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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】調光シート、および、調光装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20220509BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20220509BHJP
   G02F 1/1334 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1333 500
G02F1/1334
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018228647
(22)【出願日】2018-12-06
(62)【分割の表示】P 2018003726の分割
【原出願日】2018-01-12
(65)【公開番号】P2019124925
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】森永 かおり
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-208627(JP,A)
【文献】特開2016-207041(JP,A)
【文献】国際公開第2009/102079(WO,A1)
【文献】特開2017-177808(JP,A)
【文献】特開2015-136792(JP,A)
【文献】特開2011-014559(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0369104(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/13
G02F 1/1333
G02F 1/1334
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性樹脂基材と、
前記光透過性樹脂基材に支持される調光層と、を備え、
前記調光層は、液晶層と、前記液晶層を挟む一対の電極層と、を備え、
前記光透過性樹脂基材は、
光透過性樹脂シートと、
前記光透過性樹脂シートの少なくとも1つの側面に位置して前記光透過性樹脂シートから前記調光層に低分子不純物が到達することを抑制するバリア性を有した表面処理層と、を備え、
前記電極層と、該電極層と接合した前記光透過性樹脂基材とからなる構造体において、JIS K5600-5-1(耐屈曲性(円筒形マンドレル))に準拠する屈曲性が、0.4mm以上4mm以下であり、
前記光透過性樹脂シートは、前記調光層と対向する第1面と、前記第1面とは反対側の面である第2面とを備え、
前記表面処理層は、前記第1面および前記第2面の少なくとも一方に位置し、JIS K5600-5-4(1999)に準拠した鉛筆硬度試験によって、前記光透過性樹脂シートよりも高い硬度を有するハードコート層である
調光シート。
【請求項2】
記構造体において、85℃85%RHの条件下で100時間処理後のヘイズ値の上昇量が2%未満である
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記光透過性樹脂基材において、85℃85%RHの条件下で100時間処理後のヘイズ値の上昇量が2%未満である
請求項1または2に記載の調光シート。
【請求項4】
前記光透過性樹脂シートは、ポリエチレンナフタレートシート、または、ポリイミドシートである
請求項1からのいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項5】
前記電極層は、導電性ポリマーから構成される
請求項1からのいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項6】
前記液晶層は、複数のドメインを区画するポリマーネットワークと、各ドメインを埋める液晶組成物とを備える
請求項1からのいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載の調光シートと、
前記調光シートが備える前記電極層に対する駆動電圧の印加を制御する電圧制御部と、を備える
調光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光シート、および、調光シートを備えた調光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、一対の光透過性樹脂シートの間に液晶層を備え、液晶層に印加する電圧の変更によって液晶分子の配向する方向を変える。調光シートの型式は、配向膜を有しないノーマル型と、配向膜を有するリバース型とに大別される。ノーマル型は、駆動電圧の印加によって液晶層の透過率を上げ、駆動電圧の印加の停止によって液晶層の透過率を下げる。リバース型は、駆動電圧の印加によって液晶層の透過率を下げ、駆動電圧の印加の停止によって液晶層の透過率を上げる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
調光シートが適用される対象は、パーティションなどの内装建材や、映像を映し出すスクリーンなどであり、調光シートが置かれる環境は、温度や湿度の調整された室内環境である。室内環境での使用を前提とした調光シートの光透過性樹脂シートは、例えば、ポリエチレンテレフタラートシート(polyethylene terephthalateシート:PETシート)であり、室内環境では安定した化学的な性質を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/72498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、調光シートが適用される対象は、航空機の窓、自動車の投光装置、自動車の窓などにまで広がり、調光シートが置かれる環境もまた、温度や湿度が大きく変わる空間にまで広がっている。そして、新たな環境に対して耐性を高めるための要請は、調光シートにおいて高まる一途である。特に、高温かつ多湿の環境においては、新たな課題として、液晶分子の配向する方向が電圧の印加に追従しにくい現象が発生している。
