーのグラフである。
【
図16】本開示による、プロポフォール麻酔を受けるさまざまな年齢の患者におけるアルファ帯域EEGパワーのグラフである。
【
図17】本開示による、プロポフォールおよびセボフルラン麻酔を受けるさまざまな年齢の患者における、トータル、徐波振動およびアルファ帯域EEGパワーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
米国では、一日あたり60,000人近くの患者が、手術処置を安全に受けるために全身麻酔を受けており、その大半は、60才以上の高齢者である。若い患者の治療とは異なり、高齢患者の麻酔管理は、さらなるケアを必要とし、より高いリスクを伴う。たとえば、高齢者において全身麻酔の同じレベルを達成するために必要とされる麻酔薬の用量は、若い患者に必要とされるものより10から50パーセント少ない範囲になり得る。また、心拍数の増大および血圧の低下が、睡眠薬のボーラス投与による全身麻酔の導入後、高齢患者により起こりやすく、これらの予想される変化の結果を防止するための対策が、日常的にとられている。
【0016】
全身麻酔および鎮静後の高齢者における術後状態もまた、懸念を増大させる。たとえば、せん妄は、急性の形の機能障害であり、その症状は、見当識障害、注意力および記憶力の障害を含み、一方で術後認知機能障害(「POCD」)は、数時間から数日または数カ月継続する持続性意識疾患である。詳細には、POCDは、事実確認の困難性および記憶障害から、認知症およびアルツハイマー様症状までの範囲になり得る。さらに、正式な神経心理学的試験を受けずに察知されずにいる可能性があるPOCDのより潜行性の形の有病率は、現在認識されているものよりも大きくなり得る。麻酔および鎮静がそのような状態にどの程度影響するかについては現在明確ではないが、高齢化に伴い、治療的および診断的処置を必要とする高齢患者の割合は、増大し続けることになる。
【0017】
正常な老化に関連付けられた、脳の肉眼的解剖学における変化は、前頭前皮質、特に内側足背および外側足背前頭前皮質、ならびに外側頭頂および外側側頭皮質における量および厚さの著しい損失によって実証されている。注意力および実行機能において顕著な役割を果たす前頭前皮質領域における量および厚さのそのような損失は、注意力および実行機能の試験においてパフォーマンスにおける年齢に関連した低下を示す、数多くの心理学的実験からの発見事項と一致している。尾側島皮質の内臓知覚領域内において報告されている著しい変化もまた、正常な老化に伴って比較的著しい菲薄化を受けると見られる。一次知覚および運動皮質、傍辺縁および辺縁領域、海馬および嗅内皮質、ならびに帯状および島部などの他の脳領域内の厚さまたは量の損失が存在するかどうかについての他の研究が、入り混じった結果を提供している。
【0018】
1つの研究では、若者および中年患者は、皮質の菲薄化が、ヘテロモーダル連合皮質および大きい出生後表面拡張の領域において最大になることを示した。これは、最大の出生後発達を有する領域が、最大レベルの菲薄化を示すという考え、すなわち先入れ先出しの仮説と一致している。しかし、80才以上の個人における皮質の菲薄化は、一次知覚/運動皮質および小さい出生後表面領域拡張の領域において最大であったことが見出された。その結果、これらの研究者は、さまざまな因子が、年齢に応じて皮質脆弱性に影響することを想定した。早期では、発達因子が脆弱性を付与し得、一方で晩年になると、一次知覚および運動皮質特有の要因が、脆弱性を付与する。
【0019】
別のグループは、基準値で走査されたときに認知的に正常であった成人の2つの独立したサンプルを比較した。1つのサンプルでは、個人のうち25人が、追跡研究で認知的に正常であり、7人が、平均11.1年の追跡後、アルツハイマー病になった。第2のサンプルでは、認知的に正常な25人が、平均7.1年の追跡によってアルツハイマー病になった7人と比較された。いずれのグループのアルツハイマー病になった個人も、対象の9つの事前に指定された領域において測定された皮質の菲薄化における小さいが一貫した低下によって、認知的に正常な個人から容易に見分けることができた。基準線において中程度の菲薄化を有する認知的に正常な個人は、より厚い皮質領域を有する人よりもアルツハイマー病になりやすかった。皮質厚さMRI生体指標を用いることが、患者がアルツハイマー病を発症する可能性を確実に予測できるものであったことが、その後確認された。この発見事項は、認知的に正常である患者とアルツハイマー病に対してリスクを有する人とを見分ける方法を提案し、その術後認識障害が、麻酔剤および手術への暴露に関連付けられる程度、および、進行しているが、まだ臨床前のアルツハイマー病の症状に起因する認知低下のなりやすさを特定するのを助けることができる。
【0020】
一部の考えとは対照的に、正常な脳の老化は、多くの神経細胞脱落および細胞死を伴わず、そうではなく、新皮質全体にわたって均一でない神経細胞量における減少を伴う、神経形態におけるかなりの変化を引き起こす。前頭前皮質および海馬内に起こる形態的変化が、最も目立ち、この場合、シナプスが変化し、錐体神経細胞の樹状活樹および樹状突起棘は、サイズおよび数においてかなり減少する。また、白質の損失および脳室サイズの増大も存在するが、認知機能における変化は、灰白質または白質の変化ではなくシナプス変化により緊密に関連付けられるようであると想定される。
【0021】
正常な老化に伴い、アセチルコリン、ドーパミン、セロトニン、およびグルタミン酸塩を含む主要な脳神経伝達物質の合成における低下、さらにこれらの神経伝達物質のレセプタの数の減少が存在する。概してニューロン間の連通の推定される障害とは別に、神経伝達物質レベルの低下が脳機能における特有の変化の一因となる機構は、良好に特徴付けられていない。モノアミン作動性の神経伝達物質レベルの低下は、高齢者におけるうつ病への傾向の増大および運動機能の低下に関連付けられる。また、アセチルコリンレベルの低下は、アルツハイマー病に関連付けられており、術中期間内の抗コリン作用薬の使用は、特に高齢患者における術後せん妄の発生の増大に関連付けられる。これらの関連は、アルツハイマー病に対する治療法として抗コリンエステラーゼ阻害剤を開発する論理的根拠、および可能であれば、術中期間における抗コリン作用薬を回避して高齢患者におけるせん妄の発生を低減させるという一般的な推奨の基礎になる。抗コリン作用薬剤がせん妄に関与しているという長年にわたる仮説に関わらず、抗コリン作用薬の投与は、効果的な治療法として確立されていない。
【0022】
老化する脳はまた、正常機能を維持するように作用する因子が減少し、効果が弱くなるため、維持容量が減少する。たとえば、神経防護作用およびニューロン新生は、正常な老化に伴って減少する重要な特徴である。さらに、脳は、酸化的ストレスおよび炎症などの機能を損なう因子により影響を受けやすくなる。脳は、特に、体の他の部分より高い割合の酸素を消費して、酸化的ストレスを受けやすいため、酸化的ストレスの悪化は、老化に伴って増大し、抗酸化活性は低下することが示されている。したがって、酸化的ストレスは、DNA、タンパク質、および脂質の修飾による神経細胞負傷を容易にし、それによってミトコンドリアおよびCa2+媒介機能の変更および反応性アストロサイトの増大をもたらす。たとえば、脳由来神経栄養因子は、神経細胞新生に重要な役割を果たすことが想定されるが、これはまた、抗酸化および抗炎症効果も有する。海馬内の脳由来神経栄養因子活性の低下は、近くの歯状回内の幹細胞活性を損なう。同様に、DNAを損傷から保護するテロメア、DNA-タンパク質複合体は、年齢と共に、ならびに遺伝毒性および細胞毒性であるプロセスに伴って短くなる傾向がある。脳内の神経細胞は、全般的には死なずまたは分割しないということを考えれば、細胞損傷は、通常、これを老化と共に蓄積する。これらの因子は共に、年齢に伴う柔軟性の低下の一因となる。
【0023】
