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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 15/04 20060101AFI20220509BHJP
   B60C 17/00 20060101ALI20220509BHJP
   B60C 15/00 20060101ALI20220509BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
B60C15/04 C
B60C17/00 B
B60C15/00 C
B60C9/18 K
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017246661
(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2019111921
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】竹森 諒平
(72)【発明者】
【氏名】長安 政明
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】丹野 篤
(72)【発明者】
【氏名】甲田 啓
(72)【発明者】
【氏名】松田 淳
【審査官】弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-301915(JP,A)
【文献】特表2001-510419(JP,A)
【文献】特開2009-126347(JP,A)
【文献】特開2001-354013(JP,A)
【文献】特開2015-20741(JP,A)
【文献】特開2008-149778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、各ビード部に設けられたビードコアと、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向内側に設けられた断面三日月状のサイド補強層とを有する空気入りタイヤにおいて、
前記ビードコアは、タイヤ周方向に巻回された少なくとも1本のビードワイヤからなり、子午線断面において前記ビードワイヤの複数の周回部分がタイヤ幅方向に並ぶ少なくとも1つの列とタイヤ径方向に重なる複数の層を形成しており、
子午線断面における前記ビードワイヤの複数の周回部分の共通接線によって形成された多角形を前記ビードコアの外郭形状としたとき、前記外郭形状はタイヤ径方向外側に単一の頂点を有し、この頂点を挟む2辺が成す内角が鋭角であり、前記外郭形状のタイヤ径方向内側の辺の両端に位置する角部の内角θ2,θ3がθ2>90°かつθ3>90°の関係を満たし、
前記カーカス層は、前記トレッド部から各サイドウォール部を経て各ビード部に至る本体部と、各ビード部において前記ビードコアの周縁に沿って屈曲しながら折り返されて前記ビードコアのタイヤ径方向外側端の位置から前記本体部に接触しながら各サイドウォール部側に向かって延在する折り返し部とからなり、前記本体部と前記折り返し部とが接触する接触領域のタイヤ径方向に沿った長さが全カーカス高さの60%以上80%以下であり、
前記カーカス層を構成するカーカスコードはタイヤ径方向に対して傾斜しており、前記トレッド部のタイヤ幅方向中央位置で測定される前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度が55°~89°であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
記外郭形状の周長L0と、前記外郭形状のタイヤ径方向内側の辺の長さL1と、前記外郭形状のタイヤ径方向内側の辺に連なるビードトウ側の傾斜した辺の長さL2と、前記外郭形状のタイヤ径方向内側の辺に連なるビードヒール側の傾斜した辺の長さL3とが0.25≦(L1+L2)/L0≦0.40かつ1.0≦(L1+L2)/(2×L3)≦2.5の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
子午線断面において、ビードトウからタイヤ径方向外側に向かって20mm離間してタイヤ径方向に平行に延在する直線と前記サイドウォール部の外表面の輪郭線との交点を通り前記カーカス層に対して垂直な補助線A0と、前記補助線A0からタイヤ径方向内側に5mm離間して前記補助線A0に平行な補助線A1と、前記補助線A0からタイヤ径方向外側に5mm離間して前記補助線A0に平行な補助線A2とを引いたとき、前記補助線A1と前記補助線A2との間に存在する前記サイド補強層の部分の断面積SRと、前記カーカス層の前記本体部と前記折り返し部とで形成された閉鎖領域の面積SBとが0.4≦SB/SR≦2.5の関係を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
子午線断面において、ビードトウからタイヤ径方向外側に向かって20mm離間してタイヤ径方向に平行に延在する直線と前記サイドウォール部の外表面の輪郭線との交点を通り前記カーカス層に対して垂直な補助線A0上のタイヤ断面幅Kと前記ビードコアの前記外郭形状の周長L0とが1.2≦L0/K≦5.0の関係を満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記カーカス層の前記本体部と前記折り返し部とで形成された閉鎖領域の面積に対する前記閉鎖領域内に存在するゴムの総面積の比率が0.1%~15%であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記カーカス層の前記本体部および前記折り返し部のタイヤ幅方向外側にフィラー層が設けられたことを特徴とする請求項1~5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
子午線断面において、ビードトウからタイヤ径方向外側に向かってタイヤ断面高さSHの60%~80%の領域をショルダー領域としたとき、前記ショルダー領域における前記サイドウォール部の平均総厚さが7.5mm~15mmであることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
子午線断面において、ビードトウからタイヤ径方向外側に向かってタイヤ断面高さSHの60%~80%の領域をショルダー領域としたとき、前記ショルダー領域における前記カーカス層のタイヤ幅方向外側の平均ゴム厚さが1.0mm~2.5mmであることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
