(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】半導体スイッチング素子のゲート駆動回路およびパルス電源
(51)【国際特許分類】
H03K 17/04 20060101AFI20220509BHJP
H03K 17/691 20060101ALI20220509BHJP
H02M 1/08 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
H03K17/04 E
H03K17/691
H02M1/08 A
H02M1/08 301A
(21)【出願番号】P 2018132795
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】東 征男
(72)【発明者】
【氏名】長田 俊宏
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-082362(JP,A)
【文献】実開平02-070526(JP,U)
【文献】特開昭63-139421(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02712082(EP,A1)
【文献】中国実用新案第202524281(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 17/00-17/70
H02M 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次巻線がパルス電圧源に接続されるパルストランスと、
パルストランスの二次巻線一端側と二次巻線他端側との間において並列接続された放電用トランジスタおよびツェナーダイオードと、
を備え、
パルストランスの二次巻線一端側は、半導体スイッチング素子のゲートに接続され、
二次巻線一端側
には、直列接続された第1,第2,第3ダイオードが、当該第1,第2,第3の順で半導体スイッチング素子のゲートに向かって順方向となるように、直列に挿入接続され、
パルストランスの二次巻線他端側は、半導体スイッチング素子のソースに接続され、
放電用トランジスタは、
PNPトランジスタであって、
エミッタが、二次巻線一端側における第2,第3ダイオードの間に接続され、
コレクタが、二次巻線他端側に接続され、
ベースが、二次巻線一端側における第1,第2ダイオードの間に接続、および抵抗器を介して二次巻線他端側に接続され、
ツェナーダイオードは、
カソードが、二次巻線一端側の第2,第3ダイオードの間における放電用トランジスタのエミッタとの接続点と、当該第3ダイオードと、の間に接続され、
アノードが、二次巻線他端側に接続され、
第3ダイオードのカソード側からアノード側にバイパスするバイパス回路が、接続され、
半導体スイッチング素子は、容量性のゲートを有した構造であり、直流電源から負荷に供給される直流電力エネルギーをパルス状に変換することを特徴とする半導体スイッチング素子のゲート駆動回路。
【請求項2】
バイパス回路は、抵抗器が直列に挿入接続されていることを特徴とする請求項1記載の半導体スイッチング素子のゲート駆動回路。
【請求項3】
半導体スイッチング素子は、SiCを用いて成るMOSFET構造であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体スイッチング素子のゲート駆動回路。
【請求項4】
負荷に対して直列接続される直流電源と、
容量性のゲートを有し、直流電源と負荷との間に直列に挿入接続される第1の半導体スイッチング素子と、
を備え、
第1の半導体スイッチング素子は、請求項1~3の何れかに記載の半導体スイッチング素子のゲート駆動回路により、スイッチング動作することを特徴とするパルス電源。
【請求項5】
容量性のゲートを有し、負荷に対して並列接続される第2の半導体スイッチング素子を、更に備え、
第2の半導体スイッチング素子は、請求項1~3の何れかに記載の半導体スイッチング素子のゲート駆動回路により、スイッチング動作することを特徴とする請求項4記載のパルス電源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス電源、および当該パルス電源に適用可能な半導体スイッチング素子のゲート駆動回路技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
