(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】酸化ベリリウム及び/又は四ホウ酸リチウムの使用によって体組織に近い実効原子番号を有する、自由中性子を検出するための複合材料;線量計;自由中性子を捕獲又は検出する方法
(51)【国際特許分類】
G01T 3/00 20060101AFI20220506BHJP
G01T 1/10 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
G01T3/00 G
G01T1/10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020210129
(22)【出願日】2020-12-18
【審査請求日】2021-01-06
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522035867
【氏名又は名称】ミリオン・テクノロジーズ・(エイダブリュエスティ)・ゲーエムベーハー・アプタイルング・ドシメトリクス
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ゲオルグ・ショイベルト
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・コルモル
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03449136(US,A)
【文献】K. Sakasai et al.,RBPO5/ (R=Ca, Sr)-based storage phosphors for neutron detection,IEEE Transactions on Nuclear Science,2005年10月,volume 52, issue 5,pages 1856-1859
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 3/00
G01T 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自由中性子を検出するための複合材料(1)であって、
-中性子捕獲の結果として二次放射線を発生するように構成された、コンバータ材料(2)と、
-前記二次放射線の量に関する情報を蓄積し、それを後の評価において光刺激ルミネセンスによって再放出するように構成された、検出器材料(3)と、
を含み、
-前記コンバータ材料(2)及び前記検出器材料(3)は、各々複数の粒子中に存在し、前記粒子は一緒に、前記複合材料(1)中に材料混合物として存在し、
前記検出器材料(3)は、酸化ベリリウムから形成され
、
前記コンバータ材料(2)は、四ホウ酸リチウムから形成される
ことを特徴とする、
複合材料。
【請求項2】
前記四ホウ酸リチウムにおいて、同位体
6Li及び/又は
10Bは、その天然存在比と比較して高濃度であることを特徴とする、請求項
1に記載の複合材料(1)。
【請求項3】
前記複合材料(1)における前記コンバータ材料(2)及び前記検出器材料(3)の割合は、実効原子番号が6.1~8.1、好ましくは6.7~7.5となるように選択されることを特徴とする、請求項1
または2に記載の複合材料(1)。
【請求項4】
前記コンバータ材料(2)及び/又は前記検出器材料(3)の粒子は、30μm未満、好ましくは10μm未満の粒径を有することを特徴とする、請求項1~
3のいずれか一項に記載の複合材料(1)。
【請求項5】
前記複合材料(1)は、平坦面(5)を有し、かつ、前記面(5)に垂直に0.2mm~0.5mmの拡張部(D)、特に0.3mmの拡張部(D)を有することを特徴とする、請求項1~
4のいずれか一項に記載の複合材料(1)。
【請求項6】
前記コンバータ材料(2)及び前記検出器材料(3)は、燃焼又は焼結によって前記複合材料(1)内に接合されることを特徴とする、請求項1~
5のいずれか一項に記載の複合材料(1)。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の複合材料(1)を含む、線量計。
【請求項8】
自由中性子を捕獲する方法であって:
-複合材料(1)によって中性子を少なくとも部分的に吸収する工程であって、コンバータ材料(2)及び検出器材料(3)は各々、材料混合物の複数の粒子中に存在する、吸収する工程と、
-前記中性子の捕獲の結果として、
四ホウ酸リチウムからのコンバータ材料(2)による二次放射線を発生する工程と、
-酸化ベリリウムからの検出器材料(3)によって前記二次放射線の量に関する情報を蓄積する工程であって、前記材料は後の評価において光刺激ルミネセンスによって前記情報を再放出するように構成された、工程と、
を含む、方法。
【請求項9】
複合材料(1)を用いて自由中性子を検出する方法であって、請求項
8に記載の方法の工程並びに情報を評価するための追加工程:
-前記複合材料(1)に刺激スペクトルの光を照射する工程であって、酸化ベリリウム又は四ホウ酸リチウムに対する前記刺激スペクトルが固有である、工程と、
-所定の条件に対応する前記刺激スペクトルによる照射に応答して前記複合材料(1)から放出された発光スペクトルに基づいて、中性子を検出する工程と、
を含む、方法。
【請求項10】
-
前記複合材料(1)の照射は、2つの異なる刺激スペクトルによって実施され、前記2つの刺激スペクトルのうちの1つは酸化ベリリウムに固有であり、前記2つの刺激スペクトルのうちのもう1つは四ホウ酸リチウムに固有であること、
を特徴とする、請求項
9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子の捕獲に応答して二次放射線を発生するように構成されたコンバータ材料と、二次放射線の量に関する情報を蓄積し、それを後に光刺激ルミネセンスによる評価において再放出するように構成された検出器材料と、を有する、自由中性子を検出するための複合材料に関し、コンバータ材料及び検出器材料は各々複数の粒子からなり、該粒子は一緒に、複合材料中に材料混合物として存在する。更に、本発明は、かかる複合材料を含む線量計に関する。最終的に、本発明は、複合材料による自由中性子の捕獲方法又は検出方法のそれぞれの方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
