(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】タルボX線顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G01N 23/041 20180101AFI20220506BHJP
G01T 7/00 20060101ALI20220506BHJP
G21K 7/00 20060101ALI20220506BHJP
G21K 1/06 20060101ALI20220506BHJP
G01T 1/24 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
G01N23/041
G01T7/00 A
G21K7/00
G21K1/06 A
G01T1/24
(21)【出願番号】P 2019555869
(86)(22)【出願日】2018-04-16
(86)【国際出願番号】 US2018027821
(87)【国際公開番号】W WO2018191753
(87)【国際公開日】2018-10-18
【審査請求日】2019-12-04
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516065870
【氏名又は名称】シグレイ、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ウェンビン
(72)【発明者】
【氏名】ルイス,シルビア・ジア・ユン
(72)【発明者】
【氏名】カーズ,ヤーノシュ
(72)【発明者】
【氏名】バイン,デイビッド
(72)【発明者】
【氏名】シシャドリ,スリバトサン
【審査官】佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0260663(US,A1)
【文献】特開2015-047306(JP,A)
【文献】特表2013-529984(JP,A)
【文献】特表2015-507984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC
A61B 6/00-A61B 6/14、
G01N 23/00-G01N 23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線顕微鏡システムであって、
X線照射ビーム生成システムを備え、前記X線照射ビーム生成システムは、
X線源と、
ビーム分割格子とを備え、前記X線照射ビーム生成システムは、タルボ効果によって複数のX線マイクロビームを生成し、前記複数のX線マイクロビームは、焦点深度と、伝搬軸と、予め定められたX線エネルギについての前記軸に対して垂直な予め定められた強度プロファイルとを有し、前記X線顕微鏡システムはさらに、
調査対象の物体を焦点深度内に支持するように構成されたマウントを備え、前記マウントは、前記物体を前記複数のX線マイクロビームに対して移動させるように構成され、前記X線顕微鏡システムはさらに、
前記複数のX線マイクロビームと前記物体との相互作用から生じるX線を検出するための少なくとも1つのX線画素アレイ検出器を備え、前記検出器は、前記焦点深度内に複数の画素を備える、X線顕微鏡システム。
【請求項2】
前記ビーム分割格子は、前記予め定められたX線エネルギにおけるπ位相シフト格子またはπ/2位相シフト格子である、請求項1に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項3】
前記X線源は、
電子ビームのためのエミッタと、
透過X線ターゲットとを備え、前記透過X線ターゲットは、第1の質量密度を有する第1の材料を備える複数の個別の微細構造と、前記第1の質量密度よりも低い第2の質量密度を有する第2の材料を備える基板とを備える、請求項1に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項4】
前記電子ビームは、斜角で前記ターゲットに入射する、請求項3に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項5】
前記X線源は、吸収格子と組み合わせて使用されるマイクロフォーカスX線源または広域X線源である、請求項1に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項6】
前記複数のX線マイクロビームの帯域幅の半値全幅が前記予め定められたX線エネルギを中心とする30%となるように少なくとも1つのフィルタをさらに備える、請求項1に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項7】
前記マウントは、2つの直交する方向に前記物体を平行移動させるように構成される、請求項1に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項8】
前記マウントは、前記伝搬軸に対して垂直な方向を中心として前記物体を回転させるようにさらに構成される、請求項
7に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項9】
前記検出器は、CCDベースの検出器であり、前記画素の中心が前記X線マイクロビームの中心に位置合わせされるように位置合わせされる、請求項1に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項10】
前記検出器からの出力信号を表示および分析するように構成された分析システムをさらに備える、請求項1に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項11】
予め定められた数の前記X線マイクロビームを阻止するように位置決めされたマスクをさらに備える、請求項1に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項12】
前記物体を透過した予め定められた数の前記X線マイクロビームを阻止するように前記検出器の上流に位置決めされたマスクをさらに備える、請求項1に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項13】
前記システムは、サブミクロン空間分解能を達成する、請求項1に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項14】
各画素は、前記画素の中心に能動的検出領域を備え、前記能動的検出領域は、前記画素の総面積の50%未満を占める、請求項1に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項15】
