(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-06-20
(54)【発明の名称】凍結解凍後、なめらかな食感を有する液状乳脂肪クリーム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 13/14 20060101AFI20220509BHJP
【FI】
A23C13/14
(21)【出願番号】P 2021054310
(22)【出願日】2021-02-04
【審査請求日】2021-10-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502007147
【氏名又は名称】中沢乳業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩間 亮
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-131927(JP,A)
【文献】特開2016-067321(JP,A)
【文献】特開平06-090663(JP,A)
【文献】特開2006-025690(JP,A)
【文献】特開昭58-111639(JP,A)
【文献】特開昭58-152457(JP,A)
【文献】特開昭63-287436(JP,A)
【文献】特開2013-128426(JP,A)
【文献】特開平11-98950(JP,A)
【文献】特開平8-23879(JP,A)
【文献】特開平3-94638(JP,A)
【文献】特開平3-10640(JP,A)
【文献】特開平2-249449(JP,A)
【文献】特開昭59-51739(JP,A)
【文献】特開昭57-186436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純生クリーム、乳化剤を含有し、糖類を含まず、脂肪分が18~40重量%であり、乳化剤としてHLB7~16のショ糖脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、酵素分解レシチン、から選択される1種以上を0.6~1.3重量%含有し、-18℃設定の冷凍設備にて凍結し、解凍後に乳脂肪球のメジアン径が5μm以下、液状でホイップが可能であり、かつ組織がなめらかであることを特徴とする植物性脂肪を含まない乳脂肪クリーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に料理、洋菓子用等に使用する乳脂肪クリームに於いて、凍結保存を可能にする製造方法、及びこれにより製造された乳脂肪クリームに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に純生クリームとは、乳から乳脂肪以外の成分を除去して得られたものであり、水中油型乳化物の体を成している。
【0003】
純生クリームとは、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令で規定される、乳から乳脂肪分以外の成分を除去して作られる「クリーム」のことであり、その他、乳化剤、安定剤、植物油脂、その他食品等を加えたものは、「乳及び乳製品、並びにそれらを主要原料とする食品」と規定されている。これらを総称してクリーム類と呼ばれることが多い。
【0004】
クリーム類は今日、様々な用途に用いられている。料理やコーヒーにそのまま入れたり、泡立ててケーキのデコレーションに用いたりもする。様々な形態により顧客の多岐にわたるニーズに対応している。
【0005】
クリーム類は様々な形態で提供されているが、自然の乳風味を有した乳脂肪クリームは、風味面で優位性があり好まれる傾向がある。特に純生クリームを主原料として作られた乳脂肪クリームは、油っこく無い自然の乳風味を感じることができる。ただし乳脂肪は植物性脂肪に比べ扱いが難しく、また、その成分構成から日持ちしないことが知られている。
【0006】
