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特許7066719電極シート製造方法、全固体電池および全固体電池製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】電極シート製造方法、全固体電池および全固体電池製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/056 20100101AFI20220506BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20220506BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220506BHJP
   H01M 10/05 20100101ALI20220506BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20220506BHJP
【FI】
H01M10/056
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M10/05
H01M10/0585
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2019535641
(86)(22)【出願日】2018-08-06
(86)【国際出願番号】 JP2018029371
(87)【国際公開番号】W WO2019031438
(87)【国際公開日】2019-02-14
【審査請求日】2021-03-17
(31)【優先権主張番号】P 2017155937
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001096
【氏名又は名称】倉敷紡績株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167988
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】東 昇
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-138073(JP,A)
【文献】特開平3-127466(JP,A)
【文献】特開昭60-054166(JP,A)
【文献】特開昭58-206041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/056
H01M 10/0585
H01M 4/139
H01M 4/62
H01M 10/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面に熱融着性樹脂枠が形成された金属箔を準備する工程と、
前記金属箔上であって前記熱融着性樹脂枠の内側に、活物質粒子を含む電極合剤を塗工して活物質層を形成する工程と、
前記活物質層上に無機固体電解質粒子を含む無機固体電解質層を形成する工程と、
高分子化合物とアルカリ金属塩を含む高分子固体電解質溶液を供給して、前記活物質層および前記無機固体電解質層に浸透させる溶液供給工程と、
前記溶液供給工程の後で、前記高分子化合物を重合させることにより、前記活物質粒子間および前記無機固体電解質粒子間に高分子固体電解質を一体に形成する硬化工程と、
を有する電極シート製造方法。
【請求項2】
金属箔を準備する工程と、
前記金属箔上に活物質粒子を含む電極合剤を塗工して活物質層を形成する工程と、
前記活物質層上に無機固体電解質粒子を含む無機固体電解質層を形成する工程と、
高分子化合物とアルカリ金属塩を含む高分子固体電解質溶液を供給して、前記活物質層および前記無機固体電解質層に浸透させる溶液供給工程と、
前記溶液供給工程の後で、前記高分子化合物を重合させることにより、前記活物質粒子間および前記無機固体電解質粒子間に高分子固体電解質を一体に形成する硬化工程と、
前記活物質層形成工程後から前記硬化工程後までのいずれかの段階で実施され、前記金属箔上であって前記活物質層の周囲に、熱融着性樹脂枠を形成する工程と、
を有する電極シート製造方法。
【請求項3】
前記溶液供給工程は、
前記活物質層を形成した後に、該活物質層上に前記高分子固体電解質溶液を供給して該活物質層に浸透させる工程、および
前記無機固体電解質層を形成した後に、該無機固体電解質層上に前記高分子固体電解質溶液を供給して該無機固体電解質層に浸透させる工程の2つの工程からなる、
請求項1または2に記載の電極シート製造方法。
【請求項4】
前記金属箔は、前記活物質層を形成する面と反対面に耐熱性樹脂層を有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の電極シート製造方法。
【請求項5】
前記活物質層を形成する工程において、前記電極合剤が前記無機固体電解質粒子をさらに含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の電極シート製造方法。
【請求項6】
前記活物質層を形成する工程において、前記電極合剤がスクリーン印刷またはグラビア印刷によって塗工される、
請求項1~5のいずれか一項に記載の電極シート製造方法。
【請求項7】
前記溶液供給工程は、非接触塗工法によって前記高分子固体電解質溶液を前記無機固体電解質層上に供給する工程である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の電極シート製造方法。
【請求項8】
第1金属箔と、第1活物質粒子と該第1活物質粒子の隙間を埋める第1電極内高分子固体電解質とを含む第1電極と、無機固体電解質粒子と該無機固体電解質粒子の隙間を埋めるセパレータ層内高分子固体電解質とを含むセパレータ層と、前記第1電極と反対の極性を有し、第2活物質粒子と該第2活物質粒子の隙間を埋める第2電極内高分子固体電解質とを含む第2電極と、第2金属箔とがこの順に積層され、
前記第1電極内高分子固体電解質および前記第2電極内高分子固体電解質の少なくとも一方が、当該第1または第2電極に接する部分の前記セパレータ層内高分子固体電解質と一体に形成されており、
前記第1電極、前記セパレータ層および前記第2電極の外周を囲い、前記第1金属箔と前記第2金属箔を結合する熱融着性樹脂壁を有する、
全固体電池。
【請求項9】
前記第1金属箔が前記第1電極と反対側の面に第1耐熱性樹脂層を有する、および/または、前記第2金属箔が前記第2電極と反対側の面に第2耐熱性樹脂層を有する、
請求項8に記載の全固体電池。
【請求項10】
前記第1電極内高分子固体電解質、前記セパレータ層内高分子固体電解質および前記第2電極内高分子固体電解質が一体に形成されている、
請求項8または9に記載の全固体電池。
【請求項11】
請求項8または9に記載された全固体電池を製造する方法であって、
請求項1~7のいずれかに記載された方法で第1電極シートを製造する工程と、
請求項1~7のいずれかに記載された方法で、前記第1電極シートと反対の極性を有する第2電極シートを製造する工程と、
前記第1電極シートと前記第2電極シートを、それぞれの熱融着性樹脂枠同士が接合するように重ね合わせる工程と、
前記第1電極シートおよび前記第2電極シートの熱融着性樹脂枠同士を熱融着して前記熱融着性樹脂壁を形成する封着工程と、
を有する全固体電池製造方法。
【請求項12】
請求項8または9に記載された全固体電池を製造する方法であって、
請求項1~7のいずれかに記載された方法で第1電極シートを製造する工程と、
前記第1電極シートと反対の極性を有する第2電極シートを製造する工程であって、
片面に第2熱融着性樹脂枠が形成された前記第2金属箔を準備する工程と、
前記第2金属箔上であって前記第2熱融着性樹脂枠の内側に、前記第2活物質粒子を含む第2活物質層を形成する工程と、
第2高分子化合物と前記アルカリ金属塩を含む第2高分子固体電解質溶液を供給して、前記第2活物質層に浸透させる第2溶液供給工程と、
前記第2高分子化合物を重合させることにより、前記第2活物質粒子間に該第2高分子固体電解質を形成する第2硬化工程と、を有する第2電極シート製造工程と、
前記第1電極シートと前記第2電極シートを、該第1電極シートの熱融着性樹脂枠と前記第2熱融着性樹脂枠が接合するように重ね合わせる工程と、
前記第1電極シートの熱融着性樹脂枠と前記第2熱融着性樹脂枠を熱融着して前記熱融着性樹脂壁を形成する封着工程と、
を有する全固体電池製造方法。
【請求項13】
請求項8または9に記載された全固体電池を製造する方法であって、
請求項1~7のいずれかに記載された方法で第1電極シートを製造する工程と、
前記第1電極シートと反対の極性を有する第2電極シートを製造する工程であって、
前記第2金属箔を準備する工程と、
前記第2金属箔上に前記第2活物質粒子を含む第2活物質層を形成する工程と、
第2高分子化合物と前記アルカリ金属塩を含む第2高分子固体電解質溶液を供給して、前記第2活物質層に浸透させる第2溶液供給工程と、
前記第2高分子化合物を重合させることにより、前記第2活物質粒子間に該第2高分子固体電解質を形成する第2硬化工程と、
前記第2活物質層形成工程後から前記第2硬化工程後までのいずれかの段階で実施され、前記第2金属箔上であって前記第2活物質層の周囲に、第2熱融着性樹脂枠を形成する工程と、を有する第2電極シート製造工程と、
前記第1電極シートと前記第2電極シートを、該第1電極シートの熱融着性樹脂枠と前記第2熱融着性樹脂枠が接合するように重ね合わせる工程と、
前記第1電極シートの熱融着性樹脂枠と前記第2熱融着性樹脂枠を熱融着して前記熱融着性樹脂壁を形成する封着工程と、
を有する全固体電池製造方法。
【請求項14】
請求項10に記載された全固体電池の製造方法であって、
片面に第1熱融着性樹脂枠が形成された前記第1金属箔を準備する工程と、
前記第1金属箔上であって前記第1熱融着性樹脂枠の内側に、前記第1活物質粒子を含む第1活物質層を形成する工程と、
前記第1活物質層上に第1無機固体電解質粒子を含む第1無機固体電解質層を形成する工程と、
