(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/122 20060101AFI20220509BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20220509BHJP
B60T 13/13 20060101ALI20220509BHJP
B60T 13/68 20060101ALI20220509BHJP
B60T 13/18 20060101ALI20220509BHJP
B60T 13/128 20060101ALI20220509BHJP
B60T 11/18 20060101ALI20220509BHJP
B60T 11/20 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
B60T13/122 C
B60T8/17 C
B60T13/13
B60T13/68
B60T13/18
B60T13/128
B60T11/18
B60T11/20 A
(21)【出願番号】P 2018021733
(22)【出願日】2018-02-09
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴之
(72)【発明者】
【氏名】児玉 博之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏幸
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-192936(JP,A)
【文献】特開平09-039775(JP,A)
【文献】国際公開第2014/184840(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T7/12-8/1769
8/32-13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪に回生ジェネレータを備えた車両の制動制御装置であって、
マスタシリンダ、及び、マスタピストンにて構成され、前記車両の前輪ホイールシリンダに接続されたマスタ室、及び、前記マスタ室
のマスタ液圧によって前記マスタピストンに加えられる後退力に対向する前進力を
、その内圧によって前記マスタピストンに付与するサーボ室を有するマスタユニットと、
電動ポンプ、及び、第1、第2電磁弁にて構成され、前記電動ポンプが吐出する制動液を、前記第1電磁弁によって第1液圧に調節し
、前記第2電磁弁によって前記第1液圧を第2液圧に減少調
整する調圧ユニットと
、
を備え、
前記調圧ユニットは、前記第2液圧を前記サーボ室に導入し、前記第2液圧によって前記前輪ホイールシリンダの制動液圧を制御し、前記第1液圧を前記車両の後輪ホイールシリンダに直接導入し、前記第1液圧によって前記後輪ホイールシリンダの制動液圧を制御する、車両の制動制御装置。
【請求項2】
車両の後輪に回生ジェネレータを備えた車両の制動制御装置であって、
マスタシリンダ、及び、マスタピストンにて構成され、前記車両の前輪ホイールシリンダに接続されたマスタ室、及び、前記マスタ室
のマスタ液圧によって前記マスタピストンに加えられる後退力に対向する前進力を
、その内圧によって前記マスタピストンに付与するサーボ室を有するマスタユニットと、
電動ポンプ、及び、第1、第2電磁弁にて構成され、前記電動ポンプが吐出する制動液を、前記第1電磁弁によって第1液圧に調節し
、前記第2電磁弁によって前記第1液圧を第2液圧に減少調
整する調圧ユニットと
、
を備え、
前記調圧ユニットは、前記第1液圧を前記サーボ室に導入し、前記第1液圧によって前記前輪ホイールシリンダの制動液圧を制御し、前記第2液圧を前記車両の後輪ホイールシリンダに直接導入し、前記第2液圧によって前記後輪ホイールシリンダの制動液圧を制御する、車両の制動制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の制動制御装置において、
前記第2電磁弁は、前記電動ポンプを含む前記制動液の還流路において、前記第1電磁弁に対して直列に配置される、車両の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「バイ・ワイヤ・ブレーキ・システムを適用した車両用制動システムにおいて、バックアップの際における制動力の低下を防止する」ことを目的に、「通信ネットワークの異常等の故障が車両用制動システムで発生したときは、第1、第2遮断弁を開いて、スレーブシリンダとマスタシリンダとを連通させる。また、モータの駆動により、第1、第2スレーブピストンを現在の位置を維持するように制御する。その後、ブレーキペダルの操作が解除された際には、当該モータの動作を停止する」ことが記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の装置では、スレーブシリンダが、電気的アクチュエータとなるモータの動力でボールねじ軸を駆動し、このボールねじ軸の駆動に基づき第1、第2スレーブピストンによってブレーキ液圧を発生させる。第1、第2スレーブピストンは、それぞれコイルばねにより、後退方向に付勢されている。ボールねじ軸は、モータの動力により前進方向に駆動されて、コイルばねの付勢力に抗して第1、第2スレーブピストンを前進方向に移動し、これによりブレーキ液圧を発生させる。つまり、該装置では、タンデム型のスレーブシリンダが採用され、スレーブシリンダの中心軸上にボールねじが設けられ、ボールねじによって電気モータの回転動力がスレーブピストンの直線動力に変換されて、制動液圧が発生される。構造上、スレーブシリンダの長手方向の寸法が長くなるため、その短縮が望まれている。
【0004】
出願人は、特許文献2に記載されるような車両用の制動制御装置を開発している。具体的には、「高圧源のブレーキ液圧に基づいて、パイロット室に供給されるパイロット圧に応じた出力圧力を出力ポートから送出する機械式レギュレータと、パイロット室に接続された切替部と、切替部を介してパイロット室に接続され、第1パイロット圧をパイロット室に供給する第1パイロット圧発生装置と、切替部を介してパイロット室に接続され、第2パイロット圧をパイロット室に供給する第2パイロット圧発生装置と、機械式レギュレータの出力ポートから供給される出力圧力に基づいたブレーキ力を発生させるホイールシリンダと、を備え、切替部は、第1パイロット圧及び第2パイロット圧の何れか一方をパイロット室に供給する」ものである。
【0005】
該装置でも、タンデム型のマスタシリンダが採用されている。そして、マスタシリンダは、入力ピストンの前進方向に離間距離Bを有して配置され入力ピストンに対し独立して軸線方向に摺動可能なマスタピストンを有する。更に、入力ピストンの先端部側の端面と入力シリンダ穴の底部となる隔壁との間には反力室が形成され、該反力室には、入力ピストンの移動量に応じた反力圧が発生される。マスタシリンダの端部には、反力室が設けられるため、該構成においても、中心軸方向の寸法短縮が望まれている。
【0006】
この課題を解決するため、出願人は、特許文献3に記載されるような制動制御装置を開発している。該装置は、『電動ポンプ、及び、電磁弁にて構成され、電動ポンプが吐出する制動液を、電磁弁によって調整液圧に調節し、調整液圧を後輪ホイールシリンダに導入する調圧ユニット』、及び、『マスタシリンダ、及び、マスタピストンにて構成され、「前輪ホイールシリンダに接続されたマスタ室」、及び、「調整液圧が導入され、マスタ室によってマスタピストンに加えられる後退力に対向する前進力をマスタピストンに付与するサーボ室」を有するマスタユニット』を含んで構成される。
【0007】
ところで、制動制御装置においては、装置の長手方向の寸法短縮に加え、前輪系統の制動液圧と、後輪系統の制動液圧とが、異なる液圧に別々で制御され得ることも望まれている。これは、エネルギ回生装置を備えた車両において、制動時の車両安定性と回生エネルギ量とを高次元で両立するというニーズに基づく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-165913号公報
【文献】特開2013-107561号公報
【文献】特願2017-184272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、車両の制動制御装置において、長手方向の寸法が短縮されるとともに、前輪系統の制動液圧と後輪系統の制動液圧とが個別に制御され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、車両の前輪(WHf)に回生ジェネレータ(GN)を備えた車両に係る。本発明に係る車両の制動制御装置は、「マスタシリンダ(CM)、及び、マスタピストン(PM)にて構成され、前記車両の前輪ホイールシリンダ(CWf)に接続されたマスタ室(Rm)、及び、前記マスタ室(Rm)のマスタ液圧(Pm)によって前記マスタピストン(PM)に加えられる後退力(Fb)に対向する前進力(Fa)を、その内圧によって前記マスタピストン(PM)に付与するサーボ室(Rs)を有するマスタユニット(YM)」と、「電動ポンプ(DC)、及び、第1、第2電磁弁(UB、UC)にて構成され、前記電動ポンプ(DC)が吐出する制動液(BF)を、前記第1電磁弁(UB)によって第1液圧(Pb)に調節し、前記第2電磁弁(UC)によって前記第1液圧(Pb)を第2液圧(Pc)に減少調整する調圧ユニット(YC)」と、を備える。前記調圧ユニット(YC)は、前記第2液圧(Pc)を前記サーボ室(Rs)に導入し、前記第2液圧(Pc)によって前記前輪ホイールシリンダ(CWf)の制動液圧(Pwf)を制御し、前記第1液圧(Pb)を前記車両の後輪ホイールシリンダ(CWr)に直接導入し、前記第1液圧(Pb)によって前記後輪ホイールシリンダ(CWr)の制動液圧(Pwr)を制御する。
【0011】
また、本発明は、車両の後輪(WHr)に回生ジェネレータ(GN)を備えた車両に係る。本発明に係る車両の制動制御装置は、「マスタシリンダ(CM)、及び、マスタピストン(PM)にて構成され、前記車両の前輪ホイールシリンダ(CWf)に接続されたマスタ室(Rm)、及び、前記マスタ室(Rm)のマスタ液圧(Pm)によって前記マスタピストン(PM)に加えられる後退力(Fb)に対向する前進力(Fa)を、その内圧によって前記マスタピストン(PM)に付与するサーボ室(Rs)を有するマスタユニット(YM)」と、「電動ポンプ(DC)、及び、第1、第2電磁弁(UB、UC)にて構成され、前記電動ポンプ(DC)が吐出する制動液(BF)を、前記第1電磁弁(UB)によって第1液圧(Pb)に調節し、前記第2電磁弁(UC)によって前記第1液圧(Pb)を第2液圧(Pc)に減少調整する調圧ユニット(YC)」と、を備える。前記調圧ユニット(YC)は、前記第1液圧(Pb)を前記サーボ室(Rs)に導入し、前記第1液圧(Pb)によって前記前輪ホイールシリンダ(CWf)の制動液圧(Pwf)を制御し、前記第2液圧(Pc)を前記車両の後輪ホイールシリンダ(CWr)に直接導入し、前記第2液圧(Pc)によって前記後輪ホイールシリンダ(CWr)の制動液圧(Pwr)を制御する。
【0013】
