(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-06
(45)【発行日】2022-05-16
(54)【発明の名称】電磁シールド部材及びワイヤハーネス
(51)【国際特許分類】
H02G 3/04 20060101AFI20220509BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20220509BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20220509BHJP
【FI】
H02G3/04 087
H01B7/18 D
H01B7/00 301
(21)【出願番号】P 2019030439
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木下 博仁
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-60206(JP,A)
【文献】特開2011-192578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/04
H01B 7/18
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線が個別に収容される溝部を有するケースと、
前記ケースに取り付けられ、前記溝部を覆うカバーと、
前記ケース及び前記カバーのいずれか一方に設けられ、他方に向けて前記電線を押圧する押圧機構と、を備える電磁シールド部材であって、
前記押圧機構は、
前記溝部の底壁及び前記カバーの前記底壁に対向する対向壁のいずれか一方に設けられるシリンダと、
前記シリンダ内に往復動可能に設けられるピストンと、
前記シリンダ内に設けられ、前記ピストンを前記シリンダの一端に向けて付勢する付勢部材と、
前記ピストンに連結され、前記シリンダの一端から突出する先端部を有し、同先端部により前記電線を押圧するピストンロッドと、を備える、
電磁シールド部材。
【請求項2】
前記押圧機構は、前記ピストンロッドの前記先端部に設けられ、前記電線を把持する把持部を備えており、
前記ピストンは、前記シリンダ内において前記シリンダの軸線を中心とする周方向に回動可能に設けられている、
請求項1に記載の電磁シールド部材。
【請求項3】
前記ピストンの前記周方向の一方側及び他方側への回転をそれぞれ規制する第1規制部及び第2規制部を備え、
前記押圧機構は、前記ケースの前記溝部の延在方向に互いに間隔をおいて複数設けられており、
前記延在方向において隣り合う2つの前記押圧機構のうち、一方の前記押圧機構は前記第1規制部により前記ピストンの前記一方側への回転が規制された状態で組み付けられており、他方の前記押圧機構は前記第2規制部により前記ピストンの前記他方側への回転が規制された状態で組み付けられている、
請求項2に記載の電磁シールド部材。
【請求項4】
前記把持部は、一対のアーム部を備えており、
前記一対のアーム部は、互いの先端部の距離を変更可能に設けられている、
請求項2または請求項3に記載の電磁シールド部材。
【請求項5】
電線と、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電磁シールド部材と、を備え、
前記押圧機構は、前記ケース及び前記カバーのいずれか一方に設けられ、他方に向けて前記電線を押圧している、
ワイヤハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁シールド部材及び同電磁シールド部材と電線とを備えるワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば電気自動車などの車両に適用されるワイヤハーネスは、複数の電線と、導電性を有し、複数の電線を個別に覆うことで電磁シールドを行う電磁シールド部材とを備えている(例えば、特許文献1参照)。同文献1に記載の電磁シールド部材は、各電線を個別に収容可能な溝状収容部を有するシールドプロテクタと、溝状収容部を塞ぐカバーとを備えている。そして、シールドプロテクタとカバーとにより各電線の外周が覆われることで各電線が電磁シールドされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の電磁シールド部材を含む従来の電磁シールド部材を備えるワイヤハーネスにおいては、電線に電流が流れることにより電線が発熱する。これにより、電線が熱膨脹することで電磁シールド部材の内面から電線が浮き上がるおそれがある。その結果、電線と電磁シールド部材との接触面積が減少し、電磁シールド部材を介した電線の放熱性が低下する。
