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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】全固体電池製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/056 20100101AFI20220506BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20220506BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220506BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220506BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M10/0585
H01M4/62 Z
H01M4/13
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019509592
(86)(22)【出願日】2018-03-20
(86)【国際出願番号】 JP2018011034
(87)【国際公開番号】W WO2018180768
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-10-16
(31)【優先権主張番号】P 2017070295
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167988
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】東 昇
【審査官】村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/033765(WO,A1)
【文献】特開2000-138073(JP,A)
【文献】特開2004-311108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが21~100μmである全固体電池を製造する方法であって、
集電体を準備する工程と、
前記集電体上に活物質粒子を含む電極合剤を塗工して活物質層を形成する工程と、
前記活物質層上に無機固体電解質粒子を含む無機固体電解質層を形成する工程と、
高分子化合物とアルカリ金属塩を含む高分子固体電解質溶液を供給して、前記活物質層
および前記無機固体電解質層に浸透させる溶液供給工程と、
前記溶液供給工程の後で、前記高分子化合物を重合させることにより、前記活物質粒子間および前記無機固体電解質粒子間に高分子固体電解質を形成して、前記活物質粒子とその隙間を埋める前記高分子固体電解質とを含む電極と、前記無機固体電解質粒子とその隙間を埋める前記高分子固体電解質とを含むセパレータ層を得る硬化工程と、を有する電極シート製造方法で第1電極シートを製造する工程と、
前記電極シート製造方法で、前記第1電極シートと反対の極性を有する第2電極シートを製造する工程と、
前記第1電極シートと前記第2電極シートの一方または両方の表層を可塑剤で軟化させた後に、前記第1電極シートと前記第2電極シートを、それぞれの集電体が最外面を構成するように貼り合せる接合工程と、
を有する全固体電池製造方法。
【請求項2】
前記溶液供給工程は、非接触塗工法によって前記高分子固体電解質溶液を供給する工程である、
請求項1に記載の全固体電池製造方法
【請求項3】
前記第1電極シートおよび前記第2電極シートの一方または両方の前記電極合剤が第2無機固体電解質粒子をさらに含む、
請求項1または2に記載の全固体電池製造方法
【請求項4】
前記第1電極シートおよび前記第2電極シートの表層は、前記高分子固体電解質によって全面が覆われている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の全固体電池製造方法。
【請求項5】
厚さが21~100μmである全固体電池を製造する方法であって、
集電体を準備する工程と、
前記集電体上に活物質粒子を含む電極合剤を塗工して活物質層を形成する工程と、
前記活物質層上に無機固体電解質粒子を含む無機固体電解質層を形成する工程と、
高分子化合物とアルカリ金属塩を含む高分子固体電解質溶液を供給して、前記活物質層
および前記無機固体電解質層に浸透させる溶液供給工程と、
前記溶液供給工程の後で、前記高分子化合物を重合させることにより、前記活物質粒子
間および前記無機固体電解質粒子間に高分子固体電解質を形成して、前記活物質粒子とその隙間を埋める前記高分子固体電解質とを含む電極と、前記無機固体電解質粒子とその隙間を埋める前記高分子固体電解質とを含むセパレータ層を得る硬化工程と、を有する電極シート製造方法で第1電極シートを製造する工程と、
第2集電体を準備する工程と、
前記第2集電体上に第2活物質粒子を含む第2電極合剤を塗工して第2活物質層を形成する工程と、
前記第2活物質層上に第2高分子化合物と前記アルカリ金属塩を含む第2高分子固体電解質溶液を供給して、前記第2活物質層に浸透させる第2溶液供給工程と、
第2溶液供給工程の後で、前記第2高分子化合物を重合させることにより、前記第2活物質粒子間に第2高分子固体電解質を形成して、前記第2活物質粒子とその隙間を埋める前記第2高分子固体電解質とを含む第2電極を得る第2硬化工程とを有する第2電極シート製造方法で、前記第1電極シートと反対の極性を有する第2電極シートを製造する工程と、
前記第1電極シートと前記第2電極シートの一方または両方の表層を可塑剤で軟化させた後に、前記第1電極シートと前記第2電極シートを、それぞれの集電体が最外面を構成するように貼り合せる接合工程と、
を有する全固体電池製造方法。
【請求項6】
前記溶液供給工程は、非接触塗工法によって前記高分子固体電解質溶液を供給する工程であり、
前記第2溶液供給工程は、非接触塗工法によって前記第2高分子固体電解質溶液を供給する工程である、
請求項5に記載の全固体電池製造方法
【請求項7】
前記電極合剤および前記第2電極合剤の一方または両方が第2無機固体電解質粒子をさらに含む、
請求項5または6に記載の全固体電池製造方法
【請求項8】
前記第1電極シートの表層は前記高分子固体電解質によって全面が覆われており、
前記第2電極シートの表層は前記第2高分子固体電解質によって全面が覆われている、
請求項5~7のいずれか一項に記載の全固体電池製造方法。
【請求項9】
前記溶液供給工程は、
前記活物質層を形成した後に、該活物質層上に前記高分子固体電解質溶液を供給して該活物質層に浸透させる工程、および
前記無機固体電解質層を形成した後に、該無機固体電解質層上に前記高分子固体電解質溶液を供給して該無機固体電解質層に浸透させる工程の2つの工程からなる、
