(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物、及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20220509BHJP
C08L 7/00 20060101ALI20220509BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220509BHJP
C08L 71/02 20060101ALI20220509BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
C08L21/00
C08L7/00
C08K3/36
C08L71/02
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2018502836
(86)(22)【出願日】2017-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2017037197
(87)【国際公開番号】W WO2018079312
(87)【国際公開日】2018-05-03
【審査請求日】2020-09-03
(31)【優先権主張番号】P 2016209666
(32)【優先日】2016-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河西 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】大槻 洋敏
(72)【発明者】
【氏名】横山 結香
【審査官】吉田 早希
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-026657(JP,A)
【文献】特開2000-234036(JP,A)
【文献】特開平10-071804(JP,A)
【文献】特開2001-261890(JP,A)
【文献】特開2016-074834(JP,A)
【文献】特開2011-195639(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0226395(US,A1)
【文献】国際公開第2016/084569(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/093006(WO,A1)
【文献】特開2001-164051(JP,A)
【文献】特開2008-280438(JP,A)
【文献】特開2005-206673(JP,A)
【文献】特開2015-120801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
B60C 1/00 - 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、シリカと、ポリエチレングリコールとを含み
、
シランカップリング剤の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以下であり、
前記ポリエチレングリコールの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、0.1質量部以上であり、
前記シリカの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して、2~40質量部であるタイヤ用ゴム組成物
を用いて作製したキャップトレッドを有する空気入りタイヤ。
【請求項2】
高純度化された改質天然ゴムを含む請求項
1記載の
空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記改質天然ゴムのリン含有量が500ppm以下である請求項
2に記載の
空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記改質天然ゴムの窒素含有量が0.30質量%以下である請求項
2に記載の
空気入りタイヤ。
【請求項5】
重荷重用タイヤである請求項
1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
輸送業界では、燃料代の高騰に伴う経費増大、環境規制の導入による出費増大の理由から、トラック、バスなどの重荷重車にも低燃費性に優れたタイヤが望まれており、近年の低燃費化の要請の高まりで更なる検討が不可欠である。低燃費性以外にもタイヤ用ゴム組成物には、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性等も要求される。
【0003】
特許文献1には、溶液重合スチレンブタジエンゴム、カーボンブラック、シリカ及びポリエチレングリコールをそれぞれ所定量配合することにより、低燃費性及び耐摩耗性をバランスよく改善できることが開示されている。しかしながら、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性をバランス良く改善するという点では改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記課題を解決し、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性をバランス良く改善できるタイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、シランカップリング剤を配合せずにシリカを配合し、更に、ポリエチレングリコール(PEG)を配合することで、加硫ゴムにしなやかさが出て、加硫ゴムの伸びが向上し、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性をバランス良く改善できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、シリカと、ポリエチレングリコールとを含み、かつ、シランカップリング剤を実質的に含まないタイヤ用ゴム組成物に関する。
