IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニヴェルシテ ド リエージュの特許一覧 ▶ インスティテュート ジュール ボルデの特許一覧 ▶ ユニベルシテ リブレ デ ブリュッセルの特許一覧

特許7066826成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)のモニタリング法
<>
  • 特許-成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)のモニタリング法 図1
  • 特許-成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)のモニタリング法 図2
  • 特許-成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)のモニタリング法 図3
  • 特許-成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)のモニタリング法 図4
  • 特許-成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)のモニタリング法 図5
  • 特許-成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)のモニタリング法 図6
  • 特許-成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)のモニタリング法 図7
  • 特許-成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)のモニタリング法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)のモニタリング法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6806 20180101AFI20220506BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220506BHJP
   C12Q 1/6862 20180101ALI20220506BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220506BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20220506BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20220506BHJP
   C12N 15/48 20060101ALN20220506BHJP
【FI】
C12Q1/6806 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12Q1/6862 Z
C12Q1/6869 Z
C12Q1/06
G01N33/48 M
C12N15/48
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020504761
(86)(22)【出願日】2017-04-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 EP2017058271
(87)【国際公開番号】W WO2018184683
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2020-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】513178115
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド リエージュ
(73)【特許権者】
【識別番号】519362103
【氏名又は名称】インスティテュート ジュール ボルデ
(73)【特許権者】
【識別番号】514084347
【氏名又は名称】ユニベルシテ リブレ デ ブリュッセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジュ,ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン デン ブロッケ,アン
(72)【発明者】
【氏名】ダーキン,キース
(72)【発明者】
【氏名】アルテッシ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ハホウト,ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】ローズウィック,ニコラス
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/099446(WO,A1)
【文献】Methods in Molecular Biology,Vol.1582, p.127-141,2017年03月30日
【文献】Genome Medicine,2014年,Vol.6, 46, Additional file 1, 2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レトロウイルスに感染した宿主対象または前記レトロウイルスに関連した疾患を患う対象の細胞に由来するゲノムDNAから直鎖PCR産物を作製するための方法であって、
前記PCR産物は、前記細胞の宿主ゲノムDNA内の前記レトロウイルスの組み込み部位を含む標的配列と、隣接宿主ゲノムDNA配列とを含有し、前記組み込み部位は少なくとも前記レトロウイルスの3’-LTR配列末端または5’-LTR配列末端を含み、
前記PCR産物は、第一末端と、第二末端と、以下の順番の配列とを含み:
前記第一末端に特異的な配列、少なくとも6個のランダムな連続ヌクレオチドを含む配列、それに続くリンカー配列、宿主ゲノムDNA配列、少なくとも前記レトロウイルスの3’-LTR配列末端または5’-LTR配列末端、前記第二末端に特異的な配列;
前記方法は、以下の工程を含む
a)前記対象に由来する細胞からゲノムDNAを単離する工程;
b)工程a)で得られた前記ゲノムDNAを切断する工程;
c)前記レトロウイルスの5’-LTRに結合するプライマー、前記レトロウイルスの3’-LTRに結合するプライマー、dNTP、およびDNAポリメラーゼの存在下で、工程b)で得られた前記切断されたDNAを用いて伸長反応を行う工程であって、前記dNTPが標識dNTPを含み、且つ/または、前記プライマーが標識されていることにより、3’シングルヌクレオチドオーバーハングを有する標識DNA鎖を含む二本鎖DNA産物が生成され、前記標識は結合性リガンドである、前記工程;
d)3’シングルヌクレオチドオーバーハングを有するリンカーを工程c)で得られた生成物の末端にライゲーションする工程であって、前記リンカーの前記3’シングルヌクレオチドオーバーハングが前記標識DNA鎖の前記3’シングルヌクレオチドオーバーハングと相補的であることによって、少なくとも6個のランダムな連続ヌクレオチドを含
む配列、それに続くリンカー配列、および前記第一末端に特異的な配列のうちの少なくとも1つが導入される、前記工程、
e)前記結合性リガンドに結合する受容体を用いて工程d)で得られた生成物を単離する工程;
f)鋳型としての工程e)で得られた生成物の存在下で、工程e)で得られた生成物の前記第一末端に特異的な第一プライマーおよび前記第二末端に特異的な第二プライマーを用いて、PCR反応を少なくとも1回実行する工程であって、前記第一プライマーおよび前記第二プライマーが、その5’末端に互いに異なる少なくとも1個の付加配列をそれぞれ含むことによって、前記第一末端に特異的な前記付加配列と前記第二末端に特異的な前記付加配列とを含む前記直鎖PCR産物が生成される、前記工程。
【請求項2】
伸長工程c)で用いられたDNAポリメラーゼが、合成されたDNA鎖の3’末端に単一の余剰ヌクレオチドを付加する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程c)において、少なくとも前記レトロウイルスの3’-LTR配列末端または5’-LTR配列末端、並びに挿入部位および切断部位の隣接宿主ゲノムDNA配列、を含む二本鎖DNA産物が得られる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程d)において、前記リンカーが、それぞれ3’-LTRまたは5’-LTRを有する末端とは反対側の、工程c)で得られた生成物の末端に付加される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程d)において、標識DNA鎖を含む二本鎖DNAが得られ、前記二本鎖DNA生成物は、少なくとも前記レトロウイルスの3’-LTR配列末端または5’-LTR配列末端、挿入部位および切断部位の隣接宿主ゲノムDNA配列、少なくとも6個のランダムな連続ヌクレオチドを含む配列、それに続くリンカー配列、並びに前記第一末端に特異的な配列のうちの少なくとも1つ、を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程d)において、シングルヌクレオチドオーバーハングを有するリンカーが、3’シングルヌクレオチドオーバーハングを有する、工程c)で得られた生成物の末端にライゲーションされ、リンカーのシングルヌクレオチドオーバーハングが、工程c)で合成されたDNA鎖の3’シングルヌクレオチドオーバーハングにハイブリダイズされることで、標識DNA鎖を含む二本鎖DNA生成物が生成され、前記二本鎖DNA生成物が、少なくとも前記レトロウイルスの3’-LTR配列末端または5’-LTR配列末端、並びに挿入部位および切断部位の隣接宿主ゲノムDNA配列、少なくとも6個のランダムな連続ヌクレオチドを含む配列、それに続くリンカー配列、並びに前記第一末端に特異的な配列のうちの少なくとも1つと、を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程c)において合成DNA鎖の3’末端に付加されたシングルヌクレオチドオーバーハングがデオキシアデノシンであり、工程d)で付加されたリンカーのシングルヌクレオチドオーバーハングがデゾキシチミジンである、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記PCR産物が以下の順番で、X4配列、X3配列、6~30個のヌクレオチドを含むタグ配列、宿主ゲノムDNA配列、少なくとも前記レトロウイルスの3’-LTR配列末端または5’-LTR配列末端、X1配列、X2配列を含み;
