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特許7066932コンポジット樹脂、コーティング材、被覆基材、絶縁材料、及びコンポジット樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】コンポジット樹脂、コーティング材、被覆基材、絶縁材料、及びコンポジット樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/08 20060101AFI20220509BHJP
   C08L 61/20 20060101ALI20220509BHJP
   C08K 5/5419 20060101ALI20220509BHJP
   C08G 77/24 20060101ALI20220509BHJP
   C09D 183/08 20060101ALI20220509BHJP
   C09D 161/20 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C08L83/08
C08L61/20
C08K5/5419
C08G77/24
C09D183/08
C09D161/20
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018034846
(22)【出願日】2018-02-28
(65)【公開番号】P2019147917
(43)【公開日】2019-09-05
【審査請求日】2021-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000166683
【氏名又は名称】互応化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】樋口 倫也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 文人
(72)【発明者】
【氏名】田中 信也
(72)【発明者】
【氏名】藤原 勇佐
(72)【発明者】
【氏名】橋本 壯一
(72)【発明者】
【氏名】荒井 貴
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-160321(JP,A)
【文献】特開2017-160322(JP,A)
【文献】特開2017-160323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C09D183/00-183/16
C09D161/00-161/34
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーを縮合させた縮合物とアミノ樹脂とを含
前記フルオロアルキル基含有オリゴマーと前記アミノ樹脂とを含む反応原料溶液中で、前記アルコキシシリル基の加水分解反応を行うことで得られる、
コンポジット樹脂。
【化1】
(式中、R及びRは、各々独立にCF(CF)-[OCFCF(CF)]q-OC基を示し、は、~10の整数である。R、R及びRは、各々独立に炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。mは2~3の整数である。)
【請求項2】
前記一般式(1)の式中のR及びRが、-CF(CF)-OC基である、
請求項1に記載のコンポジット樹脂。
【請求項3】
前記アミノ樹脂は、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、及び尿素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、
請求項1又は2に記載のコンポジット樹脂。
【請求項4】
前記コンポジット樹脂は、粒子状である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のコンポジット樹脂。
【請求項5】
前記コンポジット樹脂の平均粒子径は、2000nm以下である、請求項4に記載のコンポジット樹脂。
【請求項6】
前記反応原料溶液中の前記アミノ樹脂は、25℃で液状である、又は前記反応原料溶液中に25℃で溶解している、
請求項1~5のいずれか一項に記載のコンポジット樹脂。
【請求項7】
前記加水分解反応を無触媒下で行う、
請求項1~6のいずれか一項に記載のコンポジット樹脂。
【請求項8】
前記加水分解反応を酸触媒下で行う、
請求項1~6のいずれか一項に記載のコンポジット樹脂。
【請求項9】
前記加水分解反応を塩基触媒下で行う、
請求項1~6のいずれか一項に記載のコンポジット樹脂。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載のコンポジット樹脂を含有する、コーティング材。
【請求項11】
基材と、
前記基材上に設けられる請求項1~のいずれか1項に記載のコンポジット樹脂を含有するコーティング層と、
を有する、被覆基材。
【請求項12】
請求項1~のいずれか1項に記載のコンポジット樹脂を含有する、絶縁材料。
【請求項13】
下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーとアミノ樹脂とを含む反応原料溶液中で、前記アルコキシシリル基の加水分解反応を行う工程を含む、コンポジット樹脂の製造方法。
【化2】
(式中、R及びRは、各々独立にCF(CF)-[OCFCF(CF)]q-OC基を示し、は、~10の整数である。R、R及びRは、各々独立に炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。mは2~3の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンポジット樹脂、コーティング材、被覆基材、絶縁材料、及びコンポジット樹脂の製造方法に関し、より詳細には、種々の用途に利用可能なコンポジット樹脂、このコンポジット樹脂を含有するコーティング材、このコンポジット樹脂を含有するコーティング層を有する被覆基材、このコンポジット樹脂を含有する絶縁材料、及びこのコンポジット樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有する材料が知られている。
【0003】
例えば、引用文献1には、アルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーを縮合させた縮合物と水溶性セルロースエーテルを含むコンポジット樹脂を、油水分離材として用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開第2017-160323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、アルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーを含有する新たな材料の開発を試みた。