高分子化合物とアルカリ金属塩を含む高分子固体電解質溶液を供給して、前記第1活物質層および前記第1無機固体電解質層に浸透させる第1溶液供給工程と、を有する第1シート製造工程と、
片面に第2熱融着性樹脂枠が形成された前記第2金属箔を準備する工程と、
前記第2金属箔上であって前記第2熱融着性樹脂枠の内側に、第2活物質粒子を含む第2活物質層を形成する工程と、
前記高分子固体電解質溶液を供給して、前記第2活物質層に浸透させる第2溶液供給工程と、を有する第2シート製造工程と、
前記第1シートと前記第2シートを、前記第1熱融着性樹脂枠と前記第2熱融着性樹脂枠が接合するように重ね合わせる工程と、
前記高分子化合物を重合させることにより、前記第1活物質粒子間、前記第1無機固体電解質粒子間および前記第2活物質粒子間に高分子固体電解質を一体に形成する硬化工程と、
前記第1熱融着性樹脂枠と前記第2熱融着性樹脂枠を熱融着して前記熱融着性樹脂壁を形成する封着工程と、
を有する全固体電池製造方法。
【請求項15】
請求項10に記載された全固体電池の製造方法であって、
第1金属箔を準備する工程と、
前記第1金属箔上に第1活物質粒子を含む第1活物質層を形成する工程と、
前記第1活物質層上に第1無機固体電解質粒子を含む第1無機固体電解質層を形成する工程と、
高分子化合物とアルカリ金属塩を含む高分子固体電解質溶液を供給して、前記第1活物質層および前記第1無機固体電解質層に浸透させる第1溶液供給工程と、
前記第1活物質層形成工程の後から前記第1溶液供給工程の後までのいずれかの段階で実施され、前記第1金属箔上であって前記第1活物質層の周囲に、第1熱融着性樹脂枠を形成する工程と、を有する第1シート製造工程と、
第2金属箔を準備する工程と、
前記第2金属箔上に第2活物質粒子を含む第2活物質層を形成する工程と、
前記高分子固体電解質溶液を供給して、前記第2活物質層に浸透させる第2溶液供給工程と、
前記第2活物質層形成工程の後から前記第2溶液供給工程の後までのいずれかの段階で実施され、前記第2金属箔上であって前記第2活物質層の周囲に、第2熱融着性樹脂枠を形成する工程と、を有する第2シート製造工程と、
前記第1シートと前記第2シートを、前記第1熱融着性樹脂枠と前記第2熱融着性樹脂枠が接合するように重ね合わせる工程と、
前記高分子化合物を重合させることにより、前記第1活物質粒子間、前記第1無機固体電解質粒子間および前記第2活物質粒子間に高分子固体電解質を一体に形成する硬化工程と、
前記第1熱融着性樹脂枠と前記第2熱融着性樹脂枠を熱融着して前記熱融着性樹脂壁を形成する封着工程と、
を有する全固体電池製造方法。
【請求項16】
前記第1溶液供給工程は、
前記第1活物質層を形成した後に、該第1活物質層上に前記高分子固体電解質溶液を供給して該第1活物質層に浸透させる工程、および
前記第1無機固体電解質層を形成した後に、該第1無機固体電解質層上に前記高分子固体電解質溶液を供給して該第1無機固体電解質層に浸透させる工程の2つの工程からなる、
請求項14または15に記載の電極シート製造方法。
【請求項17】
前記第2活物質層上に第2無機固体電解質粒子を含む第2無機固体電解質層を形成する工程をさらに有し、
前記第2溶液供給工程は、前記高分子固体電解質溶液を供給して、前記第2活物質層および前記第2無機固体電解質層に浸透させる工程であり、
前記硬化工程は、前記高分子化合物を重合させることにより、前記第1活物質粒子間、前記第1無機固体電解質粒子間、前記第2無機固体電解質粒子間および前記第2活物質粒子間に高分子固体電解質を一体に形成する硬化工程である、
請求項14~16のいずれか一項に記載の全固体電池製造方法。
【請求項18】
前記第2溶液供給工程は、
前記第2活物質層を形成した後に、該第2活物質層上に前記高分子固体電解質溶液を供給して該第2活物質層に浸透させる工程、および
前記第2無機固体電解質層を形成した後に、該第2無機固体電解質層上に前記高分子固体電解質溶液を供給して該第2無機固体電解質層に浸透させる工程の2つの工程からなる、
請求項17に記載の電極シート製造方法。
【請求項19】
請求項10に記載された全固体電池の製造方法であって、
片面に第1熱融着性樹脂枠が形成された前記第1金属箔を準備する工程と、
前記第1金属箔上であって前記第1熱融着性樹脂枠の内側に、第1活物質粒子を含む第1活物質層を形成する工程と、
前記第1活物質層上に無機固体電解質粒子を含む無機固体電解質層を形成する工程と、
前記無機固体電解質層上に第2活物質粒子を含む第2活物質層を形成する工程と、
高分子化合物とアルカリ金属塩を含む高分子固体電解質溶液を供給して、前記第1活物質層、前記無機固体電解質層および前記第2活物質層に浸透させる溶液供給工程と、
前記高分子化合物を重合させることにより、前記第1活物質粒子間、前記無機固体電解質粒子間および前記第2活物質間に高分子固体電解質を一体に形成する硬化工程と、
前記硬化工程の前または後に実施され、片面に第2熱融着性樹脂枠が形成された前記第2金属箔を、前記第1熱融着性樹脂枠と該第2熱融着性樹脂枠が接合するように前記第2活物質層上に重ねる工程と、
前記第1熱融着性樹脂枠と前記第2熱融着性樹脂枠を熱融着して前記熱融着性樹脂壁を形成する封着工程と、
を有する全固体電池製造方法。
【請求項20】
請求項10に記載された全固体電池の製造方法であって、
前記第1金属箔を準備する工程と、
前記第1金属箔上に第1活物質粒子を含む第1活物質層を形成する工程と、
前記第1活物質層上に無機固体電解質粒子を含む無機固体電解質層を形成する工程と、
前記無機固体電解質層上に第2活物質粒子を含む第2活物質層を形成する工程と、
高分子化合物とアルカリ金属塩を含む高分子固体電解質溶液を供給して、前記第1活物質層、前記無機固体電解質層および前記第2活物質層に浸透させる溶液供給工程と、
前記高分子化合物を重合させることにより、前記第1活物質粒子間、前記無機固体電解質粒子間および前記第2活物質間に高分子固体電解質を一体に形成する硬化工程と、
前記第1活物質層形成工程の後から前記硬化工程の後までのいずれかの段階で実施され、前記第1金属箔上であって前記第1活物質層の周囲に、第1熱融着性樹脂枠を形成する工程と、
前記硬化工程の前または後であって前記第1熱融着性樹脂枠を形成する工程の後に実施され、片面に第2熱融着性樹脂枠が形成された前記第2金属箔を、前記第1熱融着性樹脂枠と該第2熱融着性樹脂枠が接合するように前記第2活物質層上に重ねる工程と、
前記第1熱融着性樹脂枠と前記第2熱融着性樹脂枠を熱融着して前記熱融着性樹脂壁を形成する封着工程と、
を有する全固体電池製造方法。
【請求項21】
前記溶液供給工程は、前記第1活物質層を形成する工程の後、前記無機固体電解質層を形成する工程の後および前記第2活物質層を形成する工程の後のうち複数の段階で高分子化合物とアルカリ金属塩を含む高分子固体電解質溶液を供給することにより、前記第1活物質層、前記無機固体電解質層および前記第2活物質層に浸透させる工程である、
請求項19または20に記載の全固体電池製造方法。
【請求項22】
前記第1金属箔が前記第1活物質層を形成する面と反対面に第1耐熱性樹脂層を有する、および/または、前記第2金属箔が前記第2活物質層と反対側の面に第2耐熱性樹脂層を有する、
請求項12~21のいずれか一項に記載の全固体電池製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機固体電解質および高分子固体電解質を用いた全固体の電極シートに関する。また、本発明は、無機固体電解質および高分子固体電解質を用いた全固体のフィルム型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
液体の電解液に代えて固体電解質を用いた固体リチウムイオン二次電池の開発が活発に行われている。固体電解質を用いることにより、電池の薄型化が可能となり、電解液の漏出がない等の優れた特徴が得られる。そのような固体電解質としては、無機固体電解質、高分子固体電解質、高分子ゲル状電解質が知られている。
【0003】
無機固体電解質は、イオン伝導性に優れたものが近年開発されている。しかし、その形態が粒子状であることから、活物質粒子との接触状態が悪いことにより電池の内部抵抗が増大し、電池容量が減少するという問題があった。
【0004】
高分子ゲル状電解質は、高分子のネットワーク中に電解質塩を含む有機溶媒が保持されたゲル状の固体電解質である。電極を構成する活物質粒子間に高分子ゲル状電解質を含浸させることにより、活物質粒子と固体電解質の接触状態を改善することが提案されている。特許文献1には、正極活物質層の表面にモノマー組成物を塗工し、その一部を正極活物質層に含浸させた後に熱重合させた高分子(ゲル状)固体電解質電池が記載されている。また、特許文献2には、活物質層上に、ゲル状固体電解質が溶媒中に溶解された固体電解質溶液を含浸することにより固体電解質と活物質の接合界面の接着性が良好に形成された固体電解質電池が記載されている。
【0005】
一方、電池の薄型化に関しては、スマートフォンやタブレット端末等に、金属箔の両面に樹脂フィルムを貼り合わせたラミネート外装材を用いたリチウムイオン二次電池が使用されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、第一金属箔層と正極活物質と多孔性フィルムのセパレーターと負極活物質層と第二金属箔層が積層された蓄電デバイスにおいて、正負極活物質層の外周を囲う熱融着性樹脂を含有してなる周縁封止層を介して第一金属箔層とセパレーター端部と第二金属箔層が接合され、第一金属箔層と第二金属箔層のセパレータ側の面とは反対側の面に、それぞれ金属露出部を残した態様で絶縁樹脂フィルムが積層された薄型蓄電デバイスが記載されている(図4)。金属露出部を介して電気の授受を行うことにより、電極から導出されるタブリード線が不要となり、また、第一、二金属箔層が集電体及び外装材の両機能を果たすのでさらに外装材を要することがなく、蓄電デバイスの薄型化を図ることができるとされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-326383号公報
