(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】洗い落とし式便器
(51)【国際特許分類】
E03D 11/02 20060101AFI20220509BHJP
【FI】
E03D11/02 Z
(21)【出願番号】P 2017003572
(22)【出願日】2017-01-12
【審査請求日】2019-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 博
(72)【発明者】
【氏名】浦田 伸一
(72)【発明者】
【氏名】永嶌 秀一
(72)【発明者】
【氏名】大久保 麻友
(72)【発明者】
【氏名】今泉 祥子
(72)【発明者】
【氏名】山本 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】土谷 匠
【審査官】広瀬 杏奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-051883(JP,A)
【文献】特開2011-174363(JP,A)
【文献】特開2016-176255(JP,A)
【文献】特開2000-273936(JP,A)
【文献】米国特許第04987616(US,A)
【文献】特許第3381261(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚物を受けるボウル部と、
前記ボウル部の下方に接続される入口部と、前記入口部に接続され自身の頂部に向けて上方へ延びる上昇管路と、床面に配設された排水配管の入口に向けて下方へ延びる下降管路と、上流側端部が前記上昇管路に接続され下流側端部が前記下降管路に接続される中間管路とを含む排水トラップ部と
を備え、
前記中間管路は、
上流側から下流側に向けて下り傾斜となるように形成されるとともに、便器洗浄時に汚物を一時的に滞留させる滞留面
を備え、
前記上昇管路は、
前記頂部の底面の曲率半径が前記入口部の底面の曲率半径よりも大きくなるように形成され、
前記上昇管路の底面が、前記入口部から下流側の前記頂部へいくにつれて徐々に平坦状となるように形成され
、
前記滞留面は、
上流側よりも排水の流路面積が小さくなるように形成された縮流部
を備えるこ
とを特徴とする洗い落とし式便器。
【請求項2】
前記縮流部は、
前記滞留面の幅方向の中心位置に形成されること
を特徴とする請求項
1に記載の洗い落とし式便器。
【請求項3】
前記滞留面は、
水平面に対して第1傾斜角度で傾斜する第1傾斜面と、
前記第1傾斜面の下流側に接続され前記第1傾斜角度よりも小さい第2傾斜角度で傾斜する第2傾斜面と
を備えることを特徴とする請求項1
または2に記載の洗い落とし式便器。
【請求項4】
前記第2傾斜面は、
排水の流れ方向の長さが前記第1傾斜面の前記流れ方向の長さよりも長くなるように形成されること
を特徴とする請求項
3に記載の洗い落とし式便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、洗い落とし式便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水洗大便器の種類の一つとして、水の落差による流水作用で汚物を押し流す、所謂洗い落し式便器が知られている(例えば特許文献1参照)。洗い落し式便器における汚物の排出性能は、例えば便器洗浄時に生じるボウル部の溜水の水位差によって決まる。
【0003】
すなわち、洗浄開始前の溜水の水位と、洗浄開始後に洗浄水が供給されているときの溜水の最高水位との水位差に応じて汚物の排出性能が決まり、例えば水位差が大きいほど排出性能は向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年の水洗大便器においては節水化が求められており、ボウル部へ供給される洗浄水の量が減少している。洗浄水の量が減少すると、上記した水位差を十分に確保できず、排出性能が低下するおそれがあった。このように、従来技術に係る洗い落し式便器にあっては、汚物の排出性能を向上させるという点で改善の余地があった。
【0006】
