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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】インバータ装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20220509BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02P27/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018169641
(22)【出願日】2018-09-11
(65)【公開番号】P2019129698
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2018010721
(32)【優先日】2018-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山根 和貴
(72)【発明者】
【氏名】名和 政道
【審査官】石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-174490(JP,A)
【文献】特開2008-125335(JP,A)
【文献】特開2013-215044(JP,A)
【文献】再公表特許第2010/137162(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正負の母線間においてu,v,wの相毎の上下のアームを構成するスイッチング素子を有し、前記スイッチング素子のスイッチング動作に伴い直流電圧を交流電圧に変換してモータに供給するインバータ回路と、
角度情報とd,q軸電圧指令値に基づいて信号を生成する信号生成手段と、
d,q軸電圧指令値をモータの線間電圧実効値に変換する第1変換手段と、
前記第1変換手段において変換した線間電圧実効値をモジュレーション電圧に制御周期毎に変換する第2変換手段と、
前記信号生成手段において生成した信号と前記第2変換手段において変換したモジュレーション電圧とを制御周期で比較して前記インバータ回路における上アーム用スイッチング素子のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子のパルスパターンを出力する比較手段と、を備え、
前記信号生成手段は、角度情報に基づいてd,q軸電圧指令値をu,v,w相の電圧指令値に変換する手段と、u,v,w相の電圧指令値を線間電圧実効値のピーク値で-1~+1にスケーリングする手段と、を有し、
前記第2変換手段は、±の0~1のモジュレーション電圧に変換し、
前記比較手段は、線間電圧実効値のピーク値で-1~+1にスケーリングしたu,v,w相の電圧指令値と、±の0~1のモジュレーション電圧とを比較して、スケーリングしたu,v,w相の電圧指令値と+の0~1のモジュレーション電圧の大小の比較結果を上アーム用スイッチング素子のパルスパターンとして出力するとともに、スケーリングしたu,v,w相の電圧指令値と-の0~1のモジュレーション電圧の大小の比較結果を下アーム用スイッチング素子のパルスパターンとして出力することを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
正負の母線間においてu,v,wの相毎の上下のアームを構成するスイッチング素子を有し、前記スイッチング素子のスイッチング動作に伴い直流電圧を交流電圧に変換してモータに供給するインバータ回路と、
角度情報とd,q軸電圧指令値に基づいて信号を生成する信号生成手段と、
d,q軸電圧指令値をモータの線間電圧実効値に変換する第1変換手段と、
前記第1変換手段において変換した線間電圧実効値をモジュレーション電圧に制御周期毎に変換する第2変換手段と、
前記信号生成手段において生成した信号と前記第2変換手段において変換したモジュレーション電圧とを制御周期で比較して前記インバータ回路における上アーム用スイッチング素子のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子のパルスパターンを出力する比較手段と、を備え、
前記信号生成手段は、角度情報とd,q軸電圧指令値から振幅が1のu,v,w相の三角波を生成し、
前記第2変換手段は、±の0~1のモジュレーション電圧に変換し、
前記比較手段は、前記生成した三角波と±の0~1のモジュレーション電圧とを比較して、生成した三角波と+の0~1のモジュレーション電圧の大小の比較結果を上アーム用スイッチング素子のパルスパターンとして出力するとともに、生成した三角波と-の0~1のモジュレーション電圧の大小の比較結果を下アーム用スイッチング素子のパルスパターンとして出力することを特徴とするインバータ装置。
【請求項3】
正負の母線間においてu,v,wの相毎の上下のアームを構成するスイッチング素子を有し、前記スイッチング素子のスイッチング動作に伴い直流電圧を交流電圧に変換してモータに供給するインバータ回路と、
角度情報とd,q軸電圧指令値に基づいて信号を生成する信号生成手段と、
d,q軸電圧指令値をモータの線間電圧実効値に変換する第1変換手段と、
前記第1変換手段において変換した線間電圧実効値をモジュレーション電圧に制御周期毎に変換する第2変換手段と、
前記信号生成手段において生成した信号と前記第2変換手段において変換したモジュレーション電圧とを制御周期で比較して前記インバータ回路における上アーム用スイッチング素子のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子のパルスパターンを出力する比較手段と、を備え、
前記信号生成手段は、角度情報とd,q軸電圧指令値から振幅が1のu,v,w相の正弦波を生成し、
前記第2変換手段は、±の0~1のモジュレーション電圧に変換し、
前記比較手段は、前記生成した正弦波と±の0~1のモジュレーション電圧とを比較して、生成した正弦波と+の0~1のモジュレーション電圧の大小の比較結果を上アーム用スイッチング素子のパルスパターンとして出力するとともに、生成した正弦波と-の0~1のモジュレーション電圧の大小の比較結果を下アーム用スイッチング素子のパルスパターンとして出力することを特徴とするインバータ装置。
【請求項4】
前記第2変換手段は、
線間電圧実効値から相電圧実効値に変換する線間電圧実効値/相電圧実効値変換部と、