工程f)が以下の工程:
f1)鋳型としての工程e)で得られた生成物、X3配列に結合するプライマー、5’-LTRに結合するプライマー、3’-LTRに結合するプライマーの存在下で、第一PCR反応を実行する工程であって、前記5’-LTRに結合するプライマーおよび前記
3’-LTRに結合するプライマーがそれぞれ、追加のX1配列をその5’末端に含むことにより、前記X1配列をも含むPCR産物が生成される、前記工程;
f2)鋳型としての工程f1)で得られた生成物、その5’末端に追加のX4配列を有するX3配列に結合するプライマー、その5’末端に追加のX2配列を有するX1配列に結合するプライマーの存在下で、第二PCR反応を実行することにより、前記X2配列および前記X4配列をも含むPCR産物が生成される工程、
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記結合性リガンドおよび前記受容体が、ビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジン;ジゴキシゲニン(digoxygenin)/抗ジゴキシゲニン(digoxygenin)抗体;ハプテン/抗ハプテン抗体;抗原/抗体からなる結合性ペアの群から選択される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記レトロウイルスがHTLV-1であり、前記HTLV-1関連疾患が成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)であり、前記ゲノムDNAが末梢血単核球(PBMC)由来である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)を患う対象における優勢な白血病性Tリンパ球クローンを測定し縦断的にモニタリングするための方法であって、
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって直鎖PCR産物が作製され、前記PCR産物が多重シーケンスにかけられることで全ての挿入部位および全ての切断部位が決定され、前記切断部位はそれぞれの挿入部位と相関しており、
その後、特定のTリンパ球クローンを表す各挿入部位について異なる切断部位の数を計数し、同一の挿入部位および同一のランダムタグを有するリードを排除することによりあらゆるPCRデュプリケート(PCR duplicate)を考慮から排除し、それから特定のTリンパ球クローンの各々の存在量を決定することが行われ、
特定のTリンパ球クローンの存在量が多いことが、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の再発の可能性が高いこと、および/または、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の治療が成功していないこと、を示し;
特定のTリンパ球クローンの存在量が少ないことが、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の再発の可能性が低いこと、および/または、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の治療が成功していること、を示す、
前記方法。
【請求項12】
特定のTリンパ球クローンの各々の存在量に基づいて成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の再発の可能性を判定することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
特定のTリンパ球クローンの各々の存在量に基づいて、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の治療の成功を判定することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記特定のTリンパ球クローンが、診断時に優勢な白血病性クローンと同定されたものと同じである、請求項11~13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HTLV-1に感染した対象または成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)を患う対象に由来する末梢血単核球(PBMC)から直鎖PCR産物を調製する方法、並びに、成人T細胞白血病/リンパ腫を患う対象において優勢な悪性/白血病性Tリンパ球クローンを決定し縦断的にモニタリングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中で推定1~2千万人がヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)に感染している。感染者の約5%において、このウイルスは、予後が非常に悪い高悪性度(aggressive)のCD4陽性T細胞悪性腫瘍である、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)を発症させる。発がん性レトロウイルスであるHTLV-1は世界中に分布しているが偏在しており、流行地域は日本南西部、カリブ海沿岸、中南米、西アフリカ、並びに中東およびヨーロッパの小地域となる。HTLV-1感染者におけるATLの累積罹患率は5%に過ぎないが、予後が極度に悪いため、流行地域では主要な健康衛生上の問題となっている。ATL患者は多様な臨床的特徴を示し、例えば、花のような核を有する異常リンパ球(花細胞(flower cell))の末梢血中の増加、リンパ節腫脹、高カルシウム血症、皮膚病変
、多臓器不全、および/または頻繁な日和見感染などがある。ATLは、血液合併症、循環異常リンパ球の有無、並びに高カルシウム血レベルおよび乳酸脱水素酵素(LDH)レベルを含む生物学的パラメーターに基づいて、急性型、リンパ腫型、くすぶり型および慢性型の4種類の病型に分類されている。この病型分類に患者の治療計画および予後は大きく影響される。高悪性度の病型を患う患者の予後は非常に悪く、生存期間中央値は急性白血病性型の場合で4~6か月間、リンパ腫型の場合で9~10か月である。低悪性度(indolent)型の予後はより有望であり、慢性型およびくすぶり型の全生存期間中央値はそれぞれ33か月間および51か月間である。
【0003】
ATLの治療方針は、病型、予後因子、および初期治療に対する応答に大きく依存する。日本において、高悪性度形態(急性型、リンパ腫型および予後が悪い慢性型)は、同種幹細胞移植(同種SCT)を併用した、または併用しない、従来の化学療法で治療される。一方、西洋諸国では、インターフェロン(IFN)αとジドブジン(AZT)との併用が、慢性型ATLおよび大半の急性型ATLに対する現在の標準的な第一選択治療である。三酸化ヒ素(As)および抗CCR4抗体のような標的療法を含む併用療法の研究が、有望な臨床的有用性を示している。治療に対する応答および完全臨床寛解は、現在、以下の形態学的および細胞学的なコンセンサス基準、すなわち、全血球計算値(CBC)の正常化、血液中に存在する異常リンパ球が5%未満であること、および、4週間を超えて測定可能な腫瘍が存在しないこと、に基づいて定義される。予後が非常に悪いこと、再発率が高く急速であること、さらに、血液学的な完全寛解を達成した後の生存成績のばらつきが著しいことを考慮すると、現在のコンセンサス基準には修正が必要であり、ATL/HTLV-1の特定の病態生理学的側面を組み込んだ、治療に対する応答をより良好に評価する、分子ツールの改善が必要である。HTLV-1感染細胞の主な分子的特徴の1つとして、宿主ゲノム内のプロウイルス組み込み部位(proviral integration site)
がある。HTLV-1感染無症候性キャリアおよび非悪性HTLV-1関連疾患は、宿主ゲノム内のプロウイルス組み込み部位によってそれぞれ一意に同定される、存在量が異なる多数のクローンを特徴としているが、ATLの発症は、多クローン性の感染細胞集団を根底とした、単一の優勢クローンの出現が関連している。現在までに検査されたATL症例の大部分で、推定悪性クローンは、単一のプロウイルス組込を保有している。
【0004】
Gillet等(The host genomic environment of the provirus determines the ab
undance of HTLV-1-infected T-cell clones. Blood 117:3113-3122, 2011)では、各ク
ローンのマッピングと存在量の定量化を同時に可能にする、ライゲーションを介したPCRおよび超並列シーケンスに基づくアプローチが開発された。
【0005】