種々の分野で適用されているパルス幅変調方式のパルス電源において、高圧・大電流のパルスを負荷に供給できる回路構成としては、パルスフォーミングライン(PFL),パルスフォーミングナットワーク(PFN),ブルームライン(BL)等の手段を利用する回路構成の他に、当該手段を利用せずに直流電源等からの直流電力エネルギーを半導体スイッチング素子によりパルス状に変換して負荷に直接供給する回路構成(後述の
図2等では、半導体スイッチング素子SW1,SW2等によりパルス状に変換する構成;以下、単に直接供給構成と適宜称する)が、知られている(例えば特許文献1,2)。
【0003】
直接供給構成では、負荷に対する印加と同様に、半導体スイッチング素子に対して高圧・大電流が印加(例えば数kV~数十kV程度が印加)されることとなるため、当該半導体スイッチング素子には耐電圧性を有するものを適用することが望ましい。
【0004】
また、負荷に対して所望のパルスを印加できるようにするため、半導体スイッチング素子のスイッチング動作(ターンオン・ターンオフ)の応答速度が速く(例えばパルスの立ち上がり時間/立ち下がり時間が数ns~数十ns程度に短く)、パルス幅を狭くでき(例えば数十ns~数百ns程度に狭くでき)、容易にパルス幅変調できる構成とすることが望ましい。
【0005】
前述のように耐電圧性を有し所望のパルスを負荷に印加する半導体スイッチング素子としては、容量性のゲートを備えた構造(例えばSiC等を用いて成るMOSFET(MOS電界効果トランジスタ)構造)のものがあり、当該半導体スイッチング素子をゲート駆動回路で適宜動作させることが挙げられる。
【0006】
ゲート駆動回路は、パルストランスの一次巻線がパルス電圧源に接続され、当該パルストランスの二次巻線が半導体スイッチング素子に接続された構成(具体的には、二次巻線一端側が半導体スイッチング素子のゲートに接続され、二次巻線他端側が当該半導体スイッチング素子のソースに接続された構成)が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-9216号公報
【文献】特開2010-193646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述のように半導体スイッチング素子に接続されるパルストランスの二次巻線は、当該半導体スイッチング素子のゲートまでの経路(以下、単にゲート信号経路と適宜称する)において、逆流を防止するダイオードが装備(例えばゲートに向かって順方向となるようにダイオードを直列に挿入接続して装備)される他に、抵抗器(いわゆるゲート抵抗器)等が装備されることがあり、これによりリンギングを抑制できるとされている。
【0009】
しかしながら、前述のようなゲート抵抗器によりゲート信号経路の抵抗が大きくなると、半導体スイッチング素子のスイッチング動作の応答速度が遅くなり易く、所望の高速動作ができなくなるおそれがある。
【0010】
本発明は、かかる技術的課題を鑑みてなされたものであって、半導体スイッチング素子のスイッチング動作の応答速度の向上、およびリンギングの抑制に貢献する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の一態様は、一次巻線がパルス電圧源に接続されるパルストランスと、パルストランスの二次巻線一端側と二次巻線他端側との間において並列接続された放電用トランジスタおよびツェナーダイオードと、を備えた半導体スイッチング素子のゲート駆動回路である。
【0012】
