(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】表皮材及びこれを用いた車両用内装材
(51)【国際特許分類】
B32B 3/14 20060101AFI20220509BHJP
B68F 1/00 20060101ALI20220509BHJP
C14B 7/04 20060101ALI20220509BHJP
B32B 3/16 20060101ALI20220509BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
B32B3/14
B68F1/00 A
C14B7/04
B32B3/16
B60R13/02 Z
(21)【出願番号】P 2017225155
(22)【出願日】2017-11-22
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】原田 紘佑
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/125813(WO,A1)
【文献】実開昭59-172619(JP,U)
【文献】特開2003-071164(JP,A)
【文献】特開2000-345467(JP,A)
【文献】特開昭59-014938(JP,A)
【文献】実開昭59-102330(JP,U)
【文献】特開平06-031727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00、B60R13/01-13/04、13/08、
B68F1/00-3/04、C14B1/00-99/00、C14C1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面層を構成する基材シートと、前記基材シートに積層され、裏面層を構成する複数の加工材シートと、を備える表皮材であって、
前記加工材シートは、互いに離間して積層され、隣り合う加工材シートの各々の周縁部により、前記基材シートの表面に、前記周縁部
を構成するエッジ部の形状に対応した意匠面が形成されており、
前記基材シートは、隣り合う加工材シート間に形成された離間部の内側面に追従されずに、
前記意匠面は、前記離間部をなす前記加工材シートの前記基材シート側に位置された前記周縁部を構成するエッジ部によって、前記基材シートが
、前記エッジ部の前記表面層側へ曲面状に突出されてなる凸状部を有することによって
、前記基材シートの前記離間部の表面層側に凹状表面が形成されていることを特徴とする表皮材。
【請求項2】
前記基材シートは、ファブリック、天然皮革、合成皮革、又は熱可塑性樹脂からなり、前記加工材シートは、天然皮革、合成皮革、又は熱可塑性樹脂からなる請求項1に記載の表皮材。
【請求項3】
前記基材シートと前記加工材シートとの間に、更に熱可塑性樹脂シートが積層されている請求項1又は2に記載の表皮材。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれか1項に記載の表皮材を用いて形成された表皮層を備えることを特徴とする車両用内装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表皮材及びこの表皮材を用いて形成された表皮層を備える車両用内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用内装材などの表皮層を構成する表皮材は、エンボス模様、凹凸形状等を表面に付与することにより、意匠性が高められている。表皮材にエンボス模様を付与する方法として、例えば、表面平滑な表皮材の素材を加熱軟化した後、エンボス模様を刻設した金型を用いて真空成形し、成形と同時に型表面にあるエンボス模様を素材表面に転写する方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載の成形方法では、メス型の金型表面のエンボス模様部分にクッション性のある材料を置き、加熱軟化した表皮材をオス型の金型で加圧することによりエンボス模様が転写される。これにより、クッション性材料を置いた部分が特に加圧成形され、高低差の激しいエンボス模様でも良好に転写される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の成形方法では、表皮材の表面側から加工するため、表皮材の形状の変化に拘わらず、表面に一定のグラフィックパターンが現れる。即ち、加工面がそのまま意匠面となるため、表皮材が平面状であっても曲面状であっても、グラフィックパターンが同様に視認されてしまい、表皮材の立体的な形状の相違による意匠の差異が生じ難い。