【0005】
本発明の目的は、電磁シールド部材の内面からの電線の浮き上がりを抑制できる電磁シールド部材及びワイヤハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための電磁シールド部材は、電線が個別に収容される溝部を有するケースと、前記ケースに取り付けられ、前記溝部を覆うカバーと、前記ケース及び前記カバーのいずれか一方に設けられ、他方に向けて前記電線を押圧する押圧機構と、を備えるものであり、前記押圧機構は、前記溝部の底壁及び前記カバーの前記底壁に対向する対向壁のいずれか一方に設けられるシリンダと、前記シリンダ内に往復動可能に設けられるピストンと、前記シリンダ内に設けられ、前記ピストンを前記シリンダの一端に向けて付勢する付勢部材と、前記ピストンに連結され、前記シリンダの一端から突出する先端部を有し、同先端部により前記電線を押圧するピストンロッドと、を備える。
【0007】
同構成によれば、ケース及びカバーのいずれか一方に設けられた押圧機構のピストンロッドの先端部により、他方に向けて電線が押圧される。これにより、電磁シールド部材の内面からの電線の浮き上がりを抑制できる。
【0008】
また、例えばバンド部材により溝部の底壁などに対して電線を押圧する構成の場合、電線の熱膨脹や振動によりバンド部材が電線に食い込むおそれがある。
この点、上記構成によれば、電線の熱膨脹や振動による変位を付勢部材が吸収するようになる。したがって、上述した不都合が生じることを抑制できる。
【0009】
上記電磁シールド部材において、前記押圧機構は、前記ピストンロッドの前記先端部に設けられ、前記電線を把持する把持部を備えており、前記ピストンは、前記シリンダ内において前記シリンダの軸線を中心とする周方向に回動可能に設けられていることが好ましい。
【0010】
同構成によれば、ピストンロッドの先端部に当該電線を把持する把持部が設けられている。そして、ピストンロッドが連結されたピストンがシリンダの軸線を中心とする周方向に回動可能に設けられている。このため、電線のうち把持部により挟持された部分が上記周方向に回動可能となる。これにより、熱膨脹による余長が電線に生じた場合には、ピストンが回動することにより、電線がケースの底壁またはカバーの対向壁に対して押圧されたまま湾曲することが可能となる。したがって、電線に余長が生じた場合であっても電線の浮き上がりを抑制することができる。
【0011】
上記電磁シールド部材において、前記ピストンの前記周方向の一方側及び他方側への回転をそれぞれ規制する第1規制部及び第2規制部を備え、前記押圧機構は、前記ケースの前記溝部の延在方向に互いに間隔をおいて複数設けられており、前記延在方向において隣り合う2つの前記押圧機構のうち、一方の前記押圧機構は前記第1規制部により前記ピストンの前記一方側への回転が規制された状態で組み付けられており、他方の前記押圧機構は前記第2規制部により前記ピストンの前記他方側への回転が規制された状態で組み付けられていることが好ましい。
【0012】
同構成によれば、溝部の延在方向において隣り合う2つの押圧機構のピストンは、互いに逆方向への回転のみが許容される。このため、熱膨張による余長が電線に生じた場合には、電線のうち上記2つの押圧機構同士の間に位置する部分は、溝部の幅方向の一方側に膨らむように湾曲しにくくなり、他方側へは同一方側よりも湾曲しやすくなる。
【0013】
ここで、例えば、電磁シールド部材の幅方向の片側に熱源などが存在する場合には、溝部内において電線が上記片側に近接するように湾曲することは、電線の発熱を促すことから好ましくない。
【0014】
そこで、上記2つの押圧機構同士の間に位置する電線を、上記片側に膨らむように湾曲しにくくなるように当該2つの押圧機構を配置すれば、溝部内において電線が熱源に近接するように湾曲することを抑制できる。
【0015】