請求項1~8のいずれか一項に記載の全固体電池製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機固体電解質および高分子固体電解質を用いた電極シートと、その製造方法に関する。また、本発明は、無機固体電解質および高分子固体電解質を用いた全固体電池と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体の電解液に代えて固体電解質を用いた固体リチウムイオン二次電池の開発が活発に行われている。固体電解質を用いることにより、電池の薄型化が可能となり、電解液の漏出がない等の優れた特徴が得られる。そのような固体電解質としては、無機固体電解質、高分子固体電解質、高分子ゲル状電解質が知られている。
【0003】
無機固体電解質は、イオン伝導性に優れたものが近年開発されている。しかし、その形態が粒子状であることから、活物質粒子との接触状態が悪いことにより電池の内部抵抗が増大し、電池容量が減少するという問題があった。
【0004】
高分子ゲル状電解質は、高分子のネットワーク中に電解質塩を含む有機溶媒が保持されたゲル状の固体電解質である。電極を構成する活物質粒子間に高分子ゲル状電解質を含浸させることにより、活物質粒子と固体電解質の接触状態を改善することが提案されている。特許文献1には、正極活物質層の表面にモノマー組成物を塗工し、その一部を正極活物質層に含浸させた後に熱重合させた高分子(ゲル状)固体電解質電池が記載されている。また、特許文献2には、活物質層上に、ゲル状固体電解質が溶媒中に溶解された固体電解質溶液を含浸することにより固体電解質と活物質の接合界面の接着性が良好に形成された固体電解質電池が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-326383号公報
【文献】特開平11-195433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高分子ゲル状電解質からなる固体電解質層には強度が低いという問題があった。そのため、特に可撓性を有するフィルム状の電池に用いた場合に、電池の両極を隔てるセパレータ層が電池の変形により損壊して、内部短絡を生じることが懸念された。また、高分子ゲル状電解質中の電解質塩の移動度を上げるために有機溶媒の含有量を増やしすぎると、漏液の問題が残る。また、高分子ゲル状電解質の溶液を活物質層に含浸させる方法では、溶液の含浸に時間がかかることや、溶液を活物質層の全域に浸透させることが難しいなどの問題があった。
【0007】
これに対して、セパレータ層の強度や耐久性向上のために高分子固体電解質を用いることが考えられる。高分子固体電解質は、高分子中に電解質塩を含有した固体電解質である。しかし高分子固体電解質では、固体高分子中の電解質塩の移動度が低い。そのため、セパレータ層が厚すぎると、電池の内部抵抗が大きくなって実用的な充放電特性が得られないという問題があった。一方で、セパレータ層が薄すぎると、高分子固体電解質によってもなお、電池の繰り返し曲げ変形等によるセパレータ層の損壊と内部短絡への懸念が残る。
【0008】
本発明は上記を考慮してなされたものであり、高分子固体電解質を用いて、内部抵抗が小さくかつ内部短絡が起こりにくい全固体電池を提供すること、ならびにかかる全固体電池に使用可能な電極シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的のために、本発明の電極シートおよび全固体電池はセパレータ層に無機固体電解質粒子と高分子固体電解質を用いることにより、セパレータ層のイオン導電性と強度を両立する。
【0010】
具体的には、本発明の電極シートは、集電体と、前記集電体上に形成され、活物質粒子と該活物質粒子の隙間を埋める高分子固体電解質とを含む電極と、前記電極上に形成され、無機固体電解質粒子と該無機固体電解質粒子の隙間を埋める前記高分子固体電解質とを含むセパレータ層とを有する。
【0011】
この電極シートを用いることによって、漏液のおそれがなく、内部抵抗が小さく、かつ内部短絡が起こりにくい全固体電池を製造することができる。
【0012】
好ましくは、前記電極に含まれる前記高分子固体電解質と、前記セパレータ層に含まれる前記高分子固体電解質とが一体に形成されている。この構成により、電極とセパレータ層との界面抵抗をより小さくできる。
【0013】
好ましくは、前記電極が第2無機固体電解質粒子をさらに含む。これにより活物質粒子の隙間を移動する電荷の移動度が向上し、電極の内部抵抗がより小さくなる。
【0014】
本発明の全固体電池は、正極集電体と、正極活物質粒子と該正極活物質粒子の隙間を埋める正極内高分子固体電解質とを含む正極と、無機固体電解質粒子と該無機固体電解質粒子の隙間を埋めるセパレータ層内高分子固体電解質とを含むセパレータ層と、負極活物質粒子と該負極活物質粒子の隙間を埋める負極内高分子固体電解質とを含む負極と、負極集電体とがこの順に積層されて構成される。
【0015】
好ましくは、前記正極内高分子固体電解質および/または前記負極内高分子固体電解質が、当該正極内高分子固体電解質または当該負極内高分子固体電解質が接する部分の前記セパレータ層内高分子固体電解質と一体に形成されている。
【0016】
好ましくは、前記正極および/または負極が第2無機固体電解質粒子をさらに含む。
【0017】
本発明の電極シート製造方法は、集電体を準備する工程と、前記集電体上に活物質粒子を含む電極合剤を塗工して活物質層を形成する工程と、前記活物質層上に無機固体電解質粒子を含む無機固体電解質層を形成する工程と、高分子化合物とアルカリ金属塩を含む高分子固体電解質溶液を供給して、前記活物質層および前記無機固体電解質層に浸透させる溶液供給工程と、前記溶液供給工程の後で、前記高分子化合物を重合させることにより、前記活物質粒子間および前記無機固体電解質粒子間に高分子固体電解質を形成する硬化工程とを有する。
【0018】
ここで、高分子固体電解質溶液とは高分子固体電解質を形成するための原料溶液のことをいい、高分子固体電解質溶液中の高分子化合物が重合することによって高分子固体電解質が形成される。また、高分子化合物を重合させることには、高分子化合物を架橋剤によって架橋させることを含む。この方法によれば、高分子固体電解質溶液が無機固体電解質層内、無機固体電解質層と活物質層の界面、活物質層内に浸透した後に高分子固体電解質が形成されるので、電極シートの全体に高分子固体電解質の良好な接触状態が得られる。
【0019】
好ましくは、前記溶液供給工程は、前記活物質層を形成した後に、該活物質層上に前記高分子固体電解質溶液を供給して該活物質層に浸透させる工程、および前記無機固体電解質層を形成した後に、該無機固体電解質層上に前記高分子固体電解質溶液を供給して該無機固体電解質層に浸透させる工程の2つの工程からなる。この方法によっても、高分子固体電解質溶液が無機固体電解質層内、無機固体電解質層と活物質層の界面、活物質層内に浸透した後に高分子固体電解質が一体に形成されるので、電極シートの全体に高分子固体電解質の良好な接触状態が得られる。