【0005】
例えば、
図8のように、シート状の表皮素材90からなる平板状の表皮材9に、同一形状の複数の断面矩形の溝部90gが形成されている場合、表皮材9を湾曲させて曲面を形成すると、曲率によって溝部91g、92gへと、開口側が拡幅されるように形状が変形する。具体的には、溝部91gの側面91fは、溝部90gの側面90fに比べ開口側、即ち、エッジ部90eに比べてエッジ部91eの側で拡幅されるように僅かに傾斜する。また、溝部92gの側面92fは、開口側、即ち、エッジ部92eの側で更に拡幅されるように傾斜する。言い換えれば、溝部90gの側面90fは、底部に対して略垂直に形成されているが、湾曲により、溝部91aの側面91fは、底部に対する角度がやや鈍角になるように変形する。更に、溝部92aの側面92fは、より鈍角になるように変形する。しかし、曲面領域を、平面領域と比較しても、溝部の形状に大きな変化はみられず、同様の意匠として視認されてしまう。これは、溝部が形成された表面が直接視認されることに起因するものと考えられる。
【0006】
本発明は上記の実情に鑑みてなされたものであり、表皮材の裏面側に設けられた立体的な形状変化によって、表面側に視認される意匠が変化する表皮材及びこの表皮材を用いて形成された表皮層を備える車両用内装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下のとおりである。
1.表面層を構成する基材シートと、前記基材シートに積層され、裏面層を構成する複数の加工材シートと、を備える表皮材であって、
前記加工材シートは、互いに離間して積層され、隣り合う加工材シートの各々の周縁部により、前記基材シートの表面に、前記周縁部の形状に対応した意匠面が形成されていることを特徴とする表皮材。
2.前記基材シートは、ファブリック、天然皮革、合成皮革、又は熱可塑性樹脂からなり、前記加工材シートは、天然皮革、合成皮革、又は熱可塑性樹脂からなる前記1.に記載の表皮材。
3.前記基材シートと前記加工材シートとの間に、更に熱可塑性樹脂シートが積層されている前記1.又は2.に記載の表皮材。
4.表面層を構成する基材シートと、前記基材シートに積層され、裏面層を構成する加工材シートと、を備える表皮材であって、
前記加工材シートには、前記基材シートに向けて凹部が形成されており、前記凹部の前記基材シート側の周縁部により、前記基材シートの表面に、前記周縁部の形状に対応した意匠面が形成されていることを特徴とする表皮材。
5.前記基材シートは、ファブリック、天然皮革、合成皮革、又は熱可塑性樹脂からなり、前記加工材シートは熱可塑性樹脂からなる前記4.に記載の表皮材。
6.前記1.乃至5.のうちのいずれか1項に記載の表皮材を用いて形成された表皮層を備えることを特徴とする車両用内装材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の表皮材は、表面層を構成する基材シートと、基材シートに積層され、裏面層を構成する複数の加工材シートと、を備える表皮材であって、隣り合う加工材シートの各々の周縁部により、基材シートの表面に周縁部の形状に対応した意匠面が形成される。これにより、表皮材の立体的な形状変化によって、意匠が変化する。更には、表皮材の変形の度合いによって、グラデーションを感じさせる意匠面とすることもできる。
また、基材シートが、ファブリック、天然皮革、合成皮革、又は熱可塑性樹脂からなり、加工材シートが、天然皮革、合成皮革、又は熱可塑性樹脂からなる場合は、加工材シートの周縁部の形状に対応した明瞭な意匠面とすることができる。
更に、基材シートと加工材シートとの間に、更に熱可塑性樹脂シートが積層されている場合は、熱可塑性樹脂シートが介在することで、基材シートの表面に形成される意匠を、印象が異なるものとすることができる。
【0009】
他の本発明の表皮材は、表面層を構成する基材シートと、基材シートに積層され、裏面層を構成する加工材シートと、を備える表皮材であって、加工材シートに形成された凹部の基材シート側の周縁部により、基材シートの表面に周縁部の形状に対応した意匠面が形成される。これにより、表皮材の立体的な形状変化によって意匠が変化する。更には、表皮材の変形の度合いによって、グラデーションを感じさせる意匠面とすることもできる。
