IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 明治飼糧株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-反芻家畜の乳量及び乳脂肪含量増加方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-02
(45)【発行日】2022-05-13
(54)【発明の名称】反芻家畜の乳量及び乳脂肪含量増加方法
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/10 20160101AFI20220506BHJP
   A23K 20/174 20160101ALI20220506BHJP
   A23K 20/105 20160101ALI20220506BHJP
【FI】
A23K50/10
A23K20/174
A23K20/105
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021021307
(22)【出願日】2021-02-12
(62)【分割の表示】P 2017024219の分割
【原出願日】2017-02-13
(65)【公開番号】P2021072864
(43)【公開日】2021-05-13
【審査請求日】2021-02-18
(31)【優先権主張番号】P 2016043845
(32)【優先日】2016-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592172574
【氏名又は名称】明治飼糧株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097825
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 久紀
(74)【代理人】
【識別番号】100137925
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 紀一郎
(72)【発明者】
【氏名】小原 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】岩下 有宏
(72)【発明者】
【氏名】大谷 喜永
(72)【発明者】
【氏名】中野 兼一
【審査官】赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-281753(JP,A)
【文献】特開昭63-301755(JP,A)
【文献】A.P. DE LUCA et al.,Relative effectiveness of various antioxidants fed to lactating dairy cows, on incidence of copper-i,JOURNAL OF DAIRY SCIENCE,1957年08月,Volume 40, Issue 8,877-886
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 50/10-50/15
A23K 20/00-20/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸及び/又は酢酸塩、及び、ビタミンK3(メナジオン)を有効成分とする反芻家畜の乳量及び乳脂肪含量増加用飼料組成物。
【請求項2】
酢酸塩が、酢酸ナトリウム及び/又は酢酸カルシウムである、請求項1に記載の飼料組成物。
【請求項3】
反芻家畜が、牛、羊、山羊から選ばれる少なくともひとつである、請求項1又は2に記載の飼料組成物。
【請求項4】
酢酸及び/又は酢酸塩、及び、ビタミンK3(メナジオン)を反芻家畜に経口投与又は給与することを特徴とする、反芻家畜の乳量及び乳脂肪含量増加方法。
【請求項5】
酢酸及び/又は酢酸塩を1日当たり酢酸として30~300g/頭経口投与又は給与することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
酢酸塩が、酢酸ナトリウム及び/又は酢酸カルシウムである、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
ビタミンK3(メナジオン)を1日当たり10~200mg/頭経口投与又は給与することを特徴とする、請求項4~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
