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▶ タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップの特許一覧

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  • 特許-塗装部品用鋼基材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】塗装部品用鋼基材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220506BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20220506BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C22C38/60
C21D9/46 G
C21D9/46 J
C21D9/46 K
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019520583
(86)(22)【出願日】2017-10-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-05
(86)【国際出願番号】 EP2017076184
(87)【国際公開番号】W WO2018073117
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-10-13
(31)【優先権主張番号】16194227.1
(32)【優先日】2016-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】マキシム、ペーテル、アールンツ
(72)【発明者】
【氏名】ヨブ、アントニウス、ファン、デル、フーフェン
(72)【発明者】
【氏名】エドガー、マテイス、トゥース
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-163388(JP,A)
【文献】特開平10-046289(JP,A)
【文献】特開平11-310849(JP,A)
【文献】特開平10-088238(JP,A)
【文献】特開昭63-111156(JP,A)
【文献】特開2001-288549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
B21B 1/00 - 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装部品に使用される鋼ストリップ、シート又はブランクであって、
前記ストリップ、シート又はブランクは、金属コーティングされていてもよく、
前記鋼は、重量%で、以下の組成:
C:最大0.007
Mn:最大1.2
Si:最大0.5
Al:最大0.1
P:最大0.15
S:0.003~0.045
N:最大0.01
Ti,Nb,Mo:
Ti≧0.005かつNb≧0.005の場合は、0.06≦4Ti+4Nb+2Mo≦0.60
その他の場合は、0.06≦Ti+2Nb+2Mo≦0.60
以下の任意元素の1種又は2種以上:
Cu:最大0.10
Cr:最大0.06
Ni:最大0.08
B:最大0.0015
V:最大0.01
Ca:最大0.01
Co:最大0.01
Sn:最大0.01
鉄及び不可避的不純物である残部
を有する超低炭素(ULC)鋼であり、メジアン結晶粒径が11.0マイクロメートル未満である本質的に等軸の結晶粒を有し、
Wsa(成形)-Wsa(平坦)として定義される、前記ストリップ、シート又はブランクの成形による表面のデルタうねりΔWsa、0.12μm以下であ
Wsa(成形)及びWsa(平坦)は、
前記鋼ストリップ、シート又はブランクから145mm×145mmのサンプルを調製し、
次いで、直径75mmを有する中空パンチを用いて前記サンプルをプレスして、底部の厚さ歪みが9%±0.3%であるカップを製造し、ここで、前記厚さ歪みは、(t(当初)-t(変形))/t(当初)×100%[式中、t(当初)は、未変形時の厚さであり、t(変形)は、変形後の厚さである。]として定義され、
次いで、Wsa(成形)及びWsa(平坦)をSEP1941に従って測定する
ことにより測定され、
Wsa(成形)は、金属コーティングされていてもよい、前記サンプルの成形後の表面のWsa値であり、
Wsa(平坦)は、金属コーティングされていてもよい、前記サンプルの成形前の表面のWsa値であり、
Wsa(成形)及びWsa(平坦)は、圧延方向で測定される、前記鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項2】
Ti、Nb及びMoの量が、重量%で、Ti≧0.005かつNb≧0.005の場合は、0.06≦4Ti+4Nb+2Mo≦0.30であり、その他の場合は、0.06≦Ti+2Nb+2Mo≦0.10である、請求項1に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項3】
Ti、Nb及びMoの量が、C、N及びSのレベルに対して、すべて重量%で、