また、基材シートが、ファブリック、天然皮革、合成皮革、又は熱可塑性樹脂からなり、加工材シートが熱可塑性樹脂からなる場合は、加工材シートに所定の凹部を容易に形成することができ、加工材シートの周縁部の形状に対応した明瞭な意匠面とすることができる。
【0010】
本発明の車両用内装材は、本発明及び他の本発明の表皮材を用いて形成された表皮層を備える。そのため、内装材の種類、及び部位によって、より明瞭な、又は少し淡い感じ、また、やや印象の異なる意匠を備える内装材とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図5】
図1の表皮材の意匠面が形成される様子を説明するための模式的な断面図である。
【
図6】
図1の表皮材が曲面を形成したときの様子を説明するための模式的な断面図である。
【
図8】表面側から押圧加工した従来の表皮材が曲面を形成したときの様子を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を、図を参照しながら詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものである。本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に、本発明の構造的な詳細を示すことを意図するものでない。図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0013】
[1]表皮材
本発明の表皮材1(
図1参照)は、表面層を構成する基材シート10と、基材シート10に積層され、裏面層を構成する複数の加工材シート20と、を備える。
複数の加工材シート20は、互いに離間して積層され、隣り合う加工材シート20の各々の間には離間部20gがあり、それぞれの加工材シート20の側面20f、特に側面20fのうちの基材シート10の下面との接点であるエッジ部20e(側面20fとエッジ部20eとにより加工材シート20の周縁部が形成される)により、基材シート10の表面に、離間部20gの形状に対応した意匠面が形成される。
【0014】
他の本発明の表皮材2(
図2参照)は、表面層を構成する基材シート10と、基材シート10に積層され、裏面層を構成する加工材シート30と、を備える。
加工材シート30には、基材シート10に向けて凹部30gが形成されており、各々の凹部30gの側面30fの基材シート10の下面側の角部に位置するエッジ部30e(このエッジ部30eが凹部30gの基材シート10側の周縁部に相当する)により、基材シート10の表面に、凹部30gの形状に対応した意匠面が形成される。
【0015】
(1)基材シート
基材シート10は、表皮材1、2のうちの意匠面を備える表面層を構成するシートである。基材シート10の表面には意匠を付与することなく、加工材シート20、30を積層することにより形成される意匠を有するようにすることができるが、基材シート10の表面に予め意匠を付与しておき、加工材シート20、30の積層により形成される意匠と併せて、より意匠性の高い表皮材1、2とすることもできる。基材シート10の材質は特に限定されず、ファブリック、天然皮革、合成皮革、及び熱可塑性樹脂等を用いることができる。また、基材シート10の厚さも特に限定されず、目的、用途などに応じて適宜設定することができる。
【0016】
ファブリック(布地、織物、編物)を構成する繊維としては、例えば、木綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、キュプラ、レーヨン等の再生繊維、アセテート等の半合成繊維、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維等の合成樹脂繊維、及びこれらの繊維を用いた複合化繊維、混綿などが挙げられる。
【0017】
ファブリックとしては、織物が好ましい。織物であれば、色調及び図柄を変化させる自由度が高く、且つ精緻な図柄を表現することができる。また、織組織による凹凸を付与することもでき、高級感のある意匠面とすることができる。織組織による凹凸は、例えば、経糸及び緯糸のうちの少なくとも一方の糸として、高伸縮糸と低伸縮糸とを用いることで付与することができる。更に、低伸縮糸として、高伸縮糸に比べて濃色な糸、又は高伸縮糸に比べて光沢度が高い糸を用いることにより、凹凸感をより高めることもできる。
【0018】