本発明の目的は、高温かつ多湿の環境での配向制御の信頼性を向上可能とした調光シート、および、調光シートを備える調光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための調光シートは、光透過性樹脂基材と、前記光透過性樹脂基材に支持される調光層と、を備える。前記調光層は、液晶層と、前記液晶層を挟む一対の電極層と、を備える。前記光透過性樹脂基材は、光透過性樹脂シートと、前記光透過性樹脂シートの少なくとも1つの側面に位置して前記光透過性樹脂シートから前記調光層に低分子不純物が到達することを抑えるバリア性を有した表面処理層と、を備える。JIS K5600-5-1(耐屈曲性(円筒形マンドレル))に準拠する屈曲性が、0.4mm以上4mm以下である。
【0007】
本発明者らは、高温かつ多湿の環境での調光シートの状態を鋭意研究するなかで、オリゴマーなどの低分子不純物が、高温かつ多湿の環境でPETシートから拡散して液晶層で析出し、それによって、液晶分子の配向が乱されることを見出した。この点、バリア性を有した表面処理層を備える構成であれば、低分子不純物が拡散することや、光透過性樹脂シートで低分子不純物が生成されることが、表面処理層によって抑えられる。結果として、高温かつ多湿の環境での配向制御の信頼性を向上することが可能となる。また、JIS K5600-5-1(耐屈曲性(円筒形マンドレル))に準拠する屈曲性が、0.4mm以上4mm以下であるため、適用される対象の形状に合わせた変形を調光シートで得られる。
【0008】
上記調光シートにおいて、前記光透過性樹脂シートは、前記調光層と対向する第1面と、前記第1面とは反対側の面である第2面とを備え、前記表面処理層は、前記第1面および前記第2面の少なくとも一方に位置し、JIS K5600-5-4(1999)に準拠した鉛筆硬度試験によって、前記光透過性樹脂シートよりも高い硬度を有するハードコート層であってもよい。第1面にハードコート層が位置する構成によれば、低分子不純物が調光層に到達することを、調光層の直前で抑えることが可能となる。第2面にハードコート層が位置する構成によれば、光透過性樹脂シートでの加水分解などによる低分子不純物の生成そのものを抑えることが可能となる。
【0009】
上記調光シートにおいて、前記光透過性樹脂シートは、前記調光層と対向する第1面と、前記第1面とは反対側の面である第2面とを備え、前記表面処理層は、前記第1面および前記第2面の少なくとも一方に位置し、前記光透過性樹脂シートから低分子不純物が拡散することを抑制する拡散抑制層であってもよい。この構成によれば、低分子不純物が光透過性樹脂シートから拡散することを、拡散抑制層で抑えることが可能となる。
【0010】
上記調光シートにおいて、前記電極層と、該電極層と接合した前記光透過性樹脂基材とからなる構造体において、85℃85%RHの条件下で100時間処理後のヘイズ値の上昇量が2%未満であってもよい。
【0011】
本発明者らは、高温かつ多湿の環境での調光シートの状態を鋭意研究するなかで、上述した低分子不純物の移動と、電極層と光透過性樹脂基材とが接合された構造体におけるヘイズ値の上昇量との関連性を見出した。そして、上記構成であれば、電極層と光透過性樹脂基材とが接合された構造体において、85℃85%RHの条件下で100時間処理後のヘイズ値の上昇量が2%未満であるため、上述した低分子不純物の拡散や生成を抑えることが可能となる。ひいては、高温かつ多湿の環境での配向制御の信頼性を向上することが可能となる。
【0012】
上記調光シートは、前記光透過性樹脂基材において、85℃85%RHの条件下で100時間処理後のヘイズ値の上昇量が2%未満であってもよい。単体の光透過性樹脂基材においてヘイズ値の上昇量が2%未満であるため、低分子不純物の拡散を抑制するための機能を、別途、電極層に対して強いることが抑えられる。
【0013】
上記調光シートにおいて、前記光透過性樹脂シートは、ポリエチレンナフタレートシート、または、ポリイミドシートであってもよい。ポリエチレンナフタレンシートやポリイミドシートは、PETシートと比べて、加水分解に対する耐性が優れている。それゆえに、光透過性樹脂シートから移動する低分子不純物を低減することが容易となる。
【0014】
上記調光シートにおいて、前記電極層は導電性ポリマーから構成されてもよい。導電性ポリマーからなる電極層は、通常、導電性金属酸化物と比べて、低分子不純物を透過しやすい一方で、優れた可撓性を有する。それゆえに、高温かつ多湿の環境での配向制御の信頼性を向上し、かつ、可撓性に優れた調光シートを提供することが可能ともなる。
【0015】
上記調光シートにおいて、前記液晶層は、複数のドメインを区画するポリマーネットワークと、各ドメインを埋める液晶組成物とを備えてもよい。
【0016】
上記課題を解決するための調光装置は、上記調光シートと、前記調光シートが備える電極層に対する駆動電圧の印加を制御する電圧制御部と、を備える。この調光装置によれば、高温かつ多湿の環境での配向制御の信頼性を向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の調光シート、および、調光装置によれば、高温かつ多湿の環境での配向制御の信頼性を向上することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ノーマル型の調光装置の構成を調光シートの断面構造と共に示す図。
図2】リバース型の調光装置の構成を調光シートの断面構造と共に示す図。
図3】第1層構造の光透過性樹脂基材を備えた調光シートの断面構造を示す図。
