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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】把持機構
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/29 20060101AFI20220506BHJP
【FI】
A61B17/29
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020557502
(86)(22)【出願日】2018-11-30
(86)【国際出願番号】 JP2018044145
(87)【国際公開番号】W WO2020110281
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】山中 紀明
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】実開平4-13277(JP,U)
【文献】特開昭48-31660(JP,A)
【文献】特公昭49-41783(JP,B1)
【文献】特開昭59-93283(JP,A)
【文献】実開平1-101747(JP,U)
【文献】特表2016-518171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/28 ― 17/295
A61B 34/30 ― 34/37
B25J 15/00 ― 15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、
相互に開閉可能に前記フレームに支持された第1ジョーおよび第2ジョーと、
前記第1ジョーおよび前記第2ジョーの少なくとも一方に形成されたスリットと、
該スリット内を通り、前記第1ジョーと前記第2ジョーとの間で力を伝達する伝達ピンと、
前記第1ジョーに接続されたワイヤとを備え、
前記第1ジョーの基端部が、第1回転軸周りに回転可能に前記フレームに支持され、
前記第2ジョーの基端部が、前記第1回転軸とは異なり前記第1回転軸と平行である第2回転軸周りに回転可能に前記フレームに支持され、
前記ワイヤが、張力によって前記第1回転軸周りの回転力を前記第1ジョーに付与し、
前記第1回転軸周りの前記第1ジョーの回転によって前記伝達ピンが前記スリット内を移動し、前記スリット内の前記伝達ピンの移動によって前記第2ジョーが前記第2回転軸周りに回転する把持機構。
【請求項2】
前記第1ジョーに形成された第1スリットと、前記第2ジョーに形成された第2スリットと、前記フレームの前記第1回転軸と前記第2回転軸との間の位置に形成された第3スリットとを備え、
前記伝達ピンが、前記第1スリット、前記第2スリットおよび前記第3スリット内を通り、
前記第1回転軸周りの前記第1ジョーの回転によって前記伝達ピンが前記第1スリット、前記第2スリットおよび前記第3スリット内を移動する請求項1に記載の把持機構。
【請求項3】
前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが閉じた状態での前記伝達ピンの位置と、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが最大開き角度で開いた状態での前記伝達ピンの位置とが、前記第1回転軸と前記第2回転軸とを結ぶ直線に対して略対称である請求項2に記載の把持機構。
【請求項4】
前記第1回転軸と前記第2回転軸との間の距離が、前記第1回転軸と前記第3スリットとの間の距離の2倍から2.3倍である請求項3に記載の把持機構。
【請求項5】
前記伝達ピンが、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーの一方に取り付けられ、
前記スリットが、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーの他方に形成されている請求項1に記載の把持機構。
【請求項6】
