(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】インシュレータの貼着方法及び冶具
(51)【国際特許分類】
F02K 9/34 20060101AFI20220509BHJP
B64G 1/00 20060101ALI20220509BHJP
B64F 5/10 20170101ALI20220509BHJP
F42B 15/34 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
F02K9/34
B64G1/00 F
B64F5/10
F42B15/34
(21)【出願番号】P 2018039211
(22)【出願日】2018-03-06
【審査請求日】2021-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002826
【氏名又は名称】弁理士法人雄渾
(74)【代理人】
【識別番号】100197022
【氏名又は名称】谷水 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【氏名又は名称】浅見 保男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宗史
(72)【発明者】
【氏名】ななめ木 一寿
(72)【発明者】
【氏名】詫間 浩和
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-159451(JP,A)
【文献】特開昭61-011383(JP,A)
【文献】特開平11-022554(JP,A)
【文献】特開昭62-271949(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109236500(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02K 9/34
B64G 1/00
B64F 5/10
F42B 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロケットモータ用のモータケースの内面にインシュレータ
の全面を貼着する方法であって、
モータケース又はインシュレータの貼着面に、接着剤を塗布する塗布工程、
モータケースとインシュレータを貼着する貼着工程、を備え、
前記の塗布工程は、接着剤を塗布する塗布領域と、接着剤を塗布しない未塗布領域を形成することを特徴とする、インシュレータの貼着方法。
【請求項2】
前記塗布工程では、前記の未塗布領域
及び前記の塗布領域のそれぞれを複数の帯状に形成
し、前記未塗布領域と前記塗布領域とを前記インシュレータの軸心に略平行に等間隔で交互に配置するとともに、前記モータケースの下部又は上部に全周塗布領域を設け、
前記貼着工程では、塗布した前記接着剤を前記全周塗布領域から押し広げることで前記インシュレータを接着することを特徴とする、請求項1に記載のインシュレータの貼着方法。
【請求項3】
前記の塗布工程は、未塗布領域を形成するための冶具を使用することを特徴とする、請求項1又は2に記載のインシュレータの貼着方法。
【請求項4】
前記の塗布工程は、インシュレータの貼着面に、接着剤を塗布することを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のインシュレータの貼着方法。
【請求項5】
前記の貼着工程は、インシュレータの内部に投入したエアバッグを膨張することにより、インシュレータをモータケースの内面に圧着することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のインシュレータの貼着方法。
【請求項6】
前記の貼着工程は、モータケースの内部を減圧することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のインシュレータの貼着方法。
【請求項7】
ロケットモータ用のモータケースの内面にインシュレータ
の全面を貼着する方法に使用するための冶具であって、
モータケース又はインシュレータの貼着面に取り付けられ、接着剤を塗布しない未塗布領域を形成することを特徴とする、冶具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロケットモータ用のモータケースの内面にインシュレータを貼着する方法に関する。また、本発明は、ロケットモータ用のモータケースの内面にインシュレータを貼着する方法に使用するための冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
