(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】コーティングされていない鋼ストリップをめっき層で電気めっきする方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/26 20060101AFI20220506BHJP
C25D 5/36 20060101ALI20220506BHJP
C25D 7/06 20060101ALI20220506BHJP
C25D 3/06 20060101ALI20220506BHJP
C25D 17/10 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
C25D5/26 D
C25D5/36
C25D7/06 D
C25D3/06
C25D17/10 101Z
(21)【出願番号】P 2019524932
(86)(22)【出願日】2017-11-08
(86)【国際出願番号】 EP2017078582
(87)【国際公開番号】W WO2018087135
(87)【国際公開日】2018-05-17
【審査請求日】2020-11-09
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500252006
【氏名又は名称】タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ジャック、フーベルト、オルガ、ジョセフ、ベイエンベルグ
(72)【発明者】
【氏名】アドリアヌス、ヤコブス、ビッテブロード
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/177314(WO,A1)
【文献】特開平10-237685(JP,A)
【文献】特開2001-123291(JP,A)
【文献】特開平10-330987(JP,A)
【文献】特表2016-528378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/26
C25D 5/36
C25D 7/06
C25D 3/06
C25D 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一連の連続するめっきセルを含むめっきセクションにおいて、コーティングされていない鋼ストリップをめっき層で電気めっきする方法であって、
前記めっき層が、めっきプロセスにおいて三価Cr電解質から析出され、
前記コーティングされていない鋼ストリップが、前記めっきプロセスの前に、前記ストリップの表面に存在する酸化物及びその他の汚染物質を除去するための洗浄及び酸洗い工程に供され、
前記ストリップが、その後、前記めっきセクションにおいて前記めっきプロセスに供され、
前記めっきプロセスの第1段階において、前記三価Cr電解質からめっき層を析出させ
ないが、前記電解質中で前記ストリップをカソード防食す
る電流が、第1のめっきセルに入る前記ストリップに印加され、
前記めっきプロセスの第2段階において、前記三価Cr電解質からクロム金属、クロム炭化物及びクロム酸化物を含むめっき層を析出するための、より高い電流が、前記ストリップに印加される、前記方法。
【請求項2】
めっきが行われない1つの、2つ以上の又は全ての後続のめっきセルにおいて、前記ストリップに電流が印加され、
前記電流が、前記めっきセルにおいて前記電解質からめっき層を析出させ
ないが、前記電解質中で前記ストリップをカソード防食
する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Cr電解質が、硫酸クロム(III)と、硫酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、硫酸カリウム、ギ酸カリウム及び硫酸のうちの1種以上とを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記Cr電解質が、硫酸クロム(III)、硫酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム及び硫酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記Cr電解質が、硫酸クロム(III)、硫酸カリウム、ギ酸カリウム及び硫酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記Cr電解質が、クロム(III)ヒドロキシ硫酸(CrOHSO
4)
及びギ