機能的画像化、神経生理学的および疫学的研究から導出された老化脳の理解の向上にもかかわらず、麻酔ケアを受ける高齢患者の管理における大きな変化は、起こっていない。全身麻酔および鎮静を受ける高齢患者を管理するための多くの長年にわたる法令は、最近の研究からの発見事項によって強化されてきている。たとえば、1つの回顧的研究では、高齢患者(73才以上)の結腸鏡検査中の同じレベルの鎮静は、若い患者に関しては、それよりかなり少なく重量調整された、総量のプロポフォールを投与することによって達成された。救命室内でのプロポフォールの使用の別の回顧的研究では、高齢患者は、若い患者に比べて、より少ない導入量、および若いおよび中年の患者と比較してより少ない総量を必要とすることが見出された。また、ミダゾラムによる事前治療が、65才以上の患者における全身麻酔の導入に必要とされるプロポフォールの量および導入に対する降圧応答を低減したことが示された。さらに、ランダム化比較試験では、バイスペクトルインデックス(BIS)を使用して麻酔薬送達を滴定することにより、麻酔薬暴露、それによって手術直後の期間におけるせん妄の発生および手術後3か月のPOCDの可能性が低減されたことが見出された。
【0024】
正常な脳の老化による脳の変化に加えて、特有の神経変性疾患はまた、共通してアルツハイマー病に関連付けられる神経原線維変化およびアミロイド斑などの特有の生体構造的特徴、およびラクナ脳梗塞、白質希薄化、血管性認知症、ならびにアルツハイマー病に関連付けられた微少血管変化に関連付けられる。たとえば、最近の研究は、術前に認知障害を有する患者の術後アウトカムに関連する情報を提供している。二重盲検プロトコルでは、BIS値および抜管時間が、患者コホート内で、MCIおよび同年齢の対照と比較された。MCI患者は、かなり少ないプロポフォールの導入量を必要とし、導入前、導入直後、およびプロポフォールおよびレミフェンタニル注入の中断後数分後にかなり低いBISスコアを有した。研究者は、一般集団向けの標準的なBIS目標値の使用が、MCIを有する患者にあてはまらなかったことを示唆した。また、冠動脈バイパス手術を受ける患者におけるせん妄およびPOCDの前向き研究では、患者のほぼ半分が、せん妄を発症しなかった患者に比べてかなり低いミニメンタルステート検査(Mini Mental State Examination(「MMSE」)スコアに関連付けられた術後のせん妄を有した。術後のせん妄を有する患者は、せん妄を有さないグループよりMMSEにおいてかなり大きい低下を有し、この相違は、手術後30日間継続した。また、手術後6か月後では、せん妄グループ内のより高い割合の患者が、彼らの術前基準に戻らなかった。さらに、インビボ検査は、デスフルランが、麻酔を必要とするアルツハイマー病患者に対してイソフルランより有害でないことを示唆した。これらの研究は共に、術前に認知機能が損なわれていた患者は、手術直後期間の認知的機能障害に対してより高いリスクを有し得、この機能障害は、手術後数カ月維持し得ることを示唆した。
【0025】
脳波図(「EEG」)記録を使用して高齢患者の認知状態を監視および診断することが、以前から実証されてきた。たとえば、1つの研究では、皮質灰白質が、磁気共鳴画像化(MRI)および皮質EEGリズムの両方を用いて、認知的に正常な個人、健忘症の軽度の認知障害(「MCI])を有する個人、およびアルツハイマー患者において分析された。認知的に正常な個人に対して、MCI個人は、アルファ1リズム(8~10.5Hz)ソースにおいて低下を表示した。認知的に正常な個人およびMCIの個人と比較して、アルツハイマー病の患者は、アルファ1リズムソースの振幅における低下およびデルタリズム(2~4Hz)ソースの振幅における増大を有した。全体として、MCIおよびアルツハイマー病患者に関しては、より少ない皮質灰白質量および認知試験におけるパフォーマスの低下が、より低いアルファ1およびより高いデルタソースに関連付けられ、安静状態EEG測定が、損なわれた認知状態を診断する方法を提供できることを示唆した。また、一部の研究は、全身麻酔下の患者の脳の状態が、未処理のEEGおよび対応するスペクトログラムを用いて追跡され得ることを示した。さらに、全身麻酔下の、認知的に正常である高齢者、MCI、およびアルツハイマー病の患者の未処理のEEGおよびスペクトログラムの間に差異が存在しやすいことも示した。同様に、手術室内の患者の観察は、全身麻酔下の若者、中年、高齢の患者間にEEG測定値における差異が存在することも示した。
【0026】
同様に、子供における麻酔薬暴露の結果、神経変性を含む、脳の機能または発達にかなりの永続的な変化が生じ得るという懸念が増大する。現在では、既存のEEGベースの麻酔脳モニタは、子供に使用することに対して承認されていない。幼児期を通じて脳回路の継続的発達は、麻酔導入されたEEG信号が、その対照成人と比較して異なる形態をとる可能性があることを示唆し、これは、次いで、成人モニタは、子供における麻酔導入EEG信号を誤解することがあることを示唆している。小児患者における麻酔薬の正しい用量を確立することが、麻酔薬暴露の潜在的な損傷影響を抑えるために高い優先度となる。
【0027】
したがって、上記を考えて、医療処置を受ける患者を監視するために脳の年齢、発達、および機能に関連する情報を考慮に入れるシステムおよび方法に対する明確な必要性が引き続き存在している。
【0028】
本開示は、従来の技術において見出されていない正確かつ適切な脳監視に対する必要性を認識して、脳信号から患者特有性を決定し、これを使用することを対象とするシステムおよび方法を提供する。たとえば、年齢関連情報が、決定または推測され得る。明らかになるように、本明細書において説明するシステムおよび方法は、全身麻酔および鎮静を含む医療処置に関連付けられた用途に特に有益になり得る。たとえば、そのような方法は、術後の認知状態または疾患に対してより高いリスクを潜在的に有する患者を術前に特定するために使用され得る。さらに、年齢関連情報が、麻酔ケア、麻酔後ケア、または集中治療のための特有のレジメンなどの、特定の年齢に適した指示または治療を与えるために使用され得る。
【0029】
説明するように、見かけ患者年齢情報または推定の患者年齢情報などの患者特有の情報が、提供されるシステムおよび方法を用いて麻酔または鎮静中の脳監視を改良するためにどのように使用され得るかを説明するいくつかの方法が、提供される。たとえば、患者年齢が与えられた場合、最も適切なEEGシグネチャが、麻酔または鎮静のレベルを推測するために利用され、たとえばスペクトラムおよび/またはコヒーレンスに関して明示され得る。詳細には、1才未満の非常に小さい子供では、麻酔状態のEEGスペクトラムおよびコヒーレンスは、それより年齢が上の子供または成人と比較して異なる形態を示す。この場合、この年齢グループの特徴的なスペクトラムおよびコヒーレンスが、患者が麻酔されたときを推測するために使用され得る。別の例では、より年齢が上の子供および成人では、患者年齢の知識が、EEGまたはスペクトログラムなどの処理済みEEGを表示するために使用するのに最も適切なスケールを確立するために使用され得る。
【0030】
説明するように、1つのモードの手術では、本開示によるシステムは、患者の年齢を使用して、たとえばスペクトラムおよび/またはコヒーレンスに関して明示された最も適切な年齢依存EEGシグネチャを選択して、その患者の麻酔または鎮静のレベルを推測することができる。別のモードの作動では、説明するシステムは、患者のEEGを分析し、これを使用してその患者の見かけ年齢または脳年齢を推測するように構成され得る。作動のさらに別のモードでは、本発明は、患者年齢および患者のEEGの両方を使用して、患者の見かけ年齢または脳年齢を推測すると共に、その患者の麻酔または鎮静のレベルを推測するのに最も適切な年齢依存EEGシグネチャを選択することができる。これらの異なるモードの作動は、麻酔導入されたEEGパターン、さまざまな脳状態または意識状態、および年齢の間の関係の定量的または算定的表現を使用する。この定量的または算定的表現は、EEGパターンおよび年齢に関する数学的または統計的モデルを含むように基準データベースまたはリストの形態をとることができる。
【0031】
次に図を参照すると、
図1Aおよび1Bは、例となる患者監視システムおよびセンサを示し、これらは、麻酔特性を有する少なくとも1つの薬物の投与を受ける患者の年齢補償された監視などの患者の生理学的監視を提供するために使用され得る。
【0032】
たとえば、