【0020】
好ましくは、前記溶液供給工程は、非接触塗工法によって前記高分子固体電解質溶液を供給する工程である。ここで、非接触塗工法とは、ロールやノズル等の部材を無機固体電解質層表面に接触させることなく、溶液を供給する方法をいう。これにより、無機固体電解質層および活物質層に損傷を与えることなく高分子固体電解質溶液を供給できる。
【0021】
好ましくは、前記電極合剤が第2無機固体電解質粒子をさらに含む。
【0022】
本発明の全固体電池製造方法は、上記いずれかの方法で第1電極シートを製造する工程と、上記いずれかの方法で前記第1電極シートと反対の極性を有する第2電極シートを製造する工程と、前記第1電極シートと前記第2電極シートを、該第1電極シートの前記集電体と該第2電極シートの前記集電体が最外面を構成するように貼り合せる接合工程とを有する。ここで、第1電極シートは正極シート、負極シートのいずれであってもよい。
【0023】
本発明の他の全固体電池製造方法は、上記いずれかの方法で第1電極シートを製造する工程と、前記第1電極シートと反対の極性を有する第2電極シートを製造する工程とを有する。そして、前記第2電極シートを製造する工程は、第2集電体を準備する工程と、前記第2集電体上に第2活物質粒子を含む第2活物質層を形成する工程と、前記第2活物質層上に第2高分子化合物と前記アルカリ金属塩を含む第2高分子固体電解質溶液を供給して、前記第2活物質層に浸透させる第2溶液供給工程と、前記第2高分子化合物を重合させることにより、前記第2活物質粒子間に第2高分子固体電解質を形成する第2硬化工程とを有する。そしてさらに、前記第1電極シートと前記第2電極シートを、該第1電極シートの前記集電体と該第2電極シートの前記第2集電体が最外面を構成するように貼り合せる接合工程とを有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の電極シートまたは全固体電池によれば、電解質が無機固体電解質および高分子固体電解質からなるので、漏液のおそれがない。また、高分子固体電解質が活物質粒子の隙間を埋めているので、高分子固体電解質と活物質粒子の接触状態が良く、電極の内部抵抗が低く抑えられる。また、セパレータ層が高分子固体電解質より電解質塩の移動度やリチウムイオン輸率の高い無機固体電解質を含むことができるので、電池の内部抵抗を下げ、充放電特性を向上できる。さらに、セパレータ層が高分子固体電解質より硬度の高い無機固体電解質粒子を含むので、電池の繰り返し曲げ変形等によってもセパレータ層が損壊しにくく、内部短絡が起こりにくい。そして、セパレータ層を薄く形成することが可能なため、電池の内部抵抗を下げ、充放電特性を向上できる。
【0025】
本発明の電極シート製造方法または全固体電池製造方法によれば、低粘度の高分子固体電解質溶液を活物質粒子の隙間、および無機固体電解質粒子の隙間に浸透させた後に重合させて高分子固体電解質を形成するので、高分子固体電解質溶液を活物資層および無機固体電解質層の広い範囲に浸透させることが容易である。それにより、高分子固体電解質と活物質粒子の接触状態が良く、内部抵抗が低い電池が得られる。また、少なくとも一方の電極内の高分子固体電解質がセパレータ層内の高分子固体電解質と一体に形成されるので、界面抵抗が抑えられ、内部抵抗が低い電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1実施形態の電極シートの構造を模式的に示した図である。
図2】本発明の第1実施形態の電極シートの製造方法の工程フロー図である。
図3】本発明の第2実施形態の電極シートの構造を模式的に示した図である。
図4】本発明の第2実施形態の電極シートの製造方法の工程フロー図である。
図5】本発明の第3実施形態の全固体電池の構造を模式的に示した図である。
図6】本発明の第3実施形態の全固体電池の製造方法の工程フロー図である。
図7】本発明の第4実施形態の全固体電池の構造を模式的に示した図である。
図8】本発明の第4実施形態の全固体電池の製造に用いる負極シートの構造を模式的に示した図である。
図9】本発明の第4実施形態の全固体電池の製造方法の工程フロー図である。
図10】比較例1の正極シートを用いた評価用電池の充放電試験結果である。
図11】比較例2の正極シートを用いた評価用電池の充放電試験結果である。
図12】比較例3の負極シートを用いた評価用電池の充放電試験結果である。
図13】実施例1の正極シートを用いた評価用電池の充放電試験結果である。
図14】比較例4の正極シートを用いた評価用電池の充放電試験結果である。
図15】実施例2の全固体電池の充放電試験結果である。
図16】本発明の第1実施形態の電極シートの製造方法の変形例の工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の第1実施形態として、全固体リチウムイオン電池用の電極シートを図1および図2に基づいて説明する。
【0028】
図1において、本実施形態の電極シート10は、集電体11と、電極12と、セパレータ層15がこの順に積層されて構成される。電極シート10は正極シートまたは負極シートである。電極シート10が正極シートであるときは正極集電体と、正極と、セパレータ層からなり、電極シート10が負極シートであるときは負極集電体と、負極と、セパレータ層からなる。
【0029】
集電体11には電子伝導性を有する各種材料を用いることができる。正極集電体としては、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼の箔を用いることができ、好ましくは耐酸化性に優れるアルミニウムの箔を用いる。アルミニウム箔の厚さは好ましくは5~25μmである。負極集電体としては、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄の箔を用いることができ、好ましくは還元場において安定でかつ電導性に優れる銅箔を用いる。銅箔の厚さは、好ましくは5~15μmである。また、これらの金属の箔が樹脂フィルムと積層されたものを用いてもよい。その場合は、樹脂フィルムによってハンドリングに必要な強度が得られるので金属箔は単体で用いる場合より薄くすることができる。金属箔と樹脂フィルムの積層されたものの厚さは、好ましくは20~50μmである。
【0030】
電極12は活物質粒子13を主成分として、必要に応じて導電助剤、結着剤、フィラー等の添加成分を含む。また、活物質粒子の隙間を高分子固体電解質14が埋めている。好ましくは、高分子固体電解質14は、集電体表面からセパレータ層との界面にいたるまで、電極12の全域で活物質粒子の隙間を埋める。
【0031】
