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特許70667379,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法
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  • 特許-9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 17/32 20060101AFI20220506BHJP
   C07C 22/04 20060101ALI20220506BHJP
   C07C 17/263 20060101ALI20220506BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20220506BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220506BHJP
【FI】
C07C17/32
C07C22/04
C07C17/263
B01J31/02 102Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019552838
(86)(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 ES2018070196
(87)【国際公開番号】W WO2018178439
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-27
(31)【優先権主張番号】P201730460
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】ES
(73)【特許権者】
【識別番号】519339493
【氏名又は名称】ウニヴェルシダッド デ カスティーリャ ラ マンチャ
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】オルテガ イゲルエロ フランシスコ ホセ
(72)【発明者】
【氏名】ランガ デ ラ プエンテ フェルナンド
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102108041(CN,A)
【文献】特開平11-035501(JP,A)
【文献】特開平10-087528(JP,A)
【文献】特表2003-524210(JP,A)
【文献】Chem. Commun.,2015年,51,16767-16770
【文献】Organic Letters ,2005年,Vol.7, No.14,2809-2812
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 17/32
C07C 17/263
C07C 22/04
C07B 61/00
B01J 31/02
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法であって、試薬としてのアントラセンおよび1,3,5-トリオキサン、第四級アンモニウム塩およびクラウンエーテルを含む群から選択される相間移動触媒と、塩酸および酢酸とを混合する工程を含当該方法は、有機溶媒を含まない水性反応媒体中で行なわれ、前記相間移動触媒の濃度が2mol%~4mol%である、9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法。
【請求項2】
1,3,5-トリオキサン:アントラセンのモル比が0.5~3であることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法に関する。上記方法は、アントラセン、1,3,5-トリオキサン、触媒ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、塩酸および酢酸を混合することを含む。9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンは、特異的認識、電子分子機械、有機合成における薬剤担体および触媒、光学蛍光、光線力学療法および光学データストレージ、微細加工、アントラセンメソ二置換誘導体の調製における前駆体に使用される化合物である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
前記化合物9,10-ビス(クロロメチル)アントラセン
【化1】
は、メソ位またはベンジル位(芳香環に隣接するCH2)に二重置換されているアントラセン骨格を含めることが必要である化学合成プロセスの中間体として、非常に興味深い化合物である。
【0003】
文献J.Am.Chem.Soc.1955,77,2845-2848は、置換反応によって、すなわち、9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンから広範囲の利用可能な機能化へ、他の誘導体を得る際の汎用中間体としてアントラセンのクロロメチル化方法を記載している。要約すると、この文献に記載されている合成方法は、その場で連続して生成された冷塩化水素の流れを、1,4-ジオキサン、アントラセン、p-ホルムアルデヒドおよび発煙塩酸の混合物に通すことからなる。その塩化水素の流れを数時間維持しながら、粗反応生成物を加熱還流させ、その中断後、還流系はさらに24時間続く。ろ過と徹底的な洗浄を行って不純物を除去した後、最終的に固体物の形で化合物が得られ、かなり適度な収率は67%である。以上のように、それはむしろ面倒な実験であり、収率は大幅に改善する可能性がある。
他の合成方法も従来技術に記載されており、例えば、RSC Adv.2015,5,73951-73957には有機溶媒(ジオキサン)の存在下に高温(100℃)で合成が行われることが記載されている。
しかしながら、本出願の発明者らは、この方法において深刻な再現性の問題を見出した。発明者らがその方法を再現したとき、科学論文に述べられているように、この反応を複数回繰返したにもかかわらず、毎回不成功であり、9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンが得られないことがわかった。従って、この合成経路は除外しなければならない。
【0004】
9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンは、異なる供給業者から取得することができる。それらのウェブサイトで、Sigma-Aldrichは、この製品を「普通でない特有な化学試薬」の選択項目に分類しているため、その価格が非常に高いことを正当化している。しかしながら、この化合物は、アントラセンの構造中間体として科学研究に広く使用されており、主に比色特性および蛍光光学特性の発生を求めて、化学的に自由に誘導体化されている。
この化合物のいくつかの用途は、従来技術で公開されている。