前記検出器の上流に設置され、前記X線マイクロビーム間のX線を吸収してX線マイクロビームと前記X線マイクロビーム間の領域との間の強度比を大きくするように位置決めされた減衰格子をさらに備える、請求項1に記載のX線顕微鏡システム。
【請求項16】
物体のX線透過を測定するための方法であって、
複数のアンチノードを備え、焦点深度を有するX線タルボ干渉パターンを生成するステップと、
複数の画素を備えるX線アレイ検出器を、前記複数の画素が前記X線タルボ干渉パターンの前記焦点深度内にあるように位置決めするステップと、
調査対象の物体を透過した前記アンチノードのうちの少なくともいくつかのX線が前記検出器によって検出されるように、前記焦点深度内に前記調査対象の物体を位置決めするステップとを備える、方法。
【請求項17】
前記物体を透過した前記X線のうちの少なくとも一部が前記検出器によって検出されることを阻止するステップをさらに備える、請求項
16に記載の方法。
【請求項18】
前記X線タルボ干渉パターンの少なくとも一部のX線が前記物体に到達することを阻止するステップをさらに備える、請求項
16に記載の方法。
【請求項19】
前記阻止するステップは、前記物体の前にマスクを位置決めするステップを備える、請求項
18に記載の方法。
【請求項20】
前記マスクは、前記焦点深度内に位置決めされる、請求項
19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本特許出願は、2017年4月15日に出願された「タルボX線顕微鏡(TALBOT X-RAY MICROSCOPE)」と題される米国仮特許出願番号第62/485,916号の優先権利益を主張し、2015年5月15日に出願された「周期構造の測定、特徴付けおよび分析のためのX線方法(X-RAY METHOD FOR MEASUREMENT, CHARACTERIZATION, AND ANALYSIS OF PERIODIC STRUCTURES)」と題される米国特許出願番号第14/712,917号の一部継続出願である。米国特許出願番号第14/712,917号は、2015年4月29日に出願された「X線干渉計イメージングシステム(X-RAY INTERFEROMETRIC IMAGING SYSTEM)」と題される米国特許出願番号第14/700,137号の一部継続出願である。米国特許出願番号第14/700,137号は、2014年10月29日に出願された「X線干渉計イメージングシステム(X-RAY INTERFEROMETRIC IMAGING SYSTEM)」と題される米国特許出願番号第14/527,523号(現在は消滅)の一部継続出願である。米国特許出願番号第14/527,523号は、2013年10月31日に出願された「X線位相コントラストイメージングシステム(X-ray Phase Contrast imaging System)」と題される米国仮特許出願番号第61/898,019号、2013年11月7日に出願された「微細な副供給源のアレイからなるX線源(An X-ray Source Consisting of an Array of Fine Sub-Sources)」と題される米国仮特許出願番号第61/901,361号、および2014年4月17日に出願された「二次元位相コントラストイメージング装置(Two Dimensional Phase Contrast Imaging Apparatus)」と題される米国仮特許出願番号第61/981,098号の利益を主張し、これら全ての開示は、引用によって全文が本明細書に援用される。
【0002】
さらに、本願は、2016年12月2日に出願された「X線顕微鏡法のための方法(METHOD FOR X-RAY MICROSCOPY)」と題される米国仮特許出願番号第62/429,587号および2016年12月3日に出願された「複数のマイクロビームを使用したX線測定技術(X-RAY MEASUREMENT TECHNIQUES USING MULTIPLE MICRO-BEAMS)」と題される米国仮特許出願番号第62/429,760号の利益を主張し、これらは両方とも、引用によって全文が本明細書に援用される。
【0003】
背景
a.発明の分野
本技術は、X線を使用した干渉計システムに関し、特に周期的マイクロビームのシステムを使用して物体を照射してこの物体のさまざまな構造的および化学的特性を求める干渉計測定、特徴付けおよび分析システムに関する。
【背景技術】
【0004】
b.先行技術の説明
先行技術のX線顕微鏡は、一般に、X線光学部品(たとえば、ゾーンプレート)の分解能および/または検出器の画素サイズの分解能によって制限される。市販のX線顕微鏡システムの中には分解能が100nm未満のものもあるが、このようなシステムでは視野が非常に制限され、大きな視野を有する高分解能X線顕微鏡法は、分解能が1ミクロンよりも小さい状態では画像を生成するのが困難である。
【0005】
従来より、先行技術のタルボシステムは、低分解能イメージングに使用されてきた。必要なのは、スループットを向上させた状態でタルボ干渉縞を高分解能イメージングに利用する顕微鏡システムである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
概要
ここに概略を記載している本技術は、マイクロスケールまたはナノスケールビーム強度プロファイルを有するマイクロビームのアレイを使用して物体のマイクロスケールまたはナノスケール領域の選択的照射を行うX線顕微鏡法のためのシステムを含む。アレイ検出器は、この検出器の各画素が単一のマイクロビームに対応するX線のみを検出するように位置決めされ、これにより、特定の限定的なマイクロスケールまたはナノスケール領域が照射された状態で、X線検出器から生じた信号を識別することができる。これにより、空間分解能を損なうことなく、高効率かつ大型の画素検出器を使用した顕微鏡法が可能になる。
【0007】
実施形態では、マイクロスケールまたはナノスケールのビームは、一組のタルボ干渉縞を生成することによって提供されてもよく、この一組のタルボ干渉縞は、干渉パターンのアンチノードを備えるビームに対応する一組の微細X線マイクロビームを作成する。いくつかの実施形態では、マイクロビームまたはナノビームのアレイは、従来のX線源およびX線イメージング要素(たとえば、X線レンズ)のアレイによって提供されてもよい。
【0008】
