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特許7066782スズ含有無方向性ケイ素鋼板の製造方法、得られた鋼板および当該鋼板の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】スズ含有無方向性ケイ素鋼板の製造方法、得られた鋼板および当該鋼板の使用
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/12 20060101AFI20220506BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20220506BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20220506BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220506BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
C21D8/12 A
C22C38/00 303U
C22C38/14
C22C38/58
H01F1/147 175
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020112461
(22)【出願日】2020-06-30
(62)【分割の表示】P 2017540331の分割
【原出願日】2015-10-20
(65)【公開番号】P2020183583
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2020-07-01
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2014/002174
(32)【優先日】2014-10-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エルケ・ルーニス
(72)【発明者】
【氏名】トム・ファン・デ・ピュッテ
(72)【発明者】
【氏名】ジークリッド・ヤコブス
(72)【発明者】
【氏名】ワヒブ・サイカリ
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特許第6728199(JP,B2)
【文献】特開2008-127600(JP,A)
【文献】特開2008-127612(JP,A)
【文献】特開2000-129409(JP,A)
【文献】特表2008-524449(JP,A)
【文献】特開2013-091837(JP,A)
【文献】特開2012-036458(JP,A)
【文献】特開2009-062589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12
C22C 38/00-38/60
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続する次の工程:
・重量百分率において
C≦0.006と、
2.2≦Si≦3.3と、
0.1≦Al≦3.0と、
0.1≦Mn≦3.0と、
N≦0.006と、
0.11≦Sn≦0.15と、
S≦0.005と、
P≦0.05と、
Ti≦0.01と
Cu≦0.030と
を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物である、鋼組成物を溶融させる工程と、
・前記溶融物をスラブ中に鋳込む工程と、
・1050℃から1250℃の間の温度で前記スラブを再加熱する工程と、
・750℃から950℃の間の熱間圧延仕上げ温度によって前記スラブを熱間圧延して、熱間圧延鋼帯であって、{110}<100>として配向成分を有するゴス集合組織を有する表層を呈するものを得る工程と、
・500℃から750℃の間の温度で前記熱間圧延鋼帯をコイル化する工程と、
・前記熱間圧延鋼帯が、650℃から950℃の間の温度で10秒から48時間の間の時間にわたって焼きなましされる工程、
・前記熱間圧延鋼帯を冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得る工程であって、冷間圧延鋼板の最終板材厚さ(FST)が、0.14~0.67mmの間である工程と、
・前記冷間圧延鋼板を850℃から1150℃の間のソーキング温度に加熱する工程と、
・前記冷間圧延鋼を20秒から100秒の間の時間にわたってソーキング温度に保持する工程と、
・前記冷間圧延鋼を室温に冷却する工程と
からなる、焼きなましされて冷間圧延された無方向性Fe-Si鋼板の製造方法。
【請求項2】
0.2≦Al≦1.5である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
0.25≦Al≦1.1である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
0.1≦Mn≦1.0である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