図4】第2層構造の光透過性樹脂基材を備えた調光シートの断面構造を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1から図4を参照して、調光シート、および、調光装置を具体化した一実施形態を説明する。以下では、調光装置の構成、調光シートの層構造、調光層の構成、および、光透過性樹脂基材の層構造を順に説明する。
【0020】
[調光装置の構成]
図1、および、図2を参照し、調光装置の型式であるノーマル型、および、リバース型を説明する。なお、図1、および、図2では、図示の便宜上、調光層の厚さ、光透過性樹脂基材の厚さ、ドメインの大きさ、および、液晶分子の大きさなどを誇張して示す。
【0021】
図1が示すように、調光装置は、調光シート10と、調光シート10に接続された電圧制御部40とを備える。調光シート10は、液晶分子の配向する方向を切り替えることによって、調光シート10の透過率を変える。電圧制御部40は、液晶分子の配向する方向を切り替えるための駆動電圧の印加を制御する。
【0022】
[ノーマル型]
調光シート10は、一対の光透過性樹脂基材20と、一対の光透過性樹脂基材20で挟まれた調光層30とを備える。調光層30は、一対の電極層31と、一対の電極層31で挟まれた液晶層32とを備える。液晶層32は、ポリマーネットワーク型液晶(Polymer Network Liquid Crystal:PNLC)から構成され、ポリマーネットワーク32aと、液晶組成物32bとを含む。
【0023】
ポリマーネットワーク32aは、複数のドメイン32cを有した三次元の網目状を有する。各ドメイン32cは、ポリマーネットワーク32aによって区画される空隙である。液晶組成物32bは、ポリマーネットワーク32aのドメイン32cを埋めている。
【0024】
液晶層32の状態は、液晶層32に印加される電圧の大きさが変わることによって、光を散乱する第1状態と、光を透過する第2状態との間で変わる。液晶層32は、第1状態において、表面32Fおよび裏面32Rから入射した光を散乱し、表面32Fおよび裏面32Rから散乱光を射出する。
【0025】
例えば、液晶層32に駆動電圧が印加されていないとき、液晶層32の状態は第1状態である。液晶層32に駆動電圧が印加されていないとき、液晶組成物32bは、ドメイン32c内で不規則に並んでいる。これによって、表面32Fから裏面32Rに向けて、および、裏面32Rから表面32Fに向けて、液晶層32のなかを光が通りにくくなる。結果として、液晶層32に駆動電圧が印加されたときと比べて、液晶層32でのヘイズ値が高くなる。
【0026】
これに対して、液晶層32に駆動電圧が印加されているとき、液晶層32の状態は第2状態である。液晶層32に駆動電圧が印加されているとき、液晶組成物32bは、液晶組成物32bの長手方向を、表面32Fおよび裏面32Rと交差する1つの方向、例えば表面32Fおよび裏面32Rの法線方向に沿わせるように並ぶ。これによって、表面32Fから裏面32Rに向けて、および、裏面32Rから表面32Fに向けて、液晶層32のなかを光が通りやすくなる。結果として、液晶層32に駆動電圧が印加されないときと比べて、液晶層32でのヘイズ値が小さくなる。
【0027】
このように、液晶層32に駆動電圧が印加されていないときに、液晶層32のヘイズ値が相対的に高く、かつ、液晶層32に電圧が印加されているときに、液晶層32のヘイズ値が相対的に低い型式は、ノーマル型である。
【0028】
なお、液晶層32が取り得るヘイズ値は、第1状態に対応する第1の値と、第2状態に対応する第2の値とのみであってもよいし、液晶層32は、印加される駆動電圧の大きさに応じて、ヘイズ値における第1の値と第2の値との間の中間値を取り得ることが可能な構成でもよい。
【0029】
液晶層32が第1状態であるとき、液晶層32の全光線透過率は、10%以下であり、液晶層32のヘイズ値は、80%以上であることが好ましい。液晶層32が第2状態であるとき、液晶層32の全光線透過率は、80%以上であり、液晶層32のヘイズ値は、10%以下であることが好ましい。なお、各層の全光線透過率は、JIS K 7361-1(ISO 13468-1)に準拠する方法によって測定することができる。また、各層のヘイズ値は、JIS K 7136(ISO 14782)に準拠する方法によって測定することができる。
【0030】
一対の電極層31は、光を透過すると共に、液晶層32に駆動電圧を印加する。電極層31は、液晶層32の表面32Fと、裏面32Rとに1層ずつ位置している。一対の電極層31のうち、液晶層32の表面32Fに位置する電極層31が、第1電極層31aであり、液晶層32の裏面32Rに位置する電極層31が、第2電極層31bである。
【0031】
各電極層31の全光線透過率は、液晶層32が第2状態であるときの液晶層32の全光線透過率よりも高いことが好ましい。これによって、調光シート10の全光線透過率が、液晶層32の全光線透過率によってほぼ定められることになる。
【0032】
一対の光透過性樹脂基材20は、第1光透過性樹脂基材20a、および、第2光透過性樹脂基材20bから構成される。第1光透過性樹脂基材20aは、第1電極層31aのうち、液晶層32の表面32Fに接する面とは反対側の面に接合されている。第2光透過性樹脂基材20bは、第2電極層31bのうち、液晶層32の裏面32Rに接する面とは反対側の面に接合されている。
【0033】
各光透過性樹脂基材20a,20bの全光線透過率は、液晶層32が第2状態であるときの液晶層32の全光線透過率よりも高いことが好ましい。これによって、調光シート10の全光線透過率が、液晶層32の全光線透過率よってほぼ定められることになる。
【0034】
各光透過性樹脂基材20a,20bは、可撓性を有した光透過性樹脂シートを備える。各光透過性樹脂基材20a,20bが可撓性を有することによって、調光シート10も可撓性を有する。こうした調光シート10は、ガラスなどの平坦な部材に積層する以外に、曲面形状を含む部材への適用が可能であり、また、調光シート10を巻き取った状態で収納することも可能である。このように、可撓性を有する調光シート10によれば、取扱いの自由度が高まる。