本発明に係る車両の制動制御装置では、前記第2電磁弁(UC)は、前記電動ポンプ(DC)を含む前記制動液(BF)の還流路(HC、HV)において、前記第1電磁弁(UB)に対して直列に配置される。該構成によって、第2液圧(Pc)は、第1液圧(Pb)から減少されて調節される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る車両の制動制御装置SCの第1の実施形態を説明するための全体構成図である。
【
図2】回生協調制御を含む調圧制御の処理を説明するための制御フロー図である。
【
図3】第1の実施形態での制動力Fの遷移を説明するための特性図である。
【
図4】本発明に係る車両の制動制御装置SCの第2の実施形態を説明するための全体構成図である。
【
図5】第2の実施形態での制動力Fの遷移を説明するための特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<構成部材等の記号、及び、記号末尾の添字>
以下の説明において、「ECU」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各種記号の末尾に付された添字「i」~「l」は、それが何れの車輪に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「i」は右前輪、「j」は左前輪、「k」は右後輪、「l」は左後輪を示す。例えば、4つの各ホイールシリンダにおいて、右前輪ホイールシリンダCWi、左前輪ホイールシリンダCWj、右後輪ホイールシリンダCWk、及び、左後輪ホイールシリンダCWlと表記される。更に、記号末尾の添字「i」~「l」は、省略され得る。添字「i」~「l」が省略された場合には、各記号は、4つの各車輪の総称を表す。例えば、「WH」は各車輪、「CW」は各ホイールシリンダを表す。
【0016】
各種記号の末尾に付された添字「f」、「r」は、2つの制動系統において、それが前後輪の何れの系統に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「f」は前輪系統、「r」は後輪系統を示す。例えば、各車輪のホイールシリンダCWにおいて、前輪ホイールシリンダCWf(=CWi、CWj)、及び、後輪ホイールシリンダCWr(=CWk、CWl)と表記される。更に、記号末尾の添字「f」、「r」は省略され得る。添字「f」、「r」が省略された場合には、各記号は、2つの各制動系統の総称を表す。例えば、「CW」は、前後の制動系統におけるホイールシリンダを表す。
【0017】
制動制御装置SCの作動が適正状態であり、制動制御装置SCによって行われる制動が、「制御制動」と称呼される。制動制御装置SCの作動が不調状態である場合において、運転者の操作力のみによる制動が、「マニュアル制動」と称呼される。従って、マニュアル制動では、制動制御装置SCは利用されない。
【0018】
<本発明に係る車両の制動制御装置の第1の実施形態>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの第1の実施形態について説明する。一般的な車両では、2系統の流体路が採用され、冗長性が確保されている。ここで、流体路は、制動制御装置の作動液体である制動液BFを移動するための経路であり、制動配管、流体ユニットの流路、ホース等が該当する。流体路の内部は、制動液BFが満たされている。制動制御装置SCでは、2系統の流体路として、所謂、前後型(「H型」ともいう)のものが採用されている。前輪ホイールシリンダCWi、CWj(「前輪ホイールシリンダCWf」とも記載)に接続される前輪系統、及び、後輪ホイールシリンダCWk、CWl(「後輪ホイールシリンダCWr」とも記載)に接続される後輪系統によって、2系統流体路が構成される。なお、制動制御装置SCでは、リザーバRVから制動液BFが供給されて、ホイールシリンダCWの液圧Pwが増加されるが、流体路において、リザーバRVに近い側(ホイールシリンダCWから遠い側)が、「上流側」、又は、「上部」と称呼され、ホイールシリンダCWに近い側(リザーバRVから遠い側)が、「下流側」、又は、「下部」と称呼される。
【0019】
車両には、駆動用の電気モータGNが備えられる。つまり、車両は、ハイブリッド自動車、又は、電気自動車である。駆動用の電気モータGNは、エネルギ回生用のジェネレータ(発電機)としても機能する。例えば、ジェネレータGNは、前輪WHfに備えられる。電気モータ/ジェネレータGNは、駆動コントローラECDによって制御される。
【0020】
また、車両には、自車両の前方に存在する物体(他車両、固定物、人、自転車、等)と、自車両との間の距離(相対距離)Obを検出するよう、距離センサOBが設けられる。例えば、距離センサOBとして、カメラ、レーダ等が採用される。距離Obは、運転支援コントローラECJに入力される。運転支援コントローラECJでは、相対距離Obに基づいて、要求減速度Gdが演算される。要求減速度Gdは、車両前方の物体に衝突することなく、運転者に代わって自動制動するための、車両減速度の目標値である。
【0021】
制動制御装置SCでは、所謂、回生協調制御(回生制動と摩擦制動との協調)が実行される。回生協調制御は、運転者による制動時に限らず、運転支援コントローラECJによる自動制動時にも実行される。制動制御装置SCを備える車両には、制動操作部材BP、ホイールシリンダCW、リザーバRV、及び、車輪速度センサVWが備えられる。
【0022】
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクが調整され、車輪WHに制動力F(前輪、後輪制動力Ff、Frの総称)が発生される。具体的には、車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTが固定される。そして、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパが配置され、そこには、ホイールシリンダCWが設けられている。ホイールシリンダCW内の制動液BFの圧力(制動液圧)Pwが増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)が、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体的に回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルク(結果、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmr)が発生される。
【0023】
リザーバ(大気圧リザーバ)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。リザーバRVの下部は、仕切り板SKによって、マスタシリンダ室Rmに接続されたマスタリザーバ室Ruと、調圧ユニットYCに接続された調圧リザーバ室Rdとに区画されている。リザーバRV内に制動液BFが満たされた状態では、制動液BFの液面は、仕切り板SKの高さよりも上にある。このため、制動液BFは、仕切り板SKを超えて、マスタリザーバ室Ruと調圧リザーバ室Rdとの間を自由に移動することができる。一方、リザーバRV内の制動液BFの量が減少し、制動液BFの液面が仕切り板SKの高さよりも低くなると、マスタリザーバ室Ruと調圧リザーバ室Rdとは独立した液だめとなる。
【0024】
各車輪WHには、車輪速度Vwを検出するよう、車輪速度センサVWが備えられる。車輪速度Vwの信号は、アンチスキッド制御(車輪の過大な減速スリップを抑制する制御)、車両安定化制御(過大なオーバステア、アンダステア挙動を抑制する制御)、等の各輪独立の制動制御に利用される。車輪速度センサVWによって検出された各車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。
【0025】
≪制動制御装置SC≫
制動制御装置SCは、上部流体ユニットYU、及び、下部流体ユニットYLを含んで構成される。ここで、上部流体ユニットYUはマスタシリンダCMに近い側の流体ユニットであり、下部流体ユニットYLはホイールシリンダCWに近い側の流体ユニットである。各流体ユニットYU、YLの内部は、制動液BFによって液密状態にされている。上部流体ユニットYUは上部コントローラECUによって制御され、下部流体ユニットYLは下部コントローラECLによって制御される。上部コントローラECUと下部コントローラECLとは、各信号(センサ検出値、演算値、等)が共有されるよう、通信バスBSを介して接続されている。
【0026】
制動制御装置SCの上部流体ユニットYUは、操作量センサBA、操作スイッチST、ストロークシミュレータSS、マスタユニットYM、調圧ユニットYC、及び、回生協調ユニットYKにて構成される。
【0027】
運転者による制動操作部材(ブレーキペダル)BPの操作量Baを検出するよう、操作量センサBAが設けられる。操作量センサBAとして、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSPが設けられる。制動操作部材BPの操作力Fpを検出するよう、操作力センサFPが設けられる。また、操作量センサBAとして、ストロークシミュレータSS内の液圧(シミュレータ液圧)Psを検出するよう、シミュレータ液圧センサPSが設けられる。回生協調ユニットYKの入力室Rn内の液圧(入力液圧)Pnを検出するよう、入力液圧センサPNが設けられる。操作量センサBAは、操作変位センサSP等の総称であり、制動操作量Baとして、操作変位Sp、操作力Fp、シミュレータ液圧Ps、及び、入力液圧Pnのうちの少なくとも1つが採用される。検出された制動操作量Baは、上部コントローラECUに入力される。
【0028】
制動操作部材BPには、運転者による制動操作部材BPの操作の有無を検出するよう、操作スイッチSTが設けられる。制動操作部材BPが操作されていない場合(即ち、非制動時)には、制動操作スイッチSTによって、操作信号Stとしてオフ信号が出力される。一方、制動操作部材BPが操作されている場合(即ち、制動時)には、操作信号Stとしてオン信号が出力される。制動操作信号Stは、コントローラECUに入力される。
【0029】
ストロークシミュレータ(単に、「シミュレータ」ともいう)SSが、制動操作部材BPに操作力Fpを発生させるために設けられる。シミュレータSSの内部には、ピストン、及び、弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。制動液BFがシミュレータSS内に移動されると、流入する制動液BFによってピストンが押される。ピストンには、弾性体によって制動液BFの流入を阻止する方向に力が加えられるため、制動操作部材BPが操作される場合の操作力Fpが形成される。
【0030】
[マスタユニットYM]
マスタユニットYMによって、マスタシリンダ室Rmを介して、前輪ホイールシリンダCWf内の液圧(前輪制動液圧)Pwfが調整される。マスタユニットYMは、マスタシリンダCM、及び、マスタピストンPM、及び、マスタ弾性体SMを含んで構成される。
【0031】
マスタシリンダCMは、底部を有するシリンダ部材である。マスタピストンPMは、マスタシリンダCMの内部に挿入されたピストン部材であり、制動操作部材BPの操作に連動して移動可能である。マスタシリンダCMの内部は、マスタピストンPMによって、3つの液圧室Rm、Rs、Roに区画されている。