子午線断面における前記カーカス層の最大幅位置において、前記カーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム厚さt1と前記カーカス層のタイヤ幅方向内側のゴム厚さt2とが0.2≦t1/t2≦0.5の関係を満たすことを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記カーカス層を1層のみ備えたことを特徴とする請求項1~9のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドウォール部にサイド補強層を備えた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、ビード部の構造を改善して、耐ピンチカット性を良好に維持しながら、タイヤ重量の軽減を可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
パンクが発生しても一定距離を安全に走行可能にした空気入りタイヤ(所謂ランフラットタイヤ)では、パンク時に車両の負荷荷重を支えるためのサイド補強層(横断面形状が三日月状の硬質ゴムからなる層)がサイドウォール部に設けられる。このサイド補強層を備えることで、ランフラットタイヤは、単にランフラット性能を有するだけでなく、ピンチカット(通常走行時に縁石等に強く乗り上げた際の衝撃などが原因でタイヤ内部のカーカスコードが切れる故障)に対する耐久性に優れる面がある。
【0003】
一方で、ランフラットタイヤは、サイド補強層を備えることでタイヤ重量が増大し易い傾向がある。特に、サイド補強層のタイヤ径方向内側端部がビード部近傍まで到達する構造を有すると、ビード部近傍にビードコアとビードフィラーとサイド補強層とが存在することになり、ビード部近傍が肉厚になり、タイヤ重量の増加が顕著になる。
【0004】
近年、タイヤ重量の軽減が強く求められており、ランフラットタイヤにおいても軽量化が検討されている。例えば、特許文献1では、断面三日月状のサイド補強層を備えた空気入りタイヤにおいて、ビードコアの形状を工夫することで、ビードフィラーを排除してタイヤ重量を軽減することが提案されている。しかしながら、この引用文献1のタイヤでは、ビードフィラーが存在しないことで、上述のピンチカットに対する耐久性が損なわれる虞があった。そのため、ランフラットタイヤにおいて、耐ピンチカット性を良好に維持しながら、タイヤ重量を軽減するための更なる対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002‐301915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、サイドウォール部にサイド補強層を備えた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、ビード部の構造を改善して、耐ピンチカット性を良好に維持しながら、タイヤ重量の軽減を可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、前記トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、各ビード部に設けられたビードコアと、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記サイドウォール部における前記カーカス層のタイヤ幅方向内側に設けられた断面三日月状のサイド補強層とを有する空気入りタイヤにおいて、前記ビードコアは、タイヤ周方向に巻回された少なくとも1本のビードワイヤからなり、子午線断面において前記ビードワイヤの複数の周回部分がタイヤ幅方向に並ぶ少なくとも1つの列とタイヤ径方向に重なる複数の層を形成しており、子午線断面における前記ビードワイヤの複数の周回部分の共通接線によって形成された多角形を前記ビードコアの外郭形状としたとき、前記外郭形状はタイヤ径方向外側に単一の頂点を有し、この頂点を挟む2辺が成す内角が鋭角であり、前記外郭形状のタイヤ径方向内側の辺の両端に位置する角部の内角θ2,θ3がθ2>90°かつθ3>90°の関係を満たし、前記カーカス層は、前記トレッド部から各サイドウォール部を経て各ビード部に至る本体部と、各ビード部において前記ビードコアの周縁に沿って屈曲しながら折り返されて前記ビードコアのタイヤ径方向外側端の位置から前記本体部に接触しながら各サイドウォール部側に向かって延在する折り返し部とからなり、前記本体部と前記折り返し部とが接触する接触領域のタイヤ径方向に沿った長さが全カーカス高さの60%以上80%以下であり、前記カーカス層を構成するカーカスコードはタイヤ径方向に対して傾斜しており、前記トレッド部のタイヤ幅方向中央位置で測定される前記カーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度が55°~89°であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、ビードコアが上述の構造を有するため、外郭形状の頂点側ではビードワイヤの巻き数が減少する一方で、外郭形状の底辺側ではビードワイヤの巻き数が充分に確保されるので、ビードコアとして充分な性能を維持してタイヤの耐久性を確保しながら、ビードワイヤの使用量を低減してタイヤ重量の軽減を図ることができる。また、この形状のビードコアに沿ってカーカスが屈曲しながら折り返されるので、カーカス層の本体部と折り返し部とで囲まれた閉鎖領域内には実質的にビードコアのみが存在するようになるので、従来のビードフィラーを有するタイヤよりもタイヤ重量を軽減することができる。また、ビードフィラーが存在しないことで剛性が適度に抑制されて、リムフランジが当接する部位を支点とした回転力に起因するリム外れを防止することができる。このとき、カーカス層が屈曲しながら折り返されるにあたって、ビードコアが前述の単一の頂点を有する形状であるため、カーカス層が急激に屈曲することを回避することもできる。更に、カーカス層の折り返し部が本体部に接触しているので、折り返し部の終端における応力集中に起因する故障を防止することができる。これに加えて、カーカス層の折り返し部と本体部とが接触する接触領域の長さを充分に確保しながら、カーカスコードを上記のように傾斜させているので、サイドウォール部の広範に亘って、カーカス層の折り返し部と本体部とが接触しながら、これらの層間でカーカスコードが交差することになり、良好な耐ピンチカット性を確保することができる。
