(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用バインダー水溶液、リチウムイオン電池用スラリー及びその製造方法、リチウムイオン電池用電極、リチウムイオン電池用セパレータ、リチウムイオン電池用セパレータ/電極積層体、並びにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20220509BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220509BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20220509BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220509BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220509BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20220509BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20220509BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20220509BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20220509BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20220509BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20220509BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/139
H01M4/13
H01M4/66 A
H01M50/423
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/451
H01M50/417
(21)【出願番号】P 2018034497
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2017036296
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017185806
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】笹川 巨樹
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 真仁
(72)【発明者】
【氏名】池谷 克彦
(72)【発明者】
【氏名】合田 秀樹
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特許第6048070(JP,B2)
【文献】国際公開第2010/114119(WO,A1)
【文献】特開2016-072150(JP,A)
【文献】特開2012-014994(JP,A)
【文献】特開2011-040326(JP,A)
【文献】特開2012-104406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13- 4/66
H01M 10/05-10/0587
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミド基を有する水溶性ポリマー(A)、並びに
トリヒドロキシシリル化合物、及び/又はテトラヒドロキシシリル化合物であるヒドロキシシリル化合物(A1)を含み、前記トリヒドロキシシリル化合物は下記一般式
RSi(OH)
3
(式中、Rは置換又は無置換のアルキル基を表し、前記アルキル基の置換基は、アミノ基、メルカプト基、グリシドキシ基又はエポキシ基である。)
で表わされる、リチウムイオン電池用バインダー水溶液。
【請求項2】
アミド基を有する水溶性ポリマー(A)、並びに
トリヒドロキシシリル化合物、及び/又はテトラヒドロキシシリル化合物で
あるヒドロキシシリル化合物(A1)を含み、前記トリヒドロキシシリル化合物は下記一般式
RSi(OH)
3
(式中、Rは置換又は無置換のアルキル基を表し、前記アルキル基の置換基は、アミノ基、メルカプト基、グリシドキシ基又はエポキシ基である。)
で表わされる、リチウムイオン電池用スラリー。
【請求項3】
前記水溶性ポリマー(A)は、(メタ)アクリルアミド基含有化合物の単独重合体、又は(メタ)アクリルアミド基含有化合物と不飽和カルボン酸との共重合体である、請求項2に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
【請求項4】
前記水溶性ポリマー(A)100質量部に対し、ヒドロキシシリル化合物(A1)を1~15質量部含む、請求項2又は3に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
【請求項5】
前記ヒドロキシシリル化合物(A1)がトリヒドロキシシリルプロピルアミンを含む、請求項2~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
【請求項6】
電極活物質(B)を含む、請求項2~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
【請求項7】
前記電極活物質(B)に、シリコン又はシリコンオキサイドが10質量%以上含まれる、請求項6に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
【請求項8】
前記電極活物質(B)100質量部に対し、前記水溶性ポリマー(A)及び前記ヒドロキシシリル化合物(A1)の合計が2~12質量部である、請求項6又は7に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
【請求項9】
セラミック微粒子(C)を含む、請求項2~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
【請求項10】
前記セラミック微粒子(C)100質量部に対し、前記水溶性ポリマー(A)及び前記ヒドロキシシリル化合物(A1)の合計が1~15質量部である、請求項9に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
【請求項11】
アミド基を有する水溶性ポリマー(A)と
トリヒドロキシシリル化合物、及び/又はテトラヒドロキシシリル化合物であるヒドロキシシリル化合物(A1)とを混合する工程を含む、請求項2~10のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリーの製造方法。
【請求項12】
請求項2~8のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリーを集電体に塗布し、乾燥させることによって得られるポリ(メタ)アクリルアミド-ポリシロキサンオリゴマー複合体を含む、リチウムイオン電池用電極。
【請求項13】
前記集電体が銅箔である、請求項12に記載のリチウムイオン電池用電極。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の電極を含む、リチウムイオン電池。
【請求項15】
請求項2~5、9、10のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリーを多孔質のポリオレフィン樹脂基材又はプラスチック不織布に塗布し、乾燥させることによって得られる、リチウムイオン電池用セパレータ。
【請求項16】
請求項2~5、9、10のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリーを、
電極に塗布し、乾燥させることによって得られる、リチウムイオン電池用セパレータ/電極積層体。
【請求項17】
請求項15に記載のリチウムイオン電池用セパレータ、及び/又は請求項16に記載のリチウムイオン電池用セパレータ/電極積層体を含む、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウムイオン電池用バインダー水溶液、リチウムイオン電池用スラリー及びその製造方法、リチウムイオン電池用電極、リチウムイオン電池用セパレータ、リチウムイオン電池用セパレータ/電極積層体、並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、さらに繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、リチウムイオン電池の更なる高性能化を目的として、電極、セパレータ等の電池部材の改良が検討されている。
【0003】
リチウムイオン電池の正極及び負極はいずれも、電極活物質とバインダー樹脂とを溶媒に分散させてスラリーとしたものを集電体(例えば金属箔)上に両面塗布し、溶媒を乾燥除去して電極層を形成した後、これをロールプレス機等で圧縮成形して製造される。
【0004】
近年、リチウムイオン電池用電極において、電池容量を高める観点から、電極活物質として様々な電極活物質が提案されている。しかしながら、電極活物質によっては、充放電に伴って膨張及び収縮し易い。そのため、リチウムイオン電池用電極は、充放電の繰り返し初期より体積変化を生じ(スプリングバック性)、これを用いたリチウムイオン電池のサイクル特性等の電気的特性を低下させ易いという問題が発生している。
【0005】
そこで斯界では、上記課題をバインダー樹脂で解決を図る検討がなされており、例えばポリイミド(特許文献1)及びポリアクリル酸(特許文献2)が公知である。また、特許文献3にはシリコン含有単量体を含む水溶性重合体、粒子状バインダー、電極活物質を含むスラリー組成物が提案されている。また、特許文献4には、シランカップリング剤で表面処理されたリチウムイオン二次電池用シリコンオキサイドが提案されている。
【0006】
リチウムイオン電池のセパレータについて、近年、ポリオレフィン微多孔膜の表面にセラミック微粒子とバインダーとを含むコーティング層(耐熱層)を形成した耐熱性セパレータが提案されている。前記コーティング層は、高温に晒されてもセパレータの収縮を抑制する効果があることが公知である。しかしながら、得られた耐熱性セパレータは、製造ラインでの搬送時や電池セル内での曲げ等の変形により、コーティング層とポリオレフィン微多孔膜との接着を維持できなくなり、脱落し易いという課題があった。
【0007】
そこで斯界では、上記課題をバインダー樹脂で解決を図る検討がなされており、例えばポリオレフィン微多孔膜の表面に耐熱性多孔質層と熱可塑性エラストマー及びゴム成分から選択される少なくとも一種を含む接着層(特許文献5)が公知である。特許文献6では、酸化物無機粒子、反応性の官能基を有するポリマー、及び架橋剤を反応させることを特徴とするセパレータを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-089437号公報
【文献】特開2005-216502号公報
【文献】特許第6048070号公報
【文献】特開2001-216961号公報
【文献】特開2012-89346号公報
【文献】特開2012-69457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
リチウムイオン電池の電極について、特許文献1のポリイミドは、前駆体であるポリアミド酸をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の有機溶剤を含む溶媒中に溶解させてバインダー樹脂スラリーとしたものであるところ、NMP等の有機溶媒の使用は、今後の需要増加に伴う大量生産にあたって、水系溶媒を使用した場合と比較して、塗布・乾燥時の環境負荷が極めて大きい。
【0010】
特許文献2に記載のポリアクリル酸は、充電の際、活物質に吸蔵されたリチウムイオンをそのカルボキシル基に取り込むため、初期放電容量が低下する課題があった。また耐スプリングバック性に関して記載されていない。
【0011】
特許文献3では、ポリアクリルアミドと所定平均粒子径の活物質とを含む電極スラリーを提案しているが、電極のスプリングバック耐性に関して記載されていない。
【0012】
特許文献4には、シランカップリング剤を水で希釈し、その水溶液に活物質粉末を添加して混合し、ろ過、乾燥して得られる表面処理した活物質を使用することが提案されている。この場合、初期充電時における不可逆容量を抑制できるものの、依然としてスプリングバック耐性の問題は解決されない。
【0013】
また、特許文献5の耐熱性多孔質層を形成するために使用するメタ型全芳香族ポリアミドは、ジメチルアセトアミド等の有機溶剤を含む溶媒中に溶解させてバインダー樹脂スラリーとしたものである。有機溶媒の使用は、今後の需要増加に伴う大量生産にあたって、水系溶媒を使用した場合と比較して、塗布・乾燥時の環境負荷が極めて大きい。
【0014】
特許文献6では、ポリアクリル酸、或いはポリビニルアルコール樹脂と架橋剤とを使用したセパレータ用多孔質層を提案しているが、両者の反応性が高いためにスラリーの安定性が悪く、ゲル化し易い傾向にある。そのため微粒子が凝集して経時で沈降することにより塗工時の厚みムラが生じ、均一な多孔膜を作成することが難しい。
【0015】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、優れた耐スプリングバック性及び電気的特性をリチウムイオン電池に付与できる電極、並びに優れた耐熱収縮性、耐粉落ち性、基材密着性、レート特性、出力特性をリチウムイオン電池に付与できるセパレータを製造できるものを提供することとする。なお、本開示において、耐粉落ち性は、セラミック微粒子同士の結着性を意味し、基材密着性は、基材と本発明に係るスラリーを基材に塗布、乾燥して得られる層(コーティング層)との接着性を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アミド基を有する水溶性ポリマーと、ヒドロキシシリル化合物を用いることによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
本開示により以下の項目が提供される。
(項目1)
アミド基を有する水溶性ポリマー(A)、並びに
トリヒドロキシシリル化合物、及び/又はテトラヒドロキシシリル化合物であるヒドロキシシリル化合物(A1)を含む、リチウムイオン電池用バインダー水溶液。
(項目2)