前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが閉じた状態での前記伝達ピンの位置と、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが最大開き角度で開いた状態での前記伝達ピンの位置とが、前記第1回転軸と前記第2回転軸とを結ぶ直線に対して略対称である請求項5に記載の把持機構。
【請求項7】
前記第1回転軸と前記第2回転軸との間の距離が、前記伝達ピンが取り付けられている前記第1ジョーおよび前記第2ジョーの前記一方の回転軸と前記伝達ピンとの間の距離の2倍から2.2倍である請求項6に記載の把持機構。
【請求項8】
前記スリットの一端が、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーの前記他方の外周面に開口している請求項5から請求項7のいずれかに記載の把持機構。
【請求項9】
前記スリットが、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーが閉じた状態での前記伝達ピンの位置から前記第1ジョーおよび前記第2ジョーの前記他方の外周面まで前記他方の回転軸を通過して延びている請求項8に記載の把持機構。
【請求項10】
前記第1回転軸が、閉じた状態での前記第1および第2ジョーの外径の中心に位置する請求項1から請求項9のいずれかに記載の把持機構。
【請求項11】
前記第2回転軸が、前記第1回転軸よりも先端側、かつ、前記外径の中心よりも前記第1ジョー側に位置する請求項10に記載の把持機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、把持機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、2本のワイヤの牽引によって一対のジョーを開閉する鉗子が知られている(例えば、特許文献1参照。)。ワイヤの押圧によって一対のジョーを開くまたは閉じる場合、ワイヤの座屈や湾曲によって、ワイヤの基端に加えられた押圧力がワイヤの先端まで伝達されないことがある。一対のジョーの開閉の両方をワイヤの牽引力によって行うことで、このような不都合を解消することができる。特許文献1の鉗子は、各ジョーに設けられたプーリを有し、一対のジョーの開閉に動滑車を利用している。一対のプーリには、一対のジョーを連動させるためのギアが設けられている。また、特許文献1の鉗子は、両方のジョーが同時に回転する両開き式である。両開き式の鉗子は、大きな開き角度を得られる点において有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-83476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の鉗子は、部品点数が多く、また、ギアには加工精度が要求されるという不都合がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、部品点数が少なく簡易な構造であり、ワイヤの牽引によって一対のジョーを開閉させることができる両開き式の把持機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、フレームと、相互に開閉可能に前記フレームに支持された第1ジョーおよび第2ジョーと、前記第1ジョーおよび前記第2ジョーの少なくとも一方に形成されたスリットと、該スリット内を通り、前記第1ジョーと前記第2ジョーとの間で力を伝達する伝達ピンと、前記第1ジョーに接続されたワイヤとを備え、前記第1ジョーの基端部が、第1回転軸周りに回転可能に前記フレームに支持され、前記第2ジョーの基端部が、前記第1回転軸とは異なり前記第1回転軸と平行である第2回転軸周りに回転可能に前記フレームに支持され、前記ワイヤが、張力によって前記第1回転軸周りの回転力を前記第1ジョーに付与し、前記第1回転軸周りの前記第1ジョーの回転によって前記伝達ピンが前記スリット内を移動し、前記スリット内の前記伝達ピンの移動によって前記第2ジョーが前記第2回転軸周りに回転する把持機構である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、部品点数が少なく簡易な構造であり、ワイヤの牽引によって一対のジョーを開閉させることができる両開き式の開閉機構を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】本発明の一実施形態に係る把持機構の閉状態を示す概略構成図である。