酸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記めっきセルにおけるアノードが、酸化イリジウム又は混合金属酸化物の触媒コーティングを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングされていない鋼ストリップをめっき層で電気めっきする方法及びその改良に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋼ストリップめっきでは、冷間延鋼ストリップが準備され、それは、再結晶アリーリング又は回復アリーリングによって鋼を軟化させるために、通常、冷間圧延後にアリーリングされる。アリーリングの後、かつ、めっきの前に、鋼ストリップは、油及びその他の表面汚染物質を除去するために、最初に洗浄される。ほとんどの場合、アルカリ性洗浄剤がこの目的のために使用され、その場合、鋼は、電気化学的に不動態である、すなわち、鋼ストリップ表面は、安定な保護酸化膜で覆われている。したがって、鋼は、アルカリ性洗浄剤に溶解しない。アルカリ洗浄剤は、様々な成分の複雑な混合物である。主成分は、アルカリ性、導電性及び鹸化性を付与するための苛性ソーダである。その他の一般的な成分は、メタケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸塩、ホウ酸塩及び界面活性剤である。
【0003】
洗浄工程の後、鋼ストリップは、酸化皮膜を除去するために硫酸溶液又は塩酸溶液中で酸洗いされる。異なる処理工程の間に、次の処理工程に使用される溶液が前の処理工程の溶液で汚染されるのを防ぐために、鋼ストリップは、常に脱イオン水でリンスされる。その結果として、鋼ストリップは、酸洗い工程の後に徹底的にリンスされる。鋼ストリップのリンス及びめっきセクションへの輸送中に、新鮮な薄い酸化物層が、裸の鋼表面上に即座に形成される。
【0004】
電気めっきで使用されるプロセスは、電着(electrodeposition)と呼ばれる。めっきされる部品(鋼ストリップ)は、回路のカソードである。回路のアノードは、この部品にめっきされる金属(溶解アノード(dissolving anode)、例えば、従来の錫めっきで使用されている溶解アノード)又は寸法安定性のあるアノード(これは、めっき中に溶解しない)で形成することができる。両方の成分は、電解質と呼ばれる溶液に浸されている。カソードでは、電解質溶液中の金属イオンが溶液とカソードとの間の界面で還元され、それらがカソード上に析出(deposit)する。
【0005】
多くの場合、電解質は酸性溶液である。結果として、酸洗い工程の後に形成された酸化物層は、急速に溶解する。酸化皮膜のない裸鋼は腐食されやすい。腐食は、鋼基材に由来する鉄がFe2+に酸化されることを意味し、ここで、遊離した電子は、水素イオン又は電解質に溶解している酸素ガスの還元によって消費される。
2H++2e-→H2(g)
O2(g)+4H++4e-→2H2O
その結果、電解質は、Fe2+に富むようになる。電解質に依存して、これらのFe2+イオンは、引き続いて、次の電気めっき工程においてFeに還元され、そして、このFeは、基材上にめっきされることが意図される金属ととともに、基材上に析出される。共析出された鉄は、めっき層の性質、特に腐食性能に悪影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1つの目的は、コーティングされていない鋼ストリップを三価Cr電解質からのめっき層で電気めっきするための改良された方法を提供することである。
【0007】
また、本発明の1つの目的は、改良された性質を有する三価Cr電解質を使用して、コーティングされていない鋼ストリップを電気めっきすることにより製造された、めっき層を有する鋼ストリップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1つ以上の目的は、コーティングされていない鋼ストリップを三価Cr電解質からのめっき層で電気めっきする方法であって、
前記コーティングされていない鋼ストリップが、めっきプロセスの前に、前記ストリップの表面に存在する酸化物及びその他の汚染物質を除去するための洗浄及び酸洗い工程に供され、
前記ストリップが、その後、一連の連続するめっきセルを含むめっきセクションにおいて、めっきプロセスに供され、
前記めっきプロセスの第1段階において、三価Cr電解質からめっき層を析出させるのには不十分であるが、前記電解質中で前記ストリップをカソード防食するのには十分である電流が、第1のめっきセルに入るストリップに印加され、
前記めっきプロセスの第2段階において、三価Cr電解質からクロム金属、クロム炭化物及びクロム酸化物を含むめっき層を析出するための、より高い電流が、前記ストリップに印加される、前記方法によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、めっきセクションのレイアウトを示す図である。
【
図2】
図2は、めっきセクションのレイアウトを示す図である。
【
図3】
図3は、電流密度(A/dm
2)とCr(mg/m