【0035】
[調光シートの構成:リバース型]
図2が示すように、調光シート10は、一対の光透過性樹脂基材20と、一対の光透過性樹脂基材20で挟まれた調光層30とを備える。調光層30は、一対の電極層31と、一対の電極層31で挟まれた一対の配向層33と、一対の配向層33で挟まれた液晶層32とを備える。一対の配向層33のうち、一方の配向層33は、液晶層32の表面32Fと第1電極層31aとの間に位置する第1配向層33aである。一対の配向層33のうち、他方の配向層33は、液晶層32の裏面32Rと第2電極層31bとの間に位置する第2配向層33bである。
【0036】
各配向層33a,33bは、例えば、垂直配向膜であり、液晶分子の延びる方向を、配向層33a,33bが広がる平面の法線方向に沿わせるように、各液晶組成物32bを配向する。そのため、液晶層32に駆動電圧が印加されていないとき、液晶層32の状態は第2状態である。すなわち、液晶組成物32bは、ドメインのなかで、液晶分子の延びる方向を、配向層33a,33bが広がる平面の法線方向に沿わせるように並ぶ。これによって、表面32Fから裏面32Rに向けて、および、裏面32Rから表面32Fに向けて、液晶層32のなかを光が通りやすくなる。結果として、液晶層32に駆動電圧が印加されたときと比べて、液晶層32におけるヘイズ値が低くなる。これに対して、液晶層32に駆動電圧が印加されているとき、液晶層32の状態は第1状態である。すなわち、液晶組成物32bは、ドメイン32cのなかで、液晶分子の延びる方向を不規則に並べる。これによって、表面32Fから裏面32Rに向けて、および、裏面32Rから表面32Fに向けて、液晶層32のなかを光が通りにくくなる。結果として、液晶層32に電圧が印加されていないときと比べて、液晶層32におけるヘイズ値が高くなる。
【0037】
このように、液晶層32に電圧が印加されているときに液晶層32のヘイズ値が相対的に高く、かつ、液晶層32に電圧が印加されていないときに液晶層32のヘイズ値が相対的に低い型式が、リバース型である。
【0038】
[調光層30の構成]
調光層30の構成について、調光層30を構成する材料を中心に説明する。
ポリマーネットワーク32aを構成する樹脂は、例えば、熱硬化型樹脂、および、紫外線硬化性樹脂のいずれかである。ポリマーネットワーク32aを構成する樹脂は、例えば、極性基を有するモノマー、および、二官能モノマーから形成される。極性基を有するモノマー、および、二官能モノマーは、熱が加えられることによって、あるいは、紫外線が照射されることによって、重合する。極性基を有するモノマーは、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、および、リン酸基から構成される群から選択される少なくとも1つの極性基を有する。
【0039】
液晶組成物32bは、例えば、ネマティック液晶を構成する液晶分子、スメクティック液晶を構成する液晶分子、および、コレスティック液晶を構成する液晶分子のいずれかである。液晶組成物32bは、液晶分子以外の構成要素として、二色性色素や紫外線吸収剤などを含むことも可能である。
【0040】
ポリマーネットワーク32aを構成する樹脂が紫外線硬化性樹脂であるとき、以下の製造方法によって、液晶層32を製造することができる。
【0041】
まず、電極層31が接合された一対の光透過性樹脂基材20の間に、液晶組成物32bと紫外線重合性化合物とを含む組成物を封入する。次いで、封入された組成物に対して、例えば、第1電極層31aに対して組成物とは反対側、および、第2電極層31bに対して組成物とは反対側から紫外線を照射する。これによって、紫外線重合性化合物が光重合してポリマーを生成するとともに、ポリマーが架橋して多数の微細なドメイン32cを生成し、ポリマーネットワーク32aが形成される。
【0042】
なお、封入された組成物の両側から光を同時に照射する方法であれば、ポリマーネットワーク32aの厚さ方向において、紫外線重合性化合物における重合速度のばらつきを抑えることができる。結果として、電極層31の面方向、および、液晶層32の厚さ方向のいずれにおいても、ドメイン32cの大きさにおけるばらつき、および、ドメイン32cの形状におけるばらつきを抑えることができる。
【0043】
電極層31は、光透過性を有する導電膜である。電極層31を構成する材料は、例えば、光透過性を有した導電性ポリマーである。導電性ポリマーは、例えば、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリピロールである。ポリチオフェン系の化合物の一例は、PEDOT(Polyethylenedioxythiophene)である。また、電極層31を構成する材料は、例えば、光透過性を有し、かつ、導電性を有する金属酸化物である。金属酸化物は、例えば、ATO(SnO2:Sb)、FTO(SnO2:F)、ITO(In2O3:Sn)、AZO(ZnO:Al)、GZO(ZnO:Ga)である。
【0044】
[光透過性樹脂基材20の層構造]
図3、および、図4を参照し、光透過性樹脂基材20の層構造を説明する。なお、以下では、光透過性樹脂基材の層構造として、第1層構造、および、第2層構造を説明する。
【0045】
[第1層構造]
図3が示すように、光透過性樹脂基材20は、光透過性樹脂シート21と、表面処理層22とを備える。表面処理層22は、光透過性樹脂シート21の第1面211と、第2面212とに、1層ずつ位置している。なお、表面処理層22は、第1面211と第2面212とのいずれか一方のみに位置してもよい。
【0046】