前記線間電圧実効値/相電圧実効値変換部による相電圧実効値と前記直流電圧とから数式により前記モジュレーション電圧を演算するモジュレーション電圧演算部と、を有することを特徴とする請求項のいずれか1項に記載のインバータ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インバータ装置はインバータ回路を備え、インバータ回路は正負の母線間においてu,v,wの相毎の上下のアームを構成するスイッチング素子を有する。インバータ回路の出力の制御として矩形波駆動(1パルス駆動とも言う)が用いられており、角度情報をもとにu,v,w相の上アーム用スイッチング素子のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子のパルスパターンが決定される。相電圧と上下アーム用スイッチング素子のパルスパターンの関係としては、電気角2π[rad]に対して、0~π[rad]では相電圧として+E(E:直流電源電圧)が出力されるようu相の上アーム用スイッチング素子がオンされ、π~2π[rad]では相電圧として-Eが出力されるようu相の下アーム用スイッチング素子がオンされ、v,w相も同様にu相に対して±2/3πズレた角度でパルスパターンが生成される。また、特許文献1等に開示のように、矩形波制御の際に電力変換回路の出力電圧の変調率を可変とすべく、高電位側スイッチング素子および低電位側スイッチング素子の双方をオフ操作する期間であるデッドタイム期間の時間間隔を可変設定することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-95412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、デッドタイム期間の時間間隔を図18(a)に示すように短くしたり図18(b)に示すように長く設定すると、負荷が変動した場合に追従性が劣る。
本発明の目的は、負荷が変動した場合に追従性に優れたインバータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1~3に記載の発明では、正負の母線間においてu,v,wの相毎の上下のアームを構成するスイッチング素子を有し、前記スイッチング素子のスイッチング動作に伴い直流電圧を交流電圧に変換してモータに供給するインバータ回路と、角度情報とd,q軸電圧指令値に基づいて信号を生成する信号生成手段と、d,q軸電圧指令値をモータの線間電圧実効値に変換する第1変換手段と、前記第1変換手段において変換した線間電圧実効値をモジュレーション電圧に制御周期毎に変換する第2変換手段と、前記信号生成手段において生成した信号と前記第2変換手段において変換したモジュレーション電圧とを制御周期で比較して前記インバータ回路における上アーム用スイッチング素子のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子のパルスパターンを出力する比較手段と、を備える。
【0006】
請求項1~3に記載の発明によれば、信号生成手段により、角度情報とd,q軸電圧指令値に基づいて信号が生成される。第1変換手段により、d,q軸電圧指令値がモータの線間電圧実効値に変換される。第2変換手段により、第1変換手段において変換した線間電圧実効値がモジュレーション電圧に制御周期毎に変換される。比較手段により、信号生成手段において生成した信号と第2変換手段において変換したモジュレーション電圧とが制御周期で比較されてインバータ回路における上アーム用スイッチング素子のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子のパルスパターンが出力される。よって、d,q軸電圧指令値から変換された線間電圧実効値をモジュレーション電圧に制御周期毎に変換して制御周期で比較しているので、負荷が変動した場合に追従性に優れたものとなる。
【0007】
請求項に記載の発明では、前記信号生成手段は、角度情報に基づいてd,q軸電圧指令値をu,v,w相の電圧指令値に変換する手段と、u,v,w相の電圧指令値を線間電圧実効値のピーク値で-1~+1にスケーリングする手段と、を有し、前記第2変換手段は、±の0~1のモジュレーション電圧に変換し、前記比較手段は、線間電圧実効値のピーク値で-1~+1にスケーリングしたu,v,w相の電圧指令値と、±の0~1のモジュレーション電圧とを比較して、スケーリングしたu,v,w相の電圧指令値と+の0~1のモジュレーション電圧の大小の比較結果を上アーム用スイッチング素子のパルスパターンとして出力するとともに、スケーリングしたu,v,w相の電圧指令値と-の0~1のモジュレーション電圧の大小の比較結果を下アーム用スイッチング素子のパルスパターンとして出力する。
【0008】
請求項に記載の発明では、前記信号生成手段は、角度情報とd,q軸電圧指令値から振幅が1のu,v,w相の三角波を生成し、前記第2変換手段は、±の0~1のモジュレーション電圧に変換し、前記比較手段は、前記生成した三角波と±の0~1のモジュレーション電圧とを比較して、生成した三角波と+の0~1のモジュレーション電圧の大小の比較結果を上アーム用スイッチング素子のパルスパターンとして出力するとともに、生成した三角波と-の0~1のモジュレーション電圧の大小の比較結果を下アーム用スイッチング素子のパルスパターンとして出力する。
【0009】
請求項に記載の発明では、前記信号生成手段は、角度情報とd,q軸電圧指令値から振幅が1のu,v,w相の正弦波を生成し、前記第2変換手段は、±の0~1のモジュレーション電圧に変換し、前記比較手段は、前記生成した正弦波と±の0~1のモジュレーション電圧とを比較して、生成した正弦波と+の0~1のモジュレーション電圧の大小の比較結果を上アーム用スイッチング素子のパルスパターンとして出力するとともに、生成した正弦波と-の0~1のモジュレーション電圧の大小の比較結果を下アーム用スイッチング素子のパルスパターンとして出力する。
【0010】
請求項に記載のように、請求項のいずれか1項に記載のインバータ装置において、前記第2変換手段は、線間電圧実効値から相電圧実効値に変換する線間電圧実効値/相電圧実効値変換部と、前記線間電圧実効値/相電圧実効値変換部による相電圧実効値と前記直流電圧とから数式により前記モジュレーション電圧を演算するモジュレーション電圧演算部と、を有するとよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、負荷が変動した場合に追従性に優れたものにできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態におけるインバータ装置の構成を示すブロック図。
図2】第1の実施形態におけるd,q/u,v,w変換回路の構成を示すブロック図。
図3】線間電圧実効値とモジュレーション電圧の関係を示す図。
図4】(a),(b),(c)はコンパレータでの比較処理、スイッチング素子のパルスパターンを示す図。
図5】(a),(b)は負荷一定時の波形を示す図。
図6】(a),(b)は負荷変動時の波形を示す図。
図7】第2の実施形態におけるd,q/u,v,w変換回路の構成を示すブロック図。
図8】線間電圧実効値とモジュレーション電圧の関係を示す図。
図9】(a),(b),(c)はコンパレータでの比較処理、スイッチング素子のパルスパターンを示す図。
図10】第3の実施形態におけるd,q/u,v,w変換回路の構成を示すブロック図。
図11】第4の実施形態におけるd,q/u,v,w変換回路の構成を示すブロック図。
図12】第4の実施形態を説明するための波形図。
図13】(a),(b)は相電圧の係数を説明するための波形図。
図14】第5の実施形態におけるd,q/u,v,w変換回路の構成を示すブロック図。
図15】第5の実施形態を説明するための波形図。
図16】(a),(b)は電圧指令値の入力から線間電圧の出力までの波形を示す図。
図17】インバータ回路の出力波形を示す図。
図18】(a),(b)は課題を説明するためのインバータ出力波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1の実施形態)