Ti(遊離)≦0の場合は、Ti(c)=0、その他の場合は、Ti(c)=Ti(遊離)、ここで、Ti(遊離)=Ti-3.43N-1.5S、かつ、
0.0008≦Csol≦0.0033、ここで、Csol=C-0.125Mo-0.129Nb-0.25Ti(c)
となるように調整されており
前記鋼ストリップ、シート又はブランクが、焼付硬化型超低炭素鋼ストリップ、シート又はブランクである、請求項1又は2に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項4】
前記本質的に等軸の結晶粒が、10.0マイクロメートル未満のメジアン径を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項5】
Wsa(平坦)≦0.35μmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項6】
Wsa(平坦)≦0.32μmである、請求項5に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項7】
前記ストリップ、シート又はブランクが、亜鉛系コーティング、Zn-Al-Mg系コーティング又はアルミニウム系コーティングでコーティングされている、請求項1~の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項8】
前記亜鉛系コーティングが、0.1~1.2重量%のアルミニウムと、0.3重量%以下の他の元素と、不可避的不純物及び亜鉛である残部とからなる、請求項7に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項9】
前記Zn-Al-Mg系コーティングが、0.2~3.0重量%のアルミニウムと、0.2~3.0重量%のマグネシウムと、0.3重量%以下の他の元素と、不可避的不純物及び亜鉛である残部とからなる、請求項7に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項10】
前記アルミニウム系コーティングが、0.2~13重量%のケイ素と、0.3重量%以下の他の元素と、不可避的不純物及びアルミニウムである残部とからなる、請求項7に記載の鋼ストリップ、シート又はブランク。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の鋼ストリップを製造する方法であって、
前記鋼ストリップが、熱間圧延及び冷間圧延され、冷間圧延ミルの最後のスタンド又は唯一のスタンドが、0.5μm以上7.0μm以下の粗さRaを有する加工ロールを含む、前記方法。
【請求項12】
前記最後のスタンド又は前記唯一のスタンドにおける前記加工ロールの前記粗さRaが、0.55μm以上5.0μm以下である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記最後のスタンド又は前記唯一のスタンドにおける前記加工ロールの前記粗さRaが、0.6μm以上4.0μm以下である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記最後のスタンド又は前記唯一のスタンドにおける前記加工ロールの前記粗さRaが、0.6μm以上2.0μm以下である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記冷間圧延ミルが、前記唯一のスタンドを含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記冷間圧延ミルが、最初のスタンドと前記最後のスタンドとからなる2つのスタンドを含み、前記最初のスタンドの加工ロールが、0.6μm以上3.0μm以下の粗さRaを有する、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記冷間圧延ミルが、最初のスタンドと1つ又は2つ以上の中間のスタンドと前記最後のスタンドとからなる3つ以上のスタンドを含み、前記最初のスタンドの加工ロールが、0.6μm以上3.0μm以下の粗さRaを有し、前記1つ又は2つ以上の中間のスタンドの加工ロールが、0.3μm以上0.8μm以下の粗さRaを有する、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記冷間圧延されたストリップが、0.5μm以上4.0μm以下の粗さを有する調質ロールを使用してスキンパスされる、請求項1117のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記冷間圧延されたストリップが、2.8μm以下の粗さを有する調質ロールを使用してスキンパスされる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記冷間圧延されたストリップが、金属コーティングを施した後にスキンパスされる、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
請求項1120のいずれか一項に記載の方法で製造されたストリップであって、
