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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】セパレータ
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/489 20210101AFI20220509BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20220509BHJP
   H01M 50/457 20210101ALI20220509BHJP
   H01M 50/417 20210101ALN20220509BHJP
【FI】
H01M50/489
H01M50/449
H01M50/457
H01M50/417
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018166720
(22)【出願日】2018-09-06
(65)【公開番号】P2020042897
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】二宮 裕一
(72)【発明者】
【氏名】白尾 陽太郎
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-110744(JP,A)
【文献】特開2016-143469(JP,A)
【文献】特開2013-237203(JP,A)
【文献】特開2017-183212(JP,A)
【文献】特開2014-154447(JP,A)
【文献】特開2004-039492(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/409-50/489
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性フィルムを含んでなるリチウムイオン二次電池用セパレータであって、
前記セパレータを、
バーコビッチ型ダイヤモンド圧子を用いたナノインデンテーション法で1mN/分の負荷速度で30秒間圧入し0.5mNの圧力に達したときの次式で示す押込み深さ率h(0)が5以上20以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータ。
h(0)=Pd(0)/d×100
ここに、
Pd(0):1mN/分の負荷速度で30秒間圧入し0.5mNの圧力に達したときの押込み深さ。
d:セパレータの初期厚み。
【請求項2】
次式で示すクリープ率Δhの値が3以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
Δh=h(60)-h(0)
ここに、
h(60):1mN/分の負荷速度で30秒間圧入し0.5mNの圧力に達した後、60秒間0.5mNで保持したときの押込み深さの、初期厚みに対する押込み深さ率。
【請求項3】
膜厚が3μm以上、20μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【請求項4】
前記多孔性フィルムの少なくとも片面に多孔層が積層されてなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用セパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータに関するものであり、より詳しくはリチウムイオン電池などの非水電解質電池に好ましく用いられるバッテリー用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を主として含む微多孔膜は、物質の分離膜、選択透過膜や隔離膜などとして広く用いられている。このような用途の一例として、リチウムイオン二次電池、ニッケル-水素二次電池、ニッケル-カドミウム二次電池やポリマー二次電池等に用いる電池用セパレータ、電気二重層コンデンサ用セパレータ、逆浸透濾過膜、限外濾過膜、精密濾過膜等の各種フィルター、透湿防水衣料、医療用材料等を挙げることができる。
【0003】
特にリチウムイオン二次電池用セパレータとしては、電解液の含浸によりイオン透過性を有し、電気絶縁性に優れ、電池内部の異常昇温時に120~150℃程度の温度において電流を遮断して過度の昇温を抑制する孔閉塞機能を備えているポリオレフィン製微多孔膜が好適に使用されている。
【0004】