そして、パルストランスの二次巻線一端側は、半導体スイッチング素子のゲートに接続され、二次巻線一端側には、直列接続された第1,第2,第3ダイオードが、当該第1,第2,第3の順で半導体スイッチング素子のゲートに向かって順方向となるように、直列に挿入接続され、パルストランスの二次巻線他端側は、半導体スイッチング素子のソースに接続され、放電用トランジスタは、PNPトランジスタであって、エミッタが、二次巻線一端側における第2,第3ダイオードの間に接続され、コレクタが、二次巻線他端側に接続され、ベースが、二次巻線一端側における第1,第2ダイオードの間に接続、および抵抗器を介して二次巻線他端側に接続され、ツェナーダイオードは、カソードが、二次巻線一端側の第2,第3ダイオードの間における放電用トランジスタのエミッタとの接続点と、当該第3ダイオードと、の間に接続され、アノードが、二次巻線他端側に接続され、第3ダイオードのカソード側からアノード側にバイパスするバイパス回路が、接続され、半導体スイッチング素子は、容量性のゲートを有した構造であり、直流電源から負荷に供給される直流電力エネルギーをパルス状に変換することを特徴とする。
【0013】
バイパス回路は、抵抗器が直列に挿入接続されているものであっても良い。また、半導体スイッチング素子は、SiCを用いて成るMOSFET構造であっても良い。
【0014】
他の態様は、負荷に対して直列接続される直流電源と、容量性のゲートを有し、直流電源と負荷との間に直列に挿入接続される第1の半導体スイッチング素子と、を備えたパルス電源である。そして、第1の半導体スイッチング素子は、前述のゲート駆動回路によりスイッチング動作することを特徴とする。
【0015】
また、他の態様においては、容量性のゲートを有し、負荷に対して並列接続される第2の半導体スイッチング素子を、更に備え、第2の半導体スイッチング素子は、前述のゲート駆動回路によりスイッチング動作するものであっても良い。
【発明の効果】
【0016】
以上示したように本発明によれば、半導体スイッチング素子のスイッチング動作の応答速度の向上、およびリンギングの抑制に貢献することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施例によるゲート駆動回路10を説明するための概略構成図。
【
図2】本実施形態のゲート駆動回路(例えばゲート駆動回路10)の適用例であるパルス電源P1を説明するための概略構成図。
【
図3】
図2のスイッチSW1,SW2のスイッチング動作例を説明するためのタイミングチャート図。
【
図4】複数個直列接続されたスイッチ製品SWをスイッチング動作させるゲート駆動回路40を説明するための概略構成図。
【
図5】参照例によるゲート駆動回路50を説明するための概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態における半導体スイッチング素子のゲート駆動回路は、直接供給構成のパルス電源に適用可能な半導体スイッチング素子(以下、単にスイッチと適宜称する)を適宜オン・オフするように駆動できるものであり、例えば従来の回路のように、パルストランスの二次巻線のゲート信号経路において単にゲート抵抗器等を装備した構成(以下、単に従来回路と適宜称する)とは、全く異なるものである。
【0019】
すなわち、本実施形態は、ゲート抵抗器を装備する代わりに、パルストランスの二次巻線一端側(ゲート信号経路側)と二次巻線他端側との間において放電用トランジスタおよびツェナーダイオードを並列接続した構成である。
【0020】
また、スイッチの過渡現象によりツェナーダイオード等を経由して流れ得る電流を、パルストランスの二次巻線一端側に備えられたバイパス回路により抑制した構成である。
【0021】
この本実施形態のような構成によれば、例えばパルストランスのゲート信号経路にゲート抵抗器を装備していなくても、スイッチのゲート・ソース間の電圧にリンギングが発生し得る場合に、ツェナーダイオードによって当該リンギングが抑制されることとなる。
【0022】
また、前述のようにゲート抵抗器を装備しない構成により、例えば従来回路と比較して、ゲート信号経路の抵抗を小さくすることができる。これにより、スイッチのスイッチング動作の応答速度が速くなり、負荷に対して所望のパルスを供給し易くなる。
【0023】
また、前述のようにスイッチがターンオフ状態となる場合の過渡現象によって流れる電流は、電流量が大きくなると当該スイッチの誤動作を引き起こす要因の一つとなり得るが、本実施形態のように当該電流を抑制するバイパス回路を備えた構成によれば、当該スイッチの誤動作が抑制されることとなる。