図1Aは、生理学的監視システム10の一実施形態を示している。生理学的監視システム10では、医療患者12は、1つまたは複数のセンサ13を使用して監視され、このセンサの各々は、ケーブル15または他の通信リンクまたは媒体を介して生理学的モニタ17に信号を送信する。生理学的モニタ17は、プロセッサ19および任意選択で、ディスプレイ11を含む。1つまたは複数のセンサ13は、たとえば電気EEGセンサなどの感知素子を含む。センサ13は、患者12の生理学的パラメータを測定することによってそれぞれの信号を生成することができる。信号は、次いで、1つまたは複数のプロセッサ19によって処理される。1つまたは複数のプロセッサ19は、次いで、ディスプレイ11が設けられる場合、ディスプレイ11に処理された信号を送る。一実施形態では、ディスプレイ11は、生理学的モニタ17内に組み込まれる。別の実施形態では、ディスプレイ11は、生理学的モニタ17とは別個のものである。監視システム10は、一構成の携帯用監視システムである。別の場合、監視システム10は、ディスプレイを有さないポッドであり、生理学的パラメータデータをディスプレイに提供するように適合される。
【0033】
明確にするために、単一のブロックが、
図1Aに示す1つまたは複数のセンサ13を示すために使用される。図示するセンサ13が、1つまたは複数のセンサを表すよう意図されていることを理解されたい。一実施形態では、1つまたは複数のセンサ13は、以下で説明するタイプの1つの単一のセンサを含む。別の実施形態では、1つまたは複数のセンサ13は、少なくとも2つのEEGセンサを含む。さらに別の実施形態では、1つまたは複数のセンサ13は、少なくとも2つのEEGセンサ、および1つまたは複数の脳酸素化センサなどを含む。前述の実施形態の各々では、異なるタイプの追加のセンサもまた、任意選択により含まれる。センサの数およびタイプの他の組み合わせもまた、生理学的監視システム10との使用に適している。
【0034】
図1Aに示すシステムの一部の実施形態では、センサから信号を受け取り処理するために使用されるハードウェアのすべては、同じハウジング内に収容される。他の実施形態では、信号を受け取り処理するために使用されるハードウェアの一部は、別個のハウジング内に収容される。さらに、特定の実施形態の生理学的モニタ17は、1つのハウジング内または複数のハウジング内に関係なく、センサ13によって送信された信号を受け取り処理するために使用される、ハードウェア、ソフトウェア、またはハードウェアおよびソフトウェアの両方を含む。
【0035】
図1Bに示すように、EEGセンサ13は、ケーブル25を含むことができる。ケーブル25は、電気的遮蔽体内に3つの導体を含むことができる。1つの導体26は、生理学的モニタ17に電力を提供することができ、1つの導体28は、生理学的モニタ17に接地信号を提供することができ、1つの導体28は、センサ13から生理学的モニタ17に信号を送信することができる。複数のセンサに対して、1つまたは複数の追加のケーブル15が提供され得る。
【0036】
一部の実施形態では、接地信号は、アース接地であるが、他の実施形態では、接地信号は、時に患者参照、患者参照信号、リターンまたは患者リターンと称される患者接地である。一部の実施形態では、ケーブル25は、電気遮蔽層内に2つの導体を担持し、遮蔽層は、接地導体として作用する。ケーブル25内の電気インターフェース23は、ケーブルが、生理学的モニタ17のコネクタ20内の電気インターフェース21に電気的に接続することを可能にすることができる。別の実施形態では、センサ13および生理学的モニタ17は、無線式に通信する。
【0037】
一部の構成では、
図1Aおよび1Bに示すシステムは、さらに、参照情報または他のデータを含むための、プロセッサ19によってアクセス可能なメモリ、データベース、または他のデータ記憶場所(図示せず)を含むことができる。詳細には、そのような参照情報は、さまざまな年齢カテゴリなどの患者カテゴリ、および他のカテゴリを、関連付けられた信号、信号マーカまたはシグネチャと共に含む、参照リスト、ルックアップテーブル、およびモデルを含むことができる。たとえば、信号マーカまたはシグネチャは、さまざまな信号振幅、位相、周波数、パワースペクトル、スペクトログラム、コヒログラムなどを含むことができる。一部の態様では、そのような参照情報は、見かけ患者年齢または推定の患者年齢または他の患者の状態またはカテゴリなどの特有の患者特徴を決定するために、任意選択でユーザ入力または選択を含んで、プロセッサ19によって使用され得る。詳細には、プロセッサ19は、波形分析、スペクトラル分析、周波数分析、コヒーレンス分析などを含むさまざまな分析方法を使用して、取得されたデータを処理し分析して信号マーカまたはシグネチャを決定することができる。その後、患者の特徴は、決定された信号マーカまたはシグネチャと、参照内のカテゴリ化されたものとの比較を実行することによって、したがって患者特有の情報に厳密に類似する患者カテゴリを特定することによって特定され得る。たとえば、プロセッサ19によって取得されたデータから生成されたスペクトログラムまたはコヒログラムは、次いで、スペクトログラムまたはコヒログラムのリストと比較されて、見かけ患者年齢または推定の患者年齢または年齢範囲などの患者特徴に関連付けられる、特有の患者カテゴリを特定することができる。さらに、患者特徴に関する推測が、年齢およびEEG関連情報を結合的に組み込むために恐らくはベイズ推定を使用する、回帰または統計的モデル、機械習得方法を使用することにより、または相互相関、クラスタリング、または関連する技術により、プロセッサ19によって実行され得る。
【0038】
本開示の一部の態様では、参照情報は、身長、体重、または性別などの患者変数および履歴を含む、EEGおよび年齢情報を解釈するための関連共変量情報、ならびに患者に投与された薬物、その用量、およびタイミングについての情報を含むことができる。見かけ年齢の査定は、数値的年齢に関連して関連付けられ、または表され得るが、子供における発達段階などの年齢に関連付けられる神経学的または認知的状態、またはたとえば認知障害、認知症、またはアルツハイマー病などの年齢関連状態に関して表されてもよい。データベースまたはモデル内のEEGの表現は、たとえば、スペクトラム、コヒーレンス、スペクトログラムまたはコヒログラムなどの周波数依存尺度、振幅または形態学などの時間領域尺度、または交差周波結合などの他の尺度を含む、あらゆる方法で行われてよい。データベースまたはモデルからの推測は、ルックアップテーブル、年齢およびEEG関連情報を結合させて組み込むために恐らくベイズ推定を使用する、回帰または統計的モデルを使用する予測、機械習得方法を含む、適切に確立されたあらゆる方法を使用して、または相互相関、クラスタリング、または関連技術によって行われ得る。
【0039】
一部の実施形態では、データ取得プロセスは、選択されたおよび/または決定された患者特徴に基づいて調節または変更され得る。たとえば、プロセッサ19は、スカウトデータにおいて特定された、見かけ患者年齢または推定患者年齢などの患者特徴を用いて、データ取得中、適切なスケールを決定し、適用するように構成され得る。他の実施形態では、取得された生理学的データの表示は、決定された患者特徴に基づいて変更され得る。詳細には、データは、プロセッサ19によって決定されたスケールに対して表示され得る。一部の態様では、スケールは、数値的スケール、色スケール、灰色スケール、またはその組み合わせを用いて表示され得る。
【0040】
詳細には、次に
図2を参照すると、本開示の態様による例示的なシステム200が、示され、これは、スタンドアローン脳監視装置として、もしくは携帯用装置として構築されてよく、または既存の脳監視装置の中央構成要素として組み込まれ得る。次の説明から理解されるように、システム200は、麻酔投与中などの多様な医療処置を実施していることに関連して手術室または集中治療環境内において、ならびに術前または術後評価状況内で、さまざまな用途を見出すことができる。
【0041】
システム200は、脳波記録(EEG)電極アレイとして
