(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】エンジン制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 17/02 20060101AFI20220509BHJP
F01P 3/08 20060101ALI20220509BHJP
F01M 1/08 20060101ALI20220509BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
F02D17/02 Z
F01P3/08 Z
F01M1/08 B
F02D45/00 368S
F02D45/00 345
(21)【出願番号】P 2018004386
(22)【出願日】2018-01-15
【審査請求日】2020-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128509
【氏名又は名称】絹谷 晴久
(74)【代理人】
【識別番号】100119356
【氏名又は名称】柱山 啓之
(72)【発明者】
【氏名】横井 健
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-038705(JP,A)
【文献】特開2014-152617(JP,A)
【文献】特開2013-104298(JP,A)
【文献】国際公開第2013/008296(WO,A1)
【文献】特開2014-159760(JP,A)
【文献】特開2013-204521(JP,A)
【文献】特開2010-216266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 17/02
F01P 3/08
F01M 1/08
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各気筒にオイルジェットを搭載した気筒休止エンジンを制御するエンジン制御装置に於いて、
オイルジェット噴射指示時とオイルジェット停止指示時の筒内圧力変化を基にオイルジェットの作動不良を判定する判定部
を備え、
前記判定部は、オイルジェット噴射指示時の筒内圧力の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の筒内圧力の立ち上がり時期とを比較しオイルジェットの作動不良を判定する
事を特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記判定部は、オイルジェット噴射指示時の筒内圧力の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の筒内圧力の立ち上がり時期との乖離が判定閾範囲内の場合にオイルジェットの作動不良と判定する
請求項
1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
各気筒にオイルジェットを搭載した気筒休止エンジンを制御するエンジン制御装置に於いて、
オイルジェット噴射指示時とオイルジェット停止指示時の熱発生率変化を基にオイルジェットの作動不良を判定する判定部
を備え、
前記判定部は、オイルジェット噴射指示時の熱発生率の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の熱発生率の立ち上がり時期とを比較しオイルジェットの作動不良を判定する
事を特徴とするエンジン制御装置。
【請求項4】
前記判定部は、オイルジェット噴射指示時の熱発生率の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の熱発生率の立ち上がり時期との乖離が判定閾範囲内の場合にオイルジェットの作動不良と判定する
請求項
3に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記判定部は、エンジン運転状態安定時にオイルジェットの作動不良を判定する
請求項1乃至
4の何れか一項に記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記判定部が作動不良と判定したオイルジェットに関連する気筒を休止させる休止部を更に備える
請求項1乃至
5の何れか一項に記載のエンジン制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、オイルジェットを搭載した気筒休止エンジンを制御するエンジン制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各気筒にオイルジェットを搭載した気筒休止エンジンを制御するエンジン制御装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。従来のエンジン制御装置では、オイルジェットのオイル圧力と作動状態とを基にオイルジェットの作動不良を判定し、作動不良と判定したオイルジェットに関連する気筒を休止させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-89310号公報
【文献】特開2006-144757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
然し乍ら、従来のエンジン制御装置では、オイルジェットの作動状態を検出する際にギャップセンサを使用している為、例えば、ギャップセンサの後段でオイル漏れが発生している場合は、オイルジェットのオイル圧力と作動状態とに異常は見られず、オイルジェットの作動不良を判定する事は出来ない。
【0005】
以上の事情に鑑み、本開示は、オイルジェットの作動不良を確実に判定する事が出来るエンジン制御装置を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様は、各気筒にオイルジェットを搭載した気筒休止エンジンを制御するエンジン制御装置に於いて、オイルジェット噴射指示時とオイルジェット停止指示時の筒内圧力変化を基にオイルジェットの作動不良を判定する判定部と、を備えるエンジン制御装置を提供する。
【0007】
前記判定部は、オイルジェット噴射指示時の筒内圧力の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の筒内圧力の立ち上がり時期とを比較しオイルジェットの作動不良を判定する事が望ましい。
【0008】
前記判定部は、オイルジェット噴射指示時の筒内圧力の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の筒内圧力の立ち上がり時期との乖離が判定閾範囲内の場合にオイルジェットの作動不良と判定する事が望ましい。
