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特許7066881マスクブランク、位相シフトマスク、位相シフトマスクの製造方法及び半導体デバイスの製造方法
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  • 特許-マスクブランク、位相シフトマスク、位相シフトマスクの製造方法及び半導体デバイスの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】マスクブランク、位相シフトマスク、位相シフトマスクの製造方法及び半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/32 20120101AFI20220506BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20220506BHJP
【FI】
G03F1/32
G03F7/20 521
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2020572202
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2020004507
(87)【国際公開番号】W WO2020166475
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2019023891
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098268
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 豊
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150865
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 司
(72)【発明者】
【氏名】前田 仁
(72)【発明者】
【氏名】野澤 順
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 博明
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-504497(JP,A)
【文献】特開2001-201842(JP,A)
【文献】特開2003-322948(JP,A)
【文献】特開平06-075361(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00-1/86
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に、位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、KrFエキシマレーザーの露光光を2%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から下層および上層が順に積層した構造を含み、
前記下層の前記露光光の波長における屈折率をn、前記上層の前記露光光の波長における屈折率をnとしたとき、n>nの関係を満たし、
前記下層の前記露光光の波長における消衰係数をk、前記上層の前記露光光の波長における消衰係数をkとしたとき、k>kの関係を満たし、
前記下層の厚さをd、前記上層の厚さをdとしたとき、d<dの関係を満たし、
前記下層の消衰係数kは、1.0以上であり、
前記位相シフト膜における前記上層および前記下層は、ケイ素と窒素を含有する材料で形成されていることを特徴とするマスクブランク。
【請求項2】
前記上層の屈折率nは、2.0以上であることを特徴とする請求項1記載のマスクブランク。
【請求項3】
前記下層の屈折率nは、2.2以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランク。
【請求項4】
前記上層の厚さdは、前記下層の厚さdの2倍以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項5】
前記下層の屈折率n と前記上層の屈折率n との差は、0.5以下であり、前記下層の消衰係数k と前記上層の消衰係数k との差は、2.5以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項6】
前記下層は、前記透光性基板の表面に接して設けられていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項7】
前記下層の厚さdは、40nm以下であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項8】
前記位相シフト膜上に、遮光膜を備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
【請求項9】
透光性基板上に、転写パターンを有する位相シフト膜を備えた位相シフトマスクであって、
前記位相シフト膜は、KrFエキシマレーザーの露光光を2%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から下層および上層が順に積層した構造を含み、
前記下層の前記露光光の波長における屈折率をn、前記上層の前記露光光の波長における屈折率をnとしたとき、n>nの関係を満たし、
前記下層の前記露光光の波長における消衰係数をk、前記上層の前記露光光の波長における消衰係数をkとしたとき、k>kの関係を満たし、
前記下層の厚さをd、前記上層の厚さをdとしたとき、d<dの関係を満たし、
前記下層の消衰係数kは、1.0以上であり、
前記位相シフト膜における前記上層および前記下層は、ケイ素と窒素を含有する材料で形成されていることを特徴とする位相シフトマスク。
【請求項10】
前記上層の屈折率nは、2.0以上であることを特徴とする請求項9記載の位相シフトマスク。
【請求項11】
前記下層の屈折率nは、2.2以上であることを特徴とする請求項9または10に記載の位相シフトマスク。
【請求項12】
前記上層の厚さdは、前記下層の厚さdの2倍以上であることを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項13】
前記下層の屈折率n と前記上層の屈折率n との差は、0.5以下であり、前記下層の消衰係数k と前記上層の消衰係数k との差は、2.5以下であることを特徴とする請求項9から12のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項14】
前記下層は、前記透光性基板の表面に接して設けられていることを特徴とする請求項9から13のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項15】
前記下層の厚さdは、40nm以下であることを特徴とする請求項9から14のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項16】
前記位相シフト膜上に、遮光帯を含むパターンを有する遮光膜を備えることを特徴とする請求項9から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【請求項17】
請求項8記載のマスクブランクを用いた位相シフトマスクの製造方法であって、
ドライエッチングにより前記遮光膜に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンを有する遮光膜をマスクとするドライエッチングにより前記位相シフト膜に転写パターンを形成する工程と、
遮光帯を含むパターンを有するレジスト膜をマスクとするドライエッチングにより前記遮光膜に遮光帯を含むパターンを形成する工程と
を備えることを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【請求項18】
請求項16記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に前記転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【請求項19】
請求項17記載の位相シフトマスクの製造方法により製造された位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に前記転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク、そのマスクブランクを用いて製造された位相シフトマスクおよびその製造方法に関するものである。また、本発明は、上記の位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体デバイスの製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。また、この微細パターンの形成には通常何枚もの転写用マスクと呼ばれている基板が使用される。半導体デバイスのパターンを微細化するに当たっては、転写用マスクに形成されるマスクパターンの微細化に加え、フォトリソグラフィーで使用される露光光源の波長の短波長化が必要となる。半導体装置製造の際の露光光源としては、近年ではKrFエキシマレーザー(波長248nm)から、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと短波長化が進んでいる。
【0003】
特許文献1では、透明基板の表面に窒化されたモリブデン及びシリコン(MoSiN系材料)の薄膜からなる光半透過膜を備える位相シフトマスクが開示されている。また、この光半透過膜は、KrFエキシマレーザーの露光光に対して実質的に露光に寄与しない強度で透過する機能と、この光半透過膜を透過した露光光に対して光の位相をシフトさせる機能を有していることが開示されている。
【0004】
