(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
B60K 35/00 20060101AFI20220509BHJP
【FI】
B60K35/00 A
(21)【出願番号】P 2017185506
(22)【出願日】2017-09-26
【審査請求日】2020-09-02
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【氏名又は名称】鈴木 大介
(72)【発明者】
【氏名】田口 将人
【審査官】沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-095001(JP,A)
【文献】特開2006-036018(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第03929842(DE,A1)
【文献】特開2005-035406(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0163108(US,A1)
【文献】特開平10-226248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 35/00-37/06
G09F 9/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
G02B 27/00-30/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のウインドシールドガラスと、
前記ウインドシールドガラスの下方に位置するインストルメントパネルと、
前記インストルメントパネルに取付けられ前記ウインドシールドガラスに
向けて映像を投射する
凹面鏡を有するヘッドアップディスプレイユニットとを備える車両前部構造において、
前記インストルメントパネルは、前記ウインドシールドガラスに面する上部を有し、
前記ヘッドアップディスプレイユニットは、
前記凹面鏡の前端が後端より下方に位置する姿勢になっていて、前記インストルメントパネルの前記上部に対して、車両前側が低くなるよう傾斜した姿勢で前記インストルメントパネルに取付けられていて、
当該車両前部構造は、
前記インストルメントパネル内に配置され前記ヘッドアップディスプレイユニットを支持し前記インストルメントパネルに取付けるブラケットと、
上下方向に延びていて前記ブラケットの前後方向の中間を下方から支持するステーとをさらに備え
、
前記ブラケットは、
前記ヘッドアップディスプレイユニットの底面を支持する車両前側が低くなるよう傾斜した第1支持部と、
前記第1支持部の前端から屈曲して車両前側が高くなるよう傾斜し前記ヘッドアップディスプレイユニットの前面を支持する第2支持部と、
前記第1支持部の後端に位置し前記インストルメントパネルに固定される後端部と、
前記第2支持部の前端に位置し前記インストルメントパネルに固定される前端部とを有し、
当該車両前部構造は、
前記インストルメントパネル内に配置され前記ブラケットの下方において車幅方向に延び両端が車体側面に固定されたステアリングサポートメンバと、
前記ステアリングサポートメンバの車両前側に位置し車体の一部を構成するダッシュパネルと、
前記ステアリングサポートメンバと前記ダッシュパネルとをつなぐスティフナとをさらに備え、
前記ステーは、前記スティフナから前記ブラケットまで延びていることを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記ブラケットは、前記第1支持部と前記第2支持部の間に位置する中間部をさらに有し、
前記ブラケットはその中間部において前記ステーに支持されていて、
前記ステーは、後方に傾斜した姿勢で前記中間部を支持していることを特徴とする請求項
1に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記インストルメントパネルはさらに、
前記上部に設けられた開口と、
前記上部の後端から下方に連続する後部と、
前記上部に対して着脱可能であり前記ヘッドアップディスプレイユニットの投射光路を確保しながら前記開口の一部を塞ぐ天面部とを有し、
前記上部は、車両下方に膨出していて前記ブラケットの前記前端部を固定する第1膨出部を有し、
前記後部は、車両前方に膨出していて前記ブラケットの前記後端部を固定する第2膨出部を有することを特徴とする請求項
1または2に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記ヘッドアップディスプレイユニットは、
前記底面に形成され、前記ブラケットの前記第1支持部に固定される第1固定部と、
前記前面に形成され、前記ブラケットの前記第2支持部に固定される第2固定部とを有し、
前記インストルメントパネルの開口は、上方から見て、前記ヘッドアップディスプレイユニットの外形よりも大きく、前記天面部が前記上部から外されているとき前記第1固定部および第2固定部を露出させることを特徴とする請求項
3に記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両では、ウインドシールドガラスの下方に位置するインストルメントパネルが設けられている。インストルメントパネルの内部には、例えばヘッドアップディスプレイ(通称HUD)などが取付けられている(例えば特許文献1)。ヘッドアップディスプレイは、ウインドシールドガラスに映像を投射する装置である。