アミド基を有する水溶性ポリマー(A)、並びに
トリヒドロキシシリル化合物、及び/又はテトラヒドロキシシリル化合物であるヒドロキシシリル化合物(A1)を含む、リチウムイオン電池用スラリー。
(項目3)
前記水溶性ポリマー(A)は、(メタ)アクリルアミド基含有化合物の単独重合体、又は(メタ)アクリルアミド基含有化合物と不飽和カルボン酸との共重合体である、上記項目に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
(項目4)
前記水溶性ポリマー(A)100質量部に対し、ヒドロキシシリル化合物(A1)を1~15質量部含む、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
(項目5)
前記ヒドロキシシリル化合物(A1)がトリヒドロキシシリルプロピルアミンを含む、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
(項目6)
電極活物質(B)を含む、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
(項目7)
前記電極活物質(B)に、シリコン又はシリコンオキサイドが10質量%以上含まれる、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
(項目8)
前記電極活物質(B)100質量部に対し、前記水溶性ポリマー(A)及び前記ヒドロキシシリル化合物(A1)の合計が2~12質量部である、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
(項目9)
セラミック微粒子(C)を含む、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
(項目10)
前記セラミック微粒子(C)100質量部に対し、前記水溶性ポリマー(A)及び前記ヒドロキシシリル化合物(A1)の合計が1~15質量部である、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリー。
(項目11)
アミド基を有する水溶性ポリマー(A)と
トリヒドロキシシリル化合物、及び/又はテトラヒドロキシシリル化合物であるヒドロキシシリル化合物(A1)とを混合する工程を含む、上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリーの製造方法。
(項目12)
上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリーを集電体に塗布し、乾燥させることによって得られるポリ(メタ)アクリルアミド-ポリシロキサンオリゴマー複合体を含む、リチウムイオン電池用電極。
(項目13)
前記集電体が銅箔である、上記項目に記載のリチウムイオン電池用電極。
(項目14)
上記項目のいずれか1項に記載の電極を含む、リチウムイオン電池。
(項目15)
上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリーを多孔質のポリオレフィン樹脂基材又はプラスチック不織布に塗布し、乾燥させることによって得られる、リチウムイオン電池用セパレータ。
(項目16)
上記項目のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用スラリーを、
電極に塗布し、乾燥させることによって得られる、リチウムイオン電池用セパレータ/電極積層体。
(項目17)
上記項目に記載のリチウムイオン電池用セパレータ、及び/又は上記項目に記載のリチウムイオン電池用セパレータ/電極積層体を含む、リチウムイオン電池。
【0018】
本開示において、上述した1又は複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供され得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明のリチウムイオン電池用バインダー水溶液及びリチウムイオン電池用スラリーを用いることにより、電池容量の持続と耐スプリングバック性を向上させたリチウムイオン電池を提供できる。
【0020】
本発明のリチウムイオン電池用バインダー水溶液及びリチウムイオン電池用スラリーを用いることにより、耐熱収縮性、耐粉落ち性、基材密着性、レート特性、出力特性を向上させたリチウムイオン電池用セパレータを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示の全体にわたり、各物性値、含有量等の数値の範囲は、適宜(例えば下記の各項目に記載の上限及び下限の値から選択して)設定され得る。具体的には、数値αについて、数値αの上限がA1、A2、A3等が例示され、数値αの下限がB1、B2、B3等が例示される場合、数値αの範囲は、A1以下、A2以下、A3以下、B1以上、B2以上、B3以上、A1~B1、A1~B2、A1~B3、A2~B1、A2~B2、A2~B3、A3~B1、A3~B2、A3~B3等が例示される。
【0022】
[1.リチウムイオン電池用バインダー水溶液:水溶液ともいう]
本開示は、アミド基を有する水溶性ポリマー(A)、並びに
トリヒドロキシシリル化合物、及び/又はテトラヒドロキシシリル化合物であるヒドロキシシリル化合物(A1)を含む、リチウムイオン電池用バインダー水溶液を提供する。
【0023】
<アミド基を有する水溶性ポリマー(A):(A)成分ともいう>
本開示において「アミド基を有する水溶性ポリマー」とは、アミド基(-C(O)NH2)を有する水溶性の重合物(ポリマー)を意味する。
【0024】
本開示において、「水溶性」とは、25℃において、その化合物0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5質量%未満(2.5mg未満)であることを意味する。
【0025】
((メタ)アクリルアミド基含有化合物(a):(a)成分ともいう)
本開示において「(メタ)アクリルアミド基含有化合物」とは、(メタ)アクリルアミド骨格
【化1】
(式中、R
1は水素又はメチル基である。)
を有する化合物又はその塩を意味する。(メタ)アクリルアミド基含有化合物は、各種公知のものを単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0026】
本開示において「(メタ)アクリル」は「アクリル及びメタクリルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。同様に「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及びメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。また「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル及びメタクリロイルからなる群より選択される少なくとも1つ」を意味する。
【0027】
1つの実施形態において、(メタ)アクリルアミド基含有化合物は下記構造式
【化2】
(式中、R
1は水素又はメチル基であり、R
2及びR
3はそれぞれ独立して、水素、置換若しくは非置換のアルキル基、アセチル基、又はスルホン酸基であるか、或いはR
2及びR
3が一緒になって環構造を形成する基であり、R
4及びR
5はそれぞれ独立して、水素、置換若しくは非置換のアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基、アミノ基(-NR
aR
b(R
a及びR
bはそれぞれ独立して水素又は置換若しくは非置換のアルキル基である)(以下同様))、アセチル基、スルホン酸基である。置換アルキル基の置換基はヒドロキシ基、アミノ基、アセチル基、スルホン酸基等が例示される。また、R
2及びR
3が一緒になって環構造を形成する基は、モルホリル基等が例示される。)
により表される。
【0028】
アルキル基は、直鎖アルキル基、分岐アルキル基、シクロアルキル基等が例示される。
【0029】
直鎖アルキル基は、-CnH2n+1(nは1以上の整数)の一般式で表される。直鎖アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デカメチル基等が例示される。
【0030】
分岐アルキル基は、直鎖アルキル基の少なくとも1つの水素がアルキル基によって置換された基である。分岐アルキル基は、ジエチルペンチル基、トリメチルブチル基、トリメチルペンチル基、トリメチルヘキシル基等が例示される。
【0031】
シクロアルキル基は、単環シクロアルキル基、架橋環シクロアルキル基、縮合環シクロアルキル基等が例示される。
【0032】
本開示において、単環は、炭素の共有結合により形成された内部に橋かけ構造を有しない環状構造を意味する。また、縮合環は、2つ以上の単環が2個の原子を共有している(すなわち、それぞれの環の辺を互いに1つだけ共有(縮合)している)環状構造を意味する。架橋環は、2つ以上の単環が3個以上の原子を共有している環状構造を意味する。
【0033】
単環シクロアルキル基は、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロデシル基、3,5,5-トリメチルシクロヘキシル基等が例示される。
【0034】
架橋環シクロアルキル基は、トリシクロデシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基等が例示される。
【0035】
縮合環シクロアルキル基は、ビシクロデシル基等が例示される。
【0036】
上記の(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)は、N-無置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー、N-一置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー、N,N-二置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマー等が例示される。
N-無置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーは、(メタ)アクリルアミド、マレイン酸アミド等が例示される。
N-一置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーは、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドt-ブチルスルホン酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等が例示される。
N-二置換(メタ)アクリルアミド骨格含有モノマーは、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等が例示される。
上記塩は、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド塩化メチル4級塩、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートベンジルクロライド4級塩等が例示される。
上記(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)の中でも(メタ)アクリルアミド、特にアクリルアミドを用いると、水溶性及びスラリーの分散性が高くなる。その結果、電極活物質同士、セラミック微粒子同士の結着性を高くなる。
【0037】
水溶性ポリマー(A)100質量%中に含まれる(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位の割合の上限は、100、90、80、70、60、50、45質量%等が例示され、下限は、90、80、70、60、50、45、40質量%等が例示される。1つの実施形態において、水溶性ポリマー(A)100質量%中に含まれる(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位の割合は、40~100質量%が好ましく、45~100質量%がより好ましく、50~100質量%が特に好ましい。(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位が(A)成分に特定の量含まれることにより、電極活物質、フィラー、セラミック微粒子等の分散性が良好となり、均一な層(電極活物質層やセラミック微粒子層等)の製造が可能となるため構造欠陥がなくなり、良好な充放電特性を示す。さらに(メタ)アクリルアミド基含有化合物に由来する構成単位が(A)成分に特定の量含まれることにより、ポリマーの耐酸化性、耐還元性が良好となるため、高電圧時の劣化が抑制され良好な充放電耐久特性を示す。
【0038】
水溶性ポリマー(A)中の全構成単位100モル%に対する(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位の割合の上限は、100、90、80、70、60モル%等が例示され、下限は、90、80、70、60、50モル%等が例示される。1つの実施形態において、(メタ)アクリルアミド基含有化合物(a)に由来する構成単位の割合は、水溶性ポリマー(A)中の全構成単位100モル%に対して、50~100モル%が好ましい。
【0039】
((a)成分ではない単量体:(b)成分ともいう)
水溶性ポリマー(A)には、(a)成分ではない単量体((b)成分)に由来する構成単位を含み得る。(b)成分は、各種公知のものを単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。(b)成分は、不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等の酸基含有単量体、不飽和カルボン酸エステル、α,β-不飽和ニトリル、共役ジエン、芳香族ビニル化合物等が例示される。
【0040】
不飽和カルボン酸は、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸及びこれらの塩等が例示される。
【0041】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%における不飽和カルボン酸の含有量は特に限定されないが、上記ヒドロキシシリル化合物(A1)との反応を考慮すると、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。