放射線、特に電離放射線を測定又は検出するための、様々な種類の線量計が知られている。累積放射線量を決定するための測定デバイスとしては、指示線量計(designation dosimeter)が一般的である。低コスト実現の変種でありながら高精度を確保するのは、受動形線量計の使用である。受動形線量計は、線量計によって時不変的かつ恒久的に吸収された放射エネルギーが検出器材料の構造内に貯蔵されることを特徴とする。検出器中の電離放射線によって発生する自由放射線キャリアは、部分的に、情報の情報蓄積として直接機能し得る。特に検出器材料において、電離プロセスによって発生する自由電子は、一方では基底状態と比較して高いエネルギー準位を有するが、室温では基底状態又は励起状態に到達できないエネルギー準位に到達し得る。これらの電子は、広く知られるようにかかるエネルギー準位でトラップされ、対応するエネルギー準位の英語はtrapである。
【0003】
長い間、かかる受動形線量計には、熱ルミネセンス線量測定(TLD)の原理に従って評価できる検出器材料を装備することが一般的であった。読取りの間、電子は、熱刺激(検出器材料の加熱)によって、電子がトラップされていたエネルギー準位又はトラップから自由になる。これによって、トラップから出た対応する電子は、典型的には、検出器材料の伝導帯の、より高いエネルギーに到達する。その後、関連する正孔との再結合において、特定波長の光が放出される。光の強度又は光の光子数から、検出器の累積放射線曝露に関して結論が導き出され、その結果吸収放射線量が得られる。具体的には、好適な検出器材料の場合、ルミネセンス光の強度又は光子数は、それぞれ大部分が吸収放射線量に比例する。
【0004】
個人線量測定の最新方法として、光刺激ルミネセンス(OSL)はますます多く受け入れられている。線量情報の蓄積は、TLDと同様に、等しく安定なトラップにおいて、すなわち検出器材料の価電子帯と伝導帯との間のエネルギー準位で起こる。トラップされた電子の放出は、TLプロセスと類似の形で起こり、エネルギーの供給を必要とするが、ここでは対応する検出器材料に光を照射することによって行われる。光刺激ルミネセンスを使用する利点は、光の出力を即時かつパルス可能なエネルギー供給に使用できることであるのに対し、検出器の加熱は、規定された加熱プロセスを保証するために時間と、おそらくは高価なデバイスを必要とする。更に、OSL線量測定に好適な材料は、蓄積された情報の時不変性によって特徴づけられる。
【0005】
蓄積した情報の損失につながるプロセスを、フェーディングと呼ぶ。室温で既にフェーディングが起こる材料では、電子は、そのトラップのエネルギー準位から通常のエネルギー準位へと戻り、もはや情報キャリアとして利用できない。この結果から、測定結果の歪みは、後の放射線量の決定において、大きな、時間依存性の誤差を生じる。
【0006】
しばしば、中性子放射線の測定も対象となる。光刺激ルミネセンスの原理に従って作動する検出器材料は、しばしば、中性子放射線に応答しない。これは、検出器中に存在する同位体が十分に大きい中性子捕獲断面積を有さず、そのため放射線照射野と直接相互作用しないからである。いわゆるコンバータ材料は、中性子を捕獲することができ、緩和をもたらす。典型的には、中性子捕獲は、発生した同位体の放射性崩壊に適時に続いて起こる、つまり、コンバータ材料が二次放射線を放出する。この二次放射線が、次に電離し、検出器材料によって捕獲され得る。
【0007】
例えば、特許文献1から、地層の坑井中において放射線を測定するデバイスが知られている。上記文献のデバイスの検知配置は、光刺激ルミネセンスによる測定を促進する材料を含む。検知配置は、非電離放射線、例えば中性子を、電離放射線に変換するための変換層を更に含み得る。
【0008】
非特許文献1は、検出器材料としての酸化アルミニウム(AL2O3)との混合及び中性子を捕獲するためのコンバータ材料を示唆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願公開第2013/0015339号明細書
【非特許文献】
【0010】
【文献】“Development of new optically stimulated luminescence (OSL) neutron dosimeters”,E.G.Yukihara et. al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、個人線量測定の利用、すなわち、人体に吸収された線量の推定に関して、中性子の検出を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によるこの目的は、独立特許請求項の主題によって解決される。有利な実施形態及び本発明の更なる発展の方法は、本発明の主題である。
【0013】
本発明は、線量計に使用した検出器材料の実効原子番号が中性子線量測定にも大きな影響を有し得るという考えに基づく。中性子は、原子の核電荷の影響をわずかしか受けないことは事実であるが、ここで線量測定の精度は既に改善でき、受動形線量測定に使用するコンバータ材料と検出器材料との複合材料の実効原子番号が、ヒト組織の実効原子番号により近い。更に、中性子線量と同時に電離放射線(通常中性子と同時に生じる)の線量も測定使用とする場合に、更なる利点が得られる。中性子線量計は、放射線の純粋な中性子の比率を定量化することを意図しており、同時に発生する他の種類の放射線の比率を補正する必要があることから、電離放射線の参照値(例えばγ線)の測定が必要である。したがって、中性子線量の精密な測定は、一般的に、同時に入射する光子放射線の参照値を確立することを必要とし、これを後で減算して中性子線量を決定する。したがって、参照値の精度を上げることによって、中性子線量の測定の精度も改善できる。
【0014】
上記の基本的考察から出発して、本発明は、確立されたTL又はOSLと比較して、その実効原子番号に関して検出器材料が改善され、ヒト組織の原子数に適応されている、自由中性子を検出するための複合材料を提供する。
【0015】