【0009】
本発明では、前述のように外郭形状のタイヤ径方向内側の辺の両端に位置する角部の内角θ2,θ3がθ2>90°かつθ3>90°の関係を満たすことに加えて、外郭形状の周長L0と、外郭形状のタイヤ径方向内側の辺の長さL1と、外郭形状のタイヤ径方向内側の辺に連なるビードトウ側の傾斜した辺の長さL2と、外郭形状のタイヤ径方向内側の辺に連なるビードヒール側の傾斜した辺の長さL3とが0.25≦(L1+L2)/L0≦0.40かつ1.0≦(L1+L2)/(2×L3)≦2.5の関係を満たすことが好ましい。これにより、ビードコアの外郭形状が良好になるので、ビードコアとして充分な性能を維持してタイヤの耐久性を確保しながら、ビードワイヤの使用量を低減してタイヤ重量を軽減するには有利になる。特に、周長L0と長さL1~L3の関係を上述のように設定することで、ランフラット走行時のリム外れに対する寄与が大きい長さL1およびL2を充分に確保することでき、耐リム外れ性を効果的に改善することができる。
【0010】
本発明では、子午線断面において、ビードトウからタイヤ径方向外側に向かって20mm離間してタイヤ径方向に平行に延在する直線とサイドウォール部の外表面の輪郭線との交点を通りカーカス層に対して垂直な補助線A0と、補助線A0からタイヤ径方向内側に5mm離間して補助線A0に平行な補助線A1と、補助線A0からタイヤ径方向外側に5mm離間して補助線A0に平行な補助線A2とを引いたとき、補助線A1と補助線A2との間に存在するサイド補強層の部分の断面積SRと、カーカス層の本体部と折り返し部とで形成された閉鎖領域の面積SBとが0.4≦SB/SR≦2.5の関係を満たすことが好ましい。これにより、リムフランジが当接する部位の近傍の断面構造が良好になり、リムフランジが当接する部位を支点とした回転力に起因するリム外れを抑制することができ、耐リム外れ性を高めるには有利になる。
【0011】
本発明では、子午線断面において、ビードトウからタイヤ径方向外側に向かって20mm離間してタイヤ径方向に平行に延在する直線とサイドウォール部の外表面の輪郭線との交点を通りカーカス層に対して垂直な補助線A0上のタイヤ断面幅Kとビードコアの外郭形状の周長L0とが1.2≦L0/K≦5.0の関係を満たすことが好ましい。これにより、リムフランジが当接する部位の近傍の断面構造が良好になり、リムフランジが当接する部位を支点とした回転力に起因するリム外れを抑制することができ、耐リム外れ性を高めるには有利になる。
【0012】
本発明では、カーカス層の本体部と折り返し部とで形成された閉鎖領域の面積に対する閉鎖領域内に存在するゴムの総面積の比率が0.1%~15%であることが好ましい。これにより、カーカス層の本体部と折り返し部とで形成された閉鎖領域内に実質的にビードコアのみが存在するようになるので、タイヤ重量を軽減するには有利になる。
【0013】
本発明では、カーカス層の本体部および折り返し部のタイヤ幅方向外側にフィラー層が設けられることが好ましい。これにより、カーカス層の本体部と折り返し部との間に従来のビードフィラー層が実質的に存在しない場合であっても、タイヤの断面構造(特に、ビード部からサイドウォール部にかけてのゴムゲージ)を良好にすることができ、タイヤの耐久性や耐リム外れ性を向上するには有利になる。尚、このフィラー層は従来のビードフィラー層に替えて設けられるものであるので、このフィラー層が設けられても従来のビードフィラー層を備えたタイヤよりタイヤ重量が増大することにはならない。
【0014】
本発明では、子午線断面において、ビードトウからタイヤ径方向外側に向かってタイヤ断面高さSHの60%~80%の領域をショルダー領域としたとき、ショルダー領域におけるサイドウォール部の平均総厚さが7.5mm~15mmであることが好ましい。これにより、ピンチカットが生じ易い領域のサイドウォール部を適度な厚さにすることができ、耐ピンチカット性の維持とタイヤ重量の軽減とを両立するには有利になる。
【0015】
本発明では、子午線断面において、ビードトウからタイヤ径方向外側に向かってタイヤ断面高さSHの60%~80%の領域をショルダー領域としたとき、ショルダー領域におけるカーカス層のタイヤ幅方向外側の平均ゴム厚さが1.0mm~2.5mmであることが好ましい。これにより、ピンチカットが生じ易い領域のサイドウォール部の厚さ(特に、カーカス層よりもタイヤ幅方向外側のゴムゲージ)を適度な範囲に設定することができ、耐ピンチカット性の維持とタイヤ重量の軽減とを両立するには有利になる。
【0016】
本発明では、子午線断面におけるカーカス層の最大幅位置において、カーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム厚さt1とカーカス層のタイヤ幅方向内側のゴム厚さt2とが0.2≦t1/t2≦0.5の関係を満たすことが好ましい。これにより、これにより、ピンチカットが生じ易い領域以外では、サイドウォール部の厚さ(特に、カーカス層よりもタイヤ幅方向外側のゴムゲージ)を適度に薄くすることができ、耐ピンチカット性の維持とタイヤ重量の軽減とを両立するには有利になる。
【0017】
本発明では、カーカス層を1層のみ備えることが好ましい。これにより、カーカス層の使用量を抑えることができ、タイヤ重量を軽減するには有利になる。
【0018】
本発明において、各種寸法は、タイヤを正規リムにリム組みして、正規内圧を充填した状態で測定する。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの子午線半断面図である。
図2】本発明のカーカス層の構造を示す説明図である。
図3図1のビード部近傍を拡大して示す説明図である。
図4】本発明のビードコアの一例を拡大して示す説明図である。
図5】本発明の別の実施形態からなるビードコアの模式図である。
図6】本発明の別の実施形態からなるビードコアの模式図である。
図7】本発明の別の実施携帯からなる空気入りタイヤの子午線半断面図である。
図8図7のビード部近傍を拡大して示す説明図である。
図9】従来例および比較例のビード構造を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。尚、図1において、CLはタイヤ赤道を示す。
【0022】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。以降の説明では、トレッド部1から各サイドウォール部2を経て各ビード部3に至る部分を本体部4A、各ビード部3においてビードコア5の廻りに折り返されて各サイドウォール部2側に向かって延在する部分を4Bという。尚、本発明では、後述のビード部3の構造によって耐リム外れ性等の基本性能を確保することができるので、カーカス層4を複数層設けることでこれら基本性能を得る必要はなく、カーカス層4の層数を低減することができる。特に、図示のようにカーカス層4を1層のみ設けることが好ましい。