【0003】
特許文献1には、インストルメントパネルに、取付ブラケットを介してヘッドアップディスプレイ装置が取付けられたヘッドアップディスプレイ取付部構造が記載されている。また特許文献1には、位置決ピンと、位置決ピンと対応する位置決孔とを備え、車体に対するヘッドアップディスプレイ装置の位置決めが可能な対車体用位置決部が記載されている。対車体用位置決部の位置決ピンは、車体と取付ブラケットの先端部との間に設けられ、インストルメントパネルの搭載方向に延びている。
【0004】
特許文献1の構造では、インストルメントパネルに、取付ブラケットを介して、ヘッドアップディスプレイ装置を取付けた状態で、車体にインストルメントパネルを搭載すると、インストルメントパネルの搭載方向へ延びる位置決ピンに、位置決孔が嵌合される。このため、特許文献1では、車体にインストルメントパネルを搭載する際に、対車体用位置決部によって、簡単且つ確実に車体に対するヘッドアップディスプレイ装置の位置決めを行わせることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで車両には、車両の室内空間をより広く確保するために、ウインドシールドガラスが、インストルメントパネルに対して大きな角度を成し、より垂直に近い姿勢で立っている場合がある。このような車両では、ヘッドアップディスプレイがウインドシールドガラスに映像を投射することが困難になるおそれがあるが、特許文献1は、このような車両について考慮していない。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑み、車両のウインドシールドガラスがインストルメントパネルに対して大きな角度を成し、より垂直に近い姿勢で立っている場合であっても、ヘッドアップディスプレイユニットが、ウインドシールドガラスに適切に映像を投射できる車両前部構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる車両前部構造の代表的な構成は、車両のウインドシールドガラスと、ウインドシールドガラスの下方に位置するインストルメントパネルと、インストルメントパネルに取付けられウインドシールドガラスに映像を投射するヘッドアップディスプレイユニットとを備える車両前部構造において、ヘッドアップディスプレイユニットは、車両前側が低くなるよう傾斜した姿勢でインストルメントパネルに取付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、車両のウインドシールドガラスがインストルメントパネルに対して大きな角度を成し、より垂直に近い姿勢で立っている場合であっても、ヘッドアップディスプレイユニットが、ウインドシールドガラスに適切に映像を投射できる車両前部構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例に係る車両前部構造を示す図である。
【
図2】
図1の車両前部構造の各部材を示す図である。
【
図3】
図2(a)の車両前部構造および比較例の車両前部構造のヘッドアップディスプレイユニットとウインドシールドガラスとの位置関係を模式的に示す図である。
【
図4】
図2(a)および
図3(a)の車両前部構造のヘッドアップディスプレイユニットを示す斜視図である。
【
図5】
図1の車両前部構造のA矢視図およびブラケットの斜視図である。
【
図6】
図5(a)の車両前部構造のC矢視図およびD矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施の形態に係る車両前部構造の代表的な構成は、車両のウインドシールドガラスと、ウインドシールドガラスの下方に位置するインストルメントパネルと、インストルメントパネルに取付けられウインドシールドガラスに映像を投射するヘッドアップディスプレイユニットとを備える車両前部構造において、ヘッドアップディスプレイユニットは、車両前側が低くなるよう傾斜した姿勢でインストルメントパネルに取付けられていることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、ヘッドアップディスプレイユニットは、インストルメントパネルに前下がりに傾斜した姿勢で取付けられている。このため、車両のウインドシールドガラスがインストルメントパネルに対して大きな角度を成し、より垂直に近い姿勢で立っている場合であっても、ヘッドアップディスプレイユニットは、ウインドシールドガラスに向けて光(映像)を確実に投射し各種情報を投影できる。
【0013】
上記の車両前部構造は、インストルメントパネル内に配置されヘッドアップディスプレイユニットを支持しインストルメントパネルに取付けるブラケットと、上下方向に延びていてブラケットを下方から支持するステーとをさらに備え、ブラケットは、ヘッドアップディスプレイユニットの底面を支持する車両前側が低くなるよう傾斜した第1支持部と、第1支持部の前端から屈曲して車両前側が高くなるよう傾斜しヘッドアップディスプレイユニットの前面を支持する第2支持部と、第1支持部の後端に位置しインストルメントパネルに固定される後端部と、第2支持部の前端に位置しインストルメントパネルに固定される前端部とを有するとよい。