熱間圧延鋼帯が、連続的な焼きなましラインを使用して焼きなましされる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
熱間圧延鋼帯が、バッチ式焼きなましを使用して焼きなましされる、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
熱間圧延鋼帯が、24時間から48時間の間の時間にわたって、バッチ式焼きなましを使用して焼きなましされる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
ソーキング温度が、900℃から1120℃の間である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
冷間圧延されて焼きなましされた鋼板が、さらにコーティングされる、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性を示す無方向性Fe-Si鋼板の製造方法に関する。このような材料は例えば、車両用の電動機のための回転子および/または固定子の製造に使用される。
【背景技術】
【0002】
Fe-Si鋼への磁気特性の付与は、最も経済的な磁気誘導の発生源である。化学的組成の観点からは、鉄へのケイ素の添加は、電気抵抗率を上昇させ、この結果として磁気特性を改良するのと同時に、合計電力損失も低減するための非常に一般的な方法である。現在、電装品用の鋼の構成様式には、方向性鋼および無方向性鋼という2つの系列が共存している。
【0003】
無方向性鋼には、すべての磁化方向に向かってほぼ等価な磁気特性を有するという利点がある。この結果、上述の材料は、例えばモーターまたは発電機等、回転運動を要する用途にますます採用されている。
【0004】
磁気特性に関しては、次の特性を使用して、電磁鋼板の効率を評価する。
【0005】
・テスラとして表される磁気誘導。この誘導は、A/mとして表される固有の磁場下で得られる。誘導が高いほど、より良くになっていく。
・W/kgとして表されるコア電力損失は、ヘルツとして表される周波数を使用して、テスラ(T)として表される固有の分極で測定される。合計損失が低下するほど、より良くになっていく。
【0006】
数多くの冶金学的パラメータが上記特性に影響し得るが、最も一般的なパラメータは、合金形成分、材料の集合組織、フェライト粒径、析出物のサイズおよび分布ならびに材料の厚さである。今後は、鋳込みから最終的な冷間圧延鋼の焼きなましに至るまでの熱機械的加工が、目標の仕様達成に必須となる。
【0007】
JP201301837は、0.0030%以下のC、2.0%から3.5%までのSi、0.20%から2.5%までのAl、0.10%から1.0%までのMnおよび0.03%から0.10まで%のSnを含み、Si+Al+Sn≦4.5%である、電磁鋼板を製造するための方法を開示している。このような鋼に熱間圧延を施し、次いで、60%から70%までの圧下率によって一次冷間圧延を施して、中等度の厚さを有する鋼板を製造する。次いで、鋼板に焼きなましを施し、次いで、55%から70%までの圧下率によって二次冷間圧延を施し、950℃以上で20秒から90秒にわたってさらに最終的な焼きなましを施す。このような方法は、かなりのエネルギーを費やすものであり、長い製造経路を伴う。
【0008】
JP2008127612は、質量%により0.005%以下のCと、2%から4%までのSiと、1%以下のMnと、0.2%から2%までのAlと、0.003%から0.2%までのSnとを含み、残部がFeと不可避的不純物である、化学的組成を有する、無方向性電磁鋼板に関する。0.1mmから0.3mmまでの厚さを有する無方向性電磁鋼板は、中間焼きなまし工程の前後に熱間圧延板を冷間圧延する工程、および続いて、板材の再結晶と焼きなましを行う工程によって製造される。このような加工経路は、長い製造経路を伴うため、JP201301837という上記の第1の出願の場合と同様に、生産性にとって有害である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-01837号公報
【文献】特開2008-127612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
単純化されて頑丈さも増しているが、電力損失および誘導特性について妥協していない、このような無方向性Fe-Si鋼板の製造方法は、依然として必要とされているように思われる。
【0011】
本発明による鋼は、電力損失と誘導との良好な兼ね合いを達成するように単純化された製造経路に従う。さらに、工具の摩耗も、本発明による鋼によって抑制される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、連続する次の工程:
・重量百分率において
C≦0.006と、
2.0≦Si≦5.0と、
0.1≦Al≦3.0と、
0.1≦Mn≦3.0と、
N≦0.006と、
0.04≦Sn≦0.2と、
S≦0.005と、
P≦0.2と、