【0023】
カーカス層4は、図2に示すように、複数本の補強コード(カーカス層4c)を含み、これらカーカスコード4cはタイヤ径方向に対して傾斜して延在している。特に、トレッド部1のタイヤ幅方向中央位置(タイヤ赤道CL上の点)で測定されるカーカスコード4cのタイヤ周方向に対する角度θcが55°~89°、好ましくは55°~85°に設定されている。そのため、カーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとでは、図示のようにカーカスコード4cの傾斜方向が逆転し、本体部4Aと折り返し部4Bとの層間でカーカスコード4cが交差している。つまり、本発明のカーカス層4は、バイアス構造とラジアル構造との中間的な構造(所謂、ハーフラジアル構造)を有している。
【0024】
ビードコア5は、図3,4に示すように、タイヤ周方向に巻回された少なくとも1本のビードワイヤ5Aからなり、ビードワイヤ5Aの複数の周回部分がタイヤ幅方向に並ぶ少なくとも1つの列とタイヤ径方向に重なる複数の層を形成している。本発明では、子午線断面において上記のようにビードワイヤ5Aの複数の周回部分が列と層を形成していれば、単一のビードワイヤ5Aを連続的に巻回した所謂一本巻き構造であっても、複数本のビードワイヤ5Aを引き揃えた状態で巻回した所謂層巻き構造であってもよい。図3の例では、タイヤ径方向最内側から順に3列の周回部分を含む層、4列の周回部分を含む層、3列の周回部分を含む層、2列の周回部分を含む層、1列の周回部分を含む層の計5層が積層された構造を有する。また、図4の例では、タイヤ径方向最内側から順に4列の周回部分を含む層、5列の周回部分を含む層、4列の周回部分を含む層、3列の周回部分を含む層、2列の周回部分を含む層、1列の周回部分を含む層の計6層が積層された構造を有する。尚、以降の説明では、前者の構造を「3+4+3+2+1構造」と言い、後者の構造を「4+5+4+3+2+1構造」と言う。同様に、以降の説明では、ビードワイヤ5Aの積層構造を、各層に含まれる列の数をタイヤ径方向最内側の層から順に「+」で繋いだ同様の形式で表現する。更に、図示の例のビードコア5では、ビードコア5Aが俵積み状に積層されている。尚、「俵積み」とは、互いに接している3つの周回部分の中心が略正三角形を形成する積み方であり、六方充填配置と呼称されることもある充填率の高い積層構造である。
【0025】
このとき、各ビードコア5について、子午線断面におけるビードワイヤ5Aの複数の周回部分の共通接線によって形成された多角形をビードコア5の外郭形状(図4の破線)とすると、この外郭形状はタイヤ径方向外側に単一の頂点51を有すると共に、タイヤ径方向内側にこの頂点51と対向するように底辺52を有している。例えば、図4の例のビードコア5は、上述の4+5+4+3+2+1構造を有するため五角形の外郭形状を有している(図3のビードコアも同様に上述の3+4+3+2+1構造により五角形の外郭形状を有している)。本発明では、頂点51を挟む2辺が成す内角θ1が必ず鋭角であり、ビードコア5全体としては最大幅となる部位からタイヤ径方向外側に向かって徐々に幅が狭まる先細り形状を有している(以下、この形状を指して「外径側楔形状」という場合がある)。
【0026】
カーカス層4は、上記のようにビードコア5の廻りに折り返されるものであるが、本発明のビードコア5は上述のように特殊な形状(外径側楔形状)を有するため、カーカス層4はビードコア5の周縁に沿って屈曲する。例えば、図示の例では、ビードコア5が上述の設定を満たす結果、断面形状が略五角形になっているため、その周縁に沿って延在するカーカス層4も略五角形状に屈曲している。更に、カーカス層4の折り返し部4Bのビードコア5のタイヤ径方向外側端よりもタイヤ径方向外側の部分は、カーカス層4の本体部4Aに接触しながらカーカス層4の本体部4Aに沿って各サイドウォール部2側に向かって延在している。その結果、カーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとによって、ビードコア5を囲む閉鎖領域が形成されている。
【0027】
このとき、サイドウォール部2において、カーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとが接触している領域を接触領域とすると、この接触領域のタイヤ径方向に沿った長さLxが全カーカス高さLcの60%以上80%以下になっている。尚、「全カーカス高さLc」とは、図示のように、子午線断面におけるカーカス層4のタイヤ径方向最内側の点(図示の例では、ビードコア5のタイヤ径方向内側の点)からタイヤ径方向最外側の点(図示の例では、タイヤ赤道CL上の点)までのタイヤ径方向に沿った距離である。また、接触領域はカーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとが実際に接触している領域であり、その長さLxはビードコア5の外郭形状の頂点51の近傍でカーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとの接触が開始する点から折り返し部4Bの端部までのタイヤ径方向に沿った距離であり、折り返し部4Bの折り返し高さh(子午線断面におけるカーカス層4のタイヤ径方向最内側の点から折り返し部4Bの端部までのタイヤ径方向に沿った距離)とは異なる長さである。尚、折り返し高さhは特に限定されないが、サイドウォール部2の剛性を確保する観点からは、全カーカス高さLcの95%以上であることが好ましい。
【0028】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図示の例では2層)のベルト層6が埋設されている。各ベルト層6は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含む。この補強コードは層間で補強コードどうしが互いに交差するように配列されている。これらベルト層6において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。更に、ベルト層6の外周側にはベルト補強層7が設けられている。特に、図示の例では、ベルト層6の全幅を覆うフルカバー層とベルト補強層7の両端部のみをそれぞれ覆うエッジカバー層の2層が設けられている。ベルト補強層7は、タイヤ周方向に配向する有機繊維コードを含む。ベルト補強層7において、有機繊維コードはタイヤ周方向に対する角度が例えば0°~5°に設定されている。