【0009】
また、本発明の態様は、各気筒にオイルジェットを搭載した気筒休止エンジンを制御するエンジン制御装置に於いて、オイルジェット噴射指示時とオイルジェット停止指示時の熱発生率変化を基にオイルジェットの作動不良を判定する判定部と、前記判定部が作動不良と判定したオイルジェットに関連する気筒を休止させる休止部と、を備えるエンジン制御装置を提供する。
【0010】
前記判定部は、オイルジェット噴射指示時の熱発生率の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の熱発生率の立ち上がり時期とを比較しオイルジェットの作動不良を判定する事が望ましい。
【0011】
前記判定部は、オイルジェット噴射指示時の熱発生率の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の熱発生率の立ち上がり時期との乖離が判定閾範囲内の場合にオイルジェットの作動不良と判定する事が望ましい。
【0012】
前記判定部は、エンジン運転状態安定時にオイルジェットの作動不良を判定する事が望ましい。
【0013】
前記判定部が作動不良と判定したオイルジェットに関連する気筒を休止させる休止部を更に備える事が望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の態様によって、オイルジェットの作動不良を確実に判定する事が出来るエンジン制御装置を提供する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置の概略構成図を示す。
【
図2】オイルジェット噴射時とオイルジェット停止時の筒内圧力変化と熱発生率変化のタイミング図を示す。
【
図3】本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置の動作フロー図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に順って説明する。
【0017】
図1に示す様に、本発明の実施の形態に係るエンジン制御装置100は、オイルジェット噴射指示時とオイルジェット停止指示時の筒内圧力変化(又は熱発生率(ROHR)変化)を基にオイルジェット101の作動不良を判定する判定部102と、判定部102が作動不良と判定したオイルジェット101に関連する気筒103を休止させる休止部104と、を備える。
【0018】
エンジン制御装置100は、気筒休止エンジン105を制御する。気筒休止エンジン105は、所定のエンジン運転状態時(例えば、低負荷運転時、アイドル運転時)に一部又は全部の気筒103を個々に休止させる機能を搭載する。オイルジェット101は、各気筒103に搭載される。判定部102と休止部104は、例えば、エンジンコントロールユニット106に搭載される。
【0019】
オイルジェット101は、例えば、シリンダブロック内のオイルギャラリを循環するエンジンオイルの一部を各気筒103に設置したオイルジェットノズルを含むオイル通路を通じピストンに噴射する事によってピストンの冷却と潤滑とを促進させる。オイルジェット噴射とオイルジェット停止は、オイル通路に設置した電磁バルブを開閉する事によって切り替えられる。オイルジェット噴射時はオイルを常に噴射している状態と成り、ピストンにオイルが供給されるタイミングは下死点と成る(尚、以下に説明する
図2に於いては、下死点近傍の範囲は示されない)。
【0020】
本明細書に於いては、電磁バルブを開く為にオイルジェット噴射指示パルス(電圧又は電流)を印加する事をオイルジェット噴射指示と指称すると共に電磁バルブを閉じる為にオイルジェット噴射指示パルス(電圧又は電流)を印加しない事をオイルジェット停止指示と指称する。尚、燃料噴射に関し、燃料インジェクタを開く為に印加する電圧又は電流を燃料噴射指示パルスと指称する。
【0021】
図2に示す様に、オイルジェット噴射時とオイルジェット停止時の所定のクランク角度に於ける筒内圧力変化(又は熱発生率変化)を比較すると、オイルジェット噴射時は、ピストンの冷却が促進される為、オイルジェット停止時と比較し筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期が遅れる事が分かる。換言すると、筒内圧力変化(又は熱発生率変化)を監視する事によってオイルジェット噴射時とオイルジェット停止時とを明確に判別する事が出来る。
【0022】
更に言うと、オイルジェットに作動不良が生じた場合は、オイルジェット停止時と同様の筒内圧力変化(又は熱発生率変化)が生じる為、オイルジェット噴射指示が有ったのにも拘わらずオイルジェット停止時と同様の筒内圧力変化(又は熱発生率変化)が生じる場合は、オイルジェット101の作動不良と判定する事が出来る。
【0023】
従って、エンジン制御装置100に於いては、判定部102がオイルジェット噴射指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期とを比較する事によってオイルジェットの作動不良を判定する。
【0024】
具体的に言うと、判定部102は、オイルジェット噴射指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期との乖離(例えば、クランク角度のオフセット(着火遅れ具合))が判定閾範囲内の場合(例えば、オイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時のクランク角度に対しオイルジェット噴射指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時のクランク角度が+1度以上+2度以下の範囲に於いて遅れている場合)にオイルジェット101の作動不良と判定する。
【0025】
尚、筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期は、例えば、筒内圧力センサ107とクランク角度センサ108の検出値を基に計算する。また、判定閾範囲は、オイルジェット噴射時とオイルジェット停止時とを区別する事が出来る様にエンジンの種類毎に適宜設定する事が出来る。
【0026】
筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期を計算する際は、クランク角度に代え時間を使用する事も出来る。具体的に言うと、燃料噴射指示を出した時点(例えば、燃料噴射指示パルスの立ち上がり時点A)を基準に筒内圧力(又は熱発生率)が立ち上がりが生じる迄の時間を測定し、筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期を計算する事も出来る。