特許文献2では、ArFエキシマレーザーの露光光に適した位相シフト膜を備えるマスクブランクが開示されている。この位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光を所定の透過率で透過する機能と、その位相シフト膜を透過する露光光に対して所定の位相差を生じさせる機能を有している。それに加え、この位相シフト膜は、ArFエキシマレーザーの露光光に対する裏面反射率が高くなる機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第2966369公報
【文献】特許第6058757公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ハーフトーン型位相シフトマスク(以下、単に位相シフトマスクという。)の位相シフト膜は、露光光を所定の透過率で透過させる機能と、その位相シフト膜内を透過する露光光に対してその位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過する露光光との間で所定の位相差を生じさせる機能を併せ持つ必要がある。昨今、半導体デバイスの微細化がさらに進み、マルチプルパターニング技術等の露光技術の適用も始まっている。1つの半導体デバイスを製造するのに用いられる転写用マスクセットの各転写用マスク同士における重ね合わせ精度に対する要求がより厳しくなってきている。このため、位相シフトマスクの場合においても、位相シフト膜のパターン(位相シフトパターン)の熱膨張を抑制し、これに起因する位相シフトパターンの移動を抑制することに対する要求が高まってきている。
【0007】
特許文献2では、位相シフトマスクが露光装置にセットされて透光性基板側からArFエキシマレーザーの露光光の照射を受けたときの、薄膜パターンの裏面反射率(透光性基板側の反射率)を従来よりも高くしている。裏面反射率を従来よりも高くすることによって、露光光の光エネルギーを薄膜が吸収して変換される熱を低減し、透光性基板の熱膨張に伴う薄膜パターンの位置ずれの発生を抑制している。
【0008】
一般に、半導体デバイスは、半導体基板上に複数層の回路パターンが積層した多層構造を有している。しかし、その半導体デバイス内の全ての層が微細な回路パターンであるとは限らない。例えば、下層の微細な回路パターンと上層の回路パターンを接続する貫通電極を有する層は、比較的疎な回路パターンである場合が多い。また、多層構造の半導体デバイスにおいて、下側の層には回路線幅の小さい微細な回路パターンが形成され、上側の層には回路線幅の大きい比較的疎な回路パターンが形成される場合が多い。このような比較的疎なパターンを形成するためには、ArFエキシマレーザーの露光光(以下、ArF露光光という。)の露光装置を用いることは必須ではない。KrFエキシマレーザーの露光光(以下、KrF露光光という。)の露光装置を用いてもその比較的疎なパターンを形成することができる。多層構造の半導体デバイスを製造する際、各層の回路パターンの疎密に応じてArF露光光の露光装置と、KrF露光光の露光装置を使い分けることで、半導体デバイス製造のスループットを向上することができ、量産時の生産性を高めることができる。また、KrF露光光はArF露光光よりも光エネルギーが低く、露光時に位相シフトマスクがKrF露光光から受ける影響はArF露光光よりも小さくなる。このため、KrF露光光用の位相シフトマスクの寿命は、ArF露光光用の位相シフトマスクよりも長くなる。これらのことから、多層構造の半導体デバイスの製造において、KrF露光光の露光装置とArF露光光の露光装置と使い分けることが検討されはじめている。
【0009】
従来、KrF露光光による露光転写を用いて製造される半導体デバイスは、多層構造の全ての層が比較的疎な回路パターン(回路線幅が広く、回路線同士の間隔も広い。)であった。このため、各層間の回路パターンの位置精度は比較的低くでも問題にはならなかった。しかしながら、最近の半導体デバイスは、上述のように微細な回路パターンが形成される層と、比較的疎な回路パターンが形成される層とを併せ持つものが多い。微細な回路パターンは、回路線幅が狭く、回路線同士の間隔も狭い。このため、微細な回路パターンと比較的疎な回路パターンを電気的に接続する場合、比較的疎な回路パターンに対しても、微細な回路パターンとの接続を確保するために高い位置精度が要求される。従来のKrFエキシマレーザー用の位相シフトマスクの場合、位相シフト膜でのKrF露光光の吸収率が比較的高く、裏面反射率が比較的低い。その位相シフト膜で吸収されたKrF露光光の光エネルギーは熱に変換される。その位相シフト膜の熱が透光性基板に伝導して位相シフト膜のパターンの位置ずれにつながり、位置精度の低下の要因となり、問題となることが分かった。
【0010】
本発明は、従来の課題を解決するためになされたものであり、透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクにおいて、KrF露光光に対して所定の透過率で透過する機能とその透過するKrF露光光に対して所定の位相差を生じさせる機能を兼ね備え、位相シフト膜のパターン(位相シフトパターン)の熱膨張を抑制し、これに起因する位相シフトパターンの移動を抑制することのできる位相シフト膜を備えるマスクブランクを提供することを目的としている。また、このマスクブランクを用いて製造される位相シフトマスクを提供することを目的としている。そして、本発明は、このような位相シフトマスクを用いた半導体デバイスの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を達成するため、本発明は以下の構成を有する。
(構成1)
透光性基板上に、位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、
前記位相シフト膜は、KrFエキシマレーザーの露光光を2%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から下層および上層が順に積層した構造を含み、
前記下層の前記露光光の波長における屈折率をn、前記上層の前記露光光の波長における屈折率をnとしたとき、n>nの関係を満たし、
前記下層の前記露光光の波長における消衰係数をk、前記上層の前記露光光の波長における消衰係数をkとしたとき、k>kの関係を満たし、
前記下層の厚さをd、前記上層の厚さをdとしたとき、d<dの関係を満たすことを特徴とするマスクブランク。
【0012】
(構成2)
前記上層の屈折率nは、2.0以上であることを特徴とする構成1記載のマスクブランク。
(構成3)
前記下層の屈折率nは、2.2以上であることを特徴とする構成1または2に記載のマスクブランク。
【0013】
(構成4)
前記下層の消衰係数kは、1.0以上であることを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成5)
前記上層の厚さdは、前記下層の厚さdの2倍以上であることを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランク。
【0014】
(構成6)
前記位相シフト膜は、ケイ素と窒素を含有する材料で形成されていることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成7)
前記下層は、前記透光性基板の表面に接して設けられていることを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のマスクブランク。
【0015】
(構成8)
前記下層の厚さdは、40nm以下であることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載のマスクブランク。
(構成9)
前記位相シフト膜上に、遮光膜を備えることを特徴とする構成1から8のいずれかに記載のマスクブランク。
【0016】
(構成10)
透光性基板上に、転写パターンを有する位相シフト膜を備えた位相シフトマスクであって、
前記位相シフト膜は、KrFエキシマレーザーの露光光を2%以上の透過率で透過させる機能と、前記位相シフト膜を透過した前記露光光に対して前記位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した前記露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、
前記位相シフト膜は、前記透光性基板側から下層および上層が順に積層した構造を含み、
前記下層の前記露光光の波長における屈折率をn、前記上層の前記露光光の波長における屈折率をnとしたとき、n>nの関係を満たし、
前記下層の前記露光光の波長における消衰係数をk、前記上層の前記露光光の波長における消衰係数をkとしたとき、k>kの関係を満たし、
前記下層の厚さをd、前記上層の厚さをdとしたとき、d<dの関係を満たすことを特徴とする位相シフトマスク。
(構成11)
前記上層の屈折率nは、2.0以上であることを特徴とする構成10記載の位相シフトマスク。
【0017】
(構成12)
前記下層の屈折率nは、2.2以上であることを特徴とする構成10または11に記載の位相シフトマスク。
(構成13)
前記下層の消衰係数kは、1.0以上であることを特徴とする構成10から12のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0018】
(構成14)
前記上層の厚さdは、前記下層の厚さdの2倍以上であることを特徴とする構成10から13のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成15)
前記位相シフト膜は、ケイ素と窒素を含有する材料で形成されていることを特徴とする構成10から14のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0019】
(構成16)
前記下層は、前記透光性基板の表面に接して設けられていることを特徴とする構成10から15のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成17)