リチウムイオン二次電池用セパレータは、電池の長寿命性、電池生産性及び電池安全性に深く関わっており、優れた機械的特性、耐熱性、電極接着性、寸法安定性、孔閉塞特性(シャットダウン特性)等が要求される。これまでに、例えば、ポリオレフィン製微多孔膜を多孔性フィルムとして、その表面に多孔層を設けることで電池用セパレータに耐熱性や電極接着性といった機能を付与することが検討されている。耐熱性を付与するために、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂等などや、電極接着性を付与するために、フッ素樹脂、アクリル樹脂などを有機溶剤や水等に分散、溶解させた塗工液を多孔性フィルムの表面に塗布することで多孔層を形成させたものが提案され実用化されている。
【0005】
また、例えば特許文献1では、充放電サイクルに伴う活物質のリチウム吸蔵、放出によって、電極(特に負極)が膨張・収縮を繰り返すためにセパレータが圧迫を受け、充放電サイクル特性が低下するという問題に対して、ナノインデンテーション法による、100μNの負荷をかけたときの最大変位と除荷後の変位が特定の関係を満たすことによって、セパレータが負極により圧迫されて潰れたとしても、元の状態に戻りやすく、セパレータの目詰まりを起こしにくくなり、サイクル特性を向上することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-39492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、近年では、二次電池における容量エネルギー密度を上げるためにセパレータの薄肉化が進んでいる。セパレータの薄肉化に伴い、正極材および負極材の極間距離が必然的に小さくなるため、正極材および、または負極材とセパレータの間に塵などといった微少な固形物や前記正極材や負極材表面の突起物が存在すると、セパレータの厚さ方向に負荷が掛かり、圧迫され、更に圧迫後の時間経過と共に押込み深さが大きくなり、絶縁不良を生じてしまう場合がある。例え特許文献1等の技術を以てしても、絶縁不良を生じ二次電池の生産歩留まりを低下させることが問題となっている。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑み、セパレータと、正極材又は負極材の間のいずれかに塵などといった微少な固形物や突起物が存在したとしても電池セルの絶縁不良率が低いセパレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、かかる課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、複数の気孔を有する多孔性フィルムよりなるセパレータの、バーコビッチ型ダイヤモンド圧子を用いたナノインデンテーション法で1mN/分の負荷速度で30秒間圧入したときの総厚さ対する押込み深さ率h(0)を20以下とすることによって、絶縁不良による二次電池の生産歩留まりが格段に向上することを見いだし、本発明に想到した。
【0010】
すなわち本発明は、多孔性フィルムを含んでなるリチウムイオン二次電池用セパレータであって、前記セパレータを、バーコビッチ型ダイヤモンド圧子を用いたナノインデンテーション法で1mN/分の負荷速度で30秒間圧入し0.5mNの圧力に達したときの次式で示す押込み深さ率h(0)が5以上20以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用セパレータ、である。
h(0)=Pd(0)/d×100
ここに、
Pd(0):1mN/分の負荷速度で30秒間圧入し0.5mNの圧力に達したときの押込み深さ。
d:セパレータの初期厚み。
【0011】
また本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータは、次式で示すクリープ率Δhの値が3以下であることが好ましい。
Δh=h(60)-h(0)
ここに、
h(60):1mN/分の負荷速度で30秒間圧入し0.5mNの圧力に達した後、60秒間0.5mNで保持したときの押込み深さの、初期厚みに対する押込み深さ率。
【0012】
また本発明は、膜厚が3μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0013】
また本発明のリチウムイオン二次電池用セパレータは、前記多孔性フィルムの少なくとも片面に多孔層が積層されてなることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、負極材とセパレータの間に塵などといった微少な固形物や、正極材や負極材表面の突起物が存在したとしても電気的短絡を抑制できる、電池セルの絶縁不良率が極めて低いセパレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】押込み試験に用いられる測定装置の全体構造を模式的に示す図である。
図2】押込み試験の時間と荷重の関係を示す図である。
