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特許7066750自然分解性担体としてのL-乳酸カルシウム構造体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】自然分解性担体としてのL-乳酸カルシウム構造体
(51)【国際特許分類】
   C07C 53/08 20060101AFI20220506BHJP
   C07C 59/08 20060101ALI20220506BHJP
   C07F 3/04 20060101ALI20220506BHJP
   A01N 37/02 20060101ALI20220506BHJP
   A01N 59/06 20060101ALI20220506BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220506BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20220506BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20220506BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220506BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220506BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20220506BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20220506BHJP
   A61K 8/365 20060101ALI20220506BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20220506BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20220506BHJP
   A23L 29/10 20160101ALI20220506BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20220506BHJP
【FI】
C07C53/08 CSP
C07C59/08
C07F3/04
A01N37/02
A01N59/06 Z
A01P3/00
A01P7/04
A01P13/00
A61K47/02
A61K47/12
A61K8/19
A61K8/36
A61K8/365
A61Q13/00 102
A23L29/00
A23L29/10
A23L27/00 D
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019566659
(86)(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 US2018035237
(87)【国際公開番号】W WO2018222785
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-10
(31)【優先権主張番号】62/513,973
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504256408
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
【住所又は居所原語表記】1111 Franklin Street,12th Floor,Oakland,California 94607 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ヤギー,オマー エム.
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,ジンジン
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-517309(JP,A)
【文献】特表2017-509307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-乳酸および酢酸をキレート配位子として含む、Ca2+をベースとする金属有機構造体(MOF)組成物であって、式[Ca14(L-乳酸)(16~24)(酢酸)(12~4)]で表され、乳酸配位子と酢酸配位子の総和が28個であるか、または式[Ca(L-乳酸)(2~4)(酢酸)(10~8)]で表され、乳酸配位子と酢酸配位子の総和が12個である組成物。
【請求項2】
式[Ca14(L-乳酸)(16~24)(酢酸)(12~4)]で表され、乳酸配位子と酢酸配位子の総和が28個である、請求項1の組成物。
【請求項3】