2)との関係を示す図である。
【
図4】
図4は、i(A/dm
2)とCr(mg/m
2)との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
米国特許第3316160号明細書には、2つ以上の垂直めっきタンクを含むめっき操作においてクロム酸めっき液からクロムめっき鋼ストリップ上の青みがかった色合いを防止する方法が開示されている。このプロセスでは、最初の下向きパス(downward pass)及び上向きパス(upward pass)で電流密度が高く、電解クロムめっきが行われる。次いで、鋼ストリップを第2のめっきタンクに導き、そして、第2の下向きパス及びその後の任意の下向きパスにおいて、電流密度を大幅に下げ、そして、第2の上向きパスにおいて再び高レベルの電流密度に戻す。下向きパス及び上向きパスにおける低及び高電流密度での処理は、後続のすべてのタンクで繰り返される。上向きパスにおける電流密度の減少は、青みがかった色合いの原因となる複合酸化クロム(complex chromium oxide)の膜を除去する。
【0011】
本発明は、産業で使用されるめっきセクション(plating section)の特定のレイアウトを参照することによって説明されるが、本発明がそれに限定されることは意図されず、一連の連続するめっきセルを含む任意のめっきセクションに適用可能である。本発明の一実施形態において、めっきセクションは、限られた床面積で十分な総アノード長を得るための一連の垂直めっきセルからなる。当技術分野で知られている方法において、最初の下向きパス(down-pass)の間、電流は印加されない。ストリップが初めてめっき液に入る最初の下向きパスにおいて、リンス工程に由来する鋼ストリップ表面に付着している残存水膜は、めっきセル中に存在する電解液によって置換され、鋼ストリップは、電解質の温度に加熱される。鋼ストリップが電解質にさらされると、酸洗い工程の後に形成された酸化物層は急速に溶解する(
図1参照)。本発明による方法では、電解質に入るストリップに初めて電流が印加される(
図2参照)。めっき層の析出が達成されないように電流が選択されるが、鋼ストリップがカソード防食される(cathodically protected)が溶解しないように、電解液中の鋼の電位がシフトされることが重要である。したがって、本発明による方法では、第1のめっきセル内の電解質はFe
2+に富んでいないが、従来技術の方法の第1のめっきセル内の電解質はFe
2+に富んでいる。したがって、第1のめっきセル内の電解質の富化の欠如は、後続のめっきセルへのFe
2+の進入(drag-out)を防止する。その後のめっきセルでは、三価Cr電解質からクロム金属、炭化クロム及び酸化クロムを含むめっき層を析出させるために電流が増加される。Cr(III)電解質中の鉄は、クロムとともにストリップ上に析出する。Cr-CrCx-CrOxコーティング中の鉄が腐食性能に悪影響を及ぼすことが見出された。したがって、Cr(III)電解質中の鉄レベルをできるだけ低く保つことが重要である。これは、少なくとも最初の下向きパスにおいて、好ましくは、めっきに使用されていない他の全てのパスにおいても、小さい電流を流すことによって達成される。本発明による方法は、めっきすべきストリップが導かれる一連のめっきセル中の任意の不活性めっきセルに適用することができる。不活性めっきセルとは、ストリップは導かれるが、めっき作用は起こらない、例えば、1つ以上のめっきセルがスキップされるときにはめっき作用は起こらない一方、めっき施設全体の構造のためストリップが導かれなければならないめっきセルを意味する。本発明の一実施形態において、電解質は酸性である。
【0012】
三価クロム電解質からのクロム層の析出メカニズムに関する研究において(J.H.O.J. Wijenberg,M.Steegh,M.P.Aarnts,K.R.Lammers,J.M.C.Mol,緩衝化剤を含まない三価クロムホルメート電解液からの混合クロム金属-炭化物-酸化物コーティングの電着,Electrochim.Acta 173(2015)819-826)において、三価クロムめっきプロセスは、金属イオンが金属への電流によって直接還元される(Me
n++ne
-→Me)通常のめっきプロセスとは非常に異なることが見出された。この方法は、例えば、錫めっきプロセスで知られている。対照的に、Cr(III)めっきプロセスは、水素発生反応(hydrogen evolution reaction)による表面pHの上昇によって引き起こされるCr(III)錯体イオン中の水配位子の高速で段階的な脱プロトン化に基づいている。これにより、電流が印加されても金属が析出しない、いわゆる「レジームI(regime I)」が存在する(
図3参照)。小さな電流を流すと水素発生反応が起こる。H
+イオンの除去は、表面pHの上昇を伴い、それは、次の酸-塩基反応をもたらす。