実施形態では、検出器も物体も、一組のタルボ構築縞(アンチノード)の同一のウエストまたは「焦点深度」範囲内に設置される。いくつかの実施形態では、検出器は、下流の任意の後続のアンチノードの組に(タルボ距離の整数倍だけ離れて)設置される。いくつかの実施形態では、物体は、X線ビームの伝搬方向に対して垂直なx方向およびy方向への平行移動を可能にするマウント上に位置決めされて、顕微鏡スケールの「スキャンされた」透過画像を構築することができる。いくつかの実施形態では、物体は、X線ビームの伝搬方向に対して垂直な軸を中心とした回転を可能にするマウント上に位置決めされて、顕微鏡スケールのデータの収集をラミノグラフィまたはトモグラフィ画像再構築に使用することができる。
【0009】
選択された数のマイクロビームを遮断するためにビーム経路にさらなるマスキング層が挿入されてもよく、これにより、より大きな画素サイズを有する検出器を残りのマイクロビームで使用することができる。また、マスキング層を使用することにより、検出効率が向上した検出器を残りのマイクロビームで使用することができる。このようなマスキング層は、調査対象の物体の前に設置されてもよく、物体と検出器との間に設置されてもよく、または検出器構造自体の一部として設計されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】1:1デューティサイクル吸収格子のためのタルボ干渉縞パターンの従来例を示す図である。
【
図1B】アンチノードを「焦点深度」範囲として示す
図1Aのパターンからの詳細を示す図である。
【
図2A】1:1デューティサイクルπ/2位相シフト格子のための発散タルボ干渉縞パターンの従来例を示す図である。
【
図2B】1:1デューティサイクルπ位相シフト格子のための発散タルボ干渉縞パターンの従来例を示す図である。
【
図2C】1:3デューティサイクルπ位相シフト格子のための発散タルボ干渉縞パターンの従来例を示す図である。
【
図2D】さまざまな位相格子周期における位相格子および自己像を示す図である。
【
図3A】本発明の実施形態に係る顕微鏡の概略図である。
【
図3B】埋設されたターゲットマスクを有する基板を示す図である。
【
図3C】埋設されたターゲットマスクを有する代替的な基板を示す図である。
【
図3D】ソース電子ビームを斜角でターゲットに打ち込むシステムを示す図である。
【
図3E】微細構造を有するターゲットを示す図である。
【
図3F】モリブデンについての最適厚み対加速電圧のプロットを示す図である。
【
図4A】
図3Aの実施形態のマイクロビーム、物体および検出器の概略図である。
【
図4B】
図3Aの実施形態のマイクロビーム、物体および検出器の概略断面図である。
【
図5】調査対象の物体の前にマスクを設置した本発明の実施形態に係る顕微鏡の概略図である。
【
図6A】
図5の実施形態のマイクロビーム、物体および検出器の概略図である。
【
図6B】
図5の実施形態のマイクロビーム、物体および検出器の概略断面図である。
【
図7】シンチレータを備える実施形態のマイクロビーム、物体および検出器の概略断面図である。
【
図8】シンチレータとシンチレータイメージングシステムとを備える実施形態のマイクロビーム、物体および検出器の概略断面図である。
【
図9】調査対象の物体の前にマスクを設置した本発明の実施形態に係る顕微鏡の概略図である。
【
図10A】
図5の実施形態のマイクロビーム、物体および検出器の概略図である。
【
図10B】
図5の実施形態のマイクロビーム、物体および検出器の概略断面図である。
【
図11】検出器およびシンチレータにマスクを備える実施形態のマイクロビーム、物体および検出器の概略断面図である。
【
図12】検出器およびシンチレータおよびシンチレータイメージングシステムにマスクを備える実施形態のマイクロビーム、物体および検出器の概略断面図である。
【
図13】顕微鏡データを収集する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発明の実施形態の詳細な説明
本技術は、マイクロスケールまたはナノスケールビーム強度プロファイルを有するマイクロビームのアレイを使用して物体のマイクロスケールまたはナノスケール領域の選択的照射を行うX線顕微鏡法のためのシステムを含む。各マイクロビームは、このマイクロビームの強度の0.8倍~0倍であるより低いX線強度の領域によって他のマイクロビームから分離される。アレイ検出器は、この検出器の各画素が単一のマイクロビームに対応するX線のみを検出するように位置決めされ、これにより、特定の限定的なマイクロスケールまたはナノスケール領域が照射された状態で、X線検出器から生じた信号を識別することができる。いくつかの例では、イメージングされる物体と検出器とは、同一のタルボ回折次数内に位置決めされる。本システムでは、空間分解能は、供給源サイズおよび検出器画素サイズから切り離される。
【0012】
タルボ縞を使用したイメージングは、一般に、タルボ干渉パターンを生成するための格子(しばしば、位相シフト格子)と、結果として生じたパターンを第2の格子および/またはアレイX線検出器を用いて分析することとを必要とする。
【0013】
図1Aは、平面波によって照射されたときに50/50デューティサイクルおよびピッチpを有する吸収格子Gによって生成されるタルボ干渉縞を示す。干渉縞は、格子の背後に生成され、タルボ距離D
Tのところに50/50デューティサイクルを有するピッチpを再構築し、タルボ距離D
Tは、以下の式で表される。
【0014】
【0015】
式中、p
1はビーム分割格子の周期であり、λはX線波長である。
X線照射器として、タルボ干渉パターンは、ビーム分割格子を好適に選択することにより、対応するミクロンスケールの寸法を有する明るいアンチノードを生成することができる。24.8keVのエネルギを有するX線ならびに50/50デューティサイクルおよび1ミクロンピッチを有する吸収格子では、タルボ距離は、D
T=4cmである。
図1の図における縞のx方向およびy方向の縮尺はかなり異なっており、これらの縞は、横方向(すなわち、伝搬方向に対して垂直)にミクロンスケールおよびピッチを有してもよいが、数百ミクロンから数センチメートルのスケールの焦点深度を有してもよい。
【0016】
タルボ距離のさまざまな分数における縞パターンは、実際には、元の格子特徴のサイズよりも小さくてもよい。したがって、これらのアンチノードは、より高い分解能を達成するための、物体の照射に使用される複数のマイクロビームとして機能してもよい。
【0017】
アンチノードがその最も微細な寸法を維持する範囲(焦点深度)は、タルボ縞のピッチpに関連し、以下の式で表される。
【0018】
【0019】
たとえば20keVおよび格子周期が1ミクロンのX線のアンチノードに相当するウエストまたは「焦点深度」は、約数センチメートルである。
【0020】
図1Bは、上記のアンチノードのうちの1つのDOFであると考えることができる部分を有する