式[Ca14(L-乳酸)(18)(酢酸)(10)]で表される、請求項1の組成物。
【請求項4】
式[Ca14(L-乳酸)(21)(酢酸)(7)]で表される、請求項1の組成物。
【請求項5】
式[Ca(L-乳酸)(2~4)(酢酸)(10~8)]で表され、乳酸配位子と酢酸配位子の総和が12個である、請求項1の組成物。
【請求項6】
式[Ca(L-乳酸)(4)(酢酸)(8)]で表される、請求項1の組成物。
【請求項7】
式[Ca(L-乳酸)(2.5)(酢酸)(9.5)]で表される、請求項1の組成物。
【請求項8】
式[Ca14(L-乳酸)(20)(酢酸)(8)]で表されるMOF-1201である、請求項1の組成物。
【請求項9】
式[Ca(L-乳酸)(3)(酢酸)(9)]で表されるMOF-1203である、請求項1の組成物。
【請求項10】
前記MOFに封入された剤を含み、該剤が、燻蒸剤または噴霧剤の形態で用いられる作物保護製品;薬剤または治療薬;芳香化合物;ならびに食品添加物から選択される、請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9の組成物。
【請求項11】
無毒な生分解性担体を用いて剤を送達または分配する方法であって、該剤を、請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9の組成物に封入して送達または分配することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
序論
【0002】
金属有機構造体(MOF)は、金属イオンが互いに有機「支柱」(organic strut)で連結された構造を有する多孔性の結晶材料である。有機「支柱」の大きさ、形状および官能基ならびに金属イオンを様々に調整できることから、これまでに創出されたMOFは20,000種類を超えている。このようなMOFは幅広い用途に利用可能であり、特に注目すべき用途としては、ガス分離、貯蔵、触媒などが挙げられる。しかし、これまで創出されたMOFの多くは、遷移金属イオンと石油化学由来の有機リンカーを基本要素とするものであるため、これらの要素が有する本質的な毒性が、環境に配慮した(環境に優しい)材料を必要とする重要な用途、例えば食品産業、生物医学的用途、農業などの数多くの用途において妨げとなっていた
【0003】
環境に優しい金属イオンであるCa2+と無毒で天然由来のリンカーからMOFを調製することができれば、MOFの用途がさらに広がると考えられる4,5。この分野への関心は高まっているものの、多孔性材料の実例はこれまで報告されていない。構成要素となるCa2+と天然由来のリンカーに関する課題としては、Ca2+金属イオンの配位構造が明確に定義されていないこと、それに加えて配位数が大きいこと、ならびに天然由来の有機リンカーが有する柔軟性により、通常、構造が密になることが挙げられる4,6
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、無毒な金属イオンであるCa(II)と、無毒かつ再生可能で安価なリンカーである乳酸および酢酸とで構成される多孔性の乳酸カルシウム金属有機構造体(MOF)を開示する。本発明のMOFは環境に優しい材料であり、我々は、当該MOFの分解性の固体担体としての使用、例えば、揮発性燻蒸剤のような駆除剤の固体担体としての使用などを実例で示し、当該MOFを使用することにより、徐放によって燻蒸剤の有効時間を延長できるだけでなく、施用後に容易に分解して土壌に化学肥料(Ca)のみを残すことができることを証明する。
【0005】
一態様において、本発明は、L-乳酸および酢酸をキレート配位子として含む、Ca2+をベースとする金属有機構造体(MOF)組成物であって、
【0006】
式[Ca14(L-乳酸)(16~24)(酢酸)(12~4)]で表され、乳酸配位子と酢酸配位子の総和が28個であるか、または
【0007】
式[Ca(L-乳酸)(2~4)(酢酸)(10~8)]で表され、乳酸配位子と酢酸配位子の総和が12個である組成物を提供する。
【0008】
いくつかの実施形態において、本発明は、以下のものを提供する。
【0009】
-前記式が、式[Ca14(L-乳酸)(18)(酢酸)(10)]、式[Ca14(L-乳酸)(21)(酢酸)(7)]、式[Ca(L-乳酸)(4)(酢酸)(8)]、または式[Ca(L-乳酸)(2.5)(酢酸)(9.5)]である、上記の組成物。
【0010】
-前記MOFが、式[Ca14(L-乳酸)(20)(酢酸)(8)]で表されるMOF-1201である、上記の組成物。
【0011】
-前記MOFが、式[Ca(L-乳酸)(3)(酢酸)(9)]で表されるMOF-1203である、上記の組成物。
【0012】
-前記MOFに封入された剤を含み、該剤が、
【0013】
化学肥料(例えば、窒素肥料、リン酸肥料、カリウム肥料もしくはカルシウム肥料)または駆除剤(例えば、殺虫剤、除草剤、殺真菌剤)などの、燻蒸剤または噴霧剤の形態で用いられる作物保護製品;