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、インバータ装置10は、インバータ回路20とインバータ制御装置30を備えている。インバータ制御装置30は、ドライブ回路31と制御部32とを備えている。
【0014】
インバータ回路20は、6つのスイッチング素子Q1~Q6と6つのダイオードD1~D6を有する。スイッチング素子Q1~Q6としてIGBTを用いている。正極母線Lpと負極母線Lnとの間に、u相上アームを構成するスイッチング素子Q1と、u相下アームを構成するスイッチング素子Q2が直列接続されている。正極母線Lpと負極母線Lnとの間に、v相上アームを構成するスイッチング素子Q3と、v相下アームを構成するスイッチング素子Q4が直列接続されている。正極母線Lpと負極母線Lnとの間に、w相上アームを構成するスイッチング素子Q5と、w相下アームを構成するスイッチング素子Q6が直列接続されている。スイッチング素子Q1~Q6にはダイオードD1~D6が逆並列接続されている。正極母線Lp、負極母線Lnには平滑コンデンサCを介して直流電源としてのバッテリBが接続されている。
【0015】
スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2の間がモータ60のu相端子に接続されている。スイッチング素子Q3とスイッチング素子Q4の間がモータ60のv相端子に接続されている。スイッチング素子Q5とスイッチング素子Q6の間がモータ60のw相端子に接続されている。上下のアームを構成するスイッチング素子Q1~Q6を有するインバータ回路20は、スイッチング素子Q1~Q6のスイッチング動作に伴いバッテリBの電圧である直流電圧を交流電圧に変換してモータ60に供給することができるようになっている。モータ60は車両駆動用モータである。
【0016】
各スイッチング素子Q1~Q6のゲート端子にはドライブ回路31が接続されている。ドライブ回路31は、制御信号であるパルスパターンに基づいてインバータ回路20のスイッチング素子Q1~Q6をスイッチング動作させる。
【0017】
モータ60に位置検出部61が設けられ、位置検出部61によりモータ60の回転位置としての電気角θが検出される。電流センサ62によりモータ60のu相電流Iuが検出される。また、電流センサ63によりモータ60のv相電流Ivが検出される。
【0018】
制御部32はマイクロコンピュータにより構成され、制御部32は、減算部33と、トルク制御部34、トルク/電流指令値変換部35と、減算部36,37と、電流制御部38と、d,q/u,v,w変換回路39と、座標変換部40と、速度演算部41を備えている。マイクロコンピュータにより構成された制御部32における制御周期は、マイクロコンピュータのサンプリング周期であり、u,v,w相の電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**(図5(a)参照)の1周期に対し最低でも1/10程度短い。
【0019】
速度演算部41は、位置検出部61により検出される電気角θから速度ωを演算する。減算部33は、指令速度ω*と速度演算部41により演算された速度ωとの差分Δωを算出する。トルク制御部34は、速度ωの差分Δωからトルク指令値T*を演算する。
【0020】
トルク/電流指令値変換部35は、トルク指令値T*を、d軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*に変換する。例えば、トルク/電流指令値変換部35は、記憶部(図示略)に予め記憶される目標トルクとd軸電流指令値Id*およびq軸電流指令値Iq*とが対応付けられたテーブルを用いてトルク/電流指令値変換を行う。
【0021】
座標変換部40は、電流センサ62,63によるu相電流Iuおよびv相電流Ivからモータ60のw相電流Iwを求め、位置検出部61により検出される電気角θに基づいて、u相電流Iu、v相電流Ivおよびw相電流Iwをd軸電流Idおよびq軸電流Iqに変換する。なお、d軸電流Idはモータ60に流れる電流において、界磁を発生させるための電流ベクトル成分であり、q軸電流Iqはモータ60に流れる電流において、トルクを発生させるための電流ベクトル成分である。
【0022】
減算部36は、d軸電流指令値Id*とd軸電流Idとの差分ΔIdを算出する。減算部37は、q軸電流指令値Iq*とq軸電流Iqとの差分ΔIqを算出する。電流制御部38は、差分ΔIdおよび差分ΔIqに基づいてd軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を算出する。
【0023】
d,q/u,v,w変換回路39は、角度情報である電気角θとd軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*を入力して各相の上下アーム用のスイッチング素子Q1~Q6のパルスパターンをドライブ回路31に出力する。つまり、位置検出部61により検出される電気角θに基づいて、d軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*からインバータ回路20の各スイッチング素子Q1~Q6をオン、オフさせるためのパルスパターンを出力する。即ち、d,q/u,v,w変換回路39は、モータ60に流れるu,v,wの各相の電流Iu,Iv,Iwに基づいてモータ60におけるd軸電流とq軸電流が目標値となるようにモータ60の電流経路に設けられたスイッチング素子Q1~Q6を制御する。
【0024】
d,q/u,v,w変換回路39は、図2に示す構成となっている。図2において、d,q/u,v,w変換回路39は、d,q/u,v,w変換部50とスケーリング部51とコンパレータ52と線間電圧実効値計算部53と相ピーク値変換部54とモジュレーション電圧変換部55とを有する。
【0025】
d,q/u,v,w変換部50は、角度情報(ロータの位置)である電気角θに基づいてd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*を、u,v,w相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に座標変換する。
【0026】
線間電圧実効値計算部53は、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*を、モータの線間電圧実効値Vline-rmsに変換する。詳しくは、Vline-rms=√(Vd*+Vq*)にて算出する。
【0027】
相ピーク値変換部54は、線間電圧実効値Vline-rmsのu,v,w相のピーク値Vphase-peakを算出する。詳しくは、Vphase-peak=Vline-rms×√2/√3にて算出する。
【0028】
スケーリング部51は、u,v,w相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を、線間電圧実効値Vline-rmsのu,v,w相のピーク値Vphase-peakで-1~+1にスケーリングする。スケーリングされたu,v,w相の電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**はコンパレータ52に入力される。
【0029】