図2に示す、生理学的監視装置などの患者監視装置202を含む。しかし、患者監視装置202は、いくつかの異なるセンサを含むことができることが企図される。特に、患者監視装置202は、たとえば、外部刺激に対する覚醒を測定するために電気皮膚応答(GSR)を監視するための機構、または心電計および血圧モニタを含む心臓血管モニタ、およびさらに眼球常時微動モニタなどの他の監視システムを含むこともできる。この設計の1つの具現化は、GSRおよび/または眼球常時微動を測定するための追加の電極を備えた前頭ラプラシアンEEG電極レイアウトを利用することができる。この設計の別の具現化は、前に説明したEEGシグネチャを最適に検出すると見出される電極と、ここでも別個のGSR電極との任意の組み合わせを得るために後処理において組み合わせられ得る、前頭配列の電極を組み込むことができる。
この設計の別の具現化は、これもまた別個のGSR電極を備えた、音源定位のための64から256個の間のセンサを用いて頭皮表面全体をサンプリングする高密度のレイアウトを利用することができる。
【0042】
患者監視装置202は、ケーブル204を介して、監視システム206と通信するように接続される。また、ケーブル204および類似の接続は、構成要素間の無線接続によって置き換えられ得る。監視システム206は、EEG電極配列によって取得された信号などの生信号を患者監視装置202から受け取り、この信号を、時系列波形、スペクトログラムなどを含むさまざまな形態で組み立て、処理し、さらに表示するように構成され得る。一部の作動モードでは、監視システム206は、患者監視装置202上のセンサから生理学的または他のデータの形態でスカウトデータを取得し、スカウトデータを使用して、信号マーカまたはその中のシグネチャを特定するように設計され得る。たとえば、信号振幅、位相、周波数、パワースペクトル、および他の信号マーカまたはシグネチャが、スカウトデータおよび他の取得されたデータ内で、さまざまな適切な方法を用いて特定され得る。さらに、マルチテーパ分析が、数桁に及ぶ信号のダイナミックレンジを特定し、これを考慮するために実行され得る。そのような信号マーカまたはシグネチャは、次いで、見かけ患者年齢および/または推定患者年齢を含む、さまざまな患者特徴を決定するために監視システム206によって使用され得る。
【0043】
1つの実施形態では、監視システム206を用いた生理学的データの取得は、スカウトデータから決定された患者特徴に基づいて調整または調節され得る。詳細には、監視システム206は、特定の決定された患者特徴と一致するスケールを決定し、決定されたスケールおよび/またはユーザによって提供された任意の指示に基づいて、その後のデータ取得を調整するように構成され得る。たとえば、データ取得は、1つまたは複数の増幅器利得を、他のデータ取得パラメータと共に調整することによって調節され得る。さらに、一部の態様では、監視システム206は、さらに、さまざまな取得された生理学的データをスケールに対して表示されるようにフォーマットするように構成され得る。このようにして、年齢に適したスケールが、見かけ患者年齢および/または推定患者年齢に基づいて決定されてよく、選択された年齢に適したスケールを用いたその後のデータ取得のいかなるものも、年齢補償されたデータを生成し、示す。
【0044】
図示するように、監視システム206は、さらに、専用の分析システム208に接続され得る。しかし、監視システム206および分析システム208は、共通のシステムになるように統合されても組み合わせられてもよい。分析システム208は、監視システム206からEEG波形を受け取り、また、説明するように、このEEG波形およびその中のシグネチャを分析することができる。しかし、監視システム206および分析システム208のいかなる分析または処理機能も、必要または所望に応じて、共有されても個々に分散されてよいこともまた、企図される。
【0045】
一部の態様では、特有の医療的処置を受ける患者の決定された特徴に関連付けられる情報が、システム200の臨床医またはオペレータに提供され得る。たとえば、高齢患者は、手術室においてバーストサプレッションがより始まりやすいことが以前から見出されていた。詳細には、バーストサプレッションは、電気的活動のバーストに、サプレッションと称される等電相が組み入れられた脳不活性化の重度の状態である。アルファ波(8~10Hz)および徐波(0.1~4Hz)信号振動によって規定される、麻酔導入された無意識の脳状態は、バーストサプレッションを生み出すのに必要とされるものより少ない麻酔薬の用量によって得られ得る。これは、麻酔薬用量を、高齢者に現在推奨されているものよりかなり少ないレベルまで低減させることを意味する。現在推奨されている用量は、通常、高齢患者をバーストサプレッション状態に置くため、全身麻酔の適切な状態および麻酔暴露の低減は、実時間によるEEG監視に基づいて麻酔薬用量を滴定することによって達成可能になり得る。故にシステム200は、決定された患者特徴に基づいて、適切な麻酔薬用量を選択するのに使用するための情報を提供することができる。このようにして、たとえば、全身麻酔下の高齢患者における術後認知障害の発生が、低減され得る。
【0046】
別の例では、監視システム206および/または分析システム208は、若者、中年、および高齢者、ならびに薬物を常用している患者などの特有の患者の術前または術後査定を提供することができ、それによって麻酔薬感受性を含む特有の患者状態、および認知疾患などの術後合併症のあらゆる可能性を特定および/または予測するために使用され得る事前情報を決定する。さらに、麻酔ケア、麻酔後ケア、または集中治療のための特有のレジメンもまた、提供され得る。
【0047】
システム200はまた、薬物送達システム210を含むこともできる。薬物送達システム210は、分析システム208および監視システム208と結合されてよく、それにより、システム200は、閉ループ監視および制御システムを形成する。本開示によるそのような閉ループ監視および制御システムは、幅広い作動を可能にするが、ユーザインターフェース212を含んで、ユーザが閉ループ監視および制御システムを構成し、閉ループ監視および制御システムからフィードバックを受け取り、必要な場合、閉ループ監視および制御システムを再構成する、および/またはオーバライドすることを可能にする。一部の構成では、薬物送達システム210は、全身麻酔または鎮静などの、麻酔化合物によって影響された意識低下の状態に患者を置くことを目的とする麻酔化合物の投与を制御することができるだけでなく、患者をよりはっきりとしたまたはよりぼんやりとした意識状態にもっていく、およびそこから脱出させるためのシステムおよび方法を実施および反映することもできる。
【0048】
たとえば、本発明の1つの態様によれば、メチルフェニデート(MPH)が、ドーパミンおよびノルエピネフリン再摂取輸送体の阻害剤として使用可能であり、イソフルレン全身麻酔からの覚醒を能動的に導入する。MPHは、意識を回復させ、覚醒と一致する脳波図変化を導入し、呼吸ドライブを増大させるために使用され得る。メチルフェニデートによって導入された行動および呼吸の影響は、ドロペリドールによって阻害可能であり、メチルフェニデートが、ドーパミン作用性覚醒通路を活性化させることによって覚醒を導入するという証拠を裏付ける。プレチスモグラフィーおよび血液ガス実験は、メチルフェニデートが、毎分換気量を増大させ、それによって脳からの麻酔解消率を増大させることを確立する。また、エチルフェニデートまたは他の作用剤が、上記で説明したような制御システムを使用して覚醒を増大させることによってイソフルラン、プロポフォール、または他の全身麻酔からの覚醒を能動的に導入するために使用され得る。
【0049】
したがって、
図2に関して上記で説明したものなどのシステムは、2つの特有のサブシステムを備えた薬物送達システム210を含むことによって、麻酔からの能動的な覚醒を実施するために設けられ得る。したがって、薬物送達システム210は、対象者に1つまたは複数の麻酔化合物の用量を送達するように設計された麻酔化合物投与システム224を含むことができ、また、全身麻酔を反転させる、または対象者の麻酔からの自然な覚醒を強化する1つまたは複数の化合物の用量を送達するように設計された覚醒化合物投与システム226を含むこともできる。
【0050】