前記下層の厚さdは、40nm以下であることを特徴とする構成10から16のいずれかに記載の位相シフトマスク。
【0020】
(構成18)
前記位相シフト膜上に、遮光帯を含むパターンを有する遮光膜を備えることを特徴とする構成10から17のいずれかに記載の位相シフトマスク。
(構成19)
構成9記載のマスクブランクを用いた位相シフトマスクの製造方法であって、
ドライエッチングにより前記遮光膜に転写パターンを形成する工程と、
前記転写パターンを有する遮光膜をマスクとするドライエッチングにより前記位相シフト膜に転写パターンを形成する工程と、
遮光帯を含むパターンを有するレジスト膜をマスクとするドライエッチングにより前記遮光膜に遮光帯を含むパターンを形成する工程と
を備えることを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【0021】
(構成20)
構成18記載の位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
(構成21)
構成19記載の位相シフトマスクの製造方法により製造された位相シフトマスクを用い、半導体基板上のレジスト膜に転写パターンを露光転写する工程を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明のマスクブランクは、透光性基板上に位相シフト膜を備えており、その位相シフト膜は、KrF露光光に対して所定の透過率で透過する機能とその透過するKrF露光光に対して所定の位相差を生じさせる機能を兼ね備え、位相シフト膜のパターン(位相シフトパターン)の熱膨張を抑制し、これに起因する位相シフトパターンの移動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態におけるマスクブランクの構成を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態における位相シフトマスクの製造工程を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の各実施の形態について説明する。
本発明者らは、位相シフトマスクを製造するためのマスクブランクにおいて、そのマスクブランクの位相シフト膜が、KrF露光光に対して所定の透過率(2%以上)で透過する機能とその透過するKrF露光光に対して所定の位相差(150度以上210度以下)を生じさせる機能を兼ね備え、位相シフト膜のパターン(位相シフトパターン)の熱膨張を抑制し、これに起因する位相シフトパターンの移動を抑制するために必要となる構成について、鋭意研究を行った。
【0025】
位相シフトパターンの熱膨張および該パターンの移動を抑制する観点からは、KrF露光光に対する透光性基板側(裏面側)の反射率(裏面反射率)を高めることが重要である。透光性基板上に設けられた薄膜の裏面反射率を高めるには、薄膜の少なくとも透光性基板側の層を露光波長における消衰係数kが高い材料で形成することが必要となる。単層構造の位相シフト膜は、その求められる光学特性と膜厚を満たす必要性から、屈折率nが大きく、かつ消衰係数kが小さい材料で形成されることが一般的である。ここで、位相シフト膜を形成する材料の組成を調整して消衰係数kを大幅に高くすることで位相シフト膜の裏面反射率を高めることを考える。この調整を行うと、その位相シフト膜は所定範囲の透過率の条件を満たせなくなるため、この位相シフト膜の厚さを大幅に薄くする必要が生じる。しかし、今度は位相シフト膜の厚さを薄くしたことによって、その位相シフト膜は所定範囲の位相差の条件を満たせなくなってしまう。位相シフト膜を形成する材料の屈折率nを大きくすることには限界があるため、単層の位相シフト膜で裏面反射率を高くすることは難しい。
【0026】
一方、位相シフト膜の透光性基板側に裏面反射率を高めるために多層構造の反射膜を設けることは、位相シフト膜の合計の厚さが大幅に厚くなるという問題や、所定範囲の透過率と位相差の条件を満たすための調整が難しいという問題がある。そこで、位相シフト膜を下層と上層を含む積層構造とし、この積層構造の全体で裏面反射率を高めることを設計思想としてさらなる検討を行った。
【0027】
下層と上層を含む積層構造の位相シフト膜で、単層構造の位相シフト膜よりも裏面反射率を高めるには、透光性基板側の下層の消衰係数kを上層の消衰係数kよりも大きくすることが必要となる。この点に関しては、ArF露光光用の位相シフト膜、およびKrF露光光用の位相シフト膜のいずれの場合も同じである。従来、位相シフト膜には、ケイ素を含有する材料が主に使用されてきている。ArF露光光用の位相シフト膜の場合、窒素の含有量が増えるにつれて、ArF露光光の屈折率nが増加し、ArF露光光の消衰係数kが減少する傾向を有する。このため、下層にArF露光光の消衰係数kが大きい材料を選定すると、下層のArF露光光の屈折率nは必然的に小さくなる。
【0028】
位相シフト膜は、その位相シフト膜の内部を透過する露光光に対し、その位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間で所定の位相差を生じさせる機能を有する必要がある。また、位相シフト膜の厚さは薄い方が好ましい。このため、ArF露光光用の位相シフト膜の上層には、ArF露光光の屈折率nが高い材料を選定することが望まれる。これらのことを考慮すると、ArF露光光用の位相シフト膜の場合、下層のArF露光光の屈折率nが上層のArF露光光の屈折率nよりも小さく、下層のArF露光光の消衰係数kが上層のArF露光光の消衰係数kよりも大きい構成とすることが好ましいといえる。このような構成の位相シフト膜は、透光性基板とArF露光光の消衰係数kが大きい下層との界面でArF露光光の一部を反射する。それに加え、その下層に入射したArF露光光の一部をArF露光光の屈折率nの差が大きい下層と上層との界面でさらに反射する。これにより、位相シフト膜のArF露光光に対する裏面反射率を単層構造の位相シフト膜よりも高くすることが可能となる。
【0029】
一方、KrF露光光用の位相シフト膜は、ArF露光光用の位相シフト膜とは状況が異なる。KrF露光光用の位相シフト膜の場合、窒素の含有量が増加するにつれて、KrF露光光の消衰係数kが低下する点については、ArF露光光用の位相シフト膜の場合と同様である。しかし、KrF露光光用の位相シフト膜の場合、窒素の含有量がゼロから所定量まで増加する段階ではKrF露光光の屈折率nが増加していくが、窒素含有量が所定量を超えて増加すると、窒素を含有しないものよりは増加するものの、逆にKrF露光光の屈折率nが低下していく傾向があることが分かった。この点は、ArF露光光用の位相シフト膜とは大きく異なる。KrF露光光用の位相シフト膜の場合も、下層にKrF露光光の消衰係数kが大きい材料を用い、上層にKrF露光光の消衰係数kが小さい材料を用いる必要がある。しかし、下層と上層の窒素含有量によっては、下層と上層のKrF露光光の屈折率nが同じになってしまう場合がある。さらに、上記のような窒素含有量とKrF露光光の屈折率nの関係から、上層のKrF露光光の屈折率nが下層のKrF露光光の屈折率nよりも大きくする場合、その設計自由度は比較的狭い。
【0030】
以上の要素を考慮すると、KrF露光光用の位相シフト膜の場合、下層のKrF露光光の屈折率nが上層のKrF露光光の屈折率nよりも大きく、下層のKrF露光光の消衰係数kが上層のKrF露光光の消衰係数kよりも大きい構成とすることが好ましい。このような構成の位相シフト膜は、透光性基板とKrF露光光の消衰係数kが大きい下層との界面でKrF露光光の一部を反射する。それに加え、その下層に入射したArF露光光の一部をKrF露光光の屈折率nに差がある下層と上層との界面でさらに反射する。これにより、位相シフト膜のKrF露光光の対する裏面反射率を単層構造の位相シフト膜よりも高くすることが可能となる。さらに、このような下層と上層を有する位相シフト膜の場合、その位相シフト膜に求められる2つの基本的な機能(KrF露光光に対する所定の透過率と所定の位相差の機能。)を持たせるには、KrF露光光の消衰係数が小さい上層の厚さをKrF露光光の消衰係数が大きい下層の厚さよりも厚くすることが好ましい。以上のような位相シフト膜の構成とすることで、前記の技術的課題を解決できるという結論に至った。
【0031】
すなわち、本発明のマスクブランクは、透光性基板上に位相シフト膜を備えたマスクブランクであって、位相シフト膜は、KrFエキシマレーザーの露光光を2%以上の透過率で透過させる機能と、位相シフト膜を透過した露光光に対して位相シフト膜の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間で150度以上210度以下の位相差を生じさせる機能とを有し、位相シフト膜は、透光性基板側から下層および上層が順に積層した構造を含み、下層の露光光の波長における屈折率をn、上層の露光光の波長における屈折率をnとしたとき、n>nの関係を満たし、下層の露光光の波長における消衰係数をk、上層の露光光の波長における消衰係数をkとしたとき、k>kの関係を満たし、下層の厚さをd、上層の厚さをdとしたとき、d<dの関係を満たすことを特徴とするものである。
【0032】
図1は、本発明の実施形態に係るマスクブランク100の構成を示す断面図である。図1に示す本発明のマスクブランク100は、透光性基板1上に、位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4がこの順に積層された構造を有する。
【0033】
透光性基板1は、合成石英ガラスのほか、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、低熱膨張ガラス(SiO-TiOガラス等)などで形成することができる。これらの中でも、合成石英ガラスは、KrFエキシマレーザー光に対する透過率が高く、マスクブランクの透光性基板1を形成する材料として特に好ましい。透光性基板1を形成する材料のKrF露光光の波長(約248nm)における屈折率nは、1.44以上1.58以下であると好ましく、1.46以上1.56以下であるとより好ましく、1.48以上1.54以下であるとさらに好ましい。以降、単に屈折率nと記述している場合、KrF露光光の波長に対する屈折率nのことを意味するものとし、単に消衰係数kと記述している場合、KrF露光光の波長に対する消衰係数kのことを意味するものとする(添え字付きのn,kについても同様とする)。