上記電磁シールド部材において、前記把持部は、一対のアーム部を備えており、前記一対のアーム部は、互いの先端部の距離を変更可能に設けられていることが好ましい。
同構成によれば、把持部を構成する一対のアーム部の先端部同士の距離を変更することができる。このため、大きさの異なる複数種類の電線を把持することができる。
【0016】
また、上記目的を達成するためのワイヤハーネスは、電線と、上記いずれか1つに記載の電磁シールド部材と、を備え、前記押圧機構は、前記ケース及び前記カバーのいずれか一方に設けられ、他方に向けて前記電線を押圧している。
【0017】
同構成によれば、上記いずれか1つの電磁シールド部材の作用効果と同様な作用効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電磁シールド部材の内面からの電線の浮き上がりを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】電磁シールド部材及びワイヤハーネスの一実施形態について、ワイヤハーネスを示す斜視図。
【
図2】同実施形態のケース、カバー、押圧機構、ボルト、及びナットを互いに離間して示す分解斜視図。
【
図3】同実施形態の押圧機構の斜視図であって、ピストンの位置が第1の位置と第2の位置との間にある状態の押圧機構を示す斜視図。
【
図4】
図3の4-4線に対応した位置におけるワイヤハーネスの断面図。
【
図5】同実施形態のピストンの回転態様を説明するワイヤハーネスの断面図であって、(a)は、ピストンが第1の位置にある状態を示す断面図、(b)は、ピストンが第1の位置と第2の位置との間の位置にある状態を示す断面図。
【
図6】同実施形態の電線が湾曲していない状態のワイヤハーネスを示す断面図。
【
図7】同実施形態の電線が湾曲した状態のワイヤハーネスを示す断面図。
【
図8】第1変更例におけるワイヤハーネスの断面図。
【
図9】第2変更例におけるワイヤハーネスの断面図であって、(a)は、ピストンが第1の位置にある状態を示す断面図、(b)は、ピストンが第1の位置と第2の位置との間の位置にある状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1~
図7を参照して、電磁シールド部材及びワイヤハーネスの一実施形態について説明する。なお、添付図面においては、説明の便宜上、構成の一部を誇張又は簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際とは異なる場合がある。
【0021】
本実施形態のワイヤハーネスは、例えばハイブリッド車や電気自動車などの車両の床下を含む経路に配索されるとともに、複数の機器同士を電気的に接続する。
図1及び
図2に示すように、ワイヤハーネスは、並んで配置される2本の電線10と、各電線10を覆う導電性の電磁シールド部材20とを備えている。
【0022】
電線10は、例えば、芯線と当該芯線の外周を被覆する絶縁被覆とを有している。
電磁シールド部材20は、各電線10が個別に収容される溝部30a,30bを有するケース30と、ケース30に取り付けられ、各溝部30a,30bを覆うカバー40と、カバー40に取り付けられ、各電線10を押圧する複数(本実施形態では4つ)の押圧機構50とを備えている。ケース30及びカバー40は、アルミニウム合金などの金属材料により形成されている。
【0023】
なお、以降において、各溝部30a,30bの延在する方向を延在方向Lと称し、延在方向Lに直交する方向であって、各溝部30a,30bが並ぶ方向を幅方向Wと称する。
<ケース30>
図2に示すように、ケース30は、延在方向Lに沿って延在する底壁31と、底壁31の幅方向Wの両端及び幅方向Wの中央部から突出する都合3つの側壁32とを有している。各側壁32は、底壁31の延在方向Lの全体にわたって延在している。
【0024】
底壁31と、幅方向Wにおいて隣り合う一対の側壁32とにより各溝部30a,30bが構成されている。本実施形態では、溝部30aと溝部30bとが、幅方向Wの中央部に位置する側壁32を共有している。
【0025】
ケース30は、幅方向Wの両端の側壁32の外面に接合された一対のL字状のブラケット35を有している。各ブラケット35は、上記側壁32の延在方向Lの一端に接合された接合部36と、接合部36の延在方向Lの一端から屈曲した取付部37とを有している。各取付部37には、延在方向Lに貫通する取付孔38が形成されている。なお、各取付部37は、各側壁32の延在方向Lの一端面と面一となっている。