その検出に複合材料が直接使用できる必要がある、又はその捕獲のためにコンバータ材料が構成されている放射線の種類は、特に、熱中性子である。あるいは又は更に、高速中性子も検出できる。特に、複合材料は、中性子放射線の検出のために構成される。中性子捕獲断面積は、エネルギーの増加と共に劇的に低下することから、高速中性子の検出では、検出器材料に入る前にその速度を低下させること、すなわち減速させることが妥当となり得る。高速中性子を検出するために、複合材料が用いられている線量計は、複合材料に加えて減速材を含み得る。あるいは又は更に、複合材料は、かかる減速材によって増量(expand)されてもよい。あるいは又は更に、コンバータ材料及び/又は検出器材料が減速材として作用することが可能である。減速材は、高速中性子の速度を低下させるのに適していることを特徴とする。換言すると、高速中性子は、減速材によってその運動エネルギーが低減される。運動エネルギーの低減によって、又は高速中性子を減速することによって、該中性子を、より大きな捕獲断面積で捕獲できる状態へと移行できる。熱中性子は、約25meVの運動エネルギーを有する自由中性子である。コンバータ材料は、熱中性子に加えて、高速中性子も、十分な捕獲断面積で捕獲することが想定できる。この場合、捕獲は、高速中性子を減速するための減速材なしで実施され得る。多数の用途で高速中性子の検出は無関係であり、かかる用途では、減速材なしで実施されてもよく、更にはコンバータ材料が大きな捕獲断面積で高速中性子を捕獲することは必ずしも必要ではない。
【0016】
初めに述べたように、コンバータ材料は、中性子を捕獲し、かかる捕獲に応答して二次放射線を発生するように構成されている。二次放射線は、具体的には、中性子放射線とは異なる種類の放射線である。例えば、二次放射線は、電離放射線、例えば光子であり、特に、X線若しくはγ線、又はβ線、α線、トリチウム放射線などのような高エネルギー粒子である。一般に、二次放射線は、好ましくは電離放射線である。いずれの場合も、コンバータ材料は、中性子の捕獲に同様に応答して好適な二次放射線を発生するように選択する必要があり、それを検出器材料で定量化できる。
【0017】
検出器材料は、二次放射線の捕獲に応答して、二次放射線に関する情報を蓄積するように構成される。情報の評価は、特に、光刺激ルミネセンス(OSL)の原理によって実行される。その原理は既に記載されていることから、ここで新たに記載しない。このように、検出器材料はプロセスによって情報を蓄積するように構成されており、この情報は、光刺激ルミネセンス(OSL)の原理によって後の評価にアクセスできる。例えば、検出器材料は、二次放射線の光子、電子、トリチウム核、又はヘリウム核による吸収、散乱、又は(非弾性)衝突に応答して、情報を蓄積するように構成される。二次放射線の透過は、特に、捕獲された自由中性子の数を基準にして線量に比例する。有利には、検出器材料は、後の評価において、蓄積された情報を発光スペクトル又はルミネセンス光の形態で、線量比例的に放出するように構成される。
【0018】
後の評価の過程において、検出器材料は、刺激スペクトル、特に特定波長の単色光を照射することで刺激される。照射又は刺激の結果として、検出器材料は、蓄積された情報を発光スペクトルによって放出する。これに関連して、通常は、明らかにより強い刺激スペクトルの刺激光を、適切な光学フィルターによって、低放射線量の場合には発光スペクトルの非常に弱いルミネセンス光(おそらく単に波長の違いによる)から分離する必要がある。異なる検出器材料の混合物の場合、ルミネセンス光の放出が異なる波長で生じると想定される。これは、応答シグナル及びその波長に基づき、又は異なる刺激スペクトル(特に異なる波長の単色光)の選択によって、異なる検出器材料の別々の又は逐次的な評価が可能となり得ることを意味する。
【0019】
検出器ユニットを複合材料として設計すること、すなわち、各々の場合に微細に分離したコンバータ材料と検出器材料とからなる材料混合物から設計することは有利である。材料混合物において、コンバータ材料及び検出器材料は、少なくとも実質的に完全に混合又は撹拌される。直近のコンバータ材料の粒子の近くに、検出器材料の粒子が存在することを確実とする必要がある。こうして、複合材料の感度を最大にすることができる。二次放射線は、コンバータ材料から検出器材料までの距離を出来るだけ短くカバーすることのみを必要とする。こうして二次放射線の不要な代替吸収、例えばコンバータ材料自体における吸収、が制限される。
【0020】
上記の目的を解決するため、又は複合材料の実効原子番号をヒト組織の実効原子番号に適応させるために、それぞれ、本発明により、各々の場合に対応する実効原子番号を有する検出器材料及び/又はコンバータ材料を、それぞれの材料から形成することが想定される。本発明によると、酸化ベリリウム(BeO)並びに四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)が該当する。これに関連して、酸化ベリリウムは検出器材料に適しているのに対し、四ホウ酸リチウムは、リチウム原子が少なくとも部分的に、特にかなりの割合、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%又は少なくとも30%が同位体6Liから形成されている場合に、コンバータ材料に適している。更に、四ホウ酸リチウムは検出器材料としても好適である。
【0021】
本発明の第1の態様は、したがって、中性子捕獲に応答して二次放射線を発生するように構成されたコンバータ材料と、二次放射線の量に関する情報を蓄積し、それを後の評価において光刺激ルミネセンスによって再放出するように構成された検出器材料と、を含む、自由中性子を検出するための複合材料であって、上記コンバータ材料及び検出器材料は各々複数の粒子に存在し、該粒子は一緒に、複合材料中に材料混合物として存在する、複合材料に関する。本発明の第1の態様では、検出器材料が酸化ベリリウムから形成されるという事実が発明的である。
【0022】
本発明の第2の態様は、中性子捕獲の結果として二次放射線を発生するように構成されたコンバータ材料と、二次放射線の量に関する情報を蓄積し、それを後の評価において光刺激ルミネセンスによって再放出するように構成された検出器材料と、を含む、自由中性子を検出するための複合材料であって、上記コンバータ材料及び検出器材料は各々複数の粒子で存在し、該粒子は一緒に、複合材料中に材料混合物として存在する、複合材料に関する。本発明の第2の態様では、コンバータ材料が四ホウ酸リチウムから形成されるという事実が発明的である。
【0023】