ロケットモータは、固体の燃料と酸化剤を混錬してロケット本体に充填した固体燃料を推進薬(以下、「固体推進薬」という。)として使用する固体燃料ロケットである。ロケットモータは、防衛用ロケット弾、ミサイル、人工衛星打ち上げ用ロケットの推進機関、観測用ロケット、姿勢制御用ロケット等として広く利用されている。ロケットモータは、主にモータケース、ノズル、固体推進薬、点火装置で構成される。点火装置によってモータケースの内部に充填された固体推進薬が点火されると、モータケース内部に高温、高圧の燃焼ガスが発生し、この燃焼ガスがノズルから高速流出することにより推進力が発生する。
【0003】
モータケースの内面には、モータケース内に充填される固体推進薬との断熱のためにインシュレータが貼着される。インシュレータは、固体推進薬の燃焼中に発生する高温、高圧、高速の燃焼ガスからモータケースを熱的に保護するものである。インシュレータの貼着方法としては、インシュレータの素片をモータケースの内面に順次接着剤にて貼り付けて積層し、ローラ等を用いて加圧することでモータケースの内面に密着させて貼着する。
【0004】
また、特許文献1には、インシュレータの貼着方法として、エアバッグで加圧することによりモータケースの内面にインシュレータを貼着する方法が開示されている。この貼着方法は、所定の大きさに裁断したインシュレータの素片を円筒状のマンドレルの外周に貼り合わせながら積層して中空状円筒状のインシュレータを成形し、成形されたインシュレータをマンドレルから抜き取った上で、モータケースの内部に挿入し、そして、インシュレータの内側からエアバッグで加圧してインシュレータをモータケースの内面に圧着させる方法である。
【0005】
エアバッグによりインシュレータを圧着させる方法では、インシュレータとモータケースの間に空気が封じ込まれることを防止することができる。つまりは、エアバッグの肉厚を予め変化させ、エアバッグの長手方向中央部の肉厚を局部的に小さくすると、エアバッグを膨らませる際にエアバッグの長手方向中央部から長手方向両端部に向かって順にエアバッグが膨張するため、インシュレータとモータケースとの間の空気を追い出すことができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のインシュレータを圧着させる方法では、エアバッグによりインシュレータとモータケースの隙間の空気を追い出して、空気が封じ込まれることを防止している。しかしながら、インシュレータとモータケースを接着するための接着剤に気泡が含まれることがある。そして、この接着剤に含まれる気泡は、エアバッグにより圧着しても追い出されず、インシュレータとモータケースの間の接着層に空気が残ることがある。
接着層内に空気があると、焼食と剥離の増幅連鎖から設計燃焼面以外における固体推進薬の異常燃焼が生じ、ロケットモータの所定の燃焼性能を達することができない恐れがある。
【0008】
本発明の課題は、ロケットモータ用のモータケースの内面にインシュレータを貼着する方法において、接着剤に含まれる気泡を追い出し、インシュレータとモータケースの間の接着層に空気が封じ込まれることを防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を重ねた結果、モータケース又はインシュレータの貼着面に接着剤を塗布する際に、接着剤を塗布する塗布領域と、接着剤を塗布しない未塗布領域を形成すると、インシュレータとモータケースに貼着する貼着工程において、接着剤が未塗布領域に広がって接着剤に含まれる気泡が追い出されることを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のインシュレータの貼着方法及び冶具である。
【0010】
上記課題を解決するための本発明のインシュレータの貼着方法は、ロケットモータ用のモータケースの内面にインシュレータを貼着する方法であって、モータケース又はインシュレータの貼着面に、接着剤を塗布する塗布工程、モータケースとインシュレータを貼着する貼着工程、を備え、前記の塗布工程は、接着剤を塗布する塗布領域と、接着剤を塗布しない未塗布領域を形成することを特徴とするものである。
このインシュレータの貼着方法によれば、インシュレータをモータケースの内面に貼着する際に、塗布領域の接着剤が未塗布領域に広がって、接着剤に含まれる気泡が追い出される。これにより、インシュレータとモータケースの間に空気が封じ込まれることを防止することができる。
【0011】