光透過性樹脂シート21は、光透過性と可撓性とを有する。光透過性樹脂シート21を構成する材料は、例えば、PET、ポリエチレン(polyethylene :PE)、ポリカーボネート(polycarbonate:PC)、ポリエチレンナフタレート(polyethylene naphthalate:PEN)、および、ポリイミド(Polyimide:PI)からなる群から選択されるいずれか1種である。
【0047】
光透過性樹脂シート21のガラス転移温度は、高温かつ多湿の環境での耐性を高める観点において、85℃以上であることが好ましい。光透過性樹脂シート21を構成する材料は、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート、および、ポリイミドであることが好ましい。ポリエチレンのガラス転移温度が約-125℃であり、ポリエチレンテレフタラートのガラス転移温度が約69℃である一方で、ポリエチレンナフタレートのガラス転移温度は約80℃であり、ポリカーボネートのガラス転移温度は約150℃であり、ポリイミドのガラス転移温度は約275℃である。なお、高温かつ多湿の環境は、温度が85℃であり、かつ、湿度が85%RHである。
【0048】
光透過性樹脂シート21の厚さは、例えば、50μm以上200μm以下である。光透過性樹脂シート21の厚さが50μm以上であれば、調光シート10の製造に際して、光透過性樹脂シート21にシワなどが発生することを抑えることが可能となる。また、光透過性樹脂シート21の厚さが200μm以下であれば、調光シート10における光透過性を確保することが容易となる。
【0049】
光透過性樹脂シート21において、オリゴマーなどの低分子不純物の含有量は、高温かつ多湿の環境において、低いことが好ましい。低分子不純物の含有量が低いほど、高温かつ多湿の環境において、光透過性樹脂シート21で低分子不純物が生成され難く、また、低分子不純物が調光層30に移動し難い。
【0050】
表面処理層22は、ハードコート層、および、拡散抑制層の少なくとも1種である。単一の表面処理層22を構成する層の数量は、1層以上である。単一の表面処理層22は、例えば、ハードコート層のみから構成されてもよく、拡散抑制層のみから構成されてもよい。また、単一の表面処理層22は、例えば、ハードコート層と接着層とから構成されてもよく、拡散抑制層と接着層とから構成されてもよい。また、単一の表面処理層22は、ハードコート層と拡散抑制層との組み合わせであってもよい。なお、光透過性樹脂基材20は、第1面211と第2面212との両方に、別々の種類のハードコート層を備えてもよく、第1面211と第2面212との両方に、別々の種類の拡散抑制層を備えてもよい。また、光透過性樹脂基材20は、第1面211に拡散抑制層を備え、第2面212にハードコート層を備えてもよい。
【0051】
ハードコート層は、JIS K5600-5-4(1999)に準拠した鉛筆硬度試験によって、光透過性樹脂シート21よりも高い硬度を有する。ハードコート層は、調光層30に対する水分子の拡散や、調光層30に対する大気の拡散を抑制するバリア性を有する。また、ハードコート層は、光透過性樹脂シート21に対する水分子の拡散や、光透過性樹脂シート21に対する大気の拡散を抑制するバリア性を有する。ハードコート層は、光透過性樹脂シート21よりも高いガラス転移温度(Tg)を有することが好ましい。
【0052】
ハードコート層は、例えば、光硬化型樹脂の硬化体、熱硬化型樹脂の硬化体、および、無機酸化物膜からなる群から選択される少なくとも1種である。単一のハードコート層を構成する層の数量は、1層以上である。単一のハードコート層は、例えば、光硬化型樹脂の硬化体のみから構成されてもよいし、光硬化型樹脂の硬化体と無機酸化物膜との組み合わせでもよい。
【0053】
ハードコート層を形成するための光硬化型樹脂は、例えば、アクリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂である。アクリレート樹脂を形成するモノマー、あるいは、プレポリマーは、例えば、ポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系である。ハードコート層を構成する熱硬化型樹脂は、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリイミド系樹脂である。ハードコート層を形成するモノマー、あるいは、プレポリマーは、高いバリア性を得られる観点において、不飽和二重結合を2個以上有することが好ましい。
【0054】
ハードコート層の厚さは、例えば、0.2μm以上10μm以下である。ハードコート層の厚さが0.1μm以上であれば、ハードコート層にピンホールなどが形成されることを抑えて、バリア性を十分に得ることが可能となる。ハードコート層の厚さが10μm以下であれば、ハードコート層を別途加えることによる透過率の低下を抑えることが可能となる。
【0055】
第1面211にハードコート層を備える構成であれば、高温かつ多湿の環境で、光透過性樹脂シート21から調光層30に低分子不純物が拡散することが抑えられる。また、第2面212にハードコート層を備える構成であれば、高温かつ多湿の環境で、光透過性樹脂シート21での加水分解を抑えることが可能であり、加水分解による低分子不純物の生成そのものを抑えることが可能である。
【0056】
なお、ハードコート層は、電極層31と接触してもよいし、易接着層を介して電極層31に接着されてもよい。易接着層を構成する樹脂は、例えば、アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、および、エポキシアクリレートからなる群から選ばれる少なくとも一種以上のポリマーを含む。
【0057】
拡散抑制層は、低分子不純物の拡散を抑制するためのポリマーネットワークを備え、それによって、低分子不純物の拡散を抑制するバリア性を有する。オリゴマーなどの低分子不純物は、例えば、光透過性樹脂シート21を生成するときに、光透過性樹脂シート21のなかに不可避的に含まれる。また、低分子不純物は、光透過性樹脂シート21が高温かつ多湿の環境に置かれることによって、光透過性樹脂シート21で生成される。