正極活物質13としては、Liイオンを吸蔵・放出するLiCoO、LiNiOなどの周知の材料を用いることができる。導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、その他のカーボンブラック、金属粉、導電性セラミクス材料など周知の電子伝導性材料を用いることができる。導電助剤の添加量は、典型的には、正極活物質に対して数重量%である。結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)など周知の材料を用いることができる。また、結着剤としてイオン導電性を有する材料を用いることもできる。イオン導電性を有する結着剤としては、例えば、PVdF等のフッ素系重合体にイオン液体の骨格をグラフト重合した高分子電解質組成物を含むイオン導電性の結着剤が特開2015-038870号公報に開示されている。またポリエチレンオキシドやポリエチレンオキシド等のエーテル系高分子にLi金属塩を保持させるなどした他の周知のリチウムイオン導電性ポリマーマトリクスを結着剤に用いることも可能である。結着剤の添加量は、典型的には、正極活物質に対して数重量%である。フィラーとしては、ポリプロピレン等のオレフィン系ポリマー、ゼオライトなどの周知の材料を用いることができる。フィラーの添加量は、典型的には、正極活物質に対して0~数重量%である。
【0032】
正極12の厚さは、好ましくは5~30μmであり、さらに好ましくは10~20μmである。正極が薄すぎると十分な電池容量が得られないからである。また、正極が厚すぎると、完成した電池が厚くなるとともに、正極内の高分子固体電解質中のLiイオン移動距離が長くなり充放電レートが低下するからである。また、正極内に均質に高分子固体電解質溶液を浸透させることが難しくなり、正極内部に空隙が生じやすくなる。
【0033】
負極活物質13としては、Liイオンを吸蔵・放出する黒鉛、コークスなどの周知の材料を用いることができる。負極活物質に添加される導電助剤、結着剤、フィラーとしては、正極活物質に添加されるのと同じものを用いることができる。
【0034】
負極12の厚さは、好ましくは5~30μmであり、さらに好ましくは10~20μmである。負極が薄すぎると十分な電池容量が得られないからである。また、負極が厚すぎると、完成した電池が厚くなるとともに、負極内の高分子固体電解質中のLiイオン移動距離が長くなり充放電レートが低下するからである。また、負極内に均質に高分子固体電解質溶液を浸透させることが難しくなり、負極内部に空隙が生じやすくなる。
【0035】
電極12の活物質粒子13間の高分子固体電解質14は、集電体11表面からセパレータ層15との界面まで電極全域にわたって、活物質粒子の隙間を埋めていることが望ましい。
【0036】
高分子固体電解質14はポリマー中に電解質塩を含有する。ポリマーとしては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、これらの共重合体などを用いることができる。好ましくは、ポリマー分子間が架橋されているか、あるいは、ポリマーの主骨格に他のポリマーやオリゴマーがグラフト重合されている。ポリマーの結晶化によりイオン伝導度が低下するのを抑止するためである。電解質塩としては、液体の電解液を有する電池と同じく、各種のリチウム塩を用いることができる。例えば、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO、以下においてLiTFSIと略記する)などを用いることができる。
【0037】
高分子固体電解質14は可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤を含むことによりイオン伝導性が向上する。ただし、可塑剤の添加により高分子固体電解質の強度が低下するので、高分子固体電解質中の可塑剤の含有量は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下である。特に好ましくは、高分子固体電解質は可塑剤を含まない。可塑剤としては、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の炭酸エステル類、それらの混合物など周知の材料を用いることができる。
【0038】
セパレータ層15は無機固体電解質粒子16とその隙間を埋める高分子固体電解質14を含む。好ましくは、セパレータ層の表面は、無機固体電解質粒子が露出せず、高分子固体電解質によって全面が薄く覆われている。電池製造時に2枚の電極シートを貼り合せる際に、より良好な接合状態が得られるからである。
【0039】
無機固体電解質16としては、高いリチウムイオン伝導度を持つLa2/3-xLi3xTiO(LLT)、Li1+xAlTi2-y(PO(LATP)、Li1+xAlGe2-y(PO(LAGP)などの粒子を用いることができる。好ましくはLAGPを用いる。構造が安定で、電極シート製造時にペースト化する際に他の材料と接触しても反応が起こりにくいからである。
【0040】
無機固体電解質粒子16の粒径は、好ましくは0.1μm~1μmである。粒径が小さすぎるとペースト加工時の分散性が悪くなり、凝集して大きな粒子を形成しやすいからである。また、粒径が大きすぎると、セパレータ層15の表面の平坦性が悪くなるとともに、リチウムイオン移動度の低い高分子固体電解質14がセパレータ層に占める割合が多くなり、セパレータ層を通過するリチウムイオンの移動度が損なわれやすいからである。
【0041】
セパレータ層15に含まれる高分子固体電解質14は、電極12に含まれる高分子固体電解質と同じものである。好ましくは、電極12内の高分子固体電解質14とセパレータ層15内の高分子固体電解質14は一体に形成されている。一体に形成されているとは、別々に硬化したものではなく、一つの原料溶液から同時に硬化して形成されていることをいう。その場合、電極からセパレータ層にかけて、高分子固体電解質14はポリマーの骨格が分断されることなく連続している。これにより、電極とセパレータ層との界面抵抗をより小さくできる。
【0042】
セパレータ層15の厚さは、後述する全固体電池製造方法により好ましい範囲が異なる。製造した電池のセパレータ層の厚さは、平均厚さが好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、特に好ましくは6μm以下である。セパレータ層が厚すぎると電池の内部抵抗が大きくなるからである。セパレータ層が薄くても、強度・硬度の高い無機固体電解質粒子16が含まれることにより、短絡が生じにくい。一方、電池のセパレータ層の厚さは、最も薄い部分の厚さが好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。セパレータ層が薄すぎると、損壊しやすいからであり、また、製造が難しくなるからである。