実施形態の一態様は、上記に鑑みてなされたものであって、汚物の排出性能を向上させることができる洗い落とし式便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の一態様に係る洗い落とし式便器は、汚物を受けるボウル部と、前記ボウル部の下方に接続される入口部と、前記入口部に接続され自身の頂部に向けて上方へ延びる上昇管路と、床面に配設された排水配管の入口に向けて下方へ延びる下降管路と、上流側端部が前記上昇管路に接続され下流側端部が前記下降管路に接続される中間管路とを含む排水トラップ部とを備え、前記中間管路は、上流側から下流側に向けて下り傾斜となるように形成されるとともに、便器洗浄時に汚物を一時的に滞留させる滞留面を備えることを特徴とする。
【0008】
これにより、比較的少ない量の洗浄水であっても、便器洗浄時の水位差を大きくすることができ、よって水洗大便器の汚物の排出性能を向上させることができる。
【0009】
すなわち、中間管路が滞留面を備えるため、便器洗浄時に汚物が滞留面に一時的に滞留し、これによって排水トラップ部の下限水位およびボウル部の溜水の水位が汚物の分だけ上昇する。そして、滞留面に滞留していた汚物が、洗浄水によって流されると、排水トラップ部の下限水位は汚物が滞留する前の状態に戻る。そのため、便器洗浄時の水位差は、上昇したボウル部の溜水の水位と元に戻った排水トラップ部の下限水位との差となることから、一時的に大きくすることができ、よって水洗大便器の汚物の排出性能を向上させることができる。
【0010】
また、前記上昇管路は、前記頂部の底面の曲率半径が前記入口部の底面の曲率半径よりも大きくなるように形成されることを特徴とする。これにより、便器洗浄時、汚物は洗浄水とともに上昇管路の頂部をスムーズに乗り越えることができる。
【0011】
また、前記滞留面は、上流側から下流側に向けて排水の流路面積が小さくなるように形成された縮流部を備えることを特徴とする。これにより、排水配管においてシールが生じてしまうことを抑制することができる。すなわち、汚物を含む排水が滞留面から排水配管へ流れ込む際に、例えば仮に直下へ落下すると、排水配管において汚物を含む排水が流路を塞ぐように流れたり、偏った状態で堆積したりしてシールの要因となるおそれがある。これに対し、滞留面が縮流部を備えるようにしたことから、排水の流速を増加させることができるため、汚物を含む排水は、直下へ落下せずに排水配管の奥側まで飛ぶようにして流れ、よって排水配管においてシールが生じてしまうことを抑制することができる。
【0012】
また、前記縮流部は、前記滞留面の幅方向の中心位置に形成されることを特徴とする。これにより、汚物を含む排水を効率よく縮流させて排水の流速を確実に増加させることができ、よって排水配管においてシールが生じてしまうことを一層抑制することができる。
【0013】
また、前記滞留面は、水平面に対して第1傾斜角度で傾斜する第1傾斜面と、前記第1傾斜面の下流側に接続され前記第1傾斜角度よりも小さい第2傾斜角度で傾斜する第2傾斜面とを備えることを特徴とする。これにより、便器洗浄時に汚物を第1傾斜面に早期に乗せるとともに、第2傾斜面に滞留させやすくすることができる。
【0014】
また、前記第2傾斜面は、排水の流れ方向の長さが前記第1傾斜面の前記流れ方向の長さよりも長くなるように形成されることを特徴とする。これにより、汚物を滞留面の第2傾斜面により滞留させやすくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
実施形態の一態様によれば、洗い落とし式便器において、汚物の排出性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態に係る洗い落とし式便器を示す平面図である。
【
図4A】
図4Aは、便器洗浄時の排水トラップ部の様子を示す説明図である。
【
図4B】
図4Bは、便器洗浄時の排水トラップ部の様子を示す説明図である。
【
図4C】
図4Cは、便器洗浄時の排水トラップ部の様子を示す説明図である。
【
図4D】
図4Dは、便器洗浄時の排水トラップ部の様子を示す説明図である。
【
図5】
図5は、第1変形例に係る中間管路の滞留面を示す拡大側断面図である。
【
図6】
図6は、第2変形例に係る中間管路の断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する洗い落とし式便器の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
<1.洗い落とし式便器の構成>
図1は、実施形態に係る洗い落とし式便器を示す平面図であり、
図2は
図1のII-II線断面図である。なお、