【0058】
拡散抑制層は、例えば、光硬化型樹脂の硬化体、熱硬化型樹脂の硬化体、および、無機酸化物膜からなる群から選択される少なくとも1種である。単一の拡散抑制層を構成する層の数量は、1層以上である。単一の拡散抑制層は、例えば、光硬化型樹脂の硬化体のみから構成されてもよいし、光硬化型樹脂の硬化体と無機酸化物膜との組み合わせでもよい。
【0059】
拡散抑制層を構成する材料は、架橋構造を形成する官能基を有した組成物の架橋体である。組成物は、例えば、アクリル系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリエステルアクリレート、ポリウレタンアクリレート、および、ポリエポキシアクリレートからなる群から選ばれる少なくとも一種以上の化合物である。
【0060】
調光シート10は、光透過性樹脂シート21と調光層30とを接着するための易接着層を備え、拡散抑制層を構成する材料は、例えば、易接着層を構成する材料と同じでもよい。易接着層の厚さは、通常、10nm以上100nm以下である。易接着層と拡散抑制層とが同じ材料で構成される場合、易接着層の厚さと、拡散抑制層の厚さとの合計は、例えば、1μm以上10μm以下である。
【0061】
本発明者らは、光透過性樹脂シート21としてポリエチレンテレフタラートシートを用い、光透過性樹脂シート21と調光層30とを易接着層で接合した従来構成について、高温かつ多湿の環境での調光シート10の状態を鋭意研究した。そのなかで、オリゴマーなどの低分子不純物が、高温かつ多湿の環境で光透過性樹脂シート21から拡散して液晶層32で析出し、それによって、液晶分子の配向が乱されることを見出した。そして、上述したように、バリア性を有した表面処理層22を備える調光シート10であれば、低分子不純物が拡散することや、光透過性樹脂シート21で低分子不純物が生成されることが、表面処理層22によって抑えられる。結果として、高温かつ多湿の環境での配向制御の信頼性を向上することが可能となる。
【0062】
[第2層構造]
図4が示すように、調光シート10は、第1光透過性樹脂基材20aとして光透過性樹脂シート21を備え、第2光透過性樹脂基材20bとして光透過性樹脂シート21を備える。すなわち、第2層構造では、各光透過性樹脂基材20が、単一の光透過性樹脂シート21から構成される。
【0063】
第2層構造での光透過性樹脂シート21は、光透過性と可撓性とを有する。光透過性樹脂シート21を構成する材料は、ポリエチレンナフタレート、および、ポリイミドからなる群から選択されるいずれか1種の化合物である。光透過性樹脂シート21は、電極層31と接触してもよいし、易接着層を介して電極層31に接着されてもよい。
【0064】
光透過性樹脂シート21と電極層31とが接合された構造体である電極構造体は、以下の[条件1]を満たす。また、電極構造体は、以下の[条件2]を満たすことが好ましい。
[条件1]電極構造体において、85℃85%RHの条件下で100時間処理後のヘイズ値の上昇量が2%未満である。
[条件2]光透過性樹脂シート21において、85℃85%RHの条件下で100時間処理後のヘイズ値の上昇量が2%未満である。
【0065】
本発明者らは、高温かつ多湿の環境での従来構成の調光シート10の状態を鋭意研究するなかで、低分子不純物の移動と、電極構造体におけるヘイズ値の上昇量との関連性を見出した。すなわち、電極構造体におけるヘイズ値の上昇量が3%のような高い値では、低分子不純物の移動による配向制御の不具合が認められる一方で、ヘイズ値の上昇量が2%未満であれば、低分子不純物の移動による配向制御の信頼性を確保できることを見出した。そして、上述したように、電極構造体が[条件1]を満たす調光シート10であれば、低分子不純物の拡散や生成を抑えることが可能となる。ひいては、高温かつ多湿の環境での配向制御の信頼性を向上することが可能となる。さらに、上述したように、光透過性樹脂シート21が単独で[条件2]を満たす調光シート10であれば、上述した効果を得ることがより確実なものとなる。
【0066】
[実施例1,2]
調光シート10の各層を下記構成として、実施例1のノーマル型の調光シート10を得た。また、実施例1の調光シート10に一対の配向層33を付加して、実施例2のリバース型の調光シート10を得た。
・光透過性樹脂基材20の層構造:第1層構造
・光透過性樹脂シート21 :PETシート(東洋紡株式会社製A4300)
・光透過性樹脂シート21の厚さ:50μm
・表面処理層22 :ハードコート層(アクリル樹脂)
・表面処理層22の厚さ :1.0μm
・表面処理層22の位置 :第1面211および第2面212
・各電極層31 :PEDOT
・各電極層31の厚さ :0.3μm
【0067】
[実施例3,4]
実施例1の表面処理層22の厚さを1.5μmに変更し、その他の構成を実施例1と同じくして、実施例3の調光シート10を得た。また、実施例2と同じく、実施例3の調光シート10に一対の配向層33を付加した構成として、実施例4のリバース型の調光シート10を得た。
【0068】
[実施例5,6]
実施例1の表面処理層22の厚さを3.0μmに変更し、その他の構成を実施例1と同じくして、実施例5の調光シート10を得た。また、実施例2と同じく、実施例5の調光シート10に一対の配向層33を付加した構成として、実施例6のリバース型の調光シート10を得た。
【0069】
[実施例7,8]
実施例1の表面処理層22の厚さを5.0μmに変更し、その他の構成を実施例1と同じくして、実施例7の調光シート10を得た。また、実施例2と同じく、実施例7の調光シート10に一対の配向層33を付加した構成として、実施例8のリバース型の調光シート10を得た。
【0070】
[実施例9,10]
実施例1の電極層31を厚さが0.02μmのITOに変更し、かつ、表面処理層22の厚さを1.5μmに変更し、その他の構成を実施例1と同じくして、実施例9の調光シート10を得た。また、実施例2と同じく、実施例7の調光シート10に一対の配向層33を付加した構成として、実施例10のリバース型の調光シート10を得た。