このように、信号生成手段としてのd,q/u,v,w変換部50及びスケーリング部51により、電気角θとd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*に基づいてu,v,w相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応する波形(正弦波)の信号が生成される。
【0030】
モジュレーション電圧変換部55は、図3に示すマップを用いて線間電圧実効値計算部53で変換した線間電圧実効値Vline-rmsをモジュレーション電圧Mに変換する。図3において、横軸に線間電圧実効値Vline-rmsをとり、縦軸にモジュレーション電圧Mをとっている。特性線L1は、事前に算出されたデータであり、このデータはマップデータであり、他にもテーブルデータ、近似式等でも構わない。このモジュレーション電圧Mがパルスパターンのパルス幅を決定する要素となる。モジュレーション電圧Mはプラスの値とマイナスの値の両方がコンパレータ52に入力される。つまり、モジュレーション電圧変換部55は、±の0~1のモジュレーション電圧に変換する。
【0031】
モジュレーション電圧変換部55におけるモジュレーション電圧Mの変換は、制御周期毎、即ち、電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**の1周期に対し最低でも1/10程度短い周期で行われる(図5(a)、図6(a)参照)。
【0032】
比較手段としてのコンパレータ52は、図4(a)に示すように、d,q/u,v,w変換部50において生成したu,v,w相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応する波形(正弦波)の信号と、モジュレーション電圧変換部55において変換したモジュレーション電圧Mとを比較する。そして、コンパレータ52は、インバータ回路20における上アーム用スイッチング素子Q1,Q3,Q5のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子Q2,Q4,Q6のパルスパターンを出力する。
【0033】
詳しくは、コンパレータ52は、線間電圧実効値Vline-rmsの相ピーク値Vphase-peakで-1~+1にスケーリングしたu相の電圧指令値Vu**と、±の0~1のモジュレーション電圧Mとを比較する。そして、コンパレータ52は、スケーリングしたu相の電圧指令値Vu**と+の0~1のモジュレーション電圧Mの大小の比較結果を、図4(b)に示すように、上アーム用スイッチング素子Q1のパルスパターンとして出力する。また、コンパレータ52は、スケーリングしたu相の電圧指令値Vu**と-の0~1のモジュレーション電圧Mの大小の比較結果を、図4(c)に示すように、下アーム用スイッチング素子Q2のパルスパターンとして出力する。
【0034】
同様に、線間電圧実効値Vline-rmsの相ピーク値Vphase-peakで-1~+1にスケーリングしたv相の電圧指令値Vv**と、±の0~1のモジュレーション電圧Mとを比較する。そして、コンパレータ52は、スケーリングしたv相の電圧指令値Vv**と+の0~1のモジュレーション電圧Mの大小の比較結果を、上アーム用スイッチング素子Q3のパルスパターンとして出力する。また、コンパレータ52は、スケーリングしたv相の電圧指令値Vv**と-の0~1のモジュレーション電圧Mの大小の比較結果を、下アーム用スイッチング素子Q4のパルスパターンとして出力する。
【0035】
また、線間電圧実効値Vline-rmsの相ピーク値Vphase-peakで-1~+1にスケーリングしたw相の電圧指令値Vw**と、±の0~1のモジュレーション電圧Mとを比較する。そして、コンパレータ52は、スケーリングしたw相の電圧指令値Vw**と+の0~1のモジュレーション電圧Mの大小の比較結果を、上アーム用スイッチング素子Q5のパルスパターンとして出力する。また、コンパレータ52は、スケーリングしたw相の電圧指令値Vw**と-の0~1のモジュレーション電圧Mの大小の比較結果を、下アーム用スイッチング素子Q6のパルスパターンとして出力する。
【0036】
コンパレータ52における電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**とモジュレーション電圧±Mとの比較は、制御周期、即ち、電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**の1周期に対し最低でも1/10程度短い周期で行われる(図5(a),(b)、図6(a),(b)参照)。
【0037】
次に、インバータ装置10の作用について説明する。
図2において、パルス生成アルゴリズムとして、入力は電気角θ、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*であり、出力は各相上下アーム用スイッチング素子のパルスパターンである。
【0038】
図2においてd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*がd,q/u,v,w変換部50により座標変換されてu,v,w相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*にされる。その後、スケーリング部51によりu,v,w相のピーク値でスケーリングされる。このとき、u,v,w相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*が-1~1にスケーリングされる。
【0039】
一方、線間電圧実効値計算部53において、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*がモータの線間電圧実効値Vline-rmsに換算される。その線間電圧実効値Vline-rmsはモジュレーション電圧変換部55において事前に算出したデータをもとにモジュレーション電圧Mに変換される。
【0040】
コンパレータ52は、入力されたu相の電圧指令値Vu**と±Mの値を比較する。上アーム用のスイッチング素子Q1のパルスパターンは電圧指令値Vu**と+Mとの値の比較で算出される。下アーム用のスイッチング素子Q2のパルスパターンは電圧指令値Vu**と-Mとの値の比較で算出される。
【0041】
v,w相についてはu相の電圧指令値から±2/3πズレた指令値をそれぞれ持つのでその指令値と±Mとの比較を行う。
次に、図5(a),(b)及び図6(a),(b)を用いてパルス幅が変わる一例についてのシミュレーション結果を示す。
【0042】
図5(a),(b)は負荷一定の場合であり、図6(a),(b)は負荷変動が有る場合である。
図5(a)及び図6(a)において、u相の電圧指令値Vu**、±のモジュレーション電圧Mを示す。図5(b)及び図6(b)において、u相上アーム用のスイッチング素子Q1のパルスパターン及びu相下アーム用のスイッチング素子Q2のパルスパターンを示す。
【0043】
図5(a)及び図6(a)において、d,q軸電圧指令値に応じたu相の電圧指令値Vu**は制御周期(計算周期)で離散化されているため階段状に変化している。
図5(a)に示すように負荷一定の場合は電圧指令値Vu**がほぼ正弦波となり、モジュレーション電圧Mも一定値となる。これにより、図5(b)に示すようにスイッチング素子Q1のパルス幅W1およびスイッチング素子Q2のパルス幅W2がほぼ一定となる。
【0044】