たとえば、MPHおよびその類似体および誘導体は、覚醒および呼吸ドライブを増大させることによって、麻酔導入された無意識からの対象者の覚醒を導入する。したがって、覚醒化合物投与システム326は、MPH、アンフェタミン、モダフィニル、アマンタジン、またはカフェインを送達して、全身麻酔導入された無意識および呼吸抑制を手術終了後に反転させるために使用され得る。MPHは、デキストロメチルフェニデート(D-MPH)、ラセルメチルフェニデート、もしくはレバ-メチルフェニデート(L-MPH)でよく、または、約50パーセント:50パーセント、または約60パーセント:40パーセント、または約70パーセント:30パーセント、または80パーセント:20パーセント、90パーセント:10パーセント、95パーセント:5パーセントなどの等しいまたは異なる割合の組成物でよい。他の作用剤が、注意力欠如障害(ADD)または注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療に使用される用量より高い用量のメチルフェニデートとして投与されてよく、したがって、メチルフェニデートの用量は、約10mg/kgから約5mg/kgの間、かつ約5mg/kgから10mg/kgの間の任意の整数になることができる。一部の状況では、用量は、約7mg/kgから約0.1mg/kgの間、または約5mg/kgから約0.5mg/kgの間である。他の作用剤は、吸入されるものを含むことができる。
【0051】
図3に移れば、本開示の態様によるプロセス300が、示される。プロセスブロック302から開始して、生理学的データの任意の量が取得されてよく、この場合、生理学的データは、たとえば患者監視装置202を用いて患者から得られた、EEG信号などの生理学的データを表す。一部の態様では、生理学的データは、さまざまな患者特徴を決定することを含む目的のためにスカウトデータを含むことができる。次いで、プロセスブロック304において、信号マーカまたはシグネチャが、取得された生理学的データを用いて特定または決定される。たとえば、信号振幅、位相、周波数、パワースペクトル、および他の信号マーカまたはシグネチャが、スカウトデータおよび/または他の取得されたデータ内で、さまざまな適切な方法を用いて特定され得る。
【0052】
一部の好ましい実施形態では、信号マーカまたはシグネチャは、見かけ患者年齢および/または推定患者年齢を含む、患者特徴を決定するために使用され得る。さらに、プロセスブロック304は、決定された患者特徴と一致するスケールを決定するステップを含むこともできる。1つの態様では、多数桁に及ぶ信号の広範なダイナミックレンジを本質的に考慮することができる、マルチテーパ方法などのスペクトラル推定方法の使用が、採用され得る。別の態様では、信号振幅の自動推定が、視覚化スケールならびに取得増幅器利得のための正しい年齢コホートおよびアテンダント設定を推測するために実行され得る。
【0053】
次のプロセスブロック306において、スカウトデータから決定された信号マーカまたはシグネチャを使用して、データ取得プロセスが、その後取得される信号データに関連して、調整または調節され得る。たとえば、データ取得は、1つまたは複数の増幅器利得を、他のデータ取得パラメータと共に調整することによって調節され得る。一部の態様では、データ取得を調節することはまた、決定された患者特徴と一致するスケールを決定し、使用することと、決定されたスケールおよび/またはユーザによって提供された任意の指示に基づいて、その後のデータ取得プロセスを調整することとを含むこともできる。例として、見かけ患者年齢および/または推定患者年齢に基づいてプロセスブロック304において決定された年齢に適したスケールが、使用されてよく、選択された年齢に適したスケールを用いたその後のデータ取得のいかなるものも、年齢補償されたデータを生成する。他の態様では、プロセスブロック302において取得された生理学的データの表示は、スケールを用いて変更され得る。そのようなスケールは、数値的スケール、色スケール、灰色スケール、またはその組み合わせを用いて表示され得る。
【0054】
プロセスブロック308において、説明した方法で取得されたデータは、患者の現在または将来の脳状態を決定するために使用され得る。たとえば、年齢補償されたデータを用いて組み立てられた、分析されたまたは処理されたEEG波形は、麻酔または鎮静の現在および/または将来の深度を査定するために使用され得る。さらに、そのような脳状態を決定することはまた、医療処置に関連付けられる情報などの、臨床医またはユーザによって提供された任意の情報を含むこともできる。
【0055】
次いで、プロセスブロック310において、報告書が、たとえば、印刷された報告書、または好ましくは実時間表示の形態で生成される。報告書は、生または処理されたデータ、シグネチャ情報、現在または将来の脳状態の表示、ならびに推定および/または見かけ患者年齢を含む、患者特有の特徴に関連付けられる情報を含むことができる。表示されたシグネチャ情報または決定された状態は、波形、スペクトログラム、コヒログラム、確率曲線などの形態になり得る。一部の態様では、報告書は、スケールに対して表示された、フォーマットされた生理学的データを含むことができる。他の態様では、報告書は、麻酔薬感受性、認知疾患などの術後合併症の確率、また、麻酔薬ケア、麻酔後ケア、または集中治療などのためのレジメンも示すことができる。
【0056】
図4Aに移れば、本開示の態様による別のプロセス400のステップが、示される。詳細には、プロセス400は、プロセスブロック402で開始し、ここでは、サンプルまたはスカウトデータが、たとえば説明するような患者監視システムを用いて取得される。プロセスブロック404において、サンプルデータは、次いで、さまざまな調整または参照カテゴリを用いて分析されて、取得されたサンプルデータを表す患者カテゴリを特定する。詳細には、このステップは、サンプルデータ内の信号マーカまたはシグネチャを特定することと、参照カテゴリに関連付けられた信号マーカまたはシグネチャとの比較を実行することとを含む。たとえば、信号振幅、位相、周波数、パワースペクトル、および他の信号マーカまたはシグネチャが、サンプルデータ内で、さまざまな適切な方法を用いて検出され得る。
【0057】
プロセスブロック404において実行された分析は、見かけ患者年齢および/または推定患者年齢を含む、特有の患者特徴を示すことができる。一部の態様では、特有の患者特徴を含む特定された、または明らかなカテゴリが、プロセスブロック406において任意選択で表示され得る。さらに、プロセスブロック408において、ユーザ入力もまた、受け取られ得る。
【0058】
その後、プロセスブロック410において、さまざまな通信パラメータに関して決定がなされる。これは、決定されたまたは推測された患者特徴またはカテゴリ、および任意選択でユーザ入力を考慮に入れることを含む。たとえば、取得されたデータの年齢に適したスケールが、決定された患者特徴および/または信号、取得されたデータ内に存在する信号マーカまたはシグネチャに基づいて、プロセスブロック410において決定され得る。次いで、プロセスブロック412において、その後のデータ取得が、決定された通信パラメータを使用して、年齢に適したデータを取得するように調節され得る。説明するように、データ取得を調節することは、通信パラメータを用いてさまざまな増幅器利得を適切に調整または変更することを含むことができる。一部の態様では、決定された通信パラメータは、取得されたサンプルデータに直接的に適用され得る。たとえば、年齢に適したスケールが、サンプルデータに適用されて年齢に適したまたは補償されたデータを作り出すことができる。
【0059】
次いで、プロセスブロック414において、説明した方法で取得されたまたは処理されたデータは、患者の現在のまたは将来の脳状態を決定するために使用され得る。たとえば、年齢補償されたデータを用いて組み立てられた、分析されたまたは処理されたEEG波形は、麻酔または鎮静の現在および/または将来の深度を査定するために使用され得る。さらに、そのような脳状態を決定することはまた、医療処置に関連付けられる情報などの、臨床医またはユーザによって提供された任意の情報を含むこともできる。
【0060】
次いで、プロセスブロック416において、報告書が、任意の適した形状または形で生成される。一部の態様では、報告書は、ディスプレイのスケール調整されたデータまたはデータを説明するデータカテゴリになり得る。他の態様では、報告書は、麻酔薬感受性、手術または術後合併症の確率、見かけ患者年齢または推定患者年齢、および本開示の態様に関連付けられる他の情報を示すことができる。