図1B図1Aの把持機構の開状態を示す概略構成図である。
図2図1Aの把持機構の上ジョー、下ジョーおよび伝達ピンの概略分解図である。
図3図1Aの把持機構の上ジョーの他の例の概略図である。
図4図1Aの把持機構の変形例の概略構成図である。
図5図4の把持機構の幾何学的パラメータと、把持力との関係を説明する図である。
図6A図4の把持機構の開き角度θ1と力の増幅率との関係を表すグラフである。
図6B図4の把持機構の開き角度θ1と、開き角度θ1,θ2間の差分との関係を表すグラフである。
図7A図1Aの把持機構の変形例の概略分解図である。
図7B図7Aの把持機構の概略構成図である。
図8A図7Bの把持機構の開き角度θ1と力の増幅率との関係を表すグラフである。
図8B図7Bの把持機構の開き角度θ1と、開き角度θ1,θ2間の差分との関係を表すグラフである。
図9A図7Bの把持機構の第2ジョーのスリットの変形例を示す概略図である。
図9B図7Bの把持機構の第2ジョーのスリットの他の変形例を示す概略図である。
図10A図7Bの把持機構の第2ジョーのスリットの他の変形例を示す概略図である。
図10B図10Aの第2ジョーを備える把持機構の概略構成図である。
図11図7Bの把持機構の第1ジョーの変形例の内部構成を示す概略図である。
図12A図1Aの把持機構の他の変形例の概略分解図である。
図12B図12Aの把持機構の開状態を示す概略構成図である
図13A】第1回転軸および第2回転軸が並列配置されている把持機構の把持力を説明する図である。
図13B】第1回転軸および第2回転軸が直列配置されている把持機構の把持力を説明する図である。
図14図12Aの把持機構の第2回転軸の変形例を示す概略図である。
図15A】第2回転軸が外径の中心よりも第1ジョー側に配置されている場合の、第2ジョーの開き角度を説明する概略図である。
図15B】第2回転軸が外径の中心よりも第2ジョー側に配置されている場合の、第2ジョーの開き角度を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の一実施形態に係る把持機構について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る把持機構1は、図1Aおよび図1Bに示されるように、フレーム2と、相互に開閉可能にフレーム2に支持された一対のジョー3,4と、一方のジョー3に接続され開閉のための回転力をジョー3に付与するワイヤ5と、回転力を一対のジョー3,4間で伝達する伝達ピン6とを備えている。
【0009】
フレーム2は、略筒状の部材である。
一対のジョー3,4は、長手方向を有する部材であり、フレーム2の中心軸に直交する方向に並列に配置されている。以下の説明において、ジョー3,4の配列方向を上下方向と定義し、上下方向およびフレーム2の中心軸に垂直な方向を左右方向と定義する。参照する図面において、紙面の上下方向が把持機構1の上下方向であり、紙面に垂直な方向が把持機構1の左右方向である。フレーム2の先端部分は、一対のジョー3,4の基端部分の左右両側を覆っている。
【0010】
下側の第1ジョー3は、ワイヤ5の牽引によって駆動される駆動ジョーである。第1ジョー3の基端部は、第1回転軸A周りに回転可能にフレーム2に支持されている。具体的には、第1ジョー3の基端部は、連結ピン9によって、第1回転軸A周りに回転可能にフレーム2の先端部に連結されている。
上側の第2ジョー4は、第1ジョー3に従動する従動ジョーである。第2ジョー4の基端部は、第1回転軸Aとは異なる第2回転軸B周りに回転可能にフレーム2に支持されている。具体的には、第2ジョー4の基端部は、連結ピン10によって、第2回転軸B周りに回転可能にフレーム2の先端部に連結されている。
第1回転軸Aおよび第2回転軸Bは、相互に略平行であり、左右方向に延びている。また、第1回転軸Aおよび第2回転軸Bは、相互に間隔をあけて上下方向に並んでいる。
【0011】