図1Aのアンチノードの拡大部分を示す。いくつかの例では、アンチノードは、ノードとは20%以上異なっているビームの部分であり、たとえば「アンチノード」と「ノード」との間のコントラスト比は1.2:1であってもよい。予め定められた量未満だけアンチノードが変化する範囲(たとえば、アンチノード半値全幅変化が5%以内である長さ範囲)によって定義されるビーム「ウエスト」の厳密な定義は、さまざまなタルボパターンについて定義されてもよい。なお、所与の干渉パターンは、照射に使用することができる多くの微細な「ウエスト」を有してもよく、使用する格子によっては、格子ハーフピッチよりもさらに微細な寸法を有する場合もある。また、これらの「ウエスト」は、格子からさまざまな距離のところに生じてもよく、前に定義した分数タルボ距離のところでなくてもよい。
【0021】
したがって、タルボ縞のパターンは、空間内に伝搬する「マイクロビーム」のアレイに似ている。これらの縞は、
図1に示されたように平行なマイクロビームであってもよく、または収束もしくは発散するX線ビームを使用して取得されてもよい。タルボ干渉パターンのさらなる例は、
図2A~
図2Cに示されている。
【0022】
図2Aは、1:1の格子-空間幅比からπ/2ラジアン位相シフトを導入する格子210-1-90(断面を図示)によって生成される強度パターンを示す。
図2Bは、1:1の格子-空間幅比にπラジアン位相シフトを導入する格子210-1-180によって生成される強度パターンを示す。
図2Cは、1:3の格子-空間幅比にπラジアン位相シフトを導入する格子210-3-180によって生成される強度パターンを示す。
図2A~
図2Cのシミュレーションでは、ロンキー(たとえば、線/空間矩形波)プロファイルを有する格子および十分な空間コヒーレンスを有する点放射源を想定する。
【0023】
図2Dは、πおよびπ/2の位相格子周期における二次元位相格子および自己像を示す。
図2Dに示されるように、π周期の格子は、市松模様状であり、「メッシュ」自己像を生成する。π/2周期を有する格子も市松模様状であるが、コントラストが反転した市松模様自己像を生成する。本技術のX線顕微鏡は、π周期、π/2周期または他の周期を有する格子を利用してマイクロビームを生成することができる。
【0024】
多くの実施形態では、このビーム分割回折格子は、低吸収の位相格子であるが、π/2もしくはπラジアン、またはπもしくはπ/2の何分の1かもしくは倍数などの他の所定のもしくは予め定められた値の相当なX線位相シフトをもたらす位相格子である。これらの格子は、一次元であってもよく、または二次元であってもよい。いくつかの実施形態では、調査対象の物体は、回折格子の下流の、以下の式によって表される分数タルボ距離DNのところに設置される。
【0025】
【0026】
式中、plはビーム分割格子の周期であり、DNは平面波照射のための分数タルボ距離であり、λは平均X線波長であり、Naは物体が設置されるタルボ分数次数(N=1,2,3,...)である。いくつかの例では、物体は、回折格子の下流の、分数タルボ距離ではない距離のところに設置されるが、その代わりに、波面が分析対象の周期的領域に対応するアンチノードおよびノードの領域で構成される距離のところに位置する。
【0027】
格子パラメータ(たとえば、π位相シフト格子対π/2位相シフト格子)によっては、最適なタルボ距離(Na)は、対象の干渉パターンに合わせて選択されてもよく、または用途に最も適したものにされてもよい。
【0028】
1.マイクロビームのアレイとしてのタルボ縞
本明細書に開示されているそれを使用する顕微鏡システムおよび方法は、物体を照射するのに使用されるマイクロスケールまたはナノスケールX線ビームのアレイを作成するさまざまな技術を使用して形成されてもよい。一例として、光学システムを使用して、複数の配列されたX線源または代替的に微細構造のアレイを備えた透過ターゲットを有するX線源をイメージングすることにより、X線光学システムの焦点深度内に供給源箇所の画像に対応する「マイクロビーム」を提供することができる。
【0029】
タルボ縞、特に位相格子によって形成されるタルボ縞は、X線を有効なマイクロビームのアレイに向ける非常に効率的な方法である。タルボアンチノードの有効横寸法(ビームが円形に構築される場合にはビーム径)は、適切なビーム分割格子を使用して縞を構築することにより、非常に小さく(たとえば、20nmまたは300nmなどのサブミクロン)することができる。タルボ干渉パターンは、透過時に調査対象の物体を照射するのに使用した場合、アレイ検出器を使用して検出および分析することができる個別のマイクロまたはナノプローブのアレイを提供する。このように、X線顕微鏡システムは、高スループットでサブミクロン(たとえば、0.3μm)空間分解能を達成することができる。検出器がタルボ縞のピッチに対応する画素サイズを有するように選択され、物体も検出器もタルボ縞の有効「焦点深度」内に設置される場合、各画素は、「マイクロビーム」のうちの1つからの透過X線を検出している。
【0030】
複数のマイクロビームの強度とマイクロビーム間の領域の強度との間のコントラストは、マイクロビーム間のX線が減衰されるようにマイクロビームと同一のピッチの吸収格子を設置することによって、さらに向上させることができる。
【0031】
上記の同時係属中の米国特許出願および米国仮特許出願に見られるように、x次元およびy次元において物体をスキャンすることにより、マイクロスケールまたはナノスケールプローブを物体上で移動させることができ、移動範囲がタルボ縞ピッチと同程度であるかまたはそれよりも大きい場合には、比較的低分解能のX線画素アレイ検出器を用いて物体の透過の高分解能「マップ」を取得することができる。システムの「分解能」は、もっぱらマイクロビームのサイズによって決まり、検出器画素サイズからは独立している。
【0032】
このようなシステムの概要が
図3Aに示され、より詳細に
図4Aおよび
図4Bに示されている。供給源011は、電子111をターゲット100に提供して、X線ビーム888を生成し、X線ビーム888は、格子G1を通過した後にマイクロビームのアレイを作成する。このX線の供給源は、公知の制約を満たして、好ましくはサブミクロンサイズまでのビームレットのアレイを実現する。X線の供給源は、単一の点もしくは線供給源であってもよく、または吸収(一次元もしくは二次元)格子と対にされた従来の供給源などの周期構造供給源であってもよい。代替的に、スループットの増大をもたらす主な成果は、供給源サイズを空間分解能から切り離すことであり、これにより、大型であるためにハイパワーである供給源を使用することができる。より大きなX線パワーを可能にする本技術の1つの新機軸は、周期的パターンA
0に従ってパターンを付けられたX線源を利用する。このようなシステムが