【0061】
図4Bに移れば、本発明の1つの実施形態によるステップを示す概略図が示される。詳細には、任意選択で生スケール422を用いて処理され表示された、取得されたデータ420は、ステップ424において信号マーカまたはシグネチャを決定するために使用され得る。説明するように、このステップは、波形分析、スペクトラル分析、周波数分析、コヒーレンス分析などを含む、いくつかの処理または分析ステップを含む。次いで、ステップ428において、決定された信号マーカまたはシグネチャに関連付けられる情報が、決定され得る。特に、患者の特徴は、決定された信号マーカまたはシグネチャと、参照内のカテゴリ化されたものとの比較を実行することによって、したがって最も類似する患者カテゴリを特定することによって特定され得る。たとえば、見かけ年齢または推定年齢が、特定され得る。
【0062】
このようにして、取得されたデータ420内に特定された情報を使用することにより、取得されたデータ420の適切なスケール430が、ステップ428において決定されおよび/または選択され、また、取得されたデータに適用されて、変更されたまたはスケール調整されたデータ432を生成し表示することができる。たとえば、決定された見かけ患者年齢または推定患者年齢、または年齢範囲は、年齢に適したスケールを特定し、任意選択で表示され得る年齢補償されたデータを生成するために使用され得る。一部の態様では、このステップはまた、ステップ426においてユーザ入力を受け取ることを含むこともできる。たとえば、臨床医は、患者の実際の年齢を含む、監視される患者に関する情報、ならびに詳細な麻酔薬または用量などの医療処置に関連する情報を提供することができる。一部の態様では、適切にスケール調整されおよび/または表示された変更されたデータ432は、次いで、脳分析プロセスにおいて利用されて、患者の脳状態を正しく特定することができる。
【0063】
例として、
図4Cは、本開示の態様による、61才の患者に対する例となるスケール調整を示す。詳細には、取得されたスペクトログラムデータ460は、理想的でも適切でもない、初期スケール462設定を用いて表示される。見かけ患者年齢または推定患者年齢を特定する、説明されたステップ後、スケール調整されたデータ464が、生成され、特定された患者特徴を用いて決定された適切なスケール466に対して表示される。詳細には、代表的な時間領域EEGトレースデータのための、適切なスケール466のパワーリミット468および振幅スケールのための振幅リミット470が、年齢に基づいて調整される。スケールを調整することにより、その結果生じた表示は、EEG信号の周波数構造および時間領域形態をより明確に表し、麻酔または鎮静の患者の状態の正確な視覚化および査定を可能にする。
【0064】
図4Dに移れば、本発明の別の実施形態によるステップを示す概略図が、示される。生スケール442に対して任意選択で表示される、特にスカウトデータ440は、説明した分析を用いてスカウトデータ440内に存在する信号マーカを決定するために、ステップ444において利用され得る。ステップ446では、初期設定とは異なり得る適切なまたは補償されたスケール452が、信号マーカおよびスカウトデータ440から決定された他の情報を用いて決定される。任意選択により、いくつかのデータ取得パラメータを含む、他のパラメータもまた、ステップ446においてスカウトデータ400から決定され得る。たとえば、適切な増幅器利得が、スカウトデータによって示されたダイナミックレンジを介して特定されてもよい。
【0065】
ステップ450において、データ取得プロセス450は、適切なデータ454を生成するために、適切なスケール452を用いて調節または変更され得る。任意選択により、このステップは、ユーザから受け取られた入力448を含むことができる。たとえば、臨床医は、患者の実際の年齢を含む、監視される患者に関連する情報、ならびに詳細な麻酔薬または用量などの医療処置に関連付けられる情報を提供することができる。さらに、ユーザ入力は、取得パラメータの選択、オーバライド指示、またはデータ取得プロセスに関連付けられる他の入力を含むことができる。一部の態様では、患者特有の特徴を用いて適切に取得されたおよび/または表示された適切なデータ454は、次いで、患者の脳状態を正しく特定するために脳分析プロセスにおいて利用され得る。
【0066】
スペクトログラムとして
図4B、4C、および4Cに示す、取得されたデータ、スカウトデータ、および変更されたデータの例は、例示的な目的のために与えられており、限定するものではない。すなわち、波形データ、スペクトラルデータ、コヒログラムデータなどを含む他のタイプのデータが、利用され、処理され、表示され、またはスケール調整されてよいことが理解され得る。
【0067】
上記で説明したシステムおよび方法は、実施例を用いてさらに理解され得る。この例は、例示的目的のみに提供され、本発明の範囲をいかなる形においても限定するよう意図されるものではない。実際、本明細書に示し説明するものに加えて本発明のさまざまな改変形態が、前述の説明および以下の実施例から当業者に明らかになり、これは、添付の特許請求の範囲内に含まれる。たとえば、脳状態、医療条件、麻酔または鎮静のレベルなどの特有の例が、特有の薬物および医療処置に関連して提供されるが、他の薬物、用量、状態、条件および処置が、本発明の範囲内で考えられてよいことが理解され得るであろう。さらに、脳状態に関連付けられる特有のインジケータに関する例が与えられるが、他のインジケータおよびその組み合わせもまた、本発明の範囲内で考えられてもよいことが理解され得る。同様に、信号振幅、位相、周波数、持続時間などの変数に基づいて変更または変動され得る特有のプロセスパラメータおよび方法が、列挙される。
【実施例】
【0068】
麻酔導入された脳状態と年齢の間の関係を示すために、0才から90才の患者年齢の幅広い範囲にわたって、全身麻酔を受ける患者のルーティンケア中、Sedline脳機能モニタを用いて4リードEEGデータが記録された。データは、2つの異なる薬物、すなわち最も一般的に使用される2つの麻酔薬であるプロポフォールおよびセボフルランを用いて記録された。1つのコホートでは、若い成人(年齢18~38才、N=20)、中年者(年齢40~59才、N=23)、および高齢患者(年齢60~89才、N=19)におけるプロポフォール麻酔の維持中、EEGが分析された。別のコホートでは、若い成人(年齢18~38才、N=34)、中年者(年齢40~59才、N=31、および高齢患者(年齢60~89才、N=32)におけるセボフルラン麻酔の維持中、EEGが分析された。別のコホートでは、子供および若年成人(年齢0から36才、N=63)におけるセボフルラン麻酔の維持中、EEGが分析された。さらに別のコホートでは、子供および若年成人(年齢0から28才、N=111)におけるプロポフォール麻酔の維持中、EEGが分析された。マルチテーパスペクトラルおよびコヒーレンス方法を使用してEEGが分析された。以下の例は、これらの分析の結果を説明し、本発明に照らしてその適用を示す。
【0069】
図5は、幼児期から高齢までの幅広い年齢範囲にわたる患者のプロポフォール全身麻酔中の代表的なEEGスペクトログラムを示す。この例における30才患者のスペクトログラムは、プロポフォール麻酔中、無意識状態に一致する特徴的な徐波(<1Hz)およびアルファ(8~12Hz)振動を示す。57才の患者では、同じパターンを見ることができるが、81才患者では、このパターンは、薄れ、識別が難しく、これは、EEG信号およびEEGパワーがかなり小さいためである。患者の年齢が上がるにつれ、患者は、さまざまな速度の老化および認知低下を経験し得る。
図5は、実際の年齢に近い57才患者より、81才患者に厳密に類似するEEGスペクトログラムを有する56才患者を示す。これは、56才患者における、より高い程度の明らかな老化を反映し得る。
図6に示す、3才および14才の患者などの子供においては、EEGパワーは、すべての周波数にわたって成人のどれよりもかなり大きくなるように見え、年齢と共に低下するように見える。全体として、幼児期から高齢にわたり、EEGパワーおよびEEG信号振幅は、桁違いに低下する。
【0070】