しかし、Gillet等の方法では3’LTRしかアッセイされず、このことが、アッセイのダイナミックレンジを潜在的に限定し、5’LTRの欠失を伴うクローンの同定を妨げている。さらに、クローン存在量の測定が最適ではなく、この方法の実行時間は長く、且つ、コストも高い。
【発明の概要】
【0006】
治療応答をより良好に評価する改善された分子ツールが必要とされていた。従って、本発明は、腫瘍内のクローン存在量のより正確な測定、5’欠失の検出、を可能にする方法を開発し、ATL患者における悪性クローンを縦断的にモニタリングし、分子的応答をより良好に評価すること、を目的とした。さらに、前記方法にかかる実行時間およびコストを低減することを目的とした。
【0007】
本発明の目的は以下の方法によって果たされる:レトロウイルスに感染した宿主対象または前記レトロウイルスに関連した疾患を患う対象の細胞に由来するゲノムDNAから直鎖PCR産物を作製するための方法であって、
前記PCR産物は、前記細胞の宿主ゲノムDNA内の前記レトロウイルスの組み込み部位を含む標的配列と、隣接宿主ゲノムDNA配列とを含有し、前記組み込み部位は少なくとも前記レトロウイルスの3’-LTR配列末端または5’-LTR配列末端を含み、
前記PCR産物は、第一末端と、第二末端と、以下の順番の配列とを含み:
前記第一末端に特異的な配列、少なくとも6個のランダムな連続ヌクレオチドを含む配列、それに続くリンカー配列、宿主ゲノムDNA配列、少なくとも前記レトロウイルスの3’-LTR配列末端または5’-LTR配列末端、前記第二末端に特異的な配列;
前記PCR産物は、以下の工程によって作製される:
a)前記対象に由来する細胞からゲノムDNAを単離する工程;
b)工程a)で得られた前記ゲノムDNAを切断する工程;
c)前記レトロウイルスの5’-LTRに結合するプライマー、前記レトロウイルスの3’-LTRに結合するプライマー、dNTP、およびDNAポリメラーゼの存在下で、工程b)で得られた前記切断されたDNAを用いて伸長反応を行う工程であって、前記dNTPが標識dNTPを含み、且つ/または、前記プライマーが標識されていることにより、3’シングルヌクレオチドオーバーハングを有する標識DNA鎖を含む二本鎖DNA産物が生成され、前記標識は結合性リガンドである、前記工程;
d)3’シングルヌクレオチドオーバーハングを有するリンカーを工程c)で得られた生成物の末端にライゲーションする工程であって、前記リンカーの前記3’シングルヌクレオチドオーバーハングが前記標識DNA鎖の前記3’シングルヌクレオチドオーバーハングと相補的であることによって、少なくとも6個のランダムな連続ヌクレオチドを含む配列、それに続くリンカー配列、および前記第一末端に特異的な配列のうちの少なくとも1つが導入される、前記工程、
e)前記結合性リガンドに結合する受容体を用いて工程d)で得られた生成物を単離する工程;
f)鋳型としての工程e)で得られた生成物の存在下で、工程e)で得られた生成物の前記第一末端に特異的な第一プライマーおよび前記第二末端に特異的な第二プライマーを用いて、PCR反応を少なくとも1回実行する工程であって、前記第一プライマーおよび前記第二プライマーが、その5’末端に互いに異なる少なくとも1個の付加配列をそれぞれ含むことによって、前記第一末端に特異的な前記付加配列と前記第二末端に特異的な前記付加配列とを含む前記直鎖PCR産物が生成される、前記工程。
【0008】
標識された(すなわちビオチン化された)DNAコンストラクトを作製することの利点は、標識(ビオチン化)DNAが後の精製工程で精製されることによる、ウイルス性LTRを含有する断片の選別および濃縮、並びに前記方法の感度の上昇である。
【0009】
本アプローチのさらなる利点は、3’-LTR-宿主接合配列および5’-LTR-宿主接合配列の両方が検出され、それにより、検出可能な組み込み部位のダイナミックレンジおよび数が増加することである。このアプローチは、従って、5’-LTRの欠失を有するHTLV-1バリアント(2型欠損HTLV-1プロウイルス)の同定を可能にする。これらのバリアントは成人T細胞白血病(ATL)症例の3分の1で観察される。これらのATLの予後は完全長プロウイルスを有するATLよりも悪いことが示唆されているため、これらのバリアントの検出も重要となる。
【0010】
少なくとも6個のランダムな連続ヌクレオチドを含む配列は、6~30個のランダムな連続ヌクレオチド(本明細書では「ランダムタグ」または「ランダムタグ配列」とも称され得る)を含むことが好ましい。ランダムタグ配列は、好ましくは6~20個、さらに好ましくは6~10個のランダムな連続ヌクレオチドを含む。しかし、前記方法の特に好ましい実施形態では、8個のランダムな連続ヌクレオチドが使用される。ランダムタグを用いて、PCRデュプリケート、すなわち、同一の切断部位および同一のランダムタグを有するリード、が検出される。このアプローチにより、クローン存在量のより正確な測定が可能となる。
【0011】
ランダムタグの後には、少なくとも10個、好ましくは少なくとも12個のヌクレオチド、より好ましくは10~60個、さらに好ましくは12~25個のヌクレオチドを有するリンカー配列が続く。
【0012】
本発明に係る方法は、腫瘍におけるクローン存在量のより正確な測定、5’欠失の検出、を可能にし、ATL患者における悪性クローンを縦断的にモニタリングし分子応答評価を改善するためのツールを提供する。さらに、前記方法の実行時間およびコストが低減された。
【0013】
本発明によれば、伸長工程c)で用いられたDNAポリメラーゼは、合成されたDNA鎖の3’末端に単一の余剰ヌクレオチドを付加する。
【0014】
好ましい実施形態では、工程c)において、少なくとも前記レトロウイルスの3’-LTR配列末端または5’-LTR配列末端、並びに挿入部位および切断部位の隣接宿主ゲノムDNA配列を含む二本鎖DNA産物が得られる。
【0015】
さらに好ましくは、工程d)において、前記リンカーは、それぞれ3’-LTRまたは5’-LTRを有する末端とは反対側の、工程c)で得られた生成物の末端に付加される。
【0016】
さらに好ましい方法では、工程d)において、標識DNA鎖を含む二本鎖DNAが得られ、前記二本鎖DNA生成物は、少なくとも前記レトロウイルスの3’-LTR配列末端または5’-LTR配列末端、挿入部位および切断部位の隣接宿主ゲノムDNA配列、少なくとも6個のランダムな連続ヌクレオチドを含む配列、それに続くリンカー配列、並びに前記第一末端に特異的な配列のうちの少なくとも1つ、を含む。
【0017】
さらに好ましい実施形態では、工程d)において、シングルヌクレオチドオーバーハングを有するリンカーが、3’シングルヌクレオチドオーバーハングを有する、工程c)で得られた生成物の末端にライゲーションされ、リンカーのシングルヌクレオチドオーバー
ハングが、工程c)で合成されたDNA鎖の3’シングルヌクレオチドオーバーハングにハイブリダイズされることで、標識DNA鎖を含む二本鎖DNA生成物が生成され、前記二本鎖DNA生成物が、少なくとも前記レトロウイルスの3’-LTR配列末端または5’-LTR配列末端、並びに挿入部位および切断部位の隣接宿主ゲノムDNA配列、少なくとも6個のランダムな連続ヌクレオチドを含む配列、それに続くリンカー配列、並びに前記第一末端に特異的な配列のうちの少なくとも1つ、を含む。
【0018】
本方法の別の好ましい実施形態では、工程c)において合成DNA鎖の3’末端に付加されるシングルヌクレオチドオーバーハングはデオキシアデノシンであり、工程d)で付加されるリンカーのシングルヌクレオチドオーバーハングはデゾキシチミジンである。
【0019】
本方法のまたさらに好ましい実施形態では、前記PCR産物は、以下の順番で、X4配列、X3配列、少なくとも6個のランダムな連続ヌクレオチドを含む配列、それに続くリンカー配列、宿主ゲノムDNA配列、少なくとも前記レトロウイルスの3’-LTR配列末端または5’-LTR配列末端、X1配列、X2配列を含み;
工程f)は以下の工程を含む:
f1)鋳型としての工程e)で得られた生成物、X3配列に結合するプライマー、5’-LTRに結合するプライマー、3’-LTRに結合するプライマーの存在下で、第一PCR反応を実行する工程であって、前記5’-LTRに結合するプライマーおよび前記3’-LTRに結合するプライマーがそれぞれ、追加のX1配列をその5’末端に含むことにより、前記X1配列をも含むPCR産物が生成される、前記工程;
f2)鋳型としての工程f1)で得られた生成物、その5’末端に追加のX4配列を有するX3配列に結合するプライマー、その5’末端に追加のX2配列を有するX1配列に結合するプライマーの存在下で、第二PCR反応を実行することにより、前記X2配列および前記X4配列をも含むPCR産物が生成される工程。
【0020】
本発明の方法の好ましい実施形態では、前記X3配列はNextera Reverse配列を含み、該Nextera Reverse配列にNextera Reverseプライマーが結合する。前記X3配列はライゲーション工程で導入されたリンカーに含まれる。イルミナ社製Nextera Forwardプライマーにも存在するNextera Reverseトランスポゾン型配列として、最終産物であるライブラリーのシーケンス工程に市販キットを用いることができる。
【0021】
本発明の方法のさらに好ましい実施形態では、前記X1配列はNextera Forwardプライマーが結合するNextera Forward配列を含み、前記X4配列はP7配列およびインデックス配列を含み、前記X2配列はP5配列-インデックス配列を含む。
【0022】
本発明に係る方法の別の好ましい実施形態では、前記結合性リガンドおよび前記受容体は、ビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジン;ジゴキシゲニン(digoxygenin)/抗ジゴキシゲニン(digoxygenin)抗体;ハプテン/抗ハプテン抗体;抗原/抗体からなる結合性ペアの群から選択される。