【0034】
位相シフト膜2には、KrF露光光に対する透過率が2%以上40%以下であることが求められる。位相シフト膜2の内部を透過した露光光と空気中を透過した露光光との間で十分な位相シフト効果を生じさせるには、露光光に対する透過率が少なくとも2%は必要である。位相シフト膜2の露光光に対する透過率は、3%以上であると好ましく、4%以上であるとより好ましい。他方、位相シフト膜2の露光光に対する透過率が高くなるにつれて、裏面反射率を高めることが難しくなる。このため、位相シフト膜2の露光光に対する透過率は、40%以下であると好ましく、35%以下であるとより好ましく、30%以下であるとさらに好ましい。
【0035】
位相シフト膜2は、適切な位相シフト効果を得るために、透過するKrF露光光に対し、この位相シフト膜2の厚さと同じ距離だけ空気中を通過した光との間で生じる位相差が150度以上210度以下の範囲になるように調整されていることが求められる。位相シフト膜2における前記位相差は、155度以上であることが好ましく、160度以上であるとより好ましい。他方、位相シフト膜2における前記位相差は、200度以下であることが好ましく、190度以下であるとより好ましい。位相シフト膜2にパターンを形成するときのドライエッチング時に、透光性基板1が微小にエッチングされることによる位相差の増加の影響を小さくするためである。
【0036】
位相シフト膜2は、位相シフト膜2に形成されたパターンの熱膨張およびパターンの移動を抑制する観点から、KrF露光光に対する透光性基板1側(裏面側)の反射率(裏面反射率)が20%以上であることが好ましい。位相シフト膜2は、KrF露光光に対する裏面反射率が25%以上であると好ましい。他方、位相シフト膜2の裏面反射率が高すぎると、このマスクブランク100から製造された位相シフトマスク200を用いて転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)へ露光転写を行ったときに、位相シフト膜2の裏面側の反射光によって露光転写像に与える影響が大きくなるため、好ましくない。この観点から、位相シフト膜2のKrF露光光に対する裏面反射率は、45%以下であることが好ましく、40%以下であるとより好ましい。
【0037】
位相シフト膜2は、透光性基板1側から、下層21と上層22が積層した構造を有する。位相シフト膜2の全体で、上記の透過率、位相差、裏面反射率の各条件を少なくとも満たす必要がある。位相シフト膜2がこれらの条件を満たすには、下層21の屈折率nと、上層22の屈折率nは、n>nの関係を満たし、下層21の消衰係数kと、上層22の消衰係数kは、k>kの関係を満たし、下層21の厚さdと、上層22の厚さdは、d<dの関係を満たすことが必要である。
【0038】
位相シフト膜2の下層21の屈折率nは、2.2以上であることが好ましい。下層21の屈折率nは、2.3以上であるとより好ましく、2.35以上であるとさらに好ましい。また、下層21の屈折率nは、3.0以下であると好ましく、2.9以下であるとより好ましい。下層21の消衰係数kは、1.0以上であることが好ましい。下層21の消衰係数kは、1.2以上であるとより好ましく、1.4以上であるとさらに好ましい。また、下層21の消衰係数kは、3.8以下であると好ましく、3.6以下であるとより好ましい。
【0039】
他方、位相シフト膜2の下層21と上層22との関係を満たすには、上層22の屈折率nは、2.0以上であることが好ましい。上層22の屈折率nは、2.1以上であるとより好ましく、2.2以上であるとさらに好ましい。また、上層22の屈折率nは、2.8以下であると好ましく、2.6以下であるとより好ましい。上層22の消衰係数kは、0.01以上であると好ましく、0.02以上であるとより好ましい。また、上層22の消衰係数kは、0.8以下であると好ましく、0.6以下であるとより好ましい。
【0040】
下層21の屈折率nと上層22の屈折率nとの差は、裏面反射率を高める観点から0.05以上であると好ましい。また、下層21の屈折率nと上層22の屈折率nとの差は、1.0以下であると好ましく、0.5以下であるとより好ましい。薄膜のKrF露光光に対する屈折率nは、ArF露光光に対する屈折率nに比べて、その薄膜の組成や成膜方法を調整することによる変化量が小さい。このため、下層21の屈折率nと上層22の屈折率nとの差を1.0よりも大幅に大きくしようとすると、下層21や上層22のエッチング特性、耐久性などが悪化する恐れがある。
【0041】
下層21の消衰係数kと上層22の消衰係数kとの差は、1.0以上であると好ましく、1.2以上であるとより好ましい。上記の理由から、下層21の屈折率nと上層22の屈折率nとの差をあまり大きくすることは難しいため、下層21の消衰係数kと上層22の消衰係数kとの差を1.0、好ましくは1.2よりも大きくすることで裏面反射率を高めることが望ましい。下層21の消衰係数kと上層22の消衰係数kとの差は、2.5以下であると好ましく、2.3以下であるとより好ましい。薄膜のKrF露光光に対する消衰係数kは、ArF露光光に対する消衰係数kに比べて小さい。下層21の消衰係数kと上層22の消衰係数kとの差を2.5よりも大幅に大きくするには、下層21の消衰係数kを大きくすることには限界があるため、上層22の消衰係数kを大幅に小さくする必要が生じる。この場合、位相シフト膜2の全体膜厚を大幅に厚くすることが必要になってしまう。
【0042】
位相シフト膜2を含む薄膜の屈折率nと消衰係数kは、その薄膜の組成だけで決まるものではない。その薄膜の膜密度や結晶状態なども屈折率nや消衰係数kを左右する要素である。このため、反応性スパッタリングで薄膜を成膜するときの諸条件を調整して、その薄膜が所望の屈折率nおよび消衰係数kとなるように成膜する。下層21と上層22を、上記の屈折率nと消衰係数kの範囲にするには、反応性スパッタリングで成膜する際に、貴ガスと反応性ガス(酸素ガス、窒素ガス等)の混合ガスの比率を調整することだけに限られない。反応性スパッタリングで成膜する際における成膜室内の圧力、スパッタターゲットに印加する電力、ターゲットと透光性基板1との間の距離等の位置関係など多岐にわたる。また、これらの成膜条件は成膜装置に固有のものであり、形成される下層21および上層22が所望の屈折率nおよび消衰係数kになるように適宜調整されるものである。
【0043】
一方、位相シフト膜2の厚さは120nm以下であることが望まれる。他方、上記の位相シフト膜2の下層21の厚さdと上層22の厚さdの関係を満たす必要もある。特に位相シフト膜2の全体でのKrF露光光に対する透過率の点を考慮すると、下層21の厚さdは、40nm以下であることが好ましく、35nm以下であるとより好ましく、30nm以下であるとさらに好ましい。また、特に位相シフト膜2の裏面反射率の点を考慮すると、下層21の厚さdは、3nm以上であることが好ましく、5nm以上であるとより好ましく、7nm以上であるとさらに好ましい。
【0044】
特に位相シフト膜2の全体でのKrF露光光に対する位相差と裏面反射率の点を考慮すると、上層22の厚さdは、下層21の厚さdの2倍以上であることが好ましく、2.2倍以上であるとより好ましい。また、特に位相シフト膜2の厚さは120nm以下とすることを考慮すると、上層22の厚さdは、下層21の厚さdの15倍以下であることが好ましく、12倍以下であるとより好ましい。上層22の厚さdは、110nm以下であることが好ましく、100nm以下であるとより好ましい。
【0045】
位相シフト膜2は、ケイ素と窒素を含有する材料で形成されることが好ましい。また、位相シフト膜2は、ケイ素と窒素に加え、金属元素をさらに含有する材料で形成されるようにしてもよい。位相シフト膜2を形成する材料中に含有させる金属元素としては、遷移金属元素であることが好ましい。この場合の遷移金属元素としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)およびパラジウム(Pd)のうちいずれか1つ以上の金属元素が挙げられる。また、位相シフト膜2を形成する材料中に含有させる遷移金属元素以外の金属元素としては、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびガリウム(Ga)などが挙げられる。位相シフト膜2を形成する材料には、前記の元素に加え、炭素(C)、水素(H)、ホウ素(B)、ゲルマニウム(Ge)およびアンチモン(Sb)等の元素が含まれてもよい。また、位相シフト膜2を形成する材料には、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)等の不活性ガスが含まれてもよい。
【0046】
一方、位相シフト膜2は、ケイ素と窒素とからなる材料、または非金属元素および半金属元素から選ばれる1以上の元素と窒素とケイ素とからなる材料で形成してもよい。この場合、位相シフト膜2は、ケイ素に加え、いずれの半金属元素を含有してもよい。この半金属元素の中でも、ホウ素、ゲルマニウム、アンチモン及びテルルから選ばれる1以上の元素を含有させると、スパッタリングターゲットとして用いるケイ素の導電性を高めることが期待できるため、好ましい。
【0047】
位相シフト膜2は、窒素に加え、いずれの非金属元素を含有してもよい。この場合の非金属元素は、狭義の非金属元素(窒素、炭素、酸素、リン、硫黄、セレン)、ハロゲンおよび貴ガスを含むものをいう。この非金属元素の中でも、炭素、フッ素及び水素から選ばれる1以上の元素を含有させると好ましい。位相シフト膜2は、酸素の含有量が10原子%以下であることが好ましく、5原子%以下であることがより好ましく、積極的に酸素を含有させることをしない(X線光電子分光分析等による組成分析を行ったときに検出下限値以下。)ことがさらに好ましい。
【0048】
また、上述のように、下層21の屈折率nと、上層22の屈折率nは、n>nの関係を満たし、下層21の消衰係数kと、上層22の消衰係数kは、k>kの関係を満たす必要がある。