図5に示す例、ならびに後続の追加の分析は、年齢情報を無視する既存のEEGベース麻酔モニタが、子供および高齢の患者における意識または麻酔レベルを正確に表しにくい理由を示唆する。詳細には、既存のEEGベースの麻酔深度モニタは、EEGパワーおよびEEGパワーの関数に基づいて独自指標を算出し、これらは、本明細書では、成人と比較した子供、およびより若い成人と比較した高齢成人においてかなり異なるように示される。特に、EEGベース麻酔監視装置は、しばしば、ベータ(12~25Hz)またはガンマ(25~40Hz)などのより高い周波数帯域のパワーを使用して、患者が軽度に麻酔される、鎮静される、または意識を回復するときを推測する。子供は、これらの帯域では、成人と比較してかなり高いEEGパワーを有するため、年齢を考慮しないEEGベースの麻酔装置は、子供が麻酔されていないと間違って推測し、麻酔医に、麻酔薬の用量を実際に必要とされるものを超えて増大させ、その結果、全身性の過剰摂取をもたらす。EEGベース麻酔監視装置はまた、たとえば、徐波(0.1から1Hz)、デルタ(1から4Hz)、シータ(4から8Hz)、およびアルファ(8から12Hz)などのより低い周波数のEEG帯域におけるパワーの増大を利用して、患者が鎮静または麻酔されることを推測する。高齢患者は、若い成人と比較してかなり小さいEEG信号およびEEGパワーを有する傾向があるため、年齢を考慮しないEEGベースの麻酔装置は、高齢患者におけるこれらの周波数帯域におけるEEGパワーの低減を感知し、次いで、患者が麻酔されていないと間違って推測し、麻酔医に、麻酔薬の用量を実際に必要とされるものを超えて増大させ、その結果、全身性の過剰摂取をもたらす。本開示のシステムおよび方法は、麻酔または鎮静下の患者の脳状態の査定において年齢情報を組み込むことによってこれらの限界を克服する。上記で説明し、
図4Cに示す表示スケーリングの例は、年齢情報を使用する1つの方法が、EEGおよび麻酔脳状態の情報をより正確に表示するために、年齢または見かけ年齢にしたがって色スケールまたはスケール限界を調整することを含むことを示している。先に説明したように、この情報は、患者の年齢または見かけ年齢が与えられる場合に最も適切なEEGシグネチャを確立するために、または患者の見かけ年齢を推定するために、またはその両方のために使用され得る。年齢情報が利用されるまたは推定される方法のさらなる例が、以下に提供される。
【0071】
図6は、セボフルラン麻酔中に子供および若年成人において観察されたトータルEEGパワー(1~50Hz)と年齢の間の関係(底部)を、この年齢範囲にわたる個々の対象者からのそれぞれのスペクトログラム(上部)と共に示す。
図6はまた、トータルパワーが、0才から約6才までの間で増加し、その後、年齢が上がるにつれて低下することも示す。EEGスペクトラムの形(上部列)もまた、年齢と共に変化する。1才未満の子供(上部列左)に関して、EEGスペクトラムは、約1Hz辺りで高濃度のパワーを示し、これは、周波数が増大するにつれて低下する。より年が上の子供におけるスペクトラム(上部列、左から2番目のパネル)は、成人(上部列、左から3番目および4番目のパネル)に類似する形態を示し、約1および10Hzにおいてスペクトラムのピークを示すが、成人と比較してすべての周波数にわたって高いパワーを有する。スペクトログラムおよびスペクトラムの形態のこれらの年齢依存の相違はまた、
図7および
図8それぞれにも示される。
【0072】
図6はまた、年齢情報が、本発明においてどのように使用され得るかを示す。1つの作動モードでは、本発明は、患者の年齢を使用して、最も適した年齢依存EEGシグネチャを選択することができる。たとえば、患者の年齢が与えられる場合、年齢または年齢範囲に関連付けられた、麻酔導入されたEEGシグネチャが、患者状態を推測するために使用され得る。1才未満の患者の場合、異なる形態のEEGスペクトラムが、たとえば、無意識状態に関連付けられる(
図6、上部列、左)。別のモードの作動では、本発明は、患者のEEGを分析し、これを使用してその患者の見かけ年齢または脳年齢を推測することができる。たとえば、患者が、10才の子供の形態およびパワーに類似するスペクトログラムを示した場合(上部列、左から2番目のパネル)、患者の見かけ年齢または発達年齢は、10才と等しいものとして特徴付けられ得る。10才の対応する麻酔導入されたEEGシグネチャが、次いで、麻酔中、患者の脳状態を推定するために使用され得る。作動のさらに別のモードでは、本発明は、患者年齢および患者のEEGの両方を使用して、患者の見かけ年齢または脳年齢を推測すると共に、その患者の麻酔または鎮静のレベルを推測するのに最も適切な年齢依存EEGシグネチャを選択することができる。たとえば、患者が、約1才の実際の年齢を有する場合、この患者は、脳発達の患者特有のレベルに応じて、1才未満の患者に類似する脳応答、または1才から2才の間の患者に類似する脳応答を有し得ることが可能である。スカウトデータが分析されて、1才未満か1才から2才の間かのどちらの見かけ年齢が、所与の患者に最も厳密に合致するかを決定することができる。この決定後、患者の見かけ年齢に応答するEEGシグネチャが、麻酔下の患者の脳状態を査定および監視するために使用され得る。
【0073】
論じたように、本開示の態様によるさまざまなモードの作動は、麻酔導入されたEEGパターン、さまざまな脳状態、または意識状態と、年齢との間の関係の定量的または算定的な表現を使用することができる。この定量的または算定的な表現は、データベース、またはEEGパターンおよび年齢に関する数学的または統計的モデルの形態をとることができる。
図6は、麻酔導入された無意識状態におけるトータルパワーと年齢の間の関係が、多項式回帰モデル(下側プロット)に関連してどのように表現され得るかを示し、その平均(赤線)および95%信頼区間(灰色濃淡)は、たとえば年齢の関数として、平均パワーおよびその分散をそれぞれ表す。類似の表現が、
図14(プロポフォール下の子供におけるトータルEEGパワー対年齢)、
図15(プロポフォール下の子供における振動パワー対年齢)、
図16(プロポフォール下の子供におけるEEGアルファパワー対年齢)、および
図17(プロポフォールおよびセボフルラン下の成人におけるEEGトータル、徐波、およびアルファのパワー対年齢)に示される。
【0074】
あるいはまたは同時に、年齢の関数とするEEGの包括的なデータベースも使用されてよく、散布プロット(下側プロット)に関連して
図6に例示され、ここでは、各々の点は、所与の年齢における所与の患者のEEG記録を、たとえば、トータルパワーおよびスペクトラムと共に表す(上部列)。そのようなモデルは、
図6(底部列)、ならびに
図14、
図15、
図16、および
図17に示すように、年齢の連続関数に関して公式化され得る。あるいは、この情報は、
図7に示すように、関連する離散年齢範囲に関連して公式化することができ、
図7では、たとえば、1才未満、1才から6才の間、6才から14才の間などを含む、さまざまな年齢範囲カテゴリにわたる平均スペクトログラムを示している。EEG情報は、スペクトログラム表現に限定されず、スペクトラル表現(
図8)、ならびにコヒログラム表現(
図9)、またはコヒーレンス表現(
図10)を含む、あらゆる方法で表され得る。
【0075】
コヒーレンス情報ならびに任意の他のEEGベースのパラメータもまた、
図11に示すように、年齢の連続関数として表され得る。年齢表現は、年齢に関する詳細のさまざまなレベルで行うことができ、たとえば、脳発達が迅速に起こっている年齢範囲上ではより高いレベルの年齢分解能を可能にする。
図12は、麻酔薬セボフルランに対して示される、スペクトログラム(左欄)およびコヒログラム(右欄)両方のより詳細な月ごとの特徴付けが、見かけ脳年齢を特定し、所与の年齢または見かけ年齢に対する麻酔および鎮静のEEGシグネチャを特徴付けるようにどのように構築され得るかを示す。
図15は、類似の特徴付けが、薬物プロポフォールに対してどのように使用され得るかの例を示す。
【0076】
加えて、
図12および13に示す例では、月ごとの特徴付けが、迅速な成熟期のこの期間中、子供患者独自の脳発達の状態に適したより精密な監視を可能にする。先に示したように、参照情報を用いることからの推測は、ルックアップテーブル、年齢およびEEG関連情報を結合させて組み込むためにベイズ推定を恐らく使用する回帰または統計的モデルを使用する予測、機械習得方法を含む、適切に確立されたあらゆる方法を使用して、または相互相関、クラスタリング、または関連技術によって行われ得る。