品質の維持や衛生性の確保など、取り扱いが難しく、低温管理が必須の食品であるが、例えば日持ち目的で液状のまま冷凍保管した場合、水分の結晶化により、乳化状態が損なわれ、解凍時には凍結前と同様の品質には戻らない。液状状態から、分離、食感のざらつき、ホイップ機能の損失等、本来期待される製品品質が著しく失われる。このため衛生性の確保を目的とした冷凍保管を行うことは出来ず、冷凍する際はホイップ後に冷凍保管する技術が中心となり、液状の状態では冷蔵保管を行うことが原則となっていた。
【0007】
液状の状態における衛生性の確保については高温での加熱殺菌技術が発展しており、さらに近年では特異的な焦げ臭も抑える技術が公開されている。また、クリーム類での実績は少ないものの、急速冷凍技術を具現化した機器も登場している。ただしこれらの技術を運用するには高額な機器を導入する必要があり、先行投資が可能な状況に限定される。未だに簡易な冷凍保管に対応した乳脂肪クリームが要望されていることに変わりはないのが現状である。
【0008】
このような要望に対し、剪断機を用い微細気泡を含有させ液状での冷凍保管を可能とする技術が公開されている(特許文献1)。
【0009】
さらには、原料乳の段階で濃縮工程を設けることと、最大氷結晶生成帯を30分以上、100分以下で冷却することを特徴とする技術が公開されている(特許文献2)。
【0010】
一方で配合技術として、脂肪分やタンパク質を抑え、糖類を配合することにより冷凍障害を抑える方法が公開されている(特許文献3)。
【0011】
さらに副原料を使用する乳脂肪クリームの技術として、ショ糖脂肪酸エステルを用いた乳化安定化技術が公開されている(特許文献4)。
【0012】
その他、乳化を安定化する方法としてショ糖脂肪酸エステル等を水相に添加する方法が紹介されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第5146894号
【文献】WO2018/168930号
【文献】特公昭61-019224号
【文献】特許第6736022号
【非特許文献】
【0014】
【文献】三浦靖,日本食品科学工学会誌,Vol.59,No.9,p484-489,(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1に開示されている技術に於いては、比較的安価な改良コストではあるものの製造機器の改良が必要であることにより、様々な製品を製造するにあたっては手軽さに欠ける面がある。
【0015】
特許文献2に開示されている技術は、急速冷凍技術では無いものの、比較的短時間で凍結を行うことを前提としており、氷結晶の生成がさらに速くなる-18℃設定の一般的な冷凍庫には対応できない問題がある。
【0016】
特許文献3に開示されている技術は、多量の糖類を含むため、用途が限定されてしまう問題がある。
【0017】
特許文献4に開示されている技術は、乳脂肪源としてバターを使用しており、水中油型乳化物となる純生クリームを原料として使用する場合、HLBの低いショ糖脂肪酸エステルを配合することは製造において難しい。
【0018】
非特許文献1は既に様々な記載がある通り、脂肪率10%程度の低脂肪乳化物による検証試験であり、さらに脂肪率が増加した場合は、凝集・合一が生じるため、十分な効果は得られない。また、この技術においても脂肪源は植物性脂肪より得ており、水中油型乳化物から脂肪源を得ているわけではない。
【0019】
このように、既存設備改良や増強などの必要が無く、-18℃設定に代表される一般的な冷凍に対応し、水中油型乳化物の純生クリームを主原料としてそのまま用いることができる技術が無く、提供が課題となっていた。
【課題を解決するための手段】
【0020】
そこで、本発明者が鋭意研究を行った結果、-18℃設定の緩慢冷凍設備であっても、特定の添加物を特定の配合量にて添加し、特定の均質圧力の範囲内で製造を行うことにより、解凍後の冷凍変性を大幅に抑制し、分離、食感のざらつき、ホイップ機能の損失等が軽減されることを見出し、本発明を完成させた。
【0021】
すなわち、本発明により以下の乳脂肪クリームの製造方法等が提供される。