【0042】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量の上限は、60、50、40、30、20、10、5質量%等が例示され、下限は、50、40、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸に由来する構成単位の含有量は、0~60質量%が好ましい。
【0043】
不飽和スルホン酸は、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸等のα,β-エチレン性不飽和スルホン酸;(メタ)アクリルアミドt-ブチルスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-(メタ)アクリルアミド-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、3-スルホプロパン(メタ)アクリル酸エステル、ビス-(3-スルホプロピル)イタコン酸エステル及びこれらの塩等が例示される。
【0044】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%における不飽和スルホン酸の含有量は特に限定されないが、上記ヒドロキシシリル化合物(A1)との反応を考慮すると、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%に対する不飽和スルホン酸の含有量の上限は、40、30、20、19、15、10、5、1、0.5、0.1、0.05、0.02モル%等が例示され、下限は、30、20、19、15、10、5、1、0.5、0.1、0.05、0.02、0.01、0モル%等が例示される。
【0045】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和スルホン酸に由来する構成単位の含有量の上限は、70、60、50、40、30、20、10、5質量%等が例示され、下限は、60、50、40、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和スルホン酸に由来する構成単位の含有量は、0~70質量%が好ましい。
【0046】
不飽和リン酸単量体は、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、ビス((メタ)アクリロキシエチル)ホスフェート、ジフェニル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジブチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、ジオクチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、モノメチル-2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、3-(メタ)アクリロキシ-2-ヒドロキシプロパンリン酸及びこれらの塩等が例示される。
【0047】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%における不飽和リン酸等の酸基含有単量体の含有量は特に限定されないが、上記(b)成分との反応を考慮すると、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。
【0048】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和リン酸に由来する構成単位の含有量の上限は、60、50、40、30、20、10、5質量%等が例示され、下限は、50、40、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和リン酸単量体に由来する構成単位の含有量は、0~60質量%が好ましい。
【0049】
1つの実施形態において、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%における不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等の酸基含有単量体の合計含有量は、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。
【0050】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等の酸基含有単量体に由来する構成単位の合計含有量の上限は、70、60、50、40、30、20、10、5質量%等が例示され、下限は、60、50、40、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等の酸基含有単量体に由来する構成単位の合計含有量は、0~70質量%が好ましい。
【0051】
不飽和カルボン酸エステルは、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、直鎖(メタ)アクリル酸エステル、分岐(メタ)アクリル酸エステル、脂環(メタ)アクリル酸エステル、置換(メタ)アクリル酸エステル等が例示される。
【0052】
直鎖(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル等が例示される。
【0053】
分岐(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸i-プロピル、(メタ)アクリル酸i-ブチル、(メタ)アクリル酸i-アミル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等が例示される。
【0054】
脂環(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が例示される。
【0055】
置換(メタ)アクリル酸エステルは、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸アリル、ジ(メタ)アクリル酸エチレン等が例示される。
【0056】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%における不飽和カルボン酸エステルの含有量は特に限定されないが、不飽和カルボン酸エステルを使用することで、電極に柔軟性が付与され得、特に巻回型、円筒型の電池に用いる場合に有用であり、セパレータを製造する際は、水溶性ポリマー(A)の全構成単位のガラス転移温度低下によるセパレータのカールが抑制され得るという観点から有用である。一方、リチウムイオン電池のサイクル特性や水溶性ポリマー(A)の水溶性を考慮すると、不飽和カルボン酸エステルの含有量は水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。
【0057】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位の含有量の上限は、80、70、60、50、40、30、20、10、5質量%等が例示され、下限は、70、60、50、40、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する不飽和カルボン酸エステルに由来する構成単位の含有量は、0~8060質量%が好ましい。
【0058】
α,β-不飽和ニトリルは、電極及びセパレータに柔軟性を与える目的で好適に使用できる。α,β-不飽和ニトリルは、(メタ)アクリロニトリル、α-クロル(メタ)アクリロニトリル、α-エチル(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデン等が例示される。これらのうち、(メタ)アクリロニトリルが好ましく、特にアクリロニトリルが好ましい。
【0059】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%におけるα,β-不飽和ニトリルの含有量は特に限定されないが、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%に対し40モル%未満(例えば30、20、19、15、10、5、1モル%未満、0モル%)が好ましい。水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%に対し40モル%未満であることで、(A)成分の水への溶解性を保ちつつ、上記スラリーの層(コーティング層)が均一となり、前記柔軟性を発揮させやすくなる。
【0060】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対するα,β-不飽和ニトリルに由来する構成単位の含有量の上限は、60、50、40、30、20、10、5質量%等が例示され、下限は、50、40、30、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対するα,β-不飽和ニトリルに由来する構成単位の含有量は、0~60質量%が好ましい。
【0061】
共役ジエンは、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン、置換及び側鎖共役ヘキサジエン等が例示される。
【0062】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%における共役ジエンの含有量は特に限定されないが、リチウムイオン電池のサイクル特性の観点より、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%のうち10モル%未満が好ましく、0モル%がより好ましい。
【0063】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する共役ジエンに由来する構成単位の含有量の上限は、30、20、10、5質量%等が例示され、下限は、25、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する共役ジエンに由来する構成単位の含有量は、0~30質量%が好ましい。
【0064】
また、芳香族ビニル化合物は、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン等が例示される。
【0065】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%における芳香族ビニル化合物の含有量は特に限定されないが、リチウムイオン電池のサイクル特性の観点より、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%のうち10モル%未満が好ましく、0モル%がより好ましい。
【0066】
水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の含有量の上限は、30、20、10、5質量%等が例示され、下限は、25、20、10、5、0質量%等が例示される。1つの実施形態において、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対する芳香族ビニル化合物に由来する構成単位の含有量は、0~30質量%が好ましい。
【0067】
上記不飽和カルボン酸、不飽和スルホン酸、不飽和リン酸等の酸基含有単量体、不飽和カルボン酸エステル、α,β-不飽和ニトリル、共役ジエン、芳香族ビニル化合物以外の(b)成分の含有量は、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100モル%に対して、10モル%未満、5モル%未満、2モル%未満、1モル%未満、0.1モル%未満、0.01モル%未満、0モル%等が例示され、水溶性ポリマー(A)の全構成単位100質量%に対して、10質量%未満、5質量%未満、1質量%未満、0.5質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0068】
スラリー100質量%に対する水溶性ポリマー(A)の含有量の上限は、99.9、99、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1、0.9、0.5、0.2質量%等が例示され、下限は、99、95、90、85、80、75、70、65、60、55、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、1、0.9、0.5、0.2、0.1質量%等が例示される。1つの実施形態において、スラリー100質量%に対する水溶性ポリマー(A)の含有量は、0.1~99.9質量%が好ましい。
【0069】
<(A)成分の製造方法>
(A)成分は、各種公知の重合法、好ましくはラジカル重合法で合成され得る。具体的には、前記成分を含む単量体混合液にラジカル重合開始剤及び必要に応じて連鎖移動剤を加え、撹拌しながら、反応温度50~100℃で重合反応を行うことが好ましい。反応時間は特に限定されず、1~10時間が好ましい。
【0070】
ラジカル重合開始剤は、各種公知のものが特に制限なく使用される。ラジカル重合開始剤は、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;上記過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤とを組み合わせたレドックス系重合開始剤;2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩等のアゾ系開始剤等が例示される。ラジカル重合開始剤の使用量は特に制限されないが、(A)成分を与える単量体群100質量%に対し0.05~5.00質量%が好ましく、0.1~3.0質量%がより好ましい。
【0071】
ラジカル重合反応前及び/又は得られた(A)成分を水溶化する際等に、製造安定性を向上させる目的で、アンモニアや有機アミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の一般的な中和剤で反応溶液のpH調整を行ってもよい。その場合、pHは2~11が好ましい。また、同様の目的で、金属イオン封止剤であるEDTA又はその塩等を使用することも可能である。
【0072】
(A)成分が酸基を有する場合には、用途に応じて適宜中和率を調整して使用され得る。ここで、中和率100%は(A)成分に含まれる酸成分と同モル数のアルカリにより中和することを示す。また中和率50%は(A)成分に含まれる酸成分に対して半分のモル数のアルカリにより中和されたことを示す。セラミック微粒子を分散させるときの中和率は特に限定されないが、コーティング層等の形成後には中和率70~120%が好ましく、中和率80~120%がより好ましい。上記コーティング層製造後の中和度を上記範囲とすることで、酸の大半が中和された状態となり、電池内でLiイオン等と結合して、容量低下を起こすことがなくなるため好ましい。中和塩は、Li塩、Na塩、K塩、アンモニウム塩、Mg塩、Ca塩、Zn塩、Al塩等が例示される。