反芻家畜が、牛、羊、山羊から選ばれる少なくともひとつである、請求項4~7のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻家畜の乳量及び乳脂肪含量増加方法等に関する。詳細には、経口投与又は給与成分により、簡便且つ効果的に、反芻家畜の窒素代謝を活性化させる方法、乳量と当該乳中の乳脂肪含量を同時に増加させる方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
牛、羊、山羊のように乳、肉などが商品となる反芻家畜においては、飼育している個体の体調不良や病気などによる乳量・乳質の低下、体重減少等は、酪農農家や畜産農家にとって深刻且つ直接的な経営問題となる。
【0003】
特に、乳又は乳加工品が商品となる反芻家畜(乳牛など)において、その乳量や乳質(乳脂肪含量、乳糖含量等)の低下は大きな問題となる。例えば、乳牛においては、夏季における暑熱ストレス(ヒートストレス)が乳脂肪を低下させ乳生産に多大な影響を及ぼしているため、低乳脂肪を防止する飼養技術の開発が当業界において望まれている。そこで、マルトース、スクロース、澱粉、ルーメンバイパスアミノ酸、トレハロースなどを用いた乳量増加技術(特許文献1~4)や、脂肪酸カルシウムと酢酸ナトリウムの混合物や綿実油の給与による乳脂肪含量増加技術(非特許文献1)が提案され、また、乳量と乳脂肪含量の両方を高める技術の提案もいくつかなされている。
【0004】
しかし、上記非特許文献1では乳量を高める効果は得られなかったと報告されており、さらに、綿実粕、脂肪酸カルシウムなどの飼料への添加は、ルーメン内発酵に悪影響を及ぼす可能性があることからその利用に当たっては飼養技術上難しいことが知られている。また、上記特許文献1~3の技術も、利用方法が難しいという問題がある。そして、酪農の生産現場においては、乳量を増加させる方策をとると乳脂肪等の乳成分の割合・濃度が低下してしまう(薄まってしまう)のが通常であり、これまで提案された乳量と乳脂肪含量の両方を高める技術の実際の効果は極めて乏しく、乳牛等の乳量と乳脂肪含量を同時に高める飼養技術を開発することは非常に難しくなっている。
【0005】
このような背景技術において、当業界では、反芻家畜の乳量と乳脂肪含量を同時に高めることができるような新規な飼養技術、飼料成分等の開発、さらには、反芻家畜の乳生産と関連性があると言われている窒素代謝の活性化もできるような飼養技術、飼料成分等の開発が強く望まれていた。
【0006】
一方、ビタミンK3(メナジオン)は合成品であり、ヒトでの利用は禁止されているが、家畜用としての利用は許可され、哺乳子ウシ用の飼料添加物として代用乳への添加などがされている。しかし、ビタミンK類は反芻家畜の第一胃内細菌によって合成されることが知られており、第一胃が発達した親ウシ、特に泌乳牛に対し、ビタミンK類は飼料添加物として利用されていない。
【0007】
このことから、ビタミンK類を泌乳牛等に経口投与又は給与することによる生理作用はほとんど知られておらず、ビタミンK3を反芻家畜へ経口投与又は給与することによる乳量、乳脂肪含量等への影響についての記載や示唆がある文献等は今のところ見出せない。
【0008】
また、酢酸は、反芻家畜の第一胃内細菌により産生される主な揮発性脂肪酸(VFA)であり、反芻動物においてはグルコースに匹敵するくらい重要なエネルギー源である。この酢酸については、反芻家畜の唾液分泌を亢進させる(非特許文献2)と伴に、ルーメン粘膜の炭酸脱水酵素を活性化してルーメンからのVFAの吸収を促進する(非特許文献3)ことなどが報告されている。
【0009】
しかし、酢酸を反芻家畜へ経口投与又は給与することによる乳量、乳脂肪含量等への影響についての記載や示唆がある文献等は、ビタミンK3と同様に今のところ見出せない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開平5-192093号公報
【文献】特開平6-237701号公報
【文献】特開2001-086940号公報
【文献】特開2007-319156号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】西日本畜産学会報 34,55-58(1991)
【文献】Tohoku J.Agri.Res.,23:72-78.(1972)