1.純生クリーム、乳化剤を含有し、糖類を含まず、脂肪分が18~40重量%であり、乳化剤としてHLB7~16のショ糖脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、酵素分解レシチン、から選択される1種以上を0.6~1.3重量%含有し、-18℃設定の冷凍
設備にて凍結し、解凍後に乳脂肪球のメジアン径が5μm以下、液状でホイップが可能であり、かつ組織がなめらかであることを特徴とする植物性脂肪を含まない乳脂肪クリーム。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、乳脂肪クリームを-18℃設定程度の緩慢冷凍設備を使用しても、凍結による乳化破壊が大幅に抑制され、解凍後に分離、食感のざらつき等も無く、なめらかな食感で風味の良い乳脂肪クリームを提供することが可能となる。
【0023】
さらには、冷凍保管による衛生性の確保が可能となることで、乳製品製造業に留まらずホテルや洋菓子製造業などにおいても冷凍保管が可能となるため、製造や流通、使用の現場における廃棄物の削減が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に関する実施形態について説明する。なお、本発明に於ける乳脂肪クリームとは、脂肪分が乳脂肪のみで構成された植物性脂肪を含まないクリーム類を乳脂肪クリームと定義し、添加物等を配合する乳等を主要原料とする食品も含むものとする。
【0025】
原料となる純生クリームの脂肪率は18~40%に調整する。脂肪率は分離の際、調整しても良いし、分離後に脱脂乳や水、牛乳等を用いて脂肪率を調整することも可能である。脂肪率は18~35%に調整するのが品質安定の面からより好ましい。
【0026】
乳化剤はHLB7~16のショ糖脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、酵素分解レシチンから選択される1種以上を0.6~1.3重量%となるように配合する。乳化剤はHLB11前後のショ糖ステアリン酸エステルが風味、乳化安定性の面からより好ましい。添加量は0.7~0.9重量%の範囲が風味、物性、食感の面から好ましい。
【0027】
乳化剤の他に、糖類、安定剤、塩類等が選択できるが、特に指定するものでは無い。糖類としては、ショ糖、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖、還元糖、トレハロース、キシリトール、それらを含むオリゴ糖、デキストリン、難消化性デキストリン、イヌリン、合成甘味料等が挙げられる。安定剤としては、カラギーナン、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ペクチン、アルギン酸塩、大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース、発酵セルロース、タマリンドシードガム、ジェランガム、ゼラチン、寒天、澱粉、加工澱粉等が挙げられる。塩類についてもリン酸塩、メタリン酸塩、ポリリン酸塩、無機塩類、有機塩類等が挙げられる。
【0028】
タンパク質あるいはこれに類するものについても選択できるが、添加するにあたっては本発明の効果を損なわない範囲で行う必要がある。配合量が多いと添加したタンパク質自体の冷凍障害によるざらつきが発生するため、注意が必要である。
【0029】
製造方法はクリーム類製造における従来の製造技術でよく、特に指定するものではない。一般的なクリーム類製造にて使用する設備にて製造を行うことが可能である。具体的には、原料となる純生クリームの脂肪調整を行い、添加物を配合する。予備乳化、殺菌、均質化、冷却等を行い目的の製造を実践出来る。
【0030】
殺菌方法に於いても従来の製造技術でよく、バッチ殺菌、間接加熱殺菌、直接加熱殺菌等の殺菌方法を選択できる。
【0031】
均質圧力は凍結解凍後における乳脂肪球のメジアン径が5μm以下となるように行う。この範囲を超えると解凍時における乳化維持が困難になるため、調整が必要となる。
