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特許7066773二次電池用陽極活物質、これを含む二次電池用陽極、前記二次電池用陽極を含む二次電池及びこれらの製造方法
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  • 特許-二次電池用陽極活物質、これを含む二次電池用陽極、前記二次電池用陽極を含む二次電池及びこれらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】二次電池用陽極活物質、これを含む二次電池用陽極、前記二次電池用陽極を含む二次電池及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20220506BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20220506BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20220506BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20220506BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20220506BHJP
   C01D 3/04 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/1397
H01M10/054
H01M10/058
C01D3/04 Z
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020056289
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021082574
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2020-03-26
(31)【優先権主張番号】10-2019-0148373
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0022346
(32)【優先日】2020-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電気通信回線を通じての発表 掲載年月日:2019年7月11日 掲載アドレス:https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acsenergylett.9b01118
(73)【特許権者】
【識別番号】304039548
【氏名又は名称】コリア・インスティテュート・オブ・サイエンス・アンド・テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】モエズ イクラ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジ-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジェホ
(72)【発明者】
【氏名】イム,ヒ-デ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,フン-ギ
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ウォン ヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ミンア
(72)【発明者】
【氏名】ユ,スンホ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,キョン ユン
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/025663(WO,A1)
【文献】特開平10-302830(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1796275(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 4/136
H01M 4/1397
H01M 10/054
H01M 10/058
C01D 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
B2相のNaClである、二次電池用陽極活物質。
【請求項2】
前記NaClは立方晶系の結晶構造を有し、空間群がPm-3mであり、
格子パラメーター(lattice parameter)はa=2.8600~2.8630Å、b=2.8600~2.8630Å、c=2.8600~2.8630Åである、請求項1に記載の二次電池用陽極活物質。
【請求項3】