図6(a)に示すように負荷変動時には、負荷変動により電圧指令値Vu**が変動している。また、モジュレーション電圧Mも変動する。これにより、図6(b)に示すようにスイッチング素子Q1のパルス幅がW10,W11,W12,W13、スイッチング素子Q2のパルス幅がW20,W21,W22となり変動する。パルス幅W10,W11,W12,W13について、場合によっては図6(b)においてP1,P2で示すようにパルスが分割されることもある。
【0045】
詳しく説明する。
制御周期毎にモジュレーション電圧Mを計算し、その時々に電圧指令実効値に応じた電圧を出力するようパルス幅を制御している。つまり、回転数やトルクの変動に合わせてパルス幅を制御する。この場合、図6(b)においてP1,P2で示すごとく必ずしも電流1周期に1パルスとは限らない。
【0046】
例として、図6(a),(b)で示したように、負荷が変動、即ち、急に負荷が低下した時を記述する。
モータから出力するトルクと負荷のトルクとの差が回転に寄与するトルクであり、モータから出力するトルクと負荷のトルクとの差が大きくなると回転速度が大きくなる。ゆえに、本実施形態では、制御周期毎に制御ループを回しモジュレーション電圧Mを計算しているので、負荷が低下したことによるトルク過剰で回転数増加を検知し回転数を下げようと電圧指令値を低く出力する。その結果、パルスがオフになる(オフ期間が短くなる、若しくは、0となる)こともあり得る。さらに、今度は電圧を減らしすぎると回転数が低下し、それを検知し回転数を上げようと電圧指令値を高く出力する。その結果、再びパルスがオンになることもあり得る。つまり、必ずしも電流1周期に1パルスとはならず、回転数やトルクの変動に対応できる。
【0047】
これに対して従来方式のように電流1周期に1パルスの場合には上記のような対応はできない。
矩形波駆動では各アームのスイッチング素子はスイッチングを電気角2π中に1回しか行わない。つまり、矩形波駆動では、スイッチング回数を減らせるので、スイッチング損失を低減できるとともにインバータ装置が出力できる最大電圧を出力することができる。その反面、出力したい電圧を制御することが困難である。つまり、単なる矩形波駆動では、フィードバック制御が困難であり、使用領域が限定される。
【0048】
本実施形態では、スイッチング損失を最小にできる矩形波駆動を維持しつつ調整できることにより、電気角θとd軸電圧指令値Vd*とq軸電圧指令値Vq*とをフィードバックしてフィードバック制御を可能とすることで矩形波駆動範囲が拡大する。
【0049】
図16(a)に示すように、算出した電圧指令値(線間電圧実効値Vrms)に応じて図16(b)に示すように、パルス幅を調整する。また、調整されたパルスパターンでスイッチングを行えば、モータの線間電圧には上下パルスで形成された線間電圧が印加される。つまり、図16(a)に示す指令値から算出した線間電圧実効値と、一致する線間電圧実効値を有する上下パルスが形成される。言い換えれば、電圧指令値と出力電圧が一致する。そのため、フィードバック制御が可能となる。つまり、本実施形態では、相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*から実効値が一致するパルス電圧に変換しており、キャリア信号に指令電圧(正弦波)を使用してロータの回転数により周期が変化して原則どの回転数でも上下1発のパルス駆動となる。
【0050】
図18(a),(b)に示すように、特許文献1での出力パルスは、電気角でπ/2及び3/2πを基準として対称なパルスである。
このようにデッドタイムで調整する場合には左右対称のパルスパターンとなり負荷が変動した場合に追従性が劣る。
【0051】
これに対し本実施形態では、制御周期毎に電圧指令値に応じたモジュレーション電圧Mを生成し、これにより図17に示すようにパルス幅はその時々に変えることができる。このとき、電気角でπ/2及び3/2πを基準として対称なパルスとなることもあるが電気角でπ/2及び3/2πを基準として非対称なパルスとなる。また、場合によってはパルスが分割する、即ち、パルス数が増えるときもある。このようにして負荷が変動した場合の追従性に優れたものとなる。
【0052】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)インバータ装置10の構成として、正負の母線間においてu,v,wの相毎の上下のアームを構成するスイッチング素子Q1~Q6を有し、スイッチング素子Q1~Q6のスイッチング動作に伴い直流電圧を交流電圧に変換してモータに供給するインバータ回路20を備える。信号生成手段としてのd,q/u,v,w変換部50、スケーリング部51を備え、信号生成手段(d,q/u,v,w変換部50、スケーリング部51)は、角度情報としての電気角θとd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*に基づいてu,v,w相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応する波形(正弦波)の信号を生成する。d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*をモータの線間電圧実効値Vline-rmsに変換する第1変換手段としての線間電圧実効値計算部53を備える。線間電圧実効値計算部53において変換した線間電圧実効値Vline-rmsをモジュレーション電圧Mに制御周期毎に変換する第2変換手段としてのモジュレーション電圧変換部55を備える。信号生成手段としてのd,q/u,v,w変換部50、スケーリング部51において生成したu,v,w相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に対応する波形(正弦波)の信号とモジュレーション電圧変換部55において変換したモジュレーション電圧Mとを制御周期で比較する比較手段としてのコンパレータ52を備える。比較手段としてのコンパレータ52は、インバータ回路20における上アーム用スイッチング素子Q1,Q3,Q5のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子Q2,Q4,Q6のパルスパターンを出力する。
【0053】
よって、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*から変換された線間電圧実効値Vline-rmsをモジュレーション電圧Mに制御周期毎に変換して制御周期で比較しているので、負荷が変動した場合に追従性に優れたものとなる。つまり、モジュレーション電圧Mを制御周期毎にd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*に応じたものとしているので負荷変動時の追従性に優れたものとなる。
【0054】