【0014】
上記構成によれば、車両前側が低くなるよう傾斜していて自重による荷重が車両前側に偏っているヘッドアップディスプレイユニットの底面および前面を、ブラケットの第1支持部、第2支持部は、それぞれに対応した適切な姿勢で支持できる。ブラケットが受けるヘッドアップディスプレイユニットの荷重は、さらにステーによって安定して受け止められる。
【0015】
またブラケットの前端部と後端部はインストルメントパネルに固定されているため、インストルメントパネルに対するブラケットの位置決めが可能となる。さらに、ブラケットがステーによって支持されているため、インストルメントパネルにブラケットの前端部と後端部が固定されているものの、ヘッドアップディスプレイユニットの荷重によるインストルメントパネルの変形は生じにくい。
【0016】
上記のブラケットは、第1支持部と第2支持部の間に位置する中間部をさらに有し、ブラケットはその中間部においてステーに支持されていて、ステーは、後方に傾斜した姿勢で中間部を支持しているとよい。このようにステーは、ブラケットの第1支持部と第2支持部との間に位置する中間部に向かって斜め後方に延び、これに固定されている。このため、ヘッドアップディスプレイユニットの前方かつ下方にかかる荷重を、ブラケットの中間部に固定されたステーによって確実に受け止めることができる。
【0017】
上記の車両前部構造は、インストルメントパネル内に配置されブラケットの下方において車幅方向に延び両端が車体側面に固定されたステアリングサポートメンバと、ステアリングサポートメンバの車両前側に位置し車体の一部を構成するダッシュパネルと、ステアリングサポートメンバとダッシュパネルとをつなぐスティフナとをさらに備え、ステーは、スティフナからブラケットまで延びているとよい。
【0018】
これにより、ブラケットの下方を支持するステーは、ステアリングサポートメンバとダッシュパネルとをつなぐスティフナに連結されている。このため、ヘッドアップディスプレイユニットの荷重は、ステーからスティフナに伝達され、さらにスティフナを介して剛性の高いステアリングサポートメンバおよびダッシュパネルまで伝達される。このように、ヘッドアップディスプレイユニットの荷重が十分に分散されるため、ヘッドアップディスプレイユニットを確実に支持できる。
【0019】
上記のインストルメントパネルは、ウインドシールドガラスに面する上部と、上部に設けられた開口と、上部の後端から下方に連続する後部と、上部に対して着脱可能でありヘッドアップディスプレイユニットの投射光路を確保しながら開口の一部を塞ぐ天面部とを有し、上部は、車両下方に膨出していてブラケットの前端部を固定する第1膨出部を有し、後部は、車両前方に膨出していてブラケットの後端部を固定する第2膨出部を有するとよい。
【0020】
これにより、インストルメントパネルは、上部に形成された第1膨出部を介してブラケットの前端部に固定され、後部に形成された第2膨出部を介してブラケットの後端部に固定される。このため、ブラケットは、インストルメントパネルに確実に固定される。一方、天面部は、ヘッドアップディスプレイによる映像の投射を阻害しないようにしつつ、ヘッドアップディスプレイを乗員から目隠しして見栄えの向上を図る役割を果たす。またインストルメントパネルの天面部は、上部および後部とは別体の部品であってブラケットに固定されていないため、ヘッドアップディスプレイユニットの荷重を受けず、変形することがない。
【0021】
上記のヘッドアップディスプレイユニットは、底面に形成され、ブラケットの第1支持部に固定される第1固定部と、前面に形成され、ブラケットの第2支持部に固定される第2固定部とを有し、インストルメントパネルの開口は、上方から見て、ヘッドアップディスプレイユニットの外形よりも大きく、天面部が上部から外されているとき第1固定部および第2固定部を露出させるとよい。
【0022】
これにより、ヘッドアップディスプレイユニットは、その外形よりも大きいインストルメントパネルの開口を通して配置でき、さらに開口から露出した第1固定部および第2固定部を用いてブラケットに取付けることができる。なおインストルメントパネルの開口を通して、ヘッドアップディスプレイユニットを取り外すこともできるため、メンテナンスを容易に行うことができる。
【実施例】
【0023】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。かかる実施例に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0024】
図1は、本発明の実施例に係る車両前部構造100を示す図である。
図2は、
図1の車両前部構造100の各部材を示す図である。
図2(a)は、車両前部構造100を斜め右後方から見た状態の分解斜視図である。
図2(b)は、
図2(a)のインストルメントパネル102の裏面を示す図である。なお各図に示す矢印X、Yは車両前側、車幅方向外側をそれぞれ示している。
【0025】
車両前部構造100は、
図1に示すようにインストルメントパネル102を備える。インストルメントパネル102は、車室前部に設けられる樹脂製の部材であって、各種の計器類や車室内の各種構成部品が取り付けられる。インストルメントパネル102は、