【0006】
本発明の目的は、極性物質及び無極性物質に対する特異な親和性を有するコンポジット樹脂、このコンポジット樹脂を含有するコーティング材、このコンポジット樹脂を含有するコーティング層を有する被覆基材、このコンポジット樹脂を含有する絶縁材料、及びこのコンポジット樹脂の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係るコンポジット樹脂は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーを縮合させた縮合物とアミノ樹脂とを含む。
【0008】
【化1】
【0009】
式中、R及びRは、各々独立に-(CF)p-Y基又は-CF(CF)-[OCFCF(CF)]q-OC基を示し、Yは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは、各々独立に0~10の整数である。R、R及びRは、各々独立に炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。mは2~3の整数である。
【0010】
本発明の一実施形態に係るコーティング材は、前記コンポジット樹脂を含有する。
【0011】
本発明の一実施形態に係る被覆基材は、基材と、前記基材上に設けられる前記コンポジット樹脂を含有するコーティング層と、を有する。
【0012】
本発明の一実施形態に係る絶縁材料は、前記コンポジット樹脂を含有する。
【0013】
本発明の一実施形態に係るコンポジット樹脂の製造方法は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーとアミノ樹脂とを含む反応原料溶液中で、前記アルコキシシリル基の加水分解反応を行う工程を含む。
【0014】
【化2】
【0015】
式中、R及びRは、各々独立に-(CF)p-Y基又は-CF(CF)-[OCFCF(CF)]q-OC基を示し、Yは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは、各々独立に0~10の整数である。R、R及びRは、各々独立に炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。mは2~3の整数である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、極性物質及び無極性物質に対する特異な親和性を有するコンポジット樹脂、このコンポジット樹脂を含有するコーティング材、このコンポジット樹脂を含有するコーティング層を有する被覆基材、このコンポジット樹脂を含有する絶縁材料、及びこのコンポジット樹脂の製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
本実施形態に係るコンポジット樹脂は、下記一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「フルオロアルキル基含有オリゴマー」という場合がある。)を縮合させた縮合物とアミノ樹脂とを含む。
【0019】
【化3】
【0020】
式中、R及びRは、各々独立に-(CF)p-Y基又は-CF(CF)-[OCFCF(CF)]q-OC基を示し、Yは、水素原子、フッ素原子又は塩素原子を示し、p及びqは、各々独立に0~10の整数である。R、R及びRは、各々独立に炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキル基を示す。mは2~3の整数である。
【0021】
一般式(1)中のR、R及びRで示される炭素数1~5の直鎖状又は分岐状のアルキル基の例は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等を含む。
【0022】
一般式(1)中のR及びRで示される-(CF)p-Y基又は-CF(CF)-[OCFCF(CF)]q-OC基において、p及びqは、0~3の整数であることが好ましい。特に、R及びRが、-CF(CF)-OC基であることが好ましい。
【0023】
一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマーは、例えば、トリメトキシビニルシラン等のトリアルコキシビニルシランを過酸化フルオロアルカノイルと反応させることによって製造することができる(例えば、特開2002-338691号公報、特開2010-77383号公報参照)。
【0024】
コンポジット樹脂は、フルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物とアミノ樹脂とを含むため、極性物質及び無極性物質に対する特異な親和性を有する。例えば、コンポジット樹脂は、金属基材、ガラス基材、樹脂基材等の種々の基材への良好な密着性を有する。フルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物単体ではこのような種々の基材への良好な密着性は発揮されないが、コンポジット樹脂中では、フルオロアルキル基含有オリゴマーがアミノ樹脂とコンポジット化しているため、種々の基材への良好な密着性が発現される。コンポジット樹脂中において、どのようにフルオロアルキル基含有オリゴマーとアミノ樹脂とがコンポジット化しているかというメカニズムは解明されていない。しかし、アミノ樹脂に由来するアミノ基がコンポジット樹脂中に分散していることで、種々の基材への良好な密着性といった極性物質及び無極性物質に対する特異な親和性に寄与していると推測される。
【0025】
コンポジット樹脂に含まれるアミノ樹脂は、アミノ基を有する樹脂であれば特に限定されない。コンポジット樹脂に含まれるアミノ樹脂は、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、及び尿素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。アミノ樹脂は、メラミン樹脂を含むことが特に好ましい。
【0026】