【0023】
本発明に係る方法の特に好ましい実施形態では、前記レトロウイルスはHTLV-1であり、前記HTLV-1関連疾患は成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)であり、前記ゲノムDNAは末梢血単核球(PBMC)に由来するおよび/または末梢血単核球(PBMC)から精製される。
【0024】
本発明はまた、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)を患う対象における優勢な白血病性Tリンパ球クローンを測定し縦断的にモニタリングするための方法であって、
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法によって直鎖PCR産物が作製され、前記PCR産物が多重シーケンスにかけられることで全ての挿入部位および全ての切断部位が決定され、前記切断部位はそれぞれの挿入部位と相関しており、
その後、特定のTリンパ球クローンを表す各挿入部位について異なる切断部位の数を計数し、同一の挿入部位および同一のランダムタグを有するリードを排除することによりあらゆるPCRデュプリケート(PCR duplicate)を考慮から排除し、それから特定のTリ
ンパ球クローンの各々の存在量を決定することが行われる、
前記方法を提供する。
【0025】
ランダムタグを用いて、PCRデュプリケート、すなわち、同一の切断部位および同一のランダムタグを有するリード、が検出される。このアプローチにより、クローン存在量のより正確な測定が可能となる。
【0026】
多重シーケンスは、ハイスループット装置での多数の試料の処理を可能にする。各試料には「バーコード」配列が個々に付加されるため、データ解析の際に識別と選別が可能である。プーリング試料は、シングルランで解析される試料の数を指数関数的に増加させるが、コストや時間は大きくは増加しない。
【0027】
上記の通り、多重シーケンスは、全ての挿入部位および全ての切断部位の決定を可能にする。これが意味することは、それぞれの直鎖PCR産物の挿入部位および切断部位が決定されるということである。
【0028】
前記方法は、以下をさらに含むことが好ましい:
特定のTリンパ球クローンの各々の存在量に基づいて成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の再発の可能性を判定すること;および/または
特定のTリンパ球クローンの各々の存在量に基づいて成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の治療の成功を判定すること。
【0029】
本発明のさらに好ましい方法によれば、
特定のTリンパ球クローンの存在量が多いことは、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の再発の可能性が高いこと、および/または、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の治療が成功していないこと、を示し;
特定のTリンパ球クローンの存在量が少ないことは、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の再発の可能性が低いこと、および/または、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の治療が成功していること、を示す。
【0030】
本発明のさらに好ましい方法によれば、前記特定のTリンパ球クローンは、診断時に優勢な白血病性クローンと同定されたものと同じである。しかし、治療中または治療後に対象をモニタリングすると、優勢な特定のTリンパ球クローンが、診断時に同定された優勢な特定のTリンパ球クローンとは異なることが判明し得る。
【0031】
本発明者らは、HTLV-1挿入部位のマッピングと対応するクローンの存在量の測定とを同時に行うための、改善されたハイスループットシーケンス(HTS)法を開発した。このことは、現在では、診断時に同定された優勢悪性クローンの発展(evolution)に
基づいて、治療を受けているATL患者および治療を受けていないATL患者の両方を、モニタリングできることを意味している。
【0032】
本発明に係る本方法を用いることで、全員が血液学的な完全寛解を達成したが、様々な経過/期間の臨床応答の後に再発を起こした、5人のATL患者の後向き縦断的試料における、HTLV-1クローナリティーを解析することができた。
【0033】
以下の図面によって本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1図1は、宿主ゲノムに組み込まれたプロウイルス、および、DNA切断後に得られ得る断片、の模式図を示している。
図2図2は、プロウイルス配列の一部を含有するDNA断片の例によって、DNA伸長工程を示している。
図3図3は、ライゲーション工程を示している。
図4図4は、第一PCR工程(PCR1)を示している。
図5図5は、第二PCR工程(PCR2)を示している。
図6図6は、プロウイルスゲノム配列と宿主ゲノム配列との間の接合部を指摘している。
図7図7は、5’/3’デュアルHTSクローナリティー法の検証を示している。
図8図8は、5人のATL患者における、HTLV-1優勢悪性クローンおよび関連クローンの頻度分布の縦断的モニタリングを示している。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1は、宿主ゲノムに組み込まれたプロウイルス、および、DNA切断後に得られ得る断片、の模式図を示している。HTLV-1ウイルスゲノムが、ウイルス性の5’-LTR配列および3’-LTR配列に挟まれている。5’-LTRおよび隣接ウイルス配列が欠失した組み込みプロウイルスも存在する(図示せず)。ゲノムDNAの切断後、様々な断片が得られ得る。宿主ゲノム配列のみを含有するDNA断片、プロウイルス配列のみを含有するDNA断片、宿主ゲノム配列とウイルス配列の一部とを含有するDNA断片。
【0036】
図2は、プロウイルス配列の一部を含有するDNA断片の例によって、DNA伸長工程を示している。伸長工程では、5’-LTRに特異的に結合するプライマーおよび3’-LTRに特異的に結合するプライマーの両方を利用する。伸長反応では、前記特異的プライマーから開始されて合成されるDNA鎖を標識するために、ビオチン化されたdNTPが使用される。あるいは、ビオチン標識を前記プライマーに組み込んでもよい。DNA合成では、DNAポリメラーゼが用いられ、新たに合成された(ビオチン化)DNA鎖の3’末端、すなわちA(アデノシンデゾキシリボヌクレオチド)、に1つの追加ヌクレオチドが付加される。この工程では、5’-LTR配列を含有するDNA断片および3’-LTR配列を含有するDNA断片のみが、前記反応の対象となってビオチン化される。このアプローチの利点は、ウイルス性LTR含有断片の選別および濃縮、並びに感度の増加にある。ストレプトアビジンに基づいた選別を利用する後の精製工程では、これらのビオチン化されたコンストラクトを精製できる。伸長反応はまた、プライマーが結合したLTR配列の反対側の末端に粘着末端を与える。後の工程で、その1つの末端にのみリンカーを付加するために、この粘着末端が利用される(図3参照)。
【0037】
本アプローチのさらなる利点は、3’-LTR-宿主接合配列および5’-LTR-宿主接合配列の両方が検出され、それにより、検出可能な組み込み部位のダイナミックレンジおよび数が増加することである。このアプローチは、従って、5’-LTRの欠失を有するHTLV-1バリアント(2型欠損HTLV-1プロウイルス)の同定を可能にする。これらのバリアントは成人T細胞白血病(ATL)症例の3分の1で観察される。これらのATLの予後は完全長プロウイルスを有するATLよりも悪いことが示唆されているため、これらのバリアントの検出も重要となる。
【0038】
図3はライゲーション工程を示しており、LTR配列の反対側の末端にある粘着末端に
、リンカーが付加される。このために、3’シングルヌクレオチドオーバーハングを有する部分二本鎖DNAを与えるオリゴヌクレオチドが用いられ、ここで、前記リンカーのこのシングルヌクレオチドは、伸長工程時にポリメラーゼによって新規合成された標識(ビオチン化)DNA鎖に付加されたシングルヌクレオチドに相補的である。伸長工程時にポリメラーゼによって新規合成された標識(ビオチン化)DNA鎖に付加されたシングルヌクレオチドはAであるため、リンカーの3’シングルヌクレオチドオーバーハングはT(チミジンデゾキシリボヌクレオチド)となる。この伸長工程と後のライゲーション工程により、所定の構造を有する目的のDNAコンストラクトが得られる。宿主ゲノムDNAを含む末端が特定の配列を伴って得られ、一方、反対側の末端は3’-LTR末端または5’-LTR末端を含む。このDNAコンストラクトは、さらに、宿主ゲノムDNA配列とプロウイルス配列との間の元の接合部(挿入部位)も含んでいる。この特定の挿入部位が、特定のT細胞クローンの指標となる。このDNAコンストラクトはまた、ゲノムDNAの切断部位(切断工程時に生成された)と、それに付加されたリンカーも含む。この切断部位は、特定のクローンの存在量を推定するための評価の際に用いられ、上記のように、特定のクローンは特定またはユニークな挿入部位によって示される。
【0039】