Ti≦0.01と
を含有し、
残部がFeおよび他の不可避的不純物である、鋼組成物を溶融させる工程と、
・前記溶融物をスラブ中に鋳込む工程と、
・1050℃から1250℃の間の温度で前記スラブを再加熱する工程と、
・750℃から950℃の間の熱間圧延仕上げ温度によって前記スラブを熱間圧延して、熱間圧延鋼帯を得る工程と、
・500℃から750℃の間の温度で前記熱間圧延鋼帯をコイル化して、熱間帯材を得る工程と、
・場合により、熱間圧延鋼帯が、650℃から950℃の間の温度で10秒から48時間の間の時間にわたって焼きなましされる工程と、
・熱間圧延鋼帯を冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得る工程と、
・冷間圧延鋼板を850℃から1150℃の間のソーキング温度に加熱する工程と、
・冷間圧延鋼板を20秒から100秒の間の時間にわたってソーキング温度に保持する工程と、
・冷間圧延鋼板を室温に冷却して、焼きなましされた冷間圧延鋼板を得る工程と
からなる、焼きなましされて冷間圧延された無方向性Fe-Si鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
好ましい一実施形態において、本発明による無方向性Fe-Si鋼板の製造方法は、2.0≦Si≦3.5、さらにより好ましくは2.2≦Si≦3.3であるようなケイ素含量を有する。
【0014】
好ましい一実施形態において、本発明による無方向性Fe-Si鋼板の製造方法は、0.2≦Al≦1.5、さらにより好ましくは0.25≦Al≦1.1であるようなアルミニウム含量を有する。
【0015】
好ましい一実施形態において、本発明による無方向性Fe-Si鋼板の製造方法は、0.1≦Mn≦1.0であるようなマンガン含量を有する。
【0016】
好ましくは、本発明による無方向性Fe-Si鋼板の製造方法は、0.07≦Sn≦0.15、さらにより好ましくは0.11≦Sn≦0.15であるようなスズ含量を有する。
【0017】
別の好ましい実施形態において、本発明による無方向性Fe-Si鋼板の製造方法は、連続的な焼きなましラインを使用して実施される、場合による熱間帯材の焼きなましを包含する。
【0018】
別の好ましい実施形態において、本発明による無方向性Fe-Si鋼板の製造方法は、バッチ式焼きなましを使用して実施される、場合による熱間帯材の焼きなましを包含する。
【0019】
好ましい一実施形態において、ソーキング温度は、900℃から1120℃の間である。
【0020】
別の実施形態において、本発明による無方向性冷間圧延されて焼きなましされた鋼板は、コーティング加工される。
【0021】
本発明の別の目的は、本発明の方法を使用して得られた無方向性鋼である。
【0022】
本発明によって製造された無方向性鋼を使用した高効率産業用モーター、電気生成用の発電機、電気自動車用のモーターもまた、本発明の一目的であり、本発明によって製造された無方向性鋼を使用したハイブリッド車用のモーターも同様である。
【0023】
所望の特性を達成するために、本発明による鋼は、重量%における次の化学的組成元素を含む。
【0024】
0.006の量に抑制された炭素が含まれる。この元素は、磁気特性を劣化させるであろう鋼の老化および/または析出を誘発し得るため、有害である可能性がある。従って、炭素の濃度は、60ppm(0.006wt%)未満に抑制すべきである。
【0025】
Siの最小含量は、2.0%であるが、Siの最大含量は、5.0%に限定されており、これらの限度の両方を含める。Siは、鋼の抵抗率を上昇させ、この結果として渦電流損失を低減する際に、主要な役割を果たす。2.0wt%未満のSiの場合は、低損失グレード品用の損失レベルが達成困難である。5.0wt%超のSiの場合、鋼がもろくなり、後続の工業的な加工が困難になる。この結果、Si含量は、2.0wt%≦Si≦5.0wt%、好ましい一実施形態において2.0wt%≦Si≦3.5wt%、さらにより好ましくは2.2wt%≦Si≦3.3wt%であるようになっている。
【0026】
アルミニウム含量は、0.1%から3.0%の間にすべきであり、0.1%と3.0%の両方も含める。このアルミニウムという元素は、抵抗率への効果に関して、ケイ素の態様と類似した態様で作用する。0.1wt%未満のAlの場合、抵抗率または損失への実効がない。3.0wt%超のAlの場合、鋼がもろくなり、後続の工業的な加工が困難になる。この結果、Alは、0.1wt%≦Al≦3.0wt%、好ましい一実施形態において0.2wt%≦Al≦1.5wt%、さらにより好ましくは0.25wt%≦Al≦1.1wt%であるようになっている。
【0027】
マンガン含量は、0.1%から3.0%の間にすべきであり、0.1%と3.0%の両方も含める。このマンガンという元素は、抵抗率に関して、SiまたはAlの態様と類似した態様で作用するが、マンガンは、抵抗率を上昇させ、この結果として渦電流損失を低下させる。さらに、Mnは、鋼の硬化を促進し、より高い機械的特性を要求するグレード用に有用であり得る。0.1wt%未満のMnの場合、抵抗率、損失または機械的特性への実効がない。3.0wt%超のMnの場合、MnS等の硫化物が形成し、コア損失にとって有害であり得る。この結果、Mnは、0.1wt%≦Mn≦3.0wt%、好ましい一実施形態において、0.1wt%≦Mn≦1.0wt%であるようになっている。