図3】押込み試験の押込み深さ率と荷重の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のセパレータの一実施形態について説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されることなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的又は辞書的な意味に限定して解釈されてはならず、発明者は自らの発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に則して、本発明の技術的思想に符合する意味と概念とに解釈されなければならない。
なお、「押込み深さ」という用語は、「押込み変位」と同じ意味である。また「押込み深さ率」という用語は、「押込み率」、「押込み変位率」と同じ意味である。
【0017】
(多孔性フィルム)
多孔性フィルムは、三次元的に不規則に連結した網目構造を有する多孔質のフィルムであり、多孔性フィルムを構成する要素の一つである。多孔性フィルムとしては膜や不織布等を挙げることができ、特にその種類を限定しないが、ポリオレフィン樹脂からなる多孔性フィルムが好ましく例示される。ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、及びポリペンテン等が挙げられる。
【0018】
ポリオレフィン樹脂の質量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、通常1×10~1×10の範囲内であり、好ましくは1×10~5×10の範囲内であり、より好ましくは1×10~5×10の範囲内である。なお、本発明において「~」は以上、以下を表す。
【0019】
ポリオレフィン樹脂はポリエチレンを含むことが好ましいが、ポリエチレンとしては超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンなどが挙げられる。また重合触媒にも特に制限はなく、チーグラー・ナッタ触媒、フィリップス触媒、メタロセン触媒などの重合触媒によって製造されたポリエチレンが挙げられる。これらのポリエチレンはエチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外のα-オレフィンとしてはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル、スチレン等が好適に使用できる。
【0020】
ポリエチレンは単一物でもよいが、2種以上のポリエチレンからなる混合物であることが好ましい。ポリエチレン混合物としてはMwの異なる2種類以上の超高分子量ポリエチレンの混合物、同様な高密度ポリエチレンの混合物、同様な中密度ポリエチレンの混合物及び低密度ポリエチレンの混合物を用いてもよいし、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンからなる群から選ばれた2種以上ポリエチレンの混合物を用いてもよい。
【0021】
なかでもポリエチレンの混合物としては、シャットダウン現象の温度上昇に対する応答性(シャットダウン速度)や、シャットダウン温度以上の高温領域でポリオレフィン多孔質膜の形状を維持し電極間の絶縁性を維持する観点からMwが5×10以上の超高分子量ポリエチレンとMwが1×10以上5×10未満のポリエチレンからなる混合物が好ましい。超高分子量ポリエチレンのMwは5×10~1×10の範囲内であることが好ましく、1×10~1×10の範囲内であることがより好ましく、1×10~5×10の範囲内であることが特に好ましい。Mwが1×10以上5×10未満のポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンのいずれも使用することが出来るが、特に高密度ポリエチレンを使用することが好ましい。Mwが1×10以上5×10未満のポリエチレンとしてはMwが異なるものを2種以上使用してもよいし、密度の異なるものを2種以上使用してもよい。ポリエチレン混合物のMwの上限を5×10にすることにより、溶融押出を容易にすることが出来る。超高分子量ポリエチレンの含有量は、ポリエチレンの混合物全体に対し1重量%以上であることが好ましく、10~80重量%の範囲であることがより好ましい。
【0022】
ポリオレフィン樹脂には、耐メルトダウン特性と電池の高温保存特性の向上を目的として、ポリエチレンとともにポリプロピレンを含んでいてもよい。ポリプロピレンのMwは1×10~4×10の範囲内であることが好ましい。ポリプロピレンとしては単独重合体または他のα-オレフィンを含むブロック共重合体およびまたはランダム共重合体も使用することが出来る。他のα-オレフィンとしてはエチレンが好ましい。ポリプロピレンの含有量はポリオレフィン混合物(ポリエチレンとポリプロピレンの混合物)全体を100重量%として80重量%以下にすることが好ましい。
【0023】