ライゲーション工程では、少なくとも6個のランダムな連続ヌクレオチドを含む配列、それに続くリンカー配列、および前記第一末端に特異的な配列のうちの少なくとも1つが導入される。この例に記載される前記方法の実施形態では、前記ライゲーション工程は、第一末端に特異的な配列(本明細書では「X3」配列とも称する)として、Nextera Reverseトランスポゾン型配列を導入し、該Nextera Reverseトランスポゾン型配列は、イルミナ社製Nextera Forwardプライマーにも存在しており、そのため、最終産物であるライブラリーのシーケンス工程に市販キットを用いることを可能にする。さらに、クローンの存在量を測定するように改善された、リンカーを有する、ランダムタグが導入される。
【0040】
図4は、第一PCR工程(PCR1)を示している。本発明の1つの実施形態に係るこの第一PCR工程では、イルミナ社製Nextera Forwardプライマーにも存在するトランスポゾン型配列が導入されるため、最終産物ライブラリーのシーケンス工程に市販キットを用いることが可能である。ここで、第一PCR反応は、伸長およびライゲーション後に得られた鋳型としての精製産物、リンカー配列に結合するプライマー、5’-LTRに結合するプライマー、および3’-LTRに結合するプライマーの存在下で行われる。これらの、5’-LTRに結合するプライマーおよび3’-LTRに結合するプライマーは、それぞれ、5’末端に、追加のイルミナ社製Nextera Forward配列、および追加のランダムヌクレオチド配列、を含む。PCR産物は故に、前記追加配列を含む。
【0041】
図5は、第二PCR工程(PCR2)を示している。本発明の1つの実施形態に係るこの第二PCR工程では、後の多重シーケンスのために、市販のインデックスプライマー(イルミナ社製)が導入される。ここで、第二PCR反応は、第一PCR工程後に得られた鋳型としての精製PCR産物、リンカー配列に結合するプライマー、およびイルミナ社製Nextera Forward配列(LTR配列より遠位)に結合するプライマー、の存在下で行われる。ここで、前記リンカー配列に結合するプライマーは、その5’末端に、P7配列およびインデックス配列をさらに含み、前記LTR末端に結合するプライマーは、その5’末端に、P5配列およびインデックス配列をさらに含む。この第二PCRによって、リンカーおよび宿主ゲノム配列を含む末端にP7およびIndexを含み、且つ、プロウイルスのLTRを含む末端にP5およびIndexを含む、PCR産物が得られる。従って、この反応では、P5配列およびインデックスを有する配列、並びにP7配列およびインデックスを有する配列(すなわち、P5+インデックスおよびP7+インデックス)が付加される。P5およびP7はフローセルとの結合のために用いられ、一方、イ
ンデックスは多重シーケンスのために用いられる。
【0042】
多重シーケンスは、ハイスループット装置での多数の試料の処理を可能にする。各試料には「バーコード」配列が個々に付加されるため、データ解析の際に識別と選別が可能である。プーリング試料は、シングルランで解析される試料の数を指数関数的に増加させるが、コストや時間は大きくは増加せず、すなわち、試料あたりのコストが減少する。
【0043】
図6は、プロウイルスゲノム配列と宿主ゲノム配列との間の接合部(星印)を指し示している。元の挿入部位を表すこの接合部はハイスループットペアエンドシーケンスによって同定される。イルミナ社製リード1は、Nextera Forwardから生じて、5’LTRまたは3’LTRの一部、および宿主ゲノム内のプロウイルス挿入部位をシーケンスする。リード2配列はNextera Reverseで生じて、ランダムタグをシーケンスし、PCRデュプリケートの同定および切断部位の再利用を可能にする。ランダムタグのあとで、宿主DNAはDNA切断点を示す。リード1からの宿主配列とリード2からの宿主配列との組み合わせにより、プロウイルス組み込み部位の正確な同定が促されることで、クローンが同定され、その存在量が測定される。
【0044】
図7は、5人のATL患者における、HTLV-1優勢悪性クローンおよび関連クローンの頻度分布の縦断的モニタリングを示している。パネルa~eは、他の全感染細胞に対しての優勢クローンの存在量の発展(evolution)を示しており、縦断的なチャートによ
って示され、各種形状は異なる時点に対応している(丸(dot):診断、四角:血液の再
発(relapse blood)、三角:リンパ腫の再発(relapse lymphoma)、菱形:完全寛解(complete remission)CR1、CR2およびCR3)。灰色の領域は完全臨床寛解の期間
を示している(表1)。クローン性再構成が生じたT細胞受容体-γ(TCR-γ)遺伝子の検出が行われた試料は、黒色の輪郭でマークされた形を有する(TCR+)。クローン頻度分布は円グラフで表されており、各スライスは独立した組み込み部位およびその対応するクローンの存在量を表している。単一の優勢クローン(100プロウイルスコピーあたりの存在量、円グラフの下に表示)が黒色で示されている。ATL60は、単一悪性クローンにおいて、4種類の等頻度のプロウイルスのエビデンスを示している(単一TCR-γ再構成、ATL60、表2)。残りの潜在的なクローンは灰色で示されている。PVL:PBMC内のプロウイルス量(100細胞あたりのtaxコピー)。悪性クローンの絶対存在量(PBMC内の優勢HTLV-1挿入部位の割合)は、PVLおよび白血病性クローンの相対的存在量から定量化できる。完全寛解時の悪性組み込み部位の絶対存在量、ATL14-CR1<0.007%(スキームd、0.016%のPVL、43%の相対的存在量)。
【0045】
図8は、HTLV-1 2型欠損プロウイルスを明らかにする際の、長期のOxford Nanoporeシーケンスによる、5’/3’デュアルHTSクローナリティー法の検証を示している。ATL11-再発-LN(上)またはATL14 診断(下)における、優勢HTLV-1組み込み部位の上流(FP)および下流(RP)に位置するプライマーペアを用いて得られたPCR産物のOxford Nanoporeシーケンスによって生じた、Integrative Genome Viewer(IGV)で可視化され、ヒトゲノムの第1番染色体:20,516,805(ATL11-再発-LN)または第18番染色体:45,011,572(ATL14 D)にプロウイルスが組み込まれたカスタムゲノムにマップされた、カバレッジおよび個々のリード。組み込み部位はHTSクローナリティーマッピングによって同定された。ヒトとプロウイルスゲノムの両方に跨るリードは、平均の長さが、ATL11-R-LNで2,143bp(41bp~9,155bpの範囲)、ATL14で3,255bp(73bp~9,562bpの範囲)であった。ATL11-再発-LNカバレッジにより、プロウイルスゲノム内の6,529bp(5’LTRを含む)の巨大な5’欠失が明らかとなり、これは、3’LT
R-宿主接合部が検出された一方での、HTSクローナリティー法で確認された5’LTR-宿主リードの非存在と一致している。長いリードは、ATLにおける2型欠損HTLV-1プロウイルスの同定について、5’/3’デュアルHTS法を検証している。HTLV-1プロウイルスゲノムおよび転写物が上段に示される。PF:フォワードプライマー、PR:リバースプライマー、cov:カバレッジ。
【0046】
リガンド受容体ペア
本明細書で使用される場合、「リガンド-受容体ペア」または「結合ペア」という表現は、互いを認識し互いに結合することが可能な化学部分である、リガンドおよび受容体を指す。リガンドおよび受容体は、互いを認識し互いに結合して複合体を形成できるものであれば、いかなる部分であってもよい。さらに、リガンドおよび受容体は、第三の媒介物質の結合を介して相互作用してもよい。通常、リガンド-受容体ペアを構成するリガンドおよび受容体は、特異的な非共有結合性相互作用により互いに結合する結合分子である。リガンドおよび受容体は、天然のものでも人工のものでもよく、他の化学種と集合体を形成してもよい。
【0047】
リガンドおよび/または受容体の例としては、以下が挙げられるが、これらに限定はされない:細胞膜受容体に対するアゴニストおよびアンタゴニスト、毒素および毒液、ウイルスエピトープ、ステロイドなどのホルモン、ホルモン受容体、ペプチド、酵素および他の触媒性ポリペプチド、酵素基質、補助因子、有機小分子薬を含む薬剤、オピエート、オピエート受容体、レクチン、糖、ポリサッカライドを含むサッカライド、タンパク質、並びに、モノクローナル抗体および合成抗体断片を含む抗体、細胞、細胞膜および細胞膜受容体を含むその部分、並びに細胞小器官。リガンド-受容体ペアの例としては、以下が挙げられる:抗体-抗原;レクチン-炭水化物;ペプチド-細胞膜受容体;プロテインA-抗体;ハプテン-抗ハプテン抗体;ジゴキシゲニン-抗ジゴキシゲニン抗体;酵素-補助因子、および酵素-基質。
【0048】
1つの好ましい実施形態において、リガンド-受容体ペアは、ビオチン-アビジンまたはビオチン-ストレプトアビジンである。ビタミンであるビオチンは、卵白から単離されるアビジン、または、ストレプトマイセス・アビジニ細菌から単離されるストレプトアビジンという、指示タンパク質の結合によって検出される。アビジンおよびストレプトアビジンは、ビオチンに対して、4つの高親和性結合部位を有し、結合定数はおよそK=1015mol-1である。
【0049】
HTLV-1組み込み部位のHTSマッピングおよびクローン存在量の測定