それぞれの複合材料は、その組成がコンバータ材料と検出器材料に限定されない。複合材料は、更なる材料、例えば上記の減速材又は結合剤を、追加的に含んでもよい。初めに記載のように、複合材料の実効原子番号をヒト組織の実効原子番号に近づけることによって、複合材料の効率及び/又は精度及び/又は信頼性を、個人線量測定の一部として、改善できる。列挙した材料の酸化ベリリウム及び四ホウ酸リチウムは各々、体組織の実効原子番号の等価性に既に関与していることから、同じ発明的概念が挙げた目的の解決に等しく適している。
【0024】
本発明の第2の態様による複合材料の更なる発展によると、四ホウ酸リチウムにおいて、同位体6Li及び/又は10Bは、天然存在比(natural frequency)と比較して高濃度であると想定される。換言すると、四ホウ酸リチウムに含有されるリチウムにおいて、核子数6のリチウム同位体はリチウム同位体の天然存在比と比較して高濃度となり得る。あるいは又は更に、四ホウ酸リチウムに含有されているホウ素において、ホウ素同位体は、核子数10のものがホウ素同位体の天然存在比と比較して高濃度となり得る。同位体6Li及び10Bは各々、それぞれの元素の他の同位体よりも明らかに大きい中性子捕獲断面積を有する。したがって、対応する濃縮によって、四ホウ酸リチウムの中性子捕獲断面積を、それぞれ増大又は改善することができる。こうして、コンバータ材料に捕獲できる自由中性子の割合が大きくなる。二次放射線の放出は中性子の捕獲に比例することから、結果として、二次放射線の量が増加する。全体として、複合材料の中性子検出の効率、さらには精度も改善できる。
【0025】
更なる発展によると、本発明の第2の態様による複合材料の場合、検出器材料は四ホウ酸リチウムとは異なる材料から形成されることが想定される。換言すると、この実施形態による対応する複合材料は、コンバータ材料を形成する四ホウ酸リチウムに加えて、更なる材料を検出器材料として含む。したがって、この目的に対応して好ましい特性を有する検出器材料を選択できる。
【0026】
本発明の第2の態様による複合材料の更なる発展によると、検出器材料は同様に四ホウ酸リチウムから形成されることが想定される。換言すると、四ホウ酸リチウムは、複合材料の検出器材料とコンバータ材料の両方を形成する。これは、四ホウ酸リチウムも光刺激ルミネセンスの方法に適しているという事実による。こうして、四ホウ酸リチウムにより、コンバータ材料及び検出器材料の両方の目的を達成でき、2つの異なる材料の効果的な混合という問題は現実的に意味のないものとなる。
【0027】
上記の更なる発展に関して、検出器材料が四ホウ酸リチウムとは異なる材料から形成されることから、この場合、検出器材料として有用な2種の材料が複合材料の一部を形成することはこの状況で明らかである。換言すると、複合材料は、一方で検出器材料としても有用な四ホウ酸リチウムを含有し、加えて、これに対応して同様に有用な他の材料を検出器材料として含有する。こうして、複合材料を、光刺激ルミネセンスによる2段階評価に使用できる。特に有利には、検出器材料を形成する他の材料は、その発光スペクトルが四ホウ酸リチウムの発光スペクトルから分離できるように選択される。同様に、検出器材料を形成する他の材料は、四ホウ酸リチウムに固有の発光スペクトルとは異なる、他の材料に固有の発光スペクトルを有することができる。したがって、複合材料は、各々の場合に、異なる刺激スペクトルと発光スペクトルとを用いた光刺激ルミネセンスによる二重評価に適している。複数評価が可能であることは、一般的に、測定精度の向上につながる。
【0028】
本発明の第1の態様及び本発明の第2の態様による複合材料の更なる発展によると、検出器材料は酸化ベリリウムから形成され、コンバータ材料は四ホウ酸リチウムから形成されることが想定される。換言すると、この更なる発展による複合材料は、検出器材料としての酸化ベリリウムとコンバータ材料としての四ホウ酸リチウムとを含む。当然のことながら、更なる発展は、四ホウ酸リチウムのコンバータ材料及び/又は検出器材料としての使用に関して、この更なる発展に同様に等しく適用される。特に、検出器材料としての酸化ベリリウム及びコンバータ材料としての四ホウ酸リチウムの使用の場合も、四ホウ酸リチウム中の同位体6Li及び/又は10Bはその天然存在比と比較して高濃度であると想定される。更に、本発明の四ホウ酸リチウムと酸化ベリリウムとの組み合わせについて、本発明の光刺激ルミネセンスによる2段階評価が可能であることは真実である。これが真実であるのは、特に、酸化ベリリウム及び四ホウ酸リチウムのそれぞれの刺激スペクトルと発光スペクトルは異なるからである。これまで列挙した文脈で開示された利点は、ここで同様に当てはまる。追加の利点として、酸化ベリリウム及び四ホウ酸リチウムを使用した場合に、ヒト組織の実効原子番号からの逸脱がわずかしかない実効原子番号が達成され、これは酸化ベリリウム及び四ホウ酸リチウムの両成分の個別の実効原子番号について当てはまる。
【0029】
本発明の第1及び/又は第2の態様の更なる発展によると、複合材料におけるコンバータ材料及び検出器材料が占める割合は、実効原子番号が6.1~8.1、好ましくは6.7~7.5となるように選択されることが想定される。これは、複合材料における酸化ベリリウム及び/又は四ホウ酸リチウムが占める割合を、他成分による実効原子番号からのより大きな逸脱を補償するのに十分に高くなるように選択することで達成され得る。換言すると、6.1~8.1、好ましくは6.7~7.5の範囲の複合材料の実効原子番号は、酸化ベリリウム及び/又は四ホウ酸リチウムの数を十分に大きくすることによって確保できる。ヒト組織の実効原子番号に近い対応する原子番号について、列挙した範囲の実効原子番号を選択することは、特に有利となり得る。
【0030】
更なる発展によると、コンバータ材料及び/又は検出器材料の粒子は、30μm未満、好ましくは10μm未満の粒径を有すると想定される。換言すると、コンバータ材料及び/又は検出器材料は各々、粒径が30μm未満、好ましくは10μm未満の粒子に存在する。ここで、粒径、例えば直径として、対応する粒子の任意の無作為な方向における斜め方向又は最も大きい拡張部を選択してもよい。対応する粒径によって、材料混合物においてコンバータ材料と検出器材料を混合することの利点を更に改善できる。特に、二次放射線がカバーする必要があるその発生場所からの距離、すなわち、コンバータ材料では検出器材料における検出までの距離を更に短縮できる。
【0031】