【0027】
判定部102は、公差や外乱の影響を排除し判定精度を向上させる為に、オイルジェット噴射指示とオイルジェット停止指示とを複数回に亘って繰り返し、オイルジェット噴射指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期との乖離を判定閾範囲と比較する事が望ましい。
【0028】
例えば、判定部102は、オイルジェット噴射指示とオイルジェット停止指示とを複数回に亘って繰り返した時のオイルジェット噴射指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期との乖離を判定閾範囲と都度比較しても構わない。
【0029】
また、判定部102は、オイルジェット噴射指示とオイルジェット停止指示とを複数回に亘って繰り返した時のオイルジェット噴射指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期との乖離の平均値を判定閾範囲と一度のみ比較しても構わない。
【0030】
何れを採用する場合であっても、オイルジェット噴射指示とオイルジェット停止指示とを一度のみ繰り返した時のオイルジェット噴射指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期との乖離を判定閾範囲と一度のみ比較する場合と比較し判定精度を向上させる事が出来る。
【0031】
更に、判定部102は、エンジン運転状態安定時にオイルジェットの作動不良を判定する。エンジン運転状態安定時以外にオイルジェットの作動不良を判定すると、エンジン運転状態の変動に伴い筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期も変動し、正確な比較が出来なく成る虞が有る為である。
【0032】
エンジン運転状態安定時とは、筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期の変動をもたらす可能性が有るパラメータ(例えば、エンジン回転速度、アクセル開度、エンジン冷却水温度、オイル温度、オイル圧力)が安定している時(例えば、アイドル運転時、定常運転時)を意味する。
【0033】
尚、所定のエンジン運転状態時に(同一条件に於いて)のみ判定を行う場合は、オイルジェット噴射停止時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期は、常に一定と成る為、都度計算する必要は無い。
【0034】
オイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期を予め設定しておく事によって、オイルジェット101の作動不良を判定する時に、オイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期を都度計算する必要が無く成り、オイルジェット101の作動不良を判定するのに掛かる時間を短縮する事が出来る。
【0035】
但し、実際は所定のエンジン運転状態時に(同一条件に於いて)のみ判定を行う事は困難である為、オイルジェット噴射指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期もオイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期と同様に都度計算する事が望ましい。
【0036】
休止部104は、判定部102が作動不良と判定したオイルジェット101に関連する気筒103を休止させ、判定部102が作動不良と判定しなかったオイルジェット101に関連する気筒103を休止させない。
【0037】
具体的に言うと、
図3に示す様に、エンジン制御装置100は、ステップS101に於いて判定部102がエンジン運転状態安定時か否かを判定する。判定部102がエンジン運転状態安定時と判定した場合は、ステップS102に進み、判定部102がエンジン運転状態安定時と判定しなかった場合は、ステップS101を繰り返す。
【0038】
次のステップS102に於いて判定部102がオイルジェット噴射指示を出すと共にオイルジェット噴射指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期を計算する。また、次のステップS103に於いて判定部102がオイルジェット停止指示を出すと共にオイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期を計算する。
【0039】
しかる後、ステップS104に於いて判定部102がオイルジェット噴射指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期との乖離を判定閾範囲と比較する。
【0040】
オイルジェット噴射指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期との乖離が判定閾範囲内の場合は、オイルジェット101の作動不良と判定しステップS105に進み、オイルジェット噴射指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期とオイルジェット停止指示時の筒内圧力(又は熱発生率)の立ち上がり時期との乖離が判定閾範囲外の場合は、ステップS101に戻る。
【0041】
最後のステップS105に於いて休止部104が判定部102が作動不良と判定したオイルジェット101に関連する気筒103を休止させる。尚、ステップS102とステップS103は、順序を問わない。また、ステップS102乃至S105は、各気筒103に於いて個々に行われる。
【0042】
以上に説明した様に、エンジン制御装置100によれば、ピストンの冷却と潤滑に異常を来している気筒103を正確に判別し、ピストンの冷却と潤滑に異常を来している気筒103を休止させる事が出来る。ピストンの冷却と潤滑に異常を来している気筒103を休止させ、異常を来していない気筒103は休止させないようにすると、エンジンの重大な破損(例えば、焼き付き)を防止しながら、少なくともある程度の期間(例えば、整備工場に入庫する迄の期間)に亘って自動車を自走させる事が出来る。
【0043】
従って、本発明の実施の形態によって、オイルジェット101の作動不良を確実に判定する事が出来るエンジン制御装置100を提供する事が出来る。
【符号の説明】
【0044】
100 エンジン制御装置
101 オイルジェット
102 判定部
103 気筒
104 休止部
105 気筒休止エンジン
106 エンジンコントロールユニット
107 筒内圧力センサ
108 クランク角度センサ