(2)信号生成手段(50,51)は、角度情報としての電気角θに基づいてd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*をu,v,w相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換する手段としてのd,q/u,v,w変換部50と、u,v,w相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を線間電圧実効値のピーク値で-1~+1にスケーリングする手段としてのスケーリング部51と、を有する。第2変換手段としてのモジュレーション電圧変換部55は、±の0~1のモジュレーション電圧に変換する。比較手段としてのコンパレータ52は、線間電圧実効値のピーク値Vphase-peakで-1~+1にスケーリングしたu,v,w相の電圧指令値Vu**,Vv**.Vw**と、±の0~1のモジュレーション電圧Mとを比較する。そして、コンパレータ52は、スケーリングしたu,v,w相の電圧指令値Vu**,Vv**.Vw**と+の0~1のモジュレーション電圧Mの大小の比較結果を上アーム用スイッチング素子Q1,Q3,Q5のパルスパターンとして出力する。また、コンパレータ52は、スケーリングしたu,v,w相の電圧指令値Vu**,Vv**.Vw**と-の0~1のモジュレーション電圧Mの大小の比較結果を下アーム用スイッチング素子Q2,Q4,Q6のパルスパターンとして出力する。よって、実用的である。
【0055】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態を、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
図2に代わり本実施形態では図7に示す構成としている。
【0056】
図7において、入力はd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*及び角度情報(ロータの位置)としての電気角θであり、出力は各相上下アーム用のスイッチング素子Q1~Q6のパルスパターンである。
【0057】
本実施形態のd,q/u,v,w変換回路39は、三角波生成部70と、コンパレータ71と、線間電圧実効値計算部72と、モジュレーション電圧変換部73と、を備える。三角波生成部70は、角度情報としての電気角θとd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*からu,v,w相の三角波を生成する。三角波の位相、即ち、電気角θとの位相差は電気角位相(θ)と電圧位相δ(Vd*,Vq*から計算される)から計算する。三角波の振幅は1とする。三角波の周波数は回転数(電気角θの時間的変化割合)に応じて変化する。電流1周期に対して三角波1周期である。三角波はコンパレータ71に入力される。
【0058】
線間電圧実効値計算部72は、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*を、モータの線間電圧実効値Vline-rmsに換算する。詳しくは、Vline-rms=√(Vd*+Vq*)にて算出する。モジュレーション電圧変換部73は、図8に示すマップを用いて線間電圧実効値を事前に算出したデータをもとにモジュレーション電圧Mに変換する。図8において、横軸に線間電圧実効値Vline-rmsをとり、縦軸にモジュレーション電圧Mをとっている。特性線L2は、事前に算出されたデータであり、このデータはマップデータであり、他にもテーブルデータ、近似式等でも構わない。このモジュレーション電圧がパルス幅を決定する要素となる。図9(a)に示すように、モジュレーション電圧Mはプラスの値とマイナスの値の両方がコンパレータ71に入力される。
【0059】
コンパレータ71は図9(a)に示すように、入力された三角波と±Mの値を比較する。そして、コンパレータ71は、図9(b)に示すように、u相の上アーム用のスイッチング素子Q1のパルスパターンを三角波と+Mとの値の比較で算出する。また、コンパレータ71は、図9(c)に示すように、u相の下アーム用のスイッチング素子Q2のパルスパターンを三角波と-Mとの値の比較で算出する。同様に、コンパレータ71は、入力された三角波と±Mの値を比較して、v相の上アーム用のスイッチング素子Q3のパルスパターンを三角波と+Mとの値の比較で算出し、v相の下アーム用のスイッチング素子Q4のパルスパターンを三角波と-Mとの値の比較で算出する。また、コンパレータ71は、入力された三角波と±Mの値を比較して、w相の上アーム用のスイッチング素子Q5のパルスパターンを三角波と+Mとの値の比較で算出し、w相の下アーム用のスイッチング素子Q6のパルスパターンを三角波と-Mとの値の比較で算出する。このように、v,w相については三角波の位相がu相三角波位相と比べて±2/3π遅れているので各相三角波と±Mとの比較を行う。
【0060】
このようにして、インバータ回路20と、角度情報としての電気角θとd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*に基づいてu,v,w相の電圧指令値に対応する波形(三角波)の信号を生成する信号生成手段としての三角波生成部70と、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*をモータの線間電圧実効値Vline-rmsに変換する第1変換手段としての線間電圧実効値計算部72と、線間電圧実効値計算部72において変換した線間電圧実効値Vline-rmsをモジュレーション電圧Mに制御周期毎に変換する第2変換手段としてのモジュレーション電圧変換部73と、三角波生成部70において生成したu,v,w相の電圧指令値に対応する波形(三角波)の信号とモジュレーション電圧変換部73において変換したモジュレーション電圧Mとを制御周期で比較してインバータ回路20における上アーム用スイッチング素子Q1,Q3,Q5のパルスパターン及び下アーム用スイッチング素子Q2,Q4,Q6のパルスパターンを出力する比較手段としてのコンパレータ71とを備える。
【0061】
詳しくは、信号生成手段としての三角波生成部70は、角度情報としての電気角θとd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*から振幅が1のu,v,w相の三角波を生成する。第2変換手段としてのモジュレーション電圧変換部73は、±の0~1のモジュレーション電圧Mに変換する。比較手段としてのコンパレータ71は、生成した三角波と±の0~1のモジュレーション電圧Mとを比較して、生成した三角波と+の0~1のモジュレーション電圧Mの大小の比較結果を上アーム用スイッチング素子Q1,Q3,Q5のパルスパターンとして出力するとともに、生成した三角波と-の0~1のモジュレーション電圧Mの大小の比較結果を下アーム用スイッチング素子Q2,Q4,Q6のパルスパターンとして出力する。
【0062】
(第3の実施形態)
次に、第3の実施形態を、第2の実施形態との相違点を中心に説明する。
図7に代わり本実施形態では図10に示す構成としている。
【0063】
図10において、入力はd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*及び角度情報(ロータの位置)としての電気角θであり、出力は各相上下アーム用のスイッチング素子Q1~Q6のパルスパターンである。
【0064】
本実施形態のd,q/u,v,w変換回路39は、正弦波生成部80と、コンパレータ81と、線間電圧実効値計算部82と、モジュレーション電圧変換部83と、を備える。正弦波生成部80は、角度情報としての電気角θとd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*からu,v,w相の正弦波を生成する。正弦波の位相、即ち、電気角θとの位相差は電気角位相(θ)と電圧位相δ(Vd*,Vq*から計算される)から計算する。正弦波の振幅は1とする。正弦波の周波数は回転数(電気角θの時間的変化割合)に応じて変化する。電流1周期に対して正弦波1周期である。正弦波はコンパレータ81に入力される。