更なる発展によると、複合材料は平坦面を有し、その面に垂直に0.2mm~0.5mmの拡張部、特に0.3mmの拡張部を有すると想定される。換言すると、平坦面に垂直な複合材料は、0.2mm~0.5mmの厚さ、特に0.3mmの厚さを有すると想定され得る。好ましくは、複合材料は、高さが0.2mm~0.5mm、特に高さが0.3mmの円筒形又は正方形の形態である。これにより、一方では、複合材料の十分な機械的安定性が確保される。他方では、厚さが大きすぎることは、後の光刺激ルミネセンスによる評価(これは検出器全体への刺激光の透過照射を必要とする)で障害となる。通常は、検出器は部分透過性しかない。列挙した厚さは、評価可能性と機械的安定性との間の有利な妥協点であることが判明している。
【0032】
更なる発展によると、コンバータ材料及び検出器材料は、燃焼又は焼結によって複合材料内に接合されることが想定される。換言すると、コンバータ材料及び検出器材料は、材料混合物中でルーズな粒子としてまとまっている。その後、複合材料は、燃焼又は焼結によって接合される。特に、燃焼又は焼結は、いわゆる熱間静水圧プレスである。こうして、コンバータ材料と検出器材料との良好な混合並びに複合材料の高い剛直性が確保できる。
【0033】
本発明の更なる態様は、少なくとも1つの実装において、本発明による複合材料を検出器ユニットとして有する線量計に関する。特に、線量計は、本発明による複合材料を有する少なくとも1つの検出器ユニットと、コンバータ材料を含まない追加検出器ユニットとを有する。コンバータ材料を含まないことで、追加の複合材料は、例えば酸化ベリリウムの場合のように、自由中性子を感知しないはずである。こうして、追加の複合材料は、光子放射線の参照値の決定に役立つ場合があり、光子放射線は入射中性子と平行して線量計に吸収される。本発明による複合材料を用いた検出器ユニットは、中性子放射線と光子放射線の両方を検出する。追加検出器ユニットは、光子放射線を検出するが、中性子放射線は検出しない。後の評価において、両方の検出器ユニットについて、それぞれの線量値を決定できる。その後、光子放射線を決定でき、一部には、これは実際には本発明による線量計によっても検出される。本発明による複合材料を有する検出器ユニットから得られた線量値から参照値(すなわち、光子線量)を減算することで、純粋な中性子線量を決定できる。
【0034】
本発明の更なる態様は、自由中性子を捕獲する方法であって:
-複合材料によって中性子を少なくとも部分的に吸収する工程であって、コンバータ材料及び検出器材料は各々、材料混合物の複数の粒子中に存在する、吸収する工程と、
-中性子捕獲の結果として、コンバータ材料による二次放射線を発生する工程と、
-二次放射線量を酸化ベリリウムからの検出器材料によって蓄積する工程であって、上記材料は光刺激ルミネセンスによる後の評価において情報をそれぞれ放出又は定量化するように構成された、工程と、を含む、方法に関する。
【0035】
本発明の更なる態様は、自由中性子を捕獲する方法であって:
-複合材料によって中性子を少なくとも部分的に吸収する工程であって、コンバータ材料及び検出器材料は各々、材料混合物の複数の粒子中に存在する、吸収する工程と、
-中性子捕獲の結果として、四ホウ酸リチウムからのコンバータ材料による二次放射線を発生する工程と、
-二次放射線量を検出器材料によって蓄積する工程であって、上記材料は光刺激ルミネセンスによる後の評価において情報をそれぞれ放出又は定量化するように構成された、工程と、を含む、方法に関する。
【0036】
複合材料、線量計、並びに光刺激ルミネセンスによる複合材料の評価については、既に記載した。本発明の自由中性子捕獲方法は、同等に本方法に適用される対応する特徴によって追加的に、更に発展できる。したがって、それぞれの利点は、同様に当てはまる。
【0037】
光刺激ルミネセンスによる複合材料の評価は、複合材料の説明に既に記載した。本発明の自由中性子検出方法は、追加的に、対応する特徴によって更に発展できる。したがって、それぞれの利点は、同様に当てはまる。
【0038】
蓄積は、特に、時不変的(remanent manner)に行われる。情報として、特に二次放射線の累積量は、蓄積されるか、又はそれぞれ、又はそれに比例した値である。検出器材料は、好ましくは、後の評価において、蓄積された情報をルミネセンス光の形態で、線量比例的に放出するように構成される。
【0039】
光刺激ルミネセンスによる複合材料の評価は、複合材料の説明に既に記載した。本発明の自由中性子検出方法は、追加的に、対応する特徴によって更に発展できる。したがって、それぞれの利点は、同様に当てはまる。
【0040】
本発明は更に、本発明の第4の態様及び/又は本発明の第5の態様による方法の工程、並びに情報を評価するための以下の追加工程を含む、複合材料を用いて自由中性子を検出するための方法に関する:
-複合材料に第1の刺激スペクトルの光を照射する工程であって、刺激スペクトルが酸化ベリリウム又は四ホウ酸リチウムの刺激に特に適している、工程と、
-所定の供給に対応する刺激スペクトルによる照射に応答して複合材料から放出された発光スペクトルに基づいて、中性子を検出する工程。
【0041】
光刺激ルミネセンスによる複合材料の評価は、複合材料の説明に既に記載した。本発明の自由中性子検出方法は、追加的に、対応する特徴によって更に発展できる。したがって、それぞれの利点は、同様に当てはまる。照射と検出の2つの方法工程は、特に、同時に実施される。特に、本発明の方法で蓄積された情報は、ルミネセンス光の形態で線量比例的に放出される。
【0042】
自由中性子の検出方法の更なる発展によると、
-複合材料は、検出器材料としての酸化ベリリウムと、コンバータ材料としての四ホウ酸リチウムとを含むこと、及び
-複合材料の照射は、2つの異なる刺激スペクトルによって実施され、2つの刺激スペクトルのうちの最初の1つは酸化ベリリウムに好適であり、2つの刺激スペクトルのうちのもう1つは四ホウ酸リチウムについて光刺激ルミネセンスの励起に特に好適であることが想定される。
【0043】