【0026】
<カバー40>
図2に示すように、カバー40は、延在方向Lに沿って延在するとともにケース30の底壁31に対向する対向壁41と、対向壁41の幅方向Wの両端から突出する2つの側壁42とを有している。各側壁42は、対向壁41の延在方向Lの全体にわたって延在している。
【0027】
図1及び
図4に示すように、カバー40の各側壁42は、ケース30の幅方向Wの両端の側壁32を幅方向Wの外側から覆っている。
図2に示すように、カバー40は、幅方向Wの両端の側壁42の外面に接合された一対のL字状のブラケット45を有している。各ブラケット45は、上記側壁42の延在方向Lの一端に接合された接合部46と、接合部46の延在方向Lの一端から屈曲した取付部47とを有している。各取付部47には、延在方向Lに貫通する取付孔48が形成されている。
【0028】
ここで、各側壁42の延在方向Lの一端には、カバー40がケース30に取り付けられる際に、ケース30のブラケット35の接合部36を逃がすための逃がし部49が切り欠いて形成されている。ブラケット45の接合部46は、逃がし部49を幅方向Wの外側から覆っている。
【0029】
ケース30の各ブラケット35とカバー40の各ブラケット45とが延在方向Lにおいて重ね合わされるとともに、各ブラケット35の取付孔38と各ブラケット45の取付孔48とに挿通されたボルト100にナット101が螺合されることにより、カバー40がケース30に取り付けられる。
【0030】
<押圧機構50>
図3及び
図4に示すように、押圧機構50は、カバー40の対向壁41の内面に設けられたシリンダ60と、シリンダ60内に往復動可能に設けられた円板状のピストン70と、ピストン70に連結された円柱状のピストンロッド71とを備えている。ピストンロッド71の先端部は、シリンダ60の一端(
図3及び
図4の下端)から突出している。シリンダ60内には、ピストン70をシリンダ60の上記一端に向けて付勢する付勢部材としてのコイルばね80が設けられている。なお、
図3は、電線10と共に電磁シールド部材20内に収容されている状態、すなわちコイルばね80が圧縮されている状態の押圧機構50を示している。
【0031】
シリンダ60は、円筒状の周壁62、並びに周壁62の各端に設けられる頂壁61及び底壁63を有している。シリンダ60の内部には、周壁62、頂壁61、底壁63によって構成され、ピストン70が収容される円柱状の収容空間が形成されている。なお、シリンダ60は、樹脂材料により形成されている。また、図示は省略するが、シリンダ60は、それぞれ半割筒状をなすとともに互いに係合する一対の半割体により構成されている。
【0032】
以降において、シリンダ60の軸線を中心とした周方向を単に周方向Cと称する。
シリンダ60は、頂壁61を含む上端部が、例えば、カバー40の対向壁41に形成された嵌合孔(図示略)に嵌合されることでカバー40に取り付けられている。
【0033】
シリンダ60の底壁63の中央部には、ピストンロッド71が挿通される挿通孔64が形成されている。
ピストンロッド71の先端部には、ピストンロッド71よりも拡径された円柱状の押圧部73が形成されている。本実施形態では、押圧部73により、ケース30の底壁31に向けて電線10が押圧されている。
【0034】
ピストンロッド71の押圧部73には、電線10を把持する把持部としての一対のアーム部90が設けられている。各アーム部90は、弾性変形することにより、互いの先端部の距離が変更可能に設けられている。
【0035】
シリンダ60における底壁63を含む下端部には、周壁62と底壁63とが共に切り欠かれた切り欠き部65が形成されている。切り欠き部65によりシリンダ60の内外が連通されている。切り欠き部65の周方向Cの一方側における端面65aと、周方向Cの他方側における端面65bとが互いになす角度は90度である。
【0036】
ピストン70の外径は、シリンダ60の内径よりも僅かに小さい。また、ピストンロッド71の外径は、シリンダ60の底壁63の挿通孔64の直径よりも僅かに小さい。ピストン70、ピストンロッド71、押圧部73、及び各アーム部90は、樹脂材料により一体形成されている。
【0037】