【0043】
本実施形態の正極シートと本実施形態の負極シートを貼り合せて電池を製造する場合(第3実施形態の電池)、すなわち正負両方の電極シートがセパレータ層を有する場合は、各電極シートのセパレータ層15の厚さは、平均厚さが好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下であり、最も薄い部分の厚さが好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。
【0044】
本実施形態の正極シートまたは負極シートと、セパレータ層を備えない他の電極シートを貼り合せて電池を製造する場合(第4実施形態の電池)、本実施形態の電極シートのセパレータ層15の厚さは、平均厚さが好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、特に好ましくは6μm以下であり、最も薄い部分の厚さが好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。
【0045】
電極シート10全体の厚さは、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは40μm以下である。本実施形態の電極シートは、フィルム状の薄型電池を製造するのに特に適している。
【0046】
次に、電極シート10の製造方法を説明する。
【0047】
図2を参照して、本実施形態の電極シート製造方法は、
(S10)集電体11を準備する工程と、
(S20)集電体上に活物質層を形成する工程と、
(S30)活物質層上に、無機固体電解質層を形成する工程と、
(S40)無機固体電解質層表面に高分子固体電解質溶液を供給して、活物質層および無機固体電解質層に浸透させる溶液供給工程と、
(S50)高分子化合物を重合させる硬化工程と、を有する。
【0048】
活物質層を形成する工程S20は、集電体11上に活物質粒子13含む電極合剤を塗工することによって行われる。
【0049】
電極合剤は、活物質粒子13に必要に応じて前述の導電助剤、結着剤、フィラー等を添加し、適量の溶媒を加えることによりペースト化される。溶媒としては、Nメチル2ピロリドン(NMP)等の周知の有機溶媒を用いることができる。
【0050】
電極合剤の塗工方法は特に限定されない。例えば、ダイコート法、コンマコート法、スクリーン印刷法などによって行うことができる。好ましくはスクリーン印刷法によって行う。大面積であっても、コスト上昇を抑えながら、均一な厚さに電極合剤ペーストを塗工できるからである。電極合剤を集電体11上に塗工する際、活物質粒子と集電体の密着性を向上させるために、集電体表面に予めプライマーコーティング(下塗り)を行ってもよい。電極合剤を集電体11上に塗工した後、乾燥して溶媒を除去することによって、活物質層が形成される。なお、乾燥後に活物質層をプレス加工によって圧縮してもよい。
【0051】
無機固体電解質層を形成する工程S30は、活物質層上に無機固体電解質粒子16を含む電解質合剤を塗工することによって行われる。
【0052】
電解質合剤は、無機固体電解質粒子16に、必要に応じて、結着剤、フィラー等を添加し、適量の溶媒を加えることによりペースト化される。結着剤としては、PVdFなど公知の材料を用いることができる。溶媒としては、NMP等の周知の有機溶媒を用いることができる。好ましくは、無機固体電解質としてLAGP、結着剤としてPVdFを用いる。それぞれの性能が良いだけでなく、この組み合わせによれば、PVdFがアルカリ塩と反応してゲル化することがない。あるいは、好ましくは、結着剤としてイオン導電性の結着剤を用いる。電極内のリチウムイオンの移動度が向上するからである。
【0053】
電解質合剤の塗工方法は特に限定されない。例えば、ダイコート法、コンマコート法、スクリーン印刷法や、スプレーコート法やインクジェット法などの非接触塗工法などによって行うことができる。好ましくはスクリーン印刷法によって行う。大面積であっても、コスト上昇を抑えながら、均一な厚さに電極合剤ペーストを塗工できるからである。電解質合剤を活物質層上に塗工した後、乾燥して溶媒を除去することによって、無機固体電解質層が形成される。
【0054】
溶液供給工程S40は、高分子化合物とリチウム塩を含む高分子固体電解質溶液を無機固体電解質層上に供給して、活物質層および無機固体電解質層に浸透させることによって行われる。
【0055】
高分子固体電解質溶液は、重合後に高分子固体電解質14の骨格となる高分子化合物、およびリチウム塩を含み、必要に応じて架橋剤、重合開始剤を含み、有機溶媒によって適切な粘度となるように希釈される。高分子化合物としては、前述のPEO等を用いることができる。リチウム塩としては、前述のLiTFSIなどの材料を用いることができる。希釈溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)やアセトニトリルなど低沸点の有機溶媒を好適に用いることができる。このように重合前の高分子化合物を含む溶液を用いることにより、高分子固体電解質溶液によって活物質粒子の隙間を充填することが容易となる。高分子固体電解質溶液の粘度は、好ましくは1~100mPa・s、より好ましくは5~10mPa・sである。粘度が高すぎると、活物質層および無機固体電解質層中に溶液が浸透しにくいからである。また、粘度が低すぎると、高分子化合物の含有量が少なくなり不経済であるとともに無機固体電解質層中の高分子固体電解質の密度が低下してイオン伝導性が十分に保てなくなるからである。
【0056】
高分子固体電解質溶液を供給する方法は特に限定されないが、好ましくは、非接触塗工法による。非接触塗工法とは、溶液を転写するロールや溶液を吐出するノズル等を無機固体電解質層に接触させることなく、溶液を供給する方法をいう。非接触塗工法の例としては、スプレー法、空気圧や静電力を利用したディスペンサ、ピエゾ式などの各種インクジェット法が挙げられる。なかでも静電力を利用したディスペンサによる方法やインクジェット法を用いるのが好ましい。低粘度の溶液を供給する場合でも供給量の定量性および面内均一性に優れるので、高分子固体電解質溶液を活物質層および無機固体電解質層の空隙全体に充填し、かつ無機固体電解質層表面に高分子固体電解質溶液の薄い膜を形成できるからである。
【0057】
高分子固体電解質溶液の溶媒を揮発させて乾燥した後、硬化工程S50により、高分子化合物を重合させることで、活物質層内の活物質粒子13の隙間および無機固体電解質層内の無機固体電解質粒子16の隙間に高分子固体電解質14を形成する。これにより、活物質粒子13とその隙間を埋める高分子固体電解質14とを含む電極12と、無機固体電解質粒子16とその隙間を埋める高分子固体電解質14とを含むセパレータ層15が完成する。高分子化合物の重合方法は、熱硬化、紫外線照射、電子線照射のいずれか、またはその組み合わせによって行われる。高分子化合物の重合方法は、好ましくは紫外線照射による。製造設備を簡略化できるからである。