換言すると、本発明の方法は、光刺激ルミネセンスによる二重評価又は二段階評価を提供する。この二倍の評価の過程で、各場合に酸化ベリリウム並びに四ホウ酸リチウムに蓄積された情報は、特に、連続的に又は同時に放出される。これに関連して、複合材料は、2つの異なる刺激スペクトルで連続的に又は同時に照射される。2つの異なる刺激スペクトルは各々、異なる波長の単色光によって提供できる。単色光のそれぞれの刺激スペクトル又はそれぞれの波長は、酸化ベリリウム及び四ホウ酸リチウムに対して特異的に選択できる。特に、第1の刺激スペクトルは、同じ酸化ベリリウムのみが光刺激ルミネセンスに対して励起されるように選択され、及び/又は第2の刺激スペクトルは、同じ四ホウ酸リチウムのみが光刺激ルミネセンスに対して励起されるように選択される。第1の刺激スペクトル及び第2の刺激スペクトルでの照射は、同時に、連続的に、又は一時的に重複して、実施されてもよい。それぞれの照射に応答して、四ホウ酸リチウム及び酸化ベリリウムは、それぞれ蓄積した情報を同時に、連続的に、又は一時的に重複して、放出する。これは、酸化ベリリウム及び四ホウ酸リチウムによるそれぞれの材料固有の発光スペクトルの放出によって実施される。2つの発光スペクトルは、別々に検出すること又は互いに区別することがそれぞれ可能である。2つの材料の読取りは、それぞれ発光スペクトルを互いに独立して区別することによって実施される。その後、独立に決定された値を合わせることができる。全体として、この実施形態の結果、情報の二重評価と、それにより酸化ベリリウム及び四ホウ酸リチウムによる自由中性子の独立検出が行われる。こうして、明らかに高い精度が確保できる。
【0044】
以下に、本発明を、具体的実施形態の図面に基づいて更に詳細に説明する。ここに示す実施形態は、単なる例示であり、本発明を限定するものではないと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】2つの検出器ユニットを含む線量計の概略正面図である。
【
図2】検出器ユニット用の複合材料の概略透視図である。
【
図3】中性子線量を評価するための例示的方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は、ハウジング12を備える線量計10を示す。ハウジング12内に2つの検出器ユニットが配置されている。2つの検出器ユニットのうちの最初の1つは複合材料1によって提供される。2つの検出器ユニットのうちのもう1つは、追加検出器ユニット11として参照される。図中、線量計10は、中性子放射線、特にいわゆる自由中性子及び/又は熱中性子を捕獲するように構成されている。自由中性子を捕獲するために、特に、複合材料1は構成されている。対照的に、追加検出器ユニット11は、光子放射線(γ線、宇宙放射線、X線など)を捕獲するように構成されている。後の評価の過程において、捕獲された光子放射線に関する参照値を決定できる。この参照値を、複合材料1に捕獲された光子放射線から減算して、複合材料1に検出された中性子線量のみが評価結果として残るようにする。しかし、この後の評価で、以下を更に詳細に考察する必要がある。
【0047】
図2は、複合材料1の概略透視図を示す。この場合の複合材料1は例示的に錠剤と類似した形状設計を有する。換言すると、この場合、複合材料1は、単に例示的に円筒形の形状とされている。この場合、複合材料1は2つの平坦面5を有する。この例において、平坦面5は更に、互いに水平である。この円筒形状設計の例において、平坦面5は、円筒の底面及び上面によって提供される。この例の平坦面5の間に、円筒外側面6が延在する。表面5の1つ又は両方に垂直に、複合材料は厚さDを有する。この例で、平面5の各々は円形に形づくられ、表面5の底部のそれぞれの円形は直径Rを有する。
【0048】
複合材料1は、自由中性子の捕獲に応答して二次放射線を発生するように構成されたコンバータ材料2を含む。好適なコンバータ材料は、特に、同位体6Liを含有する化合物である。6Liは、放射性崩壊によって自由中性子の捕獲に適時に応答し、その際、短レンジのα線及びトリチウム粒子が放出される。したがって、コンバータ材料では、同位体6Liがその天然存在比よりも高濃度であると有利に想定される。当然、十分な中性子捕獲断面積を有していれば、任意の無作為の材料をコンバータ材料2とみなしてもよい。これに関連して、異なる材料はまた、異なる二次放射線を発生し得る。しかし、しばしば、二次放射線の発生源は、中性子捕獲によって引き起こされる核反応である。換言すると、コンバータ材料2は、有利には、中性子捕獲に応答して放射性崩壊する一方で二次放射線を放出する原子を含有することを特徴とする。これに関連して、二次放射線は、それぞれの用途の目的に適した時間内で発生することを確実とする必要がある。有利には、中性子捕獲及び二次放射線放出のために構成されたコンバータ材料2に含有されるコンバータ材料2又は同位体は、可能な限り大きい中性子捕獲断面積を有する。例えば、同位体6Liは、十分に大きい中性子捕獲断面積を有する。
【0049】
複合材料1は、二次放射線の量に関する情報を蓄積し、それを後の光刺激ルミネセンスによる評価において決定するように構成された検出器材料3をさらに含む。検出器材料は、特に、自由電荷キャリアを安定なエネルギー準位に蓄積することによって線量情報を保存する材料である。例えば、自由電荷キャリアを吸収できるトラップは、検出器材料3の価電子帯と伝導帯との間のエネルギー準位にある。このエネルギー準位から出発して、価電子帯へ戻ること又は伝導帯へ上がることは容易に可能ではない。これは、電子は対応するエネルギー準位にトラップされ、更なるエネルギーの供給によってのみ自由になることができるという事実の根拠となる原理である。光刺激ルミネセンスによる後の評価の過程において、対応するエネルギー供給によって、電子は更に高いエネルギー準位へと上がることができる。この更に上昇したエネルギー準位から、基準状態又は別のより低いエネルギー準位へと戻るときに、特徴的な発光が起き、その波長は放出されるエネルギーに対応する。これを、以下で更に詳細に説明する。
【0050】
本発明の事例で個人線量測定の一部としての利用では、複合材料1は、ヒト組織の実効原子番号に非常に近い実効原子番号を有することが想定される。こうして、複合材料1によって得られた測定結果を、人体又は放射線曝露のモニタリングのために又は身体に線量計10を着用した個人へと相当程度伝達できる。換言すると、かかる複合材料1によって、従来技術と比較して改善された個人線量測定に関する結果を得ることができる。例えば、6.1~8.1、好ましくは6.7~7.5の複合材料1の実効原子番号が想定され得る。
【0051】
上記の要件に準拠する実効原子番号を得るために、例えば、検出器材料3は酸化ベリリウムから形成されることが想定される。良好な近似の酸化ベリリウム(BeO)の実効原子番号(実効原子番号は7.1である)は、体組織の実効原子番号と等価である。したがって、酸化ベリリウムにおける放射線輸送は、ヒトの体内と類似の条件下で起こる。したがって、複合材料1は、追加フィルターなしで、広いエネルギー領域で線量を捕獲するために使用できる。