前記ストリップの表面が、4μm以上12μm以下のコーティング厚さを有するアルミニウム系コーティングでコーティングされたストリップに関して、前記ストリップの圧延方向において、2.0μm未満の粗さRa及び0.6μm未満のうねりWsaを有する、前記ストリップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装部品(例えば、自動車のための塗装部品)に使用される鋼ストリップ、シート又はブランクに関する。本発明はまた、そのようなストリップ、シート又はブランクを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装鋼部品、例えば、フード及びドア等の自動車の外側パネルのための塗装鋼部品は、それらの生産者による厳しい要求を受ける。これらの要件の一つは、塗装部品の塗装外観に関する。
【0003】
塗装部品を製造するための鋼基材は、通常、金属コーティング、例えば、亜鉛系コーティングでコーティングされる。製造業者は、プレスにおいて(コーティングされた)基材をパネル用の所望の形状に成形する。プレス後、パネルは、通常、1以上の塗料層(paint layer)で塗装される。
【0004】
外側パネルが、非常に良好な塗装外観を有する場合、すなわち、パネルが歪むことなく光を反射し、シャープな反射画像をもたらす鏡のような表面を有する場合、その価値は非常に高い。塗料の外観は、塗料の品質によって影響を受けるが、(コーティングされた)基材の表面によっても影響を受ける。この表面は、可変サイズ及び大きさ(amplitude)の面内構造からなる。より小さな構造は、表面粗さによって捉えられる一方、より大きな構造は、いわゆる表面うねりによって捉えられる。
【0005】
より大きい表面構造、例えば、表面のうねりは、異なる塗料層を通じて伝達する(transmitted)ことが、当業者に知られている。例えば、(コーティングされた)基材の表面のうねりは、ある程度まで依然として外側の塗料層の表面に存在する。塗装部品の塗装外観は測定することができ、異なる測定値、例えば、BYKウェーブスキャンデュアル(BYK Wavescan Dual)を使用して測定される場合の長いうねりLW(Long Waviness LW)によって表される。伝達効果(Transmission effect)によって、塗装部品の長いうねり又は類似の値は、塗装されていない成形部品の表面のうねりに関連している。LWと(コーティングされた)基材表面のうねりとの間の典型的な関係は、例えば、Cannes Conference:Lightweight Design:New High Performance Steel with Optimized Paint Appearance for New Car Bodies, Matthijs Toose,28th International Conference on Automotive Body Finishing “Surcar”,June 18-19 2015, Cannes、又は、Bad Nauheim conference: Car Body Painting 2015,32nd Workshop of the 1st German Automotive Circle, 9-10 November 2015, Bad Nauheimで与えられている。プレス加工又は成形加工を施した後に表面のうねりを測定する必要があることを認識することが重要である。
【0006】
成形部分の表面のうねりは、未変形部分(例えば、平坦部分)の表面のうねり及び成形工程によって導入されるうねりの増加の結果であることが当業者に知られている。成形部分のうねりと未変形部分のうねりとの間の差は、デルタうねり(例えばΔWsa)と呼ばれている。ストリップ製品の製造方法の特定の性質により、成形された表面は、線状パターンを示し、線状パターンにおける線は、圧延方向に対して垂直である。この観察の意味するところは、デルタうねりが他の方向よりも圧延方向においてより高いということである。この方向効果は、塗装外観値にも強く存在しているので、圧延方向のデルタうねりを出来るだけ大きくすることが重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、良好な塗装外観を提供するうねりを有する塗装部品用鋼ストリップ、シート又はブランクを提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、良好な塗装外観を与えるうねりを有する鋼ストリップを製造することができる方法を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、デルタうねりを制御することができる鋼ストリップ、シート又はブランクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、塗装部品に使用される鋼ストリップ、シート又はブランクであって、
前記ストリップ、シート又はブランクは、金属コーティングされていてもよく、
前記鋼は、重量%で、以下の組成:
C:最大0.007
Mn:最大1.2
Si:最大0.5
Al:最大0.1
P:最大0.15
S:0.003~0.045
N:最大0.01
Ti,Nb,Mo:
Ti≧0.005かつNb≧0.005の場合は、0.06≦4Ti+4Nb+2Mo≦0.60