図1等では、説明を分かり易くするため、鉛直上向きを正方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を図示している。かかる直交座標系は、他の図においても図示する場合がある。
【0019】
また、以下の説明では、直交座標系におけるX軸正方向を「右方」、X軸負方向を「左方」、Y軸正方向を「前方」、Y軸負方向を「後方」、Z軸正方向を「上方」、Z軸負方向を「下方」と記載する場合がある。なお、
図1,2および
図3以降に示す図は、いずれも模式図である。
【0020】
図1および
図2に示すように、洗い落とし式便器1は、ボウル部10内の洗浄水の落差による流水作用で汚物を押し流す洗浄方法を用いた水洗大便器である。以下、洗い落とし式便器1を「水洗大便器1」と記載する場合がある。また、水洗大便器1は、床置き式の水洗大便器である。
【0021】
水洗大便器1は、例えば陶器製であり、便器本体2と、貯水タンク3とを備える。
【0022】
貯水タンク3は、便器本体2の後方上部に設置される。貯水タンク3は、便器本体2のボウル部10を洗浄する洗浄水を貯留する。
図2に示すように、貯水タンク3の底面には、底面を上下方向に貫通する開口3aが設けられる。開口3aには、図示しない開閉弁が取り付けられ、便器洗浄を開始させるための操作部(図示せず)が操作されると、開口3aを開放して洗浄水を排水させる。なお、貯水タンク3は、給水源の一例であるが、これに限られず、給水源としてフラッシュバルブを用いてもよい。
【0023】
便器本体2は、ボウル部10と、導水路20と、排水トラップ部30(
図2参照)とを備える。なお、
図1,2にあっては、図示の簡略化のため、便器本体2が備える便座や便座を覆うカバーなど一部の部材の図示を省略した。
【0024】
ボウル部10は、汚物受け面11と、リム部12とを備える。汚物受け面11は、汚物を受けることが可能なボウル状に形成される。リム部12は、ボウル部10の上縁を構成するように形成される。
【0025】
導水路20は、貯水タンク3の洗浄水をボウル部10へ導く流路である。具体的に、導水路20は、主導水路21と、第1リム導水路23aと、第1吐水部24aと、第2リム導水路23bと、第2吐水部24bとを備える。
【0026】
図2に示すように、主導水路21は、貯水タンク3の下方から便器前方へ向けて形成され、貯水タンク3から供給される洗浄水を流通させる。なお、図中の一点鎖線の矢印は、洗浄水の流れを示している。
詳しくは、主導水路21の後部天井面21aにおいて、貯水タンク3の開口3aと対応する位置には、後部天井面21aを上下方向に貫通する流入口21bが形成される。流入口21bは、上記した貯水タンク3の開閉弁によって開口3aが開放されると、貯水タンク3内の洗浄水を主導水路21内へ流入させる。
【0027】
図1に示すように、主導水路21は、下流側において第1リム導水路23aと第2リム導水路23bとに分岐される。したがって、主導水路21に供給された洗浄水は、第1リム導水路23aおよび第2リム導水路23bへ流入される。
【0028】
第1リム導水路23aは、ボウル部10の後方から左方へ向けてリム部12に沿って形成される。第1リム導水路23aの下流側の端部には、例えばリム部12の左方の中央付近に形成された第1吐水部24aが設けられる。
【0029】
したがって、主導水路21から第1リム導水路23aへ流入された洗浄水は、平面視で反時計回りに流れ、その後第1吐水部24aからボウル部10の汚物受け面11へ吐水される。
【0030】
第2リム導水路23bは、ボウル部10の後方にリム部12に沿って形成される。また、第2リム導水路23bは、流路の途中で洗浄水の流れ方向を屈曲させる屈曲部位23b1を備える。具体的には、第2リム導水路23bの屈曲部位23b1は、洗浄水をボウル部10の前方へ向けて流通させられた洗浄水の流れ方向を屈曲させて、より具体的にはUターンさせて、ボウル部10の後方へ向ける。第2リム導水路23bの下流側の端部には、例えばリム部12の右後方に形成された第2吐水部24bが設けられる。
【0031】
したがって、主導水路21から第2リム導水路23bへ流入された洗浄水は、平面視で時計回りに流れた後、屈曲部位23b1で流れ方向が反転されて反時計回りとなる。その後、洗浄水は、第2吐水部24bからボウル部10の汚物受け面11へ反時計回りに吐水される。
【0032】
このように、本実施形態に係る水洗大便器1は、リム部12に設けられた第1、第2リム導水路23a,23bから洗浄水を吐水し、ボウル部10の汚物受け面11で旋回流を生じさせることで、ボウル部10の洗浄を行う。