【0007】
上記タイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、上記シリカを2~40質量部含むことが好ましい。
【0008】
上記タイヤ用ゴム組成物は、高純度化された改質天然ゴムを含むことが好ましい。
【0009】
上記改質天然ゴムのリン含有量が500ppm以下であることが好ましい。
【0010】
上記改質天然ゴムの窒素含有量が0.30質量%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製したタイヤ部材を有する空気入りタイヤに関する。
【0012】
上記タイヤ部材が、キャップトレッドであることが好ましい。
【0013】
上記空気入りタイヤが、重荷重用タイヤであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、シリカと、ポリエチレングリコールとを含み、かつ、シランカップリング剤を実質的に含まないタイヤ用ゴム組成物であるので、加硫ゴムの伸びが向上し、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性をバランス良く改善でき、これらの性能バランスに優れた空気入りタイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、シリカと、ポリエチレングリコールとを含み、かつ、シランカップリング剤を実質的に含まない。
【0016】
本発明では、上述の通り、シランカップリング剤を配合せずにシリカを配合し、更に、ポリエチレングリコール(PEG)を配合することで、加硫ゴムにしなやかさが出て、加硫ゴムの伸びが向上し、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性をバランス良く改善できる。これは、以下のように推測される。
シリカとシランカップリング剤とを併用すると、シリカとゴム成分とがシランカップリング剤を介して化学結合することとなり、加硫ゴムの伸び(例えば、破断時伸び)は低下することとなる。一方、シリカは、凝集体となりやすく、これにより、タイヤ性能の低下を招く。これは、シリカをシランカップリング剤と併用しない場合に顕著に見られる現象である。これに対して、本発明では、シリカとPEGを併用することにより、シランカップリング剤が存在しない状況下においてもシリカの凝集を抑制でき、シリカの分散性を向上でき、加硫ゴムにしなやかさが出て、加硫ゴムの伸びが向上し、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性をバランス良く改善できるものと推測される。
【0017】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0018】
シリカのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは50m2/g以上、より好ましくは80m2/g以上、更に好ましくは150m2/g以上である。50m2/g未満では、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性が低下する傾向がある。該N2SAは、好ましくは280m2/g以下、より好ましくは240m2/g以下、更に好ましくは200m2/g以下である。280m2/gを超えると、分散させるのが困難となり、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性が悪化する傾向がある。
なお、シリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0019】
本発明では、特定量のシリカが使用されることが好ましい。これにより、本発明の効果がより好適に得られる。
具体的には、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2~40質量部、より好ましくは4~30質量部であり、上限は20質量部が更に好ましく、15質量部が特に好ましく、10質量部が最も好ましい。2質量部未満では、加硫ゴムにしなやかさが充分に出ず、加硫ゴムの伸びが充分に向上せず、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性をバランス良く改善できないおそれがある。40質量部を超えると、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性が低下するおそれがある。
シリカの含有量を特に4~10質量部とすることにより、本発明の効果が更に好適に得られる。
【0020】
ポリエチレングリコールとしては特に限定されないが、下記式で表されるものを好適に使用できる。
HO(CH2CH2O)pH
(pは5~100の整数を表す。)
【0021】
本発明の効果がより好適に得られるという点から、pは80~100が好ましい。
【0022】
ポリエチレングリコールの重量平均分子量は、好ましくは1000以上、より好ましくは3000以上であり、好ましくは10000以下、より好ましくは5000以下である。上記範囲内であると、本発明の効果がより好適に得られる。
なお、本明細書においてポリエチレングリコールの重量平均分子量(Mw)は、装置 :LC-6A((株)島津製作所製)、検出器 :RID-10A((株)島津製作所製)、カラム :アサヒパックGF-510HQ(直径7.6mm×長さ0.3m;昭和電工(株)製)、移動相 :水、流速 :1mL/min、温度 :30℃の条件の下、ゲル濾過クロマトグラフィにより測定できる。
【0023】
ポリエチレングリコールの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上であり、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上である。0.1質量部未満であると、本発明の効果が良好に得られないおそれがある。該含有量は、好ましくは3.5質量部以下であり、より好ましくは2.5質量部以下、更に好ましくは1.5質量部以下、特に好ましくは1.0質量部以下である。3.5質量部を超えると、加工性が悪化するおそれがある。