【0032】
凍結方法は急速冷凍機や、もしくはそれに類する設備は必要とせず、緩慢冷凍設備で可能である。具体的には、冷凍食品の保管基準となる-18℃に設定された一般的な冷凍庫で対応可能である。所有設備に合わせて対応すれば良い。
【0033】
以下に本発明の実施例を示し説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
原料は以下のものを使用した。
・純生クリーム:脂肪分47%純生クリーム
・牛乳:脂肪分3.6%牛乳
・ショ糖脂肪酸エステル:三菱ケミカルフーズ株式会社製
リョートーシュガーエステルS-570(HLB5)
リョートーシュガーエステルS-770(HLB7)
リョートーシュガーエステルS-1170(HLB11)
リョートーシュガーエステルS-1670(HLB16)
・ポリグリセリン脂肪酸エステル:阪本薬品工業株式会社製
SYグリスターMS-5S(HLB11)
・グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル:理研ビタミン株式会社製
ポエムW-60
・酵素分解レシチン:辻精油株式会社製
SLP-ホワイトリゾ
【実施例1】
【0035】
60℃の牛乳49.4重量%にリョートーシュガーエステルS-1170を0.8重量%溶解し、純生クリーム49.8重量%と混合した。65℃まで加温した後、プレート式殺菌機にて殺菌処理を行い、その後、ホモゲナイザー(三和機械株式会社製)を用いて圧力条件45kgf/cm2で均質処理した。その後、冷却プレートにて5℃まで冷却した。得られた乳脂肪クリームは-18℃設定の冷凍庫にて14日間保管して凍結した後、3℃設定の冷蔵庫にて7日間保管し、これを実施例品1とした。
【実施例2】
【0036】
60℃の牛乳49.15重量%にリョートーシュガーエステルS-1170を1.25重量%溶解し、純生クリーム49.6重量%と混合した。65℃まで加温した後、プレート式殺菌機にて殺菌処理を行い、その後、ホモゲナイザー(三和機械株式会社製)を用いて圧力条件45kgf/cm2で均質処理した。その後、冷却プレートにて5℃まで冷却した。得られた乳脂肪クリームは-18℃設定の冷凍庫にて14日間保管して凍結した後、3℃設定の冷蔵庫にて7日間保管し、これを実施例品2とした。
【実施例3】
【0037】
60℃の牛乳26.6重量%にリョートーシュガーエステルS-1170を0.8重量%溶解し、純生クリーム72.6重量%と混合した。65℃まで加温した後、プレート式殺菌機にて殺菌処理を行い、その後、ホモゲナイザー(三和機械株式会社製)を用いて圧力条件40kgf/cm2で均質処理した。その後、冷却プレートにて5℃まで冷却した。得られた乳脂肪クリームは-18℃設定の冷凍庫にて14日間保管して凍結した後、流水にて解凍し、3℃設定の冷蔵庫にて2日間保管し、これを実施例品3とした。
【実施例4】
【0038】
60℃の牛乳49.4重量%にリョートーシュガーエステルS-1670を0.8重量%溶解し、純生クリーム49.8重量%と混合した。65℃まで加温した後、プレート式殺菌機にて殺菌処理を行い、その後、ホモゲナイザー(三和機械株式会社製)を用いて圧力条件45kgf/cm2で均質処理した。その後、冷却プレートにて5℃まで冷却した。得られた乳脂肪クリームは-18℃設定の冷凍庫にて14日間保管して凍結した後、流水にて解凍し、3℃設定の冷蔵庫にて2日間保管し、これを実施例品4とした。
【実施例5】
【0039】
60℃の牛乳49.4重量%にリョートーシュガーエステルS-770を0.8重量%溶解し、純生クリーム49.8重量%と混合した。65℃まで加温した後、プレート式殺菌機にて殺菌処理を行い、その後、ホモゲナイザー(三和機械株式会社製)を用いて圧力条件45kgf/cm2で均質処理した。その後、冷却プレートにて5℃まで冷却した。得られた乳脂肪クリームは-18℃設定の冷凍庫にて14日間保管して凍結した後、流水にて解凍し、3℃設定の冷蔵庫にて2日間保管し、これを実施例品5とした。
【実施例6】
【0040】