【0024】
本実施形態のスイッチのゲート駆動回路は、前述のようにパルストランスの二次巻線一端側と二次巻線他端側との間において放電用トランジスタおよびツェナーダイオードを並列接続し、スイッチの過渡現象によりツェナーダイオード等を経由して流れ得る電流を抑制した構成であれば、種々の分野(例えばパルス電源技術,ゲート駆動回路技術,半導体スイッチング素子技術等の分野)の技術常識を適宜適用して設計することが可能であり、その一例として以下に示すものが挙げられる。
【0025】
≪本実施形態によるゲート駆動回路の適用例≫
図2は、本実施形態のゲート駆動回路(例えば後述の
図1に示すゲート駆動回路10)を適用できるパルス電源P1を説明するものである。
【0026】
図2に示すパルス電源P1は、負荷LDに対して直流電源EVが直列接続され、当該直流電源EVと負荷LDとの間(
図2中では正極側)においてスイッチSW1が直列に挿入接続されている。直流電源EVの直流電力エネルギーを負荷LDに供給する場合に、図外のゲート駆動回路によって、スイッチSW1を適宜スイッチング動作させてターンオン・ターンオフを繰り返すことにより、当該直流電力エネルギーがパルス状に変換して負荷LDに供給される。すなわち、負荷LDに対して所望のパルスを供給できることとなる。
【0027】
図2に示すパルス電源P1の場合、直流電源EVとスイッチSW1との間にコンデンサCの一端が接続され、当該コンデンサCの他端が直流電源EVの負極側に接続されている。このコンデンサCにより、直流電源EVの応答性に起因する電圧低下を抑制することができる。
【0028】
また、スイッチSW1と負荷LDとの間に抵抗器r1直列に挿入接続されており、これにより、直流電源EVと負荷LDとの間に存在し得るインダクタンス成分L(漂遊インダクタンス)や負荷LDに起因するリンギングが抑制されることとなる。
【0029】
負荷LDが容量性負荷であって直流電力エネルギーが残存すると、当該エネルギーにより、負荷LD側の電圧の立ち下り時間が長くなってしまう場合がある。このような場合には、
図2に示すように、負荷LDに対してスイッチSW2を並列接続した構成が挙げられる。
【0030】
具体的には、直流電源EVのスイッチSW1と負荷LDとの間に、スイッチSW2の一端を接続(
図2では抵抗器r2を介して接続)し、当該スイッチSW2の他端を直流電源EVの負極側に接続した構成とし、スイッチSW1,SW2を
図3のタイミングチャートに示すように適宜ターンオン・ターンオフするように、それぞれスイッチング動作させることが挙げられる。なお、
図2中の抵抗器r2においても、抵抗器r1と同様に、直流電源EVと負荷LDとの間に存在し得るインダクタンス成分や負荷LDに起因するリンギングの抑制に貢献する。
【0031】
このようにスイッチSW1,SW2をスイッチング動作させることにより、負荷LDに残存したエネルギーによる影響を抑制でき、負荷LD側の電圧を速やかに立ち下げることも可能となる。
【0032】
負荷LDが抵抗負荷の場合には、前述のようにスイッチSW2等を装備していなくても、負荷LD側の電圧を速やかに立ち下げ易くなる可能性がある。
【0033】
スイッチSW1,SW2においては、前述のようにターンオン・ターンオフを繰り返すことにより、直流電源EVの直流電力をパルス状に変換して負荷LDに供給できる構成であれば、種々の態様を適用することが可能であり、その一例としてIGBT,MOSFET等の容量性のゲートを備えた構造のパワースイッチング素子を適用することが挙げられる。具体例としては、SiC(シリコンカーバイド)を用いて成り容量性のゲートを有したMOSFET構造の素子(いわゆるSiC素子)が挙げられる。
【0034】
また、スイッチSW1,SW2においては、それぞれ目的の負荷LDに印加する高圧・大電流に応じた耐電圧性を有する構成であれば良い。例えば、ディスクリート型のスイッチ製品を適用して構成する場合、当該スイッチ製品単体の耐電圧性等が十分でなければ、当該スイッチ製品を複数個用いて適宜直列接続し、所望の耐電圧性等を持たせた構成とすることが挙げられる。
【0035】
具体例としては、