その他の場合は、0.06≦Ti+2Nb+2Mo≦0.60
以下の任意元素の1種又は2種以上:
Cu:最大0.10
Cr:最大0.06
Ni:最大0.08
B:最大0.0015
V:最大0.01
Ca:最大0.01
Co:最大0.01
Sn:最大0.01
鉄及び不可避的不純物である残部
を有する超低炭素(ULC)鋼であり、
Wsa(成形)-Wsa(平坦)[式中、Wsa(成形)は、金属コーティングされていてもよい、成形後の基材表面のWsa値であり、Wsa(平坦)は、必要に応じて金属コーティングされていてもよい、成形前の基材表面のWsa値である。]として定義される、前記ストリップ、シート又はブランクの成形による表面のデルタうねりΔWsaが、0.12μm以下である、前記鋼ストリップ、シート又はブランクが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、冷間圧延ミルの最後のスタンドの粗さが、得られるΔWsaに大きな影響を与える可能性があることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、低いデルタうねりΔWsa、特に0.12μm以下のΔWsaを有する部品を製造するために、超低炭素鋼が必要であることを見出した。
【0013】
ULC鋼は、高い成形性が要求される用途に適している。超低炭素鋼中の炭素は、深絞りのために固溶体中の炭素が好ましい再結晶集合組織に有害な影響を与えるので、低く保たれるべきである。特殊なタイプのULC鋼であるIF(interstitial free)鋼では、固溶体中の炭素を避けるためにすべての炭素が析出している。特殊なタイプのULC鋼でもあるBH(焼付硬化型)鋼では、焼付け中の強度増加から利益を得るために限定されたレベルの炭素が固溶体に保持され、残りの炭素も析出されるべきである。両方の場合において、炭素の全量は0.007重量%以下であるべきであり、そうでなければ、形成された析出物の量及びサイズが成形性を妨げる。成形性をさらに改善するために、本発明の合金中の炭素は、0.005重量%以下であることが好ましい。
【0014】
マンガンは固溶体強化元素であり、したがって強度を高めるために添加することができるが、深絞り性に悪影響を及ぼす。このため、Mnレベルは1.2重量%以下に維持されるべきである。さらに、MnSの形成は、好ましいT析出物の形成を妨げる可能性がある。後者の理由から、そして成形性を過度に妥協しないために、1.0重量%以下のMnであることが好ましく、0.8重量%以下のMnであることがさらに好ましい。
【0015】
ケイ素も固溶体強化元素であり、したがって強度を高めるために添加することができる。しかしながら、Siレベルが高すぎると、MnSiOスピネル型酸化物及び/又はSiOが形成されるためにコーティングの接着性が低下する可能性がある。このため、Siレベルは、0.5重量%以下、さらに好ましくは0.25重量%以下である。
【0016】
リンは非常に強力な溶液強化元素であるが、高レベルのPは、特にIF鋼において延性-脆性-遷移-温度(DBTT:Ductile-to-Brittle-Transition-Temperature)を過度に上昇させる可能性がある。ホウ素を添加するとこれを相殺することができるが、それにもかかわらず、Pレベルは0.15重量%以下であるべきである。さらに、高レベルのPは、望まれないFe-Ti- P析出物の形成への変化を増大させる。このため、最大Pレベルを0.10重量%に保つことが好ましい。
【0017】
硫黄は、好ましいTi析出物が確実に形成されるようにするために必要である。しかしながら、Sのレベルが高すぎると、熱間圧延中にTiCの形成が抑制され、それが急速な再結晶化とそれに続く結晶粒成長をもたらす。したがって、本発明にとって、Sを0.045重量%以下、さらに好ましくは0.02重量%以下に制限することが重要である。
【0018】
アルミニウムは主に残存する酸素と結合するために添加されるが、窒素で析出させるためにも使用することができる。酸素を結合させるために、0.01重量%の最小アルミニウムレベルが好ましい。アルミニウムのレベルが上がると、鋳造中の目詰まりのリスクも高まる。このため、Alの最大量は0.1重量%に設定される。
【0019】
固溶体中の窒素は、成形性を阻害する侵入元素として存在する。したがって、それを完全に析出させるべきである。通常、全てのNを確実に析出させるために、Ti、Al又はBが添加される。それにもかかわらず、Nレベルは0.01重量%を超えてはならず、Nの量は好ましくは0.006重量%以下であるべきである。
【0020】
チタン、ニオブ及びモリブデンは強力な結晶粒微細化剤であり、これらの元素のうちの少なくとも1つの存在は本発明にとって必須である。Nb及びMoは、Tiよりも結晶粒微細化剤としてさらに強力である。本発明者らの観察に基づいて、Nb及びMoは約2倍有効である(重量%で与えた場合)。さらに、TiとNbの両方が存在する場合、それらは、それらの組み合わせの存在が、Tiのみと比較して結晶粒微細化剤として約4倍有効であるように互いに増強する。これらの元素は、それらがN及び/又はCと共に析出し、そして形成された析出物が再結晶及び結晶粒成長を妨げるので、機能する。Nbはまた、固溶体中にあると再結晶及び結晶粒成長を妨げることが知られている。バナジウムも機能する可能性があるが、バナジウム析出物は冷間圧延後の焼鈍に使用される温度で溶解する可能性があり、そのためこれらの析出物の効果が低下する。