図3Aに示されている。示されているこの構成では、X線源11は、ターゲット100を有し、ターゲット100は、基板1000と、周期p
0を有する周期的2Dパターンで配置された要素サイズaの個別の微細構造700を含む領域1001とを有する。電子111を打ち込まれると、これらは、周期p
0を有する周期的パターンでX線888を生成する。いくつかの例では、X線生成微細構造、X線遮断マスクおよび/または本明細書に記載されている他の要素を含んでもよいターゲット100は、X線生成器を実現することができる。
【0033】
この構造化された供給源のターゲット100における各微細構造700は、独立した、相互にインコヒーレントなX線副供給源(または、供給源箇所)の役割を果たす。これらの供給源箇所の干渉は、他の供給源箇所に対して横方向にずれたサンプル平面内に一組の縞を生じさせる。構造化された供給源のピッチおよび供給源とG1との間の距離は、これらの縞がサンプル平面内で重なり合うことを確実にするように選択することができる。焦点が合った流束の増加は、使用する供給源箇所の数に比例する。
【0034】
いくつかの例では、供給源は、G1格子周期よりも大きなコヒーレンス長を有するようにG1格子210-2Dから十分に離れている。個々の副供給源の見かけ上の幅がSであり、供給源とG1との間の距離がZであり、放射波長がLである場合、L*Z/S>p1となり、式中、p1はG1周期である。
【0035】
X線照射ビーム(マイクロビーム)のアレイ888-Mが形成されると、調査対象の物体240は、個別の相互作用場所のアレイ282に照射される。多くの実施形態では、サンプル248は、ビーム分割格子の下流のタルボ距離のところに設置される。これらの位置は、位置コントローラ245を使用して、マイクロビームの伝搬方向に対して垂直なx次元およびy次元においてスキャンすることができ、マイクロビームと物体との相互作用によって生じるX線照射ビーム889-Tは、アレイ検出器290によって検出することができる。
【0036】
アレイ検出器290は、この検出器の各画素が単一のマイクロビームに対応するX線のみを収集するように位置決めされるように位置合わせされる。これは、一般に、アンチノードの「焦点深度」内である。マイクロビームのピッチと一致する画素ピッチを有する検出器と対にされて、各画素が物体上の所与の位置における単一のマイクロビームの相互作用のみからX線を検出するように位置合わせされた複数のマイクロビームを使用することによって、102~104平行マイクロビーム検出システムの等価物を作成することができる。
【0037】
次いで、x座標およびy座標において物体をスキャンすることができる。これにより、物体の特性の「マップ」が並行して生成されるが、移動範囲は、単にマイクロプローブのピッチに対応するように小さくなる可能性がある(しかし、スキャンされたエリア間のいくらかの重なりは、隣接する「マップ」について収集されたデータ間の相対的較正を提供するのに適切であろう)。マップ内の各箇所におけるデータは、タルボ縞の横寸法によってのみ分解能が制限されるため、より大きな画素を有するより安価なおよび/またはより効率的な検出器を使用して、高分解能画像を収集することができる。
【0038】
次いで、各画素によって生成された「マップ」は、デジタル方式でつなぎ合わせられて、マイクロビームの数に関連する量だけ(たとえば、104分の1まで)対応するデータ収集時間を減少させながら、物体の特性の大規模「マクロマップ」を生成してもよい。
【0039】
ある程度のトモグラフィ分析を達成するために、物体の限定的な角度調節もモーションプロトコルに追加されてもよく、これは、X線と物体との相互作用および対応する検出器画素が両方とも複数のマイクロビームの全ての焦点深度内にとどまっている限りなされてもよい。
【0040】
1.1 代替的なX線源
いくつかの例では、X線源ターゲットは、微細構造マスクを備えてもよい。
図3Bは、埋設された微細構造マスクを有する基板1000を示す。
図3Bの基板1000は、薄膜1002と、第1の基板部分1004と、第2の基板部分1006とを含む。基板部分1004および1005は、ダイヤモンド、Be、サファイアなどの低原子元素材料で形成されてもよい。薄膜1002に打ち込まれる電子ビームは、薄膜内にX線を発生させる。発生したX線は、微細構造700によって遮断されて、有効なX線副供給源のアレイを作成する。微細構造700は、基板部分1004上に設置され、基板部分1006によって被覆または封入されてもよい。代替的に、それらは、
図3Cのターゲット1000に示されるように、微細構造を単一の基板部分内に埋設することによって形成されてもよい。
【0041】
ターゲット1000における微細構造要素の1つのパターンのみが
図3A~
図3Cに示されているが、他の実現例も可能であり、本開示の範囲内であると考えられる。たとえば、ターゲット1000は、微細構造とマスクとの任意の組み合わせによって形成された複数のターゲットパターンを含み得て、複数のターゲットパターンのうちの1つ以上は、基板内に複数の深さを有し得る。
【0042】
いくつかの例では、電子ビームは、斜角でターゲットに入射してもよい。
図3Dは、1つ以上の電子ビーム11が20°~80°などの斜角でターゲット1000に打ち込まれるシステムを示す。いくつかの例では、ターゲットへの電子ビームの入射角は、約60°であってもよい。斜角で入射する電子ビームを提供することによって、ターゲットからの高エネルギX線ビームが可能になり、ダイヤモンドなどの基板における散乱が減少する。
【0043】
図3Eは、基板1004(一般に、ダイヤモンドなどの低原子材料)と微細構造700とを有するターゲットを示す。本技術のいくつかの例では、ターゲットの厚みtは、微細構造700に放出されるX線と基板内で発生するX線との間のコントラストを向上させるように特定の材料について最適化することができる。いくつかの例では、厚みは、約2~10μmである。いくつかの例では、基板内のターゲット微細構造材料の深さは、特定の加速電圧を達成するように最適化されてもよい。
図3Fは、モリブデン(Mo)微細構造についての最適厚み対加速電圧のプロットを示す。示されているように、最適深さ(単位:マイクロメートル)と加速電圧(単位:キロボルト)との間の関係は、およそ線形である。たとえば、60kVのエネルギでは、最適深さは約10ミクロンであろう。モリブデンについてのデータのみが表示されているが、他の材料についてのターゲット微細構造の最適深さも、特定の加速エネルギに合わせて最適化されてもよい。
【0044】
いくつかの微細構造ターゲットは、導電層、微細構造と基板との間の熱伝導率を向上させるための層、および/または、拡散障壁をさらに備えてもよい。