位相シフト膜2の下層21は、酸素を実質的に含有しない材料で形成されることが好ましい。材料中の酸素含有量を増加させることによる消衰係数kの低下度合いが非常に大きく、上述の関係を満たすには好ましくないためである。ここで、酸素を実質的に含有しない材料とは、材料中の酸素含有量が少なくとも5原子%以下である材料である。位相シフト膜2の下層21を形成する材料の酸素含有量は、3原子%以下であると好ましく、X線光電子分光法等による組成分析を行ったときに検出下限値以下であるとより好ましい。
また、上層22は、表層にその表層を除いた部分の上層22よりも酸素含有量が多い層(以下、単に表面酸化層という。)を有してもよい。上層22の表面酸化層は、厚さが5nm以下であることが好ましく、3nm以下であるとより好ましい。なお、上記の上層22の屈折率nおよび消衰係数kは、表面酸化層を含む上層22全体の平均値である。上層22中の表面酸化層の比率はかなり小さいため、表面酸化層の存在が上層22全体の屈折率nおよび消衰係数kに与える影響は小さい。
【0049】
また、位相シフト膜2を形成する材料に窒素を含有することが好ましい。位相シフト膜2を形成する材料に窒素を含有させると、その材料に窒素を含有させない場合よりも屈折率nが相対的に大きくなる傾向を有し、消衰係数kが相対的に小さくなる傾向を有する。上層22には、下層21を形成する材料よりも窒素含有量を多くすることが好ましい。下層21の窒素含有量は、30原子%以下であることが好ましく、25原子%以下であるとより好ましい。一方、上層22の窒素含有量(表面酸化層を含む上層22全体の平均値)は、30原子%よりも多いことが好ましく、35原子%以上であるとより好ましい。また、上層22の窒素含有量(表面酸化層を含む上層22全体の平均値)は、54原子%以下であることが好ましく、50原子%以下であるとより好ましい。
【0050】
下層21は、透光性基板1の表面に接して形成されていることが好ましい。下層21が透光性基板1の表面と接した構成とした方が、上記の位相シフト膜2の下層21と上層22の積層構造によって生じる裏面反射率を高める効果がより得られるためである。位相シフト膜2の裏面反射率を高める効果に与える影響が微小であれば、透光性基板1と位相シフト膜2との間にエッチングストッパ膜を設けてもよい。この場合、エッチングストッパ膜の厚さは、10nm以下であることが必要であり、7nm以下であると好ましく、5nm以下であるとより好ましい。また、エッチングストッパとして有効に機能するという観点から、エッチングストッパ膜の厚さは、3nm以上であることが必要である。エッチングストッパ膜を形成する材料の消衰係数kは、0.1未満であることが必要であり、0.05以下であると好ましく、0.01以下であるとより好ましい。また、この場合のエッチングストッパ膜を形成する材料の屈折率nは、2.4以下であることが少なくとも必要であり、2.1以下であると好ましい。エッチングストッパ膜を形成する材料の屈折率nは、1.5以上であることが好ましい。
【0051】
下層21および上層22を形成する材料における金属の含有量[原子%]を金属とケイ素の合計含有量[原子%]で除した比率[%](以下、この比率を「M/[M+Si]比率」という。)は、1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であるとさらに好ましい。一方、下層21および上層22を形成する材料におけるM/[M+Si]比率は、33%以下であることが好ましく、30%以下であるとより好ましく、25%以下であるとさらに好ましい。
【0052】
下層21を形成する材料と上層22を形成する材料は、金属元素を含有させる場合には、ともに同じ金属元素を含有させることが好ましい。上層22と下層21は、同じエッチングガスを用いたドライエッチングによってパターニングされる。このため、上層22と下層21は、同じエッチングチャンバー内でエッチングすることが望ましい。上層22と下層21を形成する各材料に含有している金属元素が同じであると、上層22から下層21へドライエッチングする対象が変わっていくときのエッチングチャンバー内の環境変化を小さくすることができる。
【0053】
位相シフト膜2における下層21および上層22は、スパッタリングによって形成されるが、DCスパッタリング、RFスパッタリングおよびイオンビームスパッタリングなどのいずれのスパッタリングも適用可能である。成膜レートを考慮すると、DCスパッタリングを適用することが好ましい。導電性が低いターゲットを用いる場合においては、RFスパッタリングやイオンビームスパッタリングを適用することが好ましいが、成膜レートを考慮すると、RFスパッタリングを適用するとより好ましい。
【0054】
一方、位相シフト膜2は、上層22の上に他の層を備えた構成としてもよい。他の層は、例えば、ケイ素と酸素を含有する材料からなる最上層としてもよい。位相シフト膜2に最上層を設けることにより、遮光膜3を除去するときに行われるドライエッチングに対する位相シフト膜2の耐性をより向上させることができる。最上層は、前記のエッチング耐性の観点から、ケイ素と酸素の合計含有量が80原子%以上であることが好ましく、90原子%以上であることがより好ましく、95原子%以上であるとさらに好ましい。この最上層は、位相シフト膜2の透過率を下げることへの寄与は小さいことから、最上層の厚さは、10nm以下であることが好ましく、5nm以下であるとより好ましい。他方、前記のエッチング耐性の観点から、最上層の厚さは、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であるとより好ましい。
【0055】
マスクブランク100は、位相シフト膜2上に遮光膜3を備える。一般に、バイナリ型の転写用マスクでは、転写パターンが形成される領域(転写パターン形成領域)の外周領域は、露光装置を用いて半導体ウェハ上のレジスト膜に露光転写した際に外周領域を透過した露光光による影響をレジスト膜が受けないように、所定値以上の光学濃度(OD)を確保することが求められている。この点については、位相シフトマスクの場合も同じである。通常、位相シフトマスクを含む転写用マスクの外周領域では、ODが3.0以上あると望ましいとされており、少なくとも2.8以上は必要とされている。位相シフト膜2は所定の透過率で露光光を透過する機能を有しており、位相シフト膜2だけでは所定値の光学濃度を確保することは困難である。このため、マスクブランク100を製造する段階で位相シフト膜2の上に、不足する光学濃度を確保するために遮光膜3を積層しておくことが必要とされる。このようなマスクブランク100の構成とすることで、位相シフトマスク200(図2参照)を製造する途上で、位相シフト効果を使用する領域(基本的に転写パターン形成領域)の遮光膜3を除去すれば、外周領域に所定値の光学濃度が確保された位相シフトマスク200を製造することができる。
【0056】
遮光膜3は、単層構造および2層以上の積層構造のいずれも適用可能である。また、単層構造の遮光膜3および2層以上の積層構造の遮光膜3の各層は、膜または層の厚さ方向でほぼ同じ組成である構成であっても、層の厚さ方向で組成傾斜した構成であってもよい。
【0057】
図1に記載の形態におけるマスクブランク100は、位相シフト膜2の上に、他の膜を介さずに遮光膜3を積層した構成としている。この構成の場合の遮光膜3は、位相シフト膜2にパターンを形成する際に用いられるエッチングガスに対して十分なエッチング選択性を有する材料を適用する必要がある。この場合の遮光膜3は、クロムを含有する材料で形成することが好ましい。遮光膜3を形成するクロムを含有する材料としては、クロム金属のほか、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が挙げられる。一般に、クロム系材料は、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスでエッチングされるが、クロム金属はこのエッチングガスに対するエッチングレートがあまり高くない。塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスのエッチングガスに対するエッチングレートを高める点を考慮すると、遮光膜3を形成する材料としては、クロムに酸素、窒素、炭素、ホウ素およびフッ素から選ばれる一以上の元素を含有する材料が好ましい。また、遮光膜3を形成するクロムを含有する材料にモリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させてもよい。モリブデン、インジウムおよびスズのうち一以上の元素を含有させることで、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスに対するエッチングレートをより速くすることができる。
【0058】
一方、本発明では、別の実施形態のマスクブランク100として、位相シフト膜2と遮光膜3の間に別の膜(エッチングストッパ膜)を介する構成も含まれる。この場合においては、前記のクロムを含有する材料でエッチングストッパ膜を形成し、ケイ素を含有する材料またはタンタルを含有する材料で遮光膜3を形成する構成とすることが好ましい。
【0059】
遮光膜3を形成するケイ素を含有する材料には、遷移金属を含有させてもよく、遷移金属以外の金属元素を含有させてもよい。遮光膜3に遷移金属を含有させると、含有させない場合に比べて遮光性能が大きく向上し、遮光膜3の厚さを薄くすることが可能となるためである。遮光膜3に含有させる遷移金属としては、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、ハフニウム(Hf)、ニッケル(Ni)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、パラジウム(Pd)等のいずれか1つの金属またはこれらの金属の合金が挙げられる。遮光膜3に含有させる遷移金属元素以外の金属元素としては、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、スズ(Sn)およびガリウム(Ga)などが挙げられる。