【0021】
BH合金の場合、固溶体中の炭素量は重要であり、制御する必要がある。Ti、Nb、Mo及びVは炭素と共に析出するので、それらは固溶体中のCの量を制御するためにも重要である。BH鋼では、C、N、Ti、Mo、V、Nbの間のバランスを慎重に調整する必要がある。IF鋼では、いくらかの過剰なTi又はNbが許容され得る。これは、Tiを0.06重量%以上0.60重量%以下、又は、Nbを0.03重量%以上0.30重量%以下、又は、Moを0.03重量%以上0.30重量%以下に制限する。これら3つの元素の組み合わせも可能であり、その場合、4×(Ti+Nb)+2×Moは、0.06重量%以上0.6重量%以下であるべきである。
【0022】
本発明者らは、Ti、Nb及びMoの量が特に重要であることを見出した。Ti又は2×Nb又は2×Moの量は、少なくとも0.06重量%でなければならないか、あるいは、これらの元素を組み合わせたときに、4×(Ti+Nb)+2×Moの量は、少なくとも0.06重量%でなければならない。より低いレベルのTi、Nb、Mo又はこれらの組み合わせでは、ULC鋼は、適切なΔWsaを有する鋼部品をもたらさない。0.60重量%を超えるTi、0.30重量%を超えるNb、又は0.30重量%を超えるMoが使用される場合、あるいは、これらの元素が、4×(Ti+Nb)+2Mo(すべて重量%)が0.6を超える量で組み合わされる場合、ULC鋼は改善されないか、鋼の性能が低下する可能性さえある。
【0023】
銅は最大0.10重量%まで許容される。それは、CuSの形成をもたらし、適切なディメンジョンでも、再結晶及び結晶粒成長を妨げる可能性があるが、それはまた、より望ましいTiと競合する。したがって、最大レベルが0.04重量%であることがより好ましい。
【0024】
クロム及びニッケルは基本的に不純物であるが、それぞれ、最大で0.06重量%及び0.08重量%であれば、害はない。それにもかかわらず、それぞれについて最大0.04重量%であることがより好ましい。
【0025】
ホウ素は侵入型元素であるので、固溶体中のホウ素は可能な限り低く保たれるべきであり、Bを最大0.0015重量%に制限する。特にP合金化IF鋼において、DBTTが高すぎる可能性を減らすために、ホウ素を添加することができる。全てのNが析出することを確実にするために、それを加えることもできる。一方、Bが0.0008重量%を超えると、表面欠陥が生じる可能性があるので、Bのより好ましい範囲は0.0005~0.0008重量%である。
【0026】
コバルト及びスズは基本的に不純物であるが、両方とも、最大0.04重量%を許容することができる。
【0027】
カルシウムは、脱酸及び/又は脱硫のために鋼中に最大0.005重量%まで添加されることがある。特性を劣化させることなく最大0.01重量%までのレベルを許容することができる。
【0028】
好ましくは、ULC鋼の上記組成において、Ti、Nb及びMoの量は、重量%で、以下の通りである。
【0029】
Ti≧0.005かつNb≧0.005の場合は、0.06≦4Ti+4Nb+2Mo≦0.30
その他の場合は、0.06≦Ti+2Nb+2Mo≦0.10
【0030】
Ti、Nb及びMoの組み合わせについての式の上限は、0.30であることが好ましい。これらの元素がそのような高い量で必要とされることは珍しいからである。同じ理由で、Ti及び/又はNb≦0.005の場合、より好ましい上限値は0.1重量%である。
【0031】
好ましい実施形態によれば、焼付硬化型超低炭素鋼ストリップ、シート又はブランクが使用され、Ti、Nb及びMoの量は、すべて重量%で、C、N及びSのレベルに対して、以下のように調整される。
【0032】
Ti(遊離)≦0の場合は、Ti(c)=0、その他の場合は、Ti(c)=Ti(遊離)、ここで、Ti(遊離)=Ti-3.43N-1.5S、かつ、
0.0008≦Csol≦0.0033、ここで、Csol=C-0.125Mo-0.129Nb-0.25Ti(c)
【0033】
さらに、Ti及びNbがともに>0.005重量%である場合は、0.06≦4(Ti+Nb)+2Mo≦0.60重量%、その他の場合は、0.06≦Ti+2Nb+2Mo≦0.60重量%である。
【0034】
BH鋼(焼付硬化型鋼)の場合、いくらかの遊離炭素(Csol)が焼付硬化応答に不可欠であり、これが、Csolに関する下限値である。Csolのレベルが高すぎると、焼付硬化効果の代わりに素早い自然なエージングが発生する可能性があり、これが、Csolに関する上限値である。
【0035】
本発明の第2の態様によれば、鋼は、11.0マイクロメートル未満の本質的に等軸のメジアン結晶粒径(essentially equi-axed median grain size)を有する結晶粒を有する。
【0036】