【文献】特開平11-195433号公報
【文献】特開2016-042459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、高分子ゲル状電解質からなる固体電解質層には強度が低いという問題があった。そのため、特に可撓性を有するフィルム状の電池に用いた場合に、電池の両極を隔てるセパレータ層が電池の変形により損壊して、内部短絡を生じることが懸念された。また、高分子ゲル状電解質中の電解質塩の移動度を上げるために有機溶媒の含有量を増やしすぎると、漏液の問題が残る。また、高分子ゲル状電解質の溶液を活物質層に含浸させる方法では、溶液の含浸に時間がかかることや、溶液を活物質層の全域に浸透させることが難しいなどの問題があった。
【0009】
これに対して、セパレータ層の強度や耐久性向上のために高分子固体電解質を用いることが考えられる。高分子固体電解質は、高分子中に電解質塩を含有した固体電解質である。しかし高分子固体電解質では、固体高分子中の電解質塩の移動度が低い。そのため、セパレータ層が厚すぎると、電池の内部抵抗が大きくなって実用的な充放電特性が得られないという問題があった。一方で、セパレータ層が薄すぎると、高分子固体電解質によってもなお、電池の繰り返し曲げ変形等によるセパレータ層の損壊と内部短絡への懸念が残る。
【0010】
また、特許文献3には、非水系電解液を用いたリチウムイオン電池の製造方法が開示されているものの、タブリード線を不要とする全固体電池に関して具体的な製造方法の説明はない。
【0011】
本発明は上記を考慮してなされたものであり、高分子固体電解質を用いて、内部抵抗が小さくかつ内部短絡が起こりにくい薄型の全固体電池とその製造方法、ならびにかかる全固体電池に使用可能な電極シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電極シート製造方法は、片面に熱融着性樹脂枠が形成された金属箔を準備する工程と、前記金属箔上であって前記熱融着性樹脂枠の内側に、活物質粒子を含む電極合剤を塗工して活物質層を形成する工程と、前記活物質層上に無機固体電解質粒子を含む無機固体電解質層を形成する工程と、前記無機固体電解質層上から高分子化合物とアルカリ金属塩を含む高分子固体電解質溶液を供給して、前記活物質層および前記無機固体電解質層に浸透させる溶液供給工程と、前記溶液供給工程の後で、前記高分子化合物を重合させることにより、前記活物質粒子間および前記無機固体電解質粒子間に高分子固体電解質を一体に形成する硬化工程とを有する。
【0013】
ここで、高分子固体電解質溶液とは高分子固体電解質を形成するための原料溶液のことをいい、高分子固体電解質溶液中の高分子化合物が重合することによって高分子固体電解質が形成される。また、高分子化合物を重合させることには、高分子化合物を架橋剤によって架橋させることを含む。この方法により、電極は活物質粒子の隙間を高分子固体電解質が埋めた構造を有するので、活物質粒子と高分子固体電解質の接触状態が良好となる。また、無機固体電解質粒子とその隙間を埋める高分子固体電解質が、電池作製時に対向電極との間に位置するセパレータ層を構成するので、セパレータ層のイオン導電性と強度を高いレベルで両立できる。また、電極内の高分子固体電解質とセパレータ層の高分子固体電解質が一体に形成されるので、電極とセパレータ層との界面抵抗をより小さくできる。
【0014】
本発明の他の電極シート製造方法は、熱融着性樹脂を後から形成する。具体的には、本発明の他の電極シート製造方法は、金属箔を準備する工程と、前記金属箔上に活物質粒子を含む電極合剤を塗工して活物質層を形成する工程と、前記活物質層上に無機固体電解質粒子を含む無機固体電解質層を形成する工程と、高分子化合物とアルカリ金属塩を含む高分子固体電解質溶液を供給して、前記活物質層および前記無機固体電解質層に浸透させる溶液供給工程と、前記溶液供給工程の後で、前記高分子化合物を重合させることにより、前記活物質粒子間および前記無機固体電解質粒子間に高分子固体電解質を一体に形成する硬化工程と、前記活物質層形成工程後から前記硬化工程後までのいずれかの段階で実施され、前記金属箔上であって前記活物質層の周囲に、熱融着性樹脂枠を形成する工程と、を有する。
【0015】
好ましくは、前記金属箔は、前記活物質層を形成する面と反対面に耐熱性樹脂層を有する。これにより金属箔が耐熱性樹脂層によって保護されるので、集電体シートをそのまま電池の外装材として使用できる。
【0016】
好ましくは、前記活物質層を形成する工程において、前記電極合剤が前記無機固体電解質粒子をさらに含む。これにより活物質粒子の隙間を移動する電荷の移動度が向上し、電極の内部抵抗がより小さくなる。
【0017】
好ましくは、前記活物質層を形成する工程において、前記電極合剤がスクリーン印刷によって塗工される。これにより、低コストで、熱融着性樹脂枠の内側など、所定の範囲だけに活物質層を塗工できる。
【0018】
好ましくは、前記溶液供給工程は、非接触塗工法によって前記高分子固体電解質溶液を前記無機固体電解質層上から供給する工程である。ここで、非接触塗工法とは、ロールやノズル等の部材を無機固体電解質層表面に接触させることなく、溶液を供給する方法をいう。これにより、無機固体電解質層および活物質層に損傷を与えることなく高分子固体電解質溶液を供給できる。
【0019】
本発明の全固体電池は、第1金属箔と、第1活物質粒子と該第1活物質粒子の隙間を埋める第1電極内高分子固体電解質とを含む第1電極と、無機固体電解質粒子と該無機固体電解質粒子の隙間を埋めるセパレータ層内高分子固体電解質とを含むセパレータ層と、前記第1電極と反対の極性を有し、第2活物質粒子と該第2活物質粒子の隙間を埋める第2電極内高分子固体電解質とを含む第2電極と、第2金属箔とがこの順に積層されている。そして、前記第1電極内高分子固体電解質および前記第2電極内高分子固体電解質の少なくとも一方が、当該第1または第2電極に接する部分の前記セパレータ層内高分子固体電解質と一体に形成されている。そして、前記第1電極、前記セパレータ層および前記第2電極の外周を囲い、前記第1金属箔と前記第2金属箔を結合する熱融着性樹脂壁を有する。
【0020】
この構成により、活物質粒子と高分子固体電解質の接触状態が良好となり、セパレータ層のイオン導電性と強度を高いレベルで両立でき、電極とセパレータ層との界面抵抗をより小さくできる。また、金属箔を介して電気の授受を行うことにより、電極から導出されるタブリード線が不要となる。
【0021】
好ましくは、前記第1金属箔が前記第1電極と反対側の面に第1耐熱性樹脂層を有する、および/または、前記第2金属箔が前記第2電極と反対側の面に第2耐熱性樹脂層を有する。
【0022】
好ましくは、前記第1電極内高分子固体電解質、前記セパレータ層内高分子固体電解質および前記第2電極内高分子固体電解質が一体に形成されている。これにより、電池の内部抵抗をより低くすることができる。
【0023】
上記全固体電池を製造するための一つの全固体電池製造方法は、上記いずれかの方法で第1電極シートを製造する工程と、上記いずれかの方法で、前記第1電極シートと反対の極性を有する第2電極シートを製造する工程と、前記第1電極シートと前記第2電極シートを、それぞれの熱融着性樹脂枠同士が接合するように重ね合わせる工程と、前記第1電極シートおよび前記第2電極シートの熱融着性樹脂枠同士を熱融着して前記熱融着性樹脂壁を形成する封着工程とを有する。
【0024】
上記全固体電池を製造するための他の全固体電池製造方法は、実施形態として後述する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の電極シート製造方法、全固体電池または全固体電池製造方法によれば、全固体電池の電解質が無機固体電解質および高分子固体電解質からなるので、漏液のおそれがない。
【0026】
また、低粘度の高分子固体電解質溶液を活物質粒子の隙間、および無機固体電解質粒子の隙間に浸透させた後に重合させて高分子固体電解質を形成するので、高分子固体電解質溶液を活物資層および無機固体電解質層の広い範囲に浸透させることが容易である。そして重合後には高分子固体電解質が活物質粒子の隙間を埋めているので、高分子固体電解質と活物質粒子の接触状態が良く、内部抵抗が低い電池が得られる。さらに、少なくとも一方の電極内の高分子固体電解質がセパレータ層内の高分子固体電解質と一体に形成されるので、当該電極とセパレータ層の界面抵抗が抑えられ、内部抵抗が低い電池が得られる。
【0027】
また、セパレータ層が高分子固体電解質より電解質塩の移動度やリチウムイオン輸率の高い無機固体電解質を含むことができるので、電池の内部抵抗を下げ、充放電特性を向上できる。さらに、セパレータ層が高分子固体電解質より硬度の高い無機固体電解質粒子を含むので、電池の繰り返し曲げ変形等によってもセパレータ層が損壊しにくく、内部短絡が起こりにくい。そして、セパレータ層を薄く形成することが可能なため、電池の内部抵抗を下げ、充放電特性を向上できる。これにより、セパレータ層のイオン導電性と強度を高いレベルで両立できる。
【0028】
また、集電体シートの金属箔を介して外部と電気の授受を行うことができるのでタブリードが不要となる。さらに、集電体シートが外装材の機能を兼ねることができるので、より薄型の電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の第1実施形態の電極シート製造方法による電極シートの断面構造を示す模式図である。
図2】本発明の第1実施形態の電極シート製造方法の工程フロー図である。
図3】本発明の第1実施形態の電極シート製造方法による電極シートの変形例の断面構造を示す模式図である。
図4】本発明の第1実施形態の電極シート製造方法の変形例の工程フロー図である。
図5】本発明の第2実施形態の全固体電池の断面構造を示す模式図である。
図6】本発明の第2実施形態の全固体電池製造方法の工程フロー図である。
図7】本発明の第3実施形態の全固体電池の断面構造を示す模式図である。