図2(a)に示すように、上部104と後部106とを含む本体部108と、本体部108とは別体の天面部110とを有する。
【0026】
本体部108の上部104は、ウインドシールドガラス112(
図3(a)参照)の下方でこれに面する部位であり、開口114が設けられている。また上部104には、
図2(b)に示すように車両下方に膨出した第1膨出部116、118が形成されている。
【0027】
本体部108の後部106は、
図2(a)に示すように、上部104の後端120から下方に連続する部位である。また後部106には、
図2(b)に示すように車両前方に膨出した第2膨出部122、124が形成されている。天面部110は、上部104に対して着脱可能な部品であり、開口126が設けられている。また開口126には、ベゼル128が設置されている。
【0028】
車両前部構造100はさらに、
図2(a)に示すように、ステアリングサポートメンバ130と、ダッシュパネル132と、ヘッドアップディスプレイユニット134とを備える。ステアリングサポートメンバ130は、インストルメントパネル102内に配置された剛性の高い部材であり、車幅方向に延び両端が車体側面(不図示)に固定されている(
図6(a)参照)。
【0029】
ダッシュパネル132は、
図2(a)に示すように、ステアリングサポートメンバ130の車両前側に位置していて、車体の一部を構成する剛性の高い部材である。ヘッドアップディスプレイユニット134は、インストルメントパネル102の上部104の開口114から露出した状態で、インストルメントパネル102内に配置されている。
【0030】
図3は、
図2(a)の車両前部構造100および比較例の車両前部構造100Aのヘッドアップディスプレイユニット134、134Aとウインドシールドガラス112、112Aとの位置関係を模式的に示す図である。
【0031】
車両前部構造100、100Aを比較すると、
図3(a)の矢印Bに示すように、車両前部構造100では、車両前部構造100Aに比べて、ウインドシールドガラス112がインストルメントパネル102に対して大きな角度を成し、より垂直に近い姿勢で立っている。これにより、車両前部構造100では、車両前部構造100Aに比べて、車室内の空間をより広く確保している。なお車両前部構造100Aでは、
図3(b)に示すようにウインドシールドガラス112Aのインストルメントパネル102Aに対する角度が、
図3(a)に示す車両前部構造100での角度よりも小さい。
【0032】
図3(a)に示すヘッドアップディスプレイユニット134は、ウインドシールドガラス112に映像を投射する装置であって、車両前側が低くなるように傾斜した姿勢で、インストルメントパネル102内に配置されている。すなわちヘッドアップディスプレイユニット134は、底面136が前下がりに傾斜していて、前面138が斜め下方を向いた姿勢になっている。
【0033】
ヘッドアップディスプレイユニット134は、例えば凹面鏡140を介して、ウインドシールドガラス112に向けて映像142を投射する。ウインドシールドガラス112に到達した、例えば車両情報などを含む映像142は乗員144の前方に表示され、これを乗員144は視認可能である。
【0034】
このようにして車両前部構造100では、ウインドシールドガラス112がインストルメントパネル102に対して大きな角度を成し、より垂直に近い姿勢で立っている場合であっても、乗員144の前方に映像142を適切に表示することができる。
【0035】
一方、比較例の車両前部構造100Aでは、
図3(b)に示すように、ヘッドアップディスプレイユニット134Aが水平に近い姿勢でインストルメントパネル102A内に配置されている。車両前部構造100Aでは、ヘッドアップディスプレイユニット134Aの凹面鏡140Aを介してウインドシールドガラス112Aに到達した映像142Aが、乗員144Aの前方に表示される。このような車両前部構造100Aによれば、ウインドシールドガラス112Aがインストルメントパネル102Aに対して小さな角度しか成さず、より水平に近い傾斜した姿勢で立っていれば、乗員144Aの前方に映像142Aを適切に表示することができる。
【0036】
しかしながら、比較例の車両前部構造100Aは、
図3(b)に示す、インストルメントパネル102Aに対して大きな角度を成し、より垂直に近い姿勢で立っているウインドシールドガラス112を想定していない。したがって、水平に近い姿勢にあるヘッドアップディスプレイユニット134Aによってウインドシールドガラス112に投影され乗員144Aの前方に表示される映像142Bは、乗員144Aにとって歪んで見え、適切なものとはならない。
【0037】
図4は、
図2(a)および
図3(a)の車両前部構造100のヘッドアップディスプレイユニット134を示す斜視図である。
図4(a)、
図4(b)は、ヘッドアップディスプレイユニット134を斜め上方、斜め下方から見た状態をそれぞれ示している。
【0038】
ヘッドアップディスプレイユニット134は、底面136に形成された第1固定部154、156と、前面138に形成された第2固定部158、160とを有する。第1固定部154、156は、底面136から後方かつ下方に延びている。第2固定部158、160は、前面138から前方かつ上方に延びている。