図2に示されるように、第1ジョー3の基端部には左右方向に貫通するスリット(第1スリット)7が形成され、第2ジョー4の基端部には左右方向に貫通するスリット(第2スリット)8が形成されている。スリット7,8は、部分的に左右方向に相互に連通し、伝達ピン6は、スリット7,8内を左右方向に通っている。
【0012】
スリット7は、第1回転軸A周りの周方向に交差する方向に延び、両端において閉じている。スリット7の幅は伝達ピン6の外径よりもわずかに大きく、伝達ピン6は、スリット7内をスリット7の長手方向に移動可能である。スリット8は、第2回転軸B周りの周方向に交差する方向に延び、両端において閉じている。スリット8の幅は伝達ピン6の外径よりもわずかに大きく、伝達ピン6は、スリット8内をスリット8の長手方向に移動可能である。図3に示されるように、スリット8は、第2ジョー4の外周面まで延び、スリット8の一端が第2ジョー4の外周面に開口していてもよい。
【0013】
第1ジョー3の第1回転軸A周りの回転によって、伝達ピン6が、スリット7内を長手方向に移動しながらフレーム2の中心軸に沿う前後方向に移動する。移動する伝達ピン6は、第2ジョー4に第2回転軸B周りの回転力を付与し、第2ジョー4を第1ジョー3とは逆方向に回転させる。
【0014】
図示する例では、スリット7,8は、回転軸A,B間に形成されている。スリット7は、第1ジョー3の長手方向に対して、基端から先端に向かって漸次下方へ変位する方向に傾斜している。スリット8は、第2ジョー4の長手方向に対して、基端から先端に向かって漸次上方に変位する方向に傾斜している。ジョー3,4の長手方向がフレーム2の中心軸と平行になる閉状態において、スリット7,8の基端部が相互に連通し、伝達ピン6は、スリット7,8内の基端側の位置に配置される。
【0015】
第1ジョー3の基端部には、ワイヤ5を案内するガイド面11が設けられている。ガイド面11は、第1回転軸Aを中心とする円環状または円筒状の面である。例えば、ガイド面11は、第1ジョー3の基端部に固定されたプーリの外周面である。ワイヤ5は、ガイド面11に略半周にわたって掛け回され、ワイヤ5の途中位置がガイド面11に固定されている。ワイヤ5は、ガイド面11からフレーム2の基端側へ延び、ワイヤ5の両端はフレーム2の基端側に配置されている。したがって、ガイド面11の上端および下端から基端側へ向かって2本のワイヤ5a,5bが延びている。なお、このワイヤは、2本ではなく1本のワイヤで構成することも可能である。
【0016】
第1回転軸Aの下側のワイヤ5aが牽引されると、ワイヤ5aに張力が発生し、第1ジョー3を第1回転軸A周りに下方に揺動させる回転力がワイヤ5aから第1ジョー3に付与される。第1回転軸Aの上側のワイヤ5bが牽引されると、ワイヤ5bに張力が発生し、第1ジョー3を第1回転軸A周りに上方に揺動させる回転力がワイヤ5bから第1ジョー3に付与される。
【0017】
次に、このように構成された把持機構1の作用について説明する。
把持機構1は、生体組織等を把持する処置具に把持部として搭載される。処置具は、長尺のシャフトと、シャフトの基端に接続された操作部とを備え、把持機構1は、シャフトの先端に接続される。ワイヤ5a,5bはシャフトを経由して操作部まで導かれる。
【0018】
操作部の操作によってワイヤ5aが基端側へ牽引されると、第1ジョー3を下方に回転させる回転力がワイヤ5aから第1ジョー3に伝達される。第1ジョー3の下方への回転によって伝達ピン6がスリット7,8内を先端側(前方)へ移動し、移動する伝達ピン6が第2ジョー4に上方に回転させる回転力を伝達し、第2ジョー4が上方に回転する。このように一対のジョー3,4が相互に離間する方向に同時に回転することによって、ジョー3,4が開く。
【0019】
一方、操作部の操作によってワイヤ5bが基端側へ牽引されると、第1ジョー3を上方に回転させる回転力がワイヤ5bから第1ジョー3に伝達される。第1ジョー3の上方への回転によって伝達ピン6がスリット7,8内を基端側(後方)へ移動し、移動する伝達ピン6が第2ジョー4に下方に回転させる回転力を伝達し、第2ジョー4が下方に回転する。このように一対のジョー3,4が相互に近接する方向に同時に回転することによって、ジョー3,4が閉じる。ジョー3,4が閉じた状態からワイヤ5bがさらに牽引されると、ジョー3,4間に把持力が発生する。