図8】本発明の第3実施形態の全固体電池製造方法で使用する負極シート(第2電極シート)の断面構造を示す模式図である。
図9】本発明の第3実施形態の全固体電池製造方法の工程フロー図である。
図10】本発明の第3実施形態の電極シート製造方法における負極シート(第2電極シート)製造工程の変形例の工程フロー図である。
図11】本発明の第4実施形態の全固体電池の断面構造を示す模式図である。
図12】本発明の第4実施形態の全固体電池製造方法の工程フロー図である。
図13】本発明の第5実施形態の全固体電池の断面構造を示す模式図である。
図14】本発明の第5実施形態の全固体電池製造方法の工程フロー図である。
図15】本発明の第5実施形態の全固体電池製造方法の変形例の工程フロー図である。
図16】実験例の全固体電池の充放電試験結果である。
図17】本発明の第1実施形態の電極シートの製造方法の変形例の工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の第1実施形態として、全固体リチウムイオン電池用の電極シートの製造方法を図1~3に基づいて説明する。
【0031】
まず図1を参照して、本実施形態で製造する電極シート10は、金属箔12と電極16とセパレータ層19がこの順に積層されて構成される。電極は正極または負極である。電極16が正極であるときは電極シート10は正極シートであり、電極16が負極であるときは電極シート10は負極シートである。
【0032】
金属箔12は、その片面の周縁部に熱融着性樹脂枠13が形成されており、その反対面に耐熱性樹脂層14を有し、耐熱性樹脂層の一部に金属箔が露出した露出部15が形成されている。電極16およびセパレータ層19は熱融着性樹脂枠の内側に形成されている。電極16は、活物質粒子17とその隙間を充填する電極内高分子固体電解質18からなる。セパレータ層19は、無機固体電解質粒子20とその隙間を充填するセパレータ層内高分子固体電解質21からなる。各構成部材の詳細は、製造方法の説明の中で述べる。
【0033】
本実施形態の電極シート製造方法S10は、図2を参照して、
(S11)片面に熱融着性樹脂枠13が形成された金属箔12を準備する工程と、
(S12)金属箔上に活物質層を形成する工程と、
(S13)活物質層上に、無機固体電解質層を形成する工程と、
(S14)無機固体電解質層上から高分子固体電解質溶液を供給して、活物質層および無機固体電解質層に浸透させる溶液供給工程と、
(S15)高分子化合物を重合させる硬化工程と、を有する。
【0034】
金属箔12を準備する工程S11において、金属箔12の片面の周縁部に熱融着性樹脂枠13が形成されている。また、金属箔の熱融着性樹脂枠とは反対側の面に耐熱性樹脂層14が積層されており、耐熱性樹脂層の一部に金属箔が露出した露出部15が形成されている。
【0035】
金属箔12には電子伝導性を有する各種金属材料を用いることができる。正極用の金属箔としては、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼の箔を用いることができ、好ましくは耐酸化性に優れるアルミニウムの箔を用いる。アルミニウム箔の厚さは好ましくは5~25μmである。負極用の金属箔としては、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、鉄の箔を用いることができ、好ましくは還元場において安定でかつ電導性に優れる銅箔を用いる。銅箔の厚さは、好ましくは5~15μmである。
【0036】
熱融着性樹脂枠13としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等の各種熱融着性樹脂を用いることができる。熱融着性樹脂枠は好ましくは未延伸のフィルムからなる。ヒートシール性、防湿性、柔軟性に優れるからである。熱融着性樹脂枠の厚さ(図1における縦方向の寸法)は、後の工程で形成する電極16とセパレータ層19を合わせた厚さを100とした場合に100~120であることが好ましい。電池作製時に、対向する金属箔の熱融着性樹脂枠と確実に融着できるからである。例えば電極の厚さが15μm、セパレータ層の厚さが5μmであれば、熱融着性樹脂枠の厚さが20~24μmであることが好ましい。熱融着性樹脂枠の枠部分の幅(図1の13A面の幅)は、5mm以上であることが好ましい。枠の幅が狭すぎると電池のシール性が不十分となるからである。一方、熱融着性樹脂枠の枠部分の幅は、20mm以下であることが好ましい。シール性の確保に必要な幅があれば十分で、枠の幅が広すぎても、電池が無駄に大きくなるからである。
【0037】
熱融着性樹脂枠13は、上記フィルムを図示しない接着層によって金属箔12に接着し、中央部分を除去することで枠形状とすることができる。例えば、金属箔の中央部に予めマスキングテープを貼り、熱融着性樹脂フィルムをマスキングテープの上から金属箔の全面に接着して、カッターやレーザーで切れ込を入れて、マスキングテープ、接着層および熱融着性樹脂フィルムを除去することができる。あるいは、熱融着性樹脂枠は、インクジェット印刷やスクリーン印刷等によって形成することができる。
【0038】
耐熱性樹脂層14は本発明に必須の構成要素ではないが、好ましくは、金属箔12が耐熱性樹脂層を備える。電池製造後に金属箔12を保護できるからである。耐熱性樹脂層14は、熱融着性樹脂枠13を熱融着するときの加熱に耐える材料からなり、例えば、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルムなどを用いることができる。中でも、二軸延伸されたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いるのが好ましい。また、耐熱性樹脂層は、単層のフィルムであってもよいし、複数のフィルムが積層されたものであってもよい。耐熱性樹脂層の厚さは、10μm~100μmが好ましい。
【0039】
耐熱性樹脂層14は、上記フィルムを図示しない接着層によって金属箔12に接着して積層できる。露出部15を形成するには、例えば、金属箔の当該部分に予めマスキングテープを貼り、耐熱性樹脂のフィルムをマスキングテープの上から金属箔の全面に接着して、カッターやレーザーで切れ込を入れて、マスキングテープ、接着層および耐熱性樹脂フィルムを除去することができる。
【0040】
活物質層を形成する工程S12は、金属箔12上であって熱融着性樹脂枠13の内側に、活物質粒子17含む電極合剤を塗工することによって行われる。
【0041】
電極合剤は、活物質粒子17に必要に応じて導電助剤、結着剤、フィラー等を添加し、適量の溶媒を加えることによりペースト化される。
【0042】
電極合剤に関して、正極活物質17としては、Liイオンを吸蔵・放出するLiCoO、LiNiOなどの周知の材料を用いることができる。導電助剤としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、その他のカーボンブラック、金属粉、導電性セラミクス材料など周知の電子伝導性材料を用いることができる。導電助剤の添加量は、典型的には、正極活物質に対して数重量%である。結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)など周知の材料を用いることができる。また、結着剤としてイオン導電性を有する材料を用いることもできる。イオン導電性を有する結着剤としては、例えば、PVdF等のフッ素系重合体にイオン液体の骨格をグラフト重合した高分子電解質組成物を含むイオン導電性の結着剤が特開2015-038870号公報に開示されている。またポリエチレンオキシドやポリエチレンオキシド等のエーテル系高分子にLi金属塩を保持させるなどした他の周知のリチウムイオン導電性ポリマーマトリクスを結着剤に用いることも可能である。結着剤の添加量は、典型的には、正極活物質に対して数重量%である。フィラーとしては、ポリプロピレン等のオレフィン系ポリマー、ゼオライトなどの周知の材料を用いることができる。フィラーの添加量は、典型的には、正極活物質に対して0~数重量%である。溶媒としては、Nメチル2ピロリドン(NMP)等の周知の有機溶媒を用いることができる。
【0043】
電極合剤に関して、負極活物質17としては、Liイオンを吸蔵・放出する黒鉛、コークスなどの周知の材料を用いることができる。負極活物質に添加される導電助剤、結着剤、フィラーとしては、正極活物質に添加されるのと同じものを用いることができる。溶媒としては、NMP等の周知の有機溶媒を用いることができる。
【0044】
電極合剤の塗工方法は、熱融着性樹脂枠13の内側だけに塗工することから、従来のリチウムイオン電池の製造で一般的なダイコート法、コンマコート法を採用することができない。電極合剤の塗工方法は、好ましくはスクリーン印刷法によって行う。電池の形状に合わせて塗工する領域を決められるからである。また、大面積であっても、コスト上昇を抑えながら、均一な厚さに電極合剤ペーストを塗工できるからである。電極合剤を金属箔12上に塗工する際、活物質粒子17と金属箔12の密着性を向上させるために、金属箔表面に予めプライマーコーティング(下塗り)を行ってもよい。電極合剤を金属箔上に塗工した後、乾燥して溶媒を除去することによって、活物質層が形成される。なお、乾燥後に活物質層をプレス加工によって圧縮してもよい。
【0045】
活物質層の厚さ、すなわち電極16の厚さは、好ましくは5~30μmであり、さらに好ましくは10~20μmである。電極が薄すぎると十分な電池容量が得られないからである。一方、電極が厚すぎると、電極内に均質に高分子固体電解質溶液を浸透させることが難しくなり、電極内部に空隙が生じやすくなるからである。また、電極が厚すぎると、電極内高分子固体電解質中のLiイオン移動距離が長くなり電池の充放電レートが低下するからである。
【0046】
電極合剤をスクリーン印刷法で塗工すると、熱融着性樹脂枠13の上からスクリーンを当てることになり、熱融着性樹脂枠の枠内いっぱいに、熱融着性樹脂枠の内壁面の直近まで電極合剤を塗工することができない。しかし、このことは本実施形態では問題とはならない。理由は後述する。