前記NaClは、X線回折分析で2θ=31.25°及び31.70°の間で(100)B2ピークを有する、請求項1または2に記載の二次電池用陽極活物質。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の二次電池用陽極活物質を含む、二次電池用陽極。
【請求項5】
請求項4に記載の二次電池用陽極を含む、二次電池。
【請求項6】
請求項5に記載の二次電池を含む、電気デバイス。
【請求項7】
前記電気デバイスは、通信装置、運送装置及びエネルギー貯蔵装置の中で選択されるいずれか一つである、請求項6に記載の電気デバイス。
【請求項8】
B1相のNaClを電気化学的充放電する段階を含む、B2相のNaClである二次電池用陽極活物質の製造方法。
【請求項9】
B1相のNaClを電気化学的充放電する段階を含み、
前記電気化学的充放電する段階は、
B1相のNaClを含む陽極活物質を含む二次電池を構成する段階と、
前記二次電池を充電して前記NaClの結晶構造に複数の空格子点(vacancy)を形成する事前充電段階と、
前記事前充電段階を経た二次電池を放電して前記NaClの構造的相変化を誘導する事前放電段階と、を含む、B2相のNaClの製造方法。
【請求項10】
前記事前充電段階は、前記二次電池を4.0~4.23Vまで0.03~0.05C-rateで充電する、請求項9に記載のB2相のNaClの製造方法。
【請求項11】
前記事前放電段階は、前記二次電池を0.1~0.5Vまで0.03~0.05C-rateで充電する、請求項9または10に記載のB2相のNaClの製造方法。
【請求項12】
B1相のNaClを電気化学的充放電することにより、前記B1相のNaClをB2相のNaClに構造的相変化させる段階を含み、前記B2相のNaClを二次電池用陽極活物質として使用する、二次電池用陽極の製造方法。
【請求項13】
前記電気化学的充放電は、
B1相のNaClを含む陽極活物質を含む二次電池を構成する段階と、
前記二次電池を充電して前記NaClの結晶構造に複数の空格子点(vacancy)を形成する事前充電段階と、
前記事前充電段階を経た二次電池を放電して前記NaClの構造的相変化を誘導する事前放電段階と、を含む、請求項12に記載の二次電池用陽極の製造方法。
【請求項14】
前記事前充電段階は、前記二次電池を4.0~4.23Vまで0.03~0.05C-rateで充電する、請求項13に記載の二次電池用陽極の製造方法。
【請求項15】
前記事前放電段階は、前記二次電池を0.1~0.5Vまで0.03~0.05C-rateで放電する、請求項13または14に記載の二次電池用陽極の製造方法。
【請求項16】
B1相のNaClを電気化学的充放電することにより、前記B1相のNaClをB2相のNaClに構造的相変化させる段階を含み、前記B2相のNaClを二次電池用陽極活物質として使用する、二次電池の製造方法。
【請求項17】
前記電気化学的充放電は、
B1相のNaClを含む陽極活物質を含む二次電池を構成する段階と、
前記二次電池を充電して前記NaClの結晶構造に複数の空格子点(vacancy)を形成する事前充電段階と、
前記事前充電段階を経た二次電池を放電して前記NaClの構造的相変化を誘導する事前放電段階と、を含む、請求項16に記載の二次電池の製造方法。
【請求項18】
前記事前充電段階は、前記二次電池を4.0~4.23Vまで0.03~0.05C-rateで充電する、請求項17に記載の二次電池の製造方法。
【請求項19】
前記事前放電段階は、前記二次電池を0.1~0.5Vまで0.03~0.05C-rateで放電する、請求項17または18に記載の二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池用陽極活物質、これを含む二次電池用陽極、前記二次電池用陽極を含む二次電池及びこれらの製造方法に関するものであり、より詳しくはNaClを電気化学的に引き起こして優れた電気化学的特性を有する二次電池として応用する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池(LIBs)のようなエネルギー貯蔵技術は携帯用電子機器などに手広く使われているので、活発に研究されている。しかし、不足な埋蔵量によるリチウムの高費用のため、大容量エネルギー貯蔵装置に使うのには限界がある実情である。このような限界を克服するために、埋蔵量が豊かで価格が安いナトリウムを用いたナトリウム二次電池(NIBs)が注目を引いている。ナトリウムは、リチウムに比べ、価格が安くて資源が豊かであるだけでなく環境に優しい特性を持っているので、リチウムイオンを代替するための良い代案となることができる。また、ナトリウムは周期表上でリチウムの直ぐ下に位置するので、両元素は化学的な面で互いに類似しているので、ナトリウムイオンがリチウムイオンを代替することにも相応しい。価格競争力を有するNIBは特に電気自動車及び大容量貯蔵技術に活用可能であって、最近層状構造金属酸化物、リン酸塩、炭素素材などがNIB陽極又は陰極として研究されているが、ナトリウムの場合、リチウムと比較して、空気にもっと敏感であり、イオンの体積も約2倍であるので、ナトリウム電極の電圧範囲(-2.71V vs. SHE)がリチウム電極(-3.05V vs. SHE)より低くて電気化学特性がLIBsに比べて足りない状況である。