【0032】
マスタシリンダCMの第1内周部Mwには、溝部が形成され、該溝部に、2つのシールSLがはめ込まれる。2つのシールSLによって、マスタピストンPMの外周部(外周円筒面)Mpと、マスタシリンダCMの第1内周部(内周円筒面)Mwと、が封止(シール)されている。マスタピストンPMは、マスタシリンダCMの中心軸Jmに沿って、滑らかに移動可能である。
【0033】
マスタシリンダ室(単に、「マスタ室」ともいう)Rmは、「マスタシリンダCMの第1内周部Mw、第1底部(底面)Mu」と、マスタピストンPMの第1端部Mvと、によって区画された液圧室である。マスタ室Rmには、マスタシリンダ流体路HMが接続され、下部流体ユニットYLを介して、最終的には、前輪ホイールシリンダCWfに接続される。
【0034】
マスタピストンPMには、つば部(フランジ)Tmが設けられる。つば部Tmによって、マスタシリンダCMの内部は、サーボ液圧室(単に、「サーボ室」ともいう)Rsと後方液圧室(単に、「後方室」ともいう)Roとに仕切られている。つば部Tmの外周部にはシールSLが設けられ、つば部TmとマスタシリンダCMの第2内周部Mdとが封止されている。サーボ室Rsは、「マスタシリンダCMの第2内周部Md、第2底部(底面)Mt」と、マスタピストンPMのつば部Tmの第1面Msと、によって区画された液圧室である。マスタ室Rmとサーボ室Rsとは、マスタピストンPM(特に、つば部Tm)を挟んで、相対するように配置される。サーボ室Rsには、前輪調圧流体路HFが接続され、調圧ユニットYCから第2調整液圧Pcが導入される。
【0035】
後方室Roは、マスタシリンダCMの第2内周部Mdと、段付部Mzと、マスタピストンPMのつば部Tmの第2面Moと、によって区画された液圧室である。後方室Roは、中心軸Jmの方向において、マスタ液圧室Rmとサーボ液圧室Rsとに挟まれ、それらの間に位置する。後方室Roには、シミュレータ流体路HSが接続される。後方室Roによって、上部流体ユニットYU内の制動液BFの液量が調節される。
【0036】
マスタピストンPMの第1端部Mvには、窪み部Mxが設けられる。該窪み部Mxと、マスタシリンダCMの第1底部Muとの間には、マスタ弾性体(例えば、圧縮ばね)SMが設けられる。マスタ弾性体SMは、マスタシリンダCMの中心軸Jmの方向に、マスタピストンPMをマスタシリンダCMの第2底部Mtに対して押し付けている。非制動時には、マスタピストンPMの段付部MyとマスタシリンダCMの第2底部Mtとが当接している。この状態でのマスタピストンPMの位置が、「マスタユニットYMの初期位置」と称呼される。
【0037】
2つのシールSL(例えば、カップシール)の間で、マスタシリンダCMには貫通孔Acが設けられる。貫通孔Acは、補給流体路HUを介して、マスタリザーバ室Ruに接続される。また、マスタピストンPMの第1端部Mvの近傍には、貫通孔Apが設けられる。マスタピストンPMが初期位置にある場合には、貫通孔Ac、Ap、及び、補給流体路HUを介して、マスタ室Rmは、リザーバRV(特に、マスタリザーバ室Ru)と連通状態にされる。
【0038】
マスタ室Rmは、その内圧(「マスタシリンダ液圧」であり、「マスタ液圧」ともいう)Pmによって、中心軸Jmに沿った後退方向Hbの付勢力Fb(「後退力」という)を、マスタピストンPMに対して付与する。サーボ室Rsは、その内圧(即ち、導入された第2調整液圧Pc)によって、後退力Fbに対向する付勢力Fa(「前進力」という)を、マスタピストンPMに付与する。つまり、マスタピストンPMにおいて、サーボ室Rs内の液圧Pv(=Pc)による前進力Faとマスタ室Rm内の液圧(マスタ液圧)Pmによる後退力Fbとは、中心軸Jmの方向で互いに対抗し(向き合い)、静的には均衡している。マスタ液圧Pmを検出するよう、マスタ液圧センサPQが設けられる。例えば、マスタ液圧センサPQは、マスタシリンダ流体路HMに設けられ得る。また、マスタ液圧センサPQは、下部流体ユニットYLに含まれていてもよい。
【0039】
例えば、つば部Tmの第1面Msの受圧面積(即ち、サーボ室Rsの受圧面積)rsは、マスタピストンPMの第1端部Mvの受圧面積(即ち、マスタ室Rmの受圧面積)rmと等しくなるように設定されている。この場合、サーボ室Rs内に導入された液圧Pc(結果、サーボ液圧Pv)と、マスタ室Rm内の液圧Pmとは、定常状態では同一である。このとき、前進力Fa(=Pc×rs)と、後退力Fb(=Pm×rm(+SMの弾性力))とは釣り合っている。
【0040】
[調圧ユニットYC]
調圧ユニットYCによって、前輪ホイールシリンダCWfの液圧Pwfと、後輪ホイールシリンダCWrの液圧Pwrとが、独立、且つ、個別に調節される。具体的には、ジェネレータGNが備えられる前輪WHfの制動液圧Pwfが、ジェネレータGNが備えられない後輪WHrの制動液圧Pwr以下になるよう調整される。調圧ユニットYCは、電動ポンプDC、逆止弁GC、第1、第2調圧弁UB、UC、及び、第1、第2調整液圧センサPB、PCを備えている。
【0041】
電動ポンプDCは、1つの電気モータMC、及び、1つの流体ポンプQCの組によって構成される。電動ポンプDCでは、電気モータMCと流体ポンプQCとが一体となって回転するよう、電気モータMCと流体ポンプQCとが固定されている。電動ポンプDC(特に、電気モータMC)は、制御制動時に制動液圧Pwを増加するための動力源である。電気モータMCは、コントローラECUによって制御される。
【0042】
例えば、電気モータMCとして、3相ブラシレスモータが採用される。ブラシレスモータMCには、そのロータ位置(回転角)Kaを検出する回転角センサKAが設けられる。回転角(実際値)Kaに基づいて、ブリッジ回路のスイッチング素子が制御され、電気モータMCが駆動される。つまり、3つの各相(U相、V相、W相)のコイルの通電量の方向(即ち、励磁方向)が、順次切り替えられ、ブラシレスモータMCが回転駆動される。駆動回路DRには、電気モータMCの実際の通電量Ia(各相の総称)を検出する通電量センサが設けられる。通電量センサとして、電流センサが設けられ、電気モータMCへの供給電流Iaが検出される。
【0043】
流体ポンプQCの吸込口Qsは、第1リザーバ流体路HVを介して、リザーバRV(特に、調圧リザーバ室Rd)に接続されている。流体ポンプQCの吐出口Qtには、調圧流体路HCが接続されている。電動ポンプDC(特に、流体ポンプQC)の駆動によって、制動液BFが、第1リザーバ流体路HVから、吸込口Qsを通して吸入され、吐出口Qtから調圧流体路HCに排出される。例えば、流体ポンプQCとしてギヤポンプが採用される。
【0044】
調圧流体路HCには、逆止弁GC(「チェック弁」ともいう)が介装される。逆止弁GCによって、制動液BFは、第1リザーバ流体路HVから調圧流体路HCに向けては移動可能であるが、調圧流体路HCからリザーバ流体路HVに向けての移動(即ち、制動液BFの逆流)が阻止される。つまり、電動ポンプDCは、一方向に限って回転される。調圧流体路HCの吐出部Qtとは反対側の端部Bvは、第1リザーバ流体路HVに接続される。
【0045】
2つの調圧弁UB、UCが、調圧流体路HCにおいて直列に設けられる。具体的には、調圧流体路HCには、第1調圧弁UB(「第1電磁弁」に相当)が設けられる。そして、第1調圧弁UBと部位Bvとの間に、第2調圧弁UC(「第2電磁弁」に相当)が配置される。第1、第2調圧弁UB、UCは、通電状態(例えば、供給電流)に基づいて開弁量(リフト量)が連続的に制御されるリニア型の電磁弁(「比例弁」、又は、「差圧弁」ともいう)である。第1、第2調圧弁UB、UCは、駆動信号Ub、Ucに基づいて、コントローラECUによって制御される。第1、第2調圧弁UB、UCとして、常開型の電磁弁が採用される。
【0046】
制動液BFは、第1リザーバ流体路HVから、流体ポンプQCの吸込口Qsを通して汲み上げられ、吐出口Qtから排出される。そして、制動液BFは、逆止弁GC、第1調圧弁UB、及び、第2調圧弁UCを通り、リザーバ流体路HVに戻される。換言すれば、第1リザーバ流体路HV、及び、調圧流体路HCによって、還流路(制動液BFの流れが、再び元の流れに戻る流体路)が形成され、この還流路に、逆止弁GC、及び、第1、第2調圧弁UB、UCが、直列に介装される。
【0047】
電動ポンプDCが作動している場合には、制動液BFは、破線矢印(A)で示すように、「HV→QC(Qs→Qt)→GC→UB→UC→HV」の順で還流している(即ち、「還流路」が形成される)。第1、第2調圧弁UB、UCが全開状態にある場合(これらは常開型であるため、非通電時)、調圧流体路HC内の液圧(調整液圧)Pb、Pcは、共に、略「0(大気圧)」である。第1調圧弁UBへの通電量が増加され、調圧弁UBによって還流路が絞られると、調圧流体路HCにおける流体ポンプQCと第1調圧弁UBと間の液圧(第1調整液圧であり、「第1液圧」に相当)Pbが、「0」から増加される。また、第2調圧弁UCへの通電量が増加され、調圧弁UCによって還流路が絞られると、調圧流体路HCにおける第1調圧弁UBと第2調圧弁UCと間の液圧(第2調整液圧であり、「第2液圧」に相当)Pcが、「0」から増加される。
【0048】
第1、第2調圧弁UB、UCは、調圧流体路HCに対して直列に配置されるため、第2調圧弁UCによって調整される第2調整液圧Pcは、第1調整液圧Pb以下である。換言すれば、第2調圧弁UCによって、第2調整液圧Pcが、「0(大気圧)」から増加するよう調整され、第1調圧弁UBによって、第1調整液圧Pbが、第2調整液圧Pcから増加するよう調整される。調圧ユニットYCでは、第1、第2調整液圧Pb、Pcを検出するよう、調圧流体路HCには、第1、第2調整液圧センサPB、PCが設けられる。
【0049】
調圧流体路HCは、流体ポンプQCと第1調圧弁UBとの間の部位Bhにて、後輪調圧流体路HRに分岐される。後輪調圧流体路HRは、下部流体ユニットYLを介して、後輪ホイールシリンダCWr(CWk、CWl)に接続される。従って、第1調圧弁UBによって調節された第1調整液圧Pbは、後輪ホールシリンダCWrに、直接、導入(供給)される。また、調圧流体路HCは、第1調圧弁UBと第2調圧弁UCとの間の部位Bgにて、前輪調圧流体路HFに分岐される。前輪調圧流体路HFは、サーボ室Rsに接続される。従って、第2調圧弁UCによって調節された第2調整液圧Pcは、サーボ室Rsに導入(供給)される。マスタシリンダCMは、下部流体ユニットYLを介して、前輪ホイールシリンダCWf(CWi、CWj)に接続されているため、第2調整液圧Pcが、マスタシリンダCMを介して、前輪ホイールシリンダCWfに、間接的に導入される。即ち、第2調整液圧Pcは、「Rs→Rm→CWf」の順で、前輪ホイールシリンダCWfに供給される。調圧ユニットYCは2つ調圧電磁弁UB、UCを含んで構成され、第1調圧弁UBによって、電動ポンプDCが吐出する制動液BFが第1調整液圧Pbに調節され、この第1調整液圧Pbは後輪ホイールシリンダCWrに導入される。そして、第2調圧弁UCによって、第1調整液圧Pbが第2調整液圧Pcに減少するよう調整され、この第2調整液圧Pcはサーボ室Rsに導入される。
【0050】