【0047】
無機固体電解質層を形成する工程S13は、活物質層上に無機固体電解質粒子20を含む電解質合剤を塗工することによって行われる。
【0048】
電解質合剤は、無機固体電解質粒子20に、必要に応じて、結着剤、フィラー等を添加し、適量の溶媒を加えることによりペースト化される。結着剤としては、PVdFなど周知の材料を用いることができる。溶媒としては、NMP等の周知の有機溶媒を用いることができる。
【0049】
無機固体電解質20としては、高いリチウムイオン伝導度を持つLa2/3-xLi3xTiO(LLT)、Li1+xAlTi2-y(PO(LATP)、Li1+xAlGe2-y(PO(LAGP)などの粒子を用いることができる。好ましくはLAGPを用いる。構造が安定で、電極シート製造時にペースト化する際に他の材料と接触しても反応が起こりにくいからである。好ましくは、無機固体電解質としてLAGP、結着剤としてPVdFを用いる。それぞれの性能が良いだけでなく、この組み合わせによれば、PVdFがアルカリ塩と反応してゲル化することがない。あるいは、好ましくは、結着剤としてイオン導電性の結着剤を用いる。電極内のリチウムイオンの移動度が向上するからである。
【0050】
無機固体電解質粒子20の粒径は、好ましくは0.1μm~1μmである。粒径が小さすぎるとペースト化するときの分散性が悪くなり、凝集して大きな粒子を形成しやすいからである。また、粒径が大きすぎると、セパレータ層19の表面の平坦性が悪くなるとともに、リチウムイオン移動度の低い高分子固体電解質21がセパレータ層に占める割合が多くなり、セパレータ層を通過するリチウムイオンの移動度が損なわれやすいからである。
【0051】
電解質合剤の塗工は、好ましくはスクリーン印刷法によって行う。電池の形状に合わせて塗工する領域を決められるからである。また、大面積であっても、コスト上昇を抑えながら、均一な厚さに電解質合剤ペーストを塗工できるからである。電解質合剤を活物質層上に塗工した後、乾燥して溶媒を除去することによって、無機固体電解質層が形成される。好ましくは、無機固体電解質層が活物質層全体を覆うように形成される。
【0052】
セパレータ層19の厚さは、後述する全固体電池製造方法により好ましい範囲が異なる。製造する電池のセパレータ層の厚さは、平均厚さが好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、特に好ましくは6μm以下である。セパレータ層が厚すぎると電池の内部抵抗が大きくなるからである。セパレータ層が薄くても、強度・硬度の高い無機固体電解質粒子20が含まれることにより、短絡が生じにくい。一方、電池のセパレータ層の厚さは、最も薄い部分の厚さが好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。セパレータ層が薄すぎると、損壊しやすいからであり、また、製造が難しくなるからである。
【0053】
したがって、本実施形態の正極シートと本実施形態の負極シートを貼り合せて電池を製造する場合(後述する第2実施形態の全固体電池製造方法)、すなわち正負両方の電極シートがセパレータ層を有する場合は、各電極シートのセパレータ層19の厚さは、平均厚さが好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、特に好ましくは3μm以下であり、最も薄い部分の厚さが好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上である。
【0054】
また、本実施形態の正極シートまたは負極シートと、セパレータ層を備えない他の電極シートを貼り合せて電池を製造する場合(後述する第3実施形態の全固体電池製造方法)、本実施形態の電極シートのセパレータ層19の厚さは、平均厚さが好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下、特に好ましくは6μm以下であり、最も薄い部分の厚さが好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。
【0055】
溶液供給工程S14は、高分子固体電解質溶液を無機固体電解質層上から供給して、活物質層および無機固体電解質層に浸透させることによって行われる。高分子固体電解質溶液は、重合後に高分子固体電解質の骨格となる高分子化合物、およびリチウム塩を含み、必要に応じて架橋剤、重合開始剤を含み、有機溶媒によって適切な粘度となるように希釈される。
【0056】
高分子固体電解質18、21はポリマー中にリチウム塩を含有する。ポリマーとしては、ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、これらの共重合体などを用いることができる。好ましくは、ポリマー分子間が架橋されているか、あるいは、ポリマーの主骨格に他のポリマーやオリゴマーがグラフト重合されている。ポリマーの結晶化によりイオン伝導度が低下するのを抑止するためである。リチウム塩としては、液体の電解液を有する電池と同じく、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO、以下においてLiTFSIと略記する)などを用いることができる。希釈溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)やアセトニトリルなど低沸点の有機溶媒を好適に用いることができる。
【0057】
このように重合前の高分子化合物を含む溶液を用いることにより、高分子固体電解質溶液によって活物質粒子17および無機固体電解質粒子20の隙間を充填することが容易となる。高分子固体電解質溶液の粘度は、好ましくは1~100mPa・s、より好ましくは5~10mPa・sである。粘度が高すぎると、活物質層および無機固体電解質層中に溶液が浸透しにくいからである。また、粘度が低すぎると、高分子化合物の含有量が少なくなり不経済であるとともに無機固体電解質層中の高分子固体電解質の密度が低下してイオン伝導性が十分に保てなくなるからである。
【0058】
高分子固体電解溶液は可塑剤を含んでいてもよい。その場合、高分子固体電解質18、21が可塑剤を含むことになり、イオン伝導性が向上する。ただし、可塑剤の添加により高分子固体電解質の強度が低下するので、高分子固体電解質中の可塑剤の含有量は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下である。特に好ましくは、高分子固体電解質は可塑剤を含まない。可塑剤としては、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の炭酸エステル類、それらの混合物など周知の材料を用いることができる。
【0059】
高分子固体電解質溶液を供給する方法は特に限定されないが、好ましくは、非接触塗工法による。非接触塗工法とは、溶液を転写するロールや溶液を吐出するノズル等を無機固体電解質層に接触させることなく、溶液を供給する方法をいう。非接触塗工法の例としては、スプレー法、空気圧や静電力を利用したディスペンサ、ピエゾ式などの各種インクジェット法が挙げられる。なかでも静電力を利用したディスペンサによる方法やインクジェット法を用いるのが好ましい。低粘度の溶液を供給する場合でも供給量の定量性および面内均一性に優れるので、高分子固体電解質溶液を活物質層および無機固体電解質層の空隙全体に充填し、かつ無機固体電解質層表面に高分子固体電解質溶液の薄い膜を形成できるからである。
【0060】
高分子固体電解質溶液は、金属箔12表面から無機固体電解質層表面までの全域にわたって、活物質粒子および無機固体電解質粒子の隙間に充填されることが好ましい。また、高分子固体電解質溶液は、無機固体電解質層の表面全体を薄く覆うことが好ましい。電池製造時に2枚の電極シートを貼り合せる際に、より良好な接合状態が得られるからである。また、高分子固体電解質溶液は、熱融着性樹脂枠の直近の、活物質粒子および無機固体電解質粒子が存在しない領域10Dを埋めることが好ましい。
【0061】
高分子固体電解質溶液の溶媒を揮発させて乾燥した後、硬化工程S15により、高分子化合物を重合させることで、活物質層内の活物質粒子17の隙間および無機固体電解質層内の無機固体電解質粒子20の隙間に高分子固体電解質18、21を形成する。これにより、活物質粒子17とその隙間を埋める電極内高分子固体電解質18とを含む電極16と、無機固体電解質粒子20とその隙間を埋めるセパレータ層内高分子固体電解質21とを含むセパレータ層19が完成する。高分子化合物の重合方法は、熱硬化、紫外線照射、電子線照射のいずれか、またはその組み合わせによって行うことができる。高分子化合物の重合方法は、好ましくは紫外線照射による。製造設備を簡略化できるからである。
【0062】
なお、溶液供給工程は複数回に分けて実施してもよい。例えば図17に示すように、活物質層を形成する工程S12後に、活物質層上に高分子固体電解質溶液を供給して活物質層に浸透させる工程S14-1を設け、無機固体電解質層を形成する工程S13の後に、無機固体電解質層上に高分子固体電解質溶液を供給して無機固体電解質層に浸透させる工程S14-2を設けてもよい。このように溶液供給工程を2回に分けて実施しても、電極16に含まれる高分子固体電解質18と、セパレータ層19に含まれる高分子固体電解質21は硬化工程S15により一体に形成される。また、活物質層内の高分子固体電解質溶液と無機固体電解質層内の高分子固体電解質を別の工程に分けて供給することにより、それぞれの層内への高分子固体電解質溶液の供給粘度や浸透性を最適化できるため、各層内での固体-固体界面の接合性の改善が図りやすくなるとともに、活物質層内の底面まで確実に高分子固体電解質溶液を浸透させやすくなる。
【0063】
電極シート10全体の厚さは、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは40μm以下である。本実施形態の電極シートは、フィルム状の薄型電池を製造するのに特に適している。