【0073】
<(A)成分の物性>
(A)成分の重量平均分子量(Mw)は特に限定されないが、重量平均分子量(Mw)の上限は、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万等が例示され、下限は、550万、500万、450万、400万、350万、300万、290万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万等が例示される。1つの実施形態において、リチウムイオン電池用スラリーの分散安定性の観点から(A)成分の重量平均分子量(Mw)は30万~600万が好ましく、35万~600万がより好ましい。
【0074】
(A)成分の数平均分子量(Mn)の上限は、600万、550万、500万、450万、400万、350万、300万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、30万、20万、10万、5万等が例示され、下限は、550万、500万、450万、400万、350万、300万、290万、250万、200万、150万、100万、95万、90万、85万、80万、75万、70万、65万、60万、55万、50万、45万、40万、35万、30万、20万、10万、5万、1万等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分の数平均分子量(Mn)は、1万以上が好ましい。
【0075】
重量平均分子量及び数平均分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により適切な溶媒下で測定したポリアクリル酸換算値として求められ得る。
【0076】
(A)成分のB型粘度は特に限定されないが、その上限は、10万、9万、8万、7万、6万、5万、4万、3万、2万、1万、9000、8000、7000、6000、5000、4000、3000、2000mPa・s等が例示され、下限は、9万、8万、7万、6万、5万、4万、3万、2万、1万、9000、8000、7000、6000、5000、4000、3000、2000、1000mPa・s等が例示される。1つの実施形態において、(A)成分のB型粘度の範囲は1000~10万mPa・sが好ましい。なお、B型粘度は東機産業株式会社製 製品名「B型粘度計モデルBM」等のB型粘度計により測定される。
【0077】
(ヒドロキシシリル化合物(A1)((A1)成分ともいう))
本開示において、ヒドロキシシリル化合物とはケイ素原子にヒドロキシ基(-OH)が直接結合している構造を有する化合物を意味し、トリヒドロキシシリル化合物とは、トリヒドロキシシリル基(-Si(OH)3)を有する化合物を意味し、テトラヒドロキシシリル化合物とは、Si(OH)4で表わされる化合物を意味する。
【0078】
1つの実施形態において、トリヒドロキシシリル化合物は下記一般式
RSi(OH)3
(式中、Rは置換又は無置換のアルキル基、ビニル基、又は(メタ)アクリロキシ基を表し、上記置換基は、アミノ基、メルカプト基、グリシドキシ基、(メタ)アクリロキシ基、エポキシ基等が例示される。)
で表わされる化合物である。
【0079】
本発明のヒドロキシシリル化合物(A1)はシランカップリング剤やテトラアルコキシシランを加水分解して調製することが好ましい。本発明のヒドロキシシリル化合物(B)は水溶性を失わない範囲内で、部分的に縮重合していても構わない。シランカップリング剤は、本発明の属する技術分野で一般的に使用されているシランカップリング剤を使用することができる。
【0080】
シランカップリング剤は、特に制限されない。シランカップリング剤から製造されるヒドロキシシリル化合物(A1)は、単独で用いてもよいし、又は2種以上を併用してもよい。1つの実施形態において、ヒドロキシシリル化合物(B)はトリヒドロキシシリルプロピルアミンを含む。
【0081】
トリアルコキシシランは、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル) 3- アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3- イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、テトラヒドロキシシラン等が例示される。
またテトラアルコキシシランは、テトラメトキシシラン、テトラメトキシシランオリゴマー、テトラエトキシシラン、テトラエトキシシランオリゴマー等が例示される。
これらのうち、水溶性ポリマー(A)との安定性及び耐電解液性の観点から、3-アミノプロピルトリメトキシシランを用いてヒドロキシシリル化合物を製造することが好ましい。
【0082】
メカニズム
アルコキシシラン類は、加水分解することによりシラノール基を多数生成する。当該シラノール基(SiOH)はシロキサン結合(Si-O-Si)との平衡反応であり、一部はシロキサン結合が存在する。リチウムイオン電池用バインダー水溶液、又は後述するリチウムイオン電池用スラリー中では大多数がシラノール基として存在しているため水溶液の保存安定性又はスラリー安定性を示す事ができる。なお本メカニズムは、あくまで1つの説であり、本発明はこれに制限されるわけではない。
【0083】
これらのシラノール基の安定化を図るために、リチウムイオン電池用バインダー水溶液、又はリチウムイオン電池用スラリーのpHを一定の範囲に調整することが好ましい。好適なpHの範囲はヒドロキシシリル化合物の原料であるシランカップリング剤によって異なる。
【0084】
3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミンにおける上記好適なpHの範囲はpH9~12である。
【0085】
N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラメトキシシランオリゴマー、テトラエトキシシラン、テトラエトキシシランオリゴマーにおける上記好適なpHの範囲はpH2~5である。
【0086】
(トリヒドロキシシリル化合物、テトラヒドロキシシリル化合物の製法)
加水分解の手法としては、特に限定されないが、水又は水・アルコール混合溶液中に、上記のシランカップリング剤を加え、濁りが無くなって均一化するまで加水分解、部分的な縮合反応を進めたゾル溶液を用いる手法等が例示される。
【0087】
上記ゾル溶液を
・(メタ)アクリルアミド基含有化合物等の単量体水溶液中に混合する、
・アミド基を有する水溶性ポリマー(A)の水溶液の製造後に混合する
・アミド基を有する水溶性ポリマー(A)の水溶液に電極活物質(B)やセラミック微粒子(C)を分散させた後に混合する
のいずれかの手法を用いて混合し、本発明のリチウムイオン電池用スラリーを調製することができる。
【0088】
水溶性ポリマー(A)に対するヒドロキシシリル化合物(A1)の含有量は特に限定されない。ヒドロキシシリル化合物(A1)の含有量の上限は、水溶性ポリマー(A)100質量%に対して、15、13、10、9、5、3、1質量%等が例示され、下限は、13、10、9、5、3、1、0.5質量%等が例示される。上記含有量の範囲は適宜(例えば上記上限及び下限の値から選択して)設定され得る。1つの実施形態において、好ましくは0.5~15質量%であり、より好ましくはヒドロキシシリル化合物(A1)の添加効果及び電極活物質(B)又はセラミック微粒子(C)の凝集粒形成の防止等の観点から1~10質量%である。
【0089】
<添加剤>
リチウムイオン電池用バインダー水溶液は、(A)成分にも(A1)成分にも水にも該当しないものを添加剤として含み得る。添加剤は、分散剤、レベリング剤、酸化防止剤、増粘剤、分散体(エマルジョン)、架橋剤等が例示される。添加剤の含有量は、(A)成分100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示され、また上記水溶液100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0090】
分散剤は、アニオン性化合物、カチオン性化合物、非イオン性化合物、高分子化合物等が例示される。
【0091】
レベリング剤は、アルキル系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、金属系界面活性剤等の界面活性剤等が例示される。界面活性剤を用いることにより、塗工時に発生するはじきを防止し、上記スラリーの層(コーティング層)の平滑性を向上させ得る。
【0092】
酸化防止剤は、フェノール化合物、ハイドロキノン化合物、有機リン化合物、硫黄化合物、フェニレンジアミン化合物、ポリマー型フェノール化合物等が例示される。ポリマー型フェノール化合物は、分子内にフェノール構造を有する重合体である。ポリマー型フェノール化合物の重量平均分子量は200~1000が好ましく、600~700がより好ましい。
【0093】
増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマー及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリ(メタ)アクリル酸及びこれらのアンモニウム塩並びにアルカリ金属塩;(変性)ポリビニルアルコール、アクリル酸又はアクリル酸塩とビニルアルコールの共重合体、無水マレイン酸又はマレイン酸若しくはフマル酸とビニルアルコールの共重合体等のポリビニルアルコール類;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、変性ポリアクリル酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体水素化物等が例示される。
【0094】
分散体(エマルジョン)は、スチレン-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリスチレン系重合体ラテックス、ポリブタジエン系重合体ラテックス、アクリロニトリル-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリウレタン系重合体ラテックス、ポリメチルメタクリレート系重合体ラテックス、メチルメタクリレート-ブタジエン系共重合体ラテックス、ポリアクリレート系重合体ラテックス、塩化ビニル系重合体ラテックス、酢酸ビニル系重合体エマルジョン、酢酸ビニル-エチレン系共重合体エマルジョン、ポリエチレンエマルジョン、カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、芳香族ポリアミド、アルギン酸とその塩、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等が例示される。
【0095】
架橋剤は、ホルムアルデヒド、グリオキサール、ヘキサメチレンテトラミン、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メチロールメラミン樹脂、カルボジイミド化合物、多官能エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、多官能ヒドラジド化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物、尿素化合物、及びこれらの混合物が例示される。
【0096】
リチウムイオン電池用バインダー水溶液は、リチウムイオン電池電極用バインダー水溶液、リチウムイオン電池負極用バインダー水溶液、リチウムイオン電池正極用バインダー水溶液、リチウムイオン電池セパレータ用バインダー水溶液として使用され得る。
【0097】
[2.リチウムイオン電池用スラリー:スラリーともいう]
本開示は、アミド基を有する水溶性ポリマー(A)、並びに
トリヒドロキシシリル化合物、及び/又はテトラヒドロキシシリル化合物であるヒドロキシシリル化合物(A1)を含む、リチウムイオン電池用スラリーを提供する。
【0098】
本開示において「スラリー」は、液体と固体粒子の懸濁液を意味する。
【0099】
上記リチウムイオン電池用スラリーは、(A)成分以外のバインダーが含まれても構わないが、全バインダー中の(A)成分の含有量は、90質量%以上(例えば、91、95、98、99質量%以上、100質量%)が好ましい。
【0100】
なお、(A)成分以外のバインダーは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよく、フッ素系樹脂(ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、不飽和結合を有する重合体(スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム等)、アクリル酸系重合体(アクリル酸共重合体、メタクリル酸共重合体)、カルボキシメチルセルロース塩、ポリビニルアルコール共重合体、ポリビニルピロリドン等が例示される。
【0101】
<電極活物質(B):(B)成分ともいう>
1つの実施形態において、上記リチウムイオン電池用スラリーは、電極活物質(B)を含む。電極活物質は、負極活物質、正極活物質が例示される。
【0102】
負極活物質は、リチウムを可逆的に吸蔵及び放出できるものであれば特に制限されず、目的とするリチウムイオン電池の種類により適宜適当な材料を選択でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。負極活物質は、炭素材料、並びにシリコン材料、リチウム原子を含む酸化物、鉛化合物、錫化合物、砒素化合物、アンチモン化合物、及びアルミニウム化合物等のリチウムと合金化する材料等が例示される。
【0103】
上記炭素材料は、高結晶性カーボンであるグラファイト(黒鉛ともいい、天然グラファイト、人造グラファイト等が例示される)、低結晶性カーボン(ソフトカーボン、ハードカーボン)、カーボンブラック(ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック等)、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンフィブリル、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、ピッチ系炭素繊維等が例示される。
【0104】