以上のことから、ピストン70は、シリンダ60内において周方向Cに回動可能に設けられている。
ピストンロッド71の外周面には、長方形板状の突条72が突設されている。突条72の突出方向における断面形状は、上下方向に長い長方形状をなしている。突条72は、ピストンロッド71のうちシリンダ60の切り欠き部65に対応する位置に設けられており、シリンダ60の周壁62の外周面よりも外側に突出している。
【0038】
図5(a)に示すように、ピストン70の回転に伴い、突条72が周方向Cの一方側から切り欠き部65の端面65aに当接することにより、ピストン70の周方向Cの他方側への回転が規制される。以降において、このときのピストン70の周方向Cにおける位置を第1の位置と称する。
【0039】
図5(b)に示すように、第1の位置におけるピストン70は、周方向Cの一方側への回転が許容されている。
また同様に、ピストン70の回転に伴い、突条72が周方向Cの他方側から切り欠き部65の端面65bに当接することにより、ピストン70の周方向Cの一方側への回転が規制される。以降において、このときのピストン70の周方向Cにおける位置を第2の位置と称する。
【0040】
第2の位置におけるピストン70は、周方向Cの他方側への回転が許容されている。
以上のことから、ピストン70は、シリンダ60内において第1の位置と第2の位置との間で回動可能に設けられている。
【0041】
本実施形態においては、ピストンロッド71の突条72と、シリンダ60の切り欠き部65の端面65aとにより、ピストン70の周方向Cの他方側への回転を規制する第1規制部51が構成されている。また同様に、ピストンロッド71の突条72と、シリンダ60の切り欠き部65の端面65bとにより、ピストン70の周方向Cの一方側への回転を規制する第2規制部52が構成されている。
【0042】
図6に示すように、本実施形態では、各溝部30a,30b内において、2つの押圧機構50が延在方向Lにおいて隣り合って配置されている。各溝部30a,30b内における2つの押圧機構50のうち、延在方向Lの一方側(
図6の左方側)の押圧機構50は、ピストン70の位置が第1の位置となるようにカバー40に組み付けられており、延在方向Lの他方側(
図6の右方側)の押圧機構50は、ピストン70の位置が第2の位置となるようカバー40に組み付けられている。なお、各溝部30a,30b内における2つの押圧機構50のピストンロッド71の突条72の先端面同士は、延在方向Lにおいて対向している。
【0043】
以降において、説明の便宜上、ピストン70の位置が第1の位置となるようにカバー40に組み付けられた押圧機構50を押圧機構50Aと称し、ピストン70の位置が第2の位置となるようにカバー40に組み付けられた押圧機構50を押圧機構50Bと称する。
【0044】
上述したように、押圧機構50A,50Bの各ピストン70は、周方向Cにおいて自身の回転が規制されている側とは反対側への回転が許容されている。このため、各溝部30a,30b内における2つの押圧機構50A,50Bは、周方向Cにおいて互いに逆方向への回転のみが許容されていることとなる。
【0045】
本実施形態の作用について説明する。
図6に示すように、各溝部30a,30bに各電線10が延在方向Lに沿って配置されている状態においては、押圧機構50A及び押圧機構50Bのピストン70の位置は、それぞれ第1の位置及び第2の位置である。各電線10は、各押圧機構50A,50Bの押圧部73により、ケース30の底壁31に向けて押圧されている(以上、作用1)。
【0046】
また、ピストンロッド71の押圧部73には、電線10を把持する一対のアーム部90が設けられている。そして、ピストンロッド71が連結されたピストン70がシリンダ60内において周方向Cに回動可能に設けられている。このため、各電線10のうち一対のアーム部90により挟持された部分が周方向Cに回動可能となる。これにより、熱膨脹による余長が各電線10に生じた場合には、ピストン70が回動することにより、各電線10がケース30の底壁31に対して押圧されたまま幅方向Wに膨らむように湾曲することが可能となる(以上、作用2)。
【0047】
そして、押圧機構50A,50Bは、周方向Cにおいて互いに逆方向への回転のみが許容されている。このため、