【0003】
したがって、本発明では、NIBs用金属系電極物質として価格競争力に優れたNaClなどのアルカリハロゲン化合物を中心に研究した。アルカリハロゲン化合物のうち、NaClは相変化に関連した研究が多く進み、圧力下での反応メカニズムに対して多くの研究が進んでいる。特に、NaClの加圧下での金属化に関する研究が多数報告されている。しかし、このような方法は1000℃以上の高温及び高圧の条件が要求されるから、生産設備を備えるのに困難があり、高温及び高圧の条件によって不可欠に隋伴される危険性の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】韓国特許公開第10-2019-0010494号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Xiaoyuan Li and Raymond Jeanloz, Measurement of the B1-B2 transition pressure in NaCl at high temperatures, Phys. Rev. B36, 474
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明が解決しようとする技術的課題は、電気化学的方法によってNaClの構造的相変化を誘導し、これを二次電池用陽極活物質として適用して優れた容量特性及びサイクル性能を有する二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、NaClを含む二次電池用陽極活物質を提供する。
【0008】
本発明の他の側面は、前記二次電池用陽極活物質を含む二次電池用陽極を提供する。
【0009】
本発明のさらに他の側面は、前記二次電池用陽極を含む二次電池を提供する。
【0010】
本発明のさらに他の側面は、前記二次電池を含む電気デバイスを提供する。
【0011】
本発明のさらに他の側面は、B1相のNaClを電気化学的充放電する段階を含むB2相のNaClの製造方法を提供する。
【0012】
本発明のさらに他の側面は、B1相のNaClを電気化学的充放電する段階を含む二次電池用陽極の製造方法を提供する。
【0013】
本発明のさらに他の側面は、B1相のNaClを電気化学的充放電する段階を含む二次電池の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、NaClを陽極活物質として含む二次電池の陽極活物質の構造的相変化を電気化学的に引き起こして優れた電気化学的特性を有する二次電池を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一比較例によるナトリウム二次電池用陽極活物質のXRD特性を示したグラフである。
図2】本発明の一実施例によるナトリウム二次電池用陽極活物質のXRD特性を示したグラフである。
図3】本発明の一比較例によるナトリウム二次電池の0.03C-rateでの充放電性能試験結果を示したグラフである(電圧範囲0.1~4.23V)。
図4】本発明の一実施例によるナトリウム二次電池の0.03C-rateでの充放電性能試験結果を示したグラフである(電圧範囲0.1~4.23V)。
図5】本発明の一実施例によるナトリウム二次電池の0.05C-rateでのサイクル性能試験結果を示したグラフである。
図6】本発明の一実施例によるナトリウム二次電池用陽極活物質の投射電子顕微鏡(TEM)分析結果イメージとエネルギー分光分析(EDS)結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下で、本発明の多くの側面及び多様な具現例についてより具体的に説明する。
【0017】
本発明の一側面は、NaClを含む二次電池用陽極活物質を提供する。
【0018】
前記NaClはB2相であり得る。
【0019】
一般に、NaClはB1相として存在する。B1相のNaClはNaイオンの挿入及び脱離反応が不可能であり、非常に低い放電容量を有するから、二次電池の陽極活物質として活用するのに適しないことがある。前記B2相のNaClはNaイオンの可逆的な挿入及び脱離が可能であるという点を確認し、形成された構造の安定的な維持が可能であるという点で二次電池の陽極活物質として活用されることに好ましい。すなわち、B1相、B2相のNaClは共に絶縁体(insulator)であるが、B2相のNaClの場合、電気化学的にNaイオンの挿入/脱離(intercalation/deintercalation)が可能であって優れた電気化学的特性を発揮することができる。
【0020】
前記NaClは立方晶系の結晶構造を有し、空間群がPm-3mであり、格子パラメーター(lattice parameter)はa=2.8600~2.8630Å、b=2.8600~2.8630Å、c=2.8600~2.8630Åであり得る。このようなNaClはX線回折分析(XRD)で2θ=31.25°及び31.70°の間で(100)B2ピークを有することができる。これはB1相の一般的なNaClのXRD分析では発見されないピークに相当する。