【0060】
マスクブランク100において、遮光膜3をエッチングするときに用いられるエッチングガスに対してエッチング選択性を有する材料で形成されたハードマスク膜4を遮光膜3の上にさらに積層させた構成とすると好ましい。遮光膜3は、所定の光学濃度を確保する機能が必須であるため、その厚さを低減するには限界がある。ハードマスク膜4は、その直下の遮光膜3にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能することができるだけの膜の厚さがあれば十分であり、基本的に光学濃度の制限を受けない。このため、ハードマスク膜4の厚さは遮光膜3の厚さに比べて大幅に薄くすることができる。そして、有機系材料のレジスト膜は、このハードマスク膜4にパターンを形成するドライエッチングが終わるまでの間、エッチングマスクとして機能するだけの膜の厚さがあれば十分であるので、従来よりも大幅に厚さを薄くすることができる。レジスト膜の薄膜化は、レジスト解像度の向上とパターン倒れ防止に効果があり、微細化要求に対応していく上で極めて重要である。
【0061】
このハードマスク膜4は、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合は、前記のケイ素を含有する材料で形成されることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、有機系材料のレジスト膜との密着性が低い傾向があるため、ハードマスク膜4の表面をHMDS(Hexamethyldisilazane)処理を施し、表面の密着性を向上させることが好ましい。なお、この場合のハードマスク膜4は、SiO、SiN、SiON等で形成されるとより好ましい。
【0062】
また、遮光膜3がクロムを含有する材料で形成されている場合におけるハードマスク膜4の材料として、前記のほか、タンタルを含有する材料も適用可能である。この場合におけるタンタルを含有する材料としては、タンタル金属のほか、タンタルに窒素、酸素、ホウ素、炭素およびケイ素から選ばれる一以上の元素を含有させた材料などが挙げられる。たとえば、Ta、TaN、TaO、TaON、TaBN、TaBO、TaBON、TaCN、TaCO、TaCON、TaBCN、TaBOCN、TaSi、TaSiN、TaSiO、TaSiON、TaSiBN、TaSiBO、TaSiBON、TaSiC、TaSiCN、TaSiCO、TaSiCONなどが挙げられる。また、ハードマスク膜4は、遮光膜3がケイ素を含有する材料で形成されている場合、前記のクロムを含有する材料で形成されることが好ましい。
【0063】
マスクブランク100において、ハードマスク膜4の表面に接して、有機系材料のレジスト膜が形成されていることが好ましい。
【0064】
この実施形態の位相シフトマスク200は、マスクブランク100の位相シフト膜2に転写パターン(位相シフトパターン)が形成され、遮光膜3に遮光帯パターンが形成されていることを特徴としている。マスクブランク100にハードマスク膜4が設けられている構成の場合、この位相シフトマスク200の作成途上でハードマスク膜4は除去される。
【0065】
本発明に係る位相シフトマスク200の製造方法は、前記のマスクブランク100を用いるものであり、ドライエッチングにより遮光膜3に転写パターンを形成する工程と、転写パターンを有する遮光膜3をマスクとするドライエッチングにより位相シフト膜2に転写パターンを形成する工程と、遮光帯パターンを有するレジスト膜6bをマスクとするドライエッチングにより遮光膜3に遮光帯パターンを形成する工程とを備えることを特徴としている。以下、図2に示す製造工程にしたがって、本発明の位相シフトマスク200の製造方法を説明する。なお、ここでは、遮光膜3の上にハードマスク膜4が積層したマスクブランク100を用いた位相シフトマスク200の製造方法について説明する。また、遮光膜3にはクロムを含有する材料を適用し、ハードマスク膜4にはケイ素を含有する材料を適用している。
【0066】
まず、マスクブランク100におけるハードマスク膜4に接して、レジスト膜をスピン塗布法によって形成する。次に、レジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき転写パターン(位相シフトパターン)である第1のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、位相シフトパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。続いて、第1のレジストパターン5aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2(b)参照)。
【0067】
次に、レジストパターン5aを除去してから、ハードマスクパターン4aをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成する(図2(c)参照)。続いて、遮光パターン3aをマスクとして、フッ素系ガスを用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつ同時にハードマスクパターン4aも除去した(図2(d)参照)。
【0068】
次に、マスクブランク100上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜3に形成すべきパターン(遮光帯パターン)である第2のパターンを電子線で露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(図2(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素系ガスと酸素ガスの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図2(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(g)参照)。
【0069】
前記のドライエッチングで使用される塩素系ガスとしては、Clが含まれていれば特に制限はない。たとえば、Cl、SiCl、CHCl、CHCl、CCl、BCl等があげられる。また、前記のドライエッチングで使用されるフッ素系ガスとしては、Fが含まれていれば特に制限はない。たとえば、CHF、CF、C、C、SF等があげられる。特に、Cを含まないフッ素系ガスは、ガラス基板に対するエッチングレートが比較的低いため、ガラス基板へのダメージをより小さくすることができる。
【0070】
本発明の位相シフトマスク200は、前記のマスクブランク100を用いて作製されたものである。このため、転写パターンが形成された位相シフト膜2(位相シフトパターン2a)はKrF露光光に対する透過率が2%以上であり、かつ位相シフトパターン2aを透過した露光光と位相シフトパターン2aの厚さと同じ距離だけ空気中を通過した露光光との間における位相差が150度以上210度以下の範囲内となっている。位相シフトパターン2aは、透光性基板1側から下層21および上層22が順に積層した構造を含み、下層21の露光光の波長における屈折率をn、上層22の露光光の波長における屈折率をnとしたとき、n>nの関係を満たし、下層21の露光光の波長における消衰係数をk、上層22の露光光の波長における消衰係数をkとしたとき、k>kの関係を満たし、下層21の厚さをd、上層22の厚さをdとしたとき、d<dの関係を満たす。
【0071】
本発明の位相シフトマスク200は、位相シフトパターン2aのKrF露光光に対する裏面反射率が少なくとも20%以上あり、KrF露光光の照射によって生じる位相シフトパターン2aの熱膨張およびその熱膨張に係る位相シフトパターン2aの移動を抑制することができる。
【0072】
本発明の半導体デバイスの製造方法は、前記の位相シフトマスク200または前記のマスクブランク100を用いて製造された位相シフトマスク200を用い、半導体基板上のレジスト膜にパターンを露光転写することを特徴としている。このため、この位相シフトマスク200を露光装置にセットし、その位相シフトマスク200の透光性基板1側からKrF露光光を照射して転写対象物(半導体ウェハ上のレジスト膜等)へ露光転写を行っても、高い精度で転写対象物に所望のパターンを転写することができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例により、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
[マスクブランクの製造]
主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.35mmの合成石英ガラスからなる透光性基板1を準備した。この透光性基板1は、端面及び主表面を所定の表面粗さに研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理を施されたものであった。この透光性基板1の光学特性を測定したところ、屈折率nが1.51、消衰係数kが0.00であった。
【0074】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、モリブデン、ケイ素、および窒素からなる位相シフト膜2の下層21(MoSiN膜)を形成した。具体的には、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=9原子%:91原子%)を用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガス(流量比 Ar:N =2:1)をスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、下層21を9nmの厚さdで形成した。