上記シリコン材料は、シリコン、シリコンオキサイド、シリコン合金に加え、SiC、SiOxCy(0<x≦3、0<y≦5)、Si3N4、Si2N2O、SiOx(0<x≦2)で表記されるシリコンオキサイド複合体(例えば特開2004-185810号公報や特開2005-259697号公報に記載されている材料等)、特開2004-185810号公報に記載されたシリコン材料等が例示される。また、特許第5390336号、特許第5903761号に記載されたシリコン材料を用いても良い。
【0105】
上記シリコンオキサイドは、組成式SiOx(0<x<2、好ましくは0.1≦x≦1)で表されるシリコンオキサイドが好ましい。
【0106】
上記シリコン合金は、ケイ素と、チタン、ジルコニウム、ニッケル、銅、鉄及びモリブデンよりなる群から選ばれる少なくとも一種の遷移金属との合金が好ましい。これらの遷移金属のシリコン合金は、高い電子伝導度を有し、かつ高い強度を有することから好ましい。シリコン合金は、ケイ素-ニッケル合金又はケイ素-チタン合金がより好ましく、ケイ素-チタン合金が特に好ましい。シリコン合金におけるケイ素の含有割合は、上記合金中の金属元素100モル%に対して10モル%以上が好ましく、20~70モル%がより好ましい。なお、シリコン材料は、単結晶、多結晶及び非晶質のいずれであってもよい。
【0107】
また、電極活物質としてシリコン材料を用いる場合には、シリコン材料以外の電極活物質を併用してもよい。このような電極活物質は、上記の炭素材料;ポリアセン等の導電性高分子;AXBYOZ(Aはアルカリ金属又は遷移金属、Bはコバルト、ニッケル、アルミニウム、スズ、マンガン等の遷移金属から選択される少なくとも一種、Oは酸素原子を表し、X、Y及びZはそれぞれ0.05<X<1.10、0.85<Y<4.00、1.5<Z<5.00の範囲の数である。)で表される複合金属酸化物や、その他の金属酸化物等が例示される。電極活物質としてシリコン材料を用いる場合は、リチウムの吸蔵及び放出に伴う体積変化が小さいことから、炭素材料を併用することが好ましい。
【0108】
上記リチウム原子を含む酸化物は、三元系ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、リチウム-マンガン複合酸化物(LiMn2O4等)、リチウム-ニッケル複合酸化物(LiNiO2等)、リチウム-コバルト複合酸化物(LiCoO2等)、リチウム-鉄複合酸化物(LiFeO2等)、リチウム-ニッケル-マンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5O2等)、リチウム-ニッケル-コバルト複合酸化物(LiNi0.8Co0.2O2等)、リチウム-遷移金属リン酸化合物(LiFePO4等)、及びリチウム-遷移金属硫酸化合物(LixFe2(SO4)3)、リチウム-チタン複合酸化物(チタン酸リチウム:Li4Ti5O12)等のリチウム-遷移金属複合酸化物、及びその他の従来公知の電極活物質等が例示される。
【0109】
本発明の効果が顕著に発揮されるという観点から、炭素材料及び/又はリチウムと合金化する材料を電極活物質中に好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%含む。
【0110】
正極活物質は、無機化合物を含む活物質と有機化合物を含む活物質とに大別される。正極活物質に含まれる無機化合物は、遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物等が例示される。上記遷移金属は、Fe、Co、Ni、Mn、Al等が例示される。正極活物質に使用される無機化合物は、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiFePO4、LiNi1/2Mn3/2O4、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、Li[Li0.1Al0.1Mn1.9]O4、LiFeVO4等のリチウム含有複合金属酸化物;TiS2、TiS3、非晶質MoS2等の遷移金属硫化物;Cu2V2O3、非晶質V2O-P2O5、MoO3、V2O5、V6O13等の遷移金属酸化物等が例示される。これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。正極活物質に含まれる有機化合物は、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性重合体等が例示される。電気伝導性に乏しい鉄系酸化物は、還元焼成時に炭素源物質を存在させることで、炭素材料で覆われた電極活物質として用いてもよい。また、これらの化合物は、部分的に元素置換したものであってもよい。これらの中でも実用性、電気特性、長寿命の点で、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiFePO4、LiNi1/2Mn3/2O4、LiCo1/3Ni1/3Mn1/3O2、Li[Li0.1Al0.1Mn1.9]O4が好ましい。
【0111】
電極活物質の形状は特に制限されず、微粒子状、薄膜状等の任意の形状であってよいが、微粒子状が好ましい。電極活物質の平均粒子径は特に制限されないが、その上限は、50、45、40、35、30、25、20、15、10、5、4、3、2.9、2、1、0.5、0.1μm等が例示され、下限は、45、40、35、30、25、20、15、10、5、4、3、2.9、2、1、0.5、0.1μm等が例示される。1つの実施形態において、均一で薄い塗膜を形成する観点、より具体的には0.1μm以上であればハンドリング性が良好であり、50μm以下であれば電極の塗布が容易であることから、電極活物質の平均粒子径は0.1~50μmが好ましく、0.1~45μmがより好ましく、1~10μmがさらに好ましく、5μmが特に好ましい。
【0112】
本開示において「粒子径」は、粒子の輪郭線上の任意の2点間の距離のうち、最大の距離を意味する(以下同様)。また本開示において「平均粒子径」は、特に言及のない限り、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等の観察手段を用い、数~数十視野中に観察される粒子の粒子径の平均値として算出される値を採用するものとする(以下同様)。
【0113】
上記スラリーにおける電極活物質(B)100質量%に対する前記水溶性ポリマー(A)及び前記ヒドロキシシリル化合物(A1)の合計の含有量の上限は、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2.5質量%等が例示され、下限は、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2質量%等が例示される。1つの実施形態において、電極活物質(B)100質量%に対する前記水溶性ポリマー(A)及び前記ヒドロキシシリル化合物(A1)の合計の含有量が、2~12質量%が好ましい。
【0114】
1つの実施形態において、電極活物質におけるシリコン又はシリコンオキサイドの含有量はリチウムイオン電池の電池容量を高める観点から電極活物質100質量%に対し、20質量%以上(例えば、30質量%以上、40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、100質量%)が好ましい。
【0115】
1つの実施形態において、導電助剤が上記スラリーに含まれ得る。導電助剤は、気相成長炭素繊維(VGCF)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素、黒鉛粒子、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、平均粒径10μm以下のCu、Ni、Al、Si又はこれらの合金からなる微粉末等が例示される。導電助剤の含有量は特に限定されないが、電極活物質成分に対して0~10質量%が好ましく、0.5~6質量%がより好ましい。
【0116】
<セラミック微粒子(C):(C)成分ともいう>
1つの実施形態において、上記リチウムイオン電池用スラリーは、セラミック微粒子(C)を含む。セラミック微粒子は、多孔質のポリオレフィン樹脂基材、プラスチック不織布、電極材料の活物質側にコーティングされる成分であり、このセラミック微粒子同士の隙間が孔を形成し得る。セラミック微粒子が非導電性を有するので、絶縁性にでき、そのため、リチウムイオン電池における短絡を防止し得る。また、通常、セラミック微粒子は高い剛性を有するため、リチウムイオン電池用セパレータの機械的強度を高め得る。そのため、熱によって多孔質のポリオレフィン樹脂基材、プラスチック不織布に収縮しようとする応力が生じた場合でも、リチウムイオン電池用セパレータは、その応力に耐え得る。結果、多孔質のポリオレフィン樹脂基材、プラスチック不織布の収縮による短絡の発生を防止し得る。
【0117】
セラミック微粒子を用いることにより、水中での分散安定性に優れ、リチウムイオン電池用スラリーにおいて沈降し難く、均一なスラリー状態を長時間維持し得る。また、セラミック微粒子を用いると、耐熱性が高くなり得る。なお、セラミック微粒子は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0118】
セラミック微粒子の材料は、電気化学的に安定な材料が好ましい。このような観点から、セラミック微粒子は、酸化物粒子、窒化物粒子、共有結合性結晶粒子、難溶性イオン結晶粒子、粘土微粒子等が例示される。
酸化物粒子は、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アルミニウムの水和物(ベーマイト(AlOOH)、ギブサイト(Al(OH)3)、ベークライト、酸化鉄、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、BaTiO3、ZrO、アルミナ-シリカ複合酸化物等が例示される。
窒化物粒子は、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化硼素等が例示される。
共有結合性結晶粒子は、シリコン、ダイヤモンド等が例示される。
難溶性イオン結晶粒子は、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等が例示される。
粘土微粒子はシリカ、タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子等が例示される。
これらの中でも、吸水性が低く耐熱性に優れる観点からベーマイト、アルミナ、酸化マグネシウム及び硫酸バリウムが好ましく、ベーマイトがより好ましい。
【0119】
セラミック微粒子の平均粒子径の上限は、30、25、20、15、10、5、1、0.5、0.1、0.05μm等が例示され、下限は、25、20、15、10、5、1、0.5、0.1、0.05、0.01μm等が例示される。1つの実施形態において、セラミック微粒子の平均粒子径は、0.01~30μmが好ましい。
【0120】
上記スラリー100質量%に対するセラミック微粒子(C)の含有量の上限は、99.9、95、90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、1、0.5、0.2質量%等が例示され、下限は、95、90、80、70、60、50、40、30、20、10、5、1、0.5、0.2、0.1質量%等が例示される。1つの実施形態において、スラリー100質量%に対し、セラミック微粒子(C)を0.1~99.9質量%含む。
【0121】
上記スラリーにおけるセラミック微粒子(C)100質量%に対する前記水溶性ポリマー(A)及び前記ヒドロキシシリル化合物(A1)の合計の含有量の上限は、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1.5質量%等が例示され、下限は、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1.5、1質量%等が例示される。1つの実施形態において、セラミック微粒子(C)100質量%に対する前記水溶性ポリマー(A)及び前記ヒドロキシシリル化合物(A1)の合計の含有量が、1~15質量%が好ましく、1.5~14質量%がより好ましく、2~12質量%がさらに好ましい。このような含有量とすることにより、密着性により優れ、しかも抵抗が小さく充放電特性により優れたリチウムイオン電池セパレータが製造され得る。
【0122】
<スラリー粘度調整溶媒>
スラリー粘度調整溶媒は、特に制限されることはないが、80~350℃の標準沸点を有する非水系媒体を含めてよい。スラリー粘度調整溶媒は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。スラリー粘度調整溶媒は、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド溶媒;トルエン、キシレン、n-ドデカン、テトラリン等の炭化水素溶媒;メタノール、エタノール、2-プロパノール、イソプロピルアルコール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、ラウリルアルコール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等のケトン溶媒;ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル溶媒;酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル溶媒;o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン等のアミン溶媒;γ-ブチロラクトン、δ-ブチロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン溶媒;水等が例示される。これらの中でも、塗布作業性の点より、N-メチルピロリドンが好ましい。上記非水系媒体の含有量は特に限定されないが、上記スラリー100質量%に対し0~10質量%が好ましい。
【0123】
上記スラリーは、本発明の効果を阻害しない範囲内で、(A)成分、(A1)成分、(B)成分、(C)成分、水、導電助剤、スラリー粘度調整溶媒のいずれにも該当しないものを添加剤として含み得る。添加剤は、「リチウムイオン電池用バインダー水溶液」の項目で上述したもの等が例示される。添加剤の含有量は、(A)成分100質量%に対して0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示され、また(B)成分又は(C)成分100質量%に対し、0~5質量%、1質量%未満、0.1質量%未満、0.01質量%未満、0質量%等が例示される。