調圧ユニットYCには、調圧流体路HCとは並列に、リザーバRVとサーボ室Rsとを接続するバイパス流体路HDが設けられる。該流体路HDには、逆止弁GDが介装される。逆止弁GDでは、リザーバRVからサーボ室Rsへの制動液BFの流れは許容されるが、サーボ室RsからリザーバRVへの流れは阻止される。制動操作部材BPが急操作された場合には、運転者の操作力によっても、マスタピストンPMは前進方向Haに移動され、サーボ室Rsの体積は増加され得る。この場合、運転者の操作に起因するサーボ室Rsの体積増加分の液量は、バイパス流体路HD、及び、逆止弁GDを介して供給される。電動ポンプDCによって供給される制動液BFの量が、制動液圧Pwの増加に効率的に利用されるため、急制動時の昇圧応答性が向上され得る。
【0051】
[回生協調ユニットYK]
回生協調ユニットYKによって、摩擦制動と回生制動との協調制御(「回生協調制御」という)が達成される。つまり、回生協調ユニットYKによって、制動操作部材BPは操作されているが、制動液圧Pwが発生しない状態が形成され得る。回生協調ユニットYKは、入力シリンダCN、入力ピストンPK、入力弾性体SN、第1開閉弁VA、第2開閉弁VB、ストロークシミュレータSS、シミュレータ液圧センサPS、及び、入力液圧センサPNにて構成される。
【0052】
入力シリンダCNは、マスタシリンダCMに固定された、底部を有するシリンダ部材である。入力ピストンPKは、入力シリンダCNの内部に挿入されたピストン部材である。入力ピストンPKは、制動操作部材BPに連動するよう、クレビス(U字リンク)を介して、制動操作部材BPに機械的に接続されている。入力ピストンPKには、つば部(フランジ)Tnが設けられる。入力シリンダCNのマスタシリンダCMへの取付面Maと、入力ピストンPKのつば部Tnとの間には、入力弾性体(例えば、圧縮ばね)SNが設けられる。入力弾性体SNは、中心軸Jmの方向に、入力ピストンPKのつば部Tnを入力シリンダCNの底部Mbに対して押し付けている。
【0053】
非制動時には、マスタピストンPMの段付部MyがマスタシリンダCMの第2底部Mtに当接し、入力ピストンPKのつば部Tnが入力シリンダCNの底部Mbに当接している。非制動時には、入力シリンダCNの内部にて、マスタピストンPM(特に、端面Mq)と入力ピストンPK(特に、端面Mg)との隙間Ksは、所定距離ks(「初期隙間」という)にされている。即ち、ピストンPM、PKが最も後退方向Hbの位置(各ピストンの「初期位置」という)にある場合(即ち、非制動時)に、マスタピストンPMと入力ピストンPKとは、所定距離ksだけ離れている。ここで、所定距離ksは、回生量Rgの最大値に対応している。回生協調制御が実行される場合には、隙間(「離間変位」ともいう)Ksは、調整液圧Pcによって制御(調節)される。
【0054】
制動操作部材BPが、「Ba=0」の状態から踏み込まれると、入力ピストンPKは、その初期位置から、前進方向Haに移動される。このとき、第2調整液圧Pcが、「0」のままであれば、マスタピストンPMは初期位置のままなので、入力ピストンPKの前進に伴い、隙間Ks(入力ピストンPKの端面MgとマスタピストンPMの端面Mqとの間の距離)は、徐々に減少する。一方、第2調整液圧Pcが「0」から増加されると、マスタピストンPMは、その初期位置から、前進方向Haに移動される。このため、隙間Ksは、第2調整液圧Pcによって、「0≦Ks≦ks」の範囲で制動操作量Baとは独立して調整可能である。つまり、第2調整液圧Pcが調整されることにより、隙間Ksが調節され、回生協調制御が達成される。
【0055】
入力シリンダCNは、第2リザーバ流体路HTを介して、リザーバRV(特に、調圧リザーバ室Rd)に接続される。第2リザーバ流体路HTは、その一部を第1リザーバ流体路HVと共用することができる。しかし、第1リザーバ流体路HVと第2リザーバ流体路HTとは、別々にリザーバRVに接続されることが望ましい。流体ポンプQCは、第1リザーバ流体路HVを介して、リザーバRVから制動液BFを吸引するが、このとき、第1リザーバ流体路HVには、気泡が混じることが生じ得る。このため、入力シリンダCN等に、気泡が混入することを回避するよう、第2リザーバ流体路HTは、第1リザーバ流体路HVと共通部分を有さず、第1リザーバ流体路HVとは別個に、リザーバRVに接続される。
【0056】
第2リザーバ流体路HTには、2つの開閉弁VA、VBが直列に設けられる。第1、第2開閉弁VA、VBは、開位置(連通状態)と閉位置(遮断状態)とを有する2位置の電磁弁(「オン・オフ弁」ともいう)である。第1、第2開閉弁VA、VBは、駆動信号Va、Vbに基づいて、上部コントローラECUによって制御される。第1開閉弁VAとして常閉型の電磁弁が、第2開閉弁VBとして常開型の電磁弁が、夫々採用される。
【0057】
第2リザーバ流体路HTは、第1開閉弁VAと第2開閉弁VBとの間の接続部Bsにて、シミュレータ流体路HSに接続される。換言すれば、シミュレータ流体路HSの一方端は後方室Roに接続され、他方端は部位Bsに接続される。シミュレータ流体路HSには、ストロークシミュレータSSが設けられる。シミュレータSSによって、回生協調制御が実行され、第1開閉弁VAが開位置、第2開閉弁VBが閉位置にされた場合に、制動操作部材BPの操作力Fpが発生される。シミュレータSSの内部には、ピストン、及び、弾性体(例えば、圧縮ばね)が備えられる。入力シリンダCNから制動液BFがシミュレータSSに移動され、流入する制動液BFによりピストンが押される。ピストンには、弾性体によって制動液BFの流入を阻止する方向に力が加えられる。弾性体によって、制動操作部材BPが操作される場合の操作力Fpが形成される。
【0058】
シミュレータSS内の液圧(シミュレータ液圧)Psを検出するよう、シミュレータ流体路HSには、シミュレータ液圧センサPSが設けられる。また、第2リザーバ流体路HTの第1開閉弁VAと入力室Rnとの間の液圧(入力室Rnの液圧であり、「入力液圧」という)Pnを検出するよう、入力液圧センサPNが設けられる。シミュレータ液圧センサPS、及び、入力液圧センサPNは、上述した制動操作量センサBAの1つである。検出された液圧Ps、Pnは、制動操作量Baとして、上部コントローラECUに入力される。
【0059】
[上部コントローラECU]
上部コントローラECUによって、制動操作量Ba、操作信号St、及び、第1、第2調整液圧(検出値)Pb、Pcに基づいて、電気モータMC、及び、電磁弁VA、VB、UB、UCが制御される。具体的には、上部コントローラECUでは、各種電磁弁VA、VB、UB、UCを制御するための駆動信号Va、Vb、Ub、Ucが演算される。同様に、電気モータMCを制御するための駆動信号Mcが演算される。そして、駆動信号Va、Vb、Ua、Ub、Mcに基づいて、電磁弁VA、VB、UB、UC、及び、電気モータMCが駆動される。
【0060】
上部コントローラ(電子制御ユニット)ECUは、車載通信バスBSを介して、下部コントローラECL、及び、他システムのコントローラ(駆動コントローラECD、運転支援コントローラECJ等)とネットワーク接続されている。回生協調制御を実行するよう、上部コントローラECUから駆動用のコントローラECDに回生量(目標値)Rgが、通信バスBSを通して送信される。また、運転支援コントローラECJから上部コントローラECUに要求減速度(目標値)Gdが、通信バスBSを通して送信される。
【0061】
[下部流体ユニットYL]
下部流体ユニットYLは、マスタ液圧センサPQ、複数の電磁弁、電動ポンプ、低圧リザーバを含む、公知の流体ユニットである。下部流体ユニットYLは、下部コントローラECLによって制御される。下部コントローラECLには、車輪速度Vw、ヨーレイト、操舵角、前後加速度、横加速度等が入力される。下部コントローラECLでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。そして、車体速度Vx、及び、車輪速度Vwに基づいて、車輪WHの過度の減速スリップ(例えば、車輪ロック)を抑制するよう、アンチスキッド制御が実行される。また、下部コントローラECLでは、ヨーレイトに基づいて、車両の不安定挙動(過度のオーバステア挙動、アンダステア挙動)を抑制する車両安定化制御(所謂、ESC)が行われる。つまり、下部流体ユニットYLによって、各車輪WHの制動液圧Pwが、個別に制御される。なお、演算された車体速度Vxは、通信バスBSを通して、上部コントローラECUに入力される。
【0062】
[制動制御装置SCの作動]
非制動時(例えば、制動操作部材BPの操作が行われていない場合)には、電磁弁VA、VB、UB、UCへの通電は行われない。このため、第1開閉弁VAは閉位置、第2開閉弁VBは開位置にされている。このとき、ピストンPM、PNは、弾性体SM、SNによって、各初期位置に押し付けられ、マスタシリンダCMとリザーバRVとは連通状態にあり、マスタ液圧Pmは「0(大気圧)」である。
【0063】
制動操作部材BPが操作された場合(特に、制御制動の開始時)には、第1開閉弁VAの開位置によって、入力室Rnと後方室Roとが接続されるとともに、シミュレータSSが入力室Rnに接続される。また、第2開閉弁VBの閉位置によって、シミュレータSSとリザーバRVとの接続が遮断される。制動操作部材BPの操作によって入力ピストンPKが前進方向Haに移動され、該移動によって入力室Rnから流出する液量が、シミュレータSSに流入し、制動操作部材BPの操作力Fpが形成される。
【0064】
車両減速が、ジェネレータGNによる回生制動力Fgで足りる場合には、「Pb=Pc=0」の状態が維持される。制動操作部材BPの操作によって、入力ピストンPKは、その初期位置から前進方向Haに移動されるが、このとき、第2調整液圧Pcが、「0」のままであるため、マスタピストンPMは移動されない。従って、入力ピストンPKの前進に伴い、隙間Ks(入力ピストンPKの端面MgとマスタピストンPMの端面Mqとの間の距離)は、徐々に減少する。
【0065】
車両減速が、ジェネレータGNによる回生制動力Fgでは不足する場合には、コントローラECUによって、調圧ユニットYCが制御され、第1、第2調整液圧Pb、Pcが調節される。第1調整液圧Pbは、後輪調圧流体路HR、及び、下部流体ユニットYLを通して、直接、後輪ホイールシリンダCWrに付与される。第2調整液圧Pcは、前輪調圧流体路HFを通して、サーボ室Rsに付与される。サーボ室Rs内の液圧(サーボ液圧)Pv(=Pc)によって発生する前進方向Haの力(前進力)Faが、マスタ弾性体SMのセット荷重よりも大きくなると、マスタピストンPMは、中心軸Jmに沿って移動される。この前進方向Haへの移動によって、マスタ室RmはリザーバRVから遮断される。更に、第2調整液圧Pcが増加されると、制動液BFは、マスタシリンダCMから前輪ホイールシリンダCWfに向けて、マスタ液圧Pmで圧送される。マスタピストンPMには、マスタ液圧Pmによって、後退方向Hbの力(後退力)Fbが作用している。サーボ室Rsは、この後退力Fbに対抗(対向)するよう、第2調整液圧Pcによって、前進方向Haの力(前進力)Faを発生する。調整液圧Pcの増減に応じて、マスタ液圧Pmが増減される。第2調整液圧Pcの増加に伴い、マスタピストンPMは初期位置から前進方向Haに移動されるが、隙間Ksは、第2調整液圧Pcによって、「0≦Ks≦ks」の範囲で制動操作量Baとは独立して調整可能である。つまり、第2調整液圧Pcによる隙間Ksの調節によって、回生協調制御が実行される。