【0058】
なお、溶液供給工程は複数回に分けて実施してもよい。例えば図16に示したように、活物質層を形成する工程S20の後に、活物質層上に高分子固体電解質溶液を供給して活物質層に浸透させる工程S41を設け、無機固体電解質層を形成する工程S30の後に、無機固体電解質層上に高分子固体電解質溶液を供給して無機固体電解質層に浸透させる工程S42を設けてもよい。このように溶液供給工程を2回に分けて実施しても、電極12に含まれる高分子固体電解質14と、セパレータ層15に含まれる高分子固体電解質14は一体に形成される。また、活物質層内の高分子固体電解質溶液と無機固体電解質層内の高分子固体電解質を別の工程に分けて供給することにより、それぞれの層内への高分子固体電解質溶液の供給粘度や浸透性を最適化できるため、各層内での固体固体界面の接合性の改善が図りやすくなるとともに、活物質層内の底面まで確実に高分子固体電解質溶液を浸透させやすくなる。
【0059】
本実施形態の電極シート10の効果を改めて説明すると次のとおりである。
【0060】
電極シートは液体の電解液や高分子ゲル状電解質でなく高分子固体電解質を用いるので漏液のおそれがない。また、本発明者は、高分子固体電解質であっても、その実効厚さが十分に薄ければ電解液や高分子ゲル状電解質を用いた電池に近い充放電特性が得られることに着目した。高分子固体電解質は溶剤で希釈することにより、活物質粒子からなる電極層の粒子間やその表層を非常に薄い電解質で覆うことが可能となる。一方で、高分子固体電解質をかように薄く形成する場合、それ自体を正負電極層のセパレータ層に用いるほどのリチウムデンドライト等に対する耐貫通性や強度を得ることができないが、近年、高分子固体電解質よりイオン伝導性が高い多様な無機固体電解質が開発されており、高分子固体電解質と無機固体電解質を併用してセパレータ層に用いることで、セパレータ層の絶縁性と強度を確保することが可能となった。
【0061】
また、重合の完了した高分子固体電解質を粒子間に含浸させることはできないが、本実施形態の電極シート製造法によれば、低粘度の高分子固体電解質溶液を結着剤によって固定された活物質粒子13の隙間、および無機固体電解質粒子16の隙間に浸透させた後に重合させることによって高分子固体電解質を形成する。したがって、高分子固体電解質溶液を活物質粒子間および無機固体電解質粒子間に充填することが容易であり、高分子固体電解質を電極12内およびセパレータ層15内の広い範囲に、粒子間の微小な隙間を埋めるように形成することが容易である。それにより高分子固体電解質と活物質粒子の接触状態が良く、内部抵抗が低い電池が得られる。また、電極内の高分子固体電解質がセパレータ層内の高分子固体電解質と一体に形成されるので、界面抵抗が抑えられ、内部抵抗が低い電池が得られる。
【0062】
次に、本発明の第2実施形態として、全固体リチウムイオン電池用の他の電極シートを図3および図4に基づいて説明する。本実施形態の電極シートは、電極が第2無機固体電解質粒子を含む点で第1実施形態と異なる。
【0063】
図3において、本実施形態の電極シート20は、集電体11と、電極22と、セパレータ層15がこの順に積層されて構成される。そして、電極22は、活物質粒子13と、第2無機固体電解質粒子17と、活物質粒子と第2無機固体電解質粒子の隙間を埋める高分子固体電解質14を含む。
【0064】
集電体11、活物質粒子13、高分子固体電解質14、セパレータ層15および無機固体電解質16には、それぞれ第1実施形態と同じ構成・材料を用いることができる。電極22に含まれる第2無機固体電解質17はセパレータ層15に含まれる無機固体電解質16と同じく、LLT、LATP、LAGPなどの粒子を用いることができる。好ましくは、第2無機固体電解質17と無機固体電解質16は同じ化合物を用いる。
【0065】
図4において、本実施形態の電極シート20の製造方法は、活物質層を形成する工程S21において、塗工される電極合剤に第2無機固体電解質粒子17が配合される点で第1実施形態のそれと異なる。
【0066】
本実施形態では、第2無機固体電解質粒子17を含むことにより、第1実施形態と比較して、電極内のリチウムイオンの移動度がさらに向上する。
【0067】
次に、本発明の第3実施形態である全固体リチウムイオン電池を図5および図6に基づいて説明する。
【0068】
図5において、本実施形態の全固体電池30は、正極集電体41と、正極42と、セパレータ層35と、負極52と、負極集電体51からなる。正極42は、正極活物質粒子43とその隙間を埋める正極内高分子固体電解質44とを含む。セパレータ層35は、無機固体電解質粒子36とその隙間を埋めるセパレータ層内高分子固体電解質34とを含む。負極52は、負極活物質粒子53とその隙間を埋める負極内高分子固体電解質54とを含む。
【0069】
全固体電池30は、正極シート40と負極シート50を貼り合せたものである。正極シート40と負極シート50はいずれも第1実施形態の電極シートである。正極シートと負極シートを構成する各部材は、第1実施形態の電極シート10で説明したものを使用できる。好ましくは、正極内高分子固体電解質44、セパレータ層内高分子固体電解質34、負極内高分子固体電解質54は、同じ材料を用いる。
【0070】
全固体電池30の厚さは、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは80μm以下である。上記各実施形態の電極シートの構成は、このような薄型の電池に用いる場合に、特に顕著な効果を奏する。全固体電池30を使用するに当たっては、全体を外装材で挟んで周縁部をホットメルト材等でシールすればよい。
【0071】
図6において、本実施形態の全固体電池30の製造方法は、第1実施形態の電極シートである正極シート40を第1電極シートとして製造する工程と、第1実施形態の電極シートである負極シート50を第2電極シートとして製造する工程と、正極シートと負極シートを貼り合わせる接合工程S60とを有する。
【0072】
接合工程S60において、正極シート40と負極シート50は、それぞれのセパレータ層同士が接触するように、つまりそれぞれの集電体41、51が最外面を構成するように貼り合わせられる。これによって、正極シートのセパレータ層と負極シートのセパレータ層が合わさって、全固体電池30のセパレータ層35を形成する。そして、正極内高分子固体電解質44はセパレータ層内高分子固体電解質34の正極42と接する部分と一体に形成されており、負極内高分子固体電解質54はセパレータ層内高分子固体電解質34の負極52と接する部分と一体に形成されている。
【0073】