【0028】
炭素と全く同様に、窒素は、磁気特性を劣化させ得るAlNまたはTiNの析出を起こす可能性があるため、有害であり得る。遊離窒素も同様に、磁気特性を劣化させるであろう老化を起こす可能性がある。従って、窒素の濃度は、60ppm(0.006wt%)に抑制すべきである。
【0029】
スズは、本発明の鋼に必須の元素である。スズの含量は、0.04%から0.2%の間でなければならず、これらの両方の限度を含める。スズは、特に集合組織の改良によって、磁気特性において有益な役割を果たす。スズは、最終的な集合組織中の(111)成分を低減に貢献するが、このように貢献することで、一般に磁気特性の改良、特に分極/誘導の改良にも役立つ。スズが0.04wt%である場合は、スズによる効果を無視することができるが、0.2wt%超である場合は、鋼のぜい性が問題になる。この結果、スズは、0.04wt%≦Sn≦0.2wt%、好ましい一実施形態において、0.07wt%≦Sn≦0.15wt%であるようになっている。
【0030】
硫黄濃度は、Sが、磁気特性を劣化させるであろうMnSまたはTiS等の析出物を形成する恐れがあるため、0.005wt%に抑制する必要がある。
【0031】
リン含量は、0.2wt%未満でなければならない。Pは、抵抗率を上昇させ、この結果として損失を低減するものであるが、Pが、再結晶および集合組織に関与し得る偏析元素であるため、やはり、集合組織および磁気特性を改良し得る。Pは、機械的特性も同様に向上することができる。Pの濃度が0.2wt%超である場合は、鋼のもろさの増大のため、工業的な加工が困難になる。この結果、Pは、P≦0.2wt%であるようになっているが、好ましい一実施形態において、偏析の問題を抑制するために、P≦0.05wt%であるようになっている。
【0032】
チタンは、析出物を形成する元素であり、TiN、TiS、Ti、Ti(C,N)およびTiC等、磁気特性にとって有害な析出物を形成する恐れがある。チタンの濃度は、0.01wt%未満にすべきである。
【0033】
残部は、鉄、および、本明細書の下記に列記された不可避的不純物等の不可避的不純物であり、本発明による鋼中に許容される最大の含量が示されている:
Nb≦0.005wt%
V≦0.005wt%
Cu≦0.030wt%
Ni≦0.030wt%
Cr≦0.040wt%
B≦0.0005
【0034】
他の可能性がある不純物は、As、Pb、Se、Zr、Ca、O、Co、SbおよびZnであり、これらは、微量に存在し得る。
【0035】
この後、本発明による化学的組成を有する鋳込み物は、温度がスラブ全体にわたって均一になるまで再加熱されるが、スラブ再加熱温度(SRT)は、1050℃から1250℃の間である。1050℃未満の場合、圧延が困難になり、圧延機にかかる力が大きくなりすぎる。1250℃超の場合、高ケイ素グレード品は、非常に柔らかくなり、ある程度のたれを呈する恐れがあり、従って、取り扱いが困難になる。
【0036】
熱間圧延仕上げ温度は、最終的な熱間圧延ミクロ組織に影響を及ぼし、750℃から950℃の間になされる。仕上げ圧延温度(FRT)が750℃未満である場合、再結晶が抑制され、ミクロ組織が大幅に変形する。950℃超であることは、より多くの不純物が固溶体中に取り込まれており、この結果として析出が起こり得るし、磁気特性の劣化もあり得ることを意味することになる。
【0037】
熱間圧延帯材のコイル化温度(CT)も同様に、最終的な熱間圧延製品に関与するが、このコイル化温度は、500℃から750℃の間になされる。500℃未満の温度におけるコイル化では、十分な回復が発生できないことになるが、このコイル化という冶金工程は、磁気特性を求める場合に必要である。750℃超の場合、厚い酸化物層が発生し、冷間圧延および/または酸洗い等の後続の加工工程が困難になる。
【0038】
熱間圧延鋼帯は、{110}<100>として配向成分を有するゴス集合組織を含んだ表層を呈するが、前記ゴス集合組織は、熱間圧延鋼帯の15%の厚さにおいて測定される。ゴス集合組織は、磁束密度を高めることによってコア損失を減少させた帯材を提供するが、このコア損失の減少は、以下に提供の表2、4および6から十分に明白である。熱間圧延中に、仕上げ圧延温度を750℃超に保持することにより、ゴス集合組織の核形成が促進される。
【0039】
熱延帯材の厚さは1.5mmから3mmまでである。通常の熱間圧延機によって1.5mm未満の厚さを達成することは、困難である。3mm超の厚さの帯材から目標の冷間圧延厚さにする冷間圧延は、コイル化する工程後の生産性を多大に低下させるであろうし、最終的な磁気特性をも劣化させるであろう。
【0040】