60℃の牛乳49.4重量%にポエムW-60を0.8重量%溶解し、純生クリーム49.8重量%と混合した。65℃まで加温した後、プレート式殺菌機にて殺菌処理を行い、その後、ホモゲナイザー(三和機械株式会社製)を用いて圧力条件45kgf/cm2で均質処理した。その後、冷却プレートにて5℃まで冷却した。得られた乳脂肪クリームは-18℃設定の冷凍庫にて14日間保管して凍結した後、流水にて解凍し、3℃設定の冷蔵庫にて2日間保管し、これを実施例品6とした。
【実施例7】
【0041】
60℃の牛乳49.4重量%にSLP-ホワイトリゾを0.8重量%溶解し、純生クリーム49.8重量%と混合した。65℃まで加温した後、プレート式殺菌機にて殺菌処理を行い、その後、ホモゲナイザー(三和機械株式会社製)を用いて圧力条件45kgf/cm2で均質処理した。その後、冷却プレートにて5℃まで冷却した。得られた乳脂肪クリームは-18℃設定の冷凍庫にて14日間保管して凍結した後、流水にて解凍し、3℃設定の冷蔵庫にて2日間保管し、これを実施例品7とした。
【比較例1】
【0042】
60℃の牛乳50.6重量%と純生クリーム49.4重量%を混合した。65℃まで加温した後、プレート式殺菌機にて殺菌処理を行い、その後、ホモゲナイザー(三和機械株式会社製)を用いて圧力条件40kgf/cm2で均質処理した。その後、冷却プレートにて5℃まで冷却した。得られた乳脂肪クリームは粒度測定を行うとともに、-18℃設定の冷凍庫にて14日間保管して凍結した後、流水にて解凍し、3℃設定の冷蔵庫にて2日間保管し、これを比較例品1とした。
【比較例2】
【0043】
60℃の牛乳49.9重量%にリョートーシュガーエステルS-1170を0.5重量%溶解し、純生クリーム49.6重量%と混合した。65℃まで加温した後、プレート式殺菌機にて殺菌処理を行い、その後、ホモゲナイザー(三和機械株式会社製)を用いて圧力条件45kgf/cm2で均質処理した。その後、冷却プレートにて5℃まで冷却した。得られた乳脂肪クリームは-18℃設定の冷凍庫にて14日間保管して凍結した後、3℃設定の冷蔵庫にて7日間保管し、これを比較例品2とした。
【比較例3】
【0044】
牛乳3.6重量%と純生クリーム56.4重量%を60℃に昇温し、そこにリョートーシュガーエステルS-1170を0.8重量%溶解し、その後、残りのクリーム39.2重量%と混合した。65℃まで加温した後、プレート式殺菌機にて殺菌処理を行い、その後、ホモゲナイザー(三和機械株式会社製)を用いて圧力条件40kgf/cm2で均質処理した。その後、冷却プレートにて5℃まで冷却した。得られた乳脂肪クリームは粒度測定を行うとともに、-18℃設定の冷凍庫にて14日間保管して凍結した後、流水にて解凍し、3℃設定の冷蔵庫にて2日間保管し、これを比較例品3とした。
【比較例4】
【0045】
60℃の牛乳49.4重量%にSYグリスターMS-5Sを0.8重量%溶解し、純生クリーム49.8重量%と混合した。65℃まで加温した後、プレート式殺菌機にて殺菌処理を行い、その後、ホモゲナイザー(三和機械株式会社製)を用いて圧力条件45kgf/cm2で均質処理した。その後、冷却プレートにて5℃まで冷却した。得られた乳脂肪クリームは-18℃設定の冷凍庫にて14日間保管して凍結した後、流水にて解凍し、3℃設定の冷蔵庫にて2日間保管し、これを比較例品4とした。
【比較例5】
【0046】
60℃の牛乳49.4重量%にリョートーシュガーエステルS-570を0.8重量%溶解し、純生クリーム49.8重量%と混合した。65℃まで加温した後、プレート式殺菌機にて殺菌処理を行い、その後、ホモゲナイザー(三和機械株式会社製)を用いて圧力条件45kgf/cm2で均質処理した。その後、冷却プレートにて5℃まで冷却した。得られた乳脂肪クリームは-18℃設定の冷凍庫にて14日間保管して凍結した後、流水にて解凍し、3℃設定の冷蔵庫にて2日間保管し、これを比較例品5とした。
【0047】
実施例1~7、比較例1~5を保管した-18℃設定の冷凍庫における品温推移(実施例1)を表1に示す。冷蔵状態にて約4時間保管後、冷凍庫に移送した後の温度推移となる。なお当該冷凍庫は約8時間毎に除霜運転を行う設定となっており、庫内温度が一時的に上昇する。