図4に示すように複数個のスイッチ製品SW(
図4中ではスイッチSW
0,…,SW
n-1,SW
n)を直列接続し、各スイッチ製品SWをゲート駆動回路40により適宜スイッチング動作させることが挙げられる。
【0036】
ゲート駆動回路40においては、種々の態様が適用可能であり、例えば回路部41に、後述の
図1のように放電用トランジスタQやツェナーダイオードDz等を適宜装備した構成が挙げられる。
図4に示すように複数個のスイッチ製品SWを同時にスイッチング動作させる場合には、パルス電圧源(図示省略)に接続される一次巻線T1と、当該一次巻線T1に対向して配列された複数個の二次巻線T2と、を有したパルストランスPTを備えた構成が挙げられる。
【0037】
図4に示す一次巻線T1の場合、複数個(例えば直列接続されたスイッチ製品SWの個数分)の巻線部位Tmが所定間隔で直線状に配列(各二次巻線T2を想定して配列)された構成であり、その各巻線部位Tmに対応するように、各二次巻線T2が対向して配列されている。そして、各二次巻線T2に対し、対応するスイッチ製品SWがそれぞれ接続される構成となっている。
【0038】
また、一次巻線T1,二次巻線T2それぞれの巻数は、目的に応じて適宜設定可能である。後述の
図1等では、一次巻線T1の巻線数が1Tに対し二次巻線T2が3Tに設定されている場合を描写しているが、これに限定されるものではない。図外のパルス電圧源によって発生したパルスを一次巻線T1からT2に伝達し、これによりスイッチ製品SW(後述の
図1ではスイッチSW1)を所望通りに適宜スイッチング動作できる構成であれば良い。
【0039】
≪本実施形態によるゲート駆動回路の構成例≫
<参照例>
図2に示したスイッチSW1,SW2においては、前述したように容量性のゲートを備えた構造のSiC素子等のパワースイッチング素子をそれぞれ適用し、
図3に示したタイミングで各々スイッチング動作させることが挙げられるが、当該スイッチSW1,SW2には、過渡現象に由来(
図2の場合は、過渡現象の他にコンデンサCの影響にも由来)した電圧が印加される場合がある。
【0040】
例えば
図3の場合、タイミングt1においてスイッチSW1に過渡的な電圧が印加され、タイミングt2においてスイッチSW2に対して過渡的な電圧が印加されてしまうことが考えられる。
【0041】
また、スイッチSW1,SW2に適用されるSiC素子等においては、ゲート容量以外の寄生容量として、
図5に示すスイッチSW1のように入力容量Ciss,出力容量Coss,帰還容量Crssが素子内部に存在する。
【0042】
このため、例えば
図5に示すゲート駆動回路(
図5ではスイッチSW1に適用した場合の参照例)50のように、放電用トランジスタQおよびツェナーダイオードDzを単に並列接続した構成では、スイッチSW1がターンオフ状態で過渡的な電圧が印加された場合に、ゲート駆動回路50(ツェナーダイオードDz等)に対して電流(後述のi1,i2のような経路の電流)が流れ得る。
【0043】
図5のゲート駆動回路50の場合、放電用トランジスタQやツェナーダイオードDzの他に、二次巻線T2の一端側Tgの逆流を阻止するための第1,第2ダイオードD1,D2や、バイパス回路用の抵抗器R3や、静電気防止用の抵抗器R4を備えた構成となっている。また、放電用トランジスタQのベースにおいて、抵抗器R1を介して二次巻線T2の他端側Tsに接続した構成となっている。
【0044】
抵抗器R1は、放電用トランジスタQの電流増幅率hfeやベース電流の大きさ等を考慮して適宜適用する。例えば、抵抗器R1の抵抗値が大きい場合、放電用トランジスタQにおいては、ベース電流が小さくなってしまう傾向となるものの、当該放電用トランジスタQの電流増幅率hfeが大きければ、十分な量のコレクタ電流を流すことも可能となる。
【0045】
一方、抵抗器R1の抵抗値が小さい場合、放電用トランジスタQにおいては、ベース電流を大きくし易くなり、当該放電用トランジスタQの電流増幅率hfeが小さくても、十分な量のコレクタ電流を流すことも可能となる。
【0046】
このように、放電用トランジスタQにおいて十分な量のコレクタ電流を流せる構成であれば、スイッチSW1がターンオフ状態の場合に、当該スイッチSW1のゲート容量に残存している電荷を十分放電できることとなる。