メラミン樹脂は、メラミンとホルムアルデヒドとの縮合物、又はこの縮合物を重合して得られる熱硬化性樹脂である。メラミン樹脂の具体例は、メチル化ブチル化メラミンホルムアルデヒド樹脂、メチル化メラミンホルムアルデヒド樹脂、ブチル化メラミンホルムアルデヒド樹脂等を含む。メラミン樹脂の具体的な製品としては、例えば日本サイテックインダストリーズ株式会社製の品名サイメル300、サイメル301、サイメル303、サイメル350、サイメル370、サイメル771、サイメル325、サイメル327、サイメル703、サイメル712、マイコート715、サイメル701、サイメル267、サイメル285、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル211、サイメル254、サイメル204、マイコート212、サイメル202、サイメル207、マイコート506、及びマイコート508;DIC株式会社製の品名AMIDIR J-820-60、AMIDIR L-109-65、AMIDIR L-117-60、AMIDIR L-127-60、AMIDIR 13-548、AMIDIR G-821-60、AMIDIR L-110-60、AMIDIR L-125-60、AMIDIR L-166-60B、AMIDIR L-105-60、AMIDIR S-695、及びAMIDIR S-683-IM;並びに株式会社三和ケミカル製の品名MW-30MLF、MW-30M、MW-30LF、MW-30、MW-22、MS-11、MW-12LF、MS-001、MZ-351、MX-730、MX-750、MX-706、及びMX-035等が挙げられる。
【0027】
アニリン樹脂は、アニリンとホルムアルデヒドとの縮合物、又はこの縮合物を重合して得られる熱硬化性樹脂である。アニリン樹脂の具体例は、メチル化アニリンホルムアルデヒド樹脂、ブチル化アニリンホルムアルデヒド樹脂、メチル化ブチル化アニリンホルムアルデヒド樹脂等を含む。
【0028】
ベンゾグアナミン樹脂は、ベンゾグアナミンとホルムアルデヒドとの縮合物、又はこの縮合物を重合して得られる熱硬化性樹脂である。ベンゾグアナミン樹脂の具体例は、メチル化ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂、ブチル化ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂、メチル化ブチル化ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂、メチル化エチル化ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂等を含む。ベンゾグアナミン樹脂の具体的な製品としては、例えば日本サイテックインダストリーズ株式会社製の品名サイメル1123、マイコート102、マイコート105、マイコート106、及びマイコート1128;DIC株式会社製の品名AMIDIR TD-126、及びAMIDIR 15-594;並びに株式会社三和ケミカル製の品名BL-60、及びBX-4000等が挙げられる。
【0029】
尿素樹脂は、尿素とホルムアルデヒドとの縮合物、又はこの縮合物を重合して得られる熱硬化性樹脂である。尿素樹脂の具体例は、メチル化尿素ホルムアルデヒド樹脂、ブチル化尿素ホルムアルデヒド樹脂、メチル化ブチル化尿素ホルムアルデヒド樹脂等を含む。尿素樹脂の具体的な製品としては、例えば日本サイテックインダストリーズ株式会社製の品名UFR65、及びUFR300;並びにDIC株式会社製の品名AMIDIR P-138、AMIDIR P-196-M、及びAMIDIR G-1850等が挙げられる。
【0030】
コンポジット樹脂中に含まれるアミノ樹脂の含有量は、フルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物100質量部に対して、0.1質量部以上1000質量部以下であることが好ましく、1質量部以上500質量部以下であることがより好ましい。アミノ樹脂の含有量がフルオロアルキル基含有オリゴマーの縮合物100質量部に対して、1質量部以上500質量部以下であることで、コンポジット樹脂は、極性物質及び無極性物質に対する特異な親和性を有しうる。
【0031】
コンポジット樹脂は、粒子状であることが好ましい。この場合、コンポジット樹脂の平均粒子径は、2000nm以下であることが好ましい。コンポジット樹脂の平均粒子径が2000nm以下であることで、コンポジット樹脂は高い透明性を有することができる。コンポジット樹脂の平均粒子径は、1000nm以下であることがより好ましい。また、コンポジット樹脂の平均粒子径は、0.01nm以上であることが好ましい。コンポジット樹脂の平均粒子径が0.01nm以上であることで、コンポジット樹脂をコーティング材や絶縁材料に用いる場合に、コンポジット樹脂は種々の分散溶媒に対する良好な分散性を有することができる。コンポジット樹脂の平均粒子径は、0.05nm以上であることがより好ましく、0.6nm以上であることが特に好ましい。コンポジット樹脂の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布の測定値から算出される体積基準のメディアン径であり、市販のレーザー解析・散乱式粒度分布測定装置を用いて得られる。
【0032】
本実施形態に係るコンポジット樹脂は、一般式(1)で表されるアルコキシシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーとアミノ樹脂とを含む反応原料溶液中で、アルコキシシリル基の加水分解反応を行うことで得られることが好ましい。すなわち、本実施系形態のコンポジット樹脂の製造方法は、一般式(1)で表されるアルコキシリル基を有するフルオロアルキル基含有オリゴマーとアミノ樹脂とを含む反応原料溶液中で、アルコキシシリル基の加水分解反応を行う工程を含む。
【0033】
コンポジット樹脂は、フルオロアルキル基含有オリゴマーとアミノ樹脂とを含む反応原料溶液中で、フルオロアルキル基含有オリゴマーのアルコキシシリル基が加水分解されることで、フルオロアルキル基含有オリゴマーとアミノ樹脂とがコンポジット化することにより得られる。コンポジット化のメカニズム、及びコンポジット化されたフルオロアルキル基含有オリゴマーとアミノ樹脂との構造については解明されていないため、コンポジット樹脂の構造又は特性を文言上特定することはできない。しかし、上述のように、コンポジット樹脂中では、アミノ樹脂に由来するアミノ基が分散されている、と推察される。このようにアミノ基が分散されていることで、アミノ基が水素結合に関与することにより、種々の基材との密着性が発揮されると考えられる。
【0034】
反応原料溶液中のアミノ樹脂は、コンポジット樹脂に含まれるアミノ樹脂と同様のアミノ樹脂であってよい。
【0035】
反応原料溶液中のアミノ樹脂は、25℃で液状である、又は反応原料溶液中に25℃で溶解していることが好ましい。すなわち、原料として用いられるアミノ樹脂は、25℃で液状である性質、又は25℃で反応原料溶液中に溶解可能である性質を有することが好ましい。この場合、フルオロアルキル基含有オリゴマーとアミノ樹脂とがより良好にコンポジット化しうる。