文献RSC Adv.2015,5,73951-73957は、この化合物を、特異的認識、電子分子機械、有機合成における薬剤担体および触媒に使用するための分子剛性を有する新しい光活性シクロファン骨格として記載している。
文献Chem.Mater.2004,16,2783-2789は、この化合物を、光学蛍光、光線力学療法および光学データストレージならびにドナー-ブリッジ-アクセプター化合物またはドナー-ブリッジ-ドナー化合物による微細加工における用途のための有機物質として記載している。
この化合物は、9位および10位のアントラセンメソ二置換誘導体の調製において、例えば、アミンおよびそれらのそれぞれの塩酸塩、アミド、イソシアネート、アルコール、エステル、エーテル、チオール、ニトリル、酸ならびにホスホン酸塩の貴重な前駆体として作用する。
【発明の概要】
【0005】
発明の説明
従来技術の観点からの問題は、従来技術の方法で得られたものよりも高い収率で9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法を提供することからなる。
この問題の解決策は、下記に説明する方法を提供すること、これまでに説明した手順よりもはるかに簡単な縮小化ならびに触媒方法および水性反応媒体を有機溶媒を存在させずに使用するような「グリーンケミストリー」の原則を満たすことをからなる。
第1の態様において、本発明は、試薬、アントラセンおよび1,3,5-トリオキサン、第四級アンモニウムおよびクラウンエーテルからなる群から選択される相間移動触媒と、塩酸および酢酸とを混合することを含む、9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法を提供する。
本明細書において、「相間移動触媒」は、2相以上に位置する2種以上の試薬間の化学反応を可能にし、触媒する化学種であるので、上記相間移動触媒の非存在下で可能でない反応性を可能にする。作用様式は、相間の触媒の配置に基づいており、反応に積極的に関与する試薬間の物理化学的結合を可能にする。
【0006】
別の実施態様は、上記相間移動触媒の濃度が1mol%と5mol%の間である、本発明の第1の態様に従う方法である。
もう1つの実施態様は、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドの濃度が2mol%と4mol%の間である、本発明の第1の態様に従う方法である。
もう1つの実施態様は、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドの濃度が2mol%と3mol%の間である、本発明の第1の態様に従う方法である。
もう1つの実施態様は、1,3,5-トリオキサン:アントラセンのモル比が0.5と3の間である、本発明の第1の態様に従う方法である。
もう1つの実施態様は、1,3,5-トリオキサン:アントラセンのモル比が1と2の間である、本発明の第1の態様に従う方法である。
もう1つの実施態様は、下記の追加の段階を含む、本発明の第1の態様に従う方法である:
(c)段階(b)から得られた混合物をろ過する段階、
(d)水で洗浄する段階、および
(d)エタノールで洗浄する段階。
【0007】
本発明の第1の態様に従う方法は、室温でまたは室温よりも高い温度に加熱して実施することができる。
上記9,10-ビス(クロロメチル)アントラセン化合物は、数分以内に非常に素早く生じる。本発明の第1の態様に従う方法の開始から1O分未満にこの化合物が存在する。
本発明の第1の態様に従う方法は、下記のとおりである、従来技術に記載された方法について一連の利点を有する:
-合成プロセスに有機溶媒が含まれていないこと、使用媒体は水性のみであり、つまり有機溶媒を処理する必要性を阻止することを意味する;
-プロセスへの補助的なガス供給流がないこと;
-高い反応収率が固体状態で精製された最終生成物の質量として測定されること;
-溶媒を還流させる必要がないので、合成で高温を必要としないこと;
-行われてきた結晶化により最終生成物のさらなる精製を必要としないこと;
-方法の優れた再現性。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの重水素化クロロホルム中、室温での400MHzプロトンNMRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施態様の説明
使用した試薬
合成方法に使用される試薬は、市販の化合物に対して合成前にその精製または濃縮をすることなく使用した。
試薬アントラセン(Anthracene ReagentPlus(登録商標)、99%、コマーシャルコード141062-25G、56.00ユーロ、スペイン)、酢酸(Acetic acid ReagentPlus(登録商標)、≧99%、コマーシャルコードA-6283-1L、43.60ユーロ、スペイン)および1,3,5-トリオキサン(1,3,5-trioxane、≧99%、コマーシャルコードT81108-100G、23.30ユーロ、スペイン)はSigma-Aldrichから購入した。塩酸(塩酸試薬グレード、37%、1L、28.23ユーロ)はScharlabから供給された。最後に、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(Hexadecyltrimethylammonium bromide、≧96%、コマーシャルコード52370-100G、32.00ユーロ、スペイン)はFlukaからのものである。
【0010】
【化2】
【0011】
9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法
一般に、実験方法は下記のとおり説明することができる:固体試薬(アントラセン、1,3,5-トリオキサンおよび触媒としてヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド)を確立された優先順位でなく丸いフラスコに入れる。この混合物に、最初に塩酸を、次に酢酸を、すべて室温で、絶え間なく激しく撹拌しながら(1500rpm)加える。次いで、この混合物を異なる温度にさらして、特定の時間で反応が行われ、存在する固体が溶解することなく、媒体は黄色になり、粉末状の外観を有する。所定の反応時間の後、フラスコの内容物をろ過して黄色の沈殿物を収集し、水で徹底的に洗浄して、媒体中に存在する残存物のトリオキサン、触媒および酸化学種を除去する。最終工程として、得られた固形物をエタノールで洗浄して洗浄液から残存物の水を除去し、完全に乾くまで2時間70℃で炉乾燥させる。
反応温度、時間および制限量のアントラセンについてホルムアルデヒドの供給源として過剰量の1,3,5-トリオキサンの異なる値によっていくつかの反応プロトコルを試験した。
実施例1~4は、試験した9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの異なる合成方法を記載している。
【実施例
【0012】
実施例1 9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法
【化3】