【0124】
上記リチウムイオン電池用スラリーは、リチウムイオン電池電極用スラリー、リチウムイオン電池負極用スラリー、リチウムイオン電池正極用スラリー、リチウムイオン電池セパレータ用スラリーとして使用され得る。
【0125】
[3.リチウムイオン電池用スラリーの製造方法]
本開示は、アミド基を有する水溶性ポリマー(A)と
トリヒドロキシシリル化合物、及び/又はテトラヒドロキシシリル化合物であるヒドロキシシリル化合物(A1)とを混合する工程を含む、前記リチウムイオン電池用スラリーの製造方法を提供する。なお、本項目において記載される(A)成分等は上述したもの等が例示される。
【0126】
上記スラリーの製造方法は、(A)成分の水溶液と、(A)成分以外の成分(電極活物質(B)やセラミック微粒子(C)等)とを混合する方法、(A)成分、(A)成分以外の成分(電極活物質(B)やセラミック微粒子(C)等)、水を別々に混合する方法が例示される。なお、上記方法において混合の順番は特に限定されない。スラリーの混合手段は、ボールミル、サンドミル、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサー等が例示される。
【0127】
[4.リチウムイオン電池用電極]
本開示は、上記リチウムイオン電池用スラリーを集電体に塗布し乾燥させることにより得られる、上記リチウムイオン電池用スラリーの乾燥物を集電体表面に有するリチウムイオン電池用電極を提供する。
【0128】
集電体は、各種公知のものを特に制限なく使用され得る。集電体の材質は特に限定されず、銅、鉄、アルミ、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が例示される。集電体の形態も特に限定されず、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が例示される。中でも、電極活物質を負極に用いる場合には集電体として銅箔が、現在工業化製品に使用されていることから好ましい。
【0129】
塗布手段は特に限定されず、コンマコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、ダイコーター、バーコーター等従来公知のコーティング装置が例示される。
【0130】
乾燥手段も特に限定されず、温度は60~200℃が好ましく、100~195℃がより好ましい。雰囲気は乾燥空気又は不活性雰囲気であればよい。
【0131】
電極(硬化塗膜)の厚さは特に限定されないが、5~300μmが好ましく、10~250μmがより好ましい。上記範囲とすることにより、高密度の電流値に対する十分なLiの吸蔵・放出の機能が得られやすくなり得る。
【0132】
以下にアミド基を有する水溶性ポリマー(A)及びヒドロキシシリル化合物(A1)を含む水溶液又はスラリーを用いて製造した際に安定した電池容量の持続と耐スプリングバック性を発揮するメカニズムを記載するが、あくまで1つの説であり、本発明がこれに拘束されることを意図するものではない。
メカニズム
スラリーを塗布して乾燥する際、水が揮発し、シラノール基とシロキサン結合との化学平衡はシロキサン結合の生成側に大きく移動する。その際に、ポリアクリルアミドと残存するシラノール基の間で強い水素結合性の相互作用が生じ、ポリアクリルアミドとポリシロキサン鎖間で、分子間相互浸透(Interpenetration)が生じ、強度の高いポリアクリルアミド-ポリシロキサン複合体を形成する。また同時にポリシロキサンのシラノール基は集電体表面に作用し、強い結着力を発現する。この結果として、充放電サイクルにおけるリチウムイオンの出入りによって活物質の体積変化が生じる環境下において安定した電池容量の持続と耐スプリングバック性を可能にする。
【0133】
上記リチウムイオン電池用電極は、リチウムイオン電池用正極、リチウムイオン電池用負極として用いられ得る。
【0134】
[5.リチウムイオン電池用セパレータ]
本開示は、上記リチウムイオン電池用スラリーを多孔質のポリオレフィン樹脂基材、又はプラスチック不織布に塗布し乾燥させることにより得られる、上記リチウムイオン電池用スラリーの乾燥物を多孔質のポリオレフィン樹脂基材、又はプラスチック不織布の表面に有するリチウムイオン電池用セパレータを提供する。上記リチウムイオン電池用スラリーは、基材の片方の面だけに塗布されていてもよく、両方の面に塗布されていてもよい。
【0135】
上記リチウムイオン電池用セパレータは、アミド基を有する水溶性ポリマー(A)とトリヒドロキシシリル化合物、及び/又はテトラヒドロキシシリル化合物であるヒドロキシシリル化合物(A1)、とセラミック微粒子(C)との架橋反応により形成された架橋構造を有することにより、耐熱収縮性、耐粉落ち性、基材密着性、レート特性、出力特性が向上する。
【0136】
(多孔質のポリオレフィン樹脂基材)
1つの実施形態において、基材は、電子伝導性がなくイオン伝導性があり、有機溶媒の耐性が高い、孔径の微細な多孔質膜が好ましい。このような多孔質膜として、多孔質のポリオレフィン樹脂基材がある。多孔質のポリオレフィン樹脂基材は、ポリオレフィン及びそれらの混合物又は共重合体等の樹脂を主成分として含む微多孔膜である。多孔質のポリオレフィン樹脂基材は、塗工工程を経てポリマー層を得る場合に塗工液の塗工性に優れ、セパレータの膜厚をより薄くして、リチウムイオン電池内の活物質比率を高めて体積当たりの容量を増大させる観点から好ましい。なお、「主成分として含む」とは、50質量%を超えて含むことを意味し、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、なおも更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上含み、100質量%であってもよい。
【0137】
1つの実施形態において、多孔質のポリオレフィン樹脂基材におけるポリオレフィン樹脂の含有量は、特に限定されないが、リチウムイオン電池用セパレータとして用いた場合のシャットダウン性能等の観点から、多孔質のポリオレフィン樹脂基材におけるポリオレフィン樹脂の含有量は、該基材を構成する全成分の50質量%以上100質量%以下が好ましく、60質量%以上100質量%以下がより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることが更に好ましい。
【0138】
ポリオレフィン樹脂は、特に限定されないが、押出、射出、インフレーション、及びブロー成形等に使用するポリオレフィン樹脂でよく、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。ポリオレフィン樹脂は、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等のホモポリマー、コポリマー、多段ポリマー等が例示される。これらのポリオレフィン樹脂の製造の際に用いられる重合触媒も特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系触媒、フィリップス系触媒及びメタロセン系触媒等が例示される。
【0139】
多孔質のポリオレフィン樹脂基材の材料として用いられるポリオレフィン樹脂は、低融点であり、かつ高強度であることから、特に高密度ポリエチレンを主成分とする樹脂が好ましい。さらにポリオレフィン多孔性基材の耐熱性を向上させる観点から、ポリプロピレンと、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂とを含む多孔質のポリオレフィン樹脂基材を併用することがより好ましい。
【0140】
ここで、ポリプロピレンの立体構造は、限定されるものではなく、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン及びアタクティックポリプロピレンのいずれでもよい。
【0141】
ポリオレフィン樹脂組成物中に含まれるポリオレフィン全量に対するポリプロピレンの割合は、特に限定されないが、耐熱性と良好なシャットダウン機能の両立の観点から、1~35質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましく、4~10質量%が更に好ましい。
【0142】
この場合、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂は、限定されるものではなく、例えば、エチレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のオレフィン炭化水素のホモポリマー又はコポリマーが例示される。具体的には、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン、ポリブテン、エチレン-プロピレンランダムコポリマー等が例示される。
【0143】
ポリオレフィン多孔性基材の孔が熱溶融により閉塞するシャットダウン特性の観点から、ポリプロピレン以外のポリオレフィン樹脂として、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等のポリエチレンを用いることが好ましい。これらの中でも、強度の観点から、JIS K 7112に従って測定した密度が0.93g/cm3以上であるポリエチレンがより好ましい。
【0144】
多孔質のポリオレフィン樹脂基材は、強度や硬度、熱収縮率を制御する目的で、フィラーや繊維化合物を含んでもよい。また、接着層との密着性を向上させたり、電解液との表面張力を下げて液の含浸性を向上させる目的で、あらかじめ低分子化合物や高分子化合物で多孔質のポリオレフィン樹脂基材の表面を、被覆処理したり、紫外線等の電磁線処理、コロナ放電・プラズマガス等のプラズマ処理を行ってもよい。特に、電解液の含浸性が高く、上記スラリーを基材に塗布、乾燥して得られるコーティング層との密着性を得やすい点から、カルボン酸基、水酸基及びスルホン酸基等の極性基を含む高分子化合物で被覆処理したものが好ましい。
【0145】
多孔質のポリオレフィン樹脂基材の厚さは、特に限定されないが、2μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましく、100μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましく、50μm以下が更に好ましい。この厚さを2μm以上に調整することは、機械強度を向上させる観点から好ましい。一方、この膜厚を100μm以下に調整することは、電池におけるセパレータの占有体積が減るため、電池の高容量化の点において有利となる傾向があるため好ましい。
【0146】
(プラスチック製不織布)
1つの実施形態において、上記リチウムイオン電池用セパレータに用いられるプラスチック製不織布の平均繊維径は、不織布との密着性及びセパレータ厚みの観点から1~15μmが好ましく、1~10μmがより好ましい。
【0147】
1つの実施形態において、上記プラスチック製不織布の平均ポア径は1~20μmが好ましく、3~20μmがより好ましく、5~20μmがさらに好ましい。平均ポア径が1μm未満では、内部抵抗が大きくなり、出力特性が悪くなる。一方で平均ポア径が20μm以上では、リチウムデンドライト生成時に内部短絡してしまうことがある。
【0148】
本開示において、ポア径は、プラスチック製不織布を形成する合成繊維同士の隙間のことを意味する。また平均繊維径は、走査型電子顕微鏡写真から、繊維の繊維径を計測し、無作為に選んだ20本の繊維の繊維径の平均値を意味する。同様に平均ポア径は、走査型電子顕微鏡写真から、繊維のポア径を計測し、無作為に選んだ20本の繊維のポア径の平均値を意味する。
【0149】
なお、不織布は、構成繊維の平均繊維径が1~10μmで平均ポア径1~20μmの合成繊維のみから構成されることが好ましいが、セパレータの薄厚化の必要性があまり高くない場合等、必要に応じて平均繊維径及びポア径が前記と異なる合成繊維を併用してもよい。また、同様の観点から合成繊維以外の繊維を適宜併用してもよい。これらの繊維(平均繊維径及び平均ポア径が本願で特定される範囲外の合成樹脂繊維や合成繊維以外の繊維)を併用する場合、その含有量は、不織布の強度等を確保する観点から30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。
【0150】
合成樹脂繊維の材質となる合成樹脂は、ポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエステル(polyester)系樹脂、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(ethylene-vinyl acetate copolymer)樹脂、ポリアミド(polyamide)系樹脂、アクリル(acrylic)系樹脂、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride)系樹脂、ポリ塩化ビニリデン(polyvinylidene chloride)系樹脂、ポリビニルエーテル(polyvinyl ether)系樹脂、ポリビニルケトン(polyvinylketone)系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)系樹脂、ジエン(diene)系樹脂、ポリウレタン(polyurethane)系樹脂、フェノール(phenol)系樹脂、メラミン(melamine)系樹脂、フラン(furan)系樹脂、尿素系樹脂、アニリン(aniline)系樹脂、不飽和ポリエステル(Unsaturated polyester)系樹脂、アルキド(alkyd)樹脂、フッ素(fluorocarbon)系樹脂、シリコーン(silicone)系樹脂、ポリアミドイミド(polyamide imide)系樹脂、ポリフェニレンスルフィド(polyphenylene sulfide)系樹脂、ポリイミド(polyimide)系樹脂、ポリカーボネート(polycarbonate)系樹脂、ポリアゾメチン(polyazomethine)系樹脂、ポリエステルアミド(polyesteramide)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(polyetheretherketone)系樹脂、ポリ-p-フェニレンベンゾビスオキサゾール(poly-p-phenylenebenzobisoxazole)樹脂、ポリベンゾイミダゾール(polybenzimidazole)系樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体(ethylene-vinylalcohol copolymer)系樹脂等が例示される。これらのうち、セラミック微粒子との密着性を高くするにはポリエステル系樹脂、アクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。また、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂を使用すると、セパレータの耐熱性が向上され得る。