【0020】
このように、本実施形態によれば、2本のワイヤ5a,5bの択一的な牽引によって、一対のジョー3,4が開閉する。
一対のジョー3,4を開くまたは閉じるための駆動力としてワイヤの押圧力を利用する場合、ワイヤの途中位置の座屈や湾曲等によって、ワイヤの先端部まで押圧力が伝達されないことがある。このような押圧力の伝達効率の低下は、特に軟性のシャフトまたは関節部を有する処置具において起こりやすい。
これに対し、ジョー3,4の開閉両方の駆動力としてワイヤ5a,5bの牽引力を利用する場合、ワイヤ5a,5bの基端部から先端部まで牽引力が確実に伝達される。これにより、ジョー3,4を、ワイヤ5a,5bの基端部に加えられた牽引力に相当する角度だけ確実に回転させ、ジョー3,4を確実に開閉させることができるという利点がある。
【0021】
また、把持機構1は、両方のジョー3,4が相互に逆方向に回転する両開き式である。したがって、開状態において、ジョー3,4間の大きな開き角度を得ることができるという利点がある。
また、駆動側の第1ジョー3から従動側の第2ジョー4への回転力の伝達が、単一の伝達ピン6と、加工が容易なスリット7,8とによって達成される。すなわち、部品点数が少なく簡単な構造によって、ジョー3,4間で回転力を伝達することができるという利点がある。
【0022】
本実施形態において、図4に示されるように、伝達ピン6が通るスリット(第3スリット)12がフレーム2にも形成されていてもよい。
スリット12は、回転軸A,Bを結ぶ直線に交差する方向(図示する例では直交する方向)に延び、第1ジョー3の回転時に伝達ピン6を所定の移動経路に沿って前後方向に案内する。このように、伝達ピン6の移動経路をスリット12によって規定することで、ジョー3,4の開閉動作をより安定させることができる。
【0023】
図4の変形例において、ジョー3,4の最大開き角度は、スリット7,8の長さおよびスリット12によって規定される。図5において、二点鎖線は、ジョー3,4間の開き角度が最大である最大開状態を示している。
閉状態での伝達ピン6の位置と最大開状態での伝達ピン6の位置とが、回転軸A,Bを結ぶ直線に対して略対称であることが好ましい。また、距離Rが、距離hの2倍から2.3倍であることが好ましい。
【0024】
図5に示されるように、距離Rは、回転軸A,B間の距離である。距離hは、第1ジョー3の第1回転軸Aとフレーム2のスリット12の上下方向の中心との間の距離である。距離r1は、第1ジョー3の第1回転軸Aと伝達ピン6の中心との間の距離である。距離r2は、第2ジョー4の第2回転軸Bと伝達ピン6の中心との間の距離である。開き角度θ1は、回転軸A,Bを結ぶ直線と、第1回転軸Aと伝達ピン6の中心とを結ぶ直線と、が成す角度である。開き角度θ2は、回転軸A,Bを結ぶ直線と、第2回転軸Bと伝達ピン6の中心とを結ぶ直線と、が成す角度である。
【0025】
スリット12が、回転軸A,B間の中心よりも下側に位置している場合、第1ジョー3の開き角度θ1に比べて第2ジョー4の開き角度θ2が小さくなる。これは、第1ジョー3から第2ジョー4に伝達される回転力が回転の減速によって増幅され、ジョー3,4間の把持力が増大することを意味する。したがって、スリット12は、回転軸A,B間の中心よりも下側に形成されていることが好ましい。一方、両開き式の把持機構1において、開き角度θ1,θ2間の差は小さいことが好ましい。
距離Rを距離hの2倍から2.3倍にすることによって、開き角度θ1,θ2間の差を許容範囲内に抑制しつつ、把持力を増大することができる。
【0026】
ジョー3,4間に把持力が発生している状態において、第1ジョー3の基端部に入力されるモーメントM1_inと、第1ジョー3の先端部から出力されるモーメントM1は、相互に釣り合う。また、第2ジョー4の基端部に入力されるモーメントM2_inと、第2ジョー4の先端部から出力されるモーメントM2は、相互に釣り合う。下式において、eは、第1ジョー3から第2ジョー4へのモーメントの増幅率である。
M1=M1_in
M2=eM2_in
一方、入力のモーメントの総和Minは一定である。
Min=M1_in+M2_in
これにより、モーメントの総和Minは、ジョー3,4に増幅率eの比で分配される。