更に、本発明のインシュレータの貼着方法の一実施態様によれば、未塗布領域は、複数の帯状に形成され、複数の帯状の未塗布領域は、等間隔に配置することを特徴とする。
この特徴によれば、未塗布領域が複数の帯状であるため、インシュレータを圧着する際に、押し出される空気が直線的にスムーズに排出される。これにより、接着剤による空気の巻き込みをより確実に抑えることができる。また、等間隔に配置することにより、接着剤が均等に広がるため、接着剤層の厚みが均等になるという効果がある。
【0012】
更に、本発明のインシュレータの貼着方法の一実施態様によれば、塗布工程は、未塗布領域を形成するための冶具を使用することを特徴とする。
この特徴によれば、簡易的に、かつ、正確に未塗布領域を形成することができる。
【0013】
更に、本発明のインシュレータの貼着方法の一実施態様によれば、塗布工程は、インシュレータの貼着面に、接着剤を塗布することを特徴とする。
モータケースの貼着面は、モータケースの内面であることから、接着剤が塗布しにくい。一方、インシュレータ側の貼着面は、インシュレータの外面であるため、上記の特徴によれば、接着剤が塗布しやすいという効果を奏する。
【0014】
更に、本発明のインシュレータの貼着方法の一実施態様によれば、貼着工程は、インシュレータの内部に投入したエアバッグを膨張することにより、インシュレータをモータケースの内面に圧着することを特徴とする。
この特徴によれば、内部に投入されたエアバッグを膨張させることによって簡易的にインシュレータをモータケースの内面に貼着することができる。
【0015】
更に、本発明のインシュレータの貼着方法の一実施態様によれば、貼着工程は、モータケースの内部を減圧することを特徴とする。
この特徴によれば、インシュレータの圧着による空気の追い出し作用だけでなく、減圧による空気の引き出し作用も加わるため、インシュレータとモータケースの間に空気が封じ込まれることを防止するという本発明の効果をより一層発揮することができる。
【0016】
また、上記課題を解決するための本発明の冶具は、ロケットモータ用のモータケースの内面にインシュレータを貼着する方法に使用するための冶具であって、モータケース又はインシュレータの貼着面に取り付けられ、接着剤を塗布しない未塗布領域を形成することを特徴とするものである。
この冶具によれば、本発明のインシュレータの貼着方法を、簡易的に、かつ、正確に実施することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ロケットモータ用のモータケースの内面にインシュレータを貼着する方法において、接着剤に含まれる気泡を追い出し、インシュレータとモータケースの間の接着層に空気が封じ込まれることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施態様の塗布工程における冶具を取り付ける工程を示す概略説明図である。
【
図2】本発明の実施態様の塗布工程における接着剤を塗布する工程及び冶具を取り外す工程を示す概略説明図である。
【
図3】本発明の実施態様の貼着工程におけるインシュレータをモータケースの内部に導入する工程を示す概略説明図である。
【
図4】本発明の実施態様の貼着工程におけるエアバッグを投入する工程及びエアバッグを膨らませてインシュレータをモータケースの内面に圧着する工程を示す概略説明図である。
【
図5】本発明の他の実施態様の貼着工程におけるエアバッグを投入する工程及びエアバッグを膨らませてインシュレータをモータケースの内面に圧着する工程を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のインシュレータの貼着方法は、ロケットモータ用のモータケースの内面にインシュレータを貼着する方法であって、モータケース又はインシュレータの貼着面に、接着剤を塗布する塗布工程、モータケースとインシュレータを貼着する貼着工程、を備え、前記の塗布工程は、接着剤を塗布する塗布領域と、接着剤を塗布しない未塗布領域を形成することを特徴とする。
【0020】