【0151】
ポリエステル系樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate、PET)系、ポリブチレンテレフタレート(polybuthylene terephthalate、PBT)系、ポリトリメチレンテレフタレート(polytrimethylene terephthalate、PPT)系、ポリエチレンメフタレート(polyethylene naphthalate、PEN)系、ポリブチレンナフタレート系(polybuthylene naphthalate)、ポリエチレンイソナフタレート(polyethylene isonaphthalate)系、全芳香族ポリエステル(fully aromatic polyester)系等の樹脂が例示される。またこれらの樹脂の誘導体も使用できる。これらの樹脂の中で、耐熱性、耐電解液性、セラミック微粒子との接着性を向上させるためには、ポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましい。
【0152】
アクリロニトリル系樹脂は、アクリロニトリル100%の重合体からなるもの、アクリロニトリルに対して、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸誘導体、酢酸ビニル等の共重合物等が例示される。
【0153】
ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、オレフィン系共重合体等が例示される。耐熱性の観点から、ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、オレフィン系共重合体等が好ましい。
【0154】
ポリアミド系樹脂は、ナイロン等の脂肪族ポリアミド、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド-3,4-ジフェニルエーテルテレフタルアミド、ポリ-m-フェニレンイソフタルアミド等の全芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドにおける主鎖の一部に脂肪鎖を有する半芳香族ポリアミド等が例示される。全芳香族ポリアミドはパラ型、メタ型いずれでもよい。
【0155】
合成樹脂繊維は、単一の樹脂からなる繊維(単繊維)であってもよいし、2種以上の樹脂からなる繊維(複合繊維)であってもよい。複合繊維は、芯鞘型、偏芯型、サイドバイサイド型、海島型、オレンジ型、多重バイメタル型が例示される。
【0156】
また、合成樹脂繊維と併用可能な合成樹脂繊維以外の繊維は、溶剤紡糸セルロースや再生セルロースの短繊維やフィブリル化物、天然セルロース繊維、天然セルロース繊維のパルプ化物やフィブリル化物、無機繊維等が例示される。
【0157】
プラスチック製不織布の厚さは、厚さを薄くし、内部抵抗の少ないセパレータを得る観点から、5~25μmが好ましく、5~15μmがより好ましい。
【0158】
基材にリチウムイオン電池用スラリーを塗工する方法は、特に限定されないが、ブレード、ロッド、リバースロール、リップ、ダイ、カーテン、エアーナイフ等各種の塗工方式、フレキソ、スクリーン、オフセット、グラビア、インクジェット等の各種印刷方式、ロール転写、フィルム転写等の転写方式、ディッピング等の引き上げ方式で非塗工面側の塗液を掻き落とす方式等が例示される。
【0159】
リチウムイオン電池用スラリーの層(コーティング層)内において、(A)成分と(C)成分とを含むリチウムイオン電池用スラリーを架橋反応させることにより、上記リチウムイオン電池用スラリーの層を形成し得る。架橋反応は、リチウムイオン電池用スラリーを乾燥させる際等に進行し得る。具体的な乾燥方法は、温風、熱風、低湿風等の風による乾燥;真空乾燥;赤外線、遠赤外線、及び電子線等の照射による乾燥法等が例示される。
【0160】
乾燥の際の温度の下限は、多孔膜用組成物からの溶媒及び低分子化合物を効率よく除去する観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、特に好ましくは50℃以上であり、上限は、基材の熱による変形を抑える観点から、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下である。
【0161】
乾燥時間の下限は、好ましくは5秒以上、より好ましくは10秒以上、特に好ましくは15秒以上であり、上限は、好ましくは3分以下、より好ましくは2分以下である。乾燥時間を前記範囲の下限以上にすることにより、多孔膜用組成物から溶媒を十分に除去できるので、電池の出力特性を向上させ得る。また、上限値以下とすることにより、製造効率を高め得る。
【0162】
上記リチウムイオン電池用セパレータの製造方法は、上述以外の任意の工程が含まれ得る。上記リチウムイオン電池用セパレータの製造方法は、金型プレス及びロールプレス等のプレスによるリチウムイオン電池用スラリーの層(コーティング層)の加圧処理工程を含み得る。加圧処理を施すことにより、基材とリチウムイオン電池用スラリーの層との結着性を向上させ得る。ただし、リチウムイオン電池用スラリーの層の空隙率を好ましい範囲に保つ観点では、圧力及び加圧時間が過度に大きくならないように適切に制御することが好ましい。また、残留水分除去のため、上記リチウムイオン電池用セパレータの製造方法は、真空乾燥やドライルーム内等で乾燥する工程を含み得る。
【0163】
[6.リチウムイオン電池用セパレータ/電極積層体]
本開示は、上記リチウムイオン電池用スラリーを電極に塗布し乾燥させることにより得られる、リチウムイオン電池用セパレータ/電極積層体を提供する。
【0164】
以下にアミド基を有する水溶性ポリマー(A)、ヒドロキシシリル化合物(A1)、セラミック微粒子(C)、及び水を含む、リチウムイオン電池用スラリーを用いて製造した際に耐熱収縮性、耐粉落ち性、基材密着性、レート特性、出力特性向上のメカニズムを記載するが、あくまで1つの説であり、本発明がこれに拘束されることを意図するものではない。
メカニズム
スラリーを塗布して乾燥する際、水が揮発し、シラノール基とシロキサン結合との化学平衡はシロキサン結合の生成側に大きく移動する。その際に、ポリアクリルアミドと残存するシラノール基の間で強い水素結合性の相互作用が生じ、ポリアクリルアミドとポリシロキサン鎖間で、分子間相互浸透(Interpenetration)が生じ、強度の高いポリアクリルアミド-ポリシロキサン複合体を形成する。このような架橋構造により、耐熱収縮性、耐粉落ち性、基材密着性、レート特性、出力特性向上の効果に繋がる。そのため、リチウムイオン電池内におけるセラミック微粒子の欠落を抑制すると共に、成分(A)、成分(A1)の架橋反応に伴いバインダー自体の耐熱性も向上させることができると考えられる。また同時に成分(A1)のシラノール基はセラミック微粒子表面、又は表面処理した微多孔のポリオレフィン樹脂基材及び/又はプラスチック製不織布表面に作用し、強い結着力を発現する。
【0165】
リチウムイオン電池用セパレータ/電極積層体の製造方法は、集電体に、上記リチウムイオン電池用スラリー等の電極材料含有スラリーを塗布、乾燥、プレスする工程、
上記電極材料含有スラリーの乾燥物上に(すなわち集電体側ではなく電極活物質側に)、上記リチウムイオン電池用スラリーを塗布し乾燥させる工程を含む方法等が例示される。なお、塗布方法、乾燥方法、条件等は上述したもの等が例示される。
【0166】
[7.リチウムイオン電池]
本開示は、上記リチウムイオン電池用電極を含む、リチウムイオン電池を提供する。また、本開示は、上記リチウムイオン電池用セパレータ、及び/又は上記リチウムイオン電池用セパレータ/電極積層体を含む、リチウムイオン電池を提供する。上記電池には、電解液、及び包装材料も含まれ、これらは特に限定されない。
【0167】
(電解液)
電解液は、非水系溶媒に支持電解質を溶解した非水系電解液等が例示される。また、上記非水系電解液には、被膜形成剤を含めてもよい。
【0168】
非水系溶媒は、各種公知のものを特に制限なく使用でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。非水系溶媒は、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート溶媒;1,2-ジメトキシエタン等の鎖状エーテル溶媒;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、スルホラン、1,3-ジオキソラン等の環状エーテル溶媒;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル等の鎖状エステル溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル溶媒;アセトニトリル等が例示される。これらのなかでも、環状カーボネートと鎖状カーボネートを含む混合溶媒の組み合わせが好ましい。
【0169】
支持電解質は、リチウム塩が用いられる。リチウム塩は、各種公知のものを特に制限なく使用でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。支持電解質は、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLi等が例示される。中でも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すLiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節できる。
【0170】
被膜形成剤は、各種公知のものを特に制限なく使用でき、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。被膜形成剤は、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ビニルエチルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート等のカーボネート化合物;エチレンサルファイド、プロピレンサルファイド等のアルケンサルファイド;1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン等のスルトン化合物;マレイン酸無水物、コハク酸無水物等の酸無水物等が例示される。電解質溶液における被膜形成剤の含有量は特に限定されないが、10質量%以下、8質量%以下、5質量%以下、及び2質量%以下の順で好ましい。含有量を10質量%以下とすることで、被膜形成剤の利点である、初期不可逆容量の抑制や、低温特性及びレート特性の向上等が得られやすくなる。
【0171】
上記リチウムイオン電池の形態は特に制限されない。リチウムイオン電池の形態は、シート電極及びセパレータをスパイラル状にしたシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを組み合わせたインサイドアウト構造のシリンダータイプ、ペレット電極及びセパレータを積層したコインタイプ等が例示される。また、これらの形態の電池を任意の外装ケースに収めることにより、コイン型、円筒型、角型等の任意の形状にして用いることができる。
【0172】
上記リチウムイオン電池の製造方法は特に制限されず、電池の構造に応じて適切な手順で組み立てればよい。リチウムイオン電池の製造方法は、特開2013-089437号公報に記載する方法等が例示される。外装ケース上に負極を乗せ、その上に電解液とセパレータを設け、更に負極と対向するように正極を乗せて、ガスケット、封口板によって固定して電池を製造できる。
【実施例】
【0173】
以下に実施例及び比較例をあげて本発明をより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。なお、以下において「部」及び「%」は、特に説明がない限り、それぞれ質量部及び質量%を示す。
【0174】
<(A)成分の製造>
製造例1
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水3380g、50%アクリルアミド水溶液1200g(8.44mol)、メタリルスルホン酸ナトリウム1.34g(0.0082mol)を入れ、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、50℃まで昇温した。そこに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン 二塩酸塩(日宝化学株式会社製 製品名「NC-32」)6.0g、イオン交換水60gを投入し、80℃まで昇温し3時間反応を行い、アミド基を有する水溶性ポリマーを含む水溶液を得た。
【0175】
製造例2~13
上記製造例1において、モノマー組成と開始剤の量を表1で示すもの及び数値に変更した他は製造例1と同様にして、アミド基を有する水溶性ポリマーを含む水溶液を調製した。
【0176】
【表1】
・AM:アクリルアミド(三菱ケミカル株式会社製 「50%アクリルアミド」)
・ATBS:アクリルアミドt-ブチルスルホン酸(東亞合成株式会社製 「ATBS」)
・NMAM:N-メチロールアクリルアミド(東京化成工業株式会社製)
・AA:アクリル酸(大阪有機化学工業株式会社製 「80%アクリル酸」)
・AN:アクリロニトリル(三菱ケミカル株式会社株式会社製 「アクリロニトリル」)
・HEMA:メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(東京化成工業株式会社製)
・HEA:アクリル酸-2-ヒドロキシエチル(大阪有機化学工業株式会社製 「ヒドロキシエチルアクリレート)
・SMAS:メタリルスルホン酸ナトリウム
【0177】
B型粘度
各バインダー水溶液の粘度は、B型粘度計(東機産業株式会社製 製品名「B型粘度計モデルBM」)を用い、25℃にて、以下の条件で測定した。
粘度100,000~20,000mPa・sの場合:No.4ローター使用、回転数6rpm、粘度20,000mPa・s未満の場合:No.3ローター使用、回転数6rpm。
【0178】
重量平均分子量