M1_in:M2_in=e:1
よって、把持力Mjawは、下式で表される。
Mjaw=Min×e/(1+e)=1-Min×1/(1+e)
以上から、第2ジョー4の増幅率eが大きい程、把持力Mjawが大きくなることが分かる。
【0027】
図6Aは、距離Rに対して距離hを変化させたときの回転力の増幅率の計算結果を示している。距離hが小さくなるにつれて、すなわちスリット12が下側へ変位するにつれて、回転力の増幅率が増大する。
図6Bは、第1ジョー3の開き角度θ1と、ジョー3,4の開き角度θ1,θ2間の差分(θ1-θ2)との関係を表している。開き角度θ1の約20%以下の差分(θ1-θ2)は、許容範囲である。Rが2.3×h以下の範囲において、差分(θ1-θ2)は開き角度θ1の20%以下である。
【0028】
なお、図5の構成において、距離r1、距離r2、開き角度θ2および増幅率eは、下式でそれぞれ表される。
【数1】


【0029】
本実施形態において、図7Aおよび図7Bに示されるように、伝達ピン6が一対のジョー3,4の一方に取り付けられており、スリットが一対のジョー3,4の他方のみに形成されていてもよい。図7Aおよび図7Bの例において、伝達ピン6が第1ジョー3に取り付けられ、スリット8が第2ジョー4に形成されている。
このように、伝達ピン6をジョー3と一体に形成することによって、部品点数をさらに削減することができる。また、スリットの内面との伝達ピン6の接触面積が少なくなるので、摩擦による力の損失を低減することができる。
【0030】
図7Aおよび図7Bの構成において、距離Rは、距離r1の2倍から2.2倍であることが好ましい。距離Rと距離r1との比が上記範囲内であることによって、開き角度θ1,θ2間の差を許容範囲内に抑制しつつ、第2ジョー4に伝達される回転力を増幅して把持力を増大することができる。
図8Aは、図7Aおよび図7Bの構成における、開き角度θ1と増幅率eとの関係を表している。図8Bは、図7Aおよび図7Bの構成における、開き角度θ1と、差分(θ1-θ2)との関係を表している。
【0031】
なお、図7Aおよび図7Bの構成において、距離r2、開き角度θ2および増幅率eは、下式でそれぞれ表される。
【数2】
【0032】
伝達ピン6が第1ジョー3と一体である構成において、図9Aおよび図9Bに示されるように、スリット8の一端が、第2ジョー4の外周面に開口していてもよい。図9Aのスリット8は、第2ジョー4の内面から左右方向の途中位置まで形成されている。図9Bのスリット8は、第2ジョー4を左右方向に貫通している。
ジョー3,4の組み立て時に、第2ジョー4の外周面の開口からスリット8内に伝達ピン6を挿入することによって、ジョー3,4を容易に組み立てることができる。
【0033】
図10Aおよび図10Bに示されるように、スリット8が、ジョー3,4の閉状態での伝達ピン6の位置か第2ジョー4の外周面まで第2回転軸Bを通過して延びて、スリット8の一端が第2ジョー4の外周面に開口していてもよい。スリット8は、図10Aおよび図10Bに示されるような直線状であってもよく、第2回転軸Bと外周面の開口との間で湾曲または屈曲していてもよい。
ジョー3,4の組み立て工程において、スリット8内へ伝達ピン6を挿入した後に、連結ピン10がスリット8内に挿入される。したがって、伝達ピン6がスリット8内から抜けることを、連結ピン10によって防止することができる。また、連結ピン10によってジョー3,4の開閉の動作域が制限されるので、ジョー3,4の開閉動作が不安定になることがない。
【0034】
伝達ピン6が第1ジョー3と一体である構成において、図11に示されるように、第1ジョー3の内部に、第1ジョー3の先端部から基端面まで長手方向に連続する空洞13を形成することが可能である。この空洞13を配線経路として利用して、第1ジョー3に様々な機能を持たせることができる。
例えば、第1ジョー3にエネルギ処置デバイスとしての機能を付与する場合、第1ジョー3内のエネルギ処置部14にエネルギ源を供給するケーブル15が、空洞13内に配線される。エネルギ処置部14は、エネルギ源が供給されることによって、熱、超音波または高周波電流のようなエネルギを放出する。