【文献】J.Com.Physiol.,B.172:379-375.(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、反芻家畜の窒素代謝を活性化し、また、その乳量及び当該乳中の乳脂肪含量を同時に増加させて、乳質及び乳生産量をともに改善できるような栄養生理学的技術(経口投与又は給与成分、方法等)の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究の結果、反芻家畜に有効成分としてビタミンK3(メナジオン)、あるいは、酢酸及び/又は酢酸塩とビタミンK3(メナジオン)を一緒に経口投与又は給与することで、反芻家畜の窒素代謝を活性化し、及び/又は、その乳量と当該乳中の乳脂肪含量を同時に増加させ、乳質及び乳生産量を簡便且つ効果的に改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)酢酸及び/又は酢酸塩、及び、ビタミンK3(メナジオン)を有効成分とする反芻家畜の乳量及び乳脂肪含量増加用飼料組成物。
(2)酢酸塩が、酢酸ナトリウム及び/又は酢酸カルシウムである、(1)に記載の飼料組成物。
(3)反芻家畜が、牛、羊、山羊から選ばれる少なくともひとつである、(1)又は(2)に記載の飼料組成物。
(4)酢酸及び/又は酢酸塩、及び、ビタミンK3(メナジオン)を反芻家畜に経口投与又は給与することを特徴とする、反芻家畜の乳量及び乳脂肪含量増加方法。
(5)酢酸及び/又は酢酸塩を1日当たり酢酸として30~300g/頭経口投与又は給与することを特徴とする、(4)に記載の方法。
(6)酢酸塩が、酢酸ナトリウム及び/又は酢酸カルシウムである、(4)又は(5)に記載の方法。
(7)ビタミンK3(メナジオン)を1日当たり10~200mg/頭経口投与又は給与することを特徴とする、(4)~(6)のいずれか1つに記載の方法。
(8)反芻家畜が、牛、羊、山羊から選ばれる少なくともひとつである、(4)~(7)のいずれか1つに記載の方法。
(9)ビタミンK3(メナジオン)を有効成分とする反芻家畜の乳量及び乳脂肪含量増加用飼料組成物(反芻家畜用乳量及び乳脂肪含量増加剤)。
(10)酢酸及び/又は酢酸塩、及び、ビタミンK3(メナジオン)を有効成分とする反芻家畜の乳量及び乳脂肪含量増加用飼料組成物(特に、これら有効成分が同時に経口投与又は給与されるように含有してなる飼料組成物、反芻家畜用乳量及び乳脂肪含量増加剤)。
(11)酢酸及び/又は酢酸塩、及び、ビタミンK3(メナジオン)を有効成分とする反芻家畜の窒素代謝活性化用飼料組成物(特に、これら有効成分が同時に経口投与又は給与されるように含有してなる飼料組成物、反芻家畜用窒素代謝活性化剤)。
(12)酢酸塩が、酢酸ナトリウム及び/又は酢酸カルシウムである、(10)又は(11)に記載の飼料組成物。
(13)反芻家畜が、牛、羊、山羊から選ばれる少なくともひとつである、(9)~(12)のいずれか1つに記載の飼料組成物。
(14)ビタミンK3(メナジオン)を反芻家畜に経口投与又は給与することを特徴とする、反芻家畜の乳量及び乳脂肪含量増加方法。
(15)酢酸及び/又は酢酸塩、及び、ビタミンK3(メナジオン)を反芻家畜に経口投与又は給与することを特徴とする、反芻家畜の乳量及び乳脂肪含量増加方法。
(16)酢酸及び/又は酢酸塩、及び、ビタミンK3(メナジオン)を反芻家畜に経口投与又は給与することを特徴とする、反芻家畜の窒素代謝活性化方法。
(17)酢酸及び/又は酢酸塩を1日当たり酢酸として(酢酸量換算で)30~300g/頭、好ましくは60~180g/頭経口投与又は給与することを特徴とする、(15)又は(16)に記載の方法。
(18)酢酸塩が、酢酸ナトリウム及び/又は酢酸カルシウムである、(15)~(17)のいずれか1つに記載の方法。
(19)ビタミンK3(メナジオン)を1日当たり10~200mg/頭、好ましくは10~100mg/頭、更に好ましくは10~50mg/頭経口投与又は給与することを特徴とする、(14)~(18)のいずれか1つに記載の方法。
(20)反芻家畜が、牛、羊、山羊から選ばれる少なくともひとつである、(14)~(19)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反芻家畜の窒素代謝を活性化し、及び/又は、その乳量と当該乳中の乳脂肪含量を同時に増加させ、乳質及び乳生産量を簡便且つ効果的に改善することができる。そして、本発明により、安定した反芻家畜の乳生産性あるいは乳生産性の向上、ならびに、酪農経営の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例における、ルーメン内アンモニア態窒素(給餌前0時間、給餌後2時間目、及び給餌後5時間目)、血中尿素態窒素濃度(BUN:給餌前0時間、及び給餌後5時間目)、乳中尿素態窒素濃度(MUN:給餌後5時間目)の挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明においては、反芻家畜の乳量及び乳脂肪含量増加、窒素代謝活性化の有効成分として、酢酸及び/又は酢酸塩、ビタミンK3(メナジオン)を使用する。