ポリオレフィン樹脂には、電池用セパレータとしての特性向上のためシャットダウン特性を付与するポリオレフィンを含んでいてもよい。シャットダウン特性を付与するポリオレフィンとしては、例えば低密度ポリエチレンを用いることが出来る。低密度ポリエチレンとしては、分岐状、線状、シングルサイト触媒により製造されたエチレン/α-オレフィン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましい低密度ポリエチレンの添加量はポリオレフィン全体を100重量%として20重量%以下であることが好ましい。低密度ポリエチレンの添加量が20重量%を超えると延伸時に破膜が起こり易くなり好ましくない。
【0024】
超高分子量ポリエチレンを含むポリエチレン組成物には、任意成分としてMwが1×10~4×10の範囲内のポリ1-ブテン、Mwが1×10~4×10の範囲内のポリエチレンワックス、およびMwが1×10~4×10の範囲内のエチレン/α―オレフィン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種のポリオレフィンを添加しても良い。これらの任意成分の添加量は、ポリオレフィン組成物を100重量%として20重量%以下であることが好ましい。
【0025】
ポリオレフィン等の樹脂を原料として膜状の多孔性フィルムを製造する場合、流動パラフィン等の可塑剤と樹脂を一緒に溶融して、これをT-ダイから押し出して得られたシートを延伸した後、シートに含まれる可塑剤を抽出する方法を例示できるが、これに限定されない。
【0026】
多孔性フィルムは三次元的に不規則に連結した網目構造を有するが、その空孔率は20~80%であることが好ましい。多孔性フィルムの空孔率が20%以上であることにより、セパレータの良好な透気度を実現でき、膜による電気抵抗の上昇を抑制して大電流を流すことができるので好ましい。また、多孔性フィルムの空孔率が80%以下であることにより、セパレータの十分な機械的強度が得られ好ましい。空孔率は25~65%がより好ましく、30~55%が特に好ましい。なお、空孔率とは、多孔性フィルムに占める空孔部分の割合(体積%)である。
【0027】
多孔性フィルムは、例えば、日本国特許第2132327号及び日本国特許第3347835号の明細書、国際公開2006/137540号等に代表される湿式の製膜方法におけるゲル状シートの延伸において、製造することができる。具体的には、例えば、ポリエチレン樹脂と成膜用溶剤として流動パラフィンを溶融混練して樹脂溶液を調整、押し出し、冷却してゲル状シートを形成する。次いで、ゲル状シートを延伸し、塩化メチレン浴にて洗浄し、流動パラフィンを除去する。次いで、洗浄した膜を乾燥することで多孔性フィルムを得ることができる。
【0028】
(多孔層)
本発明のセパレータは、多孔層を有していてもよい。多孔層は、上記多孔性フィルムの少なくとも一面に形成された層であり、多孔性フィルムの片面のみに形成されてもよいし、両面に形成されてもよい。
【0029】
多孔層の厚さとしては、0.05μm~3μmが好ましく、0.1μm~2.5μmがより好ましい。多孔層の厚さが0.05μm以上であることにより、電極との間で良好な接着性が得られ、機械的強度を維持できるので好ましく、多孔層の厚さが3μm以下であることにより、セパレータの膜抵抗を小さく抑えることができるので好ましい。
【0030】
(接着性樹脂)
多孔層は接着性樹脂を備えている。接着性樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリクロロエチレン共重合体、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、エチレンビニルアセテート共重合体、ポリエチレンオキシド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリアリーレート、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルセルロース、シアノエチルスクロース、プルラン、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。これらの中でも、フッ素原子を含む樹脂、および/またはアクリル樹脂が好ましく、特にポリフッ化ビニリデン(PVDF)を好ましく挙げることができる。これらの樹脂は、単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
(フィラー)