【0021】
本発明の他の側面は、前記二次電池用陽極活物質を含む二次電池用陽極を提供する。
【0022】
本発明のさらに他の側面は、前記二次電池用陽極を含む二次電池を提供する。
【0023】
前記二次電池は、好ましくはナトリウム二次電池であり得る。
【0024】
本発明のさらに他の側面は、前記二次電池を含む電気デバイスを提供する。
【0025】
前記電気デバイスは、通信装置、運送装置及びエネルギー貯蔵装置の中で選択されるいずれか一つであり得る。
【0026】
本発明のさらに他の側面は、B1相のNaClを電気化学的充放電する段階を含むB2相のNaClの製造方法を提供する。
【0027】
前記電気化学的充放電する段階は、B1相のNaClを含む陽極活物質をを含む二次電池を構成する段階と、前記二次電池を充電して前記陽極活物質の結晶構造に複数の空孔(vacancy)を形成する事前充電段階と、前記二次電池を放電して前記陽極活物質の構造的相変化を誘導する事前放電段階とを含むことができる。
【0028】
アルカリ-ハロゲン化合物又はアルカリ土-ハロゲン化合物を陽極活物質として含む二次電池に関する研究が活発に進んでいる。このような二次電池の場合、金属陽イオンの可逆的な挿入(intercalation)及び脱離(deintercalation)が可能な構造でアルカリ-ハロゲン化合物又はアルカリ土-ハロゲン化合物の構造的相変化を誘導するための研究が多く進んできた。しかし、既存の方法は高温及び高圧の条件が要求されるから、経済的でなく、製造過程に隋伴される危険性と製造設備を備えにくいという問題とがあった。本発明のB2相のNaClの製造方法は、電気化学的方法である簡単な充放電を用いてNaClの構造的相変化を達成することができることを見つけて完成した。
【0029】
まず、B1相のNaClを陽極活物質として含む陽極、陰極、分離膜及び電解質を含む二次電池を構成する。
【0030】
前記陰極活物質と同一の金属を含むことができ、例えば、Na金属であり得る。
【0031】
前記分離膜は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニリデンフルオリド又はこれらの2層以上の多層膜が使われることができ、ポリエチレン/ポリプロピレン2層分離膜、ポリエチレン/ポリプロピレン/ポリエチレン3層分離膜、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層分離膜などの混合多層膜が使われることができるが、これに制限されるものではない。
【0032】
前記陽極は、陽極活物質、導電材及びバインダーを溶媒に混合してスラリー組成物を製造する段階と、前記スラリー組成物を集電体にコーティングしてから乾燥する段階とによって製造されるものであり得る。
【0033】
前記導電材は電極に導電性を付与するために使われるものであり、構成される電池において、化学的変化を引き起こさない電子伝導性材料であれば使用可能であり、その例として、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、炭素纎維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末又は金属纎維などの金属系物質;ポリフェニレン誘導体などの導電性ポリマー;又はこれらの混合物を含むことができるが、これに限定されるものではない。好ましくは、デンカブラックである。
【0034】
前記バインダーは陽極活物質であるNaCl粒子を互いにうまく付着させ、かつ陽極活物質を電流集電体によく付着させる役割をし、その例として、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルクロリド、カルボキシル化ポリビニルクロリド、ポリビニルフルオリド、エチレンオキシドを含むポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオリド、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン-ブタジエンゴム、アクリレート化スチレン-ブタジエンゴム、エポキシ樹脂、ナイロンなどを使うことができるが、これに限定されるものではない。好ましくは、ポリビニリデンフルオリドであり得る。
【0035】
前記溶媒はNMP(N-methyl-2-pyrrolidone)などの有機溶媒を含むことができ、前記陽極活物質、導電材、バインダーを全部含むときに好ましい粘度になる量で使われることができる。例えば、陽極活物質、導電材及びバインダーを含むスラリー組成物中の固形分の濃度が20重量%~85重量%、好ましくは30重量%~70重量%となるように使うことができる。
【0036】
ついで、事前充電段階及び事前放電段階を経ることになる。製造された二次電池の使用において、一般的に実施する充放電に先立ち、特定条件の電圧及びC-rateで充電及び放電を行って陽極活物質の構造的相変化を誘導する。