【0036】
反応原料溶液中のアミノ樹脂は、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、及び尿素樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。メラミン樹脂の具体例は、メチル化ブチル化メラミンホルムアルデヒド樹脂、メチル化メラミンホルムアルデヒド樹脂、ブチル化メラミンホルムアルデヒド樹脂等を含む。アニリン樹脂の具体例は、メチル化アニリンホルムアルデヒド樹脂、ブチル化アニリンホルムアルデヒド樹脂、メチル化ブチル化アニリンホルムアルデヒド樹脂等を含む。ベンゾグアナミン樹脂の具体例は、メチル化ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂、ブチル化ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂、メチル化ブチル化ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂、メチル化エチル化ベンゾグアナミンホルムアルデヒド樹脂等を含む。尿素樹脂の具体例は、メチル化尿素ホルムアルデヒド樹脂、ブチル化尿素ホルムアルデヒド樹脂、メチル化ブチル化尿素ホルムアルデヒド樹脂等を含む。アミノ樹脂は、メラミン樹脂を含むことが特に好ましい。
【0037】
反応原料溶液中のアミノ樹脂の含有量は、一般式(1)で表されるフルオロアルキル基含有オリゴマー100質量部に対して、0.1質量部以上1000質量部以下であることが好ましい。この場合、コンポジット樹脂は、極性物質及び無極性物質に対する特異な親和性を有しうる。アミノ樹脂の含有量は、フルオロアルキル基含有オリゴマー100質量部に対して、1質量部以上500質量部以下であることがより好ましく、2質量部以上200質量部以下であることが特に好ましい。
【0038】
反応原料溶液の調製において、フルオロアルキル基含有オリゴマー及びアミノ樹脂の添加順序は特に制限されない。
【0039】
加水分解反応を行う際の反応温度は、-5℃以上50℃以下であることが好ましい。加水分解反応を-5℃以上で行うことで、加水分解速度が遅くなりすぎることを防ぎ、反応効率を高めることができる。また、加水分解反応を50℃以下で行うことで、コンポジット樹脂の安定性を向上させることができる。加水分解反応を行う反応時間は、特に限定されず、適宜選択することができる。反応時間は、例えば1~72時間の範囲内であることが好ましく、1~50時間の範囲内であることがより好ましい。
【0040】
加水分解反応は、反応溶媒を用いて行うことが好ましい。すなわち、反応原料溶液は、反応溶媒を含有することが好ましい。この場合、加水分解反応を効率的に行うことができる。反応溶媒の例は、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールを含む。これらの溶媒を1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して混合溶媒として用いてもよい。特に、水とメタノールの混合溶媒を用いることが好ましい。反応原料溶液中で加水分解反応を行った後に得られるコンポジット樹脂を含有する反応液を、常法により減圧することで、反応溶媒を除去してもよい。また、加水分解反応終了後、反応溶媒を除去せずに、コンポジット樹脂を含有する反応液を、後述するコーティング材としてそのまま使用してもよい。
【0041】
加水分解反応の方法は、特に制限されず、酸触媒及び塩基触媒等の触媒下で行ってもよく、無触媒下で行ってもよい。加水分解反応における触媒の有無、及び触媒の種類に応じて、得られるコンポジット樹脂は異なる特性を発揮する。そのため、使用する用途に応じて、加水分解反応の方法を適宜選択すればよい。
【0042】
加水分解反応を無触媒下で行う場合、無触媒下の加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂は、塩基触媒下の加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂と比較して、高い親水性及び撥油性を有しうる。無触媒下の加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂は、後述する方法で測定されるコンポジット樹脂の水に対する接触角が90°以下となる親水性を有しうる。また、コンポジット樹脂は、後述する方法で測定されるコンポジット樹脂のドデカンに対する接触角が21°以上となる撥油性を有しうる。無触媒下での加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂は、親水性及び撥油性を有しうるため、このコンポジット樹脂を含有するコーティング材を用いてコーティング層を形成する場合、曇り難く、指紋等の油性成分を含む汚れが付着し難いコーティング層を得ることができる。
【0043】
また、無触媒下での加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂は、良好な透明性を有する。そのため、このコンポジット樹脂を含有するコーティング材を用いることで、透明性の高いコーティング層を形成することができる。
【0044】
さらに、無触媒下での加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂は、金属基材、ガラス基材、PP(ポリプロピレン)樹脂やABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)樹脂等を含む樹脂基材といった種々の基材への良好な密着性を有する。そのため、このコンポジット樹脂を含有するコーティング材を用いることで、種々の基材への高い密着性を有するコーティング層を形成することができる。
【0045】
加水分解反応を酸触媒下で行う場合、酸触媒としては、フルオロアルキル基含有オリゴマー中のアルコキシシリル基を加水分解できるものであれば特に制限されない。酸触媒の例は、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸等を含む。
【0046】
酸触媒下での加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂は、無触媒下での加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂と同様の特性を有する。すなわち、酸触媒下での加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂は、親水性及び撥油性を有しうる。また、このコンポジット樹脂は、良好な透明性、及び金属基材、ガラス基材、PP(ポリプロピレン)樹脂やABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合)樹脂等を含む樹脂基材といった種々の基材への良好な密着性を有する。