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により0.2Mリン酸緩衝液/アセトニトリル溶液(90/10、PH8.0)下で測定したポリアクリル酸換算値として求めた。GPC装置はHLC-8220(東ソー(株)製)を、カラムはSB-806M-HQ(SHODEX製)を用いた。
【0179】
実施例1-1
(1)リチウムイオン電池用バインダー水溶液の製造
撹拌機、温度計、還流冷却管、窒素ガス導入管を備えた反応装置に、イオン交換水100g、メタノール100g、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学株式会社製 製品名「KBM-903」)200g、を入れて25℃で0.5時間反応を行い、ヒドロキシシリル化合物(A1)を含有する均一な水溶液を得た。
製造例1-1で得られた水溶性ポリマー(A)に対して、上記ヒドロキシシリル化合物(A1)を固形分換算で5質量部加え、25℃で0.5時間反応を行い、均一なリチウムイオン電池用バインダー水溶液を得た。
【0180】
実施例1-2~1-19、比較例1-1~1-13
前記実施例1-1においてヒドロキシシリル化合物(A1)の原料の種類と量を表2で示すもの及び数値に変更した他は実施例1-1と同様にしてリチウムイオン電池用バインダー水溶液を得た。
【0181】
【0182】
得られた水溶性バインダーを厚さ200μmのアプリケーターを用いて、ガラス板へ塗工し、120℃30分乾燥させ、得られた樹脂フィルムの鉛筆硬度をJIS K-5401の一般試験法に準拠した方法により測定した。
【0183】
実施例2-1
(2)リチウムイオン電池用スラリーの製造
市販の自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎」、シンキー(株)製)を用い、上記ミキサー専用の容器に、実施例1-1の水溶液を固形分換算で7部と、D50が5μmのシリコン粒子を46.5質量部と、天然黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製 製品名「Z-5F」)を46.5質量部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度40%となるように加えて、当該容器を前記ミキサーにセットした。次いで、2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、リチウムイオン電池用スラリーを得た。
【0184】
(3)リチウムイオン電池用電極の製造
銅箔からなる集電体の表面に、上記リチウムイオン電池用スラリーを、乾燥後の膜厚が25μmとなるようにドクターブレード法によって均一に塗布し、60℃で30分乾燥後、150℃/真空で120分間加熱処理して電極を得た。その後、膜(電極活物質層)の密度が1.5g/cm3になるようにロールプレス機によりプレス加工することにより、電極を得た。
【0185】
(4)リチウムハーフセルの製造
アルゴン置換されたグローブボックス内で、上記電極を直径16mmに打ち抜き成形したものを、2極式コインセル(宝泉株式会社製、商品名「HSフラットセル」)上に載置した。次いで、直径24mmに打ち抜いたポリプロピレン製多孔膜からなるセパレーター(CS TECH CO., LTD製、商品名「Selion P2010」)を載置し、さらに、空気が入らないように電解液を500μL注入した後、市販の金属リチウム箔を16mmに打ち抜き成形したものを載置し、前記2極式コインセルの外装ボディーをネジで閉めて封止することにより、リチウムハーフセルを組み立てた。ここで使用した電解液は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解した溶液である。
【0186】
実施例2-2~2-23、比較例2-1~2-17
実施例2-1 においてシリコン粒子、天然黒鉛、水溶性バインダーを表3で示す数値に変更した他は実施例2-1と同様の操作でリチウムハーフセルを作製し、充放電測定を実施後、スプリングバック率、及び放電容量維持率を算出した。
比較例2-18~2-19
実施例2-1と同量のヒドロキシシリル化合物を用いて、特開2001-216961号公報を参照し、ヒドロキシシリル化合物で処理されたシリコン粒子を得た。この表面処理されたシリコン粒子、天然黒鉛、水溶性ポリマーを表3に示す数値に変更した他は実施例2-1と同様の操作でリチウムハーフセルを作製し、充放電測定を実施後、スプリングバック率、及び放電容量維持率を算出した。
【表3】
【0187】
<電気特性評価:スプリングバック率及び放電容量維持率>
(1)充放電測定
上記で製造したリチウムハーフセルを25℃の恒温槽に入れ、定電流(0.1C)にて充電を開始し、電圧が0.01Vになった時点で充電完了(カットオフ)とした。次いで、定電流(0.1C)にて放電を開始し、電圧が1.0Vになった時点を放電完了(カットオフ)とする充放電を30回繰り返した。
【0188】
(2)充放電の繰り返しに伴う電極のスプリングバック率
充放電サイクル試験を室温(25℃)で30サイクル行った後、リチウムハーフセルを解体し、電極の厚みを測定した。電極のスプリングバック率は下記式によって求めた。
スプリングバック率={(30サイクル後の電極厚み-集電体厚み)/(充放電前の電極厚み-集電体厚み)}×100-100 (%)
【0189】
(3)放電容量維持率
放電容量維持率は以下の式より求めた。
放電容量維持率={(30サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)}×100(%)
【0190】
なお、上記測定条件において「1C」とは、ある一定の電気容量を有するセルを定電流放電して1時間で放電終了となる電流値を示す。例えば「0.1C」とは、10時間かけて放電終了となる電流値のことであり、「10C」とは0.1時間かけて放電完了となる電流値のことをいう。
【0191】
表3から明らかなように、実施例のバインダー水溶液を用いて作製したリチウムハーフセル評価ではいずれも、スプリングバック率、及び放電容量維持率の評価が良好であった。
【0192】
また表3より実施例2-1と比較例2-18、又は実施例2-2と比較例2-19と比較して、活物質表面にヒドロキシシリル化合物を処理したものを使用するよりも本処方の方がスプリングバック率、及び放電容量維持率の評価が良好であった。
【0193】
実施例3-1:セパレータの評価
(1)スラリーの製造
実施例1-1で得られた水溶液を37.6質量部(固形分として5質量部)と水113質量部を撹拌混合し、ベーマイト(平均粒径0.8μm)を100質量部加え、ホモジナイザー(IKA社製 T25 digital ULTRA-TURRAX)で15000rpm 60分間、分散撹拌させた。できたスラリー液にさらにイオン交換水を加えて粘度を調整し、スラリーを作製した。
【0194】
(2)セパレータの製造:セパレータ用スラリーの層(コーティング層)の積層
幅250mm、長さ200mm、厚さ6μmの湿式法により製造された単層ポリエチレン製セパレータ基材(PE基材)を用意した。上記で得られたスラリー液をセパレータの一方の面上に、乾燥後の厚みが3.0μmになるようにグラビアコーターを用いて塗工、乾燥し、リチウムイオン電池用セパレータを得た。
【0195】
実施例3-2~3-20、23比較例3-1~3-13
セラミック粒子、バインダー溶液、基材を表4で示す数値に変更した他は実施例3-1と同様にしてリチウムイオン電池用セパレータを得た。
【0196】
実施例3-21
前記実施例3-3において水溶性ポリマーに対してグリオキザールを1wt%添加した水溶性ポリマー(A)を用いた以外、実施例3-3と同様の操作を行い、リチウムイオン電池用セパレータを得た。
【0197】
実施例3-22
前記実施例3-3において、スラリー液を正極側にコーティングした以外は実施例3-3と同様の操作でリチウムイオン電池用セパレータを得た。
【0198】
【表4】
表中の耐熱収縮性、耐粉落ち性、密着性、レート耐性及び出力特性は下記の方法により測定した。
【0199】
<耐熱収縮性>
実施例及び比較例で得られたセパレータを、幅12cm×長さ12cmの正方形に切り、正方形内部に1辺が10cmの正方形を描き試験片とした。試験片を150℃の恒温槽に入れ1時間放置することにより加熱処理した。加熱処理後、内部に描いた正方形の面積を測定し、加熱処理前後の面積の変化を熱収縮率として求め、下記の基準によって耐熱性を評価した。熱収縮率が小さいほどセパレータの耐熱収縮性が優れることを示す。
○:面積収縮率が1%未満
△:面積収縮率が1%以上3%未満
×:面積収縮率が3%以上
【0200】
<耐粉落ち性>
実施例及び比較例で得られたセパレータを10cm×10cm四方に切り出し、正確に質量(X0)を秤量し、一方を厚紙に貼りつけ固定した後、セラミック層側に綿布で覆った直径5cm、900gの分銅を乗せ、これらを50rpmの回転数で10分間擦り合わせた。その後、再度正確に質量(X1)を測定し、以下の式
粉落ち性={(X0-X1)/X0}×100
に従って粉落ち性(質量%)を算出することにより、セパレータの耐粉落ち性を以下の基準により評価した。
A:粉落ち性が2質量%未満
B:粉落ち性が2質量%以上5質量%未満
C:粉落ち性が5質量%以上
【0201】
<セパレータの密着性(ピール強度)>
実施例及び比較例で得られたセパレータから幅2cm×長さ10cmの試験片を切り出し、コーティング面を上にして固定する。次いで、該試験片のセラミック層表面に、幅15mmの粘着テープ(「セロテープ(登録商標)」 ニチバン(株)製))(JIS Z1522に規定)を押圧しながら貼り付けた後、25℃条件下で引張り試験機((株)エー・アンド・デイ製「テンシロンRTM-100」)を用いて、試験片の一端から該粘着テープを30mm/分の速度で180°方向に引き剥がしたときの応力を測定した。測定は5回行い、幅15mm当たりの値に換算し、その平均値をピール強度として算出した。ピール強度が大きいほど、基材とセラミック層との密着強度あるいはセラミック層同士の結着性が高く、セパレータ基材からセラミック層あるいはセラミック層同士が剥離し難いことを示す。
【0202】
<レート耐性、出力特性>
(1)ラミネート型リチウムイオン電池の製造
レート耐性、出力特性を測定するにあたりラミネート型リチウムイオン電池を次のようにして製造した。
(1-1A)負極の製造
市販の自転公転ミキサー(製品名「あわとり練太郎」、シンキー(株)製)を用い、上記ミキサー専用の容器に、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)/カルボキシメチルセルロース(CMC)(質量比1/1)水溶液を固形分換算で2部と、天然黒鉛(伊藤黒鉛工業株式会社製 製品名「Z-5F」)を98部とを混合した。そこにイオン交換水を固形分濃度40%となるように加えて、当該容器を前記ミキサーにセットした。次いで、2000rpmで10分間混練後、1分間脱泡を行い、電極用スラリーを得た。銅箔からなる集電体にリチウムイオン電池電極スラリーをのせて、ドクターブレードを用いて膜状に塗布した。集電体にリチウムイオン電池電極スラリーを塗布したものを80℃で20分間乾燥して水を揮発させて除去した後、ロ-ルプレス機により、密着接合させた。この時、電極活物質層の密度は1.0g/cm3となるようにした。接合物を120℃で2時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(26mm×31mmの矩形状)に切り取り、電極活物質層の厚さが15μmの負極とした。
(1-1B)正極の製造
正極活物質としてLiNi0.5Co0.2Mn0.3O2と導電助剤としてアセチレンブラックと、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、それぞれ88質量部、6質量部、6質量部を混合し、この混合物を適量のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させて、リチウムイオン電池正極用スラリーを製造した。次いで、正極の集電体としてアルミニウム箔を用意し、アルミニウム箔にリチウムイオン電池正極用スラリーをのせ、ドクターブレードを用いて膜状になるように塗布した。リチウムイオン電池正極用スラリーを塗布後のアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥してNMPを揮発させて除去した後、ロ-ルプレス機により、密着接合させた。この時、正極活物質層の密度は3.2g/cm2となるようにした。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状(25mm×30mmの矩形状)に切り取り、正極活物質層の厚さが45μm程度の正極とした。
【0203】
(1-2)ラミネート型リチウムイオン電池の製造
上記負極及び上記正極を用いて、ラミネート型リチウムイオン二次電池を製造した。詳しくは、正極及び負極の間に、実施例及び比較例で得られたセパレータを矩形状シート(27×32mm、厚さ25μm)により挟装して極板群とした。この極板群を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに電解液を注入した。電解液としてエチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=1/1(質量比)の溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解した溶液を用いた。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、極板群及び電解液が密閉されたラミネート型リチウムイオン二次電池を得た。なお、正極及び負極は外部と電気的に接続可能なタブを備え、このタブの一部はラミネート型リチウムイオン二次電池の外側に延出している。以上の工程で製造したラミネート型リチウムイオン電池を通電したところ、動作上の問題は生じなかった。
【0204】
(2)レート耐性、出力特性の測定
上記製造したリチウムイオン二次電池を用いて、25℃で0.1Cで2.5~4.2V電圧で充電し、電圧が4.2Vになった時点で引き続き定電圧(4.2V)にて充電を続行し、電流値が0.01Cとなった時点を充電完了(カットオフ)とした。次いで0.1Cで2.5Vまで放電する充放電を5回繰り返し、6サイクル目以降は放電のみ1Cに変更し充放電を50サイクル繰り返した。6サイクル目の充電容量における6サイクル目の1C放電容量の割合を百分率で算出した値を初期レート維持率とした。この値が大きいほど、レート耐性が良好である。さらに5サイクル目の1C放電容量に対する50サイクル目の1C放電容量の割合を百分率で算出した値を容量維持率とした。この値が大きいほど出力特性が良好である。