【0037】
前記事前充電段階は、前記二次電池を4.0~4.23Vまで0.03~0.05C-rateで充電することができる。
【0038】
前記事前充電段階は、前記二次電池を4.0~4.23Vまで0.03~0.05C-rateで充電して前記陽極活物質の結晶構造に複数の空孔(vacancy)を形成する。前記事前充電段階は4.0~4.23Vまで充電することが好ましい。これは、前記範囲で充電されるときに前記陽極活物質の構造的相変化を誘発する程度の空孔を形成することができるからである。前記電圧4.0V未満の電圧まで充電する場合、陽極活物質が分解し始めるから好ましくなく、前記電圧4.23Vを超える電圧で充電する場合、電解質が酸化し始めるから好ましくない。
【0039】
前記事前放電段階は、前記二次電池を0.1~0.5Vまで0.03~0.05C-rateで充電することができる。
【0040】
前記事前放電段階は、0.1~0.5Vまで0.03~0.05C-rateで放電して前記陽極活物質の構造的相変化を誘導する。前記事前放電段階では、前記事前充電段階で空孔が形成された陽極活物質の構造内に金属イオンが挿入されて構造的な相変化が誘導される。前記事前放電段階は0.1~0.5Vまで放電されることが好ましい。前記放電電圧が0.1V未満の場合、陽極活物質結晶構造に対してNaイオンの挿入(intercalation)は可能であるが脱離(deintercalation)が難しいから好ましくない。また、前記放電電圧が0.5Vを超える場合、Naイオンが陽極活物質構造に挿入されにくいから好ましくない。すなわち、前記放電電圧0.1Vより低いか0.5Vより高い場合、Naイオンの挿入及び脱離反応の非可逆性(irreversibility)が増加するから好ましくない。
【0041】
前記充電又は放電速度を示すC-rateは構造内に挿入及び脱離されるNaイオンの量(content)を決定する。C-rateを増加させる場合、構造内に挿入されるNaイオンの量が減少する。
【0042】
例えば、充電速度が0.03C-rateの場合、0.6Naイオンが構造内に挿入され(Na1.6Cl形成)、0.05C-rateの場合、0.4Naイオンが構造内に挿入される(Na1.4Cl形成)。したがって、前記C-rateは構造内に挿入しようとするNaイオンの量によって変えて使うことができる。ただ、0.03~0.05C-rateの範囲を満たすことが好ましい。前記範囲未満の場合、陽極活物質の構造が崩壊されることができ、前記範囲を超える場合、挿入及び脱離反応に参加するイオンの絶対的な量が足りなくて構造的相変化を誘導しにくいことがある。
【0043】
具体的に、前記陰極はNa金属であり、前記陽極活物質のエネルギー分光分析(EDS)の結果、前記二次電池の完全放電状態及び完全充電状態でのNaの含量の差が7at%以上であり得る。前記二次電池の完全充電とは、正常な使用状態で電池容量に対して最大に充電された状態を意味し、理論的に完全充電された状態の±0.5%の範囲を含む。前記完全放電は、電池製造後の充電されていない状態、理論的に完全放電された状態、又は実質的に完全放電状態と見なし得る状態(理論的に完全放電された状態の±0.5%の範囲)を含む実質的に電池が完全放電された状態を意味する。
【0044】
上述したように、前記二次電池は、陽極活物質として含まれたNaClがNaイオンの挿入及び脱離反応の可能な構造に相変化する。充放電過程で陽極活物質構造にNaイオンの挿入及び脱離がなされるので、Naイオン含量に大きな差を示すことになる。完全放電及び完全充電状態のNaイオン含量の差が7at%以上であることがNaイオンの円滑な挿入及び脱離によって優れた容量特性を有するという点で好ましい。
【0045】
下記の実施例又は比較例などには明示的に記載されてはいないが、本発明によるB2相のNaClの製造方法において、製造方法のいろいろの条件を異にしてB2相のNaClを陽極活物質として含む二次電池を製造し、製造された二次電池の電気化学的特性(容量特性、サイクル特性)、XRD、TEM及びEDS測定を実施した。
【0046】
その結果、他の条件及び数値範囲とは違い、下記の条件が全て満たされたとき、製造された二次電池の0.03C-rateでの放電容量が250mAhg-1であり、0.05C-rateで20回充放電時の容量維持率が初期容量の30%以上を示し、XRD、TEM及びEDS測定によって確認される陽極活物質に含まれた全体NaClを基準にB2相のNaClの含量が90%を上回ることを確認した。
【0047】
(ii)前記事前充電段階は前記二次電池を4.2Vまで0.03C-rateで充電、(iii)前記事前放電段階は前記二次電池を0.1Vで0.03C-rateで放電、(iv)前記構造的相変化はB1相のNaClがB2相のNaClに変化すること、(v)前記陽極は、陽極活物質、導電材及びバインダーを溶媒に混合してスラリー組成物を製造する段階、及び前記スラリー組成物を集電体にコーティングしてから乾燥する段階を含んでなる工程によって製造されること、(vi)前記導電材はデンカブラック、(vii)前記バインダーはPVdF、(viii)前記陰極はNa金属。