【0047】
ここで、スイッチSW1がターンオフ状態で、ツェナーダイオードDzがツェナー動作せずに寄生容量が存在(スイッチSW1がターンオン状態の場合にツェナーダイオードDzがチャージされて存在)している状態の場合には、前述した帰還容量CrssとツェナーダイオードDzの寄生容量を介して、ループi1のような経路で電流が流れ得る。また、抵抗器R1の抵抗値が小さい場合には、ループi2のような経路でも電流が流れ得る。
【0048】
ループi1,i2に流れる電流の電流量が大きくなると、スイッチSW1のゲート・ソース間の電圧も大きくなる。そして、当該電圧が所定のしきい値電圧を超えた場合には、スイッチSW1の誤動作(例えば意に反したターンオン状態)や、当該スイッチSW1の損傷等を引き起こすおそれがある。
【0049】
なお、ツェナーダイオードDzにおいて、カソードが一端側Tgにおける第1ダイオードD1のアノード側に接続した接続構成とした場合には、ループi1のような経路の電流を第1,第2ダイオードD1,D2によってブロックするように抑制できるものの、スイッチSW1のゲート・ソース間と、ツェナーダイオードDzと、の両者間(以下、単にスイッチ・ツェナー間と適宜称する)の距離が長くなってしまう。
【0050】
そして、スイッチ・ツェナー間の距離が長くなると、当該スイッチ・ツェナー間に存在し得るインダクタンス成分により、スイッチSW1のゲート・ソース間の電圧にリンギングが発生し易くなるおそれがある。
【0051】
また、抵抗器R1において、抵抗値が比較的大きいものを適用することにより、ループi2の電流を抑制できるものの、放電用トランジスタQのベース電流が小さくなってしまう傾向となる。したがって、当該放電用トランジスタQの電流増幅率hfeが小さい場合には、当該放電用トランジスタQの所望の機能を十分発揮できなくなるおそれがある(例えば、コレクタ電流を十分流すことが困難になってしまう)。
【0052】
また、ゲート駆動回路50をスイッチSW1に適用した場合の過渡現象等について説明したが、当該ゲート駆動回路50をスイッチSW2に適用した場合も、同様の過渡現象等が起こり得る。
【0053】
以上示した過渡現象等を踏まえて、ループi1,i2のような経路で流れる電流を抑制し、当該電流の電流量が大きくなり過ぎないようにすることが好ましい。その一例としては、
図5のゲート駆動回路50のように放電用トランジスタQおよびツェナーダイオードDzを単に並列接続した構成を適用するのではなく、以下に示す実施例のように、一端側Tgに備えられたバイパス回路によりループi1,i2の電流を抑制できるようにした構成を適用することが挙げられる。
【0054】
<実施例>
図1に示すゲート駆動回路10は、
図2のスイッチSW1,SW2それぞれに適用可能な構成の一例を説明するものである。なお、
図2~
図5に示すものと同様のものには同一符号を付する等により、その詳細な説明を適宜省略する。また、ゲート駆動回路10は、スイッチSW1,SW2それぞれに同様に適用できるため、スイッチSW1に適用した場合を適宜説明し、スイッチSW2に適用した場合は適宜省略する。
【0055】
図1のゲート駆動回路10においては、パルストランスPTを備えた構成であり、そのパルストランスPTの一次巻線T1は図外のパルス電圧源に接続され、当該パルストランスPTの二次巻線T2はスイッチSW1に接続される。
【0056】
二次巻線T2においては、当該二次巻線T2の一端側TgがスイッチSW1のゲートに接続され、他端側TsがスイッチSW1のソースに接続される。これにより、一端側Tgは、ゲート信号経路として機能できる構成となっている。
【0057】
また、二次巻線T2において、一端側Tgには、直列接続された第1,第2,第3ダイオードD1,D2,D3が、当該第1,第2,第3ダイオードD1,D2,D3の順で、スイッチSW1のゲートに向かって順方向となるように、直列に挿入接続されている。
【0058】
また、二次巻線T2の一端側Tgと他端側Tsとの間において、放電用トランジスタQおよびツェナーダイオードDzが並列接続されている。
【0059】