【0019】
酢酸、酢酸塩については、市販されている純品乾燥物などを使用することができ、酢酸塩としては、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、酢酸カリウム、酢酸アンモニウムなどが例示される。本発明では、これらのうち、特に、酢酸、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウムから選ばれる1以上を用いるのが非常に好適である。
【0020】
また、合成ビタミンであるビタミンK3(メナジオン)については、純品乾燥物が使用できることはもちろんのこと、その粗精製物(ペースト化物、希釈物、乳化物、懸濁物など)も使用可能である。また、デンプンやデキストリン等の賦形剤を加えて顆粒化したり、タブレットにしたりして製剤化したものも使用可能である。さらには、ルーメンで分解されないように油脂等でコーティングしたものも使用可能である。
【0021】
そして、このビタミンK3(メナジオン)を有効成分とし、あるいは、酢酸及び/又は酢酸塩とビタミンK3(メナジオン)を有効成分として併用し、そのまま飼料添加物、飼料、飼料組成物、動物医薬、その他の剤として使用することができる。また、常用される飼料成分を添加、混合して、飼料添加物、飼料、飼料組成物を提供することも可能であり、さらには、これらを有効成分とする動物医薬製剤としても提供することができる。この場合は、動物医薬製剤の常法にしたがって製剤化すればよく、他の生理機能を有する有効成分を併用することもできる。飼料添加物等とする場合でも、他の栄養成分(タンパク質、脂質、ミネラル(カリウム、ナトリウム、マグネシウム等)、ビタミンK3以外のビタミン(ビタミンA、ビタミンE等))などを併用できる。
【0022】
本有効成分は、種々の形態で経口投与される。その投与形態としては例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与などをあげることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの動物医薬剤等の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。なお、ビタミンK3(メナジオン)をそのまま、あるいは、酢酸及び/又は酢酸塩とビタミンK3(メナジオン)をそのまま混合して製剤として用いることも可能である。
【0023】
なお、このようにして製剤化したものは、動物医薬剤として使用できるだけでなく、飼料組成物として使用することも充分可能であって、それ自体を飼料として直接家畜に給与することもできるし、飼料添加剤として他の飼料原料に添加、混合して用いることも可能である。
【0024】
本発明の対象となる動物は、その乳及び/又は乳加工品が食用等となる泌乳期(通常は分娩後から12ヶ月程度まで)の反芻家畜である。例えば、乳牛(特にホルスタイン種、ジャージー種など)、羊、山羊などがより好適な対象動物として例示される。けれども、水牛、ラクダ、ヤクなどを対象としても構わない。
【0025】
酢酸及び/又は酢酸塩、ビタミンK3(メナジオン)の反芻家畜への経口投与又は給与量としては、例えば乳牛であれば、酢酸及び/又は酢酸塩は1日・頭の経口投与又は給与で飼料の乾物当たり0.5~5.0mol(酢酸量で換算すると30~300g)、好ましくは1.0~3.0mol(酢酸量で換算すると60~180g)添加することが好適であり、ビタミンK3は10~200mg、好ましくは10~100mg、更に好ましくは10~50mg、例えば10~25mg程度添加することが好適である。そして、この量の経口投与又は給与を1日当たり2回程度に分けて行うのが好ましい。有効成分の経口投与又は給与量が当該範囲より多い場合、安全性やその効果という点において特段の問題はないが、コスト面などから上記範囲内の方が好ましい。また、当該範囲より少ない場合には、本発明の効果が十分発揮されない恐れがあるため好ましくない。
なお、他の反芻家畜においても、その体重等を勘案して経口投与又は給与量を設定すれば良いが、乳牛も含め上記以外の経口投与又は給与量を完全に除外するものではない。
【0026】
本発明は、ビタミンK3(メナジオン)、あるいは、酢酸及び/又は酢酸塩とビタミンK3(メナジオン)の併用の有効性(乳量と乳脂肪含量の同時増加や窒素代謝活性化)を実際の生産現場における反芻家畜生体を用いて直接確認し、特に、これまで非常に困難であるとされてきた乳牛等の乳量と乳脂肪含量を同時に高める作用の科学的立証がなされた極めて実用的なものであると言える。