【0033】
上記のようにしてボウル部10へ供給された洗浄水は、便器洗浄後、ボウル部10および排水トラップ部30に貯留される。本明細書では、ボウル部10および排水トラップ部30に溜まった洗浄水を「溜水」と記載する場合がある。また、排水トラップ部30等が溜水で満たされることで、溜水が封水として機能し、後述する排水配管40からの臭気等がボウル部10側へ逆流することを防止する。
【0034】
<2.排水トラップ部の構成>
排水トラップ部30は、
図2に示すように、入口部31と、上昇管路32と、中間管路33と、下降管路34とを備える。入口部31は、ボウル部10の汚物受け面11の下方に連続するように接続され、ボウル部10からの洗浄水を排水トラップ部30へ流入させる。上昇管路32は、入口部31に接続され、入口部31の下流端部から頂部32aに向けて斜め上方へ延びるように形成される。
【0035】
図3Aは
図2のA-A線断面図、
図3Bは
図2のB-B線断面図、
図3Cは
図2のC-C線断面図である。なお、
図3Aは入口部31の断面形状を、
図3Bは上昇管路32の中間部分の断面形状を、
図3Cは上昇管路32の下流側端部である頂部32aの断面形状を示している。なお、以下では「底面」なる語句を用いるが、本明細書において「底面」は、管路内における左側端部と右側端部とを接続する下側の面を指し、言い換えると、管路の最下面であって、例えば洗浄水や排水等が流れるときに洗浄水等によって覆われる面を少なくとも含む部位を指している。
【0036】
図3Aに示すように、入口部31は底面31aが下方へ向けて比較的大きく湾曲するように形成される。そして、
図3B,3Cに示すように、上昇管路32は、下流側へいくにつれて底面32bが徐々に平坦状となるように形成される、すなわち、上昇管路32は、頂部32aの底面32bの曲率半径が入口部31の底面31aの曲率半径よりも大きくなるように形成される。
【0037】
これにより、便器洗浄時、汚物は洗浄水とともに上昇管路32の頂部32aをスムーズに乗り越えることができる。すなわち、便器洗浄時に汚物は、頂部32aの底面32bを乗り越えて下流側へ排出される。例えば仮に、頂部32aの底面32bが、
図3Aに示す入口部31の底面31aのように、曲率半径が比較的小さい場合、言い換えると、下方へ向けて比較的大きく湾曲している場合、左右の幅は下方にいくにつれて狭くなる形状となる。そのため、汚物が狭くなった部位に引っかかり易くなり、底面32bを乗り越えにくくなる。
【0038】
そこで、本実施形態に係る上昇管路32にあっては、頂部32aの底面32bの曲率半径が上記のように設定されることから、
図3Cに示すように、底面32bを比較的平坦な形状にすることが可能となる。これにより、上昇管路32の頂部32aにおいて、左右の幅が下方にいくにつれて狭くなる部位が形成されないことから、汚物は引っ掛かりにくく、よって底面32bをスムーズに乗り越えることができる。なお、本明細書において、「汚物」とは、排泄物やトイレットペーパーなどの固形物を含む意味で用いる場合がある。
【0039】
図2の説明に戻ると、中間管路33は、上昇管路32と下降管路34との間に配置され、上昇管路32と下降管路34とを連結させる。詳しくは、中間管路33は、上流側端部33aが上昇管路32に接続される一方、下流側端部33bが下降管路34に接続される。
【0040】
中間管路33は、滞留面33cを備える。滞留面33cは、中間管路33の底面であり、詳しくは上昇管路32の頂部32aの底面32bと下降管路34の上端面34aとを接続する面である。上記したように、滞留面33cは中間管路33の底面であることから、便器洗浄時に汚物は滞留面33c上を流れることとなる。また、
図2に破線の閉曲線J1で示すように、滞留面33cと下降管路34の上端面34aとの接続部分は、屈曲するように形成される。
【0041】
滞留面33cは、上流側から下流側に向けて僅かに下り傾斜となるように形成されるとともに、便器洗浄時に汚物を一時的に滞留させる。したがって、滞留面33cの傾斜角度は、汚物を一時的に滞留させることができるような値に設定される。これにより、本実施形態にあっては、水洗大便器1の汚物の排出性能を向上させることができるが、これについては
図4A~
図4Cを用いて後述する。
【0042】
図3Dは
図2のD-D線断面図、
図3Eは
図2のE-E線断面図である。具体的には、