本発明者らは、結晶粒径が、うねり、特にΔWsaを決定するための重要な決定因子であることを見出した。多数の鋼サンプルの結晶粒径及びΔWsaを決定することによって、本発明者らは、結晶粒径とΔWsaとの間の関係を決定することができ、メジアン結晶粒径が11.0マイクロメートル未満である本質的に等軸の結晶粒は、ΔWsa≦0.12μmであるストリップ、シート又はブランクの表面をもたらす。Wsaは、標準SEP1941で定義されている。結晶粒径とΔWsaとの間の関係は、鋼基材の結晶粒径が制御されるときに0.12μm以下の所望のΔWsaを有する鋼ストリップ、シート及びブランクを製造することを可能にする。結晶粒径は、連続焼鈍及び場合により金属コーティングの後の結晶粒径である。本発明者らは、主に自動車の外側パネル等の塗装部品に使用される超低炭素鋼タイプと組み合わせる場合、結晶粒径が11.0マイクロメートル未満であるべきであり、鋼の組成が上記の通りである場合、適切な結晶粒径を有する結晶粒(すなわち、平均結晶粒径が11.0マイクロメートル未満である本質的に等軸の結晶粒)が組み合わされることを見出した。
【0037】
実質的に等軸とは、横断面(RD/ND平面)において、RDにおいて平行な直線と交差する粒界の数を、NDにおいて等しい長さの直線と交差する粒界の数で割った値が、少なくとも0.66であることを意味する。直線は、NDと同様に、RDでも少なくとも200の交点を生み出すのに十分な長さであるべきである。あるいは、RDとNDのすべての交点の合計が少なくとも200となるように、均等に分布する複数の線で手順が繰り返される。後者の場合、RDとNDの交差点の数は分割される前に線上で合計される。本発明者らは以下の手順を用いた。
【0038】
横断面(RD/ND平面)において、10本の直線と交差し、ND(法線方向)に均等に分布し、RD(圧延方向)に平行に分布する粒界の数を測定した。また、RD上に均等に分布し、NDに平行な10本の直線と交差する粒界の数も測定した。RD及びNDの線は同じ長さであり、1つの線あたり少なくとも20個の粒界交差を生じるのに十分な長さであった。RD内のすべての線にわたる交差の総数を、ND内のすべての線にわたる交差の総数で割ったところ、すべての場合でこの数は≧0.66であった。
【0039】
メジアン結晶粒径が11,0マイクロメートル未満である本質的に等軸の結晶粒を有することは重要な条件であるが、最良の結果を得るためには他の条件も同様に重要である。冷間圧延ミルの最後のスタンドにおける粗さ及び調質ミル(temper mill)の粗さ並びに冷間圧延ミルの最後のスタンド及び調質ミルにおいて与えられる減少(reductions)は、制御される必要があるパラメータである。これは当業者に知られている。
【0040】
好ましくは、本質的に等軸の結晶粒は、10.0マイクロメートル未満のメジアン結晶粒径を有する。結晶粒径が小さいほど、ΔWsaが低くなる。小さいメジアン結晶粒径は、0.10又はそれより小さいΔWsaを生じ得る。
【0041】
好ましい実施形態によれば、ストリップ、シート又はブランクの未変形鋼表面は、0.35μm以下のうねりWsa、好ましくは0.32μm以下のうねりWsa、さらに好ましくは0.29μm以下のうねりWsa、さらに一層好ましくは0.26μm以下のうねりWsaを有する。ここで、うねりWsaは、圧延方向で測定される。ΔWsaと組み合わされた未変形鋼表面のうねりが、成形部品のWsaを決定した。
【0042】
好ましくは、ストリップ、シート又はブランクは、亜鉛系コーティング、Zn-Al-Mg系コーティング、又はアルミニウム系コーティングでコーティングされている。亜鉛系コーティングは、好ましくは、0.1~1.2重量%のアルミニウムと、0.3重量%以下の他の元素と、不可避的不純物及び亜鉛である残部とからなり、又は、Zn-Al-Mg系コーティングは、好ましくは、0.2~3.0重量%のアルミニウムと、0.2~3.0重量%のマグネシウムと、0.3重量%以下の他の元素と、不可避的不純物及び亜鉛である残部とからなり、又は、アルミニウム系コーティングは、好ましくは、0.2~13重量%のケイ素と、0.3重量%以下の他の元素と、不可避的不純物及びアルミニウムである残部とからなる。
【0043】
これらのコーティングは自動車産業で使用されており、好ましくは、鋼ストリップ、シート又はブランクをコーティングするために使用されている。言及された他の元素は、Si、Sn、Bi、Sb、Ln、Ce、Ti、Sc、Sr及び/又はBであり得る。
【0044】
本発明の第3の態様によれば、本発明の第1又は第2の態様による鋼ストリップを製造する方法であって、鋼ストリップが熱間圧延及び冷間圧延され、冷間圧延のための最後のスタンド又は唯一のスタンドが、0.5μm以上7.0μm以下の粗さRaを有する加工ロール(work roll)を含む。
【0045】
本発明者らは、本発明の第1の態様について示したように、鋼ストリップの結晶粒径が十分に微細である場合、冷間圧延ミルの最後のスタンドにおいて、0.5μm以上7.0μm以下の粗さRaを有する加工ロールを使用できることを見出した。冷間圧延ミルの最後のスタンドの粗さを低下させることが、さらに成形後にWsa値を低下させるのに有益であることは当業者に知られている。しかしながら、本発明者らは、冷間圧延ミルの最後のスタンドにおいて、0.5μm未満の粗さRaを有する加工ロールを使用する必要がないことを見出した。0.5μm未満の粗さRaを有する加工ロールを使用することは、製造のために非常に特別な研削作業を必要とするので不利である。
【0046】