【0029】
サイドウォール部2におけるカーカス層4のタイヤ幅方向内側には断面三日月形状のサイド補強層8が配設されている。このサイド補強層8は、サイドウォール部2を構成する他のゴムよりも硬いゴムで構成される。具体的には、サイド補強層8を構成するゴムは、JIS‐A硬度が例えば70~80、100%伸長時のモジュラスが例えば9.0MPa~10.0MPaである。このような物性のサイド補強層8は、その剛性に基づいてパンク時に荷重を支持してランフラット走行を可能にする。
【0030】
本発明では、ビードコア5が上述のように特殊な形状(外径側楔形状)を有するため、外郭形状の頂点51側ではビードワイヤ5Aの巻き数が減少する一方で、外郭形状の底辺52側ではビードワイヤの巻き数が充分に確保されるので、ビードコア5として充分な性能を維持してタイヤの耐久性を確保しながら、ビードワイヤ5Aの使用量を低減してタイヤ重量の軽減を図ることができる。また、この形状のビードコア5に沿ってカーカス層4が屈曲しながら折り返されるので、カーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとで囲まれた閉鎖領域内には実質的にビードコア5のみが存在するようになるので、従来のビードフィラーを有するタイヤよりもタイヤ重量を軽減することができる。また、ビードフィラーが存在しないことで剛性が適度に抑制されて、リムフランジが当接する部位を支点とした回転力に起因するリム外れを防止することができる。このとき、カーカス層4が屈曲しながら折り返されるにあたって、ビードコア5が前述の単一の頂点51を有する形状であるため、カーカス層4が急激に屈曲することを回避することもできる。更に、カーカス層4の折り返し部4Bが本体部4Aに接触しているので、折り返し部4Bの終端における応力集中に起因する故障を防止することができる。これに加えて、本発明では、長さLxが上述の範囲に設定されて、カーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとが接触する接触領域Xが充分に確保され、且つ、カーカス層4が上述のようにハーフラジアル構造を有するので、サイドウォール部2の広範に亘って、カーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとが接触しながら、これらの層間でカーカスコード4cが交差して、優れた補強効果が得られて、良好な耐ピンチカット性を確保することができる。
【0031】
上述の構造において、内角θ1が鈍角であると、カーカス層4をビードコア5の廻りに適切に折り返すためには、ビードコア5のタイヤ径方向外側にビードフィラーを配する必要が生じるため、タイヤ重量を効果的に低減することが難しくなる。カーカス層4がタイヤ径方向に対して傾斜せず、ハーフラジアル構造を有さないと、サイドウォール部2を充分に補強することができず、耐ピンチカット性を充分に確保することができない。特に、カーカスコード4cの傾斜角度θcが55°未満であるとサイドウォール部2の剛性のバランスが崩れてコントロール性が悪化すし、カーカスコード4cの傾斜角度θcが75°を超えるとサイド部の剛性が落ちて剛性不足になる。また、接触領域の長さLxが全カーカス高さLcの60%未満であるとサイドウォール部2の充分な範囲を補強することができず、耐ピンチカット性が充分に得られない。接触領域の長さLxが全カーカス高さLcの80%を超えるとサイドウォール部2の剛性が高くなり過ぎて基本的な走行性能に影響が出る虞がある。
【0032】
各ビードコア5は、図4に示すように、ビードコア5の最大幅をW0、タイヤ径方向最内側の層の幅をW1、タイヤ径方向最外側の層の幅をW2とすると、これら幅がW1>W2かつW2≦0.5×W0の関係を満たしているとよい。また、ビードコア5を構成する複数の層のうち最大幅W0となる層がビードコア5のタイヤ径方向中心位置よりもタイヤ径方向内側に位置しているとよい。尚、幅W0~W2はいずれも、図示のように、各層のタイヤ幅方向両外側の周回部分のタイヤ幅方向外側端間のタイヤ幅方向に沿った長さである。幅W0、W1、W2が上述の関係を満たさないとビードコア5の形状が不適当になりビード部3の形状を安定させることができない。特に、W1≦W2やW2>0.5×W0という関係であると、ビードコア5の上端の幅が大きくなるため、リムフランジが当接する部位の近傍の剛性が高まってリムフランジが当接する部位を支点とした回転力に起因するリム外れを抑制することが難しくなり耐リム外れ性が低下する。
【0033】
ビードコア5の具体的な形状としては、例えば、図5に示す形状を採用することができる。図5の例は、いずれも上述の関係を満たすので、本発明の「外径楔形状」に該当するものである。詳述すると、図5(a)は俵積みの5+4+3+2+1構造を有し、図5(b)は俵積みの4+4+3+2+1構造を有し、図5(c)はタイヤ径方向最内側の層とそのタイヤ径方向内側に隣接する層とが俵積みではなく直列積み(タイヤ径方向に隣接する周回部分どうしがタイヤ幅方向に垂直に積層される積み方)になった4+4+3+2+1構造を有する。
【0034】
図5に示したいずれの構造も、少なくとも一部が俵積み状に積層されているため、全体が直列積みで積層された構造のビードワイヤよりも、ビードワイヤ5Aを密に配してビードワイヤ5Aの充填率を高めることができる。その結果、ビード部3の剛性や耐圧性能を良好に確保して走行性能を維持しながら、タイヤ重量を軽減し、これら性能をバランスよく発揮することができる。ビードワイヤ5Aの充填率に着目すると、図5(a)および図5(b)のようにすべてのビードワイヤ5Aが俵積み状に積層されることが好ましい。
【0035】
また、ビードコア5の形状に関して、ビードコア5全体の形状の安定性を高めるには、ビードコア5全体の形状をビードコア5のタイヤ幅方向中心に対して線対称にすることが好ましい。この観点からは、図5(a)および図5(c)のような形状が好ましい。
【0036】