インシュレータは、ロケットモータのモータケースの内面に貼着されるものであり、モータケース内に充填される固体推進薬との断熱に利用されるものである。インシュレータの構成は、特に制限されないが、バインダーとしての機能を果たすエラストマーと、強度等の機械的な物性を向上させるフィラーと、種々の機能を果たす添加物とから構成されることが一般的である。好ましいエラストマーとしては、加硫可能なエラストマーであり、例えば、ポリイソプレン構造をもつ天然ゴムや、天然ゴムと同じポリイソプレン構造を有し、化学合成されたイソプレンゴムや、不飽和結合を有し、硫黄架橋を可能としたエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体や、アクリロニトリルとブタジエンの共重合体であるアクリロニトリルブタジエンゴムや、液状ブタジエンゴム(1,2-ブタジエンゴム、1,4-ブタジエンゴム)や、液状イソプレンゴム(1,4-イソプレンゴム)や、液状アクリロニトリルブタジエンゴムや、液状スチレン・ブタジエンゴムや、液状ポリブテンや、液状ウレタンゴムなどが例示される。これらのエラストマーは、1種類のゴムを単独で使用することも、各ゴムの持つ利点をそれぞれ利用するためにこれらのゴムをブレンドして使用することもできる。
【0021】
フィラーとしては、芳香族ポリアミド系パルプ状繊維、芳香族ポリアミド繊維、炭素繊維、ガラス繊維、カーボンブラック、アスベスト、粒状シリカなどが使用される。これらは単独で使用することも、2種以上をブレンドして使用することもできる。
【0022】
インシュレータに添加する添加物には、例えば、ゴム製品の硬度を調整し混錬性、加工性を改善するための軟化剤や可塑剤、ゴムの劣化を防止するための老化防止剤、ゴムの混錬、圧延時等の加工性を改善し、適切な粘着性を得るための加工助剤や粘着付与剤、鎖状ゴム分子を三次元構造に形成させるための加硫用又は架橋用配合剤などがある。これらの添加物は、使用されるエラストマーやフィラーとゴムの製造方法に適した添加物の組み合わせを適宜選択して使用される。
【0023】
軟化剤及び可塑剤としては、鉱物油系軟化剤及び植物油系軟化剤が使用できる。鉱物油系軟化剤は、例えば、パラフィン系軟化剤、芳香族系軟化剤、ナフテン系軟化剤などが挙げられ、植物油系軟化剤は、例えば、ステアリン酸などの脂肪酸又はその塩、菜種油、パーム油、やし油などの脂肪油、パインオイル、ロジン、ファクチス(サブ)などが挙げられる。老化防止剤としては、例えば、アミン系、フェノール系老化防止剤及び硫黄化合物やホスファイト類が二次老化防止剤として使用することができる。加工助剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸の金属塩、ステアリルアミン、高融点ワックス、低分子量ポリエチレングリコールなどが利用できる。また、粘着付与剤としては、クマロン樹脂、フェノール、テルペン系樹脂、石油系炭化水素樹脂、ロジン誘導体などが使用できる。
【0024】
インシュレータに含まれる加硫可能なエラストマーとその他の添加物の合計含有量は、特に制限されないが、好ましくは30~95質量%である。下限としては、より好ましくは35質量%以上であり、更に好ましくは40質量%以上であり、特に好ましくは50質量%以上である。上限としては、より好ましくは90質量%以下であり、更に好ましくは85質量%以下であり、特に好ましくは80質量%以下である。
なお、インシュレータに含まれるその他の添加物の含有量は、特に制限されないが、上限として20質量%以下であり、好ましくは15質量%以下であり、特に好ましくは10質量%以下である。
インシュレータに含まれるフィラーの含有量は、特に制限されないが、好ましくは5~70質量%である。下限としては、より好ましくは10質量%以上であり、更に好ましくは15質量%以上であり、特に好ましくは20質量%以上である。上限としては、より好ましくは65質量%以下であり、更に好ましくは60質量%以下であり、特に好ましくは50質量%以下である。
【0025】
貼着前のインシュレータの形状は、シート状であればよく、モータケースの形状に応じて適宜設計すればよい。例えば、平板状のシートだけでなく、円筒形状のシートや、矩形筒状のシートなどでもよい。また、シートは複数のシートが積層された積層体としてもよい。エアバッグ等を用いて、モータケースの内面の全周に一度に貼着できるという観点から、筒形状のシートが好ましく、均等に貼着できるという観点から、円筒形状のシートが特に好ましい。
【0026】
接着剤は、モータケースの内面と、インシュレータを貼着するためのものであり、例えば、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤などが挙げられる。また、加硫により接着する加硫型の接着剤でもよい。
【0027】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るインシュレータの貼着方法の実施態様を詳細に説明する。なお、実施態様に記載するインシュレータ、モータケース等の各部材の構造や、塗布領域や未塗布領域の形状など、塗布工程や貼着工程の具体的態様等については、本発明に係るインシュレータの貼着方法を説明するために例示したにすぎず、これに限定されるものではない。