【0071】
[実施例11,12]
実施例1の表面処理層22を厚さが1.0μmの拡散抑制層(アクリル樹脂)に変更し、その他の構成を実施例1と同じくして、実施例11の調光シート10を得た。また、実施例2と同じく、実施例11の調光シート10に一対の配向層33を付加した構成として、実施例8のリバース型の調光シート10を得た。
【0072】
[実施例13,14]
調光シート10の各層を下記構成として、実施例13の調光シート10を得た。また、実施例2と同じく、実施例13の調光シート10に一対の配向層33を付加した構成として、実施例14のリバース型の調光シート10を得た。
・光透過性樹脂基材20の層構造:第2層構造
・光透過性樹脂シート21 :PENシート(帝人株式会社製)
・光透過性樹脂シート21の厚さ:50μm
・各電極層31 :PEDOT
・各電極層31の厚さ :0.3μm
【0073】
[実施例15,16]
調光シート10の各層を下記構成として、実施例15の調光シート10を得た。また、実施例2と同じく、実施例15の調光シート10に一対の配向層33を付加した構成として、実施例16のリバース型の調光シート10を得た。
・光透過性樹脂基材20の層構造:第2層構造
・光透過性樹脂シート21 :PIシート(カネカ株式会社製)
・光透過性樹脂シート21の厚さ:50μm
・各電極層31 :PEDOT
・各電極層31の厚さ :0.3μm
【0074】
[実施例17,18]
調光シート10の各層を下記構成として、実施例17の調光シート10を得た。また、実施例2と同じく、実施例17の調光シート10に一対の配向層33を付加した構成として、実施例18のリバース型の調光シート10を得た。
・光透過性樹脂基材20の層構造:第2層構造
・光透過性樹脂シート21 :PETシート(東洋紡株式会社製A4300)
・光透過性樹脂シート21の厚さ:50μm
・各電極層31 :PEDOT
・各電極層31の厚さ :0.3μm
【0075】
[比較例1,2]
実施例1の調光シート10から表面処理層22を省略し、その他の構成を実施例1と同じくして、比較例1の調光シートを得た。また、実施例2と同じく、比較例1の調光シートに一対の配向層33を付加した構成として、比較例2のリバース型の調光シート10を得た。
【0076】
実施例1~18、および、比較例1,2について、JIS K 7136(ISO 14782)に準拠する方法を用い、85℃85%RHの条件下で100時間処理する前と後とで、単体での光透過性樹脂基材20のヘイズ値を測定した。実施例1~18、および、比較例1,2について、単体での光透過性樹脂基材20の処理前のヘイズ値、および、処理前後でのヘイズ値の差分であるヘイズ値の上昇量を表1,2に示す。
【0077】
実施例1~18、および、比較例1,2について、JIS K 7136(ISO 14782)に準拠する方法を用い、85℃85%RHの条件下で100時間処理する前と後とで、電極構造体でのヘイズ値を測定した。また、JIS K5600-5-1(耐屈曲性(円筒形マンドレル))に準拠する方法を用い、電極構造体の耐屈曲性試験を行った。また、実施例1~18、および、比較例1,2について、処理前における電極構造体のヘイズ値、および、処理前後でのヘイズ値の差分であるヘイズ値の上昇量を表1,2に示す。また、実施例1~18、および、比較例1,2について、電極構造体においてクラックが生じなかったマンドレルの最小直径を屈曲性として表1,2に示す。
【0078】
実施例1~18、および、比較例1,2のうち、ノーマル型の調光シートを85℃85%RHの条件下で100時間処理した後、調光シートに印加する電圧を0Vから10Vまで変更し、調光シートにおけるヘイズ値の最小値を測定した。ヘイズ値の最小値は、JIS K 7136(ISO 14782)に準拠する方法を用い、第1状態から第2状態までの間におけるヘイズ値の最小値である。また、JIS K 7361-1(ISO 13468-1)に準拠する方法を用い、第1状態から第2状態までの間における、調光シートの透過率の最大値を測定した。実施例1~18、および、比較例1,2について、ノーマル型での調光シートのヘイズ値の最小値、および、透過率の最大値を表1,2に示す。
【0079】
実施例1~18、および、比較例1,2のうち、リバース型の調光シートを85℃85%RHの条件下で100時間処理した後、調光シートに印加する電圧を0Vから10Vまで変更し、調光シートにおけるヘイズ値の最大値を測定した。ヘイズ値の最大値は、JIS K 7136(ISO 14782)に準拠する方法を用い、第1状態から第2状態までの間におけるヘイズ値の最大値である。また、JIS K 7361-1(ISO 13468-1)に準拠する方法を用い、第1状態から第2状態までの間における、調光シートの透過率の最小値を測定した。実施例1~18、および、比較例1,2について、リバース型での調光シートのヘイズ値の最大値、および、透過率の最小値を表1,2に示す。
【0080】
なお、表1,2では、以下の全ての条件を満たす水準に「○」印を付し、いずれかの条件を満たさない水準に「×」印を付して示す。
・光透過性樹脂シートのヘイズ値の上昇量が2%未満である。
・ノーマル型:ヘイズ値の最小値が10%以下である。
・ノーマル型:透過率の最大値が80%以上である。
・リバース型:ヘイズ値の最大値が80%以上である。
・リバース型:透過率の最小値が10%以下である。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
表1,表2が示すように、実施例1~18の電極構造体において、ヘイズ値の上昇量は0.0%以上1.9%以下であり、いずれの水準も条件1を満たすことが認められた。一方、比較例1,2の電極構造体において、ヘイズ値の上昇量は3.0%であり、いずれの水準も条件1を満たしていないことが認められた。また、実施例13~18の光透過性樹脂シートにおいて、ヘイズ値の上昇量は0.2%以上1.9%以下であり、いずれの水準も条件2を満たすことが認められた。