より好ましいビードコア5の形状としては、図4の形状や図6の形状を例示することができる。これらビードコア5では、外郭形状のタイヤ径方向内側の辺の両端に位置する角部の内角θ2,θ3が好ましくはθ2>90°かつθ3>90°、より好ましくは100°≦θ2≦150°かつ100°≦θ3≦150°の関係を満たしている。また、この外郭形状の周長(ビードワイヤ5Aの複数の周回部分の共通接線によって形成された多角形のすべての辺の長さの和)をL0、外郭形状のタイヤ径方向内側の辺の長さをL1、外郭形状のタイヤ径方向内側の辺に連なるビードトウ側の傾斜した辺の長さをL2、外郭形状のタイヤ径方向内側の辺に連なるビードヒール側の傾斜した辺の長さをL3とすると、これら長さが好ましくは0.25≦(L1+L2)/L0≦0.40かつ1.0≦(L1+L2)/(2×L3)≦2.5、より好ましくは0.28≦(L1+L2)/L0≦0.36かつ1.1≦(L1+L2)/(2×L3)≦2.0の関係を満たしている。このようにビードコア5の外郭形状の詳細を規定することで、ビードコア5の形状がより良好になり、ビードコア5として充分な性能を維持してタイヤの耐久性を確保しながら、ビードワイヤ5Aの使用量を低減してタイヤ重量を軽減するには有利になる。特に、周長L0と長さL1~L3の関係を上述のように設定することで、ランフラット走行時のリム外れに対する寄与が大きい長さL1およびL2を充分に確保することでき、耐リム外れ性を効果的に改善することができる。このとき、内角θ2,θ3が90°以下であるとビードワイヤ5Aの巻き数を充分に減少することができずタイヤ重量の軽減効果が低下する。また、内角θ2,θ3が90°以下であると外郭形状のタイヤ径方向内側の辺の両端に位置するビードワイヤ5Aが加硫時のゴム流れの影響を受け易くなり、加硫後のビードコア5の形状を良好に維持することが難しくなる。周長L0と長さL1~L3が上述の関係を満たさないとタイヤ重量の軽減と耐リム外れ性の向上を両立することができない。特に、0.25>(L1+L2)/L0や1.0>(L1+L2)/(2×L3)という関係であると耐リム外れ性が悪化し、(L1+L2)/L0>0.40や(L1+L2)/(2×L3)>2.5という関係であるとタイヤ重量を軽減することができない。
【0037】
図6の形状について詳述すると、図6(a)は俵積みの3+4+4+3+2+1構造を有し、且つ、4列の周回部分が含まれる2層(タイヤ径方向内側から2番目の層とそのタイヤ径方向内側に隣接する層)が積層する際に、タイヤ径方向内側の層がタイヤ幅方向内側にずれるように積層することで長さL2が大きく確保された構造を有する。図6(b)はタイヤ径方向内側から2番目の層とそのタイヤ径方向内側に隣接する層とが俵積みではなく直列積み(タイヤ径方向に隣接する周回部分どうしがタイヤ幅方向に垂直に積層される積み方)になった3+4+4+3+2+1構造を有する。
【0038】
周長L0と長さL1~L3は上述の関係を満たせばよいが、これら長さの中でも、ビードコアの外郭形状のタイヤ径方向内側の辺の長さL1と、ビードコアの外郭形状のタイヤ径方向内側の辺に連なるビードトウ側の傾斜した辺の長さL2とは、ランフラット走行時のリム外れに対する寄与が大きい。そのため、長さL2を好ましくは1.5mm~8mm、より好ましくは2mm~5mm、長さL1を好ましくは2mm~10mm、より好ましくは2.5mm~7mmに設定するとよい。長さL2が1.5mmよりも小さいと耐リム外れ性を向上する効果が限定的になり、長さL2が8mmよりも大きいとタイヤ重量を軽減する効果が限定的になる。長さL1が2mmよりも小さいと耐リム外れ性を向上する効果が限定的になり、長さL1が10mmよりも大きいとタイヤ重量を軽減する効果が限定的になる。
【0039】
このように内角θ2,θ3や周長L0や長さL1~L3が上述の関係を満たす場合も、ビードワイヤ5Aの充填率を考慮すると、すべてのビードワイヤ5Aが俵積み状に積層されることが好ましい。また、ビードコア5全体の形状の安定性を考慮すると、ビードコア5全体の形状をビードコア5のタイヤ幅方向中心に対して線対称にすることが好ましい。
【0040】
これら様々なビードコア5の形状は、上述の様々な観点に基づいて、空気入りタイヤ全体の構造や重視する特性等を考慮して適宜選択することができる。
【0041】
ビードワイヤ5A自体の構造については特に限定されないが、タイヤ重量の軽減と耐リム外れ性の向上を両立すること鑑みると、平均直径を好ましくは0.8mm~1.8mm、より好ましくは1.0mm~1.6mm、更に好ましくは1.1mm~1.5mmにするとよい。また、ビードワイヤ5Aの総断面積(各ビードコア5の子午線断面に含まれるビードワイヤ5Aの周回部分の断面積の総和)を好ましくは10mm2 ~50mm2 、より好ましくは15mm2 ~48mm2 、更に好ましくは20mm2 ~45mm2 にするとよい。ビードワイヤ5Aの平均直径が0.8mmよりも小さいと耐リム外れ性を向上する効果が限定的になり、ビードワイヤ5Aの平均直径が1.8mmよりも大きいとタイヤ重量を軽減する効果が限定的になる。ビードワイヤ5Aの総断面積が10mm2 よりも小さいと耐リム外れ性を向上する効果が限定的になり、ビードワイヤ5Aの総断面積が50mm2 よりも大きいとタイヤ重量を軽減する効果が限定的になる。
【0042】
上述のように、本発明では、カーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとによって形成された閉鎖領域には、実質的にビードコア5のみが存在しており、従来の空気入りタイヤで用いられるようなビードフィラーまたはそれに類するタイヤ構成部材(ビードコア5のタイヤ径方向外側に配置されてカーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとによって包み込まれてビード部3からサイドウォール部2にかけての剛性を高める部材)は配置されない。即ち、ビードワイヤ5Aを被覆するインシュレーションゴムや、ビードコア5とカーカス層4との間に形成される僅かな隙間を埋めるゴムは存在しても、従来の空気入りタイヤのような大きな体積を有するビードフィラーは用いられない。このような実質的なビードフィラーレス構造によって、タイヤ重量を効果的に軽減することができる。このとき、子午線断面における閉鎖領域の面積Aに対する閉鎖領域内に存在するゴムの総面積aの比率(a/A×100%)を閉鎖領域のゴム占有率とすると、このゴム占有率が0.1%~15%であることが好ましい。閉鎖領域のゴム占有率が15%よりも大きいと、実質的に従来の空気入りタイヤのビードフィラーが存在する場合と同等になり、タイヤ重量の軽減効果を更に高めることは難しくなる。尚、タイヤ構造上、ビードワイヤ5Aを被覆するインシュレーションゴム等は必ず存在するため、基本的に閉鎖領域のゴム占有率が0.1%未満になることはない。
【0043】