図3Dは中間管路33の中間部分の断面形状を示し、
図3Eは中間管路33の下流側端部33bの断面形状を示している。なお、中間管路33の上流側端部33aの断面形状は、上昇管路32の頂部32aの断面形状と同様であるため、
図3Cを用いて説明する。
【0043】
図3Dおよび
図3Eに示すように、中間管路33の滞留面33cは、縮流部33dを備える。縮流部33dは、下方に凹む湾曲部位である。また、縮流部33dは、例えば滞留面33cの幅方向(X軸方向)の中心位置に形成される。なお、中心位置は、
図3Dに示すように、例えば中間管路33のX-Z平面視おける鉛直方向の中心線Gを含む位置である。
【0044】
したがって、中間管路33にあっては、汚物を含む排水Wの流れが、一点鎖線矢印で示すように、縮流部33dによって中心線G寄りに縮流することとなる。排水Wは、縮流して流路面積が小さくなると、流速が増加する。この排水Wの流速の増加によって、後述する排水配管40においてシールが生じてしまうことを抑制することができるが、これについては
図4Dを用いて後述する。
【0045】
また、
図3D,3Eに示すように、縮流部33dは、下流側にすすむにつれて鉛直軸方向の深さが深くなっていき、排水Wをより縮流させる。すなわち、縮流部33dは、上流側から下流側に向けて排水Wを縮流させる、言い換えると、上流側から下流側に向けて流路面積が小さくなるように形成される。これにより、排水Wの流速を効率よく増加させることができ、後述する排水配管40においてシールが生じてしまうことを効果的に抑制することができる。なお、上記した流路面積は、縮流部33dを流れている排水W自体の断面積を意味するものであり、中間管路33の断面積とは必ずしも同じではない。
【0046】
また、
図3D,3Eに破線の閉曲線J2で示すように、中間管路33において、左側壁部33Lと滞留面33cとの接続部分、および、右側壁部33Rと滞留面33cとの接続部分は、下流側に向けて徐々に曲率半径が大きくなるように形成される。これにより、排水Wの流速をより一層効率よく増加させることができる。
【0047】
また、中間管路33の縮流部33dの上流側にあっては、排水Wの流路面積が下流側に比べて大きいことから、排水Wの流速も下流側に比べて低い。そのため、上昇管路32から流れてきた汚物が滞留面33cに一時的に滞留しやすくなる。なお、上記において、縮流部33dは、中間管路33の底面の上流側から下流側の全体に亘って形成されるようにしたが、これに限定されるものではなく、例えば中間管路33の一部に形成されるようにしてもよい。
【0048】
図2の説明に戻ると、下降管路34は、中間管路33の下流側に連続するように接続される。また、下降管路34は、床面に配設された排水配管40の入口40aに向けて下方へ延びるように形成され、排水配管40に図示しない排水ソケット等を介して接続される。なお、排水配管40は、下降管路34に接続された上端部から下方へ所定長さ延びた後、排水方向を便器本体2の前方へ屈曲させる屈曲部40bを備える。
【0049】
上記のように構成された排水トラップ部30において、便器洗浄が行われる場合、ボウル部10の洗浄水は、入口部31、上昇管路32、中間管路33および下降管路34を通って排水配管40へと排水される。
【0050】
<3.排水トラップ部における排水の流れ>
次に、排水トラップ部30における便器洗浄時の排水の流れについて
図4A~
図4Dを参照して詳しく説明する。
図4A~
図4Dは、便器洗浄時の排水トラップ部30の様子を時系列で示す説明図である。なお、
図4A等では、汚物を符号Fで示している。
【0051】
先ず、
図4Aに示すように、便器洗浄が開始されると、白抜きの矢印で示すように、ボウル部10に洗浄水が供給される。かかる洗浄水の供給に伴ってボウル部10の溜水の水位が上昇する。
図4Aにおいては、洗浄水の供給開始後の水位を符号WL1で示した。また、洗浄開始前の溜水の水位は、上昇管路32の頂部32aの底面32bの高さと同じになり、ここでは下限水位WLaとして示した。
【0052】
したがって、
図4Aに示す時点では、水位WL1と下限水位WLaとの水位差(ヘッド差)H1が生じている。なお、従来技術に係る水洗大便器においては、かかる水位差H1に応じた汚物の排出性能となる。
【0053】
本実施形態に係る水洗大便器1にあっては、中間管路33が滞留面33cを備えることから、