第1ジョー3に把持力または組織の硬さを測定する機能を付与する場合、第1ジョー3に接触センサが搭載され、接触センサのケーブルが空洞13内に配線される。
【0035】
本実施形態において、回転軸A,Bが上下方向に並列に配置されていることとしたが、これに代えて、図12Aおよび図12Bに示されるように、回転軸A,Bが前後方向に直列に配置されていてもよい。図12Aおよび図12Bにおいて、上側のジョーが、駆動側の第1ジョー3であり、下側のジョーが、従動側の第2ジョー4である。第2ジョー4の回転軸Bは、第1ジョー3の回転軸Aよりも先端側に配置されることが好ましい。
回転軸A,Bを前後方向に配列することによって、把持機構1を上下方向に細径化することができる。また、回転軸A,Bが上下方向に配列される構成と比較して、駆動用のガイド面11の外径を大きくし、把持力を増大することができる。
【0036】
ジョー3,4が閉じた状態において、第1回転軸Aは、ジョー3,4の外径Dの中心に位置することが好ましい。ジョー3,4の外径Dは、ジョー3,4の閉状態での第1ジョー3の上面から第2ジョー4の下面までの寸法である。この構成によれば、ガイド面11の外径を把持機構1の外径Dと略等しくすることによって、外径Dを増大させない範囲で、ワイヤ5から第1ジョー3に付与される駆動力(回転力)を最大化することができる。
【0037】
図13Aおよび図13Bは、並列配置の回転軸A,Bの場合と直列配置の回転軸A,Bの場合の、把持力の大きさを比較している。
図13Aの並列配置の回転軸A,Bの場合、ガイド面11の半径は把持機構1の外径Dの1/3以下に設計される。この場合、把持力Fpは、下式(1)で表される。
図13Bの直列配置の回転軸A,Bの場合、ガイド面11の半径は外径Dの1/2以下に設計される。この場合、把持力Fsは、下式(2)で表される。
式(1),(2)において、Lは、第1ジョー3の先端から回転軸Aまでの長さである。Finは、ワイヤ5aから伝達ピン6に入力される回転力である。
【0038】
【数3】

【数4】
【0039】
把持力Fsが把持力Fpよりも大きい(Fs>Fp)ためには、長さLおよび距離Rが下式(3)を満足すればよい。
L>2e/(1+e) × R …(3)
3つのスリット7,8,12が設けられている構成の場合、L>1.13Rを満たす。伝達ピン6が一方のジョー3と一体である構成の場合、L>1.09Rを満たす。すなわち、様々なスリット7,8,12および伝達ピン6の構成において、式(3)が満たされる。よって、回転軸A,Bを直列に配置することによって、把持力を増大することができる。
【0040】
回転軸A,Bが直列配置された構成において、図14に示されるように、第2ジョー4の回転軸Bは、把持機構1の外径Dの中心(一点鎖線参照。)よりも第1ジョー3側(上側)に位置していてもよい。
図15Aおよび図15Bは、第2回転軸Bの位置と、第2ジョー4の開き角度との関係を説明している。図15Aおよび図15Bにおいて、二点鎖線は、第2回転軸Bが外径Dの中心に位置する場合の第2ジョー4の位置を示している。
【0041】
図15Aに示されるように、第2回転軸Bが外径Dの中心よりも上側に位置している場合、開状態において、第2ジョー4は、二点鎖線で示される位置よりも下側にオフセットする。一方、図15Bに示されるように、第2回転軸Bが外径Dの中心よりも下側に位置している場合、開状態において、第2ジョー4は、一点鎖線で示される位置よりも上側にオフセットする。
このように、第2回転軸Bが外径Dの中心よりも上側(第1ジョー3側)に配置されることによって、ジョー3,4間の上下方向の開き幅を広げることができ、生体組織等の把持対象をジョー3,4によってより容易に把持することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 把持機構
2 フレーム
3 第1ジョー
4 第2ジョー
5,5a,5b ワイヤ
6 伝達ピン
7 スリット(第1スリット)
8 スリット(第2スリット)
9,10 連結ピン
11 ガイド面
12 スリット(第3スリット)
A 第1回転軸
B 第2回転軸
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15A
図15B