【0039】
このように、ヘッドアップディスプレイユニット134は重量物である。本実施例では、かかるヘッドアップディスプレイユニット134が、
図3(a)に示したように、車両前側が低くなるように傾斜しているため、自重による荷重が車両前側に偏っている。
【0040】
図5は、
図1の車両前部構造100のA矢視図およびブラケット148の斜視図である。
図5(a)に示すように、重量物であるヘッドアップディスプレイユニット134を支持するために、車両前部構造100はさらに、ブラケット148、ステー150およびスティフナ152を備える。
【0041】
ブラケット148は、
図5(a)に示すように、インストルメントパネル102内に配置され、ヘッドアップディスプレイユニット134を支持する部材である。またブラケット148は、上下方向に延びるステー150によって下方から支持されている。ステー150は、スティフナ152からブラケット148まで延びている。スティフナ152は、
図5(a)に示すように剛性の高いステアリングサポートメンバ130と図中点線で示したダッシュパネル132とをつないでいる。
【0042】
ブラケット148は、
図5(b)に示すように、第1支持部162と、第2支持部164、166と、中間部168と、後端部170、172と、前端部174、176とを有する。第1支持部162は、
図5(a)に示すように、ヘッドアップディスプレイユニット134の底面136を支持する部位であり、車両前側が低くなるよう傾斜している。後端部170、172は、
図5(b)に示すように第1支持部162の後端に位置している。
【0043】
図6は、
図5(a)の車両前部構造100のC矢視図およびD矢視図である。後端部170、172は、
図6(a)に示すように、インストルメントパネル102の後部106に形成された第2膨出部122、124にそれぞれ固定される。
【0044】
第2支持部164、166は、ヘッドアップディスプレイユニット134の前面138を支持する部位であり、車両前側が高くなるよう傾斜している。前端部174、176は、
図5(b)に示すように、第2支持部164、166の前端に位置している。また前端部174、176は、
図6(a)に示すように、インストルメントパネル102の上部104に形成された第1膨出部116、118にそれぞれ固定される。
【0045】
ブラケット148の中間部168は、
図5(b)に示すように、第1支持部162と第2支持部164、166の間に位置する部位であり、ステー150を連結する連結部178、180を有する。このため、ブラケット148は、
図6(a)に示すように中間部168において連結部178、180を介してステー150に支持されている。さらにステー150は、
図5(a)に示すように後方に傾斜した姿勢で中間部168を支持している。
【0046】
ブラケット148はさらに、
図5(b)に示すように、第1支持部162に形成された第1取付部182、184と、第2支持部164、166に形成された第2取付部186、188とを有する。第1取付部182、184は、
図6(b)に示すヘッドアップディスプレイユニット134の第1固定部154、156を取付ける。第2取付部186、188は、
図6(b)に示すヘッドアップディスプレイユニット134の第2固定部158、160を取付ける。なお
図6(b)は、インストルメントパネル102の天面部110を省略して示している。
【0047】
これにより、ヘッドアップディスプレイユニット134は、第1取付部182、184および第2取付部186、188を介して、第1固定部154、156が第1支持部162に固定され、第2固定部158、160が第2支持部164、166に固定される。その結果、車両前部構造100では、
図5(a)に示すように、ヘッドアップディスプレイユニット134を、インストルメントパネル102に前下がりに傾斜した姿勢でインストルメントパネル102に取付けることができる。
【0048】
なおブラケット148は、
図5(b)に示すように、例えば中間部168付近を除く外周に沿って形成され下方に張り出したフランジ190を有する。ブラケット148は、フランジ190が形成されることで、剛性が高められている。またブラケット148は、中間部168付近にフランジ190を形成しないことで、
図5(a)に示すようにその下方に、空調ダクト192a、192bを配置する空間194を確保している。
【0049】
さらにブラケット148は、
図5(b)に示すように中間部168付近に開口196、198が設けられている。このため、ブラケット148は、開口196、198により軽量化が図られ、さらに開口196、198を通して、ヘッドアップディスプレイユニット134の熱を空調ダクト192a、192bに放熱することもできる。
【0050】
またインストルメントパネル102の上部104の開口114は、
図6(
b)に示すように天面部110が上部104から外されているとき、上方から見て、ヘッドアップディスプレイユニット134の外形よりも大きい。このため、インストルメントパネル102の開口114を通してヘッドアップディスプレイユニット134を配置できる。
【0051】
さらに
図6(