好ましくは、正極シート40と負極シート50のいずれかまたは両方のセパレータ層の表層、例えば表面から1μm以内の範囲を可塑剤で軟化させた後に、正極シートと負極シートを貼り合せる。これにより、正極シートのセパレータ層と負極シートのセパレータ層の接合状態が改善され、電池の内部抵抗が小さくなる。可塑剤としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、これらの混合物などの有機溶媒を用いることができる。
【0074】
次に、本発明の第4実施形態である全固体リチウムイオン電池を図7図9に基づいて説明する。
【0075】
図7において、本実施形態の全固体電池60は、正極集電体41と、正極42と、セパレータ層65と、負極72と、負極集電体71からなり、第3実施形態の全固体電池30と同じ構造を有する。ただし、その製造方法が第3実施形態と異なる。
【0076】
全固体電池60は、正極シート40と負極シート70を貼り合せたものである。正極シート40は第1実施形態の電極シートである。正極シートを構成する各部材は、第1実施形態の電極シート10で説明したものを使用できる。
【0077】
図8において、負極シート70は、負極集電体71と、負極72からなり、セパレータ層を有しない。負極集電体71、負極72、負極活物質粒子73および負極内高分子固体電解質74には、それぞれ第1実施形態と同じ構成・材料を用いることができる。
【0078】
図9において、本実施形態の全固体電池60の製造方法は、第1実施形態の電極シートである正極シート40を第1電極シートとして製造する工程と、セパレータ層を有しない負極シート70を第2電極シートとして製造する工程と、正極シートと負極シートを貼り合わせる第2接合工程S61とを有する。
【0079】
負極シート70の製造方法は、負極集電体71を準備する工程と、負極集電体上に負極活物質粒子73を含む負極合剤を塗工して負極活物質層を形成する工程と、負極活物質層上に、第2高分子化合物とリチウム塩を含む第2高分子固体電解質溶液を供給して、負極活物質層に浸透させる工程と、第2高分子化合物を重合させることにより、負極活物質層内の負極活物質粒子間に負極内高分子固体電解質74を形成して負極72を完成させる硬化工程とを有する。
【0080】
第2接合工程S61において、正極シート40と負極シート70は、正極シートのセパレータ層と負極シートの負極72が接触するように、つまりそれぞれの集電体41、71が最外面を構成するように貼り合わせられる。本製造方法では、正極シートのセパレータ層が全固体電池60のセパレータ層65を形成する。そして、正極内高分子固体電解質44はセパレータ層内高分子固体電解質64の正極42と接する部分と一体に形成されている。
【0081】
なお本製造方法において、第1実施形態の電極シートである負極シートを第1電極シートとして製造し、セパレータ層を有しない正極シートを第2電極シートとしてもよい。
【実施例
【0082】
まず、発明者は以下の手法により、セパレータ層の無機固体電解質粒子間に高分子固体電解質を形成することで、無機固体電解質粒子間でのリチウムイオン伝導性が効果的に発現することを見出した。すなわち、ポリフッ化ビニリデン(PvDF)を結着剤とする無機固体電解質層をアルミ箔上に形成した後に当該無機固体電解質層内に高分子固体電解質溶液を浸透させ、その上にアルミ箔の対極を接触配置させた後、重合反応によって高分子固体電解質溶液中の高分子を架橋硬化させて無機固体電解質粒子間に高分子固体電解質が浸透した全固体電解質層を形成してそのイオン伝導性を評価した。ここで無機固体電解質粒子には粒子径がおよそ1μmのLi1+xAlGe2-y(PO(LAGP)を用い、高分子固体電解質溶液は重合後に高分子固体電解質の骨格となる高分子化合物、およびリチウム塩と架橋剤、重合開始剤を含み、有機溶媒によって適切な粘度となるように希釈した。
【0083】
得られた全固体電解質層の室温でのリチウムイオン伝導性を交流インピーダンス法を用いて測定した。イオン伝導度σは次式により算出した。
σ=L/(R×S)
式中、σはイオン伝導度(単位:S/cm)、Lは電極間距離(単位:cm)、Rはコール・コールプロットの実数インピーダンス切片より算出した抵抗(単位:Ω)、Sは試料面積(単位:cm)である。結果を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
表1において、高分子固体電解質溶液を塗布する前の無機固体電解質層のイオン伝導度が2.0×10-7S/cmであったのに対して、高分子固体電解質溶液を含浸後に重合硬化して得られた全固体電解質層のイオン伝導度は2.7×10-5S/cmであった。これを全固体電解質層の厚さを5μmとした場合に換算すると5.4×10-2S/5μmとなり、電解液を含まない全固体の電解質層であっても、高分子固体電解質で無機固体電解質の粒子間を埋めることによって良好なリチウムイオン伝導性が発現することが確認された。なお、このときに用いた高分子固体電解質単体のイオン伝導度は6.4×10-5S/cmであった。
【0086】
比較例1として、リチウムイオン電池の正極シートを次のように作製した。正極合剤は、活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO、株式会社豊島製作所、品番:LiCoO微粉末、平均粒径1μm)、導電助剤としてケッチェンブラック(KB)、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を重量比で95:2:3の割合で混合し、固形分比率が52重量%となるようにNメチル2ピロリドン(NMP)を加えてペースト化した。この正極合剤ペーストを、厚さ20μmのアルミ箔上に50mm×50mmの大きさにスクリーン印刷で塗工し、80℃~120℃で2時間乾燥させて、厚さ15μmの正極活物質層を形成した。高分子固体電解質溶液は、高分子化合物としてのポリエチレンオキシド(PEO)に光重合開始剤とリチウム塩としてのLiTFSを混合し、溶媒としてNMPを加えて粘度調整した。この溶液を正極活物質層表面にインクジェット法により供給し、正極活物質層の全域に充填した後、紫外線を照射して高分子化合物を架橋させた。これにより、正極活物質粒子間に高分子固体電解質相が形成され、かつ正極活物質層上に厚さ5μmの高分子固体電解質層が形成された。
【0087】
この正極シートを用いて評価用電池を次のように作製し、充放電試験を行った。正極シートを10mm×10mmの大きさに切り取り、非水電解液(1mol/L-LiPF、EC:EMC=3:7)を必要最少量に含浸した厚さ25μmの多孔性フィルム(材質:ポリプロピレン)をセパレータフィルムとして用いて、リチウム金属箔と積層することにより、評価用電池を作製した。充放電試験の条件は、充電は電流20μA、電圧4.3Vの定電流定電圧充電、充電時間10時間とし、放電は電流20μA、終止電圧3.0Vの定電流放電とした。図10に結果を示す。
【0088】