【0024】
本発明のゴム組成物は、シランカップリング剤を実質的に含まない。
ここで、本明細書において、シランカップリング剤を実質的に含まないとは、ゴム成分100質量部に対して、シランカップリング剤の含有量が、好ましくは0.1質量部以下、より好ましくは0.01質量部以下、更に好ましくは0質量部である。
【0025】
シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤が挙げられる。具体的には、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2-トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4-トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリエトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2-トリメトキシシリルエチル-N,N-ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3-トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3-トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等のスルフィド系;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプト系;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のグリシドキシ系;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、2-クロロエチルトリメトキシシラン、2-クロロエチルトリエトキシシラン等のクロロ系;等が挙げられる。
【0026】
本発明に使用されるゴム成分としては、例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、イソプレン系ゴム、BRが好ましく、イソプレン系ゴムとBRを併用することが好ましい。
【0027】
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)の他、NRから不純物が取り除かれ、高純度化された改質天然ゴム(高純度天然ゴム(UPNR))等が挙げられる。なかでも、上記改質天然ゴム(高純度天然ゴム(UPNR))が好ましい。
【0028】
シランカップリング剤を配合せずにシリカを配合したゴム組成物において、改質天然ゴム(高純度天然ゴム(UPNR))とポリエチレングリコールとを併用することにより、加硫ゴムの伸び、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性を相乗的に改善できる。これは、非ゴム成分が除去された改質天然ゴム(高純度天然ゴム(UPNR))は、天然ゴムのポリイソプレン成分とポリエチレングリコールとの親和性が良好であることに加えて、天然ゴムのポリイソプレン成分が直接ポリエチレングリコールと接触できる割合が増加するため、シランカップリング剤を配合せずにシリカを配合したゴム組成物にポリエチレングリコールを配合した効果がより顕著に得られるためと推測される。
更に、上記改質天然ゴムは、タンパク質、リン脂質などの非ゴム成分を除去して高純度化されているため、シリカ等のフィラーとの馴染みが良く、加硫ゴムの伸びがより向上し、本発明の効果がより好適に得られる。
【0029】
上記改質天然ゴムは、タンパク質、リン脂質などの非ゴム成分が除去されることにより高純度化された天然ゴムであれば特に限定されない。なかでも、高純度化され、かつpHが2~7に調整されたものであることが好ましい。改質天然ゴムは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、本明細書において、非ゴム成分が除去されとは、非ゴム成分が少しでも除去されていればよく、全ての非ゴム成分が除去されていることを意味するものではない。
タンパク質、リン脂質などの非ゴム成分を除去して高純度化するとともに、ゴムのpHを適切な値にコントロールした改質天然ゴムは、加硫ゴムの伸びがより向上し、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性がより改善される。また、非ゴム成分の除去やゴムが塩基性又は強酸性となることで、ゴムの劣化が進行し易くなるが、ゴムのpHを所定範囲に調整することで、保存中の分子量の低下が抑制されるので、良好な耐熱老化性が得られる。その結果、混練工程でのゴム物性の低下防止、充填剤の分散性向上が実現し、前記各種性能の性能バランスが改善される。
【0030】
ここで、高純度化とは、天然ポリイソプレノイド成分以外のリン脂質、タンパク質等の不純物を取り除くことである。天然ゴムは、イソプレノイド成分が、前記不純物成分に被覆されているような構造となっており、前記成分を取り除くことにより、イソプレノイド成分の構造が変化して、配合剤との相互作用が変わってエネルギーロスが減ったり、耐久性が向上し、より良いゴム組成物を得ることができると推察される。
【0031】
高純度化され、かつpHが2~7に調整された改質天然ゴムとしては、非ゴム成分量を低減して高純度化され、かつゴムのpHが2~7の改質天然ゴムであれば特に限定されず、具体的には、(1)天然ゴムの非ゴム成分を除去した後、酸性化合物で処理して得られ、pHが2~7である改質天然ゴム、(2)ケン化天然ゴムラテックスを洗浄し、更に酸性化合物で処理して得られ、pHが2~7である改質天然ゴム、(3)脱蛋白天然ゴムラテックスを洗浄し、更に酸性化合物で処理して得られ、pHが2~7である改質天然ゴム、(4)天然ゴムラテックスを凝集(凝固)させ、凝集(凝固)したゴムを粉砕し、水で洗浄を繰り返して得られ、pHが2~7である改質天然ゴム、等が挙げられる。