【0047】
加水分解反応を塩基触媒下で行う場合、塩基触媒としては、フルオロアルキル基含有オリゴマー中のアルコキシシリル基を加水分解できるものであれば特に制限されない。塩基触媒の例は、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等を含む。
【0048】
塩基触媒下での加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂は、無触媒下及び酸触媒下での加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂と比較して、高い撥水性及び親油性を有しうる。塩基触媒下での加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂は、後述する方法で測定されるコンポジット樹脂の水に対する接触角が91°以上となる撥水性を有しうる。また、塩基触媒下での加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂は、後述する方法で測定されるコンポジット樹脂のドデカンに対する接触角が20°以下となる親油性を有しうる。塩基触媒下での加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂は、撥水性及び親油性を有しうるため、例えば、このコンポジット樹脂を油水分離材の用途で用いることができる。また、塩基触媒下での加水分解反応によって得られるコンポジット樹脂は、超撥水性及び超親油性を有しうる。コンポジット樹脂が超撥水性を有するとは、後述する方法で測定されるコンポジット樹脂の水に対する接触角が150°以上であることを意味する。また、コンポジット樹脂が超親油性を有するとは、後述する方法で測定されるコンポジット樹脂のドデカンに対する接触角が5°以下であることを意味する。超撥水性及び超親油性を有するコンポジット樹脂は、油水分離材の用途で特に好適に用いることができる。
【0049】
本発明の一実施形態に係るコーティング材について説明する。
【0050】
本実施形態のコーティング材は、コンポジット樹脂を含有する。上述のように、フルオロアルキル基含有オリゴマーとアミノ樹脂と反応溶媒とを含む反応原料溶液中のアルコキシシリル基の加水分解反応を行った後のコンポジット樹脂を含有する反応液を、反応溶媒を除去せずにコーティング材としてそのまま使用してもよい。また、コンポジット樹脂を含有する反応液から、常法により反応溶媒を除去し、コンポジット樹脂を得た後、コンポジット樹脂を分散媒に分散させた分散液をコーティング材として用いてもよい。
【0051】
コーティング材は、用途に応じてコンポジット樹脂以外の成分を含有してもよい。コーティング材は、例えば、シランカップリング剤等の添加剤を含有してもよい。コーティング材の用途に応じて、添加剤を適宜選択することができる。例えば、コーティング材に抗菌性シランカップリング剤を添加することで、コーティング材から形成されるコーティング層に抗菌性を付与することができる。
【0052】
上述のように、コンポジット樹脂は、加水分解反応における触媒の有無、及び触媒の種類に応じて、得られるコンポジット樹脂は異なる特性を発揮する。そのため、コーティング材として用いる際の用途に応じて、コンポジット樹脂の特性を選択することができる。そのため、コンポジット樹脂を含有するコーティング材は、光学製品の部品に使用される反射防止膜、光学フィルター、光学レンズ、液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、プロジェクションテレビ、プラズマディスプレイ、及びELディスプレイ等の光学部材、壁紙、並びに看板等に用いることができる。
【0053】
本発明の一実施形態に係る被覆基材について説明する。
【0054】
本実施形態の被覆基材は、基材と、基材上に設けられるコンポジット樹脂を含有するコーティング層と、を有する。
【0055】
基材は特に限定されず、コンポジット樹脂を含有するコーティング層と良好な密着性を有するものであればよい。基材の原料の例は、金属;ガラス繊維、シリカ、シリカゲル、アルミナ、スラグウール、モレキュラーシーブ、ゼオライト、活性炭、珪藻土、砂、石綿等の無機物;セルロース、羊毛、綿、絹等の天然高分子;ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリカーボネート等の縮合系または付加系重合高分子重合体;ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル等のエチレン性不飽和高分子重合体を含む。
【0056】
基材の形状は特に限定されず、例えば、細片状、海綿状、リボン状、フィブリル状、ウェブ状、マット状、綿布状、不織布状等であってよい。
【0057】
このような基材上に、コンポジット樹脂を含有するコーティング層を形成することで、被覆基材を得ることができる。コーティング層は、上述のコンポジット樹脂を含有するコーティング材を用いて形成することができる。例えば、コーティング材を基材に塗布し、乾燥させることでコーティング層を形成することができる。
【0058】
被覆基材は、コーティング層の特性に応じて種々の用途に使用することができる。例えば、撥水性及び親油性の高いコンポジット樹脂を含有するコーティング層が設けられた被覆基材は、水と油性成分の混合液を分離処理するための油水分離材として用いることができる。被覆基材を油水分離材として用いる場合、例えば、カラムに油水分離材として被覆基材を充填し、混合液をカラムに投入することで水と油性成分とを分離することができる。
【0059】
本発明の一実施形態に係る絶縁材料について説明する。
【0060】
本実施形態の絶縁材料は、コンポジット樹脂を含有する。コンポジット樹脂は、金属への高い密着性を有しうるため、コンポジット樹脂を含有する絶縁材料は、ソルダーレジスト、及び内層絶縁材等の用途に好適に用いることができる。
【0061】