【0066】
制動操作部材BPが戻されると、調圧ユニットYCによって第2調整液圧Pcが減少される。そして、サーボ液圧Pv(=Pc)が、マスタ室液圧Pm(=Pwf)よりも小さくなると、マスタピストンPMは後退方向Hbに移動される。制動操作部材BPが非操作状態にされると、圧縮ばねSMの弾性力によって、マスタピストンPM(特に、段付部My)は、マスタシリンダCMの第2底部Mtに接触する位置(初期位置)にまで戻される。
【0067】
なお、マニュアル制動時には、第1、第2開閉弁VA、VBには通電が行われない。従って、第1開閉弁VAが閉位置に、第2開閉弁VBが開位置にされる。第1開閉弁VAの閉位置によって、入力室Rnは流体ロックの状態(密封状態)にされ、入力ピストンPKとマスタピストンPMとが、相対移動できないようにされる。また、第2開閉弁VBの開位置によって、後方室Roは、第2リザーバ流体路HTを通して、リザーバRVに流体接続される。このため、マスタピストンPMの前進方向Haの移動によって、後方室Roの容積は減少されるが、容積減少に伴う液量は、リザーバRVに向けて排出される。制動操作部材BPの操作に連動して、入力ピストンPKとマスタピストンPMとが一体となって移動され、マスタ室Rmから制動液BFが、前輪ホイールシリンダCWfに圧送される。
【0068】
<調圧制御処理>
図2の制御フロー図を参照して、回生協調制御を含む調圧制御の処理について説明する。「調圧制御」は、第1、第2調整液圧Pb、Pcを調整するための、電気モータMC、及び、第1、第2調圧弁UB、UCの駆動制御である。該制御のアルゴリズムは、上部コントローラECU内にプログラムされている。
【0069】
ステップS110にて、制動操作量Ba、操作信号St、第1、第2調整液圧(検出値)Pb、Pc、要求減速度Gd、及び、車体速度Vxが読み込まれる。操作量Baは、操作量センサBA(操作変位センサSP、入力液圧センサPN、シミュレータ液圧センサPS等)によって検出される。操作信号Stは、操作スイッチSTによって検出される。第1、第2調整液圧Pb、Pcは、調圧流体路HCに設けられた、第1、第2調整液圧センサPB、PCによって検出される。自動制動による要求減速度Gdは、通信バスBSを介して、運転支援コントローラECJから取得される。車体速度Vxは、通信バスBSを介して、下部コントローラECLから取得される。なお、車体速度Vxは、車輪速度Vwが上部コントローラECUに入力され、車輪速度Vwに基づいて、上部コントローラECUにて演算されてもよい。
【0070】
ステップS120にて、制動操作量Ba、及び、制動操作信号Stのうちの少なくとも1つに基づいて、「制動中であるか、否か」が判定される。例えば、操作量Baが、所定値boよりも大きい場合には、ステップS120は肯定され、処理はステップS130に進む。一方、制動操作量Baが所定値bo以下である場合には、ステップS120は否定され、処理はステップS110に戻される。ここで、所定値boは、制動操作部材BPの遊びに相当する、予め設定された定数である。また、操作信号Stがオンである場合には、ステップS130に進み、操作信号Stがオフである場合には、ステップS110に戻る。
【0071】
自動制動時には、ステップS120にて、要求減速度Gdに基づいて、「制動中であるか、否か」が判定される。例えば、要求減速度Gdが、所定値goよりも大きい場合には、ステップS120は肯定され、処理はステップS130に進む。一方、要求減速度Gdが所定値go以下である場合には、ステップS120は否定され、処理はステップS110に戻される。所定値goは、予め設定された定数(例えば、「0」)である。
【0072】
ステップS130にて、ブロックX130に示す様に、操作量Baに基づいて、要求制動力Fdが演算される。要求制動力Fdは、車両に作用する総制動力Fの目標値であり、「制動制御装置SCによる摩擦制動力Fm」と「ジェネレータGNによる回生制動力Fg」とを合わせた制動力である。要求制動力Fdは、演算マップZfdに従って、操作量Baが「0」から所定値boの範囲では、「0」に決定され、操作量Baが所定値bo以上では、操作量Baが増加するに伴い、「0」から単調増加するよう演算される。同様に、自動制動時には、要求減速度Gdに基づいて、要求制動力Fdが演算される。要求制動力Fdは、要求減速度Gdが「0」以上、所定値go未満では「0」に決定され、要求減速度Gdが所定値bo以上では、要求減速度Gdの増加に応じて、「0」から単調増加するよう決定される。
【0073】
ステップS140にて、ブロックX140に示す様に、車体速度Vx、及び、演算マップZfxに基づいて、回生制動力の最大値(「最大回生力」という)Fxが演算される。ジェネレータGNの回生量は、駆動コントローラECDのパワートランジスタ(IGBT等)の定格、及び、バッテリの充電受入性によって制限される。例えば、ジェネレータGNの回生量は、所定の電力(単位時間当りの電気エネルギ)に制御される。電力(仕事率)が一定であるため、ジェネレータGNによる車輪軸まわりの回生トルクは、車輪WHの回転数(つまり、車体速度Vx)に反比例する。また、ジェネレータGNの回転数Ngが低下すると、回生量は減少する。更に、回生量には、上限値が設けられる。
【0074】
以上のことから、最大回生力Fx用の演算マップZfxでは、車体速度Vxが、「0」以上、第1所定速度vo未満の範囲では、車体速度Vxの増加に従って、最大回生力Fxが増加するように設定される。また、車体速度Vxが、第1所定速度vo以上、第2所定速度vp未満の範囲では、最大回生力Fxは、上限値fxに決定される。そして、車体速度Vxが、第2所定速度vp以上では、車体速度Vxが増加するに従って、最大回生力Fxが減少するように設定されている。例えば、最大回生力Fxの減少特性(「Vx≧vp」の特性)では、車体速度Vxと最大回生力Fxとの関係は双曲線で表される(即ち、回生電力が一定)。ここで、各所定値vo、vpは予め設定された定数である。なお、演算マップZfxでは、車体速度Vxに代えて、ジェネレータGNの回転数Ngが採用され得る。
【0075】
ステップS150にて、要求制動力Fd、及び、最大回生力Fxに基づいて、「要求制動力Fdが、最大回生力Fx以下であるか、否か」が判定される。つまり、運転者によって要求されている制動力Fdが、回生制動力Fgのみによって達成可能か、否かが判定される。「Fd≦Fx」であり、ステップS150が肯定される場合には、処理はステップS160に進む。一方、「Fd>Fx」であり、ステップS150が否定される場合には、処理はステップS180に進む。
【0076】
ステップS160にて、要求制動力Fdに基づいて、回生量Rgが演算される。回生量Rgは、ジェネレータGNの回生量の目標値である。回生量Rgは、通信バスBSを介して、制動コントローラECUから駆動コントローラECDに送信される。ステップS170にて、前後輪の目標摩擦制動力Fmf、Fmrが、「0」に演算される。この場合、車両減速には、摩擦制動が採用されず、回生制動のみによって、要求制動力Fdが達成される。
【0077】
ステップS180にて、最大回生力Fxに基づいて、回生量(目標値)Rgが演算される。ステップS160と同様に、回生量Rgは、通信バスBSを介して、駆動用コントローラECDに送信される。この場合、ジェネレータGNによって、発生可能な最大限の回生制動力が生じる。ステップS190にて、要求制動力Fd、及び、最大回生力Fxに基づいて、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrが決定される。前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrは、摩擦制動によって達成されるべき制動力の目標値である。
【0078】
ステップS190では、先ず、要求制動力Fdに後輪比率Hrが乗算されて、後輪基準力Fsが演算される(即ち、「Fs=Hr×Fd」)。後輪比率Hrは、前後輪間の配分比率(特に、車両に作用する制動力全体Fに対する後輪制動力Frの比率)を表す、予め設定された所定値である。従って、後輪基準力Fsは、要求制動力Fdに対して前後輪間の制動力配分が考慮された値である。また、要求制動力Fdから最大回生力Fxが減算されて、補完制動力Fhが演算される(即ち、「Fh=Fd-Fx」)。補完制動力Fhは、要求制動力Fdを達成するために、摩擦制動によって補完されるべき制動力である。そして、補完制動力Fhと後輪基準力Fsとが比較される。補完制動力Fhが後輪基準力Fs以下である場合には、前輪摩擦制動力Fmfが「0」に、後輪摩擦制動力Fmrが補完制動力Fhに、夫々、決定される(即ち、「Fmf=0、Fmr=Fh」)。一方、補完制動力Fhが後輪基準力Fsよりも大きい場合には、後輪摩擦制動力Fmrが後輪基準力Fsに演算されるとともに、前輪摩擦制動力Fmfが、補完制動力Fhから後輪基準力Fsを減じた値(前輪指示力)Fcに演算される(即ち、「Fmf=Fc=Fh-Fs、Fmr=Fs=Hr×Fd」)。
【0079】
ステップS190では、回生制動力Fgを含む制動力Fの前後配分が考慮されて、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrが演算される。要求制動力Fdが、回生制動力Fg、及び、後輪基準力Fs(前後配分が考慮された後輪制動力)によって達成可能である場合(即ち、「Fh≦Fs」の場合)には、前輪摩擦制動力Fmfは「0」のままにされ、前輪WHfには回生制動力Fg(=Fx)のみが作用される。後輪WHrでは、要求制動力Fdを満足するよう、後輪摩擦制動力Fmrが決定され、加えられる。一方、要求制動力Fdが、回生制動力Fg、及び、後輪基準力Fsによっては達成不可である場合(即ち、「Fh>Fs」の場合)には、その不足分を充足するよう、前輪摩擦制動力Fmfが決定される。これにより、回生量Rgが最大化されるとともに、制動力Fの前後配分が適正化され得る。
【0080】
ステップS200にて、第1開閉弁VAが開位置に、第2開閉弁VBが閉位置に、夫々、駆動される。ステップS210にて、摩擦制動力の目標値Fm(Fmf、Fmr)に基づいて、目標液圧Pt(Ptf、Ptr)が演算される。つまり、摩擦制動力Fmが液圧換算されて、目標液圧Ptが決定される。後輪目標液圧Ptrは、第1調整液圧Pbに対応した後輪ホイールシリンダCWrの液圧の目標値である。また、前輪目標液圧Ptfは、第2調整液圧Pcに対応した前輪ホイールシリンダCWfの液圧の目標値である。
【0081】
ステップS220にて、電気モータMCが駆動され、流体ポンプQCを含んだ制動液BFの還流が形成される。なお、電気モータMC(電動ポンプDC)は、昇圧応答性を確保するため、「Ptf=Ptr=0」であっても駆動(回転)される。そして、ステップS230にて、後輪目標液圧Ptr、及び、第1調整液圧Pb(第1調整液圧センサPBの検出値)に基づいて、第1調整液圧Pbが、後輪目標液圧Ptrに一致するよう、第1調圧弁UBがサーボ制御される。また、前輪目標液圧Ptf、及び、第2調整液圧Pc(第2調整液圧センサPCの検出値)に基づいて、第2調整液圧Pcが、前輪目標液圧Ptfに一致するよう、第2調圧弁UCがサーボ制御される。サーボ制御では、実際値Pb、Pcが、目標値Ptに一致するよう、フィードバック制御が行われる。