【0028】
[塗布工程]
塗布工程は、モータケース又はインシュレータの貼着面に、接着剤を塗布する工程である。本実施態様における接着剤を塗布する工程は、インシュレータに冶具を取り付ける工程、冶具を取り付けたインシュレータに接着剤を塗布する工程、接着剤を塗布したインシュレータから冶具を取り外す工程を備える。
【0029】
図1に、本発明の実施態様の塗布工程における冶具2を取り付ける工程を示す。
図1(A)には、インシュレータ1(左図)及び冶具2(右図)の概略説明図を示す。本実施態様におけるインシュレータ1の形状は、円筒形状である。冶具2は、未塗布領域を形成するためにインシュレータ1の貼着面である外面をマスキングするものである。
【0030】
冶具2は、インシュレータ1と略同径の円柱状の土台22と、その上面の周囲に等間隔に取り付けられた複数の帯状のマスキング部21を備えたものである。また、複数の帯状のマスキング部21の幅径は、同一の幅径である。マスキング部21の材質は、可撓性を有するポリプロピレン製のシートである。
【0031】
図1(B)に、インシュレータ1に冶具2を取り付ける工程の概略説明図を示す。
図1(B)に示すように、インシュレータ1に冶具2を取り付ける工程は、土台22の天面にインシュレータ1を載置し、その後、インシュレータ1の外面にマスキング部21を貼付する。なお、
図1(B)左図は、インシュレータ1を土台22の天面に載置した様子を示す斜視図であり、
図1(B)右図は、インシュレータ1の外面にマスキング部21を貼付した様子を示す側面図である。
【0032】
図2に、本発明の実施態様の塗布工程における接着剤を塗布する工程及び冶具2を取り外す工程を示す。
図2の左図は、接着剤を塗布した後の状態を示しており、インシュレータ1に接着剤が塗布された領域をドット柄で示す。
【0033】
接着剤を塗布する工程は、どのような方法でもよく、例えば、ヘラなどの塗布具を用いて塗布する方法や、噴霧器を用いて噴霧して塗布する方法や、接着剤にインシュレータを浸漬して塗布する方法などが挙げられる。
【0034】
接着剤を塗布した後、冶具2を取り外す。
図2の右図は、冶具2を取り外した状態のインシュレータ1を示す。
図2右図に示すように、インシュレータ1の外面には、塗布領域11(ドット柄)と、未塗布領域12が形成される。また、未塗布領域12は、インシュレータ1の端部に開放されている(開放部13)。
【0035】
未塗布領域12は、複数の帯状に形成され、インシュレータ1の外面の全周にわたって形成されている。また、複数の帯状の未塗布領域12は、インシュレータ1の軸心と略平行に形成され、各未塗布領域12は、インシュレータ1の一方の端部にそれぞれの開放部13を有する。開放部13を設けることにより、未塗布領域12の空気をインシュレータ1の一方の端部に向かって移送し、開放部13から引き抜くことができる。よって、圧着の際に、接着剤が空気を巻き込みにくいという効果をより一層発揮する。
さらに、塗布領域11及び未塗布領域12は、それぞれ等間隔に配置されている。これにより、接着剤が均等に広がるため、接着剤層の厚みが均等になるという効果がある。
【0036】
なお、未塗布領域の形状及び配置は、どのような形状や配置としてよい。
形状としては、例えば、帯状、線状、矩形状、円弧状などが挙げられる。未塗布領域の空気を抜きやすいという観点から、好ましくは帯状、線状であり、特に好ましくは直線的な帯状、直線状である。
また、配置としては、例えば、インシュレータの軸心と略平行に配置したり、軸心と傾斜して配置したりしてもよい。未塗布領域の空気の抜けやすさを考慮すると、インシュレータの軸心と略平行に等間隔で配置することが好ましい。
【0037】
塗布領域11の幅長と未塗布領域12の幅長の比(塗布幅/未塗布幅)は、特に制限されないが、好ましくは0.01~100である。下限としては、より好ましくは0.1以上であり、さらに好ましくは0.5以上であり、特に好ましくは0.9以上である。上限としては、より好ましくは10以下であり、さらに好ましくは5以下であり、特に好ましくは1.1以下である。なお、塗布領域の幅長と未塗布領域の幅長の比とは、所定の高さ位置における塗布領域の幅長と未塗布領域の幅長の比を示す(
図2右図参照。)。当該比の範囲は、インシュレータの高さ方向又は周方向の一部の領域において当該条件を満たせばよいが、接着層の厚さを均一にするという観点から、高さ方向又は周方向のいずれかの方向の全ての領域において当該条件を満たすことが好ましく、特には、高さ方向及び周方向の両方向の全ての領域において当該条件を満たすことが好ましい。