図4Bに示すように、便器洗浄時に汚物F1が滞留面33cに一時的に滞留する。これにより、排水トラップ部30における下限水位は、頂部32aの底面32bの高さから汚物F1の高さLの分だけ上昇する。ここでは、上昇した下限水位を符号WLbで示した。
【0054】
下限水位WLbの上昇に伴い、ボウル部10の溜水の水位WL2も、想像線で示す汚物F1の滞留前の水位WL1に比べて上昇することとなる。したがって、
図4Bに示す時点では、水位WL2と下限水位WLbとの水位差H2が生じている。なお、
図4Bの時点でも洗浄水の供給は継続しているものとする。
【0055】
次いで、
図4Cに示すように、滞留面33cに滞留していた汚物F1は、洗浄水によって下流側の下降管路34へ押し流される。汚物F1が押し流されると、排水トラップ部30における下限水位は、頂部32aの底面32bの高さに戻る、すなわち、汚物F1が滞留する前の下限水位WLaに戻る。したがって、
図4Cに示す時点では、水位WL2と下限水位WLaとの水位差H3が生じることとなる。
【0056】
このように、本実施形態にあっては、滞留面33cを備えることで、便器洗浄時に下限水位を下限水位WLaから下限水位WLbへ上昇させ、溜水の水位を水位WL1から水位WL2へ一度上げ、その後下限水位を下限水位WLbから下限水位WLaに下降させる(元に戻す)ことが可能となる。
【0057】
これにより、水洗大便器1においては、比較的少ない量の洗浄水であっても、
図4Aに示す水位差H1よりも大きい水位差H3を確保することができ、水位差H1から水位差H3に増加した分だけ、排出性能を向上させることができる。なお、水洗大便器1にあっては、水位差H3を確保することで排出性能が向上していることから、例えば上昇管路32に残留した汚物Fについても確実に中間管路33および下降管路34を介して排水配管40へ排出することができる。
【0058】
また、滞留面33cに縮流部33dが形成されることにより、排水配管40においてシールが生じてしまうことを抑制することができる。
図4Dを参照しつつ詳しく説明すると、滞留面33cに一時的に滞留していた汚物Fは、下降管路34を介して排水配管40へ押し出される。
【0059】
ここで、汚物Fを含む排水において、例えば仮に、滞留面33cから押し出される際の流速が比較的遅いと、想像線で示すように、汚物Fを含む排水は、排水配管40の滞留面33c側の内周面40cに沿って直下へ落下することとなる。したがって、排水配管40にあっては、汚物Fを含む排水が流路を塞ぐように流れたり、屈曲部40bに偏った状態で堆積したりするおそれがあり、かかる場合には屈曲部40bをシールしてしまう。排水配管40にシールが生じると、排水配管40内で負圧が発生してサイホン現象が起こり、排水トラップ部30の封水を引き込んで封水不足を招くおそれがある。
【0060】
そこで、本実施形態にあっては、滞留面33cに縮流部33dが形成されるようにした。そのため、汚物Fを含む排水は、縮流して流路面積が小さくなり、流速が増加する。これにより、
図4Dに示すように、汚物Fを含む排水は、例えば、排水配管40の滞留面33c側の内周面40cとは反対側の内周面40dまで飛ぶようにして流れるなどしながら落下するため、流路を塞ぐように流れたり、偏った堆積状態となったりするなど、屈曲部40bにおいて排水トラップ部30をシールするような状態になりにくい。その結果、汚物Fを含む排水は、屈曲部40bをスムーズに通過して排出されることとなる。このように、本実施形態にあっては、滞留面33cに縮流部33dが形成されることで、排水配管40においてシールが生じてしまうことを抑制することができる。
【0061】
また、縮流部33dは、滞留面33cの幅方向の中心位置に形成されることから、排水を効率よく縮流させて排水の流速を確実に増加させることができ、よって排水配管40においてシールが生じてしまうことを一層抑制することができる。
【0062】
また、縮流部33dは、上流側から下流側に向けて流路面積が小さくなるように形成されるため、排水Wの流速を効率よく徐々に増加させることができ、よって排水配管40においてシールが生じてしまうことをより一層抑制することができる。
【0063】
上述してきたように、実施形態に係る洗い落とし式便器1は、汚物を受けるボウル部10と、排水トラップ部30とを備える。排水トラップ部30は、ボウル部10の下方に接続される入口部31と、入口部31に接続され上方へ向けて延びる上昇管路32と、床面に配設された排水配管40に向けて下方へ延びる下降管路34と、上流側端部33aが上昇管路32に接続され下流側端部33bが下降管路34に接続される中間管路33とを含む。また、中間管路33は、上流側から下流側に向けて下り傾斜となるように形成されるとともに、便器洗浄時に汚物を一時的に滞留させる滞留面33cを備える。これにより、本実施形態にあっては、汚物の排出性能を向上させることができる。