天然皮革は特に限定されないが、例えば、牛、豚、馬、鹿、羊、ヤギ、カンガルー、ペッカリー、カピパラ、テグー等の哺乳類、ワニ、ヘビ、トカゲ、ウミガメ等の爬虫類、及びダチョウ等の鳥類の皮膚を剥いだものなどが挙げられる。これらのうちでは、牛、豚、羊の皮革が好ましく、牛の皮革がより好ましい。皮革は、1種であってもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。天然皮革は高級感が高く、劣化し難く耐久性に優れる。また、天然皮革は長く使い続けることで色合いや手触りが変化し、深い味わいが生じるという特長もある。更に、皮革には、例えば、鞣し加工、エナメル加工、オイル及びワックス等による加工、撥水加工、防水加工、型押し加工などの加工が施されていてもよい。また、例えば、白、赤、黒、茶、青、黄等の彩色加工が施されていてもよい。
【0019】
合成皮革によっても、天然皮革と比べて遜色のない高級感を付与することができる。この合成皮革は特に限定されないが、通常、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、ポリオレフィン繊維、ポリオレフィン系繊維とコットンとの混紡繊維等からなる織布、編布、不織布などを基布とし、基布表面にポリウレタンなどの合成樹脂を塗布した後、更に仕上げ層として変性ナイロン、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル樹脂などを塗布し、雛型紙を用いて、天然皮革に近似した外観を備える合成皮革とすることができる。また、必要に応じて、表面にエンボス加工、シボ加工等の加工を施してもよい。
【0020】
熱可塑性樹脂としては、公知の成形方法によりシート状に成形することができる樹脂であれば特に制限はなく、多種多様な樹脂を用いることができ、例えば、ポリアクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。これらのうちでは、加工容易性、及び表皮材の柔軟性等の観点から、ポリアクリル樹脂、及びポリウレタン樹脂が好ましい。更に、熱可塑性樹脂の場合、表面に容易に凹凸模様を施すことができ、意匠性を高めることができる。凹凸模様を形成するには、絞ロールと基材シート10とを接触させ、加熱、加圧するラミネートエンボス処理を伴う工程を有する製造方法を適用することができる。また、熱可塑性樹脂には着色剤を配合してもよい。基材シート10に着色剤を配合することで、所望の色相を付与することができる。着色剤としては、染料、顔料、及びパール粒子、アルミ粉等の金属粉などが挙げられ、なかでも、耐久性、耐候性等の観点から、顔料が好適である。
【0021】
(2)加工材シート
加工材シート20、30は、基材シート10に積層され、裏面層を構成するシートである。加工材シート20は、複数のシートが互いに離間して配置され、積層されている。一方、加工材シート30は、一枚のシートとして積層されており、基材シート10に向けて凹部(溝部)30gが形成されている。
【0022】
加工材シート20の材質は特に限定されず、基材シート10の材質と同様、ファブリック、天然皮革、合成皮革、熱可塑性樹脂等を用いることができる。また、加工材シート20は、基材シート10と同様の材質でもよく、異なっていてもよい。一方、加工材シート30は、通常、押圧型による加熱、加圧等の方法により形成されるため、熱可塑性樹脂が用いられる。また、加工材シート30は、基材シート10と同種の熱可塑性樹脂でもよく、異な種類の熱可塑性樹脂であってもよい。
【0023】
加工材シート20の各々の形状、及び隣り合う加工材シート20の離間距離は、基材シート10の表面に、加工材シート20の形状及び離間距離によって形成される意匠を備える意匠面とすることができる限り特に限定されない。また、厚さも特に限定されず、基材シート10の表面を所定の意匠面とすることができればよい。加工材シート20の形状は、例えば、正方形、長方形、菱形等とすることがでる。更に、隣り合う加工材シート20の離間距離は、意匠性の観点で、例えば、1~5mm程度とすることができる。また、離間距離は箇所によって大きく相違しないことが好ましく、略同一であることがより好ましい。また、加工材シート20の厚さも特に限定されず、例えば、基材シート10と同程度の厚さとすることができる。
【0024】
加工材シート30は、一枚のシートとして積層されており、基材シート10に向けて凹部(溝部)30gが形成されている。凹部30gは、加工材シート30が基材シート10に積層された後、加工材シート30を加熱、加圧することにより形成される。凹部30gの平面形状は、基材シート10の表面を所定の意匠面とすることができる限り特に限定されない。凹部30gの平面形状は、例えば、直線状、曲線状、ジグザク状等とすることができる。