【0027】
なお、本発明において「乳脂肪含量を高める」、「乳脂肪量の増加」とは、乳中の脂肪含量全体(総量)が増加することを意味し、乳脂肪中の特定の脂肪酸比率が高まること(総量は変わらないこと)とは意味が異なる。
【0028】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
【実施例1】
【0029】
ホルスタイン種泌乳牛7頭(平均乳量28kg、平均分娩後日数217.1日、平均産次数2)を供試し、試験を行った。飼養試験期間中は、コーンサイレージと乳牛配合飼料を主体とした慣行飼料を1日2回給餌し自由採食・自由飲水とした。朝夕の給餌ごとに、酢酸ナトリウム;125gと市販のビタミンK3;1g(1%換算=10mg)を処理区の餌に同時添加し、対照区は無添加とした。11日間の予備試験と3日間の試験の14日間を一期として、2期の反転試験を行った。
【0030】
まず、飼養試験において、対照区と処理区におけるルーメン発酵について比較した。この結果を下記表1に示した。給餌前0時間、給餌後5時間目において、ルーメン内総VFA濃度及びVFA組成を比較したところ、両区において有意差は見られなかった。しかし、アンモニア態窒素濃度は給餌後5時間目で処理区において有意に低い値を示した(P<0.05)。
【0031】
【表1】
【0032】
次に、血液代謝産物の濃度変化の結果を下記表2に示した。血液中遊離脂肪酸(NEFA)、グルコース及びトリグリセリドの濃度は両区において有意な差は見られなかったが、血中尿素態窒素濃度は処理区で有意に低い値を示した(P<0.05)。
【0033】
【表2】
【0034】
さらに、乾物摂取量、乳量、乳成分の変化の結果について下記表3に示した。両区において乾物摂取量には差が見られなかったが、乳量は処理区において有意に高い値を示した(P<0.01)。乳成分においても、乳脂肪含量は処理区において有意に高い値を示した(P<0.05)。また、乳タンパク質含量は処理区において、有意に低い値を示した(P<0.01)。
【0035】
【表3】
【0036】
さらに、この試験における、ルーメン内アンモニア態窒素、血中尿素態窒素濃度(BUN)、乳中尿素態窒素濃度(MUN)の変化を図1に示した。酢酸ナトリウムとビタミンK3の飼料への添加によりルーメン内アンモニア態窒素とBUNは有意に低下し(P<0.05)、MUNも有意に低下し(P<0.01)、窒素代謝が活性化していると認められた。
【0037】
以上の結果から、有効成分として酢酸ナトリウムとビタミンK3の併用給与は、泌乳牛の窒素代謝を活性化し、さらに、乳量、乳脂肪含量の両方を同時に高めることが示された。また、継続給与の安全性及び持続効果についても明らかとなった。
【実施例2】
【0038】
ホルスタイン種泌乳牛6頭(平均乳量19kg、平均搾乳日数241日、平均産次数1.8)を供試し、試験を行った。飼養試験期間中は、コーンサイレージと乳牛配合飼料を主体とした慣行飼料を1日2回給餌し自由採食・自由飲水とした。朝夕の給餌ごとに市販のビタミンK3;2.5g(1%換算=25mg、50mg/日)をビタミンK区の餌に添加し、対照区は無添加とした。11日間の予備試験と3日間の試験の14日間を一期として、反転試験を行った。
【0039】
試験後の対照区とビタミンK区における乾物摂取量(DMI)、ルーメンでのメタン(CH)生成量、乳量、乳成分組成(乳脂肪、乳蛋白質、乳糖)、乳中尿素態窒素の測定結果について下記表4に示した。両区において乾物摂取量には差が見られなかったが、乳量及び乳脂肪含量の両方がビタミンK区において有意に高い値を示した。なお、表中の数値右側にあるアルファベットが各区で同じであれば有意差なし、異なれば有意差ありを表す。
【0040】
【表4】
【0041】
以上の結果から、有効成分としてビタミンK3の単独給与も、泌乳牛の乳量、乳脂肪含量の両方を同時に高めることが示された。
【0042】
なお、本発明を要約すれば次のとおりである。
【0043】
すなわち、本発明は、牛、羊、山羊などの反芻家畜の窒素代謝を活性化し、また、その乳量及び当該乳中の乳脂肪含量を同時に増加させて、乳質及び乳生産量をともに改善できるような栄養生理学的技術(経口投与又は給与成分、方法等)を提供することを目的とする。
【0044】
そして、有効成分としてビタミンK3(メナジオン)、あるいは、酢酸及び/又は酢酸塩とビタミンK3(メナジオン)を反芻家畜に経口投与又は給与することで、反芻家畜の窒素代謝を活性化し、及び/又は、その乳量と当該乳中の乳脂肪含量を同時に増加させ、乳質及び乳生産量を簡便且つ効果的に改善する。
図1