【0052】
更に、酸化ベリリウムは、いわゆるフェーディング、すなわち時間の経過に伴う線量情報の損失を、事実上無視できることを特徴とする。更に、酸化ベリリウムの典型的な検出感度は、数マイクロシーベルトの線量範囲まで再現性のある測定が可能ほど十分に高い。酸化ベリリウムは、良好な断熱材として、例えば、着火プラグなどの用途に大量に用いられており、そのため線量測定の用途でも出発材料として容易に入手できる。セラミック材料として、酸化ベリリウムは化学的及び機械的に非常に安定であり、吸湿性ではない。酸化ベリリウムは、入射光子放射線(X線、γ)並びに電子(β線)及びヘリウム核(α線)の粒子が酸化ベリリウム(本発明の場合は検出器材料3)に入ることができる限り、これらの放射線に対する感度を有する。しかし、純粋な形態では、検出器材料3(すなわち本発明の場合、酸化ベリリウム)は、中性子を有する放射線(熱エネルギー又は高エネルギー)に対する感度は、ないか、ごくわずかである。この理由から、二次放射線を発生するためにコンバータ材料2を混和することが想定され、それを次に、検出器材料3を用いて検出できる。
【0053】
実効原子番号をヒト組織の実効原子番号に近似させる可能性のある別の方法は、コンバータ材料2を四ホウ酸リチウムから形成することである。四ホウ酸リチウム(Li2B4O7)は、中性子捕獲断面積が大きい2つの可能な同位体、すなわち6Li及び10Bも含有し得る。四ホウ酸リチウムは、その実効原子番号に関して、ヒト体組織と等価である。コンバータ材料2の効率を改善するために、同位体6Liを他のリチウム同位体と比較して高濃度としてもよく、及び/又は同位体10Bを他のホウ素同位体と比較して高濃度としてもよい。
【0054】
これは、第1の実施形態により、複合材料1においてコンバータ材料2としての四ホウ酸リチウムを任意の無作為の検出器材料3と組み合わせることが想定され、これは光刺激ルミネセンスを促進することを意味する。あるいは、第2の実施形態により、検出器材料3としての酸化ベリリウムを、自由中性子の発生に応答して二次放射線を発生するように構成された任意の無作為のコンバータ材料2と組み合わせることが可能である。したがって、各場合において、複合材料における酸化ベリリウム又は四ホウ酸リチウムが占める割合は、複合材料1全体の平均実効原子番号を、ヒト組織の実効原子番号からの逸脱が所定の範囲以内の値に移動させるのに十分に大きい。例えば、複合材料1における酸化ベリリウ又は四ホウ酸リチウムが占める割合は、複合材料1全体の実効原子番号が6.1~8.1、好ましくは6.7~7.5となるように十分高く選択する必要がある。
【0055】
一般的に、複合材料1は各々の場合に、少なくとも10%のコンバータ材料2と少なくとも10%の検出器材料3とを含むことが想定される。有利には、検出器材料3は、後の評価で十分な強度のルミネセンスを維持するために、10%を超える、例えば少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、又は少なくとも70%の割合を有する。こうして、一方では中性子の十分な変換、他方では二次放射線の十分な蓄積が確保される。
【0056】
コンバータ材料2として四ホウ酸リチウム及び検出器材料3として酸化ベリリウムを使用した場合、特に高い組織等価を有する実効原子番号が常に得られる。したがって、第3の実施形態によると、コンバータ材料2及び検出器材料3の両方が、それぞれの実効原子番号に関して組織等価性を有することが想定され得る。この場合、特に、コンバータ材料2としての四ホウ酸リチウム及び検出器材料3としての酸化ベリリウムを複合材料1中で組み合わせることができる。
【0057】
複合材料は検出器材料3としての酸化ベリリウムとコンバータ材料2としての四ホウ酸リチウムとを含むという事実により、実効原子番号は、それぞれの重量部とは無関係に、ヒト組織の実効原子番号と等価であり、コンバータ材料の体積比率は自由に選択できる。当然のことながら、これらの利点は、ほぼ同じ実効原子番号を有する四ホウ酸リチウムとは異なるコンバータ材料2及び/又は酸化ベリリウムとは異なる検出器材料3を選択した場合にも得られる。
【0058】
第4の実施形態によると、四ホウ酸リチウムが、コンバータ材料2としてと、検出器材料3としての両方に用いられることが想定され得る。これは、四ホウ酸リチウムは、二次放射線に関する情報の蓄積及び後のこの情報の光刺激ルミネセンスによる放出を同様に促進するという事実による。換言すると、コンバータ材料2及び検出器材料3としての利用において、四ホウ酸リチウムは中性子の捕獲に応答して二次放射線を発生でき、同様に二次放射線自体に関する情報を蓄積できる。これに関連して、中性子の捕獲及び二次放射線の発生は、特に、四ホウ酸リチウムに含有される原子6Li及び/又は10Bによって行われる。対照的に、二次放射線に関する情報の蓄積は、実質的に、四ホウ酸リチウムの化合物によって行われる。
【0059】
一部には二次放射線の低レンジにより、及び/又は二次放射線がそのコンバータ材料2から検出器材料3までの経路で減衰するのを避けるために、本発明では、コンバータ材料2及び検出器材料3は各々複数の粒子中に存在し、それが一緒に複合材料1中に材料混合物として存在することが想定される。これを、
図2に概略的に示す。換言すると、コンバータ材料及び/又は検出器材料3は。各々複数の粒子中に存在する。コンバータ材料2及び検出器材料3のそれぞれの粒子は、材料混合物1中で互いに混合されている。こうして、二次放射線によってカバーされるコンバータ材料2から検出器材料3までの距離を最小にすることができる。これは特に、コンバータ材料2及び/又は検出器材料3が存在するそれぞれの粒子が30μm未満、特に10μm未満の粒径を有する場合に当てはまる。
【0060】