図7に示すように、各電線10のうち各押圧機構50A,50B同士の間に位置する部分は、幅方向Wの一方側(同図の下側)に膨らむように湾曲しにくくなり、幅方向Wの他方側(同図の上側)へは同一方側よりも湾曲しやすくなる(以上、作用3)。
【0048】
本実施形態の効果について説明する。
(1)電磁シールド部材20は、2本の電線10が個別に収容される溝部30a,30bを有するケース30と、ケース30に取り付けられ、溝部30a,30bを覆うカバー40と、カバー40に設けられ、ケース30の底壁31に向けて各電線10を押圧する押圧機構50とを備えている。各押圧機構50は、カバー40の対向壁41に設けられるシリンダ60と、シリンダ60内に往復動可能に設けられるピストン70と、シリンダ60内に設けられ、ピストン70をシリンダ60の一端に向けて付勢する付勢部材としてのコイルばね80とを備えている。また、各押圧機構50は、ピストン70に連結され、シリンダ60の一端から突出する先端部を有し、同先端部により電線10を押圧するピストンロッド71を備えている。
【0049】
こうした構成によれば、上記作用1を奏することから、電磁シールド部材20の内面からの各電線10の浮き上がりを抑制できる。
また、例えばバンド部材によりケース30の底壁31などに対して電線10を押圧する構成の場合、電線10の熱膨脹や振動によりバンド部材が電線10に食い込むおそれがある。
【0050】
この点、上記構成によれば、電線10の熱膨脹や振動による変位をコイルばね80が吸収するようになる。したがって、上述した不都合が生じることを抑制できる。
(2)押圧機構50は、ピストンロッド71の先端部に設けられ、電線10を把持する把持部としての一対のアーム部90を備えており、ピストン70は、シリンダ60内においてシリンダ60の軸線を中心とする周方向Cに回動可能に設けられている。
【0051】
こうした構成によれば、上記作用2を奏することから、電線10に余長が生じた場合であっても電線10の浮き上がりを抑制することができる。
(3)電磁シールド部材20は、ピストン70の周方向Cの一方側及び他方側への回転をそれぞれ規制する第1規制部51及び第2規制部52を備えている。押圧機構50は、ケース30の溝部30a,30bの延在方向Lに互いに間隔をおいて2つずつ設けられている。これら2つの押圧機構50のうち、一方の押圧機構50(50A)は第1規制部51によりピストン70の一方側への回転が規制された状態でカバー40に組み付けられており、他方の押圧機構50(50B)は第2規制部52によりピストン70の他方側への回転が規制された状態でカバー40に組み付けられている。
【0052】
こうした構成によれば、上記作用3を奏することができる。
ここで、例えば、電磁シールド部材20の幅方向Wの片側に熱源などが存在する場合には、溝部30a,30b内において各電線10が上記片側に近接するように湾曲することは、各電線10の発熱を促すことから好ましくない。
【0053】
そこで、上記2つの押圧機構50同士の間に位置する電線10を、上記片側に近接するように湾曲しにくくなるように当該2つの押圧機構50を配置すれば、溝部30a,30b内において電線10が熱源に近接するように湾曲することを抑制することができる。
【0054】
(4)一対のアーム部90は、互いの先端部の距離を変更可能に設けられている。
こうした構成によれば、一対のアーム部90の先端部同士の距離を変更することができるため、大きさの異なる複数種類の電線を把持することができる。
【0055】
(5)ワイヤハーネスは、2本の電線10と、電磁シールド部材20とを備えている。押圧機構50は、カバー40に設けられ、ケース30の底壁31に向けて各電線10を押圧している。
【0056】
こうした構成によれば、上記効果(1)~(4)に準じた効果を奏することができる。
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0057】
・本実施形態では、各溝部30a,30bにおいて、押圧機構50A及び押圧機構50Bが延在方向Lの一方側から順に配置されていたが、
図8に示すように、例えば、一方の溝部30a(同図の下側の溝部30a)においては、押圧機構50A及び押圧機構50Bを延在方向Lの他方側から順に配置するようにしてもよい。この場合、各溝部30a,30bにおいて各電線10が湾曲しやすくなる幅方向Wの向きが互いに離間する向きとなる。これにより、各電線10のうち押圧機構50Aと押圧機構50Bとの間の部分同士が幅方向Wにおいて近接することを抑制できる。したがって、各電線10が近接することで電磁シールド部材20内に熱がこもることを抑制できる。