【0014】
抗菌剤(例えば、抗細菌剤、抗ウイルス剤、抗真菌剤)、皮膚病薬、皮膚用剤、ヘアケア剤などの、薬剤または治療薬;
【0015】
精油、エキス、合成香料を含む、香料、アロマ、フレグランスまたは香水などの芳香化合物;ならびに
【0016】
酸味料および酸性調整剤、固化防止剤、消泡剤および起泡剤、酸化防止剤(アスコルビン酸など)、着色料および保色料、強化剤(ビタミン、ミネラル、微量栄養素など)、乳化剤、香味料および調味料、艶出剤、防腐剤、安定化剤、増粘剤およびゲル化剤、天然甘味料および人工甘味料、増粘剤、などの食品添加物
から選択される、上記の組成物。
【0017】
一態様において、本発明は、無毒な生分解性担体を用いて剤を送達または分配する方法であって、該剤を本発明の組成物に封入して送達または分配することを含む方法を提供する。
【0018】
本発明は、本明細書に記載された個々の実施形態のあらゆる組み合わせを包含するものであり、それらはすべて本明細書に記載されているものとする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1a】MOF-1201に存在するすべての異なる種類のCa2+中心と、それらと乳酸および酢酸との配位を示した図である。Ca(1)~Ca(14)の配位数は、順に8、7、6、7、9、8、7、7、7、7、8、7、7および6である。
【0020】
図1b】MOF-1203に存在するすべての異なる種類のCa2+中心と、それらと乳酸および酢酸との配位を示した図である。Ca(1)~Ca(6)の配位数は、順に7、8、7、8、7および9である。
【0021】
図1c】乳酸[(i)-(vi)]および酢酸[(vii)-(xi)]の配位様式。Cを黒色、Oを赤色、Caをシアン、Ca2+酸化物多面体をシアンで示し、分かりやすくするためにHは省略した。
【0022】
図2a】左図:球棒モデルで示したMOF-1201の非対称単位;第2図:酸化カルシウム多面体のb軸に沿って見た全体の構造;右図:b軸(上段)およびa軸(下段)に沿って見たチャネル。
【0023】
[図2b]第1図:球棒モデルで示したMOF-1203の非対称単位;第2図:酸化カルシウム多面体のa軸に沿って見た全体の構造;右図:a軸(上段)および
に沿って見たチャネル。
【0024】
図3a】77KにおけるMOF-1201およびMOF-1203の窒素収着等温線。中塗り丸印と中抜き丸印は、それぞれ吸着曲線と脱着曲線を示す。
【0025】
図3b】(無溶媒の)MOF-1201およびMOF-1203の活性化サンプルの粉末X線パターンと、それぞれの単結晶構造からシミュレーションしたパターンとを示す。
【0026】
図3c】25℃におけるMOF-1201に封入したシス-1,3-ジクロロプロペンの蒸気吸着等温線。中塗り丸印と中抜き丸印は、それぞれ吸着曲線と脱着曲線を示す。
【0027】
図3d】純粋な液体1,3-ジクロロプロペンとMOF-1201に封入したシス-1,3-ジクロロプロペンの25℃における徐放曲線。
【0028】
図4】MOF-1201の単結晶構造における非対称単位(30%確率の熱振動楕円体)。分かりやすくするために水素原子は省略してある。配色:C、灰色;O、赤色;Ca、青色。
【0029】
図5】MOF-1203の単結晶構造における非対称単位(30%確率の熱振動楕円体)。分かりやすくするために水素原子は省略してある。配色:C、灰色;O、赤色;Ca、青色。
【0030】
図6】活性化MOF-1201の実験で得られたPXRDパターン(赤色)と単結晶X線データからシミュレーションしたパターン(青色)との比較。
【0031】
図7】活性化MOF-1203の実験で得られたPXRDパターン(赤色)と単結晶X線データからシミュレーションしたパターン(青色)との比較。
【0032】
図8】空気中で測定したMOF-1201の活性化サンプルのTGA曲線。
【0033】
図9】空気中で測定したMOF-1203の活性化サンプルのTGA曲線。
【0034】
図10】MOF-1201溶液のH-NMRスペクトル。
【0035】
図11】MOF-1203溶液のH-NMRスペクトル。
【0036】
図12】MOF-1201の多点法によるBETプロット。比表面積は430m/g。
【0037】
図13】MOF-1203の多点法によるBETプロット。比表面積は162m/g。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下の記載および本明細書全体を通して、別異に解される場合または別段の記載がある場合を除き、「a」および「an」という用語は1以上のものを表し、「または」という用語は「および/または」を表し、ポリペプチド配列は、本明細書に記載されている反対の鎖および代替骨格も包含するものとする。
【0039】