本発明が提供する改善されたHTSに基づく方法を利用することで、患者の縦断的PBMC試料から単離されたゲノムDNAにおける、HTLV-1組み込み部位の、マッピングおよび存在量の定量化が同時に行われた。これまでに開発されたTag-NGSプロトコルに記載されるランダムタグに加えて、本発明の最適化された方法は、ライブラリー調製およびデータ解析にいくつかの重要な改変を含み、これまでに確立されたプロトコルの制限のいくつかが克服されている。簡潔には、5’LTRおよび3’LTRの両方をアッセイすることにより、前記技術のダイナミックレンジが増加したことで、クローン存在量のより良好な測定が可能となり、プロウイルスにおける5’-欠失の発生に関する重要な情報が得られるようになった。Biotin-11-dUTPを用いた伸長工程により、末端修復と、ストレプトアビジンを用いたLTR陽性断片の濃縮促進とが同時に行われ、その後、限定的なPCRが行われて、PCRデュプリケートが回避される。従って、個別の末端修復工程を省略できる。アダプターおよびインデックスを追加するための特注のシーケンスプライマーの代わりに、市販のイルミナ社製プライマーを用いたことで、ライブラリーの多重化が単純化され、プロトコルを臨床環境に適用可能となる程度までコストおよび実行時間の両方が低減された。イルミナ社製MiSeq装置により、ライブラリーが
アセンブルされ、150bpのペアエンドシーケンスリードが得られた(平均生リード数:373,400、範囲:28,930~977,000)。5’LTR-宿主接合部または3’LTR-宿主接合部のいずれかを支持するリードが保持された。
【0050】
ユニークなHTLV-1組み込み部位の数および対応するクローンの存在量は以下のように測定した:ペアエンドリードを、BWAを用いて、宿主-プロウイルスハイブリッドゲノムにアライメントした。クオリティートリミング(平均塩基クオリティー≧30)の後、以下の条件を満たすペアエンドリード(LTR-宿主接合部に跨る)のみを保持した:リード1:関連LTR末端にマッピングされたリードのHTLV-1 5’LTR:29nt、HTLV-1 3’LTR:45nt。リード2:ミスマッチが3以下である宿主ゲノムにマッピングされたリード。同一のゲノム挿入部位および同一の8ランダムヌクレオチド(nt)タグを示したリードに基づいて、重複を除去した。各プロウイルス組み込み部位についてリード数をカウントし、記録した。腫瘍(ATL)試料中のクローン存在量を以下の通りに決定した:5’LTR隣接部位および3’LTR隣接部位の両方が同定された場合、%=平均3’LTR-5’LTR、一方のLTR隣接部位のみが検出された場合、%=検出されたLTR隣接部位により定められる%。3’LTR隣接部位のみが優勢な挿入部位として同定された場合に、そのクローンを5‘LTR欠失2型欠損プロウイルスと定義した。
【0051】
本発明の方法を適用することにより、HTS-クローナリティーは、コンセンサス応答基準が完全血液学的寛解を示した時点において、第一選択治療に対する不応例を明らかにした。分子的寛解を達成した患者において、従来法による検出を逃れる白血病性クローンの早期再発の状態を検出することができ、より良好な再発予測が可能となる。予後的重要性を有するHTSで同定されたHTLV-1バリアントは、進行後にクローンスイッチを示し、他の現在利用可能な分子的方法よりも優れていた。
【0052】
本発明の研究により、ATL患者におけるHTLV-1クローン構造に関する分子的知識が、完全寛解のより良好な定義を可能にし、従って治療介入を導き得ることが示された。第一に、HTSクローナリティー解析により、他の点では完全血液学的寛解のコンセンサス基準を満たしている、患者における第一選択治療に対して不応性のATLを明らかにできることが示された。優勢な悪性クローンの残留性と一致して、これらの患者は極めて短い期間内に再発をおこした。結果として、この最適化されたHTS法の開発によって、臨床医は、標準的治療の恩恵を受けない(難治性疾患)、別のまたは新規の最前線戦略に登録されるべき患者を迅速に同定するためのツールを与えられる。第二に、ある時点で分子的寛解を達成したATL患者において、縦断的分子モニタリングは、従来法による検出を逃れる白血病性クローンの早期再発を検出することができ、より良好な再発予測が可能となることが示された。最後に、HTSマッピングは治療を継続するかの決定に影響し得る。AZT/IFN-α治療後に完全血液学的寛解を達成し、さらに、持続的な分子的応答を示す(HTLV-1ポリクローナル構造を特徴とする)患者において、毒性低減という潜在的利益のために、維持療法の期間が再評価され得る。さらに、HTSクローナリティーは、同種幹細胞移植に適した患者の成功率の予測に有用であり、また、同種幹細胞移植後の免疫抑制剤の調整に有用であり得る。
【0053】
ATLの高い再発率は、優勢な白血病性クローンの残留性または再発に寄与してきた。しかし、一部の患者は異なるクローンで再発を起こす。ATL11リンパ腫再発のHTSマッピングにより、そのようなクローンスイッチの直接的な分子的エビデンスが得られた。治療の再施行が新規の別の悪性クローンの存在量を減少させるのに現在有効であり得ることを考慮すると、再発時のクローン遷移の同定は重要な治療的意味を持ち得る。5’/3’デュアルHTS法によって5’LTR欠失プロウイルスを保有する悪性クローンの忠実な同定が可能であることが、同一の患者において実証され、長期ナノポアシーケンスに
より確認された。5’LTR欠失2型欠損プロウイルスのATL細胞への組み込みは、およそ1/3の症例で観察され、予後と関連している。
【0054】
最後に、ATL14(CR1~CR3、花細胞が存在せず、ALCは0.2~1.2G/Lの範囲)において、ALCおよび血液スメアは完全寛解の期間を通じて平凡なままであったが、この患者の縦断的HTS追跡によって、これらの時点での悪性クローンの分子的再発(CR1およびCR3それぞれにおいて43.24%~70.84%の存在量)が明らかとなった。興味深いことに、この患者は、再発時の血液パラメーターは正常範囲内(ALC:1.9G/L)(表2)のまま、強いリンパ節転移(LN++)を伴う再発を起こした。このことは、完全血液学的寛解時の患者の血液のHTS解析が、遠位部位での再発を予測できることを示している。
【0055】
この5人の患者の研究は、ATL管理のための応答評価基準にHTLV-1クローンの分子サインを組み入れることの実証実験となる。本発明のHTSに基づく方法は、これまでに報告された方法の制限のいくつかを克服し、臨床試験環境に適用可能となる程度までコストおよび実行時間の両方を減少させる、いくつかの基準変更を含む。
【0056】
これらの研究で為された観察により、臨床的且つ血液学的な完全寛解を達成する患者間の分子不均一性が大きいことが明らかとなり、ATLの応答基準を再考する必要性が明確となった。これまで試験されたあらゆる他の方法に対する優位性を考慮すると、本HTSアプローチは、コンセンサス基準に組み込まれるべきであり、より良好な、治療に対する応答の評価、再発の予測、および治療中の治療介入の導入のためのツールとして評価されるべきである。本発明者らは、微小残存病変の検出、同種幹細胞移植後の移植片対ATL効果の評価、および成績向上に未だ不可欠である臨床試験の評価のための方法として、本HTSアプローチを提唱する。
【0057】
以下の実施例で本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定はされない。
【実施例
【0058】
患者
本発明者らは、白血病性の病型と診断された、5例のATLの後向き試料の縦断的解析を行った。これらのATLは全て、導入療法後に臨床的寛解を達成したが、様々な期間の血液学的応答の後に再発したものである。系統的試料を改良型HTS法で検査してプロウイルス組み込み部位をマッピングし、診断時に同定された優勢な白血病性クローンの分子的な追跡を可能とした。
【0059】
詳細には、本発明に係る研究は、高悪性度の白血病性型と診断され、2008年と2016年の間にネッカー病院(パリ)で治療され、臨床的寛解中および再発時の系統的試料が記録されていた、5人のATL患者の後向き縦断的試料に対して行われた(表1)。本研究は倫理委員会CPPイル・ド・フランスIIに承認されたものであり、死亡でない場合、全ての患者から書面によるインフォームドコンセントが得られた。ATLの診断は、臨床的パラメーター、血液スメア中の異型リンパ球の存在および血清中のHTLV-1特異的抗体存在、に基づいて行われた。患者は下山分類に従って分類された。導入療法は、CHOPに基づく投与計画またはAZT+IFN-α併用療法からなるものであった。2症例で、強化療法としてAsを用いた。患者の特徴を表1にまとめる。完全血液学的寛解は、2009年に発表された推奨に従った、形態学的および細胞学的な基準(Tsukasaki K et al.: Definition, prognostic factors, treatment, and response criteria
of adult T-cell leukemia-lymphoma: a proposal from an international consensus meeting. J Clin Oncol 27:453-9, 2009)によって、すなわち、CBCの正常化、血液中
に存在する異常リンパ球が5%未満であること、および、4週間を超えて測定可能な腫瘍が存在しないこと、によって、定義された。腫瘍血液学の公認診断研究所において欧州標準プロトコルにより測定された、患者のCBC、リンパ球絶対数(ALC)、血液スメア、臨床データ、および生物学的パラメーターが、ネカー病院の電子医療記録から後向きに得られた(表2)。
【0060】
【表1】

F:女性、M:男性、病型は下山分類に従い定義されたもの、CHOP:シクロホスファミド、アドリアマイシン、ビンクリスチン、プレドニゾン、LSG15:VCAP-AMP-VEPC、IFNα:インターフェロンα、AS:三酸化ヒ素、CR:完全寛解(単位は月)、*ATL11診断は、この患者から最初期に入手可能な試料に相当(化学療法後に非応答者臨床状態、AZT-IFNα-AS治療前)。
【0061】
【表2】