最後のスタンド又は唯一のスタンドにおける加工ロールの粗さRaは、好ましくは0.55μm以上5.0μm以下、さらに好ましくは0.6μm以上4.0μm以下、最も好ましくは0.6μm以上2.0μm以下である。本発明者らは、これらの範囲内の粗さを有する加工ロールが良好な結果をもたらすことを見出した。
【0047】
冷間圧延ミルが1つのスタンドを含むとき、加工ロールは、0.5μm以上7.0μm以下の粗さRaを有するべきである。
【0048】
冷間圧延ミルが2つのスタンドを含む場合、最初のスタンドの加工ロールは、0.6μm以上3.0μm以下の粗さRaを有するべきであり、最後のスタンドの加工ロールは、0.5μm以上7.0μm以下の粗さRaを有するべきである。
【0049】
冷間圧延ミルが3つ以上のスタンドを含む場合、最初のスタンドの加工ロールは、0.6μm以上3.0μm以下の粗さRaを有するべきであり、中間のスタンドの加工ロールは、0.3μm以上0.8μm以下の粗さRaを有するべきであり、最後のスタンドの加工ロールは、0.5μm以上7.0μm以下の粗さRaを有するべきである。
【0050】
上記のことは、本発明者らが、ストリップが冷間圧延ミルを離れる前に使用される加工ロールが常に0.5μm以上7.0μm以下の粗さRaを有するべきであることを見出したことを示す。別の最初のスタンドを使用する場合、その粗さは0.6μm以上3.0μm以下でなければならない。中間のスタンドが存在する場合、これらは低い粗さ、すなわち0.3μm以上0.8μm以下の粗さを有するべきである。
【0051】
上記の場合において、0.5μm以上7.0μm以下の粗さRaが示される場合、より限定された範囲も適用できることを理解されたい。
【0052】
好ましくは、冷間圧延されたストリップは、好ましくは金属コーティングが施された後、0.5μm以上4.0μm以下の粗さ、好ましくは2.8μm以下の粗さを有する調質ロールを使用してスキンパス(skin passed)される。スキンパスロールの粗さは、形成されるストリップ、ブランクのシートに転写され、それによって平坦な製品のうねりに強い影響を与える。
【0053】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第3の態様による方法で製造されたストリップであって、ストリップの表面が、4μm以上12μm以下のコーティング厚さを有するアルミニウム系コーティングでコーティングされたストリップに関して、ストリップの圧延方向において、2.0μm未満の粗さRa及び0.6μm未満のうねりWsaを有するストリップが提供される。
【0054】
好ましくは、ストリップは、ストリップの圧延方向において、0.7μm以上1.6μm以下の粗さRa及び0.15μm以上0.35μm以下のうねりWsaを有する。
【実施例
【0055】
いくつかのBH及びIF合金について、カッピング(cupping)前後の結晶粒径及びうねりWsaを測定した。
【0056】
全てのサンプルは、5スタンド冷間ミルで冷間圧延されたコイルに由来するものであった。第1のスタンドは、Raが1.2±0.2μmである研削粗さ(ground roughness)を有していた。第2、第3及び第4のスタンドは、Raが0.6±0.2μmである研削粗さを有していた。最後のスタンドは、Raが4.5±0.2μmであるEDT粗さを有していた。冷間圧延後、コイルを連続的に焼鈍し、最高温度を810±20℃とし、溶融亜鉛めっきを470±10℃で行った。エアナイフを使用してコーティングの厚さを調整し、エアナイフの直後に冷却を行ってコーティングを固化させた。最後に、ストリップを調質圧延(temper rolled)した。調質ミルの粗さは、1.9±0.1μmのEDTであった。
【0057】
これらの合金の化学組成を表1に示す。
【0058】
結晶粒径は以下のように測定した。
【0059】
サンプル調製
サンプルのRD-ND切片を導電性樹脂(いわゆるポリファスト)にマウントし、1μmに機械的に研磨した。予め行われた研削及び研磨工程によって引き起こされたあらゆる表面変形を除去するように注意を払った。完全に変形のない表面を得るために、最終研磨工程はコロイダルシリカを用いて行った。
【0060】
SEM
ミクロ組織分析は、EDAX PEGASUS XM 4 HIKARI EBSDシステムを備えたFEG-SEM(電界放出銃走査型電子顕微鏡、Zeiss Ultra SS FEG-SEM)を用いて行った。報告されたサンプルのEBSD(電子後方散乱回折)スキャンは、典型的には以下のSEM設定を用いて行われた。
【0061】
【表1】
【0062】
EBSDスキャンは、サンプルのRD-ND平面上で収集された。サンプルをSEM内で70°の角度で配置した。加速電圧は15kV、高電流オプションはオン、120μmアパーチャ(aperture)を使用し、典型的には、走査中の作動距離は17mmであった。サンプルの70°の傾斜角を補償するために、走査中に動的焦点補正(dynamic focus correction)を使用した。
【0063】
EBSDデータ収集
EBSDスキャンは、EDAX社(TSL OIM Data Collectionバージョン7.0.1(8-27-13))のソフトウェアを使用してキャプチャされた。典型的には、以下のデータ収集設定が使用された:6×6ビニングでの光カメラと標準的なバックグラウンド減算との組み合わせ。走査領域は全ての場合において最大でサンプル厚さであり、そして走査領域に非金属介在物を含まないように注意を払った。