本明細書に記載されている実施例および実施形態は、単に本発明を説明するためのものであり、これらの実施例および実施形態に基づいて、当業者により様々な変形または変更が示唆されるものであり、またそのような変形または変更は本願の精神および範囲ならびに添付の請求項の範囲内に含まれるものである。本明細書に引用されたすべての出版物、特許および特許出願、またこれらに記載の引用文献は、あらゆる目的のために、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0040】
我々は、Ca2+イオンと無毒の乳酸リンカーおよび酢酸リンカーとをベースとする環境に優しいMOF、例えば、MOF-1201[Ca14(L-乳酸)20(酢酸)(COH)(HO)]およびMOF-1203[Ca(L-乳酸)(酢酸)(HO)]の合成の実例を示す。いずれのMOFも永続的多孔性(permanent porosity)を示す。我々は、MOF-1201およびMOF-1203の構築の成功の鍵は、リンカーの選択、すなわち乳酸および酢酸をキレート配位子として選択したことにあると考えており、それにより、酸化カルシウムが連結した強固な多面体(Ca2+が結節点、乳酸または酢酸のOが架橋部分を担う)の形成が可能になり、ひいては、これらの多面体をベースとする3次元拡張細孔構造体の構築が可能となる。また、我々は当該MOFの担体としての使用、例えば、燻蒸剤であるシス-1,3-ジクロロプロペンの徐放を可能にするための使用の実例も示す。本発明のMOFは易分解性であることから、水中で分解可能な、燻蒸剤用の多孔性担体の初めての実例が提供される。
【0041】
酢酸カルシウムとL-乳酸とをエタノール(メタノール)に懸濁し、水熱反応を120℃(100℃)で4(3)日間行ったところ、MOF-1201の無色の棒状結晶(MOF-1203の無色の針状結晶)が得られた。次いで、結晶を回収して、単結晶X線回折解析に供した。MOF中の乳酸リンカーおよび酢酸リンカーの正確なモル比は、無溶媒の結晶サンプルを用いてH-NMR分光法および元素微量分析法によりさらに確認した[サポート情報(Supporting Information)(SI)のS1セクションを参照のこと]。
【0042】
単結晶X線回折解析から、MOF-1201、MOF-1203のいずれも、Ca2+を結節点とし、乳酸と酢酸をリンカーとして構築された拡張構造体であることが明らかとなった。MOF-1201の結晶は、格子定数がa=24.39Å、b=13.26Å、c=24.97Å、β=90.33°、空間群がP2の単斜晶系の結晶である。この構造において、14個の結晶学的に異なるカルシウム原子[Ca(1)~Ca(14)](図1a)が存在し、これらすべてが、乳酸のO原子(カルボキシル基のOまたはヒドロキシル基のO)、酢酸のO原子(カルボキシル基のO)または水のO原子でキャップされることにより、酸化カルシウム多面体を形成している。リンカーの配位様式は金属中心によって異なっており、乳酸では異なる4つの様式[[(i)、(ii)、(iii)および(vi)]が見られ、酢酸では異なる3つの様式[(vii)、(ix)および(xi)]が見られる(図1c)。このうち、様式(vi)の乳酸および様式(vii)の酢酸は、末端の配位子として、1個のCa2+中心[それぞれCa(5)およびCa(11)]のみをキャップしており、それ以外の様式の乳酸と酢酸は、架橋配位子として2個または3個のCa2+を連結している。非対称単位において、Ca(1)とCa(2)とCa(3)とが配位様式(i)の乳酸で架橋されており、Ca(1)はヒドロキシル基のOと隣接するカルボキシル基のOと配位結合し、Ca(2)はカルボキシル基のOのみと配位結合しており、Ca(3)はカルボキシル基のもう1つのOと配位結合している(図2a、左図)。同様に、Ca(1)とCa(2)とCa(4)も同じ様式で架橋され、Ca(4)とCa(5)とCa(7)とが様式(iii)で架橋され、Ca(7)とCa(8)とCa(9)とが様式(i)で架橋され、Ca(7)とCa(8)とCa(10)とが様式(i)で架橋され、Ca(10)とCa(11)とCa(12)とが様式(xi)で架橋され、Ca(6)とCa(5)とCa(7)とが様式(ii)で架橋され、Ca(6)とCa(13)とCa(14)とが様式(i)で架橋されることによりすべてのCa2+中心が連結されている。
【0043】
得られたMOF-1201の拡張構造体は、b軸に沿って1次元の開放(infinite)チャネルを有する(図2a、中央図)。このチャネルは、一本鎖の右巻きのらせん構造で構成されており(図2a、右図)、1回転当たり16個のCa2+原子が存在する[Ca(4)、Ca(2)、Ca(1)、Ca(11)、Ca(12)、Ca(13)、Ca(6)、Ca(5)、Ca(4)、Ca(2)、Ca(1)、Ca(11)、Ca(12)、Ca(13)、Ca(6)、Ca(5)の順序で]。開口径は約7.8Å、ピッチ長は約13.3Åである。隣接する2つの回転は、別の酸化カルシウム多面体を介してさらに架橋されている。具体的には、それぞれの回転の2個のCa(2)中心と2個のCa(13)中心が3個の酸化カルシウム多面体により架橋されている(Ca(3)-Ca(2)-Ca(3)の順序、およびCa(14)-Ca(13)-Ca(14)の順序で)。それぞれの回転の2個のCa(5)中心と2個のCa(11)中心が7個の酸化カルシウム多面体により架橋されている[Ca(7)-Ca(8)-Ca(9)-Ca(8)-Ca(9)-Ca(8)-Ca(7)の順序、およびCa(10)-Ca(8)-Ca(9)-Ca(8)-Ca(9)-Ca(8)-Ca(10)の順序で]。これらの曲線状の架橋構造により開口より少し大きな内部孔(約9.6Å)が生じている。