b)に示す上部104の開口114は、上方から見て、ヘッドアップディスプレイユニット134の第1固定部154、156および第2固定部158、160を露出させている。このため、インストルメントパネル102の開口114を通して配置されたヘッドアップディスプレイユニット134を、露出した第1固定部154、156および第2固定部158、160を用いてブラケット148に取付けることができる。さらに、インストルメントパネル102の開口114を通して、ヘッドアップディスプレイユニット134を取り外すこともできるため、メンテナンスを容易に行うこともできる。
【0052】
なお天面部110は、ヘッドアップディスプレイ
ユニット134の投射光路135(
図3(a)参照)を確保しながら、開口114の一部を塞いでいる。これにより天面部110は、ヘッドアップディスプレイ
ユニット134の投射を阻害することなく、ヘッドアップディスプレイ
ユニット134を乗員144から目隠しして見栄えを向上させている。
【0053】
本実施例の車両前部構造100では、
図5(a)に示すようにヘッドアップディスプレイユニット134の底面136および前面138を、ブラケット148の第1支持部162、第2支持部164、166によって前下がり傾斜した姿勢で支持できる。また、車両前側が低くなるよう傾斜していて自重による荷重が車両前側に偏っているヘッドアップディスプレイユニット134の荷重は、ブラケット148を下方から支持するステー150によって安定して受け止められる。
【0054】
また車両前部構造100では、
図6(a)に示すように、ブラケット148の前端部174、176と後端部170、172がインストルメントパネル102に固定されている。このため、インストルメントパネル102に対するブラケット148の位置決めが可能となる。さらに、インストルメントパネル102にブラケット148が固定されているものの、ブラケット148がステー150によって支持されている。このため、車両前部構造100では、ヘッドアップディスプレイユニット134の荷重によるインストルメントパネル102の変形が生じにくい。
【0055】
またステー150は、
図5(a)に示すように、ブラケット148の中間部168に向かって斜め後方に延び、これに固定されている。このため、車両前部構造100では、ヘッドアップディスプレイユニット134の前方かつ下方にかかる荷重を、ブラケット148の中間部168に固定されたステー150によって確実に受け止めることができる。
【0056】
さらにステー150は、
図5(a)に示すように、ステアリングサポートメンバ130とダッシュパネル132とをつなぐスティフナ152に連結されている。このため、ヘッドアップディスプレイユニット134の荷重は、ステー150からスティフナ152に伝達され、さらにスティフナ152を介して剛性の高いステアリングサポートメンバ130およびダッシュパネル132まで伝達される。このように、車両前部構造100では、ヘッドアップディスプレイユニット134の荷重が十分に分散されるため、ヘッドアップディスプレイユニット134を確実に支持できる。
【0057】
インストルメントパネル102は、
図6(a)に示すように、上部104に形成された第1膨出部116、118を介してブラケット148の前端部174、176に固定される。またインストルメントパネル102は、後部106に形成された第2膨出部122、124を介してブラケット148の後端部170、172に固定される。このため、車両前部構造100では、インストルメントパネル102にブラケット148を確実に固定できる。
【0058】
さらにインストルメントパネル102の天面部110は、上部104および後部106とは別体の部品であってブラケット148に固定されていない。このため、車両前部構造100では、インストルメントパネル102の天面部110がヘッドアップディスプレイユニット134の荷重を受けず、変形することがない。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、車両前部構造に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
100…車両前部構造、102…インストルメントパネル、104…上部、106…後部、108…インストルメントパネルの本体部、110…天面部、112…ウインドシールドガラス、114…上部の開口、116、118…上部の第1膨出部、120…上部の後端、122、124…後部の第2膨出部、126…天面部の開口、128…ベゼル、130…ステアリングサポートメンバ、132…ダッシュパネル、134…ヘッドアップディスプレイユニット、136…ヘッドアップディスプレイユニットの底面、138…ヘッドアップディスプレイユニットの前面、140…ヘッドアップディスプレイユニットの凹面鏡、142…映像、144…乗員、148…ブラケット、150…ステー、152…スティフナ、154、156…底面の第1固定部、158、160…前面の第2固定部、162…第1支持部、164、166…第2支持部、168…中間部、170、172…ブラケットの後端部、174、176…ブラケットの前端部、178、180…中間部の連結部、182、184…第1支持部の第1取付部、186、188…第2支持部の第2取付部、190…ブラケットのフランジ、192a、192b…空調ダクト、194…空間、196、198…ブラケットの開口