場合による熱間帯材焼きなまし(HBA)は、650℃から950℃の間の温度で実施することができるが、この工程は、場合によるものである。熱間帯材焼きなましは、連続的な焼きなましであってもよいし、またはバッチ式焼きなましであってもよい。650℃未満のソーキング温度の場合、再結晶が完全ではなく、最終的な磁気特性の改良が抑制される。ソーキング温度が950℃超の場合、再結晶粒が大きくなりすぎ、金属は、ぜい性があって、後続の工業的な工程中の取り扱い困難なものになる。ソーキングの持続期間は、熱間帯材焼きなましが連続的な焼きなまし(10秒から60秒の間)であるか、バッチ式焼きなまし(24時間から48時間の間)であるかに依存する。この後、帯材が(焼きなましの有無にかかわらず)冷間圧延される。本発明において、冷間圧延は、1つの工程で実施され、即ち、中間焼きなましなしで実施される。
【0041】
酸洗いは、焼きなまし工程の前または後に実施することができる。
【0042】
最後に、冷間圧延鋼には、使用温度および目標の粒径に応じて、850℃から1150℃の間、好ましくは900℃から1120℃の間の温度(FAT)で10秒から100秒の間の時間にわたって最終的な焼きなましを施す。850℃未満の場合、再結晶は完全ではなく、損失は、潜在能力の全量に到達しない。1150℃超の場合、粒径が大きくなりすぎ、誘導が悪化する。ソーキング時間に関しては、10秒未満の場合は、再結晶に十分な時間が与えられないが、100秒超の場合は、粒径が大きくなりすぎ、誘導レベル等の最終的な磁気特性に悪影響する。
【0043】
最終板材厚さ(FST)は、0.14mmから0.67mmの間である。
【0044】
本発明によって製造された最終的な板材のミクロ組織は、30μmから200μmの間の粒径を有するフェライトを含有する。30μm未満の場合は、損失が高くなりすぎるが、200μm超の場合は、誘導レベルが低くなりすぎる。
【0045】
機械的特性に関しては、降伏強度は、300MPaから480MPaの間であるが、極限引張強さは、350MPaから600MPaの間になる。
【0046】
下記の実施例は、説明を目的としたものであり、本明細書における開示の範囲を限定するように解釈されることを意図したものではない。
【実施例
【0047】
[実施例1]
2個の実験用被熱処理材を、下記の表1に提示の組成によって製造した。下線が引かれた値は、本発明によるものではない。この後に引き続いて、1150℃でスラブを再加熱してから熱間圧延を実施した。仕上げ圧延温度は900℃であり、鋼は、530℃でコイル化した。熱間帯材を、750℃で48時間バッチ式焼きなましした。鋼を冷間圧延して、0.5mmにした。中間焼きなましは実施しなかった。最終的な焼きなましを1000℃のソーキング温度で実施したが、ソーキング時間は、40秒だった。
【0048】
【表1】
【0049】
磁気測定を、これらの被熱処理材の両方について実施した。1.5Tおよび50Hzにおける合計磁気損失ならびに誘導B5000を測定し、結果を下記の表に示している。この処理経路を使用すると、Snの添加により、磁気特性が著しく改良されることが分かる。
【0050】
【表2】
【0051】
[実施例2]
2個の被熱処理材を、下記の表3に提示の組成によって製造した。下線が引かれた値は、本発明によるものではない。1120℃でスラブを再加熱した後、熱間圧延を実施した。仕上げ圧延温度は870℃であり、コイル化温度は635℃だった。熱間帯材を、750℃で48時間バッチ式焼きなましした。次いで、0.35mmになるまで冷間圧延を実施した。中間焼きなましは、実施しなかった。最終的な焼きなましを950℃のソーキング温度で実施したが、ソーキング時間は、60秒だった。
【0052】
【表3】
【0053】
磁気測定を、これらの被熱処理材の両方について実施した。1.5Tおよび50Hzにおける合計磁気損失ならびに誘導B5000を測定し、結果を下記の表に示している。この処理経路を使用すると、Snの添加により、磁気特性が著しく改良されることが分かる。
【0054】
【表4】
【0055】
[実施例3]
2個の被熱処理材を、下記の表5に提示の組成によって製造した。下線が引かれた値は、本発明によるものではない。この後に引き続いて、1150℃でスラブを再加熱してから熱間圧延を実施した。仕上げ圧延温度は850℃であり、鋼は、550℃でコイル化した。熱間帯材を、800℃で48時間バッチ式焼きなましした。鋼を冷間圧延して、0.35mmにした。中間焼きなましは実施しなかった。最終的な焼きなましを1040℃のソーキング温度で実施したが、ソーキング時間は、60秒だった。
【0056】
【表5】
【0057】
磁気測定を、これらの被熱処理材の両方について実施した。1.5Tおよび50Hzにおける1Tおよび400Hzでの合計磁気損失ならびに誘導B5000を測定し、結果を下記の表に示されている。この処理経路を使用すると、0.07wt%のSnの添加により、磁気特性が改良されることが分かる。
【0058】
【表6】
【0059】
これらの実施例の両方から分かるように、Snは、相異なる化学的組成を採用した本発明による冶金経路を使用して、磁気特性を改良している。
【0060】
本発明の方法によって得られた鋼は、電気自動車またはハイブリッド車のモーター用、高効率産業用モーター用および電気生成用の発電機用に使用することができる。