【0044】
図2aの第1図に、MOF-1201の非対称単位を球棒モデルで示す。分かりやすくするために、対称的に生じたCa2+中心に部分的に連結している配位子は省略してある。1セットのCa2+中心に複数の架橋が存在しうる。第2図:酸化カルシウム多面体のb軸に沿って見た全体の構造。非対称単位を強調表示し、開放チャネルを示している。右図:b軸(上段)およびa軸(下段)に沿って見たチャネル。開口に属する酸化カルシウム多面体を強調表示している。配色は、優先権出願と同様に、Cを黒色、Oを赤色、Caをシアン、Ca2+酸化物多面体をシアンで示し、分かりやすくするためにHは省略した。
【0045】
もう一方のMOF-1203の結晶は、格子定数がa=10.50Å、b=22.26Å、c=31.25Å、空間群がI2の直方晶系の結晶である。この構造において、6個の異なるCa2+中心が存在し、これらが乳酸と酢酸で連結されることにより連結酸化カルシウム多面体を形成している(図1b)。乳酸では3つの配位様式が見られ[(i)、(iv)および(v)]、酢酸でも3つの配位様式[(viii)、(x)および(xi)]が見られる(図1c)。すべてのリンカーは2~4個のCa2+中心を連結する架橋部分を担っている。非対称単位において、Ca(1)とCa(2)とCa(3)とCa(6)とが配位様式(iv)の乳酸で架橋されており、Ca(6)はヒドロキシル基のOと隣接するカルボキシル基のOと配位結合し、Ca(1)はカルボキシル基のOのみと配位結合しており、Ca(2)およびCa(3)はカルボキシル基のもう1つのOと配位結合している(図2b、左図)。Ca(3)とCa(4)とCa(5)とが様式(xi)の酢酸で架橋されている。得られた拡張構造体は、MOF-1201とは異なるタイプの1次元の開放(open)チャネルを示しており、このチャネルは、22個の酸化カルシウム多面体より形成された開口を有する。しかし、開口の大きさは、長方形の形状ゆえに、MOF-1201より小さく、その開口は、2個のCa(4)が内側に入りこんでいるため、さらに2つの小さい開口(約4.6Å)に分割されている。
【0046】
図2bの第1図:MOF-1203の非対称単位を球棒モデルで示す。分かりやすくするために、対称的に生じたCa2+中心に部分的に連結している配位子は省略してある。1セットのCa2+中心に複数の架橋が存在しうる。第2図:酸化カルシウム多面体のa軸に沿って見た全体の構造;非対称単位を強調表示し、開放チャネルを示している。右図:a軸(上段)および
に沿って見たチャネル。開口に属する酸化カルシウム多面体を強調表示している。配色は、優先権出願と同様に、Cを黒色、Oを赤色、Caをシアン、Ca2+酸化物多面体をシアンで示し、分かりやすくするためにHは省略した。
【0047】
MOF-1201のサンプルおよびMOF-1203のサンプルの溶媒を、エタノール(MOF-1201)およびメタノール(MOF-1203)に3日間交換し、そのまま真空状態において、室温で12時間動的真空(0.04mbar)にさらすことにより無溶媒サンプルを得た。これらを永続的多孔性(permanent porosity)の評価に用いた。窒素収着測定を77Kで行った。いずれの構造体も、完全に可逆的なI型の等温線を示し、低圧領域(P/P<0.05)で急激なNの取り込みが見られた(図3a)ことから、これらの材料が永続的な微細孔(マイクロ孔)性を有することが示唆された。MOF-1201およびMOF-1203のブルナウアー-エメット-テラー(BET)表面積は、N等温線からそれぞれ430m-1および160m-1と推定された。MOF-1201およびMOF-1203の細孔容積は、それぞれ0.18cm-1および0.06cm-1であり、これらはPLATONを用いて単結晶構造から計算した値と一致した10。次いで、無溶媒サンプルの結晶化度を、粉末X線回折(PXRD)で調べた。得られた粉末X線回折パターンは、単結晶構造からシミュレーションした回折パターンと良い一致を示しており、活性化後の構造完全性およびバルク試料の相純度が確認された(図3b、図6~7)。
【0048】
MOF-1201の多孔性と、その環境に優しい組成、すなわち構成要素がCa2+、乳酸および酢酸であることにより、我々は農業や食品産業における金属有機構造体材料の潜在的な用途を探索することが可能になった。農業や食品産業において、使用する材料が毒性を持たないことや、人類や環境に優しいものであるということは最も重要な必要条件である4,5。そこで、我々は、揮発性液体燻蒸剤を固形製剤化するためのMOF-1201の使用が可能であるか確認した。