【0064】
本実施形態の電極シート製造方法の効果を改めて説明すると次のとおりである。
【0065】
電極シート10は液体の電解液や高分子ゲル状電解質でなく高分子固体電解質を用いるので漏液のおそれがない。また、本発明者は、高分子固体電解質であっても、その実効厚さが十分に薄ければ電解液や高分子ゲル状電解質を用いた電池に近い充放電特性が得られることに着目した。高分子固体電解質は溶剤で希釈することにより、活物質粒子からなる電極層の粒子間やその表層を非常に薄い電解質で覆うことが可能となる。一方で、高分子固体電解質をかように薄く形成する場合、単独で正負電極層のセパレータ層に用いるにはリチウムデンドライト等に対する耐貫通性や強度が不足するが、近年、高分子固体電解質よりイオン伝導性が高い多様な無機固体電解質が開発されており、高分子固体電解質と無機固体電解質を併用してセパレータ層に用いることで、セパレータ層の絶縁性と強度を確保することが可能となった。
【0066】
また、重合の完了した高分子固体電解質を粒子間に含浸させることはできないが、本実施形態の電極シート製造方法によれば、結着剤によって固定された活物質粒子17の隙間、および無機固体電解質粒子20の隙間に低粘度の高分子固体電解質溶液を浸透させた後に高分子固体電解質が形成される。したがって、無機固体電解質層内、無機固体電解質層と活物質層の界面、活物質層内の全域に粒子間の微小な隙間を埋めるように高分子固体電解質を形成することが容易である。それにより、無機固体電解質粒子20と高分子固体電解質21、セパレータ層19-電極16界面、活物質粒子17と高分子固体電解質18の良好な接触状態が得られ、内部抵抗が低い電池が得られる。
【0067】
また、特許文献3の実施例では、金属箔上に活物質層を形成した後、活物質層の上に同一サイズの粘着テープを貼着してマスキングし、熱融着性樹脂フィルム(本実施形態の熱融着性樹脂フィルムに相当)を貼り合せて養生し、熱融着性樹脂フィルムに切り込みを入れて、内側部分を粘着テープとともに除去する。これに対して、本実施形態の電極シート製造方法では、予め形成された熱融着性樹脂枠の内側に活物質層を塗工するので、工程が簡略化されるし、粘着テープの貼着・除去によって活物質層を損傷することがない。
【0068】
また、本実施形態の電極シート製造方法において、活物質層をスクリーン印刷等で形成すると、熱融着性樹脂枠13の直近に活物質粒子17および無機固体電解質粒子20が存在しない領域10Dができる。しかしかかる領域10Dに高分子固体電解質溶液を充填することにより、完成した電極シート10では当該領域10Dが硬い高分子固体電解質で占められ、当該領域10Dが空隙となることがない。また、液体の電解液を用いる場合と異なり、電池の使用中に、当該領域10Dに隣接する電極16やセパレータ層19が崩れて電池構造が破壊されることがない。また、電解液やゲル固体電解質を用いる場合と異なり、電池製造時、熱融着のために熱融着性樹脂枠13が加熱されても、直近の高分子固体電解質と活物質等との反応が起こりにくい。
【0069】
本実施形態の変形例として、好ましくは、活物質層を形成する工程S12において、塗工される電極合剤が無機固体電解質粒子をさらに含む。その結果、図3を参照して、製造される電極シート25の電極26は活物質粒子17と、無機固体電解質粒子27と、活物質粒子17と無機固体電解質粒子27の隙間を埋める高分子固体電解質18とを含む。これにより活物質粒子17の隙間を移動する電荷の移動度が向上し、電極の内部抵抗がより小さくなる。電極26に含まれる無機固体電解質27としては、セパレータ層19に含まれる無機固体電解質20と同じく、LLT、LATP、LAGPなどの粒子を用いることができる。好ましくは、無機固体電解質27と無機固体電解質20は同じ化合物を用いる。
【0070】
本実施形態の他の変形例として、活物質層を形成した後に熱融着性樹脂枠13を形成してもよい。その場合、電極シート製造方法S10Bは、図4を参照して、
(S11B)熱融着性樹脂枠を有しない金属箔12を準備する工程と、
(S12)金属箔上に活物質層を形成する工程と、
(S13)活物質層上に、無機固体電解質層を形成する工程と、
(S14)無機固体電解質層上から高分子固体電解質溶液を供給して、活物質層および無機固体電解質層に浸透させる溶液供給工程と、
(S15)高分子化合物を重合させる硬化工程と、
(S11C)金属箔上の活物質層の周囲に熱融着性樹脂枠13を形成する工程と、
を有する。
【0071】
熱融着性樹脂枠S11Cを形成する工程は、活物質層形成工程S12の後、無機固体電解質層形成工程S13の後、溶液供給工程S14の後、または硬化工程S15の後に実施できる。このように活物質層等の形成後に熱融着性樹脂枠13を形成する場合、好ましくはインクジェット印刷やスクリーン印刷によって熱融着性樹脂枠を形成する。すでに形成された活物質層等を損傷しにくいからである。
【0072】
次に、本発明の第2実施形態である全固体リチウムイオン電池およびその製造方法を図5および図6に基づいて説明する。
【0073】
図5を参照して、本実施形態の全固体電池100は、第1実施形態の方法で製造する正極シート30と、第1実施形態の方法で製造する負極シート40が、それぞれのセパレータ層39、49が接触するように積層された構造を有する。全固体電池のセパレータ層109は、正極シートのセパレータ層39と負極シートのセパレータ層49からなる。そして、正極シートの熱融着性樹脂枠33と負極シートの熱融着性樹脂枠43とが図5の破線部(33A)で熱融着されて熱融着性樹脂壁103を形成している。熱融着性樹脂壁103は、正極36、セパレータ層109および負極46の外周を囲って封止している。
【0074】
本実施形態の全固体電池製造方法S100は、図6を参照して、
(S10)第1実施形態の方法で正極シート30を製造する工程と、
(S10)第1実施形態の方法で負極シート40を製造する工程と、
(S106)正極シートと負極シートを重ね合わせる工程と、
(S108)正極シートおよび負極シートの熱融着性樹脂枠同士を熱融着する封着工程と、を有する。
【0075】
正極シート30の熱融着性樹脂枠33と負極シート40の熱融着性樹脂枠43は、全体を重ね合わせ可能となるように、同形状、同寸法で形成される。正極シート30が第1実施形態の方法で製造されるので、正極36内の高分子固体電解質は、セパレータ層109の正極に接する部分のセパレータ層内高分子固体電解質と一体に形成される。また、負極シート40が第1実施形態の方法で製造されるので、負極46内の高分子固体電解質は、セパレータ層109の負極に接する部分のセパレータ層内高分子固体電解質と一体に形成される。
【0076】
重ね合わせ工程S106において、正極シート30と負極シート40は、それぞれのセパレータ層39、49同士が接触するように、つまりそれぞれの熱融着性樹脂枠33、43が接合するように重ね合わせられる。好ましくは、正極シート30のセパレータ層39と負極シート40のセパレータ層49のいずれかまたは両方の表層、例えば表面から1μm以内の範囲を可塑剤で軟化させた後に、正極シートと負極シートを貼り合せる。これにより、正極シートのセパレータ層と負極シートのセパレータ層の接合状態が改善され、電池の内部抵抗が小さくなる。可塑剤としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、これらの混合物などの有機溶媒を用いることができる。
【0077】
封着工程S108において、正極シートの熱融着性樹脂枠33と負極シートの熱融着性樹脂枠43とを破線部(33A)で熱融着して熱融着性樹脂壁103を形成し、正極36、セパレータ層109および負極46の外周を囲って封止する。
【0078】
本実施形態においても、第1実施形態と同様の変形が可能である。例えば、正極および/または負極活物質層を形成する工程S12において、塗工される電極合剤が無機固体電解質粒子をさらに含んでいてもよい。また、熱融着性樹脂枠33、43は活物質層および無機固体電解質層を形成した後に形成してもよい。つまり、図6において、正極シートおよび/または負極シートの製造工程として、工程S10の替わりに図4に示した工程S10Bを採用してもよい。
【0079】
次に、本発明の第3実施形態である全固体リチウムイオン電池およびその製造方法を図7図10に基づいて説明する。
【0080】
図7を参照して、本実施形態の全固体電池110は、第1実施形態の方法で製造する正極シート30と、第1実施形態と同様の方法で、ただしセパレータ層を設けずに製造する負極シート50が、それぞれの熱融着性樹脂枠33、53が接合するように積層された構造を有する。
【0081】
図8を参照して、負極シート50は、第1実施形態による電極シートと同様の構造を有し、ただし、無機固体電解質粒子と高分子固体電解質からなるセパレータ層を有しない。負極シート50は、負極金属箔52と負極56がこの順に積層されて構成される。負極金属箔はその片面の周縁部に形成された熱融着性樹脂枠53と、その反対面に積層された耐熱性樹脂層54を有し、耐熱性樹脂層54の一部に金属箔52が露出した露出部55が形成されている。負極56は熱融着性樹脂枠53の内側に形成されている。負極56は、負極活物質粒子57とその隙間を充填する負極内高分子固体電解質58からなる。
【0082】
図7に戻って、全固体電池110のセパレータ層119は、正極シート30のセパレータ層39からなる。そして、正極シートの熱融着性樹脂枠33と負極シート50の熱融着性樹脂枠53とが破線部(33A)で熱融着されて熱融着性樹脂壁113を形成している。熱融着性樹脂壁113は、正極36、セパレータ層119および負極56の外周を囲って封止している。
【0083】
本実施形態の全固体電池製造方法S110は、図9を参照して、
(S10)第1実施形態の方法で正極シート30を製造する工程と、
(S50)負極シート(第2電極シート)50を製造する工程と、
(S106)正極シートと負極シートを重ね合わせる工程と、
(S108)正極シートおよび負極シートの熱融着性樹脂枠同士を熱融着する封着工程と、を有する。
【0084】