多孔層は、前記接着性樹脂に加え、フィラーを含んでもよい。フィラーとしては、無機粒子及び/又は有機粒子がより好ましい。無機粒子としては、特に限定するものではないが、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、ベーマイト、シリカーアルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカ等が挙げることができる。また、必要に応じて耐熱性架橋高分子粒子を添加してもよい。耐熱性架橋高分子粒子としては、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル粒子、架橋メタクリル酸メチル粒子などが挙げられる。無機粒子の形状は、真球形状、略球形状、板状、針状、多面体形状が挙げられるが、特に限定されない。
【0032】
多孔層がフィラーを含むことにより、電極の樹枝状結晶(デンドライト)の成長に起因する内部短絡を抑制し、二次電池が、内部短絡して熱暴走が生じたとき、ポリオレフィン製多孔質基材が収縮するのを抑制することができる。これらのフィラーは、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。多孔層におけるフィラーの含有量は、10~99体積%が好ましく、20~90体積%がより好ましく、30~80体積%がさらに好ましい。多孔層における耐熱性の含有量がこれらの範囲であることにより、押込み深さ率h(0)及びクリープ率Δhを所定の範囲内にすることができ、また、デンドライトの発生を効果的に抑制したり、熱暴走が生じたとき、ポリオレフィン製多孔質基材が収縮するのを抑制することができる。
【0033】
(多孔層の形成方法)
多孔層は、樹脂を含む塗工液を多孔性フィルムの表面に塗布して形成される。例えば、塗工液は、多孔層の形成に用いる樹脂を溶解することができ、かつ水と混和する溶媒で樹脂等を溶解又は分散して調製される。塗工液を多孔性フィルムの表面に塗布する方法としては、当業界に知られた通常のコーティング方法を挙げることができ、そのような方法の一例として、ディップコーティング法、ワイヤーバー法、グラビアコーティング法、キス法、ダイコーティング法、ロールコーティング法、コンマコーティングが挙げられる。
【0034】
塗工液を多孔性フィルムの片面又は両面に塗布した後、この多孔性フィルムは、水系溶媒に浸漬される。すると、塗工された樹脂が三次元網目状に凝固する。これにより、多孔層が形成される。水系溶媒とは、樹脂にとって貧溶媒となる水を含む溶媒である。水と共存させることのできる溶媒としては、アルコール類、アセトン、N-メチル-2-ピロリドン等を例示できる。多孔性フィルムの表面に多孔層を形成させた後、加熱炉により乾燥させる。乾燥させる時の加熱炉の温度は、40度から100度の範囲が好ましい。加熱炉通過時間は、加熱炉の温度により適宜調整されるが、40秒から120秒の範囲が好ましい。搬送時のフィルム張力は、3MPaから10MPaの範囲が好ましい。この範囲内であることにより、押込み深さ率h(0)及びクリープ率Δhを所定の範囲内にすることができる。
【0035】
多孔層の厚さとしては、片面あたり、0.05μm~3μmが好ましく、0.1μm~2.5μmがより好ましい。多孔層の厚さが0.05μm以上であることにより、電極との間で良好な接着性が得られ、機械的強度を維持できるので好ましく、多孔層の厚さが3μm以下であることにより、セパレータの膜抵抗を小さく抑えることができるので好ましい。
【0036】
(押込み深さ率)
本発明でいう押込み深さ率h(0)は、後述する押込み試験で、セパレータに圧子を接触させ、負荷をかけ始めてから30秒後に0.5mNの負荷に達したときの圧子の押込み深さPd(0)を圧子を接触させる前のセパレータの初期厚さdで除した値である。本発明の押込み深さ率h(0)は、5以上20以下である。押込み深さ率h(0)が5より小さいと、正極材及び/又は負極材とセパレータとの間に脱落物、塵などといった微少な固形物や突起物が存在したとき、大きな空間ができて充放電が不均一になることでサイクル性が悪くなる場合がある。押込み深さ率h(0)が20より大きくなると、絶縁不良を生じる場合があり、二次電池の生産歩留まりが悪くなる。これは、正極材及び負極材とセパレータを巻回するときの巻取り応力やアルミラミネート袋に挿入して真空封緘するときの圧力、また真空封緘後のアルミラミネートされた電池セルの形を整えるための成形圧力などで、正極材及び/又は負極材とセパレータの間に介在した脱落物、塵などといった微少な固形物や突起物が、絶縁検査試験の電圧に耐えられない程度、セパレータに押し込まれることによって生じているものと考えられる。押込み深さ率h(0)が5以上20以下であることにより、たとえ正極材および、または負極材とセパレータの間に塵などといった微少な固形物や正極材や負極材の表面に突起物が存在したとしても、絶縁不良を生じることが無く、二次電池の生産歩留まりの低下を抑えることができるので好ましい。押込み深さ率h(0)は、好ましくは、5以上18以下である。
【0037】
(クリープ率)