使用した試薬量の説明:
アントラセン→500mg、2.8mmol.
1,3,5-トリオキサン→504mg、2当量(5.6mmol).
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド→25mg、0.07mmol(2.5mol%)
塩酸37%→10ml
酢酸99%→2.5ml
反応収率:89%
【0013】
実施例2 9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法
【化4】

使用した試薬量の説明:
アントラセン→500mg、2.8mmol.
1,3,5-トリオキサン→504mg、2当量(5.6mmol).
1,3,5-トリオキサン:アントラセンのモル比:2
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド→25mg、0.07mmol(2.5mol%)
塩酸37%→10ml
酢酸99%→2.5ml
反応収率:96%
【0014】
実施例3 9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法
【化5】

使用した試薬量の説明:
アントラセン→500mg、2.8mmol.
1,3,5-トリオキサン→504mg、2当量(5.6mmol).
1,3,5-トリオキサン:アントラセンのモル比:2
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド→25mg、0.07mmol(2.5mol%)
塩酸37%→10ml
酢酸99%→2.5ml
反応収率:93%.
【0015】
実施例4 9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法
【化6】

使用した試薬量の説明:
アントラセン→500mg、2.8mmol.
1,3,5-トリオキサン→504mg、1当量(2.8mmol).
1,3,5-トリオキサン:アントラセンのモル比:1
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド→25mg、0.07mmol(2.5mol%)
塩酸37%→10ml
酢酸99%→2.5ml
反応収率:97%の固形物(純粋な生成物によるNMR分析では一致せず、未反応のアントラセンが存在する)
下記の表1は、可変部分に対して上記の結果をまとめた情報の表を示すものである。
【0016】
【表1】
【0017】
実施例1~4で合成した9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンは、室温で測定を実施し、分析の溶媒として重水素化クロロホルム(CDC3)を使用して、Bruker 400MHz NMRでのプロトン核磁気共鳴(NMR)実験により特性評価した。
図1は、重水素化クロロホルム中、室温での400MHzプロトンNMRスペクトルを示す図である。このスペクトルは、実施例1~4で得られた化合物と同一である。このスペクトルは、従来技術で記載されているスペクトルと一致している(δH400MHz、CDCl3:5.77ppm、一重線,4H;7.74-7.77ppm、多重線,4H;8.53-8.55ppm、多重線,4H)。
【0018】
実施例5 9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法
【化7】

使用した試薬量の説明:
アントラセン→500mg、2.8mmol.
1,3,5-トリオキサン→504mg、2当量(5.6mmol).
1,3,5-トリオキサン:アントラセンのモル比:2
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド→25mg、0.07mmol(2.5mol%)
塩酸37%→10ml
酢酸99%→2.5ml
反応収率:74%の固形物.
【0019】
実施例6 9,10-ビス(クロロメチル)アントラセンの合成方法
この実施例において、下記の相間移動触媒を使用した:
テトラブチルアンモニウムブロミド
テトラブチルアンモニウムフルオリド
テトラブチルアンモニウムニトラート
テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート
テトラブチルアンモニウムペルクロラート
ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド
4-カルボキシベンジル-18-クラウン-6(1,4,7,10,13,16-ヘキサオキサシクロオクタデカン-1,4,7,10,13,16-ヘキサオキサシクロオクタデカン)クラウンエーテル
18-クラウン-6(カルボン酸18-2,3,5,6,8,9,11,12,14,15-デカヒドロベンゾ[b][1,4,7,10,13,16]ヘキサオキサシクロオクタデカン-2,3,5,6,8,9,11,12,14,15-デカヒドロベンゾ[b][1,4,7,10,13,16]ヘキサオキサシクロオクタデカン-18-カルボン酸)クラウンエーテル
【0020】
表2は、この実施例の実験で得られた反応パラメーターと収率を示す表である:
【表2】
図1