絶縁材料は、例えば、コンポジット樹脂を含有する樹脂組成物であってよい。樹脂組成物は、コンポジット樹脂に加えて、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のうちの少なくとも一つを含有することができる。樹脂組成物は、例えば、コンポジット樹脂に加えて、カルボキシル基含有樹脂、エチレン性不飽和結合を一分子中に少なくとも一つ有する不飽和化合物、光重合開始剤、エポキシ化合物、有機フィラー、カップリング剤、及び溶媒等の成分を含有することができる。樹脂組成物は、更に無機フィラー、硬化剤、密着性付与剤、硬化促進剤、着色剤、レベリング剤、チクソトロピー剤、重合禁止剤、ハレーション防止剤、難燃剤、消泡剤、酸化防止剤、界面活性剤、高分子分散剤等の成分を必要に応じて含有してもよい。
【0062】
例えば、絶縁層と導体配線とを備えるプリント配線板の導体配線上に、コンポジット樹脂を含有する樹脂組成物から皮膜を形成し、この皮膜を熱硬化及び光硬化のうちの少なくとも一つの方法で硬化させて硬化皮膜を形成することができる。例えば、樹脂組成物から形成された皮膜に露光及び現像処理を施した後、熱硬化処理を施すことでソルダーレジスト層を形成することができる。
【実施例
【0063】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0064】
(1)フルオロアルキル基含有オリゴマー
フルオロアルキル基含有オリゴマー(以下、「VM」ということがある)として、下記表1のものを使用した。
【0065】
【表1】
【0066】
表1中、分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、ポリスチレン換算)による平均分子量である。
【0067】
(2)コンポジット樹脂の合成
(2-1)合成例1~9
VM、メチル化ブチル化メラミンホルムアルデヒド樹脂(日本サイテックインダストリーズ株式会社製、品名サイメル235、数平均分子量630、重合度1.4、25℃で液状)、及びメタノールを後掲の表2に示す量で容器に仕込み、反応原料溶液を調製した。次いで、マグネチックスターラーを用いて反応原料溶液を25℃で5分間攪拌した。その後、合成例1~3の反応原料溶液においては、マグネチックスターラーを用いて25℃で更に12時間攪拌を行い、これを反応液試料とした。合成例4~6の反応原料溶液においては、後掲の表2に示す量で25wt%aq.NHを添加し、反応原料溶液を、マグネチックスターラーを用いて25℃で12時間攪拌した。これによって得られた反応液を合成例4~6の反応液試料とした。合成例7~9の反応原料溶液においては、後掲の表2に示す量で1mol/LのHCLを添加し、反応原料溶液を、マグネチックスターラーを用いて25℃で12時間攪拌した。これによって得られた反応液を、合成例7~9の反応液試料とした。
【0068】
合成例1~9の反応液試料に含まれるコンポジット樹脂の平均粒子径を、レーザー解析・散乱式粒度分布測定装置(大塚電子株式会社製、品番ELSZ-2000ZS)を用いて測定した。合成例1、2、4、5、7及び8の反応液試料に含まれるコンポジット樹脂の平均粒子径は、検出限界である0.6nm未満であったため、測定できなかった。合成例3、6、9の反応液試料に含まれるコンポジット樹脂の平均粒子径は後掲の表2に示す通りである。
【0069】
(2-2)合成例10
VM、メタノールを後掲の表2に示す量で容器に仕込み、反応原料溶液を調製した。次いで、マグネチックスターラーを用いて反応原料溶液を25℃で5分間攪拌した。その後、マグネチックスターラーを用いて25℃で更に12時間攪拌を行い、これを反応液試料とした。
【0070】
【表2】
【0071】
(3)テストピースの作製
(3-1)実施例1~9及び比較例1
実施例1~9及び比較例1のテストピースを、次のようにして作製した。合成例1~10の反応液試料の各々に、ガラス基板、PP(ポリプロピレン)基板、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)基板を25℃で1分間浸漬した。それぞれの基板を反応液試料から引き上げた後、自然乾燥し、更に20℃で一晩真空乾燥を行い、基板上に反応液から形成された層が設けられた実施例1~9及び比較例1のテストピースを得た。
【0072】
(3-2)実施例10~18及び比較例2
実施例10~18及び比較例2のテストピースを、次のようにして作製した。合成例1~10の反応液試料の各々に、ガラス基板、PP(ポリプロピレン)基板、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)基板を25℃で1分間浸漬した。それぞれの基板を反応液試料から引き上げた後、自然乾燥し、更に20℃で一晩真空乾燥を行った。その後、ガラス基板には150℃で1時間、PP基板には80℃で1時間、ABS基板には60℃で1時間の加熱処理を行った。これにより、基板上に反応液から形成された層が設けられた実施例10~18及び比較例2のテストピースを得た。
【0073】
(3-3)実施例19及び比較例3
(3-3-1)カルボキシル基含有樹脂の合成
還流冷却器、温度計、空気吹き込み管及び攪拌機を取付けた四つ口フラスコ内に、ビスフェノールフルオレン型エポキシ化合物(下記式(2)で示され、式(2)中のR~Rがすべて水素である、エポキシ当量250g/eqのエポキシ化合物)250質量部、アクリル酸72質量部、トリフェニルフォスフィン1.5質量部、メチルハイドロキノン0.2質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート60質量部、及びジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート140質量部を加えた。これらをエアバブリング下で攪拌することで混合物を調製した。この混合物をフラスコ内でエアバブリング下で攪拌しながら、115℃で12時間加熱した。これにより、中間体の溶液を調製した。続いて、フラスコ内の中間体の溶液に1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸60.8質量部、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物58.8質量部、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート38.7質量部を投入した。これらをエアバブリング下で攪拌しながら115℃で6時間加熱し、さらに、エアバブリング下で攪拌しながら80℃で1時間加熱した。これにより、カルボキシル基含有樹脂の65質量%溶液を得た。カルボキシル基含有樹脂の多分散度(Mw/Mn)は2.15であり、重量平均分子量(Mw)は3096であり、酸価は105mgKOH/gであった。
【0074】
【化4】
【0075】
(3-3-2)感光性樹脂組成物の調製
後掲の表5の「組成」欄に示す成分を、フラスコ内で35℃で攪拌混合することで、実施例19及び比較例3で用いる感光性樹脂組成物を得た。
【0076】
表5の「組成」に示される成分の詳細は次の通りである。