【0045】
1.3 X線源フィルタリング
マイクロビームがタルボ効果によって生成される実施形態では、調査対象の物体におけるX線ビームの帯域幅は、対象の予め定められたX線エネルギの+/-15%の範囲内でなければならない。これは、一般に、薄い金属箔などのフィルタを使用することによって達成される。
【0046】
2.幾何学的条件
図3Aに戻って、X線888は、配列されたX線源A
0から距離Lのところに設置されたビーム分割格子G
1 210-2Dのための、個々に空間的にコヒーレントであるが相互にインコヒーレントである照射副供給源のアレイとして、配列された供給源から発生する。マイクロビームのアレイによって照射される物体240-Wの位置は、ビーム分割格子G
1 210-2Dからさらなる距離Dのところに設置されている。A
0における各X線副供給源が画像形成プロセスに建設的に寄与することを確実にするために、配置の幾何学は、以下の条件を満たすべきである。
【0047】
【0048】
この条件が満たされる場合、A0の多くの副供給源からのX線は、同一の(重なり合う)タルボ干渉パターンを生成し、さまざまな相互にインコヒーレントな供給源が互いに干渉しないので、これらのタルボパターンは強度が増すことになる。したがって、物体240-Wにおける効果は、単一のコヒーレントな供給源が提供できる強度を超えてマイクロビームの強度(それとともに、信号対雑音比)を単純に増加させるというものである。この構成は、タルボ・ロー干渉計と呼ばれる。なお、配列されたX線供給源は、いくつかの実施形態では、均一なX線材料と、寸法aおよび周期p0のアレイで配置された特定の箇所からのみX線が発生することを可能にするマスキングされた格子とを使用して提供されてもよい。また、配列されたX線源は、パターン付き電子ビームを使用したX線生成材料の選択的打ち込みによって提供されてもよい。
【0049】
ビーム分割格子は、
図3Aに示されるように、50/50デューティサイクルを有する振幅格子であってもよく、または他のデューティサイクルを有する振幅格子であってもよい。位相シフトビーム分割格子は、πまたはπ/2位相シフトの1Dまたは2D周期的パターンを備えてもよい。
【0050】
調査対象の物体240-Wが周期的パターンのX線マイクロビームによって照射されることを確実にするために、格子と物体との間の距離Dは、分数タルボ距離のうちの1つ、すなわち以下に対応すべきである。
【0051】
【0052】
式中、nはゼロでない整数である。格子が透過格子、π位相シフト格子、またはπ/2位相シフト格子である場合、nの適切な値は異なってもよい。
【0053】
タルボ・ローシステムにおいてしばしば使用される別の式は、タルボ格子G1のピッチp1を、配列された供給源におけるX線生成要素のサイズaに関連付ける。
【0054】
【0055】
本発明のほとんどの実施形態では、式4~6に示された条件が満たされる干渉計システムを利用する。
【0056】
いくつかの実施形態では、調査対象の物体240-Wは、x次元およびy次元において物体240-Wを平行移動させるように制御され得る位置コントローラ245上に装着されてもよい。いくつかの実施形態では、トモグラフィイメージングデータを生成するための物体のさらなる回転も、装着システムによって制御されてもよい。いくつかの実施形態では、5軸マウントまたはゴニオメータが使用されてもよい。
【0057】
なお、示されているこれらの実施形態は、一定の比率に従って描かれているわけではない。
【0058】
3.検出器検討事項
ここに開示されているように、各画素が物体と単一のマイクロビームとの相互作用から発生するX線のみを検出するように位置決めされるように検出器ピッチが複数のマイクロビームのピッチにマッチングされて、隣接するマイクロビームに起因する画素間のクロストークが最小化される。そして、データ収集および物体の特性の「マップ」の最終的再構築が引き続き行われてもよく、各画素からの個別の信号をさらに逆畳み込みしなくてもよいことが分かる。(たとえば、散乱または蛍光に起因して)マイクロビームと画素との間にクロストークがある場合には、さらなる画像分析は、適切に較正できるのであればクロストークの一部を除去することができてもよい。透過X線、散乱X線および蛍光X線から信号を分離するためにエネルギ分解アレイ検出器も使用されてもよい。
【0059】
このマッチングは、検出器ピッチがマイクロビームのピッチと1:1マッチングされる場合、すなわち各ビームが検出器内に対応する単一の画素を有する場合に、最も単純明快に達成され、検出器は、物体およびマイクロビームに非常に近接して設置される。
【0060】
3.1 微細な検出器ピッチ
いくつかの実施形態では、マイクロビームのピッチの整数分の1である検出器ピッチ(たとえば、2Dアレイにおいて4つの画素が単一のマイクロビームに対応するX線を収集するように位置決めされることを示すであろうピッチの2x削減、または9つの画素が各マイクロビームに対応するX線を検出するように存在することを示すであろうピッチの3x削減)も使用されてもよい。これは、検出されるX線が何らかの空間構造を有する場合、たとえば所望のX線信号が物体からの小角度散乱に関連する場合に、いくつかの利点を提供することができる。そして、検出器の特定の画素は、散乱X線のみを検出するように位置合わせすることができる一方、非散乱ビームは、異なる画素によって収集されてもよく、または単に遮断されてもよい。
【0061】
3.2 大きな検出器ピッチ
他の実施形態では、より大きな検出器画素が使用されてもよい。この場合、検出器の各画素の活性エリア(X線を電子信号に変換する部分)が対応するX線マイクロビームとおよそ同一のサイズである限り、タルボ縞のピッチよりも大きな画素サイズが使用されてもよい。したがって、検出器は、安価になるが、依然として「高分解能」信号を生成することができる(なぜなら、空間分解能は、検出器画素サイズではなく、タルボ縞と物体との相互作用量によって決まるからである)。
【0062】
この技術の1つの不利な点は、4つのタルボ縞のうちの1つだけが検出に使用され、他の縞は無駄になることである。特定のタルボ縞は未使用のまま終わるが、検出器画素中心間の距離にわたってスキャンを行うことによって、欠落している情報を依然として提供することができる。さらに、画素が大きくなることにより、検出されるマイクロビームについてさらに優れた検出効率を達成することができる。
【0063】
図5~
図12は、本発明のいくつかの実施形態におけるより大きな画素の使用を示す。
図5は、
図3Aのものと同様であるが、特定の数のマイクロビームを遮断するために物体240-Wの前にマスクが設置されたシステムの実施形態の概要を示す。示されているように、4つのマイクロビームのうちの3つが遮断され、4つのビームのうちの1つだけが物体を照射した後、検出器によって検出されるが、さまざまな用途のための予め定められたパターンに従っていかなる数のビームが遮断されてもよい。