【0058】
・本発明は、1本の電線10または3本以上の電線10を有するワイヤハーネスに対しても適用することができる。
・一対のアーム部90は、ばねなどの付勢部材により、互いの先端部が近接するように付勢されたものであってもよい。この場合、各アーム部90同士を上記付勢部材の付勢力に抗して離間させることで、互いの先端部の距離を変更できる。
【0059】
・一対のアーム部90は、互いの先端部の距離が変更不能に設けられていてもよい。
・各溝部30a,30bにおいて、延在方向Lに1つの押圧機構50のみを設けることもできるし、3つ以上の押圧機構50を設けることもできる。
【0060】
・切り欠き部65は、シリンダ60の底壁63のみが切り欠かれたものであってもよいし、周壁62のみが切り欠かれたものであってもよい。
・各電線10を幅方向Wの一方側または他方側に予め湾曲させた状態で、当該状態が維持されるように各押圧機構50A,50Bを溝部30a,30b内に配置するようにしてもよい。
【0061】
・突条72の突出する向きが本実施形態における向きとは反対向きとなるように、各押圧機構50A,50Bを周方向Cに180度回転させて配置することもできる。
・
図9(a)及び
図9(b)に示す第2変更例のように、第1規制部51(第2規制部52)は、ピストンロッド71の突条72と、シリンダ60の切り欠き部65の端面65a(端面65b)とにより構成されるものに限定されない。他に例えば、シリンダ160の底壁163における貫通孔164の内周面に設けられた突条172と、ピストンロッド171の外周面に形成された切り欠き部165とにより第1規制部151(第2規制部152)が構成されていてもよい。この場合であっても、上記効果(3)に準じた効果を奏することができる。なお、同第2変更例においては、上記実施形態と同一の構成については、同一の符号を付すとともに、対応する構成については、「100」を加算した符号を付すことにより、重複した説明を省略している。
【0062】
・第1規制部51及び第2規制部52は省略できる。この場合であっても、上記効果(2)に準じた効果を奏することができる。
・ピストンロッド71の先端部に、一対のアーム部90に代えて、半円筒状の把持部を設けることもできる。この場合であっても、ピストンロッド71は、上記把持部を介して電線10を押圧することができる。
【0063】
・上記把持部を省略することもできる。この場合であっても、上記効果(1)に準じた効果を奏することができる。
・押圧部73は省略することもできる。この場合には、ピストンロッド71の先端部により電線10を直接押圧すればよい。
【0064】
・ピストン70は、シリンダ60内において周方向Cに回動不能に設けられていてもよい。
・各押圧機構50は、ケース30の底壁31に設けられていてもよい。この場合、各電線10は、カバー40の対向壁41に向けて押圧されるようになる。
【0065】
・電磁シールド部材20は、アルミニウム合金からなるものに限定されない。他に例えば、ステンレス鋼などからなるものであってもよい。
・電線10は、延在方向Lに直交する面における断面形状が半円状や多角形状など任意の断面形状を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0066】
10…電線、20…電磁シールド部材、30…ケース、30a…溝部、30b…溝部、31…底壁、32…側壁、35…ブラケット、36…接合部、37…取付部、38…取付孔、40…カバー、41…対向壁、42…側壁、45…ブラケット、46…接合部、47…取付部、48…取付孔、49…逃がし部、50,150…押圧機構、50A…押圧機構、50B…押圧機構、51,151…第1規制部、52,152…第2規制部、60,160…シリンダ、61…頂壁、62,162…周壁、63,163…底壁、64,164…挿通孔、65,165…切り欠き部、65a,165a…端面、65b,165b…端面、70…ピストン、71,171…ピストンロッド、72,172…突条、73,173…押圧部、80…コイルばね、90…アーム部(把持部)、100…ボルト、101…ナット。