・不飽和化合物:トリメチロールプロパントリアクリレート。
・光重合開始剤A:2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、BASF社製、品番Irgacure TPO。
・光重合開始剤B:1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、BASF社製、品番Irgacure 184。
・光重合開始剤C:4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン。
・エポキシ樹脂A:ビフェニル型結晶性エポキシ樹脂、三菱化学株式会社製、品番YX-4000、融点105℃、エポキシ当量187g/eq。
・エポキシ樹脂B:ビスフェノール型結晶性エポキシ樹脂、新日鉄住金化学株式会社製、品番YSLV-80XY、融点75~85℃、エポキシ当量192g/eq。
・エポキシ樹脂Cの溶液:長鎖炭素鎖含有ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製、品番EPICLON EXA-4816、液状樹脂、エポキシ当量410g/eq)を固形分90%でジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートに溶解させた溶液(固形分90%換算のエポキシ当量は、455.56g/eq)。
・有機フィラーの分散液:平均一次粒子径0.07μmの架橋ゴム(NBR)を、分散液全量に対して含有量15重量%で、メチルエチルケトン中に分散させた分散液(JSR株式会社製、品番XER-91-MEK、酸価10.0mgKOH/g)。
・シランカップリング剤:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン。
・酸化防止剤:ヒンダードフェノール系酸化防止剤、BASF社製、品番IRGANOX 1010。
・界面活性剤:DIC株式会社製、品番メガファックF-477。
・VM/アミノコンポジット溶液:合成例2の反応液。
・溶剤:ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート。
【0077】
(3-3-3)テストピースの作製
実施例19及び比較例3の感光性樹脂組成物を用いて、次のようにしてテストピースを作製した。
【0078】
感光性樹脂組成物を、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム上にアプリケータで塗布してから、95℃で25分加熱することで乾燥させることにより、フィルム上に厚み30μmのドライフィルムを形成した。
【0079】
厚み17.5μmの銅箔を備えるガラスエポキシ銅張積層板(FR-4タイプ)を用意した。このガラスエポキシ銅張積層板にサブトラクティブ法で導体配線としてライン幅/スペース幅が30μm/30μmであるくし型電極を形成し、これによりコア材を得た。このコア材の導体配線における厚み1μm程度の表層部分を、エッチング剤(メック株式会社製の有機酸系マイクロエッチング剤、品番CZ-8101)で溶解除去することにより、導体配線を粗化した。このコア材の一面全面にドライフィルムを真空ラミネーターで加熱ラミネートした。加熱ラミネートの条件は、0.5MPa、80℃、1分間である。これにより、コア材上にドライフィルムからなる膜厚30μmの皮膜を形成した。この皮膜に、ポリエチレンテレフタレート製のフィルム上から、直径60μmの円形形状を含むパターンの非露光部を有するネガマスクを直接当てがった状態で、ネガマスクを介して皮膜に250mJ/cmの条件で紫外線を照射した。露光後、ドライフィルム(皮膜)からポリエチレンテレフタレート製のフィルムを剥離した。次いで、露光後の皮膜に現像処理を施した。現像処理に当たっては、皮膜に30℃の1%NaCO水溶液を0.2MPaの噴射圧で90秒間噴射した。続いて皮膜に純水を0.2MPaの噴射圧で90秒間噴射することで洗浄した。これにより、皮膜における露光されていない部分を除去した。続いて、皮膜を180℃で120分間加熱した。これにより、コア材上に感光性樹脂組成物の硬化物(ドライフィルムの硬化物ともいえる)からなる層を形成した。これによりテストピースを得た。
【0080】
(4)評価試験
(4-1)透明性
実施例1~18及び比較例1~2のテストピースの各々について、反応液から形成された層が設けられていない元の基板(ガラス基板、PP基板、及びABS基板)と比較して、目視により透明性を下記の評価基準で評価し、後掲の表3及び4の「透明性」欄に示す。
A:元の基板と同等の透明性を有する。
B:元の基板よりも低い透明性を有する。
【0081】
(4-2)密着性
JIS K 5600-5-6に準拠し、実施例1~18及び比較例1~2のテストピースの各々に25マスの切れ込みを入れ、その上から粘着テープを貼りつけた後、5分以内に粘着テープを剥がした。反応液から形成された層の剥がれを目視で確認した。その結果を次のように評価し、後掲の表3及び4の「密着性」欄に示す。
A:25マス中22マス以上において、反応液から形成された層が剥がれずに残った。
B:25マス中10マス以上22マス未満において、反応液から形成された層が剥がれずに残った。
C:25マス中10マス未満において、反応液から形成された層が剥がれずに残った。
【0082】
(4-3)接触角(ドデカン)
実施例1~18及び比較例1~2のテストピースの各々に、ドデカンを接触させ、30分後の接触角を、接触角計(協和界面科学株式会社製、Drop Master.300)を用いて測定した。その結果を、後掲の表3及び4の「接触角(ドデカン)」欄に示す。なお、反応液から形成された層が設けられていない元のガラス基板、PP基板、及びABS基板のドデカンに対する接触角は、それぞれ0°、0°、9°であった。
【0083】
表3及び4の「接触角(ドデカン)」欄におけるN/Aは、ドデカンに対する接触角が測定されなかったことを意味する。
【0084】
(4-4)接触角(水)
実施例1~18及び比較例1~2のテストピースの各々に、水を接触させ、30分後の接触角を、接触角計(協和界面科学株式会社製、Drop Master.300)を用いて測定した。その結果を、後掲の表3及び4の「接触角(ドデカン)」欄に示す。なお、反応液から形成された層が設けられていない元のガラス基板、PP基板、及びABS基板の水に対する接触角は、それぞれ29°、38°、80°であった。
【0085】
表3及び4の「接触角(水)」欄におけるN/Aは、水に対する接触角が測定されなかったことを意味する。
【0086】
(4-5)耐メッキ性