本発明でいうクリープ率Δhは、押込み試験で、セパレータに圧子を接触させて負荷をかけ始めてから30秒後に0.5mNの負荷に達した後、60秒間負荷を保持したときの押込み深さ、つまり圧子接触開始から90秒後の押込み深さPd(60)を圧子を接触させる前のセパレータの初期厚さdで除した押込み率h(60)と押込み深さ率h(0)との差であり、式2で示される値である。
式2 Δh=h(60)-h(0)=Pd(60)/d-Pd(0)/d 。
【0038】
本発明のクリープ率Δhは、3以下である。クリープ率Δhが3より大きいと、絶縁不良を生じる場合があり、二次電池の生産歩留まりが悪くなる。また、耐電圧テストで短絡が発生しなかった場合でも正極と負極の極間バラツキが生じ、サイクル性が低下する場合がある。クリープ率Δhが3以下であると、たとえ正極材および、または負極材とセパレータの間に塵などといった微少な固形物や前記正極材や負極材表面の突起物が存在したとしても、絶縁不良を生じることが無く、二次電池の生産歩留まりの低下を抑えることができるので好ましい。クリープ率Δhは好ましくは、2以下であり、更に好ましくは1.5以下である。下限は特に規定するものではないが、電極表面の凹凸をセパレータが緩衝する上で、0.5以上が好ましい。
【0039】
(フィルムの熱アニール処理)
本発明は、押込み深さ率h(0)及びクリープ率Δhを所定の範囲内にするために、多孔質フィルムに熱アニール処理を行うことで調整できる。例えば、多孔質フィルムを加熱炉内に設置されたロールを介して走行させて養生する方法、多孔質フィルムをロール状に巻き取った状態で加熱炉内に保持する方法が挙げられる。加熱炉内に設置されたロールを介して走行させる熱アニール処理は、具体的には、加熱炉の温度、加熱炉の通過時間や搬送時のフィルム張力を、そのほかの物性を損なわない程度に行うことができる。アニール処理効果が十分に発揮されない場合がある。100度を超えると、多孔質フィルムが柔らかくなる場合があり、押込み深さ率h(0)やクリープ率Δhが大きくなったり、多孔質フィルムにたるみが発生してしわが発生する場合がある。加熱炉の温度は、40度から100度の範囲であると、押込み深さ率h(0)及びクリープ率Δhを所定の範囲内にすることができる。加熱炉の通過時間は、加熱炉の温度により適宜調整されるが、40秒から120秒の範囲が好ましい。40秒未満であると、熱処理の効果が十分に発揮されない場合がある。120秒より長いと、多孔質フィルムが柔らかくなる場合があり、押込み深さ率h(0)やクリープ率Δhが大きくなったり、多孔質フィルムにたるみが発生してしわが発生する場合がある。加熱炉通過時間が、40秒から120秒の範囲であると、押込み深さ率h(0)及びクリープ率Δhを所定の範囲内にすることができる。搬送時のフィルム張力は、3MPaから10MPaの範囲が好ましい。ここでいうフィルム張力は、多孔質フィルムのMD方向に掛かる引っ張り応力を多孔質フィルムの断面積、すなわち、多孔質フィルムの幅と厚さで除した値を言う。フィルム張力が3MPa以下であると、多孔質フィルムを搬送する際、シワが発生したり、蛇行したりしてしまう場合がある。10MPaを超えると、多孔質フィルムが塑性変形して延伸してしまい、押込み深さ率h(0)やクリープ率Δhが大きくなったり、多孔質フィルムにたるみが発生してしわが発生する場合がある。3MPaから10MPaの範囲であると、押込み深さ率h(0)及びクリープ率Δhを所定の範囲内にすることができる。
【実施例
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0041】
[評価の方法]
各評価は、以下のように行った。
【0042】
(押込み試験)
本発明でいう押込み試験は、ISO14577に準拠してナノインデンテーション法で測定した。図1に示す測定の模式図を用いて説明する。先ず、セパレータ1に皺が入らないように、MD方向の両端部を把持部2および把持部3で固定した。次いで、把持部2と把持部3までのセパレータ1の長さが1%伸張するように、スクリューねじ5を廻し、曲率半径300mmの鏡面仕上げのSUS台座4にセパレータを固定した。
次いで、SUS台座4に固定したセパレータ1にバーコビッチ型ダイヤモンド圧子6を接触させ、負荷速度1mN/分で30秒間負荷を増加させ、負荷が0.5mNまで達した後(図2(A))、60秒間、負荷0.5mNで保持し(図2(B))、次いで、1mN/分の除荷速度で負荷0mNまで除荷した(図2(C))。この際、バーコビッチ型ダイヤモンド圧子6がセパレータ1に押し込まれた押込み深さをアントンパール社製UNHT3を用いて計測した。TD方向に50μm間隔で10点、そこからMD方向に50μm間隔で5点の合計50点の押込み試験を実施し、50点の測定の平均カーブより、h(0)、Pd(0)およびΔhを求めた。
圧子:バーコビッチ型ダイヤモンド圧子
負荷速度:1mN/分
負荷時間:30秒 (最大負荷荷重:0.5mN)
保持時間:60秒
除荷速度:1mN/分。
【0043】
(電池セルの電気絶縁性)
(正極の作製)