【0064】
EBSDスキャンサイズ 500×500μm;ステップサイズ 0.5μmm;スキャン速度 毎秒約80フレーム;スキャン中に含まれる相 Fe(α)。データ収集中に使用されたHough設定は次のとおりである。ビニングパターンサイズ(Binned pattern size) ~96;シータセットサイズ(theta set size) 1;rhoラクション(rho fraction) ≒90;最大ピーク数 13;最小ピーク数 5;Houghタイプ(Hough type) クラシック;Hough解像度(Hough resolution) 低;バタフライコンボリューションマスク(butterfly convolution mask) 9×9;ピーク対称性 0.5;最小ピーク振幅 5;最大ピーク距離 15。
【0065】
EBSDデータ評価
EBSDスキャンは、TSL OIM 分析ソフトウェアバージョン7.1.0×64(30-14-14)で評価された。通常、データセットは、測定方向に対して適切な方向にスキャンを取得するために、RDに対して90°回転させた。標準的な結晶粒拡張のクリーンアップ(standard grain dilation clean up)が実行された(GTA 5、最小結晶粒径5、及び結晶粒は複数行の単一反復(multiple rows single iteration)を含む必要がある)。
【0066】
表面形状は、先端半径2μmのスキッドレススタイラス装置(skidless stylus device)を用いて測定した。1サンプルにつき、長さ70mm、1000ポイント/mmの点密度の5つのトラックを作成した。WsaはSEP1941に従って計算されたが、粗さは2.5mmのカットオフが使用されるISO 4287に従って計算された。1サンプルにつき、5トラックの算術平均を考慮して特定の値、すなわち粗さ又はうねりを与えるように決定した。
【0067】
ブランクホルダーとダイとの間の(コーティングされた)基材のいかなる材料の移動も完全に抑制されるようなブランクホルダー力(blankholder force)にて、直径75mmを有する中空パンチ(hollow punch)を用いて145mm×145mmのブランクをプレスすることによってカップを製造した。カップの変形は、底部の厚さ歪み(thickness strain)が9%±0.3%になるようなものである。ここで、厚さ歪みは、(t(当初)-t(変形))/t(当初)×100%として定義され、t(当初)は、未変形時の厚さであり、t(変形)は、変形後の厚さである。
【0068】
結果を表2に示す。表は、ΔWsa≦0.12μmの可能性を増大させるために、材料の結晶粒径が11.0μm未満であることが必要があることを示す。
【0069】
【表2】
【0070】
表2は、測定された結晶粒径、ΔWsa及び「Ti/Nb/Moの有効性」を示す。
ΔWsa>0.12は「x」で表され、ΔWsa≦0.12は「o」で表される。
「Ti/Nb/Moの有効性」は、Ti及びNbがともに≧0.005重量%である場合は、4(Ti+Nb)+2Moであり、その他の場合は、Ti+2Nb+2Moである。
【0071】
合金4Aは、<11.0μmの結晶粒径を有し、「Ti/Nb/Moの有効性」<0.06であるが、ΔWsa≦0.12をもたらす。これは、「Ti/Nb/Moの有効性」が低すぎる場合でさえも、良好な製品は可能であるが、良好な結果は通常ではないことを示している。
【0072】
本発明者らは、ΔWsaは、実際には、ΔWsaの上限及びΔWsaの下限の両方に関して、等軸のメジアン結晶粒径(median equi-axed grain size)に非常に大きく依存することを見出した。
【0073】
上記実施例の後、いくつかのさらなる実験を行った。これらの実験では、冷間圧延ミルの最後のスタンドにおけるロールの粗さを変えた。上記実施例で使用された方法の他のすべてのパラメータは同一のままであった。使用した合金はBH型であり、化学的性質の典型的な値は以下に示されており、全ての元素は重量%である。
【0074】
C=0.0029
Mn=0.132
P=0.009
S=0.007
Si=0.003
Al sol=0.044
Cu=0.013
Sn=0.004
Cr=0.019
Ni=0.016
Mo=0.003
Nb=0.0075
V=0.001
B=0.001
Ti=0.009
N=0.0021
【0075】
冷間圧延ミルの最後のスタンドの粗さは別として、表1に与えられたサンプルについて上述したように処理を行った。冷間圧延ミルの最後のスタンドにおけるロールの粗さについては、4つの異なる値を有する粗さを使用した。EDT法により得られたロールの粗さRaは、それぞれ、1.5μm、3.0μm、4.5μm及び6.0μmであった。図1は、これら4つの実験で得られたΔWsaを示す。カッピング前のサンプルのRa値は、1.05μm以上1.2μm以下であり、カッピング前のサンプルのRpcは、80cm-1以上105cm-1以下であった。(Rpcはピークカウント、すなわち所与の長さ当たりの粗さピークの数である)。
図1