実施例19及び比較例3のテストピースの導体配線における外部に露出する部分の上に、市販の無電解ニッケルメッキ浴を用いてニッケルメッキ層を形成してから、市販の無電解金メッキ浴を用いて金メッキ層を形成した。これにより、ニッケルメッキ層及び金メッキ層からなる金属層を形成した。硬化物からなる層及び金属層を目視で観察した。また、硬化物からなる層に対してセロハン粘着テープ剥離試験をおこなった。その結果を次のように評価し、後掲の表5の「耐メッキ性」欄に示す。
A:硬化物からなる層及び金属層の外観に異常は認められず、セロハン粘着テープ剥離試験による硬化物からなる層の剥離は生じなかった。
B:硬化物からなる層に変色が認められるが、セロハン粘着テープ剥離試験による硬化物からなる層の剥離は生じなかった。
C:硬化物からなる層の浮き上がりが認められ、セロハン粘着テープ剥離試験による硬化物からなる層の剥離が生じた。
【0087】
(4-6)線間絶縁性
実施例19及び比較例3のテストピースにおける導体配線(くし型電極)にDC30Vのバイアス電圧を印加しながら、テストピースを121℃、97%R.H.の試験環境下に120時間曝露した。この試験環境下における硬化物からなる層のくし型電極間の電気抵抗値を常時測定し、その結果を次の評価基準により評価し、後掲の表5の「線間絶縁性」欄に示す。
A:試験開始時から100時間経過するまでの間、電気抵抗値が常に10Ω以上を維持した。
B:試験開始時から80時間経過するまでは電気抵抗値が常に10Ω以上を維持したが、試験開始時から100時間経過する前に電気抵抗値が10Ω未満となった。
D:試験開始時から80時間経過する前に電気抵抗値が10Ω未満となった。
【0088】
(4-7)PCT(プレッシャクッカー試験)
実施例19及び比較例3のテストピースを121℃、100%R.H.の環境下で100時間放置した後、硬化物からなる層の外観を次の評価基準により評価し、その結果を後掲の表5の「PCT」欄に示す。
A:硬化物からなる層に異常は見られなかった。
B:硬化物からなる層に変色が見られた。
C:硬化物からなる層に大きな変色が見られ、一部膨れが発生していた。
【0089】
(4-8)粗化耐性
実施例19及び比較例3のテストピースについて、硬化物からなる層の外表面を、めっき処理の前工程において一般的なデスミア処理に基づいて下記手順で粗化させた。デスミア用膨潤液として市販されている膨潤処理液(アトテックジャパン株式会社製、スウェリング・ディップ・セキュリガンスP)を用いて膨潤処理を60℃で5分間行い、硬化物からなる層の表面を膨潤させた。次いで、この膨潤された表面に対して湯洗を行った。続いて、過マンガン酸カリウムを含有する、デスミア液として市販されている酸化剤(アトテックジャパン株式会社製、コンセントレート・コンパクトCP)を用いて80℃で10分間粗化処理を行い、湯洗後の硬化物からなる層の表面を粗化した。粗化された硬化物からなる層の表面に対して、湯洗を行い、更にこの硬化物からなる層の表面に、中和液(アトテックジャパン株式会社製、リダクションソリューション・セキュリガントP)を用いて40℃で5分間中和処理を行うことで、デスミア液の残渣を除去した。その後、中和後の硬化物からなる層の表面を水洗し、表面が粗化された感光性樹脂組成物の硬化物からなる層の厚みを測定した。その結果を、デスミア液に対する粗化耐性として次の評価基準により評価し、後掲の表5の「粗化耐性」欄に示す。
A:粗化による硬化物からなる層の厚みの減少が3μm未満である。
B:粗化による硬化物からなる層の厚みの減少が3μm以上6μm未満である。
C:粗化による硬化物からなる層の厚みの減少が6μm以上である。
【0090】
(4-9)銅メッキ層への密着性
実施例19及び比較例3のテストピースについて、上記(4-8)で行ったのと同様の方法で硬化物からなる層に粗化処理を行った。次いで、市販の薬液を用いて、粗化された硬化物からなる層の表面に無電解銅メッキ処理で初期配線を形成した。この初期配線が設けられたテストピースを、150℃で1時間加熱した。次に、電解銅メッキ処理により、2A/dmの電流密度で、市販の薬液から初期配線に厚さ33μmの銅を直接析出させ、続いて銅を析出させたテストピースを180℃で30分間加熱して銅メッキ層を形成した。形成された銅メッキ層と硬化物からなる層との密着性を、次の評価基準により評価し、その結果を後掲の表5の「銅メッキ層への密着性」欄に示す。なお、無電解銅メッキ処理後、及び電解銅メッキ処理後の両方の加熱時にテストピースにブリスターが確認されない場合、銅メッキ層と硬化物からなる層との密着強度を、JIS C6481に準拠して測定した。
A:無電解銅メッキ処理後の加熱時、及び電解銅メッキ処理後の加熱時のいずれにおいてもブリスターが確認されず、密着強度は0.6kN/m以上であった。
B:無電解銅メッキ処理後の加熱時、及び電解銅メッキ処理後の加熱時のいずれにおいてもブリスターが確認されず、密着強度は0.6kN/m未満であった。
C:無電解銅メッキ処理後の加熱時、又は電解銅メッキ処理後の加熱時のいずれかにおいてブリスターが確認された。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
【表5】
【0094】
表3及び4に示す透明性の評価試験結果が示す通り、無触媒下及び酸触媒下でコンポジット化されたコンポジット樹脂は、良好な透明性を有する。一方、塩基触媒下でコンポジット化されたコンポジット樹脂の透明性は、無触媒下及び酸触媒下でコンポジット化されたコンポジット樹脂よりも低い。このため、無触媒下及び酸触媒下でコンポジット化されたコンポジット樹脂は、高い透明性が必要とされる用途に好適に用いることができる。
【0095】
実施例1~18のコンポジット樹脂は、比較例1~2のコンポジット化されていないフルオロアルキル基含有オリゴマーと比較して、ガラス基板、PP基板、及びABS基板に対して優れた密着性を有する。さらに、無触媒下及び酸触媒下でコンポジット化されたコンポジット樹脂は、塩基触媒下でコンポジット化されたコンポジット樹脂と比較して、更に優れたガラス基板、PP基板、及びABS基板に対する密着性を有する。
【0096】
無触媒下及び酸触媒下でコンポジット化されたコンポジット樹脂は、撥油性を有する傾向にある。また、無触媒下及び酸触媒下でコンポジット化されたコンポジット樹脂は、塩基触媒下でコンポジット化されたコンポジット樹脂と比較して、親水性が高い。一方、塩基触媒下でコンポジット化されたコンポジット樹脂は、無触媒下及び酸触媒下でコンポジット化されたコンポジット樹脂と比較して、撥油性が低い。また、塩基触媒下でコンポジット化されたコンポジット樹脂は高い撥水性を有する傾向にある。特に、ガラス基板上にコンポジット樹脂を含有する反応液から形成された層が設けられた実施例5及び14は、超撥水性及び超親油性を有するため、このような被覆基材は、油水分離用途に特に好適に用いることができる。