D:診断、CR:完全寛解、R:再発、ALC:リンパ球絶対数、血液スメア:花細胞の存在(%)、LHD:乳酸脱水素酵素、N=正常値、TCR:血液中のクローンのTCR-γ再構成、#リンパ腫におけるTCR-γ再構成、異なるクローン、FCM:フローサイトメトリーによる免疫表現型検査、PBMCにおけるCD4、CD25、HLA DR、CD7、CD3dimの割合、*CD4、CD25、HLA DR、CD7、CD3highの細胞集団を特徴とするATL100、PVL:100個のPBMC当たりのtaxコピーにおけるプロウイルス量、ND:入手不可、ATL11 D:この患者から最初期に入手可能な試料に相当(化学療法後に非応答者臨床状態、AZT-IFNα-AS治療前)。
【0062】
実施例1:血液試料およびDNA調製
HTLV-1患者由来の試料は、ヘルシンキ宣言に従いインフォームドコンセントが得られた後、治験審査委員会に承認されたプロトコルの後に、フランス、パリ大学のネカー病院で、「イル・ド・フランスII倫理委員会(Comite d’ethique Ile de France II)
」に従って、採取された。試料は、治療を行ったが再発した、5人のATL患者(4例の急性型および1例の予後不良慢性型)由来のPBMCから構成される試料であった。PBMCはHistopaque-1077(シグマ社)を用いて血液から分離された。本研究で用いられたDNAは、キアゲン社製AllPrep-DNAキットを用いて単離された。
【0063】
実施例2:DNA切断
合計5μgのDNAを、超音波処理により、Bioruptor(登録商標)装置(ダイアジェノード社(Diagenode)、ベルギー)を用いて切断した。切断の設定は、05秒
間のON-90秒間のOFFを合計8サイクル、であった。最適な切断のために、4サイ
クルの後にチューブをスピンダウンした。また、この手順を、DNA量を5μg未満(200ngまで)にして行った。
【0064】
実施例3:DNA伸長
実施例2で得られたDNAに、以下のDNA伸長工程を行った:HTLV-1 5’-LTRプライマーおよびHTLV-1 3’-LTRプライマー(5’-GGGCCCTGACCTTTTCAGAC-3’:配列番号1;5’-CCACCCCTTTCCCTTTCATT-3’:配列番号2)を用いる、ビオチン化dUTP(0.25mM)(サーモサイエンティフィック社)、dNTP(dATP、dCTP、dGTP、各1mM、dTTP、0.75mM)および2.5ユニットのHot Start Taq Polymerase(プロメガ社)の存在下での、DNA伸長工程。以下の伸長プログラムを実行した:ステップ1:95℃、2.5分間、ステップ2:95℃、0.5分間、ステップ3:58℃、0.5分間、ステップ4:72℃、1.0分間、ステップ5:72℃、5分間、ステップ6:12℃、反応終了。ステップ3~4を30サイクル繰り返した。Taqポリメラーゼによって、プロウイルスのLTR領域(プライマーが結合する)から開始されて、宿主ゲノム配列の方向に、ビオチン化DNA鎖が合成され、この新たな鎖の3’末端に追加の1個のアデノシンヌクレオチドが付加される。
【0065】
実施例4:精製
Agencourt Ampure XPビーズ(ベックマン・コールター社)を用いて、実施例3で得られたDNAを精製した。再懸濁されたAgencourt Ampure XPビーズに、1:1の割合で、前記伸長産物を加えた。
【0066】
実施例5:リンカーのライゲーション
実施例4で得られたDNAをライゲーション工程にかけ、ライゲーション工程では、配列番号3(5’-GTCTCGTGGGCTCGGAGATGTGTATAAGAGACAGNNNNNNNNCGCTCTTCCGATCT-3’)のオリゴヌクレオチドおよび配列番号4(5’-/5Phos/GATCGGAAGAGCGAAAAAAAAAAAAA-3’)のオリゴヌクレオチドから構成されるリンカーを、前記DNAに加えてライゲーションし、それにより、イルミナ社製Nextera Reverseプライマーにも存在する配列と8ntのランダムタグとを導入した。T4 DNAリガーゼ酵素(ニュー・イングランド・バイオラボ社)を用いて反応を実行した。反応は、室温で3時間実行することもできるし、16℃で一晩実行することもできる。
【0067】
実施例6:ストレプトアビジンに基づく選択
ライゲーション工程の最終産物は、DNA伸長工程の際に組み込まれたビオチンを含有する。ストレプトアビジンビーズ(Dynabeads M-280、インビトロジェン/ライフテクノロジーズ社)を用いることにより、実施例5で得られた生成物を選択および精製した。
【0068】
実施例7:PCR1反応
実施例6で得られた生成物に、以下のPCR工程を行った:HTLV-1特異的プライマー(HTLV-5’末端-PCRプライマー:5’-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGNNNNNNNGGGATATTTGGGGCTCATGG-3’:配列番号5;およびHTLV-3’末端-PCRプライマー:5’-TCGTCGGCAGCGTCAGATGTGTATAAGAGACAGNNNNNNNGACAGCCCATCCTATAGCACTC-3’:配列番号6)、およびリンカー特異的プライマー(5’-GTCTCGTGGGCTCGGAGAT-3’、配列番号7)を用いる、dNTPおよびQ5 Hot Start High-Fidelity Taq Polymerase(ニュー・イングランド・バイオラボ社)の存在下での、以下のPCR1プログラム(15サイクル)を用いる、PCR工程:ステップ1:98℃、30秒間、ステップ2:98℃、8秒間、ステップ3:66℃、20秒間、ステップ4:72℃、30秒間、ステップ5:72℃、60秒間、ステップ6:12℃、反応終了。ステップ2~4を15サイクル繰り返す。この工程により、イルミナ社製Nextera
Forwardプライマーにも存在する配列が導入される。
【0069】
実施例8:精製
Agencourt Ampure XPビーズ(ベックマン・コールター社)を用いて、実施例7で得られたDNAを精製した。再懸濁されたAgencourt Ampu
re XPビーズに、1:1の割合で、前記PRC1産物を加えた。
【0070】
実施例9:PCR2反応
実施例8で得られた生成物に、以下の第二PCR工程を行った:Nexteraプライマー配列とマッチするプライマー(イルミナ社製)を用いる、dNTPおよびQ5 Hot Start High-Fidelity Taq Polymerase(ニュー・イングランド・バイオラボ社)の存在下での、以下のPCR1プログラム(12サイクル)を用いる、PCR工程:ステップ1:98℃、30秒間、ステップ2:98℃、8秒間、ステップ3:62℃、20秒間、ステップ4:72℃、30秒間、ステップ5:72℃、60秒間、ステップ6:12℃、反応終了。ステップ2~4を12サイクル繰り返す。この工程により、P5配列およびインデックス配列、並びにP7配列およびインデックス配列が導入される。
【0071】
実施例10:精製
Agencourt Ampure XPビーズ(ベックマン・コールター社)を用いて、実施例8で得られたDNAを精製した。再懸濁されたAgencourt Ampure XPビーズに、1:0.8の割合で、前記PRC2産物を加えた。
【0072】
実施例11:ライブラリー構築
種々のPCR2産物(それぞれユニークなインデックスセットを有する)をプールすることによりライブラリーを構築した。
【0073】
実施例12:HTLV-1プロウイルス量の定量化
キアゲン社製AllPrep DNA/RNA/miRNAキットを用いてDNAを単離し、HTLV-1 3’領域を標的とするプライマーおよび正規化用のそれぞれアクチンのRPS9を標的とするプライマー(インテグレーテッド・DNA・テクノロジーズ社製のプライマー)を用いるリアルタイムPCRによってプロウイルスDNAを定量化した。1×PCR緩衝液(Platinum Quantitative PCR SuperMix-UDG)中、1μgのトータルDNA、プライマーおよびプローブ(それぞれ200nMの濃度)を含有する50μL体積(HTLV-1)の中で、または、50ngのDNAおよび1×Universal PCR Master Mix, No Am
pErase UNGa(サーモサイエンティフィック社)を含有する10μLの中で、ランを実行した(BLV)。温度サイクル条件は、95℃、10分間、その後、95℃、15秒間および60℃、1分間を50サイクル、であった。Tarl2細胞株(HTLV-1、単一プロウイルスコピー)由来DNAの連続希釈により検量線を作成した。プロウイルス量(単位は%PBMC)=(試料平均量)×2/(試料RPS9量またはアクチン量)*100。
【0074】
実施例13:臨床試料の長期Oxford Nanoporeシーケンス
HTLV-1プロウイルス、並びにその5’側および3’側に隣接するゲノム配列を、LongAmp(登録商標)Taq DNA Polymerase(ニュー・イングランド・バイオラボ社)を用いて、PCR増幅した。ATL14(推定完全長プロウイルス、5’LTR-宿主接合部および3’LTR-宿主接合部、HTSクローナリティーによって検出):フォワードプライマー(5’-TGGGGCGACATCTGAAGAAA-3’:配列番号8)、およびリバースプライマー(5’-TGCAGGGTTGGAGTTTCAGA-3’:配列番号9)は、750bp(野生型染色体)、およびプロウイルスを含む約9000bpのバンドを生成した。ATL11-R-LN(リンパ節、再発):フォワードプライマー(5’-CCTTAATCACGCTCTGGTGC-3’:配列番号10)およびリバースプライマー(5’-GCGGACTTGGGCCTTATCAT-3’:配列番号11)は、460bpのバンド(野生型染色体)、および推定5’LTR欠失2型欠損プロウイルスを含む約4000bpのバンドを生成した。ゲル精製PCR産物から調製されたライブラリー(Ligation Sequencing Kit 2D-R9.4)を、SpotON Flow Cell Mk-I-R9.4(オックスフォード・ナノポアテクノロジーズ社)でシーケンスした。Poretoolsを用いてFASTQ配列を抽出し、適切な部位にプロウイルスが組み込まれたカスタムゲノムに、BWA-MEMを介して、マッピングした。