【0064】
図6Aおよび
図6Bは、このような実施形態をより詳細に示し、
図4Aおよび
図4Bのものと同様の図を示す。
図4Aおよび
図4Bとの比較によって分かるように、特定の数のマイクロビームのみが使用されるので、検出器におけるビームのピッチは実質的に大きくなり、より大きな画素サイズを有する安価な検出器が使用されてもよい。
【0065】
図3~
図6Bに示されるように、X線検出器は、X線の吸収に応答して電気信号を発生させる直接アレイ検出器として示されている。このような電子センサは、たとえば非晶質セレン(a-Se)における直接電子正孔対の作成によって、X線の吸収に応答して電気信号を直接作成してもよい。次いで、これらは、薄膜トランジスタ(TFT)のアレイを使用して電子信号に変換される。島津製作所(京都市、日本)のサファイアFPDなどのこのような直接型フラットパネル検出器(FPD)は、市販されている。
【0066】
他の実施形態では、検出器は、X線にさらされたときに可視光または紫外光を放出するシンチレータを使用してもよい。活性X線検出領域は、たとえばタリウム(CsI(Tl))でドープされたヨウ化セシウムなどのシンチレータを提供することによって、または高Z材料、たとえば金(Au)のマスキング層を上部に有するシンチレータの均一なコーティングを検出器に提供することによって、定義されてもよい。
【0067】
図7は、
図6Bの実施形態の変形例であるが、蛍光スクリーンまたはシンチレータ280と組み合わせて検出器290-Sを使用する変形例を示す。シンチレータ280は、X線が吸収されるときに可視光子および/またはUV光子を放出する材料を備え、検出器290-Sは、それらの可視光子および/またはUV光子を検出する。典型的なシンチレータ材料は、ヨウ化セシウム(CsI)、タリウムドープCsI、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAG)またはスルホキシル酸ガドリニウム(GOS)の層を備える。
【0068】
従来のイメージングシステムでは、物体に非常に近接したシンチレータタイプの検出器を用いて高分解能画像を取得することができるが、シンチレータおよび電子要素の全体厚みは、各検出器画素がこの画素に対応するX線のみを収集するのに十分に薄くなければならない。
【0069】
しかし、本明細書に開示されているシステムでは、空間分解能は、検出器画素サイズの代わりにマイクロビーム888-Mの寸法によって定義される。これにより、より大きな画素、したがってより厚みのあるシンチレータ材料を使用することができる。なぜなら、このより大きな画素から生成される光子はどれも皆、予め定められたマイクロビームから生じたものであることが分かるからである。このより厚みのあるシンチレータは、所与のX線光子が吸収されて可視光に変換される確率を高め、ポテンシャル信号を増加させる。
【0070】
さらなるいくつかのX線光子は、シンチレータ材料内に二次電子を発生させ、この二次電子は、シンチレータ材料からのさらなる可視/UV放出を励起し得る。しかし、画素内の全てのX線光子が単一のマイクロビームから生じたものであることが分かっているので、この励起から生じるさらなる光子も、これらの空間的に定義されたX線に端を発するものであることが分かり、検出可能な全信号を単純に増加させる。
【0071】
図8は、シンチレータ280からの可視/UV光890が可視/UV光学システム320によって収集されて検出器290-SI上に投影される、シンチレータを使用したシステムのさらなる変形例を示す。可視/UV光学システムは、シンチレータの画像をさらに拡大する光学部品を備えてもよい。リレー光学系および拡大画像を使用する場合、電子検出器は、高分解能センサ自体を備えていなくてもよく、たとえば1024×1024画素を有し、各々が24μm×24μm平方である安価な市販のCCD検出器または相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサアレイが使用されてもよい。
【0072】
リレー光学系を有するいくつかの実施形態でも、より厚みのあるシンチレータが使用されてもよく、これにより感度が向上する。しかし、リレー光学系が使用される場合、検出がX線光学部品によって収集される視野に制限され、この視野は、場合によっては数百ミクロンほどでしかない場合もある。したがって、より大きな面積でデータを収集するには、数回の撮影から「つなぎ合わせる」ことが必要である。
【0073】
図9、
図10Aおよび
図10Bは、物体240と検出器との間にマスキング構造297が設置されるさらなる実施形態を示す。この実施形態では、全ての利用可能なマイクロビーム888-Mが物体240を照射するが、たとえば金(Au)からなるマスキング層297は、4つのビームのうちの3つが検出器290に入らないようにする。これによっても、検出器290はより大きな画素を有することができ、やはり直接検出器のコストを削減し、シンチレータを使用する実施形態では、ポテンシャル検出器効率を向上させる。
【0074】
図11は、
図9、
図10Aおよび
図10Bの実施形態のさらなる変形例であるが、X線の検出がシンチレータ280および可視/UV検出器290-Sを使用して達成されるさらなる変形例を示す。
【0075】
図12は、シンチレータ280からの可視/UV光890が可視/UV光学システム320によって収集されて検出器290-SI上に投影される、シンチレータを使用したシステムのさらなる変形例を示す。
【0076】
図7、
図8、
図11および
図12に示されるシンチレータは、シンチレータの均一な層を備えるものとして示されているが、シンチレータ材料が画素の一部の上にのみ設置されるパターン付きシンチレータ材料を使用した実施形態も使用されてもよい。検出器の一部の上にシンチレータ材料を選択的に設置することは、マスキング層を使用して検出のために特定のマイクロビームを選択することの代替案として使用されてもよい。
【0077】
各画素内にさらなる構造を有する検出器も利用されてもよい。たとえば、典型的な検出器画素が2.5ミクロン×2.5ミクロン(6.25ミクロン2の面積)であるが、マイクロビーム直径がわずか1ミクロンである場合、1ミクロンよりもわずかに大きく、「デッド」ゾーンによって取り囲まれ、マイクロビームの位置に対応するように位置決めされたシンチレータ材料の中心「スポット」を有する検出器画素が作成されてもよい。この構成では、マイクロビームからの全てのX線が検出されるはずであり、その一方で、検出器画素の全面積を使用する場合にスプリアス信号を生じさせるであろう散乱または回折X線の検出は減少する。