【0077】
図12、13、および17に示すセボフルランおよびプロポフォールの薬物特有の特徴付けは、薬物情報などの関連共変量情報が、どのように使用され得るかを表す。セボフルランが投与された患者の場合、適切なセボフルランデータベースまたはモデルが使用可能であり、一方でプロポフォールが投与された患者の場合、適切なプロポフォールデータベースまたはモデルが使用可能である。さまざまな麻酔薬は、さまざまな脳状態または意識状態に関連付けられたさまざまなEEGパターンを生み出し、EEGパターンおよび脳状態におけるこれらの薬物依存の相違を考慮することは、麻酔の見かけ年齢および年齢依存レベルの正確な査定には重要である。同様に、EEG特性、患者状態、および年齢に関するモデルまたはデータベースは、たとえば、身長、体重または性別などのさらなる患者共変量情報を含むことができる。
【0078】
これらの結果は、EEGパワーが、幼児期から成人期にかけて桁違いに低下することを示す。これらはまた、1才未満の非常に小さい患者が、その麻酔関連EEG振動において異なる構造を有する様子も示す。これらの年齢依存相違は、発達中起こる、知られている神経生物学的な変化と一致している。非常に小さい患者において、脳髄鞘形成は、約1才までは大きくは発達しない。若い成人期にわたる漸進的発達により、シナプスは、最大50%刈り取られる。したがって、麻酔導入されたEEG振動における観察された年齢関連変化は、発達中起こる全身レベルの神経細胞変化を反映することができる。同様に、高齢成人における老化中のEEG振幅における低減は、灰白質量、皮質厚さにおける低減およびシナプス密度の低減を反映すると考えられる。
【0079】
麻酔導入されたアルファおよびベータ振動は、注意力および知覚の下降型の変調に潜在的に関与する、共鳴する皮質および視床皮質ネットワークを通じて起こると考えられる。一部の高齢患者におけるアルファ振動の損失は、皮質および視床の灰白質における年齢に関連する低減、および視床皮質機能の低減を反映し得る。したがって、さまざまな年齢の患者間、または神経変性または認知の状態または疾患を有する患者間の解剖学的および生理学的相違は、脳機能および麻酔薬がどのように脳に影響を与えるかに関して大きな影響を与える。その結果、見かけ年齢の査定は、数値的年齢に関してのみならず、子供における発達段階などの年齢に関連付けられる神経学的または認知的状態、またはたとえば認知障害、認知症、またはアルツハイマー病などの年齢関連状態に関しても関連付けられ、または表され得る。
図5を再度参照すれば、56才の患者(底部列、中央パネル)は、これより若い患者および57才の患者(底部列、左パネル)と比較してアルファパワーが劇的に低減される状態の、プロポフォール下のEEGスペクトログラムを示す。この56才患者におけるプロポフォール導入されたアルファパワーの低減は、たとえば、老化、認知障害、および認知症に関連付けられる皮質の菲薄化、灰白質量の低減、およびシナプス密度の低減などの、内在する神経生物学的変化の結果となる可能性が高い。そのような状況では、見かけ年齢の査定または特徴付けは、麻酔導入されたEEGパターンおよび患者の実際の年齢に関連付けられた、内在する神経生物学的、神経学的、または認知的状態に関して特徴付けられ得る。この例では、この56才患者を、同じ図に示す81才患者(
図5、底部列右パネル)との類似性により、「老齢脳」を有するものとして参照する。老化、神経変性、および認知症の神経生物学の理解における精錬により、たとえば、軽度の認知障害、パーキンソン病、またはアルツハイマー病などの特有の状態に関してそのような特徴付けを精錬することが可能になり得る。そのような状態、または簡単には見かけ老齢の特定は、麻酔専門医が、これらの特に弱い患者に対するケアを最適化するように意図された特有の麻酔レジメンを選択することを助けることができる。
【0080】
まとめると、さまざまな年齢の患者、または神経変性または認知の状態または疾患を有する患者間の解剖学的および生理学的相違は、脳機能および麻酔薬が脳にどのように影響するかに関して大きな影響を与える。しかし、麻酔薬に内在する基礎的な脳機構についての理解は、限定されている。したがって、特定の患者における麻酔および鎮静下の脳生理学の理解の向上に対して差し迫った必要性に注意を向けながら、脳監視におけるさまざまな要求事項を考慮に入れるケアの基準は、まだ確立されていない。したがって、観察された脳状態に基づいて麻酔薬用量を滴定することを含む目的のために、実時間EEG監視と結合させた、麻酔学群における老化脳の神経科学のより向上した理解を促進することは、リスク患者に対する麻酔ケアをより適切に提供するための実用的な最初のステップである。
【0081】
本発明は、全身麻酔および鎮静などの特定の医療処置中の正確な、年齢に適した脳監視に対する必要性を認識し、したがって、脳信号からの年齢関連情報を使用し、決定し、または推測することを対象としたシステムおよび方法を提供する。たとえば、麻酔導入された鎮静および無意識のさまざまな状態中に起こるEEG信号における高度に構造化された振動は、全身麻酔を監視するために使用され得る、目的となる神経-生理学的評価項目を提供することができる。
【0082】
さらに、非常に小さいおよび高齢などの特定の患者が、全身麻酔後に有害な神経的認知影響を受けることもあることが、証拠によって示唆されている。さまざまな年齢の患者間の解剖学的および生理学的相違が与えられる場合、特定の患者が、麻酔後に術後認知疾患をより有しやすい理由が理解され得る。これは、麻酔投与、監視、およびケアに関連する新しい戦略に対する必要性を強調する。本開示は、したがって、術前に、麻酔薬に対する感受性および術後認知状態または疾患に対してより高いリスクを潜在的に有する患者を特定し、そのような患者特有の情報を使用して麻酔ケア、麻酔後ケア、または集中治療のための特有のレジメンを処方することを含む、さまざまな用途のためのシステムおよび方法を提供する。
【0083】
本明細書に示す結果は、高齢患者における監視を改良するための方法を示す。たとえば、EEGベース麻酔監視装置は、たとえば、徐波(0.1から1Hz)、デルタ(1から4Hz)、シータ(4から8Hz)、およびアルファ(8から12Hz)などのより低い周波数のEEG帯域におけるパワーを使用して、患者が鎮静または麻酔されることを推測する。かなり小さいEEG信号およびEEGパワーが高齢患者において観察されるため、年齢を考慮しないEEGベースの麻酔装置またはシステムは、これらの周波数帯域においてEEGパワーの低減を感知し、次いで、高齢患者が麻酔されていないと誤って推測し、麻酔医に、麻酔薬の用量を実際に必要とされるものを超えて増大させ、その結果、全身性の過剰摂取をもたらす。さらに、これらの結果は、子供が、将来、GA中にどのように観察され得るかについて重要な洞察を与える。子供および成人は、品質的には類似のEEGスパクトルを有するため、類似の基礎となる神経生理学的原理が適用されやすい。実用的な方法は、さまざまな麻酔薬に関連付けられたEEGスペクトルパターンを特定することを伴うことができる。さらに、麻酔導入されたEEG信号は、子供においてはかなり大きいため、麻酔脳監視の問題は、実際には、成人より子供においての方が解決しやすくなり得る。
【0084】
上記で提示したさまざまな構成は、例に過ぎず、本開示の範囲を限定することを意味するものではない。本明細書において説明する構成のバリエーションは、当業者に明白になり、そのようなバリエーションは、本出願の意図された範囲内に入る。特に、上記で説明した構成の1つまたは複数からの特徴が、上記で明白に説明されない特徴の副組み合わせからなる代替的な構成を作り出すために選択され得る。加えて、上記で説明した構成の1つまたは複数からの特徴は、上記で明白に説明されない特徴の組み合わせからなる代替的な構成を作り出すように選択され、組み合わせられ得る。そのような組み合わせおよび副組み合わせに適した特徴は、本出願を全体的に検討する際に当業者に容易に明白になるであろう。本明細書および列挙される特許請求の範囲において説明する主題は、技術におけるすべての適切な変更をカバーし、包含するよう意図される。