【0032】
このように、前記改質天然ゴムは、ケン化天然ゴムラテックスや脱蛋白天然ゴムラテックスを、蒸留水などで水洗し、更に酸性化合物で処理する製法等により調製できるが、水洗に用いた蒸留水のpHに比べて、酸性化合物の処理により酸性側にシフトさせ、pHの値を下げることが重要である。通常、蒸留水のpHが7.00ということはなく、5~6程度であるが、この場合は、酸性化合物の処理によりpHの値を5~6よりも酸性側に低下させることが重要となる。具体的には、水洗に用いる水のpH値より、酸性化合物の処理でpH値を0.2~2低下させることが好ましい。
【0033】
前記改質天然ゴムのpHは好ましくは2~7であり、より好ましくは3~6、更に好ましくは4~6である。上記範囲内に調整することで、耐熱老化性の低下が防止され、前記各種性能を顕著に改善できる。なお、改質天然ゴムのpHは、ゴムを各辺2mm角以内の大きさに切って蒸留水に浸漬し、マイクロ波を照射しながら90℃で15分間抽出し、浸漬水をpHメーターを用いて測定された値であり、具体的には後述の実施例に記載の方法で測定する。ここで、抽出については、超音波洗浄器などで1時間抽出してもゴム内部から完全に水溶性成分を抽出することはできないため、正確に内部のpHを知ることはできないが、本手法で抽出することでゴムの実体を知ることが可能になる点を本発明者は見出したものである。
【0034】
前記改質天然ゴムは、前記(1)~(4)等、各種方法により高純度化したものであり、例えば、該改質天然ゴム中のリン含有量は、好ましくは500ppm以下、より好ましくは400ppm以下、更に好ましくは300ppm以下、特に好ましくは200ppm以下、最も好ましくは150ppm以下である。500ppmを超えると、貯蔵中にムーニー粘度が上昇して加工性が悪くなったり、tanδが上昇し低燃費性を改善できないおそれがある。なお、リン含有量は、ICP発光分析等、従来の方法で測定できる。リンは、天然ゴムに含まれるリン脂質に由来するものと考えられる。
【0035】
前記改質天然ゴムは、人工の老化防止剤を含んでいる場合、アセトン中に室温(25℃)下で48時間浸漬した後の窒素含有量が0.30質量%以下であることが好ましく、0.15質量%以下であることがより好ましく、0.10質量%以下であることが更に好ましい。0.30質量%を超えると、貯蔵中にムーニー粘度が上昇して加工性が悪くなったり、低燃費性の改善効果が充分に得られないおそれがある。高純度化した天然ゴムは天然ゴムが元々有しているといわれる天然の老化防止剤成分が除去されているため、長期の保存で劣化するおそれがある。そのため、人工の老化防止剤が添加されることがある。上記窒素含有量は、アセトン抽出によりゴム中の人工の老化防止剤を除去した後の測定値である。窒素含有量は、ケルダール法、微量窒素量計等、従来の方法で測定できる。窒素は、タンパク質やアミノ酸に由来するものである。
【0036】
前記(1)~(4)などの高純度化され、かつpHが2~7に調整された前記改質天然ゴムは、(製法1)天然ゴムラテックスをケン化処理する工程1-1と、ケン化天然ゴムラテックスを洗浄する工程1-2と、酸性化合物で処理する工程1-3とを含む製造方法、(製法2)天然ゴムラテックスを脱蛋白処理する工程2-1と、脱蛋白天然ゴムラテックスを洗浄する工程2-2と、酸性化合物で処理する工程2-3とを含む製造方法、等により調製できる。
【0037】
前記改質天然ゴムは、例えば、特開2010-138359号公報、特開2015-124308号公報に記載の方法により調製できる。
【0038】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴム(好ましくは前記改質天然ゴム)の含有量は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上である。また、該含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下である。イソプレン系ゴム(好ましくは前記改質天然ゴム)の含有量が上記範囲内であると、本発明の効果がより好適に得られる。
【0039】
BRとしては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用でき、例えば、ハイシス1,4-ポリブタジエンゴム(ハイシスBR)、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴム(SPB含有BR)、変性ブタジエンゴム(変性BR)、希土類系触媒を用いて合成したBR(希土類BR)などが挙げられる。
【0040】
本発明の効果がより好適に得られるという理由から、BRのシス含量は70質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましい。
【0041】
本発明の効果がより好適に得られるという理由から、BRのビニル含量は2.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましい。
なお、BRのシス含量、ビニル含量は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0042】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。また、該含有量は、好ましくは60質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。BRの含有量が上記範囲内であると、本発明の効果がより好適に得られる。
【0043】
ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴム及びBRの合計含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0044】