【0082】
第1、第2調圧弁UB、UCは、調圧流体路HCに直列に配置されている。このため、第1、第2調整液圧Pb、Pcの液圧フィードバック制御において、相互に影響を及ぼし、所謂、制御干渉が生じ得る。この様な場合には、前輪WHfに係る第2調整液圧Pcの制御が、後輪WHrに係る第1調整液圧Pbの制御よりも優先される。前輪制動力Ffは、後輪制動力Frよりも、全制動力Fに対する寄与度が高いことに基づく。
【0083】
<第1の実施形態での制動力前後配分の遷移>
図3の特性図を参照して、第1の実施形態での回生協調制御における制動力Fの前後配分について説明する。回生用ジェネレータGNは前輪WHfに設けられ、前輪WHfには摩擦制動力Fmfに加え、回生制動力Fgが作用する。一方、ジェネレータGNは後輪WHrには備えられていないため、後輪WHrには回生制動力は作用せず、摩擦制動力Fmrのみが作用する。
【0084】
一点鎖線で示す特性Caは、車両減速に伴う前後輪WHf、WHrの接地荷重(垂直力)の変化が考慮された、所謂、理想制動力配分を表している。理想配分特性Caでは、前後輪WHf、WHrの制動力Ff、Frが、車両減速度Gxを考慮した動的な接地荷重に比例している。従って、理想配分特性Caでは、アンチスキッド制御が実行されない場合において、如何なる摩擦係数の路面であっても、前輪WHfと後輪WHrとが同時に車輪ロックし、その路面において、制動力F(=Ff+Fr)が最大となる。
【0085】
特性Cb(特性(O)-(B))は、回生制動力Fgが作用しない場合(即ち、「Fg=0」)における、前輪制動力Ffと後輪制動力Frとの相互関係を表す。特性Cbが、「基準特性」と称呼される。基準特性Cbは、「前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrの受圧面積」、「回転部材KTf、KTrの有効制動半径」、及び、「前後輪の摩擦材の摩擦係数」に基づく。ここで、基準特性Cbの傾き(即ち、「Fr/Ff」)は、「Hr/Hf=Hr/(1-Hr)」である。ここで、前輪比率Hfは、全制動力F(=Ff+Fr)に対する前輪制動力Ffの比率(=Ff/F)、後輪比率Hrは全制動力Fに対する後輪制動力Frの比率(=Fr/F)である。
【0086】
一般的な車両では、後輪WHrが、前輪WHfに対して先行して車輪ロックしないよう、通常制動の範囲内(最大制動力を発生する領域を除く領域内)で、基準特性Cbが理想配分特性Caよりも小さくなるよう、ホイールシリンダCWの受圧面積、回転部材KTの有効制動半径、及び、摩擦材の摩擦係数が設定されている。なお、最大制動力を発生する領域では、後輪WHrの減速スリップが、前輪WHfの減速スリップよりも大きくならないよう、車輪速度Vwに基づいて制動力配分制御(所謂、EBD制御)が実行される。
【0087】
特性図において、原点(O)が非制動時(即ち、「Ff=Fr=0」)に相当する。制動操作部材BPの操作が開始されると、制動初期の段階では、「Fd≦Fx」であるため、「Fmf=Fmr=0」に決定され、摩擦制動力Fmf、Fmrは発生されない。つまり、「Ptf=Ptr=0(結果、Pc=Pb=0)」が演算され、制動力Fは、回生制動力Fgのみによって発生される。要求制動力Fdが、最大回生力Fxに達するまでは、該状態が維持されるため、制動力Fの作動点は、原点(O)から点(C)(「Ff=Fx、Fr=0」の点)に向けて移動される。
【0088】
制動操作部材BPの操作量Baが増加され、回生制動力Fgが最大回生力Fxに達した場合、要求制動力Fdは、回生制動力Fgだけでは達成不可となる。この場合、要求制動力Fd、及び、最大回生力Fxに基づいて、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmr(摩擦制動力の目標値)が演算される。具体的には、後輪基準力Fsが、「Fs=Hr×Fd」にて演算されるとともに、補完制動力Fhが、「Fh=Fd-Fx」にて演算される。「Fh≦Fs」の場合には、「Fmf=0、Fmr=Fh」が演算される。要求制動力Fdが、回生制動力Fg、及び、後輪基準力Fsによって達成可能である場合には、前輪WHfには回生制動力Fg(=Fx)のみが作用し、要求制動力Fdを満足するよう、後輪摩擦制動力Fmrが決定される。このとき、車体速度Vxの低下に伴い、最大回生力Fxは「下に凸」の特性で増加する(
図2を参照)。後輪摩擦制動力Fmrの増加に対して、回生制動力Fg(=Fx)の増加は僅かであるため、制動力Fの作動点は、点(C)(「Ff=Fx、Fr=fr1」の点)から点(D)に向けて、Y軸に略平行に遷移する。
【0089】
更に、制動操作量Baが増加され、補完制動力Fhが、後輪基準力Fsだけでは達成不可となると(即ち、「Fh>Fs」の状態)、前輪指示力Fcに応じて、前輪摩擦制動力Fmfが、「0」から増加される。つまり、要求制動力Fdが、回生制動力Fg、及び、後輪基準力Fsによっては達成不可である場合には、その不足分を充足するよう、前輪摩擦制動力Fmfが決定される。前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrの演算には、回生制動力Fgを含む制動力Fの前後配分Hrが考慮され、「Fmr=Fs、Fmf=Fh-Fs=Fc」で演算される。このため、制動力Fの作動点は、特性Cbに沿って、点(D)から点(B)に向けて遷移する。以上、第1の実施形態に係る制動力配分特性Cx(制動力Fの作動点の遷移)は、制動操作量Baの増加に伴って、「(O)→(C)→(D)→(B)」のようになる。
【0090】
制動制御装置SCでは、前輪摩擦制動力(目標値)Fmfに基づいて、前輪目標液圧Ptfが演算される。前輪目標液圧Ptfに基づき、第2調圧弁UCによって、第2調整液圧Pcが調整され、最終的には前輪制動液圧Pwfが制御される。また、後輪摩擦制動力Fmrに基づいて、後輪目標液圧Ptrが演算される。後輪目標液圧Ptrに基づき、第1調圧弁UBによって、第1調整液圧Pbが調整され、最終的には後輪制動液圧Pwrが制御される。制動操作が開始されると、回生制動力Fgが最大回生力Fxに達するまで(点O~点C)は、「Ptf=Ptr=0」に基づき「Pb=Pc=0」に制御される(つまり、電動ポンプDCは駆動されているが、第1、第2調圧弁UB、UCは全開状態)。そして、回生制動力Fgが最大回生力Fxに達した時点で、前輪目標液圧Ptfが「0」に維持された上で、後輪目標液圧Ptrが増加される。結果、「Pc=0」のままで、第1調整液圧Pbの増加が開始され、後輪制動液圧Pwrが増加される(つまり、第2調圧弁UCが全開状態)。更に、補完制動力Fhが後輪基準力Fsを超過した時点(点Dに相当し、後輪制動液圧Pwrが、所定制動力fr1に相当する液圧pr1に達した時点)で、前輪目標液圧Ptfが「0」から増加される。結果、第2調整液圧Pc(即ち、前輪制動液圧Pwf)の増加が開始される。以降、制動力Fの作動点が、基準特性Cbに沿うよう、前後比率(例えば、後輪比率Hr)が考慮されて、前輪、後輪目標液圧Ptf、Ptrが増加され、第1、第2調整液圧Pb、Pcが共に増加される。
【0091】
例えば、ホイールシリンダCWの全てに、常に同じ液圧が導入される構成では(つまり、第1調整液圧Pbと第2調整液圧Pcとが同一である場合には)、回生協調制御における制動力配分は、特性Ccのように変化する。特性Ccにおける後輪制動力Frは、理想配分特性Caの後輪制動力Frに比較して小さい。このため、特性Ccでは、車両安定性は確保されるが、後輪制動力Frが十分に活用され得ない。本発明に係る制動制御装置SCでは、所定の後輪比率Hrが考慮されて、前輪、後輪摩擦制動力(目標値)Fmf、Fmrが演算され、これらを達成するよう、調整液圧Pc、Pb(つまり、制動液圧Pwf、Pwr)が、制動操作(又は、制動要求)とは独立、且つ、夫々が別個に調節される。これによる配分特性Cxにより、ジェネレータGNの回生量Rgが最大化されるとともに、制動力Fの前後配分が適正化され得る。つまり、前後輪の制動力Ff、Frが好適に確保され、車両安定性が維持された上で、回生可能なエネルギ量が十分に確保され得る。
【0092】
<本発明に係る車両の制動制御装置の第2の実施形態>
図4の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの第2の実施形態について説明する。
図1を参照して説明した第1の実施形態では、ジェネレータGNが前輪WHfに設けられた。第2の実施形態では、ジェネレータGNが後輪WHrに設けられる。
【0093】
第1の実施形態と同様に、第2の実施形態でも、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。記号末尾の添字「i」~「l」は、何れの車輪に関するものであるかを示す包括記号であり、「i」は右前輪、「j」は左前輪、「k」は右後輪、「l」は左後輪を示す。添字「i」~「l」が省略された場合には、各記号は、4つの各車輪の総称を表す。また、記号末尾の添字「f」、「r」は、2系統の流体路(制動液BFの移動経路)において、前後輪の何れの系統に関するものであるかを示す包括記号であり、「f」は前輪系統、「r」は後輪系統を示す。添字「f」、「r」が省略された場合には、2系統の総称を表す。各流体路において、「上流側(又は、上部)」はリザーバRVに近い側であり、「下流側(又は、下部)」はホイールシリンダCWに近い側である。以下、相違点について説明する。
【0094】
第1の実施形態と同様に、第2の実施形態でも、調圧ユニットYCでは、2つの調圧弁UB、UCが、調圧流体路HCにおいて直列に設けられる。具体的には、制動液BFの循環流(A)に沿って、第1調圧弁UB、第2調圧弁UCの順で配置される。そして、第2調圧弁UCによって第2調整液圧Pcが「0(大気圧)」から増加するよう調整され、第1調圧弁UBによって第1調整液圧Pbが、第2調整液圧Pcから増加するよう調整される。逆に言えば、第1調圧弁UBによって第1調整液圧Pbに調整され、第2調圧弁UCによって第2調整液圧Pcが第1調整液圧Pbから減少するように調整される。つまり、第1調整液圧Pbと第2調整液圧Pcとは、「Pb≧Pc」の関係にある。
【0095】
第2の実施形態では、第1調整液圧Pbが調整されることにより、隙間(離間変位)Ksが調節され、回生協調制御が達成される。制動操作部材BPが、「Ba=0」の状態では、「Ks=ks」であるが、制動操作量Baと独立して、第1調整液圧Pbが制御されることにより、隙間Ksが「0」以上、初期隙間ks以下の範囲で調節される。従って、マスタ液圧Pm(=Pwf)が、制動操作量Baとは独立して調整可能である。
【0096】