【0078】
同様に、いくつかの実施形態では、(シンチレータ材料などの)検出器構造がたとえば画素の外側部分にのみ位置決めされて、小角度で散乱したX線のみを検出し、直接透過したビームを検出しない画素も使用されてもよい。
【0079】
同様に、
図11および
図12におけるマスク297は、シンチレータ層からずらされるものとして示されているが、いくつかの実施形態では、マスキング層をシンチレータ層の上に直接配設してもよい。パターン付きシンチレータの他の実施形態も、当業者に公知であろう。
【0080】
3.0 顕微鏡データの収集方法
図13は、顕微鏡データを収集する方法を示す。データ収集は、2D「マップ」または3Dトモグラフィ画像を形成するのに使用されてもよい。
【0081】
ステップ4210において、X線源およびビーム分割格子、好ましくは位相格子を使用することによって、X線マイクロビームを生成する。いくつかの例では、X線源は、低質量密度の基板(たとえば、ダイヤモンドまたはBe)上または基板内に埋設された微細構造で構成されるX線ターゲットを利用する。いくつかの例では、X線源は、低質量密度の基板の上にコーティングされた薄膜を備え、X線ビームの一部を遮断するための「マスク」として機能する埋設微細構造をさらに備えるターゲットを利用する。いくつかの例では、X線源は、広域X線源であり、吸収格子と組み合わせて使用される。いくつかの例では、X線源は、マイクロフォーカスX線源である。
【0082】
X線源とビーム分割格子との間にフィルタリング方法を設置して(4220)、X線源からのX線の帯域幅をある帯域幅に制限する。いくつかの例では、照射ビームの帯域幅は、予め定められたタルボ距離を使用するか分数タルボ距離を使用するかによって、±15%であり得る。
【0083】
調査対象の物体をタルボ距離のところに位置合わせする(4230)ことにより、マイクロビームのノード(最も暗い強度)およびアンチノード(最も高い強度)の領域は、伝搬方向に直交する方向(「x」方向および「y」方向と示される)に20マイクロメートル以下のピッチpを有する。最も高い強度の領域(一般に、マイクロビームの中心)と最も暗い強度の領域(一般に、ちょうどマイクロビーム間の領域)との間のコントラストは、好ましくは少なくとも20%であるが、場合によっては、アンチノードとノードとの間の1.2:1または2:1の強度比が十分なコントラストを提供する場合もある。いくつかの例では、照射ビームの帯域幅は、以下の式を満たす。
【0084】
【0085】
マイクロビームの「ウエスト」内に検出器を位置合わせする(4240)ことにより、各検出器画素は、単一のマイクロビームに対応する信号を生成する。イメージングシステムによって形成されるマイクロビームでは、この位置は、イメージングシステムの焦点深度に対応してもよい。ほとんどの例では、検出器画素ピッチとマイクロビームとは、いくらかの拡大縮小はあるが同一または近似しているため、各マイクロビームの中心は、検出器画素の中心と一致する。
【0086】
タルボシステムによって形成されるマイクロビームでは、これは、タルボ距離の何分の1かまたは整数倍の干渉パターンの位置に対応してもよく、そこでは自己複製画像が形成される。検出器の各画素が、(マイクロビーム間または検出器画素間のクロストークなしに)単一のマイクロビームにのみ対応する信号を生成する限り、検出器の厳密な位置決めにはいくらかの柔軟性がある。一般に、検出器は、全てのマイクロビームが対応する画素または一組の画素を有するように選択されるが、いくつかの実施形態では、検出器は、マイクロビームのサブセットのみを検出してもよい。いくつかの例では、検出器は、マイクロビームピッチpのゼロでない整数倍に等しい画素ピッチpdを有するように選択することができる。
【0087】
各マイクロビームによって透過されたX線を検出器によって記録し(4250)、X線強度およびエネルギを表す対応する電子信号を記録する。
【0088】
一組のデータ点のみが要求される場合には、それ以上のデータを収集する必要はない。しかし、ほとんどの実施形態では、位置コントローラを使用して調査対象の物体を移動させて(4260)、物体の特性の1Dまたは2D「マップ」を構築する。これは、一般に、最も高い強度の各マイクロビーム領域のFWHMに対応して物体を数回移動させ、x次元およびy次元の両方の次元において移動させるように行われる。
【0089】
x次元および/またはy次元における2Dスキャンを超える情報が不要である場合には、本システムは、蓄積データを取得し、この場合には、当該技術分野において一般に周知であるさまざまな画像「つなぎ合わせ」技術を使用して、物体の大面積X線透過/吸収を示す2D強度「マップ」を合成することができる。
【0090】
一方、3D情報が要求される場合には、z軸に対してある角度で物体を回転させて(この回転は、x次元またはy次元のいずれかを中心とした回転であってもよい)、この代替的な回転位置においてX線検出器から一組のデータを収集する。このシステムは、これらのステップをループして、完全な一組のデータが収集されるまで、位置および回転の予めプログラムされたシーケンスにおいてX線情報を収集する。この時点で、このシステムは、続いて蓄積データを取得し、この場合には、当該技術分野において一般に周知であるさまざまな画像3D分析技術を使用して、物体の大面積X線透過/吸収の3D画像を合成する。
【0091】
上記の方法の変形例も実施されてもよい。たとえば、最初に固定回転位置でのX次元およびy次元におけるデータ収集のループを実行し、次いで回転設定を変更してさらなるデータを収集する代わりに、x位置およびy位置設定を固定したまま機械的機構によって物体を回転させる実施形態も実施されてもよい。z軸を中心とした物体の回転も、画像トモシンセシスで使用可能なさらなる情報を提供することができる。
【0092】
4.限定および拡張
本願では、本発明者等が意図している最良の形態を含む本発明のいくつかの実施形態が開示されている。具体的な実施形態が示されているが、いくつかの実施形態についてのみ詳細に説明している要素を他の実施形態にも適用してもよいということが認識されるであろう。また、先行技術の中にあるとして記載されている詳細およびさまざまな要素も、本発明のさまざまな実施形態に適用してもよい。本発明および好ましい実施形態を説明するために具体的な材料、設計、構成および製造ステップを説明してきたが、このような説明は、限定的であるように意図されるものではない。変形および変更が当業者にとって明らかであり、本発明が添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることが意図されている。