比較例2として、比較例1と同様にアルミ箔上に正極活物質層を形成し、高分子固体電解質溶液を塗工せずに非水電解液を含むセパレータフィルムを介してリチウム金属箔と積層することにより、評価用電池を作製した。この評価用電池の正極シートの大きさは比較例1と同じく10mm×10mmである。結果を図11に示す。
【0089】
図10図11を比較すると、通常の非水電解液を用いた比較例2の方が電池容量が大きかった。それでもなお、正極活物質粒子の隙間を高分子固体電解質で埋めた比較例1の正極シートが良好なリチウムイオン伝導性を有していることが確認できた。
【0090】
比較例3として、リチウムイオン電池の負極シートを次のように作製した。負極合剤は、活物質として人造黒鉛(昭和電工株式会社、品番:SCMG、平均粒径5μm)、導電助剤としてKB、結着剤としてPVdFを重量比で96:1:3の割合で混合し、固形分比率が50重量%となるようにNMPを加えてペースト化した。この負極合剤ペーストを、厚さ15μmの銅箔上に50mm×50mmの大きさにスクリーン印刷で塗工し、80℃~120℃で2時間乾燥させて、厚さ15μmの負極活物質層を形成した。比較例1と同じ高分子固体電解質溶液を負極活物質層表面にインクジェット法により供給し、負極活物質層の全域に充填した後、紫外線を照射して高分子化合物を架橋させた。これにより、負極活物質粒子間に高分子固体電解質相が形成され、かつ負極活物質層上に厚さ5μmの高分子固体電解質層が形成された。
【0091】
得られた負極シートを10mm×10mmの大きさに切り取り、比較例1と同じセパレータフィルムを介してリチウム金属箔と積層して評価用電池を作製し、比較例1と同じ条件で充放電試験を行った。図12に結果を示す。図12の試験結果から、比較例3の負極シートが負極活物質粒子の隙間を高分子固体電解質で埋めた構造であってもなお、良好なリチウムイオン伝導性を有することが確認できた。
【0092】
実施例1として、上記第1実施形態のリチウムイオン電池用正極シートを次のように作製した。正極合剤は、比較例1と同様に準備した。この正極合剤ペーストを比較例1と同様に厚さ20μmのアルミ箔上に50mm×50mmの大きさにスクリーン印刷で塗工し、80℃~120℃で2時間乾燥させて、厚さ15μmの正極活物質層を形成した。電解質合剤は、LAGP:PVdF=97:3(重量比)で混合し、固形分比率が69重量%となるようにNMPを加えてペースト化した。この電解質合剤ペーストを、正極活物質層上に56mm×56mmの大きさにスクリーン印刷で塗工し、80℃で20分間乾燥させて、正極活物質層上に厚さ10μmの無機固体電解質層を形成した。比較例1と同じ高分子固体電解質溶液を無機固体電解質層表面にインクジェット法により供給し、静置して正極活物質層および無機固体電解質層の空隙全域を充填した後、紫外線を照射して高分子化合物を架橋させた。これにより、正極活物質層上にセパレータ層が形成された。セパレータ層の厚さは13μmで、すなわち、表層3μmの領域は無機固体電解質粒子を含まず、高分子固体電解質のみを含んでいた。
【0093】
得られた正極シートを比較例1と同様にセパレータフィルムを介してリチウム金属箔と積層して評価用電池を作製し、比較例1と同じ条件で充放電試験を行った。図13に結果を示す。
【0094】
また比較例4として、実施例1と同様に、アルミ箔上に正極活物質層および厚さ10μmの無機固体電解質層を形成し、高分子固体電解質溶液を塗工せずに非水電解液を含むセパレータフィルムを介してリチウム金属箔と積層することにより、評価用電池を作製し、比較例1と同じ条件で充放電試験を行った。図14に結果を示す。
【0095】
図13図14を比較すると、正極活物質粒子間と無機固体電解質粒子間の電解質相が固体であることと液体であることの違いによる電池容量の差が確認されたが、それでもなお、第1実施形態の正極シートが良好なリチウムイオン伝導性を有していることが確認できた。
【0096】
なお、実施例1の正極合剤および/または電解質合剤に、PVdFに代えてイオン導電性結着剤(ICB)を用いることもできる。その場合、例えば、正極合剤はLiCoO:KB:ICBを重量比で95:2:3の割合で、電解質合剤はLAGP:ICBを重量比で97:3の割合で混合してNMP等を加えてペースト化すれば、他は実施例1と同じ方法で上記第1実施形態のリチウムイオン電池用正極シートを作製できる。
【0097】
実施例2として、上記第4実施形態の全固体電池を、実施例1の正極シートと比較例3の負極シートを貼り合せることにより作製した。貼り合せる際に両電極シートの集電体端部がショートすることを防ぐため、負極シートは50mm×50mm、正極シートは無機固体電解質を含むセパレータ層の大きさを56mm×56mmとして、負極シートが正極シートの中に納まるように配置した。また、負極シートと正極シートを貼り合せる際に、正極シートのセパレータ層の表面に可塑剤を塗り拡げてから、負極シートと貼り合せた。これにより、完全固体化した正極シートと負極シートの表層部のみを溶解して固体/固体界面の接合性を高めることができる。
【0098】
充放電試験を、充電は電流100μA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電、充電時間60分、放電は電流100μA、終止電圧1.0Vの定電流放電の条件で実施した結果を図15に示す。図15から、実施例2の電池が安定に充放電動作することが確認された。
【0099】
比較例5の電池を、比較例1の正極シートと比較例3の負極シートを、実施例2と同様に貼り合せて作製した。正極シートと負極シートはいずれも表面に厚さ5μmの高分子固体電解質層を有していた。充放電試験を行ったところ、時間が経っても充電電圧が上がらなかった。その原因は明らかではないが、何らかのリーク電流が生じたためと考えられる。
【0100】
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0101】
10、20 電極シート
11 集電体
12、22 電極
13 活物質
14 高分子固体電解質
15 セパレータ層
16 無機固体電解質
17 第2無機固体電解質
30、60 全固体電池
34、64 セパレータ層内高分子固体電解質
35、65 セパレータ層
36、66 無機固体電解質
40 正極シート(第1電極シート)
41 正極集電体
42 正極
43 正極活物質
44 正極内高分子固体電解質
50 負極シート(第2電極シート)
51 負極集電体
52 負極
53 負極活物質
54 負極内高分子固体電解質
70 負極シート(第2電極シート)
71 負極集電体(第2集電体)
72 負極
73 負極活物質(第2活物質)
74 負極内高分子固体電解質
図1
図2
図3
図4
図5
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