【0075】
実施例14:T細胞受容体(TCR)遺伝子再構成
TCR-γ遺伝子再構成を、確立されたEuroClonality(Biomed-2)プロトコル(Van Dongen JJM et al.: Design and standardization of PCR primers
and protocols for detection of clonal immunoglobulin and T-cell receptor gene recombinations in suspect lymphoproliferations: Report of the BIOMED-2 Concerted Action BMH4-CT98-3936. Leukemia 17:2257-2317, 2003)を用いて評価した。
【0076】
実施例15:血液細胞の免疫表現型検査
CD4(RPA-T4クローン)、CD25(2A3)、HLA-DR(L243)、CD3dim(UCHT1)およびCD7absent(124-1D1)を発現する異常リンパ球集団の存在を、EuroFlowの標準プロトコルに従って、フローサイトメトリー(FCM)により検査した。
【0077】
実施例16:
クローナリティーは、細胞または物質が、1つの供給源に由来している状態であること、または、他の供給源に由来している状態であること、を暗示する。従って、ポリクローナル(多くのクローンに由来);オリゴクローナル(少数のクローンに由来);およびモノクローナル(1つのクローンに由来)、というような用語がある。これらの用語は抗体または免疫細胞に関連して最も多く使用される。HTLV-1プロウイルスが細胞ゲノム内の同一部位に挿入された細胞は全て、「姉妹細胞(Sister cell)」とされる。「クロ
ーン」は姉妹細胞の集団である。超音波処理によるランダムなDNA断片化は、ユニークな挿入部位の存在量の定量化を可能にする、重要な特徴となる。ユニークな挿入部位のそれぞれについて、長さの異なるアンプリコンの数がカウントされる。「アンプリコン」は、PCRの際に生成される分子である。
【0078】
さらに、シークエンス時のタグインデックスの読み間違いは、特定の挿入部位が違う試料に帰属されることを引き起こし得る。この問題を回避するため、所与の挿入部位について、6bpのタグ情報を考慮するだけでなく、相異する切断部位の総数およびリードの総数も考慮することによって、挿入部位が正しい試料に帰属される。
【0079】
実施例17:プロウイルス組み込み部位のHTSマッピングの結果は分子的反応の定量的測定を可能にする
白血病型(4人は急性型、1人は予後不良の慢性型)と診断され、全員が導入療法後に臨床的寛解を達成した、5人のATL患者の後向きPBMC試料の、縦断的なクローナリティー解析を実施した。これは、最適化されたHTSに基づく方法を適用して、HTLV-1組み込み部位のマッピングおよび対応するクローンの存在量の定量化を行うことで、優勢な推定腫瘍クローンの分子的追跡を可能にすることにより、実現された。患者の特徴および試料の特徴を表1にまとめる。5人の患者全員が最終的には再発したが、血液学的寛解の持続期間、臨床経過、および生存成績は患者間で様々であった。2人の患者が5.8年と2.4年という長期に及ぶ臨床的寛解(それぞれ、ATL11およびATL60;図1a、図1b)を達成したが、一方で、3人の患者が急速な再発を示し、寛解は、ATL7は4.3か月、ATL14は5.3か月、ATL100は3.7か月という、著しくより短いものであった(表1、図1c~e)。
【0080】
各ATLについて、血液学的寛解の期間中に採取された、単一(CR1;ATL7およびATL100)または複数(CR1、CR2、CR3;ATL11、ATL14およびATL60)の縦断的試料から構成される、(i)診断時、(ii)再発時、および(iii)中間時点における、クローン構造を解析した。PVL(100個のPBMCあたりのプロウイルスコピーの数)、TCR-γ再構成プロファイル、および血液細胞免疫表現型も、全ての試料について、記録した。追跡中の患者の臨床的データおよび生物学的データを表2に記載する。診断時のHTLV-1組み込み部位のHTSマッピングによって、5つのATL症例のうち4症例(ATL7、ATL11、ATL14およびATL100)において、プロウイルスゲノムの92.75%~99.86%(平均95.9%)を構成していた単一の優勢な組み込み部位が明らかとなった。残りの腫瘍(ATL60)においては、4種の優勢プロウイルスが同一悪性クローンに同一頻度で存在することが証明され、単一TCR-γ再構成の知見と一致した(総相対存在量99.05%)。全ての患者が治療を受け、CBCの正常化、異常リンパ球が5%未満であること、および4週間を超えて測定可能腫瘍が存在しないことを特徴とする、完全臨床寛解を達成した。2/5の患者において、治療後に、推定悪性クローンの優勢HTLV-1挿入部位が、97.32%から1.87%に(ATL11)減少し、また、99.05%から2.15%に(ATL60)減少したことが、分子解析により明らかとなった。両方の患者で、臨床的寛解時のHTLV-1感染細胞のクローン頻度分布は複数の低存在量クローンから構成されており、そのユニークな推定悪性組み込み部位がプロウイルスゲノムの3%未満に寄与した(図1、a~b、CR1)。患者の1人(ATL11)は、5年11か月間臨床的且つ分子的な寛解を維持し、クローン頻度に有意な変化はなく、PVLはわずかに変動した(CR2およびCR3;図1a)。一方、2番目の患者(ATL60)は、2年4か月間の完全血液学的寛解の期間をかけて、悪性クローンのゆっくりとした中程度の再発を示したが、PVLの増加はなかった(CR2およびCR3でそれぞれ9.25%および36.95%、図1b)。再発時のATL60のクローナリティー解析によって、診断時に検出された優勢組み込み部位の完全再発が明らかとなり、全体のクローン存在量は99.46%であった。ATL11は、リンパ腫型で、異なるクローンで、再発した。この新たなクローンはプロウイルスゲノムの89.3%を構成した。クローン変化の知見は、ATLの臨床経過時の異なるクローンの出現を示した以前の報告と一致している。優勢組み込み部位は3’LTR-宿主接合部によって支持されたが、5’LTR依存性リードはシーケンス結果に
回収されず、このことは、再発時に出現した新たな悪性クローンが5’LTR欠失プロウイルスであったことを強く示唆している。本発明者らは、長期Oxford Nanoporeシーケンス技術を適用して、再発時に発生したリンパ腫におけるプロウイルスおよびそのゲノムバウンダリ(genomic boundary)を特徴づけることにより、これが実際に事実であることを確認した。これにより、5’/3’デュアルHTSアプローチが5’LTR欠失2型欠損プロウイルスを正確に検出できることが示された(図2)。
【0081】
残りの3/5人の患者の導入療法後のクローナリティー解析によって、ATL11およびATL60とは対照的に、診断時に同定された悪性クローンの相対的存在量が臨床的寛解時に優勢なままであったが(ATL7、ATL14およびATL100それぞれについて、CR1時は73.4%、43.24%および55.43%;診断時は92.75%、99.86%および94.95%)、臨床応答基準は完全血液学的寛解と一致し、PVLは1.7倍~1000倍超減少したことが明らかとなった(表2および図1、c~e)。これらの患者はそれぞれ4.3か月後、5.3か月後および3.7か月後に再発を起こし、優勢悪性クローンは86%超(それぞれ、86.20%、88.1%、および99.12%)となった。すなわち、これら3人の患者の分子的追跡により、臨床応答基準が完全血液学的寛解を示した時点においての第一選択治療に対する不応性が明らかとなった。
【0082】
実施例18:HTSによるクローン頻度分布評価は他の現在利用可能な分子的手法よりも優れている
TCR-γ再構成データが記録され、さらに、血液細胞の免疫表現型プロファイルがFCMにより測定された(図1および表2)。これらのアッセイはネカー病院における通例の造血器腫瘍評価に組み込まれている。ある特定の時点において、クローン性再構成を示したTCR-γおよび/またはFCMは、標準的な血液学的応答基準よりも良好な再発の指標であったが、これらのアッセイは両方とも制限があった。TCR-γに関しては、HTSクローナリティーが、導入療法に対する不応性の優れた予測者であった(図1、ATL100 CR1、ATL14 CR1およびCR2)。HTSアプローチの別の利点は、TCR-γアッセイとは対照的に、それが、短期間の分子的寛解後の再発の定量的測定を可能としたこと(図1、ATL60)と、より高い感度を示したこと(図1d、CR1、0.007%の絶対存在量、それに対して、TCR-γアッセイは約1%という感度)である。FCMの場合、5人中4人のATLにおいて、発現がCD4、CD25、CD7、およびCD3dimの異常リンパ球集団が明らかとなったが、健常人において観察される分布とのCD3発現レベルの重複を考慮すると、CD3dimステータスを用いた残存病変の正確な検出のためのFCMデータの忠実な解釈には、依然として問題があった。さらに、全てのATL症例がCD3dim表現型を示すわけでもなく(表2、ATL100:CD3high)、このことは、分子応答のマーカーとしてのFCMの限界を示している。結論として、HTSクローナリティーを含む本発明の方法は、現在、試験された他のどのアッセイよりも優れている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
0007066826000001.app