【表1】
【0048】
実施例1~7、比較例1~5の評価方法を以下に示す。
(1)解凍後の状態確認
凍結解凍処理後、30メッシュステンレス網にてろ過し、状態を観察した。
結果は以下の基準で判定した。○以上のものを可と判定した。
◎:液状であり、残渣物がほとんど発生しないもの。
○:液状であり、残渣物が残るものの、液体で使用可能なもの。
△:ほぼ液状であるが、残渣物がろ過の妨げになる程度に発生するもの。
×:分離や残渣物が著しく発生し、その後の評価が難しいもの。
【0049】
(2)乳脂肪球メジアン径の測定
凍結解凍処理後の状態判定が○以上のものについて、乳脂肪クリームのメジアン径を測定した。レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製LA-300)を用い、相対屈折率1.20~0.00iにて測定し、検出された値(μm)にて判定した。
【0050】
(3)粘度測定
粘度測定は、粘度計(東京計器製TVB-10M)を用いた。品温3~6℃の乳脂肪クリームを測定時間20秒間の条件で測定し、粘度(mPa・s)とした。
【0051】
(4)ホイップ性評価
ホイップ性の評価は、凍結解凍後のろ過状態の確認を行ったろ液を使用し、ミキサー(愛工舎製作所製ケンミックスKM-800)を用いて行った。ダイヤル5のスピードにて撹拌し、含気され、絞りが可能となる7分立て程度を終点とした。なお、オーバーランは次式により求めた。
オーバーラン(%)={(W1-W2)/W2}×100
W1:一定容積における液状乳脂肪クリーム重量
W2:一定容積におけるホイップ済み乳脂肪クリーム重量
ホイップ性評価は以下の基準で判定した。
○:ホイップが可能であり、かつなめらかな組織となるもの。
×:ホイップが不能、あるいはホイップ後の組織がなめらかで無いもの。
【0052】
(5)風味
風味は凍結解凍処理後に行うろ過後の液体、及びホイップ済みの両方で行い、以下の基準で判定した。
○:脂肪劣化臭、ざらつき等が無く、乳脂肪の風味が感じられるもの。
×:異味異臭、ざらつき等、風味、食感の劣化が感じられるもの。
【0053】
実施例1~7、比較例1~5の結果を表2に示す。
【表2】
なお、比較例1、2、4、5は解凍後の状態確認にて、分離や残渣物が著しく発生しているため、以後の評価を行うことが不可能と判断した。比較例3は解凍後状態にて残渣物が多く発生しており、ろ液の粒度分布状態が不安定であると判断したため、評価を中止した。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明を利用すれば、クリーム類製造者に於いては所有設備を更新することなく簡易な手法で凍結保存が可能な乳脂肪クリームの製造が可能となり、さらには製造や流通に於ける在庫管理期間の融通が可能となり、廃棄ロス削減につながる。また、レストランや洋菓子製造者などの製造現場に於いては、日々の使用に於ける在庫管理が容易となり、腐敗等による廃棄ロス削減につながる。
【要約】
【課題】 既存設備改良や増強などの必要が無く、-18℃設定に代表される一般的な冷凍に対応し、水中油型乳化物の純生クリームを主原料としてそのまま用い、甘味などが含まれるような用途を限定する配合では無く、凍結解凍後の分離・凝集などの乳化破壊が大幅に抑制される、新たな乳脂肪クリームが切望されていた。
【解決手段】 本発明により以下の乳脂肪クリームが提供される。
1.純生クリーム、乳化剤を含有し、糖類を含まず、脂肪分が18~40重量%であり、乳化剤としてHLB7~16のショ糖脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、酵素分解レシチン、から選択される1種以上を0.6~1.3重量%含有し、-18℃設定の冷凍設備にて凍結し、解凍後に乳脂肪球のメジアン径が5μm以下、液状でホイップが可能であり、かつ組織がなめらかであることを特徴とする植物性脂肪を含まない乳脂肪クリーム。
【選択図】なし