放電用トランジスタQの接続構成において、エミッタは、一端側Tgにおける第2,第3ダイオードD2,D3の間に接続(
図1では接続点p2に接続)され、コレクタが、他端側Tsに接続されている、ベースは、一端側Tgにおける第1,第2ダイオードD1,D2の間に接続(
図1では接続点p1に接続)、および抵抗器R1を介して他端側Tsに接続されている。
【0060】
抵抗器R1においては、放電用トランジスタQの所望の機能を十分発揮できる範囲内で、比較的大きい抵抗値のものを適用することが挙げられる。
【0061】
ツェナーダイオードDzの接続構成においては、カソードが、一端側Tgの第2,第3ダイオードD2,D3の間における放電用トランジスタQのエミッタとの接続点p2と、第3ダイオードD3と、の間に接続(
図1では接続点p3に接続)され、アノードが、他端側Tsに接続された構成となっている。
【0062】
また、一端側Tgにおいては、第3ダイオードD3のカソード側からアノード側にバイパスできるように、バイパス回路BPが接続(
図1では接続点p3,p4に接続)されており、当該バイパス回路BPには、抵抗器R2が直列に挿入接続されている。
【0063】
バイパス回路BPにおいては、例えば第3ダイオードD3のターンオン状態における特性(Vf等)に応じて逆流(第3ダイオードD3のアノード側からカソード側への流れ)が生じ得るが、このような場合には、
図1に示すように第4ダイオードD4を適用して逆流を阻止することが挙げられる。
図1の第4ダイオードD4の場合、バイパス回路BPにおいて、スイッチSW1のゲートに向かって逆方向となるように直列に挿入接続されている。
【0064】
抵抗器R2においては、スイッチSW1のゲート容量に残存している電荷を十分放電(バイパス回路BPを経由して放電用トランジスタQで放電)できる範囲内で、比較的大きい抵抗値のものを適用することが挙げられる。
【0065】
以上のように構成されたゲート駆動回路10において、一次巻線T1が接続されている図外のパルス電圧源を適宜駆動して所望のパルスを発生し、当該パルスを一次巻線T1からT2に伝達させることにより、スイッチSW1を適宜スイッチング動作させることが可能となる。
【0066】
また、ツェナーダイオードDzを備えていることにより、ゲート抵抗器を装備しなくても、スイッチSW1のゲート・ソース間の電圧のリンギングを抑制できる。そして、ゲート抵抗器を装備しない構成によれば、一端側Tgにおいて抵抗を小さくし易くなり、スイッチSW1のスイッチング動作の応答速度の向上にも貢献でき、負荷LDに対して所望のパルスを供給し易くなる。
【0067】
また、第3ダイオードD3のカソード側からアノード側にバイパスするバイパス回路BPにより、スイッチSW1がターンオフ状態における
図5のループi1,i2のような経路の電流は、第3ダイオードD3でブロックされ、それぞれバイパス回路BPを経由することになる。このバイパス回路BPを経由する電流は、当該バイパス回路BPの抵抗値(
図1では抵抗器R2の抵抗値)の大きさに応じて、抑制されることとなる。
【0068】
これにより、例えば抵抗器R1の抵抗値を小さくし、放電用トランジスタQのベース電流を大きくしても、
図5のループi2のような経路の電流を十分抑制(抵抗器R2の抵抗値の大きさに応じて抑制)することが可能となる。また、使用できる放電用トランジスタQのバリエーションが増えることにもなる。
【0069】
ゆえに、ゲート駆動回路10のような構成によれば、ループi1,i2のような経路で流れる電流について、電流量が大きくなり過ぎないようにでき、スイッチSW1の誤動作が抑制されることとなる。
【0070】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0071】
10,40…ゲート駆動回路
BP…バイパス回路
D1~D4…第1~第4ダイオード
Dz…ツェナーダイオード
EV…直流電源
LD…負荷
P1…パルス電源
PT…パルストランス
p1~p4…接続点
Q…放電用トランジスタ
R1,R2,r1,r2…抵抗器
SW1,SW2…スイッチ(第1,第2の半導体スイッチング素子)
T1…一次巻線
T2…二次巻線
Tg…一端側
Ts…他端側