【0065】
線間電圧実効値計算部82は、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*を、モータの線間電圧実効値Vline-rmsに換算する。詳しくは、Vline-rms=√(Vd*+Vq*)にて算出する。
【0066】
モジュレーション電圧変換部83は、図3に示すマップを用いて線間電圧実効値を事前に算出したデータをもとにモジュレーション電圧Mに変換する。図3において、横軸に線間電圧実効値Vline-rmsをとり、縦軸にモジュレーション電圧Mをとっている。特性線L2は、事前に算出されたデータであり、このデータはマップデータであり、他にもテーブルデータ、近似式等でも構わない。このモジュレーション電圧がパルス幅を決定する要素となる。モジュレーション電圧Mはプラスの値とマイナスの値の両方がコンパレータ81に入力される。
【0067】
コンパレータ81は、入力された正弦波と±Mの値を比較する。そして、コンパレータ81は、u相の上アーム用のスイッチング素子Q1のパルスパターンを正弦波と+Mとの値の比較で算出する。また、コンパレータ81は、u相の下アーム用のスイッチング素子Q2のパルスパターンを正弦波と-Mとの値の比較で算出する。同様に、コンパレータ81は、入力された正弦波と±Mの値を比較して、v相の上アーム用のスイッチング素子Q3のパルスパターンを正弦波と+Mとの値の比較で算出し、v相の下アーム用のスイッチング素子Q4のパルスパターンを正弦波と-Mとの値の比較で算出する。また、コンパレータ81は、入力された正弦波と±Mの値を比較して、w相の上アーム用のスイッチング素子Q5のパルスパターンを正弦波と+Mとの値の比較で算出し、w相の下アーム用のスイッチング素子Q6のパルスパターンを正弦波と-Mとの値の比較で算出する。このように、v,w相については正弦波の位相がu相正弦波位相と比べて±2/3π遅れているので各相正弦波と±Mとの比較を行う。
【0068】
このように、信号生成手段としての正弦波生成部80は、角度情報としての電気角θとd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*から振幅が1のu,v,w相の正弦波を生成する。第2変換手段としてのモジュレーション電圧変換部83は、±の0~1のモジュレーション電圧Mに変換する。比較手段としてのコンパレータ81は、生成した正弦波と±の0~1のモジュレーション電圧Mとを比較して、生成した正弦波と+の0~1のモジュレーション電圧Mの大小の比較結果を上アーム用スイッチング素子Q1,Q3,Q5のパルスパターンとして出力するとともに、生成した正弦波と-の0~1のモジュレーション電圧Mの大小の比較結果を下アーム用スイッチング素子Q2,Q4,Q6のパルスパターンとして出力する。
【0069】
よって、第1の実施形態との比較において、本実施形態では制御周期(計算周期)での離散化について制御周期(計算周期)とは関係なくクロックの離散値となり、より細かい正弦波となる。
【0070】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態を、第2の実施形態との相違点を中心に説明する。
図7に代わり本実施形態では図11に示す構成としている。
【0071】
図7のモジュレーション電圧変換部73においては図8に示すマップを用いており、図8の特性線L2は、事前に算出されたデータであり、このデータはマップデータ、テーブルデータ、近似式等であった。
【0072】
本実施形態では、図11に示すように、d,q/u,v,w変換回路39は、三角波生成部70と、コンパレータ71と、線間電圧実効値計算部72と、モジュレーション電圧変換部90と、を備える。モジュレーション電圧変換部90は、線間電圧実効値/相電圧実効値変換部90aと、モジュレーション電圧演算部90bを有する。
【0073】
三角波生成部70は、角度情報としての電気角θとd,q軸電圧指令値Vd*,Vq*からu,v,w相の三角波を生成する。三角波の位相、即ち、電気角θとの位相差は電気角位相(θ)と電圧位相δ(Vd*,Vq*から計算される)から計算する。三角波の振幅は1とする。三角波の周波数は回転数(電気角θの時間的変化割合)に応じて変化する。電流1周期に対して三角波1周期である。三角波はコンパレータ71に入力される。
【0074】
線間電圧実効値計算部72は、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*を、モータの線間電圧実効値Vline-rmsに換算する。詳しくは、Vline-rms=√(Vd*+Vq*)にて算出する。
【0075】
線間電圧実効値/相電圧実効値変換部90aは、次の式(1)により、線間電圧実効値Vline-rmsから相電圧実効値Vphase-rmsを演算する。
【0076】
【数1】
・・・(1)
モジュレーション電圧演算部90bは、次の式(2)により、相電圧実効値Vphase-rmsからモジュレーション電圧Mを演算する。
【0077】
【数2】
・・・(2)
ただし、Vdcは、図1のバッテリBの電圧(直流電圧)であり、図1において仮想線で示すごとく電圧センサ100でバッテリBの電圧(直流電圧)Vdcを検出してd,q/u,v,w変換回路39に電圧検出結果が送られるようになっている。
【0078】
式(2)についてより詳しく説明する。
図12に示すように、0~πでのデューティ100%とすると(M=0のときには上限が0になるので)実効値は次の式(3)のようになる。
【0079】
【数3】
・・・(3)
ここで、3相の関係から線間電圧実効値Vline-rmsの上限(=√(2)/3・Vdc)を考慮すると、式(3)の係数は次の式(4)のようになる。
【0080】
【数4】
・・・(4)
この式(4)を変形すると、式(2)が得られる。
【0081】
相電圧の係数について言及する。
M=0を考える。
図13(a)に示すように、u相電圧はオンまたはオフに張り付く。v相電圧、w相電圧はu相電圧の位相差±120°であり、相電圧実効値Vphase-rmsは直流電圧Vdcの半分(Vdc/2)である。
【0082】
このとき、線間電圧Vlineは以下のようになる(図13(b)参照)。
線間電圧実効値Vline-rmsは、Vdc・√(2/3)であり、これに変換係数の1/{√(3)}を乗算することにより、Vline-rms=√(2)/3・Vdcで求められる。
【0083】
相電圧のみを考えると、相電圧の出力範囲は0~Vdc/2である。しかし、本実施形態において線間電圧実効値Vline-rmsから相電圧実効値Vphase-rmsを算出する場合、相電圧実効値Vphase-rmsの最大値は線間電圧実効値Vline-rmsに依存して決まり、√(2)/3・Vdcである。即ち、電圧指令値から順に求めた相電圧実効値Vphase-rmsが、√(2)/3・Vdcの場合、M=0を出力するようモジュレーション電圧Mと相電圧実効値Vphase-rmsの式である式(2)を用いている。
【0084】