【0084】
そして、実施例1~18のうち、ノーマル型の調光シートにおいて、ヘイズ値の最小値は7%以上9%以下であり、高温かつ多湿の環境で十分な耐性を有するとする10%以下であることが認められた。また、実施例1~18のうち、リバース型の調光シートにおいて、ヘイズ値の最大値は82%以上88%以下であり、高温かつ多湿の環境で十分な耐性を有するとする80%以上であることが認められた。
【0085】
また、実施例1~18のうち、ノーマル型の調光シートにおいて、透過率の最小値は7%以上9%以下であり、高温かつ多湿の環境で十分な耐性を有するとする10%以下であることが認められた。また、実施例1~18のうち、リバース型の調光シートにおいて、透過率の最大値は82%以上87%以下であり、高温かつ多湿の環境で十分な耐性を有するとする80%以上であることが認められた。
【0086】
これに対して、比較例1の調光シートにおいて、ヘイズ値の最小値は12%であり、透過率の最大値は87%であり、ヘイズ値の観点において、高温かつ多湿の環境で十分な耐性を有していないことが認められた。また、比較例2の調光シートにおいて、ヘイズ値の最大値は78%であり、透過率の最小値は15%であり、ヘイズ値および透過率の両観点において、高温かつ多湿の環境で十分な耐性を有していないことが認められた。
【0087】
すなわち、ハードコート層を表面処理層22として備える構成であれば(実施例1~10)、光透過性樹脂シート21が低分子不純物を放出するとしても、液晶分子を用いた配向制御の信頼性を十分に確保することが可能となる。
【0088】
また、拡散抑制層を表面処理層22として備える構成であれ(実施例11~12)、[条件1]を満たす構成であれ(実施例1~18)、同じく、液晶分子を用いた配向制御の信頼性を十分に確保することが可能となる。さらに、[条件2]を満たす構成であれば(実施例13~18)、表面処理層22が割愛された状態で、同じく、液晶分子を用いた配向制御の信頼性を十分に確保することが可能となる。
【0089】
なお、実施例1~18の電極構造体においては、屈曲性が0.4mm以上4mm以下であるため、適用される対象の形状に合わせた変形を調光シートで得られることも認められた。
【0090】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得られる。
(1)表面処理層22を備える構成であれば、低分子不純物が拡散することや、光透過性樹脂シート21で低分子不純物が生成されることが抑えられる。そのため、高温かつ多湿の環境での配向制御の信頼性を向上することが可能となる。
(2)表面処理層22が第1面211に位置する場合には、低分子不純物が調光層30に到達することを、調光層30の直前で抑えることが可能となる。
【0091】
(3)表面処理層22が第2面212に位置する場合には、光透過性樹脂シート21での加水分解などによる低分子不純物の生成そのものを抑えることが可能となる。
【0092】
(4)表面処理層22が光硬化型樹脂の硬化体や熱硬化型樹脂の硬化体である場合には、硬化型樹脂を硬化するためのエネルギーを、光透過性樹脂シート21を通して供給することが可能ともなる。
【0093】
(5)光透過性樹脂シート21と調光層30とを接着する機能を表面処理層22が兼ね備える場合には、光透過性樹脂シート21と調光層30との密着性を高めることが可能ともなる。
【0094】
(6)85℃85%RHの条件下で100時間処理後のヘイズ値の上昇量が、電極構造体において2%未満であるため、調光層30に対する低分子不純物の拡散や生成を抑えることが可能となる。
【0095】
(7)さらに、85℃85%RHの条件下で100時間処理後のヘイズ値の上昇量が、光透過性樹脂シート21において2%未満である場合には、(6)に準じた効果を高めることが可能であり、また、表面処理層22を割愛することも可能となる。
【0096】
(8)導電性ポリマーからなる電極層31は、通常、導電性金属酸化物と比べて、低分子不純物を透過しやすい一方で、優れた可撓性を有する。それゆえに、電極層31が導電性ポリマーからなる場合には、高温かつ多湿の環境での配向制御の信頼性を向上し、かつ、可撓性に優れた調光シート10を提供することが可能ともなる。
【0097】
なお、上述した実施形態は、以下のように適宜変更して実施することができる。
[液晶層32]
・液晶層32の型式は、高分子分散型液晶(PDLC:Polymer Dispersed Liquid Crystal)、あるいは、カプセル型ネマティック液晶(NCAP:Nematic Curvilinear Aligned Phase)に変更できる。高分子分散型液晶は、孤立した多数の空隙を高分子層のなかに備え、高分子層に分散した各空隙のなかに液晶組成物を保持する。カプセル型ネマティック液晶は、カプセル状を有した液晶組成物を高分子層のなかに保持する。
【0098】
[調光シートの層構造]
・調光シートが備える一方の光透過性樹脂基材20を、上述した第1層構造に準じた構成とし、他方の光透過性樹脂基材を、上述した第2層構造に準じた構成とすることも可能である。すなわち、一方の光透過性樹脂基材20が、表面処理層22を備え、他方の光透過性樹脂基材20が、条件2を満たす光透過性樹脂シート21のみから構成されてもよい。
【符号の説明】
【0099】
10…調光シート、20…光透過性樹脂基材、20a…第1光透過性樹脂基材、20b…第2光透過性樹脂基材、21…光透過性樹脂シート、22…表面処理層、30…調光層、31…電極層、30a…第1電極層、30b…第2電極層、32…液晶層、32a…ポリマーネットワーク、32b…液晶組成物、32c…ドメイン、32F…表面、32R…裏面、33…配向層、33a…第1配向層、33b…第2配向層、40…電圧制御部、211…第1面、212…第2面。
図1
図2
図3
図4