正極シート30が第1実施形態の方法で製造されるので、正極36内の高分子固体電解質は、セパレータ層119の正極に接する部分のセパレータ層内高分子固体電解質と一体に形成される。
【0085】
負極シート50の製造工程S50は、
(S11)片面に熱融着性樹脂枠53が形成された金属箔52を準備する工程と、
(S12)金属箔上に活物質層を形成する工程と、
(S54)活物質層上から高分子固体電解質溶液を供給して、活物質層に浸透させる溶液供給工程と、
(S55)高分子化合物を重合させる硬化工程と、を有する。
【0086】
負極シート50を製造する工程S50において、金属箔52を準備する工程および当該金属箔上に負極活物質層を形成する工程は、第1実施形態における工程S11および工程S12とそれぞれ同じである。
【0087】
溶液供給工程S54は、第1実施形態における溶液供給工程S14と同様である。ただし、第1実施形態の工程S14では無機固体電解質層上から高分子固体電解質溶液を供給するのに対して、本実施形態の工程S54では、無機固体電解質層が存在しないので、負極活物質層上から高分子固体電解質溶液を供給する点で異なる。なお、高分子固体電解質溶液は、金属箔52表面から負極活物質層表面までの全域にわたって、負極活物質粒子57の隙間に充填されるのが好ましいこと、高分子固体電解質溶液は、熱融着性樹脂枠53の直近の、負極活物質粒子57が存在しない領域50Dを埋めるのが好ましいことも同様である。
【0088】
高分子化合物を重合させる硬化工程S55も、第1実施形態における硬化工程S15と同様である。ただし、第1実施形態では照射対象物が無機固体電解質層を有するのに対して、本実施形態の工程S55では、無機固体電解質層が存在しない点で異なる。
【0089】
正極シート30および負極シート50を重ね合わせる工程S106と、正極シートの熱融着性樹脂枠33と負極シートの熱融着性樹脂枠53を熱融着して熱融着性樹脂壁113を形成し、正極36、セパレータ層119および負極56の外周を囲って封止する封着工程S108は、第2実施形態と同様である。
【0090】
なお、本実施形態では、第1実施形態の方法で正極シート30を製造し、セパレータ層を有しない負極シート50と接合したが、これとは反対に、第1実施形態の方法で負極シートを製造し、セパレータ層を有しない正極シートと接合してもよい。
【0091】
本実施形態においても、第1および第2実施形態と同様の変形が可能である。例えば、正極および/または負極活物質層を形成する工程S12において、塗工される電極合剤が無機固体電解質粒子をさらに含んでいてもよい。また、熱融着性樹脂枠33は活物質層等を形成した後に形成してもよい。つまり、図9において、正極シート30の製造工程として、工程S10の替わりに図4に示した工程S10Bを採用してもよい。同様に、熱融着性樹脂枠53は活物質層等を形成した後に形成してもよい。つまり、図9において、負極シート50の製造工程として、工程S50の替わりに図10に示した工程S50Bを採用してもよい。
【0092】
次に、本発明の第4実施形態である全固体リチウムイオン電池およびその製造方法を図11および図12に基づいて説明する。
【0093】
図11を参照して、本実施形態の全固体電池120は、第2実施形態の全固体電池100と同様の構造を有する。ただし、本実施形態の全固体電池120は、電池内の高分子固体電解質の全体が一体に形成されている点で、第2実施形態の全固体電池100と異なる。
【0094】
図11の下側を第1シート、上側を第2シートとして、全固体電池120では、第1耐熱性樹脂層64、第1金属箔62、第1電極66、セパレータ層129、第2電極76、第2金属箔72、第2耐熱性樹脂層74がこの順に積層されている。第1電極と第2電極は反対の極性を有する。第1電極が正極、第2電極が負極であってもよいし、その逆であってもよい。そして、熱融着性樹脂壁123が両電極66、76とセパレータ層129の外周を囲って、第1金属箔62と第2金属箔72を結合している。そして、第1電極66内、セパレータ層129内および第2電極76内の高分子固体電解質が一体に形成されている。
【0095】
本実施形態の全固体電池製造方法S120は、図12を参照して、
(S60)第1シート60を製造する工程と、
(S60)第2シート70を製造する工程と、
(S126)正極シートと負極シートを重ね合わせる工程と、
(S127)高分子化合物を重合させる硬化工程と、
(S128)第1シートおよび第2シートの熱融着性樹脂枠同士を熱融着する封着工程と、を有する。
【0096】
第1シート製造工程S60および第2シート製造工程S70は、第1実施形態の電極シート製造工程S10と同様であるが、高分子化合物を重合させる硬化工程(図2の工程S15)を有しない点で異なる。本実施形態では、重ね合わせ工程S126によって、いずれも未重合の高分子固体電解質溶液を含む第1シート60および第2シート70を重ね合わせた後に、高分子化合物を重合させる(S127)。
【0097】
硬化工程S127は、熱硬化、電子線照射、またはその組み合わせによって行うことができる。電子線照射による場合は、好ましくは、第1金属箔62、第2金属箔72のうち、原子番号の小さい金属からなる金属箔側から電子線を照射する。例えば、第1金属箔がアルミ箔、第2金属箔が銅箔であれば、アルミ箔側から電子線を照射する。電子線が透過しやすいからである。
【0098】
封着工程S128は、第2および第3実施形態の封着工程S108と同様に実施できる。封着工程は硬化工程S127とを同時に行っても良いが、好ましくは硬化工程の後に実施する。高分子化合物の重合過程で発生するアウトガス等の封入を防ぐことができるからである。
【0099】
本実施形態においても、第1~第3実施形態と同様の変形が可能である。例えば、第1電極66および/または第2電極76は無機固体電解質粒子を含んでいてもよい。また、第1熱融着性樹脂枠63を、活物質層等を形成した後に形成してもよい。具体的には、図12の第1シート製造工程S60において、熱融着性樹脂枠が形成されていない金属箔62を準備し、活物質層形成工程S12後、無機固体電解質層形成工程S13後または溶液供給工程S14後に、第1熱融着性樹脂枠63を形成してもよい。また、第2シートの第2熱融着性樹脂枠73の形成についても同様である。また、第3実施形態のように、第1シート60または第2シート70のいずれか一方が無機固体電解質層を有しないものであってもよい。
【0100】
本実施形態によれば、全固体電池120内部の高分子固体電解質の全体が一体に形成されるので、電池の内部抵抗をよりいっそう低くすることができる。
【0101】
次に、本発明の第5実施形態である全固体リチウムイオン電池およびその製造方法を図13図15に基づいて説明する。
【0102】
図13を参照して、本実施形態の全固体電池130は、第4実施形態の全固体電池120と同様の構造を有する。
【0103】
全固体電池130では、第1耐熱性樹脂層84、第1金属箔82、第1電極86、セパレータ層89、第2電極92、第2金属箔96、第2耐熱性樹脂層98がこの順に積層されている。第1電極と第2電極は反対の極性を有する。第1電極が正極、第2電極が負極であってもよいし、その逆であってもよい。そして、熱融着性樹脂壁133が両電極86、92とセパレータ層89の外周を囲って、第1金属箔82と第2金属箔96を結合している。そして、第1電極86内、セパレータ層89内および第2電極92内の高分子固体電解質が一体に形成されている。
【0104】
本実施形態の全固体電池製造方法S130は、図14を参照して、
(S11)片面に第1熱融着性樹脂枠83が形成された第1金属箔82を準備する工程と、
(S12)第1金属箔上に第1活物質層を形成する工程と、
(S13)第1活物質層上に、無機固体電解質層を形成する工程と、
(S82)無機固体電解質層上に、第2活物質層を形成する工程と、
(S84)第2活物質層上から高分子固体電解質溶液を供給して、第1活物質層、無機固体電解質層および第2活物質層に浸透させる溶液供給工程と、
(S85)高分子化合物を重合させる硬化工程と、
(S136)片面に第2熱融着性樹脂枠97が形成された第2金属箔96を重ねる工程と、
(S138)第1熱融着性樹脂枠83と第2熱融着性樹脂枠97を熱融着する封着工程と、を有する。
【0105】
第1金属箔82を準備する工程、第1活物質層を形成する工程および無機固体電解質層を形成する工程は、第1実施形態における工程S11、工程S12および工程S13とそれぞれ同じである。
【0106】
無機固体電解質層上に第2活物質層を形成する工程S82は、第1活物質層を形成する工程S12と同様にして行うことができる。
【0107】
溶液供給工程S84は、第1実施形態における溶液供給工程S14と同様である。ただし、第1実施形態における工程S14では無機固体電解質層上から高分子固体電解質溶液を供給するのに対して、本実施形態の工程S84では、無機固体電解質上に形成された第2活物質層上から高分子固体電解質溶液を供給する点で異なる。なお、高分子固体電解質溶液は、金属箔82表面から第2活物質層表面までの全域にわたって充填されるのが好ましいこと、高分子固体電解質溶液は、熱融着性樹脂枠83の直近の、活物質粒子・無機固体電解質粒子が存在しない領域130Dを埋めるのが好ましいことも同様である。
【0108】
硬化工程S85も、第1実施形態における硬化工程S15と同様である。ただし、第1実施形態の工程S15では照射対象物が活物質層および無機固体電解質層を有するのに対して、本実施形態の工程S85では、照射対象物がさらに第2活物質層を有する点で異なる。この硬化工程により、第1電極86内、セパレータ層89内および第2電極92内の高分子固体電解質88、91、94が一体に形成される。そして、第1活物質粒子87とその隙間を埋める第1電極内高分子固体電解質88とを含む第1電極86、無機固体電解質粒子90とその隙間を埋めるセパレータ層内高分子固体電解質91とを含むセパレータ層89、および第2活物質粒子93とその隙間を埋める第2電極内高分子固体電解質94とを含む第2電極92が完成する。
【0109】