式(2)によるモジュレーション電圧Mがパルス幅を決定する要素となる。モジュレーション電圧Mはプラスの値とマイナスの値の両方がコンパレータ71に入力される。
コンパレータ71は、入力された三角波と±Mの値を比較する。そして、コンパレータ71は、u相の上アーム用のスイッチング素子Q1のパルスパターンを三角波と+Mとの値の比較で算出する。また、コンパレータ71は、u相の下アーム用のスイッチング素子Q2のパルスパターンを三角波と-Mとの値の比較で算出する。同様に、コンパレータ71は、入力された三角波と±Mの値を比較して、v相の上アーム用のスイッチング素子Q3のパルスパターンを三角波と+Mとの値の比較で算出し、v相の下アーム用のスイッチング素子Q4のパルスパターンを三角波と-Mとの値の比較で算出する。また、コンパレータ71は、入力された三角波と±Mの値を比較して、w相の上アーム用のスイッチング素子Q5のパルスパターンを三角波と+Mとの値の比較で算出し、w相の下アーム用のスイッチング素子Q6のパルスパターンを三角波と-Mとの値の比較で算出する。このように、v,w相については三角波の位相がu相三角波位相と比べて±2/3π遅れているので各相三角波と±Mとの比較を行う。
【0085】
このようにして本実施形態では、第2変換手段としてのモジュレーション電圧変換部90は、線間電圧実効値Vline-rmsから相電圧実効値Vphase-rmsに変換する線間電圧実効値/相電圧実効値変換部90aと、線間電圧実効値/相電圧実効値変換部90aによる相電圧実効値Vphase-rmsと直流電圧Vdcとから数式によりモジュレーション電圧Mを演算するモジュレーション電圧演算部90bと、を有する。
【0086】
このようにしてモジュレーション電圧Mを演算により算出することで、「テーブルデータ、マップデータ、近似式」の格納容量、すなわちメモリ容量を低減することができる。また、計算の処理負荷が軽くなる。例えば、マップを用いる場合には補間処理が必要であるが数式を用いることにより処理負荷を軽くすることができる。
【0087】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態を、第3の実施形態及び第4の実施形態との相違点を中心に説明する。
【0088】
図10に代わり本実施形態では図14に示す構成としている。
図2のモジュレーション電圧変換部55においては図3に示すマップを用いており、図3の特性線L1は、事前に算出されたデータであり、このデータはマップデータ、テーブルデータ、近似式等であった。
【0089】
本実施形態では、図2における第2変換手段としてのモジュレーション電圧変換部55を、図14に示すモジュレーション電圧変換部91で構成し、モジュレーション電圧変換部91は、線間電圧実効値/相電圧実効値変換部91aと、モジュレーション電圧演算部91bと、を有する構成としている。
【0090】
線間電圧実効値/相電圧実効値変換部91aは、前述の式(1)により、線間電圧実効値Vline-rmsから相電圧実効値Vphase-rmsを演算する。
モジュレーション電圧演算部91bは、次の式(5)により、相電圧実効値Vphase-rmsからモジュレーション電圧Mを演算する。
【0091】
【数5】
・・・(5)
ただし、Vdcは、図1のバッテリBの電圧(直流電圧)であり、電圧センサ100でバッテリBの電圧(直流電圧)を検出してd,q/u,v,w変換回路39に電圧検出結果が送られるようになっている。
【0092】
式(5)についてより詳しく説明する。
図15に示すように、実効値は、0~π/2ではπ/2-sin-1(M)であり、0~πではπ-2sin-1(M)なので、次の式(6)のようになる。
【0093】
【数6】
・・・(6)
この式(6)を変形すると、式(5)が得られる。
【0094】
このようにして本実施形態では、第2変換手段としてのモジュレーション電圧変換部91は、線間電圧実効値Vline-rmsから相電圧実効値Vphase-rmsに変換する線間電圧実効値/相電圧実効値変換部91aと、線間電圧実効値/相電圧実効値変換部91aによる相電圧実効値Vphase-rmsと直流電圧Vdcとから数式によりモジュレーション電圧Mを演算するモジュレーション電圧演算部91bと、を有する。
【0095】
このようにしてモジュレーション電圧Mを演算により算出することで、「テーブルデータ、マップデータ、近似式」の格納容量、すなわちメモリ容量を低減することができる。また、計算の処理負荷が軽くなる。例えば、マップを用いる場合には補間処理が必要であるが数式を用いることにより処理負荷を軽くすることができる。
【0096】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 第4及び第5の実施形態における直流電圧Vdcは測定値であったが、定数で与えてもよい。つまり、バッテリBの定格電圧(仕様電圧値)を用いてもよい。
【0097】
○ 第1の実施形態での図2においてモジュレーション電圧変換部55はマップを用いて線間電圧実効値Vline-rmsをモジュレーション電圧Mに変換した。これに代わり、第4、第5の実施形態で説明したように、第2変換手段としてのモジュレーション電圧変換部は、線間電圧実効値Vline-rmsから相電圧実効値Vphase-rmsに変換する線間電圧実効値/相電圧実効値変換部と、線間電圧実効値/相電圧実効値変換部による相電圧実効値Vphase-rmsと直流電圧Vdcとから数式によりモジュレーション電圧Mを演算するモジュレーション電圧演算部と、を有する構成としてもよい。このように、モジュレーション電圧Mを演算により算出することで、「テーブルデータ、マップデータ、近似式」の格納容量、すなわちメモリ容量を低減することができる。また、計算の処理負荷が軽くなる。例えば、マップを用いる場合には補間処理が必要であるが数式を用いることにより処理負荷を軽くすることができる。
【0098】
○ インバータ回路20における6つのスイッチング素子Q1~Q6としてIGBTを用いたが、これに代わりパワーMOSFET等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0099】
10…インバータ装置、20…インバータ回路、50…d,q/u,v,w変換部、51…スケーリング部、52…コンバータ、53…線間電圧実効値計算部、54…相ピーク値変換部、55…モジュレーション電圧変換部、70…三角波生成部、71…コンパレータ、72…線間電圧実効値計算部、73…モジュレーション電圧変換部、80…正弦波生成部、81…コンパレータ、83…モジュレーション電圧変換部、90…モジュレーション電圧変換部、90a…線間電圧実効値/相電圧実効値変換部、90b…モジュレーション電圧演算部、91…モジュレーション電圧変換部、91a…線間電圧実効値/相電圧実効値変換部、91b…モジュレーション電圧演算部、Ln…負極母線、Lp…正極母線、Q1…u相上アーム用スイッチング素子、Q2…u相下アーム用スイッチング素子、Q3…v相上アーム用スイッチング素子、Q4…v相下アーム用スイッチング素子、Q5…w相上アーム用スイッチング素子、Q6…w相下アーム用スイッチング素子、Vd*…d軸電圧指令値、Vq*…q軸電圧指令値、Vu**…電圧指令値、Vv**…電圧指令値、Vw**…電圧指令値、Vdc…直流電圧、θ…電気角。
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