[Cr(HCOO)(H
2O)
5]
2++OH
-→[Cr(HCOO)(OH)(H
2O)
4]
++H
2O
【0013】
レジームIの存在は、Cr(III)めっきプロセスに特有のものであり、通常のめっきプロセスには存在しない。本発明者らは、Cr(III)めっきプロセスのこの特別な特徴を有利に利用するための新規なアイデアに到達した。最初の下向きパスで少量の電流を流すことで、少量の水素ガスが生成されるだけでなく、鋼の電位が負の方向にシフトする。これは、カソード防食(cathodic protection)として知られている現象である。負の電位のため、鋼ストリップは、もはや腐食しない。鋼ストリップは、腐食から保護されるだけでなく、酸化鉄膜(の一部)が鉄金属に還元され、それによって電解液中の鉄のピックアップ(pick up)をさらに減少させる。明らかに、電流が印加されると、水膜は依然として電解質によって置換され、また鋼ストリップも加熱される。鋼ストリップを保護するために印加しなければならない電流は非常に小さくてもよい。上限はレジームIIの開始によって制限される(
図3参照)。
[Cr(HCOO)(OH)(H
2O)
4]
++OH
-→Cr(HCOO)(OH)
2(H
2O)
3+H
2O
【0014】
Cr(HCOO)(OH)
2(H
2O)
3は、カソード上に析出物を形成する。析出物のCr(III)の一部はCr金属に還元され、ギ酸塩は分解されてCr炭化物を形成する。Cr(III)がCr金属に完全に還元されていない場合、Cr酸化物もまた析出物中に存在する。析出物の量及び組成は、印加電流密度、質量流束及び電気分解時間に依存する。レジームIIに入るための電流密度の閾値は、上述の論文で説明されているように、それがH
+の質量流束に関係しているので、ライン速度の増加とともに増加する。Cr(HCOO)(OH)
2(H
2O)
3を析出させるのに必要とされる表面pHの上昇は、電解質のバルクから電極表面へのH
+のより速い補給(replenishment)によって妨げられる。結果として、電極表面で同じpHの増加を得るためには、ライン速度の増加とともに、より高い電流密度が必要とされる。それゆえ、レジームIが終了し、レジームIIが開始する固定の閾値はないが、単純な実験によって電流密度の関数として、めっき層の析出の開始を単に監視することによって、この閾値を決定することは容易である。クロムの析出が電流密度に対してプロットされている場合、レジームI~IIIが可視化される(例えば
図4参照)。レジームIは、電流は存在しているが、まだ析出は存在していない領域である。表面pHは、クロム析出には不十分である。レジームIIは、析出が開始され、析出が溶解し始めるレジームIIIでピークになりドロップするまで、総クロムコーティング重量が電流密度とともに増加するときである。
Cr(HCOO)(OH)
2(H
2O)
3+OH
-→[Cr(HCOO)(OH)
3(H
2O)
2]
-+H
2O
【0015】
高速連続めっきラインは、通常ストリップの形態のめっきされる基材が少なくとも100m/分の速度で移動するめっきラインとして定義される。鋼ストリップのコイルは、そのアイ(eye)が水平面内に延びるようにしてめっきラインの入口端に配置される。次いで、コイル状ストリップの先端部を巻き戻し、すでに処理されているストリップの末端部が溶接される。ラインを出ると、コイルは再び分離されてコイル状にされるか、又は異なる長さに切断されて(通常)コイル状にされる。電着プロセスはこのように中断することなく継続することができ、ストリップアキュムレータの使用は溶接中のスピードダウンの必要性を防止する。さらに高い速度を可能にする電着プロセスを使用することが好ましい。したがって、本発明による方法は、好ましくは少なくとも200m/分、より好ましくは少なくとも300m/分、さらにより好ましくは少なくとも500m/分のライン速度で運転する連続高速めっきラインでコーティングされた鋼基材を製造することを可能にする。最高速度に制限はないが、速度が高ければ高いほど、電着プロセスの制御、引きずり防止及びめっきパラメータの制限、並びにそれらの制限がより困難になることは明らかである。したがって、適切な最高速度として最高速度は900m/分に制限される。
【0016】
本発明による方法は、任意の鋼ストリップに適用可能であるが、ストリップを以下:
・冷間圧延された硬質原板(cold-rolled full-hard blackplate)(1回圧延又は2回圧延(single or double reduced))
・冷間圧延及び再結晶アニーリングされた原板(cold-rolled and recrystallization annealed blackplate)
・冷間圧延及び回復アニーリングされた原板(cold-rolled and recovery annealed blackplate)