【0049】
燻蒸剤は駆除剤の分類の中で最も重要な種類の1つであり、植物、特に高価値の植物(例えば、イチゴやトマト)における土壌伝染性の病気を予防して品質および収量を向上させる目的で広く用いられている11。1,3-ジクロロプロペン(シス体およびトランス体の混合物)、クロロピクリンという2つの揮発性液体化合物は最も広く使用されている燻蒸剤であり、毎年大量に消費されている11-12。実際、カリフォルニア州の駆除剤規制局(California Department of Pesticide Regulations:CDPR)により公表された駆除剤使用に関する報告では、2014年にカリフォルニア州における1,3-ジクロロプロペンおよびクロロピクリンの使用量は、それぞれ5.99×10kgおよび4.08×10kgに達し、使用されたすべての駆除剤の中で3番目と5番目に多かった13
【0050】
1,3-ジクロロプロペンまたはクロロピクリンの市販製剤は、シャンク注入または点滴灌漑により施用される液体剤形(テロン(登録商標))に依存している14。しかし、液体を直接使用するには高用量が必要であり、液体薬剤は揮発性や移動性が高いため、深刻な大気汚染や地下水汚染の原因となるだけでなく、作業者に対しても取扱時や輸送時に大きな安全上の危険が伴う11,14~15。このような悪影響が考えられることから、これらの化学物質の使用は厳しく規制されており、個人用保護具およびバッファー区域が必要とされている。
【0051】
上記の化学物質の揮発性と毒性を抑えて汚染を低減する代替製剤として、多孔性固体を用いて燻蒸剤を吸着させ、その燻蒸剤を徐放する、吸着を利用した製剤が新たに出現している16。活性炭、活性白土、吸着樹脂および活性アルミナなどの多孔性基質が候補として提案され、これらの多孔性基質が、燻蒸剤の有効時間を延長させることが示されている16。しかし、これらの担体材料はいずれも自然分解性材料ではなく、施用後に蓄積されるため、環境に与える影響は大幅に増大する。
【0052】
そこで、我々は、上記の目的のためのMOF-1201の使用を提示する。燻蒸剤の例としてシス-1,3-ジクロロプロペンを選択した。MOF-1201に封入されたシス-1,3-ジクロロプロペンの25℃における静的吸着等温線を図3cに示す。図3cでは、低分圧領域(P/P=0.1)で1.4mmol g-1(13wt%)の急激な取り込みが見られるが、これは細孔内への吸着に起因するものである。この取込量は、その他の多孔性材料を用いた測定で得られた数値範囲(5~40wt%)内であった16d。シス-1,3-ジクロロプロペンを封入したMOF-1201のサンプルまたは液体のシス-1,3-ジクロロプロペンを、1.0cm min-1の空気流量でパージすることにより、予備的な徐放性能評価を当研究室にて行った。サンプル重量は熱分析装置を用いてモニターした。図3dに示すように、液体のシス-1,3-ジクロロプロペンは速やかに放出され、全重量の80%が1,000min g-1以内に揮発した。一方、MOF-1201に封入されたシス-1,3-ジクロロプロペンは緩やかに放出され、全量の80%(10.5wt%)が100,000min g-1で放出された。これは、同条件下で測定した液体のシス-1,3-ジクロロプロペンと比較して100倍緩やかであることを示している。
【0053】
次に、MOF-1201の分解性を調べた。MOF-1201は、水に容易に溶解して、環境に優しい構成要素であるCa2+イオン、乳酸および酢酸に分解される(図10)。1Lの水に120±10gのMOF-1201が溶解することが分かっており、飽和溶液はほぼ中性のpH値(7.6)を示す。このような特性から、MOF-1201は他の多孔性材料の蓄積に関する問題を克服できる可能性を有する材料であり、環境への悪影響を最小限に抑えるだけでなく土壌に化学肥料(カルシウム)を残すことができる17
【0054】
結論として、我々は、無毒で再生可能な乳酸リンカーから構築された環境に優しいCa2+MOFの実例を初めて示した。さらに我々は、MOF-1201の分解性担体としての使用の実例を示した。我々が示した結果は、環境に優しいCa MOFの創出および農業におけるその使用が可能であることを示している。
【0055】
参考文献
(1) (a) Yaghi, O. M.; O’Keeffe, M.; Ockwig, N. W.; Chae, H. K.; Eddaoudi, M.; Kim, J. Nature 2003, 423, 705-714. (b) Kaskel, S. The Chemistry of Metal-Organic Frameworks: Synthesis, Characterization, and Applications; Wiley-VCH: Weinheim, 2016.