第2金属箔を重ね合わせる工程S136は、第2実施形態と同様である。重ね合わせ工程S136では、第2金属箔を、第1熱融着性樹脂枠83と第2熱融着性樹脂枠97が接合するように、第2金属箔を第2電極92上に重ねる。
【0110】
封着工程S138も、第2実施形態と同様である。封着工程では、第1熱融着性樹脂枠83と第2熱融着性樹脂枠97を図13の破線部(83A)で熱融着して熱融着性樹脂壁133を形成し、第1電極86、セパレータ層89および第2電極92の外周を囲って封止する。
【0111】
本実施形態においても、第1~第4実施形態と同様の変形が可能である。例えば、第1電極および第2電極は無機固体電解質粒子をさらに含んでいてもよい。また、第1熱融着性樹脂枠83を、活物質層等を形成した後に形成してもよい。具体的には、図14において、熱融着性樹脂枠が形成されていない第1金属箔82を準備し、第1活物質層形成工程S12後から重ね合わせ工程S136までの間のいずれかの段階で、第1熱融着性樹脂枠83を形成してもよい。
【0112】
また、硬化工程と重ね合わせ工程の順番を入れ替えてもよい。すなわち、図15を参照して、溶液供給工程S84の後に、硬化工程を実施せずに第2金属箔96を重ね合わせ、その後に硬化工程S137を実施する。第2金属箔を重ね合わせた段階では、高分子固体電解質溶液は未重合である。硬化工程S137は第4実施形態の硬化工程S127と同様に行うことができる。
【0113】
第2~第5実施形態の全固体電池製造方法の効果を改めて説明すると次のとおりである。
【0114】
製造された全固体電池は、液体の電解液や高分子ゲル状電解質でなく高分子固体電解質を用いるので漏液のおそれがない。また、高分子固体電解質が活物質粒子の隙間を埋めているので、高分子固体電解質と活物質粒子の接触状態が良く、内部抵抗が低い電池が得られる。さらに、いずれかまたは両方の電極内の高分子固体電解質が、セパレータ層内の少なくとも当該電極に接する部分の高分子固体電解質と一体に形成されるので、当該電極とセパレータ層の界面抵抗が抑えられ、内部抵抗が低い電池が得られる。また、セパレータ層が高分子固体電解質よりイオン導電性と硬度の高い無機固体電解質を含むので、セパレータ層のイオン導電性と強度を高いレベルで両立できる。
【0115】
また、熱融着性樹脂枠形成後に高分子固体電解質溶液を供給する場合には、製造された全固体電池は、熱融着性樹脂枠直近の活物質粒子および無機固体電解質粒子が存在しない領域が高分子固体電解質で占められているので、電池使用中の電池構造が崩れにくい。
【0116】
次に、活物質粒子と高分子固体電解質からなる電極と、無機固体電解質粒子と高分子固体電解質からなるセパレータ層からなる積層体が電池として機能することを実験によって確認した。
【0117】
正極活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO、株式会社豊島製作所、品番:LiCoO微粉末、平均粒径1μm)、導電助剤としてケッチェンブラック(KB)、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を重量比で95:2:3の割合で混合した正極合剤に、固形分比率が52重量%となるようにNメチル2ピロリドン(NMP)を加えてペースト化した。この正極合剤ペーストを、厚さ20μmのアルミ箔上に50mm×50mmの大きさにスクリーン印刷で塗工し、80℃~120℃で2時間乾燥させて、厚さ15μmの正極活物質層を形成した。電解質合剤は、LAGP:PVdF=97:3(重量比)で混合し、固形分比率が69重量%となるようにNMPを加えてペースト化した。この電解質合剤ペーストを、正極活物質層上に56mm×56mmの大きさにスクリーン印刷で塗工し、80℃で20分間乾燥させて、正極活物質層上に厚さ10μmの無機固体電解質層を形成した。高分子固体電解質溶液は、高分子化合物としてのポリエチレンオキシド(PEO)に光重合開始剤とリチウム塩としてのLiTFSを混合し、溶媒としてNMPを加えて粘度調整した。この高分子固体電解質溶液を無機固体電解質層表面にインクジェット法により供給し、静置して正極活物質層および無機固体電解質層の空隙全域を充填した後、紫外線を照射して高分子化合物を架橋させた。これにより、正極および、正極活物質層上にセパレータ層が形成された。セパレータ層の厚さは13μmで、すなわち、表層3μmの領域は無機固体電解質粒子を含まず、高分子固体電解質のみを含んでいた。以上により、電極とセパレータ層を有する正極シートを作製した。
【0118】
負極活物質として人造黒鉛(昭和電工株式会社、品番:SCMG、平均粒径5μm)、導電助剤としてKB、結着剤としてPVdFを重量比で96:1:3の割合で混合した負極合剤に、固形分比率が50重量%となるようにNMPを加えてペースト化した。この負極合剤ペーストを、厚さ15μmの銅箔上に50mm×50mmの大きさにスクリーン印刷で塗工し、80℃~120℃で2時間乾燥させて、厚さ15μmの負極活物質層を形成した。上記と同じ高分子固体電解質溶液と負極活物質層表面にインクジェット法により供給し、負極活物質層の全域に充填した後、紫外線を照射して高分子化合物を架橋させた。これにより、負極活物質粒子間に高分子固体電解質相が形成され、かつ負極活物質層上に厚さ5μmの高分子固体電解質層が形成された。以上により、セパレータ層を有しない負極シートを作製した。
【0119】
正極シートのセパレータ層の表面に可塑剤を塗り拡げてから、負極シートと貼り合せて、実験例の電池を作製した。
【0120】
充放電試験を、充電は電流100μA、電圧4.2Vの定電流定電圧充電、充電時間60分、放電は電流100μA、終止電圧1.0Vの定電流放電の条件で実施した結果を図16に示す。図16から、実験例の電池が安定に充放電動作することが確認された。
【0121】
次に、セパレータ層の無機固体電解質粒子間に高分子固体電解質を形成することで、無機固体電解質粒子間でのリチウムイオン伝導性が効果的に発現することを確認した。
【0122】
ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を結着剤とする無機固体電解質層をアルミ箔上に形成した後に当該無機固体電解質層内に高分子固体電解質溶液を浸透させ、その上にアルミ箔の対極を接触配置させた後、重合反応によって高分子固体電解質溶液中の高分子を架橋硬化させて無機固体電解質粒子間に高分子固体電解質が浸透した全固体電解質層を形成してそのイオン伝導性を評価した。ここで無機固体電解質粒子には粒子径がおよそ1μmのLi1+xAlGe2-y(PO(LAGP)を用い、高分子固体電解質溶液は重合後に高分子固体電解質の骨格となる高分子化合物、およびリチウム塩と架橋剤、重合開始剤を含み、有機溶媒によって適切な粘度となるように希釈した。
【0123】
得られた全固体電解質層の室温でのリチウムイオン伝導性を交流インピーダンス法を用いて測定した。イオン伝導度σは次式により算出した。
σ=L/(R×S)
式中、σはイオン伝導度(単位:S/cm)、Lは電極間距離(単位:cm)、Rはコール・コールプロットの実数インピーダンス切片より算出した抵抗(単位:Ω)、Sは試料面積(単位:cm)である。結果を表1に示す。
【0124】
【表1】
【0125】
表1において、高分子固体電解質溶液を塗布する前の無機固体電解質層のイオン伝導度が2.0×10-7S/cmであったのに対して、高分子固体電解質溶液を含浸後に重合硬化して得られた全固体電解質層のイオン伝導度は2.7×10-5S/cmであった。これを全固体電解質層の厚さを5μmとした場合に換算すると5.4×10-2S/5μmとなり、電解液を含まない全固体の電解質層であっても、高分子固体電解質で無機固体電解質の粒子間を埋めることによって良好なリチウムイオン伝導性が発現することが確認された。なお、このときに用いた高分子固体電解質単体のイオン伝導度は6.4×10-5S/cmであった。
【0126】
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その技術的思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0127】
10、30、40、50 電極シート; 10D 熱融着性樹脂枠直近の活物質粒子および無機固体電解質粒子が存在しない領域; 12、32、42、52 金属箔; 13、33、43、53 熱融着性樹脂枠; 14、34、44、54 耐熱性樹脂層; 15 露出部; 16、36、46 電極; 17 活物質粒子; 18(電極内)高分子固体電解質; 19、39、49 セパレータ層; 20 無機固体電解質粒子; 21(セパレータ層内)高分子固体電解質; 25 電極シート; 26 電極; 27 第2無機固体電解質粒子; 33A 熱融着性樹脂枠の融着面; 60 第1シート; 70 第2シート; 62、72 金属箔; 63、73 熱融着性樹脂枠; 63A 熱融着性樹脂枠の融着面; 64、74 耐熱性樹脂層; 65、75 露出部; 66、76 電極; 67、77 活物質粒子; 68、78(電極内)高分子固体電解質; 69、79 セパレータ層; 82 第1金属箔; 83 第1熱融着性樹脂枠; 84 第1耐熱性樹脂層; 85 第1露出部; 86 第1電極; 87 第1活物質粒子; 88(第1電極内)高分子固体電解質; 89 セパレータ層; 90 無機固体電解質粒子; 91(セパレータ層内)高分子固体電解質; 92 第2電極; 93 第2活物質粒子; 94(第2電極内)高分子固体電解質; 95 第2集電体シート; 96 第2金属箔; 97 第2熱融着性樹脂枠; 98 第2耐熱性樹脂層; 99 第2露出部; 100、110、120、130 全固体電池; 100D、110D、120D、130D 熱融着性樹脂壁直近の活物質粒子および無機固体電解質粒子が存在しない領域; 103、113、123、133 熱融着性樹脂壁; 109、119、129、139 セパレータ層
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