本発明のゴム組成物は、チッ素吸着比表面積が120m2/g以上である微粒子カーボンブラックを含むことが好ましい。これにより、本発明の効果がより好適に得られる。
【0045】
前記微粒子カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、好ましくは120m2/g以上、より好ましくは140m2/g以上、更に好ましくは160m2/g以上である。120m2/g未満であると、充分な補強効果が得られず、充分な高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性が得られない傾向がある。該N2SAの上限は特に限定されないが、好ましくは300m2/g以下、より好ましくは200m2/g以下である。300m2/gを超えると、低燃費性が低下する傾向がある。
なお、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K6217のA法によって求められる。
【0046】
前記微粒子カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸油量は、好ましくは90cm3/100g以上、より好ましくは100cm3/100g以上、更に好ましくは110cm3/100g以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは300cm3/100g以下、より好ましくは200cm3/100g以下である。上記範囲内であると、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性の性能バランスが顕著に改善される。
なお、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K6217-4:2001に準拠して測定される。
【0047】
前記微粒子カーボンブラックの臭化セチルトリメチルアンモニウム吸着比表面積(CTAB)とヨウ素吸着量(IA)の比率(CTAB/IA)は、好ましくは0.70以上、より好ましくは0.80以上、更に好ましくは0.85以上である。上限は特に限定されないが、好ましくは1.00以下、より好ましくは0.95以下である。上記範囲内であると、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性の性能バランスが顕著に改善される。
なお、カーボンブラックのCTAB及びIAは、それぞれJIS K6217-3:2001、JIS K6217-1:2001に準拠して測定できる。
【0048】
前記微粒子カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。また、該含有量は、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、更に好ましくは50質量部以下、特に好ましくは35質量部以下である。上記範囲内であると、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性の性能バランスが顕著に改善される。
【0049】
本発明のゴム組成物には、前記微粒子カーボンブラック以外の他のカーボンブラックを配合してもよい。前記他のカーボンブラックとしては特に限定されないが、N2SAが50m2/g以上120m2/g未満のものが好ましく、90m2/g以上120m2/g未満のものがより好ましい。前記微粒子カーボンブラックとともに、このようなN2SAを持つカーボンブラックを用いることで、本発明の効果がより好適に発揮される。
【0050】
前記微粒子カーボンブラック及び他のカーボンブラックの合計含有量(全カーボンブラック量)は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。該合計含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは60質量部以下である。上記範囲内であると、本発明の効果がより好適に得られる。
【0051】
カーボンブラック(全カーボンブラック量)及びシリカの合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは30質量部以上である。該合計含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは70質量部以下である。上記範囲内であると、本発明の効果がより好適に得られる。
【0052】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、オイルやワックス等の可塑剤、粘着付与剤、加硫剤(硫黄、有機過酸化物など)、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0053】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0054】
本発明のゴム組成物は、タイヤの各部材に好適に使用でき、なかでも、タイヤのキャップトレッドに好適に使用できる。
【0055】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造できる。
すなわち、前記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でキャップトレッド等のタイヤ部材の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成できる。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤが得られる。
【0056】
本発明の空気入りタイヤは、たとえば乗用車用タイヤ、重荷重用タイヤ、二輪車用タイヤ、高性能タイヤ等として用いられ、なかでも、重荷重用タイヤとして好適に用いられる。ここで、本明細書において、重荷重用タイヤは、トラック・バスなどの重量の重い車両用のタイヤを意味する。