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(14) Kim, J.-H.; Papiernik, S. K.; Farmer, W. J.; Gan, J.; Yates, S. R. J. Environ. Qual. 2003, 32, 2223-2229.
(15) (a) Yates, S. R.; Ashworth, D. J.; Zheng, W.; Zhang, Q.; Knuteson, J.; Wessenbeeck, I. J. V. J. Agric. Food Chem. 2015, 63, 5354-5363. (b) Desaeger, J. A. Eger, J. E. J.; Csinos, A. S.; Gilreath, J. P.; Olson, S. M.; Webster, T. M. Pest Manag. Sci. 2004, 60, 1220-1230.
(16) (a) Akira, S.; Mizuyoshi, F.; Hiroshi, A.; Shiyunnosuke, W.; Nobuji, T. Granular chloropicrin preparation for soil disinfection and production thereof. Japan. Patent JPH01172302 (A), July 7, 1989. (b) Solar, J. M.; Wilson, C. L.; Ghaouth, A. E. Controlled release fumigation of harvested agricultural commodities. US Patent US 5958490 A, Sep 28, 1999. (c) Han, J. L. Mixed solid preparation of chloropicrin and 1.3-dichloropropylene and manufacturing technology thereof. China Patent CN 101627754 B, Nov 13, 2013. (d) Han, J. L.; Yi, C. J. Preparation method and application of 1,3-dichloropropene solid slow-release preparation. China Pat. Appl. CN 201310062631, May 22, 2013.
(17) Engelstad, O.P. Fertilizer Technology and Use; Soil Science Society of America: Madison, 1985.
【実施例
【0056】
合成操作
【0057】
酢酸カルシウム一水和物(Ca(OAc)・HO)、L-(+)-乳酸、無水メタノールおよび無水エタノールは、市販品を購入し、精製せずにそのまま使用した。合成操作はすべて空気中で行った。以下の操作によりMOFを活性化した。合成したMOFをそのまま、新鮮な無水エタノール(MOF-1201)または新鮮な無水メタノール(MOF-1203)で1日(6回)洗浄した。次いで、各サンプルを真空状態にし、周囲温度で12時間真空(0.01Torr)にさらすことでゲスト分子を除去した。以下の測定は、別段の記載がない限り、MOFの活性化サンプルを使用して行った。
【0058】
活性化MOF-1201および活性化MOF-1203の元素分析(EA)は、Perkin Elmer社製2400 Series II CHNS元素分析装置を用いて行った。MOFの分解溶液のH NMRスペクトルは、Bruker社製AVB-400 NMR分光計を用いて取得した。リンカーの化学シフトは、各リンカーの純品のスペクトルとの比較により同定した。各サンプル(それぞれ約10mg)を超音波処理によりDO(600μL)に溶解した。ZIF(ニート試料)の減衰全反射法によるフーリエ変換赤外分光(ATR-FTIR)スペクトルは、Bruker社製ALPHA Platinum ATR-FTIR分光計を用いて記録した。
【0059】
MOF-1201、Ca14(L-乳酸)20(酢酸)(EtOH)(HO)
0.071gの酢酸カルシウム一水和物(Ca(OAc)・HO、0.4mmol)と0.072gのL-(+)-乳酸(HL、0.8mmol)を、容量23mLのテフロン製オートクレーブに入れた6mLの無水エタノールと混合した。次いで、オートクレーブを密閉して、120℃に保った恒温オーブンで4日間加熱した。室温まで冷却した後、得られた結晶を無水エタノールで1日洗浄した。(収量:Caベースで26%)。
EA:Ca14(C20(C(CO)(HO)としての計算値:C 32.54%;H 4.62%。分析値:C 31.67%;H 4.75%。ATR-FTIR(4000~400cm-1):3250(br),2979(w),1563(s),1422(s),1314(m),1267(m),1122(s),1089(w),1044(m),930(w),858(m),773(m),664(m),616(m),550(m),469(w),442(w),423(w)