【0048】
ただ、前記条件の一つでも満たされない場合には、製造される二次電池の0.03C-rateで放電容量が200mAhg-1未満であり、0.05C-rateで20回充放電時の容量維持率が初期容量の20%未満に急激に減少し、陽極活物質に含まれた全体NaClを基準にB2相のNaClの含量が70%未満に著しく減ることを確認することができた。
【0049】
本発明のさらに他の側面は、B1相のNaClを電気化学的充放電する段階を含む二次電池用陽極の製造方法を提供する。
【0050】
前記電気化学的充放電は、B1相のNaClを含む陽極活物質を含む二次電池を構成する段階と、前記二次電池を充電して前記NaClの結晶構造に複数の空格子点(vacancy)を形成する事前充電段階と、前記事前充電段階を経た二次電池を放電して前記NaClの構造的相変化を誘導する事前放電段階と、を含むことができる。
【0051】
前記事前充電段階は、前記二次電池を4.0~4.23Vまで0.03~0.05C-rateで充電することができる。
【0052】
前記事前放電段階は、前記二次電池を0.1~0.5Vまで0.03~0.05C-rateで放電することができる。
【0053】
前記二次電池用陽極の製造方法の条件に対する具体的な効果はB2相のNaClの製造方法の部分で前述したものと同様であるので省略する。
【0054】
本発明のさらに他の側面は、B1相のNaClを電気化学的充放電する段階を含む二次電池の製造方法を提供する。
【0055】
前記電気化学的充放電は、B1相のNaClを含む陽極活物質を含む二次電池を構成する段階と、前記二次電池を充電して前記NaClの結晶構造に複数の空格子点(vacancy)を形成する事前充電段階と、前記事前充電段階を経た二次電池を放電して前記NaClの構造的相変化を誘導する事前放電段階と、を含むことができる。
【0056】
前記事前充電段階は、前記二次電池を4.0~4.23Vまで0.03~0.05C-rateで充電することができる。
【0057】
前記事前放電段階は、前記二次電池を0.1~0.5Vまで0.03~0.05C-rateで放電することができる。
【0058】
前記二次電池の製造方法の条件に対する具体的な効果はB2相のNaClの製造方法の部分で前述したものと同様であるので省略する。
【0059】
本発明の二次電池の製造方法によって製造された二次電池を製造及び販売する場合、前述した製造方法を全部遂行して、B2相のNaClが陽極活物質として含まれる二次電池自体を販売することもできるが、販売者がB1相のNaClを含む陽極活物質を含む二次電池のみを構成した後、販売し、消費者が直接事前充電段階及び事前放電段階を行ってNaClの構造的相変化を達成した後、本格的に使うこともできる。
【0060】
以下、本発明の理解を助けるために好適な実施例を提示する。しかし、これらの実施例は本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれによって制限されなく、本発明の範疇及び技術思想範囲内で多様な変更及び修正が可能であることは当該分野の通常の知識を有する者に明らかであろう。
【0061】
(比較例1.ナトリウム二次電池の製造)
Sigma Aldrich社で販売するB1(Fm-3m)相の商用NaClを購入して陽極活物質として使った。前記NaCl、デンカブラック(Denka black)及びPVdF(weight ratio 7:2:1)をNMP溶液に混合して作った電極スラリー組成物をAl箔にキャスティング(casting)してNaCl作業電極を製造し、電気化学実験に先立ち、80℃のオーブンで4時間乾燥した。
【0062】
ついで、前記製造されたNaCl作業電極、Na相対電極、PPセパレーター及び2重量%FECが溶解したポリエチレンカーボネート(PC)有機溶媒に溶解された1M NaClO電解質から構成された電解質で組み立ててコイン型半電池(CR2032)を製作した。前記電池の製作は、HO及びOが0.1ppm以下のアルゴンガスが充填されたグローブボックス内で行った。
【0063】
(実施例1.ナトリウム二次電池の製造)
Sigma Aldrich社で販売するB1(Fm-3m)相の商用NaClを購入して陽極活物質として使った。前記NaCl電極活物質、デンカブラック(Denka black)、PVdF(weight ratio 7:2:1)をN-メチル-2ピロリドン(NMP)溶液に混合して作った電極スラリーをアルミニウム薄膜(Al foil)に塗布してNaCl作業電極を製造し、電気化学実験に先立ち、80℃のオーブンで4時間乾燥した。
【0064】
ついで、前記製造されたNaCl作業電極、Na相対電極(Na金属を使用)、PPセパレーター及び2重量%FECが溶解したポリエチレンカーボネート(PC)有機溶媒に溶解した1M NaClO電解質から構成された電解質で組み立ててコイン型半電池(CR2032)を製作した。前記電池の製作は、HO及びOが0.1ppm以下であるアルゴンガスが充電されたグローブボックス内で行った。