【0075】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に下層21が成膜された透光性基板1を設置し、下層21上に、モリブデン、ケイ素、および窒素からなる位相シフト膜2の上層22(MoSiN膜)を形成した。具体的には、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=9原子%:91原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Ar:N:He=1:9:8)をスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、上層22を91nmの厚さdで形成した。なお、この上層22の形成時に使用したスパッタリングガスの窒素ガス流量比は、下層21の形成時に使用したスパッタリングガスの窒素ガス流量比よりも多くしている。これにより、上層22の窒素含有量は、下層21の窒素含有量よりも多くなっている。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を100nmの厚さで形成した。
【0076】
次に、この位相シフト膜2が形成された透光性基板1に対して、位相シフト膜2の膜応力を低減するため、および表層に酸化層を形成するための加熱処理を行った。具体的には、加熱炉(電気炉)を用いて、大気中で加熱温度を450℃、加熱時間を1時間として、加熱処理を行った。別の透光性基板1の主表面に対して、同条件で下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を成膜し、加熱処理を行ったものを準備した。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM248)を用いて、その位相シフト膜2の波長248nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が5.3%、位相差が179.1度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、位相シフト膜2の上層22の表面から約1.7nm程度の厚さで酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2の下層21および上層22の各光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが2.499、消衰係数kが2.587であり、上層22は、屈折率nが2.343、消衰係数kが0.315であり、屈折率nと屈折率nの差は1.0以下であり、消衰係数kと消衰係数kの差は2.5以下であった。また、位相シフト膜2の裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は33%であった。
【0077】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に位相シフト膜2が形成された透光性基板1を設置し、位相シフト膜2上にCrOCNからなる遮光膜3の最下層を形成した。具体的には、クロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、窒素(N)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Ar:CO:N:He=22:39:6:33)をスパッタリングガスとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、位相シフト膜2上にCrOCNからなる遮光膜3の最下層を30nmの厚さで形成した。
【0078】
次に、同じクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガス(流量比 Ar:N=83:17)をスパッタリングガスとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、遮光膜3の最下層上にCrNからなる遮光膜3の下層を10nmの厚さで形成した。
【0079】
次に、同じクロム(Cr)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、窒素(N)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Ar:CO:N:He=21:37:11:31)をスパッタリングガスとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、遮光膜3の下層上にCrOCNからなる遮光膜3の上層を14nmの厚さで形成した。以上の手順により、位相シフト膜2側からCrOCNからなる最下層、CrNからなる下層、CrOCNからなる上層の3層構造からなるクロム系材料の遮光膜3を合計膜厚54nmで形成した。なお、この位相シフト膜2と遮光膜3の積層構造における波長248nmの光に対する光学濃度(OD)を測定したところ、3.0以上であった。
【0080】
さらに、枚葉式RFスパッタ装置内に、位相シフト膜2および遮光膜3が積層された透光性基板1を設置し、ケイ素および酸素からなるハードマスク膜4を形成した。具体的には、二酸化ケイ素(SiO)ターゲットを用い、アルゴン(Ar)ガスをスパッタリングガスとし、RFスパッタリングにより遮光膜3の上に、ハードマスク膜4を5nmの厚さで形成した。以上の手順により、透光性基板1上に、2層構造の位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備えるマスクブランク100を製造した。
【0081】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例1のマスクブランク100を用い、以下の手順で実施例1の位相シフトマスク200を作製した。最初に、ハードマスク膜4の表面にHMDS処理を施した。続いて、スピン塗布法によって、ハードマスク膜4の表面に接して、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚150nmで形成した。次に、このレジスト膜に対して、位相シフト膜2に形成すべき位相シフトパターンである第1のパターンを電子線描画し、所定の現像処理および洗浄処理を行い、第1のパターンを有する第1のレジストパターン5aを形成した(図2(a)参照)。
【0082】
次に、第1のレジストパターン5aをマスクとし、CFガスを用いたドライエッチングを行い、ハードマスク膜4に第1のパターン(ハードマスクパターン4a)を形成した(図2(b)参照)。
【0083】
次に、第1のレジストパターン5aを除去した。続いて、ハードマスクパターン4aをマスクとし、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl:O=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第1のパターン(遮光パターン3a)を形成した(図2(c)参照)。次に、遮光パターン3aをマスクとし、フッ素系ガス(SF+He)を用いたドライエッチングを行い、位相シフト膜2に第1のパターン(位相シフトパターン2a)を形成し、かつ同時にハードマスクパターン4aを除去した(図2(d)参照)。
【0084】
次に、遮光パターン3a上に、スピン塗布法によって、電子線描画用化学増幅型レジストからなるレジスト膜を膜厚150nmで形成した。次に、レジスト膜に対して、遮光膜に形成すべきパターン(遮光帯パターン)である第2のパターンを露光描画し、さらに現像処理等の所定の処理を行い、遮光パターンを有する第2のレジストパターン6bを形成した(図2(e)参照)。続いて、第2のレジストパターン6bをマスクとして、塩素と酸素の混合ガス(ガス流量比 Cl:O=4:1)を用いたドライエッチングを行い、遮光膜3に第2のパターン(遮光パターン3b)を形成した(図2(f)参照)。さらに、第2のレジストパターン6bを除去し、洗浄等の所定の処理を経て、位相シフトマスク200を得た(図2(g)参照)。
【0085】
作製した実施例1のハーフトーン型位相シフトマスク200を、KrFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク200の透光性基板1側からKrF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は、面内でいずれも許容範囲内であった。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【0086】
(実施例2)
[マスクブランクの製造]
実施例2のマスクブランク100は、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この実施例2の位相シフト膜2は、下層21と上層22を形成する材料と厚さをそれぞれ変更している。具体的には、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、透光性基板1上に、モリブデン、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の下層21(MoSiN膜)を形成した。モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=9原子%:91原子%)を用い、アルゴン(Ar)および窒素(N)の混合ガス(流量比 Ar:N=1:1)をスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、下層21を18nmの厚さdで形成した。
【0087】
次に、枚葉式DCスパッタ装置内に下層21が成膜された透光性基板1を設置し、下層21上に、モリブデン、ケイ素、および窒素からなる位相シフト膜2の上層22(MoSiN膜)を形成した。モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合ターゲット(Mo:Si=9原子%:91原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(N)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Ar:N:He=1:9:8)をスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、上層22を77nmの厚さdで形成した。なお、この上層22の形成時に使用したスパッタリングガスの窒素ガス流量比は、下層21の形成時に使用したスパッタリングガスの窒素ガス流量比よりも多くしている。これにより、上層22の窒素含有量は、下層21の窒素含有量よりも多くなっている。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を95nmの厚さで形成した。