・ブリキ、例えば、蒸着又はフローメルトされたもの;snijkanten, tin lost niet op
・少なくとも80%のFeSn(50原子%の鉄及び50原子%の錫)からなる鉄-錫合金で拡散アリーリングされた錫プレート(ブリキ)
から選択することが好ましく、得られるコーティングされた鋼基材は包装用途(packaging applications)での使用が意図されている。
【0017】
錫プレート(ブリキ)の場合、ストリップが正しい幅に切断されている可能性があるストリップの端部でFeの溶解が起こり得る。本発明による方法はまた、めっきが行われないときにめっきセルを通過する間に錫が溶解しないことを確実にする。
【0018】
カソード防食を達成するが、閾値を領域IIに交差させることを回避するために領域Iで必要とされる電流密度は、ライン速度のようなプロセス条件だけでなく、基板の性質にも依存することは明らかであろう。電解質の動粘性率がレジームIとレジームIIとの間の閾値に影響を与えるため、電解質の組成も重要である(ナトリウムベースの浴とカリウムベースの浴の違いについては
図4を参照)。
【0019】
本発明は、本発明による方法を実行するための装置においても具現化される。三価Cr電解質からクロム金属、炭化クロム及び酸化クロムを含むめっき層を析出させるための適切な三価Cr電解質で充填された一連の連続めっきセルを含むこの装置では、三価Cr電解質からめっき層を析出させるのには不十分であるが、電解質中のストリップをカソード防食するのには十分である電流を、第1のめっきセル中の電解質に入るストリップに印加する第1の手段が設けられる。三価Cr電解質からクロム金属、炭化クロム及び酸化クロムを含むめっき層を析出させるために、第1のめっきセルの下流でストリップにより高い電流を印加するために第2の手段が設けられる。
【0020】
本発明はまた、めっきが行われない後続のめっきセル内の電解液中に存在するか又は該電解液を通過するストリップに電流を印加するための手段も提供され、この電流は、三価Cr電解質からめっき層を析出するのには不十分であるが、該めっきセル内に存在する電解質中のストリップのカソード防食を提供するのには十分である。後続のめっきセルは、第1のめっきセルに続く任意の1つのセル又は任意のセルの組み合わせを意味する。
【実施例】
【0021】
以下の非限定的な実施例を参照しながら本発明を説明する。
【0022】
サーモスタット浴に接続された二重壁ガラス容器を、新たに調製した三価クロム電解質で満たした。
【0023】
二重壁ガラス容器を通して温水を循環させることにより、電解液の温度を50±1℃に一定に保った。電解質の組成は、120g/Lの塩基性硫酸クロム、100g/Lの硫酸ナトリウム及び41.4g/Lのギ酸ナトリウムであった。硫酸を添加することにより、25℃で測定されるpHを2.8に調整した。実験は、Autolab PGSTAT303Nポテンショスタット/ガルバノスタット(potentiostat/galvanostat)に接続された3電極システム(すなわち、作用電極(working electrode)、対電極(counter electrode)及び参照電極(reference electrode))を用いて行われた。ガルバノスタットは、作用電極と対電極との間で使用者によって定義されたように制御された一定電流を維持し、一方、作用電極の電位は時間対参照電極の電位の関数としてモニターされる。作用電極は、外径12mm、高さ8mmの軟鋼製シリンダーインサートであり、したがって電気活性表面積は約3cm2であり、Pine Instruments Companyからの特別なホルダーに取り付けられた。
【0024】
補助(対)電極は、酸化イリジウムと酸化タンタルの触媒混合金属酸化物コーティングを有するチタンのメッシュストリップであった。参照電極は飽和カロメル電極(SCE:Saturated Calomel Electrode)であった。参照実験では、電流を流さずにスチールシリンダーを電解液に24時間さらし、60秒ごとに腐食電位のみを記録した。腐食電位は-0.602V対SCEであった。実験を繰り返したが、今度は2A/dm2の小さなカソード電流を印加した。そうすることによって、電位は負の方向に約0.6Vシフトして、-1.2V対SCEとなった。スチールシリンダーを電解実験の前後に秤量し、電解質のFe含有量を誘導結合プラズマ原子発光分析法(ICP-AES)によって分析した。電流が印加されていないとき、147mg/Lの鉄濃度が測定され、これはスチールシリンダーインサートの重量損失から計算された値と非常によく一致する。対照的に、電解質中ではごくわずかな量の鉄しか測定されず、スチール電極は小さな電流を印加することによって腐食から保護された。実験はレジームIで実行されたので、スチールシリンダーインサートの重量損失は測定されず、クロムはスチール電極上に析出しなかった。
【0025】