複合材料1は、例えば、プレス、燃焼及び/又は焼結によって製造できる。本発明の実施形態において、複合材料1は熱間静水圧圧縮成形によって製造される。そのための出発材料は、各々粉末形態のコンバータ材料2及び検出器材料3である。上記のように、粒子それぞれの粒径は、製造において可能な自由度である。更に、複合材料1は、任意選択により、個別の粒子の凝集を改善する結合剤を含有してもよい。熱間静水圧圧縮の後、高温での燃焼により、安定なセラミックを製造できる。ここで、製造を最適化するための自由度は、温度、温度プロファイル、及び燃焼時間である。燃焼温度は、例えば、約1500℃であってもよい。プレス加工に用いられる可能性のある結合剤は、かかる温度での燃焼中に少なくとも部分的に分解し得る。圧縮及びその後の燃焼によって、安定なセラミックが製造される。複合材料1は機械的に安定かつ不活性である。特に、複合材料1は摩耗に対して非常に安定である。更に、化学的に非常に安定な複合材料1が製造される。複合材料1も、対応する処理の後、吸湿性ではなく、すなわち水を吸収しない。
【0061】
最後に、
図3は、自由中性子の検出方法を示す。自由中性子の検出方法は、工程S1~S5を含み、これに関連して、工程S1~S3を含む自由中性子の捕獲方法を有する。最初の工程S1では、複合材料1が自由中性子に暴露される。ここで、自由中性子の少なくとも一部は複合材料1によって吸収される。
【0062】
工程S2では、中性子の存在に応答して、コンバータ材料2によって二次放射線が発生される。特に、中性子はコンバータ材料2によって少なくとも部分的に捕獲され、一方で二次放射線を発生する。特に、中性子はコンバータ材料2によって少なくとも部分的に捕獲され、一方で二次放射線を発生する。更なる工程S3では、二次放射線に関する情報が検出器材料3によって蓄積される。検出器材料3は更に、二次放射線に関する情報を後の評価において光刺激ルミネセンスによって再放出するように構成される。
【0063】
工程S1、S2、及びS3は、実際には一般に、一時的に重複して、又は同時にさえも実施されることに注意されたい。
【0064】
方法の実施では、コンバータ材料は四ホウ酸リチウムから形成され、又は検出器材料は酸化ベリリウムから形成されることが想定され得る。あるいは、コンバータ材料2は四ホウ酸リチウムから形成され、同時に検出器材料3は酸化ベリリウムから形成されることが想定され得る。更なる代替法によると、コンバータ材料2及び検出器材料3の両方が四ホウ酸リチウムから形成されることが想定され得る。
【0065】
後の評価は、実質的には、更なる工程S4及びS5によって与えられる。工程S4では、複合材料1に刺激スペクトルの光が照射される。検出器材料3、すなわち酸化ベリリウム又は四ホウ酸リチウムの刺激スペクトルは、明確に刺激に適している。特に、刺激スペクトルは、少なくとも実質的に単色光であり、この少なくとも実質的に単色光の波長は検出器材料3、すなわち、特に、酸化ベリリウム又は四ホウ酸リチウムに固有である。固有とは、特に、刺激スペクトルの光子のエネルギーが電子をトラップから自由にするのに十分であることを意味する。別の工程S5では、特に、工程S4と同時に発光スペクトルが検出され、該スペクトルは、刺激スペクトルの照射に応答して、複合材料1、特に検出器材料3によって放出される。所定の条件に従い、中性子の強度を発光スペクトルの強度から導出できる。特に、中性子線量は、発光スペクトルの光子の数から決定される。例えば、所定の条件に従って決定された中性子線量は、検出された発光スペクトルの光子の数に比例し得る。発光スペクトルの光子は、特に、第2の波長の単色光である。第2の波長は、特に、検出器材料3、特に酸化ベリリウム又は四ホウ酸リチウムに固有である。
【0066】
工程S4及びS5は、特に、同時に実施される。これは、検出器材料は、刺激スペクトルの刺激に応答して、発光スペクトルの放出でほぼ瞬時に反応するという事実による。しかし、いかなる線量情報も損失しないためには、発光スペクトルの放出の全期間にわたって、工程S5による検出を実施することも必要である。
【0067】
最後に、本方法の一部として、ループ9が実施されて、複合材料を照射する工程及び中性子を検出する工程、すなわち工程S4及びS5が、複数回実施されてもよい。その際、特に、複合材料の照射は、2つの異なる刺激スペクトルで連続的に又は同時に実施されることが想定される。これは、特に、コンバータ材料2が四ホウ酸リチウムから形成され、検出器材料3が酸化ベリリウムから形成される場合に、妥当である。これは、既に上に記載のように、この場合、光刺激ルミネセンスによる評価を促進する2つの異なる材料が、複合材料1中に存在するからである。したがって工程S4において、複合材料1は、2つの異なる刺激スペクトルで連続的に又は同時に照射され、ここで2つの異なる刺激スペクトルのうちの最初の1つは酸化ベリリウムに固有であり、2つの刺激スペクトルのうちのもう1つは四ホウ酸リチウムに固有であることが想定され得る。同様に、2つの異なる発光スペクトルが検出され、ここで発光スペクトルのうちの最初の1つは酸化ベリリウムに固有であり、2つの発光スペクトルのうちのもう1つは四ホウ酸リチウムに固有である。刺激スペクトル及び発光スペクトルの両方が、互いに異なっていてもよいことから、2つの刺激スペクトルでの照射と2つの発光スペクトルの検出を同時に実施することが可能である。それぞれ異なる波長により、場合によっては相互効果を排除できる。あるいは、複合材料1への2つの異なる刺激スペクトルの照射は、連続的に実施することが可能である。したがって、この場合、2つの刺激スペクトルの検出も連続的に実施される。第1の刺激スペクトルの照射と、第1の発光スペクトルの検出は、同時に実施される。同様に、第2の刺激スペクトルの照射と、第2の発光スペクトルの検出は、同時に実施される。
【0068】
評価の一部として、捕獲された光子放射線に関する参照値も決定できる。参照値は、追加検出器ユニット11によって決定される。追加検出器ユニット11は、複合材料1上にモデル化されてもよいが、追加検出器ユニット11はいかなるコンバータ材料2も含まない。したがって、追加検出器ユニット11は中性子放射線に対する感度が大きくない、又は非常に低い。例えば、追加検出器ユニット11の中性子放射線に対する感度は、複合材料1と比較して、少なくとも10分の1又は100分の1低い。例えば、追加検出器ユニット11は、電離放射線、特に光子放射線を排他的に捕獲する。参照値を複合材料1に捕獲された光子放射線から減算し、複合材料1に検出された中性子のみを評価結果として得ることができる。
【符号の説明】
【0069】
1 複合材料
2 コンバータ材料
3 検出器材料
5 面
6 円筒外側面
9 ループ
10 線量計
11 複合材料
12 ハウジング
D 厚さ
R 直径
S1 方法工程
S2 方法工程
S3 方法工程
S4 方法工程
S5 方法工程