【0088】
また、実施例1と同様の処理条件で、この実施例2の位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。別の透光性基板1の主表面に対して、同条件でこの実施例2の位相シフト膜2を成膜し、加熱処理を行ったものを準備した。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM248)を用いて、その位相シフト膜2の波長248nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が5.3%、位相差が180.5度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、位相シフト膜2の上層22の表面から約1.6nm程度の厚さで酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2の下層21および上層22の各光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが2.712、消衰係数kが1.758であり、上層22は、屈折率nが2.347、消衰係数kが0.306であった。また、位相シフト膜2の裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は29%であり、屈折率nと屈折率nの差は1.0以下であり、消衰係数kと消衰係数kの差は2.5以下であった。
【0089】
以上の手順により、透光性基板1上に、MoSiNの下層21とMoSiNの上層22とからなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例2のマスクブランクを製造した。
【0090】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例2のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例2の位相シフトマスク200を作製した。
【0091】
作製した実施例2のハーフトーン型位相シフトマスク200を、KrFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク200の透光性基板1側からKrF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は、面内でいずれも許容範囲内であった。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【0092】
(実施例3)
[マスクブランクの製造]
実施例3のマスクブランク100は、位相シフト膜2以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この実施例3の位相シフト膜2は、下層21と上層22を形成する材料と厚さをそれぞれ変更している。具体的には、枚葉式RFスパッタ装置内に透光性基板1を設置し、透光性基板1上に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の下層21(SiN膜)を形成した。ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)、窒素(N)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Kr:N:He=5:1:20)をスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、下層21を29nmの厚さdで形成した。
【0093】
次に、枚葉式RFスパッタ装置内に下層21が成膜された透光性基板1を設置し、下層21上に、ケイ素および窒素からなる位相シフト膜2の上層22(SiN膜)を69nmの厚さdで形成した。ケイ素(Si)ターゲットを用い、クリプトン(Kr)、窒素(N)およびヘリウム(He)の混合ガス(流量比 Kr:N:He=3:4:16)をスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(RFスパッタリング)により、上層22を69nmの厚さdで形成した。なお、この上層22の形成時に使用したスパッタリングガスの窒素ガス流量比は、下層21の形成時に使用したスパッタリングガスの窒素ガス流量比よりも多くしている。これにより、上層22の窒素含有量は、下層21の窒素含有量よりも多くなっている。以上の手順により、透光性基板1の表面に接して下層21と上層22が積層した位相シフト膜2を98nmの厚さで形成した。
【0094】
また、実施例1と同様の処理条件で、この実施例3の位相シフト膜2に対しても加熱処理を行った。別の透光性基板1の主表面に対して、同条件でこの実施例3の位相シフト膜2を成膜し、加熱処理を行ったものを準備した。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM248)を用いて、その位相シフト膜2の波長248nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が5.7%、位相差が178度(deg)であった。また、この位相シフト膜2に対して、STEMとEDXで分析したところ、位相シフト膜2の上層22の表面から約1.3nm程度の厚さで酸化層が形成されていることが確認された。さらに、この位相シフト膜2の下層21および上層22の各光学特性を測定したところ、下層21は屈折率nが2.400、消衰係数kが2.040であり、上層22は、屈折率nが2.320、消衰係数kが0.040であり、屈折率nと屈折率nの差は1.0以下であり、消衰係数kと消衰係数kの差は2.5以下であった。また、位相シフト膜2の裏面反射率(透光性基板1側の反射率)は30%であった。
【0095】
以上の手順により、透光性基板1上に、SiNの下層21とSiNの上層22とからなる位相シフト膜2、遮光膜3およびハードマスク膜4が積層した構造を備える実施例3のマスクブランク100を製造した。
【0096】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この実施例3のマスクブランク100を用い、実施例1と同様の手順で、実施例3の位相シフトマスク200を作製した。
【0097】
作製した実施例3のハーフトーン型位相シフトマスク200を、KrFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスク200の透光性基板1側からKrF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は、面内でいずれも許容範囲内であった。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に回路パターンを高精度に形成することができるといえる。
【0098】
(比較例1)
[マスクブランクの製造]
この比較例1のマスクブランクは、位相シフト膜以外については、実施例1と同様の手順で製造した。この比較例1の位相シフト膜は、モリブデン、ケイ素および窒素からなる単層構造の膜を適用した。具体的には、枚葉式DCスパッタ装置内に透光性基板を設置し、モリブデン(Mo)とケイ素(Si)との混合焼結ターゲット(Mo:Si=21原子%:79原子%)を用い、アルゴン(Ar)、窒素(Nおよびヘリウム(He)の混合ガス流量比 (Ar:N:He=1:9:6)をスパッタリングガスとする反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、位相シフト膜を92nmの厚さで形成した。
【0099】
また、別の透光性基板の主表面に対して、同条件でこの比較例1の位相シフト膜を成膜したものを準備した。位相シフト量測定装置(レーザーテック社製 MPM248)を用いて、その位相シフト膜の波長248nmの光に対する透過率と位相差を測定したところ、透過率が5.5%、位相差が177度(deg)であった。さらに、この位相シフト膜の各光学特性を測定したところ、屈折率nが2.30、消衰係数kが0.57であった。
【0100】
以上の手順により、透光性基板上に、MoSiNからなる位相シフト膜、遮光膜およびハードマスク膜が積層した構造を備える比較例1のマスクブランクを製造した。
【0101】
[位相シフトマスクの製造]
次に、この比較例1のマスクブランクを用い、実施例1と同様の手順で、比較例1の位相シフトマスクを作製した。
【0102】
作製した比較例1のハーフトーン型位相シフトマスクを、KrFエキシマレーザーを露光光とする露光装置のマスクステージにセットし、位相シフトマスクの透光性基板1側からKrF露光光を照射し、半導体デバイス上のレジスト膜にパターンを露光転写した。露光転写後のレジスト膜に対して所定の処理を行ってレジストパターンを形成し、そのレジストパターンをSEM(Scanning Electron Microscope)で観察した。その結果、設計パターンからの位置ずれ量は大きく、許容範囲外である箇所が多数発見された。この結果から、このレジストパターンをマスクとして半導体デバイス上に形成される回路パターンには、断線や短絡が発生することが予想される。
【符号の説明】
【0103】
1 透光性基板
2 位相シフト膜
21 下層
22 上層
2a 位相シフトパターン
3 遮光膜
3a,3b 遮光パターン
4 ハードマスク膜
4a ハードマスクパターン
5a 第1のレジストパターン
6b 第2のレジストパターン
100 マスクブランク
200 位相シフトマスク
図1
図2