PVDFを1.2質量部含むN-メチル-2-ピロリドン溶液をコバルト酸リチウム97質量部、カーボンブラック1.8質量部に加えて混合し、正極合剤含有スラリーとした。この正極合剤含有スラリーを、厚みが20μmのアルミ箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥して正極層を形成し、その後、ロールプレス機により圧縮成型して集電体を除いた正極層の密度を3.6g/cmにして正極を作製した。
【0044】
(負極の作製)
カルボキシメチルセルロースを1.0質量部含む水溶液を人造黒鉛98質量部、スチレンブタジエンラテックス1.0質量部を加えて混合して負極合剤含有スラリーとした。この負極合剤含有スラリーを、厚みが10μmの銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗付して乾燥して負極層を形成し、その後、ロールプレス機により圧縮成形して集電体を除いた負極層の密度を1.45g/cmにして、負極を作製した。
【0045】
(扁平捲回セル組み立て)
上記正極、負極にタブ付けされたものと後述の方法で作製されたセパレータを、電池セル捲回装置使用して300mAhの扁平巻回体を作製した。その後、アルミラミネート袋内に上記扁平巻回体を設置し、(電解液(EC/EMC/DEC=6/3/1、LiPF6,1mol/L)を充填した。)その後、アルミラミネート袋を真空封緘し、次いで60度、5MPaの圧力で5分間プレスを行い、これを試験用扁平捲回セルとした。
【0046】
(絶縁不良の検査方法)
耐電圧試験装置(菊水電子(株)製、TOS5051A)を用いて、前記扁平捲回セルの正極端子と負極端子に50Vの電圧を10秒間負荷し、電流が流れなかったものを合格、電流が流れたものを不合格とした。
【0047】
(判定方法)
絶縁不良の検査で、不合格の数量が扁平捲回セル1000個あたり、5個以下である場合を「◎」、6個以上15個以下を「○」、16個以上である場合を「×」とした。
【0048】
(試料の作製)
(塗工液の調製)
フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂((株)クレハ製、製品名KFポリマーW#9300)50体積部と、粒径(D50)1.0μmのアルミナ粒子50体積部とを、有効成分が10質量%となるようにN-メチル-2-ピロリドンに加えて混合及び分散させ、塗工液とした。
【0049】
表1に示すポリエチレン製多孔性フィルムA(厚さ7μm、東レ(株)製、商品名セティーラ(登録商標))を用い、フィルム張力5.0MPaで、60℃のオーブン内を50秒で通過させ、その後室温(23℃)で冷却し、これを実施例1のセパレータとした。
【0050】
表2に記載のフィルム張力、オーブン温度、および通過時間で熱処理を行い、その後室温で冷却し、これを実施例2,3および比較例1~3のセパレータとした。
【0051】
表1に示すポリエチレン製多孔性フィルムA、B、およびCに、ダイコーターを用いて両面に上記塗工液を塗布した。その後、水系溶媒に浸漬して相分離させた。次いで、水洗し、表3に記載のフィルム張力、オーブン温度、および乾燥時間で熱アニール処理を行い、その後室温で冷却し、表2に記載の片面あたりの膜厚を有する積層コーティング膜を形成し、これを実施例4~9、および比較例4~6のセパレータとした。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
表2および表3から明らかなとおり、熱アニール、および多孔膜乾燥工程の加熱炉温度が40度から100度の範囲であり、加熱炉通過時間が、40秒から120秒の範囲であり、搬送時のフィルム張力が3MPaから10MPaの範囲である実施例1~3および4~9のセパレータフィルムは、押込み深さ率h(0)が、5以上20以下であった。このセパレータを用いて作成した試験用扁平捲回セルの絶縁不良率が低く、加熱炉温度、加熱炉通過時間、または搬送時のフィルム張力のいずれか1つ以上が、前記範囲を外れる比較例1~3および4~6は、押込み深さ率h(0)が、20より大きく、試験用扁平捲回セルの絶縁不良率が高いことが判る。
【0056】
すなわち、本願発明の特定の押込み深さ率のセパレータとすることで、セパレータと、正極材又は負極材の間のいずれかに塵などといった微少な固形物や突起物が存在したとしても電池セルの絶縁不良率が低いセパレータを提供できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のセパレータは、リチウムイオン電池などの非水電解質電池に好ましく用いられるバッテリー用セパレータとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 セパレータ
2、3 把持部
4 SUS台座
5 スクリューねじ
6 バーコビッチ型ダイヤモンド圧子
図1
図2
図3