【0065】
ついで、前記製造されたコイン型半電池の作業電極のNaClを電気化学的方法でB1相からB2相に相変化を引き起こした。より具体的には、NaClの構造的相変化は2段階からなった。
【0066】
第1段階で、前記コイン型半電池を4.2Vまで電気化学的方法によって0.03C-rateで充電した(pre-charge activation process、activation cycle、事前充電段階)。この充電段階によって空孔(vacancy)がNaCl陽極活物質の構造内に意図的に誘導され、B1相からB2相に部分的相変化が起こった。
【0067】
第2段階で、前記コイン型半電池を0.1Vに放電した(放電段階、活性化段階)。この段階で、Naイオンが空孔の形成されたNaCl陽極活物質の構造に挿入(intercalation)されることにより、B2相のNaCl陽極活物質を含む二次電池を製造した。放電段階で電気化学的に活性化したB2相のNaClはNaイオンを効率的に収容し、Na豊富化合物(NaxCl、x>1)を生成した。
【0068】
(実験例1.XRD分析)
前記実施例1及び比較例1で製造されたナトリウム二次電池の陽極に対してXRD(X-ray diffraction)分析を実施した。図1は前記比較例1によるナトリウム二次電池陽極のXRD特性を示したグラフ、図2は前記実施例1によるナトリウム二次電池陽極のXRD特性を示したグラフである。
【0069】
図1及び図2で確認することができるように、前記比較例1によって製造されたナトリウム二次電池陽極のNaClの場合、純粋なB1相であることを確認することができ、空間群Fm-3mに属し、格子定数はa=b=c=5.6314Åであることを確認した。
【0070】
一方、前記実施例1によって製造されたナトリウム二次電池陽極のNaClは空間群Pm-3mに属し、格子定数はa=b=c=2.8623Åであることを確認して、B2相を有することを確認することができた。
【0071】
(実験例2.電気化学的特性分析)
前記実施例1及び比較例1の二次電池の電気化学的特性を評価した。
【0072】
図3は本発明の比較例1によるナトリウム二次電池の0.03C-rateでの充放電性能試験結果を示したグラフ(電圧範囲0.1~4.23V)、図4は本発明の実施例1によるナトリウム二次電池の0.03C-rateでの充放電性能試験結果を示したグラフである(電圧範囲0.1~4.23V)。
【0073】
図5は本発明の実施例1によるナトリウム二次電池の0.05C-rateでのサイクル性能試験結果を示したグラフである。
【0074】
図3に示したように、B1相のNaClを陽極活物質として含む二次電池(比較例1)は電圧領域0.1~4.23V、0.03C-rateの条件で20mAhg-1の放電容量を示した。一方、図4に示したように、前記実施例1のB2相のNaClを陽極活物質として含む二次電池は電圧領域0.1~4.23V、0.03C-rateの条件で280mAhg-1の放電容量を示し、比較例1の二次電池の10倍以上の放電容量を有する。
【0075】
また、図5に示したように、前記実施例1の二次電池は0.05C-rateで初期放電容量は207mAhg-1であり、20回充放電後の初期放電容量60mAhg-1であって初期容量の28.99%の容量を維持して非常に優れたサイクル性能を有することを確認した。
【0076】
(実験例3.投射電子顕微鏡及びエネルギー分光分析)
図6は本発明の一実施例によるナトリウム二次電池用陽極活物質の透過電子顕微鏡(TEM)分析結果イメージとエネルギー分光分析(EDS)結果である。図6で、前記実施例1によって製造された二次電池の初期状態(Pristine)、完全放電状態(Fully discharged)及び完全充電状態(Fully charged)の陽極でのNa及びCl含量を確認することができる。
【0077】
図6で確認することができるように、初期状態にはNaとClの量がそれぞれ45.7、54.3at%であり、事前放電過程中の完全放電状態ではNaとClの量がそれぞれ61.3、38.7at%であり、事前充電過程中の完全充電状態ではNaとClの量がそれぞれ52、48at%であることが分かる。これから、事前充放電過程後の挿入によってNaイオンの量が増加し、放電過程後、Naイオンの量が脱離によって減少することを確認することができた。
【0078】
したがって、本発明によれば、NaClを陽極活物質として含む二次電池の陽極活物質の構造的相変化を電気化学的に引き起こして優れた電気化学的特性を有する二次電池を製造することができる。
【0079】
前述した実施例及び比較例は本発明を説明するための例示であり、本発明がこれに限定されるものではない。本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者であればこれから多様に変形して本発明を実施することができるので、本発明の技術的保護範囲は添付の特許請求範囲によって決定されなければならないであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6