【0025】
更に、凹部30gの幅は、所定の意匠面を形成するためには、1~5mm程度とすることができ、箇所によって大きく相違しないことが好ましく、略同一であることがより好ましい。また、凹部30gは、通常、押圧型による加熱、加圧等の方法により形成されるが、凹部30gの底部には、加工材シート30の薄層が残存することになる(
図2参照)。更に、加工材シート30の厚さも特に限定されず、例えば、基材シート10と同程度の厚さとすることができる。また、加工材シート30としてポリウレタン樹脂発泡体等の樹脂発泡体を用いることもでき、この場合、基材シート10と比べて厚い加工材シート30とされることが多い。
【0026】
基材シート10の裏面に加工材シート20、30を積層する方法としては、熱プレス、接着剤による貼合などが挙げられる。熱プレスの場合には、各々の材質によっては、基材シート10の裏面に加工材シート20、30を直接接合させ、積層することができる。更に、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエチレン酢酸ビニル共重合体、スチレン系熱可塑性エラストマー等からなるホットメルトフィルムを用いて、基材シート10と加工材シート20、30との間にホットメルトフィルムを介在させ、ホットメルトフィルムの融点より高い温度に加熱し、加圧して接合することもできる。加熱温度、圧力は接合に用いるホットメルトフィルムに応じて適宜選択することができる。
【0027】
一方、接着剤を用いる場合は、基材シート10の裏面、加工材シート20、30の表面のうちの少なくとも一方に接着剤を塗布した後、基材シート10と加工材シート20、30を積層させ、加圧、必要であれば加熱して貼合させる。接着剤の塗布方法としては、刷毛、スプレー、ロールコーターなどの一般的な方法を適宜採用することができる。
【0028】
(3)基材シート及び加工材シート以外のシート
本発明の表皮材1及び他の本発明の表皮材2は、目的、用途に応じて、適宜、熱可塑性樹脂シート等の他のシートを積層した形態とすることができる。この他のシートを積層する箇所は特に限定されず、基材シート10と加工材シート20の間に積層してもよく(
図3の介在シート40参照)、加工材シート20の裏面に積層してもよい(
図4の追加シート40参照)。尚、介在シート40及び追加シート40は、ともに積層させてもよいが、通常、その必要はなく、いずれか一方が積層される。また、他のシートの材質、厚さ等は、特に限定されず、表皮材1、2の加工性、意匠性、柔軟性など、及び用途を勘案して適宜設定すればよい。
【0029】
尚、他のシートとしては軟質なシートが積層されることが多く、その材質は特に限定されないが、ポリウレタン発泡体、ポリスチレン発泡体、ポリプロピレン発泡体、ポリエチレンテレフタレート発泡体、フェノール樹脂発泡体、シリコーン樹脂発泡体、ユリア樹脂発泡体、アクリル樹脂発泡体等の樹脂発泡体が挙げられる。この他のシートは、基材シート10の裏面に加工材シート20、30を積層する方法と同様にして積層することができる。
【0030】
(3)作用効果
以下、本発明の表皮材の作用効果について説明するが、意匠面が形成される過程、及び表皮材の表面が曲面を形成したときの作用効果は、他の本発明においても同様である。
本発明の表皮材1では、
図5(a)のように、表皮材1は、表面層を構成する基材シート10と、基材シート10に積層され、裏面層を構成する加工材シート20と、を備え、隣り合う加工材シート20は、互いに離間(離間部20g参照)して積層されている。
図5(a)は、基材シート10と加工材シート20を積層した直後の状態であり、時間経過により、
図5(b)のように、離間部20gの上部に位置する基材シート10は、その表面10sより凹んだ凹状表面10aとなる。
【0031】
また、基材シート10には、加工材シート20のエッジ部20eに対応した凸状部10eが形成され、この凸状部10eは、やや丸みを帯びた曲面となる。これにより、基材シート10の表面には、凹状表面10aと、その輪郭を形成する凸状部10eとが形成され、これが模様として視認され、意匠面となる。尚、凸状部10e及びその近傍の形状は、基材シート10の表面10s側からの押圧によっては形成するができない形状である。
【0032】
更に、
図5(c)のように、表皮材1が加工材シート20の側に湾曲したときは、離間部20gの上部の基材シート10は少し伸長され、凹状表面11aと、その下部の底面11b間との厚さが僅かに小さくなり、