【0060】
MOF-1203、Ca(L-乳酸)(酢酸)(HO)
0.071gの酢酸カルシウム一水和物(Ca(OAc)・HO、0.4mmol)と0.036gのL-(+)-乳酸(HL、0.4mmol)を、容量23mLのテフロン製オートクレーブに入れた6mLの無水メタノールと混合した。次いで、オートクレーブを密閉して、100℃に保った恒温オーブンで3日間加熱した。室温まで冷却した後、得られた結晶を無水メタノールで1日洗浄した。(収量:Caベースで25%)。
EA:Ca(C(Cとしての計算値:C 30.68%;H 4.20%。分析値:C 31.33%;H 4.07%。ATR-FTIR(4000~400cm-1):3300(br),2981(w),1540(s),1462(s),1417(s),1320(w),1271(m),1138(m),1123(m),1051(w),1024(m),956(w),934(w),860(m),774(m),662(s),649(m),617(s),561(m),468(m),419(w)
【0061】
2種のMOFの単結晶X線回折(SXRD)データは、合成した結晶をそのまま使用して収集した。MOF-1201およびMOF-1203のデータは、ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)内のALSに設置されたビームライン11.3.1(Bruker Photon 100 CMOS area detectorを装備)において、シンクロトロン放射光(10~17KeV)を利用して0.7749(1)Åで収集した。各サンプルは、MiTeGen(登録商標) Kaptonループにマウントし、100(2)Kの冷却窒素気流下に静置した。
【0062】
データの処理は、Bruker社製APEX2ソフトウェアパッケージ(Bruker AXS社、ウィスコンシン州マディソン、2010;Sheldrick、G.M.Acta Cryst.A 2008,64,112-122)を用いて行い、そのデータをSAINT v8.34Aを用いて統合し、SADABS 2014/4ルーチンにより吸収補正を行った(消衰または減衰に対する補正は行わなかった)。構造は、intrinsic phasing法(固有位相決定法)(SHELXT)により決定し、Fを用いて完全行列最小二乗法(SHELXL-2014)で精密化した。水素原子以外のすべての原子に対して、異方性精密化を行った。水素原子は、別段の記載がない限り、幾何学的方法で計算し、ライディング原子として精密化した。いずれの構造においても、構造の空隙に極めて乱雑に入り込んだゲスト分子はモデル化することができなかったため、Olex2ソフトウェアパッケージを用いて溶媒マスキングにより計算した(Dolomanov,et al.Appl.Cryst.2009,42,339-341;Rees,et al.Acta Cryst.D 2005,61,1299-13)。詳細はCIFを参照のこと。
【0063】
MOF-1201
合成したMOF-1201の無色の棒状(100μm×20μm×20μm)結晶をそのまま母液から速やかに回収し、結晶の分解を最小限に抑えるためにparatoneオイルに加え、ALSのビームライン11.3.1にマウントし、100Kでλ=0.7749(1)Åの放射光を入射した。
【0064】
【0065】
MOF-1203
合成したMOF-1203の無色の針状(90μm×90μm×5μm)結晶をそのまま母液から速やかに回収し、ALSのビームライン11.3.1にマウントし、λ=0.7749(1)Åの放射光を入射した。
【0066】
【0067】
粉末X線回折(PXRD)解析は、Bruker社製D8 Advance回折計を用いて、CuKα線(λ=1.54056Å)を使用して行った。試料の相純度は、実験で得られたPXRDパターンとシミュレーションしたPXRDパターンとの比較により求めた。
【0068】
熱重量(TGA)曲線は、TA Q500熱分析システムを用いて空気流下で取得した。
【0069】
燻蒸剤の吸着および徐放測定
当研究室にてBEL Japan社製BELSORP-aqua3を用いて蒸気収着測定を行い、25℃におけるシス-1,3-ジクロロプロペンの蒸気収着等温線を取得した。測定前に、分析物を液体窒素で瞬間凍結し、次いで、動的真空下に少なくとも2回さらすことにより、リザーバー中のガスを除去した。測定温度は、25℃に保たれた水浴を用いて制御し、モニターした。ヘリウムを用いて、デッドスペースを推定し、蒸気吸着量を計測した。
【0070】
徐放実験は、TA Q500熱分析システムを用いて、1cm min-1の一定の空気流量のもとで行った。
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13