本発明では、タイヤサイズや所望する性能によって、図7に示すように、サイドウォール部2におけるカーカス層4(本体部4Aおよび折り返し部4B)のタイヤ幅方向外側にフィラー層9を設けてもよい。このフィラー層9とは従来の空気入りタイヤにおいてカーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとの間に設けられるビードフィラーとは異なり、前述のサイド補強層8と共働してサイドウォール部2の剛性を確保するものである。このフィラー層9は従来のビードフィラー層に替えて設けられる部材に過ぎないので、フィラー層9を設けても従来のビードフィラー層を備えたタイヤよりタイヤ重量が増大することにはならない。尚、タイヤ重量をより効果的に軽減するには、フィラー層9の構造等をサイド補強層8と関連付けるとよく、例えば、サイド補強層8の断面積S1および硬度H1に対してフィラー層9の断面積S2および硬度H2が0.15≦(S2×H2)/(S1×H1)≦0.60の関係を満たすとよい。これによりフィラー層9の使用量を抑制してタイヤ重量への影響を抑えながら、フィラー層9による補強効果を適度に得ることが可能になる。
【0044】
上述のように、サイド補強層8を備えた空気入りタイヤでは、リムフランジが当接する部位の近傍が高剛性になった場合に、ランフラット走行時にリムフランジが当接する部位を支点としてビード部3がタイヤ内側方向に向かって回転する力が生じてリム外れが誘発される虞がある。そのため、リムフランジが当接する部位の近傍の構造を最適化することが耐リム外れ性を高めるには有効である。即ち、子午線断面において、図3に拡大して示すように、ビードトウからタイヤ径方向外側に向かって20mm離間してタイヤ径方向に平行に延在する直線とサイドウォール部2の外表面の輪郭線との交点Pを通りカーカス層に対して垂直な補助線A0と、補助線A0からタイヤ径方向内側に5mm離間して補助線A0に平行な補助線A1と、補助線A0からタイヤ径方向外側に5mm離間して補助線A0に平行な補助線A2とを引いたときの、補助線A1と補助線A2との間の領域(図中の斜線部:以下、リムフランジ当接領域という)の構造を最適化するとよい。
【0045】
具体的には、リムフランジ当接領域に含まれるサイド補強層8の部分の断面積SRと、カーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとで形成された閉鎖領域の面積SBとが好ましくは0.4≦SB/SR≦2.5、より好ましくは0.7≦SB/SR≦2.0の関係を満たすとよい。また、補助線A0上のタイヤ断面幅Kとビードコア5の外郭形状の周長L0とが好ましくは1.2≦L0/K≦5.0、より好ましくは1.4≦L0/K≦4.5の関係を満たすとよい。これにより、リムフランジ当接領域の断面構造が良好になり、リムフランジが当接する部位を支点とした回転力に起因するリム外れを抑制することができ、耐リム外れ性を高めるには有利になる。断面積SRや断面幅Kが大きいほど、リムフランジ当接領域の剛性が大きくなり、リムフランジが当接する部位を支点とした回転力が生じ易くなり、面積SBや周長L0が大きいほどビードコア5が大きくなりタイヤ重量を軽減する効果が限定的になる。
【0046】
フィラー層9を設ける場合も同様であり、図8に拡大して示すように、リムフランジ当接領域(図中の斜線部)に含まれるフィラー層9の部分の断面積SFと、カーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとで形成された閉鎖領域の面積SBとが好ましくは0.6≦SB/SF≦2.4、より好ましくは0.7<SB/SF≦2.1の関係を満たすとよい。また、リムフランジ当接領域に含まれるサイド補強層8の部分の断面積SRと、リムフランジ当接領域に含まれるフィラー層9の部分の断面積SFと、カーカス層4の本体部4Aと折り返し部4Bとで形成された閉鎖領域の面積SBとが好ましくは0.3≦SB/(SR+SF)≦2.0、より好ましくは0.4≦SB/(SR+SF)≦1.7の関係を満たすとよい。これにより、リムフランジ当接領域の断面構造が良好になり、リムフランジが当接する部位を支点とした回転力に起因するリム外れを抑制することができ、耐リム外れ性を高めるには有利になる。断面積SFや断面積SRが大きいほど、リムフランジ当接領域の剛性が大きくなり、リムフランジが当接する部位を支点とした回転力が生じ易くなり、面積SBが大きいほどビードコア5が大きくなりタイヤ重量を軽減する効果が限定的になる。
【0047】
一般的に、空気入りタイヤのピンチカットは、サイドウォール部2の中でも比較的トレッド部1に近い領域で生じ易い傾向がある。そのため、耐ピンチカット性を効率的に確保する観点から、本発明では、子午線断面においてビードトウからタイヤ径方向外側に向かってタイヤ断面高さSHの60%~80%の領域(ショルダー領域Sh)におけるサイドウォール部2の断面構造を良好にすることが好ましい。具体的には、ショルダー領域Shにおけるサイドウォール部2の平均総厚さT1を7.5mm~15mmにすることが好ましい。これにより、ピンチカットが生じ易い領域のサイドウォール部2を適度な厚さにすることができ、耐ピンチカット性の維持とタイヤ重量の軽減とを両立するには有利になる。この平均総厚さT1が7.5mm未満であると耐ピンチカット性を良好に確保する効果が限定的になる。この平均総厚さT1が15mmを超えるとタイヤ重量を軽減する効果が限定的になる。
【0048】
更に、このショルダー領域Shにおけるカーカス層4のタイヤ幅方向外側の平均ゴム厚さT2を1.0mm~2.5mmにすることが好ましい。これにより、ピンチカットが生じ易い領域のサイドウォール部2の厚さ(特に、カーカス層4よりもタイヤ幅方向外側のゴムゲージ)を適度な範囲に設定することができ、耐ピンチカット性の維持とタイヤ重量の軽減とを両立するには有利になる。この平均ゴム厚さT2が1.0mm未満であると耐ピンチカット性を良好に確保する効果が限定的になる。この平均ゴム厚さT2が2.5mmを超えるとタイヤ重量を軽減する効果が限定的になる。
【0049】
尚、「ショルダー領域Sh」とは、厳密には、図2図7に示すように、子午線断面においてビードトウからタイヤ径方向外側に向かってタイヤ断面高さSHの60%の位置に引いたタイヤ幅方向に延びる補助線とタイヤ外表面の交点からタイヤ内表面に向かって引いた垂線と、子午線断面においてビードトウからタイヤ径方向外側に向かってタイヤ断面高さSHの80%の位置に引いたタイヤ幅方向に延びる補助線タイヤ外表面の交点からタイヤ内表面に向かって引いた垂線との間の領域であり、上述の平均総厚さT1や平均ゴム厚さT2は、図2図7に示すように、このショルダー領域Shにおいて、タイヤ内表面に垂直な方向に沿って測定した各厚さの平均値である。
【0050】