図5(c)のような凹状表面11aと凸状部11eとが形成される。そして、凸状部11eは、凸状部10eと比べてより丸みを帯びたなだらかな曲面となる。これにより、基材シート10の表面は、基材表面10sに、凹状表面11aと、その輪郭を形成する凸状部11eとが形成された形状となり、これが模様としてより強く視認され、より明確な意匠面となる。このように、表皮材1を湾曲させることに起因して、加工材シート20のエッジ部20eの作用により形成される凸条部11eの形状は、本発明の表皮材に特有のものである。
【0033】
また、
図5(d)のように、表皮材1を加工材シート20の側に更に湾曲させたときは、離間部20gの上部の基材シート10はより伸長され、凹状表面12aと、その下部の底面12b間の厚さがより小さくなり、
図5(d)のような凹状表面12aと凸状部12eとが形成される。そして、凸状部12eは、凸状部11eと比べてより丸みを帯びたなだらかな曲面となる。これにより、基材シート10の表面は、基材表面10sに、凹状表面12aと、その輪郭を形成する凸状部12eとが形成された形状となる。この場合、湾曲の程度により、模様がより強く視認され、更に明瞭な意匠面となることもあり、凸状部12eが少し不明瞭となり、グラデーション的な効果が奏されることもある。
【0034】
上述の作用効果は、一例であり、基材シートと加工材シートの各々の材質、厚さ等の組み合わせの相違によって異なる。例えば、基材シートが軟質材で、加工材シートが硬質材の場合は、加工材シートのエッジの効果はより大きくなる。一方、基材シートが硬質材で、加工材シートが軟質材の場合は、エッジの効果は小さくなる傾向にある。
【0035】
[2]車両用内装材
本発明の車両用内装材は、本発明の表皮材及び他の本発明の表皮材を車両用内装材の基材に積層される表皮材として用いたものである。この車両用内装材は特に限定されず、例えば、シートバック、ドアトリム、ルーフトリム、フロアトリム、ラゲージトリム、トランクトリム、リヤサイドトリム、リヤパーセルシェルフ、インストルメントパネル、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレスト等が挙げられる。また、これらの車両用内装材における曲面部において、
図5(c)、(d)について記載したような作用効果が奏される。
【0036】
本発明及び他の本発明の表皮材は、前述の通り、曲面部において特に優れた意匠性を発揮する。従って、曲面部の意匠が重要なもの、例えば、シートバック、ドアトリム、ルーフトリムなどの曲面部等は、内装材のうちでも特に曲面部が目立つものであり、本発明及び他の本発明の表皮材を用いる効果が大きい。例えば、シートバックは、その骨格をなすバックフレームに、クッション材であるポリウレタン発泡体製のバックパッドが載置され、バックパッドを表皮材により覆った構造である。そして、背凭れの前面部から側面部にかけては、平面から曲面へと面形状が変化する箇所であるため、本発明及び他の本発明の表皮材を使用すると特にその作用効果が顕著に奏される。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の表皮材を実施例により更に具体的に説明する。
[実施例1]
実施例1の表皮材1は、
図1のように、表面層を構成する基材シート10と、基材シート10に積層され、裏面層を構成する複数の加工材シート20と、を備える。基材シート10は、厚さ1.2mmのシート状の天然皮革である。また、加工材シート20も略同質の厚さ1.2mmのシート状の天然皮革である。加工材シート20は縦横に互いに所定の寸法だけ離間しており、離間部20gが形成されている。この離間部20gの内側面20fは、基材シート表面10sに対して直角であり、その上端部にはエッジ部20eが形成されている。
【0038】
基材シート10と加工材シート20とは接着剤を用いて接合されており、接合時は、
図5(a)のように、基材シート20の表面10sは平面であり、基材シート20の側からは加工材シート20の存在は視認できなかった。しかし、数時間経過後に観察すると、
図5(b)のように、基材シート10の表面10sには、離間部20gの上部に凹状平面10aが視認されるようになっていた。更に、
図7のように、基材シート10の表面側から観察すると、縦横に凹状平面10aが溝模様として視認され、基材シート10の表面10sに溝模様に対応する意匠面が形成されていた。
【0039】
また、表皮材1を、