【0064】
(第1変形例)
<4.第1変形例に係る滞留面の構成>
次に、第1変形例について説明する。
図5は、第1変形例に係る中間管路33の滞留面33cを示す拡大側断面図である。なお、以下では、上記した実施形態と共通の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0065】
図5に示すように、第1変形例に係る中間管路33の滞留面33cは、傾斜角度の異なる複数(ここでは2つ)の傾斜面を備えるようにした。詳しくは、滞留面33cは、第1傾斜面133と、第2傾斜面233とを備える。
【0066】
第1傾斜面133は、上流側が上昇管路32に接続され、例えば水平面Hに対して第1傾斜角度α1で傾斜するように形成される。第2傾斜面233は、第1傾斜面133の下流側に接続される。そして、第2傾斜面233は、第1傾斜角度α1よりも小さい第2傾斜角度α2で傾斜するように形成される(α1>α2)。
【0067】
また、第2傾斜面233の下流側は下降管路34に接続される。したがって、第1傾斜面133と第2傾斜面233とを比較すると、上流側の第1傾斜面133が急斜面、下流側の第2傾斜面233が緩斜面であるといえる。
【0068】
これにより、第1変形例にあっては、便器洗浄時に汚物を滞留面33cに早期に乗せるとともに、滞留させやすくすることができる。すなわち、第1傾斜面133は急斜面であることから、上昇管路32の頂部32aの底面32bを乗り越えた汚物は第1傾斜面133にすぐに流れ込むこととなる。このように、第1傾斜面133は、底面32bを乗り越えた汚物を早期に滞留面33cに乗せることができる。
【0069】
また、第2傾斜面233は、第1傾斜面133と比べて傾斜が緩やかであることから、例えば第1傾斜面133から汚物が勢いよく流れてくる場合であっても、第2傾斜面233で勢いを弱めることができ、汚物を滞留面33cに滞留させやすくすることができる。
【0070】
さらに、第2傾斜面233は、排水の流れ方向(
図5の紙面左右方向)の長さL2が第1傾斜面133の流れ方向の長さL1よりも長くなるように形成される(L1<L2)。
【0071】
このように、緩斜面である第2傾斜面233が、急斜面である第1傾斜面133よりも長くなるように構成することで、汚物を滞留面33cの第2傾斜面233により滞留させやすくすることができる。
【0072】
なお、第2傾斜面233の長さL2が第1傾斜面133の長さL1よりも長くなるようにしたが、これは例示あって限定されるものではなく、同じ値であっても、第2傾斜面233の長さL2が第1傾斜面133の長さL1よりも短くてもよい。また、上記では、傾斜角度の異なる傾斜面が2つの場合を用いて説明したが、これに限られず3つ以上であってもよい。
【0073】
(第2変形例)
<5.第2変形例に係る滞留面の構成>
次に、第2変形例について説明する。上記では、中間管路33において、縮流部33dは、滞留面33cの幅方向の中心位置に形成されるが、これに限定されるものではない。
図6は、第2変形例に係る中間管路33の断面形状を示す図である。
【0074】
図6に示すように、第2変形例において、縮流部333dは、滞留面33cの幅方向(X軸方向)の一方の側壁33e側に寄せて形成されるようにしてもよい。
【0075】
縮流部33dが上記のように片側に寄せて形成された場合であっても、汚物を含む排水Wの流れを、一点鎖線矢印で示すように、縮流させることができ、よって排水Wの流速を増加させ、結果として排水配管40においてシールが生じてしまうことを抑制することができる。
【0076】
なお、上記した実施形態に係る水洗大便器1においては、第1リム導水路23aおよび第2リム導水路23bを備えるようにしたが、これに限定されるものではなく、いずれか一方のみを備えるようにしてもよい。
【0077】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 洗い落とし式便器(水洗大便器)
10 ボウル部
30 排水トラップ部
31 入口部
32 上昇管路
32a 頂部
33 中間管路
33c 滞留面
33d 縮流部
34 下降管路
133 第1傾斜面
233 第2傾斜面