上述のようにサイドウォール部2の特定の領域でピンチカットが生じ易いので、逆に、他の領域では、耐ピンチカット性の確保よりもタイヤ重量の軽減を重視した構造を採用することもできる。特に、子午線断面におけるカーカス層4の最大幅位置において、カーカス層4のタイヤ幅方向外側のゴム厚さt1とカーカス層のタイヤ幅方向内側のゴム厚さt2とが好ましくは0.2≦t1/t2≦0.5の関係を満たすようにするとよい。これにより、ピンチカットが生じ易い領域以外では、サイドウォール部2の厚さ(特に、カーカス層4よりもタイヤ幅方向外側のゴムゲージ)を適度に薄くすることができ、耐ピンチカット性の維持とタイヤ重量の軽減とを両立するには有利になる。このとき、ゴム厚さの比t1/t2が0.2未満であると、サイドウォール部2のゴムゲージが著しく薄くなり耐カット性を充分に確保することが難しくなる。ゴム厚さの比t1/t2が0.5を超えると、タイヤ重量を軽減する効果が限定的になる。
【0051】
上述の各部の構造は適宜組み合わせて採用することができる。いずれにしても、上述の構造を有する空気入りタイヤでは、ビード部3の構造が改善されるので、タイヤの耐久性を維持しながらタイヤ重量を軽減し、且つ、嵌合圧と耐リム外れ性を改善することができる。
【実施例
【0052】
タイヤサイズが205/55R16であり、図1に示す基本構造を有し、ビードコアの構造、ビードフィラーの有無、ビードコアの外郭形状の頂点を挟む2辺が成す内角θ1、ビードコアの外郭形状の底辺がタイヤ幅方向に対して成す角度θ2、外郭形状のタイヤ径方向内側の辺のタイヤ幅方向内側端に位置する角部の内角θ2、外郭形状のタイヤ径方向内側の辺のタイヤ幅方向外側端に位置する角部の内角θ3、外郭形状の周長L0、外郭形状のタイヤ径方向内側の辺の長さL1、外郭形状のタイヤ径方向内側の辺に連なるビードトウ側の傾斜した辺の長さL2、前記外郭形状のタイヤ径方向内側の辺に連なるビードヒール側の傾斜した辺の長さL3、式(L1+L2)/L0、式(L1+L2)/(2×L3)、カーカス枚数、トレッド部のタイヤ幅方向中央位置で測定されるカーカスコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度θc、全カーカス高さLcに対するカーカス層の本体部と折り返し部とが接触する接触領域のタイヤ径方向に沿った長さLxの割合(Lx/Lc×100%)、カーカス層の本体部と折り返し部とで形成された閉鎖領域の面積SB、リムフランジ当接領域に含まれるサイド補強層の部分の断面積SR、比SB/SR、補助線A0上のタイヤ断面幅K、比L0/K、ゴム占有率、カーカス層のタイヤ幅方向外側に配置されるフィラー層の有無、ショルダー領域におけるサイドウォール部の平均総厚さ、ショルダー領域におけるカーカス層のタイヤ幅方向外側の平均ゴム厚さ、カーカス層の最大幅位置におけるカーカス層のタイヤ幅方向外側のゴム厚さt1とカーカス層のタイヤ幅方向内側のゴム厚さt2との比t1/t2を表1~3のように設定して、従来例1、比較例、実施例1~3234種類の空気入りタイヤを作製した。
【0053】
表1~3の「ビードコア構造」の欄については、対応する図面の番号を示した。尚、従来例1は、従来の一般的なビードコアを用いた例であり、ビードコアは図9(a)に示すように俵積み状に積層された5+6+5+4構造を有する(所謂六角ビードである)。比較例1のビードコアは図7(b)に示すように直列積みに積層された5+5+4+3+2+1構造を有する。
【0054】
これら空気入りタイヤについて、下記の評価方法により、タイヤ質量、耐ピンチカット性、耐リム外れ性、ランフラット耐久性を評価し、その結果を表1~3に併せて示した。
【0055】
タイヤ質量
各試験タイヤについて5本の質量を測定し、その平均値を求めた。評価結果は、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が小さいほどタイヤ質量が小さいことを意味する。
【0056】
耐ピンチカット性
各試験タイヤをリムサイズ16×7.0Jのホイールに組み付けて、空気圧を230kPaとし、排気量2.0Lの試験車両に装着し、高さ110mmの縁石に対して30°の角度で進入させて乗り越す試験を繰り返し実施した。この試験を繰り返し実施するにあたって、進入速度を10km/hから2.5km/hずつ増加させて、ピンチカットが生じる速度を測定し、耐ピンチカット性の評価とした。評価結果は、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど耐ピンチカット性が良好であることを意味する。
【0057】
耐リム外れ性
各試験タイヤをリムサイズ16×7.0Jのホイールに組み付けて、空気圧を0kPaにした状態で、排気量2.0Lの試験車両に装着し、速度20km/hで5kmの慣らし走行をした後、所定の侵入速度で曲率半径25mの旋回路に侵入して、この旋回路の1/3周の位置で停止することを2回連続で行う試験(Jターン試験)を繰り返し実施した。このJターン試験を繰り返し実施するにあたって、侵入速度を2km/hずつ増加させて、試験タイヤのビード部がリム(リムのハンプ)から外れたときの旋回加速度を測定し、耐リム外れ性の評価とした。評価結果は旋回加速度の測定値を用い、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど耐リム外れ性が良好であることを意味する。
【0058】
ランフラット耐久性
各試験タイヤをリムサイズ16×7.0Jのホイールに組み付けて、空気圧を0kPaにした状態で、排気量2.0Lの試験車両に装着し、テストコースにおいて、ECE30条件にて実施した。評価結果は、従来例1の値を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどランフラット耐久性が良好であることを意味する。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表1から明らかなように、実施例1~32はいずれも、従来例1に対して、耐ピンチカット性を良好に維持または向上しながらタイヤ質量を低減した。また、耐リム外れ性およびランフラット耐久性を改善した。一方、比較例1は、ビードコアの形状が不適切であるため耐ピンチカット性が悪化した
【符号の説明】
【0063】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ベルト層
7 ベルト補強層
8 サイド補強層
9 フィラー層
CL タイヤ赤道
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9