図6のように、加工材シート20の側に湾曲させたところ、平坦部では、離間部20gの上部の基材シート10には、その表面10sより凹んだ凹状表面10a(及び凸状部10e)が形成されていた。一方、表皮材1を加工材シート20の側に湾曲させた箇所では、凹状表面11aと凸状部11eとが形成されていた。そして、凸状部11eは、凸状部10eと比べてより丸みを帯びたなだらかな曲面であった。
【0040】
更に、より湾曲された箇所では、基材シート10の表面には、凹状表面12aと凸状部12eが形成されており、凸状部12eは、凸状部11eと比べてより丸みを帯びたなだらかな曲面であった。即ち、より大きく湾曲されるとともに、凹状平面及び凸条部は、よりなだらかな局面を形成することになり、グラデーション的な効果も発揮されるようになった。また、基材シート10は天然皮革であるため、高級感に優れるとともに、微妙に変化する意匠面を形成することができた。
【0041】
[実施例2]
実施例2の表皮材2は、
図2のように、表面層を構成する基材シート10と、基材シート10に積層され、裏面層を構成する加工材シート30と、を備え、これらは接着剤を用いて接合されている。基材シート10は、厚さ1.2mmのシート状の天然皮革である。一方、加工材シート30は、厚さ10mmの発泡ポリウレタンシートである。加工材シート30には、縦横に断面台形の溝部30gが形成されており、溝部30gは、加熱プレスにより形成され、溝部30gの内側面30fは、基材シート10に対して鈍角をなし、その上端部にはエッジ部30eが形成されている。
【0042】
また、表皮材2の加工材シート30は、表皮材1の加工材シート10と比較して、軟質であり、より厚い点で相違する。そのため、表皮材2の作用効果は、表皮材1と略同様であるものの、加工材シート30が軟質材であるため、エッジ部30eの基材シート10に及ぼす作用効果は、表皮材1の場合と比べて間接的であり、表皮材2の凹状平面及び凸状部の形成による表面の変化は小さくなる。その結果、特になだらかで且つ柔らかい感じの意匠面が形成され、目的、用途によってはより有用な表皮材とすることができる。
【0043】
[実施例3]
実施例3の表皮材3は、
図3のように、表面層を構成する基材シート10と、基材シート10に積層された軟質シート40と、軟質シート40に積層された裏面層を構成する加工材シート20と、を備え、これらは互いに接着剤を用いて接合されている。基材シート10及び加工材シート20は、厚さ1.2mmのシート状の天然皮革であり、軟質シート40は、厚さ3mmの発泡ポリウレタンシートである。この表皮材3では、軟質シート40が介在するため、加工材シート20が基材シート10の意匠性に及ぼす作用効果は間接的となり、その結果、よりなだらかで柔らかい感じの意匠面が形成され、目的、用途によってはより有用な表皮材とすることができる。
【0044】
[実施例4]
実施例4の表皮材4は、
図4のように、表面層を構成する基材シート10と、基材シート10に積層され、裏面層を構成する加工材シート20と、加工材シート20の基材シート10とは反対面に積層された軟質シート40とを備え、これらは互いに接着剤を用いて接合されている。即ち、表皮材4は、表皮材1の加工材シート20の裏面に更に軟質シート40が積層された形態である。基材シート10及び加工材シート20は、厚さ1.2mmのシート状の天然皮革であり、軟質シート40は、厚さ3mmの発泡ポリウレタンシートである。この表皮材4では、表皮材1の構成をそのまま備えるため、表皮材1と同様の作用効果が奏されることに加え、軟質シート40が積層されることで、よりクッション性の高い表皮材とすることができる。
【0045】
尚、前述の記載は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく、説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施形態を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、寧ろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の表皮材は、種々の技術分野において利用することができる。具体的には、自動車及び鉄道車両等の車両用内装材、航空機、船舶、建築物などの内装材、及びアパレル等の各種産業における表皮材が関わる分野において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1、2、3、4;表皮材、
10;基材シート、
20、30;加工材シート、
20g;離間部、
30g;溝部
40;軟質シート。