【0038】
[貼着工程]
貼着工程は、モータケースとインシュレータを貼着する工程である。本発明の実施態様の貼着工程は、インシュレータをモータケースの内部に導入する工程、エアバッグを投入する工程、エアバッグを膨らませてインシュレータをモータケースの内面に圧着する工程を備える。
【0039】
図3は、本発明の実施態様の貼着工程におけるインシュレータをモータケースの内部に導入する工程を示す。
図3に示すように、モータケース3の内部にインシュレータ1を導入する。エアバッグを下部に設置し、下部から上部に向かって圧着することを勘案して、インシュレータ1は、開放部13が上部となるように配置する。このように、エアバッグ等の圧着装置とインシュレータ1の開放部13との配置を、開放部13から未塗布領域12の空気が抜けるように、圧着方向の先端に開放部13を配置する。これにより、未塗布領域12の空気を追い出すことができる。
【0040】
図4は、本発明の実施態様の貼着工程におけるエアバッグ4を投入する工程及びエアバッグ4を膨らませてインシュレータ1をモータケース3の内面に圧着する工程を示す概略説明図である。
【0041】
図4の左図に示すように、インシュレータ1の内側にエアバッグ4を投入する。次に、モータケース3を密閉し、モータケース3の内部を真空ポンプ(図示しない)で減圧する。モータケース3の内部を減圧すると、
図4右図に示すように、エアバッグ4が膨張してインシュレータ4をモータケース3の内面に圧着する。インシュレータ1を圧着させながら数時間放置して接着剤を硬化させることにより、インシュレータ1がモータケース2の内面に貼着する。なお、接着剤の硬化の際に、加熱処理してもよい。
【0042】
また、エアバッグを膨らませる手段としては、実施態様のようにモータケースの内部を減圧してもよいし、エアバッグにコンプレッサで空気を供給してもよい。モータケースの内部を減圧すると、インシュレータとモータケースの間の空気を引き抜く作用があるため、インシュレータとモータケースの間に空気が封じ込まれることを一層防止することができる。別の態様としては、エアバッグを膨らませる際に、モータケースを減圧してインシュレータを圧着し、その後、接着剤の硬化の間は、エアバッグに空気を供給してインシュレータを圧着してもよい。
【0043】
また、インシュレータを圧着させる工程では、エアバッグによる圧着だけでなく、加圧ローラ等の圧着装置により圧着してもよい。
【0044】
なお、本発明のインシュレータの貼着方法の別の態様としては、接着剤をモータケースの内面側に塗布してもよい。また、接着剤をインシュレータ側とモータケース側の両方に塗布してもよい。
【0045】
上記実施態様では、エアバッグ4を膨らませる手段としてモータケース3を減圧するが、圧着装置を問わず、減圧することが好ましい。貼着工程においてモータケース3の内部を減圧することにより、インシュレータ1とモータケース3の間の空気が引き抜かれるため、インシュレータ1と圧着装置の配置を、開放部13から未塗布領域12の空気が抜けるように配置しなくてもよい。
【0046】
減圧することにより、例えば、
図5に示すように、接着剤をインシュレータ1の全周に塗布した全周塗布領域14を、モータケース3のノズル側に配置し、ノズル側の対向する位置からエアバッグ4により圧着することができる。ノズル側のモータケース3とインシュレータ1との接着面には、火炎が入りやすいため、接着剤を多めに塗布して強固に接着する必要がある。全周塗布領域14をノズル側に配置し、ノズル側の対向する位置から圧着すると、ノズル側に接着剤が多く集まるためモータケース3とインシュレータ1が強固に接着される。
また、ノズル側の対向する位置には未塗布領域12が形成されていることから、エアバッグ4によりインシュレータ1を圧着した際に、塗布領域11の接着剤が未塗布領域12に広がり、接着剤中に含まれる気泡を接着剤から未塗布領域12に追い出すことができる。未塗布領域12に追い出された空気は、インシュレータ1とモータケース3との間から減圧により引き抜かれるため、インシュレータ1とモータケース3の間の接着層に空気が封じ込まれることを防止することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 インシュレータ、11 塗布領域、12 未塗布領域、13 開放部、14 全周塗布領域、2 冶具、21 マスキング部、22 土台、3 モータケース、4 エアバッグ