第2の実施形態では、前輪ホイールシリンダCWfの液圧Pwfと、後輪ホイールシリンダCWrの液圧Pwrとが、独立して調節される。そして、ジェネレータGNが備えられる後輪WHrの液圧Pwrは、ジェネレータGNが備えられない前輪WHfの制動液圧Pwf以下になるように調整される。具体的には、調圧流体路HCは、流体ポンプQCと第1調圧弁UBとの間の部位Cgにて、前輪調圧流体路HFに分岐される。前輪調圧流体路HFは、サーボ室Rsに接続され、第1調整液圧Pbはサーボ室Rsに導入(供給)される。従って、第1調整液圧Pbは、マスタシリンダCMを介して、前輪ホイールシリンダCWfに、間接的に導入される。即ち、第1調整液圧Pbは、「Rs→Rm→CWf」の順で、前輪ホイールシリンダCWfに供給される。また、調圧流体路HCは、第1調圧弁UBと第2調圧弁UCとの間の部位Csにて、後輪調圧流体路HRに分岐される。後輪調圧流体路HRは、下部流体ユニットYLを介して、後輪ホイールシリンダCWrに接続される。従って、第2調整液圧Pcは、後輪ホールシリンダCWrに、直接、導入(供給)され、「0≦Pc≦Pb」の範囲で調整される。調圧ユニットYCは、第1、第2電磁弁UB、UCを含んで構成され、第1調圧弁UBによって、電動ポンプDCが吐出する制動液BFが第1調整液圧Pbに調節され、この第1調整液圧Pbはサーボ室Rsに導入される。そして、第2調圧弁UCによって、第1調整液圧Pbが第2調整液圧Pcにまで減少調整され、この第2調整液圧Pcは後輪ホイールシリンダCWrに導入される。
【0097】
次に、第2の実施形態での調圧制御の処理について説明する。第1の実施形態の処理とは、ステップS190の処理が異なる。第2の実施形態では、要求制動力Fdに前輪比率Hfが乗算されて、前輪基準力Ftが演算される(即ち、「Ft=Hf×Fd」)。前輪比率Hfは、車両に作用する制動力全体に対する前輪制動力Ffの配分比率を表す、予め設定された所定値である。後輪基準力Fsと同様に、前輪基準力Ftは、要求制動力Fdに対して前後制動力配分が考慮された値である。要求制動力Fdから最大回生力Fxが減算されて、要求制動力Fdの達成に必要な摩擦制動力(補完制動力)Fhが演算される(即ち、「Fh=Fd-Fx」)。補完制動力Fhと前輪基準力Ftとが比較され、補完制動力Fhが前輪基準力Ft以下である場合には、「Fmf=Fh、Fmr=0」が決定される。また、補完制動力Fhが前輪基準力Ftよりも大きい場合には、前輪基準力Ftが、前輪摩擦制動力Fmfとして演算されるとともに、後輪摩擦制動力Fmrが、補完制動力Fhから前輪基準力Ftを減じた値(後輪指示力)Fqに演算される(即ち、「Fmf=Ft=Hf×Fd、Fmr=Fq=Fh-Ft)。
【0098】
同様に、回生制動力Fgを含む制動力Fの前後配分が考慮されて、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrが演算される。要求制動力Fdが、回生制動力Fg、及び、前後配分が考慮された前輪基準力Ftによって達成可能である場合(即ち、「Fh≦Ft」の場合)には、「Fmr=0」にされ、後輪WHrには回生制動力Fg(=Fx)のみが作用する。そして、要求制動力Fdを満足するよう、前輪摩擦制動力Fmfによって、制動力が補完される。一方、要求制動力Fdが、回生制動力Fg、及び、前輪基準力Ftでは不足する場合(即ち、「Fh>Ft」の場合)には、後輪摩擦制動力Fmrによって不足分が補われる。前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrに基づいて、前輪、後輪目標液圧Ptf、Ptrが決定される。前輪目標液圧Ptfに基づいて、第1調圧弁UBによって、第1調整液圧Pbが調節される。また、後輪目標液圧Ptrに基づいて、第2調圧弁UCによって、第2調整液圧Pcが調節される。即ち、前輪、後輪制動液圧Pwf、Pwrが、制動操作(又は、制動要求)とは独立で、夫々が個別に調整される。これにより、後輪WHrに設けられたジェネレータGNの回生量Rgが最大化されるとともに、車両全体の制動力Fにおいて、その前後配分が適正化され得る。
【0099】
<第2の実施形態における制動力前後配分の遷移>
図5の特性図を参照して、第2の実施形態に対応した回生協調制御における制動力Fの前後配分について説明する。特性図は、摩擦制動力のみによる前輪制動力Ff(=Fmf)と、回生制動力Fgを含む後輪制動力Fr(=Fg+Fmr)との関係を示す。上記同様、一点鎖線の特性Caは、理想制動力配分の線図である。基準特性Cbは、「Fg=0」での、前輪制動力Ffと後輪制動力Frとの相互関係である。基準特性Cbは、ホイールシリンダの受圧面積、有効制動半径、及び、摩擦材の摩擦係数に依存する。前輪、後輪比率Hf、Hrを用いると、基準特性Cbの傾き「Fr/Ff」は、「Hr/Hf=H(1-Hf)/Hf=Hr/(1-Hr)」で表される。
【0100】
制動初期の段階(「Fd≦Fx」の状態)では、車両減速は、回生制動力Fgのみによって満足されるため、摩擦制動力Fmf、Fmrは発生されず、「0」のままである。従って、制動操作量Baの増加に応じて、回生制動力Fgのみによって、後輪制動力Frが、「0」から増加される。制動力Fの作動点は、原点(O)から点(E)に向けて遷移する。制動操作量Baが増加され、要求制動力Fdに対して回生制動力Fgが不足すると(即ち、「Fd>Fx」)、補完制動力Fh(=Fd-Fx)に応じて、前輪摩擦制動力Fmfの増加が開始される。このとき、車両減速に応じて、最大回生力Fxは僅かに増加し、後輪摩擦制動力Fmrは「0」に維持される。従って、作動点は、X軸に略平行に、点(E)から点(F)に変化する。更に、制動操作量Baが増加され、補完制動力Fhに対して前輪基準力Ft(=Hf×Fd)が不足すると(即ち、「Fh>Ft」)、後輪指示力Fqに基づいて、後輪摩擦制動力Fmrの増加が開始される。ここで、後輪指示力Fqは、補完制動力Fhから前輪基準力Ftを減じた値である(即ち、「Fq=Fh-Ft」)。作動点は、基準特性Cb上を点(F)から点(B)に向けて変化する。第2の実施形態に係る制動力配分特性Cy(制動力Fの作動点の遷移)は、制動操作量Baの増加に伴って、「(O)→(E)→(F)→(B)」のように変化する。
【0101】
制動制御装置SCでは、前輪摩擦制動力(目標値)Fmfに基づいて、前輪目標液圧Ptfが演算され、これに基づいて、第1調圧弁UBによって、第1調整液圧Pbが調整され、最終的には前輪制動液圧Pwfが制御される。また、後輪摩擦制動力Fmrに基づいて、後輪目標液圧Ptrが演算され、これに基づき、第2調圧弁UCによって、第2調整液圧Pcが調整され、最終的には後輪制動液圧Pwrが制御される。制動操作が開始されると、回生制動力Fgが最大回生力Fxに達するまで(点O~点Eの間)は、「Ptf=Ptr=0」に基づき、「Pb=Pc=0」に制御され、「Pwf=Pwr=0」とされる。このとき、電動ポンプDCは、制動中が判定されるため、回転されている。回生制動力Fgが最大回生力Fxに達した時点(点Eに対応)で、「Ptr=0」の状態が維持されて、前輪目標液圧Ptfが、「0」から増加され始める。結果、「Pc=0」が維持され、第1調整液圧Pbの増加が開始され、前輪制動液圧Pwfが増加される。更に、補完制動力Fhが前輪基準力Ftを超過した時点(点Fに対応し、前輪制動液圧Pwfが、所定制動力ff1に相当する液圧pf1に達した時点)で、後輪目標液圧Ptrが「0」から増加され、第2調整液圧Pc(即ち、後輪制動液圧Pwr)の増加が開始される。以降、制動力Fの作動点が、基準特性Cbに沿うよう、所定の前後比率(例えば、前輪比率Hf)が考慮されて、前輪、後輪目標液圧Ptf、Ptrが増加され、第1、第2調整液圧Pb、Pcが共に増加される。
【0102】
例えば、ホイールシリンダCWの全てに、常に同一液圧が導入される構成では(例えば、第1調整液圧Pbと第2調整液圧Pcとの個別調整が行われない場合)、回生協調制御における制動力配分は、特性Cdのように変化する。特性Cdにおける後輪制動力Frは、理想配分特性Caの後輪制動力Frに比較して大きい。このため、特性Cdでは、後輪制動力Frが十分に活用されるが、車両安定性が懸念される。本発明に係る制動制御装置SCでは、前輪比率Hfが考慮されて、前輪、後輪摩擦制動力(目標値)Fmf、Fmrが演算され、これらを達成するよう、第1、第2調整液圧Pb、Pc(つまり、前輪、後輪制動液圧Pwf、Pwr)が独立して調節される。この調節に基づく配分特性Cyにより、ジェネレータGNの回生量Rgが最大化されるとともに、制動力Fの前後配分が適正化され得る。つまり、前後輪の制動力Ff、Frの配分が好適に調整され、車両減速度、及び、車両安定性の維持と、回生エネルギの確保とが、両立され得る。
【0103】
<前輪WHf、及び、後輪WHrの両方にジェネレータGNf、GNrが備えられる場合>
以上、ジェネレータGNが、前輪WHf、及び、後輪WHrの何れか一方に備えられる場合について説明した。車両には、前輪WHf用の前輪回生ジェネレータGNf、及び、後輪WHr用の後輪回生ジェネレータGNrが備えられ得る。この場合、前輪回生制動力Fgf、及び、後輪回生制動力Fgrのうちの何れが先に、夫々が対応する最大回生力(回生可能な限界)Fxf、Fxrに到達するかに基づいて、第1、第2調整液圧Pb、Pcが導入される先が定まる。
【0104】
前輪回生制動力Fgfが前輪最大回生力Fxfに達するよりも前に、後輪回生制動力Fgrが後輪最大回生力Fxrに達する車両では、第1の実施形態に係る制動制御装置SCが採用される(
図1を参照)。即ち、第1調整液圧Pbが、後輪ホイールシリンダCWrに導入され、第2調整液圧Pcが、サーボ室Rsに導入される。該構成では、制動操作量Baの増加に従って、「前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrのみによる制動」→「前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgr、及び、後輪摩擦制動力Fmrによる制動(即ち、「Fmf=0」)」→「前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgr、及び、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrによる制動」の順で状態遷移が生じる。例えば、この様な車両では、前輪ジェネレータGNfの発電容量(回生能力)が、後輪ジェネレータGNrの発電容量よりも大きく、前輪回生制動力Fgfが、後輪回生制動力Fgrよりも相対的に大である。
【0105】
逆に、後輪回生制動力Fgrが後輪最大回生力Fxrに達するよりも前に、前輪回生制動力Fgfが前輪最大回生力Fxfに達する車両では、第2の実施形態に係る制動制御装置SCが用いられる(
図4を参照)。つまり、第2調整液圧Pcが、後輪ホイールシリンダCWrに導入され、第1調整液圧Pbが、サーボ室Rsに導入される。該構成では、制動操作量Baの増加に応じて、「前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgrのみによる制動」→「前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgr、及び、前輪摩擦制動力Fmfによる制動(即ち、「Fmr=0」)」→「前輪、後輪回生制動力Fgf、Fgr、及び、前輪、後輪摩擦制動力Fmf、Fmrによる制動」の順で状態遷移する。例えば、後輪ジェネレータGNrの発電容量が、前輪ジェネレータGNfの発電容量よりも大きく、後輪回生制動力Fgrが、前輪回生制動力Fgfよりも相対的に大である車両が該当する。
【0106】