【実施例】
【0057】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0058】
以下に、製造例で用いた各種薬品について説明する。
フィールドラテックス:ムヒバラテックス社から入手したフィールドラテックス
エマールE-27C(界面活性剤):花王(株)製のエマールE-27C(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、有効成分27質量%)
NaOH:和光純薬工業(株)製のNaOH
Wingstay L(老化防止剤):ELIOKEM社製のWingstay L(ρ-クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をブチル化した化合物)
エマルビンW(界面活性剤):LANXESS社製のエマルビンW(芳香族ポリグリコールエーテル)
タモールNN9104(界面活性剤):BASF社製のタモールNN9104(ナフタレンスルホン酸/ホルムアルデヒドのナトリウム塩)
Van gel B(界面活性剤):Vanderbilt社製のVan gel B(マグネシウムアルミニウムシリケートの水和物)
【0059】
(老化防止剤分散体の調製)
水 462.5gにエマルビンW 12.5g、タモールNN9104 12.5g、Van gel B 12.5g、Wingstay L 500g(合計1000g)をボールミルで16時間混合し、老化防止剤分散体を調製した。
【0060】
(製造例1)
フィールドラテックスの固形分濃度(DRC)を30%(w/v)に調整した後、該ラテックス1000gに、10%エマールE-27C水溶液25gと25%NaOH水溶液60gを加え、室温で24時間ケン化反応を行い、ケン化天然ゴムラテックスを得た。次いで、老化防止剤分散体6gを添加し、2時間撹拌した後、更に水を添加してゴム濃度15%(w/v)となるまで希釈した。次いで、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加してpHを4.0に調整した後、カチオン系高分子凝集剤を添加し、2分間撹拌し、凝集させた。これにより得られた凝集物(凝集ゴム)の直径は0.5~5mm程度であった。得られた凝集物を取り出し、2質量%の炭酸ナトリウム水溶液1000mlに、常温で4時間浸漬した後、ゴムを取出した。これに、水2000mlを加えて2分間撹拌し、極力水を取り除く作業を7回繰り返した。その後、水500mlを添加し、pH4になるまで2質量%ギ酸を添加し、15分間放置した。更に、水を極力取り除き、再度水を添加して2分間撹拌する作業を3回繰返した後、水しぼりロールで水を絞ってシート状にした後、90℃で4時間乾燥して固形ゴム(改質天然ゴムA)を得た。
【0061】
(製造例2)
フィールドラテックスに水を添加してDRC15%(w/v)となるまで希釈した後、ゆっくり撹拌しながらギ酸を添加してpHを4.0~4.5に調整し、凝集した。凝集したゴムを粉砕し、水1000mlで洗浄を繰り返し、その後、110℃で120分間乾燥して固形ゴム(改質天然ゴムB)を得た。
【0062】
前記で得られた固形ゴムについて、下記により評価し、結果を表1に示した。
【0063】
<ゴムのpHの測定>
得られたゴム5gを3辺の合計が5mm以下(約1~2×約1~2×約1~2(mm))に切断して100mlビーカーに入れ、常温の蒸留水50mlを加えて2分間で90℃に昇温し、その後90℃に保つように調整しながらマイクロ波(300W)を13分(合計15分)照射した。次いで、浸漬水をアイスバスで冷却して25℃とした後、pHメーターを用いて、浸漬水のpHを測定した。
【0064】
<窒素含有量の測定>
(アセトン抽出(試験片の作製))
各固形ゴムを1mm角に細断したサンプルを約0.5g用意した。サンプルをアセトン50g中に浸漬して、室温(25℃)で48時間後にゴムを取出し、乾燥させ、各試験片(老化防止剤抽出済み)を得た。
(測定)
得られた試験片の窒素含有量を以下の方法で測定した。
窒素含有量は、微量窒素炭素測定装置「SUMIGRAPH NC95A((株)住化分析センター製)」を用いて、上記で得られたアセトン抽出処理済みの各試験片を分解、ガス化し、そのガスをガスクロマトグラフ「GC-8A((株)島津製作所製)」で分析して窒素含有量を定量した。
【0065】
<リン含有量の測定>
ICP発光分析装置(P-4010、(株)日立製作所製)を使用してリン含有量を求めた。
【0066】
<ゲル含有率の測定>
1mm×1mmに切断した生ゴムのサンプル約70mgを正確に計り、これに35mLのトルエンを加え1週間冷暗所に静置した。次いで、遠心分離に付してトルエンに不溶のゲル分を沈殿させ上澄みの可溶分を除去し、ゲル分のみをメタノールで固めた後、乾燥し質量を測定した。次の式によりゲル含有率(質量%)を求めた。
ゲル含有率(質量%)=[乾燥後の質量mg/最初のサンプル質量mg]×100
【0067】
<耐熱老化性>
老化前後における各固形ゴムの重量平均分子量を測定し、下記式により分子量保持率を測地することで耐熱老化性を評価した。なお、老化処理は、各ゴムを2~5mm角に細断し、80℃で72時間オーブン中に保管して実施し、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフを用いてイソプレンを標準物質として測定した。数値が大きいほど、耐熱老化性が優れている。
(耐熱老化性)=老化後の分子量/老化前の分子量×100(%)で表した。
【0068】
【0069】
表1により、ゴムのpHが2~7の範囲内の改質天然ゴムは、耐熱老化性が優れていた。
【0070】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR(リン含有量:572ppm)
改質天然ゴムA:上記製造例1で調製した改質天然ゴム
改質天然ゴムB:上記製造例2で調製した改質天然ゴム