上述したように、前後輪WHf、WHrの両方にジェネレータGNf、GNrを備える場合であっても、直列配置された2つの調圧弁UB、UCによって、前輪、後輪制動液圧Pwf、Pwrが、独立、且つ、個別に調整されることにより、前輪、後輪ジェネレータGNf、GNrの回生量が十分に確保される。加えて、車両全体の制動力Fにおいて、その前後配分が適正化されるため、車両の減速性と安定性とが両立され得る。
【0107】
<作用・効果>
本発明に係る制動制御装置SCの作用・効果についてまとめる。
制動制御装置SCを搭載する車両の前輪WHfには、回生ジェネレータGN(前輪ジェネレータGNf)が備えられる。この車両では、後輪WHrには回生ジェネレータは備えられない。或いは、車両の後輪WHrにもジェネレータGNrが備えられる。この場合、前輪、後輪ジェネレータGNf、GNrとの回生容量において、前輪ジェネレータGNfによる回生制動力Fgfが前輪最大回生力(限界値)Fxfに達するよりも先に(事前に)、後輪ジェネレータGNrによる回生制動力Fgrが、後輪最大回生力(限界値)Fxrに到達する。制動制御装置SCは、マスタユニットYM、調圧ユニットYC、及び、回生協調ユニットYKにて構成される。
【0108】
マスタユニットYMは、マスタシリンダCM、及び、マスタピストンPMにて構成される。そして、マスタユニットYMは、「車両の前輪ホイールシリンダCWfに接続されたマスタ室Rm」、及び、「マスタ室RmによってマスタピストンPMに加えられる後退力Fbに対向する前進力FaをマスタピストンPMに付与するサーボ室Rs」を有する。調圧ユニットYCは、電動ポンプDC、及び、第1、第2電磁弁UB、UCにて構成される。調圧ユニットYCでは、電動ポンプDCが吐出する制動液BFが、第1電磁弁UBによって第1液圧Pbに調節され、この第1液圧Pbが後輪ホイールシリンダCWrに導入される。また、調圧ユニットYCでは、第2電磁弁UCによって第1液圧Pbが第2液圧Pcに減少調整され、この第2液圧Pcがサーボ室Rsに導入される。回生協調ユニットYKは、車両の制動操作部材BPに連動する入力ピストンPK、及び、マスタシリンダCMに固定された入力シリンダCNにて構成される。回生協調ユニットYKでは、マスタピストンPMと入力ピストンPKとの隙間Ksが第2液圧Pcによって制御される。これにより、回生協調制御(例えば、制動操作部材BPが操作されるが、制動液圧Pwが発生されない制御)が達成される。
【0109】
例えば、前輪WHfのみにジェネレータGNfが備えられた車両では、制動操作量Ba、及び、要求減速度Gdのうちの少なくとも1つに基づいて決定された要求制動力Fdと、車体速度Vx(即ち、ジェネレータGNfの回転数)に基づいて決定された最大回生力(回生力の上限)Fxとが比較される。要求制動力Fdが最大回生力Fx以下である場合には、第1、第2調整液圧Pb、Pcは「0」に制御され、車両は、前輪ジェネレータGNfのみによって減速される。そして、要求制動力Fdが最大回生力Fxよりも大きい場合には、少なくとも、第1調整液圧Pbは「0」よりも大きく調整される。このとき、補完制動力Fh(要求制動力Fdから最大回生力Fxを減じた値)が後輪基準力Fs(要求制動力Fdに所定の後輪比率Hrを乗じた値)以下である場合には、第2調整液圧Pcは「0」のままに維持される。しかし、補完制動力Fhが後輪基準力Fsよりも大きい場合には、第2調整液圧Pcも「0」よりも大きい値に調整される。このように、第1調整液圧Pb、及び、第2調整液圧Pcが、個別、且つ、制動操作量Ba(又は、要求減速度Gd)とは独立で調整される。従って、前輪系統の制動液圧Pwfと、後輪系統の制動液圧Pwrとが別々に制御されるとともに、制動操作量Ba(又は、要求減速度Gd)に独立して制御され得る。結果、前輪、後輪制動力Ff、Frの配分比率が適正化され、車両安定性が維持されるとともに、回生可能なエネルギ量が十分に確保され得る。
【0110】
また、制動制御装置SCは、後輪WHrに回生ジェネレータGN(後輪ジェネレータGNr)が備えられた車両にも適用され得る。例えば、この車両には、前輪WHfには回生ジェネレータは備えられない。或いは、前輪WHfにもジェネレータGNfが備えられるが、2つのジェネレータGNf、GNrとの回生容量において、後輪ジェネレータGNrによる回生制動力Fgrが後輪最大回生力(限界値)Fxrに達するよりも先に、前輪ジェネレータGNfによる回生制動力Fgfが、前輪最大回生力(限界値)Fxfに到達する。上記同様に、制動制御装置SCは、マスタユニットYM、調圧ユニットYC、及び、回生協調ユニットYKにて構成される。
【0111】
マスタユニットYMは、マスタシリンダCM、及び、マスタピストンPMにて構成され、マスタユニットYMは、「車両の前輪ホイールシリンダCWfに接続されたマスタ室Rm」、及び、「マスタ室RmによってマスタピストンPMに加えられる後退力Fbに対向する前進力FaをマスタピストンPMに付与するサーボ室Rs」を有する。調圧ユニットYCは、電動ポンプDC、及び、第1、第2電磁弁UB、UCにて構成される。調圧ユニットYCでは、電動ポンプDCが吐出する制動液BFが、第1電磁弁UBによって第1液圧Pbに調節され、この第1液圧Pbがサーボ室Rsに導入される。また、調圧ユニットYCでは、第2電磁弁UCによって第1液圧Pbが第2液圧Pcに減少調整され、この第2液圧Pcが後輪ホイールシリンダCWrに導入される。回生協調ユニットYKは、車両の制動操作部材BPに連動する入力ピストンPK、及び、マスタシリンダCMに固定された入力シリンダCNにて構成され、マスタピストンPMと入力ピストンPKとの隙間Ksが第1液圧Pbによって制御される。
【0112】
例えば、後輪WHrのみにジェネレータGNrが備えられた車両でも、要求制動力Fdが最大回生力Fx以下である場合には、第1、第2調整液圧Pb、Pcは「0」に制御され、車両は、後輪ジェネレータGNrのみによって減速される。そして、要求制動力Fdが最大回生力Fxよりも大きい場合には、少なくとも、第1調整液圧Pbは「0」よりも大きく調整される。このとき、補完制動力Fhが前輪基準力Ft(要求制動力Fdに所定の前輪比率Hfを乗じた値)以下である場合には、第2調整液圧Pcは「0」のままに維持される。しかし、補完制動力Fhが前輪基準力Ftよりも大きい場合には、第2調整液圧Pcも「0」よりも大きい値に調整される。上記同様に、第1調整液圧Pb、及び、第2調整液圧Pcが、制動操作量Ba(又は、要求減速度Gd)とは、独立、且つ、個別に調整されることにより、前輪、後輪制動力Ff、Frの配分比率が適正化され、車両安定性が維持されるとともに、回生可能なエネルギ量が十分に確保され得る。
【0113】
なお、第1電磁弁UB、及び、第2電磁弁UCは、電動ポンプDCを含む制動液BFの還流路(第1リザーバ流体路HV、及び、調圧流体路HCにて形成される制動液BFの流れが、再び元の流れに戻る流体路)において直列に配置される。具体的には、第1電磁弁UBは、第2電磁弁UCよりも電動ポンプDCに近い側に位置する。つまり、還流路における制動液BFの流れの方向に、電動ポンプDC、第1電磁弁UB、第2電磁弁UCの順で並べられている。これにより、第2調整液圧Pcは、第1調整液圧Pb以下の圧力に調整される。
【0114】
<他の実施形態>
以下、他の実施形態について説明する。他の実施形態においても、上記同様の効果(制動力配分の適正化による車両安定制の確保とエネルギ回生量の増大、等)を奏する。
【0115】
上記実施形態では、リニア型の調圧弁UB、UCには、通電量に応じて開弁量が調整されるものが採用された。例えば、調圧弁UB、UCは、オン・オフ弁ではあるが、弁の開閉がデューティ比で制御され、液圧が線形に制御されるものでもよい。
【0116】
上記実施形態では、ディスク型制動装置(ディスクブレーキ)の構成が例示された。この場合、摩擦部材はブレーキパッドであり、回転部材はブレーキディスクである。ディスク型制動装置に代えて、ドラム型制動装置(ドラムブレーキ)が採用され得る。ドラムブレーキの場合、キャリパに代えて、ブレーキドラムが採用される。また、摩擦部材はブレーキシューであり、回転部材はブレーキドラムである。
【0117】
上記実施形態では、上部流体ユニットYUと、下部流体ユニットYLとが別体として構成された。上部流体ユニットYUと下部流体ユニットYLとは、一体として構成され得る。この場合、下部コントローラECLは、上部コントローラECUに含まれる。
【0118】
上記実施形態では、調圧流体路HCは、第1リザーバ流体路HVに、部位Bvにて接続され、還流路が形成された。調圧流体路HCは、リザーバRV(特に、調圧リザーバ室Rd)に接続され、還流路が、リザーバRVを含んで形成され得る(
図1、
図4の二点鎖線で示す流体路を参照)。該構成によって、流体ポンプQCによる気体の吸い込みが抑制され得る。
【0119】
上記実施形態では、後輪基準力Fsが後輪比率Hrに基づいて演算された。また、前輪基準力Ftが前輪比率Hfに基づいて演算された。しかし、「Hf+Hr=1」の関係にあるため、後輪基準力Fsが前輪比率Hfに基づいて演算されてもよく、前輪基準力Ftが後輪比率Hrに基づいて演算されてもよい。つまり、前輪、後輪基準力Ft、Fsは、予め設定された所定の前後配分比率(Hf、Hr)に基づいて演算され得る。
【0120】
上記実施形態では、第1、第2調整液圧Pb、Pcを検出するよう、調圧流体路HCに、第1、第2調整液圧センサPB、PCが設けられた。第1、第2調整液圧センサPB、PCに代えて、マスタ液圧センサPQが利用され得る。具体的には、第1の実施形態では、第2調整液圧センサPCが省略され、マスタ液圧センサPQの検出値Pmに基づいて、実際の第2調整液圧Pcが演算され得る。また、第2の実施形態では、第1調整液圧センサPBが省略され、マスタ液圧の検出値Pmに基づいて、実際の第1調整液圧Pbが演算され得る。これは、マスタピストンPM、マスタシリンダCMの諸元は既知であることに因る。例えば、サーボ室Rsの受圧面積rsと、マスタ室Rmの受圧面積rmとが等しい場合には、「Pm=Pc」、又は、「Pm=Pb」の関係が成立する。
【0121】
上記の実施形態では、「制動中であること」が判定された後に、第1開閉弁VAが開位置されるとともに、第2開閉弁VBが閉位置にされた。これに代えて、車両のイグニッションスイッチが、オンされた場合に、第1開閉弁VAが開位置され、第2開閉弁VBが閉位置にされてもよい。つまり、車両の走行中には、常時、第1、第2開閉弁VA、VBに通電が行われる。制動のたびに、第1、第2開閉弁VA、VBのオン/オフ状態が切り替えられないため、作動音の面で有利であるとともに、シミュレータSSの特性が安定化され得る。
【符号の説明】
【0122】
BP…制動操作部材、GN…回生ジェネレータ、ECU…コントローラ、CM…マスタシリンダ、CW…ホイールシリンダ、YC…調圧ユニット、DC…電動ポンプ(流体ポンプQC+電気モータMC)、UB…第1調圧弁(第1電磁弁)、UC…第2調圧弁(第2電磁弁)、YM…マスタユニット、PM…マスタピストン、YK…回生協調ユニット、SS…ストロークシミュレータ、CN…入力シリンダ、PK…入力ピストン、Rm…マスタ室、Rs…サーボ室、Ro…後方室、Rn…入力室、PS…シミュレータ液圧センサ、Ps…シミュレータ液圧、PN…入力液圧センサ、Pn…入力液圧、VA…第1開閉弁、VB…第2開閉弁、PB…第1調整液圧センサ、Pb…第1調整液圧(第1液圧)、PC…第2調整液圧センサ、Pc…第2調整液圧(第2液圧)。