BR:JSR(株)製のBR730(Nd系触媒を用いて合成した希土類系BR、シス含量:97質量%、ビニル含量:0.9質量%)
微粒子カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラック(SAF、N2SA:168m2/g、DBP吸油量:112cm3/100g、CTAB/IA:0.89)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のシーストN220(N2SA:114m2/g)
シリカ:エボニックデグッサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g)
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
レジン:ヤスハラケミカル(株)製のYSポリスターM125(テルペン系樹脂、水添芳香族変性テルペン、軟化点:125℃)
PEG:日油(株)製のPEG#4000(ポリエチレングリコール、重量平均分子量:4000)(HO(CH2CH2O)pHにおいて、pは約90である。)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミ硫黄(オイル分:10%)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0071】
表2に示す配合処方にしたがい、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を180℃になるまで混練りした。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加して105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。次に、得られた未加硫ゴム組成物を160℃で15分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0072】
得られた加硫ゴム組成物を下記により評価し、結果を表2に示した。
【0073】
(低燃費性)
上記加硫ゴム組成物からなるゴムスラブシート(2mm×130mm×130mm)から測定用試験片を切り出し、粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度50℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hzの条件下で、測定用試験片のtanδを測定し、比較例1の低燃費性指数を100として、下記計算式により、各配合の測定結果を指数表示した。低燃費性指数が大きいほど、tanδが小さく、低燃費性に優れることを示す。
(低燃費性指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0074】
(M300)
JIS K6251:2010に基づいて、得られた加硫ゴム組成物からダンベル状6号形試験片を作製し、該試験片を用いて100℃雰囲気下において引張試験を実施して300%伸張時応力(M300)(MPa)を測定し、比較例1を100として指数表示した。指数が大きいほど、M300が小さく、加硫ゴムの伸びが良好であることを示す。
【0075】
(高温破壊エネルギー)
JIS K 6251の「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」にしたがって、上記加硫ゴム組成物からなるゴムスラブシート(2mm×130mm×130mm)の引張強度及び破断伸びを130℃で測定した。そして、得られた測定結果を用いて、引張強度×破断伸び/2により高温破壊エネルギーを計算し、比較例1の高温破壊エネルギー指数を100として、下記計算式により、各配合の測定結果を指数表示した。高温破壊エネルギー指数が大きいほど、高温下における力学強度に優れることを示す。
(高温破壊エネルギー指数)=(各配合の高温破壊エネルギー)/(比較例1の高温破壊エネルギー)×100
【0076】
(耐摩耗性)
ランボーン摩耗試験機を用いて、温度20℃、スリップ率20%および試験時間2分間の条件下で上記加硫ゴム組成物からなるゴムスラブシートのランボーン摩耗量を測定した。そして、測定したランボーン摩耗量から容積損失量を計算し、比較例1のランボーン摩耗指数を100として、下記計算式により、各配合の容積損失量を指数表示した。なお、ランボーン摩耗指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
(ランボーン摩耗指数)=(比較例1の容積損失量)/(各配合の容積損失量)×100
【0077】
(耐一発カット性(高速引張試験))
上記加硫ゴム組成物を3号ダンベルで打ち抜いた2mm厚のゴムサンプルを引張速度14m/sで引張試験を実施し、その際の破断時伸び(EB)を測定し、比較例1を100として指数表示した。指数が大きいほど、耐一発カット性が良好であることを示す。
ここで、本明細書において、耐一発カット性は、1回の接触により、トレッドのブロック半分未満のカット(亀裂)を抑制する性能を意味する耐カット性とは異なり、1回の接触により、トレッド表面を横断するような大きなカット(亀裂)を抑制する性能を意味する。
【0078】
【0079】
シリカと、ポリエチレングリコールとを含み、かつ、シランカップリング剤を実質的に含まない実施例は、加硫ゴムの伸びが向上し、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性をバランス良く改善できた。
また、実施例2、4、比較例3、4の比較により、シランカップリング剤を配合せずにシリカを配合したゴム組成物において、非ゴム成分が除去された改質天然ゴム(高純度天然ゴム(UPNR))とポリエチレングリコールとを併用することにより、加硫ゴムの伸び、低燃費性、高温下における力学強度、